説明

望遠鏡

【課題】接眼部が対物レンズの光軸と平行になったストレートタイプの望遠鏡の利点と、接眼部が対物レンズの光軸に対し傾斜したアングルタイプの望遠鏡の利点とを兼ね備えた望遠鏡を提供すること。
【解決手段】本発明の地上望遠鏡1は、対物光学系と、その中心線が対物光学系の光軸に対し傾斜している傾斜接眼部21と、その中心線が対物光学系の光軸に対し平行になっている平行接眼部22とを備える。地上望遠鏡1の本体13内には、変位可能に設置された可動導光部材を有し、該可動導光部材を変位させることにより、対物光学系を経た光束を傾斜接眼部21へ導光する状態と、対物光学系を経た光束を平行接眼部22へ導光する状態とに切り替え可能な導光光学系が設置されている。可動導光部材を変位させることにより、傾斜接眼部21を用いて観察する状態と、平行接眼部22を用いて観察する状態とを選択可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、望遠鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
野鳥観察などの地上の観察に用いられ、正立像を観察可能な地上望遠鏡(スポッティングスコープ)が知られている(例えば、特許文献1参照)。地上望遠鏡としては、接眼部の光軸が対物レンズの光軸と平行になっているストレートタイプのものと、接眼部の光軸が対物レンズの光軸に対し45°程度傾斜したアングルタイプのものとが市販されている。
【0003】
ストレートタイプの地上望遠鏡は、機動性および操作性に優れ、観察対象物、特に動いている観察対象物を素早く捕らえるのに適している。その反面、観察時の姿勢にやや無理があるので疲労しやすく、長時間の観察には向かないという欠点がある。
【0004】
これに対し、アングルタイプの地上望遠鏡は、観察時の姿勢に無理がなく、長時間観察するときや、仰角の大きい目標を見るとき、スケッチをするときなどにおいても、疲労することなく楽に行うことができる反面、機動性および操作性に劣る。
【0005】
このように、ストレートタイプの地上望遠鏡、アングルタイプの地上望遠鏡とも、それぞれに一長一短があった。
【0006】
【特許文献1】実開平6−69921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、接眼部が対物レンズの光軸と平行になったストレートタイプの望遠鏡の利点と、接眼部が対物レンズの光軸に対し傾斜したアングルタイプの望遠鏡の利点とを兼ね備えた望遠鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記(1)〜(8)の本発明により達成される。
(1) 対物光学系と、
その中心線が前記対物光学系の光軸に対し傾斜している傾斜接眼部と、
その中心線が前記対物光学系の光軸に対し平行になっている平行接眼部と、
変位可能に設置された可動導光部材を有し、該可動導光部材を変位させることにより、前記対物光学系を経た光束を前記傾斜接眼部へ導光する状態と、前記対物光学系を経た光束を前記平行接眼部へ導光する状態とに切り替え可能な導光光学系とを備え、
前記可動導光部材を変位させることにより、前記傾斜接眼部を用いて観察する状態と、前記平行接眼部を用いて観察する状態とを選択可能であることを特徴とする望遠鏡。
【0009】
このような本発明の望遠鏡によれば、傾斜接眼部と平行接眼部とを両方備え、いずれからでも観察を行うことができるので、従来のストレートタイプの望遠鏡の利点とアングルタイプの望遠鏡の利点との双方を享受することができる。
【0010】
すなわち、平行接眼部を用いて観察を行うことにより、優れた機動性および操作性が得られ、観察対象物、特に動いている観察対象物を視野内に素早く捕らえることができる。よって、いろいろな観察対象物を次々と見ていくのに好適である。
【0011】
また、傾斜接眼部を用いて観察を行うことにより、楽な姿勢で観察を行うことができるので、長時間観察するときや、仰角の大きい目標を見るとき、スケッチをするときなどにおいても、疲労することなく楽に観察することができる。
【0012】
さらに、平行接眼部を用いて観察しながら対象物を視野内に捕らえた後、傾斜接眼部から観察する状態へ切り替え、傾斜接眼部を用いて観察を続行するような使用方法をとることもできる。
【0013】
このようなことから、本発明の望遠鏡によれば、従来のようにストレートタイプの望遠鏡とアングルタイプの望遠鏡との2台を揃えて状況に応じて使い分けるようにする必要がなく、1台で済ませることができるので、コストパフォーマンスに優れる。
【0014】
(2) 前記可動導光部材を変位させる操作を行う操作部をさらに備える上記(1)に記載の望遠鏡。
【0015】
これにより、傾斜接眼部を用いて観察する状態と平行接眼部を用いて観察する状態との切り替えを容易に行うことができる。
【0016】
(3) 前記操作部が前記可動導光部材に対し固定されており、前記操作部に加えられた力が前記可動導光部材に直接に作用して前記可動導光部材が変位するように構成されている上記(2)に記載の望遠鏡。
【0017】
これにより、可動導光部材を変位させる機構を極めて簡単な構造とすることができ、常に確実な作動が得られるとともに、製造コストの低減が図れる。
【0018】
(4) 前記導光光学系は、観察像を正立させる正立光学系を含み、該正立光学系を構成する部材が前記可動導光部材となっている上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の望遠鏡。
【0019】
これにより、正立光学系の構成部材を可動導光部材としても兼用するので、部品点数の削減、および構造の簡素化が図れる。
【0020】
(5) 前記正立光学系は、ポロプリズムで構成され、
前記可動導光部材は、前記ポロプリズムを構成する二つの直角プリズムのうちの一方の直角プリズムで構成される上記(4)に記載の望遠鏡。
これにより、さらなる構造の簡素化が図れ、製造コストの低減に寄与する。
【0021】
(6) 前記可動導光部材を構成する直角プリズム内での、前記光束の進行方向が、前記傾斜接眼部を用いて観察する状態と、前記平行接眼部を用いて観察する状態とで反対の方向となる上記(5)に記載の望遠鏡。
【0022】
これにより、光路の切り替えを行う際の、可動導光部材たる直角プリズムの変位量を小さくすることができ、小型化に寄与する。
【0023】
(7) 光軸方向に移動可能に設置されたフォーカスレンズを有する合焦手段をさらに備える上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の望遠鏡。
これにより、観察像のピント合わせを容易に行うことができる。
【0024】
(8) 前記対物光学系を介して形成される被写体像を撮像する撮像素子と、
前記対物光学系を経た光束を前記撮像素子へ向かう光束と前記可動導光部材へ向かう光束とに分割するビームスプリッタとをさらに備える上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の望遠鏡。
【0025】
これにより、デジタルカメラとしての機能を付加することができ、観察像と同じ像を電子画像として撮影することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、傾斜接眼部と平行接眼部とを両方備え、いずれからでも観察を行うことができるので、従来のストレートタイプの望遠鏡の利点とアングルタイプの望遠鏡の利点との双方を享受することができる。
【0027】
すなわち、平行接眼部を用いて観察を行うことにより、優れた機動性および操作性が得られ、観察対象物、特に動いている観察対象物を視野内に素早く捕らえることができる。よって、いろいろな観察対象物を次々と見ていくのに好適である。
【0028】
また、傾斜接眼部を用いて観察を行うことにより、楽な姿勢で観察を行うことができるので、長時間観察するときや、仰角の大きい目標を見るとき、スケッチをするときなどにおいても、疲労することなく楽に観察することができる。
【0029】
さらに、平行接眼部を用いて観察しながら対象物を視野内に捕らえた後、傾斜接眼部から観察する状態へ切り替え、傾斜接眼部を用いて観察を続行するような使用方法をとることもできる。
【0030】
このようなことから、本発明の望遠鏡によれば、従来のようにストレートタイプの望遠鏡とアングルタイプの望遠鏡との2台を揃えて状況に応じて使い分けるようにする必要がなく、1台で済ませることができるので、コストパフォーマンスに優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の望遠鏡を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1ないし図3は、それぞれ、本発明の望遠鏡を地上望遠鏡に適用した場合の実施形態を示す斜視図であり、図1および図2は、傾斜接眼部を用いて観察する状態の図、図3は、平行接眼部を用いて観察する状態の図である。図4は、図1ないし図3に示す地上望遠鏡の光学系を示す断面側面図である。
【0032】
図1に示すように、本発明の地上望遠鏡(スポッティングスコープ)1は、対物光学系11を内蔵した鏡筒12と、鏡筒12の基端側に設けられた本体13とを有している。
なお、以下の説明では、鏡筒12の先端側を地上望遠鏡1の「前」、本体13側を「後ろ」と言い、前後方向に対し垂直な方向を「横方向」と言う。
【0033】
本体13の正面側上方には、ピント操作部材としてのピントリング32が回転可能に設置されている。本体13内には、電源となる電池を収納する電池室が設けられており、本体13の一方の側面には、この電池室の入口を開閉する電池室蓋14が設けられている。
【0034】
本体13からは、ほぼ円筒状の傾斜接眼部21および平行接眼部22がそれぞれ突出形成されている。傾斜接眼部21および平行接眼部22には、それぞれ、アイピース9を着脱自在に装着することができる。アイピース9内には、接眼光学系91および視野枠92が設置されている。
【0035】
図1および図2は、傾斜接眼部21にアイピース9が装着され、平行接眼部22にはゴミ等の侵入を防止する接眼部蓋(キャップ)25が装着された状態を示している。図3は、平行接眼部22にアイピース9が装着されて、傾斜接眼部21にはゴミ等の侵入を防止する接眼部蓋25が装着された状態を示している。
【0036】
地上望遠鏡1では、傾斜接眼部21または平行接眼部22に装着するアイピース9を、接眼光学系91の焦点距離が異なる他のアイピース9に交換することにより、観察倍率を変えることができる。また、ズーム式のアイピース9を傾斜接眼部21または平行接眼部22に装着して使用してもよい。
【0037】
傾斜接眼部21は、その中心線が対物光学系11の光軸に対し傾斜するような向きで設けられている。すなわち、傾斜接眼部21に装着されたアイピース9の接眼光学系91の光軸は、対物光学系11の光軸に対し傾斜する。傾斜接眼部21の傾斜角度は、特に限定されないが、45°程度であるのが好ましい。
【0038】
平行接眼部22は、その中心線が対物光学系11の光軸に対し平行となる向きで設けられている。すなわち、平行接眼部22に装着されたアイピース9の接眼光学系91の光軸は、対物光学系11の光軸と平行になる。
【0039】
図示の構成では、傾斜接眼部21と平行接眼部22とは、平面視で、対物光学系11の光軸の延長線を挟んで横に並ぶような配置で設けられている。
【0040】
本体13内には、後に詳しく説明する導光光学系5が設置されている。この導光光学系5は、対物光学系11を経た光束を傾斜接眼部21へ導光する状態と、対物光学系11を経た光束を平行接眼部22へ導光する状態とに切り替え可能に構成されている。本体13の上面には、この切り替え操作を行うための操作部23が設けられている。操作部23は、本体13のハウジングに形成された細長い溝状開口24に沿って横方向に移動可能になっている。
【0041】
図1および図2に示すように、操作部23を傾斜接眼部21側へ移動させると、対物光学系11を経た光束が傾斜接眼部21へ導光される状態となり、傾斜接眼部21を用いて観察可能となる。これに対し、図3に示すように、操作部23を平行接眼部22側へ移動させると、対物光学系11を経た光束が平行接眼部22へ導光される状態となり、平行接眼部22を用いて観察可能となる。
【0042】
このように、本発明の地上望遠鏡1は、傾斜接眼部21と平行接眼部22とを両方備え、いずれからでも観察を行うことができるので、従来のストレートタイプの地上望遠鏡の利点とアングルタイプの地上望遠鏡の利点とを兼ね備えている。
【0043】
すなわち、平行接眼部22を用いて観察を行った場合には、優れた機動性および操作性が得られ、観察対象物、特に動いている観察対象物を視野内に素早く捕らえることができる。よって、いろいろな観察対象物を次々と見ていくのに好適である。
【0044】
また、傾斜接眼部21を用いて観察を行った場合には、楽な姿勢で観察を行うことができるので、長時間観察するときや、仰角の大きい目標を見るとき、スケッチをするときなどにおいても、疲労することなく楽に観察することができる。
【0045】
さらに、このような地上望遠鏡1では、平行接眼部22を用いて観察しながら対象物を視野内に捕らえた後、操作部23を操作して傾斜接眼部21から観察する状態へ切り替えるとともにアイピース9を傾斜接眼部21へ付け替えて、傾斜接眼部21を用いて観察を続行するような使用方法をとることもできる。
【0046】
上述したように、本発明の地上望遠鏡1によれば、従来のストレートタイプの地上望遠鏡の利点とアングルタイプの地上望遠鏡の利点とを1台で享受することができるので、コストパフォーマンスに優れる。
【0047】
本実施形態の地上望遠鏡1は、後述するように、CCD(Charge Coupled Device)撮像素子16を有しており、対物光学系11を介して形成された像を撮影し、電子画像として記録する機能を有している。
【0048】
図2に示すように、本体13には、CCD撮像素子16で撮像した画像などを表示するディスプレイ15と、各種の操作スイッチ類4とが設置されている。
【0049】
ディスプレイ15は、例えば液晶表示素子などで構成されている。ディスプレイ15には、CCD撮像素子16で撮像した画像のほか、メニュー画面、各種モードの設定画面などを表示することができる。
【0050】
操作スイッチ類4としては、電源のON/OFFを切り替えるメインスイッチ41と、レリーズボタン42と、メニューキー43と、ディスプレイ15のON/OFFを切り替えるディスプレイキー44と、ディスプレイ15に表示されるカーソル等を移動させる上方向キー451、下方向キー452、左方向キー453および右方向キー454からなる4方向キー45と、選択した内容を確定するOKボタン46とが設けられている。
【0051】
なお、本発明は、図示の実施形態に限らず、撮影機能を有しない望遠鏡、すなわちCCD撮像素子16のような撮像素子を備えず観察機能のみを有する望遠鏡に適用することもできる。
【0052】
図4に示すように、鏡筒12内の先端付近には、対物光学系11が設置されている。また、本体13内には、フォーカスレンズ(焦点調節レンズ)31と、導光光学系5と、CCD撮像素子16と、縮小光学系18とが設置されている。
【0053】
フォーカスレンズ31は、ピントリング32およびフォーカスレンズ移動機構33とともに、対物光学系11を介して形成される像のピントを合わせる合焦手段3を構成するものである。
【0054】
フォーカスレンズ駆動機構33は、ピントリング32と一体となって回転する円筒カム331と、ガイド軸332と、ガイド軸332に沿って移動する従動部材333とを有している。従動部材333には、円筒カム331に形成された螺旋状の溝に係合する突起が形成されている。また、従動部材333は、フォーカスレンズ31を保持するレンズ枠に固定されている。このような構成により、ピントリング32を回転操作すると、フォーカスレンズ31が従動部材333と共に光軸方向に移動し、これによりピント合わせを行うことができる。
【0055】
導光光学系(プリズムユニット)5は、複数のプリズムを組み合わせて構成されており、対物光学系11およびフォーカスレンズ31を経た光束を、傾斜接眼部21および平行接眼部22と、CCD撮像素子16とに導光する機能を有している。
【0056】
導光光学系5は、第1の直角プリズム51と、第2の直角プリズム52と、変位可能に設置された可動導光部材としての第3の直角プリズム53と、第4の直角プリズム54と、プリズム55とを有している。
【0057】
第1の直角プリズム51の短辺の面と第2の直角プリズム52の長辺の面とは接合されており、この接合面は、ビームスプリッタ56を構成している。
【0058】
対物光学系11およびフォーカスレンズ31を経た光束は、第1の直角プリズム51へ入射し、ビームスプリッタ56にて反射して傾斜接眼部21または平行接眼部22へ向かう光束と、ビームスプリッタ56を透過してCCD撮像素子16へ向かう光束とに分割される。
【0059】
ビームスプリッタ56を透過した光束は、第4の直角プリズム54内へ進み、第4の直角プリズム54にて2回反射することにより180°向きが変わって前方へ進む。この光路の先には、縮小光学系18、シャッター19、光学フィルターユニット17およびCCD撮像素子16がこの順に設置されている。
【0060】
図5ないし図8は、それぞれ、図1ないし図3に示す地上望遠鏡における導光光学系を示す斜視図であり、図5は、傾斜接眼部で観察するときの状態を斜め前方から見た図、図6は、傾斜接眼部で観察するときの状態を斜め後方から見た図、図7は、平行接眼部で観察するときの状態を斜め前方から見た図、図8は、平行接眼部で観察するときの状態を斜め後方から見た図である。
【0061】
図5に示すように、導光光学系5を構成する複数のプリズムは、枠状のフレーム7によって保持されている。
第3の直角プリズム53は、フレーム7に対し横方向へ移動可能に設置されている。フレーム7には、第3の直角プリズム53を案内するレール71が形成されている。第3の直角プリズム53は、このレール71に沿って、図5および図6に示す位置と、図7および図8に示す位置との間で移動可能になっている。
【0062】
第3の直角プリズム53の上面には、前述した操作部23が突設されている。この操作部23は、本体13のハウジングに形成された溝状開口24を挿通しており、操作部23の上部は、図1ないし図3に示すように、本体13の外面に露出している。操作部23を指で左右に動かすことにより、第3の直角プリズム53を横方向に移動させることができる。
【0063】
このように、本実施形態では、操作部23が可動導光部材としての第3の直角プリズム53に対し固定されており、操作部23に加えられた力が可動導光部材に直接に作用して可動導光部材が変位するように構成されているので、極めて簡単な構造とすることができるとともに、常に確実な作動が得られる。ただし、本発明では、このような構成に限らず、操作部23に加えられた力をカム機構、リンク機構等を介して伝達して可動導光部材を変位させるようにしてもよく、また、操作部23を電気スイッチで構成し、可動導光部材を電動で変位させるようにしてもよい。
【0064】
図6に示すように、第1の直角プリズム51と第3の直角プリズム53とは、ルーフエッジの向きが互いに90°異なるような位置関係で配置されている。ビームスプリッタ56で反射した光束は、第1の直角プリズム51の他方の短辺の面で反射して前方へ進み、第3の直角プリズム53へ入射して、第3の直角プリズム53の二つの短辺の面で順次反射して後方へ向かって出射する。
【0065】
このような第1の直角プリズム51と第3の直角プリズム53とは、観察像を正立させる正立光学系(ポロプリズム)として機能する。これにより、アイピース9において正立像を観察することができる。
【0066】
傾斜接眼部21から観察するときの状態では、第1の直角プリズム51から出射して第3の直角プリズム53に入射した光束は、第3の直角プリズム53の図6中で右側の短辺の面、左側の短辺の面でこの順に反射して、第3の直角プリズム53から後方へ向かって出射する。そして、第3の直角プリズム53から出射した光束は、プリズム55に入射する。プリズム55は、光束を対物光学系11の光軸に対し傾斜した方向へ向かって出射させる機能を有しており、対物光学系11の光軸に対し傾斜した出射面551を有している。プリズム55に入射した光束は、プリズム55内で2回反射し、出射面551から、傾斜接眼部21へ向かって出射する。
【0067】
これに対し、図8に示すように、平行接眼部22から観察するときの状態では、第1の直角プリズム51から出射して第3の直角プリズム53に入射した光束は、第3の直角プリズム53の図8中で左側の短辺の面、右側の短辺の面でこの順に反射して、第3の直角プリズム53から後方へ向かって出射し、そのまま平行接眼部22へ向かう。
【0068】
本実施形態では、第3の直角プリズム53内での、光束の進行方向が、傾斜接眼部21を用いて観察する状態と、平行接眼部22を用いて観察する状態とで上述のように反対の方向となるよう構成されている。これにより、光路の切り替えを行う際の第3の直角プリズム53の変位量を小さくすることができ、小型化に寄与する。
【0069】
また、第3の直角プリズム53の移動方向が直線状であるので、レール71を高精度で形成することができ、光学特性を犠牲にしない。
【0070】
さらに、第3の直角プリズム53は、たとえば第4の直角プリズム54と同一形状のものを流用できるので、製造コストを安価にできる。また独立した接眼部を2つ備えているので、倍率の異なるアイピースを平行接眼部22と傾斜接眼部21とにそれぞれ装着し、通常観察時と撮影時の精密な焦点合わせ時とで切り替えて使用することもできる。
【0071】
また、観察に使用しない接眼部には、フィルムカメラ撮影用アダプタなどの各種アイピース用アクセサリ等を装着して多様な使い方ができる。
【0072】
図9は、図1ないし図3に示す地上望遠鏡の電気的回路構成を含むブロック図である。以下、この図に基づいて、本実施形態の地上望遠鏡1における、電子画像を撮影するための構成および作用について説明する。
【0073】
CCD撮像素子16は、その受光面161の位置が、アイピース9の視野枠92の位置(予定焦点位置)と光学的に等価な位置になるように設置されている。これにより、地上望遠鏡1では、対物光学系11およびフォーカスレンズ31を介して形成された像をCCD撮像素子16により撮像可能になっており、アイピース9での観察像と同じ電子画像を撮影することができる。なお、撮像素子としては、CCD撮像素子16に限らず、例えばCMOSセンサー等を用いてもよい。
【0074】
光学フィルターユニット17は、CCD撮像素子16の受光面161側に重ねて設置されている。この光学フィルターユニット17は、光学ローパスフィルターと、赤外線カットフィルターとが積層されてなるものである。光学ローパスフィルターは、被写体光の空間周波数の中から、CCD撮像素子16の画素間隔で決まる標本化空間周波数に近い空間周波数成分を低減させるものである。光学ローパスフィルターを設けたことにより、偽色(モアレ)が生じるのを防止することができる。
【0075】
また、赤外線カットフィルターは、赤外波長成分を除去するものである。赤外線カットフィルターを設置したことにより、CCD撮像素子16が人間の目に見えない赤外光を受光してしまうのを防止することができる。
【0076】
縮小光学系18は、光束を縮小する機能を有している。CCD撮像素子16に入射する光束は、縮小光学系18により、CCD撮像素子16のサイズに合うように縮小されて、受光面161上に結像する。
【0077】
地上望遠鏡1は、電気的回路構成として、CPU(Central Processing Unit)60と、DSP(Digital Signal Processor)61と、記憶手段としてのSDRAM(Synchronous Dynamic Random Access Memory)62と、撮像信号処理回路63と、タイミングジェネレータ64と、画像データ圧縮回路65と、メモリインターフェース66と、記憶手段としてのEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)67とを有している。また、本体13内には、メモリーカード(記録媒体)100を装填可能なスロット(図示せず)が設けられている。
【0078】
CPU60は、予め記憶されたプログラムや操作スイッチ類4からの入力信号に基づいて地上望遠鏡1を統括的に制御する制御手段であり、撮影制御等の各種動作制御を行う。
【0079】
DSP61は、CCD撮像素子16の駆動制御およびCCD撮像素子16からの画素信号から画像データを生成する画像生成手段として機能したり、画像データの圧縮処理やメモリーカード100への画像データ記録処理など、画像処理および画像記録の処理動作を統括して制御する制御手段として機能したりするプロセッサであり、CPU60と接続され相互に通信して制御の連携が可能な構成となっている。
【0080】
SDRAM62には、画像データ生成等の作業を行う作業領域や、ディスプレイ15用領域等が予め定められている。
【0081】
タイミングジェネレータ64は、DSP61の制御に基づき、CCD撮像素子16および撮像信号処理回路63に対してサンプルパルスなどを出力し、これらの動作制御を行う。
【0082】
使用者は、アイピース9を覗いて観察を行う際、観察対象物までの距離に応じてピントリング32を操作することにより、観察像のピントを合わせることができる。このとき、観察像の結像位置(空中像)が視野枠92の位置に来たときにアイピース9から覗いた観察像のピントが合うと認識できるように設計されている。別言すると、使用者は、視野枠92の位置Sに形成される像が明瞭に見えるように、ピントリング32を回してピント合わせを行うように設計されている。
【0083】
そして、使用者は、撮影・記録しておきたい観察像に出会った場合、レリーズボタン42を操作して撮影を行うことにより、その観察像と同じ電子画像を撮影・記録することができる。前述したように、CCD撮像素子16の受光面161は視野枠92の位置と光学的に等価な位置にあるので、この状態ではCCD撮像素子16の受光面161上でも被写体像が結像しており、ピントの合った画像を撮影することができる。
【0084】
ディスプレイ15には、次のようにして、CCD撮像素子16により撮像された画像をリアルタイムに動画として表示することができる。
【0085】
CCD撮像素子16の受光面161上に結像した被写体像は、光電変換されて電荷データとなり、この電荷データ(信号)は、ディスプレイ15に表示するライブビュー画像データ作成のため、CCD撮像素子16から所定画素分ずつ間引かれて順次読み出され、撮像信号処理回路63にて相関二重サンプリング(CDS)、自動利得制御(AGC)およびアナログ−デジタル変換がなされた後、DSP61へ入力される。DSP61においては、入力された信号に対して所定のカラープロセス処理やγ補正等の信号処理が施され、ライブビュー画像データ(輝度信号データY、二つの色差信号データCr、Cb)が生成される。
【0086】
このライブビュー画像データは、ディスプレイ15の表示画素数に対応して、CCD撮像素子16の有効画素数よりも少ない画素数(間引きしたデータ数)の画像データであり、このライブビュー画像データに基づいてディスプレイ15の表示がなされる。ライブビュー画像データの生成処理は、CCD撮像素子16の読み出しとともに周期的に更新され、ディスプレイ15上では、リアルタイムの動画として表示される。
【0087】
撮影・記録時には、地上望遠鏡1は、次のように動作する。レリーズボタン42が半押しされて測光スイッチ421がオンすると、CPU60は、CCD撮像素子16の出力信号に基づいて露出演算を行う。さらにレリーズボタン42が全押しされてレリーズスイッチ422がオンすると、CPU60は、DSP61へ本露光動作を指示する。本露光指令を受けたDSP61は、CCD撮像素子16の不要電荷掃き出し制御や露出制御(電荷蓄積時間制御)を行った後、前記と同様に撮像信号処理回路63を介し、CCD撮像素子16から画素間引きせずに電荷データを読み出し、SDRAM62に一旦保持する。そして、DSP61は、SDRAM62から読み出した電荷データに対し所定の信号処理を施すことにより、画素データ数の多い記録用静止原画像データを生成する。
【0088】
さらに、DSP61は、生成された記録用静止原画像データから画素データ間引き処理をして、表示用静止画像のスクリーンネイル(例えば640×480画素)を生成し、一定時間、ディスプレイ15に表示させる。また、DSP61は、生成された記録用静止原画像データに画像データ圧縮回路65にて画像データ圧縮処理を施し、これにより得られた例えばJPEG、TIFF等の所定のフォーマットの圧縮画像データをメモリインターフェース66を介して出力して、メモリーカード100に記録する。
【0089】
以上、本発明の望遠鏡を図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、望遠鏡を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【0090】
また、本実施形態の地上望遠鏡1は、傾斜接眼部21および平行接眼部22に対しアイピース9が着脱自在に装着可能な構成であったが、これに限らず、本発明では、傾斜接眼部21および平行接眼部22に対しアイピース9(接眼光学系91)が固着または内蔵され、交換できないように構成されたものであってもよい。
【0091】
また、導光光学系の構成は、図示の実施形態に限定されるものではなく、可動導光部材も例えばミラー等の他種の光学部材で構成してもよい。
【0092】
また、上述した実施形態においては、本発明を地上望遠鏡に適用した場合について説明したが、本発明は、これに限らず、天体望遠鏡を含めた各種の望遠鏡に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の望遠鏡を地上望遠鏡に適用した場合の実施形態を示す斜視図である。
【図2】本発明の望遠鏡を地上望遠鏡に適用した場合の実施形態を示す斜視図である。
【図3】本発明の望遠鏡を地上望遠鏡に適用した場合の実施形態を示す斜視図である。
【図4】図1ないし図3に示す地上望遠鏡の光学系を示す断面側面図である。
【図5】図1ないし図3に示す地上望遠鏡における導光光学系を示す斜視図である。
【図6】図1ないし図3に示す地上望遠鏡における導光光学系を示す斜視図である。
【図7】図1ないし図3に示す地上望遠鏡における導光光学系を示す斜視図である。
【図8】図1ないし図3に示す地上望遠鏡における導光光学系を示す斜視図である。
【図9】図1ないし図3に示す地上望遠鏡の電気的回路構成を含むブロック図である。
【符号の説明】
【0094】
1 地上望遠鏡
11 対物光学系
12 鏡筒
13 本体
14 電池室蓋
15 ディスプレイ
16 CCD撮像素子
161 受光面
17 光学フィルターユニット
18 縮小光学系
19 シャッター
21 傾斜接眼部
22 平行接眼部
23 操作部
24 溝状開口
25 接眼部蓋
3 合焦手段
31 フォーカスレンズ
32 ピントリング
33 フォーカスレンズ移動機構
331 円筒カム
332 ガイド軸
333 従動部材
4 操作スイッチ類
41 メインスイッチ
42 レリーズボタン
421 測光スイッチ
422 レリーズスイッチ
43 メニューキー
44 ディスプレイキー
45 4方向キー
451 上方向キー
452 下方向キー
453 左方向キー
454 右方向キー
46 OKボタン
5 導光光学系
51 第1の直角プリズム
52 第2の直角プリズム
53 第3の直角プリズム
54 第4の直角プリズム
55 プリズム
551 出射面
56 ビームスプリッタ
60 CPU
61 DSP
62 SDRAM
63 撮像信号処理回路
64 タイミングジェネレータ
65 画像データ圧縮回路
66 メモリインターフェース
67 EEPROM
7 フレーム
71 レール
9 アイピース
91 接眼光学系
92 視野枠
100 メモリーカード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物光学系と、
その中心線が前記対物光学系の光軸に対し傾斜している傾斜接眼部と、
その中心線が前記対物光学系の光軸に対し平行になっている平行接眼部と、
変位可能に設置された可動導光部材を有し、該可動導光部材を変位させることにより、前記対物光学系を経た光束を前記傾斜接眼部へ導光する状態と、前記対物光学系を経た光束を前記平行接眼部へ導光する状態とに切り替え可能な導光光学系とを備え、
前記可動導光部材を変位させることにより、前記傾斜接眼部を用いて観察する状態と、前記平行接眼部を用いて観察する状態とを選択可能であることを特徴とする望遠鏡。
【請求項2】
前記可動導光部材を変位させる操作を行う操作部をさらに備える請求項1に記載の望遠鏡。
【請求項3】
前記操作部が前記可動導光部材に対し固定されており、前記操作部に加えられた力が前記可動導光部材に直接に作用して前記可動導光部材が変位するように構成されている請求項2に記載の望遠鏡。
【請求項4】
前記導光光学系は、観察像を正立させる正立光学系を含み、該正立光学系を構成する部材が前記可動導光部材となっている請求項1ないし3のいずれかに記載の望遠鏡。
【請求項5】
前記正立光学系は、ポロプリズムで構成され、
前記可動導光部材は、前記ポロプリズムを構成する二つの直角プリズムのうちの一方の直角プリズムで構成される請求項4に記載の望遠鏡。
【請求項6】
前記可動導光部材を構成する直角プリズム内での、前記光束の進行方向が、前記傾斜接眼部を用いて観察する状態と、前記平行接眼部を用いて観察する状態とで反対の方向となる請求項5に記載の望遠鏡。
【請求項7】
光軸方向に移動可能に設置されたフォーカスレンズを有する合焦手段をさらに備える請求項1ないし6のいずれかに記載の望遠鏡。
【請求項8】
前記対物光学系を介して形成される被写体像を撮像する撮像素子と、
前記対物光学系を経た光束を前記撮像素子へ向かう光束と前記可動導光部材へ向かう光束とに分割するビームスプリッタとをさらに備える請求項1ないし7のいずれかに記載の望遠鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−154546(P2006−154546A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−347545(P2004−347545)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】