説明

木本植物の樹皮の糖化方法

【課題】 木質系バイオマスに含まれるセルロース及びヘミセルロースを酵素処理によって糖化する際に、エネルギーが少なく、中和工程が必要でない、簡便な前処理方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 木本植物の樹皮を切断し、加熱・加圧下において二酸化炭素溶解水で前処理し、次いで、酵素により糖化する木本植物の樹皮の糖化方法。この方法において、前処理温度は100〜200℃、前処理の時間は5分〜2時間が好ましく、木本植物がユーカリ(Eucalyptus)属の樹木であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木本植物の樹皮の糖化方法に関し、特には、二酸化炭素溶解水による樹皮の前処理工程を有する樹皮の酵素糖化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化を抑制するための二酸化炭素排出削減策の一つとして、バイオマスをエネルギーに転換して得られるバイオエネルギー開発が行われている。バイオマス転換の方法としては、多数の著書(非特許文献1〜4)に示されているように、熱分解、ガス化、嫌気性発酵などが広く行なわれているが、その中でも、バイオマスに含まれる糖質を発酵させることによりエタノールを得る方法が広く研究されている。エタノールは液体燃料として、特に輸送用燃料として利用することが可能であり、既にアメリカやブラジルではトウモロコシやサトウキビから得られるデンプンや砂糖を原料としてバイオエタノールを製造するプロセスが実用化されている。これらの原料で本来、食用として生産されたはずのトウモロコシやサトウキビなどがバイオエタノール原料として流用されることによる問題が指摘されている。そこで、食料とは競合しない未利用バイオマスを原料としたバイオエタノール生産が求められている。
【0003】
未利用バイオマスとしては稲ワラやバガスなどの草本系バイオマスと林地残材や間伐材などの木質系バイオマスが挙げられる。このうち、稲わらやバガスなどの草本系バイオマスは、一般に単年生であり、年間における入手可能な期間が短く、単位体積当たりの質量(以下、容積重)が低い(150〜300kg/m)。一方、木質系バイオマスは、一般に多年生であるため、通年で入手可能であり、容積重が高い(300kg/mを越える)。
そして、草本系バイオマスでは短期間で排出される原料をストックするヤードが必要であるのに対し、木質系バイオマスではこのような心配が無く、さらに容積重が高いために原料の輸送コストも低く抑えることが出来ると考えられる。
【0004】
近年、パルプ材や建材利用を目的とした事業植林が活発に行われており、国内企業が行う海外植林面積をとっても40万haに達するとも言われている。このうち、大多数を占めるのがパルプ材として植栽されているユーカリである。ユーカリは成長が早く、10年程度で伐採が可能となることから、既に伐採、チップ化を経て国内でのパルプ製造が行われている。しかし、地上部総質量の約10〜20%を占める樹皮は、ほとんどが林地もしくはチップ工場で剥離された後、有効利用されていないのが現状である。
【0005】
樹木の中で樹皮は、細胞分裂が活発な形成層の外側に形成され、栄養素の運搬、デンプンなどの貯蔵を行う内樹皮と、病気や害虫などの外的損傷からの防御を行う外樹皮に分けられる。構成する細胞は、師部繊維、師部柔細胞、師細胞であり、それぞれが円周方向に並ぶ細胞群を構成している。師部繊維は一次壁と二次壁で構成され、細胞壁はセルロースが主たる構成要素である。師細胞や師部柔細胞は内樹皮では未木化の一次壁で構成され、貯蔵デンプンを保持することもあるが、外樹皮ではデンプンは観察されない。ユーカリにおいて、外樹皮の厚みは数mm程度であるのに対し、内樹皮は20mm以上に肥大する。さらに、内樹皮ではリグニン含量が10%程度と少なく、そのほとんどが師部繊維に存在する。
【0006】
木質系バイオマスのバイオエタノールへの転換方法としては、多数の著書(非特許文献1、非特許分文献2、非特許分文献3)に示されているように、様々な方法が研究されてきているが、その中でも、酸糖化法又は酵素糖化法により単糖化した後、発酵によりエタノールを得る方法が広く研究されている。
酸糖化法は、硫酸などの無機酸によって木質バイオマスを加水分解して糖を得る方法であり、その濃度によって、希酸法と濃酸法が提案されている(特許文献1及び2)。希酸法では、温度、圧力がともに高く、添加した酸により装置が腐食してしまう。さらに、生成した糖類と酸を分離するのが困難で経済的に有効な酸回収方法がない等の問題がある。また、濃酸法は、比較的に温度及び圧力が低いため、安価な反応装置材料が利用でき、グルコースの収率も高い。しかし、希酸法と同様に、生成した糖類から経済的に有効な酸の分離・回収法がないため、多量の廃酸が発生するという問題がある。
【0007】
酵素糖化法は、リグノセルロースをセルラーゼやヘミセルラーゼ等の酵素によって糖化する方法であり、酸糖化法よりも穏和な条件で糖化が可能であることから、装置材質の制限がなく、排出物の処理も簡便である。しかし、リグノセルロース中のセルロースはリグニン及びヘミセルロースによって覆われており、酵素が容易にセルロースへの接触できないため糖化率が低いのが一般的である。そこで、酵素糖化率向上のために微粉砕処理、加圧熱水処理、蒸煮・爆砕処理などの物理的前処理と、酸やアルカリなどの薬品による化学的前処理が主に研究されている。
【0008】
これらの前処理のうち、微粉砕処理は、微粉砕化によってセルロースを覆っているリグニンやヘミセルロースの一部を剥離させ、酵素がセルロースに接触させる頻度を上げることによって、糖化を促進させることを目的とした前処理方法である(例えば、特許文献3参照)。
加圧熱水処理は、例えば、特許文献4に記載されているように、ヘミセルロースを溶解し、セルロースの酵素処理を容易にするものであり、また、特許文献5のように、更に機械的処理を併用する場合もある。
また、バイオマスを高温高圧処理後、瞬時に大気圧又はその付近の低温低圧条件下に放出する蒸煮・爆砕処理方法では、セルロースを覆っているリグニンとヘミセルロースに亀裂を生じさせることによって、酵素がセルロースに接触可能となる(例えば、特許文献6参照)。
【0009】
化学的前処理としては、セルロースを覆っているリグニンやヘミセルロースを軟化もしくは溶解させることによって除去し、セルロースを表面に露出させることによって酵素糖化を可能とする前処理であり、例えば、アルカリ剤を用いる特許文献7などがある。セルラーゼやヘミセルラーゼなどの多糖分解酵素は、中性から弱酸性領域で処理する必要があるため、特に化学的前処理では、糖化工程において薬品の除去もしくはpHを調整する工程が必要となる場合がある。
【0010】
さらに改良された方法として、以下のような技術も提案されている。
(1)1mm以下に微粉化した原料を、タングステン酸触媒を含有する過酸化水素水で80〜90℃、2.5時間処理することによってリグニンを除去した後、残渣に対し酵素糖化を行い、糖を得る方法。(特許文献8)
(2)重曹溶液に長時間浸漬させた後、加熱処理を行うことによってリグニンとヘミセルロースを除去する方法。(特許文献9)
【0011】
前記した酵素糖化法又は酸糖化法以外の方法として、特許文献10のように、二酸化炭素を加圧含有させ、圧力5〜100MPa、温度140〜300℃の熱水中で水熱反応を行うことによって直接糖を得る方法も知られている。
【0012】
【特許文献1】特開2006−75007号公報
【特許文献2】特開2006−246711号公報
【特許文献3】特開平2−156894号公報
【特許文献4】特開2005−168335号公報
【特許文献5】特開2006−136263号公報
【特許文献6】特公平7−121963号公報
【特許文献7】特開昭59−192093号公報
【特許文献8】特開2006−149343号公報
【特許文献9】特開2007−282597号公報
【特許文献10】再公表特許2005−049869号公報
【非特許文献1】日本木材学会編「木質バイオマスの利用技術」p19〜61、文永堂出版、1997年7月発行
【非特許文献2】湯川英明ら「バイオマスエネルギー利用の最新技術」各論編II−1章、CMC出版、2001年8月発行
【非特許文献3】飯塚尭介ら「ウッドケミカルスの最新技術」p6〜34、CMC出版、2001年10月発行
【非特許文献4】船岡ら「木質系有機資源の新展開」第5章−2、CMC出版、2005年1月発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
木質系バイオマスを原料として酵素による糖化を行うためには、物理的前処理では、多量のエネルギーを投入する必要があり、化学的前処理では酵素反応を行うために中和工程が必要となる。本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、木質系バイオマスの中でも、高付加価値製品用の原料物質として利用されることのなかった樹皮に含まれるセルロース及びヘミセルロースを酵素処理によって糖化することを可能ならしめる簡便な前処理工程を含む樹皮の糖化方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、木本植物のうち、特に樹皮に着目し、樹皮に対して、二酸化炭素を溶解した熱水中に高圧で所定時間浸漬するという前処理を行うことによって、酵素糖化が極めて容易になることを見いだした。本発明の方法は、以下の技術的手段から選択される手段を採用して構成されている。
【0015】
(1)木本植物の樹皮を切断し、加熱・加圧下において二酸化炭素溶解水に浸漬して樹皮中のリグニン及びヘミセルロースを溶解する前処理をし、次いで、該前処理済み樹皮を酵素により糖化する。
(2)前記前処理をした樹皮を、前記酵素処理に先立って解繊処理する。
(3)前記前処理が、樹皮中のリグニン、ヘミセルロース及びセルロースの各成分を分離する処理である。
(4)前記前処理が、樹皮中のセルロース成分の実質的な分解が生起することのない処理である。
(5)前記前処理が、前記樹皮を100℃以上、250℃未満、特に150〜200℃の温度で二酸化炭素溶解水に浸漬する処理である。
(6)前記前処理が、前記樹皮を5分〜2時間、特に60分(1時間)〜120分(2時間)の間、二酸化炭素溶解水に浸漬する処理である。
(7)前記前処理が、前記樹皮の乾燥質量に対して、0.2〜300倍量の二酸化炭素を添加する処理である。
(8)前記処理が0.5〜10MPaの圧力下で行われる処理である。
(9)木本植物がユーカリ(Eucalyptus)属の樹木である。
(10)前記ユーカリ属の樹種が、グランディス(grandis)種、グロブラス(globulus)種、ナイテンス(nitens)種、カマルドレンシス(camaldulensis)種、デグラプタ(deglupta)種、ビミナリス(viminalis)種、ユーロフィラ(urophylla)種、ダニアイ(dunnii)種及びこれらの交雑種に属する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、低濃度の薬品使用により環境負荷が少なく、短時間でかつ少ない投入エネルギーで、豊富な木質系バイオマスである樹皮を酵素によって糖化することが可能な方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態を具体的に説明する。
本発明は、木質系バイオマスとして木本植物の樹皮を採用し、切断又は破砕された樹皮を二酸化炭素溶解水に浸漬した状態で加熱・加圧する前処理を行い、前処理された樹皮を酵素糖化するものである。
【0018】
本発明の方法で使用する木本植物の樹皮は、フトモモ科、マメ科、ヤナギ科など様々な樹木の樹皮が使用可能であるが、パルプ用材として広く植栽されているフトモモ科ユーカリ属の好ましくはグランディス(grandis)種、グロブラス(globulus)種、ナイテンス(nitens)種、カマルドレンシス(camaldulensis)種、デグラプタ(deglupta)種、ビミナリス(viminalis)種、ユーロフィラ(urophylla)種、ダニアイ(dunnii)種及びこれらの交雑種に属する樹木の樹皮が原材料としても豊富に存在することからも望ましい。
【0019】
樹木は、細胞分裂が活発な形成層を境界にその内側の木部と外側の樹皮に分けられる。樹皮は、総樹木質量の約10〜15%を占め、樹皮は木部と比べてリグニン含量が比較的に低く、可溶性成分を多く含み柔軟である。樹皮は、死んだ組織の外樹皮と生きている組織の内樹皮に分けられる。樹皮は、組織的に大きく、繊維、コルク細胞及び柔細胞を含む微細物質に分画される。繊維画分は、木繊維と化学的に似ており、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンからなる。
しかし、材木用途では使用されず、製紙工程のパルプ化の際にもパルプの品質を低下させるため除去される。そのため、樹皮は枝や根とともに植林地で肥料として土壌に戻されるか、製材工場又はチップ工場で剥皮され焼却されるなど有効利用されていない。
【0020】
本発明の前処理に供するため、樹皮は切断しておく必要がある。即ち、前処理装置にベルトコンベアやスクリューフィーダーなどの装置で供給できる大きさにする必要があり、また、二酸化炭素溶解水との接触を良好にする必要がある。
切断は、通常のカッターによる切断、又は粉砕機による粗粉砕により行う。カッターとしてはギロチン型、回転刃型のいずれでも良い。ディスク型チッパー、ハンマーミルなどを用いても良い。大きさとしては、概ね1〜20mm程度にすれば良い。
【0021】
前処理は、加熱・加圧下で行うため、前処理装置として耐圧密閉容器が必要である。この装置は、オートクレーブのようなバッチ方式であっても良いし、パルプ製造用の連続蒸解釜のような連続供給方式であっても良い。処理系内の温度は80℃以上、250℃未満であり、好ましくは、150〜200℃である。後述する処理時間との関係があるが、温度は200℃以下が好ましい。
温度を上げることにより樹皮が軟化するとともに、二酸化炭素溶解水が組織内に浸透し、リグニンやヘミセルロースの溶解が早まるものと推定される。しかし、温度を上げ過ぎると、糖の分解が起こり、糖収率が低下するため、250℃以上は好ましくない。
【0022】
前処理装置内に二酸化炭素を供給する手段としては、ガスボンベやコンプレッサーなどの系外装置から配管により系内に加圧二酸化炭素を供給する方式が好ましいが、バッチ方式であれば、ドライアイスを予め水と共に系内に配置し、密閉してから加熱することも可能である。ドライアイスを用いる場合には、樹皮の乾燥質量に対してドライアイスを0.2〜300倍量使用することが好ましい。0.2倍未満では、二酸化炭素溶解水による前処理効果、即ち、樹皮の軟化及びリグニンやヘミセルロースの溶解が不十分である。また、300倍を越えてドライアイスを使用すると、系内の圧力が高くなり過ぎる危険がある。
ガスボンベによる二酸化炭素供給、あるいはドライアイスによる二酸化炭素供給のいずれの場合でも、系内の圧力は0.5〜10MPaに設定する。0.5MPa未満では、二酸化炭素溶解水を樹皮に浸透させる効果が低く、前処理効果が充分でない可能性がある。また、10MPaを越える圧力としても、効果は頭打ちで、装置に対する負担が大きくなり過ぎる。
【0023】
乾燥樹皮1質量部に対する水の量比は1〜10質量部の範囲で選択できる。水(二酸化炭素溶解水)の量比が高いと、加熱に必要なエネルギーが増加するためコストがかかる。処理後に固形分を分取した残りの液分を廃液として処理する場合には、水(溶液)の量比が高いほど処理費用が増加する。
【0024】
前処理時間は5分から120分(2時間)の範囲で選択される。5分未満では二酸化炭素溶解水によるリグニンやヘミセルロースの溶解が充分でなく、120分(2時間)を越えて続けても効果は頭打ちとなりエネルギーのロスとなるか、前処理温度が高い場合は逆に効果は低下する傾向がある。前述したように、適切な時間は温度により異なり、採用可能な温度の範囲内で高温であるほど、処理時間は短くする必要があるが、安定した結果を得ることができることから、一般的には、60分〜120分(1時間〜2時間)の範囲が好ましい。
【0025】
二酸化炭素溶解水により前処理された樹皮は、密閉容器を開放することにより二酸化炭素を放出し、そのまま酵素糖化反応に供することができる。
しかし、密閉容器の開放により二酸化炭素を放出した後、機械によって解繊処理を施したものを糖化反応に供することが好ましい。解繊処理に用いる機械は樹皮が解繊できれば特に限定されないが離解機、リファイナー、破砕機などが使用できる。粒径は特に限定されない。
【0026】
酵素反応工程で使用する酵素としては、セルラーゼが含まれていれば市販の酵素を特に制限なく利用することが可能である。また、ヘミセルラーゼが含まれていることがより好ましい。
糖化反応に使用するセルロース分解酵素は、セロビオヒドロラーゼ活性、エンドグルカナーゼ活性、ベータグルコシダーゼ活性を有する、所謂セルラーゼと総称される酵素である。
【0027】
糖化反応工程で使用できるもう一つの酵素であるヘミセルロース分解酵素は、キシラン分解酵素、マンナン分解酵素、ペクチン分解酵素、アラビナン分解酵素などの一連のヘミセルロース分解酵素のうちから選ばれる少なくとも一つの酵素である。
セルロース分解酵素とヘミセルロース分解酵素は、夫々を適宜の量で添加しても良いが、市販されているセルラーゼ製剤には、上記した各種のセルラーゼ活性を有すると同時に、ヘミセルラーゼ活性も有しているものが多く、市販のセルラーゼ製剤を用いれば良い。
【0028】
市販のセルラーゼ製剤としては、トリコデルマ(Trichoderma)属、アクレモニウム属(Acremonium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ファネロケエテ(Phanerochaete)属、トラメテス属(Trametes)、フーミコラ(Humicola)属、バチルス(Bacillus)属などに由来するセルラーゼ製剤がある。このようなセルラーゼ製剤は、実験試薬や工業製品として購入可能である。例えば、商品名で、セルロイシンT2(エイチピィアイ社製)、メイセラーゼ(明治製菓社製)、ノボザイム188(ノボザイム社製)、マルティフェクトCX10L(ジェネンコア社製)、セルラーゼGC220(ジェネンコア社製)等が挙げられる。
原料固形分100質量部に対するセルラーゼ製剤の使用量は、0.5〜100質量部が好ましく、1〜50質量部が特に好ましい。
【0029】
反応条件はpHが4〜7が好ましい。温度は25〜50℃が好ましく、30〜40℃がさらに好ましい。
糖化反応時間は、酵素濃度によっても異なるが、バッチ式の場合は10〜240時間、さらに好ましくは15〜160時間である。連続式の場合も、平均滞留時間が、10〜150時間、さらに好ましくは15〜100時間である。糖化反応は、連続式が好ましいが、バッチ方式でも良い。
【実施例】
【0030】
次に、実験例1〜8により本発明の方法をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実験例によって限定されるものではない。以下に示す実験例において、%は、特に断りがない限りは全ての質量によるものである。また、糖量としては、イオンクロマトグラフィー法によって全糖量を算出した。
【0031】
実験例1(比較例)
ユーカリ・グロブラスの樹皮を約1mm角に切断し、試料として用いた。
15ml容のステンレス耐圧容器に、絶乾質量で50mg相当の上記試料と水0.2mlを投入した後に密栓し、予め200℃に設定したオーブンに投入することにより60分(1時間)加熱加圧処理による前処理を施した。
1時間の加熱加圧処理後、5mlのクエン酸−リン酸バッファー(濃度100mM、pH5.0)に、トリコデルマ・リーセイに由来するセルラーゼ(シグマ社製)10.4mg、アスペルギウス・ニガーに由来するペクチナーゼ(シグマ社製)0.1mg、アスペルギウス・オリザに由来するアミラーゼ(シグマ社製)1.3mgを添加した条件下で、37℃、24時間の酵素糖化処理を行い、処理後の糖化液の糖量を測定し、以下の式によって、糖収率を算出した。
糖収率(%)=(糖化液中の糖量/サンプル絶乾質量)×100
糖収率を算出したところ処理前樹皮の16.0%相当の糖を得ることができた。本試料を70%硫酸、20℃、18時間処理により糖を抽出した場合、処理前樹皮の46.5%に相当する糖を得ることができることから、糖回収率としては34.4%と計算される。
【0032】
実験例2(比較例)
ユーカリ・グロブラスの樹皮を約1mm角に切断し、実験例1における前処理を施さずに実験例1と同様の糖化処理を行った。糖収率を算出したところ処理前樹皮の9.7%相当の糖を得ることができた。糖回収率としては20.9%と計算される。
【0033】
実験例3(実施例)
実験例1と同様、ユーカリ・グロブラスの樹皮を約1mm角に切断して試料として、試料投入の際に1.5gのドライアイスも同時に混合し、処理温度200℃、処理時間60分(1時間)の前処理を行い、その後、酵素糖化処理を行った。耐熱容器内の圧力測定値は6.3MPaであった。糖収率を算出したところ、処理前樹皮の45.7%に相当する糖を得ることができた。糖回収率としては98.2%と計算される。
実験例1及び実験例2と実験例3の結果は、樹皮を、二酸化炭素溶解水に浸漬して加熱・加圧下に前処理することが、酵素糖化反応効率のよい原料を調製できる手段であることを示している。
【0034】
実験例4(実施例)、実験例5(参考例)
ユーカリ・グロブラスの樹皮を実験例3と同様に耐圧容器内の試料にドライアイスを混合して温度200℃で前処理を行った。ただし、操作条件として、前処理時間を120分(2時間)としたものを実験例4とし、前処理時間が240分(4時間)としたものを実験例5とした。結果を表1に示す。前処理温度を200℃とした前記実験例3と、実験例4及び実験例5の各結果は、前処理反応時間は120分(2時間)以下が良好であり、240分(4時間)のように前処理時間が長くなると糖収率、糖回収率が共に顕著に減少する傾向があることを示している。
【0035】
実験例6(実施例)、実験例7(実施例)、実験例8(参考例)
ユーカリ・グロブラスの樹皮を実験例4と同様に耐圧容器内の試料にドライアイスを混合して処理時間を120分(2時間)として前処理を行った。ただし、操作条件として、前処理温度を150℃としたものを実験例6とし、175℃としたものを実験例7とし、250℃としたものを実験例8とした。結果を表1に示す。処理時間を120分(2時間)とした実験例4と、実験例6〜実験例8の各結果は、前処理温度は150℃以上、200℃以下が有効であり、200℃を越えて250℃のように温度が高くなると糖収率、糖回収率が共に顕著に減少する傾向があることを示している。
【0036】
実験例9(実施例又は参考例)
ユーカリ・グロブラスの樹皮を実験例4と同様に耐圧容器内の試料にドライアイスを混合して処理時間を120分(2時間)として前処理を行った。ただし、処理温度を100℃とした。結果を表1に示す。処理時間を120分(2時間)、処理温度を150℃とした前記実験例6よりも前処理効果は低下していた。
処理時間を120分として、処理温度を200℃とした実験例4、処理温度を175℃とした実験例7、処理温度を150℃とした実験例6の各結果は、前処理温度が200℃より下がるに従って前処理効果が低下する傾向があることを示している。
【0037】
実験例10(実施例又は参考例)、実験例11(実施例又は参考例)、実験例12(参考例)
ユーカリ・グロブラスの樹皮を実験例4と同様に耐圧容器内の試料にドライアイスを混合して処理温度を200℃として前処理を行った。ただし、処理時間を10分としたものを実験例10とし、処理時間を1分としたものを実験例11とした。結果を表1に示す。処理時間が240分である前記実験例5の結果と、処理時間が120分である実験例4の結果は、処理時間が120分を越えて長くなるに従って前処理効果が低下する傾向にあることを示している。
また、処理時間が60分とした実験例3と、処理時間を10分とした実験例10と、処理時間を1分とした実験例11の各結果は、処理時間が60分よりも短くなるに従って前処理効果は低下する傾向にあることを示している。
【0038】
【表1】

【0039】
上記各実験結果は、木質植物の樹皮をバイオマスとして糖化反応を行う場合、樹皮を一定の加熱温度と処理時間により、加圧条件下で二酸化炭素溶解水中に浸漬処理するという前処理を施すことが、樹皮の酵素糖化反応を効率的に行うことを可能ならしめるための有効な手段であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、そのほとんどが植林地もしくは製材工場やチップ工場で剥離された後は、植林地の肥料として土壌に還元されるか又は燃料として消費されるだけで、高付加価値製品の製造原料として利用されていないのが現状である、樹木の地上部総質量の約10〜20%を占める樹皮を効率的に糖化することができる方法が提供されるので、近年、トウモロコシやサトウキビなどがバイオエタノール原料として流用されることによる問題が指摘されている中で、食料とは競合しない未利用バイオマスを原料としたバイオエタノール生産を可能とする技術としても期待されるものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
木本植物の樹皮を切断し、加熱・加圧条件下において二酸化炭素溶解水に浸漬する前処理をし、次いで、該前処理後の樹皮を酵素により糖化することを特徴とする、木本植物の樹皮の糖化方法。
【請求項2】
前記前処理が、前記樹皮を100〜200℃の温度で、60分〜120分間、二酸化炭素溶解水に浸漬する処理であることを特徴とする、請求項1記載の木本植物の樹皮の糖化方法。
【請求項3】
木本植物がユーカリ(Eucalyptus)属の樹木であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の木本植物の樹皮の糖化方法。
【請求項4】
ユーカリ属の樹種が、グランディス(grandis)種、グロブラス(globulus)種、ナイテンス(nitens)種、カマルドレンシス(camaldulensis)種、デグラプタ(deglupta)種、ビミナリス(viminalis)種、ユーロフィラ(urophylla)種、ダニアイ(dunnii)種及びこれらの交雑種に属することを特徴とする、請求項3に記載の木本植物の樹皮の糖化方法。

【公開番号】特開2010−88319(P2010−88319A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259561(P2008−259561)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果にかかる特許出願(平成20年度独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 委託研究 新エネルギー技術研究 開発/バイオマスエネルギー等高効率転換技術開発(先導技術開発)/未利用木質バイオマス(樹皮)の高効率糖化先導技術開発 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】