説明

木材の加工方法および圧縮木製品

【課題】加工対象の木材に対して少ない工数で容易にかつ経済的に導電層を設けることができ、成形が容易な木材の加工方法および圧縮木製品を提供する。
【解決手段】複数の木材の各々を個別に圧縮する圧縮工程と、前記圧縮工程で個別に圧縮された複数の木材を所定の順序で重ねて固着する固着工程と、を有し、前記圧縮工程は、前記複数の木材に含まれる所定の木材の表面の少なくとも一部に鉄を含む導電層を形成する木材の加工方法を行うことにより、複数の木材が所定の3次元形状に加工されて成る圧縮木製品を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の木材を圧縮することによって所定の3次元形状に加工する木材の加工方法および複数の木材が圧縮成形されて成る圧縮木製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自然素材である木材が注目されている。木材はさまざまな木目を有するため、原木から形取る箇所に応じて個体差が生じ、その個体差が製品ごとの個性となる。また、長期の使用によって生じる傷や色合いの変化自体も、独特の風合いとなって使用者に親しみを生じさせることがある。これらの理由により、合成樹脂や軽金属を用いた製品にはない、個性的で味わい深い製品を生み出すことのできる素材として木材が注目されており、その加工技術も飛躍的に進歩しつつある。
【0003】
従来、かかる木材の加工技術として、吸水軟化した1枚の木材を圧縮し、その木材を圧縮方向と略平行に切断して板状の一次固定品を得た後、この一次固定品を加熱吸水させながら所定の3次元形状に成形する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。また、軟化処理した状態で圧縮した一枚の木材を仮固定し、この木材を型に入れて回復させることによって型成形する技術も知られている(例えば、特許文献2を参照)。これらの技術では、木材の個体差や種類、加工後の木材の強度やその用途などを含むさまざまな点を考慮して、木材の肉厚や圧縮率が決められる。
【0004】
【特許文献1】特許第3078452号公報
【特許文献2】特開平11−77619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、圧縮木材を用いて電子機器用の外装材を形成する場合、電子機器外部から伝搬してくる電磁波を電気的に遮蔽して内部の配線を保護する導電層を形成する必要がある。かかる導電層は、真鍮等の導電性部材による薄板を圧縮後の木材表面に配設することによって形成されることが多いが、別部材である導電性部材を圧縮木材に対して配設するには、導電性部材を形成する工程と、その導電性部材を圧縮木材に取り付ける工程とが必要であり、手間を要する上、材料費のコストがかかるため、必ずしも経済的ではなかった。
【0006】
また、木材の強度を重視した加工を行う場合には、加工後の木材の肉厚をある程度厚くせざるを得ないが、上述した従来技術のように1枚の木材を圧縮加工する場合には、その木材の肉厚を厚くすることによって成形の困難度が増加してしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、加工対象の木材に対して少ない工数で容易にかつ経済的に導電層を設けることができ、成形が容易な木材の加工方法および圧縮木製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1記載の発明は、複数の木材を用いて所定の3次元形状を形成する木材の加工方法であって、前記複数の木材の各々を個別に圧縮する圧縮工程と、前記圧縮工程で個別に圧縮された複数の木材を所定の順序で重ねて固着する固着工程と、を有し、前記圧縮工程は、前記複数の木材に含まれる所定の木材の表面の少なくとも一部に鉄を含む導電層を形成することを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記固着工程は、前記圧縮工程で個別に圧縮された複数の木材を、前記導電層が隣接する木材の境界に位置するような順序で重ねて固着することを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記圧縮工程は、前記導電層を形成する木材を、当該木材を変形すべき形状に対応する一対の金型であって少なくともいずれか一方の金型が鉄を含む部分を有する一対の金型によって挟持して圧縮力を加えることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記一対の金型は、一方の金型が鉄を含む部分を有し、他方の金型がアルミニウムまたはステンレスを含む部分を有することを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項記載の発明において、前記固着工程は、前記圧縮工程で個別に圧縮された複数の木材を所定の順序で重ねて一括して圧縮することを特徴とする。
【0013】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明において、前記固着工程は、所定の順序で重ねられた前記複数の木材を変形すべき形状に対応する一対の金型によって前記複数の木材を挟持して圧縮力を加えることを特徴とする。
【0014】
請求項7記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項記載の発明において、前記固着工程は、前記圧縮工程で個別に圧縮された複数の木材を所定の順序で重ねて接着することを特徴とする。
【0015】
請求項8記載の発明は、請求項1〜7のいずれか一項記載の発明において、前記固着工程は、前記複数の木材のうち少なくとも2枚の木材の繊維方向が交差するように重ねることを特徴とする。
【0016】
請求項9記載の発明は、請求項1〜8のいずれか一項記載の発明において、前記複数の木材には、木目が異なる木材が含まれることを特徴とする。
【0017】
請求項10記載の発明は、請求項1〜9のいずれか一項記載の発明において、前記複数の木材は、互いに略同一な肉厚を有することを特徴とする。
【0018】
請求項11記載の発明は、請求項1〜10のいずれか一項記載の発明において、前記圧縮工程で圧縮する各木材の圧縮率が略同一であることを特徴とする。
【0019】
請求項12記載の発明は、請求項1〜11のいずれか一項記載の発明において、前記圧縮工程は、前記複数の木材の各々を変形すべき形状にそれぞれ対応する金型の対によって各木材を挟持して圧縮力を加えることを特徴とする。
【0020】
請求項13記載の発明は、個別に圧縮された複数の木材が重なり合って所定の3次元形状をなす圧縮木製品であって、前記複数の木材には、表面の少なくとも一部に鉄を含む導電層を有する木材が含まれることを特徴とする。
【0021】
請求項14記載の発明は、請求項13記載の発明において、前記複数の木材は、前記導電層が隣接する木材の境界に位置するように重なり合っていることを特徴とする。
【0022】
請求項15記載の発明は、請求項13または14記載の発明において、電子機器を外装する外装材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、複数の木材の各々を個別に圧縮し、個別に圧縮された複数の木材を所定の順序で重ねて固着し、前記圧縮を行う際、前記複数の木材に含まれる所定の木材の表面の少なくとも一部に鉄を含む導電層を形成することにより、加工対象の木材に対して少ない工数で容易にかつ経済的に導電層を設けることができ、成形が容易な木材の加工方法および圧縮木製品を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための最良の形態(以後、実施の形態と称する)を説明する。
【0025】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の構成を示す斜視図である。また、図2は、図1のA−A線断面図である。これらの図に示す圧縮木製品1は、略長方形状の表面をなす主板部1aと、この主板部1aの長手方向に沿うとともにその主板部1aに対して所定の角度をなして延出する二つの側板部1bと、主板部1aの短手方向に沿うとともにその主板部1aに対して所定の角度をなして延出する二つの側板部1cとを備え、略均一な肉厚(2rとする)を有する。
【0026】
圧縮木製品1は、圧縮成形された二つの木材である外部材11と内部材12とが重なり合って略椀状をなす。外部材11は、圧縮木製品1の長手方向に略平行な繊維方向L11を有する柾目材である。また、内部材12は圧縮木製品1の短手方向に略平行な繊維方向
12を有する柾目材である。したがって、外部材11の繊維方向L11と内部材12の繊維方向L12とは略直交している。外部材11の肉厚と内部材12の肉厚は同一で、ともにrである。
【0027】
外部材11の表面のうち内部材12との境界に面する内側面には、鉄を含む材質から成る導電層Cdが形成されている。なお、導電層Cdは、外部材11と内部材12との境界付近に設けられていればよく、内部材12の表面のうち外部材11との表面のうち境界に面する外側面に形成してもよい。また、外部材11の内側面および内部材12の外側面の両方に導電層Cdを形成してもよい。
【0028】
次に、本発明の実施の形態1に係る木材の加工方法を説明する。以後の説明では、上述した構成を有する圧縮木製品1を形成する場合について説明するが、本実施の形態1に係る木材の加工方法は、他の形状を有する圧縮木製品に対しても適用可能である。
【0029】
まず、外部材11や内部材12の原材料となる木材を原木から形取る。図3は、外部材11および内部材12の原材料となる木材を原木である無圧縮状態の無垢材50から形取る状況を模式的に示す説明図である。外部材11の原材料となる木材51は平板状をなし、その木材51の長手方向が無垢材50の繊維方向Lに略平行となるように無垢材50から形取られる。このように形取られた木材51は、図4に示すように、肉厚がR(>r)であって表面の木目Gが略平行に走る柾目材である。
【0030】
これに対し、内部材12の原材料となる木材52も平板状をなし、その木材52の短手方向が無垢材50の繊維方向Lに略平行となるように無垢材50から形取られる。このように形取られた木材52は、図5に示すように、肉厚がRであって表面の木目Gが略平行に走る柾目材であるが、その長手方向の長さは木材51の長手方向の長さよりも短い。
【0031】
木材51および52を上記の如く無垢材50から形取る際には、後述する圧縮工程によって減少する分の容積を予め加えた容積で形取りを行う。なお、無垢材50としては、檜、檜葉、桐、杉、松、桜、欅、黒檀、竹、チーク、マホガニー、ローズウッドなどを用いることができる。
【0032】
次に、木材51を圧縮する(圧縮工程)。図6は、木材51の圧縮工程の概要を示す説明図であり、図7は図6のB−B線断面図である。まず、木材51に圧縮力を加える金型の構成を説明する。圧縮時に木材51の上方から圧縮力を加える金型61は鉄を含む材質によって実現され、下方に突出する凸部62を有する。また、圧縮時に木材51の下方から圧縮力を加える金型71はアルミニウムまたはステンレスを含む材質によって実現され、下方に窪んだ凹部72を有する。
【0033】
圧縮工程を行うに際して、まず木材51を高温高圧の水蒸気雰囲気中に所定時間放置する。ここでいう高温高圧とは、温度が100〜230℃、より好ましくは180〜230℃程度であり、圧力が0.1〜3MPa(メガパスカル)、より好ましくは0.45〜2.5MPa程度の状態を指す。
【0034】
この後、上述した水蒸気雰囲気中で水分を過剰に吸収することによって軟化した木材51を、同じ水蒸気雰囲気中で圧縮する。具体的には、まず二つの金型61および71のうち少なくともいずれか一方の金型を他方の金型に近づけるようにして木材51を挟持し、圧縮力を加える。図8は、この圧縮状態を示す図であり、より具体的には、圧縮状態のうち木材51の変形がほぼ完了した状態を示す縦断面図(図7と同じ切断面を有する)である。この図8に示すように、木材51を一対の金型61および71を用いて圧縮することにより、木材51は金型61と金型71の隙間の三次元形状に相当する略椀状に変形する。
【0035】
図8に示す状態で所定時間放置した後、金型61と金型71を離間させて圧縮を解除し、水蒸気雰囲気を解いて木材51を乾燥させる。木材51の材質によっては、二つの金型を離間すると元の形状に戻ってしまう場合もある。この場合には、金型61および71によって木材51を挟持した状態で圧縮を解除して乾燥させればよい。なお、木材51の乾燥時間が木材51の形状や種類に応じて変化することは勿論である。
【0036】
圧縮工程終了後の木材51の肉厚をr1(<R)とすると、このr1の値は場所によらずほぼ均一となる。したがって、圧縮工程における木材51の圧縮率C1は(R−r1)/Rで与えられる。圧縮率C1の具体的な数値は、0.3〜0.6程度である。
【0037】
以上説明した圧縮工程においては、木材51の肉厚が薄くなることに加えて、金型61および71に含まれる鉄やアルミニウム等の金属が高温高圧の水蒸気雰囲気中でイオン化し、このイオン化した金属成分が木材51の表面に染み込んで付着する。
【0038】
ここで、木材51の一方の表面に鉄が付着する場合について説明する。高温高圧の水蒸気雰囲気中に所定時間放置された木材51は十分な水分を含んで軟化しており、その木材51内部のタンニンが溶解した状態にある。また、この状態における木材51中の含有水分は、空気中の酸素によって鉄を溶解するのに十分な酸性を有している。このため、木材51と凸部62の表面同士が接触すると、鉄イオンがタンニンとの間で反応を起こしてタンニン鉄化合物という金属錯体が形成され、木材51の表面に付着して薄い層をなす。この層は鉄を錯イオンとして含有するため、導電性を有する。したがって、図9の断面図に示すように、圧縮工程によって木材51から形成された外部材11の内側面には、鉄を含む物質から成る導電層Cdが形成される。
【0039】
これに対して、金型71がアルミニウムを含む材質から成る場合、金型71の表面にはアルミニウムイオンと空気中の酸素とが結びついた酸化アルミニウムの層が形成されるが、酸化アルミニウムは導電性を有しないため、前述した金型61に含まれる鉄の場合と同様にして木材51に付着、転移しても、木材51の表面に導電層が形成されることはない。
【0040】
以上説明したように、高温高圧の水蒸気雰囲気中において、鉄を含む材質から成る金型61と鉄以外の材質から成る金型71とを用いて木材51を挟持して圧縮力を加えることにより、金型61と接触した木材51の表面付近に鉄が付着し、その木材51の表面に導電性を有する導電層Cdが形成される。
【0041】
従来、木材等の絶縁部材に導電層を形成する場合には、例えば真鍮板等の導電性部材をその絶縁性部材の表面に配設する工程を別に行わなければならなかった。これに対して、本実施の形態1によれば、木材51に圧縮力を加える金型61に鉄を含ませることにより、木材51の表面への導電層Cdの形成を、圧縮工程の中で一括して行うことが可能となる。
【0042】
ここまで、木材51の圧縮工程を説明してきたが、木材52に対しても同様の圧縮工程を行う。木材52は、木材51を圧縮するときの金型61および71とは異なる金型であってともにアルミニウムまたはステンレスを含む一対の金型を用いることにより、圧縮された木材51よりも若干小さい外形形状を有するとともに、場所によらずほぼ均一な肉厚r2(<R)を有する略椀状に圧縮成形される。したがって、圧縮工程における木材52の圧縮率C2は(R−r2)/Rで与えられる。
【0043】
本実施の形態1では、圧縮工程後の木材51の肉厚r1と木材52の肉厚r2とが等しくなるように各金型が設計されており、圧縮工程における木材51の圧縮率C1と木材52の圧縮率C2とは等しい(C1=C2)。以下では、圧縮工程後の木材51を外部材11と称し、圧縮成形後の木材52を内部材12と称する。
【0044】
なお、木材51や52を挟持して圧縮力を加える際には、例えば上方から圧縮力を加える金型を上下動させることによって圧縮力の調整を行えばよい。かかる上下動は、電気的に駆動する駆動手段と、この駆動手段の駆動制御を行う制御手段とを具備することによって実現してもよいし、上下の金型をねじで連結し、このねじを手動または自動で締めることによって実現してもよい。
【0045】
以上説明した圧縮工程の後、外部材11の内側面と内部材12の外側面とが対向するように両部材を重ね合わせ、この重ね合わせた外部材11と内部材12とを固着する(固着工程)。図10は、この固着工程の概要を示す説明図であり、図11は図10のC−C線断面図である。本実施の形態1では、固着工程として、上記圧縮工程と同じ高温高圧の水蒸気雰囲気中に放置して軟化した外部材11および内部材12を、同じ水蒸気雰囲気中にある一対の金型81および91の間の所定位置に配置し、それら一対の金型によって外部材11および内部材12を一括して挟持し、圧縮力を加えることにより、両部材を固着する。
【0046】
ここで、金型81および91の構成を説明する。まず、上方から内部材12に圧縮力を加える金型81は、内部材12の内側面に嵌合する凸部82を有する。この凸部82において、内部材12の内側面で底面部と側面部の間で湾曲する湾曲部12abに当接する曲面の曲率半径RAは、その湾曲部12abの内側面の曲率半径RIよりも小さい。他方、下方から外部材11に圧縮力を加える金型91は、外部材11の外側面を嵌入する凹部92を有する。この凹部92において、外部材11の外側面で底面部と側面部の間で湾曲する湾曲部11abに当接する曲面の曲率半径RBは、その湾曲部11abの外側面の曲率半径ROよりも小さい。
【0047】
図12は、重なり合った外部材11および内部材12を、一対の金型81および91によって挟持して圧縮力を加えている状態を示す断面図であり、外部材11および内部材12の変形がほぼ完了した状態を示す縦断面図(図11と同じ切断面を有する)である。図12に示す状態で所定時間放置した後に圧縮を解き、固着した外部材11および内部材12を乾燥させる。なお、固着工程で圧縮を行う際には、外部材11と内部材12とが互いに接する面に適当な接着剤を予め塗布しておいてもよい。
【0048】
以上説明した固着工程の結果、外部材11と内部材12の肉厚はほぼ等しくrとなる(図2を参照)。外部材11および内部材12の肉厚の合計値2rは、圧縮前の無垢材から形取った状態における二つの木材51および52の肉厚の合計2Rの30〜50%程度である。
【0049】
図13は、上記の如く加工された圧縮木製品1を外装材として適用したデジタルカメラの構成を示す斜視図である。同図に示すデジタルカメラ100は、撮像レンズを含む撮像部4、フラッシュ5、およびシャッターボタン6を備え、圧縮木製品1からそれぞれ形成される二つのカバー部材2および3によって外装されて成る。このデジタルカメラ100の内部には、撮像処理等に関する駆動制御を行う制御回路、CCDやCMOS等の固体撮像素子、および音声の入出力を行うマイクロフォンやスピーカを含み、デジタルカメラ100の機能を実現する各種電子的部材および光学的部材が収納される(図示せず)。
【0050】
図14は、カバー部材2および3の概略構成を示す斜視図である。このうち、デジタルカメラ100の前面側を外装するカバー部材2の主板部2aには、撮像部4を表出する円筒形状の開口部41およびフラッシュ5を表出する直方体形状の開口部42が形成されている。また、このカバー部材2の側板部2bには、半円筒形状の切り欠き441が設けられている。
【0051】
他方、デジタルカメラ100の背面側を外装するカバー部材3の主板部3aには、画像情報や文字情報を表示するために液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、または有機ELディスプレイ等を用いて実現される表示部(図示せず)を表出する直方体形状の開口部43が形成されている。このカバー部材3の側板部3bには、カバー部材2の切り欠き441と組み合わさってシャッターボタン6を表出するための開口部44を形成する半円筒形状の切り欠き442が設けられている。
【0052】
上述した開口部や切り欠き以外にも、ファインダ取付用の開口部や、操作指示信号の入力を受け付ける入力キー表出用の開口部を設けてもよいし、外部機器との接続用インタフェース(DC入力端子やUSB接続端子等を含む)を表出する開口部を設けてもよい。さらに、デジタルカメラ100内部のスピーカが発生する音声を出力する音声出力用孔部を設けてもよい。
【0053】
各種電子部材を格納してデジタルカメラ100を組み立てる際には、カバー部材2とカバー部材3の対向する側板部端面に適当な接着剤を塗布して互いに接合する。この後、二つのカバー部材の接合部分の外周を弾性部材等から成る封止部材を用いて封止してもよい。また、接合部分となる二つのカバー部材の側板部端部のうちいずれか一方のカバー部材の側板部端部に溝部を穿設し、他方のカバー部材の側板部端部にはその溝部に嵌合可能な突起部を形成しておき、接合時に両者を嵌合するようにしてもよい。
【0054】
元来、木材は絶縁体であるが、カバー部材2の外部材21と内部材22との境界付近、およびカバー部材3の外部材31と内部材32との境界付近には、上述した圧縮工程によって導電層Cdがそれぞれ形成されている。したがって、この実施の形態1に係る圧縮木製品をデジタルカメラ100の外装材として適用すれば、導電層Cdによって外部から伝搬してくる電磁波を遮蔽することができる。かかる導電層Cdは、上述したように木材を圧縮する際に金型に含まれる鉄が木材表面に付着することによって形成されたものなので、金属等の導電性部材を別に用意する必要がない。したがって、デジタルカメラ100を低コストで小型軽量化する上で好適である。
【0055】
また、この実施の形態1に係る圧縮木製品をデジタルカメラ100の外装材として適用した場合、導電層Cdが外部にも内部にも露出しないため、木材としての外観が維持されるとともに、外装材の内部に配設された基板との短絡の恐れを回避することができる。
【0056】
なお、この実施の形態1に係る圧縮木製品は、デジタルカメラ以外の携帯用電子機器、例えば、携帯電話、PHSまたはPDA等の携帯型通信端末、携帯型オーディオ装置、ICレコーダ、携帯型テレビ、携帯型ラジオ、各種家電製品のリモコン、デジタルビデオなどの外装材としても適用可能である。このように本実施の形態1に係る圧縮木製品を電子機器の外装材として適用する場合には、その肉厚が1.6mm程度となるようにすればより好ましい。
【0057】
以上説明した本発明の実施の形態1によれば、2枚の木材の各々を個別に圧縮する際、そのうちの一方の木材に含まれる所定の木材の表面の少なくとも一部に鉄を含む導電層を形成し、個別に圧縮された2枚の木材を所定の順序で重ねて再度圧縮して固着することにより、加工対象の木材に対して少ない工数で容易にかつ経済的に導電層を設けることができ、成形が容易な木材の加工方法および圧縮木製品を提供することが可能となる。
【0058】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係る木材の加工方法は、上記実施の形態1に係る木材の加工方法と同様に圧縮工程を行って外部材(内側面に導電層を有する)および内部材を形成した後、固着工程として外部材と内部材とを重ね合わせ、所定の接着剤を用いてその両部材を接着することによって圧縮木製品を形成することを特徴とする。
【0059】
図15は、この実施の形態2に係る木材の加工方法における固着工程の概要を示す図である。同図に示すように、圧縮工程によって形成された外部材13と内部材14とを重ね合わせ、所定の接着剤を両部材の接着面に適量だけ塗布し、その両部材を接着する。この結果、図1に示す圧縮木製品1が完成する。
【0060】
上述した固着工程において、外部材13の内側面と内部材14の外側面とは同形状をなすため、両部材の接着を行うに際して位置決めは不要であるが、接着圧力が適正な値となるように制御するには、何らかの治具を用いて接着を行った方がより好ましい。そのような治具として、外部材13の圧縮工程に用いる金型(図10等の金型91に相当する金型)と内部材14の圧縮工程に用いる金型(図10等の金型81に相当する金型)とを組み合わせて用いることができる。この場合には、外部材13と内部材14を重ね合わせたものを、前述した二つの金型によって挟持した状態で接着に必要な力を加えればよい。
【0061】
ところで、本実施の形態2においては、上記実施の形態1とは異なり、圧縮工程によって最終的な肉厚まで圧縮しなければならない。したがって、例えば肉厚Rの木材51および52をそれぞれ圧縮することによってともに肉厚rの外部材13および14を形成する場合、圧縮率C=(R−r)/Rの具体的な値は0.5〜0.7程度となる。
【0062】
以上説明した本発明の実施の形態2によれば、2枚の木材の各々を個別に圧縮する際、そのうちの一方の木材に含まれる所定の木材の表面の少なくとも一部に鉄を含む導電層を形成し、個別に圧縮された2枚の木材を所定の順序で重ねて接着することにより、加工対象の木材に対して少ない工数で容易にかつ経済的に導電層を設けることができ、成形が容易な木材の加工方法および圧縮木製品を提供することが可能となる。
【0063】
また、本実施の形態2によれば、固着工程において外部材と内部材とを接着するだけなので、一段と迅速かつ容易に木材の加工を行うことが可能となる。
【0064】
(その他の実施の形態)
ここまで、本発明を実施するための最良の形態として、実施の形態1および2を詳述してきたが、本発明はそれらの実施の形態によってのみ限定されるべきものではない。例えば、木材の一つの表面全体を導電層とする代わりに、グラウンドラインとして適用可能な比較的大面積の導通パターンをなす導電層を木材の表面に形成してもよい。この場合には、導電層から成るグラウンドラインと電子機器内部に配設される基板とを電気的に接続するための貫通孔部を内部材に形成すればよい。
【0065】
また、3枚以上の木材を用いて隣接する木材間に導電層を形成することも可能である。この場合、導電層を形成可能な境界が複数あるので、そのうちのいずれかの境界に電磁波遮蔽用の導電層を形成し、別のいずれかの境界にグラウンドライン用の導通パターンをなす導電層を形成してもよい。
【0066】
さらに、導電層を内部材の内側面および/または外部材の外側面に形成してもよい。この場合にも、その全面に導電層を形成すれば、電磁波を遮蔽する効果が得られる一方で、比較的大面積の導電パターンを形成すれば、その導電パターンをグラウンドライン用の導通パターンとして適用することができる。
【0067】
また、複数の木材を重ね合わせて固着する際には、少なくとも各木材の繊維方向が交差するように木材の形取りを行えばよい。この意味では、原木から形取る木材は柾目材に限られるわけではなく、圧縮木製品の用途や美観等の条件に応じて板目材、追柾材、または木口材などでもよい。また、木材ごとに異なる木目を有するように形取り、それらを適当に組み合わせてもよい。
【0068】
なお、木材を原木から形取る際には、平板状ではない3次元形状をなすように形取りを行ってもよい。この場合、木材を形取る段階で、必要な開口部や切り欠きを一緒に形成してもよいし、木材を形取った後でそれらの開口部や切り欠きを切削や穿孔等によって形成してもよい。
【0069】
以上の説明からも明らかなように、本発明は、ここでは記載していないさまざまな実施の形態等を含みうるものであり、特許請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施の形態1に係る木材の加工方法によって形成された圧縮木製品の構成を示す斜視図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】木材を無垢材から形取る状況を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の外部材となる木材の構成を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の内部材となる木材の構成を示す斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係る木材の加工方法における圧縮工程の概要を示す説明図である。
【図7】図6のB−B線断面図である。
【図8】圧縮工程において木材を圧縮している状態(変形がほぼ完了した状態)を示す縦断面図である。
【図9】圧縮工程後の外部材の構成を示す断面図である。
【図10】本発明の実施の形態1に係る木材の加工方法における固着工程の概要を示す説明図である。
【図11】図10のC−C線断面図である。
【図12】固着工程において、外部材と内部材を圧縮している状態(変形がほぼ完了した状態)を示す縦断面図である。
【図13】図1の圧縮木製品を電子機器用外装材として適用したデジタルカメラの外観構成を示す斜視図である。
【図14】デジタルカメラの外装材の構成を示す斜視図である。
【図15】本発明の実施の形態2に係る木材の加工方法における固着工程の概要を示す説明図である。
【符号の説明】
【0071】
1 圧縮木製品
2、3 カバー部材
1a、2a、3a 主板部
1b、1c、2b、2c、3b、3c 側板部
4 撮像部
5 フラッシュ
6 シャッターボタン
11、13、21、31 外部材
12、14、22、32 内部材
11ab、12ab 湾曲部
41、42、43、44 開口部
50 無垢材
51、52 木材
61、71、81、91 金型
62、82 凸部
72、92 凹部
100 デジタルカメラ
Cd 導電層
G 木目

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の木材を用いて所定の3次元形状を形成する木材の加工方法であって、
前記複数の木材の各々を個別に圧縮する圧縮工程と、
前記圧縮工程で個別に圧縮された複数の木材を所定の順序で重ねて固着する固着工程と、
を有し、
前記圧縮工程は、
前記複数の木材に含まれる所定の木材の表面の少なくとも一部に鉄を含む導電層を形成することを特徴とする木材の加工方法。
【請求項2】
前記固着工程は、
前記圧縮工程で個別に圧縮された複数の木材を、前記導電層が隣接する木材の境界に位置するような順序で重ねて固着することを特徴とする請求項1記載の木材の加工方法。
【請求項3】
前記圧縮工程は、
前記導電層を形成する木材を、当該木材を変形すべき形状に対応する一対の金型であって少なくともいずれか一方の金型が鉄を含む部分を有する一対の金型によって挟持して圧縮力を加えることを特徴とする請求項1または2記載の木材の加工方法。
【請求項4】
前記一対の金型は、
一方の金型が鉄を含む部分を有し、他方の金型がアルミニウムまたはステンレスを含む部分を有することを特徴とする請求項3記載の木材の加工方法。
【請求項5】
前記固着工程は、
前記圧縮工程で個別に圧縮された複数の木材を所定の順序で重ねて一括して圧縮することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の木材の加工方法。
【請求項6】
前記固着工程は、
所定の順序で重ねられた前記複数の木材を変形すべき形状に対応する一対の金型によって前記複数の木材を挟持して圧縮力を加えることを特徴とする請求項5記載の木材の加工方法。
【請求項7】
前記固着工程は、
前記圧縮工程で個別に圧縮された複数の木材を所定の順序で重ねて接着することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の木材の加工方法。
【請求項8】
前記固着工程は、
前記複数の木材のうち少なくとも2枚の木材の繊維方向が交差するように重ねることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項記載の木材の加工方法。
【請求項9】
前記複数の木材には、木目が異なる木材が含まれることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項記載の木材の加工方法。
【請求項10】
前記複数の木材は、互いに略同一な肉厚を有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項記載の木材の加工方法。
【請求項11】
前記圧縮工程で圧縮する各木材の圧縮率が略同一であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項記載の木材の加工方法。
【請求項12】
前記圧縮工程は、
前記複数の木材の各々を変形すべき形状にそれぞれ対応する金型の対によって各木材を挟持して圧縮力を加えることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項記載の木材の加工方法。
【請求項13】
個別に圧縮された複数の木材が重なり合って所定の3次元形状をなす圧縮木製品であって、
前記複数の木材には、表面の少なくとも一部に鉄を含む導電層を有する木材が含まれることを特徴とする圧縮木製品。
【請求項14】
前記複数の木材は、前記導電層が隣接する木材の境界に位置するように重なり合っていることを特徴とする請求項13記載の圧縮木製品。
【請求項15】
電子機器を外装する外装材であることを特徴とする請求項13または14記載の圧縮木製品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2006−321202(P2006−321202A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−148672(P2005−148672)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】