説明

木材の穿孔方法

【課題】木材へ多数の深い細孔を穿設する場合に、直径の小さなドリルが欠損し難く、効率良く穿孔できる木材の穿孔方法を提供する。
【解決手段】木材内部の透過性を向上させるために、ドリルを用いて木材に多数の細孔を穿設する木材の穿孔方法であって、ドリルの直径を1.0〜2.5mmとし、ドリルの突出長さHを、穿孔深さhとドリル直径dとに対してah(4√d)・・・(1)
の関係式によって定め、式(1)における係数aを1.20以上とすることを特徴とする。複数ある各ドリル21は個々独立して昇降可能であり、木材1に抜け節3があることが抜け節検知手段28によって検知されると、該検知信号に基づいて、NC制御手段が抜け節3に対応するドリル21のみを下降させないように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材内部の透過性を改善し、防腐剤や合成樹脂などの処理剤も木材内部にまで良好に含浸させること目的として、木材に多数の細孔を深く穿設する、木材の穿孔方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材に対して透過性の向上を図ることは、木材内部の水分や気体を速やかに排出させるために重要である。また、耐候性、耐水性、防腐性、防虫性、耐光性などの耐久性や、寸法安定性、機械的強度、難燃性、意匠性など、種々の性能の向上を目的として、防腐剤、防蟻剤、樹脂、染料など、種々の処理剤を木材内部にまで良好に含浸させるためにも重要である。そのための加工手段として、例えば特許文献1のように、木材の表面に刃を圧入して液体などを浸透しやすくするインサイジング加工が一般的である。しかし、刃を圧入するだけのインサイジング加工では、表層からの圧入深さに限界があり、木材中心部の透過性を改善するには課題を残している。
【0003】
そこで、木材の中心部も含めて木材の断面全体の透過性を的確に向上させる手段として、多数の深い細孔を穿設することが有効である。木材へ深い細孔を穿設する手段として、例えばレーザやウォータジェットを用いた方法が考えられる。しかし、レーザを用いた場合は、穿孔深さの制御が困難であり、また、表層側と最深部では孔の径が異なったり、孔の周囲が焦げるなどの課題がある。ウォータジェットを用いた場合も穿孔深さの制御が困難であり、加工速度も遅く木材が濡れるなどの問題がある。したがって、木材へ深い細孔を穿設するには、木材加工方法として一般的に使用されているドリルを使用することが好適である。
【0004】
処理剤含浸用に木材全体に多数の細孔を穿設するためではないが、ドリルによって木材に孔を穿設する技術としては、例えば特許文献2や特許文献3がある。特許文献2では、長尺の木材を乾燥する際の割れを防止するため、木材の木口面に長手方向の貫通孔を穿設するにあたって、穿設加工時のドリルの振れを防止してドリルの直進性に優れる穿設方法を提案している。そのための手段として、ドリルユニット構造を機械的に改良しており、ドリル本体ガイド部をガイドシャフトにより進退自在に案内することで、摺動動作を安定させて、ドリル本体ガイド部の直進性を確保している。なお、ドリルの取り扱い性及び可能穿孔長さとの関係から、ドリル軸の長さを1200mm〜2500mmが好ましいとしている。また、ドリルの剛性等の観点から、ドリルの外径は15mm〜20mmが好ましいとしている。特許文献3は、木材同士を連結するための金具用の孔を明ける穿孔加工装置であって、木材を載置固定する基台と、木材の側面に横穴を空ける横穴加工ユニットを備え、横穴加工ユニットは、木材の長手方向に沿って移動可能なスライドベースにガイド部材を立設し、ガイド部材に案内して横穴加工ドリルを木材の側面に対して進退自在に設けてあり、木材同士を連結するための金具の穴位置に対応した係合部を有する着脱可能な位置決めバーを、基台上に木材と平行に固定して備え、スライドベースと共に移動する位置決めピンを位置決めバーの係合部に係合させることで、横穴加工ユニットが自動的に位置決めされるよう構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−213031号公報
【特許文献2】特開2005−103715号公報
【特許文献3】特開2003−117905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、木材表面に刃を圧入する特許文献1では、表層からの圧入深さに限界がある。これに対し特許文献2や特許文献3では、ドリルを使用していることで深い孔を穿設できる。しかし、特許文献2や特許文献3は、処理剤を含浸する場合も考慮して穿孔しているわけではないので、孔の直径が大きい。木材に同じ面積で断面欠損を生じさせるならば(全孔の合計面積が同じであれば)、太い(直径の大きい)孔よりも細い(直径の小さい)細孔の方が好ましい。各孔の直径が小さければ、穿孔数を増やすことができ、木材の全体に多数の細孔を穿設することで、強度面や均質処理の面において有利である。一方、多数の太孔を穿設すると、木材強度が著しく低下すると共に、外観(意匠性)も悪化する。
【0007】
また、ドリルによって木材に細孔を穿設する場合の課題の一つとして、ドリルの欠損、すなわちドリルの耐久性がある。特にスギ材やカラマツ材のように早材・晩材部の密度差の大きい素材を、小径なドリルによって穿孔加工する場合、図8に示すように、年輪の影響によって穿設位置によってはドリル100が変形し、曲げ疲労の蓄積によってドリルが欠損し易くなる。ドリルの欠損を防ぐには、剛性を高めるか、撓り易くすることが考えられる。ここで、特許文献2では、処理剤含浸用としては太いドリルを使用しているため、ドリルの欠損を防ぐために剛性に着目しており、ドリル直径とドリルの突出量等との関係については特に考慮していない。ドリルの直径を大きくすれば剛性は高まるが、反面、これによる孔の直径も大きくなるので、上記の問題が生じてしまう。
【0008】
そこで本発明者らは、深い細孔を穿設する場合のドリル欠損を防ぐための手段としてドリルの撓りに着目し、鋭意検討の結果、ドリルの突出量、ドリル直径、及び穿設深さとの関係が重要となることを知見し、本発明を完成するに至った。具体的には、ドリルの曲げ疲労によって生じる欠損は、ドリルの突出長さを規定することにより、概ね全ての樹種において耐久性を向上させることができる。また、ドリルの直径によって撓りに対するねばりが異なり、基本的には細いドリルほど耐久性が向上する傾向がある。したがって、ドリルの突出長さは、穿孔深さとドリル直径によって規定できる。
【0009】
また、ドリルが変形する要因として、抜け節の問題もある。製材105には、図9に示すように、原木の生枝から生じた生節107の他に、死節が抜け落ちて生じた抜け節106が存在している事がある。死節は、枝が何らかの理由で枯れてしまい、木の成長に伴いそのまま幹の中に包まれた枝の痕跡であるが、周りの細胞とは独立しているので、木口面に死節が存在していると抜け落ち易い。そして、死節が抜け落ちて生じた抜け節106は、木口面に対して傾斜していたり、内周面が平滑ではないことが多い。そのため、抜け節106部分に細孔を穿設しようとすると、ドリルが変形して欠損する可能性が高くなる。したがって、木材全体に多数の細孔を穿設する場合でも、抜け節部分への穿孔は避けることが望ましい。
【0010】
本発明は、木材へ多数の深い細孔を穿設する場合に、直径の小さなドリルが欠損し難く、効率良く穿孔できる木材の穿孔方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、木材内部の透過性を向上させるために、ドリルを用いて木材に多数の細孔を穿設する木材の穿孔方法であって、前記ドリルの直径を1.0〜2.5mmとし、前記ドリルの上端部を嵌合保持する保持部からのドリルの突出長さを、穿孔深さhとドリル直径dとに対して
ah(4√d)・・・(1)
の関係式によって定め、前記式(1)における係数aを1.20以上とすることを特徴とする。
【0012】
本発明においては、ドリルが変形しても折れ難い「撓り易さ」に注目している。荷重に対する変形(撓り)を定量する曲げヤング係数Eは、高いほど剛性が高く、低いほど大きく撓り易いといえる。荷重を△P、荷重を支える支点間距離をL、断面2次モーメントをI、変形量を△yとすると、曲げヤング係数Eは、
E=(△P・L3)/(48・I・△y)
で定義される。したがって、荷重△Pにおける変形量△yは、
△y=(△P・L3)/(48・I・E)
となる。加工対象が同じであれば、曲げヤング係数E及び支点間距離Lは一定である。したがって、同じ木材を加工する場合に、変形量△yを大きくするには、断面2次モーメントIを小さくする必要がある。荷重△Pを大きくしても変形量△yは大きくなるが、荷重が大きくなればドリルへの負荷も増大するので、ドリルが欠損する可能性が高くなる。ここで、円断面の断面2次モーメントIは、直径をdとすると、
I=πd4/64
で定義される。つまり、断面2次モーメントIは直径dの4乗で値に影響するので、直径dの4乗根が、ドリルの突出長さを定めるパラメータの1つになる。また、撓り量は穿孔深さhに比例するため、ドリルの突出長さを定める基本関係式は、h(4√d)となる。これに所定の係数aを乗することで、穿孔深さhとドリル直径dとに対して、求められるドリルの突出長さが定まることになる。そして、種々のデータから、直系の小さいドリルを欠損し難くするには、前記式(1)における係数aを1.20以上とすることが必要であることが導き出された。
【0013】
なお、ドリルの突出長さが上記式(1)に基づいている限り、ドリル直径が1.0〜2.5mmの範囲でもドリルは欠損し難いが、さらに欠損の可能性を低くするのであれば、ドリル直径dを1.0〜1.6mmとすることが好ましい。
【0014】
前記ドリルと木材とを、相対移動手段によって互いに平面方向(XY方向)に相対移動可能としながら、前記ドリルを昇降手段によってZ方向に昇降可能とする。当該相対移動手段及び昇降手段が制御手段によって制御されることで、穿孔位置及び穿孔数、すなわち穿孔パターンが制御される。ドリルと木材とが平面方向に相対移動する場合としては、平面方向に不動のドリルに対して木材が相対移動する場合や、平面方向に不動の木材に対してドリルが相対移動する場合、又はドリルと木材の双方が平面方向に移動可能な場合とが挙げられる。そして、搬送手段によって搬送されてくる前記木材の加工面に、死節が抜け落ちて生じた抜け節があるか否かを、抜け節検知手段によって検知しておき、前記抜け節検知手段によって抜け節が検知されると、該検知信号に基づいて、前記制御手段が前記抜け節部分では前記ドリルを下降させないように制御することができる。
【0015】
前記ドリルは、前記木材の長手方向に沿って複数並設することが好ましい。この場合、各ドリルは、基本的には全てを同時に昇降させればよいが、個々独立して昇降可能とすることが好ましい。そのうえで、前記抜け節部分に対応するドリルのみは、他のドリルの動きに反して下降しないように制御することが好ましい。
【0016】
前記複数の各ドリルは、前記木材の長手方向と平行に配された取付アームの軸方向に並設された複数個のホルダーに設置できる。この場合、前記各ドリルを前記ホルダーへ設置する位置を適宜変更することで、並設される各ドリルの間隔及び設置個数を任意に設定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、木材に多数の細孔が穿設されるので、木材内部の透過性が向上する。これにより、木材内部の水分や気体を速やかに排出させることができる。また、木材に各種処理剤を含浸させる場合も、各細孔を介して良好かつ均等に浸透させることができる。各種の処理剤を含浸させれば、木材における耐久性や機械的強度など種々の性能を向上できる。そのうえで、ドリルによって細孔を穿設すれば、従来からのインサイジング加工に比べて穿孔深さを大きくでき、木材の中心部を含めて断面全体に亘って的確に透過性を向上できる。ドリルの直径、すなわち細孔直径を1.0〜2.5mmと小さくしていれば、木材の強度低下を避けながら、穿孔個数を増やして透過性を効率良く向上できる。さらに、ドリルの突出長さを、穿孔深さhとドリル直径dとに対して式(1)によって定め、当該式(1)における係数aを1.20以上とすればドリルが効果的に撓り易くなり、直径の小さなドリルで穿孔しても欠損し難くできる。すなわち、ドリルの耐久性が向上する。ドリルの直径を1.0〜1.6mmとしていれば、ドリルの耐久性がより向上する。
【0018】
相対移動手段及び昇降手段を制御手段によって制御すれば、制御手段に設定された所定のプログラムによって容易に穿孔パターンを設定できる。そのうえで、抜け節部分ではドリルを下降させないように制御すれば、当該抜け節部分に穿孔することはなく、ドリルの欠損を避けることができる。
【0019】
ドリルを木材の長手方向に沿って複数個並設しておけば、加工時間を短縮できる。各ドリルを個々独立して昇降可能とし、抜け節部分に対応するドリルのみを他のドリルの動きに反して下降しないように制御していれば、穿孔すべき部分において穿孔しながら、穿孔すべきでない抜け節部分のみにおいて穿孔しないので、加工効率を保ちながら、的確にドリルの欠損を避けることができる。
【0020】
前記各ドリルの前記ホルダーへの設置位置を変更することで、並設される各ドリルの間隔や設置個数を任意に設定できれば、制御装置に設定されたプログラミングのみよる穿孔パターンよりも、さらに穿孔パターンの自由度を上げることができる。木材は樹種や部位によってその透過性が異なるため、穿孔パターンの自由度拡大の実益は大きい。また、各ドリルの間隔を任意に設定できれば、制御装置による長さ方向への相対移動範囲を小さくでき、加工効率も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】加工装置の平面図である。
【図2】加工装置の正面図である。
【図3】ドリルの正面図である。
【図4】各ドリルの加工タイミングを示す側断面図である。
【図5】穿孔深さ、ドリル直径、ドリル突出長さの関係に基づくドリルの耐久性を示すグラフである。
【図6】ドリル直径に基づくドリルの耐久性を示すグラフである。
【図7】加工装置の変形例を示す正面図である。
【図8】年輪の影響によってドリルの変形状態を示す断面模式図である。
【図9】木材の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、適宜図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明するが、これに限られず本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。本発明では、木材内部の透過性を向上させるために、ドリルを用いて木材に多数の細孔を穿設している。各細孔は、木材内部の水分や気体を速やかに排出させるための通路となる。また、種々の処理剤を木材全体に均質に含浸させるための浸透孔ともなる。処理剤としては、防腐剤、防蟻剤、樹脂、難燃剤、染料、顔料などが挙げられる。防腐剤を含浸させれば防腐性が向上し、防蟻剤を含浸させれば防虫性(防蟻性)が向上し、難燃剤を含浸させれば難燃性が向上する。樹脂を含浸さる効果は大きく、耐候性、耐水性、耐光性などの耐久性や、機械的強度、難燃性のほか、必要に応じてプレス加工(圧密加工)した際の寸法安定性などが向上する。染料や顔料は木材を着色するものであり、意匠性が向上する。これら各種の処理剤は、1種のみを含浸させても良いし、2種以上を含浸させてもよい。処理剤は、水や有機溶媒に溶解させた溶液として、又は水等の溶媒に分散させた分散液の状態で木材に含浸させる。
【0023】
含浸させる樹脂としては、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、ユリア系樹脂、アミノ樹脂、グリオキザール樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリルウレタン系樹脂、及びレゾルシノール系樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。また、植物由来のリグリンを使用することもできる。中でも、良好な寸法安定性を得られるフェノール樹脂、アミノ樹脂、グリオキザール樹脂が好ましい。さらに、分子量150〜300程度の低分子水溶性フェノール樹脂が最も好ましい。低分子水溶性フェノール樹脂は浸透性が高いからである。防腐剤や防蟻剤としては、フェノール類・無機フッ化物系、アルキルアンモニウム化合物系、銅・アゾール化合物系等の有機系や、ポリデン塩、グリン塩等の無機定着型、硼砂等の硼素系、トリアゾール系、ピレスロイド系などが挙げられる。中でも、水溶性のあるフェノール類・無機フッ化物系、アルキルアンモニウム化合物系、銅・アゾール化合物系等の有機系、ポリデン塩、グリン塩等の無機定着型、硼砂等の硼素系が好ましい。
【0024】
加工対象である木材の形態は特に限定されず、集成材、LVL(単板積層材)、合板、無垢材など、穿孔加工が必要とされるものであればよい。形状としては、一定の長さを有する、角材や板材が好ましい。
【0025】
細孔は木材の平面方向に亘って全体的に穿設する。透過性や処理剤含浸量の偏在を避け、木材を全体的に均質化するためである。細孔の穿設方向は、木材の繊維方向と直交する厚み方向へ穿設することが好ましい。各細孔は、木材の厚み方向両端面に亘る貫通孔としてもよいし、非貫通孔としてもよい。各細孔を非貫通孔とする場合は、できるだけ深く穿設することが好ましい。ドリルによって穿孔する効果を最大限発揮でき、中心部を含めて木材の断面方向(厚み方向)全体の透過性を向上できるからである。具体的には、木材の厚みに対する細孔長さ(穿孔深さ)を、少なくとも50%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上とする。
【0026】
細孔の穿設個数は、強度が大幅に低下しない範囲で、できるだけ多い方が好ましい。そのために、各細孔の直径は透過性を阻害しない範囲で、できるだけ小さいことが好ましい。具体的には、各細孔の直径を1.0〜2.5mmとする。細孔直径が1.0mm未満では、良好な透過性が得られず、水分の排水性や処理剤の浸透性が悪化する。細孔直径が2.5mmを超えると、木材の強度が大きく低下してしまう。また、木材強度を考慮すると、穿孔数を多くできなくなる。細孔の穿設パターンは不規則でも構わないが、規則的に配列させることが好ましい。透過性等の偏りを避けて的確に均質化できるからである。
【0027】
次に、木材へ複数の細孔を穿設する穿孔加工装置について説明する。図1及び図2に示されるように、穿孔加工装置10は、基台11と、基台11上の加工テーブル12と、細孔5を穿設する複数のドリルユニット20と、各ドリルユニット20を固定する複数のホルダー13と、各ホルダー13が設置される取付アーム14と、取付アーム14を軸方向両端から所定高さ位置で支持する支持ベース15と、を有する。各ドリルユニット20のドリル21と加工対象である木材1とは、図示していない相対移動手段によって平面方向(XY方向)に相対移動可能となっている。各ドリル21の昇降タイミングや、木材1とドリル21との相対移動は、図示していない制御手段によって制御されている。
【0028】
本実施形態では、相対移動手段として、加工テーブル12を基台11上において平面方向(XY方向)へ自在に水平スライドする機構として構成されている。すなわち、平面方向へは移動することのないドリル21に対して、加工テーブル12上に載置された木材1が相対的にスライドすることで、所定のプログラムに基づく穿孔パターンで複数の細孔5が穿設される。したがって、取付アーム14は平面方向に対して不動である。加工テーブル12は、NC制御装置からの信号に基づき、サーボモータによってスライド制御される。
【0029】
制御手段としては、加工動作を絶対位置情報として数値情報で指令する数値制御(NC制御 Numerical Control)が採用されている。つまり、本穿孔加工装置10は、NC加工機となっている。制御手段には、所定の穿孔パターンに基づいて穿孔位置や穿孔数を制御するNCプログラムが設定入力されている。また、図示していないが、基台11内には、穿孔加工中に木材1を加工テーブル12上に不動状態で保持する保持手段として、エア吸引式のバキューム手段が配設されている。したがって、加工テーブル12は、平面方向の全体に亘って小径の貫通孔(図示せず)を有する。
【0030】
ドリルユニット20は、ドリル21を上下方向(Z方向)へ昇降させる昇降手段(図示せず)と、ドリル21を着脱自在に勘合保持する保持部22と、木材1に細孔を穿設するドリル21とを一体的に有する。昇降手段としては、エアシリンダ、油圧シリンダ、ギア機構などを採用できる。図3に示すように、ドリル21はその上端部が保持部22に嵌合保持され、保持部22の下端から所定の突出長さHを有する状態で保持されている。また、細孔を穿設するため、ドリル21の直径dは小さい。具体的には、ドリル21の直径dは1.0〜2.5mmとする。その理由は上記細孔直径の理由と同じであり、1.0mm未満では木材1の透過性の改良程度が悪く、2.5mmを超えると木材1の強度不足となる。なお、本発明では、後述のようにドリル21の突出長さHを的確に規定することでドリル21が欠損し難くされているので、必ずしも必要ではないが、ドリル21の欠損をより的確に避けたい場合は、ドリル21の直径dを1.0〜1.6mmとすることが好ましい。ドリル21の直径dが1.0mm未満では、ドリル21の欠損可能性も高くなる。ドリル21は着脱自在なので、適宜保持部22からドリル21を嵌脱させることでドリル21を交換可能であり、ドリル21の種類を交換することで直径dや突出長さhを調整できる。ドリル21が着脱不能の場合は、ドリルユニット20自体を交換すればよい。
【0031】
ドリル21の突出長さHは、穿孔深さhとドリル直径dとに対して
ah(4√d)・・・(1)
の関係式によって定める。このとき、式(1)における係数aは1.20以上とする。式(1)の関係を満たす限り、ドリル21の突出長さH、穿孔深さh、ドリル21の直径dは特に限定されない。各パラメータが式(1)の関係を満たす限り、ドリル21は欠損し難いからである。ドリル21の突出長さHを定める係数aが1.20未満であると、ドリルの耐久性が急激に低下し、欠損し易くなる。
【0032】
図1及び図2に戻って、取付アーム14は、加工テーブル12の上方において木材1の長手方向と平行に配されている。ドリルユニット20が設置されるホルダー13は、取付アーム14の軸方向に複数個並設されている。ドリルユニット20はホルダー13に対して着脱自在であり、全てのホルダー13にドリルユニット20を設置してもよいし、一部のホルダー13のみにドリルユニット20を設置しても良い。好ましくは、ホルダー13の全個数よりも少ない数のドリルユニット20を設置する。これにより、ドリルユニット20をホルダー13へ設置する位置を適宜変更することで、並設される各ドリル21の間隔を任意に設定できる。したがって、NCプログラムに加えて各ドリル21間の距離も手動で変更設定できるので、穿孔パターンの自由度が増し、且つNCプログラムによる加工テーブル12の相対移動距離を小さくすることもできる。また、各ホルダー13は、取付アーム14の軸方向(長手方向)両端に亘って設けられたガイドレール16に、それぞれ設けられている。そして、各ホルダー13の長手方向(X方向)の位置も、ガイドレール16に沿って可変となっており、各ホルダー13間の距離も手動で任意に設定できるようになっている。これにより、NCプログラムと、必要に応じた各ドリルユニット20の設置位置設定に加えて、各ホルダー13の位置設定によっても穿孔パターンの自由度が増す。
【0033】
また、穿孔加工装置10の左右側方には、木材1を順次搬送する搬送手段が設けられて入る。搬送手段としては、穿孔加工装置10へ未加工の木材1を搬送するローダ25と、複数の細孔5が穿設された木材1を穿孔加工装置10外へ搬送するアンローダ26とが設けられている。符号27は、木材1の搬送方向に沿って隣接配置された、軸回転自在な搬送ローラーである。また、穿孔加工装置10の木材搬送方向上流側、具体的にはローダ25の木材搬送方向下流端部上方には、木材1の加工面に抜け節3があるか否かを検知する、抜け節検知手段28が設けられている。抜け節検知手段28としては、木材1の色調や凹凸等によって抜け節3の存在を検知し得るものであれば特に限定されず、例えばイメージセンサを備える検知カメラ、レーザーを照射する光線センサ、色識別センサなどを使用できる。一方、穿孔加工装置10の木材搬送方向下流側、具体的にはアンローダ26の木材搬送方向上流端部上方には、細孔を穿設した際の穿孔屑を排除する穿孔屑排除手段として、吸引機29が設けられている。
【0034】
次に、木材1に複数の細孔を穿設する手順について説明する。木材1の寸法、樹種、求められる性能向上程度などに応じて、予めNC制御装置に穿設位置や穿設個数などの穿孔パターンを定めるNCプログラムを入力しておく。これに前後して、必要個数のドリルユニット20を、任意のドリル間隔となるようにホルダー13に設置する。このとき、予定穿孔深さhとドリル直径dとに対して、ドリル突出長さHを、上記式(1)の関係を満たすようにする。各種設定が完了したところで、ローダ25によって加工対象である木材1を穿孔加工装置10の加工テーブル12上へ搬送する。木材1は、バキューム手段によって加工テーブル12上へ固定される。そして、NC制御装置によって加工テーブル12の水平スライド方向(XY方向)及びスライド移動量が制御されて、木材1が各ドリル21に対して平面方向に相対移動ながら、各ドリル21のZ方向への昇降タイミングも制御されることで、所定の穿孔パターンで規則的に複数の細孔5が穿設されていく。このとき、各ドリル21は、基本的には全てが同時に昇降するが、個々独立して昇降可能であり、必要に応じて一部のドリル21のみが他のドリル21に反した動きで独立制御される。
【0035】
具体的には、木材1の加工面に抜け節3が存在していると、図1及び図4に示すごとく、当該抜け節3部分には穿孔しないように制御されている。穿孔加工装置10へ搬送されてくる木材1は、抜け節検知手段28によって抜け節3の存在がモニタリングされている。例えば抜け節検知手段28が検知カメラ式の場合、撮像管を介してイメージセンサで捕らえた画像、すなわち木材1の加工面を縦横(XY)走査の画素における所定の位置として、一定時間、例えば1/60秒毎に電気信号を発し、この信号がコントローラを介して情報処理装置に送信される。情報処理装置は、センサ画像から抜け節3の位置座標を計測し、その信号がNC制御装置に送信され、ドリル制御に反映される。このように、抜け節検知手段28によって抜け節3の存在及び位置座標が検知されると、当該検知信号に基づいて、NC制御手段は、抜け節3に対応する(抜け節3上に来た)ドリル21のみを、他のドリル21の動きに反して下降しないように独立制御する。これにより、ドリル21の欠損を避けることができる。なお、生節2には、他の部位同様に穿孔される。
【0036】
木材1に所定パターンで細孔5を穿設できたら、加工済みの木材1がアンローダ26によって穿孔加工装置10外へ搬送されていく。このとき、余計な穿孔屑は、吸引機29によって吸引除去される。同時に、新たな未加工の木材1が、ローダ25から搬送されてくる。あとは、上記作業が繰り返される。
【0037】
<ドリル耐久性試験>
まず、穿孔深さh及びドリル直径dに対するドリル突出長さHの相違によって、ドリルの耐久性に及ぼす影響と耐久性の程度を試験評価した。試験木材として厚み45mmのスギ板目気乾材を用い、直径1.0mm、1.3mm、1.6mm、1.9mm、2.2mmの各種ドリルを用いて、それぞれのドリルにおいて段階的に突出長さを変更しながら、穿孔深さ42mmで細孔を穿設した。加工条件は、ドリル回転数10,000rpm、送り速度0.4mm/revとした。ドリルの突出長さは、h(4√d)を基本として、係数aを異ならせた計算式によって求められる突出長さとした。その結果を図5に示す。
【0038】
図5の結果から、ドリルの突出長さを、上記式(1)における係数aを1.20以上とすることで、ドリル直径の大小に関わらずドリルの耐久性が高かった。係数aが1.20以上の範囲では、ドリルの耐久性はほぼ横ばいとなっており、係数aの上限は特に規定されないこともわかった。逆に、係数aが1.20を下回る突出長さでは、耐久性が急激に低下していた。
【0039】
次に、ドリルの直径と耐久性との関係について試験評価した。ここでの試験木材も、厚み45mmのスギ板目気乾材を用い、直径が異なる各種のドリルを用いて、穿孔深さ42mmで細孔を穿設した。ここでの突出長さは、55mmで一定とした。その結果を図6に示す。
【0040】
図6の結果から、ドリル直径が1.0〜1.6mmの範囲であれば、耐久性が良好であった。反面、ドリル直径が1.0mm未満、もしくは1.6mmを超える範囲では、良好な耐久性が得られなかった。
【0041】
(変形例)
上記実施形態の他に、相対移動手段として、平面方向へ移動しない加工テーブル12上の木材1に対して、ドリル21が平面方向へ相対的に移動する構成とすることもできる。この場合は、取付アーム14を平面方向へ移動可能とする。
【0042】
また、各ドリル21は、必ずしも別個独立して昇降制御されなくてもよい。この場合は、全てのドリル21が一体となって上下方向(Z方向)に昇降する機構とすればよい。例えば図7に示すように、取付アーム14が上下方向に昇降する機構を採用することもできる。
【0043】
木材1を加工テーブル12上で保持する保持手段としては、バキューム手段のほかに、木材1の長手方向両端部、又は長手方向両端部と中央部とを機械的につかんで、下方から引っ張る、又は上方から押さえ付けるなどのホールド機構を採用することもできる。このようなホールド機構は、木材1が極端に曲がっている場合に特に有効である。
【符号の説明】
【0044】
1 木材
2・107 生節
3・106 抜け節
5 細孔
10 穿孔加工装置
11 基台
12 加工テーブル
13 ホルダー
14 取付アーム
20 ドリルユニット
21 ドリル
25 ローダ
26 アンローダ
28 抜け節検知手段
29 吸引機
d ドリル直径
h 穿孔深さ
H ドリル突出長さ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材内部の透過性を向上させるために、ドリルを用いて木材に多数の細孔を穿設する木材の穿孔方法であって、
前記ドリルの直径を1.0〜2.5mmとし、
前記ドリルの上端部を嵌合保持する保持部からのドリルの突出長さを、穿孔深さhとドリル直径dとに対して
ah(4√d)・・・(1)
の関係式によって定め、
前記式(1)における係数aを1.20以上とすることを特徴とする、木材の穿孔方法。
【請求項2】
ドリル直径dを1.0〜1.6mmとする、請求項1に記載の木材の穿孔方法。
【請求項3】
前記ドリルと木材とを、相対移動手段によって互いに平面方向に相対移動可能としながら、前記ドリルを昇降手段によって昇降可能とし、
前記相対移動手段及び昇降手段を制御手段によって制御することで、穿孔位置及び穿孔数が制御され、
搬送手段によって搬送されてくる前記木材の加工面に抜け節があるか否かを、抜け節検知手段によって検知しておき、前記抜け節検知手段によって抜け節が検知されると、該検知信号に基づいて、前記制御手段が前記抜け節部分では前記ドリルを下降させないように制御する、請求項1または請求項2に記載の木材の穿孔方法。
【請求項4】
前記ドリルは、前記木材の長手方向に沿って複数並設されており、
各ドリルは、基本的には全てが同時に昇降するが、個々独立して昇降可能であり、
前記抜け節部分に対応するドリルのみが、他のドリルの動きに反して下降しないように制御される、請求項3に記載の木材の穿孔方法。
【請求項5】
前記複数の各ドリルは、前記木材の長手方向と平行に配された取付アームの軸方向に並設された複数個のホルダーに設置し、
前記各ドリルを前記ホルダーへ設置する位置を変更することで、並設される各ドリルの間隔及び設置個数を任意に設定する、請求項4に記載の木材の穿孔方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−214760(P2010−214760A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64090(P2009−64090)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名:「第59回 日本木材学会大会 研究発表要旨集」のCD−ROM 発行日:平成21年2月28日 発行者:日本木材学会 研究集会名:第59回 日本木材学会大会 主催者:日本木材学会 代表者:太田 正光 開催日:2009年3月15〜17日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、経済産業省、地域資源活用型研究開発事業(穿孔圧密・樹脂複合技術による県産スギ材の高度利用プロセス開発)委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(390015358)大日本木材防腐株式会社 (10)
【出願人】(000116622)愛知県 (99)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】