説明

木材の腐朽対策方法および腐朽対策を施した木材

【課題】効果が長期にわたって保たれる腐朽対策方法、施工性の高い腐朽対策方法、および、腐朽対策を施し、かつ、地下水汚染などの少ない安全な木材の提供。
【解決手段】
埋設しようとする木材(1,7,8,11,26,29,33,38,42)の、埋設後に地下水位変動域Wの最下部よりやや下に位置することとなる箇所から上端までの部分に、被覆部(4,6,10,14,30,34,39,43’)を形成し、この木材(1,7,8,11,26,29,33,38,42)を、その下端が地下水位変動域Wより低い位置に達し杭頭が地中に完全に没するように、かつ、上記地下水位変動域Wの位置に、上記被覆部(4,6,10,14,30,34,39,43’)が位置するように埋設する木材の腐朽対策方法。空気遮断材(13)により被覆部(4,6,10,14,30,34,39,43’、52,54,59,59’)を形成してなる腐朽対策を施した木材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材の腐朽対策方法および腐朽対策を施した木材に関する。
【背景技術】
【0002】
木材は、支持杭や地盤改良材等の木杭として、また、不等沈下防止や上載荷重の分散のための水平部材等として地中に埋設された形で多用されているところ、地下水位以下に埋設されたものは、腐朽を生じることなく長年(数百年の事例も見られる)にわたり健全性を保つが、地下水変動域やそれより浅い位置のものは比較的短期間で腐朽する事例が見られる。
地盤中に埋設された木材の腐朽は、構造部材としての強度の低下を進めることとなるのでその対策が必要である。
【0003】
従来、主に気中における木材の腐朽対策の方法として、下記(1)〜(4)のようなものがある。
(1)木材保存剤(防腐剤)を木材に塗布するか含浸させる方法
(2)木材保存剤を木材へ加圧注入する方法
(3)熱処理により木材を改質させる方法
(4)樹脂を用いて木材を改質させる方法
これらの方法による腐朽防止対策の作用機構は、使用する木材保存剤の種類や樹脂の種類により下記(あ)〜(う)のように分類することができる。
(あ)腐朽菌にとって有害な木物質を使用することで腐朽を防止するもの
(い)水を弾くようにさせ木材の乾燥を保つことで腐朽菌の繁殖を抑制することで腐朽を防止するもの
(う)木材そのものを腐朽菌が分解できないように改質することで腐朽を防止するもの
【0004】
一方、地盤中に埋設された木材の腐朽対策の方法としては、上記(1)〜(4)の、気中における防腐方法が適用されるほか、構造物の支持杭について、木杭の常水部から上の無水部以上に位置することとなる部分をコンクリートに置き換える方法が存在する(特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開平10−72822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、地中埋設木材の腐朽を防止するために上記のような従来技術を用いる場合、上記(1)および(2)の方法については木材保存剤が年月とともに分解されるという問題があり、しかも、水を弾くようにさせる物質を使用するものは水を含んだ土の中では効果を期待できず、また、腐朽菌にとって有害な物質を含むものは、土壌および地下水汚染の可能性がある。
さらに、(2)〜(4)の方法を建設構造物基礎用木杭に適用しようとすると、相当な長さの木材を処理することとなり、その処理装置の規模が大きくなり容易に実施できない。
【0007】
また、木杭の地盤中への埋設は、(イ)機械で杭頭部を把持して圧入する方法、(ロ)杭頭に打撃を加えて打ち込む方法、あるいは、(ハ)先行して地盤を削孔しその孔に木杭を挿入する方法、を単独でもしくは複合的に使用することにより行われるが、(イ)や(ロ)の方法を用いる場合には、打撃あるいは把持される杭頭部の破損に対する抵抗性を十分に高めることが施工性を高めるために重要になる。
【0008】
そこで、本発明は、上記の問題を解決し、腐朽防止の効果が長期にわたって保たれる腐朽対策方法、施工性の高い腐朽対策方法、および、腐朽対策を施し、かつ、地下水汚染などの少ない安全な木材の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の本発明は、地中に埋設された木材(1,7,8,11,26,29,33,38,42,51,53,55,56,57,60,61,63)への空気の供給を遮断ないし低減することにより、その木材の腐朽を防止する、木材の腐朽対策方法である。
【0010】
請求項2記載の本発明は、埋設しようとする木材(1,7,8,11,26,29,33,38,42)の、埋設後に地下水位変動域(W)の最下部よりやや下に位置することとなる箇所から木材の上端までの部分に、被覆部(4,6,10,14,30,34,39,43’)を形成し、この木材(1,7,8,11,26,29,33,38,42)を、その下端が地下水位変動域(W)よりやや低い位置に達するように、かつ、上記地下水位変動域(W)の下端より、上記被覆部(4,6,10,14,30,34,39,43’)の下端が低い位置となるように埋設する請求項1記載の木材の腐朽対策方法である。
【0011】
請求項3記載の本発明は、埋設しようとする木材(51,55,57,61)の全面に、被覆部(52,54,59,59’)を形成し、この木材(51,55,57,61)を不等沈下防止や上載荷重の分散のための水平部材として地中に埋設する請求項1記載の木材の腐朽対策方法である。
【0012】
請求項4記載の本発明は、木材(1,29,51)に、空気遮断材を塗布することにより上記被覆部(4,30,52)を形成する請求項2または3記載の木材の腐朽対策方法である。
【0013】
請求項5記載の本発明は、木材(7,33,55)に、空気遮断材を含浸させることにより上記被覆部(6,34,54)を形成する請求項2または3記載の木材の腐朽対策方法である。
【0014】
請求項6記載の本発明は、木材(8,38,57)の樹皮(9)に空気遮断材を含浸させて被覆部(10,39,59)を形成する請求項2または3記載の木材の腐朽対策方法である。
【0015】
請求項7記載の本発明は、埋設後に地下水位変動域(W)の最下部よりやや下に位置することとなる箇所から木材(11,42)の上端までの部分を被覆するキャップ(12,43)を杭頭に被覆嵌合して上記被覆部(14,43’)を形成する請求項2記載の木材の腐朽対策方法である。
【0016】
請求項8記載の本発明は、上記キャップ(12,43)と木杭(11,42)の周面の間の間隙に空気遮断材(13)を充填して上記被覆部(14,43’)を形成する請求項7記載の木材の腐朽対策方法である。
【0017】
請求項9記載の本発明は、埋設された木杭(26)の周囲の地盤中に、地下水位変動域(W)の最下部以深まで達する、通気性の低い空気遮断層(27)を形成する請求項1記載の木材の腐朽対策方法である。
【0018】
請求項10記載の本発明は、埋設された木材(61)の周囲の地盤中に、空気遮断層(62)を形成する請求項1記載の木材の腐朽対策方法である。
【0019】
請求項11記載の本発明は、上記空気遮断層(27,62)を粘性土またはシルト、または、粒度配合の良い材料で形成する請求項9または10記載の木材の腐朽対策方法である。
【0020】
請求項12記載の本発明は、上記空気遮断層(27,62)をセメント系固化材で形成する請求項9または10記載の木材の腐朽対策方法である。
【0021】
請求項13記載の本発明は、上記空気遮断層(27,62)を、地盤を締め固めることによって形成する請求項9または10記載の木材の腐朽対策方法である。
【0022】
請求項14記載の本発明は、空気遮断材(13)により被覆部(4,6,10,14,30,34,39,43’、52,54,59,59’)を形成してなる腐朽対策を施した木材である。
【0023】
請求項15記載の本発明は、杭頭部にキャップ(12,31,35,40,43)を被覆嵌合した請求項14記載の腐朽対策を施した木材である。
【0024】
請求項16記載の本発明は、上記キャップ(12,31,35,40,43)と木材の周面との間の間隙に空気遮断材を充填した請求項15記載の腐朽対策を施した木材である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、木材の腐朽の要因となる空気の供給を効果的に遮断ないし低減することができ、その腐朽を防止することができる
また、杭頭部にキャップを被覆嵌合させれることによって、施工時の杭頭部の打撃や把持に必要な強度を確保し施工性を高めることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
埋設しようとする木材(1,7,8,11,26,29,33,38,42)の、埋設後に地下水位変動域(W)の最下部よりやや下に位置することとなる箇所から木材の上端までの部分に、被覆部(4,6,10,14,30,34,39,43’)を形成し、この木材(1,7,8,11,26,29,33,38,42)を、その下端が地下水位変動域(W)よりやや低い位置に達するように、かつ、上記地下水位変動域(W)の下端より、上記被覆部(4,6,10,14,30,34,39,43’)の下端が低い位置となるように埋設する請求項1記載の木材の腐朽対策方法。
【0027】
空気遮断材(13)により被覆部(4,6,10,14,30,34,39,43’、52,54,59,59’)を形成してなる腐朽対策を施した木材。
【実施例1】
【0028】
本実施例の木材の腐朽対策方法は、以下のように実施される。
まず、埋設しようとする木杭1の周面2の、埋設後に地下水位変動域Wの最下部よりやや下に位置することとなる箇所から杭頭までの部分、および、木口面3に、空気遮断材を塗布し被覆部4を形成する。
なお、地下水の水位が不明な場合は、十分に余裕を持たせた範囲について被覆部4を形成する。
上記の空気遮断材としては樹脂、塗料、廃プラスチック由来の低分子ワックス、セメント、アスファルト、粘性土等を使用することができる。
【0029】
次いで、上記の空気遮断材を塗布した木杭1を、その下端が地下水位変動域Wより低い位置に達するように、かつ、上記地下水位変動域Wの位置に、上記空気遮断材を塗布した被覆部4が位置するように、すなわち上記地下水位変動域Wの下端より、上記被覆部4の下端が低い位置となるように埋設する(図1(a))。
【0030】
これにより、埋設された木杭1の、地下水位変動域Wおよびその上側に位置する部位について、腐朽の要因となる空気の供給を効果的に遮断ないし低減することができ、その腐朽を防止することができる。
【0031】
なお、本方法は、施工対象地盤を単に常水部と無水部に2分割して考えるるのではなく、地下水位変動域W、同変動域Wよりも浅い部分、同変動域Wよりも深い部分の3つに区画して考え、木杭1の、地下水位変動域W内に位置することとなる部分全体をカバーするよう被覆部4を形成する点に特徴があるものである。
なお、ここでいう変動域Wとは、設計に用いられる変動域を指し、必ずしも実際の地下水変動の最大値と最小値の幅を指していない。
この設計上の変動域は、一般的には実際の変動域にほぼ等しいが、たまにしか生じない極端な地下水低下は実際の不朽には影響しないと考えられるので無視することが可能で、このような場合などは実際の地下水位変動域と設計上の地下水位変動域は異なることになる。
【0032】
上記の空気遮断の効果は恒久的であるので、従来の技術と異なり、その腐朽防止効果は恒久的に持続する。
また、空気遮断材は、従来用いられている木材保存剤と異なり菌類(植物)の生存にとって有害となる化学物質を含有しないため、土壌汚染につながることがない。
特に、土中では、紫外線を含む日光にあたらないこと、気中のような激しい気象や温度変化に曝されないこと、気中と異なり地中ではある程度の湿気があるために乾燥により木杭に亀裂が生じる可能性が低いこと、などの理由から、木杭は腐朽することなく極めて安定的な状態に保たれる。
さらに、上記の空気遮断材の塗布は、長い木杭にも容易に行うことができる。
【0033】
この木材の腐朽対策方法は、下記の実施例2〜13のように応用することができるものである。
【実施例2】
【0034】
木杭7に対して、実施例1のように空気遮断材を塗布するのでなくその周面から木質部に含浸させることにより、埋設後に地下水位変動域Wの最下部よりやや下に位置することとなる箇所から杭頭までの部分(木口面を含む)に、被覆部6を形成する。
この場合も、木杭7を、その下端が地下水位変動域W最下部より低い位置に達し杭頭が地中に完全に没するように、また、上記地下水位変動域Wの位置には、この木杭7の被覆部6が位置するように埋設する(図1(b))。
【実施例3】
【0035】
木杭8の地下水位変動域W最下部よりやや下に位置することとなる箇所から杭頭部までの樹皮9を残しておき、その樹皮9に同様に空気遮断材を含浸させて被覆部10を形成してもよい。このような樹皮9への含浸は上記実施例2の場合に比べ効率よく行えるものである。
この場合、杭頭の木口面は上記の空気遮断材を別途塗布することなどによって被覆するのが好ましい
【0036】
その木杭8を、その下端が地下水位変動域下位より低い位置に達するように、また、上記地下水位変動域Wの位置には、上記被覆部10が位置するように埋設する(図1(c))。
【実施例4】
【0037】
まず、埋設しようとする木杭11の杭頭に、有蓋筒状のキャップ12を被覆嵌合するとともに、このキャップ12と木杭11の周面の間の間隙に上記の空気遮断材13を充填することにより、地下水位変動域Wの最下部よりやや下に位置することとなる箇所から杭頭部までにかけて、被覆部14を形成する。
【0038】
上記キャップ12は、木杭11の、地下水位変動域W最下部よりやや下に位置することとなる箇所から杭頭部までを被覆するのに十分な長さのもので、その材質は、ステンレスや廃プラスチックなど劣化しにくいものとするのが好ましい。これにより、木杭11への空気の供給を確実に遮断・低減することができる。
上記の空気遮断材13の充填方法としては、第1に、事前に空気遮断材13で杭頭部を被覆した後キャップ12を被せる方法が、第2に、空気遮断材13をキャップ12に入れこれに木杭頭部を差し込む方法が、第3に、キャップ12を木杭頭部に被覆嵌合した後キャップ12内を負圧にすることで空気遮断材13を吸引充填する方法がある。
【0039】
空気遮断材13を吸引充填する、上記第3の方法の詳細は以下の通りである(図3)。
【0040】
<手順1>
逆さにしたキャップ12の蓋の内側に、杭頭部との間に適正な空間を設けるためのスペーサー15を設置して、これに木杭11の頭部を嵌合させる。
そのキャップ12の蓋(逆さにした該キャップの下部に位置することとなる)には、充填孔16が設けてあり、この充填孔16にはフレキシブルなホース17が接続されている。
【0041】
<手順2>
上記ホース17の先端を空気遮断材13を貯留した空気遮断材貯留槽18へ入れる。
【0042】
<手順3>
上記キャップ12の開口端部と木材の間を、コーキング材19により塞ぐ。
【0043】
<手順4>
負圧タンク20に接続された三方バルブ21に吸引パイプ22を接続し、その吸引パイプ22の先端をキャップ21の側壁の上部(開口縁寄りの位置)に開設された吸引孔23に取り付ける。
その吸引孔23は、図3中に拡大して示したとおり、吸引パイプ22の先端をちょうど受入れ嵌合するような寸法に開口しているだけの簡単な構造であり、吸引パイプ22を取り付けて負圧タンク20で吸引することで、負圧によりツバ24の前面に取り付けたOリング25をキャップ12の側壁に圧接、密着させて固定されるようになっている。
【0044】
<手順5>
上記負圧タンク20により吸引することにより、キャップ12内を負圧とし、上記ホース17を通して空気遮断材13を注入しキャップ12内の間隙に充填する。
【0045】
<手順6>
キャップ12内が充填されると、空気遮断材13が負圧タンク20へ流入するので、上記ホース17の途中を止水ピンで止めるか、または、これを結束し空気遮断材13の流れを止め、その後、止水ピンまたは結束部から貯留槽18側のホース17を必要に応じ切断する(短ければ切断しなくてもよい)。
【0046】
<手順7>
三方バルブ21を開放側へ回し、キャップ12から吸引パイプ22を取り外す。
【0047】
<手順8>
充填された空気遮断材13が固化するまで一定時間放置する。
その放置時間は空気遮断材13のとして使用する材料により異なる。また、材料によっては固化に発熱を伴うので、そのような場合は適宜流水による冷却などを行う。
【0048】
上記の吸引充填は、図4に示すように木杭11を横架した状態で行うこともできる。この場合、使用する器材と手順は上記の吸引充填方法と同様である。
ただし、ホース17を接続するキャップ12の充填孔16を、できるだけ下寄りに、また、吸引パイプ22を接続する吸引孔23をできるだけ上寄りとなる状態にして吸引を行う必要がある。
このようにすることで気泡がキャップ12内に残ることを防ぐことが可能となる。
【0049】
上記のようにして杭頭へのキャップの12被覆嵌合を行うことにより被覆部14を形成した後、その木杭11を、その下端が地下水位変動域Wの最下部より低い位置に達するように、また、上記地下水位変動域Wの位置には、この木杭11の杭頭に被覆嵌合したキャップ12の側壁部分が位置するように埋設する(図2)。
なお、上記の空気遮断材の充填は省略し、杭頭にキャップを被せただけの被覆部とすることも可能である。
【実施例5】
【0050】
本実施例の木材の腐朽対策方法は、埋設された木杭26の周囲の地盤中に、地下水位変動域Wの最下部以深まで達する、通気性の低い空気遮断層27を形成することにより木杭26への空気の供給を断つものである(図5)。
木杭26は、その下端が地下水位変動域下位Wより低い位置に達するように埋設されており、上記地下水位変動域Wおよびこれよりも浅い部分に位置する部位は、空気遮断層27に被覆されている(図5)。
【0051】
上記空気遮断層27の形成は、以下の(i)〜(iii)のいずれかの方法で行うことができる。
(i)予め埋設された木杭26の杭頭部周辺を地下水位変動域下位Wより低い位置まで開削し、粘性土、シルトあるいは粒度配合の良い材料などの通気性の低い土質材料27aによって埋め戻す方法(図6(a))
(ii) 予め埋設された木杭26の杭頭部周辺を地下水位変動域下位Wより低い位置まで開削し、セメント系固化材27bなどによって埋め戻す方法(図6(b))
(iii) 予め埋設された木杭26の杭頭部周辺地盤を、重機28等によって、あるいは棒状のもので突いたり振動を与えることによって十分締固め通気性を低くする方法(図6(c))
【実施例6】
【0052】
本実施例の木材の腐朽対策方法は、金属などの強度の大きい材料で製造されたキャップを杭頭部に被覆嵌合させ、そのキャップと杭頭部との間に空気遮断材を充填することによって、杭頭部の強度を高め破損を防止した木杭を使用し、その杭頭部を重機で把持してあるいは打撃して地中に貫入させ埋設するものである。
すなわち、実施例4のキャップは、強度を問わないものであったが、ここで使用するキャップは重機による把持や打撃に耐える、金属製などの強度の大きいものである。
【0053】
この方法は、まず、埋設しようとする木杭29の、埋設後に地下水位変動域よりやや下に位置することとなる箇所から杭頭までの範囲(木口面を含む)に、空気遮断材を塗布し被覆部30を形成するとともに、その杭頭部にキャップ31(地下水位変動域Wに達する長さのものでなくともよい)を被覆嵌合する。
次いで、実施例4と同様の方法により、キャップ31と杭頭との間に上記と同様の空気遮断材32を充填する。
【0054】
その後、この木杭29を重機により頭部のキャップ31を把持して地中に圧入するか、あるいは、そのキャップ31を打撃して地中に嵌入させる(図7(a))。
これにより、その木杭29は、その下端が地下水位変動域Wの最下部より低い位置に達するように、また、上記地下水位変動域Wの位置には、被覆部30が位置するように埋設される(図7(a))。
このように、キャップ31により杭頭部の強度を高めているので、施工時の木材保護と施工後の木材腐朽対策を両立させることができる。
【実施例7】
【0055】
本実施例の木材の腐朽対策方法は、木杭33が、上記実施例6の木杭29が、その周面に空気遮断材を塗布して被覆部30を形成していたのに代えて、実施例2のように空気遮断材を周面から浸透させて被覆部34を形成している点のみを異にする(図7(b))。杭頭部にキャップ35を被覆嵌合し、空気遮断材36を充填することは上記実施例6と同様である。
木杭33は、そのキャップ35の部分を把持または打撃することにより、その下端が地下水位変動域Wの最下部より低い位置に達するように、また、上記地下水位変動域Wの位置には、被覆部34が位置するように埋設される(図7(a))。
【実施例8】
【0056】
本実施例は、樹皮37を残した木杭を使用するもので、その樹皮37に空気遮断材を浸透させて被覆部39を形成するとともに、杭頭部にキャップ40を被覆嵌合させ、そのキャップ40と杭頭部との間に空気遮断材41を充填しているものである(図7(c))。
この場合、実施例3の木杭8のように木口面は露出しないから、同実施例の方法で必要であった杭頭部へ空気遮断材の塗布作業は省略できる。
木杭38は、そのキャップ40の部分を把持または打撃することにより、その下端が地下水位変動域Wの最下部より低い位置に達するように、また、上記地下水位変動域Wの位置には、被覆部37が位置するように埋設される(図7(c))。
【実施例9】
【0057】
本実施例の木材の腐朽対策方法は、実施例4とほぼ同様の木杭42を使用するものであるが、この木杭42は、そのキャップ43を、金属などの、打撃や把持に耐えうる強度の高い材料により形成して被覆部43’としている点において実施例4と異なるものである。
この強度の高いキャップ43は、木杭42の周面との間に空気遮断材を充填して、木杭42と完全に一体化しているので、側方向への拘束効果と充填材による木材への均等な応力伝達により、杭頭部の破損を防止するものである。
【0058】
強度の大きいキャップ43を有している木杭42は、そのキャップ43の部分を把持または打撃することにより地中に埋設され、その下端が地下水位変動域Wの最下部より低い位置に達し、かつ、杭頭が地中に完全に没するように、また、上記地下水位変動域Wの位置には、このキャップ43の側壁部分が位置する。
したがって、施工時の木材保護と施工後の木材腐朽対策を両立させることができる。
【0059】
上記実施例6〜9で使用される各木杭は、上記の通り、その杭頭部を重機で把持してあるいは打撃して貫入打設されるが、地盤を開削して埋設することも、勿論可能である。
【実施例10】
【0060】
本実施例の木材の腐朽対策方法は、不等沈下防止や上載荷重分散のための水平部材など、地下水位変動域Wの最下部より上側に埋設される木材に適用される。
【0061】
埋設しようとする水平部材(以下、「横架木材51」という。)の全面、すなわちその周面および木口面に、上記空気遮断材を塗布し被覆部52を形成する。
この横架木材51は、垂直に埋設された複数の、実施例6と同様の木杭53上に横架した状態で埋設される(図8)。
【0062】
上記横架木材51は、被覆部52により空気の供給を効果的に遮断ないし低減できるので、その腐朽が防止される。
【実施例11】
【0063】
実施例10の横架木材51は、その全面に、上記空気遮断材を塗布し被覆部52を形成しているものであるが、空気遮断材を含浸させることにより被覆部54を形成した横架木材55を使用することもできる。
【0064】
この横架木材55は、実施例10と同様に、垂直に打設された複数の、木杭56上に横架した状態で埋設される(図9)。
上記横架木材55は、被覆部54により空気の供給を効果的に遮断ないし低減できるので、その腐朽が防止される。
【実施例12】
【0065】
木材を丸太形状のまま横架木材57として用いる場合、残っている樹皮58に空気遮断材を含浸させて被覆部59を形成することができる。
樹皮が無い木口面については、上記の空気遮断材を塗布するかまたは浸透させることなどによって被覆部59’を形成する(図9)。
【0066】
この横架木材57も、実施例10,11と同様に、垂直に打設された複数の、木杭60上に横架した状態で埋設される。
上記横架木材57は、被覆部59,59’により空気の供給を効果的に遮断ないし低減できるので、その腐朽が防止される。
【実施例13】
【0067】
本実施例の木材の腐朽対策方法は、木材を処理して空気を遮断する被覆部を形成する代わりに、横架木材61の周囲に、通気性の低い空気遮断層62を形成することにより、その横架木材61への空気供給を断つものである(図11)。
その実施は、以下のいずれかの方法によって行う。
(イ) 垂直に打設された複数の木杭63(実施例10,11,12と同様のもの)上に横架木材61を横架するとともにその周囲を開削し、粘性土、シルトあるいは粒度配合の良い材料などの通気性の低い土質材料によって埋め戻し、空気遮断層62を形成する
(ロ) 埋設された上記横架木材61の周囲を、セメント系固化材などによって埋め戻して空気遮断層62を形成する
(ハ) 埋設された上記横架木材61の周囲の地盤を重機によって十分締固め通気性の低い空気遮断層を形成する(図示しない)
上記横架木材61への空気の供給は、空気遮断層62により効果的に遮断ないし低減されるので、その腐朽が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】(a)〜(c)はそれぞれ、実施例1〜3の腐朽対策を施した木杭を埋設した状態の側面図である。
【図2】実施例4の腐朽対策を施した木杭を埋設した状態の側面図である。
【図3】実施例4の木杭のキャップに、空気遮断材を充填する方法の概略説明図である。
【図4】上記木杭を横架状態にしてそのキャップに空気遮断材を充填する方法の概略説明図である。
【図5】実施例5の腐朽対策を施した木杭を埋設した状態の側面図である。
【図6】(a)〜(c)はそれぞれ、上記木杭を埋設する方法の説明図である。
【図7】(a)〜(d)はそれぞれ、実施例6〜9の腐朽対策を施した木杭を埋設した状態の側面図である。
【図8】実施例10の腐朽対策を施した木材を不等沈下防止のための水平部材として埋設した状態の側面図である。
【図9】実施例11の木材の腐朽対策を施した木材を不等沈下防止のための水平部材として埋設した状態の側面図である。
【図10】実施例12の木材の腐朽対策を施した木材を不等沈下防止のための水平部材として埋設した状態の側面図である。
【図11】実施例13の木材の腐朽対策を施した木材を不等沈下防止のための水平部材として埋設した状態の側面図である。
【符号の説明】
【0069】
1,7,8,11,26,29,33,38,42 木材(木杭)
51,55,57,61 木材(水平部材)
4,6,10,14,30,34,39,43’52,54,59,59’ 被覆部
12,31,35,40,43 キャップ
13 空気遮断材
27,62 空気遮断層
W 下水位変動域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設された木材(1,7,8,11,26,29,33,38,42,51,53,55,56,57,60,61,63)への空気の供給を遮断ないし低減することにより、その木材の腐朽を防止することを特徴とする木材の腐朽対策方法。
【請求項2】
埋設しようとする木材(1,7,8,11,26,29,33,38,42)の、埋設後に地下水位変動域(W)の最下部よりやや下に位置することとなる箇所から木材の上端までの部分に、被覆部(4,6,10,14,30,34,39,43’)を形成し、この木材(1,7,8,11,26,29,33,38,42)を、その下端が地下水位変動域(W)よりやや低い位置に達するように、かつ、上記地下水位変動域(W)の下端より、上記被覆部(4,6,10,14,30,34,39,43’)の下端が低い位置となるように埋設することを特徴とする請求項1記載の木材の腐朽対策方法。
【請求項3】
埋設しようとする木材(51,55,57,61)の全面に、被覆部(52,54,59,59’)を形成し、この木材(51,55,57,61)を不等沈下防止や上載荷重の分散のための水平部材として地中に埋設することを特徴とする請求項1記載の木材の腐朽対策方法。
【請求項4】
木材(1,29,51)に、空気遮断材を塗布することにより上記被覆部(4,30,52)を形成することを特徴とする請求項2または3記載の木材の腐朽対策方法。
【請求項5】
木材(7,33,55)に、空気遮断材を含浸させることにより上記被覆部(6,34,54)を形成することを特徴とする請求項2または3記載の木材の腐朽対策方法。
【請求項6】
木材(8,38,57)の樹皮(9)に空気遮断材を含浸させて被覆部(10,39,59)を形成することを特徴とする請求項2または3記載の木材の腐朽対策方法。
【請求項7】
埋設後に地下水位変動域(W)の最下部よりやや下に位置することとなる箇所から木材(11,42)の上端までの部分を被覆するキャップ(12,43)を杭頭に被覆嵌合して上記被覆部(14,43’)を形成することを特徴とする請求項2記載の木材の腐朽対策方法。
【請求項8】
上記キャップ(12,43)と木杭(11,42)の周面の間の間隙に空気遮断材(13)を充填して上記被覆部(14,43’)を形成することを特徴とする請求項7記載の木材の腐朽対策方法。
【請求項9】
埋設された木杭(26)の周囲の地盤中に、地下水位変動域(W)の最下部以深まで達する、通気性の低い空気遮断層(27)を形成することを特徴とする請求項1記載の木材の腐朽対策方法。
【請求項10】
埋設された木材(61)の周囲の地盤中に、空気遮断層(62)を形成することを特徴とする請求項1記載の木材の腐朽対策方法。
【請求項11】
上記空気遮断層(27,62)を粘性土、シルト、または、粒度配合の良い材料で形成することを特徴とする請求項9または10記載の木材の腐朽対策方法。
【請求項12】
上記空気遮断層(27,62)をセメント系固化材で形成することを特徴とする請求項9または10記載の木材の腐朽対策方法。
【請求項13】
上記空気遮断層(27,62)を、地盤を締め固めることによって形成することを特徴とする請求項9または10記載の木材の腐朽対策方法。
【請求項14】
空気遮断材(13)により被覆部(4,6,10,14,30,34,39,43’、52,54,59,59’)を形成してなることを特徴とする腐朽対策を施した木材。
【請求項15】
杭頭部にキャップ(12,31,35,40,43)を被覆嵌合したことを特徴とする請求項14記載の腐朽対策を施した木材。
【請求項16】
上記キャップ(12,31,35,40,43)と木材の周面との間の間隙に空気遮断材を充填したことを特徴とする請求項15記載の腐朽対策を施した木材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−223379(P2008−223379A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64864(P2007−64864)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(592029256)福井県 (122)
【出願人】(000235543)飛島建設株式会社 (132)
【Fターム(参考)】