説明

木材表面塗工液及び木材表面の処理方法

【課題】撥水性・耐水性に優れ、かつ紫外線等に対して安定な耐久性が良好な木材表面塗工膜を提供する。
【解決手段】下記式(1)で示されるシラン化合物と、該シラン系化合物を硬化及び/又は固化させる触媒とを主成分として含有する木材表面塗工液。
【化6】


(式(1)において、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なってもよい、水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基であり、Rはこれらの基内にハロゲン原子又はエポキシ基を含んでもよい、炭素数が1〜10のアルキル基、アルケニル基又はフェニル基であり、nは2〜10である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材表面に対し、良好な撥水性と耐久性を付与することができる木材表面塗工液及びこれにより木材表面を処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木は天然素材であり、従来より建築材料や家具等に利用されている。特に、環境に対する関心が高まっている現在、益々その存在意義が高まってきている。
【0003】
木材を建築材料や家具等に利用する場合、耐久性を高めるために、表面処理(表面塗装)が必要となる。もちろん、表面処理せず、木材そのものの感触を大事にすることはある。しかし、木材の表面に水がかかると、木材の内部に水が浸透し、結果として木材が腐るため、長期使用は耐えられなくなる。また、水が木材内部に浸透することにより、内部にカビ等が生え、木材の耐久性が低下する原因となることが知られている。そこで、木材の表面処理(表面塗装)が必要となる(非特許文献1)。
【0004】
このような表面処理剤(塗料)としては、従来より、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等が用いられている。これらの樹脂は、有機高分子であるため、十分な撥水性を示す。しかし、有機高分子を木材の表面に塗工すると、その表面から自然の風合いが失われてしまう。
【0005】
また、有機塗料は火が近づくと燃え(こげ)、有害なガスが発生する可能性がある。また、ホルムアルデヒドの発生の問題もあり、安全上も問題が多いものである。
【0006】
このような問題を解決する塗料として、天然物由来の塗料がある。このものは原料に天然の油状物性を使用しているため、自然の風合いを残すことが可能であり、ホルムアルデヒドの発生が無い、環境に優しい塗料である。
【0007】
しかし、原料の油状物質は木材表面で固定化されていないため、屋外で長時間雨に当たると溶脱してしまい、長期の安定使用に耐えられないことが指摘されている。また、表面が擦られると脱離してしまい、この点からも長期の安定性の悪いことが指摘されている。
【0008】
このように、有機系塗料は短期間の撥水性・耐水性には優れているが、耐候性が悪く、また長期間の安定性(耐久性)が乏しいという問題が残っている。
【0009】
一方、耐熱性が高く、長期間の安定性(耐久性)に優れている塗工膜を付与する目的で、耐熱性・耐候性の高いシロキサン結合(≡Si−O−Si≡)をその塗工膜内に含有する、ポリシロキサン系樹脂塗料が開発されてきている。
【0010】
例えば、湿気硬化型ポリシロキサン樹脂を含有するクリアー塗料を塗布する方法が開示されている(特許文献1)。このものは、ポリシロキサン樹脂を含有しているため、これまでの表面を全面的に覆う樹脂塗料と変らず、木材が本来有している多孔性及び水分(湿気)調整機能を損なう恐れがある。
【0011】
また、無溶剤の常温硬化型オルガノシロキサン組成分が開示されている(特許文献2)。このものは、液状オルガノポリシロキサン、架橋剤及び硬化触媒からなる三成分混合液である。この塗工液は、不燃性・難燃性等耐熱性に優れた塗工膜を提供することを目的にしているため、耐熱性の高いSiO成分を50重量%以上含有していることを必須としている。このため得られた塗工膜は硬くなり、木材表面上で長期間存在すると、木材表面の伸縮により塗工膜にひび割れが生じ、耐水性の低下が起こる恐れがある。
【0012】
その他にも、はしご構造を持つ変性ポリシロキサン系樹脂からなる処理剤を含浸せしめ、次いで硬化処理を行うことにより、無機質基材又は木材表面におけるかびや苔等の発生を防止することを特徴とする、汚染防止方法が開示されている(特許文献3、4)。
【0013】
この、はしご構造を持つ変性ポリシロキサン系樹脂からなる塗工液の目的は、木材表面等のかびや苔等の発生を防止することに主眼が置かれているため、用いるポリシロキサン系樹脂は平均重合度が、30〜80もしくは、平均分子量が500〜100000と非常に分子量が大きい、高縮合物の高分子状化合物である。このため、このものも、これまでの表面を全面的に覆う樹脂塗料と変らず、木材が本来有している多孔性及び水分(湿気)調整機能を損なう恐れがある。
【0014】
最近、いわゆるゾル−ゲル法を応用し、熱的に安定であり即ち耐久性が高い、シロキサン結合を木材表面に塗布あるいは含侵することにより、木材に難燃性や防蟻性を付与する技術が開発されてきている(非特許文献2)。
【0015】
この技術は、完全に反応すると最終的に完全に無機化合物となる、テトラアルコキシシラン(Si(OR))を木材表面より浸透させるものである。無機化合物を含侵させるのは、難燃性付与を目的としているためである。そのため、表面の撥水性や耐水性能が十分でない問題が残っている。
【0016】
またコロイド状シリカ(コロイダルシリカ)を木材表面に塗工することにより、同様に難燃性を付与することが行なわれているが(非特許文献3)、この場合も、表面の撥水性や耐水性能が十分でない問題が残っている。
【0017】
これら無機系の塗工材料は、難燃性付与の目的としては十分であるが、無機系材料の特徴である撥水性が劣るという問題が残っている。また、無機化合物は柔軟性が無いため、木材が長時間伸縮を繰り返すと、剥げ落ちるという問題が指摘されている。
【0018】
【特許文献1】特開平9−94524号公報
【特許文献2】特開平5−247347号公報
【特許文献3】特開平9−132733号公報
【特許文献4】特開平9−132756号公報
【非特許文献1】第15回木材塗装ゼミナール、予稿集P1、2004年11月19日、木材塗装研究会
【非特許文献2】木材工業、vol.50(No.9)、400(1995)
【非特許文献3】木材保存、vol.22、254(1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、これらの従来技術の問題点を改良する目的でなされたものであり、これら有機系塗料及び無機系塗料の問題点を解決し、撥水性・耐水性に優れ、かつ紫外線等に対して安定で耐久性が良好な木材表面塗工膜を提供することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記目的を達成するため、本発明者は鋭意研究を重ね、木材表面に、下記式(1)で示されるシラン化合物に、これを重合させる触媒を加えて塗布すると、触媒の作用でシラン化合物が硬化・固化し、木材表面のみならず、木材内部にまで撥水性及び耐水性が付与され、その結果、耐久性を付与し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0021】
即ち、本発明は、下記の木材表面塗工液及び木材表面塗工方法を提供する。
[1]下記式(1)で示されるシラン化合物と、該シラン系化合物を硬化及び/又は固化させる触媒とを主成分として含有する木材表面塗工液。
【化3】

(式(1)において、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なってもよい、水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基であり、Rはこれらの基内にハロゲン原子又はエポキシ基を含んでもよい、炭素数が1〜10のアルキル基、アルケニル基又はフェニル基であり、nは2〜10である)
【0022】
[2]前記式(1)で示されるシラン化合物の含有量が、20〜75重量%である、上記[1]に記載の木材表面塗工液。
【0023】
[3]前記シラン系塗工液を硬化及び/又は固化させる触媒が、加水分解可能な有機金属化合物である上記[1]〜[2]のいずれかに記載の木材表面塗工液。
【0024】
[4]前記加水分解可能な有機金属化合物が、チタニウム、ジルコニウム及びアルミニウムから成る群から選ばれる一種以上の金属のアルコキシドである上記[3]に記載の木材表面塗工液。
【0025】
[5]さらに、下記式(2)で示されるシラン化合物を含有する上記[1]〜[4]のいずれかに記載の木材表面塗工液。
【化4】

(式(2)中、R及びRは、それぞれ同一又は異なっていてもよい、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基又はアルケニル基であり、RO及びROとSiとの結合はシロキサン結合であり、R及びRは、その基内にエポキシ基又はグリシジル基を含んでいてもよい、炭素数が1〜10のアルキル基、アルケニル基又はフェニル基である。)
【0026】
[6]さらに、下記式(3)で示されるシラン化合物を含有する上記[1]〜[5]のいずれかに記載の木材表面塗工液。
Si(OR (3)
(式(3)中、Rは、それぞれ同一又は異なってもよい、水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基である。)
【0027】
[7]上記[1]〜[6]のいずれかに記載の木材表面塗工液を木材表面に塗布する工程を有する木材表面処理方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、木材表面に良好な撥水性及び耐水性を付与することができる木材表面塗工液を提供する。
本発明の木材表面塗工液は、造膜性に優れ、即ち、木材の撥水性・耐水性を長期間保持できる表面処理を可能にする。
本発明によれば、木材表面の自然の風合いを損なうことなく、耐久性の高い保護被膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0030】
1.木材表面塗工液
本発明の木材表面塗工液(以下、本発明の塗工液ということがある)は、上記式(1)に示すシラン(ケイ素)化合物(以下、シラン化合物(1)ということがある)及びシラン系化合物を硬化及び/又は固化させる触媒を主成分として含有する。
【0031】
上記式(1)に示すシラン化合物(1)は、具体的には、3個の加水分解可能な置換基(RO、RO及びRO)と、1個の加水分解不可能な置換基(R)をその分子内に有していることを特徴としている。
【0032】
ここで、3個の加水分解可能な置換基(RO、RO及びRO)の役割は、水と反応し、下記反応式1に示すように、加水分解・縮重合し、強固な3次元のシロキサン結合(≡Si−O−Si≡)のネットワークを形成すことである。
反応式1;
(1)≡Si−OR+HO → ≡Si−OH+ROH
(2)≡Si−OH+HO−Si≡ → ≡Si−O−Si≡+H
(3)≡Si−OH+RO−Si≡ → ≡Si−O−Si≡+ROH
(反応式1中、ORは、OR、OR又はORに相当する。)
【0033】
ここで得られるシロキサン結合の、結合エネルギーは106kcal/molである。一方、有機化合物の典型的な結合であるC−C結合の結合エネルギーは、82.6kcal/molである。従って、シラン化合物(1)が加水分解・縮重合することによって生成する、シロキサン結合を有する塗工膜は、有機化合物由来の塗工膜と比べ、はるかに熱的に安定な塗工膜であることが分かる。この熱的に安定な結合によって形成される塗工膜は、耐熱性・耐摩耗性に優れたものとなり、その結果、耐熱性・耐摩耗性に優れた塗工膜の製造が可能となる。
【0034】
また、1個の加水分解不可能な置換基(R)の役割は、得られた塗工膜に撥水性を与えることにある。そのためにはRは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基や、アルケニル基、フェニル基等が好ましく、またそれらは基内にハロゲン原子やエポキシ基等の置換基を含んでいてもよい。ハロゲン原子を含有することにより、形成された塗工膜は難燃性を示すという利点を有するが、一方では環境に対して悪影響を及ぼす可能性も有り、その使用は制限される。
【0035】
このように1個の加水分解不可能な置換基の役割は、得られた塗工膜に撥水性を与えることにあるが、その他に塗工膜に柔軟性を与える効果もある。
【0036】
ケイ素は4価の元素であるため、通常用いられている、4個の加水分解可能な置換基を有するテトラアルコキシシラン(Si(OR))を用いると、4個のシロキサン結合が生じる。この結合は強固であるが故に柔軟性が無く、塗工後に生じる、木材の温度差等による収縮・膨張に耐えられず、塗工膜がひび割れることが多く、耐久性の低下の原因となる。
【0037】
また、このようなテトラアルコキシシランは完全な無機物であるため、有機物である木材との相性が悪く、木材/塗工膜間の付着強度が低く、剥がれが生じ易い。このように、通常用いられている4個の加水分解可能な置換基を有するテトラアルコキシシランを用いると、塗工膜のひび割れや、剥がれが生じ易く、耐久性の高い塗工膜は得られない。
【0038】
本発明で用いられる、上記シラン化合物(1)は、1個の加水分解不可能な置換基(R)をその分子内に有している。即ち、重合した場合に、結合にあずからない部分が、そのネットワーク内に残存することとなる。これにより、隣接するケイ素原子との間で、強固なシロキサン結合の数が1つ足りないが、その分、未反応な結合が、言わば「宙ぶらりん」の形で残るため、塗工膜の柔軟性を維持でき、それにより、得られた塗工膜が柔軟性を示すことになる。この塗工膜の柔軟性が木材の収縮・膨張により生じる応力を緩和し、塗工膜のひび割れ防止の役割を果たす。
【0039】
従って、本発明で用いられるシラン化合物(1)は、3個の加水分解可能な置換基と1個の加水分解不可能な置換基をその分子内に有していることを必要とするのである。
【0040】
このようなシラン化合物(1)の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、γ-(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、β-(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、-(メタクリロキシプロピル)トリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン等や、これらの2〜10分子程度の縮合体を例示できる。なお、シラン化合物(1)は、かかる単量体の1種類のみを縮合したものであっても、また上記例示した単量体の2種類以上を縮合したものであってもよい。このようなシラン化合物(1)は、単独で使用してもよいし、2種類以上の混合物として使用してもよい。
【0041】
ここで加水分解可能な置換基(RO、RO及びRO)は、水と反応し上記反応式1の(1)〜(3)に従い、最終的にはシロキサン結合(≡Si−O−Si≡)を生成する。これらの反応の内、式(1)の反応は最も緩やかな反応(律速段階)であり、式(1)の反応を素速く進行させることが重要である。式(1)の反応を速く進行させるには、通常酸触媒及び反応水が添加され、かつ高温で処理することが行われている。
【0042】
酸触媒を用いた場合、反応液に水と酸が添加された時点で反応が開始され、木材表面に塗工する時には、すでに塗工液内には微小なコロイド状シリカが生成している。このものは、コロイド状であるため、木材表面内部への浸透はせず、木材表面や表面に近い部分にのみ塗工される。従って、このようなコロイド状のシリカ溶液を用いても、十分に耐久性のある耐水性を有する塗工膜は得られない。
【0043】
また反応液内に含有されている酸触媒が、木材の劣化を著しく促進するため、酸を含有した塗工液の使用は制限される。
【0044】
本発明では、木材表面から内部に浸透し易く、かつ内部に浸透したシラン化合物(1)が内部の水と反応し、その場で縮・重合反応を生じ、木材内部よりシロキサン結合のポリマーが成長することを想定している。その結果、木材内部の細部にまでポリマーが満たされることになり、水の浸入を効果的に抑えることができる。そのため、本発明で用いられるシラン化合物(1)は、ある程度分子量の小さいものである必要がある。木材内部への浸透性を勘案すると、単量体(モノマー)が最適であるが、単量体は蒸気圧が高い、即ち蒸発して飛散し易く、取り扱いが困難となるため、より好ましくはオリゴマー体、即ちn=2〜10程度のオリゴマー体を用いることが好ましい。これにより、木材内部への浸透性を高めるという目的を達成することができる。
【0045】
なお、このようなシラン化合物(1)は、水と反応してシロキサン結合を形成するが、木材用処理剤として使用する本発明では、反応を促進させるための触媒として、上記問題点から、酸触媒は加えていない。本発明においては、酸触媒の代わりに、水と出会うと直ちに、シラン化合物(1)の加水分解及び、縮・重合反応を進行させることができる触媒を用いている。このような触媒としては、加水分解可能な有機金属化合物を用いている。
有機金属化合物としては、例えば、金属アルコキシドを用いる。このような目的で使用される金属アルコキシドとしては、アルミニウム、チタニウム、ジルコニウム等の金属のアルコキシドが挙げられる。
【0046】
より具体的には、テトラプロポキシチタネート、テトラブトキシチタネート、テトラプロポキシジルコネート、テトラブトキシジルコネート、トリプロポキシアルミネート、アルミニウムアセチルアセトナート等を例示できる。
チタニウムのアルコキシドを例に挙げると、シラン化合物(1)の反応は、以下のように進行する。
【0047】
反応式2;
(4)≡Ti−OR+HO → ≡Ti−OH+ROH
(5)≡Ti−OH+RO−Si≡ → ≡Ti−O−Si≡+ROH
(反応式2中、ORは、OR、OR又はORを示す。)
【0048】
このように、水と反応し易い金属アルコキシドとシラン化合物(1)を含有する本発明の塗工液を木材表面に塗工すると、木材内部に両液剤が浸透し、内部に存在する水と金属アルコキシドが先ず反応し(反応式2の(4))、さらに分解した金属アルコキシドとシラン化合物(1)とが反応し(反応式2の(5))、木材内部よりポリマーが生成する。これにより木材組織との間に強い付着力を持った膜が、木材表面に得られる。これにより耐水性の高い塗工膜ができる。また一方で、反応にあずからない置換基(R)に由来する撥水性及び柔軟性により、塗工膜の耐久性をさらに向上させることができる。
【0049】
本発明の塗工液中における触媒の含有量は、シラン化合物中のケイ素原子及び金属アルコキシド中の金属原子(M)のモル比(M/Si)で、通常M/Si=0.001〜0.1、好ましくは0.005〜0.05である。触媒の含有量(M/Si)が0.001より少ないと、短時間で反応が進行しないため、長時間未反応の状態すなわち、濡れた状態となり、作業性が悪いばかりでなく、膜の強度低下の原因となるおそれがある。一方、0.1より多いとシラン化合物と金属アルコキシド間の反応が不均一となり(金属アルコキシド同士が先に反応する)、ケイ素原子と金属原子の塗工膜内でのバランスが悪くなり、膜強度の低下の原因となるおそれがある。
【0050】
このようにして木材表面に形成された塗工膜は、木材表面のみに存在する高分子状のコート層ではなく、実際には表面から木材内部にまで入り込んで存在し、その内部で木材の細孔を埋める役割を果たしている。従って、従来の塗工液とは異なり、木材表面には薄い塗工膜(コート層)が存在するのみであり、その結果、木材の天然の風合いを損なうことなく残すことができる。即ち、木材が本来有している湿度調整機能や風合いを損なうことなく、撥水性や耐久性を付与する表面処理が可能となる。
【0051】
本発明の塗工液に使用されるシラン化合物(1)の、塗工液中での含有量は、その塗工目的や木材の表面状態により適宜選択すべきであるが、木材内部への浸透し易さを考慮すると、塗工液の全重量100重量%に対して、通常、20〜75重量%、好ましくは25〜60重量%とする。シラン化合物(1)の含有量が20重量%より少ないと、得られた塗工膜が薄くなりすぎ、撥水性や耐久性などの性能を十分に発揮することができないおそれがある。また、75重量%より多いと、その反対に、得られた塗工膜が厚すぎ、撥水性などの性能は向上するが、ひび割れが発生するおそれがある。
なお、塗工液が後述する有機溶剤を含む場合、塗工液の固形分全量100重量%中のシラン化合物(1)の含有量は、通常10〜99重量%、好ましくは30〜98重量%である。
【0052】
シラン化合物(1)は、上述したように、単一で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また本発明では、シラン化合物として、シラン化合物(1)のみを含む塗工液に、さらに下記式(2)で示されるシラン化合物(以下、シラン化合物(2)ということがある)を添加した塗工液とすることも好ましい。シラン化合物(2)を添加することにより、シラン化合物(2)が有する柔軟性等の性質を塗工膜に付与し、又は、撥水性や木材との付着性を向上させる等の有機性の性質を高めることができる。
【0053】
【化5】

【0054】
シラン化合物(2)は、ケイ素の4個の置換基のうち、2個が加水分解可能な置換基(RO及びRO)であり、他の2個が加水分解不可能な置換基(R及びR)から成り立っている。式(2)において、R及びRは、それぞれ同一又は異なっていてもよい、水素若しくは炭素数1〜10のアルキル基又はアルケニル基であり、RO及びROとSiとの結合はシロキサン結合であり、R及びRは、その分子内にエポキシ基又はグリシジル基を含んでいてもよい、炭素数が1〜10のアルキル基、アルケニル基又はフェニル基である。
【0055】
シラン化合物(2)の具体例としては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン等や、これらの2〜10分子程度の縮合体を例示できる。なお、シラン化合物(2)は、かかる単量体の2種以上の縮合体であってもよく、また、さらに2分子以上の縮合体を使用する場合にも、かかる単量体の2種以上の縮合体であってもよい。
【0056】
上記したような、シラン化合物(2)を塗工液に添加することで、塗工膜の撥水性や柔軟性又は、木材の有機成分との付着性をさらに高めることができ、結果的に木材の耐久性をさらに向上させることができる。
【0057】
シラン化合物(2)は、塗工液の主たるシラン化合物成分である、前記シラン化合物(1)の100重量部に対し、一般的にはその総量が50重量部を超えない範囲にて、塗工液に添加することが好ましい。添加量がこの範囲を超えると、塗工液を木材に塗布し、加水分解・縮重合を行う過程で、主たるシラン化合物成分であるシラン化合物(1)との間でうまく結合が形成されず、塗工膜の強度が不十分となる可能性があるからである。従って、実際にシラン化合物(2)を添加する場合には、添加量に依存して塗工膜の強度が低下することを想定し、目的に応じてその添加を必要最小限に抑えるようにすることが好ましい。
【0058】
なお、シラン化合物(2)における加水分解不可能な置換基(R、R)の第一義的な役割は、塗工膜に柔軟性を与えることにあるが、これらはアルキル基等の有機性置換基であるため、同時に塗工膜に撥水性を付与する役割をも果たす。一般に有機性置換基は、炭素数が増える程、有機性、即ち撥水性が増加するが、炭素数があまり大きくなると、立体障害により塗工膜内に歪が生じて膜の強度低下の原因となる。
【0059】
ところで、耐熱性・耐摩耗性の強いシロキサン結合は、一方でいわゆる「硬い」結合でもある。この「硬さ」のため、塗工液を塗布する素材である木材に塗布することにより、該素材に耐摩耗性を付与できるわけである。しかし、木材表面の塗工膜は柔軟性を有することが必要であり、時としてその素材である木材と同様な柔軟性が求められる。
【0060】
従来から一般に用いられているゾル−ゲル塗工液には、出発原料にテトラアルコキシシラン(Si(OR))やそのオリゴマー体が用いられる。このものを完全に加水分解及び縮重合反応(前記反応式1における(1)〜(3))させて塗工膜を形成させると、ケイ素原子の4個の結合全てが硬いシロキサン結合のネットワークを形成し、セラミックと同様に硬い塗工膜が形成される。しかしながら、柔軟性に欠けた脆い膜となってしまうため、木材の柔軟性を生かした木材表面塗工液を製造することは事実上不可能であった。
【0061】
これに対し本発明では、ケイ素原子の4個の置換基のうち、1個が加水分解されないシラン化合物(1)を木材表面塗工液の主たるシラン化合物成分として用いることで、この課題を解決したものである。また本発明では、加水分解されない置換基をそれぞれ2個有するシラン化合物(2)を木材表面塗工液に添加することにより、さらに塗工膜の柔軟性等を増すことが可能となる。
【0062】
シラン化合物(2)の含有量は、要求される特性に応じて適宜決定すべきであるが、塗工液中の有機溶剤を除く固形分全量に対して、通常0〜50重量%、好ましくは5〜20重量%である。シラン化合物(2)の含有量が50重量%を超えると、上記したように塗工液を木材に塗布し、加水分解・縮重合を行う過程で、主たるシラン化合物成分であるシラン化合物(1)との間でうまく結合が形成されず、塗工膜の強度が不十分となる可能性があるからである。
【0063】
もちろん、得られる塗工膜に耐摩耗性が必要とされる場合には、シラン化合物(1)のみでは不十分な場合がある。この場合には、より無機性が高い、即ち、より硬い膜が得られる、下記式(3)で示されるシラン化合物(テトラアルコキシシラン;以下、シラン化合物(3)ということがある式(3))や、そのオリゴマー体を、シラン化合物(1)、又はシラン化合物(1)及びシラン化合物(2)を含む塗工液に加えることにより、耐摩耗性が向上した塗工膜を与える塗工液を得ることができる。
Si(OR (3)
(式(3)中、Rは、それぞれ同一又は異なってもよい、水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基である。)
【0064】
シラン化合物(3)の含有量は、要求される特性に応じて適宜決定すべきであるが、塗工液中の有機溶剤を除く固形分全量に対して、通常0〜50重量%、好ましくは5〜20重量%である。シラン化合物(3)の含有量が50重量%を超えると、得られた塗工膜が硬くなりすぎ、すなわち柔軟性が失われ、ひび割れのおそれがある。
【0065】
即ち、本発明で用いる3種類のシラン化合物の特性は下記表1の通りである。
【0066】
【表1】

【0067】
このように、本発明の塗工液は、シラン化合物(1)を必須成分とし、木材表面塗工液に求められる撥水性や柔軟性、あるいは耐摩耗性の程度に応じ、シラン化合物(2)及び/又はシラン化合物(3)を、必要に応じて添加することにより、撥水性のみならず、耐摩耗性、柔軟性等の、木材表面塗工膜に求められる実用上の性能を付加・向上させることができる。
【0068】
また、本発明の塗工液には、シラン化合物(1)及び必要に応じてシラン化合物(2)及び/又はシラン化合物(3)、及び触媒を均一に混合させるため有機溶剤を添加することができる。この目的で使用される有機溶剤としては、アルコール類が好ましい。より具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール又はヘキサノール等を例示できる。また、その添加量を制御することによって、塗工液の粘度や乾燥速度の調整も可能である。本発明の塗工液中における有機溶剤の含有量は、塗工液中の固形分全量(即ち、シラン化合物(1)+必要に応じてシラン化合物(2)及び/又は(3)+触媒の合計量)100重量部に対して、通常10〜400重量部、好ましくは、30〜200部である。有機溶剤の含有量が10重量部より少ないと、塗工液の粘度が高くなりすぎ、木材の内部及び細部に十分に液剤が到達しないおそれがあり、また、均一な塗工膜が得られないおそれがある。一方、400重量部より多いと、塗工液の固形分が低くなり(薄くなり)、十分な性能を発揮できないおそれがある。
【0069】
なお、本発明の塗工液には、本発明の目的を損なわない範囲で、求められる特性に応じて種々の添加剤等の成分を添加することができる。任意に添加しうる成分としては、例えば、着色剤、紫外線防止剤、坑カビ剤、抗菌剤、防蟻剤等が挙げられる。
【0070】
2.木材表面処理方法
本発明の塗工液を木材表面に塗布する工程を有する木材表面処理方法では、まず、任意の木材を、任意の寸法・形状に切断、加工し、これに前記した本発明の塗工液を塗布する。具体的な塗布の方法は、特に制限されないが、例えば、塗工液に木材を浸漬したり、塗工液を木材に塗りつけたり、或いは塗工液を木材に吹き付けたりすることにより行い得る。
【0071】
木材を塗工液に浸漬する場合、その浸漬条件は、常圧で行ってもよいし、減圧あるいは加圧下で行ってもよい。液剤を木材内部へより浸透させるためには、減圧あるいは加圧下で行うことが一般的であるが、作業性を考慮すると常圧下で行うことが好ましい。
【0072】
塗工液に浸ける時間は、塗工液の組成、濃度及び木材の種類により異なり、一義的には決められないが、一般的には、10秒〜1時間の範囲内で十分である。
【0073】
刷毛塗りの場合、2度塗りで十分である。これ以上塗っても、塗工量が多すぎ液剤が無駄になるだけでなく、表面の屈折率が変化し、木材の自然な風合いが損なわれてくる。また、塗工膜の膜厚が厚くなると、それだけ塗工膜がヒビ割れる可能性が高くなる。
【0074】
含浸法、刷毛塗り法、スプレー法いずれの方法を用いて塗布した場合でも、木材表面の自然な風合いを残すためには、木材表面に付いた余分な塗工液を、布や紙等で拭き取ることが好ましい。
【0075】
本発明の塗工液を塗布する対象である木材には、特に制限はない。なお、本発明の塗工液の塗布後、木材に対して後処理を施すこともできる。これにより、木材表面の耐久性を更に増すことができる。この後処理に用いられる薬剤としては、一般に使用されている天然オイルや樹脂が特別な制限無く使用できる。もちろんこれらの薬剤は、後処理ではなく前処理としても同様に用いることができる。
【0076】
このように本発明は、シラン化合物(1)を必須のシラン化合物成分とし、更にシラン化合物(1)が木材に浸透し、その内部の水分と反応して、木材内部に固定化するために必要な触媒として、金属アルコキシドを共存させ、必要に応じて、木材塗工膜に求められる撥水性や柔軟性、あるいは耐摩耗性の程度に応じ、シラン化合物(2)及び/又はシラン化合物(3)を添加することにより、得られる塗工膜の撥水性、柔軟性、耐摩耗性等の、表面処理木材に求められる実用上の性能を付加・向上させることができる。
【実施例】
【0077】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、実施例はあくまで一例であって、本発明を何ら限定するものではない。
【0078】
[塗工液の製造]
実施例1
メチルトリメトキシシラン縮合体(MTM、シラン化合物(1)に相当。合成方法は、特許第3456956号参照)(平均重合度7〜8、3官能シラン)57.7g(Siとして0.6mol)をイソプロピルアルコール40.6gに溶解し、そこに触媒としてチタンテトラプロポキシド1.7g(Ti/Si=0.01)を加え、十分に攪拌し、塗工液Aを製造した。
【0079】
実施例2
メチルトリメトキシシラン縮合体(MTM、シラン化合物(1)に相当)(平均重合度7〜8、3官能シラン)48.1g(Siとして0.5mol)及び、ポリメチルフェニルシロキサン(MPS、ジーイー東芝シリコーン製、シラン化合物(2)に相当。2官能シラン)8.0gを、イソプロピルアルコール42.2gに溶解し、そこに触媒としてチタンテトラプロポキシド1.7gを加え、十分に攪拌し、塗工液Cを製造した。
【0080】
実施例3
メチルトリメトキシシラン縮合体(MTM、シラン化合物(1)に相当)(平均重合度7〜8、3官能シラン)28.9g(Siとして0.3mol)及び、テトラメトキシシラン縮合体(MS−51、コルコート社製、シラン化合物(3)に相当)(平均重合度3〜4、4官能シラン)35.3g(Siとして0.3mol)をイソプロピルアルコール34.1gに溶解し、そこに触媒としてチタンテトラプロポキシド1.7g(Ti/Si=0.01)を加え、十分に攪拌し、塗工液を製造した。
【0081】
実施例4
メチルトリメトキシシラン縮合体(MTM、シラン化合物(1)に相当)(平均重合度7〜8、3官能シラン)48.1g(Siとして0.5mol)及び、2官能シラン(ジーイー東芝シリコーン製、ジメチルシリコーン)8.0gを、イソプロピルアルコール42.2gに溶解し、そこに触媒としてチタンテトラプロポキシド1.7g(Ti/Si=0.01)を加え、十分に攪拌し、塗工液Bを製造した。
【0082】
比較例1
テトラメトキシシラン縮合体(MS−51、シラン化合物(3)に相当)(平均重合度3〜4、4官能シラン)70.7g(Siとして0.6mol)をイソプロピルアルコール27.6gに溶解し、そこに触媒としてチタンテトラプロポキシド1.7g(Ti/Si=0.01)を加え、十分に攪拌し、塗工液を製造した。
【0083】
比較例2
メチルトリメトキシシラン縮合体(MTM、シラン化合物(1)に相当)(平均重合度7〜8、3官能シラン)57.7g(Siとして0.6mol)をイソプロピルアルコール42.3gに溶解し、十分に攪拌し、塗工液を製造した。
【0084】
比較例3
木材表面塗装材として代表的市販品である、オスモカラー(クリアータイプ)(日本オスモ(株)製)をそのまま用いた。
【0085】
試験例1:60℃温水処理耐水テスト
木材サンプル
市販のスギ材を、縦4cm、横4cm、厚さ1cmに裁断し、塗工用試験片とした。このスギ材は脱脂処理等の、特別な処理をすることなく、そのまま使用した。なお、各試験片は3枚ずつ処理し、その平均を取った。
【0086】
塗工処理方法
実施例1〜3及び比較例1〜3で製造した塗布液を用い、塗工用試験片の裁断面を上にして、4cm以上の深さで各塗工液を入れた容器内に浸け、1分間含浸させた。含浸後、容器内より取り出し、木材サンプル表面の余分な液剤を紙で軽く拭き取り、室温で4日間放置した。塗工量(%)は、下記計算式(1)より算出した。
計算式(1)
塗工量(%)=(塗工後重量(g)−塗工前重量(g))/塗工前重量(g)×100
【0087】
試験方法
実施例1〜3及び比較例1〜3で製造した塗布液を用いて処理した各塗工用試験片、及び比較例4として未処理の木材試験片を、100mlのポリエチレン製カップ(容量:約120ml、高さ:約7.5cm)に、裁断面を上にして入れ、60℃の温水を満たし、上部をポリエチレン製シート(サランラップ)で覆い、輪ゴムを用いて密封した。
【0088】
この容器を、60℃の湯水糟に7時間浸けた。温水処理後、容器より木材サンプルを取り出し、サンプル表面の水分を紙で軽く拭き取り、直ちにサンプルの重量を測定した。重量増加率(%)は、下記計算式(2)より算出した。なお、ここで、処理前重量(g)は、上記計算式(1)の塗工後重量(g)と同じである。
計算式(2)
重量増加率(%)=(処理後重量(g)−処理前重量(g))/処理前重量(g)×100
【0089】
得られた結果を表2に示す。
【0090】
【表2】

【0091】
試験例2:促進耐候性特性−1
試験の目的
本発明の塗工液は、無機化合物を主体とした透明な塗工膜を形成するため、下地の木質を紫外線から防御することは難しいと思われる。しかし、シロキサン結合を主体とする無機系塗工膜自体は、紫外線に対し安定であると予想できる。そこで、紫外線に対する安定性を確認するため、1500時間の促進耐候性試験を行った。
【0092】
塗工液
塗工液は、実施例1、2及び4で製造した塗工液A、C及びBの3種類を用いた。
【0093】
木材サンプル及び塗工処理方法
塗工用試験片は、上記評価例1と同様のスギ材を用い、評価例1と同様に塗工処理を行った。なお、各試験片は2枚ずつ処理した。
【0094】
促進耐候性試験
JIS K 7350−2−1995に規定の曝露試験方法に準拠し、250、500、1000及び1500時間において促進耐候性試験を実施した。測定機器は、アストラ社製、ウエザオメータ Ci4000を使用した。光源はキセノンランプを使用した。
色差試験方法
促進耐候性試験実施後に、色彩計を用いて色差(ΔE*)の変化を調べた。色彩の測定には、日本電色工業社製、簡易分光色差計 NF−333を用いた。
【0095】
撥水度試験方法
撥水度(%)は、試験片に1gの水を滴下し、1分後に拭き取り、その時の重量を測定し、下記計算式(3)より算出した。なお、ここで、滴下前重量(g)は、促進耐候性試験直後の木材の重量である。
計算式(3)
撥水度(%)=(拭き取り後重量(g)−滴下前重量(g))/滴下前重量(g)×100
【0096】
結果を図1及び図2に示す。図1は、木材表面の色差(ΔE*)の変化、図2は撥水度の変化を示す。図1より、本発明の塗工膜は、透明なため、予想通り紫外線を通し、木材表面のリグニンの光分解を阻止することはできなかった。その一方で、図2より、特に塗工液C(シラン化合物(1);3官能シラン+シラン化合物(2);2官能シラン)から生成した塗工膜では、1500時間の紫外線照射後でも、撥水度にはほとんど変化が無いことが認められた。即ち、本発明の塗工膜は紫外線照射後でも、なんら変化なく木材表面に保持されていることが認められた。
【0097】
このことは、本発明の塗工液を塗布して得られる塗工膜が透明であるため、紫外線による木材表面のリグニンの分解を阻止できないが、木材表面を覆っているシロキサン結合は紫外線に対して安定であるため、分解物等の表面よりの脱離(分離)を防ぐことはできる。即ち、塗工後の表面状態を長期間安定して保持でき、その結果、撥水度に変化が無かったものであることが認められた。
【0098】
上記結果から、本発明の塗工液と紫外線防止効果のある他の塗工液を併用すれば、木材表面を紫外線による分解から防御することが可能で、かつ、脱離(分離)しない理想的な塗工膜が得られることを意味する。
【0099】
試験例3:耐候性特性−2
紫外線吸収剤を下塗りし、その上に塗工液A、もしくは下塗りと同じ紫外線吸収剤を塗布した木片を用い、紫外線に対する木材表面の劣化を、水の吸水量で示した。
【0100】
木材
試験例1と同様のスギ材の塗工用試験片を用いた。
【0101】
塗工液
塗工液A及び、紫外線吸収として、「リボス・カラーオイル」(輸入元、株式会社イケダコーポレーション)及び「木肌美人」(株式会社ミヤキ製)を用い、下記表3に示す下塗り剤及び上塗り剤の組み合わせで表面処理した木材試験片に対し、促進耐候性試験を実施した。
【0102】
試験方法
促進耐候性試験
JIS K 7350−2−1995に規定の曝露試験方法に準拠した。光源はキセノンランプを用いた。
【0103】
吸水量測定方法
試験片に1gの水を滴下し、1分後に表面の水を拭き取りその時の試験片の重量を測定し、下記計算式(4)により、吸水量を算出した。なお、ここで、滴下前重量(mg)は、促進耐候性試験直後の木材の重量である。
計算式(4)
吸水量(mg)=拭き取り後重量(mg)−滴下前重量(mg)
【0104】
促進耐候性試験による500時間後までの吸水量の結果を表3に示す。
【0105】
【表3】

【0106】
表3の結果から、水の吸収量は塗工液Aを下塗り及び上塗りに用いたものが最も少なかった。このことからも、本発明の塗工液を塗布した木材表面塗工膜の紫外線に対する安定性が高いことが認められた。ただし、塗布液Aのみでは、木材の脱色は抑えられなかった。
【0107】
紫外線防止剤である「リボス」及び「木肌美人」を下塗り剤として用い、塗工液Aを上塗り剤として用いた場合の吸水量は、紫外線防止剤のみを用いた場合と比較して、少なく、良好な結果となっていた。
【0108】
また、木材表面の脱色性を比較すると、明らかにクリアー塗装である本発明の塗工液Aのみを塗工した場合よりも、紫外線吸収剤を下塗りした試験片の方が脱色の程度が少なかった。
【0109】
このことより、紫外線吸収剤と本発明の塗工液の組み合わせに、耐紫外線特性の有効性が見出された。
【0110】
シラン化合物(1)は、木材表面に塗工されると、毛細管現象により木材内部に浸透する。その後、木材内部、表面もしくは空気中の水分(湿気)により、式(1)の化合物の3個のアルコキシ基が加水分解し、重縮合反応を経ることにより成長したシロキサンポリマーが、木材内部組織と強く結合する。このことにより得られた塗工膜が、木材内部の毛細管現象を押さえ、その結果、木材表面よりの水の浸透を防ぐことになり、木材の耐水性・耐久性を向上させる効果を示す。
【0111】
また、これらのアルコキシ基は、それ自身でも水が存在するとゆっくりと加水分解・重縮合するが、その速度は非常に遅いと言われている。この、加水分解・重縮合反応を促進する触媒が、金属アルコキシドであり、これを共存させた本発明の塗工液(実施例1〜4)は、触媒を共存させない塗工液(比較例2)に比べて、はるかに耐水性がよいことが認められた。
【0112】
一方、1個の加水分解不可能な置換基(R)は、有機性置換基であるため、それ自身強い撥水性を示す。また、この置換基の有機性は、塗工膜に有機性を付与することになり、木材内部のリグニンやセルロース等の有機成分との親和性が向上し、塗工膜の木材内部での付着性を向上させる効果がある。
【0113】
また、式(1)の化合物内に、1個の加水分解不可能な置換基(R)が存在することにより、隣接するケイ素原子との間で、強固なシロキサン結合の数が1つ足りなくなるが、その分未反応な結合が、いわば「宙ぶらりん」の形で残るため、塗工膜の柔軟性を維持でき、そして結果的には木材の膨張・収縮時の応力を吸収できる構造となり、塗工膜と木材内部との付着性向上に寄与できる。
【0114】
また、シロキサン結合自身は完全に無機結合であるため、紫外線による光分解反応には強く、光劣化しないことが知られている。このため、屋外で使用しても、長期間安定した塗工膜を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の木材表面塗工液は、木材表面に耐水性、撥水性に優れ、かつ紫外線等に対して安定な耐久性が良好な塗工膜を形成でき、木材の耐久性を高めることができるため、種々の用途に用いられる木材の長期保存性を大幅に改善することができる点で有用である。
本発明によれば、木材表面の自然の風合いを損なうことなく、保護被膜を形成できるため、木材表面の風合いを生かしたい場面において、非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明の塗工膜を塗工した木材試験片の促進耐候性試験による木材表面の色差(ΔE*)の変化を示すグラフである。
【図2】本発明の塗工膜を塗工した木材試験片の促進耐候性試験による撥水度の変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるシラン化合物と、該シラン系化合物を硬化及び/又は固化させる触媒とを主成分として含有する木材表面塗工液。
【化1】

(式(1)において、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なってもよい、水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基であり、Rはこれらの基内にハロゲン原子又はエポキシ基を含んでもよい、炭素数が1〜10のアルキル基、アルケニル基又はフェニル基であり、nは2〜10である)
【請求項2】
前記式(1)で示されるシラン化合物の含有量が、20〜75重量%である、請求項1に記載の木材表面塗工液。
【請求項3】
前記シラン系塗工液を硬化及び/又は固化させる触媒が、加水分解可能な有機金属化合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の木材表面塗工液。
【請求項4】
前記加水分解可能な有機金属化合物が、チタニウム、ジルコニウム及びアルミニウムから成る群から選ばれる一種以上の金属のアルコキシドである請求項3に記載の木材表面塗工液。
【請求項5】
さらに、下記式(2)で示されるシラン化合物を含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の木材表面塗工液。
【化2】

(式(2)中、R及びRは、それぞれ同一又は異なっていてもよい、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基又はアルケニル基であり、RO及びROとSiとの結合はシロキサン結合であり、R及びRは、その基内にエポキシ基又はグリシジル基を含んでいてもよい、炭素数が1〜10のアルキル基、アルケニル基又はフェニル基である。)
【請求項6】
さらに、下記式(3)で示されるシラン化合物を含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の木材表面塗工液。
Si(OR (3)
(式(3)中、Rは、それぞれ同一又は異なってもよい、水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基である。)
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の木材表面塗工液を木材表面に塗布する工程を有する木材表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−145896(P2007−145896A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−338669(P2005−338669)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(390027476)株式会社飾一 (8)
【Fターム(参考)】