説明

木目の異方性反射面を表現したエンボスシートの製造方法および製造装置

【課題】 天然木の照りを再現するためのエンボスシートを作成する際に、天然木の材面を撮影する作業および撮影画像に基づく演算処理の負担を軽減する。
【解決手段】 サンプルとなる天然木の切断面を、異なる2方向から照明光を照射した状態で撮影することにより、第1の基本画像P1および第2の基本画像P2を得る。両画像における対応する画素の画素値P1(x,y)、P2(x,y)の差をとった差分画像Dもしくは比をとった対比画像Qを求める。個々の画素値を所定範囲の角度値θ(−45°〜+45°)に対応づけることにより、差分画像Dの画素値D(x,y)もしくは対比画像Qの画素値Q(x,y)を、対応する所定の角度値θに置き換え、二次元平面上に角度分布を定義する。そして、各位置に定義された角度に応じた向きを有する万線を生成し、これを凹凸パターンとして表現したエンボスシートを作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木目の異方性反射面を表現したエンボスシートの製造方法および製造装置に関し、特に、天然木材の表面に現れる「照り」あるいは「もく」と呼ばれている光沢模様を表現するために、木目柄パターンの印刷面の上に積層して用いる木調質感エンボスシートを製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
壁紙や床材などの建材の表面装飾や、家具の表面装飾の模様として、木目柄パターンは最も好まれて用いられるモチーフである。このような木目柄パターンをもった印刷物を作成する場合、通常は、天然木の材面をカメラなどで撮影し、この天然木のもつ木目柄パターンをそのまま利用する方法が採られる。近年では、印刷分野においてもコンピュータを利用した画像処理技術が普及してきているため、天然木の木目柄パターンをCCDカメラなどで画像データとして取り込み、この画像データに対して、コンピュータを利用して必要な画像処理を施し、処理後の画像データに基づいて印刷を行うという手法も広く行われている。
【0003】
一般に、天然木にみられる木目模様は、主に、年輪模様、導管溝模様、照り模様などから構成されている。年輪模様は、一年ごとの寒暖差に基づいて天然木の一年の成長に合わせて形成される細胞組織の粗密の模様である。導管溝模様は、天然木の成長に必要な水分や養分の通路として用いられる繊維状の導管を切断することによって得られる断面模様であり、通常は、ややいびつな楕円状をした模様になる。一方、照り模様は、一般に「照り」あるいは「もく」と呼ばれている光沢模様であり、材面からの反射光に基づいて生じる模様である。天然木の材面(切断面)では、繊維質の配向性が部分ごとに異なっており、この配向性の分布が照り模様として観察されることになる。すなわち、異方性反射面における光の反射に基づいて生じる模様であるため、同一の材面であっても、光源からの光の入射方向および観察者による観察方向によって、異なった照り模様が現れることになる。
【0004】
このように、照り模様は、光学的な観察条件によって変化するという特有の性質をもった模様であるため、塩化ビニールなどのシート上に木目柄を印刷した人工的な建材の場合、通常の印刷層のみによって表現することは困難である。そこで、印刷シートの上にエンボスシートを形成した積層構造を採り、このエンボスシートの表面の凹凸構造により、照り模様を表現する技術が提案されている。
【0005】
たとえば、下記の特許文献1〜8には、表面に多数の万線条溝(細かな多数の線状の溝)を形成したエンボスシートにより、木目の異方性反射面を表現するための技術が開示されている。いずれも天然木の繊維質によって生じる光の異方性反射を、万線条溝によって生じる光の反射によって擬似的に表現することになる。このため、たとえば、特許文献3,4,6,8などには、実際の天然木の切断面を撮影し、当該切断面に対する個々の繊維の角度(繊維潜り角)を測定し、得られた繊維潜り角の分布に応じて、万線条溝を形成する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平10−287033号公報
【特許文献2】特開平11−180027号公報
【特許文献3】特開平11−295052号公報
【特許文献4】特開2000−057310号公報
【特許文献5】特開2000−090278号公報
【特許文献6】特開2000−230817号公報
【特許文献7】特開2001−009907号公報
【特許文献8】特開2002−071329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前掲の各特許文献には、前述したとおり、天然木の切断面の撮影画像から繊維潜り角の分布を求め、求めた分布に応じた配向性をもつような万線条溝を形成する方法が開示されている。このように、実際の天然木の切断面における繊維潜り角の分布に応じて万線条溝を形成すれば、自然の風合いをそのまま生かした異方性反射面を再現することが可能になる。しかしながら、現実的には、天然木の切断面の撮影画像を解析して、繊維潜り角の分布を正確に求める作業は、かなり負担の大きな作業になる。
【0007】
特に、撮影画像から繊維潜り角を推定するためには、種々の照明環境の下で撮影した多数の画像を用意する必要があり、撮影作業に大きな負担がかかる。たとえば、前掲の特許文献3に開示されている手法では、照明光の照射角度を細かく数段階に変化させることにより多数の画像を撮影する必要がある。このような問題を解決するために、特許文献4には、いくつかの代表的な照射角度の下でのみ撮影を行い、それ以外の照射角度についての撮影結果を補間処理によって求めることにより、撮影作業の負担を軽減する手法が開示されている。しかしながら、このような手法を採ったとしても、実用上は、代表的な照射角度として8通り程度の撮影を行う必要がある。また、撮影画像から繊維潜り角の分布を正確に求めるためには、前掲の特許文献6,8に開示されているように、光源の配光特性を考慮した補正演算が必要になり、この補正演算のための負担もかなり大きなものになる。
【0008】
そこで本発明は、木目の異方性反射面を表現したエンボスシートを製造する際の作業および処理の負担を軽減させることができる手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) 本発明の第1の態様は、木目の異方性反射面を表現したエンボスシートを製造する製造方法において、
サンプルとなる天然木の切断面を、第1の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより、第1の基本画像を得る段階と、
この切断面を、第2の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより、第2の基本画像を得る段階と、
第1の基本画像を構成する個々の画素と第2の基本画像を構成する個々の画素について、それぞれ対応する位置にある一対の画素の画素値の差を画素値とする差分画像を求める段階と、
差分画像を構成する画素の画素値範囲を所定の角度範囲に対応づけるための対応関係を定義し、差分画像を構成する個々の画素の画素値を、定義した対応関係に基づいて所定の角度に変換することにより、角度画像を求める段階と、
角度画像に基づいて、二次元平面上に角度分布を定義し、各位置に定義された角度に応じた向きを有する万線を生成する段階と、
生成した万線を凹凸パターンとして表現したエンボスシートを作成する段階と、
を行うようにしたものである。
【0010】
(2) 本発明の第2の態様は、木目の異方性反射面を表現したエンボスシートを製造する製造方法において、
サンプルとなる天然木の切断面を、第1の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより、第1の基本画像を得る段階と、
この切断面を、第2の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより、第2の基本画像を得る段階と、
第1の基本画像を構成する個々の画素と第2の基本画像を構成する個々の画素について、それぞれ対応する位置にある一対の画素の画素値の比を画素値とする対比画像を求める段階と、
対比画像を構成する画素の画素値範囲を所定の角度範囲に対応づけるための対応関係を定義し、対比画像を構成する個々の画素の画素値を、定義した対応関係に基づいて所定の角度に変換することにより、角度画像を求める段階と、
角度画像に基づいて、二次元平面上に角度分布を定義し、各位置に定義された角度に応じた向きを有する万線を生成する段階と、
生成した万線を凹凸パターンとして表現したエンボスシートを作成する段階と、
を行うようにしたものである。
【0011】
(3) 本発明の第3の態様は、木目の異方性反射面を表現したエンボスシートを製造する製造方法において、
サンプルとなる天然木の切断面を、第1の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより、第1の基本画像を得る段階と、
この切断面を、第2の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより、第2の基本画像を得る段階と、
第1の基本画像を構成する個々の画素と第2の基本画像を構成する個々の画素について、それぞれ対応する位置にある一対の画素の画素値の差を画素値とする差分画像を求める段階と、
差分画像を構成する個々の画素について、その画素値の差分画像内での大小順位を示す順位値を重複のないように求め、差分画像を構成する個々の画素の画素値を順位値に変換することにより、順位画像を求める段階と、
順位値の範囲を所定の角度範囲に対応づけるための対応関係を定義し、順位画像を構成する個々の画素の画素値を、定義した対応関係に基づいて所定の角度に変換することにより、角度画像を求める段階と、
角度画像に基づいて、二次元平面上に角度分布を定義し、各位置に定義された角度に応じた向きを有する万線を生成する段階と、
生成した万線を凹凸パターンとして表現したエンボスシートを作成する段階と、
を行うようにしたものである。
【0012】
(4) 本発明の第4の態様は、木目の異方性反射面を表現したエンボスシートを製造する製造方法において、
サンプルとなる天然木の切断面を、第1の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより、第1の基本画像を得る段階と、
この切断面を、第2の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより、第2の基本画像を得る段階と、
第1の基本画像を構成する個々の画素と第2の基本画像を構成する個々の画素について、それぞれ対応する位置にある一対の画素の画素値の比を画素値とする対比画像を求める段階と、
対比画像を構成する個々の画素について、その画素値の対比画像内での大小順位を示す順位値を重複のないように求め、対比画像を構成する個々の画素の画素値を順位値に変換することにより、順位画像を求める段階と、
順位値の範囲を所定の角度範囲に対応づけるための対応関係を定義し、順位画像を構成する個々の画素の画素値を、定義した対応関係に基づいて所定の角度に変換することにより、角度画像を求める段階と、
角度画像に基づいて、二次元平面上に角度分布を定義し、各位置に定義された角度に応じた向きを有する万線を生成する段階と、
生成した万線を凹凸パターンとして表現したエンボスシートを作成する段階と、
を行うようにしたものである。
【0013】
(5) 本発明の第5の態様は、上述した第1〜第4の態様に係るエンボスシートの製造方法において、
第1の基本画像および第2の基本画像として、輝度を示す画素値をもった画像を用いるようにしたものである。
【0014】
(6) 本発明の第6の態様は、上述した第1〜第5の態様に係るエンボスシートの製造方法において、
二次元平面上に角度分布を定義する際に、角度画像を構成する個々の画素の位置を示す代表点を定義し、各画素の代表点の位置に当該画素の画素値として定義されている角度値を与え、代表点以外の任意の点については、隣接する複数の代表点の角度値に基づく補間演算により所定の角度値を与えるようにしたものである。
【0015】
(7) 本発明の第7の態様は、上述した第6の態様に係るエンボスシートの製造方法において、
万線を生成する際に、角度分布が定義された二次元平面上に起点を定め、この起点上を最初の位置とする参照点を定義し、この参照点を、「現在位置に定義されている角度値に応じた方向に所定長だけ移動する処理」を繰り返し行い、参照点の移動軌跡により1本の万線を形成する処理を、所定間隔をおいて定義された多数の起点について行うことにより、多数の万線を形成するようにしたものである。
【0016】
(8) 本発明の第8の態様は、上述した第1〜第7の態様に係るエンボスシートの製造方法において、
角度画像を求める際に、角度範囲の幅を90°に設定するようにしたものである。
【0017】
(9) 本発明の第9の態様は、上述した第1〜第8の態様に係るエンボスシートの製造方法において、
第1の基本画像を得る際に、XY平面上に天然木の切断面を配置し、この切断面の上方にラインセンサをY軸に平行になるように配置し、切断面上のY軸に平行な線状領域の画像を取り込めるようにし、線状領域に対して第1の方向から照明光を照射した状態で、切断面をX軸方向に移動させながら、ラインセンサにより切断面の画像を取り込む作業を行うようにし、
第2の基本画像を得る際に、XY平面上に天然木の切断面を配置し、この切断面の上方にラインセンサをY軸に平行になるように配置し、切断面上のY軸に平行な線状領域の画像を取り込めるようにし、線状領域に対して第2の方向から照明光を照射した状態で、切断面をX軸方向に移動させながら、ラインセンサにより切断面の画像を取り込む作業を行うようにしたものである。
【0018】
(10) 本発明の第10の態様は、上述した第9の態様に係るエンボスシートの製造方法において、
ラインセンサをY軸の真上に配置し、第1の基本画像を得る際には、X軸の負の領域から照明光の照射を行い、第2の基本画像を得る際には、X軸の正の領域から照明光の照射を行うようにしたものである。
【0019】
(11) 本発明の第11の態様は、上述した第9または第10の態様に係るエンボスシートの製造方法において、
Y軸に平行な線光源を照明光として用いるようにしたものである。
【0020】
(12) 本発明の第12の態様は、上述した第1〜第11の態様に係るエンボスシートの製造方法において、
天然木に対する撮影環境と同一の撮影環境で白色拡散板に対する撮影を行うことにより補正用画像を求め、この補正用画像を用いて基本画像に対する補正を行うようにしたものである。
【0021】
(13) 本発明の第13の態様は、上述した第1〜第12の態様に係るエンボスシートの製造方法により、木目の異方性反射面を表現したエンボスシートを製造するようにしたものである。
【0022】
(14) 本発明の第14の態様は、木目の異方性反射面を表現したエンボスシートを製造する製造装置において、
サンプルとなる天然木の切断面を、第1の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより得られる第1の基本画像と、第2の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより得られる第2の基本画像と、を入力する画像入力手段と、
第1の基本画像を構成する個々の画素と第2の基本画像を構成する個々の画素について、それぞれ対応する位置にある一対の画素の画素値の差を画素値とする差分画像を求める差分画像演算手段と、
差分画像を構成する画素の画素値範囲を所定の角度範囲に対応づけるために予め定義された対応関係に基づいて、差分画像を構成する個々の画素の画素値を所定の角度に変換することにより角度画像を求める角度画像演算手段と、
角度画像に基づいて、二次元平面上に角度分布を定義し、各位置に定義された角度に応じた向きを有する万線を生成する万線生成手段と、
生成した万線を凹凸パターンとして表現したエンボスシートを作成するエンボスシート作成手段と、
を設けるようにしたものである。
【0023】
(15) 本発明の第15の態様は、木目の異方性反射面を表現したエンボスシートを製造する製造装置において、
サンプルとなる天然木の切断面を、第1の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより得られる第1の基本画像と、第2の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより得られる第2の基本画像と、を入力する画像入力手段と、
第1の基本画像を構成する個々の画素と第2の基本画像を構成する個々の画素について、それぞれ対応する位置にある一対の画素の画素値の比を画素値とする対比画像を求める対比画像演算手段と、
対比画像を構成する画素の画素値範囲を所定の角度範囲に対応づけるために予め定義された対応関係に基づいて、対比画像を構成する個々の画素の画素値を所定の角度に変換することにより角度画像を求める角度画像演算手段と、
角度画像に基づいて、二次元平面上に角度分布を定義し、各位置に定義された角度に応じた向きを有する万線を生成する万線生成手段と、
生成した万線を凹凸パターンとして表現したエンボスシートを作成するエンボスシート作成手段と、
を設けるようにしたものである。
【0024】
(16) 本発明の第16の態様は、木目の異方性反射面を表現したエンボスシートを製造する製造装置において、
サンプルとなる天然木の切断面を、第1の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより得られる第1の基本画像と、第2の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより得られる第2の基本画像と、を入力する画像入力手段と、
第1の基本画像を構成する個々の画素と第2の基本画像を構成する個々の画素について、それぞれ対応する位置にある一対の画素の画素値の差を画素値とする差分画像を求める差分画像演算手段と、
差分画像を構成する個々の画素について、その画素値の差分画像内での大小順位を示す順位値を重複のないように求め、差分画像を構成する個々の画素の画素値を順位値に変換することにより、順位画像を求める順位画像演算手段と、
順位画像を構成する画素の画素値範囲を所定の角度範囲に対応づけるために予め定義された対応関係に基づいて、順位画像を構成する個々の画素の画素値を所定の角度に変換することにより角度画像を求める角度画像演算手段と、
角度画像に基づいて、二次元平面上に角度分布を定義し、各位置に定義された角度に応じた向きを有する万線を生成する万線生成手段と、
万線を凹凸パターンとして表現したエンボスシートを作成するエンボスシート作成手段と、
を設けるようにしたものである。
【0025】
(17) 本発明の第17の態様は、木目の異方性反射面を表現したエンボスシートを製造する製造装置において、
サンプルとなる天然木の切断面を、第1の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより得られる第1の基本画像と、第2の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより得られる第2の基本画像と、を入力する画像入力手段と、
第1の基本画像を構成する個々の画素と第2の基本画像を構成する個々の画素について、それぞれ対応する位置にある一対の画素の画素値の比を画素値とする対比画像を求める対比画像演算手段と、
対比画像を構成する個々の画素について、その画素値の対比画像内での大小順位を示す順位値を重複のないように求め、対比画像を構成する個々の画素の画素値を順位値に変換することにより、順位画像を求める順位画像演算手段と、
順位画像を構成する画素の画素値範囲を所定の角度範囲に対応づけるために予め定義された対応関係に基づいて、順位画像を構成する個々の画素の画素値を所定の角度に変換することにより角度画像を求める角度画像演算手段と、
角度画像に基づいて、二次元平面上に角度分布を定義し、各位置に定義された角度に応じた向きを有する万線を生成する万線生成手段と、
生成した万線を凹凸パターンとして表現したエンボスシートを作成するエンボスシート作成手段と、
を設けるようにしたものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、天然木の切断面を実際に撮影し、この撮影画像に基づいて異方性反射面を表現するための万線条溝を形成する、という基本原理に関しては、従来の手法と共通する。しかしながら、撮影画像から繊維潜り角の正確な分布を求めるという手法は採らず、2通りの照明環境で撮影した2枚の基本画像について、対応画素の画素値の差または比に応じて万線条溝の配向性を決定するようにしたため、撮影作業の負担も演算処理の負担も大幅に軽減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。
【0028】
<<< §1.天然木の材面に現れる照り模様の擬似的再現法 >>>
本発明の主眼は、天然木の材面(切断面)に現れる自然な照り模様を、エンボスシートを用いて人為的に再現することにある。そこで、ここでは、天然木の材面に現れる照り模様の本質と、この照り模様をエンボスシートで擬似的に再現する原理を簡単に述べておく。
【0029】
既に述べたように、一般的な天然木の材面には、年輪模様、導管溝模様、照り模様が存在する。ここで照り模様は、入射光の角度や観察方向によって変化する特有の模様であり、一般に「照り」あるいは「もく」と呼ばれている。たとえば、天然木から切り出した材木板をある方向から観察すると、図1(a) にグレーのトーンで示す領域が白っぽく光って見え、観察方向を若干変えると、今度は、図1(b) に示すように、別な領域が白っぽく光って見える。このように、照り模様のパターンが観察角度によって変化するのは、天然木の材面上では、繊維質の配向性が部分ごとに異なっているためである。天然木の内部には、植物としての営みを行うために、細胞、導管、繊維などの種々の要素が含まれており、これらの要素は全体的には樹木の成長方向を向いている。ここでは、このように樹木の成長方向に沿った軸方向要素を包括的に繊維質と呼ぶことにする。
【0030】
このように、天然木の繊維質の配向性は、全体的には樹木の成長方向を向いているものの、部分的にはその配向性にバラツキを生じていることが多い。このような配向性は一般に「木理」と呼ばれており、配向性の状態により、波状木理、螺旋木理、交錯木理といった名称で呼ばれている。たとえば、実際の天然木の成長方向が鉛直上方向だとすると、天然木内部の繊維質は全体としてはこの鉛直上方向に沿った方向に伸びているが、部分的にはその配向性にバラツキが生じていることになる。このような部分的な配向性のバラツキが、材面上では照り模様として認識されることになる。
【0031】
たとえば、図2に示すような繊維束モデルを考えてみる。ここに示すモデルは、樹木内の導管や繊維などの軸方向要素の配向性を、多数の細長い円筒状繊維11の束で示したものであり、樹木を構成する繊維質の流れの向きを示すものである。もちろん、実際の天然木は、このような単純な円筒状繊維の束から構成されるわけではなく、細胞、導管、繊維など多数の要素を含んでいる。図2に示すモデルは、一般に、波状木理と呼ばれているモデルであり、各基準繊維束は、全体としては鉛直上方に伸びているが、それぞれが波状に揺らいでいる。このような天然木を所定の切断面に沿って切断すると、切断面に現れる繊維の配向性には、ばらつきが生じることになる。
【0032】
図3は、天然木板10の表面近傍のモデルを示す拡大断面図である。この図3では、説明の便宜上、1本の円筒状繊維11のみが示されているが、実際には、多数の繊維が材面12の位置で切断された状態になる。ここで、円筒状繊維11の長手方向軸と材面12とのなす角を繊維潜り角ξと定義すると、この繊維潜り角ξは、個々の繊維ごとに異なることになり、天然木板10のもつ木理に応じて、材面12上に特有の分布をもつことになる。材面12に照射された照明光は、円筒状繊維11の内壁で反射し、その反射特性は繊維潜り角ξに依存する。したがって、材面12上に繊維潜り角ξの分布が生じていると、この分布に応じて異方性反射面が形成されることになる。
【0033】
図4は、天然木板10上に形成された異方性反射面を示す斜視図である。天然木版10の表面には、年輪や導管溝などに基づく木目模様13とともに、図にハッチングを施して示す領域に照り模様14が現れる。ここで、木目模様13は、基本的にどの方向から観察してもほぼ同一の模様になるが、照り模様14は、観察方向によって大きく異なる。照り模様14が、ハッチング領域についてのみ観察されるのは、この領域の繊維潜り角ξの分布が異方性反射を生じさせるための所定条件を満たしているためである。図示の例では、照明光Lが、このハッチング領域で反射して視点15の方向へ向かう状態が示されており、このような環境では、視点15から観察する限り、このハッチング領域が照り模様14として把握されることになる。しかしながら、照明環境や視点15の位置が異なれば、照り模様14が観察される位置やその大きさも異なる。このように、照り模様14は観察環境に応じて変化する模様であり、木目模様13が絵柄模様として認識されるのに対して、照り模様14は文字どおり材面の「照り」として認識される。
【0034】
結局、天然木の材面に現れる照り模様の本質は、木理に基く繊維潜り角ξの分布にあり、繊維潜り角ξがほぼ同じ領域が、ある特定の観察条件において同時に光って見えることになる。したがって、天然木の照り模様を全く同じ原理で再現するためには、エンボスシートの表面に種々の繊維潜り角ξをもった繊維質の構造を物理的に再現する必要がある。しかしながら、現在のエンボス加工技術では、商業用の建材製造プロセスに、このような実際の繊維質構造を再現するための複雑な工程を組み込むことは現実的ではない。現在、一般的に利用されているエンボス版の製造方法は、ダイレクトエッチング法と呼ばれる方法であり、この方法で作成されたエンボス版上には、凹部と凸部との二段階の段差構造が形成されるだけである。このダイレクトエッチング法を何回か繰り返し行えば、多段構造を得ることもできるが、種々の繊維潜り角ξをもった繊維質の構造を物理的に再現することは不可能である。
【0035】
そこで、前掲の各特許公報に開示されている手法では、実際の天然木の材面に現れる繊維潜り角ξという要素を、エンボスシート上に形成された万線条溝(細かな多数の線状の溝)の方向に置き換え、多数の万線条溝として、照り模様を表現している。
【0036】
図5は、エンボスシートE上に形成された万線条溝Gの基本構造を示す斜視図である。この例では、幅W1の万線条溝Gが相互に間隔W2を保ちながら多数形成されている。エンボスシートEの全体の厚みD1に対して、万線条溝Gは深さD2の溝を形成しており、多数の万線条溝Gがほぼ平行に配置されている。一般的には、W1=W2=10〜100μm程度、D2=5〜30μm程度に設定されることが多い。このような万線条溝Gからなるパターンは、幅W1をもった凹部と幅W2をもった凸部との二段階の段差構造からなり、従来の一般的なダイレクトエッチング法を用いて容易に構成することができる。
【0037】
このような万線条溝Gが形成されたエンボスシートEは、その表面から得られる反射光の強度が観察方向によって異なる。このエンボスシートEを、万線条溝Gに平行な面で切断した断面を図6(a) に示し、万線条溝Gに垂直な面で切断した断面を図6(b) に示す。図6(a) に示すように、万線条溝Gに対して平行な方向から入射した光は、万線条溝Gの底面で反射して、そのまま万線条溝Gに沿った方向へと鏡面反射光として射出する。これに対して、図6(b) に示すように、万線条溝Gに対して垂直な方向から入射した光は、万線条溝Gの壁面および底面で何回も反射して、最終的にバラバラな方向へ拡散反射光として射出する。このため、万線条溝Gに平行な方向から観察すると、強い鏡面反射光が得られるが、万線条溝Gに垂直な方向から観察すると、鏡面反射光は弱くなる。
【0038】
万線条溝Gのこのような性質を利用すれば、照り模様を疑似的に表現することが可能になる。たとえば、図7の平面図に示すように、エンボスシートEの表面全体に渡って万線条溝Gを形成しておき、しかも、ある部分領域についての万線条溝Gの向きを異ならせておけば、この部分領域から得られる鏡面反射光の強度は、他の部分領域から得られる鏡面反射光の強度とは異なることになり(強くなるか、弱くなるかは、観察方向によって変化する)、いわゆる照り模様が観察されることになる。したがって、このようなエンボスシートEを透明材料によって構成しておき、図8に示すように、このエンボスシートEを木目柄を印刷した印刷シートT上に積層するようにして壁紙や床材などの建材を構成すれば、照り模様をもった木目柄建材を得ることができる。図4に示す木目模様13は木目柄の印刷シートTにより再現され、照り模様14はエンボスシートEにより再現されることになる。なお、木目柄の印刷シートTの上面を直接エンボス加工することにより、照り模様14を再現することも可能である。
【0039】
<<< §2.本発明に係るエンボスシートの製造方法 >>>
上述の§1では、万線条溝GをもったエンボスシートEを利用して、照り模様を表現する手法を説明した。ここで、図4に示すような天然木の材面に現れる照り模様14は、材面上における繊維潜り角ξの分布に基づくものであるのに対し、図8に示すような万線条溝を有するエンボスシートE上に現れる照り模様は、万線条溝の平面上での向き(方向ベクトル)の分布に基づくものである。そして、前者では、繊維潜り角ξがほぼ等しい領域が、ある状態において同時に白っぽく光っている様子が見られるのに対し、後者では、万線条溝の方向ベクトルがほぼ等しい領域が、ある状態において同時に白っぽく光っている様子が見られることになる。
【0040】
そもそも繊維潜り角ξは、図3に示すように、円筒状繊維11と材面12との交差角として定義されたものであるのに対し、万線条溝の方向ベクトルは、平面上での万線条溝の向きを示すものである。したがって、繊維潜り角ξと万線条溝の方向ベクトルとは、理論的には全く異なる物理量である。しかしながら、両者はいずれも観察時の反射光強度を支配するパラメータとして機能するという共通点を有する。そこで、前掲の各特許文献に開示された技術では、この共通点に着目し、実際の天然木の材面に現れる繊維潜り角ξの分布をできるだけ正確に測定し、当該分布を万線条溝の方向ベクトルという形式で、エンボスシートE上に再現するという手法を採っていた。しかしながら、天然木の切断面の撮影画像から繊維潜り角の分布を正確に求めるためには、種々の照明環境の下で撮影した多数の画像を用意し、更に、種々の補正処理を施す必要があるため、撮影作業や演算処理の負担が大きくなるという問題点があることは既に述べたとおりである。
【0041】
このような問題点を解決するために、本発明では、まず「天然木から正確な繊維潜り角を測定する」という従来の考え方を捨て去ることにした。確かに、「サンプルとなる天然木の材面上の照りを、エンボスシートによって忠実に再現する」という観点からは、正確な繊維潜り角を測定する必要がある。しかしながら、「木目柄をもった建材を製造する」という産業目的上の観点からは、必ずしも正確な繊維潜り角の測定は必要ではない。壁紙や床材などの建材を製造する上では、実際の天然木に見られる「照り」をそのまま忠実に再現できれば、自然の風合いをもった建材が得られることは確かである。しかしながら、天然木の照りが忠実に再現されていなくても、少なくとも人間が見たときに、「天然木の照りらしさ」を感じることができれば、産業上の量産品として利用される建材としては十分である。
【0042】
もっとも、「天然木の照りらしさ」を表現するためには、やはり実際の天然木の照りの情報に基づいて、万線条溝の向きを決定するのが好ましい。そこで、本願発明者は、「天然木から繊維潜り角の分布を正確に測定する」という従来の手法は捨て去りつつ、「天然木の材面を2つの照明環境下においたときの材面画像の相違を測定する」という手法を採ることにした。もちろん、このような手法では、特定の2つの照明環境下での画像の相違という情報しか抽出できないが、実際にこの手法でサンプルを作成してみたところ、従来の手法で作成した建材と比較してもほぼ遜色のない結果が得られた。すなわち、本発明の手法で製造されたエンボスシートでも、人間の目で観察する限りは、天然木の照りらしさを十分に感じることができるのである。以下、この手法の手順を詳述する。
【0043】
図9は、本発明の基本的実施形態に係るエンボスシートの製造方法の手順を示す流れ図である。この手順では、まず、サンプルとなる天然木板を用意し、この天然木板に対して、ステップS1において第1の基本画像の撮影を行い、ステップS2において第2の基本画像の撮影を行う。ここで、ステップS1およびステップS2では、同一の天然木板を同一の方向から同一の倍率で撮影することになるが、照明の方向だけは変えるようにする。
【0044】
図10は、このような撮影を行うために必要な部材の配置を示す斜視図である。天然木板10の直上に撮像装置20を配置し、その両脇に、それぞれ第1の光源31および第2の光源32が配置されている。第1の光源31は、天然木板10の材面を左上方から照明するのに適した位置に配置され、第2の光源32は、天然木板10の材面を右上方から照明するのに適した位置に配置されている。図11は、これら2つの光源による天然木板10の材面上への照明状態を示す正面図である。図11(a) は、第1の光源31による照明状態を示しており、図11(b) は、第2の光源32による照明状態を示している。
【0045】
図9の流れ図におけるステップS1では、第1の光源31のみを点灯させ、図11(a) に示すような照明状態で、撮像装置20による撮像が行われる。別言すれば、サンプルとなる天然木の切断面を、第1の方向(図示の例では左上方向)から照明光を照射した状態で撮影することになる。ここでは、このような撮影により得られた画像を第1の基本画像P1と呼ぶことにする。
【0046】
一方、図9の流れ図におけるステップS2では、第2の光源32のみを点灯させ、図11(b) に示すような照明状態で、撮像装置20による撮像が行われる。別言すれば、サンプルとなる天然木の切断面を、第2の方向(図示の例では右上方向)から照明光を照射した状態で撮影することになる。ここでは、このような撮影により得られた画像を第2の基本画像P2と呼ぶことにする。
【0047】
なお、撮像装置20として、モノクロ撮像装置を用いた場合、第1の基本画像P1および第2の基本画像P2を構成する個々の画素の画素値は、撮影対象の対応位置の輝度値を示すものになる。一方、撮像装置20として、カラー撮像装置を用いた場合、個々の画素の画素値はRGBの三原色成分として与えられることになる。この場合、各基本画像を構成する画素の画素値としては、いずれか1つの色成分値を選択して用いてもよいし、三原色成分の平均値を用いるようにしてもよい。あるいは、RGBの三原色で撮影した画像を、L表色系に変換し、輝度を示すL値のみを抽出して基本画像として用いるようなことも可能である。要するに、本発明で用いる基本画像を構成する個々の画素の画素値は、何らかの形で撮影対象の対応位置の輝度を反映したものになっていれば足り、特定の色成分の輝度を示すものであってもよいし、全色成分の合計輝度を示すものであってもよい。
【0048】
図12は、こうして得られた第1の基本画像P1と第2の基本画像P2との対比を示す平面図である。ここでは、説明の便宜上、天然木板10の材面(上面)に二次元XY座標系を定義し、基本画像P1,P2が、XY平面上に二次元配列された多数の画素の集合からなるものとする。ステップS1の撮影とステップS2の撮影とでは、照明環境が異なるだけなので、第1の基本画像P1と第2の基本画像P2には、撮影対象の同一領域が同一解像度で記録されており、一方の基本画像の個々の画素は、他方の基本画像の同一座標位置の画素に対応する。したがって、XY平面上の座標(x,y)に位置する第1の基本画像P1上の画素を画素P1(x,y)と表し、同じく座標(x,y)に位置する第2の基本画像P2上の画素を画素P2(x,y)と表せば、画素P1(x,y)と画素P2(x,y)とは、互いに撮影対象の同一点を記録した画素ということになる。
【0049】
ここで、画素P1(x,y)の画素値(便宜上、この画素値も同じ記号P1(x,y)で表すことにする)と画素P2(x,y)の画素値(便宜上、この画素値も同じ記号P2(x,y)で表すことにする)とが相違していたとすれば、その相違は、撮影時の照明環境の相違と、天然木板10の材面上の異方性反射面の存在に基づくものである。そこで、ステップS3において、「差分画像」の演算を行う。本願における「差分画像」とは、「第1の基本画像P1を構成する個々の画素と第2の基本画像P2を構成する個々の画素について、それぞれ対応する位置にある一対の画素の画素値の差を画素値とする画像」と定義することができる。なお、ステップS3では、「差分画像」の代わりに「対比画像」を演算してもかまわない。本願における「対比画像」とは、「第1の基本画像P1を構成する個々の画素と第2の基本画像P2を構成する個々の画素について、それぞれ対応する位置にある一対の画素の画素値の比を画素値とする画像」と定義することができる。
【0050】
図13は、第1の基本画像P1および第2の基本画像P2に基づいて、差分画像または対比画像を求める演算の原理を説明する平面図である。第1の基本画像P1、第2の基本画像P2、差分画像D、対比画像Qは、いずれも同一サイズの画素配列をもった画像である。そして、差分画像Dの任意の座標(x,y)に位置する画素の画素値D(x,y)は、第1の基本画像P1上の同位置の画素の画素値P1(x,y)と第2の基本画像P2上の同位置の画素の画素値P2(x,y)との差として定義される。すなわち、
D(x,y)=P1(x,y)−P2(x,y)
なる演算により、差分画像Dを構成する個々の画素の画素値を求めることができる。同様に、対比画像Qの任意の座標(x,y)に位置する画素の画素値Q(x,y)は、第1の基本画像P1上の同位置の画素の画素値P1(x,y)と第2の基本画像P2上の同位置の画素の画素値P2(x,y)との比として定義される。すなわち、
Q(x,y)=P1(x,y)/P2(x,y)
なる演算により、対比画像Qを構成する個々の画素の画素値を求めることができる。
【0051】
このように、ステップS3では、差分画像Dもしくは対比画像Qのいずれか一方を求める演算が行われる。前述したように、本発明の基本概念は、「天然木の材面を2つの照明環境下においたときの材面画像の相違を測定する」という手法を採ることにある。上述した差分画像Dは、画素値にどれだけの差があるかという相違の絶対的な大きさを示す画像ということになり、対比画像Qは、画素値が何倍になっているかという相違の相対的な大きさを示す画像ということになる。いずれも異なる照明環境下で撮影された2つの基本画像の相違を示す画像となっているので、本発明を実施する上では、差分画像Dおよび対比画像Qのいずれを用いてもかまわない。
【0052】
続いて、ステップS4において、角度画像の演算を行う。この角度画像は、ステップS3で求めた差分画像Dもしくは対比画像Qを構成する画素の画素値範囲を所定の角度範囲に対応づけるための対応関係を定義し、差分画像Dもしくは対比画像Qを構成する個々の画素の画素値をこの対応関係に基づいて所定の角度に変換することにより得られる画像である。
【0053】
図14は、差分画像Dの画素値と角度範囲との対応関係の一例を示すグラフである。この例では、差分画像Dの画素値(同じ記号Dで示す)が、−255〜+255の範囲内に分布しているものと想定し、画素値Dのこの範囲を、角度値θの−45°〜+45°の範囲に対応させている。ステップS3の演算をコンピュータで実行するためには、各基本画像P1,P2をデジタルデータとして取り込む必要があるが、これらの基本画像P1,P2を8ビットのデジタルデータとして取り込んだとすると、個々の画素は、0〜255の範囲内の画素値をもったデータになる。したがって、差分画像Dを構成する個々の画素の画素値Dの最小値は−255、最大値は+255ということになる。そこで、図示の例では、最小画素値D=−255を最小角度値θ=−45°に対応させ、最大画素値D=+255を最大角度値θ=+45°に対応させ、画素値Dが増加すると角度値θも増加するような単調増加関数f(D→θ)を定義している。
【0054】
なお、図示の例では、関数f(D→θ)は線形関数となっているが、本発明を実施する上で、必ずしも線形関数を用いる必要はない。別言すれば、差分画像Dの画素値Dと角度値θとの間の対応関係は、必ずしも線形関係にする必要はない。ただ、画素値Dが増加すると角度値θも増加(または減少)するような単調増加(または単調減少)の関係にしておくようにする。実際には、単調増加または単調減少でなくても、最終的に得られるエンボスシート上には何らかの模様が形成されるが、木目の照りの様相に似た反射を実現する上では、単調増加または単調減少にするのが極めて好ましい。
【0055】
一方、図15は、対比画像Qの画素値と角度範囲との対応関係の一例を示すグラフである。この例では、対比画像Qの画素値(同じ記号Qで示す)が、1/255〜255の範囲内に分布しているものと想定し、画素値Qのこの範囲を、角度値θの−45°〜+45°の範囲に対応させている。前述したように、基本画像P1,P2を8ビットのデジタルデータとして取り込んだとすると、個々の画素は、0〜255の範囲内の画素値をもったデータになる。ただ、画素値の比を求める際に、分母が0になると演算不能になるため、この例では、便宜上、画素値0を画素値1に置き換える処理を施している。その結果、基本画像P1,P2の画素値の範囲は1〜255になり、両者の比として求まる画素値Qの最小値は1/255、最大値は255/1ということになる。ここでは、最小画素値Q=1/255を最小角度値θ=−45°に対応させ、最大画素値Q=255を最大角度値θ=+45°に対応させ、画素値Qが増加すると角度値θも増加するような単調増加関数f(Q→θ)を定義している。
【0056】
なお、図15では、便宜上、関数f(Q→θ)を線形関数のように示してあるが、このグラフの横軸(画素値Qの軸)は線形軸ではないので、関数f(Q→θ)は、線形関数にはならないが、画素値Qが増加すると角度値θも増加するような単調増加関数である(単調減少関数を用いてもよい)。
【0057】
図16は、ステップS4で演算された角度画像θを示す平面図である。この角度画像θは、図13に示されている差分画像Dもしくは対比画像Qの各画素値を、所定の対応関係に基づいて角度値に置き換えたものであるから、当然、角度画像θの画素配列は、差分画像Dもしくは対比画像Qの画素配列と同一になり、任意の座標(x,y)に位置する画素θ(x,y)の画素値(同じ記号θ(x,y)で表す)は、−45°〜+45°の範囲内の角度になる。結局、この角度画像θは、XY二次元平面上の角度分布を示す画像ということになり、原画像として用いた天然木板10の材面上の角度分布を示す画像ということになる。
【0058】
次のステップS5では、こうして得られた角度分布に基づいて、天然木板10の材面に相当する二次元領域上に、万線(細かな多数の線、ヘアライン)を生成する処理が行われる。この万線生成処理の要点は、ステップS4で求められた角度画像θに基づいて、二次元平面上の各位置に定義された角度に応じた向きを有する万線を生成する、という点にある。
【0059】
たとえば、図17に示すように、万線の向きを示す角度を定義したものとしよう。この例では、図の下段に示されているように、図の左から右へ向かって1本の万線を描くものとし、水平方向を向いた万線の向きを基準となる0°と定義し、反時計回りに正の角度、時計回りに負の角度を定義している。したがって、斜め下方45°を向いた万線は−45°、斜め上方45°を向いた万線は+45°なる角度値が与えられる。前述の例では、角度画像θ上に定義される角度値は、−45°〜+45°の範囲になるので、万線の向きは、斜め下方45°から斜め上方45°の範囲内のいずれかになる。
【0060】
図17の上段は、XY平面上に生成された万線の一例を示す平面図である。この例では、領域A1には+45°の向きをもった万線が形成されており、領域A2には0°の向きをもった万線が形成されており、領域A3には−45°の向きをもった万線が形成されている。このような結果は、図16に示す角度画像θにおいて、領域A1に相当する部分の画素の画素値が+45°であり、領域A2に相当する部分の画素の画素値が0°であり、領域A3に相当する部分の画素の画素値が−45°であった場合に得られる。
【0061】
ここに示す実施形態において、角度画像θの画素値がとるべき角度範囲の幅を90°に設定し、−45°〜+45°の角度値が得られるようにしたのは、万線の向きを、斜め下方45°から斜め上方45°の範囲内にするためである。もちろん、角度範囲の幅を180°に設定し、−90°〜+90°の角度値が得られるようにすることも可能であるが、そのようにすると、差分画像Dまたは対比画像Qにおいて値が最も離れている2領域が、角度画像上では−90°および+90°となり、万線の角度がほぼ一致する結果となってしまう。これでは、本来、照りの発現が最も異なる2領域が、エンボスシート上では類似した照りを発現することになり好ましくない。したがって、このような2領域に対して最も異なった角度値を与えるために、本実施形態のように、角度範囲を−45°〜+45°に設定するのが好ましい。
【0062】
もっとも、差分画像Dもしくは対比画像Qの画素値と、角度画像θの画素値との対応関係には、何ら物理的な根拠はないので(角度値θは、繊維潜り角ξに直接関係した値ではないので)、角度範囲の設定は、必ずしも−45°〜+45°の範囲にする必要はない。
【0063】
なお、図17には、説明の便宜上、3つの領域A1,A2,A3に形成された万線のみを示したが、実際には、領域A1,A2,A3の部分だけでなく、角度画像θの全領域に所定の角度値が定義されていることになるので、ステップS5の万線生成処理を行うと、全画像領域に所定の方向を向いた万線が形成されることになる。しかも、形成される万線は、その性質上、ある程度の長さをもった連続的な線である必要がある。そこで、以下に、このような万線を生成するための具体的な手法を述べる。
【0064】
前述したとおり、ステップS5における万線の生成処理は、ステップS4で求められた角度画像θに基づいて行われる。ここで、角度画像θは、図16に示すように、座標(x,y)の位置に、何らかの角度値θ(x,y)を定義する画像であるが、この座標(x,y)は、ある1つの画素の位置を示すものである。すなわち、角度画像θは、有限個の画素の集合から構成されているため、二次元平面上に定義された離散的な画素位置について、それぞれ所定の角度値θ(x,y)を定義しているにすぎない。しかしながら、実用上は、補間演算を行うことにより、二次元平面上の任意の位置における角度値θを求めることが可能である。
【0065】
図18は、角度画像θの一部を構成する画素の拡大図である。図には6つの画素が描かれているが、個々の画素の位置を示す代表点Rを定義し、各画素の代表点Rの位置に当該画素の画素値として定義されている角度値を与える。たとえば、代表点R(x,y)には、画素θ(x,y)の画素値が与えられる。このように、角度画像θは、二次元平面上に所定ピッチで定義された個々の代表点Rに、所定の画素値を離散的に定義した情報であるが、この離散的な値に基づく補間演算を行えば、二次元平面上の任意の位置における角度値を求めることができる。
【0066】
たとえば、図示の任意の点Z(代表点以外の点)については、隣接する複数の代表点R(x,y)、R(x+1,y)、R(x,y+1)、R(x+1,y+1)についてそれぞれ定義されている角度値θ(x,y)、θ(x+1,y)、θ(x,y+1)、θ(x+1,y+1)に基づく補間演算により、所定の角度値を計算することができる。このような補間演算は、既に公知の技術であるため、ここでは詳しい説明は省略するが、この補間演算を行うことを前提とすれば、角度画像θにより、二次元平面上の任意の位置について角度値が与えられることになる。
【0067】
そこで、この角度値の分布が定義された二次元平面上に、1本の万線を定義する手順を考える。図19は、このような万線の定義手順の一例を示す平面図である。まず、この角度分布が定義された二次元平面上に起点K1を定め、この起点K1上を最初の位置とする参照点を定義する。ここでは、この起点K1の座標を(x1,y1)とし、当該座標を明示するために、この起点をK1(x1,y1)と表すことにする。そして、参照点を、「現在位置に定義されている角度値に応じた方向に所定長だけ移動する処理」を繰り返し行い、参照点の移動軌跡により1本の万線を形成する。
【0068】
たとえば、図示の例の場合、参照点の最初の位置は起点K1(x1,y1)であるので、この位置に定義されている角度値θ(x1,y1)に基づいて、この参照点を図示のとおり、角度値θ(x1,y1)に応じた方向に所定長δだけ移動させる。図示の例では、水平右方向を基準角度0°に設定し、角度の定義を行っている。座標(x1,y1)の位置の角度値θ(x1,y1)は、前述したとおり、角度画像θに基づいて、必要に応じて補間演算を行うことにより求めることができる。所定長δは、任意に設定しておけばよい。δの値を小さく設定すればするほど、精度の高い万線を定義することができるが、実用上は、実寸に換算した場合にδ=10〜100μm程度に設定すれば十分である。
【0069】
さて、図示のように、参照点を起点K1(x1,y1)から角度θ(x1,y1)に応じた方向に所定長δだけ移動させたときに、中継点K2(x2,y2)に到達したとしよう。この場合、この参照点の新しい位置に定義されている角度値は、θ(x2,y2)ということになるので、今度は、参照点を中継点K2(x2,y2)から角度θ(x2,y2)に応じた方向に所定長δだけ移動させる。その結果、中継点K3(x3,y3)に到達したとすると、今後は、この参照点を中継点K3(x3,y3)から角度θ(x3,y3)に応じた方向に所定長δだけ移動させ、中継点K4(x4,y4)まで移動させる。このようにして、起点K1→中継点K2→中継点K3→中継点K4→…と参照点を移動させる処理を所定の条件が満足されるまで(たとえば、起点K1と参照点との距離が所定値に達するまで)、繰り返し実行する。そして、この参照点の移動軌跡を1本の万線とすれば、少なくとも、起点および各中継点に関する限り、万線の伸びる方向が、当該地点に定義された角度値に一致することになり、角度画像θの各位置に定義された角度に応じた向きを有する万線を生成することができる。図示の例では、起点および各中継点を結ぶ折れ線として万線を定義しているが、各点を滑らかに結ぶ曲線として万線を定義してもかまわない。
【0070】
こうして1本の万線が生成できたら、続いて、最初の起点K1(x1,y1)に対して所定間隔dだけ離れた位置に、第2の起点K11(x11,y11)を定義する。ここで、所定間隔dは起点位置における万線の間隔になる。図示の例では、Y方向に所定間隔dだけ離れた位置に第2の起点K11(x11,y11)を定義している。そして、この第2の起点K11(x11,y11)を出発点として、前述した手順と同等の手順を実行し、2本目の万線を生成する。このように、所定間隔をおいて定義された多数の起点について、前述した万線の生成処理を行うことにより、多数の万線が形成できる。実用上は、起点をY方向だけでなくX方向についても所定間隔で配置するようにすれば、X,Yの両方向に関してほぼ一様の間隔で万線が多数配置されることになる。なお、この場合、起点のX方向の間隔とY方向の間隔とは、必ずしも同一である必要はない。
【0071】
なお、起点位置における万線の間隔は設定した値dになるが、個々の万線の伸びる方向は、個々の位置に定義された角度値に応じて決定されるため、万線の任意の位置における間隔は必ずしも値dになるわけではない。したがって、場合によっては、隣接する万線が交差するような場合もありうるが、実用上、支障は生じない。
【0072】
こうして万線が生成できたら、最後のステップS6において、エンボスシートの作成が行われる。すなわち、ステップS5で生成された万線を凹凸パターンとして表現したエンボスシートの作成が行われる。ステップS5で生成された万線は幾何学上の線であるが、実際のエンボスシート上には、この万線を凹凸パターンとして表現するために、幅をもった万線条溝が形成されることになる。そのためには、図19に示すような1本の万線を、たとえば幅dをもった万線条溝としてエンボスシート上に形成すればよい。このような万線条溝の形成方法については、たとえば、前掲の各特許文献に開示されているように公知の技術であるため、ここでは詳しい説明は省略する。
【0073】
このような方法で作成されたエンボスシート上の万線条溝は、サンプルとして用いた天然木板の材面上の繊維潜り角を直接的に表現するものにはなっていない。すなわち、本発明では、天然木板の繊維潜り角に応じた向きをもつ万線を忠実に形成することはできない。しかしながら、本発明に係るプロセスで作成されたエンボスシート上の万線の向きは、サンプルとして用いた天然木板を2つの異なる照明環境で撮影した場合の画像の相違に関する情報を含んでおり、少なくとも人間が見たときに、「天然木の照りらしさ」を感じさせることができ、自然の風合いをもった建材を実現できる。しかも、本発明のプロセスでは、照明環境を変えた2枚の画像を撮影し、比較的簡単な演算処理を施せばよいので、作業負担および処理負担は、従来の手法に比べて大幅に軽減される。
【0074】
<<< §3.本発明のより好ましい実施形態 >>>
続いて、本発明のより好ましい実施形態を、図20の流れ図に基づいて説明する。この図20の流れ図に示す手順と、前述した図9に示す流れ図の手順との相違は、ステップS7として順位画像の演算処理を付加し、ステップS4における角度画像の演算を、順位画像に基づいて行うようにした点だけである。そこで、以下、この相違点についての説明を行う。
【0075】
図9に示す流れ図の手順におけるステップS4では、差分画像Dもしくは対比画像Qのもつ画素値を、所定の対応関係に基づいて角度値に変換することにより、角度画像θを求めていた。具体的には、差分画像の画素値Dを角度値θに変換するために、図14に示すような関数f(D→θ)を定義し、対比画像の画素値Qを角度値θに変換するために、図15に示すような関数f(Q→θ)を定義した。しかしながら、このような対応関係に基づいて角度値θへの変換を行うと、角度値θの出現頻度は、−45°〜+45°の範囲内で一様にならず、出現頻度に偏りが生じる場合が多い。
【0076】
本願発明者が行った実験によると、角度画像θを構成する各画素の画素値(角度値)の出現頻度が、できるだけ角度範囲−45°〜+45°内に一様に分布していた方が、最終的に得られるエンボスシート上に生じる「照り」が、より自然に見えることが確認できた。別言すれば、エンボスシート上に形成されている万線条溝の向きが、−45°〜+45°の全範囲にわたって一様に分布している状態の方が、より好ましい結果が得られることになる。そこで、ここで述べる実施形態では、差分画像Dもしくは対比画像Qを、直接的に角度画像θに変換する代わりに、一旦、順位画像Sに変換し、この順位画像Sを角度画像θに変換するという方法をとる。
【0077】
図21は、差分画像Dまたは対比画像Qを、一旦、順位画像Sに変換した後、これを角度画像θに変換する原理を説明する平面図である。ここで、差分画像D、対比画像Q、順位画像S、角度画像θは、いずれも同一サイズの画素配列をもった画像である。順位画像Sは、差分画像Dまたは対比画像Qを構成する個々の画素について、その画素値の当該画像内での大小順位を示す順位値を重複のないように求め、当該画像を構成する個々の画素の画素値を、求めた順位値に変換することにより得られる画像である。ステップS7の処理は、このような方法により、順位画像Sを演算する処理である。
【0078】
たとえば、差分画像Dに基づいて順位画像Sを求める場合を考える。差分画像Dを構成する個々の画素の画素値は、前述の例の場合、−255〜+255の範囲内に分布している。ただし、特定の画素値をもつ画素が必ず存在するとは限らない。また、同じ画素値をもつ画素が1つだけとも限らない。そこで、たとえば、画素値D=255〜244をもつ画素が全く存在せず、画素値D=243をもつ画素が1つ存在し、画素値D=242をもつ画素が3つ存在し、画素値D=241をもつ画素が16個存在していた場合を考えてみる。
【0079】
この場合、画素値D=243をもつ画素には、順位値S=1を与えればよい。続いて、画素値D=242をもつ3つの画素には、いずれにも順位値S=2を与えることもできるが、ここに述べる実施形態では、重複のないように順位値を求めるようにするため、順位値S=2,3,4をそれぞれ与えるようにする。要するに、同一順位を許さないような順序づけを行うことになる。同一の画素値D=242をもつ3つの画素に関する優劣は、どのように決定してもかまわない。たとえば、乱数によりランダムに優劣を決定するとか、座標(x,y)の値に基づいて決定するとか、予め任意の優劣決定方法を定めておけばよい。続いて、画素値D=241をもつ16個の画素には、同様に、順位値S=5〜20が与えられることになる。
【0080】
このように、各画素にその画素値に応じた順位値を与える処理は、コンピュータによるソート処理として容易に行うことができる。結局、差分画像Dを構成する画素の総数をMとすると、順位画像S上の任意の座標(x,y)に位置する画素の順位値S(x,y)は、1≦S(x,y)≦Mなる条件を満たす値になる。これは、対比画像Qに基づいて順位画像Sを求めた場合も同様である。こうして得られた順位画像Sの順位値の出現頻度は、1〜Mという範囲内で一様になる。
【0081】
ここで述べる実施形態の特徴は、ステップS4の角度画像の演算処理を、差分画像Dや対比画像Qではなく、順位画像Sに基づいて行う点である。すなわち、順位値Sの範囲を所定の角度範囲θに対応づけるための対応関係を定義しておき、順位画像を構成する個々の画素の画素値Sを、この対応関係に基づいて所定の角度値θに変換することにより、角度画像を求めるのである。図22は、順位画像の画素値Sと角度値θとの対応関係の一例を示すグラフである。図の横軸は順位値Sであり、1〜Mの範囲が示されている。縦軸は角度値θであり、−45°〜+45°の範囲が示されている。
【0082】
図示の例では、最小順位値S=1を最小角度値θ=−45°に対応させ、最大順位値S=Mを最大角度値θ=+45°に対応させ、順位値Sが増加すると角度値θも増加するような単調増加関数f(S→θ)を定義している。なお、図示の例では、関数f(S→θ)は線形関数となっているが、本発明を実施する上で、必ずしも線形関数を用いる必要はない。別言すれば、順位画像Sの順位値Sと角度値θとの間の対応関係は、必ずしも線形関係にする必要はない。ただ、順位値Sが増加すると角度値θも増加(または減少)するような単調増加(または単調減少)の関係にしておく。
【0083】
図14に示されている関数f(D→θ)や図15に示されている関数f(Q→θ)を用いて角度値θへの変換を行った場合、前述したとおり、角度値θの出現頻度は、−45°〜+45°の範囲内で一様にならず、偏りが生じる場合が多い。これに対して、図22に示されている関数f(S→θ)を用いて角度値θへの変換を行った場合、順位値Sの出現頻度が、1〜Mの範囲で完全に一様なものとなっているので、角度値θの出現頻度も、−45°〜+45°の範囲内でほぼ一様になる。特に、関数f(S→θ)として、図示のような線形関数を用いれば、理論的には、角度値θの出現頻度も完全に一様になる。
【0084】
こうしてステップS4で求められた角度画像に基づいて、ステップS5で万線の生成を行い、ステップS6でエンボスシートの作成を行う点は、前述の基本的実施形態と全く同様である。このようにして作成されたエンボスシート上の万線条溝には、−45°〜+45°の角度範囲の向きがほぼ一様に含まれており、自然の「照り」を再現する上で好ましい結果が得られる。
【0085】
<<< §4.本発明に係るエンボスシートの製造装置 >>>
以上、本発明に係るエンボスシートの製造方法を述べたが、ここでは、この製造方法の実施に用いられる装置の構成を述べる。
【0086】
図23は、本発明に係るエンボスシートの製造装置の基本構成を示すブロック図である。この装置は、図20の流れ図に示す手順を実行する機能を有しており、ブロックで示す個々の構成要素は、図20の流れ図の特定のステップを実行することができる。まず、画像入力手段110は、ステップS1,S2の基本画像撮影処理を行うための構成要素である。具体的には、図10に示すように、撮像装置20と光源31,32によって構成され、サンプルとなる天然木板10の材面(切断面)を、第1の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより得られる第1の基本画像P1と、第2の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより得られる第2の基本画像P2と、を入力する機能を有する。
【0087】
一方、差分画像演算手段120は、ステップS3の差分画像の演算処理を行うための構成要素であり、第1の基本画像P1を構成する個々の画素と第2の基本画像P2を構成する個々の画素について、それぞれ対応する位置にある一対の画素の画素値の差を画素値とする差分画像を演算によって求める機能を有する。差分画像の代わりに対比画像を用いる場合には、対比画像演算手段120を用いるようにすればよい。この場合は、第1の基本画像P1を構成する個々の画素と第2の基本画像P2を構成する個々の画素について、それぞれ対応する位置にある一対の画素の画素値の比を画素値とする対比画像を演算によって求める機能を実行することになる。
【0088】
順位画像演算手段130は、ステップS7の順位画像の演算処理を行うための構成要素であり、差分画像Dまたは対比画像Qを構成する個々の画素について、その画素値の当該画像内での大小順位を示す順位値を重複のないように求め、当該画像を構成する個々の画素の画素値を、求めた順位値に変換することにより、順位画像Sを求める演算を行う機能を有する。このような演算処理は、結局、差分画像Dまたは対比画像Qを構成する個々の画素を、その画素値に基づいてソートする処理に他ならない。但し、前述したとおり、同一順位が重複しないような順序づけを行うようにするため、同一の画素値をもった画素が複数存在する場合には、何らかの方法で優劣を決定するようにする。
【0089】
角度画像演算手段140は、ステップS4の角度画像の演算処理を行うための構成要素であり、順位画像Sを構成する画素の画素値範囲を所定の角度範囲に対応づけるために予め定義された対応関係(たとえば、図22に示すような対応関係)に基づいて、順位画像を構成する個々の画素の画素値を所定の角度に変換することにより角度画像を求める演算を行う機能を有する。
【0090】
そして、万線生成手段150は、ステップS5の万線の生成処理を行うための構成要素であり、角度画像θに基づいて、二次元平面上に角度分布を定義し、各位置に定義された角度に応じた向きを有する万線を生成する処理を行う機能を有する。その具体的な処理の一例は、図19を参照して説明したとおりである。
【0091】
なお、差分画像演算手段(対比画像演算手段)120,順位画像演算手段130,角度画像演算手段140,万線生成手段150は、実用上は、いずれもコンピュータに専用のプログラムを組み込むことにより実現される構成要素であり、画像入力手段110は、このコンピュータに、デジタルデータとして、第1の基本画像P1および第2の基本画像P2を入力する機能を果たす。
【0092】
最後のエンボスシート作成手段160は、ステップS6の処理を行う構成要素であり、
万線生成手段150で生成された万線を凹凸パターンとして表現したエンボスシートを作成する機能を有する。具体的には、たとえば、コンピュータから出力された万線を示すデジタルデータに基づいて所定の露光パターンを描画する描画装置と、この露光パターンに基づくエッチング処理などでエンボス加工用の版を作成する装置と、この版を用いたエンボス加工を行うことにより、エンボスシートを量産する装置と、によって、このエンボスシート作成手段160を構成することができる。
【0093】
なお、§2で述べたように、順位画像を作成しない手順を実行する場合には、順位画像演算手段130は省略してよい。この場合、角度画像演算手段140は、差分画像Dもしくは対比画像Qに基づいて角度画像θを演算することになる。
【0094】
最後に、画像入力手段110として用いるのに最適な装置の構成例を、図24の斜視図を参照しながら説明する。図示のとおり、この画像入力手段110は、第1の線光源111,第2の線光源112,ラインセンサ113、および図示されていない搬送装置によって構成されており、天然木板10の材面(切断面)12を、2つの異なる照明環境で撮影する機能を有する。
【0095】
ここでは、説明の便宜上、天然木板10の材面12上にXY平面を定義し、天然木板10は、図示しない搬送装置によりX軸正方向に搬送されるように構成されているものとする。また、ラインセンサ113は、天然木板10の材面12の上方位置に、Y軸に平行になるように配置されており、材面12上におけるY軸に平行な線状領域16(図示の例では、Y軸上のハッチング領域)の画像を、一次元画素配列として取り込むことができる。一方、第1の線光源111および第2の線光源112は、いずれもY軸に平行となるように配置されており、線状領域16を照明することができる。図示の例の場合、第1の線光源111および第2の線状光源112は、YZ平面(材面12に垂直な平面)に関して面対称となる位置に配置され、同一の照明機能を有する光源となっている。
【0096】
図25は、図24に示す画像入力手段を用いて、第1の基本画像P1および第2の基本画像P2の入力を行う作業を示す正面図である。まず、第1の基本画像P1を入力する際には、第1の線光源111のみを点灯した状態とし、照明光L1によって線状領域16を照明する。このような照明環境の下で、天然木板10を図の左方向から右方向(X軸の正方向)へと搬送しながら、ラインセンサ113で線状領域16を読み取ってゆく。こうすることにより、線状領域16によって、材面12の全面を走査することができ、ラインセンサ113から時系列データとして出力される一次元画素配列の画素値情報を集めることにより、第1の基本画像P1をデジタルデータとして得ることができる。
【0097】
第2の基本画像P2を入力する際には、上述した走査処理を、今度は第2の線光源112のみを点灯した状態で行うようにすればよい。すなわち、照明光L2によって線状領域16を照明した環境下で、天然木板10をX軸の正方向へと搬送しながら、ラインセンサ113で線状領域16を読み取ってゆけばよい。
【0098】
結局、第1の基本画像P1は、線状領域16に対して、第1の線光源111によって斜め左上方から照明光L1を照射した状態で、材面12をX軸方向に移動させながら、ラインセンサ113による画像の取り込み作業を行うことによって得られることになり、第2の基本画像P2は、線状領域16に対して、第2の線光源112によって斜め右上方から照明光L2を照射した状態で、材面12をX軸方向に移動させながら、ラインセンサ113による画像の取り込み作業を行うことによって得られることになる。図示の例の場合、ラインセンサ113はY軸の真上に配置されているので、第1の基本画像P1を得る際には、X軸の負の領域から照明光L1の照射を行い、第2の基本画像P2を得る際には、X軸の正の領域から照明光L2の照射を行うことになる。
【0099】
このように、ラインセンサ113と搬送装置とを用いて、線状領域16の走査により基本画像を取り込むようにすると、材面12のいずれの位置に関しても、共通した照明環境下で画像の取り込みが可能になるというメリットが得られる。これは、たとえば、図10に示すような撮像系で生じる問題を解決することができる。このメリットをもう少し詳しく説明しよう。
【0100】
図10に示す撮像系は、天然木板10の上方に設けた撮像装置20(たとえば、デジタルカメラ)によって、材面全体を二次元画像として一度に取り込むことができる。ところが、このような撮像系で基本画像の取り込みを行うと、図11(a) または(b) に示すような照明環境になるため、材面の部分ごとに、照明光の光量や照射角度が異なってしまう。たとえば、図11(a) に示す照明環境では、天然木板10は、第1の光源31によって照明されているが、天然木板10の左側部分の方が右側部分よりも光源に近いため、照明光の光量は、天然木板10の左側部分の方が右側部分よりも多くなる。また、照明光の照射角度に着目すると、天然木板10の左側部分には垂直に近い角度から照明光が照射されているのに対して、右側部分にはかなり斜めから照明光が照射されていることになる。このような関係は、図11(b) に示す照明環境では全く逆になる。
【0101】
本発明において、2通りの照明環境下で第1の基本画像P1および第2の基本画像P2を撮影するのは、木目の異方性反射面の情報を得ることが目的である。したがって、本来、2つの照明環境は、照明光の向きだけが異なり、光量や照射角度は同一であることが望ましい。たとえば、第1の照明環境下においては、材面上のすべての部分に、斜め左上方45°の角度で所定の光量の照明が照射されるようにし、第2の照明環境下では、同じく材面上のすべての部分に、斜め右上方45°から同一の光量の照明が照射されるようにするのが理想的な環境である。
【0102】
図10に示す撮像系では、残念ながら、このような理想的な照明環境を実現することはできないが、図24に示す撮像系では、それが可能になる。第1の線光源111と第2の線光源112とをYZ平面に関して面対称の位置に配置すれば、図25の正面図に示されているとおり、線状領域16に対する照明光L1の照射方向と照明光L2の照射方向とは面対称になるので、光量および照射角度は同一になる。また、線状領域16を走査するという手法をとるため、このような照明環境は、天然木板10の材面全面に関して共通する。
【0103】
線光源111,112の代わりに、点光源を用いることも可能であるが、この場合、X軸方向に関しては走査により共通の照明環境下での撮像結果を得ることができるものの、Y軸方向に関しては、図10に示す撮像系と同様の問題が生じることになる。すなわち、図24において、線光源111,112の代わりに、それぞれ点光源を用いると、天然木板10のY軸上の位置に応じて、光量や照射角度が異なる現象が生じてしまう。したがって、実用上は、図示の例のように、Y軸に平行な線光源を照明光として用いるのが好ましい。
【0104】
もっとも、実用上、用意することが可能な蛍光管などの線光源は、有限の長さをもった光源であるため、理想的な線光源ではない。もちろん、天然木板10のY軸方向の幅に対して、十分に大きな長さをもった線光源を用意することができれば、そのような線光源は、実質的に長さ無限大の理想的な線光源と同等の照明環境を実現することができる。しかしながら、装置の大きさなどを考慮した設計を行う上では、線光源111,112の長さは、天然木板10のY軸方向の幅と同程度か、若干長めに設定するのが現実的である。このような場合、やはり天然木板10のY軸上の位置に応じて、光量や照射角度が若干異なる現象が生じてしまうことは否めない。たとえば、図24に示す例の場合、線光源111,112の長さは、天然木板10のY軸方向の幅と同程度であるため、天然木板10のY軸方向に関する端部(手前の部分と奥の部分)と中央部とでは、照明環境に相違が生じてしまうことになる。
【0105】
このような相違に対処するためには、天然木板に対する撮影環境と同一の撮影環境で白色拡散板に対する撮影を行うことにより補正用画像を求め、この補正用画像を用いて基本画像に対する補正を行うようにすればよい。図26は、このような補正用画像を撮影するための白色拡散板50を接続した天然木板10の斜視図である。白色拡散板50は、いずれの箇所においても同一条件で照明光を拡散する機能をもった板であり、図25に示すように、天然木板10を搬送して基本画像を取り込む作業を行う際に、この白色拡散板50の部分についても継続して画像の取り込みを行うようにする。そして、この白色拡散板50について取り込んだ画像を補整用画像として用いた補正を行うのである。
【0106】
照明に用いた線光源が、長さ無限大の理想的な線光源であった場合、補正用画像の輝度は、いずれの位置においても同一になるはずである。しかしながら、実際に用いた線光源111,112は有限長の光源であるため、上述したように、Y軸上の位置に応じて、光量や照射角度が若干異なる。このように、Y軸上の位置に応じた照明環境の変化は、補正用画像上の輝度の変化として現れる。そこで、実際に撮像した補正用画像に基づいて、Y軸方向に関する輝度分布を示す関数B(y)を求め、得られた基本画像を構成する個々の画素の画素値を、当該画素のY軸上の位置yに対応する関数B(y)の値で除する補正処理を行えば、有限長の線光源を用いた影響を相殺した正確な結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】天然木の材面に現れる照り模様を示す平面図である。
【図2】波状木理の繊維束モデルを示す斜視図である。
【図3】天然木板10の表面近傍のモデルを示す拡大断面図である。
【図4】天然木板10上に形成された異方性反射面を示す斜視図である。
【図5】エンボスシートE上に形成された万線条溝Gの基本構造を示す斜視図である。
【図6】図5に示すエンボスシートEを、万線条溝Gに平行な面および垂直な面で切断した状態を示す断面図である。
【図7】エンボスシートEの表面に異なる向きの万線条溝Gを形成することにより照り模様を表現した例を示す平面図である。
【図8】木目柄の印刷シートT上にエンボスシートEを積層した状態を示す斜視図である。
【図9】本発明の基本的実施形態に係るエンボスシートの製造方法の手順を示す流れ図である。
【図10】図9に示す流れ図のステップS1,S2の撮影を行うために必要な部材の配置を示す斜視図である。
【図11】図10に示す2つの光源31,32による天然木板10の材面上への照明状態を示す正面図である。
【図12】図9に示す流れ図のステップS1,S2の撮影により得られた第1の基本画像P1と第2の基本画像P2との対比を示す平面図である
【図13】第1の基本画像P1および第2の基本画像P2に基づいて、差分画像または対比画像を求める演算の原理を説明する平面図である。
【図14】差分画像Dの画素値と角度範囲との対応関係の一例を示すグラフである。
【図15】対比画像Qの画素値と角度範囲との対応関係の一例を示すグラフである。
【図16】図9に示す流れ図のステップS4で演算された角度画像θを示す平面図である。
【図17】XY平面上に生成された万線の一例と、万線の向きと角度の対応関係を示す図である。
【図18】角度画像θの一部を構成する画素の拡大図である。
【図19】図9に示す流れ図のステップS5で行われる万線の生成処理の具体的な手順の一例を示す平面図である。
【図20】本発明のより好ましい実施形態に係るエンボスシートの製造方法の手順を示す流れ図である。
【図21】差分画像Dまたは対比画像Qを、一旦、順位画像Sに変換した後、これを角度画像θに変換する原理を説明する平面図である。
【図22】順位画像Sの画素値と角度範囲との対応関係の一例を示すグラフである。
【図23】本発明に係るエンボスシートの製造装置の基本構成を示すブロック図である。
【図24】図23に示すエンボスシートの製造装置において、画像入力手段110として用いるのに最適な装置の構成例を示す斜視図である。
【図25】図24に示す画像入力手段を用いて、第1の基本画像P1および第2の基本画像P2の入力を行う作業を示す正面図である。
【図26】補正用画像を撮影するための白色拡散板50を接続した天然木板10の斜視図である。
【符号の説明】
【0108】
10…天然木板
11…円筒状繊維
12…材面(天然木の切断面)
13…木目模様
14…照り模様
15…視点
16…ラインセンサの読み取り対象となる線状領域
20…撮像装置
31…第1の光源
32…第2の光源
50…白色拡散板
110…画像入力手段
111…第1の線光源
112…第2の線光源
113…ラインセンサ
120…差分画像演算手段(対比画像演算手段)
130…順位画像演算手段
140…角度画像演算手段
150…万線生成手段
160…エンボスシート作成手段
A1,A2,A3…XY平面上の各領域
D…差分画像もしくはその画素値
D(x,y)…差分画像上の画素もしくはその画素値
D1…エンボスシートの厚み
D2…万線条溝の深さ
d…万線の間隔
E…エンボスシート
G…万線条溝
L,L1,L2…照明光
M…画像上の画素の総数
P1…第1の基本画像
P1(x,y)…第1の基本画像上の画素もしくはその画素値
P2…第2の基本画像
P2(x,y)…第2の基本画像上の画素もしくはその画素値
Q…対比画像
Q(x,y)…対比画像上の画素もしくはその画素値
R(x,y)…代表点
S…順位画像もしくはその画素値
S(x,y)…順位画像上の画素もしくはその画素値
S1〜S7…流れ図の各ステップ
T…木目柄の印刷シート
W1…万線条溝の幅
W2…万線条溝間の間隔
Z…XY平面上の任意の点
δ…万線を生成する手順で用いる所定長
ξ…繊維潜り角
θ…角度画像
θ(x,y)…角度画像上の画素もしくはその画素値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木目の異方性反射面を表現したエンボスシートを製造する方法であって、
サンプルとなる天然木の切断面を、第1の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより、第1の基本画像を得る段階と、
前記切断面を、第2の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより、第2の基本画像を得る段階と、
前記第1の基本画像を構成する個々の画素と前記第2の基本画像を構成する個々の画素について、それぞれ対応する位置にある一対の画素の画素値の差を画素値とする差分画像を求める段階と、
前記差分画像を構成する画素の画素値範囲を所定の角度範囲に対応づけるための対応関係を定義し、前記差分画像を構成する個々の画素の画素値を前記対応関係に基づいて所定の角度に変換することにより、角度画像を求める段階と、
前記角度画像に基づいて、二次元平面上に角度分布を定義し、各位置に定義された角度に応じた向きを有する万線を生成する段階と、
前記万線を凹凸パターンとして表現したエンボスシートを作成する段階と、
を有することを特徴とする木目の異方性反射面を表現したエンボスシートの製造方法。
【請求項2】
木目の異方性反射面を表現したエンボスシートを製造する方法であって、
サンプルとなる天然木の切断面を、第1の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより、第1の基本画像を得る段階と、
前記切断面を、第2の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより、第2の基本画像を得る段階と、
前記第1の基本画像を構成する個々の画素と前記第2の基本画像を構成する個々の画素について、それぞれ対応する位置にある一対の画素の画素値の比を画素値とする対比画像を求める段階と、
前記対比画像を構成する画素の画素値範囲を所定の角度範囲に対応づけるための対応関係を定義し、前記対比画像を構成する個々の画素の画素値を前記対応関係に基づいて所定の角度に変換することにより、角度画像を求める段階と、
前記角度画像に基づいて、二次元平面上に角度分布を定義し、各位置に定義された角度に応じた向きを有する万線を生成する段階と、
前記万線を凹凸パターンとして表現したエンボスシートを作成する段階と、
を有することを特徴とする木目の異方性反射面を表現したエンボスシートの製造方法。
【請求項3】
木目の異方性反射面を表現したエンボスシートを製造する方法であって、
サンプルとなる天然木の切断面を、第1の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより、第1の基本画像を得る段階と、
前記切断面を、第2の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより、第2の基本画像を得る段階と、
前記第1の基本画像を構成する個々の画素と前記第2の基本画像を構成する個々の画素について、それぞれ対応する位置にある一対の画素の画素値の差を画素値とする差分画像を求める段階と、
前記差分画像を構成する個々の画素について、その画素値の前記差分画像内での大小順位を示す順位値を重複のないように求め、前記差分画像を構成する個々の画素の画素値を前記順位値に変換することにより、順位画像を求める段階と、
前記順位値の範囲を所定の角度範囲に対応づけるための対応関係を定義し、前記順位画像を構成する個々の画素の画素値を前記対応関係に基づいて所定の角度に変換することにより、角度画像を求める段階と、
前記角度画像に基づいて、二次元平面上に角度分布を定義し、各位置に定義された角度に応じた向きを有する万線を生成する段階と、
前記万線を凹凸パターンとして表現したエンボスシートを作成する段階と、
を有することを特徴とする木目の異方性反射面を表現したエンボスシートの製造方法。
【請求項4】
木目の異方性反射面を表現したエンボスシートを製造する方法であって、
サンプルとなる天然木の切断面を、第1の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより、第1の基本画像を得る段階と、
前記切断面を、第2の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより、第2の基本画像を得る段階と、
前記第1の基本画像を構成する個々の画素と前記第2の基本画像を構成する個々の画素について、それぞれ対応する位置にある一対の画素の画素値の比を画素値とする対比画像を求める段階と、
前記対比画像を構成する個々の画素について、その画素値の前記対比画像内での大小順位を示す順位値を重複のないように求め、前記対比画像を構成する個々の画素の画素値を前記順位値に変換することにより、順位画像を求める段階と、
前記順位値の範囲を所定の角度範囲に対応づけるための対応関係を定義し、前記順位画像を構成する個々の画素の画素値を前記対応関係に基づいて所定の角度に変換することにより、角度画像を求める段階と、
前記角度画像に基づいて、二次元平面上に角度分布を定義し、各位置に定義された角度に応じた向きを有する万線を生成する段階と、
前記万線を凹凸パターンとして表現したエンボスシートを作成する段階と、
を有することを特徴とする木目の異方性反射面を表現したエンボスシートの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法において、
第1の基本画像および第2の基本画像として、輝度を示す画素値をもった画像を用いることを特徴とする木目の異方性反射面を表現したエンボスシートの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法において、
二次元平面上に角度分布を定義する際に、角度画像を構成する個々の画素の位置を示す代表点を定義し、各画素の代表点の位置に当該画素の画素値として定義されている角度値を与え、代表点以外の任意の点については、隣接する複数の代表点の角度値に基づく補間演算により所定の角度値を与えることを特徴とする木目の異方性反射面を表現したエンボスシートの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法において、
万線を生成する際に、角度分布が定義された二次元平面上に起点を定め、この起点上を最初の位置とする参照点を定義し、この参照点を、「現在位置に定義されている角度値に応じた方向に所定長だけ移動する処理」を繰り返し行い、参照点の移動軌跡により1本の万線を形成する処理を、所定間隔をおいて定義された多数の起点について行うことにより、多数の万線を形成することを特徴とする木目の異方性反射面を表現したエンボスシートの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法において、
角度画像を求める際に、角度範囲の幅を90°に設定することを特徴とする木目の異方性反射面を表現したエンボスシートの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法において、
第1の基本画像を得る際に、XY平面上に天然木の切断面を配置し、前記切断面の上方にラインセンサをY軸に平行になるように配置し、前記切断面上のY軸に平行な線状領域の画像を取り込めるようにし、前記線状領域に対して第1の方向から照明光を照射した状態で、前記切断面をX軸方向に移動させながら、前記ラインセンサにより前記切断面の画像を取り込む作業を行うようにし、
第2の基本画像を得る際に、XY平面上に天然木の切断面を配置し、前記切断面の上方にラインセンサをY軸に平行になるように配置し、前記切断面上のY軸に平行な線状領域の画像を取り込めるようにし、前記線状領域に対して第2の方向から照明光を照射した状態で、前記切断面をX軸方向に移動させながら、前記ラインセンサにより前記切断面の画像を取り込む作業を行うようにしたことを特徴とする木目の異方性反射面を表現したエンボスシートの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法において、
ラインセンサをY軸の真上に配置し、第1の基本画像を得る際には、X軸の負の領域から照明光の照射を行い、第2の基本画像を得る際には、X軸の正の領域から照明光の照射を行うことを特徴とする木目の異方性反射面を表現したエンボスシートの製造方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載の製造方法において、
Y軸に平行な線光源を照明光として用いることを特徴とする木目の異方性反射面を表現したエンボスシートの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の製造方法において、
天然木に対する撮影環境と同一の撮影環境で白色拡散板に対する撮影を行うことにより補正用画像を求め、この補正用画像を用いて基本画像に対する補正を行うことを特徴とする木目の異方性反射面を表現したエンボスシートの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の製造方法によって製造された木目の異方性反射面を表現したエンボスシート。
【請求項14】
木目の異方性反射面を表現したエンボスシートを製造する装置であって、
サンプルとなる天然木の切断面を、第1の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより得られる第1の基本画像と、第2の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより得られる第2の基本画像と、を入力する画像入力手段と、
前記第1の基本画像を構成する個々の画素と前記第2の基本画像を構成する個々の画素について、それぞれ対応する位置にある一対の画素の画素値の差を画素値とする差分画像を求める差分画像演算手段と、
前記差分画像を構成する画素の画素値範囲を所定の角度範囲に対応づけるために予め定義された対応関係に基づいて、前記差分画像を構成する個々の画素の画素値を所定の角度に変換することにより角度画像を求める角度画像演算手段と、
前記角度画像に基づいて、二次元平面上に角度分布を定義し、各位置に定義された角度に応じた向きを有する万線を生成する万線生成手段と、
前記万線を凹凸パターンとして表現したエンボスシートを作成するエンボスシート作成手段と、
を有することを特徴とする木目の異方性反射面を表現したエンボスシートの製造装置。
【請求項15】
木目の異方性反射面を表現したエンボスシートを製造する装置であって、
サンプルとなる天然木の切断面を、第1の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより得られる第1の基本画像と、第2の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより得られる第2の基本画像と、を入力する画像入力手段と、
前記第1の基本画像を構成する個々の画素と前記第2の基本画像を構成する個々の画素について、それぞれ対応する位置にある一対の画素の画素値の比を画素値とする対比画像を求める対比画像演算手段と、
前記対比画像を構成する画素の画素値範囲を所定の角度範囲に対応づけるために予め定義された対応関係に基づいて、前記対比画像を構成する個々の画素の画素値を所定の角度に変換することにより角度画像を求める角度画像演算手段と、
前記角度画像に基づいて、二次元平面上に角度分布を定義し、各位置に定義された角度に応じた向きを有する万線を生成する万線生成手段と、
前記万線を凹凸パターンとして表現したエンボスシートを作成するエンボスシート作成手段と、
を有することを特徴とする木目の異方性反射面を表現したエンボスシートの製造装置。
【請求項16】
木目の異方性反射面を表現したエンボスシートを製造する装置であって、
サンプルとなる天然木の切断面を、第1の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより得られる第1の基本画像と、第2の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより得られる第2の基本画像と、を入力する画像入力手段と、
前記第1の基本画像を構成する個々の画素と前記第2の基本画像を構成する個々の画素について、それぞれ対応する位置にある一対の画素の画素値の差を画素値とする差分画像を求める差分画像演算手段と、
前記差分画像を構成する個々の画素について、その画素値の前記差分画像内での大小順位を示す順位値を重複のないように求め、前記差分画像を構成する個々の画素の画素値を前記順位値に変換することにより、順位画像を求める順位画像演算手段と、
前記順位画像を構成する画素の画素値範囲を所定の角度範囲に対応づけるために予め定義された対応関係に基づいて、前記順位画像を構成する個々の画素の画素値を所定の角度に変換することにより角度画像を求める角度画像演算手段と、
前記角度画像に基づいて、二次元平面上に角度分布を定義し、各位置に定義された角度に応じた向きを有する万線を生成する万線生成手段と、
前記万線を凹凸パターンとして表現したエンボスシートを作成するエンボスシート作成手段と、
を有することを特徴とする木目の異方性反射面を表現したエンボスシートの製造装置。
【請求項17】
木目の異方性反射面を表現したエンボスシートを製造する装置であって、
サンプルとなる天然木の切断面を、第1の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより得られる第1の基本画像と、第2の方向から照明光を照射した状態で撮影することにより得られる第2の基本画像と、を入力する画像入力手段と、
前記第1の基本画像を構成する個々の画素と前記第2の基本画像を構成する個々の画素について、それぞれ対応する位置にある一対の画素の画素値の比を画素値とする対比画像を求める対比画像演算手段と、
前記対比画像を構成する個々の画素について、その画素値の前記対比画像内での大小順位を示す順位値を重複のないように求め、前記対比画像を構成する個々の画素の画素値を前記順位値に変換することにより、順位画像を求める順位画像演算手段と、
前記順位画像を構成する画素の画素値範囲を所定の角度範囲に対応づけるために予め定義された対応関係に基づいて、前記順位画像を構成する個々の画素の画素値を所定の角度に変換することにより角度画像を求める角度画像演算手段と、
前記角度画像に基づいて、二次元平面上に角度分布を定義し、各位置に定義された角度に応じた向きを有する万線を生成する万線生成手段と、
前記万線を凹凸パターンとして表現したエンボスシートを作成するエンボスシート作成手段と、
を有することを特徴とする木目の異方性反射面を表現したエンボスシートの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2006−187915(P2006−187915A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−643(P2005−643)
【出願日】平成17年1月5日(2005.1.5)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】