説明

木質材料処理組成物、木質材料の処理方法及びそれにより処理された木質材料

【課題】木材等の木質材料の難燃性等を向上させると共に、処理後の木質材料の白華の問題の生じにくい木質材料処理組成物、それを用いた木質材料の処理方法、及びそれにより処理された木質材料を提供する。
【解決手段】1.2〜3mol/Lのリン酸又はリン酸イオンと、0.15〜0.5mol/Lのアルカリ土類金属イオンと、0.04〜0.4mol/Lのアルカリ金属イオンと、1.0〜2.0mol/Lのアンモニウムイオンとを含む水溶液に、前記水溶液1Lあたり、ケイ素原子数換算で0.05〜0.5molとなる量のケイ酸化合物を添加することにより得られることを特徴とする木質材料処理組成物、この組成物を含浸させる工程を含む木質材料の処理方法、及びこの方法により処理を行うことにより得られる木質材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質材料処理組成物、木質材料の処理方法及びそれにより処理された木質材料に関する。
【背景技術】
【0002】
木質材料は、古来より建築材料として広く用いられており、建築様式の変化にかかわらず、独特の風合いを有する建築材料として、現在においても、構造材のみならず、外装材及び内装材としても広く用いられている。しかし、木質系材料には、腐朽性、可燃性等の問題があり、わが国において最も広く用いられているヒノキ、スギ等の針葉樹においては、早材部分の硬度の低さに起因する傷の付きやすさ、経年収縮による凹凸の発生(いわゆる「目やせ」)等の問題も有している。
【0003】
上述のような、木質材料における腐朽性及び可燃性の低減、硬度及び寸法安定性の向上等のために、処理剤を表面に塗布し、又は内部に含浸させることが広く行われており、種々の処理剤及び処理方法が提案されている。
例えば、有機又は無機ハロゲン系難燃剤が、古くから用いられている。また、ピロリン酸メラミン等の窒素系難燃剤も用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、特許文献2には、原料木材に含浸した2種以上の水溶性化合物の反応生成物である不溶性不燃性化合物が定着し、2個以上のアルデヒド基を有する化合物で原料木材の水酸基間を架橋した変性木材をホルムアルデヒド誘導体の蒸気雰囲気中でかつ酸触媒の存在下で加熱してホルマール化することにより、難燃性を保持しかつ寸法安定性を改善した改質木材の製法が開示されている。
特許文献3には、難燃性金属塩と、アクリル系重合体が木質内に含浸され、硬化したアクリル系重合体が木質内で難燃性物質を包囲しており、火炎に対する抵抗力を有し、寸法が安定し生活環境にも悪影響を与えない難燃性重合体含浸木材が開示されている。
【0005】
特許文献4及び5には、木質系材料の発煙燃焼及び赤熱燃焼の抑制効果を有するホウ酸塩を防火剤として利用した、防火、耐火、不燃材料、及び不燃木材板がそれぞれ開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−218708号公報
【特許文献2】特開平6−143209号公報
【特許文献3】特開2000−141318号公報
【特許文献4】特開2005−112700号公報
【特許文献5】特開2006−182024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ハロゲン系難燃剤や特許文献1記載の窒素系難燃剤は、燃焼時に有害ガスを発生し、また変色の原因となるという問題点を有している。
特許文献2記載の改質木材の製法においては、木材内部に残留するホルムアルデヒドが、いわゆるシックハウス症候群や、環境への悪影響の原因となるおそれがある。
特許文献3記載の難燃性重合体含浸木材においては、含浸させたアクリル系重合体の前駆体の重合が完全に進行しない場合があり、寸法安定性の低下等の問題が生じうる。
特許文献4記載の防火、耐火、不燃材料、及び特許文献5記載の不燃木材板においては、木材の吸脱湿に伴い、水溶性のホウ酸化合物が溶脱し、表面で析出して表面が白くなる白華現象を起こすという欠点がある。処理コスト低減を目的とするホウ酸の水溶性の向上のためにアルカリ類を添加する場合が多いが、このような場合、アルカリ類の吸湿性によりホウ酸の溶脱が促進され、白華現象の発生がより顕著になるおそれがある。
【0008】
内外壁用の木材等において、このような白華現象が発生すると、その価値が低下してしまうと共に、これらの材料においては、処理後に、反りやねじれ等の変形を生じやすく、寸法及び形状安定性に乏しいという欠点も存在する。また、白華現象が起こると、塗料との親和性が低下するので、市販の塗料を用いることができず、塗装コストの増大という問題も生じる。
【0009】
更に、特許文献4記載の防火、耐火、不燃材料、及び特許文献5記載の不燃木材板に使用されているホウ酸は毒性を有しており、成人の場合、1〜3g摂取すると中毒症状が発症し、10〜20gが致死量であると言われている。したがって、ホウ酸に代わる難燃剤を含む木質材料処理組成物が求められている。ホウ酸と共に広く用いられている無機難燃剤としてリン酸塩が挙げられるが、リン酸塩の場合にも、白華現象の発生が知られており、難燃性の向上と白華現象の抑制とは、この場合においてもトレードオフの関係にある。
【0010】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、木材等の木質材料の難燃性等を向上させると共に、処理後の木質材料の白華の問題の生じにくい木質材料処理組成物、それを用いた木質材料の処理方法、及びそれにより処理された、木質材料を提供することを目的とする。
なお、本発明における「木質材料」には、樹木より得られるいわゆる「木材」の他に、草本類の茎、葉等より得られ、セルロース及びリグニンを主な成分とする材料が含まれるものとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、1.2〜3mol/Lのリン酸又はリン酸イオンと、0.15〜0.5mol/Lのアルカリ土類金属イオンと、0.04〜0.4mol/Lのアルカリ金属イオンと、1.0〜2.0mol/Lのアンモニウムイオンとを含む水溶液に、前記水溶液1Lあたり、ケイ素原子数換算で0.05〜0.5molとなる量のケイ酸化合物を添加することにより得られることを特徴とする木質材料処理組成物を提供することにより、上記課題を解決するものである。
【0012】
木質材料処理組成物に含まれるリン酸又はリン酸イオンは、それを含浸させた木質材料の燃焼時にいわゆる炭火層を形成してその内部への酸素の供給を遮断することにより、燃焼防止効果を発揮できる。そのため、ホウ酸を用いることなく、木質材料に高い難燃性を付与することができる。木質材料処理組成物に含まれるアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン及びアンモニウムイオンは、高温下で吸熱反応を起こして熱分解するため、燃焼熱を吸収して燃焼の進行を阻害する効果を有している。また、木質材料処理組成物に含まれるケイ酸化合物が木質材料の内部に浸透後重合し、ポリシロキサンを形成することにより、木質材料処理組成物に含まれるリン酸塩の溶脱及びそれに伴う白華現象を抑制できる。また、本態様に係る木質材料処理組成物は合成樹脂を含まないため、これにより処理された木質材料において廃棄時の処理の問題が生じないと共に、ホウ酸を用いていないため、過度の吸湿性を有しない。
【0013】
木質材料処理組成物を上記のような組成にすることにより、木質材料に高い難燃性を付与でき、かつ処理後の木質材料における白華現象及び変色の発生を抑制することができる。更に、ハロゲン系難燃剤や窒素系難燃材を含まないため、燃焼時に有害な又は刺激性のガスを発生しない。
【0014】
この場合において、前記アルカリ土類金属がカルシウムであることが好ましく、前記アルカリ金属がカリウムであることが好ましい。
これらの金属イオンを用いることにより、木質材料に高い不燃性能を付与できる木質材料処理組成物を低コストで得ることができる。
【0015】
また、本発明の第1の態様において、前記水溶液1Lあたり、0.2〜0.4molのリン酸二水素アルカリ土類金属塩と、0.04〜0.3molのリン酸二水素アルカリ金属塩と、0.6〜0.95molのリン酸水素アンモニウム塩とを、所定量のリン酸を含むリン酸水溶液に溶解することにより木質材料処理組成物を得てもよい。
強塩基性で取り扱いに注意が必要なアルカリ金属の水酸化物、水に溶けにくいアルカリ土類金属の水酸化物、リン酸酸性水溶液に溶解すると二酸化炭素が発生し発泡するアルカリ金属及びアルカリ土類金属の炭酸塩等を用いる場合に比べ、原料の管理及び取り扱いが容易で、製造時の発泡や有害なガスの発生も抑制できる。
【0016】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様に係る木質材料処理組成物を木質材料に含浸させることを特徴とする木質材料の処理方法を提供することにより、上記課題を解決するものである。
【0017】
この場合において、減圧下で所定時間放置した木質材料を木質材料処理組成物に浸漬し、加圧下で該木質材料処理組成物を木質材料に含浸させることが好ましい。
【0018】
また、この場合において、前記木質材料処理組成物の含浸前後の前記木質材料の質量変化を前記木質材料の各々について測定し、単位体積あたりの含浸量が所定値以下のものについては再度前記木質材料処理組成物の含浸を行うことが好ましい。
【0019】
本発明の第3の態様は、本発明の第2の態様に係る木質材料の処理方法で処理することを特徴とする木質材料を提供することにより上記課題を解決するものである。
このようにして得られる木質材料は、未処理の木質材料に比べ難燃性が向上しており、白華現象の発生による意匠性の低下等の問題が生じにくいため、内装材及び外装材として好適に用いることができる。また、経時変化による変形及び変色が発生しにくいため、耐久性にも優れている。
【0020】
この場合において、木質材料は、建築基準法施行令(昭和二十五年十一月十六日政令第三百三十八号)第1条第5号の準不燃材料、同条第6号の難燃材料、及び建築基準法(昭和二十五年五月二十四日法律第二百一号)第2条第9号の不燃材料のいずれかの基準に適合するものであることが好ましい。
【0021】
なお、「建築基準法施行令第1条第5号の準不燃材料」とは、通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後10分間、次の(1)〜(3)(建築物の外部の仕上げに用いるものにあっては、(1)及び(2)。以下同じ)に掲げる要件を満たしている建築材料をいい、「同条第6号の難燃材料」とは、通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後5分間、次の(1)〜(3)に掲げる要件(建築基準法施行令第108条の2各号)を満たしている建築材料をいい、「建築基準法第2条第9号の不燃材料」とは、通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後20分間、次の(1)〜(3)に掲げる要件を満たしている建築材料をいう。
(1)燃焼しないものであること。
(2)防火上有害な変形、溶融、き裂その他の損傷を生じないものであること。
(3)避難上有害な煙又はガスを発生しないものであること。
【発明の効果】
【0022】
以上述べたように、本発明によれば、木質材料の難燃性等を向上させると共に、白華の問題の生じにくい木質材料処理組成物が得られる。また、本発明によれば、木質材料処理組成物を用いた木質材料の処理方法、及びそれにより処理された、木質材料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例7で難燃処理を行ったスギ材における木質材料処理組成物の固着量と10分間の総発熱量との関係を示すグラフである。
【図2】実施例7におけるスギ材への木質材料処理組成物の固着量と20分間の総発熱量との関係を示すグラフである。
【図3】実施例7で難燃処理を行ったスギ材における総発熱量及び燃焼速度の時間変化をプロットしたグラフである。
【図4】実施例7で難燃処理を行ったスギ材における総発熱量及び燃焼速度の時間変化をプロットしたグラフである。
【図5】実施例7で難燃処理を行ったスギ材における総発熱量及び燃焼速度の時間変化をプロットしたグラフである。
【図6】実施例7で難燃処理を行ったスギ材における総発熱量及び燃焼速度の時間変化をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の第1の実施形態に係る木質材料処理組成物は、1.2〜3mol/Lのリン酸又はリン酸イオンと、0.15〜0.5mol/Lのアルカリ土類金属イオンと、0.04〜0.4mol/Lのアルカリ金属イオンと、1.0〜2.0mol/Lのアンモニウムイオンとを含む水溶液に、水溶液1Lあたりケイ素原子数換算で0.05〜0.5molとなる量のケイ酸化合物を添加することにより得られる水溶液状の組成物であり、塗布又は加圧注入により木質材料に含浸させることができる。
【0025】
各成分の組成は、上記範囲内で、pH、含浸後のケイ酸化合物の重合速度等を調節するために適宜調節することができる。例えば、木質材料処理組成物のpHを中性付近にするためには、リン酸の添加量を減少させ、アンモニウム塩の添加量を増大させる。
【0026】
アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンを含む金属塩としては、これらの属に属する任意の金属塩を用いることができる。すなわち、アルカリ金属塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウム塩を、アルカリ土類金属塩としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウム塩をそれぞれ用いることができる。これらのうち、アルカリ金属塩としてはカリウム塩、アルカリ土類金属塩としてはカルシウム塩が特に好ましく用いられる。これらの金属塩及びアンモニウム塩の陰イオンは、水酸化物、ハロゲン化物、炭酸イオン(炭酸水素イオンHCO及び炭酸イオンCO2−の両者を含む。)、硝酸イオン、硫酸イオン(硫酸水素イオンHSO及び硫酸イオンSO2−の両者を含む。)、カルボン酸イオン、スルホン酸イオン、リン酸イオン(リン酸二水素イオンHPO、リン酸水素イオンHPO2−及びリン酸イオンPO3−の三者を含む。)、過塩素酸イオン等のいずれであってもよいが、好ましくはリン酸イオンである。
【0027】
リン酸イオンを含む金属塩としては、水に溶解してリン酸イオンを生じる任意のものを用いることができ、具体例としては、(オルト)リン酸塩、リン酸水素塩、リン酸二水素塩、二リン酸塩、トリポリリン酸塩、ポリリン酸塩等が挙げられる。木質材料処理組成物の製造に好ましく用いられる金属塩及びアンモニウム塩としては、リン酸二水素カリウム(KHPO)、リン酸二水素カルシウム(Ca(HPO)、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)、リン酸水素カリウム(KHPO)、リン酸水素カルシウム(CaHPO)、リン酸水素アンモニウム((NHHPO)が挙げられる。
【0028】
木質材料処理組成物は、水溶液1Lあたりケイ素原子数換算で0.05〜0.5molとなる量のケイ酸化合物を含んでいる。ケイ酸化合物は、水溶液に溶解していてもよく、コロイド等の状態で均一に分散した状態であってもよい。ケイ酸化合物としては、水溶液中で(オルト)ケイ酸イオン(SiO4−)又は複数のケイ酸イオンが脱水縮合したポリケイ酸イオン又はポリシロキサンを生成できる任意のものであってよく、具体例としては、オルトケイ酸塩、メタケイ酸塩、無水シリカ、コロイド状シリカ、ポリアルコキシシラン等が挙げられる。
【0029】
木質材料処理組成物は、アルカリ土類金属塩、アルカリ金属塩、アンモニウム塩及びリン酸、及びケイ酸化合物を水に混合することにより調製される。それぞれの成分の量は、リン酸又はリン酸イオン、アルカリ土類金属イオン、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン及びケイ酸化合物が、それぞれ上記の範囲内の量となるように適宜調節される。木質材料処理組成物は、例えば、水溶液1Lあたり、0.2〜0.4molのリン酸二水素アルカリ土類金属塩と、0.04〜0.3molのリン酸二水素アルカリ金属塩と、0.6〜0.95molのリン酸水素アンモニウム塩とを、所定量のリン酸を含むリン酸水溶液に溶解後、水で所定量まで希釈し、得られた水溶液にケイ酸化合物を添加することにより調製することができる。
【0030】
なお、木質材料処理組成物に含まれるリン酸又はリン酸イオン、アルカリ土類金属イオン、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン及びケイ酸化合物の濃度の測定は、任意の公知の方法を用いて行うことができる。測定法の具体例としては、イオンクロマトグラフィー法、誘導結合プラズマ法(ICP)、原子吸光分析等の発光分析法、ケイ酸イオンに対するモリブデン酸比色法等が挙げられる。
【0031】
pHの調節及び難燃性の向上等のために、上記以外の他の成分を木質材料処理組成物に添加してもよい。添加することができる成分としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属の炭酸塩、水酸化物、アルミニウム塩等が挙げられる。
【0032】
本発明の第2の実施形態に係る木質材料は、本発明の第1の実施形態に係る木質材料処理組成物を木質材料に含浸させる工程を有する木質材料の処理方法を用いて製造される。
木質材料の種類としては特に制限されず、任意の種類の樹木、草本類の茎、葉等より得られ、セルロース及びリグニンを主な成分とする材料を用いることができ、木材の場合、無垢材のみならず、合板や集成材を用いることもできる。また、形状及び寸法についても特に制限されない。
【0033】
木質材料処理組成物の木質材料への含浸は、任意の公知の方法を用いて行うことができる。含浸の方法としては、木質材料の表面に木質材料処理組成物を塗布し浸透させる方法及び加圧注入する方法が挙げられるが、厚みの大きな板材、柱材等については、後者の方法がより好ましく、木質材料の防虫処理等において広く用いられている、JISA9002に準拠した加圧注入方法が特に好ましく用いられる。なお、木質材料処理組成物中への浸漬及び加圧を行う前に、木質材料に吸着された水分及び空気等の気体成分を除去し、含浸量を増大させるために、減圧下で所定時間木質材料を放置する減圧処理を行ってもよい。蒸煮処理の例としては、120℃程度の蒸気で加熱後減圧乾燥を行う蒸煮減圧処理が挙げられる。
【0034】
より具体的には、圧力容器中で木質材料処理組成物中に浸漬した木質材料を所定の時間、所定の圧力で加圧することにより木質材料処理組成物の含浸(加圧注入)が行われる。加圧時の圧力及び加圧時間は、木質材料の強度、形状及び寸法、含浸させようとする物質の量等に応じて適宜調節される。加圧は、浸漬容器中の大気圧を増大させることによって行ってもよく、浸漬容器に注入した木質材料処理組成物の静水圧を増大させることによって行ってもよい。
【0035】
処理後、圧力容器から取り出された木質材料は、表面に付着した木質材料処理組成物を除去するために水で洗浄され、乾燥される。乾燥は、自然乾燥及び熱風乾燥のいずれでもよい。熱風乾燥には、木質材料中に含浸させたケイ酸化合物の重合を早めることにより、木質材料の処理に要する時間を短縮できる効果もある。なお、含浸量を増大させるために、後述する質量変化の測定結果のいかんに関わらず、乾燥後の木質材料について上述の加圧注入処理を繰り返し行ってもよい。
【0036】
木質材料処理組成物の含浸前後の前記木質材料の質量変化を木質材料の各々について測定し、単位体積あたりの含浸量が所定値以下のものについては再度木質材料処理組成物の含浸を行うことが好ましい。再度含浸を行った木質材料についても、各々について含浸前後の質量変化を測定し、なおも単位体積あたりの含浸量が所定値に達しないものについては廃棄する。
【0037】
更に、木質材料中に含浸させたケイ酸化合物の重合を早めるために、洗浄及び風乾後に加熱処理を行ってもよい。
【0038】
木質材料中に含浸させた各成分の濃度は、X線マイクロアナライザー(XPS)等の任意の放置の方法を用いて決定できる。
【0039】
含浸処理後に含浸容器に残留した木質材料処理組成物は、必要ならば含有成分の分析(上述の方法を用いて行うことができる。)及び/又は不足する成分の補充を行った上で、再度含浸処理に用いることができる。この場合において、木質材料処理組成物に着色が見られる場合には、含浸により木質材料への着色が起こり、品質低下を起こすおそれがあるが、活性炭処理を行うことにより着色分を除去することが可能であり、再度含浸処理に使用しても木質材料の着色の問題は起こらないことが確認された。
【0040】
このようにして得られる木質材料は、建築基準法施行令第1条第5号の準不燃材料、同条第6号の難燃材料、又は建築基準法第2条第9号の不燃材料の基準に適合する。上述のこれらの基準に適合するか否かについては、これらの基準法で定める技術的基準に適合する任意の試験方法により確認することができるが、試験方法の具体例としては、ISO−5660に準拠するコーンカロリーメーター法による発熱性試験が挙げられる。
【0041】
コーンカロリーメーターとは、大きさ10cm×10cmの試験片をコーン型ヒーターで加熱し、発生するガス中の酸素濃度を測定する装置である。試験片は、50kw/mで加熱し、電気スパークで着火させ、燃焼による減少する酸素濃度より、発熱量及び発熱速度が計算される。
このようにして求められる発熱速度が、所定時間(不燃材料:20分、準不燃材料:10分、難燃材料:5分)の合計発熱量が8MJ/m未満であり、かつ200kW/mを超える発熱速度が10秒以上継続しない場合、発熱性試験に合格したと判定される。
【0042】
このようにして得られる木質材料は、材質、大きさ、形状、不燃性能等に応じて任意の用途に用いることができる。必要に応じて、表面加工(サンドペーパー、カンナ等による表面研削、塗装等)等の加工を適宜行ってもよい。
【実施例】
【0043】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
実施例1:木質材料処理組成物の調製(1)
水温20〜25℃の水789.4gを容器に入れ、リン酸(85%)145.1gを加えて撹拌し、溶解させた。このリン酸水溶液にリン酸二水素カルシウム一水和物(Ca(HPO・HO)85.0gを加えて撹拌した。4〜5分間撹拌を続けると固体が全て溶解し、透明な溶液となった。次いで、この溶液にリン酸二水素カリウム(KHPO)14.2gを加えて撹拌した。2〜3分間撹拌を続けると固体が全て溶解し、透明な溶液となった。次いで、リン酸水素二アンモニウム((NHHPO)122.7gを加えて撹拌した。5〜6分間撹拌を続けると固体が全て溶解し、透明な溶液となった。次いで、得られた溶液に無水ケイ酸(30.5%)23.6gを加えて撹拌後、比重1.18、pH2.7の水溶液である木質材料処理組成物1L(1180g)を得た。
【0044】
実施例2:木質材料処理組成物の調製(2)
水温20〜25℃の水15,788gを容器に入れ、リン酸(85%)2241.2gを加えて撹拌し、溶解させた。このリン酸水溶液にリン酸二水素カルシウム一水和物(Ca(HPO・HO)1700gを加えて撹拌した。4〜5分間撹拌を続けると固体が全て溶解し、透明な溶液となった。次いで、この溶液にリン酸二水素カリウム(KHPO)284gを加えて撹拌した。2〜3分間撹拌を続けると固体が全て溶解し、透明な溶液となった。次いで、リン酸水素二アンモニウム((NHHPO)2454gを加えて撹拌した。5〜6分間撹拌を続けると固体が全て溶解し、透明な溶液となった。次いで、得られた溶液に無水ケイ酸(30.5%)472gを加えて撹拌後、比重1.18、pH2.7の水溶液である木質材料処理組成物20L(23,600g)を得た。
【0045】
実施例3:難燃処理スギ材の調製
スギ製の壁材(本実加工品:以下、「スギ材」という)(W=115mm、L=2000mm、T=15mm、体積3.45×10−3、含水率15%以下)、及び実施例2において調製した木質材料処理組成物を用い、下記のようにして処理を行った。
加圧含浸装置のタンク内にスギ材を入れ、浮上防止処置を行った後に、タンク内圧を負圧度−0.1MPaに減圧後、1時間減圧処理を行った。減圧状態のタンク内に木質材料処理組成物(スギ材1m当たり385L)を速やかに加え、スギ材が浸漬された状態でタンク内を加圧して、タンク内圧1MPaで90分間保持後、45分かけて大気圧まで自然減圧した。タンクから取り出したスギ材を水洗後、4時間自然乾燥した。次に室温60℃前後の温風乾燥室中で47時間乾燥させた。乾燥後の含水率は15%以下であった。
【0046】
1枚のスギ材を用いて、処理前後の質量の差から、単位体積当たり含浸された物質の量(以下「固着量」という。)を求めたところ、135kg/mであった。また、処理後長期間放置しても、反り、ねじれ等の変形、及びいわゆる「木焼け」と呼ばれる変色のいずれも見られなかった。リグニンの反応に起因する木焼けは、特に酸性の処理液を用いた場合に顕著に見られることが知られているが、興味深いことに、本実施例においては観測されなかった。
【0047】
実施例4:難燃処理スギ材の調製
スギ材(W=105mm、L=1920mm、T=15mm、体積3.024×10−3)、及び実施例2において調製した木質材料処理組成物を用い、木質材料処理組成物の注入量を増大(スギ材1m当たり570L)させ、タンク内圧1MPaで180分間保持後、60分かけて大気圧まで自然減圧しその後実施例3と同様の手順により、スギ材の含浸処理を行った。
2枚のスギ材を用いて、処理前後の質量の差から、単位体積当たり含浸された物質の量を求めたところ、それぞれ219.3kg/m、及び195kg/mであった。また、処理後長期間放置しても、反り、ねじれ等の変形、及びいわゆる「木焼け」と呼ばれる変色のいずれも見られなかった。
【0048】
実施例5:難燃処理スギ材の調製
スギ材(W=100mm、L=230mm、T=30mm、体積0.69×10−3)、及び実施例2において調製した木質材料処理組成物を用いて、実施例3と同様の方法を用いて、スギ材の処理を行った。
2枚のスギ材を用いて、処理前後の質量の差から、単位体積当たり含浸された物質の量を求めたところ、それぞれ140.5kg/m、及び111kg/mであった。
【0049】
実施例6:不燃性能試験
発熱性試験は、ISO−5660に準拠したコーンカロリーメーターを用い、100mm×100mmの板材を用いて行った。輻射熱量50kw/mのバーナーで放射熱を供給しながら電気スパークで点火し、10分間、及び20分間の総発熱量を測定した。本試験において、10分間の総発熱量が8MJ/m以下であるが20分間の総発熱量が8MJ/mを超える場合には「準不燃材」、20分間の総発熱量も8MJ/m以下である場合には「不燃材」であると判定される。結果は、下記の表1に示すとおりであった。なお、総発熱量の欄において、「○」は8MJ/m以下であることを、「×」は8MJ/mを超えていることをそれぞれ表す。
【0050】
これらの結果より、実施例3及び実施例5において難燃処理したスギ材は、建築基準法施行令第1条第5号の準不燃材料の基準に適合していた。一方、実施例4において処理したスギ材は、建築基準法第2条第9号の不燃材料の基準に適合していることが確認された。
【0051】
【表1】

【0052】
実施例7:木質材料処理組成物の含浸量と不燃性能との関係
厚さ17mmのスギ材(W=110mm、L=1700mm)を用い、木質材料処理組成物の注入量を変化させた以外は実施例3と同様の手順で含浸処理を行った。このようにして得られた硬化難燃処理スギ材(含浸量がそれぞれ110kg/m、130kg/m、140kg/m及び150kg/mである4種類)を長手方向に15等分し、長さ100mmの試験片を15枚(スギ材1枚当たり20mmの切り代分の損失が存在する。)切り出し、硬化難燃処理前後の密度変化から固着量を求めた。その後、実施例6に記載の条件(ISO−5660)で10分間、及び20分間の総発熱量並びに発熱量の時間変化を測定した。結果は下記の表2に示すとおりであった。なお、表2において、試料番号に枝番「10」を付したものは、切断前のスギ材を長手方向に15等分した場合において一端側から数えて10番目の位置から切り出されたものを表し、枝番を付していないものは、切断前のスギ材を長手方向に15等分した場合においていずれかの端部から切り出されたものを表す。
【0053】
表2の結果を基に、固着量と10分間、及び20分間の総発熱量との関係をプロットしたグラフを、それぞれ図1及び図2に示す。また、それぞれの試料(F11、F24、F35、F37)の総発熱量及び燃焼速度の時間変化をプロットしたグラフを、それぞれ、図3、4、5、6に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
本試験において、10分間の総発熱量が8MJ/m以下であるが20分間の総発熱量が8MJ/mを超える場合には「準不燃材料」、20分間の総発熱量も8MJ/m以下である場合には「不燃材料」であると判定される。表2、図1及び図2の結果から明らかなように、全ての試料において「準不燃材料」の基準は達成されている。また、含浸量が0.15g/cmである試料番号F37とF11の試料については、「不燃材料」の基準が達成されていることがわかる。また、F24とF24−10、及びF35とF35−10との比較結果より、スギ材の位置による総発熱量及び燃焼速度に大きな差は見られないことがわかる。このことから、木質材料処理組成物は、スギ材の長手方向にわたってほぼ均一に含浸していることが示唆される。
【0056】
更に、図1〜6より、いずれの試料についても発熱速度は常に200kW/mを大幅に下回っていた。これらの結果からも、全ての試料が準不燃材料及び不燃材料の基準を満たしていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.2〜3mol/Lのリン酸又はリン酸イオンと、
0.15〜0.5mol/Lのアルカリ土類金属イオンと、
0.04〜0.4mol/Lのアルカリ金属イオンと、
1.0〜2.0mol/Lのアンモニウムイオンとを含む水溶液に、
前記水溶液1Lあたり、ケイ素原子数換算で0.05〜0.5molとなる量のケイ酸化合物を添加することにより得られることを特徴とする木質材料処理組成物。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属がカルシウムであることを特徴とする請求項1記載の木質材料処理組成物。
【請求項3】
前記アルカリ金属がカリウムであることを特徴とする請求項1及び2のいずれか1項記載の木質材料処理組成物。
【請求項4】
前記水溶液1Lあたり、
0.2〜0.4molのリン酸二水素アルカリ土類金属塩と、
0.04〜0.3molのリン酸二水素アルカリ金属塩と、
0.6〜0.95molのリン酸水素アンモニウム塩とを、
所定量のリン酸を含むリン酸水溶液に溶解して得られることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の木質材料処理組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の木質材料処理組成物を木質材料に含浸させることを特徴とする木質材料の処理方法。
【請求項6】
減圧下で所定時間放置した木質材料を木質材料処理組成物に浸漬し、加圧下で該木質材料処理組成物を木質材料に含浸させることを特徴とする請求項5記載の木質材料の処理方法。
【請求項7】
前記木質材料処理組成物の含浸前後の前記木質材料の質量変化を前記木質材料の各々について測定し、単位体積あたりの含浸量が所定値以下のものについては再度前記木質材料処理組成物の含浸を行うことを特徴とする請求項5及び6のいずれか1項記載の木質材料の処理方法。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか1項記載の木質材料の処理方法で処理することを特徴とする木質材料。
【請求項9】
建築基準法施行令第1条第5号の準不燃材料、同条第6号の難燃材料、及び建築基準法第2条第9号の不燃材料の基準のいずれかに適合することを特徴とする請求項8記載の木質材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−31405(P2011−31405A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177132(P2009−177132)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(508092831)株式会社フォレスト・ブルー (2)
【Fターム(参考)】