木質板積層圧密接合構造
【課題】木質材料による剛節かつ全強を可能にする接合構造を提供し、鉄骨構造におけるラーメン架構と同じ計算体系で設計を行うことのできる木質フレーム構造を提供する。
【解決手段】木質板積層部材1を構成する構成板群1’を積層する際に、別の木質板積層部材2の構成板群2’を任意位置、任意角度で交互に挿入または交差することで重複部Aを設け、その重複部を適宜圧密手段によって、非重複部Bがそれぞれで一体化するまで圧密し、固定する。重複部の剛性と耐力は圧密されることで飛躍的に向上される一方で、非重複部は通常の軸材料と同等性能を有する。重複角度や重複位置などを変えることで得られる、ヘ字形、T字形、十字形、X字形などの部材と通常の軸材料とを組み合わせて継手接合を主体とした木質フレーム構造とする。
【解決手段】木質板積層部材1を構成する構成板群1’を積層する際に、別の木質板積層部材2の構成板群2’を任意位置、任意角度で交互に挿入または交差することで重複部Aを設け、その重複部を適宜圧密手段によって、非重複部Bがそれぞれで一体化するまで圧密し、固定する。重複部の剛性と耐力は圧密されることで飛躍的に向上される一方で、非重複部は通常の軸材料と同等性能を有する。重複角度や重複位置などを変えることで得られる、ヘ字形、T字形、十字形、X字形などの部材と通常の軸材料とを組み合わせて継手接合を主体とした木質フレーム構造とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は木質材料による接合方法において、剛節かつ全強を可能にする接合構造とこれを用いた木質フレーム構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木材に樹脂を含浸して圧密固定し、剛性および強度を飛躍的に高める方法は古くから研究され(非特許文献1)、基材の形状、温度、圧力、時間、使用樹脂、型枠形状などの条件を最適化することで、樹種の特性に応じた寸法安定性の高い強化木が提供され、装飾品、刃物の柄、ドア引手、スポーツ用具などに利用されている。近年では圧縮木材、圧密化木材とも呼ばれ、樹脂による固定をせず、熱処理のみによる固定(非特許文献2)も確立されてきており、床板やテーブル天板などにも利用されている。また、板材を重ね合わせて圧縮することで得られるT字形の部材(非特許文献3)を椅子のフレームとして活用することも提案されている。
【0003】
この強化木を建築構造へ応用した例としては、接合具としての利用、すなわち、鋼製のガセットプレートやドリフトピンなどの接合金物の代替として利用するもの(特許文献1)や、伝統的構法で用いられる広葉樹材の込み栓やダボといった堅木を代替するもの(例えば、非特許文献4)などが挙げられる。
【0004】
また、軸材料自体を強化する例として、圧密強化した挽き板で構成することで得られる高強度集成材(特許文献2)や、接合金物が取り付く部材端部を強化し、トラス構造を構成する技術(非特許文献5)も挙げられる。
【0005】
一方、接合方法に関するもののうち、剛節接合方法とされる接着接合においては、フィンガージョイントをコーナー接合部に適用したもの(特許文献3、4)や、スカーフジョイントを集成材の継手に応用したもの(非特許文献6)がある。
【0006】
【特許文献1】特許公開平6−99412
【特許文献2】特許公開2008−44314
【特許文献3】特許公開2001−90189
【特許文献4】特許公開2001−173094 特許公開2006−213689
【非特許文献1】A.J.STAMM、R.M.SEBROG:Resin−Treated、Laminated、Compressed Wood、Forest Products Laboratory、R1268、USDA(1941)
【非特許文献2】飯田生穂、則元京:「圧縮セットの回復」、木材学会誌、33(12)、929−933(1987)
【非特許文献3】長谷川良一、「軟質木材の高度利用研究(第1報)積層圧縮技術を利用した接合部の強度性能」、平成17年度 岐阜県生活技術研究所研究報告・No.8、p59−64(2006)
【非特許文献4】鄭基浩、北守顕久、A.J.M.Leijten、小松幸平:「温湿度による含水率変化が伝統的ホゾ−込み栓接合部の接触応力度に及ぼす影響(第3報)スギ圧縮木材込み栓を用いたホゾ接合部の引抜き強度性能評価」、木材学会誌、52(6)、358−367(2006)
【非特許文献5】河内武、他、「端部強化木トラス部材のボルト接合部引張実験」日本建築学会大会学術講演梗概集(中国)C−1、構造III、2008年9月、p323−324(2008)
【非特許文献6】木村近衛他、「集成材の全強接着継手に関する研究」日本建築学会大会学術講演梗概集(北陸)C−1、構造III、1992年8月、69−70(1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は圧密技術を応用することによって、剛節であり、全強である接合構造を木質材料で実現し、建築構造として適用が可能な木質フレーム構造を提供することである。ここで、剛節の接合部とは、構造計算において、接合部の変形を無視して部材の変形計算のみでフレーム全体の変形計算ができる接合部のことを指し、全強の接合部とは、接合部耐力が構成部材の耐力を上回る接合部のことを指す。
【0008】
通常の木質部材同士の接合方法は、金属部材同士、樹脂部材同士のような溶接ができないため、剛節かつ全強である接合は稀少である。継手接合においては非特許文献6の例のように接着接合によって実現できているものがあるが、仕口接合においては実現されていない。
【0009】
家具分野、建具分野では非特許文献3にあるような仕口接合において、圧密技術が応用され、接合部の剛性と耐力の両者において既存のホゾやダボによる仕口よりも優れた性能が得られている。しかし、構成部材全体を圧密することから、剛節、全強の条件を満たせる構成にはなっていない。通常の家具や建具などに対して構造計算を行うことは極めて稀であるが、単に剛性や耐力を向上させるだけでなく、接合部と部材との間の変形性能ならびに耐力のバランスを保ち、最終破壊形態をコントロールすることも構造安全性を確保するために重要な要素である。
【0010】
一方、建築分野においては、様々な接合方法がこれまでに開発されている。ただし、これらは接合金物を駆使した機械的接合を基本としていることから、特許文献1や非特許文献4にあるように、強化木や圧縮木材が利用されている範囲も接合金物の代替に留まっている。
【0011】
通常、木質の建築構造においては柱と梁の仕口接合が必然となるが、フレーム構造として成立させるためにはこの部分で大きな力を負担しなくてはならず、構造計算上、モーメントが最大となる箇所となることが通常である。したがって、仕口接合部から破壊に至ることが基本になるため、可能な限りの耐力を付与しておくことが望まれる。しかし、機械的接合における接合耐力は接合金物の存在自体が部材の断面を欠損させざるを得ないことから、部材の曲げ耐力を大きく下回ることが通常である。また、接合金物などが木材へめり込むことによって発生する接合部自体の変形が大きいことから、機械的接合においては剛節と仮定できるものは実現できていない。
【0012】
剛性に関しては、唯一、接着剤を用いることで剛節と仮定できるものが実現できるとされている。しかし、単に接着剤によって柱梁接合部を接合するだけでは、剛節は実現できても、全強と両立させることは困難である。この主因は横引張応力に代表される2次応力よって割裂破壊が発生することにあり、フレームの規模が大きくなるほど注意を払わなくてはならない項目である。つまり、仕口接合ではその部材の収まり形状から、剛性を高めようとするほど応力集中が顕著に表れ、繊維直交方向に発生する応力の影響を大きく受けるようになるためである。
【0013】
このように、剛節と全強を仕口接合で両立させようとしても、非特許文献6のような継手接合の場合とは応力状態が大きく異なり、容易に実現することができない。これは木材が直交異方性材料、すなわち繊維直交方向の強度が繊維方向に比べて極端に低いためであり、避けることのできない課題である。
【0014】
近年、特定の接合方法が木質ラーメン架構として活用されてきているが、鉄骨構造における剛節のラーメン架構とは性質を異にしており、仕口接合部の変形を無視できない特殊なラーメン架構である。実際に既存の木質ラーメン架構において変形計算を行う際には、接合部を半剛節と定義して、接合部の変形を考慮した構造計算を伴うことになるが、この半剛節の場合の構造計算は剛節の場合に比べて飛躍的に煩雑である。また、接合部自体の変形の理論式は、一部においては木質構造を専門とする研究者によって誘導されているものが存在するが、複雑な計算式であることから、一般の建築士が扱えるものとは言い難い。
【0015】
以上のように、現状の木質フレーム構造は、仕口接合部の変形性能と耐力によって著しい制約を受けている状態にあることから、部材が保有する変形性能と耐力を活かし切れていない。また、木質ラーメン架構とされているものにおいては、設計に際して接合部が半剛節であるがゆえに構造計算過程で非常に手間がかかるものとなっている。したがって、接合部を剛節かつ全強のものに置き換えることで、構造設計上の労力を軽減することができる。
【0016】
そもそも、ラーメン架構とは鉄骨構造にあるように柱と梁の交点が剛節であることが前提の構造躯体であることから、木質構造においても剛節で全強の接合部で成立しているラーメン架構があるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
そこで本発明では剛節かつ全強を可能とする技術を建築構造用の接合方法として、通常の機械的接合による仕口接合とするのではなく、2部材が連続体とみなせる接合構造によって、仕口接合を代替する任意の角度付きの部材として提供する。加えて、家具構造や建具構造に適用可能な応用形を示し、最終的には、鉄骨構造と同じ設計概念で成立するラーメン架構と定義できる木質フレーム構造を提供する。
【0018】
まず、請求項1の接合構造について、L字形の接合構造を形成する場合を例に説明する(図1、2)。なお、ここでは木質板積層部材を木材または木質系材料の同形状の構成板を積層接着した部材と定義する。具体的にはロータリー単板、スライス単板、またはラミナなどの板材、ならびに繊維板やOSBなどの各種木質板を積層接着した部材の事を指し、矩形のロータリー単板で構成した場合には単板積層材(いわゆるLVL)、比較的厚さのある板材の場合には集成材に相当するものであるが、構成板の形状は矩形に限定されるものではなく、多角形板、円板、台形板など、任意の形状で構成されるものも木質板積層部材に含む。
【0019】
この甲構成板(1’)を数枚、構成板の角の1つを基準として、乙構成板(2’)を交互に直交するように挟み込み、L字形に配置する。これをプレス機で50%以上の圧密をして、固定することで所定の形状に成形する。ここで50%の圧密とは重複部の圧密度を指し、各構成板群の非重複部が互いに接触する圧密度の事である。プレス時には積層面に接着剤を塗布して構成板同士を接着し、非特許文献2や特許文献1の要領で適切な熱処理を加える事で圧密固定することが可能である。また、後述の実施例に示す通り、あらかじめ合成樹脂液を含浸して乾燥させた構成板を用いて圧密固定することで寸法安定性を付加することも可能である。
【0020】
この接合構造の最大の特徴は、重複部では2方向からの木材繊維同士が絡み合い、重複部と非重複部の境界で木繊維が連続していることにある。また、本発明は挿入角度ならびに重複位置を変える、または直交させることで様々な形状が実現でき、ヘ字形、T字形、十字形、X字形などの変則形の部材ができる(図3)。
【0021】
請求項2はこれらの変則形の部材として提供するものであり、請求項1の接合構造によって剛節または全強、もしくはその両方を可能とする既存の仕口接合を代替する部材である。
【0022】
これまで木質系の構造部材はわん曲集成材を除いて通直材であることが通常であったが、本発明の接合構造を適用することでさまざまな角度付きの部材が得られる。ここで、この接合構造の部分が剛節であり、全強である場合には、この接合構造の部分を接合部とみなさずに、連続体として見なして設計できる。このような角度付きの部材は鉄骨構造では実在しているが、木質材料では実現するに至っていなかったものである。
【0023】
重複部が圧密されることで剛性および耐力が向上していることや交差重ね併せの効果によって異方性が緩和されていること、非重複部と重複部において剛性が大きく違うものが連続していることも特徴として挙げられる。これによって、重複部は特許文献3、4において課題となっていた複雑な複合応力に抵抗することができ、特に繊維直交方向の割裂に対して飛躍的に強化されている。また、この木質板積層圧密接合部材に開閉モーメントを加えた場合の破壊点は、圧密によって重複部での破壊を回避したことで、非重複部においてモーメントが最大となる重複部との境界に移行することになる。このとき、接合耐力を決定する因子は、境界の非重複部の曲げ耐力となるが、境界において構成板がとぎれていないことはすなわち、部材強度が境界においても担保されている。したがって、接合耐力は部材の曲げ強度から簡単に算出できる。
【0024】
構成板形状に制約はなく、例えば台形同士の接合構造部材(図4)も有効であり、矩形の木質板積層部材と三角形の木質板積層部材、台形の木質板積層部材と円形の木質板積層部材など、接合構造上の組み合わせは多数考えられる。さらに上記の接合構造を複数箇所で組み合わせることで、ロ字形、P字形などの応用形(図5)の部材とすることができる。ただし、これらの木質板積層圧密接合部材の形状はプレス機の加圧面の大きさに制約を受けることから、建築部材大のものを実現しようとするとそれなりの大型のプレス機が必要なる。
【0025】
なお、非重複部にも構成板を追加挿入して成形する場合(図6)も考えられるが、部材の強度が向上しても、追加した構成板の繊維は境界で不連続となるため、境界部が局所的に弱く、接合部として全強と見なすことができなくなる。本発明はあくまでも、重複部のみを部材の曲げ耐力よりも飛躍的に向上させることで全強を保持することに意義がある点で、非特許文献1とは技術を異にする。
【0026】
請求項3は、これを用いた木質フレーム構造に関するものである。L字形を用いた例としては、非重複部の長さを十分に確保し、端部を継手加工したものを接合することによって門形、ロ字形などのフレームが形成できる(図7、図8)。ただし、前述のように木質板積層圧密接合部材の大きさはプレス機の大きさに制約を受けることから、建築構造として大スパンの架構を想定した場合には他軸材料と継手接合することによって構築する(図9)。
【0027】
いずれの場合においても木質板積層圧密接合部材を用いたフレーム構造では継手が主体となるが、採用できる継手方法に制約はない。木質板積層圧密接合部材の構成上の特徴によって非重複部に継手加工の容易性を維持されていることから、剛節全強のものからピン接合まで、ありとあらゆるものが建築規模に応じて選択できる。また、他軸材料との継手位置については、躯体のモーメント分布に配慮し、最も効率の良い位置で縦継ぎできるように非重複部の長さを調整する。エネルギー吸収の高い継手を組み込むことも選択肢の1つである。なお、この継手によって躯体全体の施工誤差を吸収できるように配慮する。
【発明の効果】
【0028】
本発明で構成される木質フレーム構造は、モーメントが最大となるコーナー部の性能が集中的に飛躍的に向上されていることから、構造力学的な合理性を追求した木質フレーム構造の一形態であり、鉄骨構造におけるラーメン架構と同等とみなすことができる、まったく新しい木質構造を実現する技術である。
【0029】
まず、剛節を実現したことから、構造計算をする際に、接合部の変形計算を伴わず、鉄骨構造と同じラーメン架構として設計できる。また、重複部は全強を実現していることから、非重複部の曲げ強度で木質ラーメン架構の最大耐力を算出できる。
【0030】
この木質板積層圧密部材を用いた架構としては、小規模建築物であればピン接合として、門形のスリーヒンジラーメン架構が可能である(図7)。建築規模が大きい場合でも、継手に全強の剛節接合を採用すれば単純明快な構造となるが、継手接合には鉄骨の塑性ヒンジに相当する強度接合効率が非常に高く、剛性および靭性の高い接合方法を選択する事で木質フレーム構造として最良の形態が実現できる(図9)。この点で、継手の加工に加工機を選ぶことなく、既存の継手が選択できる意義は大きく、架構の規模や求める性能に応じた継手が選択できる。一般に、仕口接合に比べて継手接合は設計が容易であることに加え、継手位置をコントロールすることで構造計算の最適化を計ることができることから、継手接合の性能がフレーム構造全体の性能を決定するという新しい構造形式として提供できる。
【0025】
また、これまで接合部の接合耐力にあわせて柱や梁などの部材断面を決定しなければならなかったことから、鉄骨構造にくらべて部材断面が大きくなる傾向にあったが、接合耐力が向上したことにより、部材断面を小さくできる効果も期待できる。
【0031】
加えて、ヘ字形、T字形、十字形、X字形、イの字形などを駆使すればすべてが継手接合で成立する構造が可能となる(図10)。
【0032】
さらには、直交する耐力壁の取り合い、または2方向のフレーム構造を想定するとなると、これまでの仕口接合では直交する梁の金物との取り合いが複雑であり、断面欠損もさらに大きくなることから破壊の起点になりがちであったが、本部材の重複部は圧密化されていることから余力が十分に期待でき、少々のボルト孔などの加工が施されても、その影響は非常に小さいといえる。
【0033】
その他の応用としては、図8の形態を水平構面として使用すれば、火打ち梁を省略した吹き抜けなどを構成することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例1】
【0034】
まず、本発明の接合性能について、同厚同数の矩形構成板群によるL字形の木質板積層圧密接合部材を例に、接合部と部材のバランスを素材(非重複部)の剛性および耐力を基準として下表に示す。
【表】
重複部の圧密度0%はいわゆるクロスラップジョイントであり、互いに交差する構成板の厚さ分だけ隙間のある状態である。重複部の圧密度に比例してこの隙間は狭くなり、50%でちょうど非重複部同士が接触する。使用性を考慮すると、非重複部が一体化する50%以上の圧密度が良好といえる。ただし、重複部の圧密度が80%近辺になると、圧密を超えて、基材の破壊(木繊維の破断や分離)の発生が進行する。加えて、圧密に必要なプレス荷重が極端に高くなることから、実大サイズで実施するとプレス容量が不足するなど、製造面での困難を伴う。このことから重複部の圧密度は50%〜70%が良好である。一方、重複部、非重複部の剛性ならびに耐力については木材繊維の密度と比例して上昇する。重複部の剛性については接着接合によるものであることから、非圧密でも1と評価できる。一方、耐力については交差角度によって繊維直交方向成分の影響を受けるため、非圧密では重複部の耐力は非重複部の半分である。剛節か否かの判定は重複部と非重複部の剛比で行ったところ、非圧密でも剛節仮定で設計が可能であるが寸法効果に応じて局所変形の影響が懸念されることから、ここでは重複部の剛性が2倍以上で「◎」として完全に接合部の変形が無視できるものと評価した。一方、全強についての判定は重複部と非重複部の耐力比である接合効率100%以上で「○」と評価した。このように圧密度で重複部と非重複部の剛性と耐力のバランスをコントロールすることが可能であるが、剛比ならびに接合効率においても50%〜70%で良好であると言える。なお、実際に圧密度を決定するに当たっては、非重複部の性能が縦継ぎする部材の剛性、耐力と同等性能になるように設定することが理想となる。
【0035】
以上が基本となる同厚同数の構成板からなる木質板積層部材の場合の良好条件であるが、異厚や異数の構成板からなる木質板積層部材による場合にも本発明の接合構造を成立させることも可能である。これによって、梁と柱とで剛性や耐力が異なる組合せの場合に対応できる部材となる。ただし、圧密後に甲木質板積層部材と乙木質板積層部材の厚さを揃えるとなると、その重複部の圧密度は、構成板の総厚が薄い方によって決定されることになる。この場合、実現可能範囲を同厚同数の木質板積層部材の組み合わせと同じく、重複部の圧密度が50%〜70%に収まる範囲とした場合には、甲構成板と乙構成板の総厚比が7:3以下となる組み合わせとなるが、このような極端に構成板の総厚比が異なるもので実施しなくてもよく、構成板の形状を変えるか、構成板のグレードや樹種の組合せを変えることによっても梁と柱の剛性が異なるものに対応することができる。
【実施例2】
【0036】
次に、具体的な性能をトドマツを使用して120mm角のL字形部材の製造工程と併せて示す。なお、接合構造を構成するに当たっては構成板の樹種は問わないとしているが、本実施例のように樹脂含浸工程を経る場合には、構成板の内部まで確実に樹脂を含浸できる事が望ましいことから、比較的低比重の材で、薄いものが良好である。
【0037】
ここでは甲構成板群と乙構成板群は同厚同数同形状とし、厚さ3.3mm、長さ240mm、幅120mmのロータリー単板を用いた。含浸した樹脂はフェノール樹脂である。樹脂を含浸した単板をホットプレスする際、積層数が少ない方が内部まで効率よく硬化温度に達するため、重複部の積層数を10として重複部の総厚を33mmとした。これを木材の軟化ならびにフェノール樹脂の硬化に適切な温度条件下(ここでは140℃)で厚さ規制によって15mmまで圧密して、L字形の単位板(図11−10)を製造した。このL字形の単位板を8枚、2次接着することで120mm角とし、縦継ぎする柱梁と同じ断面を確保した。なお、熱圧プレスの際においては、合成樹脂液があらかじめ含浸されていることによって構成板同士が圧着すると同時に、各構成板の表層面の樹脂が互いに結合して熱硬化するため、接着剤を塗布した場合と同等の接着性能が得られる。また、2次接着工程は高周波プレスを用いて必要厚さを一括して成形することで省略が可能である。このように、樹脂含浸構成板を用いる場合には、通常の接着剤を用いる場合に配慮が必要な接着剤の可使時間に束縛されないという製造効率上の利点があるが、本発明は樹脂含浸にこだわるものではなく、対象構造物に応じた圧密固定を適宜選択するとよい。
【0038】
これを柱梁部材に相当する集成材と縦継ぎして、モーメント抵抗性能試験体とした。ここではL字部材の真の性能を測定するために継手接合において剛節かつ接合効率の高さで実績のある大型のフィンガージョイントによる接着接合を採用した。このL字形試験体を開閉方向に加力し、剛性および耐力を得た。剛性については重複部を剛節として導出した部材のみの変形角の計算値を実験値と比較した(図12)。開閉いずれの方向においても、変形量は実験値の方が計算値よりも小さかったことから、接合部の変形角が計測されなかったものとみなすことでき、剛節であることが確認された。また、破壊は非重複部と重複部の境界から曲げ破壊し、その耐力(最大モーメント)は集成材の公称値と同等であった。このことから接合耐力についても全強といえることも確認できた。
【0039】
なお、90°よりも鈍角になる場合は、重複部の応力状態において横引張応力成分の割合が小さくなっていくことから重複部での破壊は生じない。一方、90°よりも鋭角になる場合には横引張応力成分の割合は大きくなるが、構成板の繊維方向が横引張応力方向に一致するようになっていくことから、こちらも重複部での破壊は生じない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】L字形木質板積層圧密接合部材の例
【図2】L字形木質板積層圧密接合部材の構成方法
【図3】X字形木質板積層圧密接合部材の例
【図4】台形構成板によるL字形木質板積層圧密接合部材の例
【図5】ロ字形、P字形木質板積層圧密接合部材の例
【図6】追加構成板を入れた場合のL字形木質板積層圧密接合部材の構成方法
【図7】小規模門形ラーメン架構の例
【図8】小規模閉合フレーム構造の例
【図9】大規模門形フレーム構造とその継手の例
【図10】木質板積層圧密接合部材を用いた継手のみによる木質フレーム構造の例
【図11】単位板を2次接着して厚さを調整する例
【図12】L字形木質板積層圧密接合部材の荷重変形曲線
【符号の説明】
【0041】
1 …甲木質板積層部材
1’…甲構成板
2 …乙木質板積層部材
2’…乙構成板
3 …追加構成板
4 …鋼板などのガセット板
5 …柱脚金物
6 …ドリフトピン群
7 …集成材などの軸材料
8 …木ダボや鋼棒などを想定した接合具群
9 …木質板積層圧密接合部材
10…L字形単位板
A …重複部
B …非重複部
【技術分野】
【0001】
本発明は木質材料による接合方法において、剛節かつ全強を可能にする接合構造とこれを用いた木質フレーム構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木材に樹脂を含浸して圧密固定し、剛性および強度を飛躍的に高める方法は古くから研究され(非特許文献1)、基材の形状、温度、圧力、時間、使用樹脂、型枠形状などの条件を最適化することで、樹種の特性に応じた寸法安定性の高い強化木が提供され、装飾品、刃物の柄、ドア引手、スポーツ用具などに利用されている。近年では圧縮木材、圧密化木材とも呼ばれ、樹脂による固定をせず、熱処理のみによる固定(非特許文献2)も確立されてきており、床板やテーブル天板などにも利用されている。また、板材を重ね合わせて圧縮することで得られるT字形の部材(非特許文献3)を椅子のフレームとして活用することも提案されている。
【0003】
この強化木を建築構造へ応用した例としては、接合具としての利用、すなわち、鋼製のガセットプレートやドリフトピンなどの接合金物の代替として利用するもの(特許文献1)や、伝統的構法で用いられる広葉樹材の込み栓やダボといった堅木を代替するもの(例えば、非特許文献4)などが挙げられる。
【0004】
また、軸材料自体を強化する例として、圧密強化した挽き板で構成することで得られる高強度集成材(特許文献2)や、接合金物が取り付く部材端部を強化し、トラス構造を構成する技術(非特許文献5)も挙げられる。
【0005】
一方、接合方法に関するもののうち、剛節接合方法とされる接着接合においては、フィンガージョイントをコーナー接合部に適用したもの(特許文献3、4)や、スカーフジョイントを集成材の継手に応用したもの(非特許文献6)がある。
【0006】
【特許文献1】特許公開平6−99412
【特許文献2】特許公開2008−44314
【特許文献3】特許公開2001−90189
【特許文献4】特許公開2001−173094 特許公開2006−213689
【非特許文献1】A.J.STAMM、R.M.SEBROG:Resin−Treated、Laminated、Compressed Wood、Forest Products Laboratory、R1268、USDA(1941)
【非特許文献2】飯田生穂、則元京:「圧縮セットの回復」、木材学会誌、33(12)、929−933(1987)
【非特許文献3】長谷川良一、「軟質木材の高度利用研究(第1報)積層圧縮技術を利用した接合部の強度性能」、平成17年度 岐阜県生活技術研究所研究報告・No.8、p59−64(2006)
【非特許文献4】鄭基浩、北守顕久、A.J.M.Leijten、小松幸平:「温湿度による含水率変化が伝統的ホゾ−込み栓接合部の接触応力度に及ぼす影響(第3報)スギ圧縮木材込み栓を用いたホゾ接合部の引抜き強度性能評価」、木材学会誌、52(6)、358−367(2006)
【非特許文献5】河内武、他、「端部強化木トラス部材のボルト接合部引張実験」日本建築学会大会学術講演梗概集(中国)C−1、構造III、2008年9月、p323−324(2008)
【非特許文献6】木村近衛他、「集成材の全強接着継手に関する研究」日本建築学会大会学術講演梗概集(北陸)C−1、構造III、1992年8月、69−70(1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は圧密技術を応用することによって、剛節であり、全強である接合構造を木質材料で実現し、建築構造として適用が可能な木質フレーム構造を提供することである。ここで、剛節の接合部とは、構造計算において、接合部の変形を無視して部材の変形計算のみでフレーム全体の変形計算ができる接合部のことを指し、全強の接合部とは、接合部耐力が構成部材の耐力を上回る接合部のことを指す。
【0008】
通常の木質部材同士の接合方法は、金属部材同士、樹脂部材同士のような溶接ができないため、剛節かつ全強である接合は稀少である。継手接合においては非特許文献6の例のように接着接合によって実現できているものがあるが、仕口接合においては実現されていない。
【0009】
家具分野、建具分野では非特許文献3にあるような仕口接合において、圧密技術が応用され、接合部の剛性と耐力の両者において既存のホゾやダボによる仕口よりも優れた性能が得られている。しかし、構成部材全体を圧密することから、剛節、全強の条件を満たせる構成にはなっていない。通常の家具や建具などに対して構造計算を行うことは極めて稀であるが、単に剛性や耐力を向上させるだけでなく、接合部と部材との間の変形性能ならびに耐力のバランスを保ち、最終破壊形態をコントロールすることも構造安全性を確保するために重要な要素である。
【0010】
一方、建築分野においては、様々な接合方法がこれまでに開発されている。ただし、これらは接合金物を駆使した機械的接合を基本としていることから、特許文献1や非特許文献4にあるように、強化木や圧縮木材が利用されている範囲も接合金物の代替に留まっている。
【0011】
通常、木質の建築構造においては柱と梁の仕口接合が必然となるが、フレーム構造として成立させるためにはこの部分で大きな力を負担しなくてはならず、構造計算上、モーメントが最大となる箇所となることが通常である。したがって、仕口接合部から破壊に至ることが基本になるため、可能な限りの耐力を付与しておくことが望まれる。しかし、機械的接合における接合耐力は接合金物の存在自体が部材の断面を欠損させざるを得ないことから、部材の曲げ耐力を大きく下回ることが通常である。また、接合金物などが木材へめり込むことによって発生する接合部自体の変形が大きいことから、機械的接合においては剛節と仮定できるものは実現できていない。
【0012】
剛性に関しては、唯一、接着剤を用いることで剛節と仮定できるものが実現できるとされている。しかし、単に接着剤によって柱梁接合部を接合するだけでは、剛節は実現できても、全強と両立させることは困難である。この主因は横引張応力に代表される2次応力よって割裂破壊が発生することにあり、フレームの規模が大きくなるほど注意を払わなくてはならない項目である。つまり、仕口接合ではその部材の収まり形状から、剛性を高めようとするほど応力集中が顕著に表れ、繊維直交方向に発生する応力の影響を大きく受けるようになるためである。
【0013】
このように、剛節と全強を仕口接合で両立させようとしても、非特許文献6のような継手接合の場合とは応力状態が大きく異なり、容易に実現することができない。これは木材が直交異方性材料、すなわち繊維直交方向の強度が繊維方向に比べて極端に低いためであり、避けることのできない課題である。
【0014】
近年、特定の接合方法が木質ラーメン架構として活用されてきているが、鉄骨構造における剛節のラーメン架構とは性質を異にしており、仕口接合部の変形を無視できない特殊なラーメン架構である。実際に既存の木質ラーメン架構において変形計算を行う際には、接合部を半剛節と定義して、接合部の変形を考慮した構造計算を伴うことになるが、この半剛節の場合の構造計算は剛節の場合に比べて飛躍的に煩雑である。また、接合部自体の変形の理論式は、一部においては木質構造を専門とする研究者によって誘導されているものが存在するが、複雑な計算式であることから、一般の建築士が扱えるものとは言い難い。
【0015】
以上のように、現状の木質フレーム構造は、仕口接合部の変形性能と耐力によって著しい制約を受けている状態にあることから、部材が保有する変形性能と耐力を活かし切れていない。また、木質ラーメン架構とされているものにおいては、設計に際して接合部が半剛節であるがゆえに構造計算過程で非常に手間がかかるものとなっている。したがって、接合部を剛節かつ全強のものに置き換えることで、構造設計上の労力を軽減することができる。
【0016】
そもそも、ラーメン架構とは鉄骨構造にあるように柱と梁の交点が剛節であることが前提の構造躯体であることから、木質構造においても剛節で全強の接合部で成立しているラーメン架構があるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
そこで本発明では剛節かつ全強を可能とする技術を建築構造用の接合方法として、通常の機械的接合による仕口接合とするのではなく、2部材が連続体とみなせる接合構造によって、仕口接合を代替する任意の角度付きの部材として提供する。加えて、家具構造や建具構造に適用可能な応用形を示し、最終的には、鉄骨構造と同じ設計概念で成立するラーメン架構と定義できる木質フレーム構造を提供する。
【0018】
まず、請求項1の接合構造について、L字形の接合構造を形成する場合を例に説明する(図1、2)。なお、ここでは木質板積層部材を木材または木質系材料の同形状の構成板を積層接着した部材と定義する。具体的にはロータリー単板、スライス単板、またはラミナなどの板材、ならびに繊維板やOSBなどの各種木質板を積層接着した部材の事を指し、矩形のロータリー単板で構成した場合には単板積層材(いわゆるLVL)、比較的厚さのある板材の場合には集成材に相当するものであるが、構成板の形状は矩形に限定されるものではなく、多角形板、円板、台形板など、任意の形状で構成されるものも木質板積層部材に含む。
【0019】
この甲構成板(1’)を数枚、構成板の角の1つを基準として、乙構成板(2’)を交互に直交するように挟み込み、L字形に配置する。これをプレス機で50%以上の圧密をして、固定することで所定の形状に成形する。ここで50%の圧密とは重複部の圧密度を指し、各構成板群の非重複部が互いに接触する圧密度の事である。プレス時には積層面に接着剤を塗布して構成板同士を接着し、非特許文献2や特許文献1の要領で適切な熱処理を加える事で圧密固定することが可能である。また、後述の実施例に示す通り、あらかじめ合成樹脂液を含浸して乾燥させた構成板を用いて圧密固定することで寸法安定性を付加することも可能である。
【0020】
この接合構造の最大の特徴は、重複部では2方向からの木材繊維同士が絡み合い、重複部と非重複部の境界で木繊維が連続していることにある。また、本発明は挿入角度ならびに重複位置を変える、または直交させることで様々な形状が実現でき、ヘ字形、T字形、十字形、X字形などの変則形の部材ができる(図3)。
【0021】
請求項2はこれらの変則形の部材として提供するものであり、請求項1の接合構造によって剛節または全強、もしくはその両方を可能とする既存の仕口接合を代替する部材である。
【0022】
これまで木質系の構造部材はわん曲集成材を除いて通直材であることが通常であったが、本発明の接合構造を適用することでさまざまな角度付きの部材が得られる。ここで、この接合構造の部分が剛節であり、全強である場合には、この接合構造の部分を接合部とみなさずに、連続体として見なして設計できる。このような角度付きの部材は鉄骨構造では実在しているが、木質材料では実現するに至っていなかったものである。
【0023】
重複部が圧密されることで剛性および耐力が向上していることや交差重ね併せの効果によって異方性が緩和されていること、非重複部と重複部において剛性が大きく違うものが連続していることも特徴として挙げられる。これによって、重複部は特許文献3、4において課題となっていた複雑な複合応力に抵抗することができ、特に繊維直交方向の割裂に対して飛躍的に強化されている。また、この木質板積層圧密接合部材に開閉モーメントを加えた場合の破壊点は、圧密によって重複部での破壊を回避したことで、非重複部においてモーメントが最大となる重複部との境界に移行することになる。このとき、接合耐力を決定する因子は、境界の非重複部の曲げ耐力となるが、境界において構成板がとぎれていないことはすなわち、部材強度が境界においても担保されている。したがって、接合耐力は部材の曲げ強度から簡単に算出できる。
【0024】
構成板形状に制約はなく、例えば台形同士の接合構造部材(図4)も有効であり、矩形の木質板積層部材と三角形の木質板積層部材、台形の木質板積層部材と円形の木質板積層部材など、接合構造上の組み合わせは多数考えられる。さらに上記の接合構造を複数箇所で組み合わせることで、ロ字形、P字形などの応用形(図5)の部材とすることができる。ただし、これらの木質板積層圧密接合部材の形状はプレス機の加圧面の大きさに制約を受けることから、建築部材大のものを実現しようとするとそれなりの大型のプレス機が必要なる。
【0025】
なお、非重複部にも構成板を追加挿入して成形する場合(図6)も考えられるが、部材の強度が向上しても、追加した構成板の繊維は境界で不連続となるため、境界部が局所的に弱く、接合部として全強と見なすことができなくなる。本発明はあくまでも、重複部のみを部材の曲げ耐力よりも飛躍的に向上させることで全強を保持することに意義がある点で、非特許文献1とは技術を異にする。
【0026】
請求項3は、これを用いた木質フレーム構造に関するものである。L字形を用いた例としては、非重複部の長さを十分に確保し、端部を継手加工したものを接合することによって門形、ロ字形などのフレームが形成できる(図7、図8)。ただし、前述のように木質板積層圧密接合部材の大きさはプレス機の大きさに制約を受けることから、建築構造として大スパンの架構を想定した場合には他軸材料と継手接合することによって構築する(図9)。
【0027】
いずれの場合においても木質板積層圧密接合部材を用いたフレーム構造では継手が主体となるが、採用できる継手方法に制約はない。木質板積層圧密接合部材の構成上の特徴によって非重複部に継手加工の容易性を維持されていることから、剛節全強のものからピン接合まで、ありとあらゆるものが建築規模に応じて選択できる。また、他軸材料との継手位置については、躯体のモーメント分布に配慮し、最も効率の良い位置で縦継ぎできるように非重複部の長さを調整する。エネルギー吸収の高い継手を組み込むことも選択肢の1つである。なお、この継手によって躯体全体の施工誤差を吸収できるように配慮する。
【発明の効果】
【0028】
本発明で構成される木質フレーム構造は、モーメントが最大となるコーナー部の性能が集中的に飛躍的に向上されていることから、構造力学的な合理性を追求した木質フレーム構造の一形態であり、鉄骨構造におけるラーメン架構と同等とみなすことができる、まったく新しい木質構造を実現する技術である。
【0029】
まず、剛節を実現したことから、構造計算をする際に、接合部の変形計算を伴わず、鉄骨構造と同じラーメン架構として設計できる。また、重複部は全強を実現していることから、非重複部の曲げ強度で木質ラーメン架構の最大耐力を算出できる。
【0030】
この木質板積層圧密部材を用いた架構としては、小規模建築物であればピン接合として、門形のスリーヒンジラーメン架構が可能である(図7)。建築規模が大きい場合でも、継手に全強の剛節接合を採用すれば単純明快な構造となるが、継手接合には鉄骨の塑性ヒンジに相当する強度接合効率が非常に高く、剛性および靭性の高い接合方法を選択する事で木質フレーム構造として最良の形態が実現できる(図9)。この点で、継手の加工に加工機を選ぶことなく、既存の継手が選択できる意義は大きく、架構の規模や求める性能に応じた継手が選択できる。一般に、仕口接合に比べて継手接合は設計が容易であることに加え、継手位置をコントロールすることで構造計算の最適化を計ることができることから、継手接合の性能がフレーム構造全体の性能を決定するという新しい構造形式として提供できる。
【0025】
また、これまで接合部の接合耐力にあわせて柱や梁などの部材断面を決定しなければならなかったことから、鉄骨構造にくらべて部材断面が大きくなる傾向にあったが、接合耐力が向上したことにより、部材断面を小さくできる効果も期待できる。
【0031】
加えて、ヘ字形、T字形、十字形、X字形、イの字形などを駆使すればすべてが継手接合で成立する構造が可能となる(図10)。
【0032】
さらには、直交する耐力壁の取り合い、または2方向のフレーム構造を想定するとなると、これまでの仕口接合では直交する梁の金物との取り合いが複雑であり、断面欠損もさらに大きくなることから破壊の起点になりがちであったが、本部材の重複部は圧密化されていることから余力が十分に期待でき、少々のボルト孔などの加工が施されても、その影響は非常に小さいといえる。
【0033】
その他の応用としては、図8の形態を水平構面として使用すれば、火打ち梁を省略した吹き抜けなどを構成することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例1】
【0034】
まず、本発明の接合性能について、同厚同数の矩形構成板群によるL字形の木質板積層圧密接合部材を例に、接合部と部材のバランスを素材(非重複部)の剛性および耐力を基準として下表に示す。
【表】
重複部の圧密度0%はいわゆるクロスラップジョイントであり、互いに交差する構成板の厚さ分だけ隙間のある状態である。重複部の圧密度に比例してこの隙間は狭くなり、50%でちょうど非重複部同士が接触する。使用性を考慮すると、非重複部が一体化する50%以上の圧密度が良好といえる。ただし、重複部の圧密度が80%近辺になると、圧密を超えて、基材の破壊(木繊維の破断や分離)の発生が進行する。加えて、圧密に必要なプレス荷重が極端に高くなることから、実大サイズで実施するとプレス容量が不足するなど、製造面での困難を伴う。このことから重複部の圧密度は50%〜70%が良好である。一方、重複部、非重複部の剛性ならびに耐力については木材繊維の密度と比例して上昇する。重複部の剛性については接着接合によるものであることから、非圧密でも1と評価できる。一方、耐力については交差角度によって繊維直交方向成分の影響を受けるため、非圧密では重複部の耐力は非重複部の半分である。剛節か否かの判定は重複部と非重複部の剛比で行ったところ、非圧密でも剛節仮定で設計が可能であるが寸法効果に応じて局所変形の影響が懸念されることから、ここでは重複部の剛性が2倍以上で「◎」として完全に接合部の変形が無視できるものと評価した。一方、全強についての判定は重複部と非重複部の耐力比である接合効率100%以上で「○」と評価した。このように圧密度で重複部と非重複部の剛性と耐力のバランスをコントロールすることが可能であるが、剛比ならびに接合効率においても50%〜70%で良好であると言える。なお、実際に圧密度を決定するに当たっては、非重複部の性能が縦継ぎする部材の剛性、耐力と同等性能になるように設定することが理想となる。
【0035】
以上が基本となる同厚同数の構成板からなる木質板積層部材の場合の良好条件であるが、異厚や異数の構成板からなる木質板積層部材による場合にも本発明の接合構造を成立させることも可能である。これによって、梁と柱とで剛性や耐力が異なる組合せの場合に対応できる部材となる。ただし、圧密後に甲木質板積層部材と乙木質板積層部材の厚さを揃えるとなると、その重複部の圧密度は、構成板の総厚が薄い方によって決定されることになる。この場合、実現可能範囲を同厚同数の木質板積層部材の組み合わせと同じく、重複部の圧密度が50%〜70%に収まる範囲とした場合には、甲構成板と乙構成板の総厚比が7:3以下となる組み合わせとなるが、このような極端に構成板の総厚比が異なるもので実施しなくてもよく、構成板の形状を変えるか、構成板のグレードや樹種の組合せを変えることによっても梁と柱の剛性が異なるものに対応することができる。
【実施例2】
【0036】
次に、具体的な性能をトドマツを使用して120mm角のL字形部材の製造工程と併せて示す。なお、接合構造を構成するに当たっては構成板の樹種は問わないとしているが、本実施例のように樹脂含浸工程を経る場合には、構成板の内部まで確実に樹脂を含浸できる事が望ましいことから、比較的低比重の材で、薄いものが良好である。
【0037】
ここでは甲構成板群と乙構成板群は同厚同数同形状とし、厚さ3.3mm、長さ240mm、幅120mmのロータリー単板を用いた。含浸した樹脂はフェノール樹脂である。樹脂を含浸した単板をホットプレスする際、積層数が少ない方が内部まで効率よく硬化温度に達するため、重複部の積層数を10として重複部の総厚を33mmとした。これを木材の軟化ならびにフェノール樹脂の硬化に適切な温度条件下(ここでは140℃)で厚さ規制によって15mmまで圧密して、L字形の単位板(図11−10)を製造した。このL字形の単位板を8枚、2次接着することで120mm角とし、縦継ぎする柱梁と同じ断面を確保した。なお、熱圧プレスの際においては、合成樹脂液があらかじめ含浸されていることによって構成板同士が圧着すると同時に、各構成板の表層面の樹脂が互いに結合して熱硬化するため、接着剤を塗布した場合と同等の接着性能が得られる。また、2次接着工程は高周波プレスを用いて必要厚さを一括して成形することで省略が可能である。このように、樹脂含浸構成板を用いる場合には、通常の接着剤を用いる場合に配慮が必要な接着剤の可使時間に束縛されないという製造効率上の利点があるが、本発明は樹脂含浸にこだわるものではなく、対象構造物に応じた圧密固定を適宜選択するとよい。
【0038】
これを柱梁部材に相当する集成材と縦継ぎして、モーメント抵抗性能試験体とした。ここではL字部材の真の性能を測定するために継手接合において剛節かつ接合効率の高さで実績のある大型のフィンガージョイントによる接着接合を採用した。このL字形試験体を開閉方向に加力し、剛性および耐力を得た。剛性については重複部を剛節として導出した部材のみの変形角の計算値を実験値と比較した(図12)。開閉いずれの方向においても、変形量は実験値の方が計算値よりも小さかったことから、接合部の変形角が計測されなかったものとみなすことでき、剛節であることが確認された。また、破壊は非重複部と重複部の境界から曲げ破壊し、その耐力(最大モーメント)は集成材の公称値と同等であった。このことから接合耐力についても全強といえることも確認できた。
【0039】
なお、90°よりも鈍角になる場合は、重複部の応力状態において横引張応力成分の割合が小さくなっていくことから重複部での破壊は生じない。一方、90°よりも鋭角になる場合には横引張応力成分の割合は大きくなるが、構成板の繊維方向が横引張応力方向に一致するようになっていくことから、こちらも重複部での破壊は生じない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】L字形木質板積層圧密接合部材の例
【図2】L字形木質板積層圧密接合部材の構成方法
【図3】X字形木質板積層圧密接合部材の例
【図4】台形構成板によるL字形木質板積層圧密接合部材の例
【図5】ロ字形、P字形木質板積層圧密接合部材の例
【図6】追加構成板を入れた場合のL字形木質板積層圧密接合部材の構成方法
【図7】小規模門形ラーメン架構の例
【図8】小規模閉合フレーム構造の例
【図9】大規模門形フレーム構造とその継手の例
【図10】木質板積層圧密接合部材を用いた継手のみによる木質フレーム構造の例
【図11】単位板を2次接着して厚さを調整する例
【図12】L字形木質板積層圧密接合部材の荷重変形曲線
【符号の説明】
【0041】
1 …甲木質板積層部材
1’…甲構成板
2 …乙木質板積層部材
2’…乙構成板
3 …追加構成板
4 …鋼板などのガセット板
5 …柱脚金物
6 …ドリフトピン群
7 …集成材などの軸材料
8 …木ダボや鋼棒などを想定した接合具群
9 …木質板積層圧密接合部材
10…L字形単位板
A …重複部
B …非重複部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
甲木質板積層部材を構成する甲構成板群を積層する際に、乙木質板積層部材を構成する乙構成板群を任意位置、任意角度で甲構成板群の構成板間に挿入または交差することで重複部を設け、その重複部を甲および乙構成板群の非重複部がそれぞれで一体化するまで圧密し、固定することによって得られる木質板積層圧密接合構造。
【請求項2】
重複部で剛節または全強、もしくはその両方を可能にすることを特徴とする請求項1の接合構造を有する木質板積層圧密接合部材。
【請求項3】
請求項2の部材同士、もしくは請求項2の部材と他軸材料からなる継手接合を主体とした木質フレーム構造。
【請求項1】
甲木質板積層部材を構成する甲構成板群を積層する際に、乙木質板積層部材を構成する乙構成板群を任意位置、任意角度で甲構成板群の構成板間に挿入または交差することで重複部を設け、その重複部を甲および乙構成板群の非重複部がそれぞれで一体化するまで圧密し、固定することによって得られる木質板積層圧密接合構造。
【請求項2】
重複部で剛節または全強、もしくはその両方を可能にすることを特徴とする請求項1の接合構造を有する木質板積層圧密接合部材。
【請求項3】
請求項2の部材同士、もしくは請求項2の部材と他軸材料からなる継手接合を主体とした木質フレーム構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−143698(P2011−143698A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19479(P2010−19479)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2009年度大会(東北)学術講演梗概集C−1分冊 社団法人 日本建築学会 2009年7月20日
【出願人】(310010575)地方独立行政法人北海道立総合研究機構 (51)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2009年度大会(東北)学術講演梗概集C−1分冊 社団法人 日本建築学会 2009年7月20日
【出願人】(310010575)地方独立行政法人北海道立総合研究機構 (51)
【Fターム(参考)】
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