説明

木質積層材

【課題】キャッチャー剤が不要で、生産コストが低く、強度を維持しつつ、ホルムアルデヒドの放散量を低減できる木質積層材を提供する。
【解決手段】20℃、相対湿度65%で含水率12%以上の広葉樹からなる木質単板を、140℃ないし160℃の熱圧プレスで加熱処理し、接着剤で積層一体化した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ホルムアルデヒドの放散量が少なく、建築用内装材や建具の芯材に使用できる単板積層材や合板などの木質積層材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木質単板を積層一体化して形成される合板,単板積層材には接着剤、例えば、尿素樹脂などの熱硬化性樹脂接着剤が使用されているが、施工後に接着剤から放散されるホルムアルデヒドがシックハウス症候群の原因となり、社会問題となっている。このため、ホルムアルデヒドの放散量を低減するために接着剤自体の改良が行われているが、木質単板、特に、平衡含水率の高い広葉樹、例えば、ポプラ材からなる木質単板では放散量の低減が困難である。このため、ホルムアルデヒドを吸着するキャッチャー剤を前記木質単板等に塗布することが提案されている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−252247号公報
【特許文献2】特開2007−191575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述の製造方法では、キャッチャー剤を塗布する必要があり、生産工数が多く、生産コストが上昇するだけでなく、キャッチャー剤を塗布することにより、木質積層材に狂いや反りが生じやすい。
本願発明は、前記問題点に鑑み、キャッチャー剤が不要で、生産コストが低く、強度を維持しつつ、ホルムアルデヒドの放散量を低減できる木質積層材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願の発明者らは、木質単板を所定の温度で加熱処理すると、木質単板の吸湿性能が低下することにより、水溶性のホルムアルデヒドが木質単板内に浸入しにくくなり、結果として施工後におけるホルムアルデヒドの放散量が低減することを見出し、本願発明を完成するに至った。
すなわち、本願発明に係る木質積層材は、温度140℃ないし160℃で加熱処理した木質単板を、接着剤で積層一体化した構成としてある。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、木質単板を140℃ないし160℃の熱圧プレスで加熱処理することにより、木材成分中のヘミセルロースだけを変質させて吸湿性能を抑制し、水溶性のホルムアルデヒドの木質単板内への浸入を抑制し、その結果として施工後におけるホルムアルデヒドの放散量を低減できる。
【0007】
本発明の実施形態として、木質単板は、温度20℃、相対湿度65%で平衡含水率12%以上の広葉樹からなる製材品であってもよい。特に、木質単板としてはポプラ材からなるものが挙げられる。
本実施形態によれば、通常、内部に多量の水分を保持する木質単板であれば、より顕著にホルムアルデヒドの放散量を低減できる。
【0008】
本発明に係る木質積層材の製造方法は、木質単板を温度140℃ないし160℃で加熱処理した後、接着剤で積層一体化する工程からなる。
【0009】
本発明によれば、木質単板を温度140℃ないし160℃で加熱処理することにより、木材成分中のヘミセルロースだけを変質させて吸湿性能を抑制し、水溶性のホルムアルデヒドの木質単板内への浸入を抑制し、その結果として施工後におけるホルムアルデヒドの放散量を低減できる。
【0010】
本発明の実施形態としては、木質単板は、温度20℃、相対湿度65%で平衡含水率12%以上の広葉樹からなる製材品であってもよい。特に、木質単板としてはポプラ材からなるものであってもよい。
本実施形態によれば、通常、内部に多量の水分を保持する木質単板であれば、より顕著にホルムアルデヒドの放散量を低減できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本願発明に係る木質積層材の加熱温度によるホルムアルデヒドの放散量の変化を示す図表である。
【図2】図2Aおよび2Bは木質単板の加熱温度による吸湿性能の変化を示すグラフ図である。
【図3】図3A,3Bは加熱温度による吸湿性能の変化を示すグラフ図および図表である。
【図4】図4A,4Bは加熱処理温度による強度の変化を知るための測定条件および測定結果を示す図表である。
【図5】比強度を示すグラフ図である。
【図6】テトマイヤー係数を示すグラフ図である。
【図7】テトマイヤー係数を説明するためのグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る木質積層材は、温度140℃ないし160℃で加熱処理した木質単板を、接着剤で積層一体化したものである。
【0013】
前記木質単板は、温度20℃、相対湿度65%で平衡含水率12%以上の広葉樹からなる製材品であり、例えば、ポプラ、柳、アオダモ、ヤチダモ等が挙げられる。平衡含水率が12%未満であると、ホルムアルデヒドの放散量の低減が顕著に見受けられないからである。
【0014】
特に、ポプラは中国において大量に植林されており、天然林の保全のためにもその利用が重要視されている。このため、平衡含水率が高く、ホルムアルデヒドの放散量が多いというポプラ材の欠点を改善できれば、中国ポプラの利用が広まり、最終的には中国における天然林の保全に役立つ。
【0015】
加熱温度は、通常の熱圧プレスの加熱温度である130℃よりも高い140℃ないし160℃が好ましい。140℃未満であると、木質単板の吸湿性能を改善できないからであり、160℃を越えると、熱分解が顕著に進み、所望の強度を確保できないからである。
【0016】
加熱処理時間は、特に、限定するものでないが、急激な加熱でなく、緩やかな加熱速度が好ましい。急激な加熱では熱衝撃によって予測困難な熱分解が進むからである。
【0017】
加圧力は、通常の熱圧プレスの圧力であればよく、限定するものではないが、必要に応じて加圧すればよい。
【0018】
接着剤としては、既存のものであればよく、例えば、ユリア(尿素)樹脂系接着剤、メラミン・ユリア共縮合樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤が挙げられる。
【実施例1】
【0019】
本願発明に係る木質積層材のホルムアルデヒドの放散量を測定した。
前記木質積層材は、加熱処理温度130℃で、60分間で熱圧処理した5枚のポプラ単板を、接着剤としてユリア接着剤(中国 天成 CO−25)で接着し、温度110℃のホットプレスで熱圧して積層一体化した後、3日間養生してサンプルAを得た。同一処理操作で、加熱処理温度150℃で加熱処理した5枚のポプラ単板でサンプルBを作成した。
【0020】
そして、JASガラスデシケータ法で、前記サンプルA,Bのホルムアルデヒドの放散量を測定した。測定は測定時期を変えて2回行い、第1回目のサンプルA,B(各10体 計20体)は21mm×75mm×75mmであり、第2回目のサンプルA,B(各10体 計20体)は21mm×75mm×75mmであった。測定結果を図1に図示する。
【0021】
図1から明らかなように、通常の処理温度(130℃)で処理したサンプルAのホルムアルデヒドの放散量が1mg・Lを越えているのに対し、処理温度150℃のサンプルBでは1mg・Lを下回っていることから、ホルムアルデヒドの放散量が低減していることを確認できた。
これにより、木質単板の加熱処理によって吸湿性を抑制することにより、施工後のホルムアルデヒドの放散量を低減できることを確認できた。したがって、JASにおけるホルムアルデヒド放散量の性能区分F☆☆が平均値1.5mg/L、最大値2.1mg/Lであり、F☆☆☆が平均値0.5mg/L、最大値0.7mg/Lである。このため、性能区分F☆☆の木質積層材を性能区分F☆☆☆の木質積層材として使用できることが判った。
【実施例2】
【0022】
ポプラ単板の温度による熱分解の度合いを知るため、ポプラ単板の熱重量測定(TGA)を行った。熱重量測定装置としては島津製作所のTGA−50を使用した。
まず、前記熱重量測定装置に注入した窒素ガス(50ml/min)の雰囲気中に、試料であるポプラ単板(10.041mg)を配置した。
そして、全乾状態とするために加熱速度5℃/minの割合で100℃まで昇温し、その状態を180分間維持した後、加熱速度0.3℃/minの割合で160℃まで昇温して30分維持した。ついで、加熱速度−0.3℃の割合で、180分間をかけて温度100℃まで降温し、加熱温度による重量減少率を測定した。測定結果を図2Aおよび図2Bのグラフ図に示す。
【0023】
図2Aおよび図2Bに示すグラフ図から明らかなように、140℃付近から重量減少が緩やかに始まり、木材成分が熱分解し始めたことが判る。そして、160℃で熱分解が顕著に進むことを確認できた。
【実施例3】
【0024】
次に、加熱処理したポプラ単板の吸湿特性の変化を調べた。
ポプラ単板を数秒間、水中に浸漬した後、60分間放置して吸水させる。そして、前記ポプラ単板を所定の温度(100℃、130℃、170℃)に加熱したホットプレスで60分間、熱圧して乾燥させた。ついで、加熱処理した前記ポプラ単板を水を張ったデシケータ内に入れて吸湿させ、2週間の重量変化を測定した。測定結果を図3Aのグラフ図に図示するとともに、図3Bに2日後および14日後の測定結果を詳細に記述する。なお、試料であるポプラ単板は、加熱温度毎に4本のサンプルを使用した。
【0025】
図3A,3Bから、加熱処理温度150℃の場合が最も吸湿性能が低いことが判明した。このため、加熱処理温度150の場合に水溶性のホルムアルデヒドの含浸が最も少なくなり、施工後のホルムアルデヒドの放散を低減できると考えられる。
【実施例4】
【0026】
加熱処理温度による木質単板の強度変化を調べた。
ポプラ単板(400mm×400mm)を、所定の温度(130℃,150℃,170℃,190℃)を維持したホットプレスで60分間、加熱処理した後、所定のサンプルを切り出し、強度試験を測定した。
強度試験は支点間距離60mmの静的3点曲げ試験で行った。荷重速度は毎分1mmであった。得られた測定結果を試験条件と一緒に図4に示す。
なお、密度にバラツキがあるので、強度を密度で除した比強度を図5に示す。
また、熱圧処理を施した木質材は脆弱になると考えられるので、曲げ仕事量の指標の一つであるテトマイヤー係数を図6に図示する。
【0027】
なお、前述のテトマイヤー係数(「木材物理」(北原覚一著)151頁〜152頁(1966)より)とは、
η=A/(Py)
で示される値である。
Aは曲げ仕事量であり、yは破壊時の撓みを示す。
前記曲げ仕事量は、図7に図示するように、木材が荷重によって曲げ破壊されるまでに吸収されるエネルギーを意味し、図7の面積OBCDで示され、この面積が大きいものほど構造材料として好ましいと考えられている。そして、テトマイヤー係数ηの値は通常の品質の構造材料であれば、0.7位であるが、欠点材料であれば、0.5位まで低くなる。
【0028】
図5および図6に示すように、処理温度140℃〜160℃であれば、通常の熱圧処理温度である130℃で加熱処理した場合とほぼ同等の強度を維持できることを確認できた。
しかし、170℃、190℃では、テトマイヤー係数0.55〜0.6の値となり、脆弱性が表れている。このため、加熱温度150℃で60分の加熱処理を施しても、脆弱性が顕著に表れることはないが、加熱温度170℃以上では木質単板が脆弱的になることが判った。
【0029】
木材は樹種によって成分組成に変動があるが、一般にセルロース40〜50%、ヘミセルロース10〜30%、リグニン20〜40%の範囲で分布することが知られている。そして、前記成分のうち、ヘミセルロースが最も低い温度で熱分解を開始することが判っている。本願発明は、木質単板を低い温度(140℃から160℃)で加熱処理することにより、木質単板のヘミセルロース成分を熱分解せずに変質させ、木質単板全体の吸湿性を低下させることにより、結果として施工後におけるホルムアルデヒドの放散量を低減できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係る木質積層材は、建築用内装材や建具の芯材に使用できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度140℃ないし160℃で加熱処理した木質単板を、接着剤で積層一体化したことを特徴とする木質積層材。
【請求項2】
木質単板が、温度20℃、相対湿度65%で平衡含水率12%以上の広葉樹からなる製材品であることを特徴とする請求項1に記載の木質積層材。
【請求項3】
木質単板が、ポプラ材であることを特徴とする請求項1または2に記載の木質積層材。
【請求項4】
木質単板を温度140℃ないし160℃で加熱処理した後、接着剤で積層一体化することを特徴とする木質積層材の製造方法。
【請求項5】
木質単板が、温度20℃、相対湿度65%で平衡含水率12%以上の広葉樹からなる製材品であることを特徴とする請求項4に記載の木質積層材の製造方法。
【請求項6】
木質単板がポプラ材であることを特徴とする請求項4または5に記載の木質積層材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−178024(P2011−178024A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44306(P2010−44306)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(510045771)
【出願人】(501417550)株式会社ユニウッドコーポレーション (1)
【Fターム(参考)】