説明

木質系廃棄物処理用微生物製剤

【課題】20℃〜30℃において、60日間以内に、果樹剪定枝を重量減少率30%以上(好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上)となるまで分解することができる白色腐朽菌の一種以上を含む、木質系廃棄物の処理、特に果樹剪定枝の堆肥化のための製剤を提供する。
【解決手段】白色腐朽菌は、果樹剪定枝チップに候補白色腐朽菌を加え;そして20℃〜30℃において果樹剪定枝チップを分解させる工程を含み、60日間以内の果樹剪定枝の重量減少率が、30%以上(好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上)であるときに、その候補白色腐朽菌を選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白色腐朽菌を含む微生物製剤に関する。本発明の製剤は、木質系廃棄物、特に果樹剪定枝の処理に有用である。
【背景技術】
【0002】
果樹園等で大量に廃棄される剪定枝は、果樹園内に堆積放置しても、ほとんど分解されない。剪定材のリサイクル方法としては、コンポスト材(土壌改良材ということもある。)、マルチング材、敷きわら代用品、ペレットチップ、炭化、バイオマスエネルギーとしての利用が検討されている。このうちコンポスト材としてリサイクルすることは、自然循環を考えると、最適なリサイクル方法であると考えられているが、分解(発酵ということもある。)には、広葉樹で平均6ヶ月〜8ヶ月、針葉樹で平均10ヶ月要し、効率が悪く、また実施する上で広大な土地が必要となる等の問題が挙げられている。
【0003】
有機性廃棄物の堆肥化等において、バクテリアや放線菌を主体とした微生物製剤が製品化されている。しかしながらこれらの微生物製剤は食品残渣や家畜排泄物などの処理には効果を発揮するが、木材に含まれるリグニンを分解することが困難である。そのため木質系廃棄物の分解処理には適していない。一方、木材を腐朽させることができる菌のうち、白色腐朽菌は、リグニンを分解する能力を有する。白色腐朽菌のもつリグニンを分解する酵素群は比較的強力な酸化力をもち、基質特異性が低いことから、難分解性化合物であるダイオキシン類の分解処理へ利用が検討がされている(特許文献1)。また、リグノセルロースに対して優れた分解作用を有し、リグノセルロースを酵素糖化・発酵処理の多糖原料として有効利用できるように変換可能な白色腐朽菌が提供されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2005-34057号公報
【特許文献2】特開2007-37466号公報
【発明の開示】
【0004】
しかしながら、白色腐朽菌を、木質系廃棄物、特に果樹剪定枝の園内での分解処理に適用したという報告は存在しない。
【0005】
これまで、果樹剪定材の処理は、短時間でかつ安価であることから、その場で焼却処理されることが多く、またその焼却処理についても特に問題にされてはいなかった。ところが、近年の行政、世論の環境問題への関心の高まりが、焼却という処理方法に対して否定的であり、また、焼却処理中の煙や匂いに対して苦情が出てきた。
【0006】
本発明は、野外での生育力及び木材分解力が強い微生物を含む、木質系廃棄物処理用微生物製剤を提供することを課題とする。
本発明者らが鋭意検討した結果、特定の白色腐朽菌を含む、液体又は固形の製剤が、木質系廃棄物の分解処理において、分解能、取扱い性、保存性に優れていることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
本発明は、以下を提供する:
1)60日間以内の果樹剪定枝の重量減少率が、30%以上(好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上)であるとき、又は120日間での果樹剪定枝の重量減少率が、50%以上(好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上)であるときに、その候補白色腐朽菌を選択する、木質系廃棄物の処理(好ましくは堆肥化)のための微生物のスクリーニング方法。
2)20℃〜30℃において、60日間以内に、果樹剪定枝を重量減少率30%以上(好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上)となるまで、又は120日間で、果樹剪定枝の重量減少率が、50%以上(好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上)となるまで分解することができる白色腐朽菌の一種以上を含む、木質系廃棄物の処理(好ましくは堆肥化)のための製剤。
3)白色腐朽菌が、ヒラタケ属、カワラタケ属又はシュタケ属に属する菌である、上記2)に記載の製剤。
4)白色腐朽菌が、 ヒラタケ属ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)、カワラタケ属カワラタケ(Coliolus versicolor)、又はシュタケ属ヒイロタケ(Pycnoporus coccineus)に属する菌である、上記3)に記載の製剤。
5)上記2)〜4)のいずれか1に記載の製剤を用いる、果樹剪定枝の処理方法。
6)果樹剪定枝に、上記2)〜4)のいずれか1に記載の製剤を播種して分解する工程を含む、土壌改良材又はコンポスト材の製造方法。
【0008】
白色腐朽菌には、セルロースとリグニンを同時に分解する非選択性白色腐朽菌と、セルロースはあまり分解せずリグニンを優先的に分解する選択的白色腐朽菌に分けられるが、本発明白色腐朽菌の一種以上を含む、木質系廃棄物の処理(好ましくは堆肥化)のための本発明の製剤には、いずれも用いることができる。
【0009】
白色腐朽菌は、当業者にはよく知られた培地及び培養条件で培養することができる。培地としては、例えば、ポテトデキストロース寒天(PDA)培地を用いることができる。白色腐朽菌は、通常、10〜40℃で、好気的条件下で良好に生育する。
【0010】
本発明の製剤には、白色腐朽菌のうち、生育力の高いものが適している。本発明の製剤には、比較的低温域(例えば、10℃以下)において菌糸の伸長力があるもの、比較的高温域(例えば、30℃以上)における菌糸の伸長力があるもの、比較的広い温度域(例えば、10℃〜30℃)で菌糸の伸長力があるものを好適に用いることができる。さらに、高温においてもトリコデルマ類耐性があるものが好ましい。このような白色腐朽菌には、ヒラタケ属、カワラタケ属又はシュタケ属に属する菌が含まれる。ヒラタケ属ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)、カワラタケ属カワラタケ(Coliolus versicolor)、又はシュタケ属ヒイロタケ(Pycnoporus coccineus)に属する菌は、本発明の製剤に用いることができる白色腐朽菌の、特に好ましい例である。
【0011】
本発明の製剤に用いられる白色腐朽菌は、20℃〜30℃において、60日間以内に、果樹剪定枝を重量減少率30%以上(好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上)となるまで、又は120日間で、果樹剪定枝の重量減少率が、50%以上(好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上)となるまで分解することができるものである。このような分解能の高い白色腐朽菌は、果樹剪定枝チップに候補白色腐朽菌を加え;そして20℃〜30℃において果樹剪定枝チップを分解させる工程を含み、60日間以内の果樹剪定枝の重量減少率が、30%以上(好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上)であるとき、又は120日間での果樹剪定枝の重量減少率が、50%以上(好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上)であるときに、その候補白色腐朽菌を選択することにより、選抜することができる。50%に満たない重量減少率である場合、対象となる木質がほとんど形を残しており、見た目に分解されたとは言いがたい。一方、120日間で80〜90%の重量減少率を示すという点が重要であり、これは対象物がほとんど分解され、スポンジ状になることを示している)。
【0012】
本発明の製剤は、木質系廃棄物の処理のために用いられるが、処理対象となる木質系廃棄物としては、剪定枝、漂流木材、間伐材、建築廃材等が挙げられる。剪定枝には、果樹剪定枝が含まれ、果樹剪定枝には、りんご、さくらんぼ、もも、すもも、なし、かき、くり、柑橘類、バナナの剪定枝が含まれる。間伐材には、針葉樹材、広葉樹材が含まれ、針葉樹材としては、スギ、エゾマツ、カラマツ、クロマツ、トドマツ、アスナロ、イエローシーダー(ベイヒバ)、イースタンスプルース、イースタンホワイトパイン、ウェスタンラーチ、ウェスタンファー、ウェスタンヘムロック、イチイ、イヌガヤ、イラモミ、イヌマキ、サワラ、ツガ、コメツガ、トガサワラ、ネズコ、ヒバ、ヒメコマツ、ハリモミ、モミ、ヒノキ、タマラックトウヒ、ロウソンヒノキ(ベイヒ)、ダグラスファー(ベイマツ)、シトカスプルース(ベイトウヒ)、ラジアータマツが含まれる。また、広葉樹材には、アスベン、アメリカンブラックチェリー、イエローポプラ、ウォールナット、カバザクラ、ケヤキ、シカモア、シルバーチェリー、タモ、チーク、チャイニーズエルム、チャイニーズメープル、ナラ、ハードメイプル、ヒッコリー、ピーカン、ホワイトアッシュ、ホワイトオーク、ホワイトバーチ、レッドオーク及びこれらの関連樹種等が含まれる。
【0013】
分解対象の木質系廃棄物は、必要に応じ、チップ状、フレーク状、角材状、丸太状、粉末状、繊維状としてもよい。チップ状とする場合、である場合、長さ約100mm以下、縦約20mm以下及び横約50mm以下、好ましくは約50mm以下、縦約10mm以下及び横約30mm以下程度とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の製剤は、種々の剤形とすることができる。例えば、液体製剤、固形製剤、粉末製剤とすることができ、固形製剤には、菌床(ブロック)製剤、種駒製剤、種木製剤、穀粒製剤、寒天製剤が含まれる。固形製剤とする場合、基材も種々選択可能であり、広葉樹チップ・オガ粉、ブナ材木片、クヌギ・ナラ材の小径木、穀粒、寒天等が利用可能である。基材は、雑菌の繁殖を防ぐために、必要に応じ、滅菌してから用いることができる。
【0015】
本発明の製剤には、白色腐朽菌の生育に必要とされる塩や栄養素、例えば、ふすま、ペプトン、コーンスティープリカー、酵母エキス、肉エキス、麦芽エキス、ポテトエキス、米ぬか、合成無機塩類(Kirk塩)を添加してもよい。
【0016】
本発明の製剤の播種は、従来技術にしたがって、適宜行うことができる。例えば、処理対象である木質系廃棄物が粉末状又はチップ状である場合は、液体製剤又は固形製剤を単に播種するか、混合すればよく、また角材状や丸太状である場合は、穴を穿って、固形製剤を埋め込むことができる。
【0017】
本発明の製剤を用いた処理の際には、本発明の製剤に含まれる白色腐朽菌が充分に生育可能となるために、水分を添加してもよい。必要に応じ、白色腐朽菌の生育に必要とされる塩や栄養素、例えば、ふすま、ペプトン、コーンスティープリカー、酵母エキス、肉エキス、麦芽エキス、ポテトエキス、米ぬか、合成無機塩類(Kirk塩)を添加してもよい。
剪定材と製剤の比率:剪定材重量の20〜40%を想定しておりますが、製剤をまく技術的な改良により20%以下は可能である。
【0018】
製剤の播種は、果樹剪定材残渣の発生時期(12月〜3月)後、直ちに行うことができる。
本発明の製剤は、室温条件下で、半年間は十分安定であると考えられる。本発明の製剤による処理期間は、剪定材の前処理方法によるが、自然環境下で、菌糸蔓延に約2ヶ月、腐朽に約4ヶ月程度を要すると考えられる。
【0019】
[発明の効果]
本発明の製剤により、これまで製品化されている微生物製剤では処理が困難な木質系廃棄物の微生物処理が可能となる。例えば、果樹園内に山積みにされた剪定枝に本発明の製剤を播種することにより、通常分解が困難な剪定枝を、園内で処理することができる。また分解物は肥料として園内で再資源化することができる。本発明により、環境への影響が少なく、またコストを大きく削減することができる木質系廃棄物の処理方法が提供される。
【実施例1】
【0020】
[リンゴチップを用いた腐朽菌の選抜]
本技術の施工対象には果樹剪定枝が含まれている。本実施例では、数種の白色腐朽菌によるリンゴチップの分解試験を行い、腐朽力の強い菌株の選抜を行った。
【0021】
材料及び方法:
材料:剪定枝チップ(リンゴチップ 市販品 5 cm程度に裁断されたチップ(太さは非均一))
白色腐朽菌株(いずれも九州大学で保存されている菌株)
B:Ceriporia lacerata MZ340,
C:Phanerochaete sordida YK624 4011、
D:Phanerochaete sordida YK624 4027、
E:Phanerochaete sordida YK624 9167、
F:Phanerochaete chrysosporium
G:Phlebia brevispora
H:Phlebia lindtneri
I:Pleurotus ostreatus
J:Pleurotus pulmonarium
K:ヒイロタケFPF-97091303、
L:ヒイロタケFPF-98063001、
M:ヒイロタケFPF-99070801、
N:ヒイロタケFPF-01062404、
O:対照区(無接種)
接種、培養:ポテトデキストロース寒天(PDA)培地上で1週間培養したヒイロタケ(FPF-98063001)を滅菌蒸留水とともに30秒間ワーリングブレンダーでホモジナイズし、ホモジネート5 mlを350 ml のポテトデキストロース液体(PDB)培地に接種し、30℃、150 rpm暗所で10日間培養した。培養物を製剤化処理した後、リンゴチップ30 gに対して液体製剤1、液体製剤2及び粉末製剤(0.02 gを4.8 mlの蒸留水にけん濁したもの)をそれぞれ4.8ml、固形製剤を11.6 g接種した。コントロールとして、蒸留水のみを4.8 ml加えたものを使用した。オートクレーブ滅菌は、120℃、20分間行った。なお使用したリンゴチップは、保存中、特に乾燥操作等は行っていない。菌で処理する前に重量を測定するために60℃、72時間の乾燥操作を行った。菌による処理が終了した際に重量を測定するときにも同様の乾燥操作を行った。
【0022】
結果:
結果を図1に示す。Pleurotus ostreatus(ヒラタケ)(I)が高い重量減少率を示した。また、ヒイロタケの菌株(K〜N)はいずれも高い重量減少率を示した。また接種後 120日間以内でリンゴチップの約8割をスポンジ状にまで分解できた。
【0023】
本検討では、木材腐朽力、及び取り扱いの簡便さや安全性を考慮し、ヒラタケ及びヒイロタケの2株(L:FPF-98063001、M:FPF-99070801)を選抜した。
【実施例2】
【0024】
[白色腐朽菌の性質調査]
白色腐朽菌の生育には温度が重要な要因となる。本検討では実施例1で選抜された白色腐朽菌を含む数種の菌株を用いて、温度別培養を行い、製剤化に供する白色腐朽菌の菌糸成長を調査した。
【0025】
材料及び方法:
供試した菌は以下の通りである。
・ヒイロタケ Coliolus versicolor FPF-98063001(ヒイロタケ加工)
・ヒラタケ Pleurotus ostreatus BMC 9073
Ceriporia lacerata MZ340
・ヒイロタケ Pycnoporus coccineus FPF-99070801(構内マツ)
実施例1と同様に各菌をPDA培地で前培養した。これらの菌をPDA培地に1ディスク(直径5mm)ずつ接種し、5、10、15、20、25、30、35、40℃で培養した。培養3日後のコロニー直径を測定した。
【0026】
結果
結果を図2に示す。ヒイロタケ(FPF-98063001)は、培養温度が高い領域(40℃)において良好な菌糸成長を示し、ヒラタケは、5℃の温度下でも成長できることが示された。すなわち高温条件下ではヒイロタケを、低温条件下ではヒラタケを用いることが有効であることが示された。また、20℃から30℃の常温に近い条件においては両菌ともに良好な生育を示した。製剤化試験の候補として、上記2菌株を選択した。
【実施例3】
【0027】
[製剤の調製]
白色腐朽菌を製剤化した。
材料及び方法:
方法は、以下の4通りである。
【0028】
a:液体製剤1:白色腐朽菌をポテトデキストロース寒天(PDA)培地上で1週間培養したものを滅菌蒸留水とともに30秒間ワーリングブレンダーでホモジナイズする。ホモジネート5 mlを350 mlのポテトデキストロース液体(PDB)培地に接種し、30℃、150 rpm暗所で10日間培養する(培養期間は、目視で菌の増殖が十分確認されることを基準とした)。
【0029】
b:液体製剤2:白色腐朽菌を液体培養後、菌糸体を遠心分離し、これを50 mMリン酸バッファーで洗浄、懸濁し、ワーリングブレンダーでホモジナイズする。
c:粉末製剤:培養後の菌糸体を遠心分離し、直ちに液体窒素で凍結する。凍結物を凍結乾燥機にて乾燥処理した後、摩砕し、粉末状態にする。
【0030】
d:固形製剤:おが粉又は木材片に対して白色腐朽菌を接種し、菌糸を蔓延させる。(接種源の調製:ブナオガ粉と脱脂米糠を4対1に混合し、水分62%となるよう加水したオガ粉培地を300cc三角フラスコに100g入れ、シリコ栓をする。オートクレーブで121℃、60分殺菌処理し、保存スラント(PDA培地)より約5mmミリ角をかきとり、5片を接種する。23℃に設定した培養室で培養、12日間で菌糸が蔓延完了した。次に、同じ組成のオガ粉培地をきのこビン栽培用850ccPP(ポリプロピレン製)ビンに500グラム詰め、殺菌釜で121℃、120分殺菌処理した。冷却後、三角フラスコへ拡大培養した菌糸培養物を10g接種した。23℃に設定した培養室で培養、菌種によって蔓延日数に差がでるが1〜3週で菌糸が蔓延完了した。固形製剤への接種:固形製剤用培地への接種は、850ccPPビンに拡大培養した種菌を、食用きのこ栽培工場で一般的に使用されている接種機(オギワラ精機製)を使用して接種した。接種量は8〜10gとした。菌糸培養の条件:23℃に設定した培養室(換気装置あり)で、湿度調節は無し。)
【実施例4】
【0031】
[製剤の菌糸再生試験]
製剤の菌糸再生力を製剤化処理前の菌と比較した。
材料及び方法:
ヒイロタケ(FPF-98063001)を用い、実施例3の各微生物製剤を調製した。
【0032】
製剤は、20℃で1ヶ月間保存したものを供試した。それぞれの製剤をPDA寒天培地上に接種し、30℃で培養した。コロニーの直径が30mm、60mmの地点に達するまでの時間を測定し評価した。
【0033】
結果:
結果を図3に示す。粉末製剤は、30mm、60mmに達しなかった。すなわち、長期保存に適さないと判断された。一方、液体製剤1及び液体製剤2は、菌糸コロニーの直径が30mm及び60mmに達するまでの時間がいずれもコントロールと差がないか、又はコントロールよりも良い成績となった。このことより、液体製剤1及び2の製剤化方法は、菌糸の生育にほとんど影響しないと考えられた。
【実施例5】
【0034】
[微生物製剤の活性試験]
製剤化処理後の菌糸体に、処理前の菌株と同様のリグニン分解活性を保持しているかを調べるために、リグニン分解酵素の一つであるマンガンペルオキシダーゼの活性を指標に評価した。
【0035】
材料及び方法:
20℃で2ヶ月間保存したヒイロタケ液体製剤1及び製剤化処理前の菌糸体をPDAプレートで培養した。培養したプレートをさらにKirk液体培地へと植え継ぎ、経時的に菌糸体重量、及びマンガンペルオキシダーゼ活性を測定した。マンガンペルオキシダーゼ(MnP)は、H2O2存在下でMn (II) をMn (III) へ酸化するため、270nmにおけるMn (III)とマロン酸との錯体の形成に伴う吸光度変化を測定した。H2O2無添加のものをネガティブコントロールとして用いてその活性をゼロとした。
【0036】
【表1】

【0037】
結果:
結果を図4に示す。菌糸体重量増加及び酵素活性にはほとんど違いが見られなかった。したがって、ヒイロタケ液体製剤1は製剤化処理前の菌糸体と同様のリグニン分解活性を持つと考えられた。
【実施例6】
【0038】
[微生物製剤による果樹剪定枝分解試験]
実際に製剤が果樹剪定枝を腐朽するか確認するために、リンゴの剪定枝チップの分解試験を行った。腐朽の評価として処理後のチップの質量減少率、容積密度、縦圧縮強さを測定した。
【0039】
材料及び方法:
ヒイロタケ(FPF-98063001)を用い、実施例3にしたがって下記の製剤を調製し、供試した。コントロールとして、剪定枝に滅菌水を4.8ml加えたものを用意した。
【0040】
液体製剤1・・・4.8ml(濃度:菌糸2.2mg/ml)
液体製剤2・・・4.8ml(濃度:菌糸4.4mg/ml)
粉末製剤・・・4.8mlの滅菌水に0.02g混濁し、接種(濃度:4.4mg/ml)
固形製剤・・・11.6g
30gのリンゴチップをコニカルビーカーに入れ、蒸留水に浸水後、オートクレーブで滅菌し、上記の製剤を接種して30℃で培養した。繰り返しは3回とした。2ヶ月後、各3本取り出し、菌をはがして剪定枝の質量減少率、容積密度、縦圧縮強さを測定した。
【0041】
結果:
粉末製剤は菌の再生がみられなかった。他の製剤は、剪定枝全体に菌が蔓延しているのが確認でき、剪定枝の内部まで菌が及んでいた。
【0042】
1.質量減少率:
結果を図5に示す。粉末製剤を接種したものは無接種と差がみられなかった。液体製剤1、2又は固形製剤を接種したものは無接種よりも有意に高い値を示した。質量減少率は、腐朽の指標として用いられるため、これらを接種した剪定枝では、腐朽が進んでいると考えられた。
【0043】
2.容積密度:
結果を図6に示す。粉末製剤を接種したものは無接種と差がみられなかった。液体製剤1、2又は固形製剤を接種したものは無接種よりも有意に小さい値を示した。
【0044】
3.縦圧縮強さ
結果を図7に示す。粉末製剤を接種したものは無接種と差がみられなかった。
液体製剤1、2又は固形製剤を接種したものは無接種よりも有意に低い値を示し、これらを接種した剪定枝は、強度が低下していることが分かった。
【0045】
すなわち、液体製剤1及び2及び固形製剤は、リンゴチップを分解できることが示された。
【実施例7】
【0046】
[固形製剤の調製]
製剤には耐久力・持続性が要求される。そこで4種類の固形製剤を想定・試作した(図8)。
【0047】
e:広葉樹チップ・オガ粉を基材とする菌床(ブロック)製剤:
シイタケの菌床栽培に使用される、広葉樹チップ・オガ粉に栄養物(米糠・フスマ等)を加え、シイタケ菌床の製造と同じ方法で白色腐朽菌培養菌床を調製し、製剤とした。
【0048】
f:ブナ材木片による種駒製剤:
シイタケの原木栽培に利用されている種駒は、ブナ材を細断し、直径6.5ミリ〜10.5ミリの棒状に削り、所定の長さにカットした生駒を基材とし、シイタケ菌を培養したものである。同様の方法で白色腐朽菌の種駒を作り製剤とした。
【0049】
g:クヌギ・ナラ材の小径木を基材とする種木製剤−I:
シイタケの原木栽培は主にクヌギ・ナラ原木が利用されている。しかしながら、直径5センチ以下の小径木は伐採地へそのまま放置され、自然腐朽にまかされている。この小径木を15センチ程度にカットし、白色腐朽菌を培養し、種木製剤とした。
【0050】
h:クヌギ・ナラ材の小径木を基材とする種木製剤−II:
gで利用した小径木を10ミリ程度に輪切りとし、白色腐朽菌を培養し、種木製剤とした。
【0051】
固形製剤用培地組成:ブナ粗オガ粉(ザラメ)950Lにブナ細オガ粉(チップソー)250Lを加え、添加栄養源として脱脂米糠28kgとフスマ28kgを加えた。良く攪拌・混合した後、水195.8Lを加え水分状態が均一になるまで良く攪拌した。詰め込み時含水率は59.6%であった。この培地をしいたけ菌床栽培に使用する菌床袋へ、菌床用袋詰め機を使用して詰めた。菌床1個の詰め量は約2.45kgとなった。
【0052】
この培地を121℃、120分高圧蒸気殺菌し、冷却後、850ccPPビンに拡大培養した供試菌を接種機を使用して接種した。
培養:23℃に設定した培養室で、棚に置き培養した。菌糸蔓延に要する日数は3〜4週(ヒイロタケ・ヒラタケ・カワラタケ)であった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、白色腐朽菌を用いたリンゴチップの分解性似ついて示したグラフである。
【図2】図2は、白色腐朽菌を各温度で培養した際の、培養3日後のコロニー直径を示したグラフである。
【図3】図3は、菌糸再生時間の比較についてのグラフである。
【図4】図4は、ヒイロタケ液体製剤1の性質評価試験結果を示したグラフである。
【図5】図5は、リンゴ剪定枝腐朽試験(滅菌あり)における2ヶ月後の質量減少率を示したグラフである。
【図6】図6は、リンゴ剪定枝腐朽試験(滅菌あり)における2ヶ月後の容積密度を示したグラフである。
【図7】図7は、リンゴ剪定枝腐朽試験(滅菌あり)における2ヶ月後の縦圧縮強さを示したグラフである。
【図8】図8は、試作した製剤の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
果樹剪定枝チップに候補白色腐朽菌を加え;そして
20℃〜30℃において果樹剪定枝チップを分解させる工程
を含み、
60日間以内の果樹剪定枝の重量減少率が、30%以上(好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上)であるとき、又は120日間での果樹剪定枝の重量減少率が、50%以上(好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上)であるときに、その候補白色腐朽菌を選択する、木質系廃棄物の処理(好ましくは堆肥化)のための微生物のスクリーニング方法。
【請求項2】
20℃〜30℃において、60日間以内に、果樹剪定枝を重量減少率30%以上(好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上)となるまで、又は120日間で、果樹剪定枝の重量減少率が、50%以上(好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上)となるまで分解することができる白色腐朽菌の一種以上を含む、木質系廃棄物の処理(好ましくは堆肥化)のための製剤。
【請求項3】
白色腐朽菌が、ヒラタケ属、カワラタケ属又はシュタケ属に属する菌である、請求項2に記載の製剤。
【請求項4】
白色腐朽菌が、 ヒラタケ属ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)、カワラタケ属カワラタケ(Coliolus versicolor)、又はシュタケ属ヒイロタケ(Pycnoporus coccineus)に属する菌である、請求項3に記載の製剤。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項に記載の製剤を用いる、果樹剪定枝の処理方法。
【請求項6】
果樹剪定枝に、請求項2〜4のいずれか1項に記載の製剤を播種して分解する工程を含む、土壌改良材又はコンポスト材の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−245629(P2008−245629A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94981(P2007−94981)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】