説明

木質複合材及びその製造方法

【課題】 任意の形状を造形することが可能で、一定の難燃性を具備した木質複合材と、その製造方法を提供する。
【解決手段】 板材などで作製した基材2の表面に、石膏で被覆することにより難燃化した木粉と接着剤を混合して得られる混和物3を付着させ、型成形を行ったり、コテなどを用いた成形を施したりして、木材や石材を擬した木質複合材を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅の内装や家具などに用いることが可能で、難燃性を有する材料と、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
住宅には、柱、梁、壁などの基材として、古くから木材が用いられている。しかし近年は、無垢材が比較的高価であることから、内外装には集成材やパーティクルボードのような、いわゆる木質材料が多用されている。これらは製材で生じる端材や間伐材を利用できるので、比較的安価である他、品質が安定しているという利点も具備している。
【0003】
また、家具、内装に用いる板材、さらには例えばスピーカのエンクロジャーなどの家電製品には、表面に木目の模様を印刷したフィルムを張り付けることにより、天然の素材に酷似した外観と高級感を付与した木質材料が用いられている。
【0004】
このような技術は、板状の部材に限らず、種々の造形・工芸に応用が可能と思われるが、遡れば、既に奈良時代において乾漆造として、仏像などの造形に用いられていて、国宝級の作品が数多く残されている。これは、木粉と漆を練り合わせた混和物を基材の表面に盛り上げ、彫像とするものであるが、当時としては高価な漆を大量に用いる他、多くの工程と手間を要するため、その後は廃れたという経緯がある。
【0005】
今日では当時とは異なり、漆に替わる合成系の接着剤の選択肢が増加しているが、木粉と高分子材料の接着剤からなる材料として工業的に生産されているのは、例えば特許文献1に開示されている材料に代表されるように、押出成形や圧縮成形で製造される、板材やブロックに限定されている。
【0006】
しかしながら、このような木質材料は、彫像のように成形するのが容易であり、型を用いた成形も容易であることから、生産性を考慮した製造方法や用途の開発がなされれば、極めて有用な材料としての地位確保が可能と思われる。
【0007】
一方で、日本の家屋においては、かつては土壁が使用され、火災への対策となっていたが、近年では工期短縮と工数削減を目的として、大量生産が可能なボード類が壁材として用いられ、断熱性を確保するために、ガラスファイバーなどの無機質の綿状の材料をボード間に充填する構造が採用されている。これらはいずれも不燃性であり、住宅の安全性向上に寄与している。
【0008】
このような背景から、前記の木質材料においても、一定の不燃性が要求され、特許文献2には、ホウ砂やシルトを混合した不燃性のボードとその製造方法が開示されている。しかしながら、ここに開示されている技術は、所要の特性を具備しているものの、不燃性で粉末状の材料を混合しただけのものなので、木粉を主成分とする材料においては、なお、改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】 特開2004−230663号公報
【特許文献2】 特開2009−241356号公報
【非特許文献】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の課題は、任意の形状を造形することが可能で、一定の難燃性を具備した木質複合材と、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記課題の解決のため、木粉とバインダーの組成、木粉の難燃化処方、及び製造工程を鋭意検討した結果なされたものである。
【0011】
即ち、本発明は、無機化合物により被覆された木粉と接着剤を含む混和物の成形体を、基材の表面に形成してなることを特徴とする木質複合材料である。
【0012】
また、本発明は、前記無機化合物が水酸基または結晶水の少なくともいずれかを有することを特徴とする、前記の木質複合材料であり、前記無機化合物として硫酸カルシウム、つまり石膏を含むことが望ましい。
【0013】
また、本発明は、木粉と焼石膏と水を混合して、石膏で表面を被覆してなる被覆木粉を得る工程と、前記被覆木粉を基材の表面に付着させて成形する工程を有することを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の木質複合材の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
有機物の難燃化処理には、水酸基や結晶水を含む無機化合物を混合することが有効であることが知られている。その理由は、これらの無機化合物の加熱により生成した水が、支燃性ガスである酸素を燃焼物から遮断し、潜熱を奪うからである。
【0015】
一方で、本発明に用いる木粉は細い繊維の集合体で、両端が尖った棒状の形状を呈し、先端の部分が着火しやすく、個々の繊維に着目すると、未処理の状態では、比表面積が大きいため、前記の欠点が顕著になる。この対策には、木粉を不燃材料で被覆するのが効果的であると考えられるが、石膏には、焼石膏、即ち無水石膏に水を加えてスラリーとすると、水との反応で二水石膏を生成して硬化する性質を有するので、木粉を石膏で被覆できる可能性があり、難燃性確保が期待できる。また、木粉を被覆する二水石膏自体が、酸素が木粉に拡散するのを遮断するので、極めて有用である。
【0016】
また、本発明による木質複合材は、木粉と接着剤を含む混和物を原料とするので、接着剤の選択を適切に行えば、接着剤が完全に硬化する前に、塑性加工を施すことが可能であり、石材や大型の木材を擬した造形が可能である。これによって、例えば、古民家に使用されているような、大黒柱や梁などと同様の質感を有する材料を得ることができる。
【0017】
さらに前記の材料は、板材などで組み立てた枠状の基材の表面に、木粉と接着剤を含む混和物を盛り上げて成形するので、軽量であり、運搬や施工が容易であるという特徴も有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】 本発明に係る木質複合材で製作した梁の一例を模式的に示した斜視図。
【図2】 本発明の木質複合材の製造工程の一例を示すフロー図。
【図3】 木粉の顕微鏡写真、図3(a)は被覆前、図3(b)は被覆後。
【図4】 燃焼試験の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明を実施するための形態について説明する。
【0020】
本発明に係る木質複合材は、基本的に特許請求の範囲に記載したように、おが屑などの木粉に、焼石膏と水を加えて混合して得られる混和物を、基材の表面に付着させて成形するものである。混和物の塑性加工を考慮すると、接着剤としては、硬化にある程度の時間を要するものを使用する必要があり、二液性の熱硬化性接着剤や、エマルジョンの形態で入手可能な、酢酸ビニル系やアクリル系の接着剤が使用可能である。
【0021】
作業環境や、人手で塑性加工を行う場合を想定すると、有機溶媒に溶解した形態で供される接着剤は不適当で、さらに言えば、二液性の熱硬化性接着剤よりは、エマルジョン系の接着剤が望ましい。また木粉を石膏で被覆する際には、予め石膏以外のセラミックなどを用いて被覆するような、前処理を施すことも可能である。
【0021】
基材には、木材や石膏ボードのような材質の板材を用いることが可能である。これらの材料によれば、表面が平面形状の型枠状の基材が容易に得られるが、表面に凹凸を形成するために、木粉と接着剤の混和物が多量に必要な場合、難燃処理を施した発泡スチロールや発泡フェノール樹脂のような、切削加工、研削加工が容易な材料を用いることも可能である。
【0022】
また混和物の塑性加工には、コテを用いたりして人手行うことも可能で、同じ形状の製品を多量に製作する際には、シリコーンゴムなどの型を用いることもできる。
【実施例】
【0023】
次に具体的な例を挙げ、本発明について、詳しく説明する。図1は、本発明に係る木質複合材で製作した梁の一例を模式的に示した斜視図である。図1において、1は梁、2は基材、3は木粉と接着剤を含む混和物、4は表面に形成した木目模様である。
【0024】
また、図2は本発明の木質複合材の製造工程の一例を示すフロー図であり、図2に基づいて、さらに具体的に説明する。
【0025】
ここでは木粉として、製材で生じるおが屑を用い、おが屑:100重量部に対し、市販されている防炎用セラミック:100重量部を混合し、乾燥した。ここでは防炎用セラミックとして市販されている不燃液を用いた。混合乾燥後、焼石膏粉末:100重量部加え、一次材料(1)を得た。
【0026】
次に接着剤として、酢酸ビニルエマルジョン:100重量部、ケイ酸ナトリウムを主成分とする接着剤:70重量部、水:600重量部をそれぞれ秤量し、均一に混合して一次材料(2)を得た。
【0027】
これら2種類の一次材料を混合して混和物とし、別途にケイ酸カルシウム板を用いて調製した基材表面に付着させるが、まず一次材料(2)を多めに混合して低粘度に調製した混和物を吹き付けた。ここでは、接着性向上のために、エチレン−酢酸ビニル共重合体系接着剤の接着剤をプライマーとして、吹き付け前の基材表面に塗布した。次に、一次材料(1)を多めにした粘稠な混和物を基材表面に盛り付け、完全に乾燥して硬化する前に、コテなどを用いて表面の模様を成形した。
【0028】
乾燥した後、プライマーを塗布し、これが乾燥した後、刷毛やタンポを用いて水性ペイントを塗布して所要の着色を施した。さらに水性オイルと水性アクリル系クリアを刷毛で塗布して防汚処理を施し、完成品を得た。
【0029】
なお、石膏などによる木粉の被覆状態を確認するために、被覆処理前後の木粉の外観を、顕微鏡を用いて観察した。図3は、木粉の顕微鏡写真で、図3(a)は被覆前、図3(b)は被覆後である。なお倍率は300倍である。これらの写真によれば、被覆前の写真では明瞭に確認できる木材の繊維が、被覆後は殆ど認められず、木粉が石膏などで十分に被覆されていることが明らかである。
【0030】
次に、本発明の木質複合材の難燃性の評価結果について説明する。材料の燃焼状態は形状に依存するところが大きいので、ここでは、試験片として、ケイ酸カルシウムの板の上に厚さ6mmのブロックを設置して形成した99mm×99mm×6mmの空間に混和物を充填したものを用いた。
【0031】
混和物としては、前記実施例に挙げたものの他、比較のために石膏の被覆を施こさないものも用いた。表1は試験に用いた混和物に含まれる成分を示したものである。それぞれの混和物の成分の比率は、前記実施例に準じた。
【0032】
つまり、試験片No.10421は、木粉を澱粉糊だけで固めたもの、試験片No.10421−3は、石膏で被覆した木粉を澱粉糊で固めたもの、試験片No.10423は、石膏で被覆した木粉を前記のケイ酸ナトリウムを主成分とする接着剤で固めたもの、試験片No.10425は、前記の不燃液と石膏で被覆した木粉を、ケイ酸ナトリウムを主成分とする接着剤で固めたものである。
【0033】
図4は燃焼試験の結果を示す図である。ここでは建築基準法の不燃材に対する試験方法に準拠して試験した。市販の液化石油ガスを燃料としたバーナーを用い、バーナー火炎噴出口と試験片の距離を93±3mmとして、火炎の先端、即ち温度が最も高い部分が、試験片表面に当たるように調整し、燃焼状態を20分間観察した。なお、それぞれの混和物について3箇の試験片を作製して試験を実施した。
【0034】
図4において、実線で示した部分は、火炎を伴って燃焼した状態、破線で示した部分は、火炎を生じないで煙のみを生じながら燃焼した状態を示す。また黒で塗り潰した三角形は、試験片の裏側まで貫通する割れが生じた時間を示す。
【0035】
図4の結果によれば、試験片No.10421は、10分を経過しないうちに燃え尽きてしまったが、試験片No.10421−3、試験片No.10423、試験片No.10425は、20分経過後も形状を保持する結果となり、石膏被覆の有無の差が顕著に現れた結果となった。なお、試験片No.10423では3箇中1箇の試験片で割れを生じず、試験片No.10425と同様に、試験片No.10421−3よりも割れが生じる時間が遅くなった。これは接着剤として用いたケイ酸ナトリウムの方が、澱粉糊よりも難燃性に優れているためと考えるのが妥当である。
【0036】
以上に説明したように、本発明によれば、任意の形状に容易に成形出来て、軽量でしかも難燃性を具備した木質複合材を提供できる。実施例として、梁に応用した例のみを示したが、製材や丸太などの他に、石材などの種々の天然の素材を擬した製品が得られるのは勿論である。なお、本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る、各種変形、修正を含む要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0037】
1 梁
2 基材
3 混和物
4 木目模様
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機化合物により被覆された木粉と接着剤を含む混和物の成形体を、基材の表面に形成してなることを特徴とする木質複合材料。
【請求項2】
前記無機化合物は水酸基または結晶水の少なくともいずれかを有することを特徴とする、請求項1に記載の木質複合材料。
【請求項3】
前記無機化合物は、硫酸カルシウムを含むことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の木質複合材料。
【請求項4】
木粉と焼石膏と水を混合して、石膏で表面を被覆してなる被覆木粉を得る工程と、前記被覆木粉を基材の表面に付着させて成形する工程を有することを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の木質複合材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−969(P2012−969A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153406(P2010−153406)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(510186247)福内木工有限会社 (1)
【Fターム(参考)】