説明

木造耐火構造体

【課題】木の質感を出しながらJIS−A−1304に定める1時間加熱試験に適合可能であるとともに、層構成を簡素にして断面積を抑制することが可能な木造耐火構造体を提供する。
【解決手段】木造耐火構造体である柱1は、木質系材料からなるコア部2と、コア部2の表面を被覆して木造耐火構造体の外表面を構成する被覆部3と、を備え、被覆部3は、発火温度が1000℃以上のユーカリ材31で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造耐火建築物において柱、梁、壁などの構造体となる木造耐火構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木造耐火建築物の性能基準を満たしつつ、木の質感を出すことができる木造耐火構造体としては、(1)図4(a)に示すように、コア材となるH形鋼101の周囲を木製の集成材102や厚板(図示省略)で被覆した柱100や、(2)図4(b)に示すように、木製の集成材で形成したコア材201の周囲を二枚重ねにした石膏ボードなどの不燃材202で被覆し、不燃材202の周囲をさらに木製の被覆材203及び仕上げ板204で被覆した柱200などがある(例えば非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】財団法人 日本住宅・木材技術センター、(「木造による耐火建築物」、「主要構造部に木材を使った耐火構造」参照)、[online]、[平成22年7月26日検索]、インターネット<URL:http://www.howtec.or.jp/kokomademokuzai/fireproof/1-1m.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、(1)コア材となるH形鋼101の周囲を木製の集成材102や板材で被覆する構造では、コア材に鋼材を用いているため、純粋な木造耐火建築物とはいえず、木材だけで耐火構造物を構成するという要望に応えることができない。
【0005】
また、(2)木製のコア材201の周囲を石膏ボードなどの不燃材202で被覆し、不燃材202の周囲をさらに木製の被覆材203及び仕上げ板204で被覆した構造では、全体として4層構造となってしまうため、荷重を支持するために必要なコア材201の断面寸法に比較して、全体の外形寸法が大きくなってしまうという問題がある。
例えば、上記(2)の構造で、JIS−A−1304(建築構造部分の耐火試験方法)に定める「1時間加熱試験」に適合するには、コア材の断面寸法を例えば20cm×20cmとすると、全体の外形寸法は35cm×35cmとなってしまう。
なお、JIS−A−1304に定める「1時間加熱試験」は、要約すると、木造耐火構造物の試験体を試験炉に設置し、炉内の温度を室温から約950℃まで60分かけて昇温した後、火を止めて約3時間放置する試験である。
【0006】
本発明は、かかる問題を解決するために成されたものであり、木の質感を出しながらJIS−A−1304に定める1時間加熱試験に適合可能であるとともに、層構成を簡素にして断面積を抑制することが可能な木造耐火構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の発明者は、鋭意研究の結果、主にオーストラリア南東部とタスマニア島に分布(繁殖)する500種類以上のユーカリのうち、特定の種類のものは発火温度が1000℃以上になることを見出し、このような難燃性のユーカリ材を用いて木質のコア材を被覆することで、前記課題を解決する木造耐火構造を発明するに到った。
【0008】
すなわち、本発明に係る木造耐火構造体は、木造耐火建築物において柱、梁、耐力壁などの構造体となる木造耐火構造体であって、木質系材料からなるコア部と、前記コア部の表面を被覆して前記木造耐火構造体の外表面を構成する被覆部と、を備え、前記被覆部は、発火温度が1000℃以上のユーカリ材で構成されていることを特徴とする
【0009】
かかる構成によれば、通常の木材の発火温度が約440℃(引火温度が260℃)であるのに比べて、ユーカリ材の発火温度が1000℃以上と高いので、ユーカリ材が従来の不燃材層と仕上げ層とを兼ねることができる。そのため、ユーカリ材の厚さ寸法を適宜調節することによって、木の質感を出しながらJIS−A−1304に定める1時間加熱試験に適合可能であるとともに、木材の表面に木材を被覆するという簡素な2層構造となって断面積を抑制することが可能となる。
【0010】
また、前記ユーカリ材は、厚さ寸法が3cm以上であるのが好ましい。かかる構成によれば、JIS−A−1304に定める1時間加熱試験に適合することができる。なお、厚さ寸法の上限値は、特に限定されるものではない。
【0011】
また、前記ユーカリ材は、アイアンバーク又はスポッテッドガムという種類のユーカリ材であるのが好ましい。かかる構成によれば、アイアンバーク又はスポッテッドガムという種類のユーカリ材は、発火温度が1000℃以上であるので、ユーカリ材の厚さ寸法を適宜調節することによって、木の質感を出しながらJIS−A−1304に定める1時間加熱試験に適合可能であるとともに、木材の表面に木材を被覆するという簡素な2層構造となって断面積を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、木の質感を出しながらJIS−A−1304に定める1時間加熱試験に適合可能であるとともに、層構成を簡素にして断面積を抑制することが可能な木造耐火構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施形態に係る木造耐火構造体としての柱の斜視図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】第2実施形態に係る木造耐火構造体としての構造壁の水平断面図である。
【図4】従来の木造耐火構造体となる柱の斜視図であり、(a)はコア材がH型鋼のタイプ、(b)はコア材、不燃材、仕上げ板の3層構造のタイプ、をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態に係る木造耐火構造体について図面を参照して詳細に説明する。説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
図1は、第1実施形態に係る木造耐火構造体としての柱の斜視図である。
柱1は、図1に示すように、木造建築物の荷重を支持する構造材として機能する四角柱状の部材である。柱1は、芯材となるコア部2と、コア部2の表面を被覆して柱1の外表面を構成する被覆部3と、を備えている。
【0016】
コア部2は、柱1にかかる鉛直方向の荷重を支持する機能を有しており、JIS−A−1304に定める1時間加熱試験の際に、炭化、着火などの損傷を受けないように保護すべき部分である。コア部2は、例えば、杉、ヒノキなどの角材(無垢材)や、断面寸法の小さい木材同士を接着剤で接合した集成材などのいわゆる木質系材料で構成されている。
コア部2は、図2に示すように、断面視で正方形状を呈している。コア部2は、木造建築物の鉛直方向の荷重を支持するのに必要な断面寸法を有しており、例えば第1実施形態では、一辺の幅寸法B1は、20cmに構成されている。
【0017】
被覆部3は、火災の熱や炎を遮断してコア部2を保護する保護層としての機能と、木の質感を出す仕上げ層としての機能を有している。被覆層3は、図1、図2に示すように、4枚のユーカリ材31を、釘打ち又は接着などの方法で、コア部2の四方の側面に直接取り付けて構成されている。
【0018】
ユーカリ材31は、主にオーストラリア南東部とタスマニア島に分布(繁殖)する500種類以上のユーカリのうち、発火温度が1000℃以上となる難燃性のユーカリを製材して得られる板状の部材である。発火温度が1000℃以上となる難燃性のユーカリとしては、例えば、アイアンバーク又はスポッテッドガム等が挙げられる。
【0019】
図2に示すように、ユーカリ材31の厚さ寸法T1は、JIS−A−1304に定める1時間加熱試験の際に、コア部2が損傷を受けないように、例えば3cmに設定されている。これにより、柱1全体の幅寸法B2は、26cm(=20cm+3cm×2枚)となる。
【0020】
一方、例えば図4(b)に示すような従来の柱200は、JIS−A−1304に定める1時間加熱試験の際にコア部201が損傷を受けないようにするためには、不燃材202としての石膏ボードの厚さ寸法を15mmとする必要がある。
よって、コア部201の幅寸法を第1実施形態に係る柱1と等しく20cmとした場合、不燃材202の厚さ寸法を1.5cmとし、被覆材203の厚さ寸法を6cmとし、仕上げ板204の厚さ寸法を1.5cmとすると、柱200全体の幅寸法は38cm(=20cm+(1.5cm+6cm+1.5cm)×2)となる。よって、第1実施形態に係る柱1は、従来の柱200に比較して断面積を約53%(=100−26/38×100)減少させることができる。
【0021】
以上説明したように、第1実施形態に係る柱1は、芯材となるコア部2と、コア部2の表面を被覆して柱1の外表面を構成する被覆部3と、を備え、被覆部3は、発火温度が1000℃以上となる難燃性のユーカリ材31で構成されているので、ユーカリ材31の厚さ寸法を適切に設定することにより、木の質感を出しながらJIS−A−1304に定める1時間加熱試験に適合する構造体とすることができるとともに、従来の木造耐火構造体に比較して構造を簡素化して施工の手間や材料費の低減を図ることができ、さらには、断面積を低減(或いは断面積の増大を抑制)して建物の有効空間を増大させることができる。
【0022】
また、第1実施形態に係る柱1の被覆材31は、厚さ寸法T1が3cmとなるように製材されたアイアンバーク又はスポッテッドガムという種類のユーカリ材で構成されているので、JIS−A−1304に定める1時間加熱試験に適合する構造体とすることができる。
【0023】
また、第1実施形態に係る柱1によれば、薬品による不燃処理などの特別な加工をユーカリ材31に施す必要がないので、材料の加工コストを低減することができる。また、木材に薬品処理を行うことがないので、使用する薬品量を抑制して環境にやさしい建物を構築することができる。
【0024】
つぎに、第2実施形態に係る木造耐火構造体としての構造壁10について、図3を参照して説明する。説明において、第1実施形態と同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0025】
図3は、第2実施形態に係る構造壁の水平断面図である。
構造壁10は、図3に示すように、壁下地となる木製のコア部20と、このコア部20の表面を被覆して室内(又は屋外)に露出する被覆部30と、を備えている。
【0026】
コア部20は、構造壁10に作用する荷重を支持する部分である。コア部20は、互いに水平方向に離間して立設された複数のたて枠21,21と、このたて枠21の一方側及び他方側に張着された合板22,22と、を備えている。外壁の場合、たて枠21同士の間には、グラスウールや発泡ウレタンなどで構成された断熱材23が充填されている。
なお、たて枠21同士の下端部は、下枠(図示省略)によって連結されており、たて枠21同士の上端部は、上枠(図示省略)によって連結されている。また、合板22は、石膏ボードであってもよい。
【0027】
被覆部30は、複数の板状のユーカリ材31で構成されている。ユーカリ材31は、発火温度が1000℃以上となる難燃性のユーカリを製材して形成されている。図3に示すように、ユーカリ材31の厚さ寸法T2は、JIS−A−1304に定める1時間加熱試験の際に、コア部2が損傷を受けないように、例えば3cmに設定されている。
なお、ユーカリ材31の張り方は、隣り合うユーカリ材の端部同士を付き合わせるようにして張り付けてもよいし、いわゆる下見板張りのように、上側のユーカリ材31の下端部が下側のユーカリ材31の上端部に重なるように張り付けてもよい。
【0028】
このような構造壁10によれば、コア部20と被覆部30の間に不燃材などを設置する必要がないので、ユーカリ材31の厚さ寸法を適切に設定することにより、木の質感を出しながらJIS−A−1304に定める1時間加熱試験に適合する構造体とすることができるとともに、従来の木造耐火構造体に比較して構造を簡素化して施工の手間や材料費の低減を図ることができ、さらには、断面積を低減(或いは断面積の増大を抑制)して建物の有効空間を増大させることができる。
【0029】
以上、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
【0030】
例えば、第1及び第2実施形態では、木造耐火構造体として柱1及び構造壁10を例にとって説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば梁部材、屋根部材、床部材、階段部材などに適用することも可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 柱(木造耐火構造体)
2 コア部
3 被覆部
31 ユーカリ材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造耐火建築物において柱、梁、耐力壁などの構造体となる木造耐火構造体であって、
木質系材料からなるコア部と、前記コア部の表面を被覆して前記木造耐火構造体の外表面を構成する被覆部と、を備え、
前記被覆部は、発火温度が1000℃以上のユーカリ材で構成されていることを特徴とする木造耐火構造体。
【請求項2】
前記ユーカリ材は、厚さ寸法が3cm以上であることを特徴とする請求項1に記載の木造耐火構造体。
【請求項3】
前記ユーカリ材は、アイアンバーク又はスポッテッドガムという種類のユーカリ材であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の木造耐火構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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