説明

木食性昆虫による攻撃に耐性をもつ材料の使用

炭化水素ベースの連鎖を含む化学物質を用いた処理を受けさせることからなる化学処理プロセスに付したリグノセルロース材料をベースとした材料、特に木材片またはおがくずの、木食性昆虫耐性材料としての使用であって、この化学物質は混合無水カルボン酸から選択され、該化学物質は複数の炭化水素ベースの連鎖の共有結合によって該材料へのグラフトを確保するのに適切である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学処理プロセスに付したリグノセルロース材料をベースとした材料、特に木材片およびおがくず、の木食性昆虫耐性材料としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
出願WO03/738219は耐久性および寸法安定性を向上させるために、疎水性の性質を与えることのできる木材の保護プロセスを記載している。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
この物理化学的な処理によって、発明者らは、全く意外にもまた予想外に、リグノセルロース材料をベースにした材料(木材片、おがくず、または同様のもの)の表面で共有結合によりグラフトされた薬剤は、これらのリグノセルロース材料に、木食性昆虫(シロアリ、カプリコーンビートル(capricorn beetle)、ヘスペロファン(hesperophanes)、ヒラタキクイムシ(lyctus beetle)、ケブトヒラタキクイムシ(furniture beetle)、コウチュウ(coleoptera)、その他)による攻撃に対して無害または増大した耐性を与えることを見出した。
【0004】
本発明の主題は従って、炭化水素ベースの連鎖を含む化学物質を用いた処理を受けさせることからなる化学処理プロセスに付したリグノセルロース材料をベースとした材料、特に木材片またはおがくず、の木食性昆虫耐性材料としての使用であって、この化学物質は第一の炭化水素ベースの連鎖のRCOOHおよび第二の炭化水素ベースの連鎖のRCOOHを含む混合カルボン酸無水物から選択され、RCOOHはCからCのカルボン酸を、またRCOOHはCからC24の脂肪酸を表し、これらの酸は飽和または不飽和であり、該化学物質は複数の炭化水素ベースの連鎖の共有結合によって該材料へのグラフトを確保するのに適切である。
【0005】
本発明の他の態様によれば、本発明はまた、炭化水素ベースの連鎖を含む化学物質の使用に関するものであり、この化学物質は第一の炭化水素ベースの連鎖のRCOOHおよび第二の炭化水素ベースの連鎖のRCOOHを含む混合カルボン酸無水物から選択され、RCOOHはCからCのカルボン酸を、またRCOOHはCからC24の脂肪酸を表し、これらの酸は飽和または不飽和であり、該化学物質は、複数の炭化水素ベースの連鎖の共有結合によってリグノセルロース材料をベースとした材料、特に木材片またはおがくず、へのグラフトを確保し、該材料に木食性昆虫への耐性を与えるのに適切である。
【0006】
これらの処理の効力によって、木食性昆虫による攻撃に耐性のある材料が得られる。事実、この化学物質による水酸基結合のレベルでのグラフトによって、木食性昆虫はもはや澱粉タイプの成分を認識せず、また、もはやリグノセルロース材料によって引き付けられない。
【0007】
本発明の他の特徴および利点が、添付された図面に関して、限定されない例として与えられた、その実施態様の1つについての以下の記述の中で明らかになるであろう。
【0008】
本プロセスの好ましい実施態様によれば、リグノセルロース材料、特に少なくとも木材片またはおがくずまたは同様のもの(経木、残渣、リグノセルロース材料を基にした材料(セルロース、ヘミセルロース))に、炭化水素ベースの連鎖を含む化学物質を組み込むこと(impregnating)からなり、該化学物質は、複数の炭化水素ベースの連鎖の共有結合によって該材料へのグラフトを確保するのに適切である。
【0009】
用語「炭化水素ベースの連鎖」は、いかなる複素脂肪族の、複素芳香族の、脂肪族の、または芳香族の連鎖をも意味することを意図している。
【0010】
この組み込み(impregnation)は、周囲温度から150℃の範囲の温度、好ましくは100から140℃の範囲で実施される。
【0011】
この化学物質は有機酸無水物、好ましくは混合カルボン酸無水物から選択される。
【0012】
該リグノセルロース材料(例えば、少なくとも木材片、おがくず、または同様のもの)への化学物質の組み込みの段階の前に、混合カルボン酸無水物の調製の段階が実施される。
【0013】
第一の方法によれば、次の反応による酸塩化物とカルボン酸が用いられる:
【0014】
【化1】

【0015】
RおよびRの位置の交換からなる第一の方法の変形による。
【0016】
【化2】

【0017】
第二の方法によれば、次の反応による酸塩化物とカルボン酸塩が用いられる:
【0018】
【化3】

【0019】
第三の方法によれば、次の反応による直鎖のカルボン酸無水物および脂肪酸が用いられる:
【0020】
【化4】

【0021】
基RおよびRは、異なる長さの脂肪族連鎖である。限定されない例として、RはRよりも長さの短いことが提案される。
【0022】
RCOOHは、例えば、CからCのカルボン酸(酢酸、プロピオン酸、または酪酸)、一方、RCOOHは、CからC24の脂肪酸であり、これらの酸は飽和または不飽和である(例えば、ヘキサン酸、オクタン酸またはオレイン酸)。
【0023】
混合カルボン酸無水物は、単独でもまたは混合物としても用いることができ、この場合、種々のカルボキシル基含有物の混合物から誘導することができ、それから目的とする混合無水物の合成が実施される。
【0024】
上記の方法の少なくとも1つによって得られた混合カルボン酸無水物を用いて、次いで、混合カルボン酸無水物(例えば、酢酸/オクタン酸無水物)を該木材片にグラフトするという方法で木材片に組み込みがなされ(impregnated)、このグラフト化は次の反応による木材のエステル化からなっている:
【0025】
【化5】

【0026】
または、RおよびRの役割に関して逆の場合も同様。
【0027】
【化6】

【0028】
以下に描かれた反応に従って、他のエステル化方法も同様に用いることができる。
【0029】
酸塩化物から開始する。この反応は速いが、しかしながらHClの発生は重大な欠点である。
【0030】
【化7】

【0031】
例として、酸塩化物が塩化オクタノイルおよび塩化アセトイル(acetoyl chloride)から選ばれる。
【0032】
ケテンから開始する。しかしながら、反応物質は高価なので、工業的な利点は制限される。
【0033】
【化8】

【0034】
例として、この反応は、例えば、塩化オクタノイルと組み合わせることができる。
【0035】
カルボン酸から開始する。この反応は、しかしながら低い反応性を示し、またピリジン、DCC、TsCl、TFAA(DCC:N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド;TsCl:p−トルエンスルホニルクロライド;TFAA:トリフルオロ酢酸無水物)など共反応化合物の使用を必要とする。
【0036】
【化9】

【0037】
例として、使用されるカルボン酸は酢酸およびオクタン酸から選ばれる。
【0038】
カルボン酸エステル(例えば、オクタン酸メチルまたは酢酸メチル)から開始する。しかしながら、もしもRがCHからなる場合は、(毒性の)メタノールが発生することを留意しなければならない。
【0039】
【化10】

【0040】
エステルと混ぜ合わされた木材はどちらででも得ることができる
・上記に示された反応物の混合物とともに、単一の段階で、
・または、2段階で、
・・同じタイプの反応を2回用いることによって、
・・もしくは、異なる群の2つ反応によって、のいずれかで。
【0041】
加えて、これらのエステル化反応は触媒の不在、または塩基性のもしくは中性の触媒(例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、脂肪酸塩、および同様のもののような)または弱酸触媒または強酸触媒の存在下で起こることができ、木材へのその有害な影響は、極めて薄い濃度での使用により最小限に留められる。
【実施例】
【0042】
本プロセスの実施の1例が以下に与えられる。
【0043】
実験例1:1モルの酢酸無水物を1モルのオクタン酸に添加した。この混合物を撹拌しながら30分間、140℃に加熱した。10×10×10cmの寸法の木材片を反応混合物中に浸漬し、この混合された内容物を1時間の間、140℃に加熱した。この木材片をその後排液し、そしてファン付きオーブン中で乾燥した。
【0044】
実験例2:1モルの酢酸無水物を1モルのオクタン酸に添加した。この混合物を、室温で60分間撹拌した。その後、10×10×10cmの寸法の木材片を反応混合物中に5分間浸漬し、そして排液した。木材片を120℃のオーブンに1時間入れた。
【0045】
本プロセスの主たる利点は、石油化学由来の化合物とは対照的に、無毒の植物由来の混合カルボン酸無水物を用いることにある。
【0046】
この特有の選択は、環境の保護を目的とする処理を単純化することから、本プロセスの工業的実施に有利に働く。
【0047】
いかなる処理プロセスが用いられたとしても、リグノセルロース材料(われわれの特定のケースでは木材片)へのこの処理の形跡を後で見い出すことができることが、望ましい。
【0048】
リグノセルロース材料が受ける処理の特性を明らかにすることを可能にする多様な方法、すなわち、エステル基を通して結合された異なる炭化水素ベースの連鎖の存在および触媒の存在もしくは不存在(およびそのタイプ)の測定が思い描かれる。
【0049】
炭化水素ベースの連鎖の存在を見つけ出す方法は、木材片由来のサンプルをNaOHの溶液で処理し、エステル基を加水分解して、そして炭化水素ベースの連鎖をカルボン酸へと転化させることからなる。それは、その後、HPLC、GCなどのような、従来のクロマトグラフ法で同定される。
【0050】
これらの方法の1例は、木材片またはリグノセルロースから開始して、その水酸基が少なくとも2つの異なる炭化水素ベースの化学物質によってアシル化され、エステル混合物、例えばリグノセルロース材料のアセテートおよびオクタノエートを生じさせることからなることができる。
【0051】
このエステル混合物は次の方法で特性を明らかにすることができる:特許請求されたプロセスによって処理された木材またはリグノセルロース材料のサンプルを、最小で80メッシュの粒子サイズに粉砕し、エタノールの水溶液(70%)がはいっているフラスコの中に入れる。少なくとも1時間撹拌した後で、十分な量のNaOH水溶液(0.5M)を添加し、そしてエステル基の完全なケン化を達成するために、撹拌を72時間継続する。固体残渣のろ過および分離の後、炭化水素ベースの化合物を対応するカルボン酸に転化させるために、液をHCl水溶液(1M)でpH3まで酸性化する。液は、処理された木材またはリグノセルロース材料中に存在するエステル基に対応する種々のカルボン酸を分離し、また同定するために、引き続いてガスクロマトグラフィー(GC)または、そうでなければ高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析することができる。
【0052】
触媒のタイプの同定方法は以下に示される。
【0053】
ここで、最初の方法は抽出物の量の測定からなる。この方法は様々な処理の木材の抽出物(最初から存在していた、または木材の分解に由来する)への影響を観察することを可能にする。処理し、また微粉にした木材は異なる極性のいくつかの溶媒、水、エタノール、アセトンおよびシクロヘキサンで抽出を受ける。抽出はソックスレー装置を用いて行われる。
【0054】
種々の溶媒を用いたソックスレーでの抽出の後に、処理された木材サンプルの抽出物の量を、以下の表に並べる。
【0055】
【表1】

【0056】
見られるように、抽出溶媒が何であろうと、これらの結果は目に見える印象を裏付ける:強酸触媒(0.3モル%HSO)による処理は、最も大きい分解をもたらし、また反応の最後において最も大量の抽出化合物の形成をもたらす。大量の強酸(0.3モル%)では、木材片は黒ずみ、また崩壊する傾向を示し、また外観の不良を示す。
【0057】
電子顕微鏡のスケールでは、繊維の細胞膜が酸触媒のために損傷を受けている。
【0058】
このように、図1との比較で、また定性的な観点から、図2に関しては、木材の表面は処理によって平滑化されていることが見られ、木材のこの表面は均質であることが観察される。電子顕微鏡の下で見ることのできる木材の繊維(リグノセルロースの繊維)は、図1のそれに比べて傷がないように見える。生成物(product)は、まず第一に、表面が皮をむくようなタイプの作用を受けるように見えるが、またグラフト化のおかげで均質化も可能にする。これは、グラフト化された連鎖は繊維を保護することができるためであり、そのため電子顕微鏡の下でそれらをみることを不可能にする。
【0059】
同様に図3に関しては、リグノセルロース繊維は露出されているように見える。生成物(product)の存在は前者(図2)よりもより著しくない;このことは、この写真は本発明のプロセスによって処理された塊の内部を示しているので論理にかなっている。この破砕は、この処理か、または、おそらく切断の間の繊維の引き裂きかのいずれかに因る。
【0060】
定量的な観点から、以下に処理された、また処理されないリグノセルロース繊維の吸収および膨潤の値を示した表を与える。
【0061】
【表2】

【0062】
第二の方法は、木材の成分の分析からなる。木材が処理される媒体のタイプによって、木材の生物高分子はすべてが同じ分解を受けるのではない。従って、処理された木材の組成は処理に応じて変わる。この方法は、「ADF−NDF」法と言われており、またこれはセルロースC、ヘミセルロースH、リグニンLおよび無機物質IMの比率を測定することを可能にする。
【0063】
種々のタイプの触媒とともに酢酸/オクタン酸混合物の無水物で処理されたオーク材の組成の分析に関するデータが以下の表に並べられている。ADF−NDF手法により分析される前に、木材混合エステルの分析の手順に従って、エステル化されたサンプルはケン化され、その後ソックスレー装置を用いて水で抽出される。この手法は参考文献(Acid Detergent Fiber, Neutral Detergent Fiber)VAN SOEST P.J. and WINE R.H. Determination of lignin and cellulose in acid-detergent fiber with permanganate. J. Ass. Offic. Anal. Chem. 51(4), 780-785(1968)、に記載されている。
【0064】
【表3】

【0065】
従って、この分析は強酸触媒での処理を特許請求した処理から識別することを可能にする。事実、リグニンおよびヘミセルロース量の大きくまた有意な減少が観察される。更に、ソックスレーを用いた水での抽出物の量は最大である。
【0066】
木食性昆虫に対する耐性を証明するために、次の実験を行った。
【0067】
次の族の成虫が、状態調整された室の中に入れられた。
・コウチュウ類(coleoptera)(ヒラタキクイムシ(lyctus beetle)、カプリコーンハウスビートル(capricorn house beetle)、その他)および等翅目(isoptera)のような、乾燥木材の木食性昆虫。
・湿潤木材の木食性昆虫。
仕組み:処理された木材および処理されていない木材を所定の位置に置くと、木食性昆虫が、サイクルの間、組織的に処理されていない木材へと移動する。
【0068】
同じ実験を、昆虫の同じ族を用いて室の中に処理された木材おいて再現する。昆虫は飢えで死ぬ。木食性昆虫はもはや澱粉タイプの成分を認識することができず、またもはやリグノセルロース材料によって引き付けられることはない。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】図1は処理されていない木材サンプルの走査型電子顕微鏡(SEM)で撮られた図である;これは参照としての役目を果たすことができる。
【図2】図2は、強酸触媒の存在下で、本発明の主題であるプロセスに従った木材サンプルの走査型電子顕微鏡(SEM)で撮られた図である。
【図3】図3は、強酸触媒の存在下で、本発明の主題であるプロセスに従った木材サンプルの走査型電子顕微鏡(SEM)で撮られた別の図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素ベースの連鎖を含む化学物質を用いた処理を受けさせることからなる化学処理プロセスに付したリグノセルロース材料をベースとした材料、特に木材片またはおがくず、の木食性昆虫耐性材料としての使用であって、この化学物質は第一の炭化水素ベースの連鎖のRCOOHおよび第二の炭化水素ベースの連鎖のRCOOHを含む混合カルボン酸無水物から選択され、RCOOHはCからCのカルボン酸を、またRCOOHはCからC24の脂肪酸を表し、これらの酸は飽和または不飽和であり、該化学物質は複数の炭化水素ベースの連鎖の共有結合によって該材料へのグラフトを確保するのに適切であることを特徴とする該材料の木食性昆虫耐性材料としての使用。
【請求項2】
炭化水素ベースの連鎖を含む化学物質の使用であって、この化学物質は第一の炭化水素ベースの連鎖のRCOOHおよび第二の炭化水素ベースの連鎖のRCOOHを含む混合カルボン酸無水物から選択され、RCOOHはCからCのカルボン酸を、またRCOOHはCからC24の脂肪酸を表し、これらの酸は飽和または不飽和であり、該化学物質は複数の炭化水素ベースの連鎖の共有結合によってリグノセルロース材料をベースとした材料、特に木材片またはおがくず、へのグラフトを確保し、該材料に木食性昆虫への耐性を与えるのに適切である該化学物質の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−538338(P2008−538338A)
【公表日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−519977(P2008−519977)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【国際出願番号】PCT/FR2007/051354
【国際公開番号】WO2007/141444
【国際公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(507343589)
【Fターム(参考)】