説明

未分化細胞の心筋分化活性検出用マーカー、核酸分子、プライマーペア、キット、心筋分化抑制剤、未分化細胞の心筋分化活性検出方法、心筋分化活性を有する細胞の単離方法、未分化細胞の心筋分化活性のモニタリング方法、および未分化細胞の心筋分化の抑制方法

【課題】細胞の心筋分化活性の的確かつ簡易な検出に有用なマーカーに関する。また、本発明は、核酸分子、プライマーペア、キット、心筋分化抑制剤、未分化細胞の心筋分化活性検出方法、心筋分化活性を有する細胞の単離方法、未分化細胞の心筋分化活性のモニタリング方法、および未分化細胞の心筋分化の抑制方法を提供する。
【解決手段】細胞の心筋分化活性と相関を示す、CMP(cardiomyogenesis predictor)遺伝子またはその遺伝子産物からなるマーカー。未分化細胞の心筋分化活性を検出するための遺伝子マーカーであって、特定の配列のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドまたはそのフラグメント。

【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本特許出願は、先に出願された日本国における特許出願である特願2006―109858号(出願日:2006年4月12日)に基づく優先権の主張を伴うものである。この先の特許出願における全開示内容は、引用することにより本明細書の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、細胞の心筋分化活性の的確かつ簡易な検出に有用なマーカーに関する。また、本発明は、核酸分子、プライマーペア、キット、心筋分化抑制剤、未分化細胞の心筋分化活性検出方法、心筋分化活性を有する細胞の単離方法、未分化細胞の心筋分化活性のモニタリング方法、および未分化細胞の心筋分化の抑制方法に関する。
【背景技術】
【0003】
心筋細胞は、出生前においては自律拍動をしながらも活発に分裂増殖している。しかしながら、心筋細胞は出生と同時に速やかにその分裂能を喪失し、肝細胞等とは異なり二度と分裂能を獲得することはないのが通常である。
【0004】
近年、成熟した心筋組織中にも心筋細胞前駆細胞が含まれることが明らかとされた。しかしながら、心筋細胞前駆細胞の数は非常に僅かであり、心筋細胞に障害が生じた際にそれを補完して心機能を完全に回復するには十分ではない。したがって、虚血性心疾患や心筋症等により心筋に負荷や壊死が生じた場合には、心筋細胞は細胞分裂でなく主に細胞肥大という形で適応する。心筋細胞肥大は初期においては負荷に対する生理的適応現象とされるが、共存する心線維芽細胞の増生、間質の線維化と相まって心臓自体の拡張機能の低下、さらには収縮機能の低下へと結びつき、心不全を呈するようになる。
【0005】
虚血性心疾患や心筋症等による心不全の治療は、心収縮力の増強、血管拡張薬による圧負荷・容量負荷の軽減、利尿薬による体液量の減少等の対症療法を中心として行われている。さらに、重症心不全に対する根本的な治療法としては心臓移植が挙げられる。しかしながら、心臓移植は、臓器提供者の不足、脳死判定の難しさ、拒絶反応、医療費等の多くの問題を有している。そこで、適切な心疾患治療のため、失われた心筋を再獲得する方法の開発が求められている。
【0006】
心筋を再獲得する一つの方法としては、心筋細胞の分裂増殖能の再獲得させる方法が挙げられる。この方法の実施のためには、出生後、心筋細胞が分裂能を喪失する機序を究明することが求められる。そして、かかる機序を明らかとし、遺伝子治療等によって心筋細胞に分裂能を再獲得させることが期待される(非特許文献1)。
【0007】
また、心筋を再獲得する他の方法としては、心筋細胞以外の細胞を心筋細胞に変換する、分化誘導法が挙げられる。Murryらは、骨格筋分化のマスターキー遺伝子であるMyoDを、in vitroにて心臓に導入することにより、非心筋細胞(線維芽細胞)を骨格筋細胞に変換しうることを報告している(非特許文献2) 。また、心筋細胞において、Nkx2.5、GATA4、MEF2C等の様々な心筋細胞特異的な転写因子がクローニングされている。しかしながら、これらの遺伝子を単独または複数にて他の細胞に遺伝子導入することにより、心筋細胞が作製されたという報告はない。したがって、心筋分化機序の詳細の解明、さらには心疾患治療において、細胞の心筋分化の制御に利用可能な遺伝子が依然として必要とされるといえる。
【0008】
また、心疾患の他の治療方法としては、心筋細胞移植が挙げられる。近年、幹細胞もしくは心筋前駆細胞を心筋障害部位に移植して心筋細胞へと分化させる方法、または幹細胞もしくは心筋前駆細胞をin vitroで心筋細胞へと分化させた後に心筋障害部位に移植する方法が、再生医学の観点から注目されている。この方法は患者本人由来の細胞を移植するため、拒絶の心配がない。
【0009】
しかしながら、心筋細胞移植においては、移植した細胞が移植部位に適した表現形を獲得せず、目的外の種類の細胞等に分化した場合、不整脈や心不全を生ずる危険性がある。したがって、心筋細胞移植治療の安全性向上のためには、細胞の心筋細胞への分化のしやすさ、すなわち「心筋分化活性」を適切に予測することが不可欠である。
【0010】
細胞の心筋分化活性の指標となるマーカーの探索が国内外で盛んに行われている(非特許文献3)。心筋分化活性の指標となるマーカーは、心筋分化能の比較的高い未分化細胞の分離する技術、さらには特異的かつ効率的な心筋細胞分化誘導技術への応用が期待される。しかしながら、未分化段階において用いうる、細胞の心筋分化活性の指標となるマーカーは依然として存在していない。従前の研究では、未分化細胞に対して心筋分化誘導刺激を施した後、分化過程の初期に発現が変動する遺伝子を探索する手法が取られている。このため、得られたマーカーは「既に開始してしまった心筋細胞分化の初期過程」のマーカーではあっても、分化誘導前の「未分化細胞が有する心筋細胞への分化活性」についてのマーカーではない。心疾患の適切な治療のためには、未分化細胞の品質評価および心筋分化能の高い未分化細胞の分離が必要とされる。したがって、未分化段階において、細胞の心筋分化活性の検出に用いうるマーカーが依然として求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Tamamori et al., Critical role of cyclin D1 nuclear import in cardiomyocyte proliferation, Circ Res. 2003, Jan 10, 92(1), e12-9
【非特許文献2】Murryet al., Muscle differentiation during repair of myocardial necrosis in rats via gene transfer with MyoD, J Clin Invest., 1996, Nov 15, 98(10), 2209-17
【非特許文献3】Peng et al., Microarray analysis of global changes in gene expression during cardiac myocyte differentiation, Physiol Genomics., 2002, 9(3), 145-55、日高京子等、「ES細胞で発現する心筋分化関連遺伝子の探索・解析システムの構築」、「再生医療」、2005、4(Suppl)、88、秋丸裕司等、「ES細胞の心筋分化を制御するシグナルの解析」、「再生医療」、2005、4(Suppl)、89
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、今般、未分化段階において、細胞における複数の特定遺伝子(以下、「CMP(cardiomyogenesis predictor)遺伝子」という。)の発現量が、細胞の心筋分化活性と有意な相関を示すとの知見を得た。さらに、本発明者らは、CMP遺伝子およびその遺伝子産物を、マーカーとして用いることにより、細胞の心筋分化活性を的確に検出することができるとの知見を得た。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0013】
したがって、本発明は、未分化細胞の心筋分化活性を検出するためのマーカーの提供をその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そして、本発明による未分化細胞の心筋分化活性を検出するための遺伝子マーカーは、下記の(a)または(b)に記載のポリヌクレオチドまたはそのフラグメントからなるものである:
(a)配列番号3で表されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、
(b)(a)に記載のヌクレオチド配列と少なくとも70%の相同性を有するヌクレオチド配列からなり、かつ(a)に記載のポリヌクレオチドと機能的に同等なものである、ポリヌクレオチド。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上記マーカーを用いることにより、未分化段階において、細胞の心筋分化活性を的確に検出することが可能となる。よって、本発明によるマーカーは、未分化細胞の品質評価および心筋分化能の高い未分化細胞の単離において有利に利用することができる。また、本発明による遺伝子マーカーを構成するポリヌクレオチドの発現を制御することにより、細胞の心筋分化を制御することが可能となる。よって、本発明における上記ポリヌクレオチドは、心筋分化機序の詳細の解明や心筋細胞の製造において有利に利用することができる。よって、かかる本発明が提供されることは、心疾患の治療において意義があるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1Aは、細胞株(P19、CL6、G26、G36、G45およびG52)における収縮ノジュール数の時間経過を示す図である。 また、図1Bは、細胞株(P19、CL6、G26、G36、G45およびG52)における収縮ノジュールサイズの時間経過を示す図である。
【図2】図2Aは、細胞株(P19、CL6、G26、G36、G45およびG52)における、MLC2a遺伝子の発現の時間経過を示す図である。図2Bは、細胞株(P19、CL6、G26、G36、G45およびG52)における、MLC2v遺伝子の発現の時間経過を示す図である。図2Cは、細胞株(P19、CL6、G26、G36、G45およびG52)における、αMHC遺伝子の発現の時間経過を示す図である。図2Dは、細胞株(P19、CL6、G26、G36、G45およびG52)における、βMHC遺伝子の発現の時間経過を示す図である。図2Eは、細胞株(P19、CL6、G26、G36、G45およびG52)における、Nkx2.5遺伝子の発現の時間経過を示す図である。図2Fは、細胞株(P19、CL6、G26、G36、G45およびG52)における、GATA4遺伝子の発現の時間経過を示す図である。図2Gは、細胞株(P19、CL6、G26、G36、G45およびG52)における、MEF2C遺伝子の発現の時間経過を示す図である。
【図3】図3Aは、心筋細胞分化を誘導した細胞株(P19、CL6、G26、G36、G45およびG52)における心筋細胞マーカー遺伝子のmRNA発現データを主成分分析した際のスクリープロットを示す図である。また、図3Bは、心筋細胞分化を誘導した細胞株(P19、CL6、G26、G36、G45およびG52)における心筋細胞マーカー遺伝子のmRNA発現データを主成分分析した際の変量プロットを示す図である。
【図4】図4Aは、心筋分化を誘導した細胞株(P19、CL6、G26、G36、G45およびG52)における心筋細胞マーカー遺伝子のmRNA発現量データを主成分分析した際の第1主成分得点の時間経過を示す図である。また、図4Bは、心筋分化を誘導した細胞株(P19、CL6、G26、G36、G45およびG52)における心筋細胞マーカー遺伝子のmRNA発現量データを主成分分析した際の第2主成分得点の時間経過を示す図である。
【図5】図5Aは、RNAi処理によるG52細胞のCMP2遺伝子の発現量の変化を示す図である。また、図5Bは、RNAi処理よるG52細胞のCMP13遺伝子の発現量の変化を示す図である。
【図6】図6は、CMP2またはCMP13遺伝子の発現をRNAiで抑制した際のG52細胞の心筋分化活性の時間経過を示す図である。
【図7】図7AおよびBは、RNAi処理によるG52細胞のCMP1〜24遺伝子の発現量の変化を示す図である。
【図8−1】図8A〜Cは、CMP1〜3遺伝子の発現をRNAiで抑制した際のG52細胞の心筋分化活性の時間経過を示す図である。
【図8−2】図8D〜Fは、CMP4〜6遺伝子の発現をRNAiで抑制した際のG52細胞の心筋分化活性の時間経過を示す図である。
【図8−3】図8G〜Iは、CMP7〜9遺伝子の発現をRNAiで抑制した際のG52細胞の心筋分化活性の時間経過を示す図である。
【図8−4】図8J〜Lは、CMP10〜13遺伝子の発現をRNAiで抑制した際のG52細胞の心筋分化活性の時間経過を示す図である。
【図8−5】図8M〜Oは、CMP14〜16遺伝子の発現をRNAiで抑制した際のG52細胞の心筋分化活性の時間経過を示す図である。
【図8−6】図8P〜Rは、CMP17〜20遺伝子の発現をRNAiで抑制した際のG52細胞の心筋分化活性の時間経過を示す図である。
【図8−7】図8S〜Uは、CMP21〜24遺伝子の発現をRNAiで抑制した際のG52細胞の心筋分化活性の時間経過を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
遺伝子マーカー
本発明による遺伝子マーカーは、以下にCMP1〜24として記載されるCMP遺伝子を含んでなる。かかる遺伝子マーカーの細胞における発現量を測定することにより、細胞の心筋分化活性を簡易に検出することが可能となる。
【0018】
CMP遺伝子の配列情報の詳細は、公知のデータベースにおいて取得することができ、例えば、CMP1はアメリカ合衆国国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information:NCBI)のRefSeqデータベースにおけるアクセッション番号NM_027547に相当し、CMP2は同アクセッション番号 NM_178737に相当し、CMP3は同アクセッション番号 NM_144888に相当し、CMP4は同アクセッション番号 NM_182991に相当し、CMP5は同アクセッション番号 NM_029537に相当し、CMP6は同アクセッション番号 NM_009982に相当し、CMP7は同アクセッション番号 NM_010169に相当し、CMP8は同アクセッション番号 NM_011348に相当し、CMP9は同アクセッション番号 NM_030700に相当し、CMP10は同アクセッション番号 NM_025582に相当し、CMP11は同アクセッション番号 NM_133362に相当し、CMP12は同アクセッション番号 NM_025422に相当し、CMP13は同アクセッション番号 NM_021457に相当し、CMP14は同アクセッション番号 NM_130895に相当し、CMP15は同アクセッション番号 NM_010331に相当し、CMP16は同アクセッション番号 NM_018763に相当し、CMP17は同アクセッション番号 AK036481に相当し、CMP18は同アクセッション番号 XM_619720に相当し、CMP20は同アクセッション番号 NM_010363に相当し、CMP21は同アクセッション番号 AK003902に相当し、CMP22は同アクセッション番号 NM_031998に相当し、CMP23は同アクセッション番号 NM_010447に相当し、CMP24は同アクセッション番号 NM_009627に相当し、CMP19は国際塩基配列データベース(the International Nucleotide Sequence Databases:INSD)におけるアクセッション番号BB119527に相当する。
【0019】
また、上記CMP遺伝子の具体的なヌクレオチド配列としては、以下の配列が挙げられる。すなわち、CMP1は配列番号1で表されるものであり、CMP2は配列番号3で表されるものであり、CMP3は配列番号5で表されるものであり、CMP4は配列番号7で表されるものであり、CMP5は配列番号9で表されるものであり、CMP6は配列番号11で表されるものであり、CMP7は配列番号13で表されるものであり、CMP8は配列番号15で表されるものであり、CMP9は配列番号17で表されるものであり、CMP10は配列番号19で表されるものであり、CMP11は配列番号21で表されるものであり、CMP12は配列番号23で表されるものであり、CMP13は配列番号25で表されるものであり、CMP14は配列番号27で表されるものであり、CMP15は配列番号29で表されるものであり、CMP16は配列番号31で表されるものであり、CMP17は配列番号33で表されるものであり、CMP18は配列番号34で表されるものであり、CMP19は配列番号36で表されるものであり、CMP20は配列番号37で表されるものであり、CMP21は配列番号39で表されるものであり、CMP22は配列番号41で表されるものであり、CMP23は配列番号43で表されるものであり、CMP24は配列番号45で表されるものである。したがって、本発明の一つの態様によれば、遺伝子マーカーは、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号33、配列番号34、配列番号36、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、または配列番号45で表されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドである。
【0020】
また、CMP遺伝子のうち、CMP1〜6、CMP8〜10、CMP13、CMP18、CMP20およびCMP24は、細胞の心筋分化活性が増加する場合、細胞における発現量が増加することを特徴とするものである。したがって、本発明の好ましい態様によれば、遺伝子マーカーは、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号25、配列番号34、配列番号37または配列番号45で表されるヌクレオチド配列からなるものであり、細胞の心筋分化活性が増加する場合、細胞における発現量が増加することを特徴とするものである。
【0021】
また、CMP遺伝子のうち、CMP7、CMP12、CMP16、CMP17、CMP21およびCMP23は、細胞の心筋分化活性が増加する場合、細胞における発現量が減少することを特徴とするものである。したがって、本発明の別の好ましい態様によれば、遺伝子マーカーは、配列番号13、配列番号23、配列番号31、配列番号33、配列番号39または配列番号43で表されるヌクレオチド配列からなるものであり、細胞の心筋分化活性が増加する場合、細胞における発現量が減少することを特徴とするものである。
【0022】
また、本発明による遺伝子マーカーは、CMP1〜24と、機能的に同等なポリヌクレオチドも包含する。ここで、「機能的に同等」とは、CMP遺伝子と同等に、細胞の心筋分化活性と相関を示すことを好ましくは意味する。さらに、本発明による上記ポリヌクレチオドは、心筋分化制御に利用しうるものである。したがって、かかるポリヌクレチオドと機能的に同等なポリヌクレチオドは、より好ましくは、CMP遺伝子と同等な細胞の心筋分化制御活性を有するものである。上記ポリヌクレオチドとCMP遺伝子との機能的同等性は、例えば、後述する本発明による核酸分子またはプライマーを用い、ポリヌクレオチドの発現量を測定し、該発現量と、拍動を生ずる細胞の数や大きさとの相関を公知の統計手法により決定し、CMP遺伝子のそれと比較することにより簡易に決定することができる。
【0023】
また、本発明による遺伝子マーカーは、心筋分化活性の指標となる限り、CMP遺伝子と配列相同性を有するものであってもよい。そして、本発明の好ましい態様によれば、遺伝子マーカーは、CMP遺伝子をコードするヌクレオチド配列と少なくとも70%の相同性を有するヌクレオチド配列からなり、かつCMP遺伝子と機能的に同等なポリヌクレオチドからなる。また、かかる配列相同性は、より好ましくは75%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは85%以上である。
【0024】
本発明において、上記ヌクレオチド配列やアミノ酸配列の相同性は、公知の手法によって決定されるものであり、かかる手法としては、例えば、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90,5873−5877(1993)〕等が挙げられる。また、このアルゴリズムに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されており〔Altschul et al.J.Mol.Biol.,215,403−410(1990)〕、本発明においても利用することができる。さらに、他の好ましい手法としては、遺伝情報処理ソフトウェア GENETYX(ゼネティックス社製)を用いる手法が挙げられる。GENETYXを用いる場合には、BLASTによる解析のほかにLipman−Pearson法によるホモロジー解析を行うことができ、本発明における相同性決定において有利に利用することができる。
【0025】
また、本発明による遺伝子マーカーの一部は、CMP遺伝子のタンパク質コード領域のヌクレオチド配列からなる。すなわち、CMP遺伝子のうち、CMP1〜16、18、20〜24は、ポリペプチドをコードするものである。具体的には、CMP遺伝子において、配列番号1(CMP1:特に、第64〜1863ヌクレオチドで表されるヌクレオチド配列)は、配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードするものであり、配列番号3(CMP2:特に、第230〜2644ヌクレオチドで表されるヌクレオチド配列)は、配列番号4で表されるアミノ酸配列をコードするものであり、配列番号5(CMP3:特に、第277〜1788ヌクレオチドで表されるヌクレオチド配列)は、配列番号6で表されるアミノ酸配列をコードするものであり、配列番号7(CMP4:特に、第42〜1055ヌクレオチドで表されるヌクレオチド配列)は、配列番号8で表されるアミノ酸配列をコードするものであり、配列番号9(CMP5:特に、第99〜779ヌクレオチドで表されるヌクレオチド配列)は、配列番号10で表されるアミノ酸配列をコードするものであり、配列番号11(CMP6:特に、第70〜1458ヌクレオチドで表されるヌクレオチド配列)は、配列番号12で表されるアミノ酸配列をコードするものであり、配列番号13(CMP7:特に、第60〜1352ヌクレオチドで表されるヌクレオチド配列)は、配列番号14で表されるアミノ酸配列をコードするものであり、配列番号15(CMP8:特に、第610〜2943ヌクレオチドで表されるヌクレオチド配列)は、配列番号16で表されるアミノ酸配列をコードするものであり、配列番号17(CMP9:特に、第77〜1927ヌクレオチドで表されるヌクレオチド配列)は、配列番号18で表されるアミノ酸配列をコードするものであり、配列番号19(CMP10:特に、第40〜645ヌクレオチドで表されるヌクレオチド配列)は、配列番号20で表されるアミノ酸配列をコードするものであり、配列番号21(CMP11:特に、第234〜767ヌクレオチドで表されるヌクレオチド配列)は、配列番号22で表されるアミノ酸配列をコードするものであり、配列番号23(CMP12:特に、第301〜960ヌクレオチドで表されるヌクレオチド配列)は、配列番号24で表されるアミノ酸配列をコードするものであり、配列番号25(CMP13:特に、第392〜2320ヌクレオチドで表されるヌクレオチド配列)は、配列番号26で表されるアミノ酸配列をコードするものであり、配列番号27(CMP14:特に、第396〜2501ヌクレオチドで表されるヌクレオチド配列)は、配列番号28で表されるアミノ酸配列をコードするものであり、配列番号29(CMP15:特に、第97〜1962ヌクレオチドで表されるヌクレオチド配列)は、配列番号30で表されるアミノ酸配列をコードするものであり、配列番号31(CMP16:特に、第470〜1921ヌクレオチドで表されるヌクレオチド配列)は、配列番号32で表されるアミノ酸配列をコードするものであり、配列番号34(CMP18:特に、第92〜1774ヌクレオチドで表されるヌクレオチド配列)は、配列番号35で表されるアミノ酸配列をコードするものであり、配列番号37(CMP20:特に、第113〜763ヌクレオチドで表されるヌクレオチド配列)は、配列番号38で表されるアミノ酸配列をコードするものであり、配列番号39(CMP21:特に、第221〜457ヌクレオチドで表されるヌクレオチド配列)は、配列番号40で表されるアミノ酸配列をコードするものであり、配列番号41(CMP22:特に、第14〜1135ヌクレオチドで表されるヌクレオチド配列)は、配列番号42で表されるアミノ酸配列をコードするものであり、配列番号43(CMP23:特に、第25〜987ヌクレオチドで表されるヌクレオチド配列)は、配列番号44で表されるアミノ酸配列をコードするものであり、配列番号45(CMP24:特に、第176〜730ヌクレオチドで表されるヌクレオチド配列)は、配列番号46で表されるアミノ酸配列をコードするものである。
【0026】
したがって、本発明の別の好ましい態様によれば、遺伝子マーカーは、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号35、配列番号38、配列番号40、配列番号42、配列番号44または配列番号46で表されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列からなるものである。
【0027】
また、上述の通り、蛋白質コード領域を有するCMP遺伝子のうち、CMP1〜6、CMP8〜10、CMP13、CMP18、CMP20およびCMP24は、細胞の心筋分化活性が増加する場合、細胞における発現量が増加する。したがって、本発明の好ましい態様によれば、遺伝子マーカーは、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号26、配列番号35、配列番号38または配列番号46で表されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列からなるものであり、細胞の心筋分化活性が増加する場合、細胞における発現量が増加することを特徴とするものである。
【0028】
また、蛋白質コード領域を有するCMP遺伝子のうち、CMP7、CMP12、CMP16、CMP21およびCMP23は、細胞の心筋分化活性が増加する場合、細胞における発現量が減少する。したがって、本発明の別の好ましい態様によれば、遺伝子マーカーは、配列番号14、配列番号24、配列番号32、配列番号40または配列番号44で表されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列からなるものであり、細胞の心筋分化活性が増加する場合、細胞における発現量が減少することを特徴とするものである。
【0029】
また、本発明による遺伝子マーカーは、上記アミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列であって、かつ上記アミノ酸配列と機能的に同等なアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列からなる、ポリヌクレオチドを含んでなる。ここで、上記「1個または数個」は、好ましくは1〜5個であり、より好ましくは1〜2個である。
【0030】
さらに、本発明の別の好ましい態様によれば、遺伝子マーカーは、上記アミノ酸配列と少なくとも60%の相同性を有するアミノ酸配列であって、かつ上記アミノ酸配列と機能的に同等なアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列からなる、ポリヌクレオチドを含んでなる。さらに、上記遺伝子マーカーにおける相同性は、より好ましくは70%以上であり、さらに好ましくは80%以上である。
【0031】
また、上記遺伝子マーカーは、心筋分化活性の指標としうる限り、CMP遺伝子または該遺伝子と機能的に同等なポリヌクレオチドのフラグメントであってもよい。したがって、本発明の別の態様によれば、遺伝子マーカーは、CMP遺伝子または該遺伝子と機能的に同等なポリヌクレオチドの部分配列からなる。かかるポリヌクレオチドの有するヌクレオチド残基数は、心筋分化活性の指標としうる限り限定されないが、例えば、100ヌクレオチド残基以上である。
【0032】
上述の遺伝子マーカーは、DNAであってもRNAであってもよい。より具体的には、上記遺伝子マーカーは、ゲノム中に存在するDNAであってもよく、その転写産物であるmRNAに対して生成させたcDNAであってもよい。また、上記mRNAを直接遺伝子マーカーとして用いてもよく、本発明にはかかる態様も包含される。したがって、本発明の別の態様によれば、遺伝子マーカーは、CMP遺伝子またはこれと機能的に同等な遺伝子をコードする上記ヌクレオチド配列において、チミン残基をウラシル残基に置換した、リボヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを含んでなる。
【0033】
また、上記遺伝子マーカーを構成するポリヌクレオチドは、一本鎖であっても、相補鎖がハイブリダイズした二本鎖であってもよい。
【0034】
ポリペプチドマーカー
また、本発明によれば、CMP遺伝子の発現産物を細胞の心筋分化活性の検出用マーカーとして利用することができる。そして、かかるマーカーとしては、上記CMP遺伝子1〜16、18、20〜24にコードされるポリペプチドからなるマーカーが挙げられる。したがって、本発明の別の態様によれば、細胞の心筋分化活性を検出するためのポリペプチドマーカーは、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号35、配列番号38、配列番号40、配列番号42、配列番号44または配列番号46で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含んでなる。
【0035】
また、蛋白質コード領域を有するCMP遺伝子のうち、CMP1〜6、CMP8〜10、CMP13、CMP18、CMP20およびCMP24のコードするポリペプチドは細胞の心筋分化活性が増加する場合、細胞における発現量が増加しうる。したがって、本発明の好ましい態様によれば、上記ポリペプチドマーカーは、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号26、配列番号35、配列番号38または配列番号46で表されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列からなるものであり、細胞の心筋分化活性が増加する場合、細胞における発現量が増加することを特徴とするものである。
【0036】
また、蛋白質コード領域を有するCMP遺伝子のうち、CMP7、CMP12、CMP16、CMP21およびCMP23のコードするポリペプチドは、細胞の心筋分化活性が増加する場合、細胞における発現量が減少しうる。したがって、本発明の別の好ましい態様によれば、上記ポリペプチドマーカーは、配列番号14、配列番号24、配列番号32、配列番号40または配列番号44で表されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列からなるものであり、細胞の心筋分化活性が増加する場合、細胞における発現量が減少することを特徴とするものである。
【0037】
さらに、CMP遺伝子と機能的に同等な遺伝子にコードされるポリペプチドもまた、細胞の心筋分化活性の指標とすることができる。したがって、本発明の別の好ましい態様によれば、上記ポリペプチドマーカーは、上記アミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつCMP遺伝子にコードされるポリペプチドと機能的に同等なポリペプチドを含んでなる。
【0038】
また、本発明の別の好ましい態様によれば、ポリペプチドマーカーは、上記アミノ酸配列と少なくとも60%の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつCMP遺伝子にコードされるポリペプチドと機能的に同等なポリペプチドを含んでなる。
【0039】
また、本発明によるポリペプチドマーカーは、心筋分化活性の指標としうる限り、CMP遺伝子またはこれと機能的に同等なポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドの全配列を有する必要はなく、その部分配列であってもよい。よって、本発明によるポリペプチドマーカーは、上述のポリペプチドのフラグメントを包含する。そして、かかるフラグメントの有するアミノ酸残基は、例えば、13個以上とされる。
【0040】
細胞
上記遺伝子マーカーおよびポリペプチドマーカーは、いずれも未分化段階において、細胞の心筋分化活性の指標として用いることができる。したがって、本発明における細胞は、未分化細胞である。また、本発明における細胞は、好ましくは哺乳動物由来細胞であり、より好ましくはヒト、マウスまたはサル由来細胞である。
【0041】
核酸分子/プローブ
また、本発明による遺伝子マーカーを指標として細胞の心筋分化活性を検出するために、本発明による遺伝子マーカーを構成するポリヌクレオチドまたはこれと相補的なポリヌクレオチドを標的として、該ポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズうる核酸分子を用いることができる。ここで、相補的とは、2つのヌクレオチドがハイブリダイゼーション条件下において、対合しうるものであることを意味し、例えば、アデニン(A)とチミン(T)またはウラシル(U)との関係、シトシン(C)とグアニン(G)との関係をいう。
【0042】
また、本発明において「ハイブリダイズする」とは、本発明による核酸分子が通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で遺伝子マーカーにハイブリダイズし、遺伝子マーカー以外のヌクレオチド分子にはハイブリダイズしないことを意味する。ストリンジェントな条件は、本発明による核酸分子とその相補鎖との二重鎖の融解温度Tm(℃)およびハイブリダイゼーション溶液の塩濃度等に依存して決定することができ、例えば、J. Sambrook, E. F. Frisch, T. Maniatis; Molecular Cloning 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory (1989)等を参照することができる。例えば、使用する核酸分子の融解温度よりわずかに低い温度下でハイブリダイゼーションを行なうと、核酸分子を遺伝子マーカーに特異的にハイブリダイズさせることができる。また、本発明による遺伝子マーカーにハイブリダイズする核酸分子は、特異的なハイブリダイズが可能であれば、その遺伝子マーカーに対して完全に相補的である必要はないが、好ましくは、その遺伝子マーカーに相補的なヌクレオチド分子の全部または一部の配列を含んでなるものとする。
【0043】
本発明において「核酸分子」は、DNA、RNA、およびPNA(peptide nucleic acid)を含む意味で用いられる。本発明の好ましい態様によれば、核酸分子はDNAまたはRNAである。
【0044】
本発明による核酸分子のヌクレオチド配列は、当業者により適宜設計されうる。本発明による核酸分子は上述の通り、遺伝子マーカーを標的とするが、検出の標的をゲノムとする場合には、本発明による核酸分子は、エクソンにハイブリダイズする部分だけでなく、イントロンにハイブリダイズする部分をも含むことができる。
【0045】
本発明による核酸分子は、上記遺伝子マーカーの検出において、核酸プローブとして用いることができる。この目的のためには、該核酸プローブは、市販のオリゴヌクレオチド合成機等を用いて合成オリゴヌクレオチドとして作製してもよいし、あるいは、制限酵素処理等によって取得される二本鎖DNA断片として作製してもよい。
【0046】
本発明による核酸分子を核酸プローブとして用いる場合、核酸分子の鎖長は18ヌクレオチド以上とすることが好ましく、また、30ヌクレオチド以下、より好ましくは24ヌクレオチド以下とすることが好ましい。
【0047】
さらに、本発明による核酸分子を核酸プローブとして用いる場合、該核酸分子を適宜標識することが好ましい。標識する方法としては、T4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて、オリゴヌクレオチドの5’端を32Pでリン酸化することにより標識する方法、およびクレノウ酵素等のDNAポリメラーゼを用い、ランダムヘキサマーオリゴヌクレオチド等をプライマーとして32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識された基質塩基を取り込ませる方法(ランダムプライム法等)が挙げられる。
【0048】
また、本発明による核酸分子は、本発明による遺伝子マーカーの検出において、核酸増幅用プライマーとして用いることができる。本発明による核酸分子を核酸増幅用プライマーとして用いる場合、核酸分子の鎖長は18〜30ヌクレオチドとすることが好ましく、より好ましくは18〜24ヌクレオチドとする。
【0049】
核酸増幅法は、通常、プライマーのペアを用いて実施される。したがって、本発明によれば、上記遺伝子マーカーを検出するためのプライマーペアであって、本発明による遺伝子マーカーの全部または一部を増幅しうるプライマーペアが提供される。このようなプライマーペアを構成する2本のプライマーとしては、本発明による核酸分子を用いることができる。このようなプライマーは、増幅の対象となる領域のヌクレオチド配列に基づいて当業者が適宜設計することができる。例えば、プライマーペアの一方のプライマーを、増幅対象領域のヌクレオチド配列中における5’末端部分の配列を有するものとし、他方のプライマーを、増幅対象領域の相補鎖のヌクレオチド配列中における5’末端部分の配列を有するものとすることができる。
【0050】
また、本発明の好ましい態様によれば、上記遺伝子マーカーの検出方法としては、TaqMan PCR法として知られる方法が用いられる。TaqMan PCR法(Livak KJ. Genet. Anal. vol.14, pp143-149, (1999))においては、本発明による遺伝子マーカーに特異的にハイブリダイズするプローブであって、蛍光標識物質が5’末端に付され、その蛍光標識に対するクエンチャー(消光物質)が3’末端に付され、さらに3’末端がリン酸化されてなるプローブ(TaqManプローブ)が用いられ、これらをPCR反応液中に添加して、細胞由来の核酸試料を鋳型とするPCR反応を行なう。TaqManプローブおよびPCR用プライマーとしては、本発明による核酸分子を用いることができ、それらの具体的なヌクレオチド配列は、当業者であれば適宜決定することができる。また、蛍光標識物質、クエンチャーおよびこれらの組み合わせは当業者に公知のものを用いることができるが、例えば、蛍光標識物質としては、例えば、FAM、VIC等であり、クエンチャーとしては、MGB、TAMRA等である。このようなPCR反応においては、まず、本発明による遺伝子マーカーにTaqManプローブがハイブリダイズし、プライマーからの伸長反応がそのハイブリダイゼーション領域に到達した際にTaqDNAポリメラーゼの作用によって蛍光標識物質が遊離する。遊離した蛍光標識物質はクエンチャーの作用を受けないため、蛍光を発する。したがって、この方法によれば、上記遺伝子マーカーの発現量に対応する強度の各蛍光を観察することができ、これにより、遺伝子マーカーの発現量が容易に決定される。
【0051】
また、細胞の心筋分化活性を検出するために、以上のような、上記核酸分子および/またはプライマーペアを必要な試薬とともにまとめて、キットとすることができる。したがって、本発明の別の態様によれば、上記核酸分子および/またはプライマーペアを少なくとも含んでなる、キットが提供される。
【0052】
心筋分化制御剤
また、本発明におけるCMP遺伝子またはこれと機能的に同等なポリヌクレオチドは、細胞におけるその発現を制御することにより、細胞の心筋分化を抑制または誘導するのに利用することができる。とりわけ、CMP遺伝子またはこれと機能的に同等なポリヌクレオチドの発現するmRNAを標的とした場合、RNAi(RNA干渉)により細胞の心筋分化を抑制または誘導することが可能となる。
【0053】
CMP遺伝子のうち、CMP1〜6、CMP8〜10、CMP13、CMP18、CMP20およびCMP24の発現量は、細胞の心筋分化活性が増加と正の相関を示し、これら遺伝子の発現をRNAiにより抑制した場合、細胞の心筋分化を抑制することができる。したがって、本発明の一つの態様によれば、CMP1〜6、CMP8〜10、CMP13、CMP18、CMP20またはCMP24からなるポリヌクレオチドまたはこれと機能的に同等なポリヌクレオチドの発現をRNAiにより抑制しうる二本鎖RNA分子を有効成分として含んでなる、細胞の心筋分化抑制剤であって、二本鎖RNA分子のアンチセンス鎖が上記ポリヌクレオチドと細胞内で特異的にハイブリダイズするヌクレオチド配列を含んでなる、心筋分化抑制剤が提供される。
【0054】
また、CMP遺伝子のうち、CMP7、CMP12、CMP16、CMP17、CMP21およびCMP23の発現量は、細胞の心筋分化活性が増加と負の相関を示し、これら遺伝子の発現をRNAiにより抑制した場合、細胞の心筋分化を誘導することができる。したがって、本発明の一つの態様によれば、CMP7、CMP12、CMP16、CMP17、CMP21およびCMP23からなるポリヌクレオチドまたはこれと機能的に同等なポリヌクレオチドの発現をRNAiにより抑制しうる二本鎖RNA分子を有効成分として含んでなる、細胞の心筋分化誘導剤であって、二本鎖RNA分子のアンチセンス鎖が上記ポリヌクレオチドと細胞内で特異的にハイブリダイズするヌクレオチド配列を含んでなる、心筋分化誘導剤が提供される。
【0055】
上記RNAiは、二本鎖RNA分子が同じ配列を含む標的のRNAを分解することにより、その発現を抑制する現象をいう。ここで、上記二本鎖RNA分子とは、二本の一本鎖RNA分子が、全体にわたってまたは部分的にハイブリダイズして得られるRNA分子をいう。さらに、上記二本鎖RNA分子において、標的配列と相同な配列を有するヌクレオチド鎖をセンス鎖といい、標的配列と相補的な配列を有するヌクレオチド鎖をアンチセンス鎖という。また、「特異的にハイブリダイズする」とは、上記アンチセンス鎖が、CMP遺伝子またはこれと機能的に同等なポリヌクレオチドの発現抑制を行う細胞において、CMP遺伝子、これと機能的に同等なポリヌクレオチドおよびこれらの転写産物以外の核酸分子にはハイブリダイズしないことを意味する。かかるアンチセンス鎖は、CMP遺伝子またはこれと機能的に同等なポリヌクレオチド中の標的配列に対応する配列を含むものとされるが、標的配列に完全に相補的な配列を有する必要はなく、標的配列に特異的にハイブリダイズする限り、相補的でないヌクレオチドを含んでいてもよい。しかしながら、心筋分化抑制剤におけるアンチセンス鎖は好ましくは、標的配列に相補的な配列からなるものとされる。
【0056】
上記二本鎖RNA分子は、異なるストランドで構成されてもよく、1つのRNAのステムループ構造によって与えられてもよい。また、上記二本鎖RNA分子における一本鎖RNA分子の鎖長は、適切なRNAi効果を得ることを勘案すれば、少なくとも19残基以上、好ましくは19〜27残基を有するものである。また、センス鎖とアンチセンス鎖は、同一鎖長であってもよいが、それぞれの鎖の3’側に2塩基程度のオーバーハングを持たせることにより、遺伝子の発現抑制作用を増強することもできる。
【0057】
上記二本鎖RNA分子は、例えば、CMP遺伝子またはこれと機能的に同等なポリヌクレオチドの標的配列と相同なセンス鎖およびそのアンチセンス鎖を、オリゴヌクレオチド合成機等を用いる公知の手法により合成し、それぞれをアニーリングすることにより、作成することができる。なお、上述の様な標的配列、二本鎖RNA分子の長さや構造等については、当業者であれば、公知の手法を用いて様々な改変を試みることができ、最も遺伝子発現抑制作用の強い二本鎖RNA分子を至適化することが可能である。
【0058】
また、細胞の心筋分化制御の別の方法としては、細胞におけるCMP遺伝子またはこれと機能的に同等なポリヌクレオチドの発現を、アンチセンス、リボザイム等を用いて抑制する手法が挙げられるが、本発明にはかかる態様も包含される。
【0059】
また、上述の通り、CMP1〜6、CNP8〜10、CMP13、CMP18、CMP20およびCMP24の発現量は、細胞の心筋分化活性が増加と正の相関を示す。したがって、本発明の別の態様によれば、CMP1〜6、CNP8〜10、CMP13、CMP18、CMP20およびCMP24またはこれらと機能的に同等なポリヌクレオチドを機能しうる形で含んでなる、心筋分化誘導剤が提供される。また、CMP7、CMP12、CMP16、CMP17、CMP21およびCMP23の発現量は、細胞の心筋分化活性が増加と負の相関を示す。したがって、本発明の別の好ましい態様によれば、CMP7、CMP12、CMP16、CMP17、CMP21およびCMP23またはこれらと機能的に同等なポリヌクレオチドを機能しうる形で含んでなる、心筋分化抑制剤が提供される。
【0060】
上記心筋分化制御剤、すなわち、心筋分化誘導剤または抑制剤としては、例えば、上記ポリヌクレオチドが機能しうる形で挿入された、ベクター等が挙げられる。ここで「機能しうる形で含んでなる」とは、適切な調節エレメント(例えば、プロモーター、エンハンサー、転写ターミネーター等)の制御下に、上記ポリヌクレオチド(DNA)の発現を可能にする様式で、そのベクター中に上記ポリヌクレオチドが挿入されていることを意味する。
【0061】
上記ベクターは、当技術分野で周知となっている標準的方法により構築することができ、例えば、Sambrook, J.らの「Molecular Cloning: a laboratory manual」、Cold Spring Harbor Laboratory Press、New York(1989)に記載に従って構築することができる。
【0062】
細胞の心筋分化活性の検出方法
本発明による遺伝子マーカーは、上述の通り、細胞の心筋分化活性の指標として用いられる。したがって、本発明の別の態様によれば、細胞の心筋分化活性を検出する方法であって、上記ポリペプチドマーカーまたは遺伝子マーカーの細胞における発現量を測定することを含んでなり、細胞における上記発現量が、上記細胞の心筋分化活性のレベルと相関する、方法が提供される。
【0063】
また、上述の通り、CMP1〜6、CMP8〜10、CMP13、CMP18、CMP20およびCMP24の発現量は細胞の心筋分化活性が増加と正の相関を示し、CMP7、CMP12、CMP16、CMP17、CMP21およびCMP23の発現量は、細胞の心筋分化活性が増加と負の相関を示す。これら性質は、細胞の心筋分化活性を正確に検出する上で有利である。したがって、本発明の別の好ましい態様によれば、CMP1〜6、CMP8〜10、CMP13、CMP18、CMP20もしくはCMP24、これと機能的に同等なポリヌクレオチド、またはこれらの遺伝子産物からなるマーカーの細胞における発現量を測定することを含んでなり、該発現量が、心筋分化活性を有しない対照細胞における、前記マーカーの発現量を参照して予め設定された閾値よりも高い場合、前記細胞が心筋分化活性を有するものとする方法が提供される。また、本発明の別の好ましい態様によれば、CMP7、CMP12、CMP16、CMP17、CMP21もしくはCMP23、これと機能的に同等なポリヌクレオチド、またはこれらの遺伝子産物からなるマーカーの細胞における発現量を測定することを含んでなり、該発現量が、心筋分化活性を有しない対照細胞における、前記マーカーの発現量を参照して予め設定された閾値よりも低い場合、前記細胞が心筋分化活性を有するものとする方法が提供される。
【0064】
上記マーカーの発現量の測定は、例えば、細胞由来の生物学的試料を採取し、得られた試料からゲノムDNAやmRNA等の核酸試料を抽出し、必要であればmRNAから逆転写酵素によりcDNAを作製し、得られた核酸試料を鋳型として、本発明による核酸分子またはプライマーペアを用いて核酸増幅法を実施し、得られた増幅産物の発現量を解析、定量することにより行うことができる。核酸増幅法およびこれによるマーカーの検出法としては、当技術分野において公知のいずれの方法を用いてもよい。例えば、核酸増幅法としては、ゲノムDNAまたはcDNAを鋳型とする場合には通常のPCR法等を用いることができ、mRNAを鋳型とする場合には、RT−PCR法、NASBA法等を用いることができる。
【0065】
また、上記対照細胞におけるマーカーの発現量の閾値は、上述の手法により予め測定されたマーカーの定量値を参照して公知の統計手法により設定することができる。上記発現量の具体的な設定手法としては、例えば、(対照細胞におけるマーカーの発現量の平均値±標準偏差)またはROC(Receiver Operating Characteristic)分析等が挙げられる。
【0066】
また、上記検出方法は、心筋分化活性を有する細胞の効率的かつ簡易な単離に利用することができる。したがって、本発明の別の好ましい態様によれば、心筋分化活性を有する細胞を単離する方法であって、上記検出方法により、心筋分化活性を有する細胞を検出し、該細胞を単離することを含んでなる方法が提供される。かかる方法により単離された細胞は、心筋症や虚血性心疾患をはじめとする難治性心疾患の治療用の移植用細胞として有利に利用することができる。
【0067】
上記方法において、単離工程は、当業者にとって公知の培養条件下において適切に行われる。また、上記細胞を単離する方法としては、例えば、上記マーカーに対する抗体を用いるフローサイトメトリーによる細胞を単離する方法(FACS)、あるいは抗体を担持させた磁気ビーズを用いて、特定の細胞を磁石で捕集・単離する方法(MACS)等が挙げられる。
【0068】
また、本発明によるマーカーの細胞における発現量を経時的に測定することにより、細胞の心筋への分化状態をモニタリングすることができる。したがって、本発明の別の好ましい態様によれば、細胞の心筋分化活性をモニタリングする方法であって、CMP1〜6、CMP8〜10、CMP13、CMP18CMP20もしくはCMP24、これらと機能的に同等なポリヌクレオチド、またはこれらの遺伝子産物からなるマーカーの細胞における発現量を測定することを含んでなり、該発現量が経時的に増加した場合、細胞の心筋分化活性が増加したものとする方法が提供される。また、本発明の別の好ましい態様によれば、細胞の心筋分化活性をモニタリングする方法であって、CMP7、CMP12、CMP16、CMP17、CMP21もしくはCMP23、これらと機能的に同等なポリヌクレオチド、またはこれらの遺伝子産物からなるマーカーの細胞における発現量を測定することを含んでなり、該発現量が経時的に減少した場合、前記細胞の心筋分化活性が増加したものとする方法が提供される。
【0069】
細胞の心筋分化制御方法
また、本発明による心筋制御剤を細胞に導入することにより、細胞の心筋分化を誘導しまたは抑制することができる。したがって、本発明の別の態様によれば、細胞の心筋分化を誘導する方法であって、本発明による心筋分化誘導剤を細胞に導入することを含んでなる方法が提供される。また、本発明の別の態様によれば、細胞の心筋分化を抑制する方法であって、本発明による心筋分化抑制剤を細胞に導入することを含んでなる方法が提供される。
【0070】
上記心筋分化制御剤の導入方法としては、トランスフェクションまたは形質転換方法として当該技術分野において公知の方法を用いることが可能であり、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、DEAE−デキストラン法、リポソーム試薬を用いる方法、カチオン性脂質を用いたリポフェクション法およびウィルスベクターを用いたトランスフェクション等が挙げられる。なお、かかる心筋分化の制御方法にあっては、本発明による遺伝子マーカーを構成するポリヌクレオチドの遺伝子産物を細胞に直接導入してもよく、本発明にはかかる態様も包含される。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例によってより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0072】
なお、実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.等の標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いている場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0073】
実施例1:細胞の分化効率評価
細胞の取得
マウス由来の胎児性癌細胞P19細胞(ATCC番号:CRL-1825)はAmerican Type Culture Collection (ATCC)から供与を受けた。また、そのサブラインであるCL6細胞(RCB番号:RCB1539)は理研バイオリソースセンター(RIKEN Cell Bank)から供与を受けた。また、CL6細胞に、Neomycin耐性遺伝子を有するベクターであるpcDNA3.1(+) (Invitrogen)と、マウスαMHCプロモーター、EGFP遺伝子(Clontech社製)およびヒト成長ホルモンポリAシグナルを5’方向から順にマルチクローニングサイトに含有するp Bluescript II SK(+)(Stratagene社製)とをLipofectamine2000 (Invitrogen)を導入し、Geneticine (G418, Sigma)によりスクリーニングした。その結果、Neomycin耐性遺伝子を含むCL6細胞サブラインCL6G26 (以下、「G26」という)、CL6G36 (以下、「G36」という)、CL6G45 (以下、「G45」という)、CL6G52 (以下、「G52」という)を得た。
上記細胞を用いて、以下の実験を行った。
【0074】
培養
未分化な上記各種細胞の増殖には、基本培地として非働化(56℃、30分熱処理することにより補体成分を不活化)したウシ胎児血清(FCS, fetal calf serum)10%、2mM L-グルタミン(SIGMA)、ペニシリンG(100unit/mL)および硫酸ストレプトマイシン(100unit/mL)を含有したMEM培地(Minimum Essential Medium, SIGMA)を用い、直径100mmの細胞培養ディッシュ(Falcon)上で、5%CO2存在下37℃にて、細胞がコンフルエントにならないように留意して培養した。
【0075】
分化誘導処理
次に、上記未分化な細胞をディッシュ面積に対し60〜70%程度まで培養増殖させ、心筋細胞への分化誘導を行った。分化誘導処理としてはまず基本培地を除去し、滅菌したリン酸緩衝生理食塩水(phosphate-buffered saline, FBS, SIGMA)5mLを用いて2回洗浄した。次に、トリプシン-EDTA(Gibco)1mLで細胞全体を軽くぬらした後、直ちにトリプシン-EDTAを吸引し5%CO2存在下37℃で3分間、さらに室温で5分弱インキュベートし、反応停止のために分化培地(1% DMSOを含むMEMα培地)10mLに懸濁した。細胞懸濁液を細胞培養容器(Falcon)に分注し、分化誘導処理した細胞を得た。さらに、得られた細胞を6ウェル細胞培養用マルチウェルプレート(Costar)に1×105cells/wellの密度で蒔いた。これを5%CO2存在下37℃分化培地中で培養し、培地は2日おきに交換した。
【0076】
収縮ノジュールの比較
上記各種細胞について、2日ごとに収縮ノジュール(beating nodule)の出現日(収縮開始日)、大きさおよび数をCKX41またはCKX31培養顕微鏡(OLYMPUS)にて観察し、分化効率を評価した。評価に際し、収縮ノジュール数が、0.016個/cm2以上(プレート1枚につき1つ以上の収縮がある時)を「少ない」、0.098個/cm2以上(ウェル1つにつき1つ以上の収縮がある時)を「中程度」、157個/cm2以上(顕微鏡の視野1面(x200)につき1つ以上の収縮がある時)を「多い」と定義した。さらに、収縮ノジュール数について、収縮が「ない」ものに0、「少ない」ものに1、「中程度」のものに2、「多い」ものに3のスコアを与えた。また、収縮ノジュールサイズは、6.36×10-5cm2以上の大きさのもの(顕微鏡の視野の面積(×200)の約1/100以上の大きさの点状に収縮しているもの)を「小さい」、3.18×10-3cm2以上の大きさのもの(顕微鏡の視野の面積(×200)の約1/2以上の大きさのシート状に収縮しているもの)を「大きい」と定義した。さらに、収縮ノジュールの大きさについて、収縮が「ない」ものに0、「小さい」ものに1、「大きい」ものに2のスコアを与えた。
【0077】
収縮ノジュールの数を指標とした結果は、図1Aに示される通りであり、収縮ノジュールの大きさを指標とした結果は、図1Bに示される通りであった。図1AおよびBにおいて、横軸は心筋分化誘導後の日数を示す。図1AおよびBの結果から、細胞株によって、収縮の開始日や収縮ノジュールの数・大きさに差異があることが確認された。特に、P19細胞については、分化誘導後、6日目にコンフルエントな状態となり、16日目にはプレートの各ウェルに対して1つ以上の小さな収縮が観察され、その収縮は少なくとも20日目までは継続することが観察された。この結果、P19細胞は、CL6細胞よりも比較的長期にわたって接着条件下、DMSO存在下で培養することにより、CL6細胞と同様に胚様体の形成を行わなくても心筋細胞へと分化することが確認された。
【0078】
実施例2:心筋細胞マーカー遺伝子の発現確認と主成分分析
心筋細胞マーカー遺伝子の発現比較
6種類の細胞株、P19細胞、CL6細胞およびNeomycin耐性遺伝子を含むCL6細胞サブラインのG26、G36、G45およびG52について、実施例1と同様の手法により、心筋分化誘導処理および培養を行った。各細胞株は、8日目、12日目、16日目および20日目にSV Total RNA Isolation system (Promega)により回収し、Total RNAの抽出を行った。また、ポジティブコントロールとして9週齢の雄のC3H/He系マウスより心室筋を単離し、Sepazol (Nacalai Tesque)によりTotal RNAを抽出した。Total RNAを抽出した後、RNA中の既存の心筋細胞マーカー遺伝子の発現を定量的RT-PCRにより測定した。心筋細胞マーカー遺伝子としては、心筋線維遺伝子としてMLC2a(ミオシン軽鎖2a)、MLC2v(ミオシン軽鎖2v)、αMHC(αミオシン重鎖)およびβMHC(βミオシン重鎖)を選択し、心筋分化関連転写因子としてNkx2.5、GATA4およびMEF2Cを選択した。また、各遺伝子の発現量を正規化するために18S rRNAの発現量の測定を併せて行った。また、上記定量的RT-PCRにおいては、以下の表1に記載のプライマーおよびTaqManプローブ、TaqMan One-Step RT-PCR Master Mix Reagent (Applied Biosystems)ならびにABI Prism 7000 Sequence Detection Systemを用いた。なお、上記Taqmanプローブにおいて、5’末端の蛍光標識物質としてはFAMを用い、3’末端のクエンチャーとしては、TAMRAを用いた。
【0079】
【表1】

【0080】
結果は、図2A〜図2Gに示される通りであった。図2A〜図2Gにおいて、縦軸はmRNA/18S rRNAの値を成体マウス心筋と比較した場合の相対値を示す。また、mRNA/18S rRNAの値は平均値(n=6)である。
【0081】
図2A〜図2Gに示される通り、細胞株によって、心筋細胞マーカー遺伝子の発現に相違が確認され、心筋への分化状態に相違があることが定量的に確認された。
【0082】
主成分分析
上記心筋細胞マーカー遺伝子の発現を心筋細胞分化と関連付けて解釈する際、個々の心筋細胞マーカー遺伝子の発現にどの程度の重み付けをした上で解釈してよいかは明らかではない。そこで、細胞株 P1、CL6、G26、G36、G45およびG52について得られた上記心筋細胞マーカー遺伝子のmRNA発現データに基づき、主成分分析を行った。また、主成分分析は、統計ソフトウェアSYSTAT(SYSTAT Software)を用いて行った。なお、心筋細胞マーカー遺伝子のmRNA発現量は、サンプルの平均値および標準偏差に基づき標準化した。
【0083】
主成分分析の結果、図3Aに示されるスクリープロットが得られ、寄与率65%の第1主成分と寄与率15%の第2主成分とを採用した。ここで、二つの主成分の累積寄与率は、80%以上であった。
【0084】
また、上記二つの主成分に関する変量プロットは、図3Bに示される通りであった。第1主成分については、全ての変量の係数値が正を示したことから心筋分化の指標であると解釈した。また、上記第2主成分については、発生の比較的初期に機能する心筋細胞マーカー遺伝子の係数が負を示し、発生の比較的後期に機能する心筋細胞マーカー遺伝子の係数が正を示したことから、成熟段階の指標であると解釈した。
【0085】
また、二つの主成分に関し、各細胞株の主成分得点の経時的変化は、図4Aおよび図4Bに示される通りであった。細胞株の種類によって、心筋細胞への分化状態の相違があることが、確認された。なお、図4Aにおいて、縦軸は、第1主成分得点と示す。また、図4Bにおいて、縦軸は、第2主成分得点を示す。
【0086】
実施例3:心筋細胞分化検出用マーカーの同定
Sequence Tagの取得
6種類の細胞株、P19、CL6、G26、G36、G45およびG52について、分化誘導前に、細胞がコンフルエントにならないように注意しながらRNeasy Midi(QIAGEN)を用いてtotal RNAを抽出した。次に、得られたRNAをRNeasy Mini(QIAGEN)を用い、2回クリーンアップした。GeneChip(Affymetrix)により遺伝子発現を網羅的に解析するために、Affymetrix社のマニュアルに従い各RNAサンプルからcDNAを合成し、次いでcDNAをもとにしてビオチン化cRNA断片を合成した。次に、GeneChip Hybridizatioin Ovenを用いてビオチン化cRNA断片をGeneChipにハイブリダイズさせ、次いでハイブリダイズしたcRNAをGeneChip Fluidics Stationを用いてストレプトアビジン-フィコエリスリンで染色することにより可視化し、GeneChip Scanner 3000でスキャンした。得られた蛍光データはGCOSソフトウェア(Affymetrix)を用いて解析した。ここで、GeneChipは、MOE430A(Sequence Tag数22,626)およびMOE430B(Sequence Tag数22,511)を用いた。抽出された遺伝子からシグナルの高い方から2%および低い方から2%を除き、残りのSequence Tagの平均値がデフォルトで500になるように補正した。これに次に示すフィルターをかけて、各細胞株の心筋細胞分化と相関のある遺伝子を抽出した。
【0087】
フィルター1
GCOSで解析された各Sequence TagのシグナルはAbsolute Analysis(発現の有無を判定する解析)の結果「発現があるもの:P (Present)」、「発現があるかわからないもの:M (Marginal)」あるいは「発現がないもの:A (Absent)」として判定がなされる。細胞株各群の5例の半数以上(つまり3例以上)でPと判定されたSequence Tagについては、当該細胞株においてそのSequence Tagの塩基配列を含む遺伝子が発現していると判定した。逆に各群の5例のうちP判定されたものが2例以下の場合は当該細胞株においてそのSequence Tagの塩基配列を含む遺伝子の発現はないと判定した。細胞株のうち少なくとも1株以上において発現が見られるSequence Tagは次のフィルターをかけ、全ての細胞株で発現が見られないSequence Tagは棄却した。
【0088】
フィルター2
分散分析(ANOVA)で細胞株間の遺伝子発現の平均値の比較を行い、有意水準5%の条件で帰無仮説が棄却できたもの、すなわち6細胞株の中で発現量が有意に異なる細胞株が少なくとも1つは存在する結果が得られたSequence Tagは次のフィルターをかけ、全ての細胞株で有意な差が現れなかったSequence Tagは棄却した。
【0089】
フィルター3
細胞株間の遺伝子発現の差の平均値が50%以上のあるもの、すなわち6細胞株の最低の平均値と最高の平均値の差が2.5倍以上出るSequence Tagは次のフィルターをかけ、差が2.5倍より小さいものは棄却した。
【0090】
フィルター4
P19、CL6、G26、G36、G45およびG52の6種類について、GeneChipで得られた分化誘導前の上記Sequence Tagの発現シグナルと、自動拍動能出現までの日数、自動拍動する細胞ノジュール数のスコア、定量的RT-PCRによって得られた心筋遺伝子発現データの第1主成分得点、または第2主成分得点との間でスピアマンの順位相関係数を算出し、有意水準5%の条件で有意差を検定し、有意な相関の認められたSequence Tagを抽出した。
【0091】
上記Sequence Tag抽出の結果、第1主成分と相関があるSequence Tagは109個、第2主成分と相関があるSequence Tagは342個、自動拍動能出現までの日数と相関があるSequence Tagは122個、収縮ノジュール数と相関があるSequence Tagは274個抽出された。これらSequence Tagのうち、心筋分化の指標である第1主成分、自動拍動能出現までの日数および収縮ノジュール数の3要素と有意な相関のあるSequence Tagは計24個であった。これら24個のSequence Tagに対応する遺伝子を、CMP1〜24 と命名した。また、CMP1〜24 のうち、第1主成分(心筋細胞分化の指標)、第2主成分(心筋細胞成熟の指標)、自動拍動能出現までの日数および収縮ノジュール数の4要素と有意な相関のある遺伝子は9個であった。
【0092】
SOSUIシステムによる機能予測
また、上記24個のCMP遺伝子がコードするアミノ酸配列について、SOSUIシステム(名古屋大学・美宅成樹研究室)によって機能予測解析を行った。解析の結果、12個の遺伝子が膜結合性蛋白質であり、10個の遺伝子が可溶性蛋白質と判定された。
【0093】
上記統計解析およびSOSUIシステムによる機能解析の結果は表2に示される通りである。なお、表2において、rsはスピアマンの順位相関係数、pはスピアマンの順位相関係数のp-値を示す。また、*によって示される遺伝子(CMP1〜6、8、11および12)は、第1主成分、第2主成分、自動拍動能出現までの日数および収縮ノジュール数の4要素と有意な相関の認められたものである。
【0094】
【表2】

【0095】
実施例4:RNAiによる心筋細胞分化の制御1
CMP遺伝子の発現を制御することにより、心筋分化効率の制御が可能かどうかを検討する目的で、CMP2およびCMP13をRNAiの標的として設定した。そして、表3に記載のヌクレオチド配列を有するStealthRNAi (Invitrogen)をリポフェクション法によってG52細胞へ導入した。また、コントロール(NC)としてはStealthRNAi Negative Control Medium GC Duplex (Invitrogen)を用いた。
【0096】
【表3】

【0097】
siRNAを細胞への導入した後、CMP2およびCMP13の発現量は、以下に記載のPCR用プライマーおよびTaqmanプローブを用い、定量的RT−PCRによって測定した。この際、定量的RT−PCRにおける内部標準としては、18SrRNAを使用した。なお、Taqmanプローブにおいて、5’末端の蛍光標識物質としてはFAMを用い、3’末端のクエンチャーとしては、TAMRAを用いた。なお、この実験の具体的手法は、以下の実施例5と同様であった。
CMP2遺伝子
フォワード プライマー:5’-CCATCCTGAATCCTAGATACCATCTC-3’(配列番号72)
リバース プライマー:5’-TAGTGGCAACCATGCTGAGTGT-3’(配列番号73)
Taqmanプローブ:5’-CCGATGGACGTGAGGACAGTAATCTGGA-3’(配列番号74)
CMP13遺伝子
フォワード プライマー:5’-CGCCTCTCTTCGTTTATCTGTTC-3’(配列番号75)
リバース プライマー:5’-TCTCTGTCTTGGTGCCGTCAT-3’(配列番号76)
Taqmanプローブ:5’-ACTTCTTTCCTGCTGGCCGGTTTCGT-3’(配列番号77)
結果は、図5AおよびBに示される通りであった。StealthRNAiにより、CMP2およびCMP13の発現が7割程度抑制された。さらに、図6に示される通り、CMP2およびCMP13の発現が抑制された条件下では細胞の心筋分化が抑制された。特に、CMP2の発現が抑制された条件下では細胞の心筋分化がほぼ完全に抑制されていた。
【0098】
実施例5:RNAiによる心筋細胞分化の制御2
RNAi
CL6細胞サブラインのうち、G52細胞を分化誘導処理せず、24well細胞培養用マルチウェルプレート (Falcon) に1×104 cells / wellとなるように播種した。これを37℃、5%CO2で一晩培養した。ウェル中の各細胞は、抗生物質不含の基本培地 500μLで2回洗浄し、各wellに同培地400μLを加えた。
次に、Stealth RNAi (Invitrogen) またはsiRNA (QIAGEN) を用いて得られた、以下の表4〜5に記載されるヌクレオチド配列を有するsiRNAを、Lipofectamine 2000 (Invitrogen) を用いてウェル中の各細胞に導入し、CMP1〜24をノックダウンした。
【0099】
【表4】

【0100】
【表5】

【0101】
具体的には、まず、1ウェル当たりのsiRNAが40pmolとなるように、蛍光オリゴとしてBLOCK-iT (Invitrogen)(最終濃度10 pmol/well)を含む、OPTI-MEMI Reduced Serum Medium (Gibco) でsiRNAを希釈し、siRNA溶液を得た。また、ネガティブコントロール(NC)であるStealth RNAi Negative Control Duplexes (Invitrogen) についても同様に希釈した。その後、Lipofectamine 2000 が1.5μL/wellとなるように、OPTI-MEMI Reduced Serum Mediumで希釈し、室温で5分インキュベートし、Lipofectamine 2000溶液を得た。次に、siRNA溶液またはネガティブコントロール溶液 50μLとLipofectamine 2000溶液 50μLとを混和し、複合体を形成させるために室温で20分間インキュベートした。この複合体を100μLずつ各wellに加えて緩やかに振盪しながら混合し、5%CO2条件下37℃で48時間インキュベートした。
【0102】
siRNAを細胞への導入した後、CMP1〜24の発現量を定量的RT−PCRにより測定した。具体的には、まず、各細胞からRNesay Mini (QIAGEN)またはBioRobot M48 Workstation (QIAGEN)を用いて、Total RNAを抽出した。このTotal RNAを、2ng/μLに希釈し、測定用サンプルとした。検量線用サンプルとしては、未分化なCL6G52を直径100mmの細胞培養ディッシュ (Falcon)でコンフルエントにならないように培養し、この細胞からBioRobot M48 Workstation (QIAGEN)を用いて抽出したTotal RNAを用いた。20ng /μl、6ng /μl、2ng/μl、0.6ng/μl、0.2ng/μl、0.06ng/μlに希釈し、検量線の作成に用いた。
また、各遺伝子の発現量を補正するために、内部標準として18S rRNAを測定した。18S rRNA測定にあっては、各測定用サンプルを0.02ng/μLに希釈し、検量線用サンプルを0.2ng /μl、0.06ng /μl、0.02ng/μl、0.006g/μl、0.002ng/μl、0.0006ng/μlに希釈した。
【0103】
上記サンプルを用い、ABI PRISM 7000 Sequence Detection System (Applied Biosystems) により定量的RT-PCRを行った。なお、CMP1〜24についての定量的RT-PCRは、TaqMan Master MixおよびTaqMan One-Step RT-PCR Master Mix Reagents (Applied Biosystems)を用いて行った。また、CMP19については、検出感度を考慮し、RQuantiTect Probe RT-PCR Kit (QIAGEN) を用いた測定を再度行った。得られた結果は、18S rRNAの発現値により補正し、各サンプルの補正値をネガティブコントロール(NC)の補正値と比較することで、各遺伝子の発現量の変動を解析した。
【0104】
なお、上記定量的RT-PCRで用いたPCR用プライマーおよびTaqmanプローブは、表6および表7に示される通りである。Taqmanプローブにおいて、5’末端の蛍光標識物質としてはFAMを用い、3’末端のクエンチャーとしては、TAMRAを用いた。
【0105】
【表6】

【0106】
【表7】

【0107】
結果は、図7AおよびBに示される通りであった。細胞にRNAiを施した後、CMP1〜10、CMP12〜18、CMP20〜21およびCMP23〜24の発現量は、コントロール(NC)と比較して有意に低下した(Student’t-test、p<0.05)。
【0108】
収縮ノジュール数の測定
上記siRNAの導入後、培養ウェル中の収縮ノジュール数の変化を観察したところ、結果は図8A〜Uに示される通りであった。
【0109】
CMP1〜6、CMP9、CMP10、CMP13、CMP18、CMP24のそれぞれについてRNAiを施した細胞では、コントロール(NC)と比較して収縮ノジュール数は有意に低かった(反復測定二元配置分散分析(two-way repeated-measures ANOVA)、p<0.05)。一方、CMP7、CMP12、CMP16、CMP17、CMP21、CMP23では、コントロール(NC)と比較して収縮ノジュール数は有意に高かった(反復測定二元配置分散分析(two-way repeated-measures ANOVA)、p<0.05)。
【0110】
心筋細胞マーカー遺伝子の発現量の測定
siRNAiの上記細胞への導入後、既存の心筋細胞マーカー遺伝子(心筋線維遺伝子であるαMHC、βMHC 、MLC2aおよびMLC2v)の発現量を定量的RT-PCRにより測定し、CMP遺伝子のうち、CMP1〜10、CMP12〜13、CMP16〜18、CMP20〜21およびCMP23〜24の発現量と比較した。定量的RT-PCRは、表1に記載のプライマーおよびTaqManプローブを用い、実施例2と同様の手法により行った。
【0111】
RNAiによってCMP遺伝子をノックダウンした後、既存の心筋細胞マーカー遺伝子(αMHC、βMHC 、MLC2a、MLC2v)の発現量の変化は、表8に示される通りであった。さらに、表8には、CMP遺伝子をノックダウンした後の収縮ノジュール数の変化を併記した。
【0112】
【表8】

【0113】
: RNAiにより有意にノックダウンされたことを示す (p < 0.05 vs. NC)。
↓: ノックダウン後に有意に減少したことを示す (p < 0.05 vs.NC)。
↑: ノックダウン後に有意に増加した (p < 0.05 vs. NC)。
NS: 有意差なし。
【0114】
表8に示される通り、CMP1〜6、CMP8、CMP9、CMP10、CMP13、CMP18、CMP20、CMP24のRNAiによるノックダウンにより、いずれかの心筋細胞マーカー遺伝子(αMHC、βMHC 、MLC2aまたはMLC2v)の発現が抑制されるか、あるいは収縮ノジュール数が減少し、心筋細胞分化が抑制さることが確認された。また、CMP7、CMP12、CMP16、CMP17、CMP21、CMP23のRNAiによるノックダウンにより、いずれかの心筋細胞マーカー遺伝子(αMHC、βMHC 、MLC2aまたはMLC2v)の発現が促進されるか、あるいは収縮ノジュール数が増加し、心筋細胞分化が誘導されることが確認された。特に、CMP23については、収縮ノジュール数が増加し、心筋細胞マーカー遺伝子のαMHC、βMHC、MLC2vは有意な増加が認められる一方、MLC2aは有意な減少が認められた。心房筋を特徴付けるMLC2aが減少し、心室筋を特徴付けるMLC2vが増加したことから、CMP23は細胞の心室筋への特異的な誘導に用いうることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0115】
未分化細胞の心筋分化活性の検出に有益である。
【配列表フリーテキスト】
【0116】
配列番号47,48,50,51,53,54,56,57,59,60,62,63,65,66,72,73,75,76,123,124,126,127,129,130,132,133,135,136,138,139,141,142,144,145,147,148,150,151,154,156,157,159,160,162,163,165,166,168,169,171,172,174,175,177,178,180,181,183,184,186,187:プライマー
配列番号49,52,55,58,61,64,67,74,77,122,125,128,131,134,137,140,143,146,149,152,155,158,161,164,167,170,173,176,179,182,185:Taqmanプローブ
配列番号68,69,70,71,78,79,80,81,82,83,84,85,86,87,88,89,90,91,92,93,94,95,96,97,98,99,100,101,102,103,104,105,106,107,108,109,110,111,112,113,114,115,116,117,118,119,120,121:siRNAの一方のストランド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未分化細胞の心筋分化活性を検出するための遺伝子マーカーであって、下記の(a)、または(b)に記載のポリヌクレオチドまたはそのフラグメントからなる、遺伝子マーカー:
(a)配列番号3で表されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、
(b)(a)に記載のヌクレオチド配列と少なくとも70%の相同性を有するヌクレオチド配列からなり、かつ(a)に記載のポリヌクレオチドと機能的に同等なものである、ポリヌクレオチド。
【請求項2】
細胞の心筋分化活性が増加する場合、細胞における発現量が増加することを特徴とする、請求項1に記載の遺伝子マーカー。
【請求項3】
前記(b)に記載のポリヌクレオチドが、前記(a)に記載のヌクレオチド配列と75%以上の相同性を有するヌクレオチド配列からなり、かつ(a)に記載のポリヌクレオチドと機能的に同等なものである、請求項1に記載の遺伝子マーカー。
【請求項4】
未分化細胞の心筋分化活性を検出するための核酸分子であって、請求項1に記載のポリヌクレオチドまたはこれと相補的なポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするものである、核酸分子。
【請求項5】
請求項1に記載のヌクレオチド配列の全部または一部からなるものである、請求項4に記載の核酸分子。
【請求項6】
請求項1に記載のポリヌクレオチドの全部または一部を核酸増幅法により増幅しうる、請求項4に記載の核酸分子。
【請求項7】
未分化細胞の心筋分化活性を検出するためのプライマーペアであって、請求項1に記載のポリヌクレオチドの全部または一部を核酸増幅法により増幅しうる、プライマーペア。
【請求項8】
未分化細胞の心筋分化活性を検出するためのキットであって、請求項4に記載の核酸分子および/または請求項7に記載のプライマーペアを少なくとも含んでなる、キット。
【請求項9】
請求項2に記載のポリヌクレオチドの発現をRNAiにより抑制しうる二本鎖RNA分子を有効成分として含んでなる、未分化細胞の心筋分化抑制剤であって、前記二本鎖RNA分子のアンチセンス鎖が前記ポリヌクレオチドと未分化細胞内で特異的にハイブリダイズするヌクレオチド配列を含んでなるものである、心筋分化抑制剤。
【請求項10】
前記アンチセンス鎖が、請求項2に記載のポリヌクレオチドと相補的なヌクレオチド配列からなるものである、請求項9に記載の心筋分化抑制剤。
【請求項11】
未分化細胞の心筋分化活性を検出する方法であって、
請求項1に記載の遺伝子マーカーの細胞における発現量を測定することを含んでなり、
前記発現量が、前記未分化細胞の心筋分化活性のレベルと相関する、方法。
【請求項12】
請求項2に記載の遺伝子マーカーの細胞における発現量を測定することを含んでなり、
前記発現量が、心筋分化活性を有しない対照細胞における、前記マーカーの発現量を参照して予め設定された閾値よりも高い場合、前記細胞が心筋分化活性を有するものとする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記測定が、請求項4に記載の核酸分子および/または請求項7に記載のプライマーペアを用いて行われる、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
心筋分化活性を有する細胞を単離する方法であって、請求項12に記載の方法により、心筋分化活性を有する細胞を検出し、該細胞を単離することを含んでなる、方法。
【請求項15】
未分化細胞の心筋分化活性をモニタリングする方法であって、
請求項2に記載の遺伝子マーカーの未分化細胞における発現量を測定することを含んでなり、
前記発現量が経時的に増加した場合、前記未分化細胞の心筋分化活性が増加したものとする、方法。
【請求項16】
前記測定が、請求項4に記載の核酸分子および/または請求項7に記載のプライマーペアを用いて行われる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
未分化細胞の心筋分化を抑制する方法であって、請求項9に記載の心筋分化抑制剤を細胞に導入することを含んでなる、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図8−3】
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【図8−4】
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【図8−5】
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【図8−6】
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【図8−7】
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【公開番号】特開2013−31448(P2013−31448A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−209759(P2012−209759)
【出願日】平成24年9月24日(2012.9.24)
【分割の表示】特願2008−510992(P2008−510992)の分割
【原出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】