説明

未発見の海底熱水鉱床の探査方法及び未発見の海底熱水鉱床の探査システム

【課題】海底に存在する海底熱水鉱床の位置を効率よく特定する。
【解決手段】海底の複数箇所間での音の送受信の情報に基づいて海水密度の変化を観測する音響トモグラフィ装置10を用い、音響トモグラフィ装置10で海水密度の変化が生じている領域を特定し、当該領域に熱水プルーム42が存在していると推定し、無索潜水機(AUV)30を当該領域に移動させ、無索潜水機30に海水の状態を測定させ、その測定結果に基づいて海底熱水鉱床40から流出する熱水プルーム42を検出し、該熱水プルーム42を検出した領域を海底熱水鉱床40の存在位置とする。このような方法によれば、海底熱水鉱床を効率的に探査することができるので、例えば、海底熱水鉱床の金属資源を利用する際の採算コストを低減することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は未発見の海底熱水鉱床の探査方法及び未発見の海底熱水鉱床の探査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
日本近海、例えば、伊豆小笠原海域や沖縄海域等には、海底熱水鉱床が存在することが知られている。海底熱水鉱床とは、地下深部に浸透した海水がマグマ等の熱により熱せられ、海底に噴出される過程で、熱水中の金、銀、銅、鉛、亜鉛等の重金属が沈殿したものである。この海底熱水鉱床は、新たな金属鉱物資源の供給源として期待されており、従来、資源に恵まれないとされてきた我が国にとって、重要な資源である。
【0003】
一般に、海底熱水鉱床は、次の過程で生成される。まず、地殻中にしみ込んだ海水が地下のマグマにより加熱され、母岩と反応する過程で母岩から海水中に重金属が添加されるとともに、マグマからガス成分、例えば硫化水素、二酸化炭素、メタン等も直接添加され、熱水としての性質を獲得していく。重金属と硫化水素等を獲得した熱水は、臨界点近くまで加熱・加圧されることで浮力をもち、海底面へと上昇する。海底面に上昇し、海中に噴出した熱水は、ある程度の深度まで上昇し、そのあとは横に向かって広がっていく。このようにして熱水からできた煙のような水塊は熱水プルームと呼ばれる。熱水プルームは、各種化学成分の濃度が周辺の海水に比べて異常値を示す。
【0004】
そして、熱水プルームは、海底面において低温・アルカリ性・酸化的な周辺海水と混合し、その性質が変質する。この過程では、金属硫化物の溶解度が下がることで、硫化銅、硫化鉄などの硫化物沈殿が生じ、海底熱水鉱床の基礎になる。
【0005】
図1は、このような海水→マグマによる加熱→熱水の噴出という循環を示したものである。上述した海底熱水鉱床は、図示するように、(1)マグマ44からの熱源が伝えられ循環が始まる活動初期、(2)活発に循環が継続し海底熱水鉱床が成長する活動中期、(3)循環が止まり海底熱水鉱床の成長も終了する活動末期という過程を経て形成される。活動初期の海底熱水鉱床は、チムニーが形成され始めた状態である。活動中期の海底熱水鉱床は、熱水プルーム42の重金属が沈殿して成長している状態であり、活動末期の海底熱水鉱床は、熱水の噴出の停止に伴い、成長が停止した状態である。
【0006】
このような海底熱水鉱床を金属の供給源として利用する技術として、熱水プルーム中の懸濁物自体を採取するものがある(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、このような技術は、海底熱水鉱床の存在位置を把握していなければならないことが当然の前提となる。
【0007】
ここで、海底熱水鉱床の存在位置を特定する方法は種々あるが、例えば、海底熱水鉱床の活動初期から活動中期において流出する熱水プルームを検出することにより行うものがある。具体的には、あらかじめ調査対象の海域を定め、その海域で船舶にROV(Remotely Operated Vehicle)を曳航させたり、AUV(Autonomous Underwater Vehicle)を自律航行させ、そのROVやAUVに搭載した各種センサーによりに海水の状態を観測させる。海水の状態の観測としては、海水温度やpHを測定したり、撮像装置で観測させることにより行う。この観測データに基づいて、熱水プルームの有無を検出し、この熱水プルームのある場所に海底熱水鉱床が存在すると判断することとなる。
【0008】
しかしながら、上述したようなROVによる探索では、速力が1ノット程度と遅いことや、人間による操作が必要であるため探索範囲が限られる。また、AUVによる海域の調査は、AUVの航行速度も数ノットと低速であることや、航行の安全性を保つための航路設計が難しい。結局、これらのROVやAUVでの探索では、例えば数100〜数10キロ四方に及ぶ広範な海域を調査することが難しく、また調査に長時間を要するという問題がある。
【0009】
ちなみに、工場や発電所等から排出される二酸化炭素を回収し、海底下地層に貯留する方法(CCS:Carbon Capture and Storage)が提案されており、貯留した二酸化炭素が海中に漏洩するか否か調査する場合にも、ROVやAUVが用いられる。このCCSの場合は、地下貯留をした場所は既知であるため、二酸化炭素が漏洩する領域はある程度絞られるため、上述の問題は顕在化しない。しかしながら、海底熱水鉱床の存在位置は、CCSの場合のように予め絞り込むことは難しく、広範囲での調査が必要となるため、海底熱水鉱床の存在位置をより一層効率的に特定する技術が求められている。
【0010】
このように、海底熱水鉱床の存在位置の特定に時間を要すると、最終的には海底熱水鉱床から金属等を採取するコストが増大することになり、採算に合わないことから資源の活用ができなくなる恐れがある。
【0011】
また、高温、高圧、無酸素の熱水プルーム中には、CH、CO、HS、Hなどの化学物質をエネルギー源とする微生物が棲息することが知られている。これらの微生物は、活動中期から活動末期にかけて活動が活発になると考えられており、その海底熱水鉱床の環境の変化に応じて微生物の生物種や生息分布も変化されると予測される。このような微生物を学術的観点から調査するに際しても、海底熱水鉱床の存在位置を特定することが前提となるのであるから、可能な限り早く海底熱水鉱床の存在位置を特定することが望まれる。
【0012】
さらに、海底から噴出する熱水近辺に生息する生物を観測することを考慮すれば、活動初期から活動中期にかけて熱水が噴出していときには鉱物を採取せず、活動末期において鉱物を採取することが望ましい場合がある。このような事情に鑑みれば、海底熱水鉱床の形成過程がどの状態にあるかを把握する必要性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平5−256082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、このような事情に鑑み、海底に存在する海底熱水鉱床の位置を効率よく特定することができる未発見の海底熱水鉱床の探査方法及び未発見の海底熱水鉱床の探査システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するための本発明の第1の態様は、海底の複数箇所間での音の送受信の情報に基づいて海水密度の変化を観測する音響トモグラフィ技術を用い、該音響トモグラフィ技術で海水密度の変化が生じている領域を特定し、当該領域に熱水プルームが存在していると推定し、海水の状態を測定する測定手段を備える水中移動手段を前記領域に移動させ、該水中移動手段に海水の状態を測定させ、その測定結果に基づいて海底熱水鉱床から流出する熱水プルームを検出し、該熱水プルームを検出した領域を海底熱水鉱床の存在位置とすることを特徴とする未発見の海底熱水鉱床の探査方法にある。
【0016】
かかる第1の態様では、音響トモグラフィ技術を用いて広範囲に亘る海域から熱水プルームが存在している領域を推定し、その後、当該領域を水中移動手段が調査して海底熱水鉱床の存在位置の特定を行う。このように、音響による調査で広範囲に亘る海域から熱水プルームが存在している領域を絞り込むので、限定されたその領域内で水中移動手段は調査を行うことができる。これにより効率的に海底熱水鉱床の存在位置を特定することができる。
【0017】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載する未発見の海底熱水鉱床の探査方法において、前記領域について、前記音響トモグラフィ技術で所定期間に亘り海水温度の変化を測定し、当該海水温度の変化に基づいて、海底から噴出した熱水に含まれる重金属の沈殿により海底熱水鉱床が形成される過程を推定することを特徴とする未発見の海底熱水鉱床の探査方法にある。
【0018】
かかる第2の態様では、海水温度の変化から、海底熱水鉱床が形成される過程を推定することができる。すなわち、海底熱水鉱床の形成が初期段階にあるのか、中期段階にあるのか、末期段階にあるのかを推定できる。これにより、例えば、熱水の噴出が終了した状態の海底熱水鉱床を発見し、鉱物を採掘することができる。他にも、熱水が噴出している活動初期や活動中期での海底熱水鉱床を発見することで、将来の鉱物採取に備える一方、噴出する熱水周囲に生息する生物の観測のために、その状態の海底熱水鉱床は維持する、ということが可能となる。
【0019】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載する未発見の海底熱水鉱床の探査方法において、前記海水の状態の測定は、金属、pH、濁度からなる群から選択される少なくとも一つを測定することであることを特徴とする未発見の海底熱水鉱床の探査方法にある。測定方法としては、化学センサによる現場測定や、海水の採取による分析によって実施する。
【0020】
かかる第3の態様では、金属等の検出や採取した海水の観察をもって熱水プルームが存在していることを特定することができる。
【0021】
本発明の第4の態様は、相互に音を送受信可能に海底に設置された複数の音響トモグラフィ装置と、前記音響トモグラフィ装置による音の送受信の情報に基づいて海水密度の変化が生じている領域を特定することで当該領域に海底熱水鉱床が存在していると推定する海底熱水鉱床推定手段と、海水の状態を測定する測定手段を有する水中移動手段とを備え、前記水中移動手段は、前記領域を航行しながら前記測定手段で海水の状態を測定し、その測定結果に基づいて海底熱水鉱床から流出する海底熱水プルームを検出し、該海底熱水プルームを検出した領域を海底熱水鉱床の存在位置とすることを特徴とする未発見の海底熱水鉱床の探査システムにある。
【0022】
かかる第4の態様では、音響トモグラフィ技術を用いて広範囲に亘る海域から熱水プルームが存在している領域を推定し、その後、当該領域を水中移動手段が調査して海底熱水鉱床の存在位置の特定を行う。このように、音響による調査で広範囲に亘る海域から熱水プルームが存在している領域を絞り込むので、限定されたその領域内で水中移動手段は調査を行うことができる。これにより効率的に海底熱水鉱床の存在位置を特定することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、海底に存在する海底熱水鉱床の位置を効率よく特定することができる未発見の海底熱水鉱床の探査方法及び未発見の海底熱水鉱床の探査システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】海底熱水鉱床の形成過程を示す概念図である。
【図2】海底に配置された音響トモグラフィ装置と熱水プルームとの位置関係を示す概略図である。
【図3】本発明の実施形態に係る未発見の海底熱水鉱床の探査システムの概略構成図である。
【図4】音響送受信手段(海中音響装置)の外観図である。
【図5】無索潜水機の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0026】
〈実施形態1〉
図2に示すように、上述したように、地殻中に海水が進入し、その海水がマグマにより熱せられ、海中に噴出し、噴出した熱水から熱水プルーム42が形成される。熱水プルーム42からは、それに含まれる重金属等が沈殿して海底熱水鉱床が形成される。なお、熱水の噴出口近辺には海中に突出したチムニー41が形成されている。図3に示すように、この海底熱水鉱床40の存在位置を、未発見の海底熱水鉱床の探査システム1、すなわち、音響トモグラフィ装置10と、熱水プルーム42の存在位置を推定する情報処理装置(海底熱水鉱床推定手段)と、水中移動手段である無索潜水機30、有索潜水機60とを用いて特定することについて説明する。
【0027】
音響トモグラフィ装置10は、音響トモグラフィ技術を用いて熱水プルーム42の検出を行うためのものである。具体的には、複数(図示例では5個)の音響トモグラフィ装置10a、10b、10c、10d、10eは、海底熱水鉱床の存在が期待される海域の海底に設置されている。当該海域は、数100〜数10キロ四方に及ぶ広さである。それぞれの音響トモグラフィ装置10a〜10eは、絶対位置及び互いの相対位置がGPSなどで把握された状態で設置されている。
【0028】
音響トモグラフィ装置10は、図4に示すように、所定の周波数の音を送受信する送受信機12を備えた音源や、電源装置、これらの音源・電源装置を制御する制御機器などが容器11内に設けられて構成されたものである。容器11は枠体13に固定され、送受信機12を上にした状態、すなわち、360度の全周囲に亘って音を送受信できる状態で、枠体13を介して海底に設置されている。
【0029】
また、図2に示すように、海底には制御手段14が設置されている。制御手段14は、各音響トモグラフィ装置10a〜10eに接続されている。
【0030】
制御手段14は、CPU、記憶手段、入出力装置を備えており、音響トモグラフィ装置10a〜10eに音を送信させる制御信号を送信すると共に、音響トモグラフィ装置10a〜10eからデータを受信し、記憶手段に記録する。
【0031】
このような構成の音響トモグラフィ装置10a〜10e及び制御手段14を所定期間稼働することで、制御手段14の記憶手段には、所定期間分のデータが蓄積される。その制御手段14に記憶されたデータは、情報処理装置(図示せず)により処理される。
【0032】
詳言すると、5個の音響トモグラフィ装置10a〜10eは、制御手段14からの制御信号に基づいて、同時刻に送受信機12から他の4個の装置に音を発し、他の4個の装置からの音を送受信機12で受信する。受信したデータは、制御手段14に送信され、制御手段14の記憶手段に記録される。このような動作を所定期間実行したのち、制御手段14の記憶手段に記録されたデータを回収し、情報処理装置で処理させる。
【0033】
熱水が海中に噴出して熱水プルーム42が形成される場合、熱水プルーム42による海水のpHの変化や海水の温度変化、塩分変化、液体の物性変化などにより海水密度に変化が生じる。この海水の密度の変化により、音響トモグラフィ装置10b、10dの間での音の送受信の伝播時間に差が生じ、更に、音響トモグラフィ装置10c、10eの間での音の送受信の伝播時間に差が生じる。情報処理装置が、これらの時間差の状況を解析することにより領域50の位置を推定することができる。
【0034】
音響トモグラフィ装置10a〜10eで計測された音の伝搬時間の差を解析することで、海中の温度を計算することができるので、所定期間にわたっての海水の温度変化を観測してもよい。この温度変化を元に、図1に示したような海底熱水鉱床40の形成過程がどの状態にあるかを推定することができる。
【0035】
図1に示したように海底熱水鉱床40の形成過程が活動初期である場合は、海底から熱水が噴き出して間もないので、海水温度が上昇する傾向にある。したがって、音響トモグラフィ装置10a〜10eで観測された温度変化が上昇傾向にある場合は、海底熱水鉱床40の形成過程が活動初期であると推定できる。
【0036】
海底熱水鉱床の形成過程が活動中期である場合は、海底熱水鉱床40の近辺の海水温度は周りの温度より高温であるものの、温度の変化は大きなものではない。したがって、音響トモグラフィ装置10a〜10eで観測された温度変化がほぼ一定である場合は、海底熱水鉱床40の形成過程が活動中期であると推定できる。
【0037】
海底熱水鉱床40の形成過程が活動末期である場合は、海底からの熱水の噴出が止まっているので、海水温度が下降する傾向にある。したがって、音響トモグラフィ装置10a〜10eで観測された温度変化が下降傾向にある場合は、海底熱水鉱床40の形成過程が活動末期であると推定できる。
【0038】
このように、海水温度の変化から、海底熱水鉱床40が形成される過程を推定することができる。すなわち、海底熱水鉱床40の形成が活動初期・活動中期・活動末期であるかを推定できる。これにより、例えば、熱水の噴出が終了した状態の海底熱水鉱床40を発見し、鉱物を採掘することができる。他にも、熱水が噴出している活動初期や活動中期での海底熱水鉱床40を発見することで、将来の鉱物採取に備える一方、噴出する熱水周囲に生息する生物の観測のために、その状態の海底熱水鉱床40は維持する、ということが可能となる。
【0039】
図3に示すように、音響トモグラフィ技術により熱水プルーム42が存在する領域50が推定された後は、無索潜水機30や有索潜水機60を用いて領域50の海水の状況を精査する。
【0040】
具体的には、図5に示すように、測定手段31と、測定手段31で測定した測定データが記録される記憶媒体32を有する無索潜水機30を用いる。無索潜水機30は、無索で自立運航する潜水機(AUV:Autonomous Underwater Vehicle)であり、領域50を航行しながら、海水の状態を測定手段31で測定し、その測定データを記憶媒体32に記録するに構成されている。
【0041】
測定手段31は、熱水プルーム42に特有な金属、金属化合物、炭素化合物、ラドンなどの放射性物質等を検出する各種のセンサー、pHセンサー、温度計である。他に、測定手段31としては、チムニー41近傍の領域50から採取した熱水プルーム42の化学成分などを測定するために、熱水プルーム42を採取する取水手段であってもよい。さらに、測定手段31としては撮像装置であってもよく、撮像装置より得た画像を通して噴出する熱水プルーム42を目視により検出してもよい。
【0042】
領域50で測定をした後、無索潜水機30の記憶媒体32に記録された測定データを分析する。一般に、熱水プルーム42は、金属等、例えば、Mn、Feや、気体成分等、例えば、CH、COが、海水中の濃度よりも高い濃度で存在する。したがって、測定データから高濃度の金属等を検出したことをもって、領域50に熱水プルーム42が存在すると特定することができる。そして、上述したように、熱水プルーム42と周辺海水との混合により硫化物の沈殿物が形成され海底熱水鉱床40となるので、領域50に海底熱水鉱床40が存在すると特定することができる。
【0043】
このようにして、無索潜水機30で領域50を探索した後、さらに、有索潜水機60で探索してもよい。有索潜水機60は、母船61にケーブル62で接続されており、母船61からの制御の下、有索で航行する潜水機(ROV:Remotely Operated Vehicle)である。また、有索潜水機60は、無索潜水機30と同じく、種々の測定手段が設けられている。有索潜水機60は、母船61の制御の下、領域50で測定手段による測定を行い、その結果を、ケーブル62を介して母船61に送るようになっている。そして、前述した無索潜水機30の測定手段による測定結果の分析と同様に、母船61では、有索潜水機60の測定手段が測定したデータを分析し、領域50のうち、高濃度の金属等を検出した領域を熱水プルーム42、すなわち海底熱水鉱床40の存在位置として特定する。
【0044】
以上に説明したように、音響トモグラフィ技術により熱水プルーム42が存在していると推定される領域50が特定され、無索潜水機30及び有索潜水機60が領域50の海水の状態を測定し、その測定データに基づいて海底熱水鉱床40の存在位置が特定される。
【0045】
ここで、無索潜水機30や有索潜水機60に広い海域を調査させるのは妥当ではない。無索潜水機30や有索潜水機60が広い海域を調査するのに要する時間やコストが増大してしまうからである。一方、音響トモグラフィ装置10は、100km四方以上をも調査範囲とすることが可能であり、広範囲に亘る海域から熱水プルーム42が存在している領域50を推定することができる。
【0046】
したがって、まず音響トモグラフィ装置10を用いて領域50を特定した後、領域50を無索潜水機30が測定するということは、無索潜水機30が航行して海水を測定しなければならない範囲を絞り込めるということであり、無索潜水機30による調査の効率を向上することができる。
【0047】
また、有索潜水機60は、ケーブル62を介して母船61に制御され、また、母船61に測定データを送信する都合上、航行範囲が限られる。しかしながら、有索潜水機60による調査に先立ち、音響トモグラフィ装置10a〜10e及び無索潜水機30が領域50を特定しているため、有索潜水機60は、領域50に限定して調査を行うことができ、これにより更に効率的に未発見の海底熱水鉱床40の位置を特定することができる。
【0048】
このように、本発明の未発見の海底熱水鉱床の探査システム1では、音響トモグラフィ技術により、熱水プルーム42の存在を広範囲に亘る海域について検出できるため、海底熱水鉱床40の探査を効率的に行うことができる。
【0049】
上述のごとく、海底熱水鉱床40の存在位置を効率よく探査することができるので、海底熱水鉱床40の存在位置を特定するのに要するコストを低減することができる。このことは、海底熱水鉱床40を金属等の資源の供給源として利用する際の採算性を改善することにも繋がり、海底熱水鉱床40から金属資源を利用することについての実用化に大きく寄与する。
【0050】
さらに、本発明によれば、海底熱水鉱床40を効率的に探査することができるので、海底熱水鉱床40の発生から早い段階でその存在位置を特定することも可能である。したがって、海底熱水鉱床40の形成過程に応じて変化すると考えられる微生物の態様について、早い段階から観測することも可能となる。
【0051】
〈他の実施形態〉
音響トモグラフィ装置10が使用する音の周波数としては、異なる複数の周波数の音を用いてもよい。音響トモグラフィ装置10は、音を発し、音を受信することで海水の密度変化が生じている場所の領域を特定するが、一般的に音の周波数が高いほど感度よく海水の密度変化を検出することができる。したがって、異なる複数の周波数の音を用いて、それぞれの周波数の音ごとに、熱水プルーム42が存在している領域を推定し、これらの音ごとに推定した熱水プルームが存在している領域が一致すれば、熱水プルームが存在している蓋然性は、より高いものと推定できる。
【0052】
また、音響トモグラフィ装置10は、リアルタイムに情報処理装置20にデータを送らなくてもよく、各音響トモグラフィ装置10にデータの記憶手段を備え、所定期間におけるデータを別途解析して熱水プルーム42が存在している領域を特定してもよい。また、日、週、月、年の単位で熱水プルーム42の存在を検出して不連続な経時変化を検出することも可能である。
【0053】
なお、制御手段14は、監視局21の情報処理装置20につながれて情報の授受を行うが、制御手段14や音響トモグラフィ装置10に大容量の電源を搭載し、ケーブルなどによる接続を行なわずに無線通信により音響トモグラフィ装置10と情報の授受を行うことも可能である。この場合、各音響トモグラフィ装置10が音を送信する時刻を合わせるために、各音響トモグラフィ装置10に原子時計などの同期手段を設けておく。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、海底熱水鉱床を効率よく検出するための産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 探査システム
10、10a、10b、10c 音響トモグラフィ装置
11 容器
12 送受信機
13 枠体
14 制御手段
20 情報処理装置
21 監視局
30 無索潜水機
31 測定手段
32 記憶媒体
40 海底熱水鉱床
41 チムニー
42 熱水プルーム
44 マグマ
50 領域
60 有索潜水機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底の複数箇所間での音の送受信の情報に基づいて海水密度の変化を観測する音響トモグラフィ技術を用い、該音響トモグラフィ技術で海水密度の変化が生じている領域を特定し、当該領域に熱水プルームが存在していると推定し、
海水の状態を測定する測定手段を備える水中移動手段を前記領域に移動させ、該水中移動手段に海水の状態を測定させ、その測定結果に基づいて海底熱水鉱床から流出する熱水プルームを検出し、該熱水プルームを検出した領域を海底熱水鉱床の存在位置とする
ことを特徴とする未発見の海底熱水鉱床の探査方法。
【請求項2】
請求項1に記載する未発見の海底熱水鉱床の探査方法において、
前記領域について、前記音響トモグラフィ技術で所定期間に亘り海水温度の変化を測定し、当該海水温度の変化に基づいて、海底から噴出した熱水に含まれる重金属の沈殿により海底熱水鉱床が形成される過程を推定する
ことを特徴とする未発見の海底熱水鉱床の探査方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する未発見の海底熱水鉱床の探査方法において、
前記海水の状態の測定は、金属、pH、濁度からなる群から選択される少なくとも一つを測定することである
ことを特徴とする未発見の海底熱水鉱床の探査方法。
【請求項4】
相互に音を送受信可能に海底に設置された複数の音響トモグラフィ装置と、
前記音響トモグラフィ装置による音の送受信の情報に基づいて海水密度の変化が生じている領域を特定することで当該領域に海底熱水鉱床が存在していると推定する海底熱水鉱床推定手段と、
海水の状態を測定する測定手段を有する水中移動手段とを備え、
前記水中移動手段は、前記領域を航行しながら前記測定手段で海水の状態を測定し、その測定結果に基づいて海底熱水鉱床から流出する海底熱水プルームを検出し、該海底熱水プルームを検出した領域を海底熱水鉱床の存在位置とする
ことを特徴とする未発見の海底熱水鉱床の探査システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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