説明

材料強度特性評価方法及び材料試験装置

【課題】特殊な温度環境下で用いられる各種材料の強度特性評価方法、及び、この方法を実現可能とする材料試験装置を提供する。
【解決手段】円孔441などの脆弱形状部(応力集中部)を有する試験片の脆弱形状部のみを目的の温度環境下とする液槽40を備えた強度特性評価試験装置を使用して、温度環境下における材料強度を簡便に評価する。液槽40は上下に位置する上部冶具43と下部冶具45の間に配置され、底面40aには試験片44の下部44aを挿通可能な貫通穴40bが設けられる。液槽40が下部冶具45上に配置されたスペーサ40d上に配置されると、上端部を上部冶具43に固定し、試験片44の下部44aを上記貫通穴40bに挿通して下部冶具45に固定すると、試験片44の脆弱形状部が液槽40内に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種温度環境下で用いられる各種材料の強度特性評価方法、及び、当該方法を実現可能とする材料試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種温度環境下で使用される材料に対しては、使用される環境下において強度特性を評価する必要がある。このため、目的とする環境下で材料の強度評価を行うための簡便評価方法が不可欠となる。
【0003】
例えば従来は、極低温環境下(液体窒素の沸点約-196℃, 77 K以下)で使用される材料の特性評価試験に際し、日本工業規格(JIS Z 2201 金属材料引張試験片)に定められている試験片形状を対象に、試験片および試験治具を密閉容器内で液状寒剤中に浸して試験するための装置が採用されている。すなわち、図1に示す一般的に広く用いられている材料試験機では、クロスヘッド11上のロードセル(荷重検出器)12に接続された上部治具13と試験機下部に設置された下部治具15の間に試験片14を固定するため、試験片を密閉容器内に保持しての試験が困難であった。このため、図2に示すように試験機上部にロードセル(荷重検出器)22を設置し、荷重軸26を介してロードセル(荷重検出器)22に上部治具23を接続する。また、クロスヘッド21に接続された支柱27に固定された下部フランジ28上に上部治具23と対向した位置に下部治具25を設置する。これによって、上部治具23と下部治具25の間に固定した試験片24を密閉容器29内に収めることを可能とし、密閉容器29内に蓄えた液体窒素や液体ヘリウムなどの液状寒剤中で材料試験を行うための装置が提案されている(特許文献1および2)。
【0004】
また、試験片内部の微細空間に環境雰囲気流体を供給し、試験片を所定の温度にして試験を行うための装置・試験片が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平01−041932号公報
【特許文献2】特公平01−041932号公報
【特許文献3】特開2007−286036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、密閉容器内で液状寒剤中に浸して試験する場合は、厳密な温度環境下での試験が可能であるが、装置自体が特殊で限られた機関でした試験が出来ない。また、試験装置が特殊であり、試験片の加工に手間が、そして試験片・治具冷却用にコストがかかる。
【0007】
一方、試験片内部の微細空間に環境雰囲気流体を供給し、試験片を所定の温度にする方法では、試験片作製が困難になる問題点を有している。
【0008】
本発明は、このような従来の問題点を解決し、各種温度環境下で簡便に材料の強度評価を行うための評価方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明では、試験片の中間部に円孔などを形成して強度を低下させた脆弱形状部を設け、その部分に力(応力)を集中させることで、試験片の一部のみを目的の温度環境下とした試験を可能にする。
【0010】
本発明の強度特性評価用試験方法は、試験片の中間部に限定して強度を低下させた脆弱形状部を形成し、前記試験片の両端部を一対の固定具に固定するとともに、前記両端部を除いて前記試験片の中間部を取り囲む液槽を配置し、該液槽内に前記試験片の温度を変化させるための液体を収容して該液体中に前記中間部を浸漬した状態で前記一対の固定具間に応力を加えることにより前記試験片の強度試験を行うことを特徴とする。
【0011】
本発明において、前記一対の固定具を上下に配置し、前記液槽の底部に貫通穴を設けるとともに該貫通穴に前記試験片を挿通した状態で前記両端部を前記一対の固定具に固定して前記強度試験を行うことが好ましい。
【0012】
この場合にはさらに、前記試験片の前記貫通穴に対する貫通部位を、前記貫通穴が密閉されるように前記液槽に固定するとともに、上方に配置された前記固定具及び前記試験片の上部を拘束しないように前記液槽を構成することが好ましい。
【0013】
次に、本発明の材料試験装置は、試験片の強度試験を行うための材料試験装置であって、前記試験片の両端部をそれぞれ固定する一対の固定具と、前記一対の固定具の間に応力を加える応力印加手段と、前記応力を測定する測定器と、前記一対の固定具の間に配置されるとともに、前記一対の固定具を含まない範囲に限定して液体を収容可能に構成された液槽と、を具備することを特徴とする。
【0014】
本発明において、前記一対の固定具が上下に配置され、前記液槽は底部に貫通穴を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
円孔などを設けることによる応力集中は公知のことであり、集中する応力の度合い(応力集中係数)は試験片幅と円孔などの脆弱部形状・寸法から、有限要素解析などを用いて求めることが可能である。したがって、試験片が破断したときの応力に応力集中係数を乗ずることで実際の破断強度を求めることが出来る。
【0016】
また、試験片の一部のみを冷却するため特殊な装置を必要とせず、目的の温度環境を実現するために使用する液体(例えば、液体窒素や液体ヘリウムなど)も少量でよくコストを低く抑えられる。
【0017】
さらに、薄板などの試験片形状では、試験中に試験片掴み部(治具部、すなわち上記固定具により固定された部分)で破断することが多々あるが、本試験片では円孔などを設けた脆弱形状部から破断するため、計測が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】材料試験に一般的に用いられている材料試験機の構造を示す図である。
【図2】極低温材料試験に一般的に用いられている材料試験機の構造を示す図である。
【図3】本発明に用いる試験片の一例を示す図(a)〜(g)である。
【図4】本発明に用いる材料試験機の構造および液槽を示す図(a)〜(c)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明で使用する試験片は、例えば図3(a)に示すように、試験片34の幅Wに対し、幅方向中心に直径aの円孔341を有するものである。円孔341による応力集中で、試験片は円孔縁Aで最大応力を生じ、破断する。破断した荷重Pより以下の数1の式で平均応力σnを求め、以下の数2の式に示す応力集中係数αを平均応力σnに乗ずることで強度を算出することができる。
【0020】
試験片幅W、板厚tで、直径aの円孔を有する試験片に荷重Pが作用した場合、図3(a)の断面BBに生じる平均応力σnは次の数1の式で与えられる。
【0021】
【数1】

【0022】
また、応力集中により図3(a)の円孔縁Aには最大応力σmaxを生じ、次の数2の式で示す最大応力σmaxと平均応力σnの比を応力集中係数αと呼ぶ。
【0023】
【数2】

【0024】
応力集中係数αは、有限要素解析などで求めることが可能である。なお、無限幅の平板中に円孔が存在する場合には解析的にα=3となり、また、有限幅の平板の場合、応力集中係数αは円孔が十分小さいとき3に、円孔が十分大きいとき2に近づく。
【0025】
円孔直径aと試験片幅Wの比a/Wが一定であれば、応力集中係数αは材料に依存せず一定となるため、あらかじめ有限要素解析などで応力集中係数αを算出しておけば、強度の算出が可能となる。
【0026】
本発明では、脆弱形状部、すなわち応力集中部から試験片を破断させることで、目的の温度環境下にする部分の特定を行うものであるため、脆弱形状部としては、図3(a)のように試験片幅の中央に円孔341を有するもの他、図3(b)、図3(c)のように試験片幅の中央に楕円孔342を有するもの、図3(d)、図3(e)のように試験片縁の片側に切欠き343、344を有するもの、或いは、図3(f)、図3(g)のように試験片縁の両側に切欠き343、344を有するものでもかまわない。
【0027】
図4(a)に示す円孔441を有する試験片44を目的の温度環境下、例えば液体窒素温度で試験する場合は、破断位置が脆弱形状部(円孔縁)と確定しているため、円孔縁近傍のみを液体窒素中に保持すればよく、図4(a)、図4(b)に示すように、底面40aに試験片44を通すための穴40bを有する簡便な液槽40を用いることが可能となる。図4(b)は図4(a)の液槽40を下面側から見た拡大斜視図である。
【0028】
この場合、図1に示す一般的に広く用いられている材料試験機(例えば、機械式アクチュエータなどの応力印加手段を有する、引張・圧縮・曲げ等の力学特性を評価するための装置)で、クロスヘッド41上の上記測定器に相当するロードセル(荷重検出器)42に接続された一方の上記固定具である上部治具43に試験片44の上部を固定する。その後、試験片44の下部44aを液槽40の底面40aに設けた貫通穴40bに通し、試験片44の下部44aを他方の上記固定具である下部治具45で固定する。液槽40は上部が開放された容器(箱)状に構成されている。
【0029】
図4(c)に示すように液槽40の底面40aに設けた穴40bと試験片44の下部44aとの隙間をパテなどの封止材40cで密閉することで、液槽40内に試験片円孔近傍を目的の温度環境とするのに必要な液体(液体窒素)を保持することが可能となる。図4(c)は図4(a)の液槽40を下面側から見た拡大斜視図である。
【0030】
液槽40は、下部治具45上に設置されているため、特に固定の必要は無く、簡便に設置することが可能である。また、液槽40と下部治具45の間にスペーサ40dを置くことで液槽40と試験片44の位置関係を調節することが可能である。ここで、スペーサ40dは試験片44の下部44bを通過させることのできる開口部を有している。液槽40は、試験片44の上部を上部冶具43に固定し、試験片44の下部を下部冶具45に固定したときに、試験片44の上記脆弱形状部が内部に配置されるように位置決めされる。なお、液槽44の支持構造としては、図示例の上記構造に限らず、上部冶具43から吊り下げる構造、或いは、試験片44の上記脆弱形状部を避けていずれか一方の固定具の側にある部分(例えば、図3(c)に示す場合には上記貫通穴40bを挿通する試験片44の貫通部位)に固定する構造を用いてもよい。
【0031】
また、液槽40の底面40aに設けた貫通穴40bと試験片44の下部44aとの隙間を密閉する方法としては、本実施形態のように試験片44を冷却するときには、試験片44の下部44aと貫通穴40bの隙間に温度低下に伴い熱膨張する材料を挿入することも可能である。これによって、試験時において液槽44内に冷媒を配置して温度が低下すると当該材料が膨張するので、試験片44と貫通穴40bとの間に隙間が発生することがなく、貫通穴40bの密閉状態を確実に維持できる。このように、液槽44内の液体により生ずる温度変化(温度の低下又は温度の上昇)により膨張する材料を封止材として用いることで、封止材の密閉機能を高めることができる。このとき、試験片44の下部44aが封止材によって液槽40に固定される場合でも、図示例のように上部が開放された液槽40を用いるなど、当該液槽40が試験片44の上部や上部冶具43を拘束しないように構成すれば、試験片44の中間部に設けられた脆弱形状部に力学的な影響を与えることがなくなるので、試験に支障が生ずることはない。
【0032】
温度低下に伴い熱膨張する材料としては、負膨張繊維などがある。負膨張繊維としては、ポリエチレン繊維(東洋紡ダイニーマSK-60(商品名)、1200d)、アラミド繊維(日本アラミド繊維、トワロンHM(商品名)、1900d)、ポリアリレート(クラレ、ベクトラン(商品名)、1750d)などがある。
【0033】
実際に上記装置を用いて試験片の低温下における引張試験を行った。最初に、厚さ約5 mm、長さ250 mm、幅W = 25 mmのプラスチック製短冊型試験片に円孔直径aと試験片幅Wの比a/W = 0.2〜0.5の範囲内となる円孔を設けた複数の試験片を対象に、発泡スチロール製の液槽40に満たした液体窒素中で試験した結果、いずれも試験片幅に依存しない強度値が得られている。
【0034】
また、厚さ約5 mm、長さ250 mm、幅W = 25 mmのプラスチック製短冊型試験片に切欠き長さc(切欠き先端角30°)と試験片幅Wの比c/W = 0.2〜0.5の範囲内となる切欠きを設けた複数の試験片を対象に、発泡スチロール製の液槽40に満たした液体窒素中で試験した結果、いずれも切欠き長さに依存しない強度値が得られている。
【0035】
ただし、強度特性簡便評価を目的とする場合、試験片加工の容易さから円孔が最も適している。
【0036】
一方、厚さ約0.5 mm、長さ100 mm、幅W = 10, 15, 20 mmのプラスチック製短冊型試験片に円孔直径aと試験片幅Wの比a/W = 0.4となる円孔を設けた試験片を対象に、発泡スチロール製の冷却容器内に満たした液体窒素中で試験した結果、円孔を設けない同形状の試験片と同様の強度値が得られている。
【0037】
例えば、脆弱形状部として円孔を設けた場合、材料強度の目的の温度環境下における値と室温における値との関係にも依存するが、目的の温度環境下での強度が室温に比べて増大する場合、円孔直径aと試験片幅Wの比a/W = 0.2〜0.5が適切である。これは、a/W < 0.2では、強度増大に伴い円孔縁以外の例えば試験片掴み部(治具部)で破断することが多々あり、a/W >0.5では円孔以外の部分の断面幅が小さくなるので円孔の位置ずれによる左右非対称の度合が大きくなり実験結果に影響を与えやすくなることから、当該影響を回避する程度に試験片44の加工の精度を保つことが困難になることに起因する。
【産業上の利用可能性】
【0038】
航空宇宙分野、超伝導分野、液化天然ガス利用分野などの極低温を応用する分野では、極低温材料を必要とするため、使用環境下での材料特性を必要としている。本発明は、材料の強度特性を簡便に評価方法を提供するもので、開発した新材料あるいは新たに極低温での利用を検討する材料の評価に有効である。
【0039】
また、上記の極低温環境の他、室温以外の温度環境下で強度特性評価を必要とする場合に有効な評価方法として利用可能である。
【符号の説明】
【0040】
11・21・41 クロスヘッド
12・22・42 ロードセル
13・23・43 上部治具
14・24・34・44 試験片
15・25・45 下部治具
26 荷重軸
27 支柱
28 下部フランジ
29 密閉容器
341・441 円孔
342 楕円孔
343・344 切欠き
40 液槽
40a 液槽底面
40b 穴
40c 封止材
40d スペーサ
44a 試験片下部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片の中間部に限定して強度を低下させた脆弱形状部を形成し、前記試験片の両端部を一対の固定具に固定するとともに、前記両端部を除いて前記試験片の中間部を取り囲む液槽を配置し、該液槽内に前記試験片の温度を変化させるための液体を収容して該液体中に前記中間部を浸漬した状態で前記一対の固定具間に応力を加えることにより前記試験片の強度試験を行うことを特徴とする強度特性評価用試験方法。
【請求項2】
前記一対の固定具を上下に配置し、前記液槽の底部に貫通穴を設けるとともに該貫通穴に前記試験片を挿通した状態で前記両端部を前記一対の固定具に固定して前記強度試験を行うことを特徴とする請求項1に記載の強度特性評価用試験方法。
【請求項3】
前記試験片の前記貫通穴に対する貫通部位を、前記貫通穴が密閉されるように前記液槽に固定するとともに、上方に配置された前記固定具及び前記試験片の上部を拘束しないように前記液槽を構成することを特徴とする請求項2に記載の強度特性評価用試験方法。
【請求項4】
試験片の強度試験を行うための材料試験装置であって、
前記試験片の両端部をそれぞれ固定する一対の固定具と、前記一対の固定具の間に応力を加える応力印加手段と、前記応力を測定する測定器と、前記一対の固定具の間に配置されるとともに、前記一対の固定具を含まない範囲に限定して液体を収容可能に構成された液槽と、を具備することを特徴とする材料試験装置。
【請求項5】
前記一対の固定具が上下に配置され、前記液槽は底部に貫通穴を有することを特徴とする請求項4に記載の材料試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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