説明

材料試験機の軸心調整装置

【課題】 比較的小型で簡易な構成でありながら、容易につかみ具の軸心を調整することが可能な材料試験機の軸心調整装置を提供する。
【解決手段】 軸心調整装置20は、下つかみ具22に連結される連結ロッド31と、この連結ロッド31の下端部に固定された略球状の形状を有する球面ブッシュ32と、球面ブッシュ32と当接することにより連結ロッド31を球面ブッシュ32を中心に揺動可能な状態で支持するブッシュハウジング33とを備える。このブッシュハウジング33は、ケーシング34にその外周部を囲まれており、ケーシング34内において水平方向に移動可能となっている。ブッシュハウジング33の下方には、固定くさび44と移動くさび43が配設される。球面ブッシュ32とブッシュハウジング33とは、移動くさび43とケーシング34とにより挟持されて固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、試験片の両端部を把持する一対のつかみ具の軸心を調整するための材料試験機の軸心調整装置に関し、特に、樹脂フィルムや金属箔を試験対象として材料疲労強度試験を行う電磁式微小材料試験機等に好適に適用しうる軸心調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような材料試験機は、テーブルやクロスヘッドから構成される負荷枠に上つかみ具と下つかみ具とを装着し、これらの上つかみ具と下つかみ具との間によりその両端を把持された試験片に対して試験力を付与するとともに、そのときの試験力をロードセルにより検出する構成を有する。
【0003】
このような材料試験機においては、上つかみ具と下つかみ具との軸心が整合していないと、正確な材料試験を実行することができない。このため、このような材料試験機においては、上つかみ具と下つかみ具との軸心を調整するための軸心調整装置が配設されている(特許文献1参照)。
【0004】
この特許文献1に記載された軸心調整装置は、クロスヘッドと上つかみ具との間に介在されるものであり、クロスヘッドと上つかみ具とを連結する連結軸と、この連結軸の中央部に固定された枠部材と、枠部材の内部で連結軸の外周部に配設されクロスヘッドに固定された角度調整用カラー部材と、枠部材の内部で連結軸の外周部に配設され上つかみ具に固定された位置調整用カラー部材とを備え、連結軸の弾性変形を利用して連結軸角度と位置とを調整する構成を有する。
【0005】
また、このような軸心調整装置を利用して上つかみ具と下つかみ具との軸心を調整するために、複数の歪みゲージを取り付けた試験片の両端を上つかみ具と下つかみ具とにより把持し、そのときの複数の歪みゲージの検出値に基づいて上つかみ具または下つかみ具の位置を自動調整することにより、軸心のズレを補正できる材料試験機も提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3849331号公報
【特許文献2】特開昭64−31033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特に、樹脂フィルムや金属箔を試験対象として材料疲労強度試験を行う電磁式微小材料試験機等の材料試験機においては、比較的小型で簡易な構成であり、また、操作性がよい軸心調整装置が必要となる。しかしながら、特許文献1に記載された軸心調整装置は、連結軸の弾性変形を利用して連結軸角度と位置とを調整する構成であることから、装置全体が大型化、複雑化し、また、その軸心の調整動作も複雑なものとなる。
【0008】
また、試験片として樹脂フィルムや金属箔等を使用する場合には、特許文献2に記載されたように、歪みゲージを使用して軸心のズレを測定することは不可能となる。
【0009】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、比較的小型で簡易な構成でありながら、容易につかみ具の軸心を調整することが可能な材料試験機の軸心調整装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、試験片の両端部を把持する一対のつかみ具の軸心を調整するための、負荷枠に固定された材料試験機の軸心調整装置であって、前記つかみ具に連結される連結ロッドと、前記連結ロッドの端部に固定された球面ブッシュと、前記球面ブッシュと当接することにより、前記連結ロッドを前記球面ブッシュを中心に揺動可能な状態で支持するとともに、水平方向に移動可能なブッシュハウジングと、前記ブッシュハウジングを水平方向に移動させるための複数の水平位置調整部材と、前記連結ロッドと前記ブッシュハウジングとを固定するための固定手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記ブッシュハウジングの外周部を囲うケーシングをさらに有し、前記水平位置調整部材は、前記ケーシングに螺合するとともにその先端が前記ブッシュハウジングに当接するネジ部材から構成される。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記固定手段は、装置本体に固定され、前記ブッシュハウジング側に傾斜面を有する固定くさびと、前記固定くさびにおける傾斜面と対応する傾斜面を有し、前記固定くさびと前記ブッシュハウジングとの間に配設された移動くさびと、前記移動くさびを前記固定くさびに対して相対的に移動させるネジ部材とを有し、前記移動くさびの移動に伴って当該移動くさびの傾斜面とは逆側の面を前記ブッシュハウジング側に移動させ、前記ブッシュハウジングにより前記球面ブッシュを押圧させることにより、前記連結ロッドと前記ブッシュハウジングとを固定する。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の発明において、前記一対のつかみ具を一括して把持することにより、前記一対のつかみ具の軸心を強制的に一致させるチャックガイドをさらに備え、前記固定手段は、前記チャックガイドが一対のつかみ具の軸心を強制的に一致させた後に、前記連結ロッドと前記ブッシュハウジングとを固定する。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、球面ブッシュの作用により揺動可能な連結ロッドと水平方向に移動可能なブッシュハウジングとの作用により、比較的小型で簡易な構成でありながら、容易につかみ具の軸心を調整することが可能となる。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、ネジ部材の作用によりブッシュハウジングの水平方向の位置を容易に調整することが可能となる。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、移動くさびを移動させることにより、連結ロッドとブッシュハウジングの固定および固定の解除を容易に実行することが可能となる。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、チャックガイドを利用することにより、一対のつかみ具の軸心を容易に一致させた後に、連結ロッドとブッシュハウジングを固定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明に係る軸心調整装置を適用する材料試験機の正面図である。
【図2】この発明に係る軸心調整装置を適用する材料試験機の側面図である。
【図3】この発明に係る軸心調整装置20を下つかみ具22およびテーブル11とともに示す正面図である。
【図4】この発明に係る軸心調整装置20を下つかみ具22およびテーブル11とともに示す側面図である。
【図5】この発明に係る軸心調整装置20の平面図である。
【図6】チャックガイドを上つかみ具21および下つかみ具22とともに示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、この発明に係る軸心調整装置を適用する材料試験機の正面図であり、図2は、その側面図である。
【0020】
この材料試験機は、樹脂フィルムや金属箔を試験対象として材料疲労強度試験を行う電磁式微小材料試験機であり、テーブル11上に立設された一対の支持棹12と、これらの支持棹12の上端に配設されたヨーク14と、クロスヘッド15とを備える。これらのテーブル11、一対の支持枠12およびクロスヘッド15は、試験片に負荷を付与するための負荷枠を構成する。
【0021】
支持棹12の裏面にはラック13が付設されており、クロスヘッド15にはこのラック13と噛合し、クロスヘッド昇降ハンドル16に連結された図示しないピニオンが配設されている。このため、クロスヘッド昇降ハンドル16を回転させることにより、クロスヘッド15が一対の支持棹12に沿って昇降する。そして、クロスヘッド15は、左右一対のクロスヘッドクランプ17を操作することにより、その高さ位置が固定される。
【0022】
クロスヘッド15には、電磁式のアクチュエータ26が配設されている。このアクチュエータ26の下端部には、ネジ式の取り付け部23を介して上つかみ具21が配設されている。また、テーブル11の上部には、後述する軸心調整装置20、ロードセルアダプタ24、ロードセル25およびネジ式の取り付け部26を介して、下つかみ具22が配設されている。試験片は、これらの上つかみ具21および下つかみ具22によりその両端部を把持される。
【0023】
次に、この発明に係る軸心調整装置の構成について説明する。図3は、この発明に係る軸心調整装置20を下つかみ具22およびテーブル11とともに示す正面図であり、図4は、その側面図である。また、図5は、この発明に係る軸心調整装置20の平面図である。
【0024】
この発明に係る軸心調整装置20は、下つかみ具22の軸心の位置と角度を調整することにより、試験片の両端部を把持する上つかみ具21および下つかみ具22の軸心を調整するためのものであり、ロードセルアダプタ24、ロードセル25および取り付け部26を介して下つかみ具22に連結される連結ロッド31を備える。この連結ロッド31の下端部には、略球状の形状を有する球面ブッシュ32が固定されている。
【0025】
また、この軸心調整装置20は、球面ブッシュ32と当接することにより、連結ロッド31を球面ブッシュ32を中心に揺動可能な状態で支持するブッシュハウジング33を備える。このブッシュハウジング33は、ケーシング34にその外周部を囲まれており、ケーシング34内において水平方向に移動可能となっている。そして、図3に示すように、ケーシング34に形成されたネジ穴に螺合するネジ部36を備え、その先端がブッシュハウジング33に当接するネジ部材35が、連結ロッド31の軸心を中心として等間隔となる角度位置に、3個配置されている。ブッシュハウジング33は、これらのネジ部材35を、各々、回転させることにより、ケーシング34内において水平方向に移動する。
【0026】
このように、連結ロッド31が揺動し、ブッシュハウジング33が水平移動した場合には、連結ロッド31に対して、ロードセルアダプタ24、ロードセル25および取り付け部26を介して連結された下つかみ具22の軸心の角度と軸心の位置が変更されることになる。これにより、上つかみ具21と下つかみ具22の軸心が一致するように調整を行うことが可能となる。
【0027】
ブッシュハウジング33の下方には、装置本体に固定されブッシュハウジング33側に傾斜面を有する固定くさび44と、この固定くさび44における傾斜面と対応する傾斜面を有し、固定くさび44とブッシュハウジング33との間に配設された移動くさび43と、この移動くさび43に形成されたネジ穴に螺合するネジ部42を有し、移動くさび43を固定くさび44に対して相対的に移動させるネジ部材41とからなる固定手段が配設されている。
【0028】
ネジ部材41が回転することにより移動くさび43が移動した場合には、この移動くさび43の移動に伴って当該移動くさび43の傾斜面とは逆側の面がブッシュハウジング33側に移動する。これにより、ブッシュハウジング33が球面ブッシュ32をケーシング34側に押圧する。この状態においては、球面ブッシュ32とブッシュハウジング33とが、移動くさび43とケーシング34とにより挟持される。このため、連結ロッド31の揺動とブッシュハウジング33の水平移動が規制され、連結ロッド31とブッシュハウジング33とがその位置で固定される。
【0029】
なお、図3に示すように、下つかみ具22は、試験片の端部を挟持するための一対のつかみ歯61と、これらのつかみ歯61を互いに近接あるいは離隔する方向に移動させるためのツマミ62とを備える。図1および図2に示す上つかみ具21も、この下つかみ具22と同様の構成を有する。
【0030】
この軸心調整装置20は、上つかみ具21および下つかみ具22の軸心を容易に一致させたるために、連結ロッド31とブッシュハウジング33を固定することを可能とするためのチャックガイドをさらに備えている。
【0031】
図6は、チャックガイドを上つかみ具21および下つかみ具22とともに示す概要図である。なお、図6(a)はチャックガイドの縦断面を、図6(b)はチャックガイドの側面を、また、図6(c)はチャックガイドの平面を示している。
【0032】
このチャックガイドは、サンプル長に合わせて互いに近接した位置に配置された上つかみ具21および下つかみ具22を一括して把持する一対の把持部51、52と、この一対の把持部51、52を互いに近接する方向に付勢するためのネジ部53とから構成される。上つかみ具21および下つかみ具22の外形は、精度よく形成されている。このため、このチャックガイドを使用して、上つかみ具21および下つかみ具22を一対の把持部51、52により一括して把持することにより、上つかみ具21および下つかみ具22の軸心を強制的に一致させることが可能となる。
【0033】
以上のような構成を有する軸心調整装置20により材料試験機における上つかみ具21および下つかみ具22の軸心を調整するときには、図1および図2に示すクロスヘッド昇降ハンドル16を操作してクロスヘッド15を下降させ、上つかみ具21と下つかみ具22とが近接する位置に配置する。そして、その位置において、左右一対のクロスヘッドクランプ17を操作して、クロスヘッド15の高さ位置を固定する。
【0034】
次に、図3および図5に示すネジ部材35を緩め、その先端をブッシュハウジング33から離隔させる。また、図4に示すネジ部材41を緩め、移動くさび43によるブッシュハウジング33への押圧力を解除する。これにより、連結ロッド31の揺動とブッシュハウジング33の水平移動が可能となる。そして、この状態において、図6に示すように、上つかみ具21および下つかみ具22を、チャックガイドにおける一対の把持部51、52により一括して把持することにより、上つかみ具21および下つかみ具22の軸心を強制的に一致させる。
【0035】
しかる後、各ネジ部材35を回転させて、その先端がブッシュハウジング33に当接して押圧する位置まで移動させる。また、図4に示すネジ部材41を回転させて、球面ブッシュ32とブッシュハウジング33とを、移動くさび43とケーシング34とにより挟持する。これにより、連結ロッド31の揺動とブッシュハウジング33の水平移動が規制され、連結ロッド31とブッシュハウジング33とがその位置で固定される。従って、上つかみ具21と下つかみ具22との軸心が一致した状態で、下つかみ具22が固定されることになる。
【0036】
上つかみ具21と下つかみ具22の軸心調整が完了すれば、チャックガイドを取り外して材料試験を実行する。
【0037】
以上のように、この発明に係る軸心調整装置20によれば、ネジ部材41を操作することにより、下つかみ具22の軸心の角度と軸心の位置の変更と固定とを行うことができ、また、チャックガイドにより上つかみ具21および下つかみ具22の軸心を容易に一致させることが可能となる。従って、比較的小型で簡易な構成でありながら、容易に上つかみ具21および下つかみ具22の軸心を調整することが可能となる。
【0038】
なお、上述した実施形態においては、チャックガイドを使用して、上つかみ具21および下つかみ具22を一括して把持し、上つかみ具21および下つかみ具22の軸心を強制的に一致させることにより、連結ロッド31とブッシュハウジング33とを固定する前に、上つかみ具21および下つかみ具22の軸心を強制的に一致させている。しかしながら、マイクロメータ等を使用して上つかみ具21または下つかみ具22の位置を微調整した後に、連結ロッド31とブッシュハウジング33とを固定するようにしてもよい。
【0039】
また、上述した実施形態においては、下つかみ具22とテーブル11との間にこの発明に係る軸心調整装置20を配置しているが、上つかみ具21とクロスヘッド15との間にこの発明に係る軸心調整装置20を配置してもよい。
【符号の説明】
【0040】
11 テーブル
12 支持棹
15 クロスヘッド
16 クロスヘッド昇降ハンドル
17 クロスヘッドクランプ
20 軸心調整装置
21 上つかみ具
22 下つかみ具
25 ロードセル
26 アクチュエータ
31 連結ロッド
32 球面ブッシュ
33 ブッシュハウジング
34 ケーシング
35 ネジ部材
41 ネジ部材
43 移動くさび
44 固定くさび
51 把持部
52 把持部
53 ネジ部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片の両端部を把持する一対のつかみ具の軸心を調整するための、負荷枠に固定された材料試験機の軸心調整装置であって、
前記つかみ具に連結される連結ロッドと、
前記連結ロッドの端部に固定された球面ブッシュと、
前記球面ブッシュと当接することにより、前記連結ロッドを前記球面ブッシュを中心に揺動可能な状態で支持するとともに、水平方向に移動可能なブッシュハウジングと、
前記ブッシュハウジングを水平方向に移動させるための複数の水平位置調整部材と、
前記連結ロッドと前記ブッシュハウジングとを固定するための固定手段と、
を備えることを特徴とする材料試験機の軸心調整装置。
【請求項2】
請求項1に記載の材料試験機の軸心調整装置において、
前記ブッシュハウジングの外周部を囲うケーシングをさらに有し、
前記水平位置調整部材は、前記ケーシングに螺合するとともにその先端が前記ブッシュハウジングに当接するネジ部材から構成される材料試験機の軸心調整装置。
【請求項3】
請求項2に記載の材料試験機の軸心調整装置において、
前記固定手段は、
装置本体に固定され、前記ブッシュハウジング側に傾斜面を有する固定くさびと、
前記固定くさびにおける傾斜面と対応する傾斜面を有し、前記固定くさびと前記ブッシュハウジングとの間に配設された移動くさびと、
前記移動くさびを前記固定くさびに対して相対的に移動させるネジ部材とを有し、
前記移動くさびの移動に伴って当該移動くさびの傾斜面とは逆側の面を前記ブッシュハウジング側に移動させ、前記ブッシュハウジングにより前記球面ブッシュを押圧させることにより、前記連結ロッドと前記ブッシュハウジングとを固定する材料試験機の軸心調整装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の材料試験機の軸心調整装置において、
前記一対のつかみ具を一括して把持することにより、前記一対のつかみ具の軸心を強制的に一致させるチャックガイドをさらに備え、
前記固定手段は、前記チャックガイドが一対のつかみ具の軸心を強制的に一致させた後に、前記連結ロッドと前記ブッシュハウジングとを固定する材料試験機の軸心調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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