説明

材料送り装置

【課題】加工機側の条件やアンコイラ側の条件が変わっても,加工機側の材料送り速度に追従可能で加工速度を高速化可能にした材料送り装置の提供。
【解決手段】加工部へ供給される材料の送り量をエンコーダ5で検出し,その材料送り量に基づき材料送り速度演算部51で材料送り速度V1を演算すると同時に,リール23に載置された材料束から繰り出される材料の繰出し半径rを繰出し半径演算部52で決定し,これら材料送り速度V1と繰出し半径rとを基にリール回転速度ωを演算し,このリール回転速度ωに基づきリール23を回転駆動するリール用サーボモータ26を制御するようにし,材料送り速度V1にリール23による材料繰出し速度V2を追従させるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線材や帯材を材料として加工を行う加工機の加工部へ,フィードローラ等によりその材料を供給するときの材料送り速度に、アンコイラ側リールからフィードローラ等へ供給される材料の繰出し速度を追従させることにより,加工機側とアンコイラ側との材料送り量を等しくなるよう制御する材料送り装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の技術としては、例えば、特許文献1に開示された材料素線間欠送り出し装置に開示されたオートターンテーブルなどが知られている。まず、特許文献1の発明は図7に示すように、素線コイルテーブル(本願発明のリールに相当。以下、リールという)101の近傍に素線引張り検出センサ111を設けたものである。素線引張り検出センサ111は、レバータイプのリミットスイッチを用い、レバーの先端をコイル状にした輪の中に素線112を通し、このレバーが素線112により引っ張られることでリミットスイッチがONし、レバーが中立点へ戻ることでリミットスイッチがOFFする構成である。
【0003】
そして、線材加工機側線材が不足すると、レバーが素線112により引っ張られてリミットスイッチがONし、リール101を駆動する図示しないモータが回転することで素線112が送り出される。素線112が十分送り出されてリミットスイッチが中立点へ戻ると、リミットスイッチがOFFしてリール101を停止させ、素線112の送り出しを停止させるものである。
【0004】
この特許文献1の発明においては、リール101の回転起動と停止とを繰り返して間欠的に送り出すものであるから、頻繁に繰り返される起動・停止時の衝撃によりリール101上に載置された線材束がばらけやすく、また、線材束の繰出し半径は刻々変化し、かつ、線材加工機側線材供給速度は1個のワークを加工する1サイクル中に変化することが多いが、リール101から送り出される線材の供給速度が制御できないので、線材が過剰に送り出されて線材相互が絡んだり、線材の送り出し量が不足して異常張力により材料が変形するなどの問題があり、高速での線材送りには不適であった。
【0005】
これを改良したものとして特許文献2に挙げた特開2004−122204号公報がある。この特許文献2は,加工機の加工部へ線材を供給するフィードローラを制御する加工プログラムのデータに基づき、アンコイラのリールに貯蔵されている線材をフィードローラへ供給するリールの回転速度を制御するようにした線材加工機の線材送り装置であって,フィードローラ用サーボモータとリール用サーボモータとの回転速度を同一の線材送りデータに基づき制御し、かつ,リールに貯蔵されている線材の繰出し半径を推定可能とし,この線材繰出し半径を基にリールの回転速度を制御することにより,フィードローラによる供給速度とリールによる供給速度とを同期させるようにしたことを特徴とする線材加工機の線材送り装置である。
【特許文献1】特開平5−85667号公報(第2頁、第1−3図)
【特許文献2】特開2004−122204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記、特許文献2の技術によれば、加工機の加工プログラムのデータに基づき、アンコイラのリールに貯蔵されている線材をフィードローラへ供給するリールの回転速度を制御するものであるので,多品種生産の場合,品種毎の加工プログラムに対応するようにフィードローラにより供給される線材の供給速度を演算するプログラムが必要である。また,同じ品種であっても生産速度等が変わった場合にプログラムの変更が必要である。このように加工機側の条件に合わせてプログラムの追加または変更が必要である。またこの技術は,加工機の加工プログラムのデータに基づきリールの回転速度を制御するので,加工機の制御部とアンコイラの制御部とは信号の交換が必須であり,アンコイラ側単独での制御は不可能である。
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、加工機側の条件やアンコイラ側の条件が変わっても,例えば加工製品が変わったり生産速度等が変わったり,材料束の径やそこから繰り出される繰出し径が変わった場合でも,プログラムの追加や変更をすることなく,フィードローラ等により供給される材料の供給速度を演算可能とし,フィードローラ等から供給される材料の供給速度にリールから供給される材料の供給速度を追従可能とすること,更には,これらの制御を加工機側の制御部とは無関係に行えるようにすることを課題とする。
【0008】
更には,加工機側に必要とされる材料供給速度が大きく変化する場合や、リール上の材料束の内外径の差が大きい場合や、数種類の内外径の大きく異なる材料束を交換して使用する場合において、アンコイラを加工機側要求量に合わせて交換したり、また、加工速度や材料束の半径に合わせてリールの速度設定をその都度設定し直したりする必要のない材料送り装置を提供しようとするものである。すなわち、頻繁に繰り返される起動・停止時の衝撃により、リール上の材料束がばらけたり絡む問題、リールからの材料過剰供給により材料が絡んだり、材料の送り出し量不足による異常張力により材料が変形する問題などが解決され、加工機側の加工速度を高速化することを可能とする材料送り装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために請求項1に記載の発明は、材料送り装置において,加工部へ材料送り手段により供給される連続した材料の材料送り量を検出する材料送り量検出手段と,材料送り量検出手段により検出された材料送り量に基づき材料送り速度を演算する材料送り速度演算手段と,材料が環状に巻き取られた材料束を載置可能で自転することにより載置された材料束から材料を材料送り手段へ繰出すリールと,リールに載置された材料束から繰り出される材料の繰出し半径を決定する繰出し半径演算手段と,材料送り速度と繰出し半径とを基にリール回転速度を演算するリール回転速度演算手段と,リール回転速度に基づきリールを回転駆動するリール用サーボモータを制御するサーボモータ制御手段と,材料送り速度演算手段とリール回転速度演算手段とサーボモータ制御手段を含む数値制御手段とを設け,材料送り手段により加工部へ供給される材料の材料送り量を基にリールの回転速度を制御し,材料送り速度にリールによる材料繰出し速度を追従させるようにしたことを最も主要な特徴とする。
【0010】
上記課題を解決するために請求項2に記載の発明は、材料送り装置において,加工部へ材料送り手段により供給される連続した材料の材料送り量を検出する材料送り量検出手段と,材料送り量検出手段により検出された材料送り量に基づき材料送り速度を演算する材料送り速度演算手段と,材料が環状に巻き取られた材料束を載置可能で自転することにより載置された材料束から材料を材料送り手段へ繰出すリールと,材料送り手段とリールとの間に移動子を介して材料のループを形成するループ形成手段と,移動子の位置を検出する移動子位置検出手段と,移動子位置検出手段で検出した移動子の位置データにより測定周期間におけるループ長さ変化量を演算するループ長さ演算手段と,材料送り速度とループ長さ変化量と測定周期ごとの前回のリール回転速度と測定周期とからリールに載置された材料束から繰り出される材料の繰出し半径を演算する繰出し半径演算手段と,材料送り速度と繰出し半径とを基に今回のリール回転速度を演算するリール回転速度演算手段と,リール回転速度に基づきリールを回転駆動するリール用サーボモータを制御するサーボモータ制御手段と,材料送り速度演算手段とループ長さ演算手段と繰出し半径演算手段とリール回転速度演算手段とサーボモータ制御手段を含む数値制御手段とを設け,材料送り速度とリールから繰り出される材料の繰出し半径とを基にリール回転速度を制御するようにし,材料送り手段による材料送り速度にリールによる材料繰出し速度を追従させるようにしたことを最も主要な特徴とする。
【0011】
上記課題を解決するために請求項3に記載の発明は、請求項1乃至2に記載の材料送り装置において、材料送り量検出手段は,加工部の上流側に設けられ材料を挟持可能な一対のローラの回転量をエンコーダにより検出し材料の送り量に換算可能にしたことを最も主要な特徴とする。
【0012】
上記課題を解決するために請求項4に記載の発明は、請求項1乃至2に記載の材料送り装置において、材料送り量検出手段は,加工部の上流側に設けられ材料の送り量を検出可能な光学式測長器により検出するようにしたことを最も主要な特徴とする。
【0013】
上記課題を解決するために請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4に記載の材料送り装置において、材料送り速度演算手段は,材料送り量検出手段により検出された設定時間当たりの送り量より材料送り速度を演算し,設定時間毎に出力するようにしたことを最も主要な特徴とする。
【0014】
上記課題を解決するために請求項6に記載の発明は、請求項2乃至5に記載の材料送り装置において、ループ形成手段は,材料がリールの材料束から離れる出口近傍に取り付けられ材料を案内可能なガイド穴と,加工部とはリールを挟んだ反対側にリール台に回転可能に軸支された回転軸を中心として加工部方向へ揺動可能に取り付けられかつ加工部とは逆方向に付勢体により付勢されたテンションレバーに設けられ材料を案内可能な移動子と,ガイド穴から移動子を通り加工部へループを形成しながら移動する材料の通過位置に取り付けられ,リール台に固定の出口ガイド穴とで構成し,材料がリールの材料束から離れガイド穴と移動子と出口ガイド穴とに案内されながらループを形成し材料送り手段へと移動する際に,材料送り手段による材料送り速度とリールによる材料繰出し速度とに差が生じたときに,この差に応じて移動子が回転軸を中心として移動するようにしたことを最も主要な特徴とする。
【0015】
上記課題を解決するために請求項7に記載の発明は、請求項2乃至6に記載の材料送り装置において、移動子位置検出手段は,回転軸の回転角度位置を検出するようにしたことを最も主要な特徴とする。
【0016】
上記課題を解決するために請求項8に記載の発明は、請求項2乃至7に記載の材料送り装置において、移動子位置検出手段により検出された移動子の位置が設定範囲に対しどの位置にあるかを判定する移動子位置判定手段と移動子の位置が設定範囲から外れたときにその位置に応じて加速回転速度又は減速回転速度を今回のリール回転速度に加算して補正する回転速度補正手段とを数値制御手段に設け,回転速度補正手段で補正されたあとの今回のリール回転速度をサーボモータ制御手段へ出力するようにしたことを最も主要な特徴とする。
【0017】
上記課題を解決するために請求項9に記載の発明は、請求項2乃至8に記載の材料送り装置において、ループ長さ演算手段は,実測データから求めた回転角度位置とループ長さとの関係式をもとにループ長さの変化量を算出するループ長さ演算式が設けられていることを最も主要な特徴とする。
【0018】
上記課題を解決するために請求項10に記載の発明は、請求項2乃至5に記載の材料送り装置において、ループ形成手段は,材料送り手段による材料送り速度とリールによる材料繰出し速度との速度差により材料送り手段とリールとの間において材料のループ長が変化することにより2個の定位置ローラ間で上下移動する移動子を介して材料のループを形成するようにしたことを最も主要な特徴とする。
【0019】
上記課題を解決するために請求項11に記載の発明は、請求項2乃至5及び10に記載の材料送り装置において、ループ長さ演算手段は,2個の定位置ローラ間の距離と設定された測定周期ごとの移動子の位置とから当該測定周期におけるループ長さの変化量を演算するようにしたことを最も主要な特徴とする。
【0020】
上記課題を解決するために請求項12に記載の発明は、請求項2乃至11に記載の材料送り装置において、リールに環状に巻き取られ材料束を構成する材料はその一巻きの展開長はどの部分の一巻きもほぼ長さが等しいことを最も主要な特徴とする。
(作用)
【0021】
請求項1の発明によれば、加工部へ材料送り手段により供給される連続した材料の材料送り量を材料送り量検出手段により検出し,この材料送り量に基づき材料送り速度演算手段にて材料送り速度を演算する。と同時にリールから繰り出される材料の繰出し半径を推定し,この繰出し半径と材料送り速度とを基にリール回転速度を演算し,今回のリール回転速度になるようリール用サーボモータを制御するようにしたので,リールから繰り出される材料の材料繰出し速度が加工部側の材料送り速度に一致する。
【0022】
そして、請求項2の発明によれば、加工部へ材料送り手段により供給される連続した材料の送り量を材料送り量検出手段により検出し,この材料送り量に基づき材料送り速度演算手段にて材料送り速度を演算する。と同時に,材料送り手段とリールとの間に移動子を介して材料のループを形成するループ形成手段と移動子の位置を検出する移動子位置検出手段とを設け,この移動子の位置から測定周期間におけるループ長さの変化量を演算し,そのループ長さの変化量を基に材料送り速度と前回のリール回転速度とでリールから繰り出される材料の繰出し半径を演算し,この繰出し半径と材料送り速度とを基に今回のリール回転速度を演算し,今回のリール回転速度になるようリール用サーボモータを制御するようにしたので,リールから繰り出される材料の材料繰出し速度が加工部側の材料送り速度に一致する。その結果,加工部側の材料送り速度が変化しても,リールに環状に巻き取られ貯蔵の材料は,過不足なくスムーズに加工部側へ供給される。
【0023】
また,ループ形成手段によりループが形成されているので,加工部へ材料送り手段により供給される材料の材料送り速度とリールから繰り出される材料の材料繰出し速度とに差が生じたときには,このループでその差を吸収することが可能となるので,材料送り速度や材料繰出し速度が急激に変化しても,リールは滑らかな繰出しが可能となる。
【0024】
また、請求項3の発明によれば、加工部の上流側に設けられ材料を挟持可能なローラにエンコーダを取り付けたので,ローラの回転量を検出し,この回転量から材料の材料送り量を演算して求めることが可能となる。
【0025】
また、請求項4の発明によれば、加工部の上流側に光学式測長器を設けたので,この光学式測長器で材料の移動量を検出し,この移動量から材料の材料送り量を求めることが可能となる。
【0026】
また、請求項5の発明によれば、材料送り量検出手段により検出された材料送り量より材料送り速度を演算し,この材料送り速度を設定時間毎に制御部へ出力することが可能となる。
【0027】
また、請求項6の発明によれば、材料束から離れる出口近傍に取り付けられたガイド穴と,加工部とはリールを挟んで反対側に軸支された回転軸を中心として加工部と逆方向に付勢されながら揺動可能なテンションレバーに設けられた移動子と,ループを形成しながら加工部へ移動する材料の通過位置に取り付けられた出口ガイド穴とでループ形成手段を構成したので,加工機側の材料送り速度とリールによる材料繰出し速度とに差が生じるとループの長さが変化し,そのループの長さの差により移動子が移動するが,その移動子の移動量を回転軸の回転角度量から求めることが可能となる。
【0028】
また、請求項7の発明によれば、回転軸の回転角度位置を移動子位置検出手段で検出可能としたので,この検出された回転角度位置により移動子の位置を検出することが可能となる。
【0029】
また、請求項8の発明によれば、移動子位置検出手段で検出された移動子の位置が設定範囲に対してどの位置にあるかその移動子の位置を判定し,移動子の位置が設定範囲外にある場合は移動子が設定範囲内に入る方向へ移動するように加速指令又は減速指令をサーボモータ制御手段へ出力するので、移動子位置が、絶えず設定範囲内になるよう,すなわち,ループの長さが設定範囲に収まるように制御され,加工機側の材料送り速度とリールによる材料繰出し速度とが同期するよう制御できる。すなわち、加工機側の材料送り速度とリールによる材料繰出し速度とに差が生じてもリール回転速度がそれに応じて変化し同期するとともに、移動子の位置を絶えず設定範囲内に入るようにすることができる。
【0030】
また、請求項9の発明によれば、実測データをもとに求めた回転角度位置とループ長さとの関係式から,回転軸の回転角度量をもとにループ長さの変化量を算出することが可能となる。
【0031】
また、請求項10の発明によれば、加工機側の材料送り速度とリールによる材料繰出し速度とに差が生じるとループの長さが変化し,そのループの長さの差により移動子が移動する。その移動子の位置が設定範囲に対してどの位置にあるかその移動子の位置を判定し,移動子の位置が設定範囲外にある場合は移動子が設定範囲内に入る方向へ移動するように減速指令又は加速指令をサーボモータ制御手段へ出力することが可能となるので、移動子位置が、絶えず設定範囲内になるよう,すなわち,ループの長さが設定範囲に収まるようにするとともに,加工機側の材料送り速度とリールによる材料繰出し速度とが同期するよう制御することが可能となる。
【0032】
また、請求項11の発明によれば、2個の定位置ローラ間の距離と設定された測定周期ごとの移動子の位置とから当該測定周期におけるループ長さの変化量を演算することが可能となる。
【0033】
また、請求項12の発明によれば、リールに環状に巻き取られ材料束を構成する材料はその一巻きの展開長はどの部分の一巻きもほぼ等しいので,リール回転速度のばらつきをより小さくすることができ,追従性のよい同期制御ができ,加工機の高速化が計れる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の材料送り装置は、上述したように構成したので以下に記載するような効果を奏する。
【0035】
請求項1の発明によれば、加工部へ材料送り手段により供給される連続した材料の材料送り速度を基に,リールから繰り出される材料の材料繰出し速度が材料送り手段による材料送り速度にほぼ一致するように,かつ加工機側の制御部とは無関係に,同期制御ができる。更に,高速での線材送りにも対応できるとともに、線材をなめらかに繰出すことができ,線材の変形を防止できる。更に、生産性の向上と品質の向上を図ることができるという利点がある。
【0036】
請求項2乃至12の発明によれば、加工部へ材料送り手段により供給される連続した材料の材料送り速度を基に,材料送り手段による材料送り速度とリールから繰り出される材料の材料繰出し速度に差が生じた場合,リールから繰り出される材料の材料繰出し速度が材料送り手段による材料送り速度にほぼ一致するように,かつ加工機側の制御部とは無関係に,同期制御ができる。同時に,その速度差はループにより吸収されるので,材料は過不足なくスムーズに加工部側へ供給され,高速での線材送りにも対応できるとともに、線材をなめらかに繰出すことができ,線材の変形も防止できる。更に、生産性の向上と品質の向上を図ることができるという利点がある。また、ループ変化量が小さくなる結果、移動子の動作範囲が小さくなりアンコイラ設置に要する所要面積を小さくできるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
加工機側の制御部とは無関係に,加工部へ供給される線材や帯材の材料送り速度を基に,リールから繰り出される材料の材料繰出し速度を加工部側の材料送り速度に同期制御できるようにした。
【実施例1】
【0038】
本発明は,線材や帯材の加工を行う加工機へ線材や帯材を供給する材料送り装置に係る発明である。実施例では線材加工機における線材の材料送り装置に係る実施の形態について、図1〜図5を参照して以下のとおり説明する。図1は本実施例に係る材料送り装置と加工機とを示す斜視図、図2は材料送り装置の線材ループ形成部の動作を示す斜視図、図3はテンションレバー角度位置が変化したときの線材ループを示す模式図、図4は制御ブロック図、図5はフローチャートである。
【0039】
材料送り装置は図1に示すように、線材Sに曲げ加工やコイリング加工などをする加工機1の加工部11へ材料送り手段12により供給される材料の材料送り量を検出するエンコーダ(請求項の材料送り量検出手段)5と、この加工機1に線材Sを供給するアンコイラ2と、アンコイラ2に設けられ移動子63Aを介してループを形成する線材ループ形成部(請求項の材料ループ形成手段)3と、移動子63Aの位置を検出する移動子位置検出部(請求項の移動子位置検出手段)6と、加工機1とアンコイラ2とを関連的に制御する数値制御部4とから構成されている。加工機1には、線材Sに各種の加工をする加工部11とフィードローラ用サーボモータ13により回転駆動される一対のフィードローラ12,12とが近接して機枠上部に設けらており、この一対のフィードローラ12,12に挟持されて線材Sがその回転量に応じた速度で加工部11に供給される。
【0040】
一対のフィードローラ12,12の一方のローラには,そのローラと一体の回転軸にエンコーダ5(請求項の材料送り量検出手段)が取り付けられていて,フィードローラ12,12の回転量を検出可能である。そして,その回転量とフィードローラ12,12の外周長とで,フィードローラ12,12により挟持されてその回転により加工部11へ供給される線材Sの材料送り量を演算することができる。ここで,エンコーダ5は,一対のフィードローラ12,12の一方のローラに取り付けたが,フィードローラ用サーボモータ13に内蔵のエンコーダを利用してもよい。
【0041】
また,図示しないが,別途,フィードローラ12,12近傍に材料を挟持可能な一対のローラを設け,その一方のローラにエンコーダを取り付け,その回転量をエンコーダで検出し,その回転量とローラの外周長とで,加工部11へ供給される線材Sの材料送り量を演算することもできる。また,材料送り量検出手段は,図示しないが,フィードローラ12,12近傍に設けられ材料の送り量移動量を検出可能な光学式測長器により検出するようにしてもよい。
【0042】
加工機1への線材Sの流れで、上流側すなわち図示右側の位置にアンコイラ2が設置されている。アンコイラ2は、リール台21上に立設された支柱22の軸心を中心に回転可能に支持された回転軸27と、この回転軸27上部にこの回転軸27と一体で回転可能な円板状のリール23が設けられている。リール23上面は、線材束Cを図示しないガイドポストで位置決めして載置可能となっている。また、回転軸27の中間位置には、ウオームホイール24が一体的に取り付けられ、このウオームホイール24には、リール台21上に取り付けられたリール用サーボモータ26により回転駆動されるウオーム25が噛み合っていて、リール23はリール用サーボモータ26により回転駆動される。
【0043】
線材ループ形成部3は、先端に線材Sを案内するガイド穴P1を持ち線材束Cの出口近傍リール台21の図示左側に取り付けられている固定スタンド66と、フィードローラ12,12とはリール23を挟んで反対側に、回転軸62を中心として揺動可能に取り付けられ、図示しない付勢体により常時図示右側に付勢された、先端に線材Sを案内するガイド穴Pを持つ移動子63Aが設けられたテンションレバー63と、加工機1への線材送りライン途中に設けられ、先端に線材Sの出口ガイド穴P2を持つ固定スタンド67とで構成されている。線材Sは、線材束Cの出口近傍のガイド穴P1を通り、テンションレバー63の先端の移動子63Aのガイド穴Pを通り、更に加工機1への線材送りライン途中の出口ガイド穴P2を通り、固定位置P1,P2と変動位置Pでなるループを形成しながら加工機1へと移動する。
【0044】
移動子位置検出部6は、リール台21の図示右側に取り付けの支持台61上に回転可能に水平に取り付けられた回転軸62と、回転軸62の一方端に取り付けられ回転軸62の回転角度位置を検出するエンコーダ64とで構成されている。そして、移動子63Aの位置は、テンションレバー63の揺動角度位置すなわち回転軸62の角度位置をエンコーダ64で検出することにより求めることができる。すなわち、既知の固定位置P1,P2に加え変動位置Pの3点を知ることができる。
【0045】
更に数値制御部(請求項の数値制御手段)4は、図4に示すように材料送り速度演算部(請求項の材料送り速度演算手段)51、ループ長さ演算部(請求項のループ長さ演算手段)56、繰出し半径演算部(請求項の繰出し半径演算手段)52、リール回転速度演算部(請求項のリール回転速度演算手段)53、移動子位置判定部(請求項の移動子位置判定手段)57、回転速度補正部(請求項の回転速度補正手段)54、各種記憶部を含むCPU40と、リール用サーボモータ26用のドライバ(請求項のサーボモータ制御手段)42とから構成されている。
【0046】
数値制御部4の移動子位置判定部57には、図2に示すテンションレバー63の角度位置、すなわち上限角度位置θH1、下限角度位置θL1、上極限角度位置θH2及び下極限角度位置θL2に対応する各位置が設定されていて、テンションレバー63がその位置にくるとそれぞれの信号を出力するようになっている。このテンションレバー63の角度位置θ、θH1、θL1、θH2、θL2に対応して移動子63Aの位置は図2に示すP、PH1、PL1、PH2、PL2となる。
【0047】
以上本発明の構成について説明したが、図4に基づき以下動作について説明する。
まず加工機1が起動すると加工機1の加工プログラムに従い,線材Sを挟持した一対のフィードローラ12,12が回転し、線材Sはフィードローラの回転により加工部11へと供給される。このとき,一対のフィードローラ12,12の一方のローラの回転軸に取り付けられたエンコーダ5により,ローラの回転に伴うパルスが検出されその信号が材料送り速度演算部51へ出力されカウントされる。
【0048】
材料送り速度演算部51においては、材料送り検出部のエンコーダ5から出力されるパルス信号を設定時間t当たり毎にカウントし,設定時間t当たりのローラ12の回転量が演算され,フィードローラ12,12の外周長とから,設定時間t当たりの材料送り量aが演算され,それらは材料送り速度演算部51に記憶される。設定時間t当たりの送り量aより設定時間t当たりの材料送り速度が解り,更には設定時間tをn数倍した測定周期(請求項の設定時間)T毎の材料送り速度V1が演算され,リール回転速度演算部53と繰出し速度演算部52へ出力される。このとき,設定時間t当たりのカウント数を順次記憶し,測定周期T間のカウント数を加算しそれを基に測定周期T間の材料送り量a更には材料送り速度V1を演算してもよい。さらに,材料送り速度V1は移動平均速度として求めて出力してもよい。
【0049】
ここで,設定時間tと測定周期Tとを加減することによりリール23の回転追従性を加減することができる。例えばt,Tを小さくすればフィードローラ12,12による材料送り速度に,より同期した速度でリール23を制御可能となる。t,Tを大きくすれば変化が緩和され,フィードローラによる材料送り速度が脈動していても、滑らかな安定した回転でリール23を制御することができる。
【0050】
また同時に、加工機1が起動すると,移動子位置検出部6において、エンコーダ64により常時検出しているテンションレバー63と一体で回動する回転軸62の回転角度位置(以下テンションレバー角度位置という)θを、ループ長さ演算部56が設定された測定周期Tごとに読み取る。ここで記憶部55に記憶した前回のテンションレバー角度位置θ0と今回のテンションレバー角度位置θ1のそれぞれから、後述のループ長さ演算式(式1)を用いて、それぞれのループ長さL0、L1を求め、更に後述のループ長さの変化量計算式(式2)を用いて、測定周期T間のループ長さの変化量ΔLを演算し、繰出し半径演算部52へ出力する。
【0051】
そして、繰出し半径演算部52において、後述の繰出し半径演算式(式3)を用いて、材料送り速度演算部51から出力の材料送り速度V1、ループ長さ演算部56から出力のループ長さの変化量ΔL、測定周期Tごとの前回のリール回転速度ω0(前回のサイクルで演算の今回のリール回転速度ω)、測定周期Tとで、繰出し半径rを求め、リール回転速度演算部53へ出力する。
【0052】
そして、リール回転速度演算部53において、材料送り速度演算部51から入力される材料送り速度V1と、繰出し半径演算部52から入力される繰出し半径rとで、次式を用いてリール回転速度ωを演算し、回転速度補正部54へ出力する。
ω=V1/r…(式4)
【0053】
他方において、加工機1が起動すると、移動子位置検出部6において,エンコーダ64により常時検出されているテンションレバー角度位置θは同時に、移動子位置判定部57で読み取られる。そして移動子位置判定部57において、この読み取られた今回のテンションレバー角度位置θ1が、記憶されているθL2、θL1、θH1、θH2のどの範囲にあるか判定し、その位置に対応した信号を回転速度補正部54に出力する。すなわち、θ1<θL2のとき設定値の減速回転速度Δω2を出力するために減速フラグDECを1に設定し、θ>θL1になると減速回転速度Δω2の出力を止めるために減速フラグDECを0に設定する。また、θ>θH2になると設定値の加速回転速度Δω1を出力するために加速フラグACCを1に設定し、θ<θH1になると加速回転速度Δω1の出力を止めるために加速フラグACCを0に設定する。
【0054】
回転速度補正部54においては、リール回転速度演算部53からリール回転速度ωが入力されるとともに、移動子位置判定部57からテンションレバー角度位置θ1の位置に対応して、減速フラグDECの1又は0、若しくは加速フラグACCの1又は0が入力される。減速フラグDEC又は加速フラグACCの1が入力された場合には、それをリール回転速度演算部53から入力のリール回転速度ωにΔω2又はΔω1を加算しその結果を、また、減速フラグDECおよび加速フラグACCの0が入力された場合には、何も加算されずにリール回転速度演算部53から入力のリール回転速度ωの値をそのまま、リール回転速度ωとして、リール用サーボモータ26を制御するドライバ42に出力する。そしてドライバ42がリール用サーボモータ26を制御し、リール用サーボモータ26によりリール23は回転速度ωで回転駆動され、線材Sはリール23から材料送り速度V1にほぼ同期した繰出し速度V2で供給される。
【0055】
このように、一対のフィードローラ12,12が回転し、線材Sは加工機1の加工プログラムに従ったフィードローラ12,12による材料送り速度で加工部11へと供給される。同時に、リール用サーボモータ26によりリール23は回転速度ωで回転駆動され、線材Sはリール23から材料送り速度V1にほぼ同期したリール23による材料繰出し速度V2で供給される。そのため、一対のフィードローラ12,12の回転に応じて加工部11に供給される線材Sのフィードローラ12,12による材料送り速度と、リール23の回転により繰り出される線材Sの材料繰出し速度V2との速度はほぼ一致する。この場合、設定時間tごとにおける過去のフィードローラ12,12による材料送り量を基に今回の材料送り速度V1を求めているので,一対のフィードローラ12,12による材料送り速度とリール23による材料繰出し速度V2とは,その時間的遅れによる微細な速度差が生じたり,速度V1が計算上の平均値であることによる実際の脈動する速度との瞬間的な速度差が生じるが、これはテンションレバー63の揺動によって吸収される。そして、テンションレバー63のこの揺動は、通常θL1、θH1の範囲内に収まるように制御される。
【0056】
もし、測定周期T内では変化している実際の繰出し半径rと、測定周期Tごとに(式3)により求めた繰出し半径rとの誤差、及び、実測値から求めたループ長さ演算式(式1)が近似式であることによる誤差等により、テンションレバー63がθL2、θH2の範囲からはみ出した場合は、それに応じて減速フラグDECの1又は加速フラグACCの1の信号が出され、リール23の回転速度ωが加減速されてテンションレバー63がθL1、θH1の範囲内に収まるように制御される。
【0057】
このように、材料送り速度演算部51から出力の材料送り速度V1と、繰出し半径演算部52から入力された繰出し半径rとで、(式4)を用いてリール回転速度ωを演算し、回転速度補正部54へ出力する。そして、リール用サーボモータ26により、リール23は回転速度ωで回転駆動され、リール23からの繰出し速度V2は、材料送り速度V1に同期した速度となる。しかしながら、加工部11へと供給されるフィードローラ12,12による材料送り速度V1と、上記したように、測定周期T内で変化している実際の繰出し半径rと、測定周期Tごとに(式3)により求めた繰出し半径rとの誤差、及び、実測値から求めたループ長さ演算式(式1)が近似式であることによる誤差等により、完全に一致しない。
【0058】
このとき、一対のフィードローラ12,12の回転量に応じて加工部11に供給される線材Sの材料送り速度V1と、リール23の回転量に応じて繰り出される線材Sの出口ガイド穴P2での繰出し速度V2との速度差によって、テンションレバー63は、V1>V2のとき図示左方向に傾き、V1<V2のとき図示右方向に傾く。このときのテンションレバー角度位置θは、揺動中心である回転軸62に取り付けられたエンコーダ64により検出される。このようにフィードローラ12、12により供給される線材Sの材料送り速度V1とリール23から繰出される線材Sの繰出し速度V2との速度差によるループ長さの変化量ΔLに追従して、テンションレバー63は左右に揺動し、そのときのテンションレバー角度位置θがエンコーダ64により検出され、その信号が数値制御部4へ送られる。
【0059】
テンションレバー角度位置θが、下極限角度位置θL2より小さいときリール用サーボモータ26は減速され、上極限角度位置θH2より大きいときリール用サーボモータ26は加速される。そして、テンションレバー角度位置θがθL1<θ<θH1のとき、加速減速ともストップし、θL1<θ<θH1に収まるように制御される。また上危険角度位置θH3に達すると異常信号が出力され機械停止するようにしたり、また、運転途中に下危険角度位置θL3以下になった場合には、減速度を大きくするかリール用サーボモータ26を停止するようにしてもよい。
【0060】
次に、前述のループ長さ計算式(式1)及びループ長さの変化量計算式(式2)について、説明する。
線材Sは、図2,3に示すように、線材束Cの出口近傍に設けられた固定のガイド穴P1、移動子63Aの変動のガイド穴P、更にループ終点位置に設けられた固定の出口ガイド穴P2を通ってループを形成しながら、加工機1へと移動する。このP1,P、P2間のループの長さ演算式は、線材束Cの種類ごとに実測することにより求めることができる。例えば、線材束Cをリール23上面にガイドポストで位置決めして載置し、線材束Cから繰り出した線材Sを各ガイド穴P1,P、P2を通しP2に固定する。すると、テンションレバー63が図示しない付勢体により常時図示右側に付勢されているので、ガイド穴Pは、線材Sを図示右側に引っ張り、位置P1,P、P2を含む楕円形状のループができる。このとき、リール上の線材束Cの繰出される部分の繰出し半径rと、P1,P2間のループの初期長さAを実測する。そして、リール用サーボモータ26によりリール23を一定角度αずつ回転し、線材Sを所定量Δs(=r・α)ずつ繰出し、そのときのテンションレバー角度位置θをエンコーダ64で検出し読み取る。そうすると、繰出し半径rとリール23の回転量αとループの初期長さAとテンションレバー角度位置θから、ループの長さA、A+Δs、A+2Δs、A+3Δs…に対するそれぞれのテンションレバー角度位置θが求まり、ループ長さLとテンションレバー角度位置θとの関係データ群を求めることができる。更にこれらの関係データ群をもとに、近似曲線の方程式を、例えば多項式近似の手法により求めることができる。この方程式の一般式は(式1)で表すことができる。この式により、テンションレバー角度位置θからループ長さLを近似的に演算することができる。
L=b+cθ+cθ+cθ+…+cθ…(式1)
この式のbとc…cは定数である。
【0061】
更に、この(式1)から求めた測定周期Tごとの今回のループ長さL1と前回のループ長さL0との差から、ループ長さの変化量ΔLを求めることができる。
ΔL=L1−L0…(式2)
【0062】
次に、前述の繰出し半径演算式(式3)について説明する。
測定周期Tごとのループ長さの変化量ΔLは、繰出し速度V2と材料送り速度V1との測定周期T間の供給量の差に等しい。前者は、線材束Cの繰出し半径rと測定周期Tごとの前回のリール回転速度ω0との積で求まる繰出し速度V2と測定周期Tとの積で求まり、後者は、材料送り速度V1と測定周期Tとの積で求まる。従って、測定周期Tごとのループ長さの変化量ΔLは次式で求めることができる。
ΔL=r・ω0・T−V1・T
この式より、繰出し半径rは次式より求めることができる。
r=(V1+ΔL/T)・(1/ω0)…(式3)
すなわち、測定周期Tごとのループ長さの変化量ΔL、材料送り速度V1、測定周期Tごとの前回のリール回転速度ω0、及び測定周期Tにより、この(式3)を用い線材束Cの繰出し半径rを求めることができる。
【0063】
このようにして求められた今回のリール回転速度ωをもとに、ドライバ42からリール用サーボモータ26に回転速度指令が与えられ、リール23の回転速度がωになるよう制御される。したがって、リール23から供給される線材Sの供給速度は材料送り速度V1と同じ供給速度で供給されることになる。また、加速回転速度Δω1又は減速回転速度Δω2が加算されていたときには、リール23から供給される線材Sの繰出し速度V2の速度がその分変わり、テンションレバー角度位置θが正常位置θL1<θ<θH1に修正される。
【0064】
このように、材料送り速度V1やリール23の繰出し半径rが変化しても、測定周期Tごとの速度差によるループ長さの変化量ΔLと材料送り速度V1とからリール23の繰出し半径rを推定し、その繰出し半径rと材料送り速度V1に応じた今回のリール回転速度ωを求めるようにしたので、リール23から繰り出される繰出し速度V2は材料送り速度V1に自動的に追従することが可能となる。したがって、リール23から繰り出される線材Sは、線材束径の全範囲に亘って加工機1側の線材Sの供給速度に自動的に追従した速度で繰出される。
【0065】
また、線材Sの加工機1側の材料送り速度V1とリール23側の繰出し速度V2とに速度差が生じると、テンションレバー63が揺動し、移動子位置検出部6により測定周期Tでのテンションレバー角度位置θ1を検出する。そして、前回のテンションレバー角度位置θ0と今回のテンションレバー角度位置θ1とからループ長さの変化量ΔLが求められ、更に前回のリール回転速度ω0などから線材束Cの繰出し半径rが求められ、次に材料送り速度V1から今回のリール回転速度ωが再度求められる。材料送り速度V1に追従可能なリール23の回転速度ωを求めて、ドライバ42の指令でリール用サーボモータ26の回転速度を制御するものである。このように加工機1側の線材Sの材料送り速度V1と繰出し速度V2とに速度差が生じても、そのときのテンションレバー角度位置θの変化を検出しリールの回転速度V2が自動的に変更されるので、リール側から繰り出される線材Sは自動的に加工機1側の材料送り速度V1に追従した速度で繰出される。
【0066】
次に、作動手順について、図5に基づき説明する。ここで、以下の説明に用いる符号の各単位は、テンションレバー角度位置θ(rad)、ループ長さの変化量ΔL(mm)、線材束Cの繰出し半径r(mm)、測定周期T(s)、供給速度V(mm/s)、リール回転速度ω(rad/s)である。
【0067】
加工機1が起動すると、ステップS1において、材料送り量検出部においてエンコーダ5で検出のパルスを材料送り速度演算部51でカウント始める。また,繰出し半径演算部52に記憶されている測定周期Tごとの前回のリール回転速度ω0の値は、前回のサイクルにおいて今回のリール回転速度であったωの値に更新され記憶される。また、同様に記憶部55に記憶されている前回のテンションレバー角度位置θ0の値は、前回のサイクルにおいて今回のテンションレバー角度位置であったθ1の値に更新され記憶される。つぎに、ステップS2では、移動子位置検出部6により今回のテンションレバー角度位置θ1を検出し、ループ長さ演算部56及び移動子位置判定部57に入力しておく。
【0068】
次のステップS3において、材料送り速度演算部51において、パルスのカウント値をもとに材料送り速度V1を算出し,リール回転速度演算部53および繰出し半径演算部52に出力する。
【0069】
次のステップS4では、ループ長さ演算部56において,ループ長さの変化量ΔLを(式2)に示す数式により算出し繰出し半径演算部52に出力する。次のステップS5では、繰出し半径演算部52において、(式3)に示す数式により線材束Cの繰出し半径rを算出し、リール回転速度演算部53へ出力する。次のステップS6では、リール回転速度演算部53において、(式4)に示す数式により、材料送り速度V1から線材束Cの繰出し半径rに対応する今回のリール回転速度ωを算出し回転速度補正部54へ出力する。
【0070】
次のステップS7では、移動子位置判定部57において、今回のテンションレバー角度位置θ1がθ1<θL2であるか否かが判定され、yesである場合は次のステップS8に進み、減速フラグDECを信号有りの1に設定する。また、ステップS7でnoの場合は、次のステップS8をジャンプしてステップS9に進む。次のステップS9では、移動子位置判定部57において、今回のテンションレバー角度位置θ1がθ1>θL1であるか否かが判定され、yesである場合は次のステップS10に進み、減速フラグDECを信号無しの0に設定する。また、ステップS9でnoの場合は、次のステップS10をジャンプしてステップS11に進む。
【0071】
次のステップS11では、移動子位置判定部57において、今回のテンションレバー角度位置θ1が、θ1>θH2であるか否かが判定され、yesである場合は次のステップS12に進み、加速フラグACCを信号有りの1に設定する。また、ステップS11でnoの場合は次のステップS12をジャンプしてステップS13に進む。次のステップS13では、移動子位置判定部57において、今回のテンションレバー角度位置θ1が、θ1<θH1であるか否かが判定され、yesである場合は次のステップS14に進み、加速フラグACCを信号なしの0にクリアする。また、ステップS13でnoの場合は、次のステップS14をジャンプしてステップS15に進む。
【0072】
次のステップS15では、移動子位置判定部57に減速フラグDECが信号有りの1に設定されているか否かが判定され、yesの場合は次のステップS16に進み、回転速度補正部54において今回のリール回転速度ωは設定の減速回転速度Δω2を加算した値ω+Δω2に置換され、今回のリール回転速度ωとして図1に示すドライバ42へ伝送される。また、この今回のリール回転速度ωは、ステップS5において、(式3)に示す数式により線材束Cの繰出し半径rを算出する際に、前回のリール回転速度ω0として、代入される。
【0073】
また、ステップS15でnoの場合はステップS17において、移動子位置判定部57に加速フラグACCが信号有りの1に設定されているか否かが判定され、yesの場合は次のステップS18に進み、回転速度補正部54において今回のリール回転速度ωは、設定の加速回転速度Δω1を加算した値に置換され、今回のリール回転速度ωとして図1に示すドライバ42へ伝送される。また、この今回のリール回転速度ωは、ステップS5において、(式3)に示す数式により線材束Cの繰出し半径rを算出する際に、前回のリール回転速度ω0として、代入される。なお、ステップS17でnoの場合は、移動子位置判定部57に加速フラグACC、減速フラグDECのいずれも信号なしの0にクリアされているから、一定な設定値の加速回転速度Δω1、減速回転速度Δω2のいずれも加算されず、今回のリール回転速度ωはそのまま保持され今回のリール回転速度ωとして、図1に示すドライバ42へ伝送する。
【0074】
次のステップS19において、上記のようにして求められた今回のリール回転速度ωにもとづきドライバ42の指令で、リール23を駆動するリール用サーボモータ26の回転速度を制御し、リール23のリール回転速度がωになるよう回転制御される。その結果、繰出し速度V2は、線材束Cの繰出し半径rと今回のリール回転速度ωの積で求められる速度でリール側から繰り出され、材料送り速度V1になるように制御される。このようにリールの回転速度は、線材Sの繰出し速度V2が材料送り速度V1になるように制御されるとともに、図2に示すテンションレバー角度位置θが設定の上限角度位置θH1と下限角度位置θL1との間を維持するように制御されて、制御の1サイクルを終え、このサイクルが繰り返される。
【0075】
(他の実施例)
前記実施例ではテンションレバー63によるループ形成手段を設けたが、他の実施例として、図6に示すように,ダンサロール63Bを移動子としてループ形成手段3Aを設けループを形成するとともに、ダンサロール63Bの位置を検出する移動子位置検出手段64Bを設け、ダンサロール63Bの位置h1を検出してループの長さの変化量ΔLを求め、その他実施例1と同様な同期制御を行うようにしてもよい。ここで,bは固定ロール間のピッチである。bとダンサロール63Bの位置h1とで,固定ロールとダンサロール63Bとで形成されるループの長さを求めることができる。そして,測定周期T毎のループの長さにより測定周期T間のループ長さの変化量ΔLを演算することができる。
【0076】
なお、本発明に係る材料送り装置は、上述した実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲においてさまざまな形態に構成することができる。例えば、一方に付勢され直線的に往復動可能なスライドを設け、このスライドを移動子としてループを形成する線材ループ形成手段を設けループを形成するとともに、スライドの位置を検出する移動子位置検出手段を設けスライドの位置を検出してループの長さの変化量ΔLを求め、その他実施例1と同様な同期制御を行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明に係る材料送り装置を示す斜視図である。
【図2】同じく、材料送り装置の線材ループ形成部の動作を示す斜視図である。
【図3】同じく、テンションレバー角度位置が変化したときの線材ループを示す模式図である。
【図4】同じく、制御ブロック図である。
【図5】同じく、フローチャートである。
【図6】他の実施例におけるループ形成手段を示す図である。
【図7】従来技術の特許文献1に開示された材料素線間欠送り出し装置の使用状態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0078】
1 加工機
2 アンコイラ
3 ループ形成部
4 数値制御部
6 移動子位置検出部(移動子位置検出手段)
11 加工部
12 フィードローラ
13 フィードローラ用サーボモータ
23 リール
26 リール用サーボモータ
51 材料送り速度演算部(材料送り速度演算手段)
52 繰出し半径演算部(繰出し半径演算手段)
53 リール回転速度演算部(リール回転速度演算手段)
54 回転速度補正部(回転速度補正手段)
56 ループ長さ演算部(ループ長さ演算手段)
57 移動子位置判定部(移動子位置判定手段)
62 回転軸
63 テンションレバー
63A 移動子
64 エンコーダ
C 線材束
L0、L1 ループ長さ
ΔL ループ長さの変化量
P ガイド穴
P1 ガイド穴
P2 出口ガイド穴
r 材料束の繰出し半径
S 線材
V1 材料送り速度
V2 繰出し速度
ω0 前回のリール回転速度
ω 今回のリール回転速度
θ0 前回のテンションレバー角度位置
θ1 今回のテンションレバー角度位置
θH1 上限角度位置
θL1 下限角度位置
θH2 上極限角度位置
θL2 下極限角度位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工部へ材料送り手段により供給される連続した材料の材料送り量を検出する材料送り量検出手段と,
前記材料送り量検出手段により検出された前記材料送り量に基づき材料送り速度を演算する材料送り速度演算手段と,
前記材料が環状に巻き取られた材料束を載置可能で自転することにより前記載置された材料束から前記材料を前記材料送り手段へ繰出すリールと,
前記リールに載置された前記材料束から繰り出される前記材料の繰出し半径を決定する繰出し半径演算手段と,
前記材料送り速度と前記繰出し半径とを基にリール回転速度を演算するリール回転速度演算手段と,
前記リール回転速度に基づき前記リールを回転駆動するリール用サーボモータを制御するサーボモータ制御手段と,
前記材料送り速度演算手段と前記リール回転速度演算手段と前記サーボモータ制御手段を含む数値制御手段とを設け,
前記材料送り手段により前記加工部へ供給される材料の材料送り量を基に前記リールの回転速度を制御し,前記材料送り速度に前記リールによる材料繰出し速度を追従させるようにしたことを特徴とする材料送り装置。
【請求項2】
加工部へ材料送り手段により供給される連続した材料の材料送り量を検出する材料送り量検出手段と,
前記材料送り量検出手段により検出された前記材料送り量に基づき材料送り速度を演算する材料送り速度演算手段と,
前記材料が環状に巻き取られた材料束を載置可能で自転することにより前記載置された材料束から前記材料を前記材料送り手段へ繰出すリールと,
前記材料送り手段と前記リールとの間に移動子を介して材料のループを形成するループ形成手段と,
前記移動子の位置を検出する移動子位置検出手段と,
前記移動子位置検出手段で検出した前記移動子の位置データにより測定周期間におけるループ長さ変化量を演算するループ長さ演算手段と,
前記材料送り速度と前記ループ長さ変化量と測定周期ごとの前回のリール回転速度と前記測定周期とから前記リールに載置された前記材料束から繰り出される前記材料の繰出し半径を演算する繰出し半径演算手段と,
前記材料送り速度と前記繰出し半径とを基に今回のリール回転速度を演算するリール回転速度演算手段と,
前記リール回転速度に基づき前記リールを回転駆動するリール用サーボモータを制御するサーボモータ制御手段と,
前記材料送り速度演算手段と前記ループ長さ演算手段と前記繰出し半径演算手段と前記リール回転速度演算手段と前記サーボモータ制御手段を含む数値制御手段とを設け,
前記材料送り速度と前記リールから繰り出される前記材料の前記繰出し半径とを基に前記リール回転速度を制御するようにし,前記材料送り手段による前記材料送り速度に前記リールによる材料繰出し速度を追従させるようにしたことを特徴とする材料送り装置。
【請求項3】
前記材料送り量検出手段は,前記加工部の上流側に設けられ前記材料を挟持可能な一対のローラの回転量をエンコーダにより検出し前記材料の送り量に換算可能にしたことを特徴とする請求項1乃至2に記載の材料送り装置。
【請求項4】
前記材料送り量検出手段は,前記加工部の上流側に設けられ前記材料の送り量を検出可能な光学式測長器により検出するようにしたことを特徴とする請求項1乃至2に記載の材料送り装置。
【請求項5】
前記材料送り速度演算手段は,前記材料送り量検出手段により検出された設定時間当たりの送り量より材料送り速度を演算し,設定時間毎に制御部へ出力するようにしたことを特徴とする請求項1乃至4に記載の材料送り装置。
【請求項6】
前記ループ形成手段は,前記材料が前記リールの前記材料束から離れる出口近傍に取り付けられ材料を案内可能なガイド穴と,前記加工部とは前記リールを挟んだ反対側に前記リール台に回転可能に軸支された回転軸を中心として前記加工部方向へ揺動可能に取り付けられかつ前記加工部とは逆方向に付勢体により付勢されたテンションレバーに設けられ前記材料を案内可能な前記移動子と,前記ガイド穴から前記移動子を通り前記加工部へループを形成しながら移動する前記材料の通過位置に取り付けられ,前記リール台に固定の出口ガイド穴とで構成し,
前記材料が前記リールの前記材料束から離れ前記ガイド穴と前記移動子と前記出口ガイド穴とに案内されながら前記ループを形成し前記材料送り手段へと移動する際に,前記材料送り手段による前記材料送り速度と前記リールによる前記材料繰出し速度とに差が生じたときに,この差に応じて前記移動子が前記回転軸を中心として移動するようにしたことを特徴とする請求項2乃至5に記載の材料送り装置。
【請求項7】
前記移動子位置検出手段は,前記回転軸の回転角度位置を検出するようにしたことを特徴とする請求項2乃至6に記載の材料送り装置。
【請求項8】
前記移動子位置検出手段により検出された前記移動子の位置が設定範囲に対しどの位置にあるかを判定する移動子位置判定手段と前記移動子の位置が設定範囲から外れたときにその位置に応じて加速回転速度又は減速回転速度を前記今回のリール回転速度に加算して補正する回転速度補正手段とを前記数値制御手段に設け,前記回転速度補正手段で補正されたあとの今回のリール回転速度をサーボモータ制御手段へ出力することを特徴とする請求項2乃至7に記載の材料送り装置。
【請求項9】
前記ループ長さ演算手段は,実測データから求めた前記回転角度位置と前記ループ長さとの関係式をもとにループ長さの変化量を算出するループ長さ演算式が設けられていることを特徴とする請求項2乃至8に記載の材料送り装置。
【請求項10】
前記ループ形成手段は,前記材料送り手段による前記材料送り速度と前記リールによる前記材料繰出し速度との速度差により前記材料送り手段と前記リールとの間において前記材料のループ長が変化することにより2個の定位置ローラ間で上下移動する移動子を介して材料のループを形成するようにしたことを特徴とする請求項2乃至5に記載の材料送り装置。
【請求項11】
ループ長さ演算手段は,前記2個の定位置ローラ間の距離と設定された測定周期ごとの前記移動子の位置とから当該測定周期におけるループ長さの変化量を演算するようにしたことを特徴とする請求項2乃至5及び10に記載の材料送り装置。
【請求項12】
前記リールに環状に巻き取られ材料束を構成する前記材料はその一巻きの展開長はどの部分の一巻きもほぼ長さが等しいことを特徴とする請求項2乃至11に記載の材料送り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−130530(P2006−130530A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−321999(P2004−321999)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(000116976)旭精機工業株式会社 (56)
【Fターム(参考)】