条件付き脱同期化刺激のための装置および方法
電気的な第1の刺激21を生成し、第1の刺激21が、患者の脳もしくは脊髄またはその両方に印加されたとき、患者の脳もしくは脊髄またはその両方におけるニューロンの病的に同期した活動を抑制する、第1の刺激ユニット11と、光、音響的、触覚、振動性の第2の刺激22を生成する第2の刺激ユニット12と、第1、第2の刺激ユニット11、12を制御するコントローラ10と、を備えており、第1、第2の刺激21、22の生成が、随意に第1、第2の動作モードにおいて行われ、第1の動作モードにおいては第2の刺激22の少なくとも60%の生成が第1の刺激21の生成に時間的に連結されており、かつ、第2の動作モードにおいては第2の刺激22の少なくとも60%の生成が第1の刺激21の生成なしに行われるように、コントローラ10が第1、第2の刺激ユニット11、12を作動させる、装置100を記載する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、条件付き脱同期化刺激のための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
神経系疾患または精神病(例えばパーキンソン病、本態性振戦、ジストニア、強迫性障害)の患者の場合、神経細胞網は、脳の局所的な領域(例えば視床および大脳基底核)における病的な(異常な)活動(例えば過度に同期した活動)を示す。この場合、多数のニューロンが同期して活動電位を形成し、すなわち、関与するニューロンが過度に同期して発火する。対照的に、健康な人では、脳のこれらの領域におけるニューロンの発火は質的に異なる(例えば相関性がない)。
【0003】
パーキンソン病の場合、病的に(異常に)同期した活動によって、脳の別の領域(例えば、一次運動野などの大脳皮質の領域)におけるニューロンの活動が変化する。この場合、視床および大脳基底核の領域における病的に同期した活動によって、その律動性が例えば大脳皮質などの領域に影響し、したがって最終的には、後者の領域によって制御される筋肉が病的な活動(例えば律動性の震え(振戦))を示す。
【0004】
過度に強いニューロンの同期による神経系疾患および精神病は、現在、薬物療法による効果がない場合、脳の電気刺激によって治療されている。
【発明の概要】
【0005】
このような背景において、請求項1による装置と、請求項16および請求項17によるさらなる装置と、請求項18による方法とを開示する。本発明の有利な発展形態および実施形態は、従属請求項に開示されている。
【0006】
以下では、本発明について図面を参照しながら例示的にさらに詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】例示的な実施形態による、条件付き脱同期化刺激のための装置100の、動作時における概略図
【図2A】装置100の2種類の動作モードの概略図
【図2B】装置100の2種類の動作モードの概略図
【図3】さらなる例示的な実施形態による、条件付き脱同期化刺激のための装置300の、動作時における概略図
【図4】刺激電極14の例示的な実施形態の概略図
【図5】刺激電極14を有する装置100の、動作時における概略図
【図6】複数の刺激接触面によって印加される特効性の電気刺激の概略図
【図7】複数の刺激接触面によって印加される電気パルス列のシーケンスの概略図
【図8】電気パルス列の概略図
【図9】図6に示した刺激のバリエーションの概略図
【図10】図6に示した刺激のさらなるバリエーションの概略図
【図11】例示的な実施形態による、条件付き脱同期化刺激のための装置100の、動作時における概略図
【図12A】非特効性の光刺激、音響刺激、触刺激、および振動刺激を生成および印加する刺激ユニットの例示的な実施形態の概略図
【図12B】非特効性の光刺激、音響刺激、触刺激、および振動刺激を生成および印加する刺激ユニットの例示的な実施形態の概略図
【図13】音響刺激を発生および印加する刺激ユニットのさらなる例示的な実施形態の概略図
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、条件付き脱同期化刺激のための装置100を概略的に示している。この装置100は、制御ユニット10と、第1の刺激ユニット11と、第2の刺激ユニット12とからなる。第1の刺激ユニット11は電気的な第1の刺激21を生成し、第2の刺激ユニットは感覚的な第2の刺激22を生成する。感覚的な第2の刺激22は、光刺激、音響刺激、触刺激、振動刺激から成る群からの1つまたは複数の刺激である。制御ユニット10は、2つの刺激ユニット11,12を制御信号23,24によって制御する役割を果たす。
【0009】
装置100は、特に、神経系疾患または精神病(例えば、パーキンソン病、本態性振戦、ジストニア、てんかん、多発性硬化症に起因する振戦またはその他の病的振戦、鬱病、運動障害、小脳疾患、強迫性障害、トゥレット症候群、脳卒中および脳梗塞後の機能障害、痙性、耳鳴り、睡眠障害、統合失調症、物質依存症、人格障害、注意力欠如障害、注意欠陥多動性障害、病的賭博、神経症、過食症、燃え尽き症候群、線維筋痛、偏頭痛、群発頭痛、一般的な頭痛、神経痛、運動失調、チック障害、筋緊張高進)の治療に使用することができ、さらには他の病気の治療にも使用することができる。
【0010】
上に挙げた病気は、特定の回路内に結合されている神経回路網の生体電気による伝達の障害に起因することがある。この場合、ニューロン集団は、異常な(病的な)ニューロン活動、場合によってはニューロン活動に関連付けられる異常な結合性(網構造)を、絶え間なく発生させる。このプロセスにおいては、多数のニューロンが同時に活動電位を形成し、すなわち、関与するニューロンが過度に同期して発火する。さらには、病的なニューロン集団は振動性のニューロン活動を示し、すなわち、ニューロンは律動的に発火する。神経系疾患または精神病の場合、影響下にある神経回路網の異常な(病的な)律動的活動の平均周波数は、およそ1〜30Hzの範囲内にあるが、この範囲外であることもある。対照的に、健康な人では、ニューロンの発火は質的に異なる(例えば相関性がない)。
【0011】
図1において、装置100は、意図する動作状態において示してある。動作時、電気的な第1の刺激21が、患者の脳29もしくは脊髄29またはその両方に印加される。患者の脳29または脊髄29の中の少なくとも1つのニューロン集団30は、上述したように病的に同期したニューロン活動を有する。第1の刺激ユニット11は、第1の刺激21を生成して印加する目的で、生成器ユニット13と少なくとも1個の刺激電極14とを含んでいることができる。生成器ユニット13は第1の刺激21を生成し、この刺激は、適切な接続線によって刺激電極14に送られる。刺激電極14は、患者の脳29の中または脊髄29の領域内に手術によって配置されており、第1の刺激21は、病的な活動を有するニューロン集団30に印加される、または、少なくとも脳29または脊髄29の領域に印加され、そこから神経系を介して、病的な活動を有するニューロン集団30に伝達される。第1の刺激21は、ニューロン集団30の病的に同期した活動を抑制するように、またはニューロン集団30の脱同期化をもたらすように具体化されている。第1の刺激21は治療効果のある電気刺激であるため、これを「特効性の("specific")」刺激とも称する。
【0012】
第2の刺激ユニット12は、第2の刺激22として、光刺激、音響刺激、触刺激、振動刺激のうちの1つまたは複数を生成する。光の第2の刺激22および音響的な第2の刺激22は、それぞれ、患者の目および耳から取り込まれて神経系に伝達される。触覚の第2の刺激22は、圧力もしくは接触またはその両方の刺激とすることができ、患者の皮膚に存在している受容体によって記録される。具体的には、これらの受容体としては、メルケル細胞およびルフィニ終末(これらは圧力受容体として、具体的には強度検出器として機能する)と、マイスナー小体および毛包受容器(これらはタッチセンサとして、具体的には速度検出器として機能する)とが挙げられる。振動性の第2の刺激22は、皮膚の表面の感受性に関連する触覚の第2の刺激22とは異なり、主として深部の感受性を対象とする。振動の第2の刺激22は、患者の皮膚、筋肉、皮下組織、あるいは腱に存在している受容体によって記録することができる。振動性の第2の刺激22の受容体としては、一例としてパチーニ小体が挙げられ、振動を感じ加速度を検出する。
【0013】
第2の刺激22は、患者が意識的に知覚することができ、特に、患者にとって不快ではない。感覚的な第2の刺激22は、単独で(すなわち後述するように学習段階における第1の刺激21との相互関係なしで)印加されたときには、ニューロン集団30の異常に(病的に)同期したニューロン活動に対する脱同期化効果あるいは同時発生率を下げる効果がまったく、またはほとんどない。したがって、第2の刺激ユニット12によって印加される第2の刺激22を、「非特効性の」刺激とも称する。
【0014】
第1の刺激21および第2の刺激22を印加する目的で、装置100は、2種類の動作モードで動作させることができる。一例として、各動作モードを指定する、または制御ユニット10によって選択することができる。制御ユニット10は、選択された動作モードに従って2つの刺激ユニット11および12を作動させる。
【0015】
第1の動作モード(学習段階とも称する)においては、非特効性の第2の刺激22は、その少なくとも一部分が、特効性の第1の刺激21の印加と時間的に連結された状態で(coupled closely in time)患者に印加され、すなわち第1の動作モードにおいては、第1の刺激21および第2の刺激22が少なくとも部分的に対で印加される。これにより、患者の神経系が条件付けられる、すなわち、神経系は、特効性の第1の刺激21がたとえ印加されない場合でも、特効性の第1の刺激21に反応するのと同じように非特効性の第2の刺激22に反応するように学習する。このことを利用して、実際の刺激段階である第2の動作モードにおいては、第1の刺激21および第2の刺激22がつねに対で印加されるのではなく、第1の刺激21および第2の刺激22のそのような対の間に非特効性の第2の刺激22がさらに単独で印加される。第1の動作モード(すなわち学習段階)において患者の神経系の条件付けが達成される結果として、第2の刺激22も治療効果をもたらすため、第2の動作モード(すなわち実際の刺激段階)において、治療のために患者の組織内に入力する必要のある電流が低くなる。従来の脳の電気刺激と比較すると、本装置100によって、入力電流を例えば最大で1/10以下に低減することができる。
【0016】
入力電流が大幅に小さくなる利点として、副作用の発生確率が大幅に減少する。この理由は、印加される刺激電流の量が増すほど、ターゲット領域のみならず隣接する領域も刺激されてしまう確率が高まるためである。これにより多数の副作用(当業者に公知である)が生じ、いくつかの副作用は患者にとって極めて不快である。
【0017】
従来の刺激法よりも入力電流が低いことのさらなる利点として、刺激を目的とする入力電流が小さいことに対応して、生成器ユニット(通常は患者に埋め込まれる)に要求されるエネルギが大幅に減少する。生成器ユニットの寸法はバッテリの大きさによってほぼ決まるため、より小型の生成器ユニットを設計することができる。これによって、特に外観上の理由で患者の快適性が大きく向上する。さらには、生成器の袋部(pouch)(生成器ユニットの寸法に対応する)における感染症の危険性が減少する。生成器ユニットの寸法にもよるが、現在利用されている生成器ユニットにおける感染症の危険性は約5%である。すなわち、患者の約5%は、生成器ユニットを埋め込んだ後、生成器の袋部(すなわち生成器ユニットの周囲の組織)において感染症を発症する。入力電流が大幅に減少する結果として、最終的に生成器の寸法を最小にすることができ、例えば、頭蓋骨にあけた穴に生成器ユニット全体を配置することができる。
【0018】
図2Aおよび図2Bは、第1の動作モードおよび第2の動作モードにおける第1の刺激21および第2の刺激22の印加の違いを、グラフの形で例示的に示している。図2Aには、第1の時間間隔Δt1および第2の時間間隔Δt2を上下に重ねて時間tに対してプロットしてあり、これらの時間間隔の間、第1の動作モードにおいて第1の刺激21および第2の刺激22が生成されて患者に印加される。時間間隔Δt1およびΔt2は、この学習段階においては対で生成される。刺激21および刺激22が対で印加される結果として、患者の脳29もしくは脊髄29またはその両方が条件付けられる、すなわち、学習段階が過ぎると(例えば、2つ以上の対の時間間隔Δt1,Δt2の後には)、特効性の第1の刺激21なしで印加される非特効性の第2の刺激22によっても、特効性の第1の刺激21のように治療効果がもたらされる。この学習段階の前では、非特効性の第2の刺激22は治療効果をもたらさない。
【0019】
特効性の第1の刺激21が印加される時間間隔Δt1の持続時間は、例えば30分〜6時間の範囲内であるが、この範囲外とすることもできる。非特効性の第2の刺激22が印加される時間間隔Δt2の持続時間は、例えば10分〜6時間の範囲内であるが、この範囲外とすることもできる。第1の動作モードにおいては、一例として、時間間隔Δt1は、それぞれに対応する時間間隔Δt2と重なっている。この重なりΔt12は、例えば、対応する時間間隔Δt2の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%、もしくは100%に等しい。時間間隔Δt1と時間間隔Δt2が互いに対応している場合、図2Aに示したように、最初に時間間隔Δt2を開始させることができる。しかしながら、これに代えて時間間隔Δt1を最初に開始させることができる。第1の刺激21および第2の刺激22の連続する対の間には中断が存在しており、この中断の長さΔtPauseは、例えば3時間〜24時間の範囲内とすることができる。時間間隔Δt1,Δt2および重なり期間ΔtPauseの長さは、刺激段階の間に変化させることができる。学習段階の持続時間(すなわち装置が第1の動作モードで動作している時間)は、指定することができ、例えば、指定された数の時間間隔Δt1およびΔt2の対を備えていることができる。
【0020】
以下では、学習段階における第1の刺激21および第2の刺激22の印加の例について説明する。一例によると、第1の刺激21および第2の刺激22を、それぞれ、6時間の時間間隔Δt1および6.25時間の時間間隔Δt2だけ印加することができ、この場合、時間間隔Δt2が時間間隔Δt1の15分前に始まり、したがって両方の時間間隔Δt1およびΔt2が同時に終了する。例えば6時間の中断ΔtPauseの後、このプロセスを繰り返すことができる。神経系の迅速な学習または条件付けを達成する目的で、学習イベント(すなわち第1の刺激21および第2の刺激22の対での印加)の数を、この例よりもさらに増やすことができる。したがって、時間間隔Δt1およびΔt2を例えばそれぞれ3時間および3.125時間に減らすことができ、この場合、時間間隔Δt2が時間間隔Δt1の7.5分前に始まる。例えば3時間の中断ΔtPauseの後、連結された刺激を再び行うことができる。
【0021】
連結された第1の刺激21および第2の刺激22を2回印加すると、おそらくは学習効果を確立することができる。神経系の条件付けとして、できるかぎり堅牢・強固であり、実際の刺激段階時にできるかぎり長時間にわたり使用できる条件付けを設計する目的で、学習段階中に(すなわち第1の動作モード中に)例えば10〜50回の対での印加を行うことが可能である。
【0022】
学習段階中、時間間隔Δt2それぞれが時間間隔Δt1に対応している必要はない。一例として、連結された時間間隔Δt1およびΔt2の特定の回数の後に、時間間隔Δt1またはΔt2を挿入することができ、挿入する時間間隔は、対応する時間間隔Δt2またはΔt1に連結されておらず、その時間間隔の間は、第1の刺激21または第2の刺激22のみが生成および印加される。第1の動作モードにおいては、一例として、時間間隔Δt2の少なくとも50%、60%、70%、80%、または90%、もしくは100%を、対応する第1の時間間隔Δt1に連結することができる。さらには、第1の動作モードにおいては、時間間隔Δt1の少なくとも50%、60%、70%、80%、または90%、もしくは100%を、対応する第1の時間間隔Δt2に連結することができる。
【0023】
第1の動作モードにおいて行われる学習段階の後、実際の刺激段階が行われる。この目的のため、制御ユニット10は第2の動作モードに切り替える。図2Bには、時間間隔Δt1およびΔt2を上下に重ねて時間tに対して例示的にプロットしてあり、これらの時間間隔の間、第2の動作モードにおいて第1の刺激21または第2の刺激22が生成および印加される。
【0024】
実際の刺激段階においては、学習段階中に達成される患者の神経系の条件付けの結果として、非特効性の第2の刺激22も治療効果を持つことを利用する。このため、学習段階とは異なり、第1の刺激21および第2の刺激22からなる対が主として印加されるのではなく、時間間隔Δt2の間に第2の刺激22のみが繰り返して印加され、これら第2の刺激は第1の刺激21の印加に連結されていない。第2の動作モードにおいては、一例として、時間間隔Δt2の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%、もしくは100%が、時間間隔Δt1に対応しておらず、すなわち、全体として、第2の動作モードにおける時間間隔Δt1の数は、第2の時間間隔Δt2の数より少ない。一実施形態によると、第2の動作モードにおいて、時間間隔Δt2に連結されていない時間間隔Δt1を、ときおり挿入することもできる。さらなる実施形態によると、第2の動作モードにおいては、例えば、すべての時間間隔Δt2が時間間隔Δt2に対応していないようにすることもできる。
【0025】
第2の動作モードにおいては、特効性の第1の刺激21および非特効性の第2の刺激22からなる対「P」と、個別に印加される非特効性の刺激「U」とを、例えば周期的なシーケンスにおいて、例えば、「P−P−U−U−U−P−P−U−U−U−P−P−U−U−U−…」というシーケンスとして、印加することができる。しかしながら、非特効性の第2の刺激22を単独で挿入するためのこの時系列パターンは、決定論的もしくは確率論的、またはその混合型によるパターンとすることもでき、例えば、「P−P−U−U−U−P−P−U−U−U−U−U−P−P−U−U−U−P−P−U−U−P−P−U−U−U−U−U−P−P−U−U−U−…」などのシーケンスを選択することができる。
【0026】
装置100によって達成される刺激の効果は、例えば、測定ユニットを利用して監視することができる。図3は、このような測定ユニット15を含んでいる装置300を概略的に示している。装置300の残りの構成要素は、図1に示した装置100と同じである。測定ユニット15は、患者において測定される1つまたは複数の測定信号25を記録し、必要な場合にこれらの測定信号を電気信号26に変換し、これらの信号を制御ユニット10に送信する。特に、測定ユニット15は、刺激されているターゲット領域におけるニューロン活動、すなわち例えば、図3に概略的に示したニューロン集団30におけるニューロン活動を測定することができ、あるいは、ニューロン集団30に結合されている領域のニューロン活動を測定することができる。
【0027】
測定ユニット15は、1つまたは複数のセンサの形で患者の身体に埋め込むことができる。一例として、脳深部の電極、硬膜下または硬膜外の脳電極、皮下EEG電極、硬膜下または硬膜外の脊髄電極は、侵襲的センサとして機能することができる。さらには、末梢神経に取り付けられる電極をセンサとして使用することもできる。一例として、第1の刺激21を印加するために使用される電極14を侵襲的センサとすることもできる。
【0028】
測定信号25は、特効性の第1の刺激21の印加の間の中断時に、具体的には、非特効性の第2の刺激22のみが印加されているときにも、記録することができる。ターゲットの集団30のニューロン活動を測定する場合、病的な振動の振幅を、局所的な電位(local field potentials)の一般的な周波数範囲において確立することができる(すなわち、例えば、パーキンソン病による無動症患者の場合、10〜30Hzの範囲のベータ波領域における積分出力(integrated power))。この振幅は、刺激が有効である場合に小さくなる。第2の動作モードにおいて、単独で印加される非特効性の第2の刺激22の刺激の効果が低下し、測定される振幅が指定されるしきい値を超えた場合、第1の動作モードにおける次の学習段階を行うことができる。その後、第2の動作モードにおける実際の刺激を再び行うことができる。
【0029】
医療従事者は、患者ごとに個別のしきい値を設定することができる。あるいは、しきい値の初期設定として一般的な値を選択することができ、例えば、周波数ピークがなく例えば70Hz以上である周波数スペクトル領域における振幅の平均値に標準偏差の2倍を加えた値である。
【0030】
侵襲的センサに加えて、または侵襲的センサに代えて、1つまたは複数の非侵襲的センサ、例えば、脳電図(EEG)電極、脳磁図(MEG)センサ、筋電図EMG)電極を使用することもできる。さらには、例えば、振戦の周波数範囲の病的な振動性の活動、または(全体的な運動の低減という意味での)運動機能低下症を、加速度計によって測定することができる。振戦活動の指定された値を超える、または時間あたりの平均活動の臨界値を下回る場合(夜間以外)、それによって、例えば、第1の動作モードにおける次の学習段階を開始する。
【0031】
2つのしきい値を使用して2つの動作モードを制御することも可能である。一例として、2つのしきい値ALおよびASを指定し、ニューロン集団30における病的なニューロン活動の振幅(測定ユニット15によって測定される振幅)と比較する目的に使用することができる。しきい値ALをしきい値ASより大きくし、2つのしきい値のうち大きい方の値とすることができる。ベータ波の活動の振幅が値ALを超える場合、第2の動作モードから第1の動作モードへの切り替えを実行し、新たな学習段階を行う。
【0032】
第2の動作モードにおいて、ベータ波の活動の振幅が、小さい方のしきい値ASを超えた場合、装置300を第1の動作モードに切り替えるのではなく実際の刺激段階のままとし、特効性の第1の刺激21および非特効性の第2の刺激22の対「P」の印加を増大させる。これを目的として、一例として、非特効性の刺激「U」のみからなる部分シーケンス(−U−U−U−U−U−)を省略することができ、シーケンスの中の、特効性の第1の刺激21および非特効性の第2の刺激22の対「P」を有する次のセクションにジャンプする。例えば、第2の動作モードにおいて第2の刺激22のうちの特定の割合が第1の刺激21と一緒に印加されるように指定されている場合、しきい値ASを超えたときに、対「P」のこの割合を特定の割合だけ高めることができる。一例として、第2の動作モードにおいて第2の刺激22のうちの30%が、第1の刺激21と一緒に対「P」として印加されているとする。しきい値ASを超えたとき、この割合を例えば20%大きくして、50%にすることができる。その後、ベータ波の活動の振幅が、指定されたさらなるしきい値を下回った時点で、第2の動作モードにおいて指定されていた例えば30%に、再び戻すことが可能である。
【0033】
第2の動作モードから第1の動作モードへの遷移は、患者用の外部プログラミング装置によって患者が制御することもできる。すなわち、患者は、治療が不十分であると感じられる場合、すなわち、例えば震えや運動機能低下症が顕著である場合、小型携帯式の外部装置のボタンを随意に押すことができる。制御ユニット10は、所定のモードに従って、第2の動作モードから第1の動作モードに切り替える、すなわち、新たな学習段階に切り替える。所定のモードとは、患者が最初にボタンを押すことによって、第1の動作モードへの切り替えがすでに開始されていることを意味する。しかしながら、所定の時間間隔の間にボタンが数回押された後にのみ(例えば、30分間にボタンが3回押された後に)、第1の動作モードへの切り替えが行われるように、医療従事者が装置100または装置300を設定することもできる。
【0034】
治療を監視する目的で、装置100または装置300は、ボタンが押された回数および押された時刻を登録する。これらの情報は、医療従事者用の外部プログラミング装置によって医療従事者が読み取ることができる。
【0035】
さらには、所定の時間期間の後に、第2の動作モードから再び第1の動作モード(すなわち学習段階)に切り替わるようにすることができる。この切り替えモードでは、測定ユニット15を用いて治療を監視することが必ずしも要求されず、すなわち、この切り替えモードは、装置100および装置300の両方において実施することができる。
【0036】
第2の刺激ユニット12は、非特効性の第2の刺激22を生成する目的で、例えば、スピーカ、光源(または画像源)、および振動子のうちの1つまたは複数を含んでいることができる。第2の刺激22は、一般的には、患者によって意識的に知覚されるだけの十分な強さとする必要がある。しかしながら、第2の刺激22は、例えば、不快なほど強かったり、イライラする、あるいは気が散るように感じられる刺激であってはならない。時間間隔Δt2の間にスピーカによって発生させる音響的な第2の刺激22のオプションは、一例として、ブザー音、ハム音、またはメロディである。第2の刺激22として光信号を使用する場合、これらは、静的であるか、または時間間隔Δt2の間に時間とともに変化する、例えば抽象的なパターンまたは何らかのオブジェクトのパターンとすることができ、例えば、風の中で咲いている花、水中を泳ぐ魚、飛んでいる鳥、昇る太陽などである。触刺激または振動刺激は、時間間隔Δt2の間に機械振動子によって発生する、患者が知覚できる周波数の振動とすることができる。知覚可能な振動刺激は、10〜160Hzの範囲内またはそれ以上の周波数を有することができるのに対して、触刺激は、ずっと低い(例えば1Hz未満の)周波数を有する。触刺激と振動刺激の組合せを使用することもできる。触刺激もしくは振動刺激またはその両方は、例えば、心地よい刺激を患者自身が選択することができる。また、振動子を使用して、時間間隔Δt2の間に患者の皮膚に軽く心地よいマッサージ効果を施すこともできる。
【0037】
非特効性の第2の刺激22は、各時間間隔Δt2の最初から最後まで連続的に患者に印加することができる。あるいは、時間間隔Δt2の間の印加中に中断を入れることもでき、一例として、時間間隔Δt2の間、特定の時間間隔ごとに印加を中断しながら第2の刺激22を印加することができる。これらの時間的パターンは、例えば確率論的、決定論的、またはその混合型によって変化させることもできる。第2の刺激22が、各時間間隔Δt2の持続時間の少なくとも60%、70%、80%、または90%にわたり印加されるようにすることができる。
【0038】
特効性の第1の刺激21としては、脱同期化をもたらす電気刺激信号、または病的なニューロンの同時発生率を少なくとも下げる電気刺激信号を使用する。刺激電極14(これによって第1の刺激21が患者の脳29または脊髄29に伝達される)は、例えば、1つ、2つ、または3つ以上の刺激接触面(stimulation contact surfaces)を有することができ、刺激接触面は、埋め込み後に脳29または脊髄29の組織と接触しており、電気的な第1の刺激21を印加するために使用される。
【0039】
図4は、刺激電極14を一例として概略的に示している。刺激電極14は、絶縁された電極シャフト50と、電極シャフト50の中に収容されている少なくとも1つの刺激接触面(例えば2つ以上の刺激接触面)とからなる。この例においては、刺激電極14は、4つの刺激接触面51,52,53,54を含んでいる。電極シャフト50および刺激接触面51〜54は、生体適合性材料から作製することができる。さらには、刺激接触面51〜54は、導電性であり(例えば金属から作製されている)、埋め込み後に神経組織と電気的に直接接触する。この例示的な実施形態においては、刺激接触面51〜54のそれぞれは、自身のリード55を介して作動させることができ、記録された測定信号をリード55を介して伝えることができる。あるいは、2つ以上の刺激接触面51〜54を同じリード55に接続することもできる。
【0040】
図4においては、刺激接触面51〜54は、行列状に配置されている。さらには、刺激接触面51〜54は長方形として具体化されている。これらの実施形態は、単に例示を目的としていることを理解されたい。これらの実施形態に代えて、刺激電極14は、任意の数N(N=1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12…)の刺激接触面を含んでいることができ、これらの刺激接触面は、互いに任意の位置関係に配置することができ、任意の形状を有することができる。
【0041】
電極14は、刺激接触面51〜54に加えて基準電極56を有することができ、基準電極56の表面は刺激接触面51〜54の表面よりも大きくすることができる。基準電極56は、神経組織の刺激時に基準電位を発生させるために使用される。あるいは、刺激接触面51〜54のうちの1つを、この目的に使用することもできる。すなわち、個々の刺激接触面51〜54と基準電極56(または生成器ユニット13のハウジング)との間での単極刺激、または複数の異なる刺激接触面51〜54の間での双極刺激を発生させることができる。
【0042】
電極14は、刺激電極としての機能に加えて、装置300内の測定ユニット15として使用することもできる。この場合、測定信号は、接触面51〜54の少なくとも1つによって記録される。
【0043】
刺激接触面51〜54は、ケーブルを介して、または遠隔測定接続によって、生成器ユニット13に接続することができる。
【0044】
複数の刺激接触面51〜54を使用することで、脳29または脊髄29の複数の異なる領域を個々の刺激接触面51〜54によって個別に刺激することができる。一例として、この目的のため、刺激接触面51〜54のそれぞれを、自身の接続線55によって生成器ユニット13に接続することができる。これにより、生成器ユニット13は、個々の刺激接触面51〜54それぞれに対して特定の第1の刺激21を生成することができる。刺激接触面51〜54は、組織に印加される第1の刺激21が、脳29もしくは脊髄29またはその両方に配置されている複数の異なるターゲット領域まで神経を介して伝達されるように、患者に埋め込むことができる。したがって、装置100または装置300は、脳29もしくは脊髄29またはその両方における複数の異なるターゲット領域を、同じ刺激期間Δt1中に、複数の異なる第1の刺激21、または時間をずらせた第1の刺激21、または時間をずらせた複数の異なる第1の刺激21によって、刺激することができる。
【0045】
複数の刺激接触面51〜54を使用することで、脳29もしくは脊髄29またはその両方における複数の異なる領域を刺激できるのみならず、例えば単一の刺激接触面を使用した場合に可能である刺激とは異なる形態での刺激を使用することが可能である。一実施形態によると、刺激電極14は、病的に同期した振動性の活動を有するニューロン集団30に第1の刺激21を印加し、この刺激は、ニューロン集団30内の刺激されたニューロンの活動の位相を再設定(いわゆるリセット)する。刺激されたニューロンの位相は、リセットによって、現在の位相値とは無関係に特定の位相値(例えば0゜)に設定される。したがって、特定の領域を対象とする刺激によって、病的なニューロン集団30のニューロン活動の位相が制御される。さらには、複数の刺激接触面51〜54によって、複数の異なる部位において病的なニューロン集団30を刺激することができる。これによって、複数の異なる刺激部位において病的なニューロン集団30のニューロン活動の位相を異なるタイミングでリセットすることが可能となる。結果として、病的なニューロン集団30(集団内のニューロンはそれまでは同期して活性化され、周波数および位相が同じであった)が、複数のサブ集団に分割される。これらのサブ集団は、図5に概略的に示してあり、参照数字31,32,33,34によって表してある。サブ集団31〜34の個々のサブ集団の中では、位相がリセットされた後もニューロンは依然として同期しており同じ病的な周波数で発火するが、サブ集団31〜34のそれぞれにおいて、ニューロン活動に関連する位相が刺激によって強制される。すなわち、位相のリセットの後、個々のサブ集団31〜34のニューロン活動は、同じ病的な周波数での近似的に正弦波形状を依然として有するが、位相が異なっている。
【0046】
一例として、刺激接触面51によって印加される第1の刺激21が、サブ集団31を刺激してそのニューロンの位相をリセットし、刺激接触面52によって印加される第1の刺激21が、サブ集団32を刺激してそのニューロンの位相をリセットするように、刺激接触面51〜54を患者の脳または脊髄の組織29の上または組織内に配置することができる。サブ集団33および34に対する刺激接触面53および54も同様である。
【0047】
ニューロン間の病的な相互関係のため、少なくとも2つのサブ集団として見たときの状態(刺激によって発生した状態)が安定的ではなく、ニューロン集団30全体としては、完全な脱同期状態(ニューロンは無相関に発火する)に急速に近づく。したがって、刺激電極14を介して刺激信号を印加した直後には、望ましい状態(すなわち、完全な脱同期)が得られないが、通常では、病的な活動の2〜3周期以内、場合によっては1周期以内に、そのような状態になる。
【0048】
このような刺激の有効性を説明する理論においては、最終的に望まれる脱同期は、ニューロン間の相互作用が病的に高いことによってはじめて可能である。この場合、病的な同期の原因である自己組織化プロセスを利用している。集団30全体が、位相の異なるサブ集団31〜34に分割された後、自己組織化プロセスによって脱同期がもたらされる。ニューロン間の病的に高い相互作用が存在しなければ、脱同期は得られない。
【0049】
さらには、装置100または装置300による電気刺激によって、機能不全の神経回路網の結合性を再構築することができ、したがって、持続する治療効果をもたらすことができる。得られるシナプス再編成は、神経系疾患または精神病の有効な治療にとって非常に重要である。
【0050】
刺激されるニューロンの位相を制御することのできる刺激信号ではなく、異なる形態に具体化された刺激信号(例えば、連続的に印加される高周波パルス列)を使用する場合、一般には上述した持続する治療効果を得ることができず、結果として、絶え間なく、かつ比較的高い電流での刺激が要求される。対照的に、本文書に記載した刺激の形態では、治療効果を得るために外部からニューロン系に導入する必要のあるエネルギが小さい。患者の身体に入力されるエネルギが相対的に小さく、多くの場合に刺激の効果が極めて迅速に得られる結果として、装置100または装置300では、電気神経刺激にしばしば関連付けられる感覚異常および知覚障害(痛みの感覚)を大幅に軽減することができる。
【0051】
病的に同期したニューロン集団30のサブ集団31〜34の位相を異なるタイミングでリセットする結果としてニューロン集団30全体の脱同期を得る方法では、いくつかの形態をとることができる。一例として、ニューロンの位相のリセットをもたらす刺激信号を、刺激する神経組織それぞれに、複数の異なる刺激接触面51〜54によって、時間遅延を伴って放出することができる。さらには、例えば位相をずらせて、または異なる極性において、刺激信号を印加することができ、これによっても、複数の異なるサブ集団31〜34の位相が異なるタイミングでリセットされる。
【0052】
一例として、いわゆる「開ループ」モードで装置100を動作させることができ、開ループモードでは、生成器ユニット13は、所定の第1の刺激21を生成し、これらを刺激接触面51〜54によって神経組織に放出する。さらには、装置100を発展させて図3に示した装置300を形成することもでき、装置300は、いわゆる「閉ループ」システムを構成している。装置300はさらに測定ユニット15を含んでおり、測定ユニット15は、患者において記録される1つまたは複数の測定信号26を生成し、この信号を制御ユニット10に送信する。
【0053】
測定信号26を使用することで、要求条件に基づく刺激を行うことができる。これを目的として、制御ユニット10は、測定ユニット15によって記録される測定信号26を使用して、1つまたは複数の病的な特徴の存在もしくは範囲またはその両方を検出する。一例として、すでに上述したように、ニューロン活動の振幅または大きさを測定することができ、これらを1つまたは複数の指定されたしきい値と比較し、比較の結果に応じて特定の動作モードを選択することができる。指定されたしきい値を超えた時点でただちに第1の動作モードの刺激が開始されるように、生成器ユニット13を具体化することができる。さらには、測定ユニット15によって記録される測定信号26を使用して、第1の刺激21の例えば強度を設定することができる。一例として、1つまたは複数のしきい値を指定することができ、測定信号26の振幅または大きさが特定のしきい値を超えたときに、第1の刺激21の特定の強度を設定する。
【0054】
さらには、測定ユニット15によって記録される測定信号26を、そのまま、または必要であれば1つまたは複数の処理ステップの後、第1の刺激21として利用し、この信号を生成器ユニット13によって刺激電極14に送信するようにすることができる。一例として、オプションとして数学的計算の後(例えば測定信号を混合した後)、時間遅延の導入と、線形もしくは非線形またはその両方の計算ステップおよび合成によって処理し、測定信号26を増幅して刺激電極14に送信することができる。この場合、計算処理の内容は、病的なニューロン活動が打ち消され、病的なニューロン活動が減少するにつれて刺激信号も同様に消える、または少なくとも強度が大幅に減少するように、選択する。
【0055】
図6は、例えば装置100および装置300の一方によって実行できる、上述した目的に適する刺激方法を、概略的に示している。この図には、刺激接触面51〜54によって印加される第1の刺激21を、上下に重ねて時間tに対してプロットしてある。図6に示した時間期間は、時間間隔Δt1の一部分を構成している。図示した刺激は、時間間隔Δt1の最後まで続けることができる。
【0056】
図6に示した方法においては、刺激接触面51〜54のそれぞれは、刺激接触面51〜54自身が配置されている組織の各領域に、第1の刺激21を周期的に印加する。刺激接触面51〜54のそれぞれにおいて第1の刺激21が繰り返される周波数f21は、1〜30Hzの範囲内とすることができ、特に、1〜20Hzの範囲内、または5〜20Hzの範囲内、または10〜30Hzの範囲内とすることができるが、より小さい値またはより大きい値をとることもできる。
【0057】
図6に示した実施形態によると、個々の刺激接触面51〜54によって第1の刺激21が印加され、個々の刺激接触面51〜54による印加の間には時間遅延が存在している。一例として、異なる刺激接触面51〜54によって印加される連続する第1の刺激21の先頭を、時間ΔTj,j+1だけずらすことができる。
【0058】
刺激接触面がN個である場合、2つの連続する第1の刺激21の間の時間遅延ΔTj,j+1は、例えば、周期1/f21の1/Nの程度とすることができる。図6に示した例示的な実施形態(N=4)においては、遅延ΔTj,j+1は、1/(4×f21)である。
【0059】
周波数f21は、一例として、ターゲットの回路網の病的な律動的活動の平均周波数の程度とすることができる。神経系疾患および精神病の場合、平均周波数は一般に1〜30Hzの範囲内であるが、この範囲外とすることもできる。なお、神経系疾患および精神病においては、影響下にあるニューロンが同期して発火する周波数は、通常では一定ではなく変動し、さらには患者によっても異なることに留意されたい。
【0060】
第1の刺激21としては、一例として電流制御パルスまたは電圧制御パルスを使用することができる。さらには、図7に示したように、第1の刺激21を、複数の個々のパルス210からなるパルス列とすることができる。パルス列21それぞれは、1〜100個、特に、2〜10個の電荷均衡状態の(electric-charge-balanced)個々パルス210からなることができる。1つのシーケンス内では、パルス列21は、1〜30Hzの範囲内の周波数f21で繰り返される。
【0061】
図8は、例示を目的として、3つの個々のパルス210からなるパルス列21を示している。個々のパルス210は、50〜500Hzの範囲内、特に、100〜150Hzの範囲内の周波数f210で繰り返される。個々のパルス210は、電流制御パルスまたは電圧制御パルスとすることができ、最初のパルス成分211と、逆方向に流れる後続のパルス成分212とからなり、2つのパルス成分211,212の極性は、図8に示した極性と比較して入れ替えることができる。パルス成分211の持続時間213は、1μs〜450μsの範囲内にある。パルス成分211の振幅214は、電流制御パルスの場合には0mA〜25mAの範囲内にあり、電圧制御パルスの場合には0〜20Vの範囲内にある。パルス成分212の振幅は、パルス成分211の振幅214より小さい。代わりに、パルス成分212は、パルス成分211よりも長い持続時間を有する。理想的には、パルス成分211および212は、これらによって伝えられる電荷が両方のパルス成分211および212において同じ大きさであるような形状寸法を有し、すなわち、図8において影の付いた面積は同じ大きさである。結果として、個々のパルス210は、組織から除去される電荷量と正確に同じ電荷量を組織に導入する。
【0062】
図8に示した個々のパルス210の長方形形状は、理想的な形状である。個々のパルス210を生成する電極の性質に応じて、理想的な長方形以外の形状とすることもできる。
【0063】
生成器ユニット13は、パルス状の刺激信号の代わりに、例えば、異なる形態に具体化された刺激信号(例:時間的に連続する刺激パターン)を生成することもできる。ここまでに説明した信号の形状およびそのパラメータは、単に例示を目的としていることを理解されたい。当然ながら、上述した信号の形状およびそのパラメータとは異なる形状および値を使用することもできる。
【0064】
図6に示した、厳密に周期的な刺激パターンを基本として、さまざまなバリエーションを導入することができる。一例として、連続する2つの第1の刺激21の間の時間遅延ΔTj,j+1は、必ずしもつねに同じ大きさでなくてもよい。個々の第1の刺激21の間の時間的な隔たりを、互いに異なる長さとして選択することができる。さらには、患者の治療中に遅延時間を変化させることもできる。生理学的刺激信号のランタイムに関連して遅延時間を調整することもできる。
【0065】
さらには、第1の刺激21の印加中に中断を設けることができ、中断の間は刺激が存在しない。図9は、このような中断を例示的に示している。中断の持続時間は、任意の長さとすることができ、特に、周期T21(=1/f21)の整数倍であるように選択することができる。さらには、任意の回数の刺激の後に中断を配置することができる。一例として、長さT21のN個の連続する周期にわたって刺激を実行した後、長さT21のM個の周期にわたり、刺激の存在しない中断を配置することができ、この場合、NおよびMは小さな整数(例えば、1〜10の範囲内)である。このパターンを、周期的に継続する、あるいは、確率論的もしくは決定論的に、またはその混合型として(例:無秩序に)、変化させることができる。
【0066】
図6に示した厳密に周期的な刺激パターンからのバリエーションとしてのさらなるオプションは、個々の第1の刺激21の時間軸に沿ったシーケンスを、確率論的もしくは決定論的に、またはその混合型として変化させることである。
【0067】
さらには、図10に例示的に示したように、刺激接触面51〜54が第1の刺激21を印加する順序を、各周期T21の間で(またはそれ以外の時間間隔の間で)変化させることができる。この変化は、確率論的もしくは決定論的に、またはその混合型とすることができる。
【0068】
さらには、各時間間隔T21において(または別の時間間隔において)、刺激接触面51〜54のうちの特定の数のみを使用して刺激することが可能であり、刺激を行う刺激接触面を、各時間間隔において変化させることができる。この変化も、確率論的もしくは決定論的に、またはその混合型とすることができる。上述した刺激の形態は、いずれも装置300によって「閉ループ」モードで実行することもできる。図9に示した刺激の形態の場合、中断の開始タイミングおよび長さを、例えば要求条件に基づいて選択することができる。
【0069】
装置300に関連してすでに説明したように、装置300の「閉ループ」モードの実施形態として、測定ユニット15によって記録される測定信号26が、そのまま、または必要であれば1つまたは複数の処理ステップの後、生成器ユニット13によって電気的な第1の刺激21に変換され、刺激電極14によって印加されるようにすることができる。この場合、装置300は、必ずしも少なくとも2つの刺激接触面を備えていなくてよい。このタイプの刺激(患者において記録された測定信号が患者の身体内に送り返される)は、原理的には1つのみの刺激接触面によって行うこともできる。しかしながら、2つ以上の任意の数の刺激接触面を設けることもできる。
【0070】
上述した「閉ループ」モードは、病的に同期した振動性のニューロン活動を有するニューロン集団を脱同期化する目的で同様に使用することができる。
【0071】
一例として、第1の刺激21を生成する目的で、オプションとして数学的計算の後(例えば測定信号を混合した後)、時間遅延を導入し、線形もしくは非線形またはその両方の計算ステップを行い、測定信号26を増幅することで、電気刺激のための第1の刺激21として使用することができる。この場合、計算処理の内容は、病的なニューロン活動が打ち消され、病的なニューロン活動が減少するにつれて刺激信号も同様に消える、または少なくとも強度が大幅に減少するように、選択することができる。
【0072】
以下では、測定ユニット15を利用して得られる測定信号26を、刺激電極14に送信する前に処理する目的に使用できる線形処理ステップおよび非線形処理ステップについて説明する。測定信号26を非線形処理する場合、刺激される各サブ集団におけるニューロン活動の位相がリセットされるのではなく、同期の飽和プロセスに影響を与えることによって、病的な活動を有するニューロン集団における同期が抑制される。
【0073】
測定ユニット15から得られる測定信号26を線形処理する場合、測定信号26に対して、例えば、フィルタリング、増幅、時間遅延の導入、のうちの1つまたは複数を行うことができ、その後、このように処理した信号を刺激電極14に送信し、1つまたは複数の刺激接触面によって印加する。一例として、測定信号26は、EEG電極によって記録され、ターゲット領域における病的な活動を再現する。したがって、測定信号26は、1〜30Hzの範囲内の周波数を有する正弦波振動である。さらには、測定信号26は、一例として5Hzの周波数を有する。5Hzの程度の通過帯域を有する帯域通過フィルタによって、測定信号26をフィルタリングすることができ、脳の電気刺激または脊髄の電気刺激に適したレベルとなるように、増幅器によって増幅することができる。次いで、このようにして得られる増幅された正弦波振動を使用して、刺激電極14を作動させる。
【0074】
複数の刺激接触面を使用して刺激する場合、測定信号26を第1の刺激21として対応する刺激接触面に送信する前に、図6に示したように、測定信号26に時間遅延ΔTj,j+1を導入することができる。前の例によると、図6に示した長方形の刺激信号21の代わりに、5Hzの周波数を有する正弦波振動を印加する。
【0075】
以下では、測定ユニット15によって得られる測定信号26を、脳の電気刺激または脊髄の電気刺激のための第1の刺激21として使用する前に非線形処理を行う方法について、例を通じて説明する。線形処理の場合と同様に、この場合も、測定信号26に対して、フィルタリング、増幅、時間遅延の導入、のうちの1つまたは複数を行うことができる。
【0076】
処理前の刺激信号S(t)(第1の刺激)の等式は、以下である。
【0077】
【数1】
【0078】
等式(1)において、Kは、適切に選択することのできる増幅係数であり、Z ̄(t)は、測定信号の平均状態変数である。Z ̄(t)は複素変数であり、次のように表すことができる。
【0079】
【数2】
【0080】
この式において、X(t)は、例えば神経系の測定信号に対応させることができる。考慮する周波数はおよそ10Hz=1/100ms=1/Tαであるため、虚部Y(t)は、X(t−τα)によって近似することができ、例えばτα=Tα/4が成り立つ。結果として、以下の式となる。
【0081】
【数3】
【0082】
等式(3)は、次のように書き直すことができる。
【0083】
【数4】
【0084】
等式(4)の実部を、刺激信号として使用する。
【0085】
【数5】
【0086】
図11は、本発明の意図する動作状態にある装置100または装置300を概略的に示している。患者の脳の片側または両側に少なくとも1個の刺激電極14が埋め込まれている。上述した1つまたは複数のターゲット領域に配置されている刺激電極14のそれぞれは、コネクタ71およびさらなる接続ケーブル72を介してケーブル70によって生成器ユニット13に接続されている。この実施形態においては、生成器ユニット13は、制御ユニット10も備えている。装置100のこれらの構成要素は、患者の身体に埋め込まれている。接続ケーブル70,72およびコネクタ71は、皮膚の下に埋め込まれている。図11に示したような胸部に埋め込まれる生成器ユニット13に代えて、より小型の生成器をドリル穴に直接埋め込むこともできる。これにより、生成器の袋部における感染率が減少し、接続ケーブル70,72の断線を回避することができる。さらには、完全に埋め込む代わりに、無線リンクを備えた半埋め込み(semi-implant)を使用することができる。「閉ループ」刺激の場合、装置300は測定ユニット15も含んでいる。この例では、非特効性の第2の刺激22を生成するための第2の刺激ユニット12が、患者の腕に取り付けられている。第2の刺激ユニット12は、患者の身体内に位置している制御ユニット10と、例えば無線リンクによって通信することができる。
【0087】
図12Aおよび図12Bは、非特効性の第2の刺激22を生成するための第2の刺激ユニット12の例示的な実施形態を示している。この場合、第2の刺激ユニット12は、いわゆる「時計型条件付け装置(conditioning watch)」として具体化されており、患者は快適に着用することができる。図12Aは、時計型条件付け装置12の正面図を示しており、図12Bは背面図を示している。時計型条件付け装置12は、中央部80と、ストラップ81と、締結部82と、対応する穴83とからなる。あるいは、マジックテープ(登録商標)式の締結部または他の同等の締結部を使用することもできる。中央部80は、非特効性の音響信号22(例えばメロディ、心地よいブザー音)を生成するためのスピーカ84と、まぶしすぎない心地よい非特効性の光刺激22(例えば、風の中で咲いている花や、明るい暖色の抽象的な光のパターン)を生成するためのディスプレイ85とを含んでいる。さらには、時計型条件付け装置12は、非特効性の触刺激22もしくは振動刺激22またはその両方を生成する1つまたは複数の振動子86を装備することができる。触刺激22を生成する目的で、振動子は、1Hz未満の周波数で動作させることができる。より具体的には、この場合、圧力刺激の印加を改善する目的で(すなわち振動子86の運動の主方向は皮膚の方に向いているべきである)、振動子86の可動部を整列させることができる。さらには、圧力アクチュエータ、または皮膚に対してゆっくり動く要素によって、触刺激22を生成することもでき、これらの要素は、例えば時計型条件付け装置に組み込むことができる。振動刺激22を振動子86によって生成する場合、10〜160Hzの範囲内またはそれ以上の振動周波数を実施することができる。この場合、振動子86の可動部は、皮膚に実質的に平行な移動方向を有することができる。触刺激22および振動刺激22を同時に生成するように、振動子86を動作させることもできる。
【0088】
時計型条件付け装置12は、1種類の感覚に対する非特効性の第2の刺激22のみ(例えば光刺激のみ)を生成するように具体化することもできる。時計型条件付け装置12への電流供給は、時計型条件付け装置12の内部のバッテリ、太陽電池、機械的フライホイールのうちの1つまたは複数によって行われる。
【0089】
刺激の効果を監視する目的で、時計型条件付け装置12は加速度計をさらに含んでいることができ、加速度計は、例えば病的振戦から、病的な振動性の活動を測定する、または患者の平均活動レベル(mean activity level)を測定することができる。患者の平均活動レベルは、患者の運動の緩慢化または減少、あるいは患者が運動できない状態(すなわち運動緩慢、運動機能低下症、運動不能症)を反映する。
【0090】
図13は、第2の刺激ユニット12のさらなる例示的な実施形態を概略的に示している。この場合、刺激ユニット12は、例えば携帯電話の形の刺激装置であり、例えば患者のシャツのポケットやズボンのポケットに入れて持ち運ぶことができ、スピーカ87によって非特効性の第2の刺激22を生成する。
【0091】
さらには、医療従事者用の外部プログラミング装置によって、制御ユニット10、生成器ユニット13、非特効性の生理学的刺激ユニット12のうちの少なくとも1つのユニットのパラメータを設定できるようにすることができる。さらには、患者にも同様に外部プログラミング装置を装備させることができ、患者はこの装置によって、刺激装置のスイッチをオフにしたり、刺激ユニット11,12のパラメータを、医療従事者によって設定された狭い範囲内で修正することができる。さらには、患者用のプログラミング装置は、上述した機能を含んでおり、これらの機能によって、患者は、治療が不十分である(すなわち震えや運動機能低下が顕著である)と感じるとき、例えばボタンを作動させることにより第2の動作モードから第1の動作モードに(すなわち学習段階に)自身の判断で切り替えることができる。プログラミング装置は、刺激装置の各構成要素と例えば無線リンクによって通信することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、条件付き脱同期化刺激のための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
神経系疾患または精神病(例えばパーキンソン病、本態性振戦、ジストニア、強迫性障害)の患者の場合、神経細胞網は、脳の局所的な領域(例えば視床および大脳基底核)における病的な(異常な)活動(例えば過度に同期した活動)を示す。この場合、多数のニューロンが同期して活動電位を形成し、すなわち、関与するニューロンが過度に同期して発火する。対照的に、健康な人では、脳のこれらの領域におけるニューロンの発火は質的に異なる(例えば相関性がない)。
【0003】
パーキンソン病の場合、病的に(異常に)同期した活動によって、脳の別の領域(例えば、一次運動野などの大脳皮質の領域)におけるニューロンの活動が変化する。この場合、視床および大脳基底核の領域における病的に同期した活動によって、その律動性が例えば大脳皮質などの領域に影響し、したがって最終的には、後者の領域によって制御される筋肉が病的な活動(例えば律動性の震え(振戦))を示す。
【0004】
過度に強いニューロンの同期による神経系疾患および精神病は、現在、薬物療法による効果がない場合、脳の電気刺激によって治療されている。
【発明の概要】
【0005】
このような背景において、請求項1による装置と、請求項16および請求項17によるさらなる装置と、請求項18による方法とを開示する。本発明の有利な発展形態および実施形態は、従属請求項に開示されている。
【0006】
以下では、本発明について図面を参照しながら例示的にさらに詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】例示的な実施形態による、条件付き脱同期化刺激のための装置100の、動作時における概略図
【図2A】装置100の2種類の動作モードの概略図
【図2B】装置100の2種類の動作モードの概略図
【図3】さらなる例示的な実施形態による、条件付き脱同期化刺激のための装置300の、動作時における概略図
【図4】刺激電極14の例示的な実施形態の概略図
【図5】刺激電極14を有する装置100の、動作時における概略図
【図6】複数の刺激接触面によって印加される特効性の電気刺激の概略図
【図7】複数の刺激接触面によって印加される電気パルス列のシーケンスの概略図
【図8】電気パルス列の概略図
【図9】図6に示した刺激のバリエーションの概略図
【図10】図6に示した刺激のさらなるバリエーションの概略図
【図11】例示的な実施形態による、条件付き脱同期化刺激のための装置100の、動作時における概略図
【図12A】非特効性の光刺激、音響刺激、触刺激、および振動刺激を生成および印加する刺激ユニットの例示的な実施形態の概略図
【図12B】非特効性の光刺激、音響刺激、触刺激、および振動刺激を生成および印加する刺激ユニットの例示的な実施形態の概略図
【図13】音響刺激を発生および印加する刺激ユニットのさらなる例示的な実施形態の概略図
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、条件付き脱同期化刺激のための装置100を概略的に示している。この装置100は、制御ユニット10と、第1の刺激ユニット11と、第2の刺激ユニット12とからなる。第1の刺激ユニット11は電気的な第1の刺激21を生成し、第2の刺激ユニットは感覚的な第2の刺激22を生成する。感覚的な第2の刺激22は、光刺激、音響刺激、触刺激、振動刺激から成る群からの1つまたは複数の刺激である。制御ユニット10は、2つの刺激ユニット11,12を制御信号23,24によって制御する役割を果たす。
【0009】
装置100は、特に、神経系疾患または精神病(例えば、パーキンソン病、本態性振戦、ジストニア、てんかん、多発性硬化症に起因する振戦またはその他の病的振戦、鬱病、運動障害、小脳疾患、強迫性障害、トゥレット症候群、脳卒中および脳梗塞後の機能障害、痙性、耳鳴り、睡眠障害、統合失調症、物質依存症、人格障害、注意力欠如障害、注意欠陥多動性障害、病的賭博、神経症、過食症、燃え尽き症候群、線維筋痛、偏頭痛、群発頭痛、一般的な頭痛、神経痛、運動失調、チック障害、筋緊張高進)の治療に使用することができ、さらには他の病気の治療にも使用することができる。
【0010】
上に挙げた病気は、特定の回路内に結合されている神経回路網の生体電気による伝達の障害に起因することがある。この場合、ニューロン集団は、異常な(病的な)ニューロン活動、場合によってはニューロン活動に関連付けられる異常な結合性(網構造)を、絶え間なく発生させる。このプロセスにおいては、多数のニューロンが同時に活動電位を形成し、すなわち、関与するニューロンが過度に同期して発火する。さらには、病的なニューロン集団は振動性のニューロン活動を示し、すなわち、ニューロンは律動的に発火する。神経系疾患または精神病の場合、影響下にある神経回路網の異常な(病的な)律動的活動の平均周波数は、およそ1〜30Hzの範囲内にあるが、この範囲外であることもある。対照的に、健康な人では、ニューロンの発火は質的に異なる(例えば相関性がない)。
【0011】
図1において、装置100は、意図する動作状態において示してある。動作時、電気的な第1の刺激21が、患者の脳29もしくは脊髄29またはその両方に印加される。患者の脳29または脊髄29の中の少なくとも1つのニューロン集団30は、上述したように病的に同期したニューロン活動を有する。第1の刺激ユニット11は、第1の刺激21を生成して印加する目的で、生成器ユニット13と少なくとも1個の刺激電極14とを含んでいることができる。生成器ユニット13は第1の刺激21を生成し、この刺激は、適切な接続線によって刺激電極14に送られる。刺激電極14は、患者の脳29の中または脊髄29の領域内に手術によって配置されており、第1の刺激21は、病的な活動を有するニューロン集団30に印加される、または、少なくとも脳29または脊髄29の領域に印加され、そこから神経系を介して、病的な活動を有するニューロン集団30に伝達される。第1の刺激21は、ニューロン集団30の病的に同期した活動を抑制するように、またはニューロン集団30の脱同期化をもたらすように具体化されている。第1の刺激21は治療効果のある電気刺激であるため、これを「特効性の("specific")」刺激とも称する。
【0012】
第2の刺激ユニット12は、第2の刺激22として、光刺激、音響刺激、触刺激、振動刺激のうちの1つまたは複数を生成する。光の第2の刺激22および音響的な第2の刺激22は、それぞれ、患者の目および耳から取り込まれて神経系に伝達される。触覚の第2の刺激22は、圧力もしくは接触またはその両方の刺激とすることができ、患者の皮膚に存在している受容体によって記録される。具体的には、これらの受容体としては、メルケル細胞およびルフィニ終末(これらは圧力受容体として、具体的には強度検出器として機能する)と、マイスナー小体および毛包受容器(これらはタッチセンサとして、具体的には速度検出器として機能する)とが挙げられる。振動性の第2の刺激22は、皮膚の表面の感受性に関連する触覚の第2の刺激22とは異なり、主として深部の感受性を対象とする。振動の第2の刺激22は、患者の皮膚、筋肉、皮下組織、あるいは腱に存在している受容体によって記録することができる。振動性の第2の刺激22の受容体としては、一例としてパチーニ小体が挙げられ、振動を感じ加速度を検出する。
【0013】
第2の刺激22は、患者が意識的に知覚することができ、特に、患者にとって不快ではない。感覚的な第2の刺激22は、単独で(すなわち後述するように学習段階における第1の刺激21との相互関係なしで)印加されたときには、ニューロン集団30の異常に(病的に)同期したニューロン活動に対する脱同期化効果あるいは同時発生率を下げる効果がまったく、またはほとんどない。したがって、第2の刺激ユニット12によって印加される第2の刺激22を、「非特効性の」刺激とも称する。
【0014】
第1の刺激21および第2の刺激22を印加する目的で、装置100は、2種類の動作モードで動作させることができる。一例として、各動作モードを指定する、または制御ユニット10によって選択することができる。制御ユニット10は、選択された動作モードに従って2つの刺激ユニット11および12を作動させる。
【0015】
第1の動作モード(学習段階とも称する)においては、非特効性の第2の刺激22は、その少なくとも一部分が、特効性の第1の刺激21の印加と時間的に連結された状態で(coupled closely in time)患者に印加され、すなわち第1の動作モードにおいては、第1の刺激21および第2の刺激22が少なくとも部分的に対で印加される。これにより、患者の神経系が条件付けられる、すなわち、神経系は、特効性の第1の刺激21がたとえ印加されない場合でも、特効性の第1の刺激21に反応するのと同じように非特効性の第2の刺激22に反応するように学習する。このことを利用して、実際の刺激段階である第2の動作モードにおいては、第1の刺激21および第2の刺激22がつねに対で印加されるのではなく、第1の刺激21および第2の刺激22のそのような対の間に非特効性の第2の刺激22がさらに単独で印加される。第1の動作モード(すなわち学習段階)において患者の神経系の条件付けが達成される結果として、第2の刺激22も治療効果をもたらすため、第2の動作モード(すなわち実際の刺激段階)において、治療のために患者の組織内に入力する必要のある電流が低くなる。従来の脳の電気刺激と比較すると、本装置100によって、入力電流を例えば最大で1/10以下に低減することができる。
【0016】
入力電流が大幅に小さくなる利点として、副作用の発生確率が大幅に減少する。この理由は、印加される刺激電流の量が増すほど、ターゲット領域のみならず隣接する領域も刺激されてしまう確率が高まるためである。これにより多数の副作用(当業者に公知である)が生じ、いくつかの副作用は患者にとって極めて不快である。
【0017】
従来の刺激法よりも入力電流が低いことのさらなる利点として、刺激を目的とする入力電流が小さいことに対応して、生成器ユニット(通常は患者に埋め込まれる)に要求されるエネルギが大幅に減少する。生成器ユニットの寸法はバッテリの大きさによってほぼ決まるため、より小型の生成器ユニットを設計することができる。これによって、特に外観上の理由で患者の快適性が大きく向上する。さらには、生成器の袋部(pouch)(生成器ユニットの寸法に対応する)における感染症の危険性が減少する。生成器ユニットの寸法にもよるが、現在利用されている生成器ユニットにおける感染症の危険性は約5%である。すなわち、患者の約5%は、生成器ユニットを埋め込んだ後、生成器の袋部(すなわち生成器ユニットの周囲の組織)において感染症を発症する。入力電流が大幅に減少する結果として、最終的に生成器の寸法を最小にすることができ、例えば、頭蓋骨にあけた穴に生成器ユニット全体を配置することができる。
【0018】
図2Aおよび図2Bは、第1の動作モードおよび第2の動作モードにおける第1の刺激21および第2の刺激22の印加の違いを、グラフの形で例示的に示している。図2Aには、第1の時間間隔Δt1および第2の時間間隔Δt2を上下に重ねて時間tに対してプロットしてあり、これらの時間間隔の間、第1の動作モードにおいて第1の刺激21および第2の刺激22が生成されて患者に印加される。時間間隔Δt1およびΔt2は、この学習段階においては対で生成される。刺激21および刺激22が対で印加される結果として、患者の脳29もしくは脊髄29またはその両方が条件付けられる、すなわち、学習段階が過ぎると(例えば、2つ以上の対の時間間隔Δt1,Δt2の後には)、特効性の第1の刺激21なしで印加される非特効性の第2の刺激22によっても、特効性の第1の刺激21のように治療効果がもたらされる。この学習段階の前では、非特効性の第2の刺激22は治療効果をもたらさない。
【0019】
特効性の第1の刺激21が印加される時間間隔Δt1の持続時間は、例えば30分〜6時間の範囲内であるが、この範囲外とすることもできる。非特効性の第2の刺激22が印加される時間間隔Δt2の持続時間は、例えば10分〜6時間の範囲内であるが、この範囲外とすることもできる。第1の動作モードにおいては、一例として、時間間隔Δt1は、それぞれに対応する時間間隔Δt2と重なっている。この重なりΔt12は、例えば、対応する時間間隔Δt2の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%、もしくは100%に等しい。時間間隔Δt1と時間間隔Δt2が互いに対応している場合、図2Aに示したように、最初に時間間隔Δt2を開始させることができる。しかしながら、これに代えて時間間隔Δt1を最初に開始させることができる。第1の刺激21および第2の刺激22の連続する対の間には中断が存在しており、この中断の長さΔtPauseは、例えば3時間〜24時間の範囲内とすることができる。時間間隔Δt1,Δt2および重なり期間ΔtPauseの長さは、刺激段階の間に変化させることができる。学習段階の持続時間(すなわち装置が第1の動作モードで動作している時間)は、指定することができ、例えば、指定された数の時間間隔Δt1およびΔt2の対を備えていることができる。
【0020】
以下では、学習段階における第1の刺激21および第2の刺激22の印加の例について説明する。一例によると、第1の刺激21および第2の刺激22を、それぞれ、6時間の時間間隔Δt1および6.25時間の時間間隔Δt2だけ印加することができ、この場合、時間間隔Δt2が時間間隔Δt1の15分前に始まり、したがって両方の時間間隔Δt1およびΔt2が同時に終了する。例えば6時間の中断ΔtPauseの後、このプロセスを繰り返すことができる。神経系の迅速な学習または条件付けを達成する目的で、学習イベント(すなわち第1の刺激21および第2の刺激22の対での印加)の数を、この例よりもさらに増やすことができる。したがって、時間間隔Δt1およびΔt2を例えばそれぞれ3時間および3.125時間に減らすことができ、この場合、時間間隔Δt2が時間間隔Δt1の7.5分前に始まる。例えば3時間の中断ΔtPauseの後、連結された刺激を再び行うことができる。
【0021】
連結された第1の刺激21および第2の刺激22を2回印加すると、おそらくは学習効果を確立することができる。神経系の条件付けとして、できるかぎり堅牢・強固であり、実際の刺激段階時にできるかぎり長時間にわたり使用できる条件付けを設計する目的で、学習段階中に(すなわち第1の動作モード中に)例えば10〜50回の対での印加を行うことが可能である。
【0022】
学習段階中、時間間隔Δt2それぞれが時間間隔Δt1に対応している必要はない。一例として、連結された時間間隔Δt1およびΔt2の特定の回数の後に、時間間隔Δt1またはΔt2を挿入することができ、挿入する時間間隔は、対応する時間間隔Δt2またはΔt1に連結されておらず、その時間間隔の間は、第1の刺激21または第2の刺激22のみが生成および印加される。第1の動作モードにおいては、一例として、時間間隔Δt2の少なくとも50%、60%、70%、80%、または90%、もしくは100%を、対応する第1の時間間隔Δt1に連結することができる。さらには、第1の動作モードにおいては、時間間隔Δt1の少なくとも50%、60%、70%、80%、または90%、もしくは100%を、対応する第1の時間間隔Δt2に連結することができる。
【0023】
第1の動作モードにおいて行われる学習段階の後、実際の刺激段階が行われる。この目的のため、制御ユニット10は第2の動作モードに切り替える。図2Bには、時間間隔Δt1およびΔt2を上下に重ねて時間tに対して例示的にプロットしてあり、これらの時間間隔の間、第2の動作モードにおいて第1の刺激21または第2の刺激22が生成および印加される。
【0024】
実際の刺激段階においては、学習段階中に達成される患者の神経系の条件付けの結果として、非特効性の第2の刺激22も治療効果を持つことを利用する。このため、学習段階とは異なり、第1の刺激21および第2の刺激22からなる対が主として印加されるのではなく、時間間隔Δt2の間に第2の刺激22のみが繰り返して印加され、これら第2の刺激は第1の刺激21の印加に連結されていない。第2の動作モードにおいては、一例として、時間間隔Δt2の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%、もしくは100%が、時間間隔Δt1に対応しておらず、すなわち、全体として、第2の動作モードにおける時間間隔Δt1の数は、第2の時間間隔Δt2の数より少ない。一実施形態によると、第2の動作モードにおいて、時間間隔Δt2に連結されていない時間間隔Δt1を、ときおり挿入することもできる。さらなる実施形態によると、第2の動作モードにおいては、例えば、すべての時間間隔Δt2が時間間隔Δt2に対応していないようにすることもできる。
【0025】
第2の動作モードにおいては、特効性の第1の刺激21および非特効性の第2の刺激22からなる対「P」と、個別に印加される非特効性の刺激「U」とを、例えば周期的なシーケンスにおいて、例えば、「P−P−U−U−U−P−P−U−U−U−P−P−U−U−U−…」というシーケンスとして、印加することができる。しかしながら、非特効性の第2の刺激22を単独で挿入するためのこの時系列パターンは、決定論的もしくは確率論的、またはその混合型によるパターンとすることもでき、例えば、「P−P−U−U−U−P−P−U−U−U−U−U−P−P−U−U−U−P−P−U−U−P−P−U−U−U−U−U−P−P−U−U−U−…」などのシーケンスを選択することができる。
【0026】
装置100によって達成される刺激の効果は、例えば、測定ユニットを利用して監視することができる。図3は、このような測定ユニット15を含んでいる装置300を概略的に示している。装置300の残りの構成要素は、図1に示した装置100と同じである。測定ユニット15は、患者において測定される1つまたは複数の測定信号25を記録し、必要な場合にこれらの測定信号を電気信号26に変換し、これらの信号を制御ユニット10に送信する。特に、測定ユニット15は、刺激されているターゲット領域におけるニューロン活動、すなわち例えば、図3に概略的に示したニューロン集団30におけるニューロン活動を測定することができ、あるいは、ニューロン集団30に結合されている領域のニューロン活動を測定することができる。
【0027】
測定ユニット15は、1つまたは複数のセンサの形で患者の身体に埋め込むことができる。一例として、脳深部の電極、硬膜下または硬膜外の脳電極、皮下EEG電極、硬膜下または硬膜外の脊髄電極は、侵襲的センサとして機能することができる。さらには、末梢神経に取り付けられる電極をセンサとして使用することもできる。一例として、第1の刺激21を印加するために使用される電極14を侵襲的センサとすることもできる。
【0028】
測定信号25は、特効性の第1の刺激21の印加の間の中断時に、具体的には、非特効性の第2の刺激22のみが印加されているときにも、記録することができる。ターゲットの集団30のニューロン活動を測定する場合、病的な振動の振幅を、局所的な電位(local field potentials)の一般的な周波数範囲において確立することができる(すなわち、例えば、パーキンソン病による無動症患者の場合、10〜30Hzの範囲のベータ波領域における積分出力(integrated power))。この振幅は、刺激が有効である場合に小さくなる。第2の動作モードにおいて、単独で印加される非特効性の第2の刺激22の刺激の効果が低下し、測定される振幅が指定されるしきい値を超えた場合、第1の動作モードにおける次の学習段階を行うことができる。その後、第2の動作モードにおける実際の刺激を再び行うことができる。
【0029】
医療従事者は、患者ごとに個別のしきい値を設定することができる。あるいは、しきい値の初期設定として一般的な値を選択することができ、例えば、周波数ピークがなく例えば70Hz以上である周波数スペクトル領域における振幅の平均値に標準偏差の2倍を加えた値である。
【0030】
侵襲的センサに加えて、または侵襲的センサに代えて、1つまたは複数の非侵襲的センサ、例えば、脳電図(EEG)電極、脳磁図(MEG)センサ、筋電図EMG)電極を使用することもできる。さらには、例えば、振戦の周波数範囲の病的な振動性の活動、または(全体的な運動の低減という意味での)運動機能低下症を、加速度計によって測定することができる。振戦活動の指定された値を超える、または時間あたりの平均活動の臨界値を下回る場合(夜間以外)、それによって、例えば、第1の動作モードにおける次の学習段階を開始する。
【0031】
2つのしきい値を使用して2つの動作モードを制御することも可能である。一例として、2つのしきい値ALおよびASを指定し、ニューロン集団30における病的なニューロン活動の振幅(測定ユニット15によって測定される振幅)と比較する目的に使用することができる。しきい値ALをしきい値ASより大きくし、2つのしきい値のうち大きい方の値とすることができる。ベータ波の活動の振幅が値ALを超える場合、第2の動作モードから第1の動作モードへの切り替えを実行し、新たな学習段階を行う。
【0032】
第2の動作モードにおいて、ベータ波の活動の振幅が、小さい方のしきい値ASを超えた場合、装置300を第1の動作モードに切り替えるのではなく実際の刺激段階のままとし、特効性の第1の刺激21および非特効性の第2の刺激22の対「P」の印加を増大させる。これを目的として、一例として、非特効性の刺激「U」のみからなる部分シーケンス(−U−U−U−U−U−)を省略することができ、シーケンスの中の、特効性の第1の刺激21および非特効性の第2の刺激22の対「P」を有する次のセクションにジャンプする。例えば、第2の動作モードにおいて第2の刺激22のうちの特定の割合が第1の刺激21と一緒に印加されるように指定されている場合、しきい値ASを超えたときに、対「P」のこの割合を特定の割合だけ高めることができる。一例として、第2の動作モードにおいて第2の刺激22のうちの30%が、第1の刺激21と一緒に対「P」として印加されているとする。しきい値ASを超えたとき、この割合を例えば20%大きくして、50%にすることができる。その後、ベータ波の活動の振幅が、指定されたさらなるしきい値を下回った時点で、第2の動作モードにおいて指定されていた例えば30%に、再び戻すことが可能である。
【0033】
第2の動作モードから第1の動作モードへの遷移は、患者用の外部プログラミング装置によって患者が制御することもできる。すなわち、患者は、治療が不十分であると感じられる場合、すなわち、例えば震えや運動機能低下症が顕著である場合、小型携帯式の外部装置のボタンを随意に押すことができる。制御ユニット10は、所定のモードに従って、第2の動作モードから第1の動作モードに切り替える、すなわち、新たな学習段階に切り替える。所定のモードとは、患者が最初にボタンを押すことによって、第1の動作モードへの切り替えがすでに開始されていることを意味する。しかしながら、所定の時間間隔の間にボタンが数回押された後にのみ(例えば、30分間にボタンが3回押された後に)、第1の動作モードへの切り替えが行われるように、医療従事者が装置100または装置300を設定することもできる。
【0034】
治療を監視する目的で、装置100または装置300は、ボタンが押された回数および押された時刻を登録する。これらの情報は、医療従事者用の外部プログラミング装置によって医療従事者が読み取ることができる。
【0035】
さらには、所定の時間期間の後に、第2の動作モードから再び第1の動作モード(すなわち学習段階)に切り替わるようにすることができる。この切り替えモードでは、測定ユニット15を用いて治療を監視することが必ずしも要求されず、すなわち、この切り替えモードは、装置100および装置300の両方において実施することができる。
【0036】
第2の刺激ユニット12は、非特効性の第2の刺激22を生成する目的で、例えば、スピーカ、光源(または画像源)、および振動子のうちの1つまたは複数を含んでいることができる。第2の刺激22は、一般的には、患者によって意識的に知覚されるだけの十分な強さとする必要がある。しかしながら、第2の刺激22は、例えば、不快なほど強かったり、イライラする、あるいは気が散るように感じられる刺激であってはならない。時間間隔Δt2の間にスピーカによって発生させる音響的な第2の刺激22のオプションは、一例として、ブザー音、ハム音、またはメロディである。第2の刺激22として光信号を使用する場合、これらは、静的であるか、または時間間隔Δt2の間に時間とともに変化する、例えば抽象的なパターンまたは何らかのオブジェクトのパターンとすることができ、例えば、風の中で咲いている花、水中を泳ぐ魚、飛んでいる鳥、昇る太陽などである。触刺激または振動刺激は、時間間隔Δt2の間に機械振動子によって発生する、患者が知覚できる周波数の振動とすることができる。知覚可能な振動刺激は、10〜160Hzの範囲内またはそれ以上の周波数を有することができるのに対して、触刺激は、ずっと低い(例えば1Hz未満の)周波数を有する。触刺激と振動刺激の組合せを使用することもできる。触刺激もしくは振動刺激またはその両方は、例えば、心地よい刺激を患者自身が選択することができる。また、振動子を使用して、時間間隔Δt2の間に患者の皮膚に軽く心地よいマッサージ効果を施すこともできる。
【0037】
非特効性の第2の刺激22は、各時間間隔Δt2の最初から最後まで連続的に患者に印加することができる。あるいは、時間間隔Δt2の間の印加中に中断を入れることもでき、一例として、時間間隔Δt2の間、特定の時間間隔ごとに印加を中断しながら第2の刺激22を印加することができる。これらの時間的パターンは、例えば確率論的、決定論的、またはその混合型によって変化させることもできる。第2の刺激22が、各時間間隔Δt2の持続時間の少なくとも60%、70%、80%、または90%にわたり印加されるようにすることができる。
【0038】
特効性の第1の刺激21としては、脱同期化をもたらす電気刺激信号、または病的なニューロンの同時発生率を少なくとも下げる電気刺激信号を使用する。刺激電極14(これによって第1の刺激21が患者の脳29または脊髄29に伝達される)は、例えば、1つ、2つ、または3つ以上の刺激接触面(stimulation contact surfaces)を有することができ、刺激接触面は、埋め込み後に脳29または脊髄29の組織と接触しており、電気的な第1の刺激21を印加するために使用される。
【0039】
図4は、刺激電極14を一例として概略的に示している。刺激電極14は、絶縁された電極シャフト50と、電極シャフト50の中に収容されている少なくとも1つの刺激接触面(例えば2つ以上の刺激接触面)とからなる。この例においては、刺激電極14は、4つの刺激接触面51,52,53,54を含んでいる。電極シャフト50および刺激接触面51〜54は、生体適合性材料から作製することができる。さらには、刺激接触面51〜54は、導電性であり(例えば金属から作製されている)、埋め込み後に神経組織と電気的に直接接触する。この例示的な実施形態においては、刺激接触面51〜54のそれぞれは、自身のリード55を介して作動させることができ、記録された測定信号をリード55を介して伝えることができる。あるいは、2つ以上の刺激接触面51〜54を同じリード55に接続することもできる。
【0040】
図4においては、刺激接触面51〜54は、行列状に配置されている。さらには、刺激接触面51〜54は長方形として具体化されている。これらの実施形態は、単に例示を目的としていることを理解されたい。これらの実施形態に代えて、刺激電極14は、任意の数N(N=1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12…)の刺激接触面を含んでいることができ、これらの刺激接触面は、互いに任意の位置関係に配置することができ、任意の形状を有することができる。
【0041】
電極14は、刺激接触面51〜54に加えて基準電極56を有することができ、基準電極56の表面は刺激接触面51〜54の表面よりも大きくすることができる。基準電極56は、神経組織の刺激時に基準電位を発生させるために使用される。あるいは、刺激接触面51〜54のうちの1つを、この目的に使用することもできる。すなわち、個々の刺激接触面51〜54と基準電極56(または生成器ユニット13のハウジング)との間での単極刺激、または複数の異なる刺激接触面51〜54の間での双極刺激を発生させることができる。
【0042】
電極14は、刺激電極としての機能に加えて、装置300内の測定ユニット15として使用することもできる。この場合、測定信号は、接触面51〜54の少なくとも1つによって記録される。
【0043】
刺激接触面51〜54は、ケーブルを介して、または遠隔測定接続によって、生成器ユニット13に接続することができる。
【0044】
複数の刺激接触面51〜54を使用することで、脳29または脊髄29の複数の異なる領域を個々の刺激接触面51〜54によって個別に刺激することができる。一例として、この目的のため、刺激接触面51〜54のそれぞれを、自身の接続線55によって生成器ユニット13に接続することができる。これにより、生成器ユニット13は、個々の刺激接触面51〜54それぞれに対して特定の第1の刺激21を生成することができる。刺激接触面51〜54は、組織に印加される第1の刺激21が、脳29もしくは脊髄29またはその両方に配置されている複数の異なるターゲット領域まで神経を介して伝達されるように、患者に埋め込むことができる。したがって、装置100または装置300は、脳29もしくは脊髄29またはその両方における複数の異なるターゲット領域を、同じ刺激期間Δt1中に、複数の異なる第1の刺激21、または時間をずらせた第1の刺激21、または時間をずらせた複数の異なる第1の刺激21によって、刺激することができる。
【0045】
複数の刺激接触面51〜54を使用することで、脳29もしくは脊髄29またはその両方における複数の異なる領域を刺激できるのみならず、例えば単一の刺激接触面を使用した場合に可能である刺激とは異なる形態での刺激を使用することが可能である。一実施形態によると、刺激電極14は、病的に同期した振動性の活動を有するニューロン集団30に第1の刺激21を印加し、この刺激は、ニューロン集団30内の刺激されたニューロンの活動の位相を再設定(いわゆるリセット)する。刺激されたニューロンの位相は、リセットによって、現在の位相値とは無関係に特定の位相値(例えば0゜)に設定される。したがって、特定の領域を対象とする刺激によって、病的なニューロン集団30のニューロン活動の位相が制御される。さらには、複数の刺激接触面51〜54によって、複数の異なる部位において病的なニューロン集団30を刺激することができる。これによって、複数の異なる刺激部位において病的なニューロン集団30のニューロン活動の位相を異なるタイミングでリセットすることが可能となる。結果として、病的なニューロン集団30(集団内のニューロンはそれまでは同期して活性化され、周波数および位相が同じであった)が、複数のサブ集団に分割される。これらのサブ集団は、図5に概略的に示してあり、参照数字31,32,33,34によって表してある。サブ集団31〜34の個々のサブ集団の中では、位相がリセットされた後もニューロンは依然として同期しており同じ病的な周波数で発火するが、サブ集団31〜34のそれぞれにおいて、ニューロン活動に関連する位相が刺激によって強制される。すなわち、位相のリセットの後、個々のサブ集団31〜34のニューロン活動は、同じ病的な周波数での近似的に正弦波形状を依然として有するが、位相が異なっている。
【0046】
一例として、刺激接触面51によって印加される第1の刺激21が、サブ集団31を刺激してそのニューロンの位相をリセットし、刺激接触面52によって印加される第1の刺激21が、サブ集団32を刺激してそのニューロンの位相をリセットするように、刺激接触面51〜54を患者の脳または脊髄の組織29の上または組織内に配置することができる。サブ集団33および34に対する刺激接触面53および54も同様である。
【0047】
ニューロン間の病的な相互関係のため、少なくとも2つのサブ集団として見たときの状態(刺激によって発生した状態)が安定的ではなく、ニューロン集団30全体としては、完全な脱同期状態(ニューロンは無相関に発火する)に急速に近づく。したがって、刺激電極14を介して刺激信号を印加した直後には、望ましい状態(すなわち、完全な脱同期)が得られないが、通常では、病的な活動の2〜3周期以内、場合によっては1周期以内に、そのような状態になる。
【0048】
このような刺激の有効性を説明する理論においては、最終的に望まれる脱同期は、ニューロン間の相互作用が病的に高いことによってはじめて可能である。この場合、病的な同期の原因である自己組織化プロセスを利用している。集団30全体が、位相の異なるサブ集団31〜34に分割された後、自己組織化プロセスによって脱同期がもたらされる。ニューロン間の病的に高い相互作用が存在しなければ、脱同期は得られない。
【0049】
さらには、装置100または装置300による電気刺激によって、機能不全の神経回路網の結合性を再構築することができ、したがって、持続する治療効果をもたらすことができる。得られるシナプス再編成は、神経系疾患または精神病の有効な治療にとって非常に重要である。
【0050】
刺激されるニューロンの位相を制御することのできる刺激信号ではなく、異なる形態に具体化された刺激信号(例えば、連続的に印加される高周波パルス列)を使用する場合、一般には上述した持続する治療効果を得ることができず、結果として、絶え間なく、かつ比較的高い電流での刺激が要求される。対照的に、本文書に記載した刺激の形態では、治療効果を得るために外部からニューロン系に導入する必要のあるエネルギが小さい。患者の身体に入力されるエネルギが相対的に小さく、多くの場合に刺激の効果が極めて迅速に得られる結果として、装置100または装置300では、電気神経刺激にしばしば関連付けられる感覚異常および知覚障害(痛みの感覚)を大幅に軽減することができる。
【0051】
病的に同期したニューロン集団30のサブ集団31〜34の位相を異なるタイミングでリセットする結果としてニューロン集団30全体の脱同期を得る方法では、いくつかの形態をとることができる。一例として、ニューロンの位相のリセットをもたらす刺激信号を、刺激する神経組織それぞれに、複数の異なる刺激接触面51〜54によって、時間遅延を伴って放出することができる。さらには、例えば位相をずらせて、または異なる極性において、刺激信号を印加することができ、これによっても、複数の異なるサブ集団31〜34の位相が異なるタイミングでリセットされる。
【0052】
一例として、いわゆる「開ループ」モードで装置100を動作させることができ、開ループモードでは、生成器ユニット13は、所定の第1の刺激21を生成し、これらを刺激接触面51〜54によって神経組織に放出する。さらには、装置100を発展させて図3に示した装置300を形成することもでき、装置300は、いわゆる「閉ループ」システムを構成している。装置300はさらに測定ユニット15を含んでおり、測定ユニット15は、患者において記録される1つまたは複数の測定信号26を生成し、この信号を制御ユニット10に送信する。
【0053】
測定信号26を使用することで、要求条件に基づく刺激を行うことができる。これを目的として、制御ユニット10は、測定ユニット15によって記録される測定信号26を使用して、1つまたは複数の病的な特徴の存在もしくは範囲またはその両方を検出する。一例として、すでに上述したように、ニューロン活動の振幅または大きさを測定することができ、これらを1つまたは複数の指定されたしきい値と比較し、比較の結果に応じて特定の動作モードを選択することができる。指定されたしきい値を超えた時点でただちに第1の動作モードの刺激が開始されるように、生成器ユニット13を具体化することができる。さらには、測定ユニット15によって記録される測定信号26を使用して、第1の刺激21の例えば強度を設定することができる。一例として、1つまたは複数のしきい値を指定することができ、測定信号26の振幅または大きさが特定のしきい値を超えたときに、第1の刺激21の特定の強度を設定する。
【0054】
さらには、測定ユニット15によって記録される測定信号26を、そのまま、または必要であれば1つまたは複数の処理ステップの後、第1の刺激21として利用し、この信号を生成器ユニット13によって刺激電極14に送信するようにすることができる。一例として、オプションとして数学的計算の後(例えば測定信号を混合した後)、時間遅延の導入と、線形もしくは非線形またはその両方の計算ステップおよび合成によって処理し、測定信号26を増幅して刺激電極14に送信することができる。この場合、計算処理の内容は、病的なニューロン活動が打ち消され、病的なニューロン活動が減少するにつれて刺激信号も同様に消える、または少なくとも強度が大幅に減少するように、選択する。
【0055】
図6は、例えば装置100および装置300の一方によって実行できる、上述した目的に適する刺激方法を、概略的に示している。この図には、刺激接触面51〜54によって印加される第1の刺激21を、上下に重ねて時間tに対してプロットしてある。図6に示した時間期間は、時間間隔Δt1の一部分を構成している。図示した刺激は、時間間隔Δt1の最後まで続けることができる。
【0056】
図6に示した方法においては、刺激接触面51〜54のそれぞれは、刺激接触面51〜54自身が配置されている組織の各領域に、第1の刺激21を周期的に印加する。刺激接触面51〜54のそれぞれにおいて第1の刺激21が繰り返される周波数f21は、1〜30Hzの範囲内とすることができ、特に、1〜20Hzの範囲内、または5〜20Hzの範囲内、または10〜30Hzの範囲内とすることができるが、より小さい値またはより大きい値をとることもできる。
【0057】
図6に示した実施形態によると、個々の刺激接触面51〜54によって第1の刺激21が印加され、個々の刺激接触面51〜54による印加の間には時間遅延が存在している。一例として、異なる刺激接触面51〜54によって印加される連続する第1の刺激21の先頭を、時間ΔTj,j+1だけずらすことができる。
【0058】
刺激接触面がN個である場合、2つの連続する第1の刺激21の間の時間遅延ΔTj,j+1は、例えば、周期1/f21の1/Nの程度とすることができる。図6に示した例示的な実施形態(N=4)においては、遅延ΔTj,j+1は、1/(4×f21)である。
【0059】
周波数f21は、一例として、ターゲットの回路網の病的な律動的活動の平均周波数の程度とすることができる。神経系疾患および精神病の場合、平均周波数は一般に1〜30Hzの範囲内であるが、この範囲外とすることもできる。なお、神経系疾患および精神病においては、影響下にあるニューロンが同期して発火する周波数は、通常では一定ではなく変動し、さらには患者によっても異なることに留意されたい。
【0060】
第1の刺激21としては、一例として電流制御パルスまたは電圧制御パルスを使用することができる。さらには、図7に示したように、第1の刺激21を、複数の個々のパルス210からなるパルス列とすることができる。パルス列21それぞれは、1〜100個、特に、2〜10個の電荷均衡状態の(electric-charge-balanced)個々パルス210からなることができる。1つのシーケンス内では、パルス列21は、1〜30Hzの範囲内の周波数f21で繰り返される。
【0061】
図8は、例示を目的として、3つの個々のパルス210からなるパルス列21を示している。個々のパルス210は、50〜500Hzの範囲内、特に、100〜150Hzの範囲内の周波数f210で繰り返される。個々のパルス210は、電流制御パルスまたは電圧制御パルスとすることができ、最初のパルス成分211と、逆方向に流れる後続のパルス成分212とからなり、2つのパルス成分211,212の極性は、図8に示した極性と比較して入れ替えることができる。パルス成分211の持続時間213は、1μs〜450μsの範囲内にある。パルス成分211の振幅214は、電流制御パルスの場合には0mA〜25mAの範囲内にあり、電圧制御パルスの場合には0〜20Vの範囲内にある。パルス成分212の振幅は、パルス成分211の振幅214より小さい。代わりに、パルス成分212は、パルス成分211よりも長い持続時間を有する。理想的には、パルス成分211および212は、これらによって伝えられる電荷が両方のパルス成分211および212において同じ大きさであるような形状寸法を有し、すなわち、図8において影の付いた面積は同じ大きさである。結果として、個々のパルス210は、組織から除去される電荷量と正確に同じ電荷量を組織に導入する。
【0062】
図8に示した個々のパルス210の長方形形状は、理想的な形状である。個々のパルス210を生成する電極の性質に応じて、理想的な長方形以外の形状とすることもできる。
【0063】
生成器ユニット13は、パルス状の刺激信号の代わりに、例えば、異なる形態に具体化された刺激信号(例:時間的に連続する刺激パターン)を生成することもできる。ここまでに説明した信号の形状およびそのパラメータは、単に例示を目的としていることを理解されたい。当然ながら、上述した信号の形状およびそのパラメータとは異なる形状および値を使用することもできる。
【0064】
図6に示した、厳密に周期的な刺激パターンを基本として、さまざまなバリエーションを導入することができる。一例として、連続する2つの第1の刺激21の間の時間遅延ΔTj,j+1は、必ずしもつねに同じ大きさでなくてもよい。個々の第1の刺激21の間の時間的な隔たりを、互いに異なる長さとして選択することができる。さらには、患者の治療中に遅延時間を変化させることもできる。生理学的刺激信号のランタイムに関連して遅延時間を調整することもできる。
【0065】
さらには、第1の刺激21の印加中に中断を設けることができ、中断の間は刺激が存在しない。図9は、このような中断を例示的に示している。中断の持続時間は、任意の長さとすることができ、特に、周期T21(=1/f21)の整数倍であるように選択することができる。さらには、任意の回数の刺激の後に中断を配置することができる。一例として、長さT21のN個の連続する周期にわたって刺激を実行した後、長さT21のM個の周期にわたり、刺激の存在しない中断を配置することができ、この場合、NおよびMは小さな整数(例えば、1〜10の範囲内)である。このパターンを、周期的に継続する、あるいは、確率論的もしくは決定論的に、またはその混合型として(例:無秩序に)、変化させることができる。
【0066】
図6に示した厳密に周期的な刺激パターンからのバリエーションとしてのさらなるオプションは、個々の第1の刺激21の時間軸に沿ったシーケンスを、確率論的もしくは決定論的に、またはその混合型として変化させることである。
【0067】
さらには、図10に例示的に示したように、刺激接触面51〜54が第1の刺激21を印加する順序を、各周期T21の間で(またはそれ以外の時間間隔の間で)変化させることができる。この変化は、確率論的もしくは決定論的に、またはその混合型とすることができる。
【0068】
さらには、各時間間隔T21において(または別の時間間隔において)、刺激接触面51〜54のうちの特定の数のみを使用して刺激することが可能であり、刺激を行う刺激接触面を、各時間間隔において変化させることができる。この変化も、確率論的もしくは決定論的に、またはその混合型とすることができる。上述した刺激の形態は、いずれも装置300によって「閉ループ」モードで実行することもできる。図9に示した刺激の形態の場合、中断の開始タイミングおよび長さを、例えば要求条件に基づいて選択することができる。
【0069】
装置300に関連してすでに説明したように、装置300の「閉ループ」モードの実施形態として、測定ユニット15によって記録される測定信号26が、そのまま、または必要であれば1つまたは複数の処理ステップの後、生成器ユニット13によって電気的な第1の刺激21に変換され、刺激電極14によって印加されるようにすることができる。この場合、装置300は、必ずしも少なくとも2つの刺激接触面を備えていなくてよい。このタイプの刺激(患者において記録された測定信号が患者の身体内に送り返される)は、原理的には1つのみの刺激接触面によって行うこともできる。しかしながら、2つ以上の任意の数の刺激接触面を設けることもできる。
【0070】
上述した「閉ループ」モードは、病的に同期した振動性のニューロン活動を有するニューロン集団を脱同期化する目的で同様に使用することができる。
【0071】
一例として、第1の刺激21を生成する目的で、オプションとして数学的計算の後(例えば測定信号を混合した後)、時間遅延を導入し、線形もしくは非線形またはその両方の計算ステップを行い、測定信号26を増幅することで、電気刺激のための第1の刺激21として使用することができる。この場合、計算処理の内容は、病的なニューロン活動が打ち消され、病的なニューロン活動が減少するにつれて刺激信号も同様に消える、または少なくとも強度が大幅に減少するように、選択することができる。
【0072】
以下では、測定ユニット15を利用して得られる測定信号26を、刺激電極14に送信する前に処理する目的に使用できる線形処理ステップおよび非線形処理ステップについて説明する。測定信号26を非線形処理する場合、刺激される各サブ集団におけるニューロン活動の位相がリセットされるのではなく、同期の飽和プロセスに影響を与えることによって、病的な活動を有するニューロン集団における同期が抑制される。
【0073】
測定ユニット15から得られる測定信号26を線形処理する場合、測定信号26に対して、例えば、フィルタリング、増幅、時間遅延の導入、のうちの1つまたは複数を行うことができ、その後、このように処理した信号を刺激電極14に送信し、1つまたは複数の刺激接触面によって印加する。一例として、測定信号26は、EEG電極によって記録され、ターゲット領域における病的な活動を再現する。したがって、測定信号26は、1〜30Hzの範囲内の周波数を有する正弦波振動である。さらには、測定信号26は、一例として5Hzの周波数を有する。5Hzの程度の通過帯域を有する帯域通過フィルタによって、測定信号26をフィルタリングすることができ、脳の電気刺激または脊髄の電気刺激に適したレベルとなるように、増幅器によって増幅することができる。次いで、このようにして得られる増幅された正弦波振動を使用して、刺激電極14を作動させる。
【0074】
複数の刺激接触面を使用して刺激する場合、測定信号26を第1の刺激21として対応する刺激接触面に送信する前に、図6に示したように、測定信号26に時間遅延ΔTj,j+1を導入することができる。前の例によると、図6に示した長方形の刺激信号21の代わりに、5Hzの周波数を有する正弦波振動を印加する。
【0075】
以下では、測定ユニット15によって得られる測定信号26を、脳の電気刺激または脊髄の電気刺激のための第1の刺激21として使用する前に非線形処理を行う方法について、例を通じて説明する。線形処理の場合と同様に、この場合も、測定信号26に対して、フィルタリング、増幅、時間遅延の導入、のうちの1つまたは複数を行うことができる。
【0076】
処理前の刺激信号S(t)(第1の刺激)の等式は、以下である。
【0077】
【数1】
【0078】
等式(1)において、Kは、適切に選択することのできる増幅係数であり、Z ̄(t)は、測定信号の平均状態変数である。Z ̄(t)は複素変数であり、次のように表すことができる。
【0079】
【数2】
【0080】
この式において、X(t)は、例えば神経系の測定信号に対応させることができる。考慮する周波数はおよそ10Hz=1/100ms=1/Tαであるため、虚部Y(t)は、X(t−τα)によって近似することができ、例えばτα=Tα/4が成り立つ。結果として、以下の式となる。
【0081】
【数3】
【0082】
等式(3)は、次のように書き直すことができる。
【0083】
【数4】
【0084】
等式(4)の実部を、刺激信号として使用する。
【0085】
【数5】
【0086】
図11は、本発明の意図する動作状態にある装置100または装置300を概略的に示している。患者の脳の片側または両側に少なくとも1個の刺激電極14が埋め込まれている。上述した1つまたは複数のターゲット領域に配置されている刺激電極14のそれぞれは、コネクタ71およびさらなる接続ケーブル72を介してケーブル70によって生成器ユニット13に接続されている。この実施形態においては、生成器ユニット13は、制御ユニット10も備えている。装置100のこれらの構成要素は、患者の身体に埋め込まれている。接続ケーブル70,72およびコネクタ71は、皮膚の下に埋め込まれている。図11に示したような胸部に埋め込まれる生成器ユニット13に代えて、より小型の生成器をドリル穴に直接埋め込むこともできる。これにより、生成器の袋部における感染率が減少し、接続ケーブル70,72の断線を回避することができる。さらには、完全に埋め込む代わりに、無線リンクを備えた半埋め込み(semi-implant)を使用することができる。「閉ループ」刺激の場合、装置300は測定ユニット15も含んでいる。この例では、非特効性の第2の刺激22を生成するための第2の刺激ユニット12が、患者の腕に取り付けられている。第2の刺激ユニット12は、患者の身体内に位置している制御ユニット10と、例えば無線リンクによって通信することができる。
【0087】
図12Aおよび図12Bは、非特効性の第2の刺激22を生成するための第2の刺激ユニット12の例示的な実施形態を示している。この場合、第2の刺激ユニット12は、いわゆる「時計型条件付け装置(conditioning watch)」として具体化されており、患者は快適に着用することができる。図12Aは、時計型条件付け装置12の正面図を示しており、図12Bは背面図を示している。時計型条件付け装置12は、中央部80と、ストラップ81と、締結部82と、対応する穴83とからなる。あるいは、マジックテープ(登録商標)式の締結部または他の同等の締結部を使用することもできる。中央部80は、非特効性の音響信号22(例えばメロディ、心地よいブザー音)を生成するためのスピーカ84と、まぶしすぎない心地よい非特効性の光刺激22(例えば、風の中で咲いている花や、明るい暖色の抽象的な光のパターン)を生成するためのディスプレイ85とを含んでいる。さらには、時計型条件付け装置12は、非特効性の触刺激22もしくは振動刺激22またはその両方を生成する1つまたは複数の振動子86を装備することができる。触刺激22を生成する目的で、振動子は、1Hz未満の周波数で動作させることができる。より具体的には、この場合、圧力刺激の印加を改善する目的で(すなわち振動子86の運動の主方向は皮膚の方に向いているべきである)、振動子86の可動部を整列させることができる。さらには、圧力アクチュエータ、または皮膚に対してゆっくり動く要素によって、触刺激22を生成することもでき、これらの要素は、例えば時計型条件付け装置に組み込むことができる。振動刺激22を振動子86によって生成する場合、10〜160Hzの範囲内またはそれ以上の振動周波数を実施することができる。この場合、振動子86の可動部は、皮膚に実質的に平行な移動方向を有することができる。触刺激22および振動刺激22を同時に生成するように、振動子86を動作させることもできる。
【0088】
時計型条件付け装置12は、1種類の感覚に対する非特効性の第2の刺激22のみ(例えば光刺激のみ)を生成するように具体化することもできる。時計型条件付け装置12への電流供給は、時計型条件付け装置12の内部のバッテリ、太陽電池、機械的フライホイールのうちの1つまたは複数によって行われる。
【0089】
刺激の効果を監視する目的で、時計型条件付け装置12は加速度計をさらに含んでいることができ、加速度計は、例えば病的振戦から、病的な振動性の活動を測定する、または患者の平均活動レベル(mean activity level)を測定することができる。患者の平均活動レベルは、患者の運動の緩慢化または減少、あるいは患者が運動できない状態(すなわち運動緩慢、運動機能低下症、運動不能症)を反映する。
【0090】
図13は、第2の刺激ユニット12のさらなる例示的な実施形態を概略的に示している。この場合、刺激ユニット12は、例えば携帯電話の形の刺激装置であり、例えば患者のシャツのポケットやズボンのポケットに入れて持ち運ぶことができ、スピーカ87によって非特効性の第2の刺激22を生成する。
【0091】
さらには、医療従事者用の外部プログラミング装置によって、制御ユニット10、生成器ユニット13、非特効性の生理学的刺激ユニット12のうちの少なくとも1つのユニットのパラメータを設定できるようにすることができる。さらには、患者にも同様に外部プログラミング装置を装備させることができ、患者はこの装置によって、刺激装置のスイッチをオフにしたり、刺激ユニット11,12のパラメータを、医療従事者によって設定された狭い範囲内で修正することができる。さらには、患者用のプログラミング装置は、上述した機能を含んでおり、これらの機能によって、患者は、治療が不十分である(すなわち震えや運動機能低下が顕著である)と感じるとき、例えばボタンを作動させることにより第2の動作モードから第1の動作モードに(すなわち学習段階に)自身の判断で切り替えることができる。プログラミング装置は、刺激装置の各構成要素と例えば無線リンクによって通信することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
− 電気的な第1の刺激(21)を生成する第1の刺激ユニット(11)であって、前記第1の刺激(21)が、患者の脳もしくは脊髄またはその両方に印加されたとき、前記患者の前記脳もしくは前記脊髄またはその両方におけるニューロンの病的に同期した活動を抑制する、第1の刺激ユニット(11)と、
− 光の第2の刺激(22)、音響的な第2の刺激(22)、触覚の第2の刺激(22)、振動性の第2の刺激(22)のうちの1つまたは複数を生成する第2の刺激ユニット(12)と、
− 前記第1の刺激ユニット(11)および前記第2の刺激ユニット(12)を制御する制御ユニット(10)と、
を備えており、
− 前記第1の刺激(21)および前記第2の刺激(22)が、随意に第1の動作モードまたは第2の動作モードにおいて生成され、
− 前記第1の動作モードにおいては前記第2の刺激(22)の少なくとも60%の生成が前記第1の刺激(21)の生成に時間的に連結されており、かつ、前記第2の動作モードにおいては前記第2の刺激(22)の少なくとも60%が前記第1の刺激(21)の生成なしに生成されるように、前記制御ユニット(10)が前記第1の刺激ユニット(11)および前記第2の刺激ユニット(12)を作動させる、
装置(100,300)。
【請求項2】
前記第1の動作モードにおいて、前記第2の刺激(22)の少なくとも80%の生成が前記第1の刺激(21)の生成に時間的に連結されている、もしくは、前記第2の動作モードにおいて、前記第2の刺激(22)の少なくとも80%が前記第1の刺激(21)の生成なしに生成される、またはその両方である、
請求項1に記載の装置(100,300)。
【請求項3】
単独で印加される前記第2の刺激(22)が、前記脳もしくは前記脊髄またはその両方におけるニューロンの病的に同期した活動を抑制しない、
請求項1または2に記載の装置(100,300)。
【請求項4】
前記患者が前記第2の刺激(22)を意識的に知覚することができる、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置(100,300)。
【請求項5】
前記第1の刺激ユニット(11)が、前記患者の前記脳もしくは前記脊髄またはその両方に前記第1の刺激(21)を供給する少なくとも1個の電極(14)、を備えている、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置(100,300)。
【請求項6】
前記ニューロンの前記病的に同期した活動を再現する測定信号(26)を記録する測定ユニット(15)、
を備えている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の装置(300)。
【請求項7】
前記第2の動作モードにおいて、前記測定信号(26)が指定された第1のしきい値を超えた場合、前記制御ユニット(10)が前記第1の刺激(21)の数を増大させ、前記第1の刺激(21)の生成が前記第2の刺激(22)の生成に時間的に連結されている、
請求項6に記載の装置(300)。
【請求項8】
前記測定信号(26)が指定された第2のしきい値を超えた場合、前記制御ユニット(10)が前記第2の動作モードから前記第1の動作モードに切り替える、
請求項6または7に記載の装置(300)。
【請求項9】
前記第1のしきい値が前記第2のしきい値より小さい、
請求項7または8に記載の装置(300)。
【請求項10】
前記第1の刺激ユニット(11)が、前記測定信号(26)を第1の刺激(21)として使用する、またはさらなる処理の後に前記測定信号(26)を第1の刺激(21)として使用する、
請求項6〜9のいずれか1項に記載の装置(300)。
【請求項11】
前記第1の動作モードにおいて、前記第1の刺激(21)が第1の時間間隔(Δt1)の間に生成され、前記第2の刺激(22)が第2の時間間隔(Δt2)の間に生成され、前記第2の時間間隔(Δt2)の少なくとも60%が、それぞれ、前記第1の時間間隔(Δt1)の1つと時間的に重なっている、
請求項1〜10のいずれか1項に記載の装置(100,300)。
【請求項12】
前記第1の時間間隔(Δt1)の1つと前記第2の時間間隔(Δt2)の1つとの間の時間的な重なり(Δt12)が、前記第2の時間間隔(Δt2)の持続時間の少なくとも10%の持続時間を有する、
請求項11に記載の装置(100,300)。
【請求項13】
前記第1の刺激(21)が、それぞれ、電気パルス(210)のシーケンスである、
請求項1〜12のいずれか1項に記載の装置(100,300)。
【請求項14】
前記第1の刺激ユニット(11)が、前記患者の前記脳もしくは前記脊髄またはその両方に前記第1の刺激(21)を供給する複数の刺激接触面(51,52,53,54)、を備えており、前記第1の刺激(21)が、病的に同期した振動性の活動を有するニューロン集団に印加された場合に、前記ニューロン集団の前記振動性の活動の位相をリセットするように、具体化されている、
請求項1〜13のいずれか1項に記載の装置(100,300)。
【請求項15】
前記患者が前記第2の動作モードから前記第1の動作モードに切り替えることができるプログラミング装置、
を備えている、請求項1〜14のいずれか1項に記載の装置(100,300)。
【請求項16】
− 電気的な第1の刺激(21)を生成する第1の刺激ユニット(11)であって、前記第1の刺激(21)が、患者の脳もしくは脊髄またはその両方に印加されたとき、前記患者の前記脳もしくは前記脊髄またはその両方におけるニューロンの病的に同期した活動を抑制する、第1の刺激ユニット(11)と、
− 光の第2の刺激(22)、音響的な第2の刺激(22)、触覚の第2の刺激(22)、振動性の第2の刺激(22)のうちの1つまたは複数を生成する第2の刺激ユニット(12)であって、前記第2の刺激(22)が前記患者によって意識的に知覚され得る、第2の刺激ユニット(12)と、
を備えており、
− 学習段階の間、前記第1の刺激(21)および前記第2の刺激(22)が時間的に連結されて前記患者に印加され、これによって前記患者の神経系の条件付けがもたらされ、結果として、前記神経系が、前記第1の刺激(21)なしでの前記第2の刺激(22)の印加に対して、あたかも前記第1の刺激(21)が印加されたかのように反応するようになり、
− 前記学習段階に続く刺激段階の間、前記第2の刺激(22)の少なくとも一部が、前記第1の刺激(21)なしで前記患者に印加される、
装置(100,300)。
【請求項17】
− 電気的な第1の刺激(21)を生成する第1の刺激ユニット(11)であって、前記第1の刺激(21)が、患者の脳もしくは脊髄またはその両方に印加されたとき、前記患者の前記脳もしくは前記脊髄またはその両方におけるニューロンの病的に同期した活動を抑制する、第1の刺激ユニット(11)と、
− 光の第2の刺激(22)、音響的な第2の刺激(22)、触覚の第2の刺激(22)、振動性の第2の刺激(22)のうちの1つまたは複数を生成する第2の刺激ユニット(12)と、
を備えており、
− 前記第1の刺激(21)が第1の時間間隔(Δt1)の間に生成され、前記第2の刺激(22)が第2の時間間隔(Δt2)の間に生成され、
− 前記第1の刺激(21)および前記第2の刺激(22)が、随意に第1の動作モードまたは第2の動作モードにおいて生成され、
− 前記第1の動作モードにおいては前記第2の時間間隔(Δt2)の少なくとも60%が、前記第1の時間間隔(Δt1)の1つと時間的に重なっており、前記第2の動作モードにおいては前記第2の時間間隔(Δt2)の少なくとも60%が、前記第1の時間間隔(Δt1)と重ならない、
装置(100,300)。
【請求項18】
− 電気的な第1の刺激(21)を患者の脳もしくは脊髄またはその両方に印加するステップであって、前記第1の刺激(21)が、前記患者の前記脳もしくは前記脊髄またはその両方におけるニューロンの病的に同期した活動を抑制する、ステップと、
− 光の第2の刺激(22)、音響的な第2の刺激(22)、触覚の第2の刺激(22)のうちの1つまたは複数を前記患者に印加するステップと、
を含んでおり、
− 前記第1の刺激(21)および前記第2の刺激(22)が、随意に第1の動作モードまたは第2の動作モードにおいて印加され、
− 前記第1の動作モードにおいては前記第2の刺激(22)の少なくとも60%の印加が前記第1の刺激(21)の印加に時間的に連結されており、かつ、前記第2の動作モードにおいては前記第2の刺激(22)の少なくとも60%が前記第1の刺激(21)の印加なしに印加される、
方法。
【請求項19】
前記第1の動作モードにおいて、前記第2の刺激(22)の少なくとも80%の印加が前記第1の刺激(21)の印加に時間的に連結されている、もしくは、前記第2の動作モードにおいて、前記第2の刺激(22)の少なくとも80%が前記第1の刺激(21)の印加なしに印加される、またはその両方である、
請求項18に記載の方法。
【請求項20】
単独で印加される前記第2の刺激(22)が、前記脳もしくは前記脊髄またはその両方におけるニューロンの病的に同期した活動を抑制しない、
請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記第2の刺激(22)が前記患者によって意識的に知覚され得る、
請求項18〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記ニューロンの前記病的に同期した活動を再現する測定信号(26)が記録される、
請求項18〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記第2の動作モードにおいて、前記測定信号(26)が指定された第1のしきい値を超えた場合、前記第1の刺激(21)の数が増やされ、前記第1の刺激(21)の印加が前記第2の刺激(22)の印加に時間的に連結されている、
請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記測定信号(26)が指定された第2のしきい値を超えた場合、前記第2の動作モードが前記第1の動作モードに切り替えられる、
請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
前記第1のしきい値が前記第2のしきい値より小さい、
請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
前記第1の動作モードにおいて、前記第1の刺激(21)が第1の時間間隔(Δt1)の間に印加され、前記第2の刺激(22)が第2の時間間隔(Δt2)の間に印加され、前記第2の時間間隔(Δt2)の少なくとも60%が、それぞれ、前記第1の時間間隔(Δt1)の1つと時間的に重なっている、
請求項18〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項1】
− 電気的な第1の刺激(21)を生成する第1の刺激ユニット(11)であって、前記第1の刺激(21)が、患者の脳もしくは脊髄またはその両方に印加されたとき、前記患者の前記脳もしくは前記脊髄またはその両方におけるニューロンの病的に同期した活動を抑制する、第1の刺激ユニット(11)と、
− 光の第2の刺激(22)、音響的な第2の刺激(22)、触覚の第2の刺激(22)、振動性の第2の刺激(22)のうちの1つまたは複数を生成する第2の刺激ユニット(12)と、
− 前記第1の刺激ユニット(11)および前記第2の刺激ユニット(12)を制御する制御ユニット(10)と、
を備えており、
− 前記第1の刺激(21)および前記第2の刺激(22)が、随意に第1の動作モードまたは第2の動作モードにおいて生成され、
− 前記第1の動作モードにおいては前記第2の刺激(22)の少なくとも60%の生成が前記第1の刺激(21)の生成に時間的に連結されており、かつ、前記第2の動作モードにおいては前記第2の刺激(22)の少なくとも60%が前記第1の刺激(21)の生成なしに生成されるように、前記制御ユニット(10)が前記第1の刺激ユニット(11)および前記第2の刺激ユニット(12)を作動させる、
装置(100,300)。
【請求項2】
前記第1の動作モードにおいて、前記第2の刺激(22)の少なくとも80%の生成が前記第1の刺激(21)の生成に時間的に連結されている、もしくは、前記第2の動作モードにおいて、前記第2の刺激(22)の少なくとも80%が前記第1の刺激(21)の生成なしに生成される、またはその両方である、
請求項1に記載の装置(100,300)。
【請求項3】
単独で印加される前記第2の刺激(22)が、前記脳もしくは前記脊髄またはその両方におけるニューロンの病的に同期した活動を抑制しない、
請求項1または2に記載の装置(100,300)。
【請求項4】
前記患者が前記第2の刺激(22)を意識的に知覚することができる、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置(100,300)。
【請求項5】
前記第1の刺激ユニット(11)が、前記患者の前記脳もしくは前記脊髄またはその両方に前記第1の刺激(21)を供給する少なくとも1個の電極(14)、を備えている、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置(100,300)。
【請求項6】
前記ニューロンの前記病的に同期した活動を再現する測定信号(26)を記録する測定ユニット(15)、
を備えている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の装置(300)。
【請求項7】
前記第2の動作モードにおいて、前記測定信号(26)が指定された第1のしきい値を超えた場合、前記制御ユニット(10)が前記第1の刺激(21)の数を増大させ、前記第1の刺激(21)の生成が前記第2の刺激(22)の生成に時間的に連結されている、
請求項6に記載の装置(300)。
【請求項8】
前記測定信号(26)が指定された第2のしきい値を超えた場合、前記制御ユニット(10)が前記第2の動作モードから前記第1の動作モードに切り替える、
請求項6または7に記載の装置(300)。
【請求項9】
前記第1のしきい値が前記第2のしきい値より小さい、
請求項7または8に記載の装置(300)。
【請求項10】
前記第1の刺激ユニット(11)が、前記測定信号(26)を第1の刺激(21)として使用する、またはさらなる処理の後に前記測定信号(26)を第1の刺激(21)として使用する、
請求項6〜9のいずれか1項に記載の装置(300)。
【請求項11】
前記第1の動作モードにおいて、前記第1の刺激(21)が第1の時間間隔(Δt1)の間に生成され、前記第2の刺激(22)が第2の時間間隔(Δt2)の間に生成され、前記第2の時間間隔(Δt2)の少なくとも60%が、それぞれ、前記第1の時間間隔(Δt1)の1つと時間的に重なっている、
請求項1〜10のいずれか1項に記載の装置(100,300)。
【請求項12】
前記第1の時間間隔(Δt1)の1つと前記第2の時間間隔(Δt2)の1つとの間の時間的な重なり(Δt12)が、前記第2の時間間隔(Δt2)の持続時間の少なくとも10%の持続時間を有する、
請求項11に記載の装置(100,300)。
【請求項13】
前記第1の刺激(21)が、それぞれ、電気パルス(210)のシーケンスである、
請求項1〜12のいずれか1項に記載の装置(100,300)。
【請求項14】
前記第1の刺激ユニット(11)が、前記患者の前記脳もしくは前記脊髄またはその両方に前記第1の刺激(21)を供給する複数の刺激接触面(51,52,53,54)、を備えており、前記第1の刺激(21)が、病的に同期した振動性の活動を有するニューロン集団に印加された場合に、前記ニューロン集団の前記振動性の活動の位相をリセットするように、具体化されている、
請求項1〜13のいずれか1項に記載の装置(100,300)。
【請求項15】
前記患者が前記第2の動作モードから前記第1の動作モードに切り替えることができるプログラミング装置、
を備えている、請求項1〜14のいずれか1項に記載の装置(100,300)。
【請求項16】
− 電気的な第1の刺激(21)を生成する第1の刺激ユニット(11)であって、前記第1の刺激(21)が、患者の脳もしくは脊髄またはその両方に印加されたとき、前記患者の前記脳もしくは前記脊髄またはその両方におけるニューロンの病的に同期した活動を抑制する、第1の刺激ユニット(11)と、
− 光の第2の刺激(22)、音響的な第2の刺激(22)、触覚の第2の刺激(22)、振動性の第2の刺激(22)のうちの1つまたは複数を生成する第2の刺激ユニット(12)であって、前記第2の刺激(22)が前記患者によって意識的に知覚され得る、第2の刺激ユニット(12)と、
を備えており、
− 学習段階の間、前記第1の刺激(21)および前記第2の刺激(22)が時間的に連結されて前記患者に印加され、これによって前記患者の神経系の条件付けがもたらされ、結果として、前記神経系が、前記第1の刺激(21)なしでの前記第2の刺激(22)の印加に対して、あたかも前記第1の刺激(21)が印加されたかのように反応するようになり、
− 前記学習段階に続く刺激段階の間、前記第2の刺激(22)の少なくとも一部が、前記第1の刺激(21)なしで前記患者に印加される、
装置(100,300)。
【請求項17】
− 電気的な第1の刺激(21)を生成する第1の刺激ユニット(11)であって、前記第1の刺激(21)が、患者の脳もしくは脊髄またはその両方に印加されたとき、前記患者の前記脳もしくは前記脊髄またはその両方におけるニューロンの病的に同期した活動を抑制する、第1の刺激ユニット(11)と、
− 光の第2の刺激(22)、音響的な第2の刺激(22)、触覚の第2の刺激(22)、振動性の第2の刺激(22)のうちの1つまたは複数を生成する第2の刺激ユニット(12)と、
を備えており、
− 前記第1の刺激(21)が第1の時間間隔(Δt1)の間に生成され、前記第2の刺激(22)が第2の時間間隔(Δt2)の間に生成され、
− 前記第1の刺激(21)および前記第2の刺激(22)が、随意に第1の動作モードまたは第2の動作モードにおいて生成され、
− 前記第1の動作モードにおいては前記第2の時間間隔(Δt2)の少なくとも60%が、前記第1の時間間隔(Δt1)の1つと時間的に重なっており、前記第2の動作モードにおいては前記第2の時間間隔(Δt2)の少なくとも60%が、前記第1の時間間隔(Δt1)と重ならない、
装置(100,300)。
【請求項18】
− 電気的な第1の刺激(21)を患者の脳もしくは脊髄またはその両方に印加するステップであって、前記第1の刺激(21)が、前記患者の前記脳もしくは前記脊髄またはその両方におけるニューロンの病的に同期した活動を抑制する、ステップと、
− 光の第2の刺激(22)、音響的な第2の刺激(22)、触覚の第2の刺激(22)のうちの1つまたは複数を前記患者に印加するステップと、
を含んでおり、
− 前記第1の刺激(21)および前記第2の刺激(22)が、随意に第1の動作モードまたは第2の動作モードにおいて印加され、
− 前記第1の動作モードにおいては前記第2の刺激(22)の少なくとも60%の印加が前記第1の刺激(21)の印加に時間的に連結されており、かつ、前記第2の動作モードにおいては前記第2の刺激(22)の少なくとも60%が前記第1の刺激(21)の印加なしに印加される、
方法。
【請求項19】
前記第1の動作モードにおいて、前記第2の刺激(22)の少なくとも80%の印加が前記第1の刺激(21)の印加に時間的に連結されている、もしくは、前記第2の動作モードにおいて、前記第2の刺激(22)の少なくとも80%が前記第1の刺激(21)の印加なしに印加される、またはその両方である、
請求項18に記載の方法。
【請求項20】
単独で印加される前記第2の刺激(22)が、前記脳もしくは前記脊髄またはその両方におけるニューロンの病的に同期した活動を抑制しない、
請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記第2の刺激(22)が前記患者によって意識的に知覚され得る、
請求項18〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記ニューロンの前記病的に同期した活動を再現する測定信号(26)が記録される、
請求項18〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記第2の動作モードにおいて、前記測定信号(26)が指定された第1のしきい値を超えた場合、前記第1の刺激(21)の数が増やされ、前記第1の刺激(21)の印加が前記第2の刺激(22)の印加に時間的に連結されている、
請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記測定信号(26)が指定された第2のしきい値を超えた場合、前記第2の動作モードが前記第1の動作モードに切り替えられる、
請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
前記第1のしきい値が前記第2のしきい値より小さい、
請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
前記第1の動作モードにおいて、前記第1の刺激(21)が第1の時間間隔(Δt1)の間に印加され、前記第2の刺激(22)が第2の時間間隔(Δt2)の間に印加され、前記第2の時間間隔(Δt2)の少なくとも60%が、それぞれ、前記第1の時間間隔(Δt1)の1つと時間的に重なっている、
請求項18〜25のいずれか1項に記載の方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【公表番号】特表2012−505674(P2012−505674A)
【公表日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−531402(P2011−531402)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【国際出願番号】PCT/EP2009/007452
【国際公開番号】WO2010/043413
【国際公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(510238926)フォースチュングスヌートラム ユーリッヒ ゲーエムベーハー (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【国際出願番号】PCT/EP2009/007452
【国際公開番号】WO2010/043413
【国際公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(510238926)フォースチュングスヌートラム ユーリッヒ ゲーエムベーハー (3)
【Fターム(参考)】
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