説明

条件複製起点をもつ環状DNA分子、それらの製造方法、及び、遺伝子治療におけるそれらの使用

【課題】遺伝子治療または組換え蛋白質のin vitro産生に使用でき、非ウイルス性ベクターのいくつかの機能を補完できる細胞中でのみ複製される新規なDNA分子の提供。
【解決手段】条件複製起点を活性化させる非相同性の複製開始蛋白質と、非相同性の治療用遺伝子及び条件複製起点を持つ染色体外DNA分子を含み、原核生物組換え体の宿主細胞における前記条件複製起点の機能にはその宿主細胞に外来の複製開始蛋白質が必要な、原核生物組換え体の宿主細胞が記載される。この宿主細胞は少なくとも1つの変異(この変異はコピー数制御部位、pir遺伝子ロイシンジッパー様モチーフ、若しくはpir遺伝子DNA結合部位において起こっていてよい。)を有するpir遺伝子を含んでいてよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子治療または組換え蛋白質の産生に有用な条件複製型の新規なDNA分子に関する。本発明の新規なDNA分子は以下pCORTMと記載する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療は、病気に冒された器官または細胞に遺伝情報を導入することによって欠損または異常を矯正する治療方法である。遺伝情報はを器官から抽出した細胞にin vitroで導入し、生物体内に再導入してもよく、または、遺伝情報を標的となる組織に直接in vivoで導入してもよい。DNAは負電荷をもつ高分子量の分子であるため、リン脂質の細胞膜をDNAが自然に透過することは難しい。従って、遺伝子導入を可能にするために種々のベクター、即ち、一方ではウイルスベクター、他方では天然または合成の化学的及び/または生化学的ベクターが利用されている。
【0003】
ウイルスベクター(レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス)は、特に膜透過には極めて有効であるが、病原性、組換え、複製、免疫原性のようないくつかの危険性をはらんでいる。
【0004】
化学的及び/または生化学的ベクターではこのような危険性は回避可能である(参考文献としては、Behr,1993,Cotton&Wagner 1993)。例えば、カチオン(リン酸カルシウム、DEAE-デキストラン、など)はDNAと共に沈殿物を形成する作用を有しており、この沈殿物は細胞の食作用によって“吸収”される。また、リポソームはその内部にDNAを取込んで細胞質膜と融合する。合成の遺伝子導入ベクターは、一般的にはDNAと複合体を形成しDNAと共に表面に正電荷をもつ粒子を形成する脂質またはカチオンポリマーから成る。この種のベクターの代表例としては特に、ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS、TransdectamTM)またはN-〔1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル〕‐N,N,N‐トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA、LipofectinTM)がある。
【0005】
また、化学的及び/または生化学的ベクターまたは裸のDNAを使用できれば、薬理学的純度のDNAを大量に産生させることが可能になると考えられる。実際、遺伝子治療の技術においては、医薬がDNA自体から構成されている。従って、ヒトの治療に使用するために好適な特性を有するDNAを十分な量で製造できることは必須要件である。
【0006】
非ウイルス性ベクターの作製理論においては、細菌起原のプラスミドが使用される。遺伝子治療で一般的に使用されるプラスミドは、(i)複製起点と、(ii)抗生物質(カナマイシン、アンピリシン、など)耐性遺伝子のようなマーカー遺伝子と、(iii)発現に必要な配列((1つまたは複数の)エンハンサー、(1つまたは複数の)プロモーター、ポリアデニル化配列など)をもつ1つまたは複数のトランスジーンとを保有している。しかしながら、現在利用できる技術ではまだ十分に期待に応えることができない。
【0007】
一方では、生体内伝播の危険性が残っている。例えば、生物体内に存在する細菌がこのプラスミドを受容する可能性は低頻度ではあるが存在する。in vivoの遺伝子療法による治療の場合、DNAが患者の体内に伝播し、患者に感染している細菌または片利共生叢の細菌と接触し易いため、上記のような危険が発生する機会が多くなる。プラスミド受容性細菌が大腸菌のような腸内細菌の場合、このプラスミドは複製される。このようなイベントが生じると治療用遺伝子が伝播される。遺伝子療法の治療に使用された治療用遺伝子が、例えばリンフォカイン、成長因子もしくは抗癌遺伝子をコードしている遺伝子であるか、または、宿主にその機能の欠損があるため遺伝的障害を矯正し得る蛋白質をコードしている遺伝子であるような場合、これらの遺伝子のうちのいくつかについては、その伝播が予測できない危険な結果を生じることがあるかもしれない(例えば、病原菌がヒト成長因子の遺伝子を獲得する場合が考えられる)。
【0008】
他方では、非ウイルス性の遺伝子治療に一般的に使用されているプラスミドは、抗生物質(アンピシリン、カナマイシンなど)耐性マーカーも有している。何故なら、プラスミドの耐性遺伝子を選択する抗生物質と同じファミリーの抗生物質を使用した抗生剤療法による治療において、常に問題のプラスミドが選択されるからである。この点で、アンピシリンは、世界で最も頻用されている抗生物質のファミリーであるα-ラクタムに属する。従って、抗生物質耐性遺伝子でない選択マーカーを細菌中で使用することは特に有利である。これによって、このようなマーカーを有するプラスミドを受容した細菌の選択を回避できる。
【0009】
従って、治療用遺伝子の伝播及び耐性遺伝子の伝播を最大限に制限することが重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Behr,1993
【非特許文献2】Cotton&Wagner 1993
【発明の概要】
【0011】
より詳細には、本発明の目的は、遺伝子治療または組換え蛋白質のin vitro産生に使用でき、上記のような非ウイルス性ベクターのいくつかの機能を補完できる細胞中でのみ複製される新規なDNA分子を提供することである。
【0012】
本発明はまた、これらDNA分子を作製するための特に有効な方法に関する。
【0013】
請求の範囲に記載されたDNA分子の利点は、プラスミドの伝播に関連した危険性、例えば(1)治療用遺伝子のコントロールされない超発現につながる複製及び伝播、(2)耐性遺伝子の伝播及び発現、などが排除されることである。本発明のDNA分子に含まれている遺伝情報は、(1つまたは複数の)治療用遺伝子及びその発現調節シグナルと、このプラスミドの細胞宿主スペクトルを極めて厳密に限定する機能性条件複製起点と、好ましくは抗生物質耐性を与える遺伝子とは異なる小さい選択マーカーとを含み、必要な場合には更に、プラスミドのマルチマーを分解し得るDNAフラグメントを含む。これらの分子(従ってこれらの分子が含む遺伝子情報)が微生物に導入され安全に維持される確率は極めて低い。
【0014】
最後に、環状構造を有しておりサイズが小さく且つ超コイル形態を有しているという理由でミニプラスミドとも呼ばれる本発明のベクターは更に下記の利点を有している。即ち、本発明のDNA分子は従来から使用されているColE1に由来のプラスミドに比べてサイズが小さいため、in vivoでより優れた生体内受容性を有している。また、DNA分子またはpCORは開始蛋白質を含まない宿主原核細胞または真核細胞内に安定した染色体外形状で残留する。本発明のDNA分子は特に、改善された細胞内侵入及び細胞内分布の能力を有している。例えば、組織内の拡散係数は分子量に反比例するということが認識されている(Jain,1987)。細胞においても同様に、高分子量の分子は細胞質膜に対する透過性が低い。更に、分子が発現するためにはプラスミドがコアに侵入することが不可欠であるが、コアに拡散できる分子のサイズは核孔によって制限されるので、高分子量の分子は不都合である(Landfordら,1986)。本発明によれば、DNA分子の非治療用部分(特に複製起点及び選択遺伝子)のサイズを縮小することによって、DNA分子のサイズを更に縮小し得る。ベクターの複製起点及び耐性マーカーに相当する部分を例えば3kbとすると、細菌中でこのプラスミドの複製及び選択が可能な部分(1kb)は、3分の1に縮小されている。本発明分子では、このような(i)分子量の低減、及び(ii)負電荷の低減によって、組織内、細胞内及び核内の拡散及び生体受容性に関する能力が改善されている。
【0015】
より正確には本発明は、少なくとも1つの有益な核酸配列を含み、その複製を可能にする領域が複製起点を含み、この複製起点が宿主細胞中で機能するためには宿主細胞に外来の少なくとも1つの特異的蛋白質の存在が必要であることを特徴とする、遺伝子治療に有用な環状形態のDNA分子に関する。
【0016】
このDNA分子は一本鎖または二重鎖のいずれの形態を有していてもよく、好ましくは超コイル形態を有している。
【0017】
本発明で使用された宿主細胞なる用語は、種々の起原の細胞を包含する。宿主細胞は真核細胞でもよく、または原核細胞でもよい。本発明の有利な実施例においては、宿主細胞が原核細胞である。
【0018】
従来から、細菌プラスミドの複製には、RNAポリメラーゼ、リボヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼの種類のような、細胞性宿主によってコードされた少なくとも1つの蛋白質の存在が必要である。この種の複製が行われる場合、前述した理由から、治療される生物体内における伝播という潜在的な危険から完全に逃れることはできない。本発明のDNA分子の複製起点は、機能するために宿主細胞に外来の特異的な蛋白質の存在を要するという有利な特徴を有している。この特徴によって選られる利点は、請求の範囲に記載されたプラスミドの宿主スペクトルがこの開始蛋白質を発現する特異的菌株に限定されることである。従って、本発明によって作製されたDNA分子は、いわゆる条件複製起点を有するという利点をもつ。
【0019】
本発明で使用される条件複製起点は、以下の特徴を共通に有するプラスミドまたはバクテリオファージに由来し得る。即ち、これらのプラスミドまたはバクテリオファージは、複製起点内に反復配列、即ちアイテロンを含んでおり、また、これらのプラスミドまたはバクテリオファージに特異的な少なくとも1つの複製開始蛋白質(Rep)をコードしている。プラスミド及びバクテリオファージの条件複製系の例を以下に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
本発明の好ましい実施例によれば、請求の範囲に記載されたDNA分子中で使用される複製起点はR6Kと呼ばれる天然の大腸菌プラスミドに由来する。
【0022】
R6Kの複製機能は、3つの複製起点α、β、及びγ(γ及びαが複製の90%を確保する)と、複製開始蛋白質π及び蛋白質Bisをコードするオペロンとを含む5.5kbpのDNAフラグメントに集中している(図1参照)。このプラスミドを特有のコピー数(ゲノムあたり15コピー)に維持するために必要な最小の遺伝情報は2つのエレメント、即ち、400bpのoriγと開始蛋白質πを産生するpir遺伝子とに含まれている。
【0023】
oriγは、2つの機能性部分、即ち、コア領域とアクチベーターエレメントとに分割される(図1)。複製に必須のコア領域は、配列1で示される蛋白質πが結合しているアイテロン(7個の22bp直接反復配列)と、宿主の蛋白質標的であるフランキングセグメント(IHF、DnaA)とを含む。
【0024】
本発明の好ましい実施態様によれば、請求の範囲に記載されたベクターの複製起点はの全部または一部は、プラスミドR6Kのこの複製起点γから構成されており、より好ましくはその全部または一部が配列1またはその誘導体の1つから構成されている。
【0025】
サイズが極めて小さいという利点を有する上記の複製起点は、pir遺伝子(配列2)の産物である蛋白質Piが特異的開始蛋白質として存在する場合にのみ機能し得る。この蛋白質は、トランス作用できるため、pir遺伝子のoriγを物理的に分離し得る。従って、分離されたoriγは、これらのプラスミドの特異的宿主として選択された細胞のゲノムに導入され得る。πの内部の変異はその阻害機能を改変し(Inuzuka&Wada,1985)、R6Kの誘導体のコピー数を初期コピー数の10倍以上に増加させ得る。これらの置換は40個のアミノ酸から成るドメインに完全に内包されており、従ってπのこのドメインがプラスミドコピー数のコントロールを担当していると考えられる(図2)。
【0026】
本発明の有利な実施例によれば、宿主細胞中で発現された蛋白質πは、配列2で表される遺伝子または前記に定義のようなその誘導体の1つ、より特定的にはpir遺伝子に対して1つの突然変異を含むpir116の発現によって産生される。この突然変異は、開始コドンから数えて106位に位置するロイシンによるプロリンの置換に対応する。この場合、R6K誘導体のコピーの数はゲノムあたり約250コピーである。
【0027】
本発明の目的において誘導体なる用語は、考察される配列に1つまたは複数の遺伝的及び/または化学的な修飾を加えることによって得られた配列であって、原配列に対して遺伝暗号の縮重性に基づく違いを有している任意の配列を意味し、また、このような配列もしくはこのような配列のフラグメントとハイブリダイズする配列であって、その産物が複製開始蛋白質πと同様の活性を有している任意の配列を意味している。遺伝的及び/または化学的修飾なる用語は、1つまたは複数の残基の変異、置換、欠失、付加及び/または修飾を意味する。誘導体なる用語はまた、他の細胞性ソース、特にヒト起原もしくは他の生物の細胞から得られた原配列に相同の配列であって、原配列と同じタイプの活性を有している配列を包含する。このような相同配列は、ハイブリダイゼーション実験によって得られる。ハイブリダイゼーションは、核酸バンクを出発物質とし、天然型配列またはそのフラグメントをプローブとして用い、好適な緊縮性条件(Maniatisら,分子生物学の汎用技術(General techniques of molecular biology)参照)、好ましくは高緊縮性条件下で行うことができる。
【0028】
請求の範囲に記載されたDNA分子は、前記に定義のような条件複製起点を有することに加えて、選択された宿主中でのDNA分子の選択を確保し得る1つ(または複数の)遺伝子を含む領域を有している。
【0029】
この領域は、カナマイシン、アンピシリン、クロラムフェニコールストレプトマイシン、スペクチノマイシン、リビドマイシンなどの抗生物質に対する耐性を与える従来の遺伝子マーカーであってもよい。
【0030】
しかしながら、本発明の好ましい実施例によれば、この領域が抗生物質耐性遺伝子から構成されない。即ちこの領域は、定義された培養条件で対象宿主の生存に必須な物質を産生する遺伝子から構成される。
【0031】
その例としては、
−天然起原または合成起原のサプレッサーtRNAをコードする遺伝子、より好ましくはアンバーコドン(TAG)のサプレッサーtRNAである。
【0032】
−いくつかの培養条件で細胞の代謝作用に必要な物質を産生する遺伝子、代謝産物(アミノ酸、ビタミンなど)の生合成に関与する遺伝子、培養培地中に存在する物質(特に窒素または炭素源)を同化させ得る異化作用遺伝子、がある。
【0033】
本発明の好ましい実施態様によれば、この領域は、特異的コドンのサプレッサーtRNAをコードする遺伝子の発現カセットを含む。サプレッサーtRNAは特に、フェニルアラニン、システイン、プロリン、アラニン及びヒスチジンのような塩基をコードするtRNAから選択される。より好ましいサプレッサーtRNAはアンバーコドン(TAG)のサプレッサーtRNAである。
【0034】
この特定の場合に、細胞性宿主内で本発明の目的であるDNA分子を選択するために使用される系は、2つのエレメント、即ち1)DNA分子上で選択マーカーを構成するアンバーコドン(TAG)のサプレッサーtRNAをコードする遺伝子、即ち遺伝子(sup)と、2)保有する複数の遺伝子のうちでいくつかの培養条件で必須である1つの遺伝子がアンバーコドンTAGを含んでいるような特異的宿主とを含む。この細胞は、TAGコドンを含む遺伝子の産物を必須とする培養条件で、supの発現を許容するプラスミドが細胞内に存在する場合にのみ増殖し得る。従って、培養条件は、DNA分子の選択圧を構成する。使用されるsup遺伝子は、天然起原でもよく(Glassら,1982)、または合成構築物から得られてもよい(Normanlyら,1986、Kleinaら,1990)。
【0035】
このような系は、アンバー変異を含む遺伝子次第で種々の選択培地を決定し得るという点で極めて融通性が大きい。例えばLactococcus lactis菌中では、アンバーコドンはプリンの生合成遺伝子内に局在している。このため、細菌が牛乳中で増殖するときに、サプレッサーtRNAをコードする遺伝子のキャリアープラスミドを選択し得る。このようなマーカーは、極めて小さいサイズであり、ファージまたはトランスポゾンに由来する“外来”配列を含まないという利点を有している。
【0036】
本発明の特定実施例によれば、DNA分子は更に、プラスミドのマルチマーを分解し得る部位特異的リコンビナーゼの標的となるDNAフラグメントを含む。
【0037】
従って、環状DNA分子に導入されその複製起点が例えばoriγであるこのようなフラグメントは、このようなプラスミドのマルチマーを分解し得る。このようなマルチマーは特に、pir116のようなR6K誘導体のコピー数を増加させ得るpirの変異型対立遺伝子を保有する菌株中でDNA分子が調製されるときに観察される。
【0038】
この組換えは、配列間の部位特異的組換えを惹起する種々の系を用いて行うとよい。より好ましくは、本発明の部位特異的組換えは、一般にリコンビナーゼと呼ばれる特異的蛋白質の存在下で互いに組換えられる特異的分子間組換え配列によって得られる。本発明では特にリコンビナーゼXerC及びXerDが使用される。このような理由で、本発明のDNA分子は一般に、この部位特異的組換えを可能にする配列を更に含んでいる。本発明の遺伝子構築物中に存在する特異的組換え系(リコンビナーゼ及び特異的認識部位)は種々の起原から得られた系でよい。特に、使用される特異的配列及びリコンビナーゼは、構造的に異なるクラスに属してもよく、特にトランスポゾンTn3のリゾルベースのファミリーまたはトランスポゾンTn21及びTn522のリゾルベース(Starkら,1992)、ミューバクテリオファージのインベルターゼGin、または、RP4のparフラグメントのリゾルベースのようなプラスミドのリゾルベー(Abertら,Mo. Microbiol.12 (1994) 131)がある。λバクテリオファージのインテグラーゼのファミリーに所属するリコンビナーゼとしては特に、ラムダファージのインテグラーゼ(Landyら,Science 197(1997)1147)、ファージP22及びファイ80のインテグラーゼ(Leongら,J. Biol. Chem.260(1985)4468)、インフルエンザ菌HaemophilusのHP1(Hauserら,J. Biol. Chem. 267(1992)6859)、P1ファージのインテグラーゼCre、プラスミドpSAM2のインテグラーゼ(欧州特許350341)、または、プラスミド2μのリコンビナーゼFLP、大腸菌のリコンビナーゼXerC及びXerDがある。
【0039】
より好ましくは、本発明の目的であるDNA分子は、大腸菌の天然プラスミドColE1のcerフラグメントを含んでいる。使用されるcerフラグメントはColE1の382bpのHpaIIフラグメントであり、このフラグメントがcis作用によってプラスミドのマルチマーを分解し得ることは証明されていた (Summersら,1984、Leungら,1985)。また、同じ特性を有するより小さいサイズ(280bp)のHpaII-TaqIフラグメント、または、HpaIIフラグメントの内部に含まれている更に小さいフラグメント(約220bp)を使用することも可能である(Summers&Stherratt,1988)。この分解は、大腸菌のゲノムによってコードされている4つの蛋白質:ArgR、PepA、XerC及びXerDが関与する特異的分子間組換えを介して行われる(Stirlingら,1988,1989、Collomsら,1990、Blakelyら,1993)。大腸菌の天然プラスミドColE1のcerを挿入することによって、プラスミドのマルチマーを分解し、結果として複製可能な高比率のモノマーが得られることが観察された。pBluescript SK+のColE1の複製起点を含む小環領域にcer部位を挿入しても効果的なマルチマーの分解が起こらなかったことから、これは特に期待されていなかった(Kreissら,Appl.Microbiol.Biotechnol,49:560-567 (1998))。従って、cis作用によるプラスミドの効果的な分解は、プラスミドの構造次第であるため予測不可能であると考えられる。プラスミドpCORの場合は、cer部位がpCOR上に存在するときにcis作用によって効果的に分解され、期待をはるかに超える比率の複製可能なモノマーが発生し得る。
【0040】
このため、ColE1のcerフラグメントまたは前記に定義のようなその誘導体の1つの全部または一部を使用するのが特に有利である。
【0041】
変形実施態様によれば、本発明のDNA分子は更に、リガンドと特異的に相互作用し得る配列を含み得る。より好ましくはこの配列は、ハイブリダイゼーションによって特異的オリゴヌクレオチドと共に三重らせんを形成し得る配列である。従ってこの配列は、支持体に固定化された相補的オリゴヌクレオチドとの選択的ハイブリダイゼーションによって本発明の分子を精製し得る(国際特許出願WO 96/18744及び国際特許出願WO 02/07727参照)。この配列は本来、本出願人の米国公開出願2003/186268に記載のようにプラスミドの複製起点に配置されるか、または国際特許出願WO 02/07727に記載のようにトランスジーンに配置され得る。また、この配列は有益な遺伝子及び複製起点の機能に影響を与えないという条件で、本発明のDNA分子の任意の部位に配置され得る。ハイブリダイゼーションによる三重らせんの形成は、オリゴヌクレオチド及びDNAにある特異的な相補的配列の間で行われる。これに関しては、この形成において最前の産生及び選択性を得るため、オリゴヌクレオチド及び完全に相補的な特異的配列を使用し得る。特に、これらはオリゴヌクレオチドポリ(CTT)及び特異的配列ポリ(GAA)となる。例えば、CTTのような反復モチーフを含むオリゴヌクレオチドは、相補的なユニット(GAA)を含む特異的配列を用いて三重らせんを形成し得る。問題の配列は、特に7、14、または17番目のGAAユニットを含む部位、またオリゴヌクレオチドにおいてそれに対応する位置の反復CTTとなる。この場合、オリゴヌクレオチドは、逆平行方向でポリプリンのらせん構造に結合する。これらの三重らせんは、Mg2+が存在する場合にのみ安定する(Vasquezら,Biochemistry,34:7243-7251(1995)、Beal&Dervan,Science,251:1360-1363(1991))。
【0042】
上述のように、特異的配列は本来pCORに存在する配列であるか、またはpCORに人為的に導入される合成配列であってよい。特に、本来プラスミドの複製起点、またはマーカー遺伝子のようなpCORに存在する配列を用いて三重らせんを形成し得るオリゴヌクレオチドを使用することは有利である。これらの天然ホモプリン-ホモピリミジン部位を用いて三重らせんを形成し得るオリゴヌクレオチドの合成は、未修飾のプラスミドpCORに適用されるため特に有利である。特異的なオリゴヌクレオチドを用いて三重らせんを形成し得る特に好ましい対象配列は、ColE1及びpCOR複製起点において識別される。プラスミドの誘導体ColE1は、プラスミド複製に関与するRNA-II転写の上流へマップされる12-merのホモプリン配列を含む(5’-AGAAAAAAAGGA-3’)(配列33)(Lacatenaら,Nature,294:623(1981))。この配列は、12-merの補完5’-TCTTTTTTTCCT-3’(配列34)オリゴヌクレオチドを用いて安定した三重らせんを形成する。pCORのバックボーンは、pCORのγ起原レプリコンのA+Tを多く含むセグメントに位置するホモプリンストレッチの14の非反復基盤(5’-AAGAAAAAAAAGAA-3’)(配列35)を含む(Levchenkoら,Nucleic Acids Res,24:1936(1996))。この配列は、14-merの補完オリゴヌクレオチド5’-TTCTTTTTTTTCTT-3’(配列36)を用いて安定した三重らせんを形成する。対応するオリゴヌクレオチド5’-TCTTTTTTTCCT-3’(配列37)及び5’-TTCTTTTTTTTCTT-3’(配列38)は、効果的及び特異的に、ColE1 oriまたはpCOR(oriγ)のいずれかの複製起点内に位置する各相補配列を対象とする。また、複製起点またはマーカー遺伝子に存在する配列を使用した三重らせんの形成が可能なオリゴヌクレオチドを使用することは、同一のオリゴヌクレオチドを用いて前記複製起点または前記マーカー遺伝子を含むDNAを精製することができるため、特に有効である。このため、人為的な特異的配列を組込むためにプラスミドまたは二重鎖DNAを修正する必要はない。
【0043】
完全に相補的な配列が好ましいが、オリゴヌクレオチドの配列とDNAに存在する配列との間にいくつかの不一致があっても容認され、大きな類似性の損失にはつながらない。大腸菌のβラクタマーゼ遺伝子に存在する配列57-AAAAAAGGGAATAAGGG-3’(配列39)について述べる。この場合、ポリプリン配列を阻害するチミンが、グアニンの第三ストランドによって認識され、これによって2つのT*ATトリプレットによってフランクされる場合に安定するG*TAトリプレットを形成する(Kiesslingら,Biochemistry,31:2829-2834(1992))。
【0044】
特異的な実施例によると、使用されるオリゴヌクレオチドは、配列(CCT)n、配列(CT)n、または配列(CTT)nを構成し得る。ここで、nは1から15までの整数である。配列タイプ(CT)nまたは(CTT)nを使用することが特に有効である。また、オリゴヌクレオチドは(CCT)、(CT)または(CTT)ユニットを結合する。使用されるオリゴヌクレオチドは、天然である(未修飾の天然塩基から成る)か、または化学的に修飾される。特に好ましくは、オリゴヌクレオチドは特定の化学的な修飾を有し、ヌクレアーゼに対する耐性または保護、または特定の配列に対する類似性を高めることが可能である。
【0045】
本発明のDNA分子の代表例として特に、プラスミドpXL2774及びその誘導体を挙げることができる。この場合の誘導体なる用語は、pXL2774に由来しルシフェラーゼ遺伝子以外の1つまたは複数の有益な遺伝子を含む任意の構築物を意味する。本発明のDNA分子としてはまた、治療的遺伝子の発現カセットを含むプラスミドpXL3029、pXL3030、及びプラスミドpXL3179またはNV1FGFも挙げることができる。最も好ましい実施例において、本発明は本出願人の米国特許4,686,113に記載のpXL3179またはNV1FGFと呼ばれるpCORに関する。このpCORはそれぞれFGFaまたはFGF-1遺伝子を含む。
【0046】
本発明はまた、これらの治療用DNA分子を産生させるために特に有効な特異細胞性宿主の構築方法に関する。
【0047】
本発明の別の目的は、環状DNA分子の製造方法であって、前記に定義のような少なくとも1つのDNA分子と、in situ発現されるか否かによって前期宿主細胞に外来の特異的DNA分子の複製起点の機能を左右する1つの蛋白質とを含む宿主細胞を、このDNA分子によって形質転換された宿主細胞を選択し得る条件で培養することを特徴とする方法を提供することである。
【0048】
より好ましくは、DNA分子の複製起点の機能を左右する蛋白質は、対応する遺伝子からin situ発現する。複製開始蛋白質をコードする遺伝子は、使用される条件複製起点の誘導体に対応する追加レプリコンによって担持されてもよく、または、トランスポゾン、バクテリオファージまたは他の任意のベクターを用いた組換えによって宿主細胞に導入されてもよい。特に、蛋白質を発現する遺伝子が追加レプリコンに配置されている場合には、この追加レプリコンは更に、細胞内機能性の転写プロモーター領域と、3’に位置する転写終了シグナル特定領域とを含む。プロモーター領域は、細胞内で機能し得るときに考察中の遺伝子を発現させる天然のプロモーター領域でもよい。プロモーター領域はまた、異なる起原の領域でもよい(他の蛋白質の発現を担当する領域)、または合成起原の領域であってもよい。特に、原核細胞遺伝子またはバクテリオファージ遺伝子のプロモーター配列でもよい。例えば、プロモーター領域は、細胞のゲノムに由来するプロモーター配列でもよい。
【0049】
複製開始蛋白質をコードする遺伝子としては、野生型遺伝子を使用してもよく、またはDNA分子中に使用された複製起点の機能を左右する開始蛋白質の特異的プラスミド(または誘導体)が増加コピー数で得られる変異型対立遺伝子を使用してもよい。
【0050】
このような変異体としては特に、R6K(Inuzuka&Wada,1985、Greenerら,1990)、Rts1(Terawaki&Itoh,1985、Terawakiら,1990、Zengら,1990)、F(Seelkeら,1982、Helsbergら,1985、Kawasakiら,1991)、RK2(Durlandら,1990、Hauganら,1992,1995)、pSC101(Xiaら,1991、Goebelら,1991、Fangら,1993)などのプラスミドに関するものが記載されている。
【0051】
特に使用されるDNA分子がプラスミドR6Kに由来の複製起点を有している場合、開始蛋白質はこの同じプラスミドの蛋白質πであるかまたは蛋白質πの誘導体である。初期コピー数を顕著に増加させ得るこの蛋白質の変異形態を発現させるのが特に有利である。このために、宿主細胞に組込まれる遺伝子は好ましくは、配列2で表される配列の全部もしくは一部またはその誘導体の1つの全部もしくは一部によって表され、より好ましくは遺伝子pir116によって表される。関連する変異は、ロイシンによるプロリンの置換に対応する。本発明の特定実施態様によれば、この遺伝子pir116は宿主細胞のゲノムに直接取込まれる。
【0052】
選択された培養条件下で必須である特異的細胞性宿主の遺伝子の1つが、選択されたサプレッサーtRNAによって認識され得る特異的コドンをDNA分子に含むのが有利である。本発明の好ましい実施態様によれば、この特異的コドンはアンバーコドンTAGである。この特定の場合には、細胞はTAGコドンを含む遺伝子の産物が必須であるという培養条件下で、supを発現させ得るプラスミドが宿主細胞中に存在するときにのみ増殖し得る。従って、培養条件がDNA分子の選択圧を構成する。
【0053】
好ましくは、アンバーコドンを含む遺伝子は、アルギニンというアミノ酸生合成に関与する遺伝子である。この遺伝子argEは、N-アセチルオルニチナーゼをコードしており(Meinnelら,1992)、この場合には点変異G1n-53(CAG)->TAGに対応するTAGコドンを含む。この場合に、sup遺伝子を担持するプラスミドの選択圧は、最小培地M9(Maniatisら,1989)中での培養によって確保される。しかしながら、アンバーコドンを含む遺伝子が、例えばビタミンの生合成遺伝子、核酸の1つの塩基、特別な炭素源もしくは窒素源を使用し得る遺伝子、または選択された培養条件下で細胞が生存するためにその機能が必須である他の任意の遺伝子であってもよい。
【0054】
宿主細胞は好ましくは大腸菌の菌株から選択され、より好ましくは大腸菌XAC-1株で表される。
【0055】
本発明の特定実施例によれば、請求の範囲に記載の方法で使用される宿主細胞は、遺伝子pir 116をそのゲノムに含んでおり、プラスミドpXL2774またはその誘導体の1つによって形質転換された大腸菌XAC-1株の細胞である。
【0056】
本発明の有利な変形例によれば、請求の範囲に記載の方法で使用される宿主細胞は、endA1遺伝子または相同遺伝子が失活している原核細胞である。endA遺伝子は、大腸菌のエンドヌクレアーゼIをコードしている。このペリプラズム酵素は、二重鎖DNAの非特異的切断活性を有している(Lehman, I.R.、G.G. Roussos及びE.A. Pratt(1962)J. Biol. Chem. 237:819-828、Wright M.(1971)J. Bacteriol. 107:87-94)。大腸菌の種々の菌株(野生型またはendA)の抽出物中でインキュベートされたプラスミドDNAの分解はendA+菌株中には存在していたが、endA変異体には存在していなかったことが証明された(Wnendt S.(1994)BioTechniques 17:270-272)。EndA+菌株またはendA変異体から単離されたプラスミドDNAの品質については、Promega社が彼らの精製システムを用いて研究した(Shoenfeld, T.、J. Mendez、D. Storts、E. Portman、B.†Patterson、J. Frederiksen及びC. Smith. 1995. ウィザードプラスミド精製システムで単離したDNAの品質に対してendA1遺伝子型を保有する細菌株が与える効果(Effects of bacterial strains carrying the endA1 genotype on DNA quality isolated with Wizard plasmid purification systems. Promega notes 53))。彼らはその研究から以下のような結論を導いた。即ち、endA変異体から調製されたDNAの品質は試験したendA+菌株中で調製されたDNAの品質よりも総体的に優れている。
【0057】
従って、プラスミドDNA調製物の品質は、このエンドヌクレアーゼの混入によって影響を受ける(多少とも長期のDNAの分解)。
【0058】
endA遺伝子の欠失または変異は、このエンドヌクレアーゼの活性を喪失した変異体が全体としては野生型細菌のような挙動を示すという程度であれば問題なく計画できる(Durwald, H.&H. Hoffmann-Berling(1968)J. Mol. Biol. 34:331-346)。
【0059】
endA1遺伝子は変異、完全欠失または部分的欠失、破壊などによって失活し得る。特にプラスミドpCORを作製するために選択された大腸菌の菌株endA遺伝子の失活は、Cherepanov&Wackernagelによって記載されているように(Cherepanov, P. P.&W. Wackernagel. 1995、抗生物質耐性決定基のFlp触媒切除を任意に伴なう大腸菌:TcR及びKmRカセット中の遺伝子破壊(Gene disruption in Escherichia coli:TcR and KmR cassettes with the option of Flp-catalyzed excision of the antibiotic-resistance determinant)Gene 158:9-14)、バクテリオファージP1によって欠失ΔendA::TcRを導入することによって行われるか、または、例えば相同的組換えを用い、有益な細菌のゲノム中に存在する野生型対立遺伝子をendAが変異または欠失した対立遺伝子に交換することによって行われる。本発明によれば、この種の菌株の使用によって産生DNAの品質を向上させるという利点が得られる。
【0060】
本発明はまた、上記の定義のようなDNA分子を含む任意の組換え細胞に関する。本発明の組換え細胞は真核細胞、原核細胞のタイプの種々の起原の細胞である。
【0061】
本発明の別の実施態様によれば、請求の範囲に記載の方法で使用される大腸菌XAC-1の宿主細胞は、TEX1と指定され、traD遺伝子または相同遺伝子から成る。そのため、F’転写を廃止するために不活性化してもよい。traDはtraオペロンの1つの5’にあり、DNA転写及びDNA代謝に直接関与する81.7kDaの細胞質膜蛋白質をコードする(Frostら,Microbiology Reviews,1994,58:162-210)。traD変異は、DNAを転写しない(Panickerら,J.Bacteriol.,1985,162:584-590)。エピソームtraD遺伝子は、変異、全体または一部欠失、または本技術に精通するものに周知の方法を用いた破砕によって不活性化してもよい(実施例9を参照)。この遺伝子を不活性化する1つの方法を実施例1に記載する。また、その結果得られた大腸菌XAC-1 pir116 endA” traD” 菌株をTEX1と呼ぶ(Soubrierら,Gene Therapy,1999, 6:1482-1488)。
【0062】
本発明の実施例によれば、当該プロセスに使用される宿主細胞は、pir42変異と結合されたpir116変異を含む大腸菌株XAC-1細胞である。pir116及びpir42変異は、蛋白質piの異なるドメインに影響する。pir116変異は、コピー数を制御する部位に影響するのに対し、pir42変異は、図11に示すように推定ロイシンジッパー様モチーフに作用する。pir116及びpir42変異を含むpir遺伝子のヌクレオチド及びアミノ酸配列を、図12の配列21及び22にそれぞれ示す。pir42変異は、メチオニン開始コドンから124位にCからTへの転写を含む。この結果、ロイシンによって42位でプロリンに置換される。pir42変異体については、Mironらが記載しており(Proc Natl Acad Sci USA, 1994. 91(14):p.6438-42、EMBO J, 1992. 11(3):p.1205-16)、”oriγR6K-KmR-pir42”プラスミドのコピー数が、野生型のpir遺伝子を包含する同一のプラスミドと比較して2.5倍増加することが報告されている。しかし、pir42変異は、pir116変異と結合して使用された例または記載された例はない。pir116と結合されたpir遺伝子にあるcop21等の他の多コピー変異は、プラスミドのコピー数が著しく増加した大腸菌XAC-1 endA” traD”菌株中のpir116及びpir42変異と結合してもプラスミドのコピー数は増加しなかった。このため、pir116のみを包含する株と比較して、変異したpir116及びpir42遺伝子から成る大腸菌宿主株において、または変異体cop21(Inuzuka et al., FEBS Lett, 1988. 228(1):p.7-11)などの、pir遺伝子の他の変異体と結合されたpir116変異体から成る宿主細胞において生成されるプラスミドのコピー数に関して、この結合は予期せぬ結果を示した。例えば、大腸菌TEX1pir42(=XAC-1 endA- traD- pir116 pir42)は、結合されたpir116及びcop21変異から成るpir116株と比較して、2〜5倍のプラスミド数の増加を示した(例11参照)。他の実施例においてpir遺伝子は、例えば、コピー数の制御領域、ロイシンジッパー様モチーフ、DNA結合領域、1つまたは複数のこれら領域またはpir遺伝子によってコードされる蛋白質piの別の領域において発生する変異を少なくとも1つ含む。
【0063】
本発明に基づく原核宿主細胞はまた、DNA結合ドメイン、及び/またはコピー数を左右する領域、及び/またはロイシンジッパー様モチーフといったpir遺伝子複製によってコードされるプロテインpiの同一または異なるドメインに1つまたは複数の変異体を含む。原核組換え宿主細胞は、非相同性のpir遺伝子をプラスミドまたは宿主細胞のゲノムに含む。
【0064】
このような変異体は、以下に記載する本発明の一形態に基づいて、蛍光方法でスクリーニングする。実施例13に示すように、少なくとも1つの変異をpir遺伝子に含む宿主細胞、変異pir116及びDNA結合ドメインの変異を、本発明の蛍光方法でスクリーニングする。例えばpir116以外に、292位のチロシン(K)がメチオニン(M)に置換される100B変異、130位のグルタミン酸(E)がバリン(V)によって置換される114C変異、または117位のアスパラギン酸(D)がグリシン(G)によって置換される201C変異などの変異をDNA結合ドメインに含む宿主細胞について、蛍光スクリーニング方法を使用して、多数のプラスミド複製が可能かどうかを試験した。
【0065】
本発明の別の実施例によると、前記プロセスに使用される宿主細胞は、recA遺伝子または相同遺伝子が不活性化されている原核宿主細胞である。好ましくは、本発明に基づく宿主細胞は、変異体pir116、pir42、endA-、traD-、recA-を含む大腸菌株XAC-1である。このような株をTEX2pir42と指定する。recAは、本技術に精通する者に周知の方法によって不活性化される。recAは、主要な組換え蛋白及び変異体をこの遺伝子内でコードし、プラスミドにおける組換えによる変質及びプラスミドの多重化につながる分子内組換えの頻度を削減する。実施例12に記載するように、3つの翻訳終了コドン(各フレームに1つ)をその5’位に含む欠失recA遺伝子を、PCRによって取得する。結果として得られる不活性遺伝子を、TEX1ゲノムへの遺伝子置換によって導入する(実施例12.1)。
【0066】
これらの細胞は、プラスミドを所与の細胞に導入し得る当業者に公知の任意の技術によって得られる。これらの技術としては特に、形質転換、電気穿孔、コンジュゲーション、プロトプラスト融合または当業者に公知の他の任意の技術がある。
【0067】
菌株XAC-1pir116はプダペスト条約に準拠して、2003年10月10日、アクセス番号I-3108としてCollection Nationale De Cultures de Micro-organismes (CNCM), Institut Pasteur, 28, rue Dr. Rouz, 75724 Paris Cedex 15, Franceに寄託されている。
【0068】
菌株TEX2pir42は、プダペスト条約に準拠して、2003年10月10日、アクセス番号I-3109としてCollection Nationale De Cultures de Micro-organismes (CNCM), Institut Pasteur, 28, rue Dr. Rouz, 75724 Paris Cedex 15, Franceに寄託されている。
【0069】
本発明のDNA分子は、ワクチン接種または細胞の遺伝子治療のような任意の用途で、遺伝子を生物、組織、または所与の細胞の内部に導入するために、または、組換え蛋白質をin vitroで製造するために使用され得る。
【0070】
本発明のDNA分子は特に、該DNA分子を患者に移植する目的で、in vivoの直接投与によって使用してもよく、または、in vitro即ちex vivoの細胞修飾によって使用してもよい。
【0071】
この観点から、本発明の別の目的は、上記に定義の少なくとも1つのDNA分子を含む任意の医薬組成物に関する。医薬組成物中でこの分子は化学的及び/または生化学的なトランスフェクションベクターに結合されていてもよく結合されていなくてもよい。このようなベクターとしては特に、カチオン(リン酸カルシウム、DEAE-デキストランなど)、リポソームがある。結合される合成ベクターは、脂質でもよくまたはカチオン性ポリマーでもよい。このようなベクターの例としては特に、DOGS(TransfectamTM)またはDOTMA(lipofectinTM)がある。
【0072】
本発明の医薬組成物は、局所、経口、非経口、鼻孔内、静脈内、筋肉内、皮下、眼内、経皮などの経路で投与される製剤の形態に調製され得る。好ましくは、請求の範囲に記載のプラスミドを注射可能形態で使用するかまたは塗布によって使用する。注射可能な製剤、特に治療すべき部位に直接注射可能な製剤を得るために、医薬的に許容される任意のビヒクルをプラスミドと混合するとよい。特に、等張性無菌液、または、乾燥組成物特に凍結乾燥組成物の形態の製剤が好ましく、乾燥組成物は、無菌水または生理的血清を適宜添加することによって注射可能な溶質を復元し得る。特に、ブドウ糖または塩化ナトリウムに希釈したトリスバッファまたはPBSバッファを使用し得る。患者の患部への直接注入は、疾病組織に治療効果を集中させることができるため特に有利である。使用される薬用量は、種々のパラメーター、特に遺伝子、ベクター、使用される投与形態、対象となる疾病または必要な治療期間、などに応じて選択される。
【0073】
本発明のDNA分子は、1つまたは複数の有益な遺伝子、即ち標的細胞中で転写及び任意に翻訳されることによって治療用、ワクチン用、農学的または獣医学的に有益な物質を産生する1つまたは複数の核酸(合成または半合成DNA、cDNA、gDNAなど)を包含し得る。
【0074】
治療的に有益な遺伝子としては特に、酵素、血液誘導体、ホルモン、インターロイキン、インターフェロン、TNFなどのリンフォカイン(フランス特許92/03120)、成長因子、神経伝達物質、その前駆体もしくはその合成用酵素、BDNF、CNTF、NGF、IGF、GMF、aFGF、bFGF、NT3、NT5、VEGF-B、VEGF-Cなどの栄養因子、ApoAI、ApoAIV、ApoEなどのアポリポ蛋白質(フランス特許第93/05125号)、ジストロフィンもしくはミニジストロフィン(フランス特許91/11947)、p53、Rb、Rap1A、DCC,k-revなどの腫瘍抑制遺伝子(フランス特許93/04745)、VII因子、VIII因子、IX因子などの凝固関与因子をコードする遺伝子、チミジンキナーゼ、シトシンデスアミナーゼなどの自殺遺伝子、天然もしくは人工の免疫グロブリンの全部もしくは一部(Fab、SvFvなど)、リガンドRNA(国際特許WO91/19813)などを例示し得る。治療用遺伝子はまた、標的細胞中で発現することによって遺伝子の発現または細胞性mRNAの転写をコントロールできる遺伝子またはアンチセンス配列であってもよい。このような配列は、例えば欧州特許第140,308号に記載の技術に従って標的細胞中に細胞性mRNAの相補的RNAとして転写され、細胞性mRNAが蛋白質に翻訳されることを阻害する(Wilsonら,Curr Opin Mol Ther. 2003 Aug;5(4):389-96)。有益な遺伝子はまた、ワクチン用遺伝子、即ち、ワクチンを製造するためにヒトまたは動物の体内で免疫応答を誘発し得る抗原性ペプチドをコードする遺伝子でもよい。このような遺伝子としては特に、エプスタイン・バールウイルス、HIVウイルス、肝炎Bウイルス(欧州特許185,573)、偽狂犬病ウイルスの特異的抗原性ペプチド、または腫瘍特異的遺伝子(欧州特許259,212)がある。
【0075】
一般的に本発明のDNA分子中の治療用、ワクチン用、農学的または獣医学的に有益な遺伝子は更に、標的細胞または標的生物中の機能性転写のプロモーター領域と、転写終了シグナルを特定する3’に位置する領域と、ポリアデニル化部位とを含んでいる。このプロモーター領域は、考察される遺伝子が発現するために当該細胞中または生物体内で機能することが必要な天然のプロモーター領域であってもよい。プロモーター領域はまた、異なる起原の領域(他の蛋白質を発現させるために必要な領域または合成領域)であってもよい。プロモーター領域は特に、真核細胞遺伝子またはウイルス遺伝子のプロモーター配列であってもよい。例えば、プロモーター配列が標的細胞のゲノムに由来のプロモーター配列でもよい。真核細胞プロモーターのうちでは、遺伝子の転写を特異的または非特異的に、誘導的または非誘導的に、高度にまたは低度に刺激または抑制する任意のプロモーターまたは誘導配列を使用し得る。特に偏在性プロモーター(HPRT、PGK、α-アクチン、チューブリンなどの遺伝子のプロモーター)、中間フィラメントのプロモーター(GFAP、デスミン(desmine)、ビメンチン(vimentine)、ニューロフィラメント、ケラチンなどのプロモーター)、治療用遺伝子のプロモーター(例えば、MDR、CFTR、VIII因子、ApoAlなどの遺伝子のプロモーター)、組織特異的プロモーター(ピルビン酸キナーゼ、ビリン、腸内の脂肪酸結合蛋白質、平滑筋のα-アクチンなどの遺伝子のプロモーター)、あるいは刺激に反応するプロモーター(ステロイドホルモンのレセプター、レチノイン酸のレセプターなど)を例示し得る。また、例えばアデノウイルスの遺伝子E1A及びMLPのプロモーター、CMVの初期プロモーターまたはRSVのLTRのプロモーターなどのようなウイルスのゲノムに由来のプロモーター配列でもよい。更に、これらのプロモーター領域は、活性化配列もしくは調節配列の付加によって、または組織特異的発現もしくは多数発現を可能にする配列の付加によって修飾されてもよい。
【0076】
更に有益な遺伝子はまた、合成された産物を標的細胞の分泌経路に導くシグナル配列を含み得る。このシグナル配列は、合成された産物の天然シグナルでもよいが、他の任意の機能性シグナル配列でもよくまたは人工のシグナル配列でもよい。本発明で使用された好ましいシグナル配列は、Taniguchiらによる記載のようにヒトインターフェロンの分泌シグナルペプチドである(Gene,1980,233(4763):541-5)。
【0077】
有益な遺伝子次第で、本発明のDNA分子は、遺伝性疾患(ジストロフィー、嚢胞性線維症など)、神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病、ALSなど)、癌、凝固異常または脂肪蛋白質異常血症に関連する疾病、ウイルス感染に関連する疾病(肝炎、エイズなど)を含む多くの疾病の治療または予防に使用でき、あるいは農学及び獣医学の分野で使用できる。
【0078】
好ましい実施例によれば、本発明のDNA分子は、重篤な四肢虚血症(抹消動脈閉塞性疾患及び間欠性跛行など)の治療に使用できる。
【0079】
更に、本発明はまた、組換え蛋白質を製造するための条件複製型DNA分子の使用に関する。細菌は、種々の起原の真核細胞または原核細胞の蛋白質を製造するために使用され得る。細菌のうちでも大腸菌は、操作が容易であること、入手できる発現系の数が多いこと、大量の蛋白質が得られること、などの理由から、異種遺伝子を発現させるための最も優れた生物である。勿論、本発明の系は、その向性が前述のように複製起点の種類によって決定されるので他の生物中でも使用できる。この使用に好適な有益な核酸配列は、選択された宿主、特に原核細胞宿主に適した発現シグナルのコントロール下のコーディング領域を含んでいる。例えば、プロモーターPlac、Ptrp、PT7、Ptrc、Ptac、PL、PBADまたはPR、シャイン・ダルガーノ配列などである(この全体が発現力セットを構成する)。有益な核酸配列は、薬学、農業生産、化学または農芸化学の分野で有益である蛋白質をコードするいかなる配列でもよい。例えば、構造遺伝子、相補的DNA配列、合成配列または半合成配列などがある。
【0080】
発現カセットは、本発明の目的である条件複製型ベクターに導入でき、従って大腸菌中で有益な蛋白質を発現させ得る条件複製型ベクターを構成する。このベクターは、細菌中で選択するための抗生物質が不要である(コストを削減できる、最終産物中で抗生物質または潜在的に有毒な誘導産物の存在を試験する必要がない)こと、その特性(条件複製起点を有するという特性)の当然の結果としてプラスミドが伝播する確率は実質的にゼロであること、完全に規定された培地中で発酵させることが可能であること、などの複数の利点を有している。提示された実施例は、組換え蛋白質を産生させるためにこれらの条件複製型ベクターが有している有利な特性を証明する。
【0081】
上記のように、本発明に基づくDNA分子は、pir遺伝子が除去され、大規模のDNA分子製造に使用される特定の宿主細胞のゲノムに導入されるR6Kに由来するORIγの複製起点を含む。医療実験及び/またはDNAに基づく遺伝子治療に使用するため、より多量のプラスミドの生成が常に求められている。変異pir116及び/またはpir42のような少なくとも1つの変異を含むpir遺伝子を有する宿主細胞が生成されている。このような変異の宿主菌株を使用することによって、プラスミドのコピー数を増加させることができ、即ち、産生量も著しく増加する。また、産生されたプラスミドの構造は極めて優れている。
【0082】
本発明の特定の実施態様に基づいて、多コピー変異をスクリーニングする蛍光方法提供する。この蛍光スクリーニング法は、細菌中の抗生物質耐性レベルに基づく従来の方法に比べてはるかに優れている。従来の方法は、例えば、基本のコピー数が極めて高い場合、例えば変異pir116を使用する場合のように細胞あたり約400というようなコピー数が得られる場合には使用できない。本発明による蛍光スクリーニング方法は、好ましくはcobAをコピー数の赤色の蛍光リポーター遺伝子として使用する。シュードモナス属脱窒菌の(Crouzetら,J. Bacteriol,1999,172:5968-79)の遺伝子であるcobA遺伝子は、ビタミンB12経路の酵素であるuroIIIメチルトランスフェラーゼをコードし、2つのメチルグループをウロポルフィリノーゲンIII分子に追加する。Wildtら(Nature Biotechnology,vol.17,1999,pp1175)は、大腸菌、酵母及び哺乳細胞の蛍光転写リポーター遺伝子としてのcobAの使用について記載している。例えば、uroIIIメチルトランスフェラーゼをコードするcobA遺伝子が過剰発現するために蛍光ポリリノイド組成を蓄積する大腸菌株を含む組換えプラスミドの選択に、このような蛍光リポーター遺伝子を使用した。紫外線を照射すると、細胞は明るい赤色の蛍光を発した(Biotechniques,1995,vol19,no.7,p.760)。
【0083】
本発明者はcobA遺伝子を保有するプラスミドのコピー数と、ピンクから赤色の蛍光発光レベルとの間に密接な関係があることを発見した。従って、本発明の多コピー変異の蛍光スクリーニング方法は、大腸菌などの生成宿主細胞のゲノム中で確認される種々の変異、または生成宿主細胞のゲノムに導入されるか、プラスミドが保有するpir遺伝子などの任意の遺伝子が含む変異のスクリーニングに有効である。
【0084】
プラスミドのコピー数との関連性に加えて、本発明の蛍光スクリーニング方法は、容易且つ即時に実施される。形質転換した宿主細胞を一夜培養し、蛍光発光の強度を示すため紫外線を照射して、宿主細胞中のプラスミドのコピー数を直接推定するのみである。
【0085】
従って、本発明は、プラスミドの多コピー変異を検出する方法において、
(a)少なくとも1つの変異を標的配列に導入する工程と、
(b)変異した前記標的配列をプラスミドを含む宿主細胞に形質転換するステップにおいて、前記プラスミドはuroIIIメチルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を含み、前記プラスミドのコピー数は前記標的配列の影響を受ける工程と、
(c)宿主細胞の培養物を生成するために前記ヌクレオチド配列を発現するという条件で前記宿主細胞を増殖させる工程と、
(d)前記宿主細胞の培養物に紫外線を照射する工程と、
(e)前記宿主細胞の培養物の蛍光発光を検出する工程と、
を含む方法を提供する。
【0086】
本発明によれば、前記方法は更に、(e)で検出された蛍光発光と、非変異の標的配列を含む宿主細胞培養物の蛍光発光とを比較する。
【0087】
好ましくは、uroIIIメチルトランスフェラーゼ遺伝子を、シュードモナス属脱窒菌のcobA遺伝子によってコードする。
【0088】
変異は、少なくとも1つの変異を含む非相同性のpir遺伝子から成るプラスミド中に存在し得る。プラスミドは、少なくとも1つの変異を、コピー制御領域などの他のpir領域、及び/またはDNA結合ドメイン、及び/またはロイシンジッパー様モチーフ及び/またはpir遺伝子の別の領域に含んでよい。また、プラスミドは、少なくとも1つの変異を非相同性のpir遺伝子のコピー数制御領域、及びロイシンジッパー様モチーフに含んでよい。プラスミドは、pir遺伝子のDNA結合領域に変異を含んでよい。更に、プラスミドは1つまたは複数の変異を、コピー数の制御領域をコードするpir遺伝子の同じまたは異なる領域、及び/またはDNA結合領域、及び/またはロイシンジッパー様モチーフ、または蛋白質πの他の領域に含んでよい。
【0089】
制限内で、本発明の原核組換え宿主細胞はpir116変異及び第二の変異を、pir292、pir130、pir117などのDNA結合領域に含む(図26)。
【0090】
このような変異した生成宿主菌株を、小環といった一般的なプラスミドツールを使用して有利に製造し得る。小環技術は、特に本発明者の米国特許6,143,530及び6,492,164、またはPCT出願WO96/26270に記載されている。
【0091】
小環は、複製起点を含まない組換えDNA分子であり、任意の微生物のゲノムの遺伝子置換に使用される優れた自殺ベクターでもある。特に、遺伝子または重要な遺伝子は、部位特異的組換えを許可する2つの配列によってフランクされ、小環中に直方向で配置される。直方向の配置は、この2つの配列が組換えDNA小環中の同じ5’-3’極性に従うことを示している。小環遺伝子構造は、一般に複製起点を欠失した環状二重鎖DNA分子であるが、直鎖形状であってもよい。また、小環遺伝子構造は部位特異的組換えを許可する2つの配列によってフランクされ、直方向で配置される遺伝子または重要な遺伝子を含む。本発明の特異的な実施例によれば、以下に示すゲノム内における遺伝子置換のために、小環を使用して任意の適格微生物を形質転換し得る(図31)。
【0092】
遺伝子置換に用いられる小環は、少なくとも
a)複製起点及び選択マーカー遺伝子と、
b)部位特異的組換えを許可し、直方向で配置される2つの配列と、
c)前記配列b)の間に配置される1つまたは複数の重要な遺伝子と、を含む親プラスミドから生成する。
【0093】
遺伝子構造に見られる特異的な組換え系は、異なる起原でもよい。特に、使用される特異的な配列及び組換え体は、構造的に異なるクラス、バクテリオファージλのインテグラーゼのファミリーまたはトランスポゾンTn3のリゾルバーゼのファミリーに属してもよい。λバクテリオファージのインテグラーゼのファミリーに所属するリコンビナーゼとしては特に、ラムダファージのインテグラーゼ(Landyら,Science 197(1997)1147)、ファージP22及びファイ80のインテグラーゼ(Leongら,J. Biol. Chem.260(1985)4468)、インフルエンザ菌HaemophilusのHP1(Hauserら,J. Biol. Chem. 267(1992)6859)、P1ファージのインテグラーゼcre、プラスミドpSAM2のインテグラーゼ(欧州特許350341)、または、プラスミド2μのリコンビナーゼFLPがある。小環は、部位特異的系のバクテリオファージλのインテグラーゼを用いた組換えによって生成され、更に、本発明のDNA分子は、バクテリオファージまたはプラスミドに対応する2つのatt付加配列の間の組換えから得られた配列を含む。
【0094】
トランスポゾンTn3のファミリーに属する組換え体としては、特にトランスポゾンTn3のリゾルバーゼまたはトランスポゾンTn21及びTn522(Starkら,Trends Genet,8,432-439,1992)のリゾルバーゼ、またはバクテリオファージmuのGin転化酵素、またはRP4のparフラグメントのプラスミドのリゾルバーゼなどがある(Albertら,Mol. Microbiol. 12:131,1994)。小環がトランスポゾンTn3の部位特異的なファミリーを用いた組換えによって生成される場合、これらの小環は一般に、微生物のゲノムに挿入することを意図された重要な遺伝子に加えて、問題となるトランスポゾンのリゾルバーゼの2つの認識配列間における組換えによって生じた配列を含む。部位特異的組換えを許可する配列は基本的に、蛋白質creの存在下で互いに特異的組換えを行うことができる2つの反復配列から成るファージP1のloxP領域に由来する(Sternbergら,J.Mol. Biol. 150:467,1971)。小環の生成に使用されるプラスミドは、(a)細菌性の複製起点、(b)バクテリオファージP1の反復配列(loxP領域)、及び(c)前記配列(b)の間に配置され、微生物のゲノムへの挿入を意図された1つまたは複数の重要な遺伝子を含む。
【0095】
小環は、バクテリオファージの付加配列(attP及びattB配列)またはその付加配列に由来する配列など、バクテリオファージに由来する部位特異的組換えを許可する配列を含んでよい。これらの配列は、除去酵素をもつインテグラーゼまたは除去酵素をもたないインテグラーゼとして参照される組換え体の存在下で、互いに特異的組換えを行うことができる。“付加配列などに由来する配列”なる用語は、適切な組換え体の存在下で特異的な組換えが可能なバクテリオファージの付加配列の修飾によって得られる配列を含む。従って、このような配列は、その除去されたフラグメント、または他の配列(制限領域のような領域)の追加によって拡張されたフラグメントとなり得る。また、これらの配列は、1つまたは複数の変異、特に点変異によって得られた変異体となり得る。バクテリオファージまたはプラスミドのattP及びattB配列は、本発明によれば、前記バクテリオファージまたはプラスミドに特異的な組換え系の配列、即ち、前記バクテリオファージまたはプラスミドに存在するattP配列、及び対応する染色体のattB配列である。付加配列は周知されており、ファージλ、P22、ファイ80、P1、及びインフルエンザ菌HaemophilusのHP1の付加配列、または特にプラスミドpSAM2プラスミド2μの付加配列を含む。
【0096】
小環は上記の親プラスミドから容易に生成される。小環の生成方法は、除去酵素をもつインテグラーゼまたは除去酵素をもたないインテグラーゼを含有する親プラスミドで形質転換される細胞培養物を接触させる、即ち部位特異的組換えを誘発することで行う。培養物及び除去酵素をもつインテグラーゼまたは除去酵素をもたないインテグラーゼを、プラスミドまたは前記インテグラーゼの遺伝子を含むファージ、及び適用できる場合は、除去酵素の遺伝子を用いたトランスフェクションまたはインフェクションによって接触させる。また、例えば、宿主細胞に存在する前記インテグラーゼ、及び適用できる場合は除去酵素をコードする遺伝子の発現を誘発する。以下に示すように、これらの遺伝子はゲノム中の組込み形状の宿主細胞、複製プラスミド、または本発明のプラスミド、非治療部位に存在する。
【0097】
本発明によれば、in vivoの部位特異的組換えによる小環の生成を可能にするには、使用される除去酵素をもつインテグラーゼまたは除去酵素をもたないインテグラーゼを、細胞または培養培地に即時導入するか、または誘発する。このためには種々の方法を使用し得る。第一の方法によれば、例えば制限発現を許可する形状の組換え遺伝子(除去酵素遺伝子をもつインテグラーゼ遺伝子または除去酵素遺伝子をもたないインテグラーゼ遺伝子)を含む宿主細胞を使用する。除去酵素遺伝子をもつインテグラーゼ遺伝子または除去酵素遺伝子をもたないインテグラーゼ遺伝子は、例えば、プロモーターまたは誘導プロモーター系のコントロール下、または温度感性系において導入される。
【0098】
特に、インテグラーゼ遺伝子は、増殖段階において温度感性ファージに潜在してもよく、適切な温度で誘発される(例えば、溶原性ファージλXis-cI857)。
【0099】
また、遺伝子は、例えば宿主細胞が大腸菌G6191である場合のplacUV5プロモーターなどの制限プロモーターでコントロールされる。好ましくは、除去酵素遺伝子をもつインテグラーゼまたは除去酵素遺伝子をもたないインテグラーゼは、アラビノースに規制されるaraBAD(アラビノース)オペロンのPBADプロモーターなどの制限プロモーターでコントロールされる(Guzmanら,J. Bacteriol,1995,4121-4130、US5,028,530)。特に、PBADプロモーターを使用することによって、アラビノースの存在下で、誘発剤となる除去酵素及びインテグラーゼを十分に発現でき、また細菌中に多くのコピーを生じるプラスミドの組換えの90%以上を実現する。一方、アラビノースの欠失下では、プロモーターは厳しく制限される。除去酵素遺伝子をもつインテグラーゼまたは除去酵素遺伝子をもたないインテグラーゼの発現カセットは、プラスミド、ファージ、または本発明のプラスミドによって非治療領域に保有される。宿主細胞のゲノムに組込まれるか、または複製型で維持され得る。このような宿主細胞は特に、大腸菌G6264及び大腸菌G6289である。別の方法によれば、1つまたは複数の遺伝子の発現カセットは、増殖段階後の細胞培養物のトランスフェクトまたはインフェクトに使用されるプラスミドまたはファージによって保有される。この場合、遺伝子が制限発現を許可する形態である必要はない。特に、任意の構成プロモーターを使用し得る。蛋白質を用いた直接インキュベーションによって、プラスミド調整物上でDNAはインテグラーゼ及び適用可能な場合は除去酵素とin vitroで接触され得る。
【0100】
このように生成された小環は、1つまたは複数の重要な遺伝子を含み、標的微生物に挿入される発現カセットを含み、複製起点を欠失している。また、この小環は、attB配列とattP配列との間の部位特異的組換えから得られた配列attR、または配列attLを含む。従って、小環を任意の微生物における遺伝子置換のための一般的な自殺ベクターとして使用し得る。実際に、相同的配列でフランクされた置換遺伝子及び抗生物質耐性遺伝子は、図31に示す相同的組換えによって、任意の微生物のゲノムの標的部位に容易に組込まれる。第二の選択圧によって引き起こされる第二の切除イベントは、ゲノム内に新たな挿入遺伝子を保有する微生物のみを効果的に選択し得る。
【0101】
従って、本発明はまた、微生物の遺伝子産生方法に関する。この新規な方法は、その起原に関係なく任意の微生物を産生するために使用される。実際に、小環は任意の複製起点を持たないため、任意の種の微生物における遺伝子置換に一般的に使用される。この方法は、バクテリオファージM13を使用した二重相同的組換えによる微生物遺伝子の置換方法の有利な代替方法となる。
【0102】
本発明の特定の実施例によれば、小環は抗生物質耐性遺伝子などの第一組換えイベントを選択できる第一選択マーカーを含む。好ましい第二選択マーカーは、遺伝子IIIまたは機能的な削除遺伝子III’である。遺伝子IIIまたはその機能的変異体は、Boeckeらが記載するようにデオキリコールに対する感性を有し(Mol. Gen. Genet,186,185-92,1982)、第二の組換えイベントを対抗選択することができる(図31)。
【0103】
この方法では、公知の任意の形質転換方法によって、好ましくは電気泳動によって小環を微生物に導入し、抗生物質を補充した培養物中または別の選択圧下での小環の組込みイベントを選択し、デオキリコールまたは別の適切な選択圧で処理することによって第二の切除イベントを選択する。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】図1は複製に関与するR6Kの領域の機能的編成を示す。
【図2】図2はプラスミドR6Kの蛋白質πの機能性ドメインの編成を示す。
【図3】図3はpir遺伝子を大腸菌XAC1のゲノムに導入するプロトコルを示す。
【図4】図4はベクターpXL2666、2730及び2754の構築を示す概略図である。
【図5】図5はpXL2774の構築を示す。
【図6】図6は2リットルの発酵槽における増殖及び産生を示すグラフである。
【図7】図7は800リットルの発酵槽における増殖及び産生を示すグラフである。
【図8】図8はpXL3056の構築を示す。
【図9】図9は誘発後の大腸菌XAC-1pir-116(pXL3056+PT7po123)によって産生された蛋白質aFGFの検出を表す。変性した全細胞抽出物を12.5%-SDSのポリアクリルアミドゲルに載せる。M:分子量マーカー(Biorad,Lowrange)。各バンドを、矢印及びその分子量をキロダルトンで表す数値によって同定する。1:非誘発XAC-1pir-116(pXL3056+pUC4K);2:42℃で誘発されたXAC-1pir-116(pXL3056+pUC4K);3:非誘発XAC-1pir-116(pXL3056+PT7po123)クローン1;4:42℃で誘発されたXAC-1pir-116(pXL3056+PT7po123)クローン1;5:非誘発XAC-1pir-116(pXL3056+PT7po123)クローン2;t1:1μgの精製aFGF;t4:4μgの精製aFGF。
【図10】図10はベクターpXL3029、pXL3030、及びpXL3179またはNV1FGFの構築を示す概略図である。
【図11】図11はR6K開始蛋白質πの機能性ドメインを示す概略図である。
【図12.1】図12はpir116及びpir42変異を含むpir遺伝子のヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す。
【図12.2】図12はpir116及びpir42変異を含むpir遺伝子のヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す。
【図13】図13は相同的組換えに用いるpir116pir42自殺ベクターの構築を示す。
【図14】図14は領域uidA::pir116+/-pir42を増幅して得られるPCR産生物を示す概略図である。
【図15】図15はTEX1またはTEX1pir42中で産生されたpCORプラスミドpXL3179のトポロジーを示すアガロースゲル電気泳動を示す。
【図16】図16はpir116cop21遺伝子を保有するpXL3749自殺ブラスミドを示す概略図である。
【図17】図17は大腸菌宿主細胞TEX1cop21(ライン1〜4)、大腸菌宿主細胞XAC1pir(ライン5〜8)、及び大腸菌TEX1(ライン9〜12)中で産生されたpXL2979のプラスミドコピー数を示すアガロースゲル電気泳動を示す。
【図18.1】図18はrecA自殺ベクターを構築するためのクローニング方法を示す。
【図18.2】図18はrecA自殺ベクターを構築するためのクローニング方法を示す。
【図19】図19は大腸菌TEX2株の領域を増幅して得られるPCR産生物を示す概略図である。
【図20】図20は大腸菌TEX2pir42(ラインB)、大腸菌TEX1pir42(ラインC)、及び大腸菌TEX1(ラインD)中で産生されたpCORのpXL2979のトポロジーを示すアガロースゲル電気泳動を示す。
【図21】図21は大腸菌TEX2pir42中の発酵によって産生されたプラスミドpXL3179の分析を示す。
【図22】図22はプラスミドのコピー数に伴って蛍光発光が増加することを示した蛍光試験を示す。
【図23】図23は蛍光試験においてスクリーニングされたプラスミドを表す。
【図24】図24はプラスミドpXL3830を表す。
【図25】図25はランダム変異誘発によって生成された多コピー変異の蛍光スクリーニングを示す寒天プレートである。
【図26】図26は蛍光スクリーニング方法による多コピー変異の評価である。
【図27】図27は細菌のゲノムに挿入されたpir116変異を評価する方法を示す。
【図28】図28は大腸菌株の異なるpir116*変異におけるpXL3179のコピー数の評価である。
【図29】図29は大腸菌中の相同的組換えのための小環ベクターの生成に使用するプラスミドの構築を示す。
【図30】図30は大腸菌株のpir116*変異の生成に使用する小環ベクターの構築を示す。
【図31】図31は小環ベクターを使用した相同的組換えによる遺伝子置換を示す。
【図32】図32はデオキシコール酸ナトリウムを含む培地で増殖した二重組換えクローンを示す。
【図33A】図33Aは二重組換えに関するコントロールPCRの結果を示す。
【図33B】図33Bは二重組換えに関するコントロールPCRの結果を示す。
【実施例】
【0105】
本発明を実施例に基づいてより十分に以下に説明する。これらの実施例が非限定的な代表例であることを理解されたい。
【0106】
I- 材料及び方法
A)材料
1)培養培地
完全倍地LB、2XTY及びSOC、最小培地M9(Maniatisら,1989)を使用した。15gのGifco寒天の添加によってゲル化した培地を得た。更に、必要な場合には、抗生物質アンピシリンまたはカナマイシンをそれぞれ100mg/l及び50mg/lの濃度で培地に補充した。発色性基質X-Gal及びX-Glucを濃度40mg/lで使用した。
【0107】
2)大腸菌株、プラスミド及びバクテリオファージ
使用した大腸菌株、プラスミド及びバクテリオファージは、それぞれ以下の実施例に特定する。
【0108】
B)方法
1)DNAの操作
細菌DNA(プラスミド、ゲノム)及びファージDNA(M13の複製形態)の単離、制限エンドヌクレアーゼによる消化、DNAフラグメントの結合、アガロースゲル電気泳動(TBEバッファ中)及びその他の標準技術は、提供業者による酵素使用に関する指示に従って行うか、または“Molecular Cloning:a Laboratory Manual”(Maniatisら,1989)に記載の手順に従って行った。
【0109】
電気泳動で使用されるDNAのサイズマーカーは、直鎖状フラグメントに対しては1kbのラダー(BRL)、非消化のプラスミドに対しては超コイルDNAマーカー(Stratagene)である。
【0110】
配列決定は、Sangerの技術(Sangerら,1997)を、蛍光ジデオキシヌクレオチドとTaq DNAポリメラーゼとを用いる全自動方法(PRISM Ready Reaction DycDideoxy Terminator Cycle Sequencing Kit, Applied Biosystems)に応用して行った。
【0111】
使用したオリゴデオキシヌクレオチド(以下に配列番号で示す)は、シンセサイザー“Applied Biosystems 394 DNA/RNA Synthesizer”を使用し、α-シアノエチル保護基(Sinhaら,1984)を用いるホスホラミジット法によって合成した。合成後、アンモニア水で処理して保護基を除去した。2回のブタノール沈殿によってオリゴヌクレオチドを精製し濃縮することが可能である(Sawadogoら,1991)。
【0112】
PCR増幅に使用されたオリゴヌクレオチド配列
配列3 5’-GACCAGTATTATTATCTTAATGAG-3’
配列4 5’-GTATTTAATGAAACCGTACCTCCC-3’
配列5 5’-CTCTTTTAATTGTCGATAAGCAAG-3’
配列6 5’-GCGACGTCACCGAGGCTGTAGCCG-3’
【0113】
PCR反応(Saikiら,1985)は、総量100μl中で以下の条件で実施した。反応混合物は、試験すべき菌株の150ngのゲノムDNAと、各1μgの2つのオリゴヌクレオチドプライマー(24-mer)と、“500mMのKC1と0.1%のゼラチンと20mMのMgCl2と100mMのトリス-HC1、pH7.5”とから成る組成の10μlの10×PCRバッファと、2.5単位のTaq DNAポリメラーゼ(Amplitaq Perkin-Elmer)とを含む。Perkin-Elmer CentusのDNAサーマルサイクラー装置におけるPCR条件は、91℃で2分間維持し、変性(91℃で1分)、ハイブリダイゼーション(42℃で2分)及び伸長(72℃で3分)から成るサイクルを連続30サイクル実施し、最後に72℃で5分維持するという条件である。このようにして得られた産物を、制限酵素で消化するかまたは非消化でアガロースゲル電気泳動によって分析する。
【0114】
DNAトポイソメラーゼによる多様なプラスミド種の分析は、以下の手順で行った。実験室で精製した酵素を37℃で1時間インキュベートする。反応混合物(総量:40μl)の組成は、150ngのプラスミドと、300ngのDNAトポイソメラーゼIもしくは150ngの大腸菌DNAジャイレースまたは160ngのS. aureusのDNAトポイソメラーゼIVと、各酵素に特異的な20μlのバッファとから成る。これらバッファの組成を以下に示す。
【0115】
DNAトポイソメラーゼIに対しては:
50mMのトリス-HCl,pH 7.7、40mMのKCl、1mMのDTT、100μg/mlのBSA、3mMの MgCl2、1mMのEDTA、
DNAトポイソメラーゼIVに対しては:
60mMのトリス-HCl,pH 7.7、6mMのMgCl2、10mMのDTT、100μg/mlのBSA、1.5mMのATP、350mMのグルタミン酸カリウム、
DNAジャイレースに対しては:
50mMのトリス-HCl,pH 7.7、5mMのMgCl2、1.5mMのATP、5mMのDTT、100μg/mlのBSA、20mMのKCl。
【0116】
2)大腸菌の形質転換
大腸菌の形質転換はChung and Miller(1998)によって記載されたTSB(Transformation and Storage Buffer、形質転換及び蓄積バッファ)の方法に従って常法で行った。TG1のような菌株(Gibsonら,1984)の場合、得られる形質転換効率は、1μgのpUC4Kあたり約105-106の形質転換体が得られる割合である(Vieira&Messing; 1982)。より高い形質転換効率が必要な場合には、エレクトロポレーターを製造業者(Biorad)の推薦する手順に従って用いた電気穿孔によって細菌を形質転換した。この方法によれば、1μgのpUC4Kあたり約108-1010の形質転換体が得られる効率を達成し得る。
【0117】
3)カチオン性リポフェクタントによって媒介される細胞性トランスフェクション
使用される細胞は、前日に24ウェルのプレートにウェルあたり50,000細胞の密度で播種されたマウス線維芽細胞NIH 3T3である。使用される培養培地は、4.5g/lのブドウ糖を含み10%のウシ胎仔血清及び1%の200mMグルタミン溶液と抗生物質(ストレプトマイシン5×103単位/ml、ペニシリン5×103μg/ml)(Gibco)とを加えたDMEM培地である。プラスミドDNA(25μlの0.9%NaCl中に1μg)を同量のリポフェクタントの懸濁液に混合する。“リポフェクタントの電荷/DNAの電荷”の比が及び9の4つの値である場合を試験する。これらの比は、1μgのプラスミドDNAが3.1nmolの負電荷を有し、リポフェクタントが分子あたり3つの正電荷を含むと考えて計算する。DNA/脂質複合体を形成し得る10分間の接触後に、50μlのDNA-リポフェクタント混合物を無血清培養培地(500μl)中の細胞に導入する。細胞を同じ培地で予め2回精製しておいた。これによって血清によるトランスフェクションの阻害が防止される。インキュベーション(CO2含有インキュベータ内で37℃で2時間)後に、10%のウシ胎仔血清を培地に加える。次いで、細胞を再度24時間インキュベートする。
【0118】
4)真核細胞のルシフェラーゼ活性の測定
ルシフェラーゼ活性の測定はトランスフェクションの24時間後に行う。ルシフェラーゼは、ATPとMg2+とO2との存在下でルシフェリンの酸化を触媒し、これに伴なって光子発生させる。光度計によって測定された反応体(ルシフェラーゼアッセイシステム)をPromegaが勧める手順に従って使用する。細胞溶解後に各抽出物の不溶性画分を遠心分離によって除去する。細胞溶解バッファに希釈するかまたは非希釈の5μlの上清をアッセイに用いる。
【0119】
5)細胞抽出物の蛋白濃度の測定
この測定は、ニシンコニン酸(Wiechelmanら,1988)を用いるBCA法(Pierce)に従って行う。溶菌バッファ中でBSA標準を作成する(III-B-4参照)。アッセイサンプル及び標準サンプルを同量の0.1Mのヨードアセトアミドを含む0.1Mのトリスバッファ,pH 8.2によって37℃で1時間予備処理する。この処理によれば、アッセイのときに溶菌バッファ中に存在する還元剤(DTT)干渉を防止し得る。562nmでアッセイの読取りを行う。
【0120】
(実施例1)
相同的組換えによる宿主菌株XAC-1 pir及びpir116の構成
使用される菌株は、大腸菌XAC-1株である(Normanlyら,1980)である。この菌株の利点は、この菌株のargE遺伝子のグルタミン-53(CAG)がアンバーコドン(TAG)に変異していることである(Meinnelら,1992)。argE遺伝子は、分岐オペロンargECBHに属し、アルギニン生合成酵素、N-アセチルオルチナーゼをコードしている。従って、XAC-1はアルギニンを合成せず、その結果として最小培地中で増殖しない。この菌株がサプレッサーtRNAの発現を許容するプラスミドを含んでいるならば、この栄養要求性は除去されるであろう。従って、最小培地中で培養することによって、このようなプラスミドを保有する細菌を選択することが可能でなる。R6Kに由来のプラスミドを細菌中で複製可能にするためには、相同的組換えによって、pir遺伝子をXAC-1のゲノムに導入することが必要であった。pir遺伝子(野生型または変異変異型)は、野生型uidA遺伝子をpir(またはpir116)遺伝子を割込ませているコピーで置換することによって遺伝子座uidAに導入される。uidA遺伝子はβ-グルクロニドの加水分解酵素であるβ-グルクロニダーゼをコードしている。この遺伝子は、β-グルクロニドが使用されていない従来の合成培地中では増殖に必須ではないため、失活させても問題はない。更に、β-グルクロニダーゼ活性は、加水分解によって青色顔料を放出する発色性基質X-Glucによって追跡できる。
【0121】
1)カセット”KmR-uidA::pir(またはpir116)を保有している自殺ベクターの構成
細菌宿主を単独で使用し、有益なゲノムの修飾を最小にする戦略を使用した。ファージM13mp10(Messing&Vieira,1982)を自殺ベクター(Bumら,1989)として使用した。複製に必須の遺伝子II中のアンバー変異は、このM13の宿主スペクトルを、アンバーのサプレッサーtRNAを産生するTG1(supE)のような菌株に限定する。従って、XAC-1のような大腸菌のsup+株中でM13を複製することはできない。
【0122】
Tn5のカナマイシン耐性遺伝子とuidA::pirまたはpir116とを含む3.8kbのBamHIカセットをそれぞれ、M13wm34及び33から精製した(Metcalfら,1994)。これらのカセットをBamHIによって直鎖化したM13mp10にクローニングした。結合混合物を電気穿孔によってTG1に導入した後で、ゲル化したLB+Km培地に平板培養することによって組換えクローンを選択した。得られたクローンの一致性は制限プロフィルの分析及び変異pir116に対応する領域の配列決定によって証明された。
【0123】
2)相同的組換えによる大腸菌XAC-1株のゲノム内への遺伝子pirまたはpir116の導入
採用した戦略及び関与する種々のイベントを図3に示す。
【0124】
a)第一の組換えイベント
10、100、または2000ngの各RF(mp10-_uidA::pirまたはpir116)を用いた電気穿孔によってXAC-1株を形質転換した。各発現混合物の3分の1を、カナマイシンを収容したLB容器に平板培養し、37℃で一夜インキュベートしたファージmp10-_uidA::pirまたはpir116はXAC-1(sup+)株中では複製できない。従って、カナマイシン耐性(”KmR”)マーカーは、uidA遺伝子の野生型コピーを用いた相同的組換えを介して細菌のゲノムに組込まれない限り維持されることができない。XAC-1電気穿孔の結果を表1に示す。得られた形質転換効率は、1μgのpUC4Kあたり4×109の形質転換体が得られるという割合であった。
【0125】
【表2】

試験条件で、組込み体の数はDNAの量に伴なって非線形的に増加する。形質転換効率及びRFのサイズ(11.7kbp)がわかれば、組換え率をほぼ予測できる。100ngの場合では、約10−6の組換え頻度が得られる。
【0126】
b)第二の組換えイベント
次に第二の組換えイベントを菌株のデオキシコール酸塩耐性(DocR)よって選択する。
【0127】
このためには、各構築物の5つの組込み体を、0.2%のデオキシコール酸ナトリウムを加えた2XTYで培養した。異なる二つの集団が出現する。37℃に約8時間維持した後でいくつかのクローンは十分に観察できる混濁を生じる(構築物pirの二つのクローン及び構築物pir116の3つのクローン)。他のクローンは37℃に一夜維持した後に初めて高密度の培養物を生じた。これらのクローンはほぼ全部が予想どおりにKmSであった。試験したエレクトロポーラントのそれぞれについて、50KmS後代をX-Glucを加えたLBでスクリーニングした。37℃で48時間維持した後、クローンUidA+は淡青色であったが、対立遺伝子置換が生じたクローン(図3のケース1)は、この培地で白色を維持していた(UidA-)。二重組換えによって得られた組換え体の表現型の分析を表2に要約する。二重組換えによって得られた組換え体の18〜30%が対立遺伝子置換を生じていた。
【0128】
【表3】

【0129】
3)組換えによって得られた菌株のPir+特性のコントロール
二重組換えによって得られた菌株のPir+特性を確認するために、各構築物の3つのクローンをpBW30(Metcalfら,1994)によって形質転換させた。試験した全部の菌株で形質転換体が得られたが、このことは、XAC-1のゲノムに組込まれた遺伝子pir及びpir116が機能したことを示した。同じ条件で、親菌株XAC-1を試験したときには形質転換体は全く得られなかった。2つのXAC-1pirクローン(B及びC)及び2つのXAC1pir116クローン(E及びD)についての試験を継続した。
【0130】
4)組換えによって得られた菌株のPCR増幅によるコントロール
対立遺伝子置換を確認するために、遺伝子座uidAの両側のゲノム領域をPCR増幅によってコントロールした。各オリゴヌクレオチド対は、pirの内部領域に対応する1つのオリゴヌクレオチドと染色体uidAの近傍にあるが組換えに使用されたフラグメントには含まれていない領域に対応する第二のオリゴヌクレオチドとから構成されていた。この後者のオリゴヌクレオチドの配列は、Genbankの配列ECOUIDAA(アクセス番号:M14641)によって決定された。このようにして、細菌のゲノム中のpir遺伝子の正確な位置を確認できた。予測したサイズに一致するサイズをもつ増幅フラグメントの特性をMluIを用いた消化によって確認した。
【0131】
(実施例2)
選択マーカーsup Pheを保有するR6Kに由来のプラスミドベクターの構築
R6Kのoriγとカナマイシン耐性遺伝子を含むベクターを構築した(pXL2666)。菌株BW19610(pir116)5(Metcalfら,1993)中でpXL2666のマルチマーが観測されたので、この現象に対するColE1のcerフラグメントの効果を試験した。次に、フェニルアラニンサプレッサー(sup Phe)tRNAの発現カセットをベクターoriγ-KmR-cer(pXL2730)に導入した。このベクターpXL2760は、遺伝子治療に使用可能なベクターを構築するための基材として使用できる。
【0132】
1)R6Kのoriγとカナマイシン耐性遺伝子とを含むベクターの構築及び分析
a)構築物
構築された第一のプラスミドpXL2666中のカナマイシン耐性遺伝子はpUC4K(Vieira&Messing,1982)に由来し、417bpのEcoRI-BamHIフラグメントに含まれている複製起点は自殺ベクターpUT-T7pol(Herreroら,1990)に由来する(図4)。菌株BW19094及び19610(Metcalfら,1994)中へのpXL2666の導入は、プラスミドの量が、菌株pir中の同じプラスミドに比較して菌株pir116中で著しく増加していることを示した。しかしながら、非消化プラスミドを電気泳動によって分析すると、この現象がプラスミドの多数コピー間の分子間組換えに関係している可能性が大きい。また、cis作用によってプラスミドのダイマーを分解できることが証明されていた大腸菌ColE1の天然プラスミドのcerフラグメント(Summers&Sherrat,1984)を、pCL2666にクローニングすることによってpXL2730を構築した。使用したフラグメントは、ColE1の382bpのHpaIIフラグメントに対応する(Leungら,1985)。このフラグメントは、特異的分子間組換え部位を含む。このフラグメントが機能するためには、リコンビナーゼXerC及びXerDと副次的因子ArgR及びPepAとをもつ宿主の蛋白質だけが必要である(Stirlingら,1988,1989,Collomsら,1990)。観察された効果が確かにcerフラグメントによって得られたことを確認するために、cerフラグメントから165bpが欠失した対照プラスミドpXL2754を構成した。この欠失によって、マルチマーの分解に対するcerの作用が消滅することが証明された(Leungら,1985)。これらのプラスミドを構成するための種々のクローニング段階を図4に示す。
【0133】
b)プラスミド種の定量的及び定性的分析
(i)アガロースゲル電気泳動による分析
構築した種々のプラスミドの電気泳動分析は、プラスミド種が使用した菌株次第で種々に異なることを証明した。非消化プラスミドのサイズを超コイルDNAマーカーとの比較によって測定した。菌株pir(BW19094)中で、プラスミドpXL2666、2754及び2730は、実質的に完全にモノマー形態である。各主要バンドの上方のバンドは、DNAジャイレースとpXL2730との作用後に観察されたプロフィルによって確認されるように、多少緩和された超コイル構造の種々のトポイソマーに対応する。
【0134】
菌株pir116(BW19610)中では種々のプロフィルが観察される。プラスミドpXL2666及び2754の場合、モノマーからマルチマー(2、3、または4量体)までの多様な種が観察され、最も多い形態はダイマーである。EcoRIによる消化後には、直鎖状のプラスミドDNAだけが観察される。これらのプラスミド種は、プラスミドのマルチマーに対応するかまたは種々のトポイソマーに対応する。しかしながら、超コイルDNAマーカー基づいて測定した形態のサイズはモノマープラスミドのサイズの整数積であるため、マルチマーである可能性が極めて大きい。2つの菌株BW19094及びBW19610は厳密にアイソジェニックではないが(BW19610はrecAである)、マルチマーの形成が変異pir116に起因する可能性は極めて大きい。pXL2730の場合には異なるプロフィルが得られる。マルチマー形態も依然として観察できるが、主要な形態はモノマー形態である。従って、cerフラグメントは発明者らが構築したプラスミドのマルチマーを容易に分解でき、この分解はBW196190中ではrecAと無関係に生じる。
【0135】
(ii)DNAトポイソメラーゼによる処理後の分析
対立遺伝子pir116を保有している菌株中で観察された形態が特定のトポイソマーであるという仮説を否定するために、各プラスミド調製物にDNAトポイソメラーゼを作用させた。種々の酵素は実験条件で以下の活性、即ち大腸菌のDNAトポイソメラーゼIはDNAの緩和活性、大腸菌のDNAジャイレースは緩和DNAの負の超コイル形成活性、S. aureusのDNAトポイソメラーゼIVは絡み合ったDNAの解離及び超コイルDNAの緩和活性を有していた。DNAトポイソメラーゼIVの作用は、高分子量のプラスミド形態がプラスミドの複数の分子の絡み合いの結果として生じるのではないことを証明した。この場合にはプラスミドの複数の分子がモノマー種に変換されたと考えられる。絡み合ったDNA分子から成るキネトプラストDNA調製物に対する酵素の機能は確かにコントロールされていた(図示せず)。非処理対照中よりも泳動し難い種が得られるので緩和活性も観察できる。DNAジャイレースの作用によって、多少緩和されたトポイソマーが細菌から抽出された最多の超コイルをもつ種に変換された(主としてモノマーまたはダイマー)。DNAジャイレースの作用によって更に、調製されたDNAが主として超コイル形態であることが確認された。このようにして処理されたサンプルは、各構造物の大部分の種に関しては前述の結果の裏付けとなり得る。DNAトポイソメラーゼIは確かにDNAを緩和したが、この緩和は部分的でしかなかった。その原因は、この酵素に優先的に結合し得る一本鎖領域が実験したプラスミドにほとんど含まれていないからであると考えられる(Roca,1995)。
【0136】
2)pCL2730に対する選択マーカーsup Pheの導入
合成サプレッサーtRNA遺伝子(Phe)の発現カセットを使用した(Kleinaら,1990)。この遺伝子は、TAGコドンに応答してフェニルアラニンを形成することによってポリペプチド鎖に導入される。更に、この遺伝子は、アルギニン欠損培地中で有効に増殖するために十分に活性の蛋白質ArgEをXAC-1中で産生し得る。プラスミドpCT-2-F(Normanly,1986)上で、sup Pheは大腸菌lpp遺伝子のプロモーターPlppの配列に由来の合成プロモーターから構成的に発現される。転写終了は、この遺伝子下流の、大腸菌のオペロンrrnCの合成ターミネーターTrrnC(Normanlyら,1986)によって確保される。種々のクローニング段階を図5に示す。
【0137】
XAC-1中で種々のサブクローニングを行った。サプレッサーtRNAの発現カセットの機能は、遺伝子lacZu118amのアンバーコドンが抑制されているときにだけ存在するこの菌株のα-ガラクトシダーゼ活性によってコントロールされている。最終段階はpXL2730上のsup Pheの発現カセットの導入から成る。この実験でcerフラグメントによって得られた結果(B-1-b)に基づいて、pXL2666でなくこのプラスミドを選択した。以後のクローニングが容易になるように、特に最終クローニングの際の追加のスクリーニング(KmRの喪失)が容易になるように、カナマイシン耐性遺伝子を保存した。
【0138】
(実施例3)
マウス線維芽細胞のトランスフェクションによる遺伝子治療用プラスミドベクターの評価
1)リポーターベクターpXL2774の構築
遺伝子治療におけるプラスミドDNA産生系の有効性を試験するために、真核細胞中で使用可能なリポーター遺伝子をpXL2760に導入した。生物発光の測定試験は極めて好感度で、広い範囲で線形であり、真核細胞の内在活性に起因するバックグラウンドノイズが極めて弱いので、Photinus pyralisのルシフェラーゼをコードする遺伝子lucを使用した。luc遺伝子は高い割合で発現し得るヒトサイトメガロウイルスの初期遺伝子の増幅プロモーター配列(CMVプロモーター)のコントロール下にある。lucの3’位には、ポリアデニル化シグナル(ポリ(A)+)を含むSV40ウイルスに由来の非翻訳領域が存在する。使用できる制限部位の数を増加させる中間クローニング後に、“プロモーターCMV-luc-ポリ(A)+”のカセットを、マーカーKmRの代わりに最小ベクターoriγ-cer-sup Phe(pXL2760)に導入して形質転換した。得られたプラスミドをpXL2774と命名した。種々のクローニング段階を図6にまとめる。結合混合物を電気穿孔によってXAC-1pir116に導入して形質転換した。富化培地(SOC培地)中でインキュベーションを行うことによって細菌に選択マーカーを発現させる。従って、平板培養の前にM9培地で細胞を2回精製する必要があった。これによって、最小培地中の培養のバックグラウンドノイズの原因となる残留培地を除去し得る。
【0139】
電気穿孔した細胞を平板培養するために選択した培地は、サプレッサーtRNAを発現する細菌を選択でき、従って本発明のプラスミドの存在を選択できる最小培地M9である。X-Galの添加後の青い呈色反応はサプレッサーtRNAの発現を表す。37℃で約20時間維持後に容器を分析する。DNA非含有の対照にはコロニーが存在しないので、高密度の播種を行った場合にも正しい選択が行われたと確信できる。制限によって試験したすべてのクローン(8)が予想プロフィルに対応するプラスミドを確かに保有している。このようにして構築したプラスミドpXL2774を、1リットルの液体培地M9中で(37℃で約18時間)培養したクローンから、特にイオン交換を用いる技術によって(Promega、MegaPrepsキット)調製した。DNAの回収量は2mgであった。
【0140】
2)哺乳動物細胞にトランスフェクトされたリポーターベクターpXL2774の分析
真核細胞にトランスフェクトし、ルシフェラーゼを発現させるpXL2774の能力を、マウス線維芽細胞NIH 3T3へのトランスフェクションによって評価する。標準ベクターとしては、pXL2774と同じルシフェラーゼ発現カセットを異なるレプリコンに保有しているプラスミドpXL2622を選択した(このプラスミドはSV40プロモーターがCMVプロモーターによって置換されたPromegaのプラスミドpGL2である)。このプラスミドはアンピシリン耐性遺伝子を保有している6.2kbのColE1の誘導体である。このプラスミドを対照として使用する。ルシフェラーゼ活性(RLU、相対的発光量で表す)を表3に示す。
【0141】
“リポフェクタントの電荷/DNAの電荷”の比を6にしたときに最良の結果が得られた。これらの条件ではpXL2622と2774は等価であると考えられる。
【0142】
【表4】

【0143】
(実施例4)
大腸菌のプラスミドpCORの自殺ベクター特性の証明
pCOR型のR6Kに由来のプラスミドが複製できないという特性を、プラスミドpUC4K(ori ColE1-KmR,(Vieira&Messing,1982))及びpXL2730(R6K-KmRのoriγ、実施例2参照)を大腸菌 JM109(Yanisch-Perronら,1985)に導入する電気穿孔実験で確認した。使用したエレクトロポレーターは、Biorad Gene Pulserであり、エレクトロコンピテント細胞JM109は製造業者の手順に従って調製し使用する(Bacterial electro-transformation and pulse controller instruction manual. Catalog number 165-2098)。
【0144】
エレクトロトランスフォームした細胞を、カナマイシン(50mg/l)を加えたLB培地に平板培養し、37℃で一夜インキュベートした。得られた結果を以下に示す。
【0145】
【表5】

これらの結果は、pir遺伝子を発現しない菌株中のColE1の誘導体(pUC4K)の形質転換効率がR6Kの誘導体(pXL2730)に比べて最小でも5ログの差があることを示す。XAC-1pir116のようなpir+菌株中では、R6Kに由来のプラスミドのエレクトロトランスフォーメーション効率は、プラスミド1μgあたり108の形質転換体という従来の値に等しいかまたは従来の値を上回る。
【0146】
(実施例5)
大腸菌XAC-1pir116(pXL2774)株の高密度培養によるプラスミドDNAの産生:発酵方法
5.1 菌株
大腸菌XAC-1pir116株(実施例1)中で最小プラスミドpXL2774を産生させる。このプラスミドは、ori R6K-cer-tRNAamsupPheとCMVプロモーターのコントロール下のlucリポーター遺伝子の発現カセット(実施例3)とをそのエレメントとして含んでいる。高い生産効率でこの種のプラスミドを産生する方法は開発されていた。
【0147】
5.2 培地及び培養条件
a)増殖培地
植込み培養物に対して使用した指定培地の組成:Na2HPO4 6g/l、KH2PO4 3g/l、NaCl 0.5g/l、NH4Cl 1g/l、NH4H2PO4 3g/l、ブドウ糖5g/l、MgSO4 7H2O 0.24g/l、CaCl2 2H2O 0.015g/l、チアミン HCl 0.010g/l
【0148】
バッチ仕込み培養物に対してし使用した複合培地の組成:KH2PO4 8g/l、K2HPO4 6.3g/l、Na2HPO4 1.7g/l、(NH4)2SO4 0.74g/l、NH4Cl 0.12g/l、酵母エキス3g/l、ブドウ糖2g/l、MgSO4 7H2O 2.4g/l、CaCl2 2H2O 0.015g/l、チアミン0.010g/l、塩溶液(Fe,Mn,Co,Zn,Mo,Cu,B,Al)
【0149】
バッチ仕込み培養物に対する指定培地の組成:複合培地の組成の酵母エキスを2.5g/lのNH4Clで置換した培地。
【0150】
b)バッチ仕込み培養の条件
プラスミドDNAの増殖及び産生の最適条件を決定するために、1リットルの培地を収容した2リットルの発酵槽(Setric France)中で試験を行った。定常増殖期の開始に到達した80mlの植込み培養物を発酵槽に播種した。
【0151】
発酵中には、10%(w/v)のアンモニア水によってpHを自動的に6.9から7.0の範囲にコントロールし調整した。温度は37℃に維持した。0.2バールの圧力下で75l/時(1.1vvm)の一定の通気速度を維持し、攪拌速度に対するフィードバック及び必要な場合には純粋酵素の添加によって溶存酸素を空気中の飽和状態の40%にコントロールした。
【0152】
Hewlett-Packard 9000に接続されたインターフェイスHP3852を介してすべてのパラメータ(pH、温度、攪拌、OD、流出ガス中のO2及びCO2)をオンラインで収集し計算した。
【0153】
補充培地の基底組成は、炭素源50%、硫酸マグネシウム0.7%、チアミン0.02%から構成され、複合培地の場合には、この補充培地に酵母エキスを好ましくは5〜10%の濃度で添加した。
【0154】
培養条件を800リットルの発酵槽に適応させるために、継続培養によって2つの植込み培養物の生産工程を実験室規模で実施した。即ち、植込み培養物Iはエルレンマイヤーフラスコで攪拌し、植込み培養物IIは2リットルの発酵槽で培養し(バッチ培養)、次いで7リットルの発酵槽にバッチ仕込みして生産培養した。
【0155】
5.3. 結果
複合培地中、指定培地中及び種々の増殖率で種々の培養条件を試験した。どの場合にも、細菌株の初期バッチ培養と炭素源の消費の後、プレプログラムした添加計画に接続した蠕動ポンプによって発酵槽に補充培地を添加した。この添加計画は、培地の補充率を溶存酸素率または定常増殖率に従属させた先行実験に基づいて作成した。
【0156】
更に、培地の過酸素化を生じることなく2リットルの発酵条件を800リットルの発酵槽に容易に応用できるように、培養終了時の最大酸素要求量を2.5〜3mM/分の一定値に維持した。このために、必要な場合には補充培地の供給速度を操作することによって微生物の増殖率を低下させた。
【0157】
表4に示すように、実験室規模でも800リットルの発酵槽の規模でも複合培地中及び指定培地中の双方で極めて優れた結果が得られた。更に、プラスミドDNAの増殖及び生産の速度も全く同等である(図6及び7の比較)。
【0158】
【表6】

【0159】
結果を総合すると以下の事実が判明する。
【0160】
−2リットルの発酵槽から800リットルの発酵槽への規模の変更は全く問題なく行われる。
【0161】
−酸素消費量は発生するバイオマスに密接な相関関係を示す(発生バイオマス1gあたり1.08gのO2消費量)
−プラスミドは少なくとも50世代は選択圧を生じることなく安定である。
【0162】
−複合培地中では1リットルあたり乾燥細胞40gを上回る高濃度のバイオマスが得られる。
【0163】
−プラスミドDNAの産生量は、培地1リットルあたり100mgの超コイルDNAに達する。
【0164】
−DNAの産生量とバイオマスとの間に十分な相関関係が存在する。発酵持続時間に関わりなく、1単位のODあたり1mgのプラスミドDNAまたは1gのバイオマスあたり2.7mgのプラスミドDNAという産生量を計算できる。
【0165】
−指定培地を使用した場合にも、生産効率を全く低下させることなく高いレベルのバイオマス(1リットルあたり乾燥細胞30g)及びプラスミドDNA産生量(1リットルあたり100mg)を達成し得る。
【0166】
(実施例6)
動物細胞中へのpXL2774のin vitro及びin vivo導入
6.1 動物細胞中へのpXL2774のin vitro導入
種々の細胞系にトランスフェクトする最小プラスミドpXL2774の能力をヒト起原の細胞とマウス起原の細胞との双方についてin vitroで試験した。プラスミドPXL2784を対照として使用した。プラスミドpXL2784は、pXL2774と同じ真核細胞発現カセット(CMVプロモーター-ルシフェラーゼ-ポリA)を含むが、この発現カセットは、大腸菌中でカナマイシン耐性を与える遺伝子を含む6.4kbのColE1の誘導体である。
【0167】
以下の細胞を試験した。
【0168】
【表7】

【0169】
以下のトランスフェクション条件を用いた。
【0170】
D-1:10%ウシ胎仔血清(FCS)を補充されたDMEM培地(ダルベッコの改質イーグル培地)中の2cm2のウェル(24ウェルのプレート)あたり100,000細胞の密度で細胞を播種した。
【0171】
D-3:10%のFCS添加または非添加の250μlの培養培地中に0.5μgのDNAと150mMのNaClと5%のブドウ糖とDNA1μgあたり3nmolのリポフェクタントRPR120 535とを含む10μlのトランスフェクション溶液によって細胞のトランスフェクションを行った。2時間のインキュベーション後、培地を10%のFCSを加えた500μlのDMEM培地に交換した。
【0172】
D-4:培養培地を交換する。
【0173】
D-5:細胞をPBSで洗浄し、次いで100μlのPromega溶解バッファ(Promega細胞溶解バッファE153A)で溶解する。Lumat LB9501光度計(Berthold)を用い10μlの溶解液に対して10秒の積分時間でルシフェラーゼ活性の定量アッセイを行う。使用した反応体はPromegaの反応体である(Promegaルシフェラーゼアッセイ基質)。結果を以下の表5〜8にまとめる。以下の表では結果を、10μlの溶解液あたりのRLU(Relative Lights Units、相対的発光量)として表す(4つのウェルの測定値の平均)。変動係数(CV)も示す。
【0174】
血清の非存在下のトランスフェクションの結果を以下に示す。
【0175】
【表8】

【0176】
血清(10%)の存在下のトランスフェクションの結果を以下に示す
【0177】
【表9】

これらの結果から、pXL2774がマウス起原及びヒト起原の種々の細胞のタイプにin vitroで有効にトランスフェクトする能力を有することが判明する。リポーター遺伝子lucの発現は、そのトランスフェクション効率が、同じルシフェラーゼの発現カセットを保有しているColE1に由来の“古典的”プラスミドの効率に少なくとも等しい優れた値であることを示す。
【0178】
6.2 動物細胞へのpXL2774のin vivo導入
a)モデル1:マウスの前脛骨筋中の裸のDNA
“5%ブドウ糖、150mMのNaCl”中に溶解した裸のプラスミドDNAをOF1マウスの前脛骨筋に注射する。注射の7日後に筋肉を採取し、粉砕し、750μlの溶解バッファ(Promega細胞溶解バッファE153A)中でホモジェナイズし、次いで20,000×gで10分間遠心する。
【0179】
50μlの反応体(Promegaルシフェラーゼアッセイ基質)を添加した後、1μl上清に対してルシフェラーゼ活性の定量アッセイを行う。Lumat LB9501光度計(Berthold)を用い、10秒間の積分時間で読取りを行う。
【0180】
結果を以下の表に示す。
【0181】
【表10】

これらの結果は、pXL2774のような条件複製型プラスミドがマウス筋肉細胞にin vivoで十分にトランスフェクトできること、しかもルシフェラーゼ遺伝子と同じ発現カセットを保有しているColE1に由来の“古典的”プラスミドの効率と同等以上の効率でトランスフェクトできることを示す。
【0182】
b)モデル2:腫瘍性3T3 HER2モデル
以下のモデルを使用する。
【0183】
−Swiss種の成熟メス裸マウスを使用する。
【0184】
−脇腹に107個の3T3 HER2細胞を皮下注射して実験的腫瘍を誘発する。
【0185】
−細胞注入の7日後にトランスフェクション混合物を注入する。
【0186】
注入溶液:先ずDNAをバッファに溶解させる。全部の成分を添加した後の混合物は、DNAに加えて、NaCl(150mM)と5%のD-ブドウ糖とを水または5mMのHEPESバッファ中に含んでいる。
【0187】
−注入の2日後に、腫瘍組織を採取し、計量し、粉砕し、750μlの溶解バッファ(Promega細胞溶解バッファE153A)にホモジェナイズする。遠心(20,000×gで10分間)後、10μlの上清を採取してルシフェラーゼ活性を測定し得る。50μlの反応体(Promegaルシフェラーゼアッセイ基質)との混合後に得られた全発光量をLumat LB9501光度計(Brethold)を用いて10秒間の積分時間で測定することによってルシフェラーゼ活性を定量する。
【0188】
−得られた活性を、腫瘍性溶解上清全体について推定したRLU(Relative Light Units、相対的発光量)で表す。
【0189】
【表11】

これらの結果は、pXL2774のような条件複製型プラスミドがマウス腫瘍細胞にin vivoで十分にトランスフェクトできること、しかもルシフェラーゼの遺伝子と同じ発現カセットを保有しているColE1に由来の“古典的”プラスミドの効率に少なくとも同等の効率でトランスフェクトできることを示す。
【0190】
これらの種々の実験は、条件複製型プラスミド、より特定的にはpXL2774が、治療用遺伝子として使用するために不可欠な動物細胞に対するトランスフェクション特性を十分に有していることを証明した。より詳細には、
1)pXL2774がヒト起原またはマウス起原の種々の細胞タイプにin vitroで有効にトランスフェクトする能力を有していること、
2)pXL2774がマウスの筋肉にin vivoでトランスフェクトする能力を有していること、
3)pXL2774がマウスに移植された腫瘍細胞にin vivoでトランスフェクトする能力を有していること、が証明された。
【0191】
従って、エレクトロトランスフォーメーション、発酵、及びトランスフェクションの実験は、条件複製型プラスミドが、
1)pir遺伝子(条件複製起点)を発現しない大腸菌の菌株中では検出可能な状態で複製されないこと、
2)抗生物質非含有の完全指定培地中で工業生産に好適な規模で産生され得ること、
3)in vitro及び特にin vivoで哺乳動物の細胞にトランスフェクトできること、
を示したので、これらのプラスミドが遺伝子治療で使用可能なベクターとして有効であることが証明された。
【0192】
(実施例7)
組換え蛋白質のin vitro産生
7.1 発現ベクターの構築
このような方法の実用化適性を証明するために、前述の基準(実施例2及び3)に従って発現ベクターを構築した。このベクターpXL3056は、
1)条件複製起点(oriγ)とColE1のcerフラグメントと細菌中の選択を確保する遺伝子(sup)とを含む細菌性部分と、
2)Studierによって記載された系(Studierら,1990)を基材とし、T7バクテリオファージの遺伝子10のプロモーターとlacOオペレーターとaFGF154(酸性線維芽細胞増殖因子、154個のアミノ酸から成る形態)(Jayeら,1986)、T7バクテリオファージのターミネーターTFとを含む発現カセットと、
を含んでいる。この発現カセットは、国際特許出願WO96/08572に記載されているプラスミドpXL2434上に存在する発現カセットと同じである。
【0193】
pXL3056の構築を図8に示す。aFGFの発現カセットを含むpXL2434のEcoRI-BglIIフラグメント(1.1kb)を条件複製型ベクターpXL2979(1.1kbの精製フラグメント)のBglII部位及びEcoRI部位にクローニングしてpXL3056を作製する。
【0194】
PXL2979は3つのフラグメント、即ち(i)pXL2730のAccI-XbaIフラグメント(oriγ及びcerを与える0.8kb)と、(ii)pXL2755のNaI-SalIフラグメント(sub Phe遺伝子を与える0.18kb)と、(iii)pXL2660のSalI-SpeIフラグメント(カナマイシン耐性遺伝子を与える1.5kb)との結合によって得られる。
【0195】
pXL2660はpUC4K(Vieira&Messing,1982)の1.2kbのPstIフラグメントを、PstIによって直鎖化したpMTL22(Chambersら,1988)にクローニングすることによって得られる。
【0196】
7.2. 発現菌株の作製
プラスミドpXL3056を形質転換によって菌株XAC-1pir116に導入する。得られた菌株を次にプラスミドPT7pol23(Mertensら,1995)によって30℃で形質転換する。T7プロモーターのコントロール下で有益な遺伝子を発現させるために、細菌は、プラスミド上またはバクテリオファージ上でT7バクテリオファージのRNAポリメラーゼを発現させ得るカセットをそのゲノムに含んでいなければならない。記載の実施例では、pXL3056のようなR6Kの誘導体に和合性でT7バクテリオファージのRNAポリメラーゼの温度によって誘導発現され得るプラスミドPT7pol23を使用した。しかしながら、プラスミドだけを保存し温度でなくIPTGによってT7のRNAポリメラーゼの産生を誘発するために、菌株XAC-1pir116をラムダDE3(Studierら,1990)によって溶原化してもよい。
【0197】
7.3. aFGFの発現
0.2%のカザミノ酸(DIFCO)とカナマイシン(25μg/ml)とを加えたM9最小培地中で、600nmの光学密度が0.6〜1.0になるまで菌株XAC-1pir116(pXL3056+PT7pol23)を30℃で培養する。次いで、培養物の半量を42℃に加熱し(T7のRNAポリメラーゼの誘発)、残りの半量を30℃に維持する(陰性対照)。T7のRNAポリメラーゼの非存在下のaFGFの発現対照を構成する菌株XAC-1pir116(pXL3056+pUC4K)を用いて同じ実験を行う。
【0198】
得られた結果を図9に示す。これらの結果は、aFGFの産生量がBL21(DE3)(pXL2434)(国際特許出願WO96/08572)で観察された量に比べて同等以上であることを示し、これはin vitro、特に大腸菌中で組換え蛋白質を発現させる条件複製型プラスミドの能力を十分に証明する。
【0199】
(実施例8)
野生型またはハイブリッド型のp53蛋白質またはFGF1ヒト蛋白質を発現するベクターpCORの構築
この実施例は、p53蛋白質をコードする核酸を含む本発明の条件複製型ベクターの構築について記載する。これらのベクターは、特に腫瘍細胞のような欠陥細胞(変異、欠失)中のp53型の活性を回復するために有用である。
【0200】
真核細胞発現カセットは以下のエレメントを含む。
【0201】
1)I型単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼの遺伝子のリーダー配列(McKnight,S.L.の論文(1980)NucleicAcidsRes.8:5949-5964に記載の配列を参照すると遺伝子の-60位〜+1位)の上流の“即時型”CMV初期プロモーター(-522位〜+72位)、
2a)PCTフランス特許出願96/01111に記載の野生型p53蛋白質またはp53変異体をコードする核酸(V325変異体=ATGを含むKozak配列をもつV325)、
2b)Jaye M.(Sciences1986; 233(4763):451)、米国特許4,686,113及び欧州特許259475に記載のヒトFGFaまたはFGF-1をコードする核酸
2c)ヒト線維芽細胞のインターフェロン分泌シグナル(Taniguchiら)と、アミノ酸21〜154までの天然発生の切頂型ヒトFGF-1(Jayeら、及び米国特許5,849,538に記載)との融合遺伝子をコードする核酸
3)SV40のポリAポリアデニル化配列
これらのエレメントは、フラグメントAscI-XbaIの形態でpCORベクターのpXL2988のBssHII部位とSpeI部位との間に配置した。pXL2988は、ガンマ複製起点に隣接の17個のトリヌクレオチドGAAから成り、DNAの三重らせんを形成し得る配列を追加エレメントとして有していることを除けば、pXL2979(実施例7.1)に等しい。
【0202】
得られたプラスミドをpXL3029、pXL3030、pXL3179、またはNV1FGFと命名する(図10)。
【0203】
P53-SAOA2細胞を培養し、培養した細胞中でp53またはp53superWTの転写アクチベーター活性を測定することによって、または、例えば公知のELISA実験などでFGF1の分泌を測定することによってこれらの構築物の機能をin vitroで確認した。
【0204】
(実施例9)
TEX1(XAC1pir116,endA-,traD-)の構築
大腸菌XAC-1pir116は、proB+lacI373lacZu118amを含有する約100kbの環状DNA分子F’エピソームを含む。多くのオス大腸菌実験菌株は、それらのエピソームにtraD36変異を含むが、XAC-1に関してF’転写の機能に影響を与える変異は記載されていない。遺伝子traDはtra(転写)オペロンの1つの5’遺伝子座にあり、DNA転写及びDNA代謝に直接関与する細胞質膜の蛋白質をコードする(Frostら,BBRC,1994,58:162-210)。遺伝子の92%を占めるtraDの2kbの中心フラグメントを、XAC-1pir116 endA-中の相同的組換えによってpHP45Ω(Prentki&Krisch,1984,Gene,29:303-313)の2kbのオメガエレメント(Genbankアクセス番号:M60473)に交換した。オメガエレメントは短い逆方向反復によってフランクされた抗生物質耐性遺伝子aadAを含む。遺伝子aadAはアミノグリコシド-3アデニルトランスフェラーゼをコードし、ストレプトマイシン及びスペクチノマイシンに対する耐性を与える(“SpR”)。オメガフラグメントはRNAと蛋白質の合成を早期に終了させてtraDオペロン全体を不活性にするため、実験に使用した。この新たなpCOR株XAC-1pir116 endA- traD::SpRをTEX1とする。ドナーがTEX1の場合には、任意の残留プラスミドpCORまたはpUCの転写は検出されなかった。
【0205】
新規pCOR宿主菌株TEX1を発酵実験で評価した。XAC-1pir116バッチ仕込み培養には酵母エキス添加した複合培地を使用した。pCORは少なくとも50世代は安定するため、非選択培地を使用できる。これらの条件で、2リットルの発酵槽から乾燥細胞重量40g/lのXAC-1pir116及び100mg/lのpCORのpXL2774が得られた。pCORのコピー数は細胞あたり400〜500コピーで、プラスミドDNAの合成率は発酵過程全体を通じて一定していた。これらの結果から、800リットルの発酵槽が製造に好適であることが推定される。発酵は酵母エキスまたは動物起原の任意の原材料の非存在下でも実施し得る。指定培地を2リットルの発酵槽で使用した場合にも、産生性を喪失することなく同様の結果(乾燥細胞量30g/l及び100mg/lのプラスミドDNA)が得られた。
【0206】
(実施例10)
相同的組換えによる宿主菌株XAC-1pir116pir42の構築
1)カセット“KmR-uidA:pir116;pir42”を保有している自殺ベクターの構築
実施例1に記載のM13wm33のカセットKmR-uidA:pir116(Metcalf Wら,Gene,1994,138(1-2):p.1-7)を、PCR(QuickChange部位特定的変異誘発キット,Stratagene,La Jolla CA)を用いた部位特定的変異誘発によって修飾し、pir42変異をpir116遺伝子に導入した。異なるクローニング/変異誘発段階を図13に示す。
【0207】
変異誘発に使用したオリゴヌクレオチドは、必要な場合に制限分析によってpir42の処理を容易に示すためにClaI部位を作成したサイレント変異と共にpir42変異を含む。
【0208】
以下のセンス・オリゴヌクレオチド及びアンチセンス・オリゴヌクレオチドを使用した。
【0209】
センス・オリゴヌクレオチド番号11076(配列7)
5’-G TAT ATG GCG CTT GCT CTC ATC GAT AGC AAA GAA CC-3’
pir42 ClaI
アンチセンス・オリゴヌクレオチド番号11077(配列8)
5’-GG TTC TTT GCT ATC GAT GAG AGC AAG CGC CAT ATA C-3’
ClaI pir42
【0210】
Blumの技術(J.Bacteriol.1989,171,pp538-46)に基づいて、大腸菌pCOR宿主のゲノムTEX1中のpir116をpir116pir42と置換した。図13に示す組換えバクテリオファージpXL3723は、すべての非サプレッサー大腸菌株中で自殺ベクターである。これは、pXL3723がウイルス遺伝子の複製を防ぐM13ニッカーゼをコードする遺伝子IIにナンセンス変異を保有するためである。
【0211】
XAC-1pir116の構築(実施例1.2)に関する記載に基づいて二重組換えを実施した。二重相同的組換えイベントを経たクローンを、PCRを用いてスクリーニングし、ゲノムTEX1中のpir42変異の存在を試験した。二重組換え候補から単離された遺伝子DNAを、PCRのテンプレートとして使用した。次に、予測したサイズに一致したすべての特異的増幅フラグメントに対して配列決定を行った。このPCRフラグメントを図14に示す。
【0212】
PCRプライマーを以下に示す。
【0213】
プライマー11088(配列9):5’-GAGATCGCTGATGGTATCGG-3’
プライマー11089(配列10):5’-TCTACACCACGCCGAACACC-3’
【0214】
この分析によって、二重組換え実験を行った6クローンのうち1つで対立遺伝子の交換が行われたことが証明された。この新規の株TEX1pir42について、更に、そのpCORプラスミド複製能力を親株TEX1と比較して評価した。
【0215】
2)TEX1pir42の評価
pCORプラスミドをTEX1及びTEX1pir42に形質転換し、2mlの選択M9培地で一夜増殖した。その後、Wizard SV plus miniprepsキット(Promega)を使用してプラスミドDNAを抽出し、双方の株中の相対プラスミドコピー数及びpCORプラスミドのトポロジーを評価した。
【0216】
pCORプラスミドのpXL3516(2.56kb)で形質転換したTEX1pir42において、コピー数が2倍に増加した。TEX1pir42を更に特徴付けるために、小規模のプラスミドDNA(1株あたり4〜6クローン)を精製した後、アガロースゲル電気泳動分析によってアガロースpXL3179及びpXL2774などのpCORプラスミドのコピー数及びトポロジーを評価した。EcoRI制限酵素で直鎖化されたプラスミドについてコピー数を確認した。エチジウムブロマイドの非存在下で、非消化プラスミドのトポロジー試験を行った。アガロースゲル分析の結果を図15に示す。この結果から、TEX1pir42中で産生されたプラスミドpXL3179のコピー数が、TEX1株で産生されたプラスミドpXL3179のコピー数より多いことが明示される。図15はプラスミドpXL3179のトポロジーも示しており、増加したプラスミドコピーは、マルチマー形態も含むが、主要な形態はモノマー形態であることがわかる。これらのpCORプラスミドから得られた結果を表5にまとめる。相対コピー数は、TEX1中の同じプラスミドと比較して計算した。TEX1pir42中で産生されたプラスミドpXL3179及びpXL2774のコピー数が2〜3倍に増加したことが確認された。
【0217】
【表12】

【0218】
(実施例11)
比較実験:TEX1cop21(XAC-1 endA- traD- pir116cop21)の構築
1)TEX1cop21の構築
実施例10に記載のTEX1pir42の場合と同様にTEX1cop21株を構築した。有向変異誘導によってcop21をpir116遺伝子に導入するために、以下のオリゴヌクレオチドを使用した。
【0219】
センス・オリゴヌクレオチド:11153(配列11)
5’-CG CAA TTG TTA ACG TCC AGC TTA CGC TTA AGT AGC C-3’
cop21
アンチセンス・オリゴヌクレオチド:11154(配列12)
5’-G GCT ACT TAA GCG TAA GCT GGA CGT TAA CAA TTG CG-3’
【0220】
cop21変異に近傍するHindIII制限部位を排除するため、TCAセリンコドンの代わりにTCCセリンコドンとして導入した。
【0221】
有向変異誘導には、pXL3395(図13を参照)をテンプレートとして使用した。結果として得られたプラスミドpXL3432を使用し、図13に示すpir42の場合と同様の方法で自殺M13ベクターを構築した。自殺ベクターpXL3749を図16に示す。
【0222】
pXL3749を用いた相同的組換えの結果として得られた大腸菌クローンをPCRによってスクリーニングし、次にHindIIIで制限し、配列決定してcop21及びpir116変異を追跡した。二重組換え実験を行った6クローンのうちの1つで遺伝子置換が生じた。結果として得られた株をTEX1cop21とする。
【0223】
2)TEX1cop21の評価
2.5kb KmRのpCORベクター(実施例7.1参照)であるpCL2979を含む種々のpCORプラスミドによってTEX1cop21を形質転換し、増加したコピー数をゲル電気泳動によって試験した。pXL2979を用いた実験を図17に示す。Promegaミニプレップキットで処理した各菌株の4つの独立クローンのプラスミドDNAをEcoRIによって直鎖化し、アガロースゲルで電気泳動した後、エチジウムブロマイドで染色した。各サンプルを600nmの光学濃度で測定した結果、類似した細菌量を示した。大腸菌TEX1cop21、XAC1pir、及びTEX1中で産生されたpCORのプラスミドpXL2979に対するアガロースゲル電気泳動の結果を図17に示す。この結果から、プラスミドがTEX1cop21株中で産生される場合、TEX1株の場合と比較してプラスミドのコピー数が増加しないことが明らかとなる。
【0224】
(実施例12)
TEX2pir42(XAC-1pir116 pir42 recA-)の構築
先ず、TEX1のrecA-誘導体を構築した。その後、pir42変異を結果として得られた株TEX2に導入してTEX2pir42を産生した。
【0225】
A)TEX1のrecA-誘導体、大腸菌TEX2の構築
5’に3つの翻訳終了コドン(各フレームに1つ)を含む欠失recA遺伝子をPCRによって得る。この欠失recA遺伝子を遺伝子置換(Blumら,J.Bacteriol,1989,171,pp.538-46)によってTEX1のゲノムに導入する。相同的組換えに使用する自殺ベクターの構築を図18に示す。recAフラグメントの増幅に使用したPCRプライマーを以下の表6に示す。
【0226】
【表13】

下線はrecA配列に追加された制限部位を示す。
【0227】
相同的組換えに必須のRecA+フェノタイプの発生を維持するために、recAの機能は大腸菌TEX1に、例えば、細菌Agrobacterium radiobacterのrecA遺伝子及びアンピシリン耐性遺伝子のような抗生物質耐性遺伝子などの大腸菌recA変異を補足する非相同性のrecA遺伝子を含むプラスミドを与える。遺伝子を置換した後、非選択培地(LB)を希釈して組換え株からプラスミドを除去する。プラスミドの欠損を、抗生物質耐性の損失に関してスクリーニングする。
【0228】
結果として得られた菌株をTEX2とする。PCRによって観察された遺伝子置換を図19に示す。PCRプライマーを以下の表7に示す。
【0229】
【表14】

【0230】
第一のプライマーは、recA遺伝子の配列に基づく。第二のプライマーは、自殺ベクターpXL3457(5’の直後またはrecAの3’)にある相同領域に近傍するがその領域には含まれない配列に基づき、増幅が遺伝フラグメント上でのみ発生し得ることを保証する。両オリゴヌクレオチドの配列は、recA遺伝子座(Genbank:ECAE000354)を含む大腸菌の配列に従って選択した。
【0231】
recAが削除された菌株から得られたPCRフラグメントは、以下の表8に示すように、野生型の菌株から得られたフラグメントと比較して短い。
【0232】
【表15】

得られたPCRプロフィルは予想と一致し、TEX2のゲノム中にrecA切頂型遺伝子が存在することを示した。TEX2表現型の特徴と共に、recA-表現型の特徴(紫外線感性)を確認した。TEX2の表現型の特性は、予想どおりTEX1株の表現型特性、例えばara-、RifR、NalR、SpR、UidA-、Arg-、KmS、AmpSと同じであった。
【0233】
B)大腸菌TEX2pir42の構築
実施例10に記載の戦略に従って、TEX2pir42株を、二重相同組換えによって構築した。例外として、TEX2中の組換えは、相同組換えに必要なrecA+表現型を維持するために、大腸菌recA変異を補足する非相同性のrecA遺伝子を保有するプラスミドの存在下で実施した。
【0234】
遺伝子置換を、ClaI(図14参照)で消化したPCR産生物を制限分析することで検査した。試験した4つの二重組換えクローンのうち2つのクローンで遺伝子置換が発生した。
【0235】
C)大腸菌TEX2pir42の評価
1)実験室規模のプラスミド生産の評価
TEX2pir42をpCORプラスミドpXL3179(2.4kb)で形質転換した。実験室規模のTEX1pir42中のpXL3179の産生について、その安定性(世代数)に加えて、プラスミドのコピー数を増加させる再現性及び培養条件について集中的に試験した。すべての試験において、プラスミドのコピー数は同じ条件下のTEX1中のpXL3179産生と比較して2〜5倍に増加した。比較実験として、TEX2pir42、TEX1pir42、及びTEX1中のpXL3179産生についてもプラスミドのコピー数を評価した。この実験では、600nmの光学濃度に基づいてプラスミドを同一の細菌バイオマスから抽出し、アガロースゲル電気泳動によって分析した。このゲルは、電気泳動後、エチジウムブロマイドで染色した。図20に示すアガロースゲル電気泳動は、高コピー数のプラスミドがTEX2pir42中で産生されること、また好ましくはTEX1pir42ではなくTEX2pir42中で産生された場合に、プラスミドマルチマーが減少することを明示している。
【0236】
2)発酵槽中の評価
大規模の7リットル発酵槽中で得られた結果を以下に記載する。
【0237】
a)発酵槽の構築
接種培養物に対して使用した培地の組成:Na2HPO4 6g/l、KH2PO4 3g/l、NaCl 0.5g/l、NH4Cl 1g/l、NH4H2PO4 3g/l、ブドウ糖5g/l、MgSO4 7H2O 0.24g/l、CaCl2 2H2O 0.015g/l、チアミン HCl 0.010g/l
【0238】
バッチ仕込み培養物に対して使用した培地の組成:KH2PO4 8g/l、K2HPO4 6.3g/l、Na2HPO4 1.7g/l、NH4Cl 2.5g/l、ブドウ糖10g/l、MgSO4 7H2O 2.6g/l、チアミン0.010g/l、Biospumex36消泡剤0.1g/l、塩溶液(表9参照)2.5g/l
【0239】
【表16】

補充培地の組成は、ブドウ糖50%、マグネシウム0.7%、チアミン-HC1 1%、Biospumex36消泡剤である。
【0240】
b) 発酵パラメーター
3リットルのバッチ仕込み培地を含む7リットルの発酵槽を、1.2%の接種培養で食菌した。接種培養は以下のように生成した。2リットルフラスコに250mlの接種培地を入れ、大腸菌株TEX2pir42(pXL3179)の凍結細胞懸濁液0.25mlでインキュベートした。
【0241】
使用するフラスコは、37℃で24時間220rpmでインキュベートした。24時間後、異なるパラメータが測定された。残留ブドウ糖0g/l、OD600nmは2.7でpHは6.24であった。発酵中には、NH3によってpHを自動的に6.9から7.0の範囲にコントロールし調整した。温度を37℃に維持し、攪拌速度に対するフィードバックによって溶存酸素を空気中の飽和状態の40%にコントロールした。
【0242】
細菌株を約17時間初期バッチ培養し、炭素源(ブドウ糖)を消費した後、補充培地を添加した。ブドウ糖及び酸(ラクテート、アセテートなど)はゼロに近い濃縮度に維持した。
【0243】
c)結果
最適条件下で大腸菌TEX1(pXL3179)を用いた100リットル発酵槽での産生と比較して最終結果を表10に示す。
【0244】
XAC-1pir116の場合、TEX1で産生されたプラスミドpXL3179のコピー数に関して7リットル発酵槽と800リットル発酵槽との間に違いはなかった。
【0245】
7リットル発酵槽で大腸菌TEX2pir42を使用して産生されたプラスミドpXL3179と、100リットル発酵槽で大腸菌TEX1を使用して最適条件下で産生されたpXL3179とを比較した。XAC-1pir116に関して(実施例5.3参照)、7リットル発酵槽、100リットル発酵槽、または800リットル発酵槽でTEX1中のプラスミド生成率は安定していることが示された。
【0246】
【表17】

TEX1と比較して、TEX2pir42中の細菌あたりのプラスミドpXL3179のコピー数は3倍であった。
【0247】
異なる培養段階に対応するプラスミドを、600nmの光学濃度で同一の細菌バイオマスから抽出し、アガロースゲル電気泳動によって分析した。図21は発酵時間に基づくプラスミドのコピー数の増加を示している。また、図21はほとんど例外なくモノマー形態であるOp1328S5 TEX2pir42で産生されるpXL3179プラスミドのトポロジーを示している。
【0248】
結論として、本発明に基づく大腸菌の宿主菌株TEX2pir42は、pXL3179などのpCORプラスミドのコピー数を予想以上に向上させ、TEX2pir42の場合はTEX1と比較して2〜5倍に増加した。更に、プラスミドのコピー数が著しく増加した一方で、このように産生されたプラスミドは、実験室規模のみならず、工業生産に好適な大規模(7リットル発酵槽)においてもモノマートポロジーを示した。
【0249】
(実施例13)
新規の発光スクリーニング方法で識別される新規のpir116 多コピー変異
細菌宿主細胞においてpCORプラスミドのコピー数を増加させるために、発明者らはpir遺伝子の多コピー変異バージョンをコードする遺伝子pir116を変異誘発した。これまでのところ、pCORの実施例のようなR6Kに由来するプラスミドのコピー数を増加させる変異はすべて、pir遺伝子内で検出されている。
【0250】
PCRによるランダム変異誘発の後、変異した遺伝子pir116を、以下に記載するcobAリポーター遺伝子を含むpCORベクターに導入した。発光スクリーニングの後、選択された変異プラスミドのコピー数及びトポロジーを評価した。プラスミドのコピー数を増加させる遺伝子pir116の3つの異なる変異を獲得した。これらの新規の変異に関する記載の前例はない。
【0251】
従来の多コピー変異のスクリーニング法は、抗生物質耐性に基づいている。この方法において、宿主細菌の抗生物質耐性のレベルは、細胞内のプラスミドに配置される抗生物質耐性遺伝子のコピー数の機能となる。プラスミドのコピー数、及び従って、抗生物質耐性遺伝子が増加すると、抗生物質耐性のレベルも増加する。しかしながら、pir116変異を含む宿主細胞は、そのプラスミドの基底コピー数が極めて高いため(細胞あたり約400コピー)、それら宿主細胞が含むR6Kに由来するプラスミドには適用できない。従って、発光によってpir116遺伝子の多コピー変異を識別する新規のスクリーニング方法を開発した。
【0252】
この新規の方法は、cobA遺伝子をpCORベクターに導入して、プラスミドコピー数の増加をモニターする単純な手段を提供する。cobA遺伝子は、シュードモナス属脱窒菌から得た(Crouzetら,J.Bacteriol,172:5968-79(1990))。この遺伝子は、uroIIIメチルトランスフェラーゼ、2つのメチルグループをウロポルフィリノーゲンIII分子に追加するビタミンB12経路の酵素をコードする。大腸菌内で過剰発現すると、cobAは紫外線に触れて蛍光する赤色産生物の蓄積を生じる。紫外線に触れると、この遺伝子を過剰に発現している細菌コロニーはピンクから赤色に発色する。発明者らは、この遺伝子を試験して、pCOR系においてプラスミドのコピー数に対するリポーター遺伝子として作用できるかどうかを判断した。
【0253】
プラスミドのコピー数と紫外線に触れた形質転換細菌の蛍光レベルとの関係を評価するために、プロモーターを削除したcobAを含む対照プラスミド(pXL3767)を構築した。このプラスミドを、3つの異なる宿主菌株(XAC1pir、XAC1pir116及びTEX1pir42)に形質転換した。これらの菌株は、XAC1pir中のpCORプラスミドの平均コピー数が1であることを示した先行実験に基づいて選択した。この平均コピー数は、TEX1中では5〜10倍多く、またTEX1pir42中では15〜30倍多い。
【0254】
組換えコロニーを、最小培地M9に筋状に塗布し、図22に示すトランスイルミネーターで紫外線を照射した。このコロニーの蛍光強度は、プラスミドのコピー数と明らかに関連しており、XAC1pir116はXACpirよりも高い蛍光を示し、TEX1pir42はXAC1pir116よりも高い蛍光を示すことが観察された。
【0255】
図22は、この蛍光アッセイ方法によって、試験したプラスミドのコピー数、特にTEX1及びTEX1pir42菌株で検出されるプラスミドのコピー数を容易に区別できることを示している。即ち、この試験で観察される赤色の蛍光強度は、プラスミドpCOR-cobAのコピー数に従って増加する。
【0256】
蛍光とcobAのコピー数が明らかに関連していることが示されたことから、変異誘発されたpir116遺伝子を導入するプラスミドをスクリーニング用に構築した。図23に示すように、異なる構築モジュールの組合せをもつ4つのプラスミドを構築し、試験した。これらのプラスミドの1つは、pir116及びpir116pir42アイソジェニック株に形質転換されたときに、著しく異なるレベルの蛍光を示した。このプラスミドpXL3830の該当箇所を図24に示す。
【0257】
スクリーニング及び評価実験においてコントロールプラスミドを使用した。先ず、“野生型”pir116を含む基底レベルの対照プラスミドpXL3830を使用して、蛍光レベルの基底を設定した。次に、pXL3830と比較してプラスミドのコピー数を4〜6倍増加させる二重変異pir116-pir42を含むpXL3795を正の対照として使用した。
【0258】
Diversify PCRランダム変異誘発キット(BD Biosciences Clontech,Palo Alto,CA,USA)を使用して、pir116遺伝子上でランダム変異誘発を実施した。1000基本対あたり平均2つの変異を導入する条件1を使用した。“条件1”を使用した予備実験では、12の変異を配列決定することによって、pir116遺伝子中の実際の変異率が約2変異であったことを示した。このpir116遺伝子を、EcoRI-SstIとしてオリゴヌクレオチドC8832(5-CTTAACGGCTGACATGGGAATTC-3’)(配列23)及びC8833(5’-CGATGGGCGAGCTCCACCG-3’)(配列24)で増幅した。EcoRI及びSstIを用いて消化した後、pir116を含む変異誘発されたフラグメントを、“野生型”pir116遺伝子の代わりにpXL3830にクローニングする。
【0259】
変異誘発されたpir116(“pir116*”)を保有するプラスミドを、pCOR宿主XAC1pir116の親株である大腸菌株XAC-1に形質転換した。形質転換体について、紫外線を受けて増加した蛍光発光をスクリーニングし、対照XAC1(pXL3830)及びXAC1(pXL3795)と比較した。二次的な変異を最小化するため、二重プレートには紫外線を照射しなかった。紫外線を照射した代表的なスクリーニングプレートを図25に示す。
【0260】
スクリーニング実験の結果を以下のフローチャートにまとめる。
【0261】
リポーター遺伝子cobAを含むpCORプラスミド上のpir(蛋白質pi)におけるランダム変異誘発

2200クローンを試験

24候補

そのうち16クローンについて、そのプラスミドコピー数、トポロジー、pir*(ゲル)の配列を確認及び評価

更に研究を進めるための上位3クローンを選択
【0262】
選択した3つの変異体の評価を図26にまとめる。各変異体は、pir116プラスミドと比較して、コピー数の増加を示した。114C変異及び100B変異の場合、プラスミドは基本的にモノマー形態であった。これは、201C変異のように高いコピー数とマルチマー含有をもつpir116pir42プラスミドに比べて有利である。
【0263】
各変異体のpir116*遺伝子を配列決定する。各クローンは、単一の非アイソコダント変異をpir116ORFに含む。3つの変異はすべて、DNA結合に関与する蛋白質piのC末端に影響する。これらの変異について記載された前例はない。
【0264】
これらの変異をプラスミド系のスクリーニングによって検出した後、製造システム、即ち、pir116*遺伝子が大腸菌pCOR宿主菌株のゲノムに導入される処を評価した。この評価方法を図27に示す。
【0265】
この評価のために、図26に示す変異を包含する3つの大腸菌株のそれぞれにプラスミドpXL3179を形質転換し、プラスミドのコピー数及びトポロジーを評価した。これらの実験結果を図28に示す。プラスミドのコピー数は、201C変異に特有のXAC1pir116と比べて著しく増加したことが観察された。
【0266】
(実施例14)
大腸菌中の相同組換えによる組込みに用いる小円M13遺伝子III
1. 自殺ベクター
大腸菌中の二重相同組換えによる遺伝子置換には自殺ベクターを使用する必要がある。これらのベクターは独自に複製可能な宿主中で構築及び産生され、その後独自に複製できない宿主のクロモソームへの組換えに使用される。
【0267】
バクテリオファージM13はrep変異(Metcalf,W、W. Jiangら,Gene 138:1-7(1994))、またはM13のmp8から11が使用される場合に(Blum, P.ら,J Bacteriol.,171:538-46(1989))大腸菌の非サプレッサー株で使用できる非常に有用な遺伝子ツールである。
【0268】
構築、挿入サイズ、及び不安定度に関する一定の制限がしばしば問題となる。R6KガンマのDNA複製起点を保有するプラスミドは、自殺ベクター(Miller, V.&J. Mekalanos,J Bacteriol.,170:2575-83(1988))として周知されているが、このようなプラスミドを複製可能にする蛋白質piを発現する大腸菌株を修飾するには有用でない。
【0269】
一般的な自殺ベクターを、新規な対抗選択マーカーで製造し、pir116遺伝子(pir116*)が相同的組換えによって細菌のゲノムに挿入される大腸菌株の構築に使用した。本明細書に記載する方法は114C変異に対する方法であるが、他のpir116*変異を保有する株の産生にも使用されている。
【0270】
2. 対抗選択マーカー
異なるマーカーを使用して、第二の組換えイベントを生じている細菌を選択した。このイベントによって、このマーカーは喪失し、クロモソームと自殺ベクターとの組換え後に遺伝子置換が行われることもある。例えば、BacillusのSacB遺伝子は、遺伝子を発現する細菌をスクロースを含む培地で培養する場合に致死である(Ried, J.L.&A. Collmer,Gene 57:239-46(1987))。別の実施例としては、テトラサイクリン耐性遺伝子はフザリン酸に対する感性を与える(Bochner, B.R.ら,J Bacteriol.,143(2):926-3(1980))。バクテリオファージM13による感染は、洗浄デオキシコールに対する感性を与える(Blum, P.ら,J Bacteriol.,171:538-46(1989))。
【0271】
いくつかの大腸菌株は効率性に欠けていたため、二重組換えの肯定的な選択方法を開発した。バクテリオファージM13の遺伝子IIIを対抗選択マーカーとして評価した。この遺伝子は、粒子の感染価に重要なマイナーバイロン構成要素をコードする。複数コピーのプラスミドpBR32から過剰発現した場合、遺伝子IIIはその蛋白質を細菌の細胞質膜に挿入するため、細胞にデオキシコール感性を与える(Boeke, J.D.ら,Mol Gen Genet 186:185-92(1982))。この遺伝子が大腸菌のゲノム中の単一コピーとして存在する場合に、この遺伝子を有効な対抗選択マーカーとして使用し得ることを示した報告はない。このため、この仮説を小環自殺ベクターで試験した。
【0272】
3. M13遺伝子IIIの欠失型PCRによる増幅
構築する小環ベクターのサイズを短縮するために、依然としてデオキシコールに対する感性を与える(Boeke, J.D.ら,Mol Gen Genet 186:185-92(1982))欠失型遺伝子III(遺伝子III’)を選択した。M13mp18独自のプロモーター(Yanisch-Perron, C.J. Vieiraら,Gene 33:103-19(1985))をBglII-XhoIフラグメントとして使用して、PCRで増幅した(図29参照)。
【0273】
オリゴヌクレオチドを以下に示す。
【0274】
C19519:5’-GGCAGATCTTAAACCGATACAATTAAAGG-3’(配列25)
BglII
C19520:5’-CCGCTCGAGTTACGATTGGCCTTGATATTCACAAAC-3’(配列26)
XhoI
【0275】
増幅フラグメントを、pGEMT-easyへのT-Aクローニングによって複製し(Promega社,Madison,WI,USA)、pXL4230(図29)を生成した。挿入物のヌクレオチド配列は、アクセス番号VB0018としてGenBankに記載されている配列と一致することが判明した。PXL4230は、大腸菌株DH10B(Invitrogen)中で形質転換された場合に、予想どおりの機能を示してデオキシコールに対する感性を与える。
【0276】
4. 小環自殺ベクター
この自殺ベクターは複製起点を含まないため、小環プラスミドを一般的な自殺ベクターとして使用し得る。このため、カナマイシン耐性遺伝子などの選択マーカーを追加して、第一相同的組換えイベントを選択しなければならない。第二の組換えイベントを生じなかった細菌に対する対抗を選択するために、遺伝子III’を小環ベクターに追加した。組換え用の小環を生成するために使用したプラスミドの構築を図29に示す。プラスミド上でattPとattBを組換える細菌のラムダインテグラーゼを挿入した後、pXL4235のようなプラスミドから小環を生成する(Darquet, A.M.ら,Gene Ther 4(12):1341-9(1997))。この組換えは米国特許出願09/981,803に記載の大腸菌株G6264中で、アラビノース依存様態のPBAD制御下で発現する。結果として得られた小環は、attL、精製配列を形成するTH(三重らせん)、選択マーカーTn903カナマイシン耐性遺伝子、対抗選択マーカー遺伝子III’、及びpXL4235の複数クローニング部位で複製された相同的組換えに重要なフラグメントを含む(図29)。
【0277】
例えば、pir116の多コピー変異を発現する大腸菌株の生成に使用する組成を図30に示す。これらの株を使用して、pCORプラスミドを産生できる(Soubrier, Fら,Gene Ther 6:1482-1488(1999))。pirと細菌のゲノムとの間に相同性がないため、pir116*配列をβ-D-グルクロニダーゼをコードする大腸菌の染色体uidA遺伝子に挿入した。この遺伝子は、相同的組換えの発生に必要な大腸菌のゲノムとの十分な配列類似性を提供する。
【0278】
小環の精製及び組換えの手順を以下に示す。プラスミドpXL4256(図30)を大腸菌株G6264中で形質転換し、G6656を生成した。アンピシリン(100mg/l)を補充した50mlのLB培地を、0.5mlのG6656一夜培養物で食菌し、37℃の温度で、600nmでの光学強度が0.7に到達するまで200rpmで遠心した。小環生成物を、10%のアラビノースを含む250μlの滅菌溶液を培地に追加して食菌した。37℃で200rpmで30分間遠心した後、すべてのプラスミドDNAをWizard Plus Midipreps DNA精製システム(Promega社,Madison WI,USA)を用いて抽出した。
【0279】
6μgのプラスミドDNA生成物を0.8%のアガロース分取ゲルにロードした。超コイルDNAラダー(Promega社,Madison WI,USA)を分子量基準として使用した。50Vで一夜電気泳動した後、超コイル型の小環構築物(5.1kb)を抽出し、SVゲル精製キット(Promega社,Madison WI,USA)を使用して精製した。
【0280】
5. 小環4256(uidA::pir116*小環自殺ベクター)を用いた二重相同的組換え
菌株を構築する組換え段階及び対応する表現型を図31に示す。
【0281】
第一の組換えイベント(組込み)の場合、0.2、1及び5μlの精製した小環 4256を、pCOR宿主の親株である大腸菌株XAC-1(Normanly, Jら,Proc Natl Acad Sci USA 83:6548-52(1986))中で電気泳動した。37℃で一夜インキュベートした後、カナマイシン(50mg/l)を補充したLB寒天培地上にカナマイシン耐性コロニーが発生した。
【0282】
汚染された非組換えpXL4256を含む可能性のあるコロニー数を確認するため、カナマイシンまたはアンピシリンを補充したLB寒天培地上において、50のKmRコロニーを平行な筋状に塗布した。50コロニーのうち4コロニーのみがカナマイシン及びアンピリシンに対する耐性を有し、プラスミド制限分析によって非組換えpXL4256を含むことが判明した。これは、電気泳動によって得られた50コロニーのうち46コロニーが、実際に小環4256構成要素であったことを示した。
【0283】
第二の組換えイベント(切除)の場合、46のKmR構成要素をすべて、新たに用意した1.5%のデオキシコール酸ナトリウム(“Doc”,Sigma)を含むLB寒天プレート上に単離し、37℃で一夜インキュベートした。図32に示すように、各構成要素に対して少数のデオキシコール耐性(DocR)コロニー(1〜15)が得られた。この結果は、第二の組換えイベントのような比較的希なイベントの選択と一致する。1.5%のDocをもつLB寒天培地及びカナマイシンを補充したLB寒天培地上において、15の構成要素から得た100のDocRコロニーを平行な筋状に塗布して、DocR及びKmSの二重組換えをスクリーニングした。スクリーニングしたコロニーの86%はKmSであり、それらは自殺ベクターを喪失していた。
【0284】
対立遺伝子の置換をスクリーニングするために、染色体uidAの遺伝子座をPCRを用いて増幅した。対立遺伝子の置換が発生した場合、予想されるPCRフラグメントのサイズは1.3kbである。野生型uidA遺伝子座に対応するフラグメントのサイズは、即ち、組込まれたpir116*変異を含まない場合、0.85kbとなる。図33のパネルAに示す結果は、二重組換えの30%で対立遺伝子の置換が発生したことを示している。これらのクローンはUidA-(βグルクロニダーゼ-)であり、Xglucを補充したLB寒天培地上で白色コロニーを生じるため、表現型分析によって確認した。
【0285】
2つの独立組換えに関して、相同的組換えの部位に近隣する領域における細菌ゲノムの完全性をPCRで確認した。第一プライマー(seq6113またはseq6115)はpir遺伝子の配列に基づき、第二プライマー(seq6112またはseq6116)は相同的領域(5’の直後またはuidAの3’)に近隣するがその領域には含まれない配列に基づく。XAC1のDNAを負の対照として、またXAC1pir116またはTEX1(Soubrier, F.ら,Gene Ther 6:1482-1488(1999))を正の対照として使用した。
【0286】
PCRプライマーとして使用したオリゴヌクレオチドを以下に示す。
【0287】
Seq11088:5’-GAGATCGCTGATGGTATCGG-3’(配列27)
Seq11089:5’-TCTACACCACGCCGAACACC-3’(配列28)
Seq6112:5’-GACCAGTATTATTATCTTAATGAG-3’(配列29)
Seq6113:5’-GTATTTAATGAAACCGTACCTCCC-3’(配列30)
Seq6115:5’-CTCTTTTAATTGTCGATAAGCAAG-3’ (配列31)
Seq6116:5’-GCGACGTCACCGAGGCTGTAGCCG-3’ (配列32)
【0288】
PCR生成物のサイズは、プライマーseq6112及びseq6113を使用する場合は0.83kb、プライマーseq 6114及びseq 6115を使用する場合は0.88kbとなることが予想される。結果を図33のパネルBに示す。小環自殺ベクターを用いて得られる2つの二重組換え型は、予想と一致するPCRプロファイルを示した。大腸菌中の小環プラスミドを自殺ベクター、M13の遺伝子III’を対抗する選択マーカーとして使用することで、二重の相同的組換えが容易に得られることを実証している。この遺伝子置換技術は、任意の微生物の遺伝的背景において直接的及び例外なく実施することができる。
【0289】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
pi蛋白質をコードする非相同性のpir遺伝子と、非相同性の治療用遺伝子及び条件複製起点を含有する染色体外DNA分子とを含む原核生物組換え体の宿主細胞であって、
原核生物組換え体の宿主細胞中での前記条件複製起点の機能にはpi蛋白質が必要であり、非相同性のpir遺伝子はpir116変異に加えて少なくとも1つの変異を含み、
但し、前記更なる変異が、pi蛋白質の130位をバリンとする変異、pi蛋白質の292位をメチオニンとする変異またはpi蛋白質の117位をグリシンとする変異ではない、前記原核生物組換え体の宿主細胞。
【請求項2】
pi蛋白質のロイシンジッパー様モチーフをコードするpir遺伝子の部位において、更なる変異が存在する、請求項1の原核生物組換え体の宿主細胞。
【請求項3】
DNA結合部位における変異がpir42変異である、請求項2の原核生物組換え体の宿主細胞。
【請求項4】
前記複製開始蛋白質が配列番号21に示された配列によりコードされる、請求項3に記載の原核生物組換え体の宿主細胞。
【請求項5】
pi蛋白質のDNA結合部位をコードするpir遺伝子の部位において、更なる変異が存在する、請求項1の原核生物組換え体の宿主細胞。
【請求項6】
前記非相同性pir遺伝子がプラスミドに存在する、請求項1から5のいずれか1項に記載の原核生物組換え体の宿主細胞。
【請求項7】
前記非相同性pir遺伝子が前記宿主細胞のゲノムに存在する、請求項1から5のいずれか1項に記載の原核生物組換え体の宿主細胞。
【請求項8】
前記条件複製起点が細菌プラスミドまたはバクテリオファージ由来である、請求項1から7のいずれか1項に記載の原核生物組換え体の宿主細胞。
【請求項9】
前記条件複製起点がR2K、R6K、R1、pSC101、Rts1、F、RSF1010、P1、P4、ラムダ、ファイ82またはファイ80由来である、請求項8に記載の原核生物組換え体の宿主細胞。
【請求項10】
前記条件複製起点が細菌プラスミドR6K由来である、請求項9に記載の原核生物組換え体の宿主細胞。
【請求項11】
前記条件複製起点が配列番号1の核酸配列を含む、請求項10に記載の原核生物組換え体の宿主細胞。
【請求項12】
前記プラスミドがさらに抗生物質に耐性を与えない選択的遺伝子を含む、請求項8から11のいずれか1項に記載の原核生物組換え体の宿主細胞。
【請求項13】
前記選択的遺伝子が特定のコドンに対するサプレッサーtRNAをコードする、請求項12に記載の原核生物組換え体の宿主細胞。
【請求項14】
前記宿主細胞がendA遺伝子欠損型である、請求項1から13のいずれか1項に記載の原核生物組換え体の宿主細胞。
【請求項15】
前記宿主細胞がtraD遺伝子欠損型である、請求項1から14のいずれか1項に記載の原核生物組換え体の宿主細胞。
【請求項16】
前記宿主細胞がさらに変異recA遺伝子含む、請求項1から15のいずれか1項に記載の原核生物組換え体の宿主細胞。
【請求項17】
前記宿主細胞は、Collection Nationale De Cultures de Micro−organismes(CNCM)にアクセス番号I−3109として寄託されている株である、請求項1に記載の原核生物組換え体の宿主細胞。
【請求項18】
非相同性の治療用遺伝子と条件複製起点とを含むプラスミドを産生する方法であって、
原核生物の宿主細胞中での該条件複製起点の機能には前記宿主細胞に外来の複製開始蛋白質が必要であり、
(a)プラスミドが産生される条件下において、請求項1から17のいずれか1項に記載の原核生物組換え体の宿主細胞を培養すること;および
(b)プラスミドを分離すること、
を含む前記プラスミドを産生する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12.1】
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【図12.2】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18.1】
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【図18.2】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33A】
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【図33B】
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【公開番号】特開2010−57493(P2010−57493A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−243117(P2009−243117)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【分割の表示】特願2004−543780(P2004−543780)の分割
【原出願日】平成15年10月14日(2003.10.14)
【出願人】(305011824)サントリオン (6)
【Fターム(参考)】