説明

杭の水平載荷試験方法

【課題】1回の静的水平載荷試験により杭の水平抵抗のばらつきを求める杭の水平載荷試験方法を提供する。
【解決手段】1本の試験杭と、試験杭と同種のn(nは1以上の整数)本の反力杭を施工し、試験杭に荷重を水平方向に加え、試験杭の変位量を測定し、反力杭の変位量を測定し、試験杭の荷重−変位量曲線を作成し、反力杭の荷重−変位量曲線を作成し、試験杭の荷重−変位量曲線と、反力杭の荷重−変位量曲線とを比較することにより杭の水平抵抗のばらつきを評価することを特徴とする杭の水平載荷試験方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭の水平抵抗のばらつきを測定する水平載荷試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
杭の水平載荷試験は、施工現場において、杭の水平抵抗に関する各種のデータを得ることを目的として行われる。そして、水平載荷試験には静的水平載荷試験(例えば、特許文献1)と動的水平載荷試験がある。一般に静的水平載荷試験の方が精度の高いデータを取得できるとされている。
【0003】
もっとも、静的水平載荷試験は、1本の試験杭で行われる動的水平載荷試験と異なり、複数本の反力杭を必要とする。このため、比較的、試験費が高く、かつ、試験準備にも時間がかかる。したがって、複数回の静的水平載荷試験を行って、杭の水平抵抗のばらつきを取得することは、経費や工期の関係から、実質的には困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−315611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、その目的とするところは、1回の静的水平載荷試験により杭の水平抵抗のばらつきを求める杭の水平載荷試験方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の杭の水平載荷試験方法は、1本の試験杭と、前記試験杭と同種のn(nは1以上の整数)本の反力杭を施工し、前記試験杭に荷重を水平方向に加え、前記試験杭の変位量を測定し、前記反力杭の変位量を測定し、前記試験杭の荷重−変位量曲線を作成し、前記反力杭の荷重−変位量曲線を作成し、前記試験杭の荷重−変位量曲線と、前記反力杭の荷重−変位量曲線とを比較することにより杭の水平抵抗のばらつきを評価することが望ましい。
【0007】
上記態様の杭の水平載荷試験方法において、前記反力杭の荷重−変位量曲線は、前記n(nは2以上の整数)本の反力杭の変位量の平均値を算出し作成することが望ましい。
【0008】
上記態様の杭の水平載荷試験方法において、前記反力杭の荷重−変位量曲線は、前記n(nは2以上の整数)本の反力杭の変位量の総和を算出し作成することが望ましい。
【0009】
上記態様の杭の水平載荷試験方法において、前記反力杭の荷重−変位量曲線は、1本の前記反力杭にかかる荷重を、前記試験杭にかかる荷重の1/nとみなして算出し作成することが望ましい。
【0010】
上記態様の杭の水平載荷試験方法において、前記反力杭の荷重−変位量曲線は、前記n本の反力杭のそれぞれについて傾斜角θ(1≦i≦n)を測定し、前記試験杭にかかる荷重をPとする場合に、i番目の前記反力杭にかかる荷重PをP=P×θ/Σθ(i=1〜n)として算出し作成することが望ましい。
【0011】
上記態様の杭の水平載荷試験方法において、前記試験杭および前記反力杭の各々に荷重計が設けられることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、1回の静的水平載荷試験により杭の水平抵抗のばらつきを求める杭の水平載荷試験方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の実施の形態の杭の水平載荷試験方法に用いる水平載荷試験装置の平面図である。
【図2】第1の実施の形態の杭の水平載荷試験方法に用いる水平載荷試験装置の立面図である。
【図3】第5の実施の形態の杭の水平載荷試験方法に用いる水平載荷試験装置の平面図である。
【図4】第5の実施の形態の杭の水平載荷試験方法に用いる水平載荷試験装置の立面図である。
【図5】実施例1の荷重−変位量曲線である。
【図6】実施例2の荷重−変位量曲線である。
【図7】実施例3の荷重−変位量曲線である。
【図8】実施例4の荷重−変位量曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。なお、本明細書中、杭の水平抵抗とは、杭自身の抵抗と地盤抵抗の双方を成分として含む抵抗を意味する。
【0015】
(第1の実施の形態)
本実施の形態の杭の水平載荷試験方法は、1本の試験杭と、この試験杭と同種のn(nは1以上の整数)本の反力杭を施工し、試験杭に荷重を水平方向に加え、試験杭の変位量を測定し、反力杭の変位量を測定し、試験杭の荷重−変位量曲線を作成し、反力杭の荷重−変位量曲線を作成し、試験杭の荷重−変位量曲線と、反力杭の荷重−変位量曲線とを比較することにより杭の水平抵抗のばらつきを評価する。そして、反力杭の荷重−変位量曲線は、n(nは2以上の整数)本の反力杭の変位量の平均値を算出し、かつ、1本の反力杭にかかる荷重を試験杭にかかる荷重の1/nとみなして算出し作成する。
【0016】
図1は、本実施の形態の杭の水平載荷試験方法で用いられる水平載荷試験装置を模式的に示す平面図である。図2は、図1の水平載荷試験装置の立面図である。本実施の形態では、交番試験により杭の水平抵抗を測定する場合を例に説明する。
【0017】
水平載荷試験装置10は、1本の試験杭12と、2本の反力杭14a、14bを備えている。そして、反力杭14a、14bの配置が試験杭12に対して直列となっている。そして、交番試験を行うために仮設枠体16が設けられている。また、加力(載荷)のための2つのジャッキ18a、18bを備えている。さらに、不動梁(基準梁)20a、20b、20c、変位計22a、22b、22c、ロードセル24a、24bを備えている。
【0018】
試験杭12は、例えば、コンクリート杭または鋼管杭である。また、2本の反力杭14a、14bは試験杭12と同種の杭である。すなわち、材質、杭径、施工等が同じ杭である。ここで、同種とは、工学的に同じとみなせるという意味である。例えば、杭長または杭厚が試験杭と反力杭で異なっていたとしても、水平載荷試験において工学的に試験杭と反力杭が同じとみなせるのであれば同種の杭であるとする。
【0019】
試験杭12と反力杭14a、14bには、加力装置であるジャッキ18a、18bから仮設枠体16を介して水平載荷試験をすることができる。この仮設枠体16は、試験杭12と反力杭14a、14bのひずみおよびたわみに比べ無視できる剛性があるように設計されており、例えばH型鋼16a、PC鋼棒16b等で構成される。
【0020】
杭に作用する主な水平荷重は、土圧や水圧のような定時の一方向水平荷重と地震のような短期の交番水平荷重である。特に、近年は地震による基礎の被害報告も多く、杭基礎についても耐震設計のために交番の水平載荷試験を行うことが望ましい。
【0021】
本実施の形態の水平載荷試験装置10は、2つのジャッキ18a、18bを用いることにより、交番水平載荷試験ができるよう構成されている。そして、ロードセル24a、24bにより試験杭12にかかる荷重の計測が行われる。なお、荷重の計測はロードセルに限らず、圧力変換器等、公知の計測装置を用いることが可能である。
【0022】
試験杭12の加力(載荷)点は、杭に局部的な破壊や変形が生じないよう適当な補強を施し、載荷点の高さは、杭が実際に荷重を受ける状態に最も近い位置にすることが望ましい。
【0023】
変位計22aは、不動梁20aに取り付けられ、試験杭12の加力点高さの水平変位量を測定する。また、変位計22bと22cは、それぞれ、不動梁20bと20cに取り付けられ、反力杭14aと14bの加力点高さの水平変位量を測定する。変位計22a、22b、22cとしては、例えば直読式ダイアルゲージ、電気式変位計等、公知の変位計を用いることが可能である。
【0024】
不動梁20a、20b、20cは、基準点の間隔に応じた十分な剛性を有するものであり、外気温の影響を受けにくいように支持される。
【0025】
水平載荷試験には、単純に荷重を段階的に増加させて計画最大荷重まで載荷して終了するもの(一サイクル方式)と、各段階または数段階ごとに減荷して0に荷重を戻す手順を繰り返しながら計画載荷荷重を増大させて計画最大載荷荷重に達するもの(多サイクル方式)とがある。
【0026】
以下、本実施の形態の杭の水平載荷試験方法の具体的手順について説明する。ここでは多サイクル方式を例に説明する。
【0027】
まず、1本の試験杭と、試験杭と同種の2本の反力杭を施工し、図1、図2に示すような水平載荷試験装置を準備する。
【0028】
次に、ジャッキ18aが無い状態で、ジャッキ18bを用いて荷重を計画載荷荷重まで段階的に増加させ水平載荷する。これにより試験杭12は紙面左方向に変位し、反力杭14aと14bは紙面右方向に変位する。この時、試験杭12に加えられる荷重はロードセル24bでモニタされる。
【0029】
その後、段階的に減荷して0に荷重を戻し、ジャッキ18bをとりはずしてジャッキ18aを装着する。そして、ジャッキ18aを用いて荷重を計画載荷荷重まで段階的に増加させて水平載荷する。これにより、試験杭12は紙面右方向に変位し、反力杭14aと14bは紙面左方向に変位する。この時、試験杭12に加えられる荷重はロードセル24aでモニタされる。その後、段階的に減荷して0に荷重を戻す。
【0030】
上記手順を1サイクルとし、このサイクルを繰り返しながらサイクル毎に計画載荷荷重を増大させ、計画最大載荷荷重(あるいは計画最大変位)に達するまで水平載荷を行う。この間、試験杭12の各段階の荷重に対する変位量を変位計22aで測定する。また、反力杭14aと14bの各段階の荷重に対する変位量を、それぞれ変位計22bと22cで測定する。
【0031】
その後、試験杭12について得られた荷重の測定値と変位量の測定値から荷重−変位量曲線を作成する。荷重−変位量曲線を作成する際、各段階で先の段階で加えられた荷重を超える荷重(新規荷重または処女荷重)に対する測定値のみを用いることが望ましい。後に、反力杭14aと14bの荷重−変位量曲線との比較が容易になるからである。
【0032】
次に、試験杭12と同様に、反力杭14aと14bについて得られた変位量の測定値から荷重−変位量曲線を作成する。荷重−変位量曲線を作成する際、各段階で先の段階で加えられた荷重を超える荷重(新規荷重または処女荷重)に対する測定値のみを用いることが望ましい点についても試験杭12の場合と同様である。
【0033】
反力杭がn本ある場合、試験杭にかかる荷重をPtとすると、1本の反力杭にかかる荷重は、おおよそ等分に配分され、Pt/nとみなすことができる。図1、図2のようにn=2の場合を例に以下記述する。
【0034】
反力杭についての荷重−変位量曲線を作成する際、試験杭12にかかる荷重Ptの時の変位計22bと22cの測定値の平均値を、荷重Pt/nに対してプロットする。これにより、2本の反力杭に対し、1本の荷重−変位量曲線が作成されることになる。
【0035】
以上のように作成された試験杭の荷重−変位量曲線と、反力杭の荷重−変位量曲線とを比較することにより杭の水平抵抗のばらつきを評価する。ここで、試験杭12、反力杭14a、反力杭14bは、同種の杭であるため、試験杭の荷重−変位量曲線と、反力杭の荷重−変位量曲線とが原則的に一致するはずである。
【0036】
したがって、試験杭の荷重−変位量曲線と、反力杭の荷重−変位量曲線とで不一致が見られる場合には、杭の水平抵抗がばらついていると判断できる。言い換えれば、杭自身の抵抗と地盤抵抗のいずれかまたは双方がばらついていると判断できる。
【0037】
本実施の形態の水平載荷試験方法によれば、反力杭の荷重−変位量曲線を作成する際に、荷重および変位量について平均値を用いる。これにより、弾性変形領域のみならず、塑性変形領域においても試験杭と反力杭の比較が可能となる。
【0038】
また、例えば、試験杭のみに歪みゲージを保護するための保護材が設けられるような試験をする場合には、この保護材の影響が不一致の要因として見える可能性もありうる。
【0039】
また、例えば本実施の形態のような交番水平載荷試験において、試験杭の荷重−変位量曲線と、反力杭の荷重−変位量曲線のいずれかに荷重載荷方向に関して変位量の非対称性が見受けられるような場合があり得る。このような場合、非対称性の要因として、その杭と荷重載荷方向に隣接する杭との杭間距離の非対称性が要因とも考えられる。したがって、本実施の形態によれば、荷重−変位量曲線の非対称性と、杭間距離の非対称性とを対応させて評価することにより杭間距離の影響を評価することも可能となる。
【0040】
このように、本実施の形態によれば、1回の静的水平載荷試験により杭の水平抵抗のばらつきを容易に求めることが可能となる。
【0041】
(第2の実施の形態)
本実施の形態の杭の水平載荷試験方法は、反力杭の荷重−変位量曲線の作成において、n(nは2以上の整数)本の反力杭の変位量の総和を算出する。そして、反力杭に加えられる荷重の総和は試験杭に加えられる荷重に等しいとみなし、この試験杭の荷重に対して反力杭の変位量の総和をプロットして作成する。この点以外は第1の実施の形態と同様である。したがって、第1の実施の形態と重複する内容については記載を省略する。
【0042】
反力杭の荷重−変位量曲線は、図1および図2の場合、2本の反力杭14aと14bの変位量の総和を算出し作成する。すなわち、2本の反力杭14aと14bについて、試験杭に荷重Ptがかかっている場合の変位量がそれぞれDa、Dbとすると、反力杭の荷重−変位量曲線を作成する際に、荷重Ptに対する変位量としてDa+Dbをプロットする。同様に、試験杭に荷重Ptがかかっている場合の変位量がそれぞれDa、Dbとすると、反力杭の荷重−変位量曲線を作成する際に、荷重Ptに対する変位量としてDa+Dbをプロットする。これにより、2本の反力杭に対し、1本の荷重−変位量曲線が作成されることになる。
【0043】
載荷荷重が弾性変形領域を超え、塑性変形領域に入ると、すべての荷重が1本にかかる試験杭と、荷重が2本に分散される反力杭とで変形量のふるまいが異なってくる。このため、試験杭の荷重−変位量曲線と、2本の反力杭の変位量の総和で求められる荷重−変位量曲線との不一致が生ずる場合がある。
【0044】
したがって、本実施の形態の場合、杭の水平抵抗のばらつきを求める場合、載荷荷重が小さく杭の塑性変形量の少ない、弾性変形領域で試験杭の荷重−変位量曲線と、反力杭の荷重−変位量曲線とを比較することが望ましい。例えば、試験杭の荷重−変位量曲線の変位量0(ゼロ)における接線の傾斜と、反力杭の荷重−変位量曲線の変位量0における接線の傾斜とを比較することで、弾性変形領域での比較を簡易に行うことが可能である。この傾斜の差が大きいと、杭の水平抵抗のばらつきが大きいと判断できる。
【0045】
そして、荷重の小さな領域で試験杭の荷重−変位量曲線と反力杭の荷重−変位量曲線とが一致し、荷重の大きな領域で乖離が見られる場合には、乖離の生ずる領域が塑性変形領域と判断することができる。このように、本実施の形態によれば、弾性変形領域と塑性変形領域との境界を判断することが可能になる。
【0046】
(第3の実施の形態)
本実施の形態の杭の水平載荷試験方法は、反力杭の荷重−変位量曲線の作成において、反力杭ごとに荷重−変位量曲線を作成すること以外は第1の実施の形態と同様である。したがって、第1の実施の形態と重複する内容については記載を省略する。すなわち、反力杭の荷重−変位量曲線を作成する際、1本の反力杭にかかる荷重を試験杭にかかる荷重の1/nとみなし、この荷重に対し各反力杭の変位量をプロットする。
【0047】
上述のように、反力杭がn本ある場合、試験杭にかかる荷重をPtとすると、1本の反力杭にかかる荷重は、おおよそ等分に配分され、Pt/nとみなすことができる。図1、図2のようにn=2の場合を例に以下記述する。
【0048】
反力杭14aについて荷重−変位量曲線を作成する際、試験杭12にかかる荷重Ptの時の変位計22bの測定値を、荷重Pt/nに対してプロットする。同様に、反力杭14bについて荷重−変位量曲線を作成する際、試験杭12にかかる荷重Ptの時の変位計22cの測定値を、荷重Pt/nに対してプロットする。このようにして、反力杭について2本の荷重−変位量曲線が作成される。
【0049】
試験杭12については、第1の実施の形態と同様の方法で荷重−変位量曲線を作成する。そして、試験杭12の荷重−変位量曲線と、反力杭14a、14bそれぞれの荷重−変位量曲線を比較する。反力杭の荷重−変位量曲線のうちのどちらかまたは双方が、試験杭12の荷重−変位量曲線と一致しない場合、杭の水平抵抗がばらついていると判断される。
【0050】
本実施の形態の水平載荷試験方法によれば、1本の反力杭にかかる荷重を、試験杭にかかる荷重の1/nとみなすことで、各反力杭について、独立に荷重−変位量曲線を作成することが可能である。したがって、例えば、n本の反力杭に設けられたn個の変位計のうちの1個が故障したような場合でも、他の反力杭の荷重−変位量曲線を用いて、杭の水平抵抗のばらつきを評価することが可能である。
【0051】
(第4の実施の形態)
本実施の形態の杭の水平載荷試験方法は、反力杭の荷重−変位量曲線の作成において、n本の反力杭のそれぞれについて傾斜角θ(1≦i≦n)を測定し、試験杭にかかる荷重をPとする場合に、i番目の反力杭にかかる荷重PをP=P×θ/Σθ(i=1〜n)として算出し作成すること以外は第3の実施の形態と同様である。すなわち、i番目の反力杭にかかる荷重PをP=P×θ/Σθ(i=1〜n)とし、この荷重に対し、各反力杭の変位量をプロットする。したがって、第3の実施の形態と重複する内容については記載を省略する。
【0052】
本実施の形態においては、各反力杭の傾斜角を求めることにより、各反力杭にかかる荷重Pを個々に求めることを可能にする。各杭の傾斜角は、例えば、傾斜計や2軸歪みゲージまたは計測点の高さの異なる2点の水平変位計測器等の測定器を設けることで求めることができる。
【0053】
傾斜計や2軸歪みゲージまたは計測点の高さの異なる2点の水平変位計測器で求められるi番目の反力杭の傾斜角をθとし、この反力杭のせん断剛性をGとする。すると、この反力杭に生じた載荷荷重Pは、P=Gθとなる。ここで、試験杭の傾斜角をθ、せん断剛性をGとすると、試験杭の載荷荷重Pは、P=Gθとなる。すると、
=Gθ=Gθ+Gθ+・・・+Gθ=ΣGθ ・・・(式1)
ここで、試験杭と反力杭は同種の杭であるため、せん断剛性はすべて等しい。このため、このせん断剛性の値をGとすると、(式1)より、
=ΣGθ=GΣθ ・・・(式2)
【0054】
したがって、1本の反力杭に与えられる載荷荷重P=Gθは、
=Gθ=(P/Σθ)θ=P×θ/Σθ ・・・(式3)
となる。よって、反力杭1本1本の載荷荷重は、計測したθ/Σθで、試験杭の載荷荷重を分配すればよい。
【0055】
本実施の形態の水平載荷試験方法によれば、1本の反力杭にかかる荷重を、直接杭の傾斜角から求めることにより、各反力杭について、独立に荷重−変位量曲線を作成することが可能である。したがって、1本の反力杭にかかる荷重を推定する第3の実施の形態よりもさらに杭の水平抵抗のばらつき評価の精度を向上させることが可能である。
【0056】
(第5の実施の形態)
本実施の形態の杭の水平載荷試験方法は、第1ないし第4の実施の形態では複数の反力杭の配置が試験杭に対して直列であるのに対し、並列である点で異なっている。反力杭の荷重−変位量曲線は、試験杭および反力杭の各々について、個別に測定した荷重と変位を基に作成する。
【0057】
図3は、本実施の形態の杭の水平載荷試験方法で用いられる水平載荷試験装置を模式的に示す平面図である。図4は、図3の水平載荷試験装置の立面図である。本実施の形態では、交番試験により杭の水平抵抗を測定する場合を例に説明する。
【0058】
水平載荷試験装置30は、1本の試験杭32と、3本の反力杭34a、34b、34cを備えている。そして、反力杭34a、34b、34cの配置が試験杭32に対して並列となっている。そして、交番試験を行うために仮設枠体36が設けられている。また、加力(載荷)のための2つのジャッキ38a、38bを備えている。さらに、不動梁(基準梁)40a、40b、変位計42a、42b、42c、42dを備えている。さらに、試験杭32および反力杭34a、34b、34cの各々にロードセル44a、44b、44c、44d、44e、44f、44g、44hが設けられている。
【0059】
試験杭32は、例えば、コンクリート杭または鋼管杭である。また、3本の反力杭34a、34b、34cは試験杭32と同種の杭である。すなわち、材質、杭径、施工等が同じ杭である。ここで、同種とは、工学的に同じとみなせるという意味である。例えば、杭長または杭厚が試験杭と反力杭で異なっていたとしても、水平載荷試験において工学的に試験杭と反力杭が同じとみなせるのであれば同種の杭であるとする。
【0060】
試験杭32と反力杭34a、34b、34cには、加力装置であるジャッキ38aから仮設枠体36を介して水平載荷試験をすることができる。この仮設枠体36は、試験杭32と反力杭34a、34b、34cのひずみおよびたわみに比べ無視できる剛性があるように設計されており、例えばH型鋼36a、PC鋼棒36b等で構成される。また、試験杭32と反力杭34a、34b、34cには、加力装置であるジャッキ38bからH型鋼37を介して水平載荷試験をすることができる。なお、PC鋼棒36bとH型鋼37は構造上非接触となっている。
【0061】
杭に作用する主な水平荷重は、土圧や水圧のような定時の一方向水平荷重と地震のような短期の交番水平荷重である。特に、近年は地震による基礎の被害報告も多く、杭基礎についても耐震設計のために交番の水平載荷試験を行うことが望ましい。
【0062】
本実施の形態の水平載荷試験装置30は、2つのジャッキ38a、38bを用いることにより、交番水平載荷試験ができるよう構成されている。そして、ロードセル44a、44bにより試験杭32にかかる荷重の計測が行われる。また、反力杭34a、34b、34cの各々に設けられたロードセル44c、44d、44e、44f、44g、44hにより、反力杭34a、34b、34cにかかる荷重を個々に独立に計測することが可能である。なお、荷重の計測はロードセルに限らず、圧力変換器等、公知の計測装置を用いることが可能である。
【0063】
試験杭32の加力(載荷)点は、杭に局部的な破壊や変形が生じないよう適当な補強を施し、載荷点の高さは、杭が実際に荷重を受ける状態に最も近い位置にすることが望ましい。
【0064】
変位計42aは、不動梁40aに取り付けられ、試験杭32の加力点高さの水平変位量を測定する。また、変位計42b、42c、42dは、それぞれ、不動梁40bに取り付けられ、反力杭34a、34b、34cの加力点高さの水平変位量を測定する。変位計42a、42b、42c、42dとしては、例えば直読式ダイアルゲージ、電気式変位計等、公知の変位計を用いることが可能である。
【0065】
不動梁40a、40bは、基準点の間隔に応じた十分な剛性を有するものであり、外気温の影響を受けにくいように支持される。
【0066】
本実施の形態の杭の水平載荷試験方法の具体的手順については、基本的に第1の実施の形態と同様であるので説明を省略する。ただし、反力杭の荷重−変位量曲線は、試験杭および反力杭の各々について、個別に測定した荷重と変位を基に作成する。
【0067】
本実施の形態によれば、複数の反力杭の配置を試験杭に対して並列にし、反力杭の各々に荷重計が設けることで、反力杭それぞれにかかる荷重を個々に独立に計測することが可能である。したがって、杭の水平抵抗のばらつきを精度よく測定することが可能となる。
【0068】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。上記、実施の形態はあくまで、例として挙げられているだけであり、本発明を限定するものではない。また、実施の形態の説明においては、杭の水平載荷試験方法について、本発明の説明に直接必要としない部分等については記載を省略したが、必要とされる杭の水平載荷試験方法に関わる要素を適宜選択して用いることができる。
【0069】
例えば、実施の形態において、反力杭が2本および3本の場合を例について説明した。しかし、反力杭の本数は3本または4本以上であっても構わない。また、反力杭が1本の場合であっても、試験杭の荷重−変位量曲線と、反力杭の荷重−変位量曲線とを作成比較して、杭の水平抵抗のばらつきを評価する本発明は適用可能である。
【0070】
また、実施の形態においては、多サイクル方式の水平交番載荷試験を例に説明したが、一サイクル方式の水平載荷試験、または、一方向の水平載荷試験にも本発明の杭の水平載荷試験方法を適用することができる。
【0071】
また、実施の形態においては、反力杭は試験杭の片側にのみ配置され、仮設枠体を用いて交番水平載荷試験を行う場合を例に説明したが、仮設枠体を用いず試験杭の両側に反力杭を設ける構成であっても構わない。
【0072】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての杭の水平載荷試験方法は、本発明の範囲に包含される。本発明の範囲は、特許請求の範囲およびその均等物の範囲によって定義されるものである。
【実施例】
【0073】
以下に、本発明の実施例を説明する。
【0074】
(実施例1)
表1の仕様の試験杭と反力杭を用い、第1の実施の形態で説明したと同様の杭の水平載荷試験方法をおこなった。すなわち、反力杭の荷重−変位量曲線は、2本の反力杭の変位量の平均値を算出し、1本の反力杭にかかる荷重を試験杭にかかる荷重の1/2として作成した。
【表1】

【0075】
図5は実施例1の荷重−変位量曲線である。なお、試験杭の荷重−変位量曲線と、反力杭の荷重−変位量曲線の比較を容易にするために、反力杭の変位量と荷重の値の符号を反転させている。
【0076】
(実施例2)
表2の仕様の試験杭と反力杭を用いる以外は、実施例1と同様の杭の水平載荷試験方法をおこなった。図6は実施例2の荷重−変位量曲線である。
【表2】

【0077】
(実施例3)
表1の仕様の試験杭と反力杭を用い、第2の実施の形態で説明したと同様の杭の水平載荷試験方法をおこなった。すなわち、反力杭の荷重−変位量曲線は、2本の反力杭の変位量の総和を算出し、試験杭に加えられる荷重に対して、反力杭の変位量の総和をプロットして作成した。
【0078】
図7は実施例3の荷重−変位量曲線である。なお、試験杭の荷重−変位量曲線と、反力杭の荷重−変位量曲線の比較を容易にするために、反力杭の変位量と荷重の値の符号を反転させている。
【0079】
(実施例4)
表2の仕様の試験杭と反力杭を用いる以外は、実施例3と同様の杭の水平載荷試験方法をおこなった。図8は実施例4の荷重−変位量曲線である。
【0080】
図5から明らかなように、実施例1の場合、試験杭の荷重−変位量曲線と、反力杭の荷重−変位量曲線は、あまり一致していない。したがって、実施例1では杭の水平抵抗のばらつきが大きいと判断される。
【0081】
一方、図6から明らかなように、実施例2の場合、試験杭の荷重−変位量曲線と、反力杭の荷重−変位量曲線は、よく一致する。したがって、実施例2では杭の水平抵抗のばらつきが小さいと判断される。
【0082】
図7から明らかなように、実施例1に対し、反力杭の荷重−変位量曲線を平均値で作成するのではなく、変位量の総和で作成した実施例3の場合も試験杭の荷重−変位量曲線と、反力杭の荷重−変位量曲線は、あまり一致していない。弾性変形領域と考えられる荷重が―100kN〜+100kNの領域でも不一致が大きい。接線は図示しないが、試験杭の荷重−変位量曲線の変位量0(ゼロ)における接線の傾斜と、反力杭の荷重−変位量曲線の変位量0における接線の傾斜とを比較をしても、不一致が大きい。したがって、実施例3でも杭の水平抵抗のばらつきが大きいと判断される。
【0083】
一方、実施例2に対し、反力杭の荷重−変位量曲線を変位量の平均値ではなく、変位量の総和で作成した実施例4の場合、図8から明らかなように、試験杭の荷重−変位量曲線と、反力杭の荷重−変位量曲線は、弾性変形領域と考えられる荷重が―100kN〜+100kNの領域でよく一致する。接線は図示しないが、試験杭の荷重−変位量曲線の変位量0(ゼロ)における接線の傾斜と、反力杭の荷重−変位量曲線の変位量0における接線の傾斜とを比較をしても、よく一致する。したがって、実施例4では杭の水平抵抗のばらつきが小さいと判断される。
【0084】
さらに、2つの曲線が乖離する領域は、塑性変形領域と判断される。
【0085】
実施例1および実施例3は現場で施工されるコンクリート杭を用いている。これに対し、実施例2および4は鋼管杭を用いている。実施例1、3の杭の水平抵抗が、実施例2、4の杭の水平抵抗よりもばらつきが大きい一つの要因としては、実施例1、3では、現場で施工されていることからコンクリート杭の杭自身の抵抗のばらつきが大きいことが考えられる。
【0086】
実施例2と実施例4の比較により、変位量の平均値で荷重−変位量曲線を作成することで、荷重と変位量の関係が非線形となる非弾性領域であっても、試験杭と反力杭の水平抵抗のばらつきが小さければ、試験杭と反力杭の荷重−変位量曲線がよく一致することが実証された。また、実施例4のように変位量の総和で作成することで、弾性変形領域と塑性変形領域との境界を判断することが可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0087】
10 水平載荷試験装置
12 試験杭
14a、b 反力杭
16 仮設枠体
18a、b ジャッキ
20a〜c 不動梁
22a〜c 変位計
24a、b ロードセル
30 水平載荷試験装置
32 試験杭
34a〜c 反力杭
36 仮設枠体
38a、b ジャッキ
40a、b 不動梁
42a〜d 変位計
44a〜h ロードセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本の試験杭と、前記試験杭と同種のn(nは1以上の整数)本の反力杭を施工し、
前記試験杭に荷重を水平方向に加え、
前記試験杭の変位量を測定し、
前記反力杭の変位量を測定し、
前記試験杭の荷重−変位量曲線を作成し、
前記反力杭の荷重−変位量曲線を作成し、
前記試験杭の荷重−変位量曲線と、前記反力杭の荷重−変位量曲線とを比較することにより杭の水平抵抗のばらつきを評価することを特徴とする杭の水平載荷試験方法。
【請求項2】
前記反力杭の荷重−変位量曲線は、前記n(nは2以上の整数)本の反力杭の変位量の平均値を算出し作成することを特徴とする請求項1記載の杭の水平載荷試験方法。
【請求項3】
前記反力杭の荷重−変位量曲線は、前記n(nは2以上の整数)本の反力杭の変位量の総和を算出し作成することを特徴とする請求項1記載の杭の水平載荷試験方法。
【請求項4】
前記反力杭の荷重−変位量曲線は、1本の前記反力杭にかかる荷重を、前記試験杭にかかる荷重の1/nとみなして算出し作成することを特徴とする請求項1または請求項2記載の杭の水平載荷試験方法。
【請求項5】
前記反力杭の荷重−変位量曲線は、前記n本の反力杭のそれぞれについて傾斜角θ(1≦i≦n)を測定し、前記試験杭にかかる荷重をPとする場合に、i番目の前記反力杭にかかる荷重PをP=P×θ/Σθ(i=1〜n)として算出し作成することを特徴とする請求項1記載の杭の水平載荷試験方法。
【請求項6】
前記試験杭および前記反力杭の各々に荷重計が設けられることを特徴とする請求項1記載の杭の水平載荷試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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