説明

杭の連結具およびその連結具を用いた杭

【課題】杭を構成する複数の管の接合を、管の口径にかかわらず容易に行えるようにする。
【解決手段】複数の杭部材1、3を接合することにより形成される杭のための連結具である。この杭は、互いに接合される一方の杭部材1の端部に形成された受口2に、他方の杭部材3の端部に形成された挿口4が挿入される。受口2および挿口4に共通する貫通孔8に、連結具15が挿通されている。この連結具15は、貫通孔8に貫通状態ではめ込まれるとともに先端部が挿口4の内部に入り込むように構成され、かつその挿口4への入り込み部の内周に突起19が形成されたスリーブと、このスリーブ16に貫通状態で打ち込まれるとともに、この打ち込みによってスリーブ16における突部19が形成された部分を貫通孔8よりも大径になるように拡径させるピン17とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は杭の連結具およびその連結具を用いた杭に関し、特に、複数の杭部材を接合することにより形成される杭であって、互いに接合される一方の杭部材の端部に形成された挿口に、他方の杭部材の端部に形成された受口が被せられる構成の、杭の連結具およびその連結具を用いた杭に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物の基礎として使用される杭として、たとえば、ダクタイル鋳鉄製の鋳鉄管を杭部材として、複数の杭部材を接合することにより形成されるものがある。この杭を建造物の基礎として用いるために、地中に垂直に埋設させた状態で設置するときには、下部に螺旋状の掘削部を有する先頭部材に回転トルクを作用させ、この螺旋状の掘削部により地面を垂直に掘り下げる。これにより先頭管がある程度の深さまで地中に入り込むと、この先頭管における掘削部とは逆側の上端部に新たな杭部材を継ぎ足して固定する。そして、この継ぎ足した杭部材に回転トルクを作用させることで、先頭部材を地中深くに掘進させていく。
【0003】
継ぎ足した杭部材がある程度の深さまで地中に入り込むと、その上端部にさらに新たな杭部材を継ぎ足して固定し、同様の作業を、杭が所定の長さに形成されるまで繰り返し行う。これにより、杭を垂直に埋設させた状態で設置することができる。
【0004】
このような杭において、杭部材と杭部材との接合構造すなわち回転トルクが伝達可能である杭の接合構造として、図7に示されるものがある(特許文献1)。図7に示すように、杭部材としてのダクタイル鋳鉄製の下管1の上端部に形成された受口2が他の杭部材としてのダクタイル鋳鉄製の上管3の下端部に形成された挿口4に被せられた状態で、下管1に上管3が継ぎ足されて連結され、杭5が形成されている。その連結構造は、次のとおりである。
【0005】
すなわち、図7に示すように、挿口2の先端面6が、受口2の内側の奥に形成されている奥端面7に当たるまで、挿口4を受口2に挿入し、適宜の方法で受口2と挿口4とが互いにずれないように固定したうえで、受口2と挿口4とに共あけ加工を施し、管径方向の共孔8を貫通状態で形成する。また、受口2および挿口4における、この共孔8から管軸心を通って向かい側となる位置にも同様に別の共孔8を貫通状態で形成する。その後、共孔8を形成した位置から上下の管軸方向に適宜にずれた位置で、かつ共孔8を形成した位置から周方向にたとえば90度ずれた位置に、同様の共孔9を形成する。
【0006】
このようにして4個の共孔8、9を形成すると、図示のように、径方向に相対向する共孔8、8どうしおよび共孔9、9(一方の共孔9は図示を省略)どうしにそれぞれボルト10を挿し通し、その両端をナット11で締め、受口2と挿口4とが互いにずれないように固定する。
【0007】
すると、受口2および挿口4が杭5の一部分として一体化するように固定されるので、先頭管(図示を省略)を掘進させるための回転トルクを伝達することができ、また、杭5の打設後は建造物を安定に支持することができる。杭の軸方向に作用する圧縮力は、挿口2の先端面6と受口2の奥端面7との間で受けることができるほかに、ボルト10によっても受けることができる。さらに鋼管杭の場合のような溶接を施す必要が無く、無溶接で管1、3どうしを接合して杭5を形成することができる。
【特許文献1】特開2003−64668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、図7に示す構成では、杭5の口径が大きくなると、径方向に相対向する共孔8、8および共孔9、9を形成することが非常に困難となり、さらにボルトをセットすることも困難となる。
【0009】
そこで本発明は、このような課題を解決して、杭を構成する複数の杭部材の接合を、杭部材の口径にかかわらず容易に行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するため、本発明の、複数の杭部材を接合することにより形成される杭のための連結具は、前記杭が、互いに接合される一方の杭部材の端部に形成された受口に、他方の杭部材の端部に形成された挿口が挿入され、前記受口および挿口に共通する貫通孔が形成され、この貫通孔に前記連結具が挿通され、この連結具は、貫通孔に貫通状態ではめ込まれるとともに先端部が挿口の内部に入り込むように構成されたスリーブを有し、このスリーブにおける前記挿口の内部に入り込んだ部分の内周に突起が形成され、前記連結具は、前記スリーブに貫通状態で打ち込まれるとともに、この打ち込みによって前記スリーブにおける突部が形成された部分を貫通孔よりも大径になるように拡径させるピンを有するものである。
【0011】
本発明によれば、上記連結具において、ピンの外周に溝が形成され、スリーブの拡径のためにこのスリーブにピンを打ち込んだときに、ピンの溝はスリーブの突起を越えて位置し、ピンにスリーブからの抜け出し力が作用したときに突起が溝にはまり込むものであるようにすることができる。
【0012】
また本発明によれば、上記連結具において、ピンの外周に溝が形成され、スリーブの拡径のためにこのスリーブにピンを打ち込んだときに、スリーブの突起はピンの溝にはまり込んで位置するものであるようにすることができる。
【0013】
本発明の杭は、上記の連結具を用いて受口と挿口とが互いに連結されているものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の杭の連結具およびその連結具を用いた杭によると、杭を構成する杭部材の受口と挿口における径方向に相対向する共孔どうしにそれぞれボルトを挿し通してこれら受口と挿口とを固定するのではなく、杭を構成する杭部材の受口と挿口における周方向の同一箇所において共通して形成された貫通孔に連結具が取り付けられる構成であるため、杭部材の口径にかかわらず受口と挿口との連結つまり杭を構成する杭部材どうしの連結を容易に行うことができる。また連結具を構成するスリーブへのピンの打ち込みによってスリーブが拡径して貫通孔よりも大径になるものであるため、この連結具が貫通孔から脱落することを防止できる。
【0015】
また本発明によれば、スリーブの拡径のためにこのスリーブにピンを打ち込んだときには、ピンの溝はスリーブの突起を越えて位置され、ピンにスリーブからの抜け出し力が作用したときに突起が溝にはまり込むようにされていることにより、ピンを打ち込んだときにはピンの溝がスリーブの突起を越えて位置されることから、この溝には突起が入り込まず、したがってスリーブを所要の拡径状態に保って杭部材からの脱落を確実に防止することができ、しかも、ピンにスリーブからの抜け出し力が作用したときに突起が溝にはまり込むようにされているため、その抜け出しを確実に防止することができて、杭の打設のための杭部材の回転時における所定の剪断力に耐えるようにすることができる。
【0016】
本発明によれば、ピンの外周に溝が形成され、スリーブの拡径のためにこのスリーブにピンを打ち込んだときに、スリーブの突起がピンの溝にはまり込んで位置するものであることにより、スリーブからのピンの抜け出しを確実に防止することができて、杭の打設のための杭部材の回転時における所定の剪断力に耐えるようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1〜図5において、2は杭5を構成する杭部材としての下管1の受口、4は杭部材としての上管3の挿口、6は挿口4の先端面、7は受口2の奥端面、8は貫通孔としての共孔で、これらは図6に示したものと同じ構成である。なお、共孔8は、受口2および挿口4の周方向に沿って複数が形成されている。
【0018】
図1に示すように、各共孔8には、それぞれ連結具15が貫通状態ではめ込まれている。図1および、特に図2において詳細に示すように、連結具15は、スリーブ16とピン17とを備えた構成である。これらスリーブ16とピン17とは、クロムモリブデン鋼等の鋼材などによって形成されている。
【0019】
スリーブ16は、共孔8の内径に対応した外径を有する円筒状体にて構成され、その一端の外周にフランジ18が一体に形成されるとともに、その他端の内周には、先端が鋭角に形成された環状の突起19が形成されている。またスリーブ16の他端には、その周方向に沿った複数の位置において、その軸心方向と平行な方向にスリット20が、スリーブ16の先端面から突起19を越えた位置までにわたって形成されている。
【0020】
ピン17は、スリーブ16の内径に対応した外径を有する円柱状体にて構成されることで、スリーブ16の内部に挿入可能に構成され、その一端の外周にフランジ21が一体に形成されるとともに、その他端の先端にはテーパ面22が形成されている。そしてテーパ面22から軸心方向に距離をおいた位置におけるピン17の外周には、横断面矩形状の環状の溝23が形成されている。
【0021】
ピン17は、スリーブ16を貫通するように、このスリーブ16の内部に打ち込むことができるようにされている。ピン17のフランジ21はスリーブ16のフランジ18に対応した径で形成されており、ピン17をスリーブ16に打ち込んだときに、図1に示すように、スリーブ16のフランジ18が受口2の外周面に当たるとともに、ピン17のフランジ21がスリーブ16のフランジ18に当たることで、受口2と挿口4とスリーブ16とピン17とが相互に位置決めされるように構成されている。
【0022】
図示のように、スリーブ16は、共孔8への挿入によってそのフランジ18が受口2の外周面に当たったときに、その突起19およびスリット20を含む先端部が挿口4の内面よりも管の内側に突出するように構成されている。ピン17は、スリーブ16への打ち込みによってそのフランジ21がスリーブ16のフランジ18に当たったときに、溝23を備えた先端部がスリーブ16の突起19を押し広げてその位置を通過することで、挿口4の内部に突出しているスリーブ16の部分を、共孔8よりも大径となるように拡径方向に変形させることができる。このとき、鋭角に形成された突起19は、スプリングバックによってピン17の外面に食い込むように作用する。
【0023】
図3〜図5を参照しながら、連結具15を用いて受口2と挿口4とを連結する方法について説明する。
まず、杭の施工現場において、下管1の受口2に上管3の挿口4を挿入して、挿口4の先端面6を受口2の奥端面7に接触させたなら、図3に示すように、現場施工によって受口2と挿口4とに管径方向の共孔8をドリル加工する。なお、下管1および上管3の製造時に製造工場であらかじめ共孔8を形成しておくようにしてもよい。図示のように共孔8が貫通されたなら、同図(a)に示すようにスリーブ16を受口2の外側から共孔8にはめ込み、同図(b)に示すようにそのフランジ18を受口2の外周面に接触させる。この状態で、図示のようにスリーブ16の先端における突起19やスリット20が形成されている部分は、挿口4の管壁を通り過ぎて管3の内部に突出する。
【0024】
次に、図4(a)に示すようにピン17を用い、テーパ面22による案内をともなって、このピン17をスリーブ16の内部にたたき込む。すると、同図(b)に示すようにピン17の先端部がスリーブ16の突起19を径方向の外向きに押し広げるように変形させることで、この突起19の位置を通過する。このとき、スリーブ16にスリット20が形成されているため、突起19が形成されている部分におけるスリーブ16の変形が容易に行われる。前述のように突起19は先端が鋭角に形成されているが、図2に詳細に示すように突起19にスリーブ16の先端側に向かうにつれて次第に縮径するテーパ面24が形成されていると、このテーパ面24がピン17のテーパ面22に当たることで、ピン17による突起19を介したスリーブ16の先端の押し広げを、容易かつ確実に行うことができる。25は、このようにしてスリーブ16に形成された拡径部である。このように拡径部25が形成されることで、共孔8からの連結具15の抜け出しを防止することができる。また、鋭角の突起19がスプリングバックによってピン17の外面に食い込むように作用していることによって、スリーブ16からのピン17の抜け出しを防止することができる。
【0025】
図4(b)に示すように、ピン17のフランジ21がスリーブ16のフランジ18に当たるまで、このピン17をスリーブ16に打ち込むと、ピン17の先端部は、スリーブ16を通り過ぎて挿口4の内部に露出する。詳細には、図示のように、溝23がスリーブ16から突出した状態となる。このとき、スリーブ16の突起19は、ピン17における溝23よりもフランジ21に近い位置において、溝23よりも大径に形成されたピン17の部分に外ばめされた状態となる。これにより、突起19が溝23にはまった状態であると仮定した場合よりもスリーブの拡径部25を大きく拡径させることができ、共孔8からの連結具15の抜け出し防止効果が確実なものとなる。
【0026】
前述のように杭の打設時には上管3に回転トルクが作用され、この回転トルクが挿口4から連結具15を介して受口2すなわち下管1に伝達されるが、連結具15のスリーブ16が受口2と挿口4との共孔8にはめ込まれているとともに、スリーブ16にピン17が打ち込まれており、しかもスリーブ16やピン17はクロムモリブデン鋼のような高強度の材料にて形成されているため、上記の回転トルクの伝達の際に共孔8と連結具15との間に作用する剪断力に十分に対抗することができる。
【0027】
ピン17にスリーブ16からの抜け出し力が作用した場合の挙動は、次のとおりである。すなわち、図5(a)に示すように溝23がスリーブ16から突出している状態のピン17にスリーブ16からの抜け出し力が作用した場合には、同図(b)に示すようにピン17がスリーブ16に対し変位するが、その溝23が突起19の位置に到達すると、突起19がスプリングバックによって溝23にはまり込む。これによって、スリーブ16からのピン17の抜け出しが確実に防止される。
【0028】
なお、突起19が溝23にはまり込んだ状態でも拡径部25を十分な大きさに保つことができるのであれば、図6に示すように、ピン17をそのフランジ21がスリーブ16のフランジ18に当たるまで打ち込んだときに、突起19が溝23にはまり込むように構成しても差支えない。この場合は、挿口4および受口2からのスリーブ16の抜け出し防止効果と、スリーブ16からのピン17の抜け出し防止効果とをともに確実なものとした状態で、連結具15を機能させることができる。
【0029】
あるいは、突起19を溝23にはまり込ませなくてもスリーブ16からのピン17の抜け出し防止効果を確保できる場合は、ピン17に溝を形成しない構成とすることもできる。
【0030】
なお、上記においては杭部材が管1、3である場合について説明したが、互いに接合される一方の杭部材に受口2が形成されるとともに他方の杭部材に挿口4が形成されるものであれば、これを管以外の任意の部材によって構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態の杭およびその連結具の構成を示す断面図である。
【図2】図1における連結具の詳細図である。
【図3】管の受口と挿口とに連結具のスリーブをはめ込む様子を示す図である。
【図4】図3のスリーブにピンを打ち込む様子を示す図である。
【図5】図4の連結具のピンにスリーブからの抜け出し力が作用したときの状態を示す図である。
【図6】本発明の他の実施の形態の杭およびその連結具の構成を示す断面図である。
【図7】従来の杭の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 下管
2 受口
3 上管
4 挿口
8 共孔
15 連結具
16 スリーブ
17 ピン
19 突起
23 溝
25 拡径部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の杭部材を接合することにより形成される杭のための連結具であって、前記杭は、互いに接合される一方の杭部材の端部に形成された受口に、他方の杭部材の端部に形成された挿口が挿入され、前記受口および挿口に共通する貫通孔が形成され、この貫通孔に前記連結具が挿通され、この連結具は、貫通孔に貫通状態ではめ込まれるとともに先端部が挿口の内部に入り込むように構成されたスリーブを有し、このスリーブにおける前記挿口の内部に入り込んだ部分の内周に突起が形成され、前記連結具は、前記スリーブに貫通状態で打ち込まれるとともに、この打ち込みによって前記スリーブにおける突部が形成された部分を貫通孔よりも大径になるように拡径させるピンを有することを特徴とする杭の連結具。
【請求項2】
ピンの外周に溝が形成され、スリーブの拡径のためにこのスリーブにピンを打ち込んだときに、ピンの溝はスリーブの突起を越えて位置し、ピンにスリーブからの抜け出し力が作用したときに突起が溝にはまり込むものであることを特徴とする請求項1記載の杭の連結具。
【請求項3】
ピンの外周に溝が形成され、スリーブの拡径のためにこのスリーブにピンを打ち込んだときに、スリーブの突起はピンの溝にはまり込んで位置するものであることを特徴とする請求項1記載の杭の連結具。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の連結具を用いて受口と挿口とが互いに連結されていることを特徴とする杭。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−240383(P2008−240383A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83158(P2007−83158)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【出願人】(596125284)株式会社ヤハタ (2)
【Fターム(参考)】