板厚制御方法
【課題】圧延を施す前の原板がコイル状に巻かれていて、この原板にコイル一巻きごとの硬度変動がある際に、圧延速度が変化する場合であっても、板厚変動が過大になることを防止し、板厚精度を向上させる板厚制御方法を提供する。
【解決手段】本発明の板厚制御方法は、複数の圧延スタンド2が備えられた圧延機1を用いて圧延材Wを圧延するに際し、フィードバック板厚制御系を用いつつ板厚の制御を行う板厚制御方法であって、フィードバック板厚制御系の共振周波数が圧延材Wの長手方向に存在する硬度変化に起因する硬度変動の周波数より小さくなるように、フィードバック板厚制御系を設計し、設計したフィードバック板厚制御系を用いて、圧延材Wの板厚の制御を行う。
【解決手段】本発明の板厚制御方法は、複数の圧延スタンド2が備えられた圧延機1を用いて圧延材Wを圧延するに際し、フィードバック板厚制御系を用いつつ板厚の制御を行う板厚制御方法であって、フィードバック板厚制御系の共振周波数が圧延材Wの長手方向に存在する硬度変化に起因する硬度変動の周波数より小さくなるように、フィードバック板厚制御系を設計し、設計したフィードバック板厚制御系を用いて、圧延材Wの板厚の制御を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延を施す前の原板がコイル状に巻かれていて、この原板にコイル一巻きごとの硬度変動がある際に、圧延速度が変化する場合であっても、板厚変動が過大になることを防止し板厚精度を向上させる板厚制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、薄鋼板等の圧延材は、加熱されたスラブや原板を複数の圧延スタンドを有する圧延機に導入して、連続的に圧延することで製造されており、最終圧延スタンドの下流側には、圧延終了後の圧延材を巻き取るための巻き取り装置が設けられている。
この圧延機での圧延においては、各圧延スタンドにおいて、板厚やスタンド間張力などを精度よく制御する必要がある。各圧延スタンドでの板厚やスタンド間張力の制御が不十分であると、仕上げ板厚が目標値から外れたり、安定した通板が得られないと行った不都合が生じる。
【0003】
特に、圧延を施す前の原板がコイル状に巻かれていて、この原板にコイル一巻きごとの硬度変動がある場合、板厚制御には細心の注意が必要である。
特許文献1〜特許文献3には、長手方向に硬度変動がある圧延材を圧延するに際して、フィードフォワード制御(FF制御)を行う技術が開示されている。
例えば、特許文献2の技術は、 原板に内在する硬度変動をタンデム圧延機の前段スタンド通過前後の板厚変化から推定し、推定された硬度変動による鋼板の塑性曲線の変化を相殺するように後段スタンドにおける鋼板張力をフィードフォワード制御するものとなっている。
【0004】
ところで、板厚制御系を用いて板厚制御を行うに際して、当該制御系に対する外乱の影響をすべての周波数帯域で抑制することが好ましい。とはいえ、全周波数域での外乱抑制が不可能であることは、「ウォーターベッド現象・・・ある周波数で外乱を抑制すると、他の周波数で外乱を増幅することをいう」として、広く知られているものであり、特許文献4に開示されている通りである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−158913号公報
【特許文献2】特開2003−326307号公報
【特許文献3】特開2008−126307号公報
【特許文献4】特開2002−15531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜特許文献3に開示された技術は、複数の圧延スタンドが備えられた圧延装置を用いて圧延材(コイル一巻きごとの硬度変動がある原板)を圧延するに際して、フィードフォワード制御(FF制御)を行うものである。
しかしながら、圧延材の板厚精度を向上させるためには、フィードバック制御(FB制御)を行った板厚制御方法が不可欠であり、これらの特許文献の技術を適用するだけでは、硬度変動が存在する圧延材の板厚制御方法(フィードバック板厚制御系)を確立することができないのが現状である。
【0007】
また、フィードバック制御系を用いた板厚制御方法を設計するに際しては、ウォーターベッド現象を考慮し、板厚変動が過大にならないようにする必要がある。この要求に対して、特許文献4は、ディスク装置におけるヘッドの位置決め技術を開示するものであって、圧延材の板厚制御に適用可能なものとはなっていない。
そこで、本発明は、上記問題点を鑑み、圧延を施す前の原板がコイル状に巻かれていて、この原板にコイル一巻きごとの硬度変動がある際に、圧延速度が変化する場合であっても、板厚変動が過大になることを防止し、板厚精度を向上させる板厚制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明の板厚制御方法は、複数の圧延スタンドが備えられた圧延機を用いて圧延材を圧延するに際し、フィードバック板厚制御系を用いつつ板厚の制御を行う板厚制御方法であって、前記フィードバック板厚制御系の共振周波数が圧延材の長手方向に存在する硬度変化に起因する硬度変動の周波数より小さくなるように、前記フィードバック板厚制御系を設計し、設計したフィードバック板厚制御系を用いて、圧延材の板厚の制御を行うことを特徴とする。
【0009】
好ましくは、前記圧延材を加速乃至は減速するに際して、前記加速乃至は減速の全速度範囲に亘って、前記設計したフィードバック板厚制御系を用いて、圧延材の板厚の制御を行うとよい。
好ましくは、前記フィードバック板厚制御系を設計するに際しては、前記圧延材の長手方向に存在する硬度変動によりフィードバック板厚制御系が共振状態とならないように、板厚変動のゲインを前記硬度変動の周波数に応じた値とするとよい。
【0010】
この板厚制御方法を採用して、板厚制御系が外乱を増幅する周波数が圧延材の硬度変動による周波数より低周波側となるように、板厚制御系の制御ゲインを設定することで、圧延材の硬度変動による板厚変動が過大となることを防止することができる。また、圧延材の硬度変動(外乱)に対して加減速中はその外乱を増幅せず、定常速度時にはハイゲインの制御系となっているので、低周波外乱抑制性を必要以上に損なわず、ステップ状やランプ状の外乱を確実に抑制可能である。
【0011】
好ましくは、前記設計したフィードバック板厚制御系を用いて、全ての圧延スタンドの出側板厚と、圧延スタンド間の張力を制御するに際しては、最終段に配備された圧延スタンドの圧延荷重を制御するとよい。
これにより、過大板厚変動防止に加えて、最終スタンドの荷重変動防止の効果が得られる。
【0012】
好ましくは、前記フィードバック板厚制御系においては、圧延スタンドの剛性を可変とし、当該フィードバック板厚制御系が出力する制御値を圧延スタンドへ適用する際のチューニング率を、0より大きく1以下にするとよい。
これにより、硬度変動による板厚変動を低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の板厚制御方法によれば、圧延を施す前の原板がコイル状に巻かれていて、この原板にコイル一巻きごとの硬度変動がある際に、圧延速度が変化する場合であっても、板厚変動が過大になることを防止し、板厚精度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態の発明が適用される圧延機を模式的に示した図である。
【図2】No.1圧延スタンドに対するAGC制御のブロック図である(従来例)。
【図3】No.iスタンド(i=2,3,4,5)圧延スタンドに対するAGC制御のブロック図である(従来例)。
【図4】載置台上に載置されたコイル材(圧延材がコイル状に巻かれたもの)を示した斜視図である。
【図5】圧延速度がそれぞれ、大、中、小の場合において、圧延材の硬度変動の変化を時間領域と周波数領域で示した図である。
【図6】硬度変動に対する板厚変動のゲイン線図を示す図である(従来例)。
【図7】硬度変動に対する板厚変動のゲイン線図が一定である条件下において、(a)は圧延速度が高速から低速に変化することを示した図であり、(b)は(a)の圧延速度変化に伴う板厚変動を示す図である(従来例)。
【図8】硬度変動の振幅に板厚変動のゲインを乗じた結果を示した図である。
【図9】圧延速度がそれぞれ、大、中、小の場合における、板厚変動の振幅を周波数領域で示す図である(従来例)。
【図10】No.1スタンドの板厚張力制御系に速度依存ゲイン1を追加した図である。
【図11】No.iスタンド(i=2,3,4,5)スタンドの板厚張力制御系に、速度依存ゲインti(i=2,3,4,5)、速度依存ゲインhi(i=2,3,4,5)を追加した図である。
【図12】圧延速度と速度依存ゲインの関係を示した図である。
【図13】速度依存ゲインを求める手順を示すフローチャートである。
【図14】圧延速度がそれぞれ大、中、小の場合における、硬度変動に対する板厚変動のゲイン線図を示す図である(本発明)。
【図15】圧延速度がそれぞれ大、中、小の場合における、板厚変動の振幅を周波数領域で示す図である(本発明)。
【図16】硬度変動に対する板厚変動のゲイン線図が一定である条件下において、(a)は圧延速度が高速から低速に変化することを示した図であり、(b)は(a)の圧延速度変化に伴う板厚変動を示す図である(本発明)。
【図17】第2実施形態の発明が適用される圧延機を模式的に示した図である。
【図18】荷重制御を行う場合の速度依存ゲインを求める手順を示すフローチャートである。
【図19】可変ミル剛性制御を用いるに際し、圧延速度がそれぞれ大、中、小の場合の硬度変動に対する板厚変動のゲイン線図を示す図である。
【図20】可変ミル剛性制御を用いるに際し、圧延速度がそれぞれ、大、中、小の場合の板厚変動の振幅を周波数領域で示す図である。
【図21】可変ミル剛性制御を用いるに際し、圧延速度変化に伴う板厚変動を示す図である。
【図22】(a)は、硬度変動に対する板厚変動のゲイン線図のピークの1例である。(b)は、硬度変動に対する板厚変動のゲイン線図のピークの他の例である。
【図23】圧延速度と速度依存ゲインとの関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明にかかる板厚制御方法が適用された圧延機1の実施の形態を、図をもとに説明する。
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の圧延機1を示す模式図である。圧延機1は複数(5基)の圧延スタンド2を有するタンデム型である。圧延スタンド2は上下一対の圧延ロール3を有している。最上流の圧延スタンド2に原板が通された後、次々と圧延スタンド2を通過する毎に圧下され、最終の圧延スタンド2を出たところで所定の仕上げ板厚となる。なお、最終段の圧延スタンド2の出側板厚が仕上げ板厚となる。圧延スタンド2の出側には、圧延材Wの板厚を計測可能な板厚計7が配備されており、圧延スタンド2間には、圧延材Wの張力を計測可能な張力計8(ルーパ機構)が設けられている。
【0016】
この圧延機1は板厚張力制御部4(制御部)を有しており、板厚張力制御部4により、各圧延スタンド2の圧下位置やロール速度が操作され、全ての圧延スタンド2の出側板厚とスタンド間張力が所定の板厚目標値と張力目標値に制御される。具体的には、板厚張力制御部4は、No.1〜No.5の圧延スタンド2の出側板厚と、No.1〜No.2、No.2〜No.3、No.3〜No.4、No.4〜No.5スタンド間張力を制御する。
【0017】
板厚張力制御部4の制御方法(制御系)としては、例えば、「高精度・高性能冷延鋼板圧延技術の開発、重松他、鉄と鋼、Vol.83、(1997)No.1、pp.54−59のp.58」に記載されたものでもよい。「冷間圧延機の多変数制御、山田、木村、計測自動制御学会論文集、Vol.15、No.5、pp.647−653」に開示された多変数制御でもよい。「冷延タンデムミル高精度板厚制御技術の開発、金井、安彦、澤田、電気学会研究会資料 金属産業研究会 MID−01−8、2001」に記載されている制御方法でもよい。
【0018】
以降、本実施形態では、上記した「冷延タンデムミル高精度板厚制御技術の開発」に記載されている制御方法を例示しつつ説明を進める。
図2は、No.1の圧延スタンド2(最上流側の圧延スタンド2)に適用されたAGC制御を示すブロック図である。この制御では、No.1圧延スタンド2の出側板厚が目標値と一致するように、No.1スタンドの圧下位置を操作する。
【0019】
図3は、No.iスタンド(i=2,3,4,5)の圧延スタンド2に適用されたAGC制御を示すブロック図である。No.i圧延スタンド2の出側板厚と、No.i−1〜 No.i圧延スタンド間張力を目標値と一致するように、No.i−1圧延スタンド2のロール速度と、No.i圧延スタンド2のロール圧下位置を操作する。なお、板厚実績値は、マスフロー一定則から計算されるマスフロー板厚である場合を含む。
【0020】
ところで、圧延材W(原板と呼ばれる圧延前の板材)には、長手方向に沿って硬度変動が存在する場合がある。これは、主に、コイルC一巻き毎に発生する硬度変動である。
図4に示されているように、具体的には、原板となるコイルC(圧延材Wを巻回したもの)をコイル台5上で冷却する場合に、冷却速度の差に起因して発生すると考えられている。つまり、コイルCの周面で載置台に接している部分は比較的早く冷却が進み、硬度が高く(圧延材Wが硬く)なり、載置台に接していない部分は冷却が遅く、硬度が低い(圧延材Wが柔らかい)ものとなる。
【0021】
このように、長手方向に硬度差を有する圧延材Wが圧延されると、硬度変動が「圧延機1入側板速/一巻きの長さ」の周波数で、圧延機1に印加されることとなる。
図5に、横軸を圧延速度(最終スタンドのロール速度または最終圧延スタンド2の出側の板速)にとり、圧延速度がそれぞれ、大、中、小の場合の例を示す。ここで、大、中、小とは、圧延速度が、「圧延速度小」<「圧延速度中」<「圧延速度大」の順に大きくなることを意味し、「圧延速度大」は最大圧延速度、「圧延速度小」は、板厚張力制御が動作する最小の圧延速度を意味する。圧延速度が小さくなるにつれて、周波数が低くなる。
【0022】
次に、図6に「仕上げ板厚変動/硬度変動」のゲイン線図を示す。
周波数0近傍の低周波の硬度変動に対しては、仕上げ板厚変動をほぼ0に抑制する。また、板厚張力制御系の制御帯域を超える高周波の硬度変動に対しては、板厚変動を抑制できず変動が生じる。さらに、高周波域と低周波域の間に、板厚制御系のむだ時間等の影響で、硬度変動により板厚変動が増大する周波数帯域が存在する。
【0023】
ここで、図6のゲイン線図が圧延速度により変化しないとすると、高速の定常部から減速する際、板厚変動は図7のようになることを、本願発明者らは数々の実験により知見している。これは、圧延速度が大きい場合から、中、小へと減速していくので、途中で板厚変動が過大になる速度域が存在することを意味する。
図8に示す如く、このようになる理由として、板厚変動の振幅は、硬度変動の振幅に硬度変動に対する板厚変動のゲインを乗じたものだからである。
【0024】
なお、図9に、圧延速度が大、中、小の場合における、周波数領域での板厚変動の振幅を太実線にて示す。太破線が硬度変動の振幅を示し、細破線が「仕上げ板厚変動/硬度変動」のゲイン線図を示す。
まとめれば、図7に示すように、圧延速度が大きい場合から、中、小へと減速していく途中で板厚変動が過大になる速度域が存在することが知見され、その理由として、板厚変動の振幅は、硬度変動の振幅に硬度変動に対する板厚変動のゲインを乗じたことが挙げられる。
【0025】
そこで、本願発明者らは、圧延材Wの長手方向に存在する硬度変動(外乱)により、フィードバック板厚制御系が共振状態とならないように、板厚変動のゲインを外乱の周波数に応じた適切なものとするフィードバック板厚制御系を設計した。言い換えれば、フィードバック板厚制御系の共振周波数が圧延材Wの長手方向に存在する硬度変化に起因する硬度変動の周波数より小さくなるように、フィードバック板厚制御系を設計することである。
【0026】
次に、第1実施形態に係る板厚制御方法について詳しく説明する。
図10、図11のように、板厚張力制御部4に、速度依存ゲイン1、速度依存ゲインti(i=2,3,4,5)、速度依存ゲインhi(i=2,3,4,5)を追加する。なお、この追加方法は一例であり、この追加方法に限定されるものではなく、制御系の特性を変更可能な方法であればよい。
【0027】
図12に、速度依存ゲインti、速度依存ゲインhiの速度依存状況の一例を示す。なお、図12は、最高速度が1000[mpm]の場合の速度依存ゲインであるが、横軸は、最高速度を100%とした%表示でもよい。この速度依存ゲインは、その速度における硬度変動の周波数より、板厚張力制御系の外乱を増幅するピークの周波数が低周波側になるように決定する。
【0028】
図13のフローチャートを用いて、速度依存ゲインを求める手順を説明する。
図13の説明において、速度依存ゲイン1、速度依存ゲインti(i=2,3,4,5)、速度依存ゲインhi(i=2,3,4,5)は全て同じとする。
まず、S101にて、最小圧延速度と最大圧延速度の両端を含む圧延速度の範囲で、速度依存ゲイン値を計算するための複数の圧延速度を決定する。例えば、ほぼ0〜1000[mpm]の場合に、200、400、600、800、1000[mpm]の5点を選ぶこととする。
【0029】
次に、S102にて、最初に速度依存ゲイン値を計算する圧延速度として、最小の圧延速度を選ぶ。本例では、200[mpm]を選ぶこととなる。
そして、S103にて、当該圧延速度での速度依存ゲイン値を十分に大きな値にセットする。具体的には、板厚張力制御系が不安定になるゲイン値より少し小さな値を設定する。例えば、不安定になるゲイン値の0.5倍の値に設定することができる。ここで、不安定になるゲイン値は、圧延機1と圧延材Wと板厚張力制御系のシミュレータを作成し、シミュレーションを実行することにより、決定することができる。
【0030】
シミュレータ作成については、公知の手法、例えば、「新日鐵技報 第357号 pp.53−57(1995)、ダイナミックシミュレータの開発と応用」を用いることができる。また、シミュレータソフトとしては、市販されているMathworks社のSimulinkを用いることができる。なお、SimulinkはMathworks社の登録商標である。
【0031】
ここで、圧延機1と圧延材Wの部分のシミュレータは、例えば、「板圧延の理論と実際、日本鉄鋼協会編、pp.119−124(1984)、(5.37)〜(5.45)」の式を用いることができる。
<板厚の式>
hi=Si+Pi/Mi (1)
<圧延荷重式>
Pi=P(H1,Hi,hi,qfi,qbi,ki,μi,b) (2)
<材料速度式>
vout,i=(1+fi)vRi (3)
vin,i=(1+εi)vRi (4)
ε=(1+f)h/H−1 (5)
fi=f(Hi,hi,H1,qfi,qbi,μi,ki) (6)
εi=ε(Hi,hi,H1,qfi,qbi,μi,ki) (7)
<スタンド間張力式>
qfi=E/L∫(vin,i+1−vout,i)dt (8)
qbi+1=hi/Hi+1・qfi (9)
なお、「板圧延の理論と実際、p.121」に記載のように、式(2)の圧延荷重は、公知のHillの式を用い、式(6)の先進率は、公知のBland&Fordの式を用いればよい。
【0032】
ここで、記号の意味は次のとおりである。
Hi:入側板厚、hi:出側板厚、H1:No1スタンド入側板厚、Pi:圧延荷重、
Mi:ミル剛性係数、qfi:前方張力、qbi:後方張力、μi:摩擦係数、
ki:変形抵抗、b:板幅、vin:材料流入速度、vout:材料流出速度、
vRi:ロール速度、E:ヤング率、L:スタンド間距離
なお、iは、Noiの圧延スタンド2を示す。
【0033】
圧下制御系や速度制御系は、「板圧延の理論と実際、p.122」に開示された制御系をシミュレータに組み込めばよく、板厚張力制御系は、図10、図11に開示された制御系をシミュレータに組み込めばよい。
続いて、S104にて、変形抵抗から仕上げ板厚変動へのゲイン線図を求める。これは、シミュレータにおける変形抵抗変動の周波数を変更してシミュレーションを繰り返し行い、ゲイン線図を描いてもよい。また、前述の「新日鐵技報 第357号 pp.53−57(1995)、ダイナミックシミュレータの開発と応用」に記載されているように、シミュレータを線形化してから求めてもよい。
【0034】
次に、S105にて、当該圧延速度での変形抵抗の変動周波数よりゲイン線図のピークが低いか否かを判定する。S105で低くないと判定された場合、S106にて、速度依存ゲイン値を小さくして、ゲイン線図の導出の手順を繰り返す。
ここで、ピークとは、周波数領域で硬度変動外乱を増幅する周波数範囲をいうものとする。周波数範囲の上下限は、図22(a)のように、例えば、ゲイン線図の最大値の半分となる周波数範囲と決めてもよい。また、図22(b)のように、ゲイン線図で最大値をとる周波数の±0.5デカードの範囲とすることもできる。なお、これらの決定方法に限定されるものではない。
【0035】
一方、S107にて、当該圧延速度での変形抵抗の変動周波数よりゲイン線図のピークが低ければ、得られたゲイン値を当該圧延速度での速度依存ゲイン値として記憶しておく。
次に、S108にて、上で決定した複数の圧延速度全てで、計算が終了したか否かを判断する。例えば、上の例では、200[mpm]について計算したが、400[mpm]以上では計算していない場合には、S109にて、400[mpm]の場合の速度依存ゲイン値を求める。これを全ての圧延速度で計算が終わるまで繰り返す。上の例では、1000[mpm]の圧延速度での計算が終わるまで繰り返す。
【0036】
以上の手順により得られた、圧延速度と当該圧延速度でのゲイン値との関係を、S110にて、速度域全体の速度依存ゲインとすることで、速度依存ゲインが得られることとなる。例えば、各圧延速度に対応して、図23(a)のようなテーブルが得られているとき、例えば、速度依存ゲインを図23(b)のようにすることができる。
そして、S111にて、この速度依存ゲインを用いて、板厚と張力を制御する。なお、速度依存ゲインを求めるまでのステップはオフラインで行い、板厚と張力の制御はオンラインで行う。
【0037】
このとき、図6の「仕上げ板厚変動/硬度変動」のゲイン線図は、圧延速度の変化により、図14のように変化する。すなわち、「仕上げ板厚変動/硬度変動」のゲインが増大するピークの周波数が低周波側に移動するとともに、ピークの大きさが小さくなる。また、図9は、図15のように変化する。つまり、圧延速度が大、中、小の場合の、周波数領域での板厚変動の振幅を太実線に示す。太破線が硬度変動の振幅を示し、細破線が「仕上げ板厚変動/硬度変動」のゲイン線図を示す。板厚変動が過大になることが防止可能となっている。
【0038】
減速時の板厚変動は、図7から図16のようになる。板厚変動の過大な増幅が防止され、図7の場合より板厚変動が低減される。
[第2実施形態]
次に、本発明に係る圧延機1の板厚制御方法の第2実施形態について、説明する。
本実施形態は、フィードバック板厚制御系の共振周波数が圧延材Wの長手方向に存在する硬度変化に起因する硬度変動の周波数より小さくなるように、フィードバック板厚制御系を設計し、設計したフィードバック板厚制御系を用いて、圧延材Wの板厚の制御を行う点では、第1実施形態とほぼ同じである。
【0039】
しかしながら、第2実施形態は、設計したフィードバック板厚制御系を用いて、全ての圧延スタンド2の出側板厚と、圧延スタンド2間の張力を制御するに際しては、最終段に配備された圧延スタンド2の圧延荷重も制御する点が異なっている。
以下、詳細を説明する。
図17に、第2実施形態における制御対象である圧延機1が示されている。この圧延機1の板厚張力荷重制御部6(制御部)は、板厚と張力と荷重とを制御する。板厚、張力、荷重を制御する制御系としては、例えば、特開2010−172960号公報「連続圧延機1の板厚制御方法及び板厚制御装置」の技術を用いることができる。
【0040】
図18には、第2実施形態の制御のフローチャートが示されており、この手順に従って、速度依存ゲインを求める。本実施形態においては、速度依存ゲイン1、速度依存ゲインti(i=2,3,4,5)、速度依存ゲインhi(i=2,3,4,5)は全て同じとする。
まず、図18のS201において、最小圧延速度と最大圧延速度の両端を含む圧延速度の範囲で、速度依存ゲイン値を計算するための複数の圧延速度を決定する。例えば、0〜1000[mpm]の場合に、200、400、600、800、1000[mpm]の5点を選ぶこととする。
【0041】
次に、S202において、最初に速度依存ゲイン値を計算する圧延速度として、最小の圧延速度を選ぶ。本例では、200[mpm]を選ぶこととなる。
そして、S203において、当該圧延速度での速度依存ゲイン値を十分に大きな値にセットする。具体的には、板厚張力荷重制御系が不安定になるゲイン値より少し小さな値を設定する。例えば、不安定になるゲイン値の0.5倍の値に設定することができる。ここで、不安定になるゲイン値は、圧延機1と圧延材Wと板厚張力荷重制御系のシミュレータを作成し、シミュレーションを実行することにより、決定することができる。
【0042】
シミュレータ作成については、公知の手法、例えば、「新日鐵技報 第357号 pp.53−57(1995)、ダイナミックシミュレータの開発と応用」を用いることができる。また、シミュレータソフトとしては、市販されているMathworks社の、Simulinkを用いることができる。なお、SimulinkはMathworks社の登録商標である。
【0043】
ここで、圧延機1と圧延材Wの部分のシミュレータは、既述のように、例えば、「板圧延の理論と実際、日本鉄鋼協会編、pp.119−124(1984)の式を用いることができる。具体的には、前述した式(1)〜式(9)が該当する。
制御系の部分については、圧下系や速度制御系は、「板圧延の理論と実際、p.122」に開示されたモデルをシミュレータに組み込めばよく、板厚張力荷重制御系は、図10、図11の板厚張力制御系に加えて、特開2010−172960号公報「連続圧延機1の板厚制御方法及び板厚制御装置」の図1の荷重制御系(荷重制御モデル)をシミュレータに組み込めばよい。
【0044】
続いて、S204にて、変形抵抗から仕上げ板厚変動へのゲイン線図を求める。これは、シミュレータにおける変形抵抗変動の周波数を変更してシミュレーションを繰り返し行い、ゲイン線図を描いてもよい。また、前述の新日鐵技報に記載されているように、シミュレータを線形化してから求めてもよい。
S205にて、当該圧延速度での変形抵抗の変動周波数よりゲイン線図のピークが低くなければ、S206にて、速度依存ゲイン値を小さくして、ゲイン線図の導出の手順を繰り返す。ここで、ピークとは、周波数領域で硬度変動外乱を増幅する周波数範囲をいうものとする。周波数範囲の上下限は、図22(a)のように、例えば、ゲイン線図の最大値の半分となる周波数範囲と決めてもよい。また、図22(b)のように、ゲイン線図で最大値をとる周波数の±0.5デカードの範囲とすることもできる。なお、これらの決定方法に限定されるものではない。
【0045】
一方、S207にて、当該圧延速度での変形抵抗の変動周波数よりゲイン線図のピークが低ければ、得られたゲイン値を当該圧延速度での速度依存ゲイン値として記憶しておく。
次に、S208にて、上で決定した複数の圧延速度全てで、計算が終了したか否かを判断する。例えば、上の例では、200[mpm]について計算したが、400[mpm]以上では計算していない場合には、S209にて、400[mpm]の場合の速度依存ゲイン値を求める。これを全ての圧延速度で計算が終わるまで繰り返す。上の例では、1000[mpm]の圧延速度での計算が終わるまで繰り返す。
【0046】
以上の手順により得られた圧延速度と当該圧延速度でのゲイン値との関係を、S210にて、速度域全体の速度依存ゲインとすることで、速度依存ゲインが得られることとなる。
例えば、各圧延速度に対応して、図23(a)のようなテーブルが得られているとき、速度依存ゲインを図23(b)のようにすることができる。そして、S211にて、この速度依存ゲインを用いて、板厚と張力と荷重とを制御する。なお、速度依存ゲインを求めるまでのステップはオフラインで行い、板厚と張力と荷重との制御はオンラインで行う。
【0047】
これにより、加減速時に、コイルC一巻き毎の周期的な硬度変動に加えて、先尾端のみが硬いなどランプ状やステップ状の硬度変動が存在する場合に、荷重変動を低減する効果がある。
[第3実施形態]
次に、本発明に係る圧延機1の板厚制御方法の第3実施形態について、説明する。
【0048】
本実施形態は、第2実施形態で開示した板厚制御方法に対して、さらに、圧延スタンド2の剛性を可変とし、当該フィードバック板厚制御系が出力する制御値を圧延スタンド2へ適用する際のチューニング率を、0より大きく1以下にするようにしている。他の点では、第2実施形態とほぼ同じである。
具体的には、第2実施形態で開示したフィードバック板厚制御方法に、「板圧延の理論と実際、p.300」に記載の可変ミル剛性制御を併用する。なお、文献中の「スケールファクタ」を「チューニング率」と呼ぶ。このチューリング率を0より大きく1以下の値にすることにより、硬度変動や板厚変動に対して、板厚変動を小さくできる。
【0049】
これは、ロール3ギャップの制御系の応答が板厚張力荷重制御系の応答よりも速いため、板厚変動低減の制御帯域が広く、硬度変動の周波数が制御帯域に含まれるからである。このとき、「仕上げ板厚変動/硬度変動」のゲイン線図は、圧延速度の変化により、図19のように変化する。圧延速度が大、中、小の場合の、周波数領域での板厚変動の振幅を図20の太実線に示す。太破線が硬度変動の振幅を示し、細破線が「仕上げ板厚変動/硬度変動」のゲイン線図を示す。板厚変動が図15の場合より小さくなる。
【0050】
図21には、本実施形態における減速時の板厚変動が示されている。この図から明らかなように、図16の場合よりさらに板厚変動が低減されることとなる。
なお、第3実施形態での板厚制御の手順は、第2実施形態の制御のフローチャートで示されるものとほぼ同じであるが、S4で求めるゲイン線図に、チューニング率の変更分が反映される点が異なっている。
【0051】
以上述べた第1実施形態〜第3実施形態の技術によれば、圧延を施す前の原板がコイルC状に巻かれていて、この原板にコイルC一巻きごとの硬度変動がある際に、圧延速度が変化する場合であっても、板厚変動が過大になることを防止し、板厚精度を向上させることができる。
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【符号の説明】
【0052】
1 圧延機
2 圧延スタンド
3 圧延ロール
4 板厚張力制御部
5 コイル台
6 板厚張力荷重制御部
7 板厚計
8 張力計
C コイル
W 圧延材
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延を施す前の原板がコイル状に巻かれていて、この原板にコイル一巻きごとの硬度変動がある際に、圧延速度が変化する場合であっても、板厚変動が過大になることを防止し板厚精度を向上させる板厚制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、薄鋼板等の圧延材は、加熱されたスラブや原板を複数の圧延スタンドを有する圧延機に導入して、連続的に圧延することで製造されており、最終圧延スタンドの下流側には、圧延終了後の圧延材を巻き取るための巻き取り装置が設けられている。
この圧延機での圧延においては、各圧延スタンドにおいて、板厚やスタンド間張力などを精度よく制御する必要がある。各圧延スタンドでの板厚やスタンド間張力の制御が不十分であると、仕上げ板厚が目標値から外れたり、安定した通板が得られないと行った不都合が生じる。
【0003】
特に、圧延を施す前の原板がコイル状に巻かれていて、この原板にコイル一巻きごとの硬度変動がある場合、板厚制御には細心の注意が必要である。
特許文献1〜特許文献3には、長手方向に硬度変動がある圧延材を圧延するに際して、フィードフォワード制御(FF制御)を行う技術が開示されている。
例えば、特許文献2の技術は、 原板に内在する硬度変動をタンデム圧延機の前段スタンド通過前後の板厚変化から推定し、推定された硬度変動による鋼板の塑性曲線の変化を相殺するように後段スタンドにおける鋼板張力をフィードフォワード制御するものとなっている。
【0004】
ところで、板厚制御系を用いて板厚制御を行うに際して、当該制御系に対する外乱の影響をすべての周波数帯域で抑制することが好ましい。とはいえ、全周波数域での外乱抑制が不可能であることは、「ウォーターベッド現象・・・ある周波数で外乱を抑制すると、他の周波数で外乱を増幅することをいう」として、広く知られているものであり、特許文献4に開示されている通りである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−158913号公報
【特許文献2】特開2003−326307号公報
【特許文献3】特開2008−126307号公報
【特許文献4】特開2002−15531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜特許文献3に開示された技術は、複数の圧延スタンドが備えられた圧延装置を用いて圧延材(コイル一巻きごとの硬度変動がある原板)を圧延するに際して、フィードフォワード制御(FF制御)を行うものである。
しかしながら、圧延材の板厚精度を向上させるためには、フィードバック制御(FB制御)を行った板厚制御方法が不可欠であり、これらの特許文献の技術を適用するだけでは、硬度変動が存在する圧延材の板厚制御方法(フィードバック板厚制御系)を確立することができないのが現状である。
【0007】
また、フィードバック制御系を用いた板厚制御方法を設計するに際しては、ウォーターベッド現象を考慮し、板厚変動が過大にならないようにする必要がある。この要求に対して、特許文献4は、ディスク装置におけるヘッドの位置決め技術を開示するものであって、圧延材の板厚制御に適用可能なものとはなっていない。
そこで、本発明は、上記問題点を鑑み、圧延を施す前の原板がコイル状に巻かれていて、この原板にコイル一巻きごとの硬度変動がある際に、圧延速度が変化する場合であっても、板厚変動が過大になることを防止し、板厚精度を向上させる板厚制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明の板厚制御方法は、複数の圧延スタンドが備えられた圧延機を用いて圧延材を圧延するに際し、フィードバック板厚制御系を用いつつ板厚の制御を行う板厚制御方法であって、前記フィードバック板厚制御系の共振周波数が圧延材の長手方向に存在する硬度変化に起因する硬度変動の周波数より小さくなるように、前記フィードバック板厚制御系を設計し、設計したフィードバック板厚制御系を用いて、圧延材の板厚の制御を行うことを特徴とする。
【0009】
好ましくは、前記圧延材を加速乃至は減速するに際して、前記加速乃至は減速の全速度範囲に亘って、前記設計したフィードバック板厚制御系を用いて、圧延材の板厚の制御を行うとよい。
好ましくは、前記フィードバック板厚制御系を設計するに際しては、前記圧延材の長手方向に存在する硬度変動によりフィードバック板厚制御系が共振状態とならないように、板厚変動のゲインを前記硬度変動の周波数に応じた値とするとよい。
【0010】
この板厚制御方法を採用して、板厚制御系が外乱を増幅する周波数が圧延材の硬度変動による周波数より低周波側となるように、板厚制御系の制御ゲインを設定することで、圧延材の硬度変動による板厚変動が過大となることを防止することができる。また、圧延材の硬度変動(外乱)に対して加減速中はその外乱を増幅せず、定常速度時にはハイゲインの制御系となっているので、低周波外乱抑制性を必要以上に損なわず、ステップ状やランプ状の外乱を確実に抑制可能である。
【0011】
好ましくは、前記設計したフィードバック板厚制御系を用いて、全ての圧延スタンドの出側板厚と、圧延スタンド間の張力を制御するに際しては、最終段に配備された圧延スタンドの圧延荷重を制御するとよい。
これにより、過大板厚変動防止に加えて、最終スタンドの荷重変動防止の効果が得られる。
【0012】
好ましくは、前記フィードバック板厚制御系においては、圧延スタンドの剛性を可変とし、当該フィードバック板厚制御系が出力する制御値を圧延スタンドへ適用する際のチューニング率を、0より大きく1以下にするとよい。
これにより、硬度変動による板厚変動を低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の板厚制御方法によれば、圧延を施す前の原板がコイル状に巻かれていて、この原板にコイル一巻きごとの硬度変動がある際に、圧延速度が変化する場合であっても、板厚変動が過大になることを防止し、板厚精度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態の発明が適用される圧延機を模式的に示した図である。
【図2】No.1圧延スタンドに対するAGC制御のブロック図である(従来例)。
【図3】No.iスタンド(i=2,3,4,5)圧延スタンドに対するAGC制御のブロック図である(従来例)。
【図4】載置台上に載置されたコイル材(圧延材がコイル状に巻かれたもの)を示した斜視図である。
【図5】圧延速度がそれぞれ、大、中、小の場合において、圧延材の硬度変動の変化を時間領域と周波数領域で示した図である。
【図6】硬度変動に対する板厚変動のゲイン線図を示す図である(従来例)。
【図7】硬度変動に対する板厚変動のゲイン線図が一定である条件下において、(a)は圧延速度が高速から低速に変化することを示した図であり、(b)は(a)の圧延速度変化に伴う板厚変動を示す図である(従来例)。
【図8】硬度変動の振幅に板厚変動のゲインを乗じた結果を示した図である。
【図9】圧延速度がそれぞれ、大、中、小の場合における、板厚変動の振幅を周波数領域で示す図である(従来例)。
【図10】No.1スタンドの板厚張力制御系に速度依存ゲイン1を追加した図である。
【図11】No.iスタンド(i=2,3,4,5)スタンドの板厚張力制御系に、速度依存ゲインti(i=2,3,4,5)、速度依存ゲインhi(i=2,3,4,5)を追加した図である。
【図12】圧延速度と速度依存ゲインの関係を示した図である。
【図13】速度依存ゲインを求める手順を示すフローチャートである。
【図14】圧延速度がそれぞれ大、中、小の場合における、硬度変動に対する板厚変動のゲイン線図を示す図である(本発明)。
【図15】圧延速度がそれぞれ大、中、小の場合における、板厚変動の振幅を周波数領域で示す図である(本発明)。
【図16】硬度変動に対する板厚変動のゲイン線図が一定である条件下において、(a)は圧延速度が高速から低速に変化することを示した図であり、(b)は(a)の圧延速度変化に伴う板厚変動を示す図である(本発明)。
【図17】第2実施形態の発明が適用される圧延機を模式的に示した図である。
【図18】荷重制御を行う場合の速度依存ゲインを求める手順を示すフローチャートである。
【図19】可変ミル剛性制御を用いるに際し、圧延速度がそれぞれ大、中、小の場合の硬度変動に対する板厚変動のゲイン線図を示す図である。
【図20】可変ミル剛性制御を用いるに際し、圧延速度がそれぞれ、大、中、小の場合の板厚変動の振幅を周波数領域で示す図である。
【図21】可変ミル剛性制御を用いるに際し、圧延速度変化に伴う板厚変動を示す図である。
【図22】(a)は、硬度変動に対する板厚変動のゲイン線図のピークの1例である。(b)は、硬度変動に対する板厚変動のゲイン線図のピークの他の例である。
【図23】圧延速度と速度依存ゲインとの関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明にかかる板厚制御方法が適用された圧延機1の実施の形態を、図をもとに説明する。
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の圧延機1を示す模式図である。圧延機1は複数(5基)の圧延スタンド2を有するタンデム型である。圧延スタンド2は上下一対の圧延ロール3を有している。最上流の圧延スタンド2に原板が通された後、次々と圧延スタンド2を通過する毎に圧下され、最終の圧延スタンド2を出たところで所定の仕上げ板厚となる。なお、最終段の圧延スタンド2の出側板厚が仕上げ板厚となる。圧延スタンド2の出側には、圧延材Wの板厚を計測可能な板厚計7が配備されており、圧延スタンド2間には、圧延材Wの張力を計測可能な張力計8(ルーパ機構)が設けられている。
【0016】
この圧延機1は板厚張力制御部4(制御部)を有しており、板厚張力制御部4により、各圧延スタンド2の圧下位置やロール速度が操作され、全ての圧延スタンド2の出側板厚とスタンド間張力が所定の板厚目標値と張力目標値に制御される。具体的には、板厚張力制御部4は、No.1〜No.5の圧延スタンド2の出側板厚と、No.1〜No.2、No.2〜No.3、No.3〜No.4、No.4〜No.5スタンド間張力を制御する。
【0017】
板厚張力制御部4の制御方法(制御系)としては、例えば、「高精度・高性能冷延鋼板圧延技術の開発、重松他、鉄と鋼、Vol.83、(1997)No.1、pp.54−59のp.58」に記載されたものでもよい。「冷間圧延機の多変数制御、山田、木村、計測自動制御学会論文集、Vol.15、No.5、pp.647−653」に開示された多変数制御でもよい。「冷延タンデムミル高精度板厚制御技術の開発、金井、安彦、澤田、電気学会研究会資料 金属産業研究会 MID−01−8、2001」に記載されている制御方法でもよい。
【0018】
以降、本実施形態では、上記した「冷延タンデムミル高精度板厚制御技術の開発」に記載されている制御方法を例示しつつ説明を進める。
図2は、No.1の圧延スタンド2(最上流側の圧延スタンド2)に適用されたAGC制御を示すブロック図である。この制御では、No.1圧延スタンド2の出側板厚が目標値と一致するように、No.1スタンドの圧下位置を操作する。
【0019】
図3は、No.iスタンド(i=2,3,4,5)の圧延スタンド2に適用されたAGC制御を示すブロック図である。No.i圧延スタンド2の出側板厚と、No.i−1〜 No.i圧延スタンド間張力を目標値と一致するように、No.i−1圧延スタンド2のロール速度と、No.i圧延スタンド2のロール圧下位置を操作する。なお、板厚実績値は、マスフロー一定則から計算されるマスフロー板厚である場合を含む。
【0020】
ところで、圧延材W(原板と呼ばれる圧延前の板材)には、長手方向に沿って硬度変動が存在する場合がある。これは、主に、コイルC一巻き毎に発生する硬度変動である。
図4に示されているように、具体的には、原板となるコイルC(圧延材Wを巻回したもの)をコイル台5上で冷却する場合に、冷却速度の差に起因して発生すると考えられている。つまり、コイルCの周面で載置台に接している部分は比較的早く冷却が進み、硬度が高く(圧延材Wが硬く)なり、載置台に接していない部分は冷却が遅く、硬度が低い(圧延材Wが柔らかい)ものとなる。
【0021】
このように、長手方向に硬度差を有する圧延材Wが圧延されると、硬度変動が「圧延機1入側板速/一巻きの長さ」の周波数で、圧延機1に印加されることとなる。
図5に、横軸を圧延速度(最終スタンドのロール速度または最終圧延スタンド2の出側の板速)にとり、圧延速度がそれぞれ、大、中、小の場合の例を示す。ここで、大、中、小とは、圧延速度が、「圧延速度小」<「圧延速度中」<「圧延速度大」の順に大きくなることを意味し、「圧延速度大」は最大圧延速度、「圧延速度小」は、板厚張力制御が動作する最小の圧延速度を意味する。圧延速度が小さくなるにつれて、周波数が低くなる。
【0022】
次に、図6に「仕上げ板厚変動/硬度変動」のゲイン線図を示す。
周波数0近傍の低周波の硬度変動に対しては、仕上げ板厚変動をほぼ0に抑制する。また、板厚張力制御系の制御帯域を超える高周波の硬度変動に対しては、板厚変動を抑制できず変動が生じる。さらに、高周波域と低周波域の間に、板厚制御系のむだ時間等の影響で、硬度変動により板厚変動が増大する周波数帯域が存在する。
【0023】
ここで、図6のゲイン線図が圧延速度により変化しないとすると、高速の定常部から減速する際、板厚変動は図7のようになることを、本願発明者らは数々の実験により知見している。これは、圧延速度が大きい場合から、中、小へと減速していくので、途中で板厚変動が過大になる速度域が存在することを意味する。
図8に示す如く、このようになる理由として、板厚変動の振幅は、硬度変動の振幅に硬度変動に対する板厚変動のゲインを乗じたものだからである。
【0024】
なお、図9に、圧延速度が大、中、小の場合における、周波数領域での板厚変動の振幅を太実線にて示す。太破線が硬度変動の振幅を示し、細破線が「仕上げ板厚変動/硬度変動」のゲイン線図を示す。
まとめれば、図7に示すように、圧延速度が大きい場合から、中、小へと減速していく途中で板厚変動が過大になる速度域が存在することが知見され、その理由として、板厚変動の振幅は、硬度変動の振幅に硬度変動に対する板厚変動のゲインを乗じたことが挙げられる。
【0025】
そこで、本願発明者らは、圧延材Wの長手方向に存在する硬度変動(外乱)により、フィードバック板厚制御系が共振状態とならないように、板厚変動のゲインを外乱の周波数に応じた適切なものとするフィードバック板厚制御系を設計した。言い換えれば、フィードバック板厚制御系の共振周波数が圧延材Wの長手方向に存在する硬度変化に起因する硬度変動の周波数より小さくなるように、フィードバック板厚制御系を設計することである。
【0026】
次に、第1実施形態に係る板厚制御方法について詳しく説明する。
図10、図11のように、板厚張力制御部4に、速度依存ゲイン1、速度依存ゲインti(i=2,3,4,5)、速度依存ゲインhi(i=2,3,4,5)を追加する。なお、この追加方法は一例であり、この追加方法に限定されるものではなく、制御系の特性を変更可能な方法であればよい。
【0027】
図12に、速度依存ゲインti、速度依存ゲインhiの速度依存状況の一例を示す。なお、図12は、最高速度が1000[mpm]の場合の速度依存ゲインであるが、横軸は、最高速度を100%とした%表示でもよい。この速度依存ゲインは、その速度における硬度変動の周波数より、板厚張力制御系の外乱を増幅するピークの周波数が低周波側になるように決定する。
【0028】
図13のフローチャートを用いて、速度依存ゲインを求める手順を説明する。
図13の説明において、速度依存ゲイン1、速度依存ゲインti(i=2,3,4,5)、速度依存ゲインhi(i=2,3,4,5)は全て同じとする。
まず、S101にて、最小圧延速度と最大圧延速度の両端を含む圧延速度の範囲で、速度依存ゲイン値を計算するための複数の圧延速度を決定する。例えば、ほぼ0〜1000[mpm]の場合に、200、400、600、800、1000[mpm]の5点を選ぶこととする。
【0029】
次に、S102にて、最初に速度依存ゲイン値を計算する圧延速度として、最小の圧延速度を選ぶ。本例では、200[mpm]を選ぶこととなる。
そして、S103にて、当該圧延速度での速度依存ゲイン値を十分に大きな値にセットする。具体的には、板厚張力制御系が不安定になるゲイン値より少し小さな値を設定する。例えば、不安定になるゲイン値の0.5倍の値に設定することができる。ここで、不安定になるゲイン値は、圧延機1と圧延材Wと板厚張力制御系のシミュレータを作成し、シミュレーションを実行することにより、決定することができる。
【0030】
シミュレータ作成については、公知の手法、例えば、「新日鐵技報 第357号 pp.53−57(1995)、ダイナミックシミュレータの開発と応用」を用いることができる。また、シミュレータソフトとしては、市販されているMathworks社のSimulinkを用いることができる。なお、SimulinkはMathworks社の登録商標である。
【0031】
ここで、圧延機1と圧延材Wの部分のシミュレータは、例えば、「板圧延の理論と実際、日本鉄鋼協会編、pp.119−124(1984)、(5.37)〜(5.45)」の式を用いることができる。
<板厚の式>
hi=Si+Pi/Mi (1)
<圧延荷重式>
Pi=P(H1,Hi,hi,qfi,qbi,ki,μi,b) (2)
<材料速度式>
vout,i=(1+fi)vRi (3)
vin,i=(1+εi)vRi (4)
ε=(1+f)h/H−1 (5)
fi=f(Hi,hi,H1,qfi,qbi,μi,ki) (6)
εi=ε(Hi,hi,H1,qfi,qbi,μi,ki) (7)
<スタンド間張力式>
qfi=E/L∫(vin,i+1−vout,i)dt (8)
qbi+1=hi/Hi+1・qfi (9)
なお、「板圧延の理論と実際、p.121」に記載のように、式(2)の圧延荷重は、公知のHillの式を用い、式(6)の先進率は、公知のBland&Fordの式を用いればよい。
【0032】
ここで、記号の意味は次のとおりである。
Hi:入側板厚、hi:出側板厚、H1:No1スタンド入側板厚、Pi:圧延荷重、
Mi:ミル剛性係数、qfi:前方張力、qbi:後方張力、μi:摩擦係数、
ki:変形抵抗、b:板幅、vin:材料流入速度、vout:材料流出速度、
vRi:ロール速度、E:ヤング率、L:スタンド間距離
なお、iは、Noiの圧延スタンド2を示す。
【0033】
圧下制御系や速度制御系は、「板圧延の理論と実際、p.122」に開示された制御系をシミュレータに組み込めばよく、板厚張力制御系は、図10、図11に開示された制御系をシミュレータに組み込めばよい。
続いて、S104にて、変形抵抗から仕上げ板厚変動へのゲイン線図を求める。これは、シミュレータにおける変形抵抗変動の周波数を変更してシミュレーションを繰り返し行い、ゲイン線図を描いてもよい。また、前述の「新日鐵技報 第357号 pp.53−57(1995)、ダイナミックシミュレータの開発と応用」に記載されているように、シミュレータを線形化してから求めてもよい。
【0034】
次に、S105にて、当該圧延速度での変形抵抗の変動周波数よりゲイン線図のピークが低いか否かを判定する。S105で低くないと判定された場合、S106にて、速度依存ゲイン値を小さくして、ゲイン線図の導出の手順を繰り返す。
ここで、ピークとは、周波数領域で硬度変動外乱を増幅する周波数範囲をいうものとする。周波数範囲の上下限は、図22(a)のように、例えば、ゲイン線図の最大値の半分となる周波数範囲と決めてもよい。また、図22(b)のように、ゲイン線図で最大値をとる周波数の±0.5デカードの範囲とすることもできる。なお、これらの決定方法に限定されるものではない。
【0035】
一方、S107にて、当該圧延速度での変形抵抗の変動周波数よりゲイン線図のピークが低ければ、得られたゲイン値を当該圧延速度での速度依存ゲイン値として記憶しておく。
次に、S108にて、上で決定した複数の圧延速度全てで、計算が終了したか否かを判断する。例えば、上の例では、200[mpm]について計算したが、400[mpm]以上では計算していない場合には、S109にて、400[mpm]の場合の速度依存ゲイン値を求める。これを全ての圧延速度で計算が終わるまで繰り返す。上の例では、1000[mpm]の圧延速度での計算が終わるまで繰り返す。
【0036】
以上の手順により得られた、圧延速度と当該圧延速度でのゲイン値との関係を、S110にて、速度域全体の速度依存ゲインとすることで、速度依存ゲインが得られることとなる。例えば、各圧延速度に対応して、図23(a)のようなテーブルが得られているとき、例えば、速度依存ゲインを図23(b)のようにすることができる。
そして、S111にて、この速度依存ゲインを用いて、板厚と張力を制御する。なお、速度依存ゲインを求めるまでのステップはオフラインで行い、板厚と張力の制御はオンラインで行う。
【0037】
このとき、図6の「仕上げ板厚変動/硬度変動」のゲイン線図は、圧延速度の変化により、図14のように変化する。すなわち、「仕上げ板厚変動/硬度変動」のゲインが増大するピークの周波数が低周波側に移動するとともに、ピークの大きさが小さくなる。また、図9は、図15のように変化する。つまり、圧延速度が大、中、小の場合の、周波数領域での板厚変動の振幅を太実線に示す。太破線が硬度変動の振幅を示し、細破線が「仕上げ板厚変動/硬度変動」のゲイン線図を示す。板厚変動が過大になることが防止可能となっている。
【0038】
減速時の板厚変動は、図7から図16のようになる。板厚変動の過大な増幅が防止され、図7の場合より板厚変動が低減される。
[第2実施形態]
次に、本発明に係る圧延機1の板厚制御方法の第2実施形態について、説明する。
本実施形態は、フィードバック板厚制御系の共振周波数が圧延材Wの長手方向に存在する硬度変化に起因する硬度変動の周波数より小さくなるように、フィードバック板厚制御系を設計し、設計したフィードバック板厚制御系を用いて、圧延材Wの板厚の制御を行う点では、第1実施形態とほぼ同じである。
【0039】
しかしながら、第2実施形態は、設計したフィードバック板厚制御系を用いて、全ての圧延スタンド2の出側板厚と、圧延スタンド2間の張力を制御するに際しては、最終段に配備された圧延スタンド2の圧延荷重も制御する点が異なっている。
以下、詳細を説明する。
図17に、第2実施形態における制御対象である圧延機1が示されている。この圧延機1の板厚張力荷重制御部6(制御部)は、板厚と張力と荷重とを制御する。板厚、張力、荷重を制御する制御系としては、例えば、特開2010−172960号公報「連続圧延機1の板厚制御方法及び板厚制御装置」の技術を用いることができる。
【0040】
図18には、第2実施形態の制御のフローチャートが示されており、この手順に従って、速度依存ゲインを求める。本実施形態においては、速度依存ゲイン1、速度依存ゲインti(i=2,3,4,5)、速度依存ゲインhi(i=2,3,4,5)は全て同じとする。
まず、図18のS201において、最小圧延速度と最大圧延速度の両端を含む圧延速度の範囲で、速度依存ゲイン値を計算するための複数の圧延速度を決定する。例えば、0〜1000[mpm]の場合に、200、400、600、800、1000[mpm]の5点を選ぶこととする。
【0041】
次に、S202において、最初に速度依存ゲイン値を計算する圧延速度として、最小の圧延速度を選ぶ。本例では、200[mpm]を選ぶこととなる。
そして、S203において、当該圧延速度での速度依存ゲイン値を十分に大きな値にセットする。具体的には、板厚張力荷重制御系が不安定になるゲイン値より少し小さな値を設定する。例えば、不安定になるゲイン値の0.5倍の値に設定することができる。ここで、不安定になるゲイン値は、圧延機1と圧延材Wと板厚張力荷重制御系のシミュレータを作成し、シミュレーションを実行することにより、決定することができる。
【0042】
シミュレータ作成については、公知の手法、例えば、「新日鐵技報 第357号 pp.53−57(1995)、ダイナミックシミュレータの開発と応用」を用いることができる。また、シミュレータソフトとしては、市販されているMathworks社の、Simulinkを用いることができる。なお、SimulinkはMathworks社の登録商標である。
【0043】
ここで、圧延機1と圧延材Wの部分のシミュレータは、既述のように、例えば、「板圧延の理論と実際、日本鉄鋼協会編、pp.119−124(1984)の式を用いることができる。具体的には、前述した式(1)〜式(9)が該当する。
制御系の部分については、圧下系や速度制御系は、「板圧延の理論と実際、p.122」に開示されたモデルをシミュレータに組み込めばよく、板厚張力荷重制御系は、図10、図11の板厚張力制御系に加えて、特開2010−172960号公報「連続圧延機1の板厚制御方法及び板厚制御装置」の図1の荷重制御系(荷重制御モデル)をシミュレータに組み込めばよい。
【0044】
続いて、S204にて、変形抵抗から仕上げ板厚変動へのゲイン線図を求める。これは、シミュレータにおける変形抵抗変動の周波数を変更してシミュレーションを繰り返し行い、ゲイン線図を描いてもよい。また、前述の新日鐵技報に記載されているように、シミュレータを線形化してから求めてもよい。
S205にて、当該圧延速度での変形抵抗の変動周波数よりゲイン線図のピークが低くなければ、S206にて、速度依存ゲイン値を小さくして、ゲイン線図の導出の手順を繰り返す。ここで、ピークとは、周波数領域で硬度変動外乱を増幅する周波数範囲をいうものとする。周波数範囲の上下限は、図22(a)のように、例えば、ゲイン線図の最大値の半分となる周波数範囲と決めてもよい。また、図22(b)のように、ゲイン線図で最大値をとる周波数の±0.5デカードの範囲とすることもできる。なお、これらの決定方法に限定されるものではない。
【0045】
一方、S207にて、当該圧延速度での変形抵抗の変動周波数よりゲイン線図のピークが低ければ、得られたゲイン値を当該圧延速度での速度依存ゲイン値として記憶しておく。
次に、S208にて、上で決定した複数の圧延速度全てで、計算が終了したか否かを判断する。例えば、上の例では、200[mpm]について計算したが、400[mpm]以上では計算していない場合には、S209にて、400[mpm]の場合の速度依存ゲイン値を求める。これを全ての圧延速度で計算が終わるまで繰り返す。上の例では、1000[mpm]の圧延速度での計算が終わるまで繰り返す。
【0046】
以上の手順により得られた圧延速度と当該圧延速度でのゲイン値との関係を、S210にて、速度域全体の速度依存ゲインとすることで、速度依存ゲインが得られることとなる。
例えば、各圧延速度に対応して、図23(a)のようなテーブルが得られているとき、速度依存ゲインを図23(b)のようにすることができる。そして、S211にて、この速度依存ゲインを用いて、板厚と張力と荷重とを制御する。なお、速度依存ゲインを求めるまでのステップはオフラインで行い、板厚と張力と荷重との制御はオンラインで行う。
【0047】
これにより、加減速時に、コイルC一巻き毎の周期的な硬度変動に加えて、先尾端のみが硬いなどランプ状やステップ状の硬度変動が存在する場合に、荷重変動を低減する効果がある。
[第3実施形態]
次に、本発明に係る圧延機1の板厚制御方法の第3実施形態について、説明する。
【0048】
本実施形態は、第2実施形態で開示した板厚制御方法に対して、さらに、圧延スタンド2の剛性を可変とし、当該フィードバック板厚制御系が出力する制御値を圧延スタンド2へ適用する際のチューニング率を、0より大きく1以下にするようにしている。他の点では、第2実施形態とほぼ同じである。
具体的には、第2実施形態で開示したフィードバック板厚制御方法に、「板圧延の理論と実際、p.300」に記載の可変ミル剛性制御を併用する。なお、文献中の「スケールファクタ」を「チューニング率」と呼ぶ。このチューリング率を0より大きく1以下の値にすることにより、硬度変動や板厚変動に対して、板厚変動を小さくできる。
【0049】
これは、ロール3ギャップの制御系の応答が板厚張力荷重制御系の応答よりも速いため、板厚変動低減の制御帯域が広く、硬度変動の周波数が制御帯域に含まれるからである。このとき、「仕上げ板厚変動/硬度変動」のゲイン線図は、圧延速度の変化により、図19のように変化する。圧延速度が大、中、小の場合の、周波数領域での板厚変動の振幅を図20の太実線に示す。太破線が硬度変動の振幅を示し、細破線が「仕上げ板厚変動/硬度変動」のゲイン線図を示す。板厚変動が図15の場合より小さくなる。
【0050】
図21には、本実施形態における減速時の板厚変動が示されている。この図から明らかなように、図16の場合よりさらに板厚変動が低減されることとなる。
なお、第3実施形態での板厚制御の手順は、第2実施形態の制御のフローチャートで示されるものとほぼ同じであるが、S4で求めるゲイン線図に、チューニング率の変更分が反映される点が異なっている。
【0051】
以上述べた第1実施形態〜第3実施形態の技術によれば、圧延を施す前の原板がコイルC状に巻かれていて、この原板にコイルC一巻きごとの硬度変動がある際に、圧延速度が変化する場合であっても、板厚変動が過大になることを防止し、板厚精度を向上させることができる。
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【符号の説明】
【0052】
1 圧延機
2 圧延スタンド
3 圧延ロール
4 板厚張力制御部
5 コイル台
6 板厚張力荷重制御部
7 板厚計
8 張力計
C コイル
W 圧延材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の圧延スタンドが備えられた圧延機を用いて圧延材を圧延するに際し、フィードバック板厚制御系を用いつつ板厚の制御を行う板厚制御方法であって、
前記フィードバック板厚制御系の共振周波数が圧延材の長手方向に存在する硬度変化に起因する硬度変動の周波数より小さくなるように、前記フィードバック板厚制御系を設計し、
設計したフィードバック板厚制御系を用いて、圧延材の板厚の制御を行うことを特徴とする板厚制御方法。
【請求項2】
前記圧延材を加速乃至は減速するに際して、前記加速乃至は減速の全速度範囲に亘って、前記設計したフィードバック板厚制御系を用いて、圧延材の板厚の制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の板厚制御方法。
【請求項3】
前記フィードバック板厚制御系を設計するに際しては、前記圧延材の長手方向に存在する硬度変動によりフィードバック板厚制御系が共振状態とならないように、板厚変動のゲインを前記硬度変動の周波数に応じた値としていることを特徴とする請求項1又は2に記載の板厚制御方法。
【請求項4】
前記設計したフィードバック板厚制御系を用いて、全ての圧延スタンドの出側板厚と、圧延スタンド間の張力を制御するに際しては、最終段に配備された圧延スタンドの圧延荷重を制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の板厚制御方法。
【請求項5】
前記フィードバック板厚制御系においては、圧延スタンドの剛性を可変とし、
当該フィードバック板厚制御系が出力する制御値を圧延スタンドへ適用する際のチューニング率を、0より大きく1以下にすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の板厚制御方法。
【請求項1】
複数の圧延スタンドが備えられた圧延機を用いて圧延材を圧延するに際し、フィードバック板厚制御系を用いつつ板厚の制御を行う板厚制御方法であって、
前記フィードバック板厚制御系の共振周波数が圧延材の長手方向に存在する硬度変化に起因する硬度変動の周波数より小さくなるように、前記フィードバック板厚制御系を設計し、
設計したフィードバック板厚制御系を用いて、圧延材の板厚の制御を行うことを特徴とする板厚制御方法。
【請求項2】
前記圧延材を加速乃至は減速するに際して、前記加速乃至は減速の全速度範囲に亘って、前記設計したフィードバック板厚制御系を用いて、圧延材の板厚の制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の板厚制御方法。
【請求項3】
前記フィードバック板厚制御系を設計するに際しては、前記圧延材の長手方向に存在する硬度変動によりフィードバック板厚制御系が共振状態とならないように、板厚変動のゲインを前記硬度変動の周波数に応じた値としていることを特徴とする請求項1又は2に記載の板厚制御方法。
【請求項4】
前記設計したフィードバック板厚制御系を用いて、全ての圧延スタンドの出側板厚と、圧延スタンド間の張力を制御するに際しては、最終段に配備された圧延スタンドの圧延荷重を制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の板厚制御方法。
【請求項5】
前記フィードバック板厚制御系においては、圧延スタンドの剛性を可変とし、
当該フィードバック板厚制御系が出力する制御値を圧延スタンドへ適用する際のチューニング率を、0より大きく1以下にすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の板厚制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2013−86168(P2013−86168A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231650(P2011−231650)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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