板材の端部処理方法及びブラスト加工装置
【課題】マスキング等の下処理を行うことなしに幅0.5mm以下の糸面取りを高精度で均一に行うことができる板材の端部処理方法を提供する。
【解決手段】スリット状の開口21を備えたスリットノズル20を,前記スリット状の開口21の長手方向が板材10の端部に形成されたエッジ11の長手方向に沿うように,且つ,前記スリットノズル20先端と前記エッジ11の頂部間の距離D〔図2(A)参照〕が3mm以下となるように配置して,前記スリットノズル20を介して粒径が♯600以下の研磨材(♯600以上の高番手の研磨材)を0.1〜0.5MPaの噴射圧力で前記エッジ11に向けて噴射すると共に,噴射された研磨材及び前記板材10に付着した研磨材及び切削粉を研磨材の噴射方向前方より平均風速30m/sec以上で吸引して回収する。
【解決手段】スリット状の開口21を備えたスリットノズル20を,前記スリット状の開口21の長手方向が板材10の端部に形成されたエッジ11の長手方向に沿うように,且つ,前記スリットノズル20先端と前記エッジ11の頂部間の距離D〔図2(A)参照〕が3mm以下となるように配置して,前記スリットノズル20を介して粒径が♯600以下の研磨材(♯600以上の高番手の研磨材)を0.1〜0.5MPaの噴射圧力で前記エッジ11に向けて噴射すると共に,噴射された研磨材及び前記板材10に付着した研磨材及び切削粉を研磨材の噴射方向前方より平均風速30m/sec以上で吸引して回収する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は板材の端部処理方法及びこの方法に使用するブラスト加工装置に関し,より詳細には,板材,特にガラス板等の硬質脆性材料から成る板材の端部に生じたエッジの糸面取りやバリ取り等のエッジ処理に適した端部処理の方法,及びこれを実施するためのブラスト加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属やガラス,その他の板材,特に大型の板材から切り出して得た板材では,そのままの状態では端部に鋭利なエッジが形成されていたり,金属板等ではバリが付着している等して,この部分に直接手で触れるとけがをするおそれがあり,また,この部分に接触した物を傷付けるおそれがあることから,エッジの角を落とす面取りや,バリ取り等といった端部処理が一般に行われる。
【0003】
特に,ガラスや石英,サファイア,セラミックス,シリコンウェハー等の硬質で,且つ,脆性を有する材料でできた板材にあっては,側面を鏡面にしたとしても,鋭利な形状のエッジが残っていると,このエッジの部分が欠け易くなっているため,このような硬質脆性材料の板材に曲げ応力を加えると,エッジ部分に生じた欠けを起点として板材全体が簡単に割れてしまう。
【0004】
そのため,このような硬質脆性材料の板材に対して,面取りや糸面取り等のエッジ処理を行うことは,板材の強度を改善する上でも重要である。
【0005】
ここで,前述した板材のうち,ガラス板について見ると,このガラス板は,液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等のフラットディスプレイ用の基板としての用途があり,このような用途では,薄いガラス板に対する需要が高まっている結果,エッジ等の端部処理についても微小で正確な加工,例えば0.5mm幅以下の糸面取りを誤差なく正確かつ精密に行うことが要求されるようになっている。
【0006】
このような板材の糸面取りは,従来,図9に示すように回転する溝付き砥石110の溝111内に板材100の端部を挿入して研磨する方法や,図10に示すように,回転する砥石車120の平面121に処理対象とする板材100端部のエッジ101を接触させることにより一般的に行われており,回転する砥石車120の平面121に対して接触させることによる面取りとしては,一例として図11に示すように,ガラス板100の各平面102,103に対しそれぞれ傾斜された2枚の砥石車120,120を設け,この砥石車120,120間でガラス板100の端部を挟持するようにして研磨することで,エッジ101の面取りを行う方法も提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
なお,切削加工の一種として,被加工物の加工面に対し圧縮気体と共に砥粒を噴射する加工方法としてサンドブラストは公知であり,このようなサンドブラストは,これを例えば板材の端部に対して行うことで,エッジを除去して端部に丸み付けを行うために使用される場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−26195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述した研磨方法のうち,図9に示すように溝付き砥石110によって面取りを行う場合,砥石110と板材100のエッジ101との接触は点接触となるために,この接触部分で砥石110が比較的早期に摩耗したり,目詰まりを起こす。
【0010】
このような摩耗や目詰まりが生じた砥石110を使用し続けると,変形や目詰まりが生じる前後で加工された製品間に大きなばらつきが生じてしまうために,微細な加工を高精度で行うことが要求されるフラットディスプレイ等の分野で利用されるガラス基板の加工に対応することができない。
【0011】
そのため,このように板材との接触部分に摩耗や目詰まりが生じた砥石は,その他の部分に摩耗や目詰まりが生じていない場合であっても,砥石そのものの交換が必要となることから,この方法による研磨において加工精度を上げようとすれば,頻繁に砥石を交換する必要があり,コストが嵩む。
【0012】
一方,図10を参照して説明したように,回転する砥石車120の平面121に対し板材100のエッジ101を押し当てて面取りを行う方法では,砥石車120が局部的に摩耗することを防止でき,図9を参照して説明した溝を備えた砥石110を使用して研磨する場合に比較して,砥石の寿命を長くすることができる。
【0013】
しかしこの方法では,砥石車120の平面121に対してエッジ101を押し付けるように板材100に対し加工圧力がかけられるため,板材100が反ってしまうという問題があり,また,板材100の表裏に存在するエッジ101,101の双方に対してそれぞれ加工を行う必要があり,両エッジを同時に処理できる図9に記載の方法に比較して作業性が劣る。
【0014】
なお,前掲の特許文献1に記載の方法では,2つの砥石車120,120間で挟持するように板材100の表裏に生じたエッジ101,101を同時に除去することから,効率的に面取りを行うことができると共に,板材100にかかる加工圧力が相殺されて板材100に反りが生じることを防止でき,図10を参照して説明した研磨方法の前述した欠点が解消されている。
【0015】
しかし,前掲の特許文献1に記載の方法では,2つの砥石車120,120によって生じる加工圧力F1,F2がうまくバランスしていないと,両エッジ101,101に対して均一な加工を行うことができず,また,板材100に対し反りを生じさせる可能性がある。
【0016】
また,砥石を使用した硬質脆性材料の研磨全般に言えることであるが,ガラス板のような硬質脆性材料から成る板材を研磨すると,「ハマ欠け」や「ピリ欠け」と呼ばれる貝殻形状の欠けに代表される種々の欠け(以下,このような欠けの発生を総称して「チッピング」という。)が生じ易く,また,切削時の衝撃によりクラックやマイクロクラックと呼ばれる微小なクラックが発生し易く,このような欠けやクラックの発生は,板材に曲げ応力が加わった際に破断の起点となって板材の曲げ強度を著しく低下させる一方,研磨によって欠けやクラックを完全に除去することは困難である。
【0017】
なお,このようなチッピングやクラックの発生は,水や油等の研磨液を砥石と被加工物の間に供給することによってある程度抑制することは可能であるが,このようにして研磨液の供給を行うと,研磨液と切削屑との混合物が被加工物の表面に付着して被加工物を汚すこととなるため,研磨後の被加工物を洗浄するための一工程を設ける必要があり,作業工数が増える分,労力負担が増加して板材の端部処理にかかるコストを上昇させることとなる。
【0018】
なお,前述したように,サンドブラストは,板材のエッジ部分を除去して丸みを付けるような処理に際して使用される場合もある。
【0019】
しかし,既知の一般的なサンドブラスト加工では,加工後の被加工物表面は梨地になる等して,表面を高精度に平坦化することができず,また,砥粒が衝突した際の衝撃により,加工面にクラックやマイクロクラックを生じさせることから,ガラス板等の硬質脆性材料から成る板材の研磨に使用することは,むしろ曲げ強度等の低下につながることから,硬質脆性材料から成る板材の強度向上を目的とした面取り加工や,クラック,マイクロクラックの除去を目的とした研磨にサンドブラストは適用されていない。
【0020】
しかも,既知の一般的なサンドブラスト加工では,圧縮気体と共に噴射された研磨材を正確に,限定された範囲に衝突させて加工することが難しく,従って,前述したエッジの面取り等に使用しようとすると,面取り部分のみならずその周辺に対しても数ミリから数十ミリの範囲に迄加工が及んでしまい,高精度の加工を行うことができない。
【0021】
そのため,このようなサンドブラストによる切削において,糸面取りのように微小な加工範囲に限定して被加工物の切削を行おうとすれば,加工が及んではいけない部分をマスキングによって保護することが必要となり,被加工物に対するマスク材の貼着や研磨作業後のマスク材の除去等といった,煩雑な作業が必要となる。
【0022】
更に,既知の一般的なサンドブラストでは,被加工物に対して砥粒や切削粉が付着することから,多くの場合,切削加工後に被加工物を洗浄する工程を設ける必要があり,作業工数が増える。
【0023】
本発明は,上記従来技術における欠点を解消するためになされたものであり,各種材質の板材に対し広く適用できるものでありながら,硬質脆性材料の板材を処理対象とした場合であってもチッピングやクラックの発生が無く,また,マスキング等の下処理を行うことなしに必要部分に限定して微細な加工(一例として,幅0.5mm以下の糸面取り,好ましくは幅0.1mm程度の極微細な糸面取り)についても高精度で均一に行うことができ,更に,砥石や砥粒等の消耗が少なく経済的に処理を行うことができ,しかも,被加工物に対する汚れの付着を防止でき,加工後の洗浄工程を省略できる板材の端部処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
以下に,課題を解決するための手段を,発明を実施するための形態で使用する符号と共に記載する。この符号は,特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態の記載との対応を明らかにするためのものであり,言うまでもなく,本願発明の技術的範囲の解釈に制限的に用いられるものではない。
【0025】
上記目的を達成するために,本発明の板材の端部処理方法は,
ノズルチップ22にスリット状の開口21が形成されたスリットノズル20を,前記スリット状の開口21の長手方向が板材10の端部に形成された処理対象とするエッジ11の長手方向に沿うように,且つ,前記スリットノズル20先端と前記エッジ11の頂部間の距離D〔図2(A)参照〕が3mm以下となるように配置して,前記スリットノズル20を介して粒径が♯600以下の研磨材(♯600以上の高番手の研磨材)を0.1〜0.5MPaの噴射圧力で前記エッジ11に向けて噴射すると共に,
噴射された研磨材及び前記板材10に付着した研磨材及び切削粉を,前記研磨材の噴射方向前方より平均風速30m/sec以上で吸引して回収することを特徴とする(請求項1)。
【0026】
上記構成の板材の端部処理方法において,前記研磨材の噴射方向を,前記板材の平面に対し45°〜85°の傾斜角θ〔図2(A),図3(A)参照〕で傾斜させることができる(請求項2)。
【0027】
また,前記スリットノズル20の前記ノズルチップ22を,ダイヤモンド,コランダム(ルビー,サファイア),炭化ホウ素,超硬合金,又はジルコニアで形成することが好ましい(請求項3)。
【0028】
このスリットノズル20の開口幅Wは,0.1〜3mm,好ましくは0.2〜1.0mmである(請求項4)。
【0029】
なお,前記板材10の端部側面12の幅方向両端に形成されたエッジ11,11に対し,それぞれ同時に研磨材を噴射するものとしても良い(請求項5:図4参照)。
【0030】
更に,前記エッジ11,11に対する研磨材の噴射に加え,前記板材10の端部側面12に対し,更に粒径が♯600以下の研磨材を0.1〜0.5MPaの噴射圧力で噴射するものとしても良い(請求項6:図5参照)。
【0031】
また,前述した板材の端部処理に使用する本発明のブラスト加工装置1は,ノズルチップ22にスリット状の開口21が形成されたスリットノズル20を備え,前記スリットノズル20を介して粒径が♯600以下の研磨材を圧縮気体と共に0.1〜0.5MPaの噴射圧力で噴射する研磨材噴射手段3と,
前記スリット状の開口21の長手方向が,被加工物である板材10の端部に形成された処理対象とするエッジ11の長手方向に沿うように,且つ,前記スリットノズル20先端と前記エッジ11の頂部間の距離が3mm以下となるように前記板材を前記スリットノズル20の噴射方向前方に配置可能と成すワーク台4と,
前記研磨材の噴射方向前方において開口する吸入口51aを備え,前記スリットノズル20より噴射された研磨材及び被加工物に付着した研磨材及び切削粉を前記研磨材の噴射方向前方より平均風速30m/sec以上で吸引して回収する吸引手段5を備えたことを特徴とする(請求項7)。
【0032】
前記構成のブラスト加工装置1において,前記スリットノズル20を前記板材10の端部に形成されたエッジ11の長手方向に沿って移動可能とした場合,前記吸引手段の前記吸入口を前記スリットノズル20の移動に伴い前記研磨材の噴射方向前方に移動させる,図示せざるリンク機構を設けることが好ましい(請求項8)。
【0033】
更に,前記スリットノズル20の前記ノズルチップ22は,これをダイヤモンド,コランダム,炭化ホウ素,超硬合金又はジルコニアで形成することが好ましい(請求項9)。
【0034】
また,前記スリットノズル20の開口幅は0.1〜3mmの範囲とすることが好ましい(請求項10)。
【0035】
更に,上記構成を備えたブラスト加工装置1において,前記板材10の端部側面の幅方向両端に形成されたエッジ11,11に対し,それぞれ同時に研磨材を噴射する複数の前記スリットノズル20(図4に示す例では2本のスリットノズル20,20)を備えるものとしても良く(請求項11),この構成において,前記板材10の端部側面12に対し,粒径が♯600以下の研磨材を0.1〜0.5MPaの噴射圧力で噴射する更に別のブラストノズル(図5参照)を設けるものとしても良い(請求項12)。
【発明の効果】
【0036】
以上説明した本発明の構成により,本発明の板材の端部処理方法及びブラスト加工装置によれば,以下の顕著な効果を得ることができた。
【0037】
ノズルをスリットノズル20としたこと,このスリットノズル20を被加工物に十分に近付けて研磨材を噴射したこと,比較的小粒径の微粉研磨材を所定の噴射圧力で噴射したこと,及び研磨材の噴射時,噴射された研磨材を噴射方向の前方より所定の風速で吸引したことにより,マスキング等を行うことなく,必要な範囲内に限定して高精度,一例として面取りによって形成される面15の幅Wp〔図2(A)中の拡大図参照〕が0.5mm以下の糸面取り,最小で幅Wpが0.1mm程度の極微細な糸面取り迄も正確,且つ,高効率に行うことができ,しかも,ガラス板のように硬質脆性材料から成る板材10を処理対象とした場合であっても,チッピングやクラックを発生させることなく,また,スクライブ等の前加工で生じたクラック等を除去して,板材の曲げ強度を向上させることのできる端部処理を行うことができた。
【0038】
また,前述したように圧縮気体による研磨材の噴射という乾式の処理方法で板材の端部処理を行うため,水や油等の研磨液やこれらに混入した研磨材や切削粉が被加工物に付着することがなく,しかも,噴射された研磨材及び被加工物に付着した研磨材及び切削粉を比較的速い風速で吸引して回収するものとしたため,板材10に対する研磨材や切削粉の付着がなく,端部処理後の板材10を洗浄等する工程が不要となった。
【0039】
なお,長尺の板材10を加工する場合等,スリットノズル20を板材10に形成されたエッジ11の長手方向に移動させる場合には,このスリットノズルの移動に連動して前記吸引を行う吸引手段5の吸入口51aをリンク機構(図示せず)を使用して同様に移動させることで,前述した位置関係を容易に維持することができた。
【0040】
前記研磨材の噴射方向を,前記板材10の平面13(又は14)に対し45°〜85°の傾斜角θで行うことにより,この傾斜角θの選択に応じて面取りによって形成された面15の前記平面13(又は14)に対する傾斜角を制御することができた。
【0041】
なお,傾斜角θが45°より鋭角の場合には,エッジ11の除去は可能であるが,面取りによって形成された面15が完全な平面とならず,湾曲した断面形状となる(図7参照)。
【0042】
スリットノズル20のノズルチップ22を,ダイヤモンド,コランダム(ルビー,サファイア),炭化ホウ素,超硬合金,又はジルコニアといった耐久性のある超硬材料で製造したことにより,高硬度の研磨材を使用した場合であってもノズルチップ22を摩耗し難くすることができた。その結果,ノズルの噴射口を長時間に亘り一定の寸法に維持することができ,製品間に生じる加工精度のばらつきを更に低減させることができた。
【0043】
前記スリットノズル20の開口幅を0.2〜1.0mmとした構成にあっては,より高精度での加工が可能となった。
【0044】
なお,前記板材10の端部側面12の幅方向両端に形成されたエッジ11,11に対し,それぞれ同時に研磨材を噴射する構成(図4参照)では,2つのエッジ11,11を同時に処理することができ,作業性を向上させることができた。
【0045】
更に,前記エッジ11,11に対する研磨材の噴射に加え,板材10の端部側面12に対しても,同程度の粒径の研磨材を同程度の噴射圧力で噴射することにより(図5参照),側面12の面粗さを改善して,前工程の例えばスクライブ等でこの部分に生じたクラックやマイクロクラックの除去を,糸面取りと同時に行うことができた。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明で使用するスリットノズルの一例を示す斜視説明図。
【図2】本発明の方法における板材(端部が直線の板材)とスリットノズルの位置関係の説明図であり,(A)は側面視,(B)は平面視。
【図3】本発明の方法における板材(端部が曲線の板材)とスリットノズルの位置関係の説明図であり,(A)は側面視,(B)は平面視。
【図4】本発明の方法により板材端部の2つのエッジを2方向からの研磨材の噴射により同時に糸面取りする場合の加工例を示した説明図。
【図5】本発明の方法により板材端部の2つのエッジと側面を3方向からの研磨材の噴射により同時に処理する場合の加工例を示した説明図。
【図6】本発明のブラスト加工装置の概略説明図。
【図7】本発明の方法で加工したガラス板(実施例1:噴射角30°)の端部断面模式図。
【図8】本発明の方法で加工したガラス板(実施例5)の端部を撮影した写真。
【図9】従来の板材端部処理方法の説明図(溝付き砥石による研磨)。
【図10】従来の板材端部処理方法の説明図(砥石車の平面による研磨)。
【図11】従来の板材端部処理方法の説明図(特許文献1の図2Aに対応)。
【発明を実施するための形態】
【0047】
次に,本発明の実施形態につき添付図面を参照しながら以下説明する。
【0048】
〔被加工物〕
本発明の方法で処理対象とする被加工物は,板材であれば各種材質のものが対象となり,金属,セラミックス,ガラス,石英,サファイア,アクリル等の合成樹脂板等の各種材質の板材を対象とすることができ,これらの積層構造を取るものであっても良い。
【0049】
もっとも,本発明の方法による端部処理方法は,セラミックス,ガラス,石英,サファイア,シリコンウェハーや,タングステンカーバイト等の超硬合金といったように,硬質であるが脆性を有する材質,従って,砥石による研磨においてチッピングやクラックが生じ易い材質から成る板材に,チッピングやクラックを発生させることなく,且つ,糸面取りや前処理(例えばスクライブ等)で生じたクラック等を除去するために研磨する端部処理に適している。
【0050】
板材の平面形状は特に限定されるものではなく,例えば円板形のように処理対象とする板材10の平面視における輪郭が曲線のみによって構成されたもの,又は扇形のように一部に曲線を含む形状であっても本発明の方法による処理対象とすることができる。
【0051】
もっとも,加工精度を一定に維持し易く,また,同時に比較的広い範囲を処理できることから,処理対象とする板材10端部は直線により構成されていること,例えば矩形板のような形状が好ましい。
【0052】
但し,輪郭が曲線により構成されているものであっても,ロボットにノズルおよび後述する吸引管を保持させ加工することにより容易に面取りすることが可能である。
【0053】
〔研磨材〕
研磨に使用する研磨材の材質は,処理対象とする板材の材質に応じて各種材質から選択可能であり,一例としてガラス板を加工対象とする場合,ガラスの研磨に際して一般的に使用されているダイヤモンドの粉体や,酸化セリウムの粉体の他,アランダムやカーボランダム,その他セラミックス系の研磨材等が使用可能である。
【0054】
使用する研磨材の粒径は,粒径が大きくなると切削量が大きくなるため微細な加工を行うことが難しくなると共に,ガラス板等の硬質脆性材料から成る板材を被加工物とした際にクラックやマイクロクラックを生じさせる等,板材10にダメージを与えてしまい,端部処理によってかえって板材の曲げ強度を低下させてしまうこととなるから,粒度が♯600より高番手(小粒径)の微粉研磨材,より好ましくは,♯1000よりも高番手(小粒径)の微粉研磨材を使用する。
【0055】
〔噴射装置〕(ブラスト加工装置)
上記研磨材の噴射は,圧縮気体,例えば圧縮空気と共に研磨材を噴射する形式の既知の各種のエアー式のブラスト加工装置を使用して行うことが可能であるため,その基本構造の説明は省略する。
【0056】
但し,既知の一般的なブラスト加工装置では,ノズル先端に形成された開口が円形である,所謂「丸型ノズル」を使用した噴射が一般的であるのに対し,本発明の方法で使用するブラスト加工装置では,噴射ノズルとして先端開口がスリット状であるスリットノズルを備えたブラスト加工装置を使用する点において異なる。
【0057】
また,本発明の処理方法に使用するブラスト加工装置では,前述のスリットノズルより噴射された研磨材や研磨の際に生じた切削粉を高い風速で吸引する吸引手段を備えている点でも,既知の一般的な噴射装置とは相違する。
【0058】
(1)スリットノズル
一般的なブラスト加工装置では,ノズルチップに円形の開口を設けた丸型ノズルを使用して研磨材の噴射を行うが,本発明の処理方法では,このような丸型ノズルではなく,例えば図1に示すようにノズルチップ22にスリット状の開口21が形成されたスリットノズル20を使用して研磨材の噴射を行う。
【0059】
このスリットノズル20に設けるスリット状の開口21の幅Wは,広すぎると加工範囲が広がり高精度の加工が難しくなる一方,狭すぎると開口21内を通過する圧縮気体の流速が高くなり開口21内壁の摩耗が激しくなること,また,スリット状の開口21の幅が広い場合,研磨材の噴射粒層が厚くなって加工に供しない不要な噴射粒が多くなり無駄となると共に,スリット幅が過度に狭い場合,研磨材と圧縮気体との混合流体の通過抵抗が大きくなり,コンプレッサ等の圧縮気体供給源として過度に高性能のものが必要となり無駄となることから,好ましくは0.1〜3.0mm,より好ましくは0.2〜1.0mmの範囲である。
【0060】
また,スリット状開口21の開口長さLは,被加工物である板材10の一辺の長さや形状に応じて決定することができるが,開口長さLが短すぎると同時に加工できる範囲が狭くなり加工効率が低下する一方,スリット状開口21長がL長すぎると,スリットからの研磨材の流速をスリット長手方向に均一にすることが容易ではなく,加工ムラを起こす。またスリット長が長くなるに伴いノズルの重量が大きくなり,そのために加工精度を維持するためには,剛性のある構造にしなければならない。
【0061】
一例としてスリット状開口21の好ましい開口長は,2〜50mm,より好ましくは3〜20mm程度である。
【0062】
スリットノズル20のノズルチップ22は,既知のブラスト加工装置の噴射ノズルのノズルチップの材質として使用されている焼入れ鋼やタングステンカーバイト等の超硬合金,アルミナ等のセラミックス等の材質で形成するものとしても良いが,被加工物である板材が硬質材料である場合,従って,研磨材としても高硬度の研磨材を使用する場合,前述した一般的なノズルチップの材質に比較してより耐久性のある材料で形成することで,噴射時に通過する研磨材による摩耗を抑えてスリット状開口が拡大変形することを防止し,経時に伴い加工条件が変化することを防止することが好ましい。
【0063】
このような耐久性のあるノズルチップの材質としては,ダイヤモンド,炭化ホウ素,コランダム(ルビー,サファイア),ジルコニアといた超硬材料を使用することができ,中でも特に,ダイヤモンドの使用が好ましい。
【0064】
一例として,ダイヤモンド製のノズルチップを使用した場合,♯1000のWA研磨材を,0.3MPaの噴射圧力で60時間噴射した後においても,スリット状開口の一辺側における摩耗量を20μmに抑えることができ,例えば炭化ホウ素製のノズルチップに比較して寿命を10倍に延ばすことができた。
【0065】
(2)吸引手段
前記構成のスリットノズル20より噴射された研磨材は,この研磨材の噴射方向前方に配置された吸入口51aを有する吸引手段5によって,平均風速30m/sec以上で吸引して回収される。
【0066】
本実施形態にあっては,図6に示すように,ブラスト加工装置1の加工室2内に配置した吸入ホース51の一端開口をスリットノズル20の開口21に向けて配置することで前述の吸入口51aとし,この吸入ホース51の他端を,加工室2外に設けたプロワ52に連結して,前記吸入口51aより平均風速30m/sec以上の吸引力を発生させることができるようにしている。
【0067】
なお,図示の例では,加工室2内に前述の吸入ホースを設けるものとして説明したが,噴射された研磨材を吸引し得るものであれば,吸入ホースに代え,ダクト,その他の構成を採用しても良い。
【0068】
吸引手段に設ける前述の吸入ホース51や吸入ダクトの形状は,前述した吸引力を発揮し得るものであれば,円筒状,角筒状等,その断面形状については特に限定されないが,スリットノズル20より噴射された研磨材が,加工室2内で飛散することなく,これを確実に回収することができるよう,吸入口51aをスリットノズル20に設けたスリット状の開口21の開口長Lよりも大きな開口径,好ましくはスリット状の開口21の開口長Lの1.5〜2.5倍の開口径に形成し,周囲に研磨材の飛散させることなく,確実に吸引して回収できるようにしている。
【0069】
なお,吸引手段5に設けた吸入口51aの開口径を,スリット状開口21の開口長に対し2.5倍を越えて大きくすると,平均風速30m/sec以上の吸引を行うためには大型のプロワが必要となり,経済的でない。
【0070】
また,吸入口51aをスリットノズルや被加工物より過度に離して配置する場合にも,スリットノズル20より噴射された研磨材を全量回収できない場合が生じ得ることから,スリットノズル20の先端から吸入口51aまでの距離は,10mm〜50mmとすることが好ましい。
【0071】
なお,吸引手段5は,スリットノズル20による噴射方向延長上の正確な位置に吸入口を開口している必要があり,長尺の被加工物を加工する場合のようにスリットノズル20を移動させながら加工を行う場合には,一例としてスリットノズル20と前述の吸入ホース51を,リンク機構(図示せず)によって連結して,スリットノズル20の移動に対応して吸入ホース51の吸入口51aを移動させることができるように構成して,スリットノズル20によって行われる研磨材の噴射方向前方に常に吸入口51aが配置されるように構成する。
【0072】
(3)その他の構成(研磨材噴射手段等)
なお,図6中の符号32は,研磨材加圧タンクであり,研磨材が投入された研磨材加圧タンク32内に,コンプレッサ等の圧縮気体供給源31からの圧縮気体を導入して内部を加圧すると共に,研磨材加圧タンク32から圧縮気体と研磨材との混合流体を前述したスリットノズル20に供給することで,研磨材の噴射を行うことができるように構成している。
【0073】
従って,図6に示すブラスト加工装置1の構成では,研磨材加圧タンク32,圧縮気体供給源31,及び研磨材加圧タンク32内の研磨材及び圧縮空気をスリットノズル20に導入するゴムホース等の配管類によって,研磨材噴射手段3が構成されている。
【0074】
なお,図6に示す例では,研磨材噴射手段3が研磨材加圧タンク32を備えた,所謂「直圧式」の構成として示したが,圧縮気体の流路中に設けたエジェクタで生じた負圧によって研磨材タンク内の研磨材を吸引して圧縮気体流に合流させて噴射する,所謂「サクション式」の構成を備えた研磨材噴射手段を設けるものとしても良い。
【0075】
また,前述したスリットノズル20と吸入手段5の吸入口51aの間に,被加工物である板材10のエッジ11を所定の状態に配置することができるよう,ブラスト加工装置1には,ワーク台4や,このワーク台4に対し板材10を固定するための治具(図示せず)等を設ける。
【0076】
なお,ブラスト加工装置1には,前述した吸入口51aによる吸引とは別に,前記吸引手段5を構成するブロワ52,又は前記ブロワ52とは別のブロワによって,よって加工室2内全体を15m/sec程度の風速で吸引できるようにして,吸入口51aより回収できなかった研磨材や切削粉等を回収できるようにしても良い。
【0077】
〔処理方法〕
以上で説明した被加工物である板材10に対する前述した研磨材の噴射は,図2(B)及び図3(B)に示すように,スリットノズル20のスリット状開口21の長さ方向(スリットノズル20の幅方向)が,板材10の端部に形成されたエッジ11の長手方向に沿うように配置すると共に,スリットノズル20の先端と,エッジ11の先端間距離Dが3mm以下となるように配置した状態で研磨材の噴射を行う。
【0078】
ここで,一般的なブラスト加工では,ノズルと被加工物間の距離(噴射距離)は,50〜200mm程度とすることが一般的であるが,本発明の方法では,これに対し3mm以下という極めて接近した位置で研磨材の噴射を行うことで,マスキング等を行うことなく,高精度に糸面取りを行うことができるものとなっている。
【0079】
被加工物である板材10の端部が図2(B)に示すように直線によって形成されたものである場合には,スリット状開口21の長さL方向とエッジ11の長さ方向とが平行となるように配置することで,また,図3(B)に示すように板材10の端部が曲線によって形成されたものである場合には,一例としてこの曲線に対する接線tを想定し,この接線tと平行で,接点pがスリット状開口21の長さL方向の中間位置mと対応する位置となるようにスリットノズル20を配置する。
【0080】
このように板材10の端部が曲線によって形成されている場合,スリットノズル20の先端とエッジ頂部間の距離である3mm以下は,スリット状開口21の長さL方向の中間位置mと前記接点p間の距離として設定する。
【0081】
なお,板材表面13に対し,面取りによって形成される面15が成す角度に対応した角度で研磨材が投射されるよう,傾斜角θを設定する。
【0082】
このように傾斜角θは,面取りによって形成される面15を如何なる傾斜角で形成するかにより設定されるものであり,加工対象とする板材10に施す最終的な加工状態に従って選択されるものであるが,一例としてこの傾斜角θの範囲は,45°〜85°であり,45°より鋭角として噴射を行う場合,面取りによって形成される面15が,図7に示すように完全に平坦とはならず湾曲した断面形状となることから,より高精度の平坦面を形成するためには,好ましくは45°以上の噴射角度で研磨材を噴射する。
【0083】
また,面取りにより形成される面15の幅Wpに応じ,スリットノズル20の位置を図2(A)中紙面左右方向に調整し,図2(A)中,紙面右側にスリットノズル20を移動すると面取りによって形成される面15の幅Wpは狭く,図2(A)中左側にスリットノズル20を移動させると面15の幅Wpは広くなり,一例として図2(A)中の拡大図に示すように,面取りによって形成される面15の延長上に,前記開口21の幅方向の一端21a(板材10に近い側の一端)が位置するように,スリットノズル20の位置を調整する。
【0084】
従って,前述したようにスリットノズル20のスリット状開口21が摩耗によって拡大した場合,この拡大後スリット状開口21の幅方向の一端21aが面取りによって形成される面15の延長上に位置するようスリットノズル20の配置を調整できるよう,加工時間とノズルチップ22の摩耗量との関係を予め取得しておくことで,これに対応してスリットノズル20の位置を加工時間に対応して例えば自動補正することで,ノズルチップ22の摩耗による加工条件(噴射位置)の変化を補正できるようにしても良い。
【0085】
以上のようにして被加工物である板材10とスリットノズル20の位置を調整した後,前述したスリットノズル20より研磨材を0.1MPa〜0.3MPaの噴射圧力で圧縮気体,本実施形態にあっては圧縮空気と共に噴射すると共に,前述した吸引手段によって噴射された研磨材とこの研磨材が板材10の端部に衝突することにより生じた切削粉とを風速30m/sec以上で吸引して回収する。
【0086】
処理対象とする板材10が比較的小型であり,一辺の長さが短い場合,スリットノズル20の開口21の長さLを板材10の一辺以上の長さに形成して,スリットノズル20と板材10の位置を固定した状態で加工を行うものとしても良く,板材10の端部が,スリットノズル20の開口21の長さLに対して長い場合には,前述したスリットノズル20と板材10の位置関係を維持しつつ,図2(B),図3(B)中に矢印で示すように,スリットノズル20をエッジ11の長手方向に相対的に移動させ,端部の全長に亘り糸面取り加工を行うようにしても良い。
【0087】
スリットノズル20より噴射された研磨材は,板材10の端部におけるエッジ11を正確に研磨し,面取りによって形成される面15の幅Wpが0.5mm以下,最小で0.1mm程度の極微細な糸面取りであっても,高精度に加工することができる。
【0088】
しかも,通常のブラスト加工では,マスキングを行うことなく加工を行った場合,加工部分と未加工部分との間に明確な境界が出来ず,境界がぼやけたものとなるが,本発明の方法で糸面取りを行った板材10を観察すると,面取りによって形成された面15と板材10の元の平面13との境界線が明確に現れていると共に,面取りされることなく残った平面部分に対し,研磨が及んでいる様子は確認できなかった。
【0089】
また,ガラス板に対して行った加工でも,前記粒径,前記噴射圧力での研磨材の噴射によって板材10にチッピングやクラックが生じることはなく,また,この加工の際に板材10の加工部に加わる力は,0.3N程度であるため,この加工によって板材が反る心配も無い。
【0090】
また,噴射された研磨材,及び研磨によって生じた切削粉は,吸引手段による平均風速30m/sec以上という高速吸引によって回収されることから,加工後の板材10に対する研磨材や切削粉の付着も無い。
【0091】
このようにして,本発明の方法によれば,マスキング等を行うことなしに,また,チッピングやクラックを発生させることなしに,高精度な糸面取りを高効率で行うことができ,しかも加工後の板材に対する研磨材や切削粉の付着がなく,加工後の洗浄工程を省略することができるものであった。
【0092】
〔変更例〕
図2及び図3を参照して説明した実施形態では,板材10の片側に形成されたエッジ11に対する糸面取りに関して説明したが,本発明の端部処理方法は,図4に示すように,板材10の側面12の幅方向両端に形成されたエッジ11,11に対し,2方向より研磨材を噴射して同時に糸面取りを行うように構成しても良い。
【0093】
このように2つのエッジ11,11に対し2方向より同時に処理を行うことで,加工時間を大幅に短縮することができると共に,研磨材の噴射時に板材10の加工部に両面13,14側から均等に力が加わるために,板材10に反りが生じることをより確実に防止することができる。
【0094】
更に,図4に記載の構成に加え,板材10の側面12に対しても♯600より高番手の研磨材を0.1〜0.3MPaの噴射圧力で噴射することで,3方向より同時に研磨材を噴射して,エッジ11,11の糸面取りと,板材の側面12の研磨とを同時に行うようにしても良い。
【0095】
この場合,側面12に対する研磨材の噴射についても,エッジ11,11に対する研磨材の噴射と同じくスリットノズルを使用して,同様の噴射距離で研磨材を噴射するものとしても良いが,側面12に対する噴射については,板材10に対してクラックの発生やマイクロクラックの発生等のダメージを与えることが防止できる前述した粒径,及び噴射圧力での研磨材の噴射であれば,既知の丸型ノズルを使用して噴射を行っても良く,更には,既知の一般的な噴射距離で研磨材の噴射を行っても良い。
【0096】
このように,側面12に対する研磨を同時に行うことで,ガラス板等の硬質脆性材料の板材10を処理対象とした場合であっても,スクライブ等を行った際に側面12に生じているクラック等を糸面取りと同時に効率的に除去することができ,板材の曲げ強度を大幅に改善することができる。
【実施例】
【0097】
ガラス板に対し,本発明の方法により面取りを行った例を,比較例と共に加工実施例として以下に示す。
【0098】
〔被加工物〕
実施例及び比較例共に,機械的な方法によってスクライビングしたソーダライムガラスの板(80mm×50mm×1.8mm)を処理対象とした。
【0099】
〔共通する加工条件〕
図5に示すように,被加工物の端部に対し,三方より同時に研磨材の噴射を行い,エッジ部の糸面取りと,ガラス板の側面研磨とを同時に行った。この際のガラス板のエッジとスリットノズル先端間の距離は,いずれの例においても共に3mmで固定した。なお,この距離が3mmを越えたものはエッジ部以外に加工が及び,面取り加工自体を行うことができなかったため,実験例の記載を省略する。
【0100】
〔各加工条件と実験結果〕
実施例及び比較例のそれぞれに対する加工条件と,加工後の被加工物に対する評価結果を,それぞれ下記の表1に示す。
【0101】
下記の表1において「抗折強度」は,基準片の抗折強度を100%とした時の各試験片の抗折強度をパーセンテージで表したものであり,基準片として,前述したガラス板に対し,♯1000の砥石にて各端面を加工すると共に,各エッジに対し,C0.2mmの糸面取りを行ったものを使用した。
【0102】
また,抗折強度の測定は,インストロン社製の「5582型万能試験機」を使用して行い,試験片(ガラス板)の両端寄りを60mmピッチで支持し,試験片の中央に0.5mm/minで荷重をかけていき,破断した荷重(N)を測定し,試験片10枚の平均値を求めた。
【0103】
なお,「研磨材」における「D50(μm)」とは,メジアン径と呼ばれるもので,研磨材の粒度の累計(個数分布)が50%の点の粒子径を示す。
【0104】
【表1】
【0105】
〔試験結果に対する考察〕
以上の試験結果から,研磨材の粒径が,♯600よりも低番手である(粒径が大きい)♯320の研磨材を使用した比較例では,本願所定のノズル距離及び噴射圧力で研磨材を噴射した場合であっても,抗折強度が63%と基準片に対し大きな低下を示していることが確認された。
【0106】
このことから,比較例の試験片では,粒径の大きな研磨材を使用したことでガラス板にクラックやマイクロクラックが発生しており,これらが破断の起点となって抗折強度を低下させているものと考えられる。
【0107】
これに対し,実施例1〜5では,95%〜110%という高い抗折強度を示すことが確認されており,粒径が♯600以上の高番手(小粒径)の研磨材を使用することで,破断の起点となるクラックやマイクロクラックの発生を抑制でき,ガラス板に対してダメージを与えることなく面取り加工ができたものと考えられる。
【0108】
また,このような抗折強度の維持乃至は向上は,噴射圧力0.1〜0.5MPaの全範囲において確認された。
【0109】
更に,基準片に対して抗折強度が維持乃至は向上されている実施例1〜5の加工例を比較すると,噴射角度が45°の実施例3では,面取りによって,平坦な面が形成できている一方,噴射角度を30°に迄減少させた実施例1の方法で加工したガラス板では,ガラス板の周縁におけるエッジの除去により抗折強度は105%と,基準片を上回っているものの,面取り後に形成された面がきれいな平坦とはなっておらず,図7に示すように湾曲した断面形状を有するものとなっていた。
【0110】
このことから,噴射角度を45°未満としても,破断の発生原因となる鋭利なエッジの除去という,面取りの主要な目的は達成できるものの,面取りによって美しい平坦面を形成しようとした場合には,噴射角度を45°以上の角度とすることが好ましく,この噴射角度は,85°まで増大させた場合であっても,面取りにより高精度の平坦面を形成することが確認できた(実施例4)。
【0111】
なお,図8は,実施例5に記載の方法で加工を行ったガラス板を幅方向にスクライブして得た切断面を撮影した拡大写真である。
【0112】
図8から明らかなように,本発明の方法では,ブラスト加工によって面取りを行うものでありながら,切除部分以外には加工が及んでおらず,しかも,面取りによって形成される面を,高精度の平坦面とすることができた。
【符号の説明】
【0113】
1 ブラスト加工装置
2 加工室
3 研磨材噴射手段
4 ワーク台
5 吸引手段
10 板材
11 エッジ
12 端部側面
13,14 平面
15 面取りによって形成される面
20 スリットノズル
21 (スリット状)開口
22 ノズルチップ
31 圧縮気体供給源
32 研磨材加圧タンク
51 吸入ホース
51a 吸入口
52 ブロワ
L 開口21の長さ
W 開口21の幅
θ 傾斜角
D ノズル先端とエッジ間の距離
Wp 面15の幅
t 接線
p 接点
m 開口21の長手方向の中間位置
100 板材(ガラス板)
101 エッジ
102,103 平面(板材の)
110 溝付き砥石
111 溝
120 砥石車
121 平面(砥石車の)
【技術分野】
【0001】
本発明は板材の端部処理方法及びこの方法に使用するブラスト加工装置に関し,より詳細には,板材,特にガラス板等の硬質脆性材料から成る板材の端部に生じたエッジの糸面取りやバリ取り等のエッジ処理に適した端部処理の方法,及びこれを実施するためのブラスト加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属やガラス,その他の板材,特に大型の板材から切り出して得た板材では,そのままの状態では端部に鋭利なエッジが形成されていたり,金属板等ではバリが付着している等して,この部分に直接手で触れるとけがをするおそれがあり,また,この部分に接触した物を傷付けるおそれがあることから,エッジの角を落とす面取りや,バリ取り等といった端部処理が一般に行われる。
【0003】
特に,ガラスや石英,サファイア,セラミックス,シリコンウェハー等の硬質で,且つ,脆性を有する材料でできた板材にあっては,側面を鏡面にしたとしても,鋭利な形状のエッジが残っていると,このエッジの部分が欠け易くなっているため,このような硬質脆性材料の板材に曲げ応力を加えると,エッジ部分に生じた欠けを起点として板材全体が簡単に割れてしまう。
【0004】
そのため,このような硬質脆性材料の板材に対して,面取りや糸面取り等のエッジ処理を行うことは,板材の強度を改善する上でも重要である。
【0005】
ここで,前述した板材のうち,ガラス板について見ると,このガラス板は,液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等のフラットディスプレイ用の基板としての用途があり,このような用途では,薄いガラス板に対する需要が高まっている結果,エッジ等の端部処理についても微小で正確な加工,例えば0.5mm幅以下の糸面取りを誤差なく正確かつ精密に行うことが要求されるようになっている。
【0006】
このような板材の糸面取りは,従来,図9に示すように回転する溝付き砥石110の溝111内に板材100の端部を挿入して研磨する方法や,図10に示すように,回転する砥石車120の平面121に処理対象とする板材100端部のエッジ101を接触させることにより一般的に行われており,回転する砥石車120の平面121に対して接触させることによる面取りとしては,一例として図11に示すように,ガラス板100の各平面102,103に対しそれぞれ傾斜された2枚の砥石車120,120を設け,この砥石車120,120間でガラス板100の端部を挟持するようにして研磨することで,エッジ101の面取りを行う方法も提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
なお,切削加工の一種として,被加工物の加工面に対し圧縮気体と共に砥粒を噴射する加工方法としてサンドブラストは公知であり,このようなサンドブラストは,これを例えば板材の端部に対して行うことで,エッジを除去して端部に丸み付けを行うために使用される場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−26195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述した研磨方法のうち,図9に示すように溝付き砥石110によって面取りを行う場合,砥石110と板材100のエッジ101との接触は点接触となるために,この接触部分で砥石110が比較的早期に摩耗したり,目詰まりを起こす。
【0010】
このような摩耗や目詰まりが生じた砥石110を使用し続けると,変形や目詰まりが生じる前後で加工された製品間に大きなばらつきが生じてしまうために,微細な加工を高精度で行うことが要求されるフラットディスプレイ等の分野で利用されるガラス基板の加工に対応することができない。
【0011】
そのため,このように板材との接触部分に摩耗や目詰まりが生じた砥石は,その他の部分に摩耗や目詰まりが生じていない場合であっても,砥石そのものの交換が必要となることから,この方法による研磨において加工精度を上げようとすれば,頻繁に砥石を交換する必要があり,コストが嵩む。
【0012】
一方,図10を参照して説明したように,回転する砥石車120の平面121に対し板材100のエッジ101を押し当てて面取りを行う方法では,砥石車120が局部的に摩耗することを防止でき,図9を参照して説明した溝を備えた砥石110を使用して研磨する場合に比較して,砥石の寿命を長くすることができる。
【0013】
しかしこの方法では,砥石車120の平面121に対してエッジ101を押し付けるように板材100に対し加工圧力がかけられるため,板材100が反ってしまうという問題があり,また,板材100の表裏に存在するエッジ101,101の双方に対してそれぞれ加工を行う必要があり,両エッジを同時に処理できる図9に記載の方法に比較して作業性が劣る。
【0014】
なお,前掲の特許文献1に記載の方法では,2つの砥石車120,120間で挟持するように板材100の表裏に生じたエッジ101,101を同時に除去することから,効率的に面取りを行うことができると共に,板材100にかかる加工圧力が相殺されて板材100に反りが生じることを防止でき,図10を参照して説明した研磨方法の前述した欠点が解消されている。
【0015】
しかし,前掲の特許文献1に記載の方法では,2つの砥石車120,120によって生じる加工圧力F1,F2がうまくバランスしていないと,両エッジ101,101に対して均一な加工を行うことができず,また,板材100に対し反りを生じさせる可能性がある。
【0016】
また,砥石を使用した硬質脆性材料の研磨全般に言えることであるが,ガラス板のような硬質脆性材料から成る板材を研磨すると,「ハマ欠け」や「ピリ欠け」と呼ばれる貝殻形状の欠けに代表される種々の欠け(以下,このような欠けの発生を総称して「チッピング」という。)が生じ易く,また,切削時の衝撃によりクラックやマイクロクラックと呼ばれる微小なクラックが発生し易く,このような欠けやクラックの発生は,板材に曲げ応力が加わった際に破断の起点となって板材の曲げ強度を著しく低下させる一方,研磨によって欠けやクラックを完全に除去することは困難である。
【0017】
なお,このようなチッピングやクラックの発生は,水や油等の研磨液を砥石と被加工物の間に供給することによってある程度抑制することは可能であるが,このようにして研磨液の供給を行うと,研磨液と切削屑との混合物が被加工物の表面に付着して被加工物を汚すこととなるため,研磨後の被加工物を洗浄するための一工程を設ける必要があり,作業工数が増える分,労力負担が増加して板材の端部処理にかかるコストを上昇させることとなる。
【0018】
なお,前述したように,サンドブラストは,板材のエッジ部分を除去して丸みを付けるような処理に際して使用される場合もある。
【0019】
しかし,既知の一般的なサンドブラスト加工では,加工後の被加工物表面は梨地になる等して,表面を高精度に平坦化することができず,また,砥粒が衝突した際の衝撃により,加工面にクラックやマイクロクラックを生じさせることから,ガラス板等の硬質脆性材料から成る板材の研磨に使用することは,むしろ曲げ強度等の低下につながることから,硬質脆性材料から成る板材の強度向上を目的とした面取り加工や,クラック,マイクロクラックの除去を目的とした研磨にサンドブラストは適用されていない。
【0020】
しかも,既知の一般的なサンドブラスト加工では,圧縮気体と共に噴射された研磨材を正確に,限定された範囲に衝突させて加工することが難しく,従って,前述したエッジの面取り等に使用しようとすると,面取り部分のみならずその周辺に対しても数ミリから数十ミリの範囲に迄加工が及んでしまい,高精度の加工を行うことができない。
【0021】
そのため,このようなサンドブラストによる切削において,糸面取りのように微小な加工範囲に限定して被加工物の切削を行おうとすれば,加工が及んではいけない部分をマスキングによって保護することが必要となり,被加工物に対するマスク材の貼着や研磨作業後のマスク材の除去等といった,煩雑な作業が必要となる。
【0022】
更に,既知の一般的なサンドブラストでは,被加工物に対して砥粒や切削粉が付着することから,多くの場合,切削加工後に被加工物を洗浄する工程を設ける必要があり,作業工数が増える。
【0023】
本発明は,上記従来技術における欠点を解消するためになされたものであり,各種材質の板材に対し広く適用できるものでありながら,硬質脆性材料の板材を処理対象とした場合であってもチッピングやクラックの発生が無く,また,マスキング等の下処理を行うことなしに必要部分に限定して微細な加工(一例として,幅0.5mm以下の糸面取り,好ましくは幅0.1mm程度の極微細な糸面取り)についても高精度で均一に行うことができ,更に,砥石や砥粒等の消耗が少なく経済的に処理を行うことができ,しかも,被加工物に対する汚れの付着を防止でき,加工後の洗浄工程を省略できる板材の端部処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
以下に,課題を解決するための手段を,発明を実施するための形態で使用する符号と共に記載する。この符号は,特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態の記載との対応を明らかにするためのものであり,言うまでもなく,本願発明の技術的範囲の解釈に制限的に用いられるものではない。
【0025】
上記目的を達成するために,本発明の板材の端部処理方法は,
ノズルチップ22にスリット状の開口21が形成されたスリットノズル20を,前記スリット状の開口21の長手方向が板材10の端部に形成された処理対象とするエッジ11の長手方向に沿うように,且つ,前記スリットノズル20先端と前記エッジ11の頂部間の距離D〔図2(A)参照〕が3mm以下となるように配置して,前記スリットノズル20を介して粒径が♯600以下の研磨材(♯600以上の高番手の研磨材)を0.1〜0.5MPaの噴射圧力で前記エッジ11に向けて噴射すると共に,
噴射された研磨材及び前記板材10に付着した研磨材及び切削粉を,前記研磨材の噴射方向前方より平均風速30m/sec以上で吸引して回収することを特徴とする(請求項1)。
【0026】
上記構成の板材の端部処理方法において,前記研磨材の噴射方向を,前記板材の平面に対し45°〜85°の傾斜角θ〔図2(A),図3(A)参照〕で傾斜させることができる(請求項2)。
【0027】
また,前記スリットノズル20の前記ノズルチップ22を,ダイヤモンド,コランダム(ルビー,サファイア),炭化ホウ素,超硬合金,又はジルコニアで形成することが好ましい(請求項3)。
【0028】
このスリットノズル20の開口幅Wは,0.1〜3mm,好ましくは0.2〜1.0mmである(請求項4)。
【0029】
なお,前記板材10の端部側面12の幅方向両端に形成されたエッジ11,11に対し,それぞれ同時に研磨材を噴射するものとしても良い(請求項5:図4参照)。
【0030】
更に,前記エッジ11,11に対する研磨材の噴射に加え,前記板材10の端部側面12に対し,更に粒径が♯600以下の研磨材を0.1〜0.5MPaの噴射圧力で噴射するものとしても良い(請求項6:図5参照)。
【0031】
また,前述した板材の端部処理に使用する本発明のブラスト加工装置1は,ノズルチップ22にスリット状の開口21が形成されたスリットノズル20を備え,前記スリットノズル20を介して粒径が♯600以下の研磨材を圧縮気体と共に0.1〜0.5MPaの噴射圧力で噴射する研磨材噴射手段3と,
前記スリット状の開口21の長手方向が,被加工物である板材10の端部に形成された処理対象とするエッジ11の長手方向に沿うように,且つ,前記スリットノズル20先端と前記エッジ11の頂部間の距離が3mm以下となるように前記板材を前記スリットノズル20の噴射方向前方に配置可能と成すワーク台4と,
前記研磨材の噴射方向前方において開口する吸入口51aを備え,前記スリットノズル20より噴射された研磨材及び被加工物に付着した研磨材及び切削粉を前記研磨材の噴射方向前方より平均風速30m/sec以上で吸引して回収する吸引手段5を備えたことを特徴とする(請求項7)。
【0032】
前記構成のブラスト加工装置1において,前記スリットノズル20を前記板材10の端部に形成されたエッジ11の長手方向に沿って移動可能とした場合,前記吸引手段の前記吸入口を前記スリットノズル20の移動に伴い前記研磨材の噴射方向前方に移動させる,図示せざるリンク機構を設けることが好ましい(請求項8)。
【0033】
更に,前記スリットノズル20の前記ノズルチップ22は,これをダイヤモンド,コランダム,炭化ホウ素,超硬合金又はジルコニアで形成することが好ましい(請求項9)。
【0034】
また,前記スリットノズル20の開口幅は0.1〜3mmの範囲とすることが好ましい(請求項10)。
【0035】
更に,上記構成を備えたブラスト加工装置1において,前記板材10の端部側面の幅方向両端に形成されたエッジ11,11に対し,それぞれ同時に研磨材を噴射する複数の前記スリットノズル20(図4に示す例では2本のスリットノズル20,20)を備えるものとしても良く(請求項11),この構成において,前記板材10の端部側面12に対し,粒径が♯600以下の研磨材を0.1〜0.5MPaの噴射圧力で噴射する更に別のブラストノズル(図5参照)を設けるものとしても良い(請求項12)。
【発明の効果】
【0036】
以上説明した本発明の構成により,本発明の板材の端部処理方法及びブラスト加工装置によれば,以下の顕著な効果を得ることができた。
【0037】
ノズルをスリットノズル20としたこと,このスリットノズル20を被加工物に十分に近付けて研磨材を噴射したこと,比較的小粒径の微粉研磨材を所定の噴射圧力で噴射したこと,及び研磨材の噴射時,噴射された研磨材を噴射方向の前方より所定の風速で吸引したことにより,マスキング等を行うことなく,必要な範囲内に限定して高精度,一例として面取りによって形成される面15の幅Wp〔図2(A)中の拡大図参照〕が0.5mm以下の糸面取り,最小で幅Wpが0.1mm程度の極微細な糸面取り迄も正確,且つ,高効率に行うことができ,しかも,ガラス板のように硬質脆性材料から成る板材10を処理対象とした場合であっても,チッピングやクラックを発生させることなく,また,スクライブ等の前加工で生じたクラック等を除去して,板材の曲げ強度を向上させることのできる端部処理を行うことができた。
【0038】
また,前述したように圧縮気体による研磨材の噴射という乾式の処理方法で板材の端部処理を行うため,水や油等の研磨液やこれらに混入した研磨材や切削粉が被加工物に付着することがなく,しかも,噴射された研磨材及び被加工物に付着した研磨材及び切削粉を比較的速い風速で吸引して回収するものとしたため,板材10に対する研磨材や切削粉の付着がなく,端部処理後の板材10を洗浄等する工程が不要となった。
【0039】
なお,長尺の板材10を加工する場合等,スリットノズル20を板材10に形成されたエッジ11の長手方向に移動させる場合には,このスリットノズルの移動に連動して前記吸引を行う吸引手段5の吸入口51aをリンク機構(図示せず)を使用して同様に移動させることで,前述した位置関係を容易に維持することができた。
【0040】
前記研磨材の噴射方向を,前記板材10の平面13(又は14)に対し45°〜85°の傾斜角θで行うことにより,この傾斜角θの選択に応じて面取りによって形成された面15の前記平面13(又は14)に対する傾斜角を制御することができた。
【0041】
なお,傾斜角θが45°より鋭角の場合には,エッジ11の除去は可能であるが,面取りによって形成された面15が完全な平面とならず,湾曲した断面形状となる(図7参照)。
【0042】
スリットノズル20のノズルチップ22を,ダイヤモンド,コランダム(ルビー,サファイア),炭化ホウ素,超硬合金,又はジルコニアといった耐久性のある超硬材料で製造したことにより,高硬度の研磨材を使用した場合であってもノズルチップ22を摩耗し難くすることができた。その結果,ノズルの噴射口を長時間に亘り一定の寸法に維持することができ,製品間に生じる加工精度のばらつきを更に低減させることができた。
【0043】
前記スリットノズル20の開口幅を0.2〜1.0mmとした構成にあっては,より高精度での加工が可能となった。
【0044】
なお,前記板材10の端部側面12の幅方向両端に形成されたエッジ11,11に対し,それぞれ同時に研磨材を噴射する構成(図4参照)では,2つのエッジ11,11を同時に処理することができ,作業性を向上させることができた。
【0045】
更に,前記エッジ11,11に対する研磨材の噴射に加え,板材10の端部側面12に対しても,同程度の粒径の研磨材を同程度の噴射圧力で噴射することにより(図5参照),側面12の面粗さを改善して,前工程の例えばスクライブ等でこの部分に生じたクラックやマイクロクラックの除去を,糸面取りと同時に行うことができた。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明で使用するスリットノズルの一例を示す斜視説明図。
【図2】本発明の方法における板材(端部が直線の板材)とスリットノズルの位置関係の説明図であり,(A)は側面視,(B)は平面視。
【図3】本発明の方法における板材(端部が曲線の板材)とスリットノズルの位置関係の説明図であり,(A)は側面視,(B)は平面視。
【図4】本発明の方法により板材端部の2つのエッジを2方向からの研磨材の噴射により同時に糸面取りする場合の加工例を示した説明図。
【図5】本発明の方法により板材端部の2つのエッジと側面を3方向からの研磨材の噴射により同時に処理する場合の加工例を示した説明図。
【図6】本発明のブラスト加工装置の概略説明図。
【図7】本発明の方法で加工したガラス板(実施例1:噴射角30°)の端部断面模式図。
【図8】本発明の方法で加工したガラス板(実施例5)の端部を撮影した写真。
【図9】従来の板材端部処理方法の説明図(溝付き砥石による研磨)。
【図10】従来の板材端部処理方法の説明図(砥石車の平面による研磨)。
【図11】従来の板材端部処理方法の説明図(特許文献1の図2Aに対応)。
【発明を実施するための形態】
【0047】
次に,本発明の実施形態につき添付図面を参照しながら以下説明する。
【0048】
〔被加工物〕
本発明の方法で処理対象とする被加工物は,板材であれば各種材質のものが対象となり,金属,セラミックス,ガラス,石英,サファイア,アクリル等の合成樹脂板等の各種材質の板材を対象とすることができ,これらの積層構造を取るものであっても良い。
【0049】
もっとも,本発明の方法による端部処理方法は,セラミックス,ガラス,石英,サファイア,シリコンウェハーや,タングステンカーバイト等の超硬合金といったように,硬質であるが脆性を有する材質,従って,砥石による研磨においてチッピングやクラックが生じ易い材質から成る板材に,チッピングやクラックを発生させることなく,且つ,糸面取りや前処理(例えばスクライブ等)で生じたクラック等を除去するために研磨する端部処理に適している。
【0050】
板材の平面形状は特に限定されるものではなく,例えば円板形のように処理対象とする板材10の平面視における輪郭が曲線のみによって構成されたもの,又は扇形のように一部に曲線を含む形状であっても本発明の方法による処理対象とすることができる。
【0051】
もっとも,加工精度を一定に維持し易く,また,同時に比較的広い範囲を処理できることから,処理対象とする板材10端部は直線により構成されていること,例えば矩形板のような形状が好ましい。
【0052】
但し,輪郭が曲線により構成されているものであっても,ロボットにノズルおよび後述する吸引管を保持させ加工することにより容易に面取りすることが可能である。
【0053】
〔研磨材〕
研磨に使用する研磨材の材質は,処理対象とする板材の材質に応じて各種材質から選択可能であり,一例としてガラス板を加工対象とする場合,ガラスの研磨に際して一般的に使用されているダイヤモンドの粉体や,酸化セリウムの粉体の他,アランダムやカーボランダム,その他セラミックス系の研磨材等が使用可能である。
【0054】
使用する研磨材の粒径は,粒径が大きくなると切削量が大きくなるため微細な加工を行うことが難しくなると共に,ガラス板等の硬質脆性材料から成る板材を被加工物とした際にクラックやマイクロクラックを生じさせる等,板材10にダメージを与えてしまい,端部処理によってかえって板材の曲げ強度を低下させてしまうこととなるから,粒度が♯600より高番手(小粒径)の微粉研磨材,より好ましくは,♯1000よりも高番手(小粒径)の微粉研磨材を使用する。
【0055】
〔噴射装置〕(ブラスト加工装置)
上記研磨材の噴射は,圧縮気体,例えば圧縮空気と共に研磨材を噴射する形式の既知の各種のエアー式のブラスト加工装置を使用して行うことが可能であるため,その基本構造の説明は省略する。
【0056】
但し,既知の一般的なブラスト加工装置では,ノズル先端に形成された開口が円形である,所謂「丸型ノズル」を使用した噴射が一般的であるのに対し,本発明の方法で使用するブラスト加工装置では,噴射ノズルとして先端開口がスリット状であるスリットノズルを備えたブラスト加工装置を使用する点において異なる。
【0057】
また,本発明の処理方法に使用するブラスト加工装置では,前述のスリットノズルより噴射された研磨材や研磨の際に生じた切削粉を高い風速で吸引する吸引手段を備えている点でも,既知の一般的な噴射装置とは相違する。
【0058】
(1)スリットノズル
一般的なブラスト加工装置では,ノズルチップに円形の開口を設けた丸型ノズルを使用して研磨材の噴射を行うが,本発明の処理方法では,このような丸型ノズルではなく,例えば図1に示すようにノズルチップ22にスリット状の開口21が形成されたスリットノズル20を使用して研磨材の噴射を行う。
【0059】
このスリットノズル20に設けるスリット状の開口21の幅Wは,広すぎると加工範囲が広がり高精度の加工が難しくなる一方,狭すぎると開口21内を通過する圧縮気体の流速が高くなり開口21内壁の摩耗が激しくなること,また,スリット状の開口21の幅が広い場合,研磨材の噴射粒層が厚くなって加工に供しない不要な噴射粒が多くなり無駄となると共に,スリット幅が過度に狭い場合,研磨材と圧縮気体との混合流体の通過抵抗が大きくなり,コンプレッサ等の圧縮気体供給源として過度に高性能のものが必要となり無駄となることから,好ましくは0.1〜3.0mm,より好ましくは0.2〜1.0mmの範囲である。
【0060】
また,スリット状開口21の開口長さLは,被加工物である板材10の一辺の長さや形状に応じて決定することができるが,開口長さLが短すぎると同時に加工できる範囲が狭くなり加工効率が低下する一方,スリット状開口21長がL長すぎると,スリットからの研磨材の流速をスリット長手方向に均一にすることが容易ではなく,加工ムラを起こす。またスリット長が長くなるに伴いノズルの重量が大きくなり,そのために加工精度を維持するためには,剛性のある構造にしなければならない。
【0061】
一例としてスリット状開口21の好ましい開口長は,2〜50mm,より好ましくは3〜20mm程度である。
【0062】
スリットノズル20のノズルチップ22は,既知のブラスト加工装置の噴射ノズルのノズルチップの材質として使用されている焼入れ鋼やタングステンカーバイト等の超硬合金,アルミナ等のセラミックス等の材質で形成するものとしても良いが,被加工物である板材が硬質材料である場合,従って,研磨材としても高硬度の研磨材を使用する場合,前述した一般的なノズルチップの材質に比較してより耐久性のある材料で形成することで,噴射時に通過する研磨材による摩耗を抑えてスリット状開口が拡大変形することを防止し,経時に伴い加工条件が変化することを防止することが好ましい。
【0063】
このような耐久性のあるノズルチップの材質としては,ダイヤモンド,炭化ホウ素,コランダム(ルビー,サファイア),ジルコニアといた超硬材料を使用することができ,中でも特に,ダイヤモンドの使用が好ましい。
【0064】
一例として,ダイヤモンド製のノズルチップを使用した場合,♯1000のWA研磨材を,0.3MPaの噴射圧力で60時間噴射した後においても,スリット状開口の一辺側における摩耗量を20μmに抑えることができ,例えば炭化ホウ素製のノズルチップに比較して寿命を10倍に延ばすことができた。
【0065】
(2)吸引手段
前記構成のスリットノズル20より噴射された研磨材は,この研磨材の噴射方向前方に配置された吸入口51aを有する吸引手段5によって,平均風速30m/sec以上で吸引して回収される。
【0066】
本実施形態にあっては,図6に示すように,ブラスト加工装置1の加工室2内に配置した吸入ホース51の一端開口をスリットノズル20の開口21に向けて配置することで前述の吸入口51aとし,この吸入ホース51の他端を,加工室2外に設けたプロワ52に連結して,前記吸入口51aより平均風速30m/sec以上の吸引力を発生させることができるようにしている。
【0067】
なお,図示の例では,加工室2内に前述の吸入ホースを設けるものとして説明したが,噴射された研磨材を吸引し得るものであれば,吸入ホースに代え,ダクト,その他の構成を採用しても良い。
【0068】
吸引手段に設ける前述の吸入ホース51や吸入ダクトの形状は,前述した吸引力を発揮し得るものであれば,円筒状,角筒状等,その断面形状については特に限定されないが,スリットノズル20より噴射された研磨材が,加工室2内で飛散することなく,これを確実に回収することができるよう,吸入口51aをスリットノズル20に設けたスリット状の開口21の開口長Lよりも大きな開口径,好ましくはスリット状の開口21の開口長Lの1.5〜2.5倍の開口径に形成し,周囲に研磨材の飛散させることなく,確実に吸引して回収できるようにしている。
【0069】
なお,吸引手段5に設けた吸入口51aの開口径を,スリット状開口21の開口長に対し2.5倍を越えて大きくすると,平均風速30m/sec以上の吸引を行うためには大型のプロワが必要となり,経済的でない。
【0070】
また,吸入口51aをスリットノズルや被加工物より過度に離して配置する場合にも,スリットノズル20より噴射された研磨材を全量回収できない場合が生じ得ることから,スリットノズル20の先端から吸入口51aまでの距離は,10mm〜50mmとすることが好ましい。
【0071】
なお,吸引手段5は,スリットノズル20による噴射方向延長上の正確な位置に吸入口を開口している必要があり,長尺の被加工物を加工する場合のようにスリットノズル20を移動させながら加工を行う場合には,一例としてスリットノズル20と前述の吸入ホース51を,リンク機構(図示せず)によって連結して,スリットノズル20の移動に対応して吸入ホース51の吸入口51aを移動させることができるように構成して,スリットノズル20によって行われる研磨材の噴射方向前方に常に吸入口51aが配置されるように構成する。
【0072】
(3)その他の構成(研磨材噴射手段等)
なお,図6中の符号32は,研磨材加圧タンクであり,研磨材が投入された研磨材加圧タンク32内に,コンプレッサ等の圧縮気体供給源31からの圧縮気体を導入して内部を加圧すると共に,研磨材加圧タンク32から圧縮気体と研磨材との混合流体を前述したスリットノズル20に供給することで,研磨材の噴射を行うことができるように構成している。
【0073】
従って,図6に示すブラスト加工装置1の構成では,研磨材加圧タンク32,圧縮気体供給源31,及び研磨材加圧タンク32内の研磨材及び圧縮空気をスリットノズル20に導入するゴムホース等の配管類によって,研磨材噴射手段3が構成されている。
【0074】
なお,図6に示す例では,研磨材噴射手段3が研磨材加圧タンク32を備えた,所謂「直圧式」の構成として示したが,圧縮気体の流路中に設けたエジェクタで生じた負圧によって研磨材タンク内の研磨材を吸引して圧縮気体流に合流させて噴射する,所謂「サクション式」の構成を備えた研磨材噴射手段を設けるものとしても良い。
【0075】
また,前述したスリットノズル20と吸入手段5の吸入口51aの間に,被加工物である板材10のエッジ11を所定の状態に配置することができるよう,ブラスト加工装置1には,ワーク台4や,このワーク台4に対し板材10を固定するための治具(図示せず)等を設ける。
【0076】
なお,ブラスト加工装置1には,前述した吸入口51aによる吸引とは別に,前記吸引手段5を構成するブロワ52,又は前記ブロワ52とは別のブロワによって,よって加工室2内全体を15m/sec程度の風速で吸引できるようにして,吸入口51aより回収できなかった研磨材や切削粉等を回収できるようにしても良い。
【0077】
〔処理方法〕
以上で説明した被加工物である板材10に対する前述した研磨材の噴射は,図2(B)及び図3(B)に示すように,スリットノズル20のスリット状開口21の長さ方向(スリットノズル20の幅方向)が,板材10の端部に形成されたエッジ11の長手方向に沿うように配置すると共に,スリットノズル20の先端と,エッジ11の先端間距離Dが3mm以下となるように配置した状態で研磨材の噴射を行う。
【0078】
ここで,一般的なブラスト加工では,ノズルと被加工物間の距離(噴射距離)は,50〜200mm程度とすることが一般的であるが,本発明の方法では,これに対し3mm以下という極めて接近した位置で研磨材の噴射を行うことで,マスキング等を行うことなく,高精度に糸面取りを行うことができるものとなっている。
【0079】
被加工物である板材10の端部が図2(B)に示すように直線によって形成されたものである場合には,スリット状開口21の長さL方向とエッジ11の長さ方向とが平行となるように配置することで,また,図3(B)に示すように板材10の端部が曲線によって形成されたものである場合には,一例としてこの曲線に対する接線tを想定し,この接線tと平行で,接点pがスリット状開口21の長さL方向の中間位置mと対応する位置となるようにスリットノズル20を配置する。
【0080】
このように板材10の端部が曲線によって形成されている場合,スリットノズル20の先端とエッジ頂部間の距離である3mm以下は,スリット状開口21の長さL方向の中間位置mと前記接点p間の距離として設定する。
【0081】
なお,板材表面13に対し,面取りによって形成される面15が成す角度に対応した角度で研磨材が投射されるよう,傾斜角θを設定する。
【0082】
このように傾斜角θは,面取りによって形成される面15を如何なる傾斜角で形成するかにより設定されるものであり,加工対象とする板材10に施す最終的な加工状態に従って選択されるものであるが,一例としてこの傾斜角θの範囲は,45°〜85°であり,45°より鋭角として噴射を行う場合,面取りによって形成される面15が,図7に示すように完全に平坦とはならず湾曲した断面形状となることから,より高精度の平坦面を形成するためには,好ましくは45°以上の噴射角度で研磨材を噴射する。
【0083】
また,面取りにより形成される面15の幅Wpに応じ,スリットノズル20の位置を図2(A)中紙面左右方向に調整し,図2(A)中,紙面右側にスリットノズル20を移動すると面取りによって形成される面15の幅Wpは狭く,図2(A)中左側にスリットノズル20を移動させると面15の幅Wpは広くなり,一例として図2(A)中の拡大図に示すように,面取りによって形成される面15の延長上に,前記開口21の幅方向の一端21a(板材10に近い側の一端)が位置するように,スリットノズル20の位置を調整する。
【0084】
従って,前述したようにスリットノズル20のスリット状開口21が摩耗によって拡大した場合,この拡大後スリット状開口21の幅方向の一端21aが面取りによって形成される面15の延長上に位置するようスリットノズル20の配置を調整できるよう,加工時間とノズルチップ22の摩耗量との関係を予め取得しておくことで,これに対応してスリットノズル20の位置を加工時間に対応して例えば自動補正することで,ノズルチップ22の摩耗による加工条件(噴射位置)の変化を補正できるようにしても良い。
【0085】
以上のようにして被加工物である板材10とスリットノズル20の位置を調整した後,前述したスリットノズル20より研磨材を0.1MPa〜0.3MPaの噴射圧力で圧縮気体,本実施形態にあっては圧縮空気と共に噴射すると共に,前述した吸引手段によって噴射された研磨材とこの研磨材が板材10の端部に衝突することにより生じた切削粉とを風速30m/sec以上で吸引して回収する。
【0086】
処理対象とする板材10が比較的小型であり,一辺の長さが短い場合,スリットノズル20の開口21の長さLを板材10の一辺以上の長さに形成して,スリットノズル20と板材10の位置を固定した状態で加工を行うものとしても良く,板材10の端部が,スリットノズル20の開口21の長さLに対して長い場合には,前述したスリットノズル20と板材10の位置関係を維持しつつ,図2(B),図3(B)中に矢印で示すように,スリットノズル20をエッジ11の長手方向に相対的に移動させ,端部の全長に亘り糸面取り加工を行うようにしても良い。
【0087】
スリットノズル20より噴射された研磨材は,板材10の端部におけるエッジ11を正確に研磨し,面取りによって形成される面15の幅Wpが0.5mm以下,最小で0.1mm程度の極微細な糸面取りであっても,高精度に加工することができる。
【0088】
しかも,通常のブラスト加工では,マスキングを行うことなく加工を行った場合,加工部分と未加工部分との間に明確な境界が出来ず,境界がぼやけたものとなるが,本発明の方法で糸面取りを行った板材10を観察すると,面取りによって形成された面15と板材10の元の平面13との境界線が明確に現れていると共に,面取りされることなく残った平面部分に対し,研磨が及んでいる様子は確認できなかった。
【0089】
また,ガラス板に対して行った加工でも,前記粒径,前記噴射圧力での研磨材の噴射によって板材10にチッピングやクラックが生じることはなく,また,この加工の際に板材10の加工部に加わる力は,0.3N程度であるため,この加工によって板材が反る心配も無い。
【0090】
また,噴射された研磨材,及び研磨によって生じた切削粉は,吸引手段による平均風速30m/sec以上という高速吸引によって回収されることから,加工後の板材10に対する研磨材や切削粉の付着も無い。
【0091】
このようにして,本発明の方法によれば,マスキング等を行うことなしに,また,チッピングやクラックを発生させることなしに,高精度な糸面取りを高効率で行うことができ,しかも加工後の板材に対する研磨材や切削粉の付着がなく,加工後の洗浄工程を省略することができるものであった。
【0092】
〔変更例〕
図2及び図3を参照して説明した実施形態では,板材10の片側に形成されたエッジ11に対する糸面取りに関して説明したが,本発明の端部処理方法は,図4に示すように,板材10の側面12の幅方向両端に形成されたエッジ11,11に対し,2方向より研磨材を噴射して同時に糸面取りを行うように構成しても良い。
【0093】
このように2つのエッジ11,11に対し2方向より同時に処理を行うことで,加工時間を大幅に短縮することができると共に,研磨材の噴射時に板材10の加工部に両面13,14側から均等に力が加わるために,板材10に反りが生じることをより確実に防止することができる。
【0094】
更に,図4に記載の構成に加え,板材10の側面12に対しても♯600より高番手の研磨材を0.1〜0.3MPaの噴射圧力で噴射することで,3方向より同時に研磨材を噴射して,エッジ11,11の糸面取りと,板材の側面12の研磨とを同時に行うようにしても良い。
【0095】
この場合,側面12に対する研磨材の噴射についても,エッジ11,11に対する研磨材の噴射と同じくスリットノズルを使用して,同様の噴射距離で研磨材を噴射するものとしても良いが,側面12に対する噴射については,板材10に対してクラックの発生やマイクロクラックの発生等のダメージを与えることが防止できる前述した粒径,及び噴射圧力での研磨材の噴射であれば,既知の丸型ノズルを使用して噴射を行っても良く,更には,既知の一般的な噴射距離で研磨材の噴射を行っても良い。
【0096】
このように,側面12に対する研磨を同時に行うことで,ガラス板等の硬質脆性材料の板材10を処理対象とした場合であっても,スクライブ等を行った際に側面12に生じているクラック等を糸面取りと同時に効率的に除去することができ,板材の曲げ強度を大幅に改善することができる。
【実施例】
【0097】
ガラス板に対し,本発明の方法により面取りを行った例を,比較例と共に加工実施例として以下に示す。
【0098】
〔被加工物〕
実施例及び比較例共に,機械的な方法によってスクライビングしたソーダライムガラスの板(80mm×50mm×1.8mm)を処理対象とした。
【0099】
〔共通する加工条件〕
図5に示すように,被加工物の端部に対し,三方より同時に研磨材の噴射を行い,エッジ部の糸面取りと,ガラス板の側面研磨とを同時に行った。この際のガラス板のエッジとスリットノズル先端間の距離は,いずれの例においても共に3mmで固定した。なお,この距離が3mmを越えたものはエッジ部以外に加工が及び,面取り加工自体を行うことができなかったため,実験例の記載を省略する。
【0100】
〔各加工条件と実験結果〕
実施例及び比較例のそれぞれに対する加工条件と,加工後の被加工物に対する評価結果を,それぞれ下記の表1に示す。
【0101】
下記の表1において「抗折強度」は,基準片の抗折強度を100%とした時の各試験片の抗折強度をパーセンテージで表したものであり,基準片として,前述したガラス板に対し,♯1000の砥石にて各端面を加工すると共に,各エッジに対し,C0.2mmの糸面取りを行ったものを使用した。
【0102】
また,抗折強度の測定は,インストロン社製の「5582型万能試験機」を使用して行い,試験片(ガラス板)の両端寄りを60mmピッチで支持し,試験片の中央に0.5mm/minで荷重をかけていき,破断した荷重(N)を測定し,試験片10枚の平均値を求めた。
【0103】
なお,「研磨材」における「D50(μm)」とは,メジアン径と呼ばれるもので,研磨材の粒度の累計(個数分布)が50%の点の粒子径を示す。
【0104】
【表1】
【0105】
〔試験結果に対する考察〕
以上の試験結果から,研磨材の粒径が,♯600よりも低番手である(粒径が大きい)♯320の研磨材を使用した比較例では,本願所定のノズル距離及び噴射圧力で研磨材を噴射した場合であっても,抗折強度が63%と基準片に対し大きな低下を示していることが確認された。
【0106】
このことから,比較例の試験片では,粒径の大きな研磨材を使用したことでガラス板にクラックやマイクロクラックが発生しており,これらが破断の起点となって抗折強度を低下させているものと考えられる。
【0107】
これに対し,実施例1〜5では,95%〜110%という高い抗折強度を示すことが確認されており,粒径が♯600以上の高番手(小粒径)の研磨材を使用することで,破断の起点となるクラックやマイクロクラックの発生を抑制でき,ガラス板に対してダメージを与えることなく面取り加工ができたものと考えられる。
【0108】
また,このような抗折強度の維持乃至は向上は,噴射圧力0.1〜0.5MPaの全範囲において確認された。
【0109】
更に,基準片に対して抗折強度が維持乃至は向上されている実施例1〜5の加工例を比較すると,噴射角度が45°の実施例3では,面取りによって,平坦な面が形成できている一方,噴射角度を30°に迄減少させた実施例1の方法で加工したガラス板では,ガラス板の周縁におけるエッジの除去により抗折強度は105%と,基準片を上回っているものの,面取り後に形成された面がきれいな平坦とはなっておらず,図7に示すように湾曲した断面形状を有するものとなっていた。
【0110】
このことから,噴射角度を45°未満としても,破断の発生原因となる鋭利なエッジの除去という,面取りの主要な目的は達成できるものの,面取りによって美しい平坦面を形成しようとした場合には,噴射角度を45°以上の角度とすることが好ましく,この噴射角度は,85°まで増大させた場合であっても,面取りにより高精度の平坦面を形成することが確認できた(実施例4)。
【0111】
なお,図8は,実施例5に記載の方法で加工を行ったガラス板を幅方向にスクライブして得た切断面を撮影した拡大写真である。
【0112】
図8から明らかなように,本発明の方法では,ブラスト加工によって面取りを行うものでありながら,切除部分以外には加工が及んでおらず,しかも,面取りによって形成される面を,高精度の平坦面とすることができた。
【符号の説明】
【0113】
1 ブラスト加工装置
2 加工室
3 研磨材噴射手段
4 ワーク台
5 吸引手段
10 板材
11 エッジ
12 端部側面
13,14 平面
15 面取りによって形成される面
20 スリットノズル
21 (スリット状)開口
22 ノズルチップ
31 圧縮気体供給源
32 研磨材加圧タンク
51 吸入ホース
51a 吸入口
52 ブロワ
L 開口21の長さ
W 開口21の幅
θ 傾斜角
D ノズル先端とエッジ間の距離
Wp 面15の幅
t 接線
p 接点
m 開口21の長手方向の中間位置
100 板材(ガラス板)
101 エッジ
102,103 平面(板材の)
110 溝付き砥石
111 溝
120 砥石車
121 平面(砥石車の)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルチップにスリット状の開口が形成されたスリットノズルを,前記スリット状の開口の長手方向が板材の端部に形成された処理対象とするエッジの長手方向に沿うように,且つ,前記スリットノズル先端と前記エッジの頂部間の距離が3mm以下となるように配置して,前記スリットノズルを介して粒径が♯600以下の研磨材を0.1〜0.5MPaの噴射圧力で前記エッジに向けて噴射すると共に,
噴射された研磨材及び前記板材に付着した研磨材及び切削粉を,前記研磨材の噴射方向前方より平均風速30m/sec以上で吸引して回収することを特徴とする板材の端部処理方法。
【請求項2】
前記研磨材の噴射方向を,前記板材の平面に対し45°〜85°の傾斜角で傾斜させたことを特徴とする請求項1記載の板材の端部処理方法。
【請求項3】
前記スリットノズルの前記ノズルチップを,ダイヤモンド,コランダム,炭化ホウ素,超硬合金,又はジルコニアで形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の板材の端部処理方法。
【請求項4】
前記スリットノズルの開口幅を0.1〜3mmとしたことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の板材の端部処理方法。
【請求項5】
前記板材の端部側面の幅方向両端に形成されたエッジに対し,それぞれ同時に研磨材を噴射することを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の板材の端部処理方法。
【請求項6】
前記板材の端部側面に対し,更に粒径が♯600以下の研磨材を0.1〜0.5MPaの噴射圧力で噴射することを特徴とする請求項5記載の板材の端部処理方法。
【請求項7】
ノズルチップにスリット状の開口が形成されたスリットノズルを備え,前記スリットノズルを介して粒径が♯600以下の研磨材を圧縮気体と共に0.1〜0.5MPaの噴射圧力で噴射する研磨材噴射手段と,
前記スリット状の開口の長手方向と,被加工物である板材の端部に形成された処理対象とするエッジの長手方向に沿うように,且つ,前記スリットノズル先端と前記エッジの頂部間の距離が3mm以下となるように前記板材を前記スリットノズルの噴射方向前方に配置可能と成すワーク台と,
前記研磨材の噴射方向前方において開口する吸入口を備え,前記スリットノズルより噴射された研磨材及び被加工物に付着した研磨材及び切削粉を前記研磨材の噴射方向前方より平均風速30m/sec以上で吸引して回収する吸引手段を備えたことを特徴とする板材の端部処理用のブラスト加工装置。
【請求項8】
前記スリットノズルを前記板材の端部に形成されたエッジの長手方向に沿って移動可能と成すと共に,前記吸引手段の前記吸入口を前記スリットノズルの移動に伴い前記研磨材の噴射方向前方に移動させるリンク機構を設けたことを特徴とする請求項7記載の板材の端部処理用のブラスト加工装置。
【請求項9】
前記スリットノズルの前記ノズルチップを,ダイヤモンド,コランダム,炭化ホウ素,超硬合金,又はジルコニアで形成したことを特徴とする請求項7又は8記載の板材の端部処理用のブラスト加工装置。
【請求項10】
前記スリットノズルの開口幅を0.1〜3mmとしたことを特徴とする請求項7〜9いずれか1項記載の板材の端部処理用のブラスト加工装置。
【請求項11】
前記板材の端部側面の幅方向両端に形成されたエッジに対し,それぞれ同時に研磨材を噴射する複数の前記スリットノズルを備えたことを特徴とする請求項7〜10いずれか1項記載の板材の端部処理用のブラスト加工装置。
【請求項12】
前記板材の端部側面に対し,粒径が♯600以下の研磨材を0.1〜0.5MPaの噴射圧力で噴射するブラストノズルを更に備えたことを特徴とする請求項11記載の板材の端部処理用のブラスト加工装置。
【請求項1】
ノズルチップにスリット状の開口が形成されたスリットノズルを,前記スリット状の開口の長手方向が板材の端部に形成された処理対象とするエッジの長手方向に沿うように,且つ,前記スリットノズル先端と前記エッジの頂部間の距離が3mm以下となるように配置して,前記スリットノズルを介して粒径が♯600以下の研磨材を0.1〜0.5MPaの噴射圧力で前記エッジに向けて噴射すると共に,
噴射された研磨材及び前記板材に付着した研磨材及び切削粉を,前記研磨材の噴射方向前方より平均風速30m/sec以上で吸引して回収することを特徴とする板材の端部処理方法。
【請求項2】
前記研磨材の噴射方向を,前記板材の平面に対し45°〜85°の傾斜角で傾斜させたことを特徴とする請求項1記載の板材の端部処理方法。
【請求項3】
前記スリットノズルの前記ノズルチップを,ダイヤモンド,コランダム,炭化ホウ素,超硬合金,又はジルコニアで形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の板材の端部処理方法。
【請求項4】
前記スリットノズルの開口幅を0.1〜3mmとしたことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の板材の端部処理方法。
【請求項5】
前記板材の端部側面の幅方向両端に形成されたエッジに対し,それぞれ同時に研磨材を噴射することを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の板材の端部処理方法。
【請求項6】
前記板材の端部側面に対し,更に粒径が♯600以下の研磨材を0.1〜0.5MPaの噴射圧力で噴射することを特徴とする請求項5記載の板材の端部処理方法。
【請求項7】
ノズルチップにスリット状の開口が形成されたスリットノズルを備え,前記スリットノズルを介して粒径が♯600以下の研磨材を圧縮気体と共に0.1〜0.5MPaの噴射圧力で噴射する研磨材噴射手段と,
前記スリット状の開口の長手方向と,被加工物である板材の端部に形成された処理対象とするエッジの長手方向に沿うように,且つ,前記スリットノズル先端と前記エッジの頂部間の距離が3mm以下となるように前記板材を前記スリットノズルの噴射方向前方に配置可能と成すワーク台と,
前記研磨材の噴射方向前方において開口する吸入口を備え,前記スリットノズルより噴射された研磨材及び被加工物に付着した研磨材及び切削粉を前記研磨材の噴射方向前方より平均風速30m/sec以上で吸引して回収する吸引手段を備えたことを特徴とする板材の端部処理用のブラスト加工装置。
【請求項8】
前記スリットノズルを前記板材の端部に形成されたエッジの長手方向に沿って移動可能と成すと共に,前記吸引手段の前記吸入口を前記スリットノズルの移動に伴い前記研磨材の噴射方向前方に移動させるリンク機構を設けたことを特徴とする請求項7記載の板材の端部処理用のブラスト加工装置。
【請求項9】
前記スリットノズルの前記ノズルチップを,ダイヤモンド,コランダム,炭化ホウ素,超硬合金,又はジルコニアで形成したことを特徴とする請求項7又は8記載の板材の端部処理用のブラスト加工装置。
【請求項10】
前記スリットノズルの開口幅を0.1〜3mmとしたことを特徴とする請求項7〜9いずれか1項記載の板材の端部処理用のブラスト加工装置。
【請求項11】
前記板材の端部側面の幅方向両端に形成されたエッジに対し,それぞれ同時に研磨材を噴射する複数の前記スリットノズルを備えたことを特徴とする請求項7〜10いずれか1項記載の板材の端部処理用のブラスト加工装置。
【請求項12】
前記板材の端部側面に対し,粒径が♯600以下の研磨材を0.1〜0.5MPaの噴射圧力で噴射するブラストノズルを更に備えたことを特徴とする請求項11記載の板材の端部処理用のブラスト加工装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図8】
【公開番号】特開2013−52457(P2013−52457A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190771(P2011−190771)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000154129)株式会社不二製作所 (46)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000154129)株式会社不二製作所 (46)
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