説明

架橋ゴムの製造方法

【課題】側鎖に二重結合を有するゴムの有機過酸化物による架橋において、スコーチをより効果的に抑制してスコーチ時間を延長させることができると共に、架橋を良好に進行させて最大トルク値を増大させることができる架橋ゴムの製造方法を提供する。
【解決手段】架橋ゴムは、側鎖に炭素−炭素間二重結合を有するゴム及び有機過酸化物を含有するゴム組成物を加熱して架橋させることにより製造される。その際、ゴム組成物にはスコーチを抑制するためのテトラアルキルチウラムジスルフィドと、架橋を促進するための多官能アリル化合物とが配合される。テトラアルキルチウラムジスルフィドとしては、そのアルキル基が炭素数2〜8の化合物であることが好ましく、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィドであることが最も好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スコーチを効果的に抑制しつつ、架橋を良好に進行させることを可能とする、有機過酸化物を用いてゴム組成物を架橋させる架橋ゴムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機過酸化物を用いて架橋したゴムは耐熱老化性及び耐圧縮永久歪み性に優れているが、その製造工程において、例えばゴムに有機過酸化物を添加して混練する際に、スコーチ(早期架橋)を起こしやすいという欠点がある。係るスコーチは製品外観の不良や寸法安定性の低下等の原因となるため、従来有機過酸化物によるゴムの架橋においてスコーチの発生を防止する方法が検討されてきた。
【0003】
例えば、有機過酸化物で架橋し得る熱可塑性エラストマー組成物のスコーチ遅延剤組成物が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。このスコーチ遅延剤組成物は、ヒドロキノンと硫黄系促進剤とを含有する組成物である。具体的には、側鎖に二重結合を有するゴムであるエチレン−プロピレン−ジエンゴム、有機過酸化物である1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ヒドロキノンとしてヒドロキノンモノメチルエーテル及び硫黄系促進剤としてジチオカルバミン酸塩からなるゴム組成物が記載されている。そして、このゴム組成物を混練、架橋し、架橋ゴムを製造することにより、スコーチ時間を改善することができる。
【0004】
また、本願出願人は、例えば側鎖に二重結合を有するゴムであるエチレン−プロピレン−ジエンゴムの架橋方法について提案を行った(例えば、特許文献2を参照)。具体的なゴム組成物は、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、有機過酸化物としてジクミルペルオキシド、スコーチ防止剤として2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン及び架橋助剤としてトリアリルイソシアヌレートからなる組成物である。このゴム組成物を混練、架橋し、架橋ゴムを製造することにより、スコーチ時間及び最大トルク値を改善することができる。
【特許文献1】特開平5−209085号公報(第2頁及び第14頁)
【特許文献2】特開2004−123949号公報(第2頁及び第7頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているスコーチ遅延剤組成物では、重合禁止剤であるヒドロキノンが必須成分であり、そのヒドロキノンがラジカル阻害剤として作用しラジカル架橋をも阻害する。そのため、特に有機過酸化物の添加量が比較的少ないような架橋条件の場合には、スコーチ時間の延びが少ない上に、得られる熱可塑性エラストマーの架橋物について架橋度が低下するという問題があった。
【0006】
一方、特許文献2に記載されているゴムの架橋方法では、架橋度の低下は十分に防止できるものの、スコーチの防止という点ではやや劣ることから、より一層の改善が求められていた。すなわち、スコーチ防止剤としての2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンは炭素ラジカルを発生し、その炭素ラジカルはポリマーラジカルに対する反応性が良いためポリマーラジカルと速やかに反応し、その結果スコーチ時間が短くなるものと推測される。
【0007】
本発明は上記従来技術の問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、側鎖に二重結合を有するゴムの有機過酸化物による架橋において、スコーチをより効果的に抑制してスコーチ時間を延長させることができると共に、架橋を良好に進行させて最大トルク値を増大させることができる架橋ゴムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、本発明を完成した。つまり、側鎖に二重結合を有するゴムを有機過酸化物により架橋させる際、スコーチ防止剤として特定のチウラム系化合物と架橋度向上剤として特定の架橋助剤との併用により、従来方法と比較してスコーチ防止剤の作用を阻害することなく、架橋度を保ちながらスコーチ時間を大幅に延長することができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、第1の発明の架橋ゴムの製造方法では、側鎖に炭素−炭素間二重結合を有するゴム及び有機過酸化物を含有するゴム組成物を加熱して架橋ゴムを製造するに際し、前記ゴム組成物にスコーチを抑制するためのテトラアルキルチウラムジスルフィドと、架橋を促進するための多官能アリル化合物とを配合することを特徴とする。
【0010】
第2の発明の架橋ゴムの製造方法では、第1の発明において、前記テトラアルキルチウラムジスルフィドは、そのアルキル基が炭素数2〜8の化合物であることを特徴とする。
第3の発明の架橋ゴムの製造方法では、第2の発明において、前記テトラアルキルチウラムジスルフィドは、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィドであることを特徴とする。
【0011】
第4の発明の架橋ゴムの製造方法では、第1から第3のいずれか1項の発明において、前記側鎖に炭素−炭素間二重結合を有するゴムは、エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴムであることを特徴とする。
【0012】
第5の発明の架橋ゴムの製造方法では、第1から第4のいずれか1項の発明において、前記有機過酸化物は、過酸化ジアルキルであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
第1の発明における架橋ゴムの製造方法では、側鎖に炭素−炭素間二重結合を有するゴムを有機過酸化物を用い、加熱して架橋ゴムを製造するに際し、スコーチを抑制するためのテトラアルキルチウラムジスルフィドと、架橋を促進するための多官能アリル化合物とが配合される。テトラアルキルチウラムジスルフィドは、炭素ラジカルに比べて温和な反応性を示す硫黄ラジカルを発生することから、ポリマーラジカルとの反応が緩やかでスコーチ時間を延ばすことができる。また、多官能アリル化合物は、共役二重結合を有する一般の架橋助剤に比べて非共役系であるため比較的反応が遅く、スコーチ抑制作用を維持しながら架橋反応を促すことができる。
【0014】
従って、側鎖に二重結合を有するゴムの有機過酸化物による架橋において、スコーチをより効果的に抑制してスコーチ時間を延長させることができると共に、架橋を良好に進行させて最大トルク値を増大させることができる。
【0015】
第2の発明における架橋ゴムの製造方法では、テトラアルキルチウラムジスルフィドはそのアルキル基が炭素数2〜8の化合物である。このため、第1の発明の効果に加えて、ゴム組成物中におけるテトラアルキルチウラムジスルフィドの分散性が良好となるほか、製造中における臭気の発生を抑制することができ、さらに成形後のゴムからの分解物の析出や浸出を抑えることができる。
【0016】
第3の発明における架橋ゴムの製造方法では、テトラアルキルチウラムジスルフィドは、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィドである。従って、第2の発明の効果を最も有効に発揮することができる。
【0017】
第4の発明における架橋ゴムの製造方法では、側鎖に炭素−炭素間二重結合を有するゴムはエチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴムである。このため、第1から第3のいずれかの発明の効果に加えて、ゴムの主鎖の切断が起きにくく、主鎖中に二重結合が存在しないため主鎖中の二重結合による過度の架橋を抑制することができる。
【0018】
第5の発明における架橋ゴムの製造方法では、有機過酸化物が過酸化ジアルキルである。係る過酸化ジアルキルは、架橋を有効に行うアルコキシラジカルのみを出すため失活しにくく、ゴムなどの他の成分の影響を受けにくい。従って、第1から第3のいずれかの発明の効果に加えて、架橋効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の最良と思われる実施形態について詳細に説明する。
〔架橋ゴムの製造方法〕
架橋ゴムは、側鎖に炭素−炭素間二重結合を有するゴム及び有機過酸化物を含有するゴム組成物を加熱することにより製造される。その際、前記ゴム組成物には、スコーチを抑制するためのテトラアルキルチウラムジスルフィドと、架橋を促進するための多官能アリル化合物とが配合される。そして、架橋ゴムの製造過程でスコーチが抑えられて取扱性が向上すると共に、架橋度(架橋密度)の高い架橋ゴムが得られる。係る架橋ゴムは、情報機器分野、自動車関連分野、建築分野など広範な分野で使用することができる。
(側鎖に炭素−炭素間二重結合を有するゴム)
係るゴムは、側鎖に炭素−炭素間二重結合を有し、各種ゴム製品の製造に使用されるゴムであれば良く、特に制限されない。このゴムとして例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、クロロプレンゴム、イソブチレン−イソプレン共重合ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル−プロピレン−ジエン共重合ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン−イソプレン共重合ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン−アクリレート共重合ゴム、アクリロニトリル−イソプレン共重合ゴム、水素化アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム等が挙げられる。これらゴムの中で、側鎖に炭素間二重結合を有するエチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴムは、主鎖の切断等の好ましくない副反応が起きにくく、架橋が良好に進行するため特に好ましい。
(有機過酸化物)
前記有機過酸化物は、側鎖に炭素−炭素間二重結合を有するゴムの二重結合を反応させて架橋(ラジカル架橋)させ、架橋構造を形成するための架橋剤であり、一般的なゴムの架橋に好適に用いられる有機過酸化物が使用される。この有機過酸化物としては、例えばジ−t−ブチルペルオキシド、ジ−t−ヘキシルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、t−ヘキシルクミルペルオキシド、イソプロピルクミル−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン等の過酸化ジアルキル(ジアルキルペルオキシド);1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t-ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルペルオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)ブタン、エチル−3,3−ビス(t−ブチルペルオキシ)ブチレート、6,6,9,9−テトラメチル−3,3−ジメチル−1,2,4,5−テトラオキシシクロノナン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロドデカノン等のペルオキシケタールなどが挙げられる。
【0020】
これら有機過酸化物のうち、ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン等の過酸化ジアルキル、その他1,1−ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t-ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン及びn−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルペルオキシ)バレレートは、架橋効率が高く、かつ揮発性が少ないことから特に好ましい。これらの有機過酸化物は、それぞれ単独で、又は2種以上を適宜組み合わせて使用される。
【0021】
有機過酸化物の含有量は、前記ゴム100質量部に対して、通常0.3〜15質量部、好ましくは0.5〜10質量部である。有機過酸化物の含有量が0.3質量部より少ない場合には、有機過酸化物の作用が十分に発現されず、ゴムの架橋が不十分となる。その一方、有機過酸化物の含有量が15質量部より多い場合には、架橋ゴムが硬くなると共に、脆くなる傾向を示す。
(テトラアルキルチウラムジスルフィド)
前記テトラアルキルチウラムジスルフィドは、ゴムの架橋に際してスコーチを抑制するためのスコーチ抑制剤である。このテトラアルキルチウラムジスルフィドは、アルキル基の炭素数が通常1〜10の化合物であり、好ましくは炭素数が2〜8の化合物である。ゴムへの混練性が良く、臭気の発散が少ないという観点から、炭素数が8の化合物が最も好ましい。
【0022】
なお、アルキル基の炭素数が1の化合物、すなわちテトラメチルチウラムジスルフィドは、分子量が低いために使用時における臭気が他のテトラアルキルチウラムジスルフィドよりも強く、またゴムへの分散性も劣る。このため、得られる架橋ゴムの表面が白く粉を吹く、いわゆるブルーミングの原因となるほか、作業性が悪く、環境上も好ましくない。また、アルキル基の炭素数が10を超える化合物は商業的に入手し難くなる傾向にある。
【0023】
テトラアルキルチウラムジスルフィドの具体例としては、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラプロピルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラペンチルチウラムジスルフィド、テトラヘキシルチウラムジスルフィド、テトラヘプチルチウラムジスルフィド、テトラオクチルチウラムジスルフィド、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、テトラノナニルチウラムジスルフィド、テトラキス(3,5,5−トリメチルペンチル)チウラムジスルフィド、テトラデシルノルマルチウラムジスルフィド等が挙げられる。
【0024】
このテトラアルキルチウラムジスルフィドの含有量は、前記ゴム100質量部に対して通常0.05〜5質量部、好ましくは0.05〜1質量部、より好ましくは0.1〜0.5質量部である。テトラアルキルチウラムジスルフィドの含有量が0.05質量部を下回る場合、ゴムの架橋に際してスコーチを十分に抑制することが難しくなる。その一方、テトラアルキルチウラムジスルフィドの含有量が5質量部を上回る場合、スコーチは十分に抑制されるが、ゴムの架橋度が高くなり過ぎる傾向を示して好ましくない。
(多官能アリル化合物)
前記多官能アリル化合物は、ゴムの架橋を促進するための架橋促進剤であって、1分子中に2個以上のアリル基を有する化合物である。1分子中のアリル基の数は2個又は3個であることが好ましい。アリル基の数が4個以上になると、そのような多官能アリル化合物の製造が難しくなり、入手が困難になる傾向を示す。
【0025】
この多官能アリル化合物としては、例えばジアリルフタレート、ジアリルオキザレート、ジアリルマレエート、ジアリルフマレート、ジアリルマロネート、ジアリルシトレート、ジアリルグルタレート、ジアリルスクシネート、ジアリルアジペート、トリアリルトリメリテート等の多価カルボン酸のポリアリルエステル;エチレングリコールのジアリルエーテル、グリセリンのジアリルエーテル、ジエチレングリコールのジアリルエーテル、ポリエチレングリコールのジアリルエーテル、ペンタエリスリトールのジアリルエーテル、グリセリンモノメチルエーテルのジアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアセテートのジアリルエーテル、ペンタエリスリトールのトリアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアセテートのトリアリルエーテル等の多価アルコールのポリアリルエーテル;トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート等のシアヌレート化合物が挙げられる。これらの中で多価カルボン酸のポリアリルエステル、シアヌレート化合物が好ましく、特にジアリルアジペート、トリアリルトリメリテート、トリアリルイソシアヌレートは、架橋度を向上させる効果が大きいので好ましい。これらの多官能アリル化合物のうちで最も好ましい化合物は、ゴムの架橋度を向上させる効果が最も高いトリアリルトリイソシアヌレートである。
【0026】
多官能アリル化合物の含有量は、前記ゴム100質量部に対して、通常0.05〜5質量部、好ましくは0.1〜3質量部である。多官能アリル化合物の含有量が0.05質量部より少ない場合には、多官能アリル化合物のもつ架橋促進作用が十分に発現されず、高い架橋度を有する架橋ゴムが得られなくなる。一方、多官能アリル化合物の含有量が5質量部より多い場合には、ゴムの架橋に際してスコーチ安定性が悪化する傾向にある。
(架橋ゴムの具体的な製造方法)
前述のように、架橋ゴムは、前記ゴムに有機過酸化物、テトラアルキルチウラムジスルフィド及び多官能アリル化合物を含むゴム組成物を混合後、加熱して架橋することにより製造される。混合の方法は特に限定されず、例えば各成分を任意の順序で逐次添加して混練する方法、任意の成分を予め混練して得られる組成物に残りの成分をさらに添加して混練する方法、全成分を同時に添加して混練する方法等のいずれでもよく、また上記各方法において、各成分を任意の比率に分割して添加してもよい。さらに作業の効率化を図るために、予めゴム以外の成分の混合物、又は少量のゴムとそれ以外の成分の混合物、いわゆるマスターバッチを製造しておき、それらをゴムに添加することも可能である。
【0027】
混練の方法は特に制限されず、バンバリーミキサー、ロール等を使用して行うことができる。混練の温度は、使用するゴムの混練に適した温度を適用すればよく特に限定されないが、通常室温〜100℃、好ましくは50〜90℃である。混練の温度が室温より低いときにはゴム組成物の混練が不十分となり、混練の温度が100℃より高いときには有機過酸化物の分解が進行し、ゴムにスコーチが多く発生する傾向にある。
【0028】
混合の際、ゴム組成物にはゴムの架橋で通常使用されている充填剤、酸化防止剤、光安定剤、可塑剤、滑剤、難燃化剤、着色剤等を必要に応じて配合することができる。さらに、ゴム組成物には本発明の目的を逸脱しない範囲で、トリメチロールプロパントリメタクリレート、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド等の架橋助剤を配合することができる。
【0029】
前記充填剤は、ゴムの架橋において一般に使用される無機充填剤であり、例えば珪藻土、ケイ石粉末等の天然ケイ酸;無水ケイ酸、含水ケイ酸等の合成ケイ酸(ホワイトカーボン又はシリカ);タルク、ハードクレー、ソフトクレー、焼成クレー、ろう石クレー、セリサイト等の天然ケイ酸塩;重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、ジブサイド、バイヤライト、ベーマイト、ジアスボア等の各種金属塩;極微細活性化炭酸カルシウム、カーボンブラック等が挙げられる。
【0030】
酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤;ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート等のイオウ系酸化防止剤;トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(トリデシル)−1,1,3−トリス(2−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタンジホスファイト等のリン系酸化防止剤等が用いられる。しかし、これらの酸化防止剤はその程度に幅はあるもののいずれもラジカル架橋を阻害する方向に作用しやすく、特にフェノール系やヒドロキノン系の酸化防止剤は有機過酸化物による架橋反応を阻害しやすい。これらの酸化防止剤の配合は必要最小限にとどめることが好ましく、使用しないことがより好ましい。
【0031】
光安定剤としては、フェニルサリチラート、p−オクチルサリチラート等のサリチル酸系安定剤;2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系安定剤;2−(2β−ヒドロキシ−5β−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2β−ヒドロキシ−4β−n−オクチルオキシフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系安定剤;レゾルシノールモノベンゾアート等が挙げられる。
【0032】
可塑剤としては、ポリエチレングリコール、ポリアミドオリゴマー、エチレンビスステアロアマイド、フタル酸エステル、ポリスチレンオリゴマー、ポリエチレンワックス、ミネラルオイル、シリコーンオイル等が挙げられる。滑剤としては、炭化水素系、脂肪酸系、脂肪酸アミド系、エステル系、脂肪酸低級アルコールエステル、アルコール系等の化合物又は混合物、金属石鹸等が挙げられる。着色剤としては、カーボンブラック、酸化チタン、亜鉛華、べんがら、群青、紺青、アゾ顔料、ニトロソ顔料、レーキ顔料、フタロシアニン顔料等が挙げられる。
【0033】
難燃化剤としては、塩素化パラフィン、塩素化ポリエチレン、テトラブロモビスフェノールA、デカブロモジフェニルオキサイド等のハロゲン系難燃化剤及びそれらと三酸化アンチモンの併用;トリスクロロエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート等のリン酸エステル系難燃化剤;水酸化マグネシウム等の無機系難燃化剤等が挙げられる。
【0034】
各成分を配合した後に加熱して架橋させる温度は、通常100〜220℃、好ましくは120〜200℃である。加熱して架橋させる温度が100℃より低いとゴムの架橋が効率良く進行せず、一方加熱して架橋させる温度が220℃より高いとゴムの架橋が急激に進行し、物性の良い架橋ゴムを得ることができなくなる傾向を示す。
【0035】
また、ゴム組成物を加熱して架橋させる方法は特に制限されないが、プレス成形法、押出成形法、射出成形法、トランスファー成形法等の通常の成形法を採用することができる。これらの成形法によって架橋ゴムの成形品が得られ、自動車用部品、建築用品、電線ケーブル等の工業用品として好適に利用することができる。
〔実施形態の作用及び効果のまとめ〕
・ 本実施形態の架橋ゴムの製造方法では、側鎖に炭素−炭素間二重結合を有するゴムを有機過酸化物を用い、加熱して架橋ゴムを製造するに際し、スコーチを抑制するためのテトラアルキルチウラムジスルフィドと、架橋を促進するための多官能アリル化合物とが配合される。テトラアルキルチウラムジスルフィドは、炭素ラジカルに比べて温和な反応性を示す硫黄ラジカルを発生することから、ポリマーラジカルとの反応が緩やかでスコーチ時間を延ばすことができる。従って、従来のスコーチ防止剤である2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンに比べてスコーチ時間を十分に延長させることができる。
【0036】
その上、従来の2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンから生ずる炭素ラジカルは、ポリマーラジカルとそれ以外のラジカル(過酸化物由来ラジカル)とも反応する。そのため、ゴムの架橋に十分寄与しないのに比べて、テトラアルキルチウラムジスルフィドからの硫黄ラジカルはゴム中の二重結合に選択的に付加し、ゴムの架橋度を向上させるものと推測される。また、多官能アリル化合物は、共役二重結合を有する一般の架橋助剤に比べて非共役系であるため比較的反応が遅く、スコーチ抑制作用を維持しながら架橋反応を促進させることができるものと考えられる。
【0037】
よって、側鎖に二重結合を有するゴムの有機過酸化物による架橋において、スコーチをより効果的に抑制してスコーチ時間を延長させることができると共に、架橋を良好に進行させて最大トルク値を増大させることができる。
【0038】
・ 前記テトラアルキルチウラムジスルフィドはそのアルキル基が炭素数2〜8の化合物であることにより、ゴム組成物中におけるテトラアルキルチウラムジスルフィドの分散性が良好となるほか、製造中における臭気の発生を抑制することができ、さらに成形後のゴムからの分解物の析出や浸出を抑えることができる。これは、テトラアルキルチウラムジスルフィドのアルキル基がメチル基よりも長く、極性が低下し、極性の低いゴムであるエチレン−プロピレン共重合ゴム等への相溶性が高められると共に、分解物の分子量が大きくなって揮発性が低下するためと推測される。
【0039】
・ テトラアルキルチウラムジスルフィドがテトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィドであることにより、上記テトラアルキルチウラムジスルフィドの効果を最も有効に発揮することができる。
【0040】
・ 前述した側鎖に炭素−炭素間二重結合を有するゴムがエチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴムであることにより、ゴムの主鎖の切断が起きにくく、主鎖中に二重結合が存在しないため主鎖中の二重結合による過度の架橋を抑制することができる。
【0041】
・ 前記有機過酸化物が過酸化ジアルキルであることにより、係る過酸化ジアルキルは架橋を有効に行うアルコキシラジカルのみを出すため失活しにくく、ゴムなどの他の成分の影響を受けにくい。従って、ゴムの架橋効率を向上させることができる。
【0042】
・ 以上のように、本実施形態の架橋ゴムの製造方法においては、従来のスコーチ防止剤を使用しない場合と同等の架橋度を維持しながら、スコーチ防止剤を使用した場合と同程度にスコーチ時間を延長させることができる。そのため、ゴムの成形加工工程においていわゆる焼けを防止することができて作業性を向上させることができ、産業上の利用可能性を高めることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はそれら実施例の範囲に限定されるものではない。なお、各例中における部及び%は特に断らない限り質量部及び質量%を示す。また、各例中の略号は以下の化合物を示す。特に断りのないものについては、市販の試薬を精製することなく用いた。
(有機過酸化物)
DCP:ジクミルペルオキシド〔日油(株)製、商品名:パークミルD、純度:98質量%〕
3M:1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン〔日油(株)製、商品名:パーヘキサ3M、純度:90質量%〕
(スコーチ抑制剤)
TT:テトラメチルチウラムジスルフィド〔大内新興化学(株)製、商品名:ノクセラーTT−P〕
TET:テトラエチルチウラムジスルフィド〔大内新興化学(株)製、商品名:ノクセラーTET〕
TBT:テトラブチルチウラムジスルフィド〔大内新興化学(株)製、商品名:ノクセラーTBT〕
TOT:テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド〔大内新興化学(株)製、商品名:ノクセラーTOT−N〕
MSD:2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン〔日油(株)製、商品名:ノフマーMSD、純度:95質量%〕
(架橋助剤)
TAIC:トリアリルイソシアヌレート
DAA:ジアリルアジペート
TAT:トリアリルトリメリテート
TMPT:トリメチロールプロパントリメタクリレート
MPBM:N,N’−m−フェニレンビスマレイミド
(酸化防止剤)
HQME:ヒドロキノンモノメチルエーテル
(実施例1)
エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(JSR(株)製、商品名:JSR EP21、ジエンはエチリデン−2−ノルボルネン)100部にDCP2.0部、TOT0.3部、TAIC0.4部を配合、混練してゴム組成物を得た。得られたゴム組成物について、JIS K6300に準拠してムーニースコーチ試験(135℃)を行い(架橋ゴムの製造)、ムーニー粘度の値が最低値から5ポイントだけ上昇するまでに要した時間をスコーチ時間(分)として求めた。その結果を表1に示す。なお、スコーチ時間は、数値が大きいほど良好な結果であることを示す。表1中におけるゴム組成物中の各成分の含有量は、ゴム100質量部に対する質量部を示す。
【0044】
また、前記ゴム組成物についてキュラストメーター〔東洋ボールドウイン(株)製、JSRキュラストメーターIII型〕で架橋試験(170℃)を行って架橋ゴムを製造し、その際の最大トルク値(N・m)を測定した。その結果を表1に示す。なお、最大トルク値はゴムの架橋度を表すものであり、数値が大きいほど高い架橋度であることを示す。
(実施例2、3、5〜8)
実施例1におけるゴム組成物の配合を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして実施した。それらの結果を表1に示す。
(実施例4)
実施例1において、DCPの代りに3Mを用い、TOT0.3部及びTAIC0.3部として配合し、得られたゴム組成物のムーニースコーチ試験を125℃、架橋試験を150℃で行った以外は、実施例1に準じて実施した。その結果を表1に示す。
(比較例1〜8)
実施例1に準じ、ゴム組成物の配合を表1に示すようにした以外は、同様の操作及び試験を実施した。それらの結果を表1に示す。
(比較例9〜11)
実施例4に準じ、ゴム組成物の配合を表1に示すようにした以外は、同様の操作及び試験を実施した。それらの結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

表1の結果より、本発明で特定される有機過酸化物、テトラアルキルチウラムジスルフィド、多官能アリル化合物を併用した場合(実施例1〜3又は4)、有機過酸化物のみを使用した場合(比較例1又は9)に比べ、最大トルク値を低下させることなく、スコーチ時間を延ばせることが明らかとなった。また、実施例1〜3の比較から、これら多官能アリル化合物の中ではトリアリルイソシアヌレート(実施例1)が架橋度向上効果が最も高いことが明らかとなった。
【0046】
実施例1及び実施例6〜8の結果を比較すると、テトラアルキルチウラムジスルフィドの中では特にスコーチ時間の比較からアルキル基の炭素数が2〜8の化合物(実施例1、7、8)が、アルキル基の炭素数が1のもの(実施例6)より好ましいことが明らかになった。その中でも、炭素数が8のテトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(実施例1)が最も好ましいことが明らかとなった。加えて、表1には示されていないが、得られた架橋ゴムの外観についても同様の傾向が得られた。
【0047】
なお、実施例1の組成に酸化防止剤としてヒドロキノンモノメチルエーテルを添加した場合(実施例5)には、最大トルク値を有機過酸化物のみを使用した場合(比較例1)と同等程度に保ちながらスコーチ時間を延ばすことができており、本発明の目的を達成することができた。それと同時に、実施例5における最大トルク値は実施例1と比較して低く、ヒドロキノン系酸化防止剤の添加によって一部架橋が阻害されていることが示された。
【0048】
これに対し、有機過酸化物とMSDのみを使用した場合(比較例2、10)には、比較例1、9と比べてスコーチ時間は長くなるが、最大トルク値の低下が認められた。この最大トルク値の低下を補うため、有機過酸化物とMSDに、ジアリル化合物以外の架橋助剤を併用した場合(比較例3、4)、最大トルク値は比較例1と同等であるが、スコーチ時間は大幅に短くなり、スコーチに対する悪影響が顕著であった。一方、同じ系に架橋助剤としてジアリル化合物を併用した場合(比較例5、11)、最大トルク値を維持しながらスコーチ時間をある程度延ばすことができるが、比較例2、10と比較してみるとその改善幅は十分とは言い難い。
【0049】
これに比べて、本発明で特定される方法、すなわち有機過酸化物と、各アルキル基の炭素数が2〜8のテトラアルキルチウラムジスルフィドと、多官能アリル化合物を併用した場合(例えば、実施例1〜4)では、最大トルク値は有機過酸化物のみを使用した場合(比較例1、9)と同等でありながら、スコーチ時間は大きく改善された。さらに、比較例2及び10との比較でも遜色のないスコーチ時間が確保できることが明らかとなった。
【0050】
以上の結果より、本発明の方法によれば、スコーチを効果的に抑制し、かつ架橋を良好に進行させることができることがわかった。
なお、前記実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
【0051】
・ 前記実施例1で使用したエチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴムのジエンとして、エチリデン−2−ノルボルネンに代えてシクロペンタジエン等の他のジエンを用いることもできる。
【0052】
・ 前記側鎖に炭素−炭素間二重結合を有するゴムとして、複数種類の側鎖に炭素−炭素間二重結合を有するゴムを使用することもできる。
・ 有機過酸化物として、熱分解温度の異なる複数の過酸化ジアルキルを適宜組合せて使用することもできる。
【0053】
・ テトラアルキルチウラムジスルフィドとして、複数の化合物を使用して前記ゴムのスコーチ抑制効果を向上させるように構成することも可能である。
・ 多官能アリル化合物として、有機過酸化物及びテトラアルキルチウラムジスルフィドの種類に対応させて複数の化合物を使用することもできる。
【0054】
さらに、前記実施形態より把握される技術的思想について以下に記載する。
・ 前記テトラアルキルチウラムジスルフィドの含有量は、ゴム100質量部に対して0.05〜5質量部であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の架橋ゴムの製造方法。このように構成した場合、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果を十分に発揮させることができる。
【0055】
・ 前記多官能アリル化合物は、2又は3個のアリル基を有する化合物であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の架橋ゴムの製造方法。このように構成した場合、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果を有効に発揮させることができる。
【0056】
・ 前記多官能アリル化合物は、多価カルボン酸のポリアリルエステル又はシアヌレート化合物であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の架橋ゴムの製造方法。このように構成した場合、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果に加え、架橋ゴムの架橋度を向上させることができる。
【0057】
・ 前記ゴム組成物は、各成分を混練して得られるものであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の架橋ゴムの製造方法。このように構成した場合、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果に加え、ゴム組成物中の各成分を均一にすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖に炭素−炭素間二重結合を有するゴム及び有機過酸化物を含有するゴム組成物を加熱して架橋ゴムを製造するに際し、前記ゴム組成物にスコーチを抑制するためのテトラアルキルチウラムジスルフィドと、架橋を促進するための多官能アリル化合物とを配合することを特徴とする架橋ゴムの製造方法。
【請求項2】
前記テトラアルキルチウラムジスルフィドは、そのアルキル基が炭素数2〜8の化合物であることを特徴とする請求項1に記載の架橋ゴムの製造方法。
【請求項3】
前記テトラアルキルチウラムジスルフィドは、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィドであることを特徴とする請求項2に記載の架橋ゴムの製造方法。
【請求項4】
前記側鎖に炭素−炭素間二重結合を有するゴムは、エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴムであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の架橋ゴムの製造方法。
【請求項5】
前記有機過酸化物は、過酸化ジアルキルであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の架橋ゴムの製造方法。

【公開番号】特開2009−191199(P2009−191199A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−34725(P2008−34725)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】