説明

架橋基を有する有機化合物、有機電界発光素子用組成物および有機電界発光素子

【課題】湿式成膜法に適した有機化合物、特に電子および励起子を発光層側に封じ込める効果が高く、保存安定性に優れる有機化合物を用いて、発光効率が高く、駆動安定性が高い有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】下記式(I)で表される有機化合物。基板上に、陽極、陰極、および該陽極と該陰極に挟持された1層または2層以上の有機層を有する有機電界発光素子において、該有機層の少なくとも1層がこの有機化合物を含有する有機電界発光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式成膜法による成膜が可能な、架橋基を有する有機化合物と、該有機化合物を含有する有機電界発光素子用組成物と、該有機化合物を含有する有機層を有する、発光効率が高く、駆動安定性に優れた有機電界発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機薄膜を用いた電界発光素子(有機電界発光素子)の開発が行われている。有機電界発光素子における有機薄膜の形成方法としては、真空蒸着法と湿式成膜法が挙げられる。
真空蒸着法は積層化が可能であるため、陽極および/または陰極からの電荷注入の改善、励起子の発光層封じ込めが容易であるという利点を有する。湿式成膜法は真空プロセスが要らず、大面積化が容易で、1つの層(塗布液)に様々な機能をもった複数の材料を混合して入れることが容易である等の利点がある。
【0003】
しかしながら、湿式成膜法は積層化が困難であるため、真空蒸着法による素子に比べて駆動安定性に劣り、一部を除いて実用レベルに至っていないのが現状である。特に、湿式成膜法での積層化は、有機溶媒と水系溶媒を使用するなどして二層の積層は可能であるが、三層以上の積層化は困難であった。
【0004】
このような積層化における問題点を解決するために、例えば特許文献1では、エポキシ基を有するジアミン化合物を使用して成膜を行っている。
しかしながら、該ジアミン化合物は電子および励起子を発光層に封じ込める効果が小さく、特に燐光発光を利用する有機電界発光素子に使用することは困難であった。
【0005】
また、特許文献2には、下記の様な架橋基を有する芳香族アミン化合物が提案されている。
【化5】

【0006】
上記の化合物は、特許文献1に記載されるジアミン化合物に比べて、電子などを閉じ込める効果は大きいと考えられるが、アミンのp−位全てが電子供与性の強い置換基であるため、非常に酸化されやすく保存安定性に問題があった。
【特許文献1】特開平7−85973号公報
【特許文献2】特開平7−114987号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、湿式成膜法に適した有機化合物、特に電子および励起子を発光層側に封じ込める効果が高く、保存安定性に優れる有機化合物を提供することを課題とする。
本発明はまた、発光効率が高く、駆動安定性が高い有機電界発光素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、下記の特定構造を有する架橋基を有する有機化合物が、高い正孔輸送能、高い電子および励起子阻止能を有し、保存安定性にも優れる、湿式成膜法に適した化合物であることを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明者らは、上記特許文献2に記載される架橋基を有する芳香族アミン化合物は、保存安定性が低いため、この化合物の構造を多少変化させても保存安定性が改良されることはなく、有機電界発光素子への使用は困難であると考えたが、敢えてこの化合物の窒素原子に結合する3つのフェニレン基のうちの2つをビフェニレン基に変えて、ベンゼン環を増やしてみたところ、保存安定性が改良されるだけでなく、電子および励起子を発光層側に封じ込める効果、さらには正孔輸送能までもが向上するという効果を得ることができることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0010】
[1] 下記式(I)で表される有機化合物。
【化6】

(式中、環Aは置換基を有していてもよいベンゼン環を表す。TおよびTは、それぞれ独立に、架橋基を含む置換基を表す。mおよびnは、それぞれ架橋基を含む置換基が置換する数を表し、それぞれ独立に、0〜2の整数を表す。但し、m+nは2以上の整数である。)
【0011】
[2] 前記式(I)が下記式(I−1)で表される[1]に記載の有機化合物。
【化7】

(式中、Tは、架橋基を含む置換基を表す。pは、Tの置換数を表し、0〜2の整数を表す。T、T、mおよびnは、それぞれ式(I)におけるものと同義である。)
【0012】
[3] 前記式(I−1)が下記式(I−2)で表される[2]に記載の有機化合物。
【化8】

(式中、T11〜T13は、それぞれ独立に、架橋基を含む置換基を表す。mおよびnは、それぞれ式(I)におけるものと同義であり、pは、式(I−I)におけるものと同義である。)
【0013】
[4] 前記架橋基を含む置換基の架橋基が、環状エーテル基および下記式(II−1)〜(II−4)からなる群から選ばれる基のいずれかであることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の有機化合物。
【化9】

【0014】
[5] 該環状エーテル基が、オキシラン環またはオキセタン環由来の基である[4]に記載の有機化合物。
【0015】
[6] [1]〜[5]のいずれかに記載の有機化合物を含有する有機電界発光素子用組成物。
【0016】
[7] 基板上に、陽極、陰極、および該陽極と該陰極に挟持された1層または2層以上の有機層を有する有機電界発光素子において、該有機層の少なくとも1層が、[1]〜[5]のいずれかに記載の有機化合物を含有する有機電界発光素子。
【0017】
[8] 該有機化合物を含有する層が、正孔輸送層である[7]に記載の有機電界発光素子。
【0018】
[9] 該正孔輸送層上に、発光層を有する[8]に記載の有機電界発光素子。
【0019】
[10] 前記有機層が、正孔注入層、正孔輸送層および発光層を有し、正孔注入層、正孔輸送層および発光層の全てが湿式成膜法により形成される[7]〜[9]のいずれかに記載の有機電界発光素子。
【発明の効果】
【0020】
本発明の有機化合物は、高い正孔輸送能、高い電子および励起子阻止能を有し、保存安定性にも優れる。また、この有機化合物は湿式成膜法に適しており、この有機化合物を用いて有機電界発光素子の有機層を湿式成膜法で積層して形成することが可能となる。
【0021】
また、この有機化合物を含む有機電界発光素子用組成物を用いて、湿式成膜法により形成される有機電界発光素子は、大面積化が可能である。
また、この有機化合物を含む有機電界発光素子用組成物を用いて、有機溶剤に不溶な有機薄膜を形成することも可能であり、有機電界発光素子の湿式成膜法による積層化が容易となる。
さらに、本発明の有機化合物を含む有機電界発光素子によれば、高い効率で発光させることが可能となり、かつ素子の安定性、特に駆動安定性が向上する。
【0022】
また、本発明の有機化合物は、優れた製膜性、電荷輸送性、発光特性、耐熱性から、素子の層構成に合わせて、正孔注入材料、正孔輸送材料、発光材料、ホスト材料、電子注入材料、電子輸送材料などとしても適用可能である。
【0023】
本発明の有機化合物を含む有機電界発光素子は、フラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピュータ用や壁掛けテレビ)、車載表示素子、携帯電話表示や面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯への応用が考えられ、その技術的価値は大きいものである。
【0024】
なお、本発明の有機化合物は、本質的に優れた耐酸化還元安定性を有することから、有機電界発光素子に限らず、電子写真感光体にも有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に本発明の有機化合物、有機電界発光素子用組成物および有機電界発光素子の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定されない。
【0026】
[有機化合物]
本発明の有機化合物は、下記式(I)で表される。
【化10】

(式中、環Aは置換基を有していてもよいベンゼン環を表す。TおよびTは、それぞれ独立に、架橋基を含む置換基を表す。mおよびnは、それぞれ架橋基を含む置換基が置換する数を表し、それぞれ独立に、0〜2の整数を表す。但し、m+nは2以上の整数である。)
【0027】
[1]構造上の特徴
本発明の有機化合物は2以上のp−ビフェニル基を有する第三アミン構造を有し、保存安定性に優れ、高い正孔輸送能を有し、高い電子および励起子阻止能を有する。また、2以上の架橋基を有するため、これを架橋させることにより、湿式成膜法により形成した膜を、有機溶媒に不溶とすることが可能である。
【0028】
[2]分子量範囲
本発明の有機化合物の分子量は、通常、3000以下、好ましくは2000以下であり、また通常400以上、好ましくは500以上である。分子量がこの上限値を超えると、不純物の高分子量化によって精製が困難となる場合があり、また分子量がこの下限値を下回ると、ガラス転移温度および、融点、気化温度などが低下するため、耐熱性が著しく損なわれるおそれがある。
【0029】
[3]物性
本発明の有機化合物のガラス転移温度は、耐熱性の観点から、50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることが更に好ましい。
【0030】
[4]環A
本発明の有機化合物における環Aは、任意の置換基を有してもよいベンゼン環を表す。該置換基としては、架橋基を有するものであっても、架橋基を有さないものであってもよい。また、該置換基の分子量は通常600以下であり、環Aは、このような置換基を1または2以上有していてもよいが、環Aに結合する置換基の合計の分子量としては、通常2000以下である。
【0031】
環Aに結合する任意の置換基として具体的には、次のようなものが挙げられるが、環Aの置換基は、以下に例示する置換基が複数個連結されてなるものであってもよい。
【0032】
<環Aの置換基の具体例>
置換基を有していてもよいアルキル基(好ましくは炭素数1から8の直鎖または分岐のアルキル基であり、例えばメチル、エチル、n−プロピル、2−プロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアルケニル基(好ましくは炭素数2から9のアルケニル基であり、例えばビニル、アリル、1−ブテニル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアルキニル基(好ましくは炭素数2から9のアルキニル基であり、例えばエチニル、プロパルギル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアラルキル基(好ましくは炭素数7から15のアラルキル基であり、例えばベンジル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアルコキシ基(好ましくは置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルコキシ基であり、たとえばメトキシ、エトキシ、ブトキシ基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜12の芳香族炭化水素基を有するものであり、例えばフェニルオキシ、1−ナフチルオキシ、2−ナフチルオキシ基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいヘテロアリールオキシ基(好ましくは5または6員環の芳香族複素環基を有するものであり、例えばピリジルオキシ、チエニルオキシ基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアシル基(好ましくは置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアシル基であり、例えばホルミル、アセチル、ベンゾイル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基(好ましくは置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアルコキシカルボニル基であり、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基(好ましくは置換基を有していてもよい炭素数7〜13のアリールオキシカルボニル基であり、例えばフェノキシカルボニル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアルキルカルボニルオキシ基(好ましくは置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアルキルカルボニルオキシ基であり、例えばアセトキシ基などが挙げられる。)
ハロゲン原子(特に、フッ素原子または塩素原子)、
カルボキシ基
シアノ基
水酸基
メルカプト基
置換基を有していてもよいアルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜8のアルキルチオ基であり、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアリールチオ基(好ましくは炭素数6〜12のアリールチオ基であり、例えば、フェニルチオ基、1−ナフチルチオ基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいスルホニル基(例えばメシル基、トシル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいシリル基(例えばトリメチルシリル基、トリフェニルシリル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいボリル基(例えばジメシチルボリル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいホスフィノ基(例えばジフェニルホスフィノ基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基(例えばベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、フルオランテン環などの、5または6員環の単環または2〜5縮合環由来の1価の基が挙げられる。)
置換基を有していてもよい芳香族複素環基(例えばフラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環などの、5または6員環の単環または2〜4縮合環由来の1価の基が挙げられる。)
【0033】
また、上記置換基がさらに置換基を有する場合、その置換基としては、上記例示置換基が挙げられる。
【0034】
環Aの置換基としては、正孔輸送性および耐熱性を向上させる観点から、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基が好ましく、より好ましくは置換基を有してもよいフェニル基である。また、有機溶剤に対する不溶化をより促進する観点から、該フェニル基の置換基としては架橋基を含む置換基であることが好ましい。
【0035】
すなわち、本発明の有機化合物は下記式(I−1)で表されることが好ましい。
【化11】

(式中、Tは、架橋基を含む置換基を表す。pは、Tの置換数を表し、0〜2の整数を表す。T、T、mおよびnは、それぞれ式(I)におけるものと同義である。)
なお、上記式(I−1)において、m+nは2以上の整数であるから、m+n+pも2以上の整数である。
【0036】
[5]T〜T
上記式(I)におけるT,T、上記式(I−1)におけるTは、それぞれ独立に、架橋基を含む置換基を表す。
この架橋基を含む置換基とは、置換基の一部に架橋性を有する部位を有する基である。架橋基を含む置換基は架橋基のみからなる基であってもよいし、架橋基に他の基が連結しているものであってもよい。
〜Tはそれぞれ、分子量400以下の基であることが好ましい。
また、T〜Tのうち少なくとも2つ(TおよびT)が同一であることが好ましく、3つが同一であることがより好ましい。特に、中心のアミノ基のN原子に結合する3つの基がその置換基も含めて、3つ中2つが同一であることが好ましく、3つ全てが同一であることがより好ましい。
【0037】
〜Tに含まれる架橋基は、熱や光などの電磁エネルギーにより、互いに結合を形成し得る基であれば特に制限されないが、不飽和二重結合、環状エーテル、ベンゾシクロブタンなどを含む基が好ましい。
特に、架橋基が、環状エーテル基および下記式(II−1)〜(II−4)からなる群から選ばれる基のいずれかであることが好ましい。
【0038】
該環状エーテル基としては反応性が高く、架橋反応が進行しやすいため、オキシラン環またはオキセタン環由来の基が好ましい。
【0039】
【化12】

(式(II−1)中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子または任意の置換基を表す。)
【0040】
〜Rの任意の置換基として具体的には、環Aの置換基として例示した置換基が挙げられるが、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基であることが、電気化学的耐久性の点から好ましく、RおよびRがともに水素原子であることが、架橋反応が進行しやすいためにさらに好ましく、R〜Rがすべて水素原子であることが特に好ましい。
【0041】
中でも、下記式(II−2)で表されるように、R〜Rがすべてフッ素原子であることが、熱や光などの電磁エネルギーによりシクロブタン環を形成して架橋することが可能になるため、特に好ましい。
【化13】

【0042】
【化14】

(式(II−3)中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子または任意の置換基を表す。)
【0043】
〜Rの任意の置換基として具体的には、環Aの置換基として例示した置換基群が挙げられるが、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基であることが、電気化学的耐久性の点から好ましく、RおよびRがともに水素原子であることが、架橋反応が進行しやすいためにさらに好ましく、RおよびRがともに水素原子でRがメチル基であること、または、R〜Rがすべて水素原子であることが特に好ましい。
【0044】
また、RおよびRが水素原子でRが芳香族炭化水素基または芳香族複素環基であることが、熱や光などの電磁エネルギーによりシクロブタン環を形成して架橋することが可能になるため、特に好ましい。中でもRおよびRが水素原子でRがフェニル基であることが好ましい。
【0045】
【化15】

(式(II−4)中、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子または任意の置換基を表す。)
【0046】
およびRの任意の置換基として具体的には、環Aの置換基として例示した置換基群が挙げられるが、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコシキル基であることが、電気化学的耐久性、溶解性の点から好ましく、RおよびRがともに水素原子であることが、架橋反応が進行しやすいためにさらに好ましい。RおよびRがともに置換基である場合、RとRは互いに結合してジオキサンなどの環状エーテル、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素環、ベンゼンなどの芳香族炭化水素環、ピリジンなどの芳香族複素環等の環を形成していてもよい。
〜Tの架橋基を含む置換基の架橋基以外の部分として具体的には、前記環Aの置換基として例示したものが挙げられる。これら例示の基は1価基であるが、1価の基のままで或いは2価の基となりうるものは2価基として、T〜Tの一部を構成してもよい。
【0047】
上記式(I)、(I−1)または下記詳述する式(I−2)で表される有機化合物におけるm,nおよびpは、それぞれ0〜2の整数を表すが、好ましくは1または2、より好ましくは1である。なお、上記式(I)において、m+nは2以上の整数、上記式(I−1)および下記式(I−2)において、m+n+pは2以上の整数である。
特に、上記式(I)においてm=n=1であること、上記式(I−1)および下記式(I−2)においてm=n=p=1であることが好ましい。
【0048】
上述した架橋基は、2以上のp−ビフェニル基を有する第三アミン構造に直接結合してもよいが、本発明の有機化合物の特徴である高い正孔輸送能、高い電子および励起子阻止能をより向上させるため、連結基を介して結合した方が好ましい。
【0049】
連結基としては、任意の2価の基が適用可能であるが、アルキレン基、エーテル基、スルフィド基が好ましく、溶解性および電気化学的安定性を向上させる観点から、エーテル基が特に好ましい。
【0050】
すなわち、本発明の有機化合物は、T〜Tとしての架橋基を含む置換基が、エーテル基を介してp−ビフェニル基のベンゼン環に結合する基であること、すなわち、下記式(I−2)で表されることが特に好ましい。
【0051】
【化16】

(式中、T11〜T13は、それぞれ独立に、架橋基を含む置換基を表す。mおよびnは、それぞれ式(I)におけるものと同義であり、pは、式(I−1)におけるものと同義である。)
11〜T13は、それぞれ独立に架橋基を含む置換基を表し、前記T〜Tと同義である。好ましい例および具体例もT〜Tと同義である。
【0052】
また、前述の如く、n=n=p=1であることが好ましいことから、本発明の有機化合物は、高い三重項励起準位を有する点および溶解性が特に高い点で、下記式(I−3)で表されることが好ましく、耐熱性に優れる点で、下記式(I−4)で表されることが好ましい。
【0053】
【化17】

【0054】
(式(I−3),(I−4)中、T11〜T13は上記式(I−2)におけるものと同義である。)
【0055】
[6]例示
以下に、本発明の有機化合物として好ましい具体的な例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。下記具体例の他、実施例において合成した化合物も、具体例として挙げられる。
【0056】
【化18】

【0057】
【化19】

【0058】
【化20】

【0059】
【化21】

【0060】
【化22】

【0061】
【化23】

【0062】
[7]合成法
本発明の有機化合物は、目的とする化合物の構造に応じて原料を選択し、公知の手法を用いて合成することができる。
【0063】
例えば、下記反応式に示すように、トリス(4−ブロモフェニル)アミンと式(VIII−1)で表される架橋基を有するフェニルボレートとを反応(鈴木カップリング)させることによって、式(VIII)で表される、本発明の有機化合物が得られる。
【0064】
【化24】

(式中、Tは架橋基を有する置換基を表し、Rは任意の基を表す。)
【0065】
上記の例は、トリス(4−ブロモフェニル)アミンと式(VIII−1)で表される架橋基を有するフェニルボレートとを1:3(モル比)で反応させた例であるが、これを1:1または1:2で反応させた後、一回目の反応とは異なるフェニルボレートとの反応を行うことにより、非対称型の化合物が得られる。
【0066】
また、下記反応式で示すように、置換基を有していてもよいアニリンと、式(IX)で表される架橋基を有するハロゲン化ビフェニル誘導体とを、塩基存在下、パラジウム触媒または銅触媒を用いて反応させることによって、式(X)で表される本発明の有機化合物が得られる。
【0067】
【化25】

(式中、環Aは任意の置換基を有していてもよいベンゼン環を表す。Tは架橋基を有する置換基を表し、Xはハロゲン原子(好ましくはX=Cl,Br,I)を表す。)
【0068】
上記の例は、置換基を有しても良いアニリンとハロゲン化ビフェニル誘導体とを1:2(モル比)で反応させた例であるが、これを1:1で反応させた後、一回目の反応とは異なるハロゲン化ビフェニル誘導体との反応を行うことにより、非対称型の化合物が得られる。
【0069】
また、下記反応式に示すように、式(XII)で表される対応するフェノール体を合成してから、架橋基を導入することも可能である。フェノール体は対応する式(XI)で表されるアニシル体に三臭化ホウ素などを作用させることによって合成される。式(XII)で表される対応するフェノール体と架橋基とハロゲン原子を有する化合物(T−X)とを塩基存在下で反応させることによって、式(XIII)で表される本発明の有機化合物が得られる。
【0070】
【化26】

(式中、環Aは任意の置換基を有していてもよいベンゼン環を表す。Tは架橋基を有する置換基を表し、Xはハロゲン原子(好ましくはX=Cl,Br,I)を表す。)
【0071】
その他、公知のカップリング反応が使用可能である。公知のカップリング手法としては、具体的には、「Palladium in Heterocyclic Chemistry:A guide for the Synthetic Chemist」(第二版、2002、Jie Jack Li and Gordon W.Gribble、Pergamon社)、「遷移金属が拓く有機合成 その多彩な反応形式と最新の成果」(1997年、辻二郎、化学同仁社)、「ボルハルト・ショアー現代有機化学 下」(2004年、K.P.C.Vollhardt、化学同人社))などに記載または引用されている、ハロゲン化アリールとアリールボレートとのカップリング反応などの、環同士の結合(カップリング)反応)を用いることができる。
【0072】
化合物の精製方法としては、「分離精製技術ハンドブック」(1993年、(財)日本化学会編)、「化学変換法による微量成分および難精製物質の高度分離」(1988年、(株)アイ ピー シー発行)、あるいは「実験化学講座(第4版)1」(1990年、(財)日本化学会編)の「分離と精製」の項に記載の方法をはじめとし、公知の技術を利用可能である。具体的には、抽出(懸濁洗浄、煮沸洗浄、超音波洗浄、酸塩基洗浄を含む)、吸着、吸蔵、融解、晶析(溶媒からの再結晶、再沈殿を含む)、蒸留(常圧蒸留、減圧蒸留)、蒸発、昇華(常圧昇華、減圧昇華)、イオン交換、透析、濾過、限外濾過、逆浸透、圧浸透、帯域溶解、電気泳動、遠心分離、浮上分離、沈降分離、磁気分離、各種クロマトグラフィー(形状分類:カラム、ペーパー、薄層、キャピラリー、移動相分類:ガス、液体、ミセル、超臨界流体。分離機構:吸着、分配、イオン交換、分子ふるい、キレート、ゲル濾過、排除、アフィニティー)などが挙げられる。
【0073】
生成物の確認や純度の分析方法としては、ガスクロマトグラフ(GC)、高速液体クロマトグラフ(HPLC)、高速アミノ酸分析計(有機化合物)、キャピラリー電気泳動測定(CE)、サイズ排除クロマトグラフ(SEC)、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)、交差分別クロマトグラフ(CFC)、質量分析(MS、LC/MS,GC/MS,MS/MS)、核磁気共鳴装置(NMR(HNMR,13CNMR))、フーリエ変換赤外分光高度計(FT−IR)、紫外可視近赤外分光高度計(UV.VIS,NIR)、電子スピン共鳴装置(ESR)、透過型電子顕微鏡(TEM−EDX)電子線マイクロアナライザー(EPMA)、金属元素分析(イオンクロマトグラフ、誘導結合プラズマ−発光分光(ICP−AES)原子吸光分析(AAS)、蛍光X線分析装置(XRF))、非金属元素分析、微量成分分析(ICP−MS,GF−AAS,GD−MS)等を必要に応じ、適用可能である。
【0074】
[有機電界発光素子用組成物]
本発明の有機電界発光素子用組成物は、陽極と陰極とに挟持された有機層を有する有機電界発光素子において、通常、該有機層を湿式成膜法により形成する際の塗布液として用いられる。本発明の有機電界発光素子用組成物は、該有機層のうち、正孔輸送層を形成するために用いられることが好ましい。
【0075】
なお、ここでは、有機電界発光素子における陽極−発光層間の層が1つの場合には、これを「正孔輸送層」と称し、2つ以上の場合は、陽極に接している層を「正孔注入層」、それ以外の層を総称して「正孔輸送層」と称す。また、陽極−発光層間に設けられた層を総称して「正孔注入・輸送層」と称する場合がある。
【0076】
本発明の有機電界発光素子用組成物は、前記本発明の有機化合物を含有することを特徴とするが、通常、さらに溶媒を含有する。
該溶媒は、本発明の有機化合物を溶解するものが好ましく、通常、有機化合物を0.05重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上溶解する溶媒である。
なお、本発明の有機電界発光素子用組成物は、本発明の有機化合物の1種のみを含むものであってもよく、2種以上を含むものであってもよい。
【0077】
また、本発明の有機電界発光素子用組成物は、必要に応じ、電子受容性化合物や、後述の正孔輸送層の溶解性を低下させ、正孔輸送層上へ他の層を塗布することを可能とする架橋反応を促進するための添加物等の添加剤を含んでいてもよい。この場合は、溶媒としては、本発明の有機化合物と添加剤の双方を0.05重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上溶解する溶媒を使用することが好ましい。
【0078】
本発明の有機電界発光素子用組成物に含まれる、本発明の有機化合物の架橋反応を促進する添加物としては、アルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、メタロセン化合物、オキシムエステル化合物、アゾ化合物、オニウム塩などの重合開始剤や重合促進剤、縮合多環炭化水素、ポルフィリン化合物、ジアリールケトン化合物などの光増感剤等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0079】
また、本発明の有機電界発光素子用組成物に含まれる電子受容性化合物としては、本発明の有機電界発光素子の正孔注入層に含有される電子受容性化合物として後述したものの1種または2種以上を使用することができる。
【0080】
本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される溶媒としては、特に制限されるものではないが、本発明の有機化合物を溶解させる必要があることから、好ましくは、トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族化合物;1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等の含ハロゲン溶媒;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル、1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸イソプロピル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等のエステル系溶媒等の有機溶媒が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0081】
本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される溶媒の組成物中の濃度は、通常10重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは80重量%以上である。
【0082】
なお、水分は有機電界発光素子の性能劣化、中でも特に連続駆動時の輝度低下を促進する可能性があることが広く知られており、塗膜中に残留する水分をできる限り低減するために、これらの溶媒の中でも、25℃における水の溶解度が1重量%以下であるものが好ましく、0.1重量%以下である溶媒がより好ましい。
【0083】
本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される溶媒として、20℃における表面張力が40dyn/cm未満、好ましくは36dyn/cm以下、より好ましくは33dyn/cm以下である溶媒が挙げられる。
【0084】
即ち、本発明の有機化合物を含有する層を湿式成膜法により形成する場合、下地との親和性が重要である。膜質の均一性は有機電界発光素子の発光の均一性、安定性に大きく影響するため、湿式成膜法に用いる塗布液には、よりレベリング性が高く均一な塗膜を形成しうるように表面張力が低いことが求められる。このような溶媒を使用することにより、本発明の有機化合物を含有する均一な層を形成することができる。
【0085】
このような低表面張力の溶媒の具体例としては、前述したトルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族系溶媒、安息香酸エチル等のエステル系溶媒、アニソール等のエーテル系溶媒、トリフルオロメトキシアニソール、ペンタフルオロメトキシベンゼン、3−(トリフルオロメチル)アニソール、エチル(ペンタフルオロベンゾエート)等が挙げられる。
【0086】
これらの溶媒の組成物中の濃度は、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上である。
【0087】
本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される溶媒としてはまた、25℃における蒸気圧が10mmHg以下、好ましくは5mmHg以下で、通常0.1mmHg以上の溶媒が挙げられる。このような溶媒を使用することにより、有機電界発光素子を湿式成膜法により製造するプロセスに好適な、また、本発明の有機化合物の性質に適した組成物を調製することができる。このような溶媒の具体例としては、前述したトルエン、キシレン、メチシレン等の芳香族系溶媒、エーテル系溶媒およびエステル系溶媒が挙げられる。これらの溶媒の組成物中の濃度は、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上である。
【0088】
本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される溶媒として、25℃における蒸気圧が2mmHg以上、好ましくは3mmHg以上、より好ましくは4mmHg以上(但し、上限は好ましくは10mmHg以下である。)である溶媒と、25℃における蒸気圧が2mmHg未満、好ましくは1mmHg以下、より好ましくは0.5mmHg以下である溶媒との混合溶媒が挙げられる。このような混合溶媒を使用することにより、湿式製膜法により本発明の有機化合物、更には電子受容性化合物を含む均質な層を形成することができる。このような混合溶媒の組成物中の濃度は、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上である。
【0089】
有機電界発光素子は、多数の有機化合物からなる層を積層して形成するため、膜質が均一であることが非常に重要である。湿式成膜法で層形成する場合、その材料や、下地の性質によって、スピンコート法、スプレー法などの塗布法や、インクジェット法、スクリーン法などの印刷法等、公知の成膜方法が採用できる。例えばスプレー法は、凹凸のある面への均一な膜形成に有効であるため、パターニングされた電極や画素間の隔壁による凹凸が残る面に、有機化合物からなる層を設ける場合に、好ましい。スプレー法による塗布の場合、ノズルから塗布面へ噴射された塗布液の液滴はできる限り小さい方が 、均一な膜質が得られるため好ましい。そのためには、塗布液に蒸気圧の高い溶剤を混合し、塗布雰囲気中において噴射後の塗布液滴から溶剤の一部が揮発することにより、基板に付着する直前に細かい液滴が生成する状態が好ましい。また、より均一な膜質を得るためには、塗布直後に基板上に生成した液膜がレベリングする時間を確保することが必要で、この目的を達成するためにはより乾燥の遅い溶剤、すなわち蒸気圧の低い溶剤をある程度含有させる手法が用いられる。
【0090】
具体例としては、25℃における蒸気圧が2mmHg以上10mmHg以下である溶媒としては、例えば、キシレン、アニソール、シクロヘキサノン、トルエン等が挙げられる。25℃における蒸気圧が2mmHg未満である溶媒としては、安息香酸エチル、安息香酸メチル、テトラリン、フェネトール等が挙げられる。
【0091】
混合溶媒の比率は、25℃における蒸気圧が2mmHg以上である溶媒が、混合溶媒総量中、5重量%以上、好ましくは25重量%以上、但し50重量%未満であり、25℃における蒸気圧が2mmHg未満である溶媒が、混合溶媒総量中、30重量%以上、好ましくは50重量%以上、特に好ましくは75重量%以上、但し、95重量%未満である。
【0092】
なお、有機電界発光素子は、多数の有機化合物からなる層を積層して形成するため、各層がいずれも均一な層であることが要求される。湿式成膜法で層形成する場合、層形成用の溶液(組成物)に水分が混入することにより、塗膜に水分が混入して膜の均一性が損なわれるおそれがあるため、溶液中の水分含有量はできるだけ少ない方が好ましい。具体的には、有機電界発光素子組成物中に含まれる水分量は、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.1重量%以下、さらに好ましくは0.05重量%以下である。
【0093】
また、一般に、有機電界発光素子は、陰極等の水分により著しく劣化する材料が多く使用されているため、素子の劣化の観点からも、水分の存在は好ましくない。溶液中の水分量を低減する方法としては、例えば、窒素ガスシール、乾燥剤の使用、溶媒を予め脱水する、水の溶解度が低い溶媒を使用する等が挙げられる。なかでも、水の溶解度が低い溶媒を使用する場合は、塗布工程中に、溶液塗膜が大気中の水分を吸収して白化する現象を防ぐことができるため好ましい。
この様な観点からは、本発明の有機電界発光素子用組成物は、例えば25℃における水の溶解度が1重量%以下(好ましくは0.1重量%以下)である溶媒を、該組成物中10重量%以上含有することが好ましい。なお、上記溶解度条件を満たす溶媒が30重量%以上であればより好ましく、50重量%以上であれば特に好ましい。
【0094】
なお、本実施の形態が適用される有機電界発光素子用組成物に含有される溶媒として、前述した溶媒以外にも、必要に応じて、各種の他の溶媒を含んでいてもよい。このような他の溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等がある。
また、本発明の有機電界発光素子用組成物は、レベリング剤や消泡剤等の塗布性改良剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0095】
[成膜方法]
前述の如く、有機電界発光素子は、多数の有機化合物からなる層を積層して形成するため、膜質が均一であることが非常に重要である。湿式成膜法で層形成する場合、その材料や、下地の性質によって、スピンコート法、スプレー法などの塗布法や、インクジェット法、スクリーン法などの印刷法等、公知の成膜方法が採用できる。
【0096】
湿式成膜法を用いる場合、本発明の有機化合物および必要に応じて用いられるその他の成分(電子受容性化合物、架橋反応を促進する添加物や塗布性改良剤等)を、適切な溶媒に溶解させ、上記有機電界発光素子用組成物を調製する。この組成物を、スピンコート法やディップコート法等の手法により、形成する層の下層に該当する層上に塗布し、乾燥することにより、本発明の有機化合物を含有する層を形成する。
通常、本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて形成される層は、正孔輸送層として用いられる。そのため、通常は、この層は正孔注入層上に形成されるか、陽極上に形成される。
【0097】
また、本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて形成された層に引き続き発光層を形成するためには、発光層成膜用の塗布組成物に、形成された正孔輸送層が溶解しないことが好ましい。このため、本発明の有機電界発光素子用組成物を成膜後、加熱および/または光などの電磁エネルギー照射により、本発明の有機化合物が架橋反応を起こし、反応後の膜の溶解性を低下させることが好ましい。
【0098】
加熱の手法は特に限定されないが、例としては加熱乾燥、減圧乾燥等が挙げられる。加熱乾燥の場合の条件としては、通常120℃以上、好ましくは400℃以下に本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて形成された層を加熱する。加熱時間としては、通常1分以上、好ましくは24時間以下である。加熱手段としては特に限定されないが、形成された層を有する積層体をホットプレート上に載せたり、オーブン内で加熱するなどの手段が用いられる。例えば、ホットプレート上で120℃以上、1分間以上加熱する等の条件を用いることができる。
【0099】
光などの電磁エネルギー照射による場合には、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、赤外ランプ等の紫外・可視・赤外光源を直接用いて照射する方法、あるいは前述の光源を内蔵するマスクアライナ、コンベア型光照射装置を用いて照射する方法などが挙げられる。光以外の電磁エネルギー照射では、例えばマグネトロンにより発生させたマイクロ波を照射する装置、いわゆる電子レンジを用いて照射する方法が挙げられる。
【0100】
照射時間としては、膜の溶解性を低下させるために必要な条件を設定することが好ましいが、通常、0.1秒以上、好ましくは10時間以下照射される。
【0101】
加熱および光などの電磁エネルギー照射は、それぞれ単独、あるいは組み合わせて行ってもよい。組み合わせる場合、実施する順序は特に限定されない。
【0102】
加熱および光を含む電磁エネルギー照射は、実施後に層に含有する水分および/または表面に吸着する水分の量を低減するために、窒素ガス雰囲気等の水分を含まない雰囲気で行うことが好ましい。同様の目的で、加熱および/または光などの電磁エネルギー照射を組み合わせて行う場合には、少なくとも有機発光層の形成直前の工程を窒素ガス雰囲気等の水分を含まない雰囲気で行うことが特に好ましい。
【0103】
[有機電界発光素子]
本発明の有機電界発光素子は、基板上に、陽極、陰極、および該陽極と該陰極に挟持された1層または2層以上の有機層を有する有機電界発光素子において、該有機層の少なくとも1層が、上記本発明の有機化合物を含有することを特徴とする。本発明の有機化合物を含有する層は、上記本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜法により形成されることが好ましい。
本発明の有機化合物を含有する層は、正孔輸送層であることが好ましく、この正孔輸送層上に発光層を有することがより好ましい。また、正孔輸送層および発光層が湿式成膜法で形成されることが好ましく、さらに正孔注入層も湿式成膜法で形成されることが好ましい。
発光層が湿式成膜法により形成される場合、正孔輸送層は架橋基を有する化合物を架橋してなるポリマーを含有することが好ましく、特に発光層が湿式成膜法で形成される低分子材料からなる層である場合には、正孔輸送層が架橋基を有する化合物を架橋してなるポリマーを含有する層であることにより、有機電界発光素子の特性を向上することができる。すなわち、発光層が湿式成膜法で形成される低分子材料からなる層である場合には、本発明のような架橋基を有する化合物を架橋して正孔輸送層を形成することが好ましい。
【0104】
図1は、本発明の有機電界発光素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。図1に示す有機電界発光素子は、基板1の上に、陽極2、正孔注入層3、正孔輸送層4、有機発光層5、正孔阻止層6,電子注入層7および陰極8を、この順に積層して構成される。この構成の場合、通常は正孔輸送層4が上述の本発明の有機化合物含有層に該当することになる。
【0105】
[1]基板
基板1は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシートなどが用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホンなどの透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機電界発光素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0106】
[2]陽極
陽極2は、後述する有機発光層側の層(正孔注入層3または有機発光層5など)への正孔注入の役割を果たすものである。この陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウムおよび/またはスズの酸化物などの金属酸化物、ヨウ化銅などのハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子などにより構成される。陽極2の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法などにより行われることが多い。また、銀などの金属微粒子、ヨウ化銅などの微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末などの場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散し、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。更に、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板1上に薄膜を形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Applied Physics Letters,1992年,Vol.60,pp.2711参照)。陽極2は異なる物質で積層して形成することも可能である。
【0107】
陽極2の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが望ましく、この場合、厚みは、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。不透明で良い場合、陽極2は基板1と同一でもよい。また、更には上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0108】
なお、陽極に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的として、陽極表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理することが好ましい。また、正孔注入の効率を更に向上させ、かつ、有機層全体の陽極への付着力を改善させる目的で、正孔注入層3と陽極2との間に公知の陽極バッファ層を挿入してもよい。
【0109】
[3]正孔注入層
正孔注入層3は、陽極2から有機発光層5へ正孔を輸送する層である。通常はこの正孔注入層3が、陽極2上に形成される。よって、正孔注入層3は、好ましくは正孔注入性化合物および電子受容性化合物を含有して構成されることになる。更に、正孔注入層3は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その他の成分を含有していてもよい。
【0110】
正孔注入層3を陽極2上に形成する手法としては、湿式成膜法、真空蒸着法が挙げられるが、上述したように、均質で欠陥がない薄膜を容易に得られる点や、形成のための時間が短くて済む点から、湿式成膜法が好ましい。また、陽極2として一般的に用いられるITO(インジウム・スズ酸化物)は、その表面が10nm程度の表面粗さ(Ra)を有するのに加えて、局所的に突起を有することが多く、短絡欠陥を生じ易いという課題があった。陽極2の上の正孔注入層3を湿式成膜法により形成することは、真空蒸着法で形成する場合と比較して、陽極2表面の凹凸に起因する素子の欠陥の発生を低減するという利点をも有する。
【0111】
正孔注入性化合物としての芳香族アミン化合物としては、トリアリールアミン構造を含む化合物が好ましく、従来有機電界発光素子における正孔注入層の形成材料として利用されてきた化合物の中から適宜選択してもよい。芳香族アミン化合物として、例えば、下記一般式(1)で表されるビナフチル系化合物が挙げられる。
【0112】
【化27】

【0113】
一般式(1)中、Ar〜Arは各々独立に、置換基を有していてもよい5または6員環の芳香族炭化水素環または芳香族複素環の単環基または縮合環基であり、ArとAr、ArとArは、各々結合して環を形成していてもよい。W1およびW2は各々0〜4の整数を表し、W1+W2≧1である。XおよびXは各々独立に、直接結合または2価の連結基を表す。また、一般式(1)中のナフタレン環は、−(XNArAr)および−(XNArAr)に加えて、任意の置換基を有していてもよい。
【0114】
一般式(1)中、Ar〜Arの置換基を有していてもよい5または6員環の芳香族炭化水素環または芳香族複素環の単環基または縮合環基としては、各々独立に、例えば5または6員環の単環または2〜3縮合環であり、具体的には、フェニル基、ナフチル基、アントリル基等の芳香族炭化水素環由来の基;ピリジル基、チエニル基等の芳香族複素環由来の基が挙げられる。これらはいずれも置換基を有していてもよい。
【0115】
Ar〜Arの有することがある置換基としては、Ar〜Ar15が有することがある置換基として後述するもの、および、アリールアミノ基(即ち、後述の−(NArAr),−(NAr10Ar11)に相当する)が挙げられる。
【0116】
また、ArとAr、および/または、ArとArは、各々結合して環を形成していてもよい。この場合、形成する環の具体例としては、それぞれ、置換基を有することがあるカルバゾール環、フェノキサジン環、イミノスチルベン環、フェノチアジン環、アクリドン環、アクリジン環、イミノジベンジル環等が挙げられる。中でもカルバゾール環が好ましい。
【0117】
一般式(1)において、W1およびW2は各々0〜4の整数を表し、W1+W2≧1である。特に好ましいものは、W1=1かつW2=1である。なお、W1および/またはW2が2以上の場合のアリールアミノ基は、各々同一であっても異なっていても良い。
【0118】
およびXは各々独立に直接結合または2価の連結基を表す。2価の連結基としては特に制限はないが、例えば、下記に示すもの等が挙げられる。XおよびXとして、直接結合が特に好ましい。
【0119】
【化28】

【0120】
一般式(1)におけるナフタレン環は、−(XNArAr)および−(XNArAr)に加えて、任意の位置に任意の置換基を1個または2個以上有していてもよい。このような置換基として好ましいものは、ハロゲン原子、水酸基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基よりなる群から選ばれる1種または2種以上の置換基である。これらのうち、アルキル基が特に好ましい。
【0121】
一般式(1)で表されるビナフチル系化合物として、下記一般式(1−1)で表されるように、ArおよびArが、更にそれぞれアリールアミノ基で置換されたビナフチル系化合物が好ましい。
【0122】
【化29】

(一般式(1−1)中、Ar〜Ar15は各々独立に、置換基を有していてもよい5または6員環の芳香族炭化水素環または芳香族複素環の単環基または縮合環基を表し、ArとAr、Ar10とAr11は各々結合して環を形成していてもよい。W1およびW2は一般式(1)におけるのと同義である。XおよびXは一般式(1)におけるのと同義である。)
【0123】
一般式(1−1)中のナフタレン環は、ナフタレン環にそれぞれ結合したアリールアミノ基を含む置換基−(XNAr12Ar13NArAr)および−(XNAr14Ar15NAr10Ar11)に加えて、任意の置換基を有していてもよい。また、これらの置換基−(XNAr12Ar13NArAr)および−(XNAr14Ar15NAr10Ar11)は、ナフタレン環のいずれの置換位置に置換基を有していてもよい。中でも、一般式(1−1)におけるナフタレン環の、各々4−位、4’−位に置換したビナフチル系化合物がより好ましい。
【0124】
また、正孔注入性化合物として使用する、分子中に正孔輸送部位を有する高分子化合物としては、例えば芳香族三級アミノ基を構成単位として主骨格に含む高分子化合物が挙げられる。具体例として、以下の一般式(2)で表される構造を繰り返し単位として有する正孔注入性化合物が挙げられる。
【0125】
【化30】

(式(2)中、Ar44〜Ar48は、各々独立して置換基を有していてもよい2価の芳香族環基を示し、R31〜R32は、各々独立して置換基を有していてもよい1価の芳香族環基を示し、Xは直接結合、または下記の連結基から選ばれる。なお、「芳香族環基」とは、「芳香族炭化水素環由来の基」および「芳香族複素環由来の基」の両方を含む。)
【化31】

(式(3)中、Ar49は置換基を有していてもよい2価の芳香族環基を示し、Ar50は置換基を有していてもよい1価の芳香族環基を示す。)
【0126】
一般式(2)において、Ar44〜Ar48は、好ましくは、各々独立して置換基を有していてもよい2価のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環由来の基またはビフェニル基であり、好ましくはベンゼン環由来の基である。前記置換基としてはハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数2〜7の直鎖または分岐のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などの炭素数6〜12のアリールオキシ基;ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等の、炭素数1〜6のアルキル鎖を有するジアルキルアミノ基、などが挙げられる。これらのうち、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基が挙げられ、特に好ましくはメチル基が挙げられる。Ar44〜Ar48がいずれも無置換の芳香族環基である場合が、最も好ましい。
【0127】
31およびR32として好ましくは、各々独立して、置換基を有することがあるフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基、チエニル基、またはビフェニル基であり、好ましくはフェニル基、ナフチル基またはビフェニル基であり、より好ましくはフェニル基である。該置換基としては、Ar44〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられる。
【0128】
一般式(3)において、Ar49は、置換基を有していてもよい2価の芳香族環基、好ましくは正孔輸送性の面からは芳香族炭化水素環基であり、具体的には置換基を有していてもよい2価のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環由来の基、ビフェニレン基、およびターフェニレン基等が挙げられる。また、該置換基としては、Ar44〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられる。これらのうち、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基が挙げられ、特に好ましくはメチル基が挙げられる。
【0129】
Ar50は、置換基を有していてもよい芳香族環基、好ましくは正孔輸送性の面からは芳香族炭化水素環基であり、具体的には、置換基を有することがあるフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基、チエニル基、およびビフェニル基等が挙げられる。該置換基としては、一般式(2)のAr44〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられる。
【0130】
一般式(3)において、Ar49およびAr50がいずれも無置換の芳香族環基である場合が、最も好ましい。
【0131】
芳香族三級アミノ基を側鎖として含む正孔注入性化合物としては、例えば、以下の一般式(4)および(5)で表される構造を有する繰り返し単位として有する化合物が挙げられる。
【0132】
【化32】

(式(4)中、Ar51は置換基を有していてもよい2価の芳香族環基を示し、Ar52〜Ar53は、各々独立して置換基を有していてもよい1価の芳香族環基を示し、R33〜R35は、各々独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、置換基を有していてもよい1価の芳香族環基を示す。)
【0133】
【化33】

(式(5)中、Ar54〜Ar58は、各々独立して置換基を有していてもよい2価の芳香族環基を示し、R36およびR37は、各々独立して置換基を有していてもよい芳香族環基を示し、Yは直接結合、または下記の連結基から選ばれる。)
【化34】

【0134】
一般式(4)において、Ar51は、好ましくは、各々置換基を有していてもよい2価のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環由来の基、ビフェニレン基であり、また、置換基としては、例えば、前述した一般式(2)のAr44〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
【0135】
Ar52およびAr53として、好ましくは、各々独立してフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基、チエニル基、およびビフェニル基が挙げられ、これらは置換基を有することがある。該置換基としては例えば、一般式(2)のAr44〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
【0136】
33〜R35は、好ましくは、各々独立して、水素原子;ハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルコキシ基;フェニル基;またはトリル基である。
【0137】
一般式(5)において、Ar54〜Ar58は、好ましくは、各々独立して置換基を有することがある2価のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環由来の基、ビフェニレン基であり、好ましくはベンゼン環由来の基である。該置換基としては、一般式(2)のAr44〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
【0138】
36およびR37は、好ましくは、各々独立して置換基を有することがあるフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基、チエニル基、またはビフェニル基である。該置換基としては、一般式(2)のAr44〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
【0139】
一般式(2)〜(5)で示される構造のうち好ましい例を以下に示すが、何らこれらに限定されない。
【0140】
【化35】

【0141】
分子中に正孔輸送部位を有する高分子化合物である正孔注入性化合物は、一般式(2)〜(5)のいずれかで表される構造のホモポリマーであることが最も好ましいが、他の任意のモノマーとの共重合体(コポリマー)であってもよい。共重合体である場合、一般式(2)〜(5)で表される構成単位を50モル%以上、特に70モル%以上含有することが好ましい。なお、高分子化合物である正孔注入性材料は、一化合物中に、一般式(2)〜(5)で表される構造を複数種含有していてもよい。また、一般式(2)〜(5)で表される構造を含む化合物を、複数種併用して用いてもよい。一般式(2)〜(5)のうち、特に好ましくは、一般式(2)で表される繰り返し単位からなるホモポリマーである。
【0142】
高分子化合物からなる正孔注入性材料としては、さらに、共役系高分子が挙げられる。この目的のために、ポリフルオレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリパラフェニレンビニレンが好適である。
【0143】
次に、電子受容性化合物について説明する。
正孔注入層に含有される電子受容性化合物としては、例えば、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、オニウム塩、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種または2種以上の化合物等が挙げられる。これらの電子受容性化合物は、正孔注入性材料と混合して用いられ、正孔注入性材料を酸化することにより正孔注入層の導電率を向上させることができる。
【0144】
電子受容性化合物として、トリアリールホウ素化合物としては、下記一般式(6)に示したホウ素化合物が挙げられる。一般式(6)で表されるホウ素化合物は、ルイス酸であることが好ましい。また、このホウ素化合物の電子親和力は、通常4eV以上、好ましく、5eV以上である。
【0145】
【化36】

【0146】
一般式(6)において、好ましくは、Ar〜Arは、各々独立に、置換基を有することがあるフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ビフェニル基等の5または6員環の単環、またはこれらが2〜3個縮合および/または直接結合してなる芳香族炭化水素環基;或いは置換基を有することがあるチエニル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基等の5または6員環の単環、またはこれらが2〜3個縮合および/または直接結合してなる芳香族複素環基を表す。
【0147】
Ar〜Arが有することがある置換基としては、例えば、ハロゲン原子;アルキル基;アルケニル基;アルコキシカルボニル基;アルコキシ基;アリールオキシ基;アシル基;ハロアルキル基;シアノ基等が挙げられる。
【0148】
特に、Ar〜Arの少なくとも1つが、ハメット定数(σおよび/またはσ)が正の値を示す置換基であることが好ましく、Ar〜Arが、いずれもハメット定数(σおよび/またはσ)が正の値を示す置換基であることが特に好ましい。このような、電子吸引性の置換基を有することにより、これらの化合物の電子受容性が向上する。また、Ar〜Arがいずれも、ハロゲン原子で置換された芳香族炭化水素基または芳香族複素環基であることがさらに好ましい。
【0149】
一般式(6)で表されるホウ素化合物の好ましい具体例を以下の6−1〜6−17に示すが、これらに限定するものではない。
【0150】
【化37】

【0151】
【化38】

【0152】
これらの中、以下に示す化合物が特に好ましい。
【0153】
【化39】

【0154】
電子受容性化合物として、オニウム塩としては、WO2005/089024号公報に記載のものが挙げられ、その好適例も同様であるが、特に好ましくは以下の化合物である。
【0155】
【化40】

【0156】
正孔注入層3の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
【0157】
なお、正孔注入層3における電子受容性化合物の正孔注入性化合物に対する含有量は、通常0.1モル%以上、好ましくは1モル%以上である。但し、通常100モル%以下、好ましくは40モル%以下である。
【0158】
[4]正孔輸送層
正孔輸送層4は、陽極2、正孔注入層3の順に注入された正孔を有機発光層5に注入する機能を有すると共に、発光層5から電子が陽極2側に注入されることによる発光効率の低下を抑制する機能を有する。
【0159】
この機能を発現するため、正孔輸送層4は、本発明の有機化合物を含むこと或いは本発明の有機化合物を含有する有機電界発光素子用組成物を用いて形成された層であることが好ましい。すなわち、本発明の有機化合物は正孔輸送性化合物として使用されることが好ましい。
【0160】
正孔輸送層は、前記[成膜方法]に記載の方法で形成される。
その膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
【0161】
[5]有機発光層
正孔輸送層4の上には、通常有機発光層5が設けられる。有機発光層5は、電界を与えられた電極間において、陽極2から正孔注入層3および正孔輸送層4を通じて注入された正孔と、陰極8から電子注入層7,正孔阻止層6を通じて注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。
【0162】
有機発光層5は、少なくとも、発光の性質を有する材料(発光材料)を含有するとともに、好ましくは、正孔輸送の性質を有する材料(正孔輸送性化合物)、或いは、電子輸送の性質を有する材料(電子輸送性化合物)とを含有する。更に、有機発光層5は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その他の成分を含有していてもよい。これらの材料としては、後述のように湿式成膜法で有機発光層5を形成する観点から、何れも低分子系の材料を使用することが好ましい。
【0163】
発光材料としては、任意の公知の材料を適用可能である。例えば、蛍光発光材料であってもよく、燐光発光材料であってもよいが、内部量子効率の観点から、好ましくは燐光発光材料である。
【0164】
なお、溶剤への溶解性を向上させる目的で、発光材料の分子の対称性や剛性を低下させたり、或いはアルキル基などの親油性置換基を導入したりすることも、重要である。
【0165】
青色発光を与える蛍光色素としては、ペリレン、ピレン、アントラセン、クマリン、p−ビス(2−フェニルエテニル)ベンゼンおよびそれらの誘導体等が挙げられる。緑色蛍光色素としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体等が挙げられる。黄色蛍光色素としては、ルブレン、ペリミドン誘導体等が挙げられる。赤色蛍光色素としては、DCM(4-(dicyanomethylene)-2-methyl-6-(p-dimethylaminostyryl)-4H-pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン等が挙げられる。
【0166】
燐光発光材料としては、例えば、長周期型周期表(以下、特に断り書きの無い限り「周期表」という場合には、長周期型周期表を指すものとする。)第7〜11族から選ばれる金属を含む有機金属錯体が挙げられる。
【0167】
燐光性有機金属錯体に含まれる、周期表第7〜11族から選ばれる金属として、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられる。これらの有機金属錯体として、好ましくは下記式(III)または式(IV)で表される化合物が挙げられる。
【0168】
ML(q−j)L′ (III)
(式(III)中、Mは金属を表し、qは上記金属の価数を表す。また、LおよびL′は二座配位子を表す。jは0、1または2の数を表す。)
【0169】
【化41】

(式(IV)中、Mは金属を表し、Tは炭素原子または窒素原子を表す。R92〜R95は、それぞれ独立に置換基を表す。但し、Tが窒素原子の場合は、R94およびR95は無い。)
【0170】
以下、まず、式(III)で表される化合物について説明する。
式(III)中、Mは任意の金属を表し、好ましいものの具体例としては、周期表第7〜11族から選ばれる金属として前述した金属が挙げられる。
【0171】
また、式(III)中、二座配位子Lは、以下の部分構造を有する配位子を示す。
【化42】

(上記Lの部分構造において、環A1は、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。)
【0172】
該芳香族炭化水素基としては、5または6員環の単環または2〜5縮合環が挙げられる。具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環由来の1価の基などが挙げられる。
【0173】
該芳香族複素環基としては、5または6員環の単環または2〜4縮合環が挙げられる。具体例としては、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環由来の1価の基などが挙げられる。
【0174】
また、上記Lの部分構造において、環A2は、置換基を有していてもよい、含窒素芳香族複素環基を表す。
【0175】
該含窒素芳香族複素環基としては、5または6員環の単環または2〜4縮合環由来の基が挙げられる。具体例としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、フロピロール環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環由来の1価の基などが挙げられる。
【0176】
環A1または環A2がそれぞれ有していてもよい置換基の例としては、ハロゲン原子;アルキル基;アルケニル基;アルコキシカルボニル基;アルコキシ基;アリールオキシ基;ジアルキルアミノ基;ジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アシル基;ハロアルキル基;シアノ基;芳香族炭化水素基等が挙げられる。
【0177】
また、式(III)中、二座配位子L′は、以下の部分構造を有する配位子を示す。但し、以下の式において、「Ph」はフェニル基を表す。
【0178】
【化43】

【0179】
中でも、L′としては、錯体の安定性の観点から、以下に挙げる配位子が好ましい。
【0180】
【化44】

【0181】
式(III)で表される化合物として、更に好ましくは、下記式(IIIa),(IIIb),(IIIc)で表される化合物が挙げられる。
【0182】
【化45】

(式(IIIa)中、Mは、Mと同様の金属を表し、wは、上記金属の価数を表し、環A1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、環A2は、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。)
【0183】
【化46】

(式(IIIb)中、Mは、Mと同様の金属を表し、wは、上記金属の価数を表し、環A1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表し、環A2は、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。)
【0184】
【化47】

(式(IIIc)中、Mは、Mと同様の金属を表し、wは、上記金属の価数を表し、jは、0、1または2を表し、環A1および環A1′は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表し、環A2および環A2′は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。)
【0185】
上記式(IIIa),(IIIb),(IIIc)において、環A1および環A1′の好ましい
例としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、チエニル基、フリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフリル基、ピリジル基、キノリル基、イソキノリル基、カルバゾリル基等が挙げられる。
【0186】
上記式(IIIa)〜(IIIc)において、環A2および環A2′の好ましい例としては、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、トリアジル基、ベンゾチアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾイミダゾール基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基、フェナントリジル基等が挙げられる。
【0187】
上記式(IIIa)〜(IIIc)で表される化合物が有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子;アルキル基;アルケニル基;アルコキシカルボニル基;アルコキシ基;アリールオキシ基;ジアルキルアミノ基;ジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アシル基;ハロアルキル基;シアノ基等が挙げられる。
【0188】
なお、これら置換基は互いに連結して環を形成してもよい。具体例としては、環A1が有する置換基と環A2が有する置換基とが結合するか、または、環A1′が有する置換基と環A2′が有する置換基とが結合するかして、一つの縮合環を形成してもよい。このような縮合環としては、7,8−ベンゾキノリン基等が挙げられる。
【0189】
中でも、環A1、環A1′、環A2および環A2′の置換基として、より好ましくは、アルキル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、シアノ基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、ジアリールアミノ基、カルバゾリル基が挙げられる。
【0190】
また、式(IIIa)〜(IIIc)におけるM〜Mの好ましい例としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金または金が挙げられる。
【0191】
上記式(III)および(IIIa)〜(IIIc)で示される有機金属錯体の具体例を以下に示すが、下記の化合物に限定されるものではない。
【0192】
【化48】

【化49】

【化50】

【0193】
上記式(III)で表される有機金属錯体の中でも、特に、配位子Lおよび/またはL′として2−アリールピリジン系配位子、即ち、2−アリールピリジン、これに任意の置換基が結合したもの、および、これに任意の基が縮合してなるものを有する化合物が好ましい。
【0194】
また、国際特許公開第2005/019373号明細書に記載の化合物も、発光材料として使用することが可能である。
【0195】
次に、式(IV)で表される化合物について説明する。
式(IV)中、Mは金属を表す。具体例としては、周期表第7〜11族から選ばれる金属として前述した金属が挙げられる。中でも好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金または金が挙げられ、特に好ましくは、白金、パラジウム等の2価の金属が挙げられる。
【0196】
また、式(IV)において、R92およびR93は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、シアノ基、アミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、ハロアルキル基、水酸基、アリールオキシ基、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。
【0197】
更に、Tが炭素原子の場合、R94およびR95は、それぞれ独立に、R92およびR93と同様の例示物で表される置換基を表す。また、Tが窒素原子の場合は、R94およびR95は無い。
【0198】
また、R92〜R95は、更に置換基を有していてもよい。置換基を有する場合、その種類に特に制限はなく、任意の基を置換基とすることができる。
更に、R92〜R95のうち任意の2つ以上の基が互いに連結して環を形成してもよい。
【0199】
式(IV)で表される有機金属錯体の具体例(T−1、T−10〜T−15)を以下に示すが、下記の例示物に限定されるものではない。また、以下の化学式において、Meはメチル基を表し、Etはエチル基を表す。
【0200】
【化51】

【0201】
本発明において、発光材料として用いる化合物の分子量は、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。分子量が100未満であると、耐熱性が著しく低下したり、ガス発生の原因となったり、膜を形成した際の膜質の低下を招いたり、或いはマイグレーションなどによる有機電界発光素子のモルフォロジー変化を来したりするため、好ましくない。分子量が10000を超えると、有機化合物の精製が困難となったり、溶媒に溶解させる際に時間を要する可能性が高いため、好ましくない。
【0202】
なお、発光層は、上に説明した各種の発光材料のうち、何れか一種を単独で含有していてもよく、二種以上を任意の組み合わせおよび比率で併有していてもよい。
【0203】
低分子系の正孔輸送性化合物の例としては、前述の正孔輸送層の正孔輸送性化合物として例示した各種の化合物の他、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルに代表される、2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4’,4”−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(Journal of Luminescence,1997年,Vol.72-74,pp.985)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chemical Communications,1996年,pp.2175)、2,2’,7,7’−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synthetic Metals,1997年,Vol.91,pp.209)等が挙げられる。
【0204】
低分子系の電子輸送性化合物の例としては、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)や、2,5−ビス(6’−(2’,2”−ビピリジル))−1,1−ジメチル−3,4−ジフェニルシロール(PyPySPyPy)や、バソフェナントロリン(BPhen)や、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)、2−(4−ビフェニリル)−5−(p−ターシャルブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(tBu−PBD)や、4,4’−ビス(9−カルバゾール)−ビフェニル(CBP)等がある。
【0205】
これら正孔輸送性化合物や電子輸送性化合物は発光層においてホスト材料として使用されることが好ましいが、ホスト材料として具体的には以下のような化合物を使用することができる。
【0206】
【化52】

【0207】
有機発光層5の形成法としては、湿式成膜法、真空蒸着法が挙げられるが、上述したように、均質で欠陥がない薄膜を容易に得られる点や、形成のための時間が短くて済む点、更には、本発明の有機化合物による正孔輸送層4の不溶化の効果を享受できる点から、湿式成膜法が好ましい。湿式成膜法により有機発光層5を形成する場合、上述の材料を適切な溶剤に溶解させて塗布溶液を調製し、それを上述の形成後の正孔輸送層4の上に塗布・成膜し、乾燥して溶剤を除去することにより形成する。その形成方法としては、前記正孔輸送層の形成方法と同様である。
【0208】
有機発光層5の膜厚は、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0209】
[6]正孔阻止層
図1では、有機発光層5と電子輸送層7の間に、正孔阻止層6が設けられているが、正孔阻止層6はこれを省略してもよい。
正孔阻止層6は、有機発光層5の上に、有機発光層5の陰極8側の界面に接するように積層されるが、陽極2から移動してくる正孔が陰極8に到達するのを阻止する役割と、陰極8から注入された電子を効率よく有機発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成される。
【0210】
正孔阻止層6を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。
【0211】
このような条件を満たす正孔阻止材料としては、ビス(2−メチル−8−キノリノラト),(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト),(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11−242996号公報)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7−41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10−79297号公報)が挙げられる。更に、国際公開第2005−022962号公報に記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止材料として好ましい。
【0212】
具体的には以下に記載の化合物が挙げられる。
【化53】

【0213】
正孔阻止層6も、正孔注入層3や有機発光層5と同様、湿式成膜法を用いて形成することもできるが、通常は真空蒸着法により形成される。真空蒸着法の手順の詳細は、後述の電子注入層7の場合と同様である。
【0214】
正孔阻止層6の膜厚は、通常0.5nm以上、好ましくは1nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0215】
[7]電子注入層
電子注入層7は、陰極8から注入された電子を効率良く有機発光層5へ注入する役割を果たす。
電子注入を効率よく行うには、電子注入層7を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が用いられる。その膜厚は通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。
【0216】
更に、後述するバソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送材料に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10−270171号公報、特開2002−100478号公報、特開2002−100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は通常、5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0217】
電子注入層7は、湿式成膜法或いは真空蒸着法により、有機発光層5またはその上の正孔阻止層6上に積層することにより形成される。
【0218】
湿式成膜法の場合の詳細は、正孔注入層3および有機発光層5の場合と同様である。
一方、真空蒸着法の場合には、真空容器内に設置されたるつぼまたは金属ボートに蒸着源を入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度にまで排気した後、るつぼまたは金属ボートを加熱して蒸発させ、るつぼまたは金属ボートと向き合って置かれた基板上の有機発光層5または正孔阻止層6上に電子注入層7を形成する。
【0219】
電子注入層としてのアルカリ金属の蒸着は、クロム酸アルカリ金属と還元剤をニクロムに充填したアルカリ金属ディスペンサーを用いて行う。このディスペンサーを真空容器内で加熱することにより、クロム酸アルカリ金属が還元されてアルカリ金属が蒸発される。有機電子輸送材料とアルカリ金属とを共蒸着する場合は、有機電子輸送材料を真空容器内に設置されたるつぼに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度にまで排気した後、各々のるつぼおよびディスペンサーを同時に加熱して蒸発させ、るつぼおよびディスペンサーと向き合って置かれた基板上に電子注入層7を形成する。
このとき、電子注入層7の膜厚方向において均一に共蒸着されるが、膜厚方向において濃度分布があっても構わない。
【0220】
[8]陰極
陰極8は、有機発光層5側の層(電子注入層7または有機発光層5など)に電子を注入する役割を果たす。陰極8の材料としては、前記の陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率良く電子注入を行うには、仕事関数の低い金属が好ましく、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属またはそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。
【0221】
陰極8の膜厚は通常、陽極2と同様である。
【0222】
低仕事関数金属から成る陰極を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層すると、素子の安定性が増すので好ましい。この目的のために、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。
【0223】
[9]その他
以上、図1に示す層構成の有機電界発光素子を中心に説明してきたが、本発明の有機電界発光素子は、その趣旨を逸脱しない範囲において、別の構成を有していてもよい。例えば、その性能を損なわない限り、陽極2と陰極6との間に、上記説明にある層の他に任意の層を有していてもよく、また、任意の層が省略されていてもよい。
【0224】
なお、本発明においては、正孔輸送層4に本発明の有機化合物を使用することにより、正孔注入層3、正孔輸送層4および有機発光層5を全て湿式成膜法により積層形成することができる。これにより、大面積のディスプレイを製造することが可能となる。
【実施例】
【0225】
次に、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0226】
[合成例]
以下に本発明の有機化合物の合成例を示す。
なお、以下の合成例において、ガラス転移温度はDSC測定により、重量減少開始温度はTG−DTA測定により、融点はDSC測定またはTG−DTA測定によりそれぞれ求めた。
【0227】
(合成例1)
<目的物1の合成>
【化54】

【0228】
窒素気流中、反応容器にp−メトキシフェニルボロン酸(20.51g)、トリス(4−ブロモフェニル)アミン(14.46g)、炭酸ナトリウム(28.62g)、トルエン(200ml)、エタノール(50ml)、および脱塩水(100ml)を入れ、窒素でバブリングして系内を窒素で置換した。ここで、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム3.12gを加えた後、オイルバス中、80℃で5時間30分、窒素気流下で加熱攪拌を行った。放冷後、得られた沈殿を濾取し、水・メタノール懸洗にて無機物を除去し、白色結晶の目的物1(14.12g)を得た。
【0229】
<目的物2の合成>
【化55】

【0230】
窒素気流中、目的物1(13.53g)と塩化メチレン(200ml)の混合物を攪拌し、氷浴により0℃に冷却した。ここに、三臭化ホウ素(1mol/lジクロロメタン溶液 100ml)を滴下し、滴下終了後は室温で攪拌して一晩反応させた。氷水100mlを入れたビーカーにこれを添加し、析出する沈殿を濾取した。得られた固形分はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢エチル)で精製し、酢酸エチル、ヘキサンで再沈殿することにより、目的物2(9.6g)を得た。
【0231】
<目的物3の合成>
【化56】

【0232】
窒素気流中、3−エチル−3−オキセタンメタノール(10.1g)、水(80ml)、水酸化ナトリウム(20.88g)を室温で30分攪拌し、そこへp−トシルクロライド(21.56g)のテトラヒドロフラン(80ml)溶液を滴下し、室温で3時間反応させた。反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、濃縮し、透明油状の目的物3(23.11g)を得た。
【0233】
H NMR(CDCl、400MHz):δ7.81(d,2H)、7.37(d,2H)、4.36(d,2H)、4.30(d,2H)、4.15(s,2H)、1.74(m,2H)、2.51(s,3H)、0.83(t,3H)
【0234】
<目的物4の合成>
【化57】

【0235】
窒素気流中、ジメチルスルホキシド(110ml)と紛糾した水酸化カリウム(2.81g)を室温で攪拌し、ここに目的物2(8.39g)を加え、完全に溶解させた。ここへ目的物3(8.39g)を滴下し、室温で3時間反応させた。ここにメタノール(10ml)を加え、50℃で1時間加温して過剰の目的物3を分解し、沈殿を濾取した。得られた固形分はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル)で精製し、メタノールによる洗浄により、白色結晶の化合物4(4.47g)を得た。
【0236】
このもののガラス転移温度は82℃、融点は117℃、窒素気流下での重量減少開始温度は421℃であった。
H NMR(CDCl、400MHz):δ7.53(d,6H)、7.47(d,6H)、7.20(d,6H)、7.00(d,6H)、4.59(d,6H.)、4.50(d,6H)、4.13(s,6H)、1.90(m,6H)、0.96(t,9H)
【0237】
(合成例2)
<目的物5の合成>
【化58】

【0238】
反応容器内のm−メトキシフェニルボロン酸(17.10g)、トリス(4−ブロモフェニル)アミン (12.05g)、炭酸ナトリウム(23.85g)、トルエン(200ml)、エタノール(50ml)、および脱塩水(100ml)を室温で攪拌し、窒素でバブリングして系内を窒素で置換した。テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(3.05g)を加えた後、オイルバス中、80℃に加熱下、6.5時間攪拌し、室温まで放冷した。反応混合物に水を加え、トルエンで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、濃縮した。濃縮残渣にトルエン、活性白土を加えて、攪拌し、不溶物を濾別した。濾液に含まれるトルエンを減圧留去した後、得られた固形分はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル)で精製し、ジクロロメタン/メタノール混合液で再沈殿することにより、目的物5(12.3g)を得た。
【0239】
<目的物6の合成>
【化59】

【0240】
窒素気流中、目的物5(6.20g)と塩化メチレン(90ml)の混合物を攪拌し、氷浴により0℃に冷却した。ここに、三臭化ホウ素(1mol/lジクロロメタン溶液 43ml)を滴下し、滴下終了後は室温で攪拌して一晩反応させた。氷水100mlを入れたビーカーにこれを添加し、析出する沈殿を濾取した。得られた固形分はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル)で精製し、酢酸エチル/ヘキサンで再沈殿することにより、目的物6(4.6g)を得た。
【0241】
<目的物7の合成>
【化60】

【0242】
窒素気流中、ジメチルスルホキシド(40ml)と紛糾した水酸化カリウム(2.16g)を室温で攪拌し、ここに目的物6(4.02g)を加え、完全に溶解させた。ここへ目的物3(6.46g)を滴下し、室温で3時間反応させた。ここにメタノール(7ml)を加え、50℃で1時間加温して過剰の目的物3を分解し、さらに、水を加えて酢酸エチルで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、濃縮した。得られた油状成分をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン:酢酸エチル)で精製し、塩化メチレン/ヘキサンで再沈殿することにより、白色結晶の目的物7(2.71g)を得た。
【0243】
このもののガラス転移温度は53℃、融点は観測されず、窒素気流下での重量減少開始温度は419℃であった。
H NMR(CDCl、400MHz):δ7.52(d,6H)、7.35(t,6H)、7.23〜7.17(m,9H)、6.91(m,3H)、4.60(d,6H)、4.50(d,6H)、4.15(d,6H)、1.90(m,6H)、0.96(t,9H)
【0244】
(合成例3)
<目的物8の合成>
【化61】

【0245】
窒素気流中、N,N−ジメチルホルムアミド(60ml)と炭酸カリウム(7.94g)と目的物2(3.00g)を80℃で攪拌し、ここにエピクロロヒドリン(5.32g)を滴下し、80℃で16時間反応させた。放冷後、塩化メチレンを加え、濾過により不溶物を取り除き、濾液を濃縮後、エタノールに加えた。析出物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン:酢酸エチル)で精製し、塩化メチレン/メタノールで再沈殿することにより、白色結晶の目的物8(0.66g)を得た。
【0246】
このもののガラス転移温度は72℃、融点は観測されず、窒素気流下での重量減少開始温度は399℃であった。
DEI−MS(m/z=689(M))により目的物8であることを確認した。
【0247】
(合成例4)
<目的物9の合成>
【化62】

【0248】
窒素雰囲気下、目的物6(4.0g)をテトラヒドロフラン(50ml)に溶解し、0℃まで氷冷した後、トリエチルアミン(4.66g)を添加し、シンナモイルクロライド(7.66g)をテトラヒドロフラン(20ml)に溶解した溶液を系内に滴下した。20分後、氷バスをはずし、室温で2時間攪拌した。不溶物を濾過で除去し、濃縮後、メタノールに滴下した。析出した結晶を濾取した後、酢酸エチル(20ml)に溶解し、メタノール300mlに再沈殿した。この再沈殿操作を2回繰り返した後、塩化メチレン/メタノールで再沈殿することにより、目的物9の薄黄色結晶(5.87g)を得た。
【0249】
このもののガラス転移温度は79℃であった。
DEI−MS(m/z=911(M))により目的物9であることを確認した。
【0250】
(合成例5)
<目的物10の合成>
【化63】

【0251】
窒素気流中、目的物6(5.0g)、p−フルオロベンズアルデヒド(3.69g)、炭酸カリウム(3.98g)、およびN,N−ジメチルホルムアミド(50ml)を、3.5時間、加熱還流し、室温まで放冷した。反応混合物に20%メタノール水溶液を加え、不溶物を濾別した。得られた粗結晶を80%メタノール水溶液で懸洗し、目的物10(7.53g)を得た。
【0252】
<目的物11の合成>
【化64】

【0253】
窒素気流中、目的物10(8.45g)、メチルトリフェニルホスホニウムヨーダイト(12.7g)、および脱水テトラヒドロフラン(170ml)に、氷冷下、t−ブトキシカリウム(3.53g)を少しずつ加えた。その温度で2.5時間攪拌した後、反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を水洗し、濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル、2回目はトルエン)にて精製し、メタノールで洗浄することにより、目的物2(3.09g)を得た。
【0254】
DEI−MS(m/z=828(M))により目的物11であることを確認した。
このもののガラス転移温度は明瞭には観測されず、融点は187℃、重量減少開始温度は516℃であった。
【0255】
(合成例6)
<目的物12−1、目的物12−2の合成>
【化65】

【0256】
窒素雰囲気下、ビス(4−ブロモフェニル)エーテル(19.68g)、ピロール(2.684g)、ヨウ化銅(7.62g)、リン酸三カリウム(50.9g)、およびトルエン(120ml)の混合溶液に、攪拌しながらN,N’−ジメチルエチレンジアミン(8.78ml)を加え、加熱還流下、14.3時間攪拌した。得られた溶液に、室温下、活性白土とトルエン(100ml)を加えて攪拌後、濾過し、濾液を濃縮した。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーおよびメタノール中での懸濁洗浄で精製し、目的物12−1,12−2の混合物4.47gを得た。
目的物12−1:目的物12−2=58:39(モル比)
【0257】
<目的物13の合成>
【化66】

【0258】
窒素雰囲気下、目的物12−1と目的物12−2の混合物(4.47g)、ビスピナコラートジボラン(3.94g)、酢酸カリウム(4.93g)、および脱水ジメチルスルホキシド(100ml)の混合溶液に、[1,1’−ビス(ジフェニルフォスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II)とジクロロメタン錯体の1:1(モル比)の混合物(0.362g)を加え、80℃で6.3時間、次いで100℃で1.7時間攪拌した。得られた溶液を、イオン交換水(220ml)中に投入して、濾過、残渣をトルエン(250ml)に溶解させ、これを食塩水(250ml)で洗浄後、無水硫酸マグネシウム、および活性白土を入れてよく攪拌した。不溶分を除去した溶液を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、目的物13(2.13g)を得た。
【0259】
<目的物14の合成>
【化67】

【0260】
窒素雰囲気下、目的物13(2.13g)、トリス(4−ブロモフェニル)アミン(0.862g)、トルエン(36ml)、およびエタノール(2ml)の混合溶液に、テトラキス(トリフェニルフォスフィン)パラジウム(0.248g)を投入後、炭酸カリウム(1.63g)とイオン交換水(5.9ml)との混合溶液を注入し、加熱還流下、7.3時間攪拌した。得られた溶液を食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥、濾過、濾液を濃縮した。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーおよびGPCで精製し、目的物14(0.19g)を得た。
【0261】
DEI−MS(m/z=944(M))より、目的物14であることを確認した。
このものの融点は233℃、窒素雰囲気下における分解開始温度は391℃、乾燥空気中における分解開始温度は357℃であった。
【0262】
(合成例7)
<目的物15の合成>
【化68】

【0263】
中間体1の合成はPolymer、41、5125−5136(2000)に記載されている。
窒素気流下、30℃でマグネシウム(1.15g,47.4mmol)の無水エーテル溶液(100mL)に1,2−ジブロモエタンを数滴加え、エーテルが緩やかに還流するように中間体1(10g)の無水エーテル溶液(100mL)を滴下した。滴下終了後、30℃で1時間攪拌し、溶液を−78℃まで冷却した。激しく攪拌しながら、トリメトキシボラン(22.2g,118mmol)の無水エーテル溶液(50mL)をゆっくりと滴下した後、−78℃で1時間攪拌し、室温で1時間攪拌した。反応混合物を水にあけ、1N塩酸でpH=1にして、30分攪拌し、有機層を分離した。水槽を塩化メチレン(50mL、2回)で抽出し、先の有機層と併せて飽和塩化ナトリウム水溶液(100mL)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧下に留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに処し、目的物15を2.4g得た。
【0264】
<目的物16の合成>
【化69】

【0265】
窒素雰囲気下、中間体2(1.5g,6.88mmol)、トリス(p−ヨードフェニル)アミン(1.3g,2.08mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(18mg,31.2μmol)、フッ化カリウム(1.2g,20.59mmol)のテトラヒドロフラン(10mL)溶液に、トリターシャリーブチルホスフィン(15mg、74.9μmol)を滴下した。反応混合物を室温で72時間攪拌し、水にあけ、塩化メチレン(50mL、2回)で抽出した。有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液(20mL、3回)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧下に留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに処し、目的物16(0.121g、収率8%)を得た。
【0266】
DEI−MS(m/z=761(M))より、目的物16であることを確認した。
【0267】
(合成例8)
<目的物17の合成>
【化70】

【0268】
窒素気流中、目的物6(6.26g)に、テトラヒドロフラン(60ml)を加えて氷浴で0℃に冷却しながら撹拌し、ここにトリエチルアミン(5.46g)を加えた後、メタクリル酸クロライド(5.64g)を滴下し、室温まで昇温して3時間撹拌させた。不溶物を濾別し、濾液を濃縮後、メタノールにより再沈殿を行った後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:塩化メチレン=1:3)で精製し、塩化メチレンとメタノールで再沈殿することにより、目的物17(4.00g)を得た。
このもののガラス転移温度は58℃、融点は155℃、窒素気流下での重量減少開始温度は438℃であった。
DEI−MS(m/z=725(M))により目的物17であることを確認した。
【0269】
(合成例9)
<目的物18の合成>
【化71】

【0270】
窒素気流中、ジメチルスルホキシド(80ml)の溶液に、目的物2(7.82g)を入れ、炭酸カリウム(19.46g)、(6−ブロモヘキシロキシ)−tert−ブチルジメチルシラン(36.62g)を12回に分けて加え、120℃で31時間撹拌した。反応液に水を加え、塩化メチレンで抽出してオイル層を濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン=20:1)で精製することにより、目的物18(7.91g)を得た。尚、目的物18の構造式中、TBDMSとはtert−ブチルジメチルシリル基を表す。
【0271】
<目的物19の合成>
【化72】

【0272】
窒素気流中、目的物18(7.82g)に、テトラブチルアンモニウムフルオライド1mol/lテトラヒドロフラン溶液(26ml)と、テトラブチルアンモニウムフルオライド水和物(6.13g)を加えて室温で1時間半撹拌した。ここに水(200ml)を加え、析出した結晶を吸引濾過により濾取して、酢酸エチル50ml、テトラヒドロフラン100mlの混合液に溶解させた。これをシリカゲルに吸着させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:テトラヒドロフラン=4:1)で精製することにより、目的物19(4.60g)を得た。
【0273】
<目的物20の合成>
【化73】

【0274】
窒素気流中、目的物19(4.52g)に、テトラヒドロフラン(50ml)を加えて氷浴により0℃に冷却し、30分間撹拌した。ここへトリエチルアミン(4.55g)を加えてメタクリル酸クロライド(3.09g)を滴下し、滴下後に室温まで昇温し、そのまま4時間撹拌した。反応液を吸引濾過した後、濾液を濃縮し、メタノールへ添加して得られた結晶をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=9:1)で精製することにより、目的物20(2.25g)を得た。
このものの融点は80℃、ガラス転移温度は観測されず、窒素気流下での重量減少開始温度は404℃であった。
DEI−MS(m/z:1025(M))により目的物20であることを確認した。
【0275】
(合成例10)
<目的物21の合成>
【化74】

【0276】
水酸化カリウム(5.38g)の脱水ジメチルスルホキシド(210ml)溶液を、室温で30分間撹拌後、目的物2(10g)を加えた。さらに30分間撹拌後に(3−ブロモプロポキシ)−tert−ブチルジメチルシラン(16.02g)を加え、室温で3時間半撹拌した後、60℃で3時間撹拌した。室温まで放冷後、反応混合物を濾過した。濾取物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=20/1)で精製し、目的物21(8.03g)を得た。尚、目的物21の構造式中及び後掲の目的物24の構造式中、TBSとは、tert−ブチルジメチルシリル基を表す。
【0277】
<目的物22の合成>
【化75】

【0278】
窒素気流中、目的物21(7.39g)に、テトラブチルアンモニウムフルオライド水和物(8.37g)と、テトラブチルアンモニウムフルオライドの1Mテトラヒドロフラン溶液(22ml)を加え、室温で7時間攪拌した。反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/テトラヒドロフラン=2/1〜1/1)にて精製し、目的物22(4.37g)を得た。
【0279】
<目的物23の合成>
【化76】

【0280】
窒素雰囲気下、目的物22(3.84g)の脱水テトラヒドロフラン(48ml)溶液に、氷冷下、トリエチルアミン(4.19g)と、メタクロリルクロライド(6.05g)を加え、室温で4時間攪拌した。反応混合物に水を加え、塩化メチレンにて抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=3/1)にて精製し、目的物23(0.74g)を得た。
DEI−MS(m/z=899(M))により目的物23であることを確認した。
【0281】
(合成例11)
<目的物24の合成>
【化77】

【0282】
水酸化カリウム(4.304g)の脱水ジメチルスルホキシド(150ml)溶液を、室温で30分間攪拌後、目的物6(8g)を加えた。さらに30分間攪拌後にtert−ブチル(4−ヨードブトキシ)ジメチルシラン(15.91g)を加え、室温で6時間半攪拌した。反応混合物を氷水に入れ、濾過をした。濾取物を塩化メチレンに溶かして抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン=2/1)で精製し、目的物24(7.46g)を得た。
DEI−MS(m/z=1079(M))により目的物24であることを確認した。
【0283】
<目的物25の合成>
【化78】

【0284】
窒素気流中、目的物24(7.35g)に、テトラブチルアンモニウムフルオライド水和物(10.67g)のテトラヒドロフラン(35ml)溶液を加え、室温で6時間半攪拌した。反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出し、有機層を水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/塩化メチレン=10/1)にて精製し、目的物25(4.73g)を得た。
【0285】
<目的物26の合成>
【化79】

【0286】
目的物25(4.6g)に、臭化テトラ−n−ブチルアンモニウム(0.603g)の塩化メチレン(98ml)懸濁溶液を、氷冷下、DCスターラーで攪拌後、30重量%水酸化カリウム水溶液(130ml)を加えた。さらに激しく攪拌しながらシンナモイルクロライド(4.36g)の塩化メチレン溶液(32ml)を滴下し、氷冷下で3時間攪拌した。反応混合物を塩化メチレンで抽出し、有機層を水で3回洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/塩化メチレン=1/30)にて精製し、目的物26(6.68g)を得た。
このもののガラス転移温度は19℃、窒素気流下での重量減少開始温度は388℃であった。
DEI−MS(m/z=1127(M))により目的物26であることを確認した。
【0287】
(合成例12)
<目的物27の合成>
【化80】

【0288】
窒素気流中、氷冷下、1,4−ペンタジエン−3−オール(4.21g)と、脱水ピリジン(20ml)の混合溶液に、6−ブロモ−n−ヘキサン酸クロリド(7.47ml)を滴下してから、室温で、3.3時間攪拌した。得られた溶液に、酢酸エチル150ml、炭酸水素ナトリウム水溶液100mlを加えて振り混ぜ、有機層を分取し、これを食塩水100mlで洗浄後、濃縮し、これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル)およびシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=3/7)で精製し、目的物27の無色液体(9.9g)を得た。
【0289】
<目的物28の合成>
【化81】

【0290】
窒素気流中、目的物6(2.07g)と、炭酸カリウム(6.22g)の脱水N,N−ジメチルホルムアミド(100ml)懸濁溶液に目的物27(8.22g)を加え、60℃で20時間半攪拌した。室温まで放冷後、反応混合物に水を加え、酢酸エチルにて抽出し、有機層を水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=4/1)にて精製し、目的物28(3.83g)を得た。
MALDI−MS(m/z=1061(M))により目的物28であることを確認した。
【0291】
(合成例13)
<目的物29の合成>
【化82】

【0292】
50重量%水酸化ナトリウム水溶液(200mL)とヘキサン(150mL)の混合溶液に、テトラブチルアンモニウムブロマイド(2.6g)を添加した。混合物を5℃まで冷却後、3−メチル−3−オキセタンメタノール(16.7g)と1,3−ジブロモプロパン(98.9g)の混合物を激しく攪拌しながら滴下した。滴下終了後、室温で30分間攪拌し、15分間還流させ、さらに室温で15分間攪拌した。有機層を分離し、精製水で洗浄後、乾燥させ、溶媒を減圧下に除去し、減圧蒸留(0.5mmHg,62℃)にて、目的物29(12.3g)を得た。
【0293】
<目的物30の合成>
【化83】

【0294】
水酸化カリウム(3.87g)をジメチルスルホキシド(130ml)に懸濁させ、20分激しく攪拌した。ここへ目的物2(6.00g)を加え、室温で30分間攪拌した後、目的物29(9.24g)を滴下して室温で攪拌した。反応終了後、メタノール500mlを加え、析出物を濾取した。析出物を塩化メチレンに溶解させ、水で洗浄し、有機層を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、目的物30(5.52g)を得た。
DEI−MS(947(M))により目的物30であることを確認した。
【0295】
(合成例14)
<目的物31の合成>
【化84】

【0296】
50重量%水酸化ナトリウム水溶液(300ml)とヘキサン(250ml)の混合溶液に、テトラブチルアンモニウムブロマイド(4.2g)を添加した。混合物を5℃まで冷却後、3−メチル−3−オキセタンメタノール(26.5g)と1,6−ジブロモヘキサン(192g)の混合物を激しく攪拌しながら滴下した。滴下終了後、室温で30分間攪拌し、15分間還流させ、さらに室温で15分間攪拌した。有機層を分離し、精製水で洗浄後、乾燥させ、溶媒を減圧下に除去し、減圧蒸留(0.4mmHg,96℃)にて、目的物31(47.7g)を得た。
【0297】
<目的物32の合成>
【化85】

【0298】
水酸化カリウム(5.2g)をジメチルスルホキシド(60ml)に懸濁させ、20分激しく攪拌した。ここへ目的物2(4.0g)を加え、室温で30分間攪拌した後、3−(8−ブロモ−2−オキサオクチル)−3−メチルオキセタン(12.2g)を滴下し、室温で攪拌した。反応終了後、氷水に添加し、沈殿を濾取した。沈殿をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、目的物32(4.22g)を得た。
質量分析(1073(M))により目的物32であることを確認した。
【0299】
(合成例15)
<目的物33の合成>
【化86】

【0300】
氷冷下、目的物22(3.5g)とテトラブチルアンモニウムブロマイド(3.5g)の塩化メチレン溶液(75ml)に、30重量%水酸化ナトリウム水溶液(100ml)を加え、激しく攪拌しながらシンナモイルクロライド(3.52g)の塩化メチレン溶液(25ml)を30分かけて滴下した。氷冷下で2時間攪拌後、反応混合物を分液し、有機層を水で3回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下に溶媒を留去した。残渣をカラムクロマトグラフィーに処し目的物2(4.6g)を得た。
質量分析(1085(M))により目的物33であることを確認した。
【0301】
(合成例16)
<目的物34の合成>
【化87】

【0302】
窒素気流中、目的物2(4.00g)に、テトラヒドロフラン(50ml)と、トリエチルアミン(4.66g)を加えて氷浴で0℃に冷却しながら攪拌し、メタクリル酸クロライド(4.81g)のテトラヒドロフラン(10ml)溶液を滴下し、室温まで昇温して3時間攪拌させた。反応液をメタノールへ添加し、析出物を濾取し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:塩化メチレン=1:2)で精製後、塩化メチレン溶液からメタノールへ再沈殿することにより目的物34(2.55g)を得た。
DEI−MS(m/z=725(M))により目的物34であることを確認した。
【0303】
[ガラス基板上の不溶化試験1(加熱架橋)]
以下の不溶化試験で用いた化合物の構造式を以下に示す。
【化88】

【0304】
(実施例1−1)
25mm×37.5mmサイズのガラス基板を超純水で洗浄し、乾燥窒素で乾燥して、UV/オゾン洗浄を行った。下記表1に記載の濃度で、上記構造式(H1)の本発明の有機化合物(正孔輸送材料)、上記構造式(A1)の4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(添加剤:電子受容性化合物)、およびキシレン(溶媒)を含む有機電界発光素子用組成物を調製し、該組成物を洗浄したガラス基板にスピンコートして膜を形成した。スピンコートは気温23℃、相対湿度60%の大気中で行い、スピナ回転数は1500rpm、スピナ回転時間は30秒とした。成膜後、大気中、ホットプレート上で下記表1に示す条件で加熱した後、約1mm幅で膜を掻き取り、膜厚計(テンコールP−15)で膜厚L1(nm)を測定した。
【0305】
その後、この基板をスピナにセットし、キシレンを膜厚測定した箇所に垂らし、10秒後にスピナ回転数1500rpm、スピナ時間30秒でスピン処理し、再び同じ箇所の膜厚L2(nm)を測定し、キシレンのスピン処理後の減少膜厚L1−L2(nm)を算出し、不溶化の程度を評価した。
【0306】
成膜後ホットプレート上での加熱温度、加熱時間、キシレンスピン処理前の膜厚L1(nm)、キシレンスピン前後の膜厚減少量L1−L2(nm)とを下記表1に示す。
キシレンスピン処理後に膜厚は減少せず、溶解性の低い、不溶化された膜であることが確認された。
【0307】
(実施例1−2〜実施例1−7)
表1に記載の条件で有機電界発光素子用組成物を調製し、表1に記載の条件で成膜した他は、実施例1−1と同様にして成膜および膜厚の測定を行った。結果を表1に示す。
いずれも、キシレンスピン処理後に膜厚は減少しないか或いは非常に少ない減少であり、溶解性の低い、不溶化された膜であることが確認された。
【0308】
【表1】

【0309】
[正孔注入層上の不溶化試験2(加熱架橋)]
(参考例1)
実施例1−1において構造式(H−1)で表される化合物の代りに、以下の構造式(P1)に示す正孔輸送性高分子(単独重合体。Mw=27,000、Mn=13,000)を用い、以下の条件で組成物を調製し、この組成物を用いて加熱条件を以下の通りとしたこと以外は実施例1−1と同様に成膜およびキシレンスピン処理前後の膜厚の測定を行った。
【0310】
【化89】

【0311】
<組成物調製条件>
溶媒:安息香酸エチル
正孔輸送性高分子(P1)濃度:2重量%
電子受容性化合物(A1)濃度:0.80重量%
<加熱条件>
ホットプレート上で80℃、1分間加熱乾燥の後、オーブン内で230℃、180
分間加熱乾燥
【0312】
その結果、キシレンスピン処理前の膜厚L1は34nmで、キシレンスピン処理後の減少膜厚L1−L2は2nm以下であり、このことから、塗布乾燥後の膜はキシレンに対し不溶化していることが確認された。
【0313】
(参考例2)
成膜、乾燥後のキシレンスピン処理に変えて、トルエンスピン処理を行った以外は、参考例1と同様に成膜および膜厚の測定を行ったところ、塗布乾燥後の膜は、トルエンに対しても不溶化していることが確認された。
【0314】
(実施例2−1)
参考例1と同様にして形成された正孔輸送性高分子(P1)と電子受容性化合物(A1)の混合物の薄膜上に、表2に示す条件で、前述の構造式(H1)の本発明の有機化合物をキシレン(溶媒)に溶解させて調製した有機電界発光素子組成物をスピンコートして成膜した。スピンコートは気温23℃、相対湿度60%の大気中で行い、スピナ回転数は1500rpm、スピナ回転時間は30秒とした。成膜後、大気中、ホットプレート上で表2に示す条件で加熱した。
【0315】
成膜された膜について、実施例1−1と同様にして、キシレンスピン処理前後の膜厚を測定し、同様に不溶化の程度の評価を行った。
キシレンスピン処理前の、有機化合物(H1)を含む正孔輸送材料膜の膜厚L3(nm)、キシレンスピン前後の膜厚減少量L1−L2(nm)を下記表2に示す。
なお、正孔輸送材料膜の膜厚L3(nm)はキシレンスピン処理前の有機材料の膜厚L1(nm)から参考例1の正孔輸送性高分子含有膜の膜厚34nmを除することより算出した。
その結果、キシレンスピン処理後、膜厚の減少は非常に少なく、溶解性の低い、不溶化された膜であることが確認された。
【0316】
(実施例2−2〜実施例2−8)
表2に記載の条件で有機電界発光素子用組成物を調製し、表2に記載の条件で成膜した他は、実施例2−1と同様にして成膜および膜厚の測定を行った。結果を表2に示す。
いずれも、キシレンスピン処理後に膜厚は減少しないか或いは非常に少ない減少であり、溶解性の低い、不溶化された膜であることが確認された。
【0317】
【表2】

【0318】
(参考例3)
実施例1−1において、構造式(H1)で表される化合物の代りに、以下の構造式(P2)に示す正孔輸送性高分子(Mw=27,000、Mn=12,000)を用い、以下の条件で組成物を調製し、この組成物を用いて加熱条件を以下の通りとしたこと以外は実施例1−1と同様に成膜およびキシレンスピン処理前後の膜厚の測定を行った。
【0319】
【化90】

【0320】
<組成物調製条件>
溶媒:アニソール
正孔輸送性高分子(P2)濃度:1.5重量%
電子受容性化合物(A1)濃度:0.3重量%
<加熱条件>
ホットプレート上で80℃、1分間加熱乾燥の後、オーブン内で230℃、180
分間加熱乾燥
【0321】
その結果、キシレンスピン処理前の膜厚L1は30nmで、キシレンスピン処理後の減少膜厚L1−L2は2nm以下であり、このことから、塗布乾燥後の膜はキシレンに対し不溶化していることが確認された。
【0322】
(参考例4)
成膜、乾燥後のキシレンスピン処理に変えて、トルエンスピン処理を行った以外は、参考例3と同様に成膜および膜厚の測定を行ったところ、塗布乾燥後の膜は、トルエンに対しても不溶化していることが確認された。
【0323】
(実施例3−1)
参考例3と同様にして形成された正孔輸送性高分子(P2)と電子受容性化合物(A1)の混合物の薄膜上に、表3に示す条件で、前述の構造式(H1)の本発明の有機化合物をキシレン(溶媒)に溶解させた調製した有機電界発光素子組成物をスピンコートして成膜した。スピンコートは気温23℃、相対湿度60%の大気中で行い、スピナ回転数は1500rpm、スピナ回転時間は30秒とした。成膜後、大気中、ホットプレート上で表3に示す条件で加熱した。
【0324】
成膜された膜について、実施例1−1と同様にして、キシレンスピン処理前後の膜厚を測定し、同様に不溶化の程度の評価を行った。
キシレンスピン処理前の、有機化合物(H1)を含む正孔輸送材料膜の膜厚L3(nm)、キシレンスピン前後の膜厚減少量L1−L2(nm)を下記表2に示す。
なお、正孔輸送材料膜の膜厚L3(nm)はキシレンスピン処理前の有機材料の膜厚L1(nm)から参考例3の正孔輸送性高分子含有膜の膜厚30nmを除することより算出した。
その結果、キシレンスピン処理後、膜厚の減少はなく、溶解性の低い、不溶化された膜であることが確認された。
【0325】
【表3】

【0326】
[ガラス板上の不溶化試験3(光架橋)]
(実施例4−1)
25mm×37.5mmサイズのガラス基板を超純水で洗浄し、乾燥窒素で乾燥して、UV/オゾン洗浄を行った。下記表4に記載の濃度で、前記構造式(H3)の本発明の有機化合物(正孔輸送材料)、下記構造式(A2)に示す長瀬産業株式会社製イルガキュア651、および溶媒を含む有機電界発光素子用組成物を調製し、該組成物を洗浄したガラス基板にスピンコートして成膜した。スピンコートは気温23℃、相対湿度60%の大気中で行い、スピナ回転数は1500rpm、スピナ回転時間は30秒とした。成膜後、ウシオ電機株式会社製露光装置UX−1000SM−ACS01を用いて、500W超高圧水銀ランプ光を表4に示す光量照射した。光照射は気温23℃、相対湿度60%の大気中で行った。照射面における365nm光(g線)の強度は28mW/cmであった。光照射後、大気中ホットプレート上で120℃にて1時間加熱した。
【0327】
【化91】

【0328】
形成された膜について、実施例1−1と同様にして、キシレンスピン処理前後の膜厚を測定し、同様に不溶化の程度の評価を行った。
【0329】
有機電界発光素子用組成物中の正孔輸送材料およびその濃度、添加剤およびその濃度、使用溶媒、塗布後露光装置での積算光照射量、光照射時間、キシレンスピン処理前の膜厚L1(nm)、キシレンスピン前後の膜厚減少量L1−L2(nm)を下記表4に示す。
キシレンスピン処理後、膜厚の減少は少なく、溶解性の低い、不溶化された膜であることが確認された。
【0330】
(実施例4−2〜実施例4−3)
表4に記載の条件で成膜した他は、実施例4−1と同様にして成膜および膜厚の測定を行った。結果を表4に示す。
いずれも、キシレンスピン処理後に膜厚は減少しないか或いは非常に少ない減少であり、溶解性の低い、不溶化された膜であることが確認された。
【0331】
【表4】

【0332】
[正孔注入層上の不溶化試験4(光架橋)]
(実施例5−1)
参考例1と同様にして成膜した正孔輸送性高分子(P1)と電子受容性化合物(A1)の混合物の膜上に、下記構造式(H4)で示される本発明の有機化合物および溶媒を用いて調製した有機電界発光素子用組成物を、スピンコートして成膜した。スピンコートは気温23℃、相対湿度60%の大気中で行い、スピナ回転数は1500rpm、スピナ回転時間は30秒とした。成膜後、ウシオ電機株式会社製露光装置UX−1000SM−ACS01を用いて、500W超高圧水銀ランプ光を表に示す光量照射した。光照射は気温23℃、相対湿度60%の大気中で行った。照射面における365nm光(g線)の強度は28mW/cmであった。光照射後、大気中ホットプレート上で120℃にて1時間加熱した。
【0333】
【化92】

【0334】
形成された膜について、実施例3−1と同様にしてキシレンスピン処理前後の膜厚を測定し、同様に不溶化の評価を行った。
【0335】
塗布液中の正孔輸送材料およびその濃度、添加剤およびその濃度、使用溶媒、塗布後露光装置での積算光照射量、光照射時間、正孔輸送材料膜の膜厚L3(nm)、キシレンスピン前後の膜厚減少量L1−L2(nm)を下記表5に示す。
キシレンスピン処理後、膜厚の減少は少なく、溶解性の低い、不溶化された膜であることが確認された。
【0336】
(実施例5−2〜実施例5−4)
表5に記載の条件で成膜した他は、実施例5−1と同様にして成膜および膜厚の測定を行った。結果を表5に示す。
いずれも、キシレンスピン処理後に膜厚は減少しないか或いは非常に少ない減少であり、溶解性の低い、不溶化された膜であることが確認された。
【0337】
【表5】

【0338】
[有機電界発光素子の作製1]
(実施例6−1〜6−16)
図1に示す有機電界発光素子を作製した。
ガラス基板1上に、インジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を120nmの厚さに堆積したもの(三容真空社製、スパッタ成膜品)を、通常のフォトリソグラフィー技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極2を形成した。パターン形成したITO基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、圧縮空気で乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
【0339】
まず、先の構造式(P1)に示す繰り返し構造を有する正孔輸送性高分子2重量%と、構造式(A1)に示す4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート0.8重量%を、溶媒としての安息香酸エチルに溶解した後、孔径0.2μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製メンブレンフィルターを用いて濾過し、塗布組成物を作製した。この塗布組成物を上記ガラス基板上にスピンコートした。スピンコートは気温23℃、相対湿度60%の大気中で行い、スピナ回転数は1500rpm、スピナ時間は30秒とした。スピンコート後、ホットプレート上で80℃、1分間加熱乾燥した後、オーブンにて常圧大気雰囲気中、230℃で180分間加熱した。このようにして、膜厚34nmの正孔注入層3を形成した。
【0340】
引き続き、表6に示す条件で有機電界発光素子組成物を調製し、孔径0.2μmPTFE製メンブレンフィルターを用いて濾過し、上記正孔注入層3上にスピンコートした。スピンコートは気温23℃、相対湿度60%の、表6に示す雰囲気中にて行い、スピナ回転数は1500rpm、スピナ時間は30秒とした。スピンコート後、ホットプレートにて表6に示す加熱雰囲気、加熱温度、加熱時間の条件で加熱を行った。このようにして、膜厚18〜50nmの正孔輸送層4を形成した。
【0341】
【表6】

【0342】
次に、下記構造式(C−1)で表される化合物20mg、下記構造式(C−2)で表される化合物20mg、および、下記構造式(C−3)で表される化合物2mgを、キシレン2.0gに溶解させ、発光層溶液を調製した。この発光層溶液を、先の正孔輸送層4の上にスピンコートにて80nmの厚さに塗布し、発光層5を形成した。スピンコートは窒素雰囲気中で行い、スピナ回転数は1500rpm、スピナ時間は60秒とした。塗布後、真空度0.01MPa、130℃で1時間加熱乾燥した。
【0343】
【化93】

【0344】
次に、正孔注入層3と正孔輸送層4と発光層5を塗布成膜した基板を真空蒸着装置内に設置し、油回転ポンプにより装置の粗排気を行った後、装置内の真空度が2×10−6Torr(約2.7×10−4Pa)以下になるまでクライオポンプを用いて排気し、装置内に配置されたセラミック製ルツボに入れた下記構造式(C−4)で表される化合物を加熱して蒸着を行った。蒸着時の真空度は1.3×10−6Torr(約1.7×10−4Pa)、蒸着速度は約1Å/秒で、膜厚5nmの膜を発光層の上に積層して正孔阻止層6を形成した。
【0345】
【化94】

【0346】
次いで同装置内に配置されたセラミック製ルツボに入れた、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウムを加熱して蒸着を行った。蒸着時の真空度は1.3×10−6Torr(約1.7×10−4Pa)、蒸着速度は約2Å/秒で、膜厚30nmの膜を正孔阻止層6の上に積層して電子輸送層7を形成した。
【0347】
ここで、蒸着を行った素子を一度真空蒸着装置内より大気中に取り出して、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極2のITOストライプと直交するように素子に密着させて、別の真空蒸着装置内に設置して、有機層蒸着時と同様にして装置内の真空度が2×10−6Torr(約2.6×10−4Pa)になるまで排気した。
【0348】
陰極8として、先ずフッ化リチウム(LiF)を、モリブデンボートを用いて、蒸着速度0.05Å/秒、真空度2.0×10−6Torr(約2.6×10−4Pa)で、0.5nmの膜厚で電子輸送層の上に成膜した。次に、アルミニウムを同様にモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度4Å/秒、真空度5×10−6Torr(6.5×10−4Pa)で膜厚80nmのアルミニウム層を形成して陰極8を形成した。以上の2層型陰極の蒸着時の基板温度は室温に保持した。
【0349】
引き続き、素子が保管中に大気中の水分等で劣化することを防ぐため、以下に記載の方法で封止処理を行った。
窒素で内部を充填したドライボックス中で、23mm×23mmサイズのガラス板の外周部に、約1mmの幅で光硬化性樹脂(株式会社スリーボンド製30Y−437)を塗布し、中央部に水分ゲッターシート(ダイニック株式会社製)を設置した。この上に、陰極形成を終了した基板を、蒸着された面が乾燥剤シートと対向するように貼り合わせた。その後、光硬化性樹脂が塗布された領域のみに紫外光を照射し、樹脂を硬化させた。
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。
得られた有機電界発光素子の輝度100cd/mの時の電圧と電流発光効率を下記表7に示す。
【0350】
実施例6−16で使用した正孔輸送材料(H5)は以下の通りであり、実施例6−16で作製した素子の輝度100cd/mにおける発光効率は21.8lm/w、輝度2500cd/mにおける電圧は8.9Vで輝度/電流は35.2cd/Aであった。
【0351】
【表7】

【0352】
【化95】

【0353】
[有機電界発光素子の作製2]
(実施例7)
実施例6−1と同様に陽極2の形成および洗浄を行ったガラス基板1上に、正孔注入層を形成するための塗布組成物として、先の構造式(P2)に示す繰り返し構造を有する正孔輸送性高分子2重量%と、構造式(A1)に示す4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート0.4重量%を、溶媒としての安息香酸エチルに溶解した後、孔径0.2μmPTFE製メンブレンフィルターを用いて濾過して調製したものを用いたこと以外は、実施例6−1と同様の条件でスピンコートにより膜厚30nmの正孔注入層3を形成した。
【0354】
引き続き、表8に示す条件で調製した有機電界発光素子用組成物を、孔径0.2μmPTFE製メンブレンフィルターを用いて濾過し、上記正孔注入層3上にスピンコートした。スピンコートは気温23℃、相対湿度60%の大気中にて行い、スピナ回転数は1500rpm、スピナ時間は30秒とした。スピンコート後、ホットプレートにて表8に示す加熱雰囲気、加熱温度、加熱時間の条件で加熱を行った。このようにして、膜厚37nmの正孔輸送層4を形成した。
【0355】
正孔輸送層4の形成後は、実施例6−1と同様の手順により、各層の成膜を行って、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を作製した。
得られた有機電界発光素子の輝度100cd/mの時の電圧と電流発光効率を下記表8に示す。
【0356】
【表8】

【0357】
[有機電界発光素子の作製3]
(実施例8−1〜8−7)
実施例6−1と同様にしてガラス基板1上に陽極2の形成、洗浄および正孔注入層3の形成を行った後、表9に示す条件で調製した有機電界発光素子用組成物を、実施例6−1と同様に濾過して正孔注入層3上に同様の条件でスピンコートした。その後、ウシオ電機株式会社製露光装置UX−1000SM−ACS01を用いて、500W超高圧水銀ランプ光を表に示す光量照射した。光照射は気温23℃、相対湿度60%の大気中で行った。照射面における365nm光(g線)の強度は28mW/cmであった。さらに、光照射後、ホットプレートにて表9に示す加熱雰囲気、加熱温度、加熱時間の条件で加熱を行った。このようにして、膜厚18〜37nmの正孔輸送層4を形成した。
【0358】
正孔輸送層4の形成後は、実施例6−1と同様の手順により、各層の成膜を行って、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を作製した。
得られた有機電界発光素子の輝度100cd/mの時の電圧と電流効率と、得られた有機電界発光素子を初期輝度1000cd/mでDC駆動した時の電圧および電流密度と、輝度が800cd/mに低下した時間およびその時の電圧を表10(実施例8−1〜8−3)に示す。
また、得られた有機電界発光素子の輝度100cd/mの時の電圧、輝度/電流、および発光効率と、輝度2500cd/mの時の電圧および輝度/電流を表11(実施例8−4〜8−7)に示す。
【0359】
【表9】

【0360】
なお、実施例8−4〜8−7で使用した正孔輸送材料(H6)〜(H9)は以下の通りである。
【0361】
【化96】

【0362】
(比較例1)
正孔輸送層を設けないこと以外は、実施例6−1と同様の手順により2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を作製した。
得られた有機電界発光素子を初期輝度1000cd/mでDC駆動した時の電圧および電流密度と、輝度が800cd/mに低下した時間およびその時の電圧を表10に示す。
【0363】
【表10】

【0364】
【表11】

【0365】
(実施例8−8〜8−9)
実施例6−1と同様にしてガラス基板1上に陽極2の形成、洗浄および正孔注入層3の形成を行った後、表12に示す条件で調製した有機電界発光素子用組成物を、実施例6−1と同様に濾過して正孔注入層3上に同様の条件でスピンコートした。その後、ウシオ電機株式会社製露光装置UX−1000SM−ACS01を用いて、500W超高圧水銀ランプ光を表12に示す光照射条件で照射した。光照射は気温23℃、相対湿度60%の大気中で行った。照射面における365nm光(g線)の強度は28mW/cmであった。さらに、光照射後、ホットプレートにて表12に示す加熱雰囲気、加熱温度、加熱時間の条件で加熱を行った。このようにして、膜厚20〜40nmの正孔輸送層4を形成した。
【0366】
次に、上記構造式(C−1)で表される化合物1.8重量%、前記構造式(C−2)で表される化合物0.2重量%、および、前記構造式(C−3)で表される化合物0.1重量%を、キシレンに溶解させ、発光層溶液を調製した。この発光層溶液を、先の正孔輸送層4の上にスピンコートにて40nmの厚さに塗布し、発光層5を形成した。スピンコートは窒素雰囲気中で行い、スピナ回転数は1500rpm、スピナ時間は60秒とした。塗布後、真空度0.01MPa、130℃で1時間加熱乾燥した。
【0367】
発光層5の形成後は、実施例6−1と同様の手順により、各層の成膜を行って、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を作製した。
また、得られた有機電界発光素子の輝度100cd/mの時の電圧、輝度/電流、および発光効率と、輝度2500cd/mの時の電圧および輝度/電流を表13に示す。
【0368】
【表12】

【0369】
なお、実施例8−8〜8−9で使用した正孔輸送材料(H10)〜(H11)は以下の通りである。
【0370】
【化97】

【0371】
【表13】

【産業上の利用可能性】
【0372】
本発明は、有機電界発光素子が使用される各種の分野、例えば、フラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピュータ用や壁掛けテレビ)や面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯等の分野において、好適に使用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0373】
【図1】本発明の有機電界発光素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0374】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 有機発光層
6 正孔阻止層
7 電子注入層
8 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される有機化合物。
【化1】

(式中、環Aは置換基を有していてもよいベンゼン環を表す。TおよびTは、それぞれ独立に、架橋基を含む置換基を表す。mおよびnは、それぞれ架橋基を含む置換基が置換する数を表し、それぞれ独立に、0〜2の整数を表す。但し、m+nは2以上の整数である。)
【請求項2】
前記式(I)が下記式(I−1)で表される請求項1に記載の有機化合物。
【化2】

(式中、Tは、架橋基を含む置換基を表す。pは、Tの置換数を表し、0〜2の整数を表す。T、T、mおよびnは、それぞれ式(I)におけるものと同義である。)
【請求項3】
前記式(I−1)が下記式(I−2)で表される請求項2に記載の有機化合物。
【化3】

(式中、T11〜T13は、それぞれ独立に、架橋基を含む置換基を表す。mおよびnは、それぞれ式(I)におけるものと同義であり、pは、式(I−I)におけるものと同義である。)
【請求項4】
前記架橋基を含む置換基の架橋基が、環状エーテル基および下記式(II−1)〜(II−4)からなる群から選ばれる基のいずれかであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の有機化合物。
【化4】

【請求項5】
該環状エーテル基が、オキシラン環またはオキセタン環由来の基である請求項4に記載の有機化合物。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の有機化合物を含有する有機電界発光素子用組成物。
【請求項7】
基板上に、陽極、陰極、および該陽極と該陰極に挟持された1層または2層以上の有機層を有する有機電界発光素子において、該有機層の少なくとも1層が、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の有機化合物を含有する有機電界発光素子。
【請求項8】
該有機化合物を含有する層が、正孔輸送層である請求項7に記載の有機電界発光素子。
【請求項9】
該正孔輸送層上に、発光層を有する請求項8に記載の有機電界発光素子。
【請求項10】
前記有機層が、正孔注入層、正孔輸送層および発光層を有し、正孔注入層、正孔輸送層および発光層の全てが湿式成膜法により形成される請求項7ないし9のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−63327(P2008−63327A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203261(P2007−203261)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】