説明

染毛料及びその製造方法

【課題】本発明は、従来の堅牢性が脆弱で、かつ人体の健康面や環境に対して悪影響のある染毛料に対して、より簡便に安定した状態で安全に染毛できるようにした染毛料を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、設定粒径以下に微粒子化した銀を液体に混入して生成する銀コロイド溶液にL−ヒスチジン等のL−アミノ酸を混合させて生成される銀コロイド−L−アミノ酸錯体溶液を用いることを特徴とする。目的とする染毛料は、水分を有する基質材料に、この銀コロイド錯体及びクエン酸が混合されているようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容易に染毛ができる染毛料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
頭髪を染めるものとして、まず、カラースプレーやカラースティックなどと称される一時的に着色する一時染毛料がある。また、ヘアマニキュア、カラーリンス、カラートリートメントといわれる毛髪のタンパク質と酸性染料とのイオン結合を利用した半永久染毛料や、ヘアカラー、ヘアダイ、白髪染めに代表される酸化染毛剤などがある。最近では、染めた色の高い耐久性などにより、酸化染毛剤が好まれる傾向にある(特許文献1参照)。
【0003】
上記酸化染毛剤は、例えば、パラフェニレンジアミンやトルエン−2、5−ジアミンなどの酸化染料に、アンモニアなどのアルカリ剤を加えた第1液と、過酸化水素などの酸化剤からなる第2液とから構成されている。使用にあたっては、毛髪を染めようとする直前に上記2つの液を混合し、混合した液を毛髪に塗布する。酸化染毛剤による染毛では、毛髪中に浸透した酸化染料が、加えられた酸化剤により酸化重合し、酸化重合により不溶性色素が生成され、生成された不溶性色素が毛髪中に定着することにより、毛髪に染色が行われる。
【0004】
一方、硝酸銀、乳酸銀、難溶性の硫酸銀、酢酸銀などの銀塩を用い、光による反応や酸化などにより染色する染毛剤も提案されている(特許文献2、特許文献3参照)。また、アンモニア銀錯塩又はエタノールアミン銀錯塩溶液を毛髪に付着させた後、還元剤を用いて染色する2液を用いる染毛方法も提案されている(特許文献4参照)。また、エタノールアミン銀錯塩とジアミン系染料を用いた染毛方法も提案されている(特許文献5参照)。
また、染毛を安定化させるためにクエン酸を加えることも提唱されているが、硫酸銀を用いることで健康に対する不安もあった(特許文献6参照)。
【0005】
なお、出願人は、本明細書に記載した先行技術文献情報で特定される先行技術文献以外には、本発明に関連する先行技術文献を出願時までに発見するには至らなかった。
【特許文献1】特開平10−175330号公報
【特許文献2】特開2002−348221号公報
【特許文献3】特開昭52−125638号公報
【特許文献4】特開昭48−018438号公報
【特許文献5】特開平4−312514号公報
【特許文献6】特開2007−3881688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した酸化染毛剤は、使用直前に2液を混合する必要があるため、手間がかかり、またアンモニア臭があるなどの問題があった。また、ジアミン系物質やこの重合体などからなる酸化染料は、発ガン性や肝臓障害、また、胎児への影響など、人体の健康面への影響や、アルカリや酸化反応などによる毛髪の傷みなどが指摘されている。
【0007】
また、硝酸銀、乳酸銀、難溶性の硫酸銀、酢酸銀などの銀塩を利用するものは、銀塩水溶液が非常に不安定なため、容器に収容した状態で放置すると、自然に黒く着色してしまい、毛髪に対する付着能力や付着した状態の堅牢性が低くなるなどの問題がある。
更に、硝酸銀や硫酸銀などの強酸塩を用いるものは、遊離する強酸による人体の健康面への影響や環境に対する負荷等の大きな問題がある。
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、より簡便に安定した状態でかつ安全に染毛できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した問題を解消するために、本発明に係る染毛料は、設定粒径以下に微粒子化した銀を液体に混入して生成する銀コロイド溶液及びこれにL−ヒスチジン、L−システィン、L−アルギニン、L−メチオニン、およびL−リジンのうちのいずれか一つのL−アミノ酸を混入して生成する安定した銀コロイド−L−アミノ酸錯体溶液を用いるものである。水分を有する基質材料に、この銀コロイド錯体及びクエン酸が混合されているようにしたものである。
従って、上記染毛料は、紫外線や可視光線の照射などにより還元されて金属銀を析出する銀塩である銀コロイド錯体が、水溶液の状態で含まれている。
【0009】
また、本発明に係る染毛料の製造方法は、クエン酸が溶解している水溶液に前記銀コロイド錯体を加えることで、水分を有する基質材料に銀コロイド錯体及びクエン酸が混合されているようにしたものである。
従って、製造過程で金属銀が析出することなく染毛料が製造できる。また、銀コロイド錯体は20%銀濃度まで銀を安定に溶液中に存在させることが可能であるから、従来の染毛料に比して10倍以上の濃度の銀を含有した染毛料が製造可能である。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明では、染毛料に紫外線の照射などにより還元されて金属銀を析出する銀コロイド錯体がクエン酸により酸性とされた水溶性の状態で安定して含まれているようにしたので、上記染毛料を頭髪に塗布するだけで染毛が可能となっている。また、安定化した銀コロイド錯体及びクエン酸を用いて酸性領域としていることにより、暗反応により酸化するなどのことが抑制され、銀コロイド錯体が安定して溶解した状態が得られる。
このように、本発明によれば、使用直前に2液を混合するなどの必要がないなど、簡便に染毛ができる。またアンモニア臭や遊離する強酸もないので、人体の健康面及び環境への影響や、アルカリや酸化反応などによる毛髪の傷みなどもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施の形態の染毛料は、安定化させた微粒子化銀コロイド及びL−アミノ酸錯体溶液を用いるものである。水分を有する所定の基質材料をクエン酸により酸性の状態とし、この基質材料に水溶性の銀塩である上記銀コロイド錯体溶液を混合(添加)させて、安定した状態で基質材料に銀コロイド錯体が溶解している状態としたものである。
【0012】
基質材料は、水溶性成分に油成分が乳化された乳液状であればよい。また、基質材料は、所定の分散媒体中に高分子材料が分散したゲルであってもよく、アルコールを含む水溶液であってもよい。本発明の銀コロイド錯体及びクエン酸からなる染毛料は、その安定した銀コロイド錯体により簡便に染毛ができる。また、人体の健康面や環境に悪影響をもたらさない天然染毛料として利用できる。
以下、実施例に基づいて、本発明の詳細を説明する。
【実施例】
【実施例1】
【0013】
次に、上述した染毛料の製造方法について説明する。
図1に示すようにまず、銀を電気分解等の技法により設定粒径(例えば、4nm)以下に微粒子化し(S1)、この微粒子化した銀1を液体2に混入して分散させ(S2)、銀コロイド溶液3を生成する(S3)。この場合、銀コロイド溶液3は、染毛に必要な所定濃度(例えば、0.2〜2.0%)になるように、微粒子化した銀1の濃度を調整される。また、銀コロイド溶液3は、マイナスイオンの少ない液体2に微粒子化した銀1を分散していることにより、銀イオンの減少を防止している。
【0014】
前記調製した銀コロイド溶液3に、安定化のために銀の1/10濃度のL−アミノ酸(L−ヒスチジン)4を加えて銀コロイド錯体溶液5を生成する(S4)。生成された銀コロイド錯体溶液5には、微粒子化した銀1が所定濃度(例えば、0.2〜2.0%)含まれる。
【0015】
この銀コロイド錯体溶液5を用いて、以下に示す各成分により、作製物Aを作製する。
真空乳化釜において、精製水81.4kgを入れて90℃に加温し、ここにクエン酸を追加して酸性の状態とした上で、前記銀コロイド錯体溶液(銀として0.6kg)を加え、撹拌して溶解させて作製物Aとする。ここで、緩衝剤としてクエン酸ナトリウムを当量加えておいてもよい。
【0016】
次に、以下に示す各成分を混合し、作製物Bを作製する。
油槽釜に、シリコーンオイル12kg、セタノール4kg、ステアリン酸ソルビタン15kg、ステアリルジメチルアンモニウムクロライド0.3kg、メチルパラベン0.1kgを収容し、これらを80℃に加温して各々溶解させ、作製物Bとする。
【0017】
次に、真空乳化釜中に収容されている作製物Aを80℃に保ち、これを激しく撹拌した状態とし、撹拌している状態に、作製物Bを徐々に添加する。ついで、作製物Aに作製物Bが全て添加された後、真空乳化釜を密閉して減圧環境とする。減圧環境とした後、3000rpmのホモミクサーにより、真空乳化釜の内容物を8分間撹拌し、この後、撹拌速度を低下させながら内容物の温度を35℃まで冷却する。
【0018】
最後に、上述したように作製物Aと作製物Bとを混合して得られた乳化物を、20メッシュのフィルターにより濾過し、98kgの白色のクリーム(染毛料)を得る。
これらの作製は、ほぼ光が遮断した状態で行い、還元による金属銀の析出がないようにする。
【0019】
得られた自色・クリーム状の染毛料は、pH6程度である。この染毛料を、光を遮断して室温にした状態で放置すると、10ヶ月以上黒色化することなく安定している。また、この染毛料を、光を遮断して40℃にした状態で放置しても、6ヶ月以上黒色化することなく安定している。
【0020】
上記染毛料を頭髪に塗布し、ここに紫外線や可視光線などの光照射がなされると、染毛料に溶解している銀イオンが金属銀に還元され、還元された金属銀の微粒子が毛髪の表面に析出・付着して発色する。このようにして染毛された毛髪は、通常の洗髪では毛髪の着色状態に何ら変化が楕認されない。光照射により析出して毛髪の表面に付着した金属銀は、洗髪などでは毛髪の表面より離脱しない強固なものと考えられる。
【0021】
溶解している銀の濃度が0.4〜0.6%程度の低い濃度では、毛髪が赤みの入った着色状態となる。例えば、白髪に適用した場合、銀の濃度が0.4〜0.6%程度では、ピンク色から赤色を帯びた茶色に染毛され、あまり濃い茶色には染毛されない。ただし、染毛の対象が女性の場合などは、ライトブラウンが好まれる場合もあり、銀濃度である程度色調を調整すればよい。
【0022】
用いた銀コロイド錯体溶液は、L−アミノ酸のアミノ基及びカルボニル基で銀が保持されるので、L−アミノ酸によって銀を溶液中に安定して存在させることができる。
通常の銀塩水溶液は非常に不安定であるが、上述したように、安定化した銀コロイド錯体溶液及びクエン酸を加えることで、安定した状態が得られ、放置により黒化するという暗反応が抑制できるようになる。
【0023】
単なる銀塩溶液を用いた場合、或いはクエン酸を用いない場合、暗所に保管した場合であっても徐々に黒化が進行し、また、毛髪に対する付着の能力や堅牢性が低下する。
これに対し、本実施の形態における染毛料では、溶解している銀塩の酸化が抑制され、硫黄などの還元性物質と組み合わせることなく、黒色の酸化銀の生成を抑制できる。例えば、上記染毛料は、40℃以上の高温状態で保管されていても、着色の発生(暗反応)がおきない。
【0024】
次に、上述した本発明の染毛料の染毛作用について、より詳紬に説明する。
本発明の染毛料は、例えば、硫酸銀による水溶性銀塩を、ヘアクリームなどの水分を有する基質材料に混合したものである。このような染毛料を毛髪に塗布し、この状態で毛髪を日光(紫外線)に晒すと、染毛料中の銀イオンが光により還元されて金属銀が析出し、析出した金属銀が毛髪に付着する。このように金属銀が析出して毛髪に付着することで、毛髪が染毛される。析出して毛髪に付着した金属銀の一部は、毛髪中のイオウと反応して黒色の硫化銀に変化することや、空気中の酸素により徐々に酸化されて黒色の酸化銀に変化することも予想される。
【0025】
本発明の染毛料は、毛髪を染色するもととなる銀を、安定化した銀コロイド錯体として混合してあり、水に溶解した状態すなわち水溶性の銀イオンの状態で頭髪に塗布するものである。この結果、本発明の染毛料によれば、毛髪内部にまで銀が浸透しやすい状態となっており、毛髪表面に接触した状態や毛髪内部で金属銀の微粒子が析出するので、色が定着しやすいものとなっている。また、ジアミンや鉛などを含むことが無いので、アレルギー反応を起こすことや健康を害することもない。さらに、本発明の染毛料によれば、金属銀が毛髪表面を被覆することによる毛髪の保護効果も期待でき、勿論、毛髪などに損傷を与えることもない。
【0026】
上述した本発明の染毛料によれば、染毛料が塗布された段階の毛髪は、染色された状態とはなっていないが、染毛料中の銀イオンが還元された金属銀として析出した段階で、毛髪が染色された状態となる。
ところで、上述では、乳液状とした基質材料に硫酸銀を溶解させて染毛料としたが、これに限るものではない。例えば、所定の分散媒体中に高分子材料が分散しているゲルとした基質材料に、銀コロイド錯体を溶解させて染毛料としてもよい。
【0027】
例えば、基質材料としてカルボキシビニルポリマーを用いた透明なゲル染毛料や乳状液を用いたヘアクリーム、水溶液を用いたヘアローション、及び粘度の高い乳化物を用いたヘアワックスと称されるものとなる。
なお、当然ではあるが、これらの染毛料の製造においても、ほぼ光が遮断した状態で行い、還元による金属銀の析出がないようにする。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の染毛料は、毛髪を染色するもととなる銀を、安定化した銀コロイド錯体として混合してあり、水に溶解した状態すなわち水溶性の銀イオンの状態で頭髪に塗布するものである。この結果、本発明の染毛料によれば、毛髪内部にまで銀が浸透しやすい状態となっており、毛髪表面に接触した状態や毛髪内部で金属銀の微粒子が析出するので、色が定着しやすいものとなっている。また、ジアミンや鉛及び強酸などを含むことが無いので、アレルギー反応を起こすことや健康を害することもない。さらに、本発明の染毛料によれば、金属銀が毛髪表面を被覆することによる毛髪の保護効果も期待できる、人体の健康面や環境に悪影響をもたらさない天然染毛料として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施例を示しており、目的である天然染毛料を構成する銀コロイド錯体溶液生成過程を示すものである。
【符号の説明】
【0030】
1.微粒子化した銀
2.液体
3.銀コロイド溶液
4.L−アミノ酸(L−ヒスチジン)
5.銀コロイド−L−アミノ酸(L−ヒスチジン)錯体溶液
S1.銀の微粒子化過程
S2.微粒子化した銀の液体への混入
S3.銀コロイド溶液生成過程
S4.銀コロイド−L−アミノ酸(L−ヒスチジン)錯体溶液生成過程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
設定粒径以下に微粒子化した銀を液体に混入して生成する銀コロイド溶液及びこれにL−アミノ酸を混入して生成する安定した銀コロイド−L−アミノ酸錯体溶液を用いて、水分を有する基質材料と、この基質材料に混合された前記銀コロイド錯体及びクエン酸とから構成されたことを特徴とする染毛料。
【請求項2】
請求項1に記載の染毛料において、前記L−アミノ酸は、L−ヒスチジン、L−システィン、L−アルギニン、L−メチオニン、およびL−リジンのうちの一つであることを特徴とする染毛料。
【請求項3】
請求項1に記載の染毛料において、前記基質材料は、水溶性成分に油成分が乳化された乳状液であることを特徴とする染毛料。
【請求項4】
請求項1に記載の染毛料において、前記基質材料は、所定の分散媒体中に高分子材料が分散したゲルであることを特徴とする染毛料。
【請求項5】
請求項1に記載の染毛料において、前記基質材料は、水溶液であることを特徴とする染毛料。
【請求項6】
前記銀コロイド錯体を用いて、水分を有する基質材料と、この基質材料に混合された銀コロイド錯体及びクエン酸とから構成された染毛料の製造方法であって、クエン酸が溶解している水溶液に前記銀コロイド錯体を加えることを特徴とする染毛料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−280321(P2008−280321A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−149741(P2007−149741)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(506233128)株式会社サンナチュランズ (2)
【Fターム(参考)】