説明

染色体外相同組み換え反応の検出用ベクター

【課題】 染色体外相同組み換え反応の検出のためのベクターの提供。
【解決手段】 プロモーターと、該プロモーターに作動可能に連結された、第一のマーカータンパク質をコードする第一のDNA断片と、作動可能に連結されたプロモーターを有さない、第二のマーカータンパク質をコードする第二のDNA断片と
を含んでなり、第一のマーカータンパク質と、第二のマーカータンパク質とが峻別可能なものであり、第一のDNA断片と第二のDNA断片とが、相同組み換え可能な相同性を有し、第二のDNA断片と前記第一のDNA断片とが相同組み換えを生じさせたときに、第二のマーカータンパク質を発現させるベクターが提供される。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、染色体外相同組み換え反応を容易に検出可能なベクターおよびこれを用いた染色体外相同組み換え反応の検出方法に関する。
【0002】
背景技術
相同組み換え反応は生体における基礎的なDNA修復反応の一つであり、遺伝子治療などの産業技術への応用が期待されている。しかしながら、相同組み換え反応を産業技術として応用するには、ヒトをはじめとする哺乳動物類において外来DNAを導入する際、相同組み換え反応を起こす頻度をさらに向上させる必要がある。このため、相同組み換え反応について基礎および応用研究が盛んに進められている。
【0003】
相同組み換え反応としては、遺伝子導入した外来DNAと細胞の染色体DNAとの間で起こるジーンターゲッティングが知られているが、この他にもいくつかの異なるメカニズムを介した反応がある。このような例として、外来ベクター間での相同組み換え反応(染色体外相同組み換え反応)が挙げられる。
【0004】
染色体外相同組み換え反応に関し、従前検討がなされている。例えば、酵母で相同組み換え反応に関わるタンパク質であるRad52を過剰発現させたヒト細胞株では、ジーンターゲッティングが抑制され、染色体外相同組み換え反応が昂進することが報告されており(非特許文献1:YanezおよびPorter、Nucl. Aci. Res. 30 (2002)、740-748)、ジーンターゲッティングとは異なる反応メカニズムにより相同組み換えが触媒されていることが示唆される。
【0005】
また、前述したYanezおよびPorterらにより、外来プラスミドコンストラクト間における、相同組み換え反応の検出方法が報告されている。この検出方法によれば、2種類のプラスミドコンストラクト、すなわち、プロモーターを有する不活性型(非蛍光型)のGFP遺伝子の発現カセット(CMV−アクチンプロモーター− 不活性型のGFP−グロビンポリアデニル化シグナル)を含むプラスミドコンストラクトおよびプロモーターを有さない活性型(蛍光型)のGFP遺伝子を含むプラスミドコンストラクトを、同時に細胞へトランスフェクトする。そして、相同組み換え反応が2種類のプラスミドコンストラクト間で起こった場合には、活性型のGFP遺伝子が、不活性型のGFPと連結していたCMV−アクチンプロモーターを獲得することにより、一過性のGFPの緑色蛍光が観察される。このような2種類以上のDNA断片の同時トランスフェクションでは、一般的に、個々のコンストラクトのトランスフェクション効率が低下することがあり、トランスフェクション条件を最適化する必要がある。そして、トランスフェクション条件の最適化のためには、相同組み換え反応の検出に加えて、個々のコンストラクトのトランスフェクション効率を測定できることが求められる。したがって、染色体外相同組み換え反応を簡便に検出し、効率的に定量・解析することを可能とするベクターを創出することが望まれる。
【0006】
【非特許文献1】YanezおよびPorter、Nucl. Aci. Res. 30 (2002)、740-748
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、今般、特定の構造の単一ベクターを用いて、相同組み換え反応を容易に検出することが可能であるとの知見を得た。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0008】
したがって、本発明は、染色体外相同組み換え反応を容易に検出することが出来るベクターの提供をその目的としている。
また、本発明は、このベクターを用いた細胞内における染色体外相同組み換え反応の検出方法の提供をその目的としている。
【0009】
そして、本発明によるベクターは、
プロモーターと、該プロモーターに作動可能に連結された、第一のマーカータンパク質をコードする第一のDNA断片と、
作動可能に連結されたプロモーターを有さない、第二のマーカータンパク質をコードする第二のDNA断片と
を含んでなり、
第一のマーカータンパク質と、第二のマーカータンパク質とが峻別可能なものであり、
第一のDNA断片と第二のDNA断片とが、相同組み換え可能な相同性を有し、
第二のDNA断片と第一のDNA断片とが相同組み換えを生じさせたときに、第二のマーカータンパク質を発現させることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明による、細胞内における染色体外相同組み換え反応の検出方法は、
上記本発明によるベクターを細胞に導入し、
細胞における第二のマーカータンパク質の発現の有無を検出すること
を少なくとも含んでなるものである。
【発明の具体的説明】
【0011】
ベクター
(a)マーカータンパク質の発現と相同組み換え
本発明によるベクターは、細胞に単に導入された段階ではプロモーターが連結された第一のマーカータンパク質のみを発現するが、相同組み換え反応が生じた場合、第一のマーカータンパク質に加え、第二のマーカータンパク質を発現する。
図1は、本発明によるベクターにおける二つのマーカータンパク質DNAと、相同組み換え反応とを説明する模式図である。図1(a)に示される様に、本発明によるベクターにおいて、第一のマーカータンパク質は、プロモーターに作動可能に連結されてなるが、第二のマーカータンパク質DNAは作動可能に連結されたプロモータを有さない。このベクターを細胞に導入すると、第一のマーカータンパク質は発現するが、第二のマーカータンパク質はプロモーターを有さないため発現しない。しかし、ここで、第一のマーカータンパク質DNAと、第二のマーカータンパク質DNAが相同性を有すると、相同組み換え反応が生じ得る。細胞内でこの染色体外相同組み換えが生じると、図1(b)に示される通り、第二のマーカータンパク質DNAもプロモーターを有する構造を取ることがあり、その結果、第二のマーカータンパク質も発現されることになる。この二つのマーカータンパク質の発現を指標に、細胞内の相同組み換え反応の定性および定量、さらには諸条件を変化させることで相同組み換え反応が如何なる影響を受けるかなど、相同組み換え反応について種々の知見を得ることが出来る。
【0012】
本発明によるベクターは、相同組み換え反応の知見を得るために用いられるものであるから、第一のマーカータンパク質DNAと、第二のマーカータンパク質DNAのベクター上における存在は、プロモーターに作動可能に連結されているかどうか以外は限定されない。すなわち、第一のマーカータンパク質DNAと、第二のマーカータンパク質DNAのベクター上における構造を相違させ、相同組み換え反応に如何なる影響を与えるかの知見を得ることも、本発明によるベクターによって可能である。しかし、相同組み換え反応の生じ易さまたはその確実性を考慮すれば、第一のマーカータンパク質DNAと、第二のマーカータンパク質DNAとは、ベクター上で同一の構造カセットとして存在することが好ましい。よって、本発明の好ましい態様によれば、第一のマーカータンパク質をコードする第一のDNA断片と、第二のマーカータンパク質をコードする第二のDNA断片とは、プロモーターと連結されているかどうか以外は、実質的に同一の構造を有してベクター上に存在していることが好ましい。
また、本発明によるベクターは、直鎖状または環状のいずれであってもよい。本発明の好ましい態様によれば、ベクターはプラスミドであることが好ましい。
【0013】
(b)マーカータンパク質およびそのDNA
本発明によるベクターは、第一のマーカータンパク質をコードする第一のDNA断片と、第二のマーカータンパク質のコードする第二のDNA断片とを含んでなり、両者は相同組み換えが可能な程度の相同性を有する。
【0014】
上記の通り、本発明によるベクターは、相同組み換え反応の知見を得るために用いられるものであるから、二つのマーカータンパク質DNAにおける相同性を規定するファクターを変化させ、相同組み換え反応に如何なる影響を与えるかの知見を得ることも、本発明によるベクターによって可能である。よって、二つのマーカータンパク質DNAにおける相同領域の配置は、適宜決定されてよい。しかしながら、相同組み換え反応によって第二のマーカータンパク質DNAがプロモーターを有する構造を取ることを考慮すれば、二つのマーカータンパク質DNAは、少なくとも5’末端に相同領域を有していることが好ましい。さらに、相同組み換え反応の生じ易さを考慮すれば、二つのマーカータンパク質DNAは、5’末端および/または3’末端において相同領域を有していることが好ましい。さらに、本発明のより好ましい態様によれば、上記の二つのマーカータンパク質DNAは、5’末端および3’末端の両方に少なくとも二つの相同領域を有していることが好ましい。また、相同組み換え反応の確実性を考慮すれば、上記の相同領域における塩基配列の相同性は十分に高いことが好ましく、したがって、二つのマーカータンパク質DNAは、上記の相同領域において同一の塩基配列を有することが好ましい。また、上記の相同領域の長さは、当業者であれば相同組み換え反応の生じ易さなどを勘案して適宜決定することができる。
【0015】
また、本発明において、第一のマーカータンパク質と、第二のマーカータンパク質とは、タンパク質の物理的性状または化学的性状により、峻別可能なものである。すなわち、発現産物としてのタンパク質の存在が確認出来ればよい。峻別可能なタンパク質としては、好ましくは、蛍光タンパク質、モノクローナル抗体により識別可能なタンパク質などが挙げられるが、より好ましくは蛍光タンパク質およびその変異体である。ここで、変異体とは天然のタンパク質のアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が変異(置換、欠失および/または付加など)しているタンパク質であって、天然のタンパク質と同等以上または異なる生理活性を有するタンパク質を意味する。蛍光タンパク質をマーカータンパク質として用いる場合、蛍光を指標としてスクリーニングを行うことにより、細胞を破壊することなく、簡易に相同組み換え反応を解析することが可能となる。
【0016】
そして、本発明の特に好ましい態様によれば、第一のマーカータンパク質および第二のマーカータンパク質として、Aequorea victoria(オワンクラゲ)由来の蛍光タンパク質およびその変異体が挙げられる。上記の蛍光タンパク質およびその変異体は相同性が高いことから、本発明におけるマーカータンパク質として好ましく用いられる。そして、Aequorea victoria由来の蛍光タンパク質およびその変異体を、本発明における二つのマーカータンパク質として用いる場合、その二つのマーカータンパク質DNAは、塩基配列において、97%以上の相同性を有することが好ましい。また、その二つのマーカータンパク質DNAにあっては、5’末端における相同領域の長さは、好ましくは191塩基対以上であり、より好ましくは194塩基対以上である。さらに、その3’末端における相同領域の長さは、好ましくは109塩基対以上であり、より好ましくは214塩基対以上である。
【0017】
上記のようなAequorea victoria由来の蛍光タンパク質およびその変異体の具体例としては、天然産物である緑色蛍光タンパク質(GFP)と、それを改変した蛍光タンパク質が挙げられる。これら蛍光タンパク質は、GFPを基にして、発色団に位置するアミノ酸をいくつか置換した変異体であり、青色蛍光タンパク質(BFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、およびこれらの蛍光強度を増加させた変異体、励起/蛍光波長を長波長側へシフトさせた変異体、哺乳類(ヒトなど)細胞用にコドンが最適化された変異体、細胞内での安定性を変化させた変異体などが開発され、また市販されている。したがって、本発明の好ましい態様によれば、第一および第二のマーカータンパク質は、上記蛍光タンパク質から選択される二種であり、好ましい組み合わせは、各々の励起および蛍光波長が特に離れているBFPとGFPとの組み合わせである。
【0018】
また、本発明にあっては、マーカータンパク質は、相互に峻別可能であり、また相同組み換え可能な相同性を有する限りは、タンパク質の全配列を有する必要はなく、その部分配列であってもよい。
【0019】
(c)プロモーターおよびその他の配列
また、本発明における第一のDNA断片は、プロモーターに作動可能に連結されており、一方、第二のDNA断片は、作動可能に連結されたプロモーターを有しない。
【0020】
本発明においてプロモーターは、宿主細胞の種類および宿主細胞におけるマーカータンパク質の発現の確実性などを考慮して適宜選択されてよい。そして、本発明によるプロモーターは、宿主細胞において機能するものであれば特に限定されないが、好ましい具体例としては、CMVIE プロモーター/エンハンサー、SV40 プロモーター/エンハンサーなどが挙げられ、これらは広範な宿主細胞種において発現誘導能が高いことが知られている。
【0021】
また、本発明によるベクターは、プロモーターをはじめとする発現に必須のエレメントの外に、目的とする遺伝子を効率よく発現させるための配列を含んでいてよく、そのような配列としては、調節エレメント、例えば、エンハンサー、インスレーター、コザック(kozak)配列、IRES(internal ribosome entry site)配列などが挙げられ、また必要に応じてスペーサー配列、制限酵素切断部位、大腸菌を用いたプラスミド操作のための複製起点配列、薬剤(抗生物質など)耐性遺伝子配列などを含んでいてもよい。
【0022】
また、本発明の好ましい態様によれば、本発明によるベクターは薬剤耐性遺伝子をコードするDNA断片を含んでなる。本発明によるベクターが薬剤耐性遺伝子を含む場合、ベクターを細胞に導入した後に薬剤耐性細胞の選択を行うことにより、ベクター中のDNA断片が細胞染色体へ挿入されたか否かを判定することができる。すなわち、薬剤耐性細胞が存在しなければ、第二のマーカータンパク質の発現はベクターの染色体外相同組み換え反応に基づくものであり、細胞染色体への挿入によるものでないことを確認することができる。本発明における薬剤耐性遺伝子としては、特に限定されないが、好ましくはネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ブラストシジン耐性遺伝子などが挙げられる。
【0023】
(d)ベクターの構築
本発明によるベクターは、当技術分野で周知となっている標準的方法により構築することができ、例えば、Sambrook, J.らの「Molecular Cloning: a laboratory manual」、Cold Spring Harbor Laboratory Press、New York(1989)に記載に従って構築することができる。
【0024】
ベクターの利用/相同組み換えの検出
本発明によるベクターは、第二のマーカータンパク質は、第二のDNA断片が、第一のDNA断片との染色体外相同組み換え反応によりプロモーターと作動可能に連結され、はじめて発現可能となる。したがって、第二のマーカータンパク質は、染色体外相同組み換え反応の指標として用いることができる。よって、本発明によれば、本発明によるベクターを用いた、細胞内における染色体外相同組み換え反応の検出方法が提供される。ここで、本発明による検出方法とは、相同組み換え反応を定性的に知ることのみならず、定量的に知ることも含まれる。
【0025】
本発明において、本発明によるベクターが導入される細胞は、本発明によるベクターが相同組み換え反応の知見を得るために用いられるものであるから、その目的等を勘案して適宜選択されてよい。したがって、本発明において、本発明によるベクターが導入される細胞は特に限定されないが、好ましくは動物細胞、動物株化培養細胞、ヒト細胞、ヒト株化培養細胞であり、より好ましい具体例としては、HeLa細胞、HT1080細胞などが挙げられる。
【0026】
本発明による、細胞内における染色体外相同組み換え反応を検出する方法にあっては、まず、本発明によるベクターを細胞に導入する。この細胞への導入は、トランスフェクションまたは形質転換方法として当該技術分野において公知の方法を用いることが可能であり、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、DEAE−デキストラン法、リポソーム試薬を用いる方法、カチオン性脂質を用いたリポフェクション法などが挙げられる。ここで、ベクターが環状である場合、公知の方法により線状化して細胞に導入されてもよい。
【0027】
本発明によれば、細胞へ導入するベクターは原則として一種類でよいため、複数のベクターを導入しなければならない従来技術として上記した方法に比較して、試験の時間および労力を大幅に低減することができる点で有利である。
【0028】
次に、本発明による方法にあっては、細胞における第二のマーカータンパク質の発現についてスクリーニングし、第二のマーカータンパク質の存在を検出する。さらに、本発明の好ましい態様によれば、細胞における第一のマーカータンパク質の発現についてスクリーニングし、第一のマーカータンパク質の存在を検出して、例えば相同組み換え前に細胞への導入を確認することができる。また、その二つのマーカータンパク質の発現を比較して、相同組み換え反応に関する知見を得ることもできると考えられる。第一および第二のマーカータンパク質の発現をスクリーニングする方法は、マーカータンパク質の種類、性質を考慮して適宜決定されてよい。マーカータンパク質として蛍光タンパク質を用いた場合には、上記スクリーニングは、蛍光顕微鏡による観察、フローサイトメトリー、蛍光スキャナなどにより行われてよい。また、スクリーニングは細胞の生育およびマーカータンパク質の発現に適切な条件下にて行われ、条件は適宜設定されてよい。
【0029】
また、本発明によるベクターは、染色体外相同組み換えの検出試薬として提供されてもよく、また本発明によるベクターを含んでなる、染色体外相同組み換え反応の検出のためのキットの形態で提供されてもよいことは明らかである。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例によってより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0031】
実施例1組み換えプラスミドの構築
図2に示される、BFP遺伝子の発現カセットおよびプロモーターレスGFP遺伝子を有するλΦ-inプラスミドを、以下の記載に従って構築した。なお、BFPは、配列表の配列番号1および2にそれぞれ示される塩基配列およびアミノ酸配列を有し、またGFPのそれらは配列表の配列番号3および4に示されるものであった。
【0032】
アンピシリン耐性遺伝子をコードするDNA配列を、常法に従いPCR法によってプラスミド pQBI50(和光純薬社製、カタログ番号546-00791)から取得した。さらに、(GFP遺伝子−ウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル)をコードするDNA配列を、常法に従いPCR法によってプラスミド pQBI25(和光純薬社製、カタログ番号546-00811)から取得した。次に、アンピシリン耐性遺伝子をコードするDNA配列と、(GFP遺伝子−ウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル)をコードするDNA配列とを、記載した配列順に、Krebber, A.ら、J. Immunol. Methods 201(1997)、35-55、に記載のassembly PCR法に従って結合させた。この際、アンピシリン耐性遺伝子をコードするDNA配列とGFP遺伝子配列との間には、Nru I制限酵素切断配列を導入し、ウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナルの下流にはBgl II制限酵素切断配列を導入した。このようにして得られたDNA断片を、Zero Blunt PCR Cloning Kit(Invitrogen社製)を用いてサブクローニングした。そして、目的のDNA断片の塩基配列を常法により決定した後、このDNA断片を有するプラスミドクローンを選択した。上記のようにして得られたプラスミドおよびプラスミド pQBI50を、Pvu IおよびBgl IIを用いて切断し、目的とする切断DNA配列をライゲートさせ、λΦ-inプラスミドを構築した。λΦ-inプラスミドは、大腸菌DH5α(New England Biolabs社)中で増殖させ、維持した。
【0033】
実施例2 細胞へのトランスフェクション
2−1:プラスミドの切断および精製
大腸菌DH5α内のλΦ-inプラスミドは、Endofree Plasmid Maxi kit (QIAGEN社製)を用いて精製し、Nru Iにて切断し、1g/Lの濃度にて滅菌水に溶解し、以下のトランスフェクション実験に用いた。
【0034】
2−2:トランスフェクション
トランスフェクションに用いる細胞としては、ヒト子宮頸部癌細胞株HeLa(JCRB9004)を使用した。トランスフェクションの前日に、対数増殖中の上記HeLa細胞をプレートに1.4×10個播種した。翌日、この細胞に対し、精製したλΦ-inプラスミド 20μgをlipofectamine 2000 (Invitrogen社製)を用いてトランスフェクションを行った。トランスフェクション後2日目に、青および緑の両蛍光を発する細胞を蛍光顕微鏡を用い、目視で計数した。
【0035】
2−3:細胞計測結果
上記実験を3回行った結果は、以下に示される通りであった。
【表1】

計数後、細胞にG418を加え(最終濃度:500μg/mL)て選別を行った結果、耐性細胞株を取得することはなかった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明によるベクターにおける二つのマーカータンパク質DNAと、相同組み換え反応とを説明する模式図である。
【図2】実施例1において構築されたベクターの模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロモーターと、該プロモーターに作動可能に連結された、第一のマーカータンパク質をコードする第一のDNA断片と、
作動可能に連結されたプロモーターを有さない、第二のマーカータンパク質をコードする第二のDNA断片と
を含んでなり、
前記第一のマーカータンパク質と、第二のマーカータンパク質とが峻別可能なものであり、
前記第一のDNA断片と第二のDNA断片とが、相同組み換え可能な相同性を有し、
該第二のDNA断片と前記第一のDNA断片とが相同組み換えを生じさせたときに、第二のマーカータンパク質を発現させる、ベクター。
【請求項2】
前記第一のマーカータンパク質をコードする第一のDNA断片と、前記第二のマーカータンパク質をコードする第二のDNA断片とが、プロモーターと連結されているかどうか以外は、実質的に同一の構造を有してベクター中に存在している、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
直鎖状または環状の形態である、請求項1または2に記載のベクター。
【請求項4】
前記第一のDNA断片および第二のDNA断片が、各々、5’末端および/または3’末端に相同領域を含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項5】
前記第一のDNA断片および第二のDNA断片が、前記相同領域において、同一の塩基配列を有する、請求項4に記載のベクター。
【請求項6】
前記第一のマーカータンパク質および第二のマーカータンパク質が、蛍光タンパク質、またはモノクローナル抗体により識別が可能なタンパク質である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項7】
前記第一のマーカータンパク質および第二のマーカータンパク質が、蛍光タンパク質およびその変異体である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項8】
前記蛍光タンパク質がAequorea victoria由来のものである、請求項7に記載のベクター。
【請求項9】
前記第一のDNA断片と第二のDNA断片とが塩基配列において、97%以上の相同性を有する、請求項8に記載のベクター。
【請求項10】
前記第一のDNA断片および第二のDNA断片における5’末端の相同領域の長さが、191塩基対以上である、請求項8に記載のベクター。
【請求項11】
前記第一のDNA断片および第二のDNA断片における3’末端の相同領域の長さが、109塩基対以上である、請求項8に記載のベクター。
【請求項12】
前記プロモーターが、CMVIE プロモーター/エンハンサーまたはSV40 プロモーター/エンハンサーである、請求項1〜11のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項13】
薬剤耐性遺伝子をコードするDNA断片をさらに含んでなる、請求項1〜12のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項14】
プラスミドである、請求項1〜13のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載のベクターを含んでなる、染色体外相同組み換え反応の検出のための試薬。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれか一項に記載のベクターを含んでなる、染色体外相同組み換え反応の検出のためのキット。
【請求項17】
細胞内における染色体外相同組み換え反応を検出する方法であって、
請求項1〜14のいずれか一項に記載のベクターを細胞に導入し、
前記細胞における前記第二のマーカータンパク質の発現の有無を検出すること
を少なくとも含んでなる、方法。
【請求項18】
前記細胞における前記第一のマーカータンパク質の発現の有無を検出することをさらに含んでなる、請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−197847(P2006−197847A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−12856(P2005−12856)
【出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】