染色体広範囲遺伝子領域を欠失した生物の作出法
【課題】アフラトキシン生合成に関与する遺伝子クラスターを構成するカビの染色体上における広範囲の遺伝子領域を欠失又は置換する変異株の生産方法や、広範囲の遺伝子領域を欠失した変異株を提供すること。
【解決手段】生物の染色体上数キロベースより長く離れた二箇所の配列と、選択マーカー遺伝子配列を中央に挟むように繋げたカセットを作り、それを細胞に形質転換し、広範囲の遺伝子領域を欠失又は置換する。変異株の選択には、まず選択マーカーの性質を利用して染色体上に遺伝子が導入された生物を選択し、次に各変異株について遺伝子構造の変化を直接調べて、目的の遺伝子領域欠失変異体及び遺伝子領域置換変異体を選抜する。また、宿主由来の選択マーカー配列および遺伝子配列を用いることにより、セルフクローニングによる広範囲遺伝子領域の欠失変異体および置換変異体を作出する。
【解決手段】生物の染色体上数キロベースより長く離れた二箇所の配列と、選択マーカー遺伝子配列を中央に挟むように繋げたカセットを作り、それを細胞に形質転換し、広範囲の遺伝子領域を欠失又は置換する。変異株の選択には、まず選択マーカーの性質を利用して染色体上に遺伝子が導入された生物を選択し、次に各変異株について遺伝子構造の変化を直接調べて、目的の遺伝子領域欠失変異体及び遺伝子領域置換変異体を選抜する。また、宿主由来の選択マーカー配列および遺伝子配列を用いることにより、セルフクローニングによる広範囲遺伝子領域の欠失変異体および置換変異体を作出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染色体上の広範囲遺伝子領域欠失変異株やその生産方法等に関し、より詳しくは、生物の染色体上数キロベースより長く離れた2箇所の配列、例えば5kb以上、15kb以上、30kb以上、50kb以上、更に100kb以上離れた2箇所の配列を、選択マーカー遺伝子配列単独又は選択マーカーに導入を目的とする配列を繋いだ構造を中央に挟むように繋げたカセットを作り、それを細胞に形質転換し、広範囲の遺伝子領域を欠失する方法及び広範囲の遺伝子領域を他の配列と置換する方法や、これら方法により得られる広範囲遺伝子領域欠失変異株に関し、変異株の選択には、まず選択マーカーの性質を利用して染色体上に遺伝子が導入された生物を選択し、次に各変異株について遺伝子構造の変化を直接調べて、目的の遺伝子領域欠失変異体及び遺伝子領域置換変異体を選抜する方法、また、宿主由来の選択マーカー配列及び遺伝子配列を用いることにより、セルフクローニングによる広範囲遺伝子領域の欠失変異体及び置換変異体の作出に関する。
【背景技術】
【0002】
生物の生命現象すべては、生物が有する遺伝子にその情報が保存され、いろいろな時期に適切に発現することによって生命現象が営まれる。近年種々の生物のゲノム研究によって、生物の染色体上の多くの領域は広範囲に蛋白質をコードせず、生命現象に関与しないと予想される、いわゆるジャンク領域であることが明らかになってきている。また、微生物や植物で見られる二次代謝は生物の生存には直接必要ではなく、二次代謝を阻害しても生物の生存可能であることは良く知られている。二次代謝に関与する遺伝子の多くは染色体上数kbから数10kbに及ぶ大きな遺伝子クラスターを形成している。以上のことから、広範囲に遺伝子領域を除去しても生物の営みには少なくとも大きな影響を与えないような領域が染色体上に多く含まれると予想される。
【0003】
カビが生産する二次代謝物質の中にはアフラトキシン等の毒性物質(カビ毒)があり、これまでに300種以上のカビ毒が報告されている。中でもアフラトキシンは自然界で最強の発ガン性を示すとともに強力な急性毒性を示す。アフラトキシンは主としてアスペルギルス・フラバス(Aspergillus flavus)とアスペルギルス・パラジチカス(A.parasiticus)に属する一部の菌が生産し、アフラトキシン生産菌は主として熱帯・亜熱帯地域の土壌に常在する。しかし、温帯の米国でも干ばつ等の気候変動で大規模なアフラトキシン汚染が起こることがある。我が国の本州以北の土壌ではアフラトキシン生産菌は検出されないが、さらに南の地域、例えば沖縄では汚染の報告がある。我が国は穀物の約60%を輸入に頼っており、また穀物は世界で貿易されるため、輸入穀物のアフラトキシン汚染は厳重に検査されており、そのために使われる費用は莫大なものがある。一方、アフラトキシン生合成には18種以上の酵素が関与しているが、これら酵素をコードする遺伝子を含めてアフラトキシン生合成に関与する25以上の遺伝子群がカビの染色体上約70kbに及ぶ領域に大きな遺伝子クラスターを構成している。
【0004】
ステリグマトシスチンはやはりカビ毒であるが、アフラトキシンの中間体でもあり、アフラトキシンに比べれば弱いが、やはり強力な発ガン性及び毒性を示す。アスペルギルス・ニジュランス(A.nidulans)やアスペルギルス・ベルシカラー(A.versicolor)等を含む20種以上の多くのカビが、最終産物としてステリグマトシスチンを生産する。これらステリグマトシスチン生産カビは日本本州でも常在し、穀物のステリグマトシスチン汚染の可能性は我が国においても重要な問題である。ステリグマトシスチン生合成経路は、アフラトキシン生合成経路中ステリグマトシスチン中間体までの経路と同一である。ステリグマトシスチン生産関連遺伝子は、染色体上約60kbに及ぶ遺伝子クラスターを構成している。
【0005】
これらのカビが有害物質を生産しないようにするには、いろいろな方法がある。例えば、種々の変異処理を行い塩基置換による変異体を得る方法もあるが、常に復帰変異が起こる可能性を念頭に置かなくてはならない。また、生産に関与するいずれかの遺伝子を破壊すれば生産を抑えることができるが、有害な中間体が蓄積する可能性があり、また、一遺伝子破壊ではわずかに活性が残ることが多い。これは、生体内の別の酵素が群特異性によって反応を触媒するためと考えられる。したがって、完全にカビ毒の生産を抑えるには、遺伝子クラスターを丸ごと除去することがもっとも確実な方法である。
【0006】
アフラトキシンやステリグマトシスチンなど多くのカビ毒は熱に安定で、また分解も容易ではない。カビのアフラトキシン生産を効果的に防御できる方法も未だ開発されていない。しかし、近年アメリカでは、耕作土壌や収穫後の穀物にアフラトキシン非生産カビの胞子を散布して、アフラトキシン汚染を減少させる方法が開発されてきている。つまり、アフラトキシン非生産カビの胞子を大量に調製し、微生物農薬として土壌や穀物保管倉庫に過剰に添加し、環境中のアフラトキシン生産菌と感染機会を競合させるもので、有意にアフラトキシン汚染量を減少できることが報告されている。このようなアフラトキシン非生産菌の胞子はバイオコントロール剤として現在、製品として販売されている。しかし、利用されているアフラトキシン非生産カビは研究室や会社で保存されているアスペルギルス・オリゼー(A.oryzae)やアフラトキシン非生産アスペルギルス・フラバスであり、実際に現場でアフラトキシン汚染を引き起こしているカビではない。そのため、気候、土壌、作物種などの環境要因に対するバイオコントロール剤の感受性は汚染現場に常在するカビとは微妙に異なると予想され、実際にバイオコントロール剤の環境への定着性は低い。そのためバイオコントロール剤は毎年、又はより頻繁に現場に散布する必要がある。そのため、安価な作物の栽培にはコストの点から利用が限られている。
【0007】
更に、我が国を含め東アジアでは発酵食品が好まれており、発酵食品生産には麹カビが利用されている。麹カビであるアスペルギルス・オリゼーやアスペルギルス・ソーヤ(A.sojae)は分類学上アフラトキシン生産菌アスペルギルス・フラバスやアスペルギルス・パラジチカスと極めて近縁であり、これらは、いわゆるアフラトキシン関連物質を作らないように”家畜化された” アスペルギルス・フラバスと考えられている。これまでアフラトキシンの生産が検出された麹カビは一例もなく、麹カビの安全性については確認されている。しかし、近年の遺伝子研究技術の発展により、麹カビの半数以上がアフラトキシン遺伝子クラスター類似の広範囲遺伝子領域を有し、それ以外もかなりの領域又は少なくとも複数の類似遺伝子を含むことが明らかになっている。これらの遺伝子領域が存在しても機能していないことは明らかであるが、アフラトキシン関連遺伝子領域の存在は、消費者に対して食品の安全性をアピールする際には問題がある。また、麹の渇変原因遺伝子mel等の存在は、食品に色をつける可能性があり、望ましくないとされる場合がある。以上のように産業上好ましくない性質の遺伝子や有害物質関連遺伝子を除去することができれば、糸状菌の利用の可能性は大きく広がると考えられる。
【0008】
一方、カビや細菌を利用した遺伝子組み換え技術として、従来から生物の染色体と相同な領域を選択マーカー遺伝子の両側に含む遺伝子断片を生物に導入して、2回交差の相同組換えによって数キロbp程度の遺伝子領域の欠失や置換が生じた生物作出する方法は、短い遺伝子領域を改変するための一般的な方法として利用されている。生物に遺伝子導入をした場合、遺伝子断片と染色体上同一の配列を有する部位で組換えが起こる相同組換えと、遺伝子断片とは全く異なる配列に挿入される非相同組換えが起こる。生物一般に起こる現象であるが、特に真核生物では非相同組換えの率が高く、目的とする変異株の選抜を難しくしている。さらに、特定の遺伝子領域を丸ごと欠失したり、他の遺伝子又は遺伝子領域を置換したりするには、2箇所の相同領域で相同組換えが起こることが必要で、目的の変異株が得られる確率は一層低下する。したがって、従来、遺伝子改変して目的とする変異株を得るには、目的とする変異株が特徴的な表現型を示すこと、又は、変異する遺伝子の機能があらかじめ予想できていてその性質に基づいて変異株を選抜できることが、多くの場合で必要であった。加えて、遺伝子機能が不明である場合や顕著な表現系の変化がない場合には、目的の変異株の選抜は困難であり、変異株の獲得は断念される場合が多かった。
【0009】
更に、上述したように、麹カビにおいては一つの胞子が2個以上の核を含む多核胞子の割合が高いため、胞子を培養して集落を作らせても変異を有する一つの核の性質が表現形質の変化として現れにくく、目的の変異株を選抜することは極めて困難である。特に、あらかじめ得られる変異株の形態変化や酵素活性の変化に関する情報が得られない際には、目的とする変異株の選抜は多核胞子中の核の中から目的とする変異株の核だけを分けとるか、多核胞子を培養し、継代するにしたがって分離して得られてくる変異株を選抜する必要がある。しかしながら、このような方法では、種々の形質転換株の中に極めてわずかにしか含まれないので、目的の変異株を選抜することは現実的には不可能である。
【0010】
また、非常に多くの、例えば100個以上の沢山の形質転換体について、遺伝子構造を全て調べるためには、形質転換体それぞれからDNAを抽出する必要がある。大腸菌や酵母では直接菌体をPCR溶液に添加してPCR産物を得るいわゆるコロニーPCRが可能であるが、特に、上記のようなカビや植物など強固な細胞壁を有する生物では、従来核酸の溶出は困難であり通常は乳鉢で液体窒素存在下に細胞を破砕してDNAを抽出するため、一度に沢山の菌体の分析は極めて困難であった。しかし、近年、本発明者らが鋭意研究を行った結果、微量細胞破砕装置を用いて、多数の、そして少量のカビ菌体から短時間のうちに安価にDNAを溶出する方法を確立した(例えば、非特許文献1参照)。
【0011】
これまで染色体上の広範囲遺伝子領域を除去する技術として報告されてきたものは、相同組換えの頻度を高めるために染色体上の二箇所の離れた領域に組換え酵素の基質となる特殊な配列を別々に挿入し、この配列間の組換えを選択的に触媒する酵素遺伝子を細胞内で発現させて、特殊な配列間で特異的に交差を起こし、広範囲遺伝子領域を相同組換えによって欠失させるものである。これらの方法では、特殊な配列と配列に特異的な組換え酵素の利用により得られる組換え体は、ほとんどが目的とする組換え体であり、上記した変異株の選抜の問題を回避することができる。これらの方法としては、λ-red recombination system,Cre/loxPシステム、Flp/FRTシステム、メガヌクレースをもちいた遺伝子置換法等がある。たとえば、Cre−loxP法を用いて広範囲遺伝子領域を除去する方法では、染色体上の離れた二箇所にloxPと呼ばれる特有の配列を組み込み、別に細胞内で組換え酵素Creを発現することでloxPの間の組換えを起こし、最終的に2つのloxPで挟まれていた領域を除去する方法が知られていた。
【0012】
また、有性世代を有さない生物の遺伝子ターゲッティングによる遺伝子破壊あるいは遺伝子置換に必要な相同組換え効率の良い菌株を提供するため、アスペルギルス・ソーヤ及びアスペルギルス・オリゼー等に代表されるトリコモナス科糸状菌に属し有性世代を持たない菌を用いて、Ku遺伝子破壊株及びアンチセンスRNA法等によるKu遺伝子を抑制することによって相同組換え(ターゲッティング)頻度が上昇した変異株、及び、該変異株を使用する遺伝子ターゲッティング法により、遺伝子破壊株、遺伝子欠失株、遺伝子置換株、遺伝子挿入株、又は染色体改変株を作成する方法(例えば、特許文献1参照)や、真核生物細胞等の所望の細胞の相同組換え率を上昇させるために、非相同組換えに必要な因子、例えば、Ku70、Ku80をコードする遺伝子に突然変異を導入し、又は該遺伝子を破壊することにより、機能喪失を引き起こしたとき、細胞に外来性DNAを、電気ショック法等により導入して相同組換えを行わせ、細胞の相同組換え頻度を促進させる方法(例えば、特許文献2参照)が知られているが、これらの方法では、ku破壊株を作る必要があり、さらにku破壊株における非相同組換え活性の変化が他の面でもカビに影響を与える可能性がある。
【0013】
【特許文献1】特開2006−158269号公報
【特許文献2】特開2005−237316号公報
【非特許文献1】Ying Wen, Hidemi Hatabayashi, Hatsue Arai, Hiroko Kitamoto, Kimiko Yabe. Function of the cypXand moxY genes in aflatoxin biosynthesis in Aspergillus parasiticus. Applied and Environmental Micorbiology 71:3192-3198 (2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
染色体レベルの広範囲の遺伝子領域を欠失させる場合、例えば、染色体5キロベース以上、好ましくは15キロベース以上、より好ましくは50kb以上、特に好ましくは100kb以上離れた二箇所の配列を対象としたとき、2重交差が起こる確率は極めて低く、通常1%以下である。そのため染色体レベルの広範囲遺伝子領域の改変には2回交差による相同組換株の作出は利用されてきていなかった。実際、導入遺伝子断片の一方又は両方が、非相同的に染色体に挿入されて生じる変異株の割合は高く、広範囲遺伝子領域を欠失させたり、他の遺伝子領域に置換させたりすることは極めて困難である。また、麹カビのように、1つの胞子が2個以上の核を含む多核胞子の割合が高い生物については、1つの核の変異が表現型の変化として現れないため、目的の変異株を選抜することは極めて困難であった。
【0015】
さらに、あらかじめ得られる変異株の形態変化や酵素活性の変化に関する情報が得られない際には、目的とする変異株の選抜は、多核胞子中の核の中から目的とする変異株の核だけを分けとるか、多核胞子を培養し継代するにしたがって分離して得られてくる変異株を選抜する必要があるが、このような方法で種々の変異株からわずかに含まれる目的の変異株を選抜することは、実際には不可能である。また、目的とする変異株が特徴的な表現型、すなわち、形態や物質の生産性の変化等容易にその変化を検出できる形質を有している場合には、その形質は選抜に役立つが、狭範囲遺伝子領域の改変を行った場合でも、また広範囲遺伝子領域の改変を行った場合でさえも表現型の有意な変化が起こらないこともあるため、変異株の形質変化を予想することは通常困難であり、目的どおりの遺伝子領域改変が起こっているかを確認するためには、遺伝子構造の変化を確認する必要があった。
【0016】
本発明の課題は、アフラトキシン生合成に関与する遺伝子クラスターを構成するカビの染色体上約70kbに及ぶ領域等の、広範囲の遺伝子領域を欠失する方法及び広範囲の遺伝子領域を他の配列と置換する方法や、広範囲の遺伝子領域を欠失した変異株の生産方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らはアフラトキシン生産菌アスペルギルス・パラジチカスのアフラトキシン遺伝子クラスターを除去する方法を確立するため、まずはCre/loxPの系の利用を検討した。Cre/loxPを用いて遺伝子領域の欠失を行うためには、合計3つの選択マーカーが基本的に必要となる。欠失したい領域の二つの端に、loxP配列を、それぞれ方向をそろえて導入する必要がある。そのためには、各loxPに選択マーカーが必要であり、つまり2つ選択マーカーが必要である。さらに、導入したloxP配列間で相同組み換えを起こすために、組み換え酵素Creを細胞内で発現させる必要があり、Creの遺伝子を細胞内に導入するための選択マーカーがもう1つ必要である。
【0018】
アスペルギルス・パラジチカスの場合、使用できる選択マーカーの数が極めて限られており、薬剤選択マーカーとしてはピリチアミン耐性遺伝子(ptrA)しか得られていない。これ以外の硝酸還元酵素をコードする遺伝子(niaD)等を選択マーカーとする場合は、niaD欠失株等の栄養要求性変異株を作る必要があり、栄養要求性変異株の作出も容易ではない上に、2つの栄養要求性変異を導入することで野生株とは離れた株を宿主として利用せざるをえないという問題がある。特に、アスペルギルス・パラジチカスの系に限らずアスペルギルス・フラバスグループでは極めて使える選択マーカーの数が限られているという問題が非常に大きな障害となっており、また、変異株の作製も容易ではないなど問題がある。
【0019】
本発明者らの研究では、2つの栄養要求性が含まれるアスペルギルス・パラジチカス変異株の入手ができないという問題点があった。そこで、本発明者らは、このカビで一般的に使われている栄養要求性マーカーが硝酸還元酵素遺伝子niaDであることから、この遺伝子に関する変異株を入手し、niaDとptrAという二つの選択マーカーを用いて、Cre/loxP系の利用を検討することとなった。
【0020】
まず、niaD選択マーカー、loxP、及び、導入の標的となる遺伝子であるアフラトキシン遺伝子クラスターのvbs遺伝子の配列を含むプラスミドを構築し、vbs遺伝子配列の内部で一箇所切断し、できた線状のプラスミドを宿主に導入して、vbs遺伝子の部分で一回交差してベクターが導入された変異株を選抜した。この場合、vbs遺伝子はアフラトキシンクラスター上の遺伝子で、アフラトキシン生産の途中の酵素をコードしているため、この遺伝子で交差した変異株はアフラトキシン生産性が顕著に減少するとともに、この遺伝子が関与する反応段階の直前の色素性中間体が菌糸中に蓄積する。したがって、マーカー遺伝子の選抜の後、さらに色素の蓄積を指標に目的とする変異株を絞り込んでいくことができた。こうして選抜した変異株について、次に遺伝子構造の変化をPCRで確認することで、vbs領域にloxP配列を含むベクターが導入された変異株を作製するのに成功した。
【0021】
次に2つ目のloxPを導入する必要があったが、使える選択マーカーがptrAしかなかったため、ptrAを含む導入プラスミドにloxP配列とCre酵素遺伝子発現領域との両方を組み込み、これをクラスター中のpksA配列に導入する計画を立てた。ベクター中には、niaD、loxP、標的のpksA配列、Cre酵素の配列、さらにcre遺伝子を発現するためのタカアミラーゼA遺伝子(amyB)プロモーター領域を組み込む必要があった。しかし、このような沢山の遺伝子を組み込んでいって、目的のプラスミドを得ることは、種々の組み込み方法を検討したにもかかわらず大変困難であった。この原因について時間をかけて検討したが、その原因の1つに、プラスミドサイズの問題があるという結論が得られた。つまり、このベクターは沢山の遺伝子領域を含むために大きなものとなる。一方、プラスミドは大腸菌に組み込んで増幅するが、通常研究で一般的に使われる大腸菌を用いた場合、効率よく形質転換されるプラスミドの大きさには限度があり、今回の試みではなかなか目的のサイズのプラスミドが取れなかった。つまり、形質転換できた場合でも、大腸菌を培養している間にプラスミドが分解してきているらしく最終的にプラスミドサイズが小さくなったものが優先的に増幅されることが多かった。そのため、基本ベクターを他のものに変えたり、大きなプラスミドも導入できると報告されている大腸菌の株を用いたりするなど、種々の条件を変更することで、カビの形質転換に使える量の形質転換ベクターを得ることができた。
【0022】
得られたベクターをpksA遺伝子内部で一回切断後、loxP配列が一つ導入されているカビに形質転換し、pksA遺伝子で一回交差してベクターが丸ごと導入された形質転換体の作出を試みた。選抜には、まずピリチアミン耐性選択マーカーで選抜(ピリチアミンを含む培地で生えてくる株)した。pksA遺伝子内部に導入された場合、pksA遺伝子の機能が破壊される。pksA遺伝子はアフラトキシン生合成経路のごく初期に関与しているため、この遺伝子が破壊されるとvbs遺伝子破壊で蓄積していた色素性アフラトキシン中間体の生産もなくなる。したがって、ピリチアミン耐性株の中から、色素の蓄積がなくなった白い菌糸を示す株を選抜した。こうして得られた株について遺伝子構造をPCRで確認することで、2つ目のloxP配列が導入された変異株を選抜した。
【0023】
このようにして得られた株について、cre酵素の発現を試みた。cre遺伝子の上流にタカ‐アミラーゼA遺伝子(amyB)プロモーターをつなげているが、このプロモーターはマルトースやでんぷんを培地に加えることによって誘導される。そこで、培地にこれらの炭素源を加えて変異株を継代し、遺伝子領域の欠失を検討した。しかし、目的とする広範囲領域の破壊株は得られなかった。種々のcre遺伝子の誘導条件を検討し、cre遺伝子の発現誘導はRT−PCRによって確認されたが、それでも目的とする株が得られなかった。cre遺伝子の高発現条件や、酵素活性の至適条件が得られていなかったためと予想されるが、多くの検討と試みにもかかわらず、目的とする広範囲遺伝子領域欠失株は得られず、この方向の研究を断念した。
【0024】
以上のように、cre/loxPの系は基本的に3個の選択マーカーが必要であるため、利用できる選択マーカーの数がそれに満たない場合は、利用が大変困難である。また、広範囲遺伝子領域の破壊では、離れた、少なくとも二箇所の領域に段階的にloxP配列を導入する必要があり、さらに、Cre酵素遺伝子の導入が必要であるため、欠失させるのに必要な構造を構築するのに少なくとも3段階のステップが必要で、おのずと複雑な手法と言える。さらに、Cre酵素遺伝子を導入しても、Cre発現の至適条件を得るのは容易なことではない。本発明者らは約1年半の間、cre/loxP系によるアフラトキシン遺伝子クラスターの欠失を試みたが成功には至らなかった。
【0025】
また、特に麹カビの場合、もともとアフラトキシン及びアフラトキシン中間体の生産がないので、遺伝子を除去しても、アフラトキシン生産性の変化やアフラトキシン中間体の色の変化を指標に目的の変異株を選抜することができず、したがって、選択マーカーで選抜した変異株の中で、極めてわずかしか含まれない目的の変異株を選抜することはほとんど不可能と考えられてきた。本発明者らも含め当業者であれば、このような場合には非相同組み換えに比べて相同組み換えの頻度が顕著に上昇するようなシステムの構築を考え、cre/loxP系やku株の系の開発を検討する。このようにして得られる変異株のたとえば50%が相同組み換えによる目的の変異株であれば、数個程度の変異株について遺伝子構造を調べれば、かならず目的の変異株を見い出すことができ、調べる数が少ないので、遺伝子構造の確認もそれほど大変ではないだろうという発想が、本出願前の本発明者らも含めた当業者の研究開発の方向であった。しかし、上述したように、アスペルギルス・パラジチカスのアフラトキシン遺伝子クラスターを、Cre/loxPの系を利用して除去する試みに成功しなかったことから、研究開発の方向を大きく転換することを余儀なくされた。
【0026】
そこで本発明者らは、上記課題を解決するため、研究方針を変え、1)広範囲遺伝子領域破壊のための遺伝子置換カセットの構築、及び2)目的とする変異株の選抜方法という以下に示す方法について検討を行うこととした。
1)導入遺伝子構造として、染色体上、長さが少なくとも5kb以上、15kb以上、50kb以上、又は100kb以上離れた2つの領域と同一の2つの遺伝子配列を、選択マーカー又は選択マーカーと着目の遺伝子領域の配列を含んでつなげた遺伝子カセットを作製し、プロトプラスト等に形質転換する。2種の選択マーカーを利用できる場合には、ポジティブ−ネガティブセレクションが可能なように、上述のカセットの一方の外側に2つ目の選択マーカーの配列を導入する。
2)導入遺伝子断片の2つの相同遺伝子領域と染色体上の相同領域でそれぞれ相同組換えが起こった変異株を選抜するために、まず選択マーカーの性質を利用して選抜し、その後、変異株の遺伝子構造の変化を直接調べることにより、目的の変異株を選抜する。
【0027】
上記方法は、基本的に、選択マーカーで選抜したできるだけ多くの変異株のすべてについて、遺伝子を調べるという方法で、極めてわずかしか含まれないだろう目的の変異株を労力で選抜するという大変泥臭い方法であるが、麹カビのようにアフラトキシンを生産しないカビでも問題なく利用できる上に、カビの生存に影響しない領域、又は影響しないような培養条件が得られる領域であれば、どのような領域でも、すべて欠失、又は改変できる技術といえる。そして、染色体上、長さが少なくとも5kb以上、15kb以上、50kb以上、又は100kb以上離れた広範囲遺伝子領域を簡便に除去する方法及び同広範囲領域を他の遺伝子領域に交換する方法として、PCRや遺伝子断片の結合により作られ、選択マーカーだけ、又は選択マーカーと着目の遺伝子領域の配列を含んだ内部ヌクレオチド配列に隣接する2つの相同性領域を含む挿入ベクターを、プラスミドに含まれた形又は遺伝子断片として構築し、形質転換を行った後、多くの変異株の中から、離れた2箇所の相同性領域で2回交差が起こった目的とする変異株を選抜してくる方法を見い出し、本発明を完成するに至った。
【0028】
このように本発明では、遺伝子構造の変化を調べることによって目的とする変異株を選抜し、最終的に広範囲の遺伝子領域が目的通りに改変されていることを、種々のプライマーを用いたPCRやサザーン法等で確認する。もちろん変異株の表現形の変化があれば有用な情報となるが、広範囲遺伝子領域の改変を確実にモニターするためには遺伝子構造の変化を直接調べることが有効であり、本発明によって、極めて信頼性の高い変異株選抜法が確立できたといえる。
【0029】
すなわち本発明は、(1)糸状菌の有害物質生産に関与する遺伝子領域又は少なくとも生存に必須でない遺伝子領域を含む広範囲標的遺伝子領域の両外側に位置し、染色体上で5kb以上離れた2つのDNA領域とそれぞれ相同組換えすることができる2つの相同DNA領域間に、選択マーカー遺伝子、又は選択マーカー遺伝子と所定の遺伝子領域を連結した広範囲遺伝子領域欠失用遺伝子カセットを作製し、該広範囲遺伝子領域欠失用遺伝子カセットを前記糸状菌に導入し、2回交差相同組換えが起こった変異株を、まず選択マーカーの性質を利用して一次選抜し、その後、変異株の遺伝子構造の変化を直接調べることにより二次選抜することを特徴とする広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法や、(2)糸状菌の有害物質生産に関与する遺伝子領域又は少なくとも生存に必須でない遺伝子領域が、糸状菌のアフラトキシン生産菌の遺伝子クラスター又は麹カビのアフラトキシン遺伝子クラスター類似領域であることを特徴とする上記(1)記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法に関する。
【0030】
また本発明は、(3)染色体上で5kb以上離れた2つのDNA領域が、染色体上で15kb以上離れた2つのDNA領域であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法や、(4)染色体上で15kb以上離れた2つのDNA領域が、染色体上で50kb以上離れた2つのDNA領域であることを特徴とする上記(3)記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法や、(5)選択マーカー遺伝子が、ピリチアミン耐性遺伝子(ptrA)又は/及び硝酸還元酵素をコードする遺伝子(niaD)であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法や、(6)一次選抜で得られた変異株から単核胞子を調製し、単核胞子由来の遺伝子構造の変化を直接調べることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法や、(7)PCR法又はサザーン法により変異株の遺伝子構造の変化を直接調べることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法や、(8)糸状菌の染色体上で5kb以上の有害物質生産に関与する遺伝子領域又は少なくとも生存に必須でない遺伝子領域を含む広範囲標的遺伝子領域が、選択マーカー遺伝子、又は選択マーカー遺伝子と所定の遺伝子領域で置換されて欠失した広範囲遺伝子領域欠失変異株や、(9)糸状菌の有害物質生産に関与する遺伝子領域又は少なくとも生存に必須でない遺伝子領域が、糸状菌のアフラトキシン生産菌の遺伝子クラスター領域又は麹カビのアフラトキシン遺伝子クラスター類似領域であることを特徴とする上記(8)記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株や、(10)糸状菌の染色体上で15kb以上の広範囲標的遺伝子領域が欠失したことを特徴とする上記(8)又は(9)記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株や、(11)糸状菌の染色体上で50kb以上の広範囲標的遺伝子領域が欠失したことを特徴とする上記(10)記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株や、(12)選択マーカー遺伝子が、ピリチアミン耐性遺伝子(ptrA)又は/及び硝酸還元酵素をコードする遺伝子(niaD)であることを特徴とする上記(8)〜(11)のいずれか記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株に関する。
【0031】
さらに本発明は、(13)アフラトキシン生産菌の遺伝子クラスターの全部又は一部が除去されたアフラトキシン非生産性アスペルギルス・パラジチカスや、(14)アスペルギルス・パラジチカス(FERM AP−20970)や、(15)アフラトキシン遺伝子クラスター類似領域の全部又は一部が除去されたアスペルギルス・オリゼーや、(16)アスペルギルス・オリゼー(FERM AP−20971)や、(17)上記(8)〜(12)のいずれか記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株、上記(13)若しくは(14)記載のアスペルギルス・パラジチカス、又は、上記(15)若しくは(16)記載のアスペルギルス・オリゼーを含むバイオコントロール剤や、(18)糸状菌の有害物質生産に関与する遺伝子領域又は少なくとも生存に必須でない遺伝子領域を含む広範囲標的遺伝子領域の両外側に位置し、染色体上で5kb以上離れた2つのDNA領域とそれぞれ相同組換えすることができる2つの相同DNA領域間に、選択マーカー遺伝子、又は選択マーカー遺伝子と所定の遺伝子領域を連結した広範囲遺伝子領域欠失用遺伝子カセットと、前記広範囲標的遺伝子領域が欠失したことを確認することができるプローブ又は少なくとも1対のプライマーセットとを備えた広範囲遺伝子領域欠失変異株のスクリーニングキットに関する。
【発明の効果】
【0032】
上述の染色体改変技術(cre/loxPシステム、λ−redレコンビネーションシステム、Flp/FRTシステム、メガヌクレースを用いた遺伝子転換)では、特殊な配列をあらかじめ挿入し、その間で相同組換えが起こるように組換え酵素を発現させて、目的とする変異株の出現頻度を上げたり、麹カビの場合には、非相同組換え活性を下げる変異をあらかじめ宿主に導入しておくことで相同組換えの割合を上昇させ、目的とする変異株の選抜が可能になっているものの、以下のような多くの問題点があった。
【0033】
1)これらの方法では、特定の配列を導入して、さらに組換え酵素の遺伝子導入をする必要があるため、複数の選択マーカーが必要であり、それだけの数の選択マーカーが利用できる系である必要がある。選択マーカーによっては宿主にあらかじめ変異を導入することが必要となる。
2)これらの方法では、細胞内で遺伝子組み換えのための特定の酵素遺伝子を発現させる必要があるが、酵素遺伝子の発現のための至適条件を決めることが必要であり、容易ではない。また、これらの方法では特殊な酵素や遺伝子配列が必要なため、2段階以上のステップから構成される複雑な系であり操作が極めて複雑である。
3)以上のような複雑で難しい方法であるため、いずれの方法も時間がかかる。
4)さらに、得られた破壊株の染色体の中に最終的に異種遺伝子が保持されてしまうため、作製された生物は異種間の遺伝子組換え体となる。したがって組み換え体を環境中で使用することは法の規制を受け、実用の面で困難が多い。
5)麹カビで報告されているku70破壊株による破壊法では、遺伝子領域除去のためにku70破壊株の作製があらかじめ必要であり、さらに操作が複雑であり時間がかかる。
【0034】
一方、本発明では、遺伝子コンストラクトの作製も容易であり、1つの選択マーカーがあれば十分であり、1回の形質転換をすれば、目的の欠失株が得られる。したがって、本発明は、cre/loxP系、又はcre/loxP系と同様の原理を持つ遺伝子改変システムとは比較にならないほど、容易で短時間に目的の変異株を得ることができるシステムを提供している。
【0035】
このように本発明によると、従来の方法と異なり、相同組換えが選択的に起こるような特別の配列や酵素の導入や非相同組換え活性の破壊は使用しないため、選択マーカーで選抜後の変異株の中で、目的とする2回交差変異株の割合は極めて少なく、表現型の変化を利用した選抜も期待できない。本発明では、遺伝子マーカーの性質で選抜された変異株それぞれからDNAを調製し、PCRやサザーン分析等を用いて直接遺伝子の構造変化を調べた。すなわち、目的とする変異株が1%の確率で含まれているとすると、少なくとも100個の変異株を、それが200個以上また500個であるとしても目的とする変異株を遺伝子構造の変化を調べることで選抜することになる。したがって、この方法を効率よく行うためには、生物体から簡便に遺伝子を抽出する技術が必要であり、生物体の熱処理等や細胞破砕による核酸抽出によって多数の生物体から簡便に核酸を溶出し、さらにPCRやサザーン法等で分析することで、効率よくスクリーニングを行うことができる。
【0036】
また、麹カビについては多核胞子が多い点に問題があるが、その場合にも、得られた変異株のそれぞれから核酸を調製し、遺伝子構造変化を調べることで選抜できる。例えば、PCRを用いる場合、PCRのプライマー配列として、選択マーカーの内部配列と、染色体上、導入遺伝子の相同配列より外側の配列を選ぶことにより、多核胞子であっても、胞子の中の複数の核のうち一つでも目的とする変異株の核があれば、PCR産物が得られるように、いわゆる変異体の核のポジティブセレクションが可能になるように設計する。そして、カビの胞子サイズは含まれる核の数によって異なるため、ポジティブセレクションで得られた変異株から胞子を調製し、単核胞子しか通せないようなポアサイズの膜をもちいて胞子液をろ過し、得られた胞子を寒天培地に広げ培養することで、一つの核をもつ胞子から得られた集落(菌糸と胞子)から核酸を調製し、PCRやサザーン法で遺伝子構造を調べ、目的の変異体を選抜することができる。
【0037】
このように本発明によると、特殊な遺伝子配列を染色体上へ導入する必要がなく、また組換え酵素の発現や、特殊な宿主も必要としない。操作は単純であり、目的の変異株の検出にも複雑な操作を必要としない。さらに、宿主由来の選択マーカー配列と遺伝子領域を本発明に利用すれば、セルフクローニングが可能であり、得られた生物の実用的利用の可能性が非常に高いといえる。
【0038】
また、本発明を利用して、麹カビからアフラトキシン生産に関連する遺伝子領域を完全に取り除くことができ、汚染現場の菌からアフラトキシン遺伝子クラスターをまるごと除去できれば、定着率の高いバイオコントロール剤の開発が可能となり、安全な食品供給のイメージアップにも貢献することができる。さらに、アフラトキシン遺伝子クラスターに限らず、生物の生育に直接必要としないか、又は有害な領域を新たな遺伝子領域に置換できる手法を得ることは、離れた相同性領域の間に物質生産に関連する酵素遺伝子や制御遺伝子領域を繋げ、生物に新たな物質生産機能を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本発明の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法としては、糸状菌の有害物質生産に関与する遺伝子領域又は少なくとも生存に必須でない遺伝子領域を含む広範囲標的遺伝子領域の両外側に位置し、染色体上で5kb以上離れた2つのDNA領域とそれぞれ相同組換えすることができる2つの相同DNA領域間に、選択マーカー遺伝子、又は選択マーカー遺伝子と所定の遺伝子領域を連結した広範囲遺伝子領域欠失用遺伝子カセットを作製し、該広範囲遺伝子領域欠失用遺伝子カセットを前記糸状菌に導入し、2回交差相同組換えが起こった変異株を、まず選択マーカーの性質を利用して一次選抜し、その後、変異株の遺伝子構造の変化を直接調べることにより二次選抜する方法であれば特に制限されず、上記糸状菌としては、アスペルギルス属菌、フザリウム属菌、ペニシリウム属菌、リゾップス属菌、ムコール属菌、リゾムコール属菌、アブシジア属菌、モナスカス属菌等を挙げることができる。
【0040】
上記糸状菌の有害物質生産に関与する遺伝子領域としては、アスペルギルス属菌が産生するアフラトキシン、オクラトキシン、ステリグマトシスチンや、フザリウム属菌が産生するデオキシニバレノール、ニバレノール、ゼアラレノンや、ペニシリウム属菌が産生するルテオスカイリン、シトリニン等のマイコトキシン生産に関与する遺伝子クラスターを具体的に例示することができる。また、少なくとも生存に必須でない遺伝子としては、アスペルギルス・オリゼー、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・アワモリ、アスペルギルス・カワチ、アスペルギルス・ソーヤ、リゾープス・ジャバニクス、モナスカス・プルプレア等の麹カビのアフラトキシン遺伝子クラスター類似領域、麹の渇変原因遺伝子mel等の好ましくない性質に関与する遺伝子領域を好適に例示することができる。
【0041】
上記染色体上で5kb以上離れた2つのDNA領域としては、好ましくは15kb以上、より好ましくは30kb以上、特に好ましくは50kb以上や100kb以上離れた2つのDNA領域を挙げることができ、より具体的には、染色体上で5kb以上離れた2つのDNA領域としては、アスペルギルス・パラジチカス染色体のアフラトキシン遺伝子クラスターのdmtAとvbsとの2つの遺伝子領域(6.6kb)を挙げることができ、染色体上で30kb以上離れた2つのDNA領域としては、アスペルギルス・パラジチカス染色体のアフラトキシン遺伝子クラスターのpksAとvbsとの2つの遺伝子領域(49kb)を挙げることができ、染色体上で50kb以上離れた2つのDNA領域としては、アスペルギルス・パラジチカス染色体のアフラトキシン遺伝子クラスターのnorBとhypAとの2つの遺伝子領域(67kb)や、アスペルギルス・オリゼー染色体のアフラトキシン遺伝子クラスター類似領域のaflTとmoxYとの2つの遺伝子領域(60kb)を挙げることができる。
【0042】
上記選択マーカー遺伝子としては、アスペルギルス・オリゼーやアスペルギルス・パラジチカスのピリチアミン耐性遺伝子ptrA(Biosci. Biotechnol. Biochem., 64, 1416-1421, (2000);特許第3162042号公報)、硝酸還元酵素をコードする遺伝子niaD(Mol. Gen. Genet., 218, 99-104, (1989))、argB(Enzyme Microbiol. Technol., 6, 386-389, (1984))、pyrG(Biochem. Biophys. Res. Commun., 112, 284-289, (1983))、amdS(Gene, 26, 205-221, (1983))、sC(Gene, 84, 329-334, (1989))を挙げることができるが、実用性の点で、ptrA及びniaDを好適に例示することができる。また、選択マーカー遺伝子として、アスペルギルス・ニガーのハイグロマイシンB耐性遺伝子(Gene.1987;56(1):117-24)、オリゴマイシン耐性遺伝子(Curr.Genet.1988 Jul;14(1):37-42)、アスペルギルス・ニジュランスのオーレオバシジンA耐性遺伝子(特開平9−98784号公報)、アスペルギルス・フラバスのベノミル耐性遺伝子(Appl.Environ Microbiol 1990 Dec;56(12):3686-92)、ペニシリウム・ロックフォルテイー(P.roqueforti)のphelomycin耐性遺伝子(J. Biotccol 1996 0ct.18;51(1):97−105 )、ペニシリウム・アイスランジユーム(P.islandicum)のbenomyl 耐性遺伝子(curr.Genet. 1995 Nov.;28(6)580-4 )等を挙げることができる。
【0043】
上記広範囲遺伝子領域欠失用遺伝子カセットは、染色体上で5kb以上離れた2つのDNA領域とそれぞれ相同組換えすることができる2つの相同DNA領域間に、選択マーカー遺伝子、又は選択マーカー遺伝子と所定の遺伝子領域を、λファージベクターやプラスミドベクターを利用して連結することにより調製することができる。また、ダブルジョイントPCR法(Jae-Hyuk Yu et al. Double-joint PCR: a PCR based molecular tool for gene manipulations in filamentous fungi. Fungal Genetics and Biology 41 (2004) 973-981)等を用いて、各遺伝子領域及びマーカー領域をPCRで増幅後、それぞれを連結して破壊カセットをプラスミドを利用することなく直接構築する。上記選択マーカー遺伝子は、2種以上用いることもでき、この場合、ポジティブ−ネガティブセレクションが可能なように、上記カセットの一方の外側に2つ目の選択マーカーの配列を導入することが好ましい。また、選択マーカー遺伝子と所定の遺伝子領域における所定の遺伝子領域としては、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター等を挙げることができる。
【0044】
広範囲遺伝子領域欠失用遺伝子カセットを糸状菌に導入する方法としては、PEG−カルシウム法、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、アグロバクテリウム法など特に制限されないが、細胞壁溶解酵素処理によってプロトプラストを作製し、ポリエチレングリコールと塩化カルシウム存在下で線状化したカセットDNAを導入する方法を好適に挙げることができる。
【0045】
広範囲遺伝子領域欠失用遺伝子カセットを糸状菌に導入し、2回交差相同組換えが起こった変異株を選抜する方法としては、まず選択マーカーの性質を利用して一次選抜し、その後、変異株の遺伝子構造の変化を直接調べることにより二次選抜する方法を挙げることができる。かかる二次選抜により、目的とする変異株を選抜し、最終的に広範囲の遺伝子領域が確実に目的通りに改変されていることを確認することが重要である。
【0046】
例えば一次選抜において、選択マーカーとしてピリチアミン耐性遺伝子(ptrA)を利用した場合、ピリチアミンを含むCD(Czapex-Dox)再生培地で生育してきた株はピリチアミン耐性株であり、ピリチアミン耐性遺伝子ptrAがゲノムに導入されていると考えられる。また、選択マーカーとして硝酸還元酵素をコードする遺伝子(niaD)を利用した場合、niaD欠失ホモ変異株を宿主として用い、硝酸を唯一の窒素源として加えた再生培地で生育してきた株は、硝酸還元酵素をコードする遺伝子niaDがゲノムに導入されていると考えられる。なお、アフラトキシン遺伝子クラスターを欠失させた場合など、表現形の変化を利用した選抜手法を併用することもできる。
【0047】
本発明の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法においては、通常、2回交差相同組換えが選択的に起こるような特別の配列や酵素の導入、あるいは非相同組換え活性の破壊を行わないため、選択マーカーで選抜後の変異株の中で、目的とする2回交差変異株の割合は極めて少ない。また、表現形の変化を利用した選抜も期待できない場合も十分予想される。そこで、本発明では、遺伝子マーカーの性質で選抜された変異株それぞれからDNAを調製し、PCRやサザーン分析等を用いて直接遺伝子の構造変化を調べる二次選抜を実施する。この場合、目的とする変異株が1%の確率で含まれているとすると、少なくとも100個の変異株の遺伝子を調べて選抜する。それが200個以上また500個であるとしても目的とする変異株を遺伝子構造の変化を調べることで選抜することになる。このため、公知の遺伝子抽出方法を用いることもできるが、生物体から簡便に遺伝子を抽出する技術として本発明者らが開発した「生物体から核酸を溶出する方法」(特開2003−24067号公報)や、細胞破砕による核酸抽出法(非特許文献1参照)を利用して、多数の生物体から簡便にDNAを溶出・調製した後、さらにPCRやサザーン法等で分析することで二次選抜を行うことが好ましい。なお、上記のように、変異株の表現形の変化があれば有用な情報となるが、広範囲遺伝子領域の改変を確実にモニターするためには遺伝子構造の変化を直接調べることが有効であり、本発明によって、極めて信頼性の高い変異株選抜法を確立することができる。
【0048】
また、麹カビの場合は多核胞子が多いという問題があるが、その場合にも、一次選抜で得られた変異株から単核胞子を調製し、単核胞子のそれぞれからDNAを抽出し、単核胞子由来の遺伝子構造の変化を直接調べることで、目的とする変異株の核を含む集落の選抜を行うことが好ましい。例えばPCRを用いる場合には、PCRのプライマー配列として、選択マーカーの内部配列と、染色体上、導入遺伝子の相同配列より外側の配列を選ぶことにより、目的とする変異株の核があれば、PCR産物が得られように計画する。いわゆる変異体の核のポジティブセレクションが可能になるように設計することが好ましい。そして、カビの胞子サイズは含まれる核の数によって異なるため、ポジティブセレクションで得られた変異株から胞子を調製し、単核胞子しか通さない小さなポアサイズの膜で胞子液をろ過し、ろ液中の胞子を寒天培地に広げ培養する。このようにして1つの核をもつ胞子から得られた集落(菌糸と胞子)からDNAを調製し、PCRやサザーン法で遺伝子構造を調べ、目的の変異体を選抜することができる。
【0049】
以上のように、本発明の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法においては、通常、特殊な遺伝子配列の染色体上への導入も必要なく、また組換え酵素の発現も必要としない上に、特殊な宿主も必要とせず、少なくとも1個の選択マーカー遺伝子があればよく、操作は単純であり、目的の変異株の検出にも複雑な操作を必要としない。さらに、宿主由来の選択マーカー配列と遺伝子領域を利用すればセルフクローニングが可能であり、得られた生物の実用的利用の可能性が高い点が、本発明が奏する極めて有利な効果であるといえる。
【0050】
上記本発明の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法によって得られた欠失変異株には、ゲノム中で欠失した領域に選択マーカーが通常導入されている。しかし、得られた欠失変異株から選択マーカーを除去することもできる。例えば、選択マーカーが含まれない欠失カセット(欠失した遺伝子領域の5’及び3’側の外側の2つの領域を連結した構造)を構築し、これによって欠失株を形質転換すれば、5’及び3’側の外側の2つの領域で2回交差して、選択マーカーを含まない欠失株を得ることができる。この際、選択マーカーの性質を失った株(例えばピリチアミン感受性になった株)を選抜し、さらに遺伝子構造の変化(選択マーカー領域を含まなくて、ゲノム中の離れた遺伝子領域が連結した構造を持つこと)をPCRで確認することで、選択マーカー除去株を選抜できる。これによって、異種遺伝子を含まず、目的とする遺伝子領域のみが欠失した変異株を得ることができる。かかる目的とする遺伝子領域のみが欠失した変異株も本発明の生産方法の対象に含まれる。
【0051】
次に、本発明の変異株としては、糸状菌の染色体上で5kb以上の有害物質生産に関与する遺伝子領域又は少なくとも生存に必須でない遺伝子領域を含む広範囲標的遺伝子領域が、選択マーカー遺伝子、又は選択マーカー遺伝子と所定の遺伝子領域で置換されて欠失した広範囲遺伝子領域欠失変異株であれば特に制限されないが、糸状菌の有害物質生産に関与する遺伝子領域又は少なくとも生存に必須でない遺伝子領域が、糸状菌のアフラトキシン生産菌の遺伝子クラスター領域又は麹カビのアフラトキシン遺伝子クラスター類似領域である広範囲遺伝子領域欠失変異株が好ましく、上記5kb以上の広範囲標的遺伝子領域の欠失が、好ましくは15kb以上、より好ましくは30kb以上、特に好ましくは50kb以上や100kb以上の広範囲標的遺伝子領域の欠失である変異株を好適に例示することができる。また、選択マーカー遺伝子としては、上述の選択マーカー遺伝子を用いることができる。本発明の変異株は、前記本発明の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法により得ることができる。
【0052】
本発明はまた、アフラトキシン生産菌の遺伝子クラスターの全部又は一部が除去されたアフラトキシン非生産性アスペルギルス・パラジチカスに関し、かかるアフラトキシン非生産性アスペルギルス・パラジチカスとして、以下の実施例に記載されている変異株、特に、アフラトキシン遺伝子クラスター領域のnorBとhypAとの2つの遺伝子領域間の67kb領域の欠失変異体であるアスペルギルス・パラジチカスFERM AP−20970(Aspergillus parasiticus AF-/SYS-4(norB-hypA)No.408)を具体的に例示することができる。
【0053】
また本発明は、アフラトキシン遺伝子クラスター類似領域の全部又は一部が除去されたアスペルギルス・オリゼーに関し、かかるアスペルギルス・オリゼーの変異株としては、アフラトキシン遺伝子クラスター類似領域のaflTとmoxYとの2つの遺伝子領域間の60kb領域の欠失変異体であるアスペルギルス・オリゼーFERM AP−20971(Aspergillus oryzae AF-/RIB(aflT-moxY)No.80-4)を具体的に例示することができる。
【0054】
上記本発明の広範囲遺伝子領域欠失変異株や、アスペルギルス・パラジチカス(FERM AP−20970)等のアフラトキシン非生産性アスペルギルス・パラジチカスや、アスペルギルス・オリゼー(FERM AP−20971)等のアフラトキシン遺伝子クラスター類似領域の全部又は一部が除去されたアスペルギルス属菌は、アフラトキシン生産カビと競合することから、バイオコントロール剤として有利に用いることができる。
【0055】
本発明の広範囲遺伝子領域欠失変異株のスクリーニングキットとしては、糸状菌の有害物質生産に関与する遺伝子領域又は少なくとも生存に必須でない遺伝子領域を含む広範囲標的遺伝子領域の両外側に位置し、染色体上で5kb以上離れた2つのDNA領域とそれぞれ相同組換えすることができる2つの相同DNA領域間に、選択マーカー遺伝子、又は選択マーカー遺伝子と所定の遺伝子領域を連結した広範囲遺伝子領域欠失用遺伝子カセットと、前記広範囲標的遺伝子領域が欠失したことを確認することができるプローブ又は少なくとも1対のプライマーセットとを備えたものであれば特に制限されず、プライマーセットとしては、以下の実施例に具体的に例示されているプライマーセットを有利に用いることができる。
【0056】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0057】
[アスペルギルス・パラジチカス染色体のアフラトキシン遺伝子クラスター領域6.6kb領域の欠失(ピリチアミン耐性選択マーカーptrA遺伝子利用)]
(1)dmtA−ptrA−vbs コンストラクトを有するpAF−DD1ベクターの作製
アフラトキシン遺伝子クラスターの2つの遺伝子dmtAとvbsを選び、これらの領域を利用して6.6kb遺伝子領域の除去ベクターpAF−DD1を作製した。すなわち、遺伝子破壊用DNA断片の作製には、2kbピリチアミン耐性遺伝子断片、1.66kb dmtA遺伝子断片、1.7kb vbs遺伝子断片をPCRで増幅し、pUC19ベクター(プロメガ)に段階的に導入して作製した。dmtA遺伝子領域はA. parasiticus NRRL2999(SYS−4株)のゲノムをテンプレートとして、以下の2種のプライマーを用いて増幅した。
<プライマー>
配列番号1:dmtA−PstI−F:#323:AAAACTGCAGGCTCAGCGACACATCTCC
配列番号2:dmtA−R:#324:GAGCTTACCACGCCTACC
【0058】
vbs遺伝子領域はSYS−4株のゲノムをテンプレートとして、以下の2種のプライマーを用いて増幅した。
<プライマー>
配列番号3:vbspro−KpnI−F:#274:GGGTACCTGTGTAGAAATGCTGCACAG
配列番号4:vbs−EcoRI−R3:#321:CGGAATTCGGC ATCGATATCGGCG
【0059】
また、選択マーカーであるピリチアミン抵抗性遺伝子ptrAは2種のプライマーを用い、プラスミドpPTRI(Takara)をテンプレートとしてPCR増幅した。PCRは、KOD−Plus酵素 (Toyobo)を用いた。pAF−DD1の概略図を図1に示す。
<プライマー>
配列番号5:PTRI−KpnI−F:#311: GGGGTACCGGGCAATTGATT ACGGGATCCCA
配列番号6:PTRI−PstI−R2:#322: AAAACTGCAGTGACGATGAGCCGCTCTTGC
【0060】
形質転換するために、得られたpAF−DD1をBglIIで切断して、1.4kb dmtA領域と1.5kb vbs領域に2kb ptrAが挟まれた直鎖状DNA断片を作り、アフラトキシン生産株SYS−4株の形質転換に用いた。
【0061】
(2)形質転換
カビの形質転換には、ポリエチレングリコールを用いたプロトプラストの形質転換法を利用した。
宿主としては、アフラトキシン生産SYS−4株を用いた。このカビをPDA(potato Dextrose Agar)培地で培養し、胞子を採集した。
【0062】
ピリチアミン選択マーカーを用いる場合には、SYS−4株又はNR−1株の胞子約108 個を100mlCD(Czapex-Dox)液体培地に接種し、28℃で18〜20時間静置培養を行った。こうして発芽させた後、ガラスビーズ(直径0.6cm)を培養フラスコに加え、30℃,130rpmの震とう培養でさらに24時間培養した。菌糸を採集し、0.8M NaCl水溶液で菌糸を2〜3回洗い、洗った菌糸に10mlの新しく作ったプロトプラスト化溶液(15mg/ml Yatalase(Takara),10mg/ml Cellulase Onozuka R-10 (Yakult Honsha),0.8M NaCl,10mM phosphate buffer(pH6.0),1mM DTT)を加え、30℃で3〜4時間ゆっくりと震とうし、細胞壁を消化してプロトプラストを調製した。得られたプロトプラスト溶液をミラクロス(カルビオケム社)でろ過し、ろ液を更に4℃,2500g、5分間、遠心分離して回収した。
【0063】
プロトプラストを氷冷した溶液1(0.8M NaCl,10mM CaCl2,10mM Tris−HCl(pH 8.0))で洗浄した後、2×108/mlになるように溶液1に懸濁して、その量に対して0.2容量になるように溶液2 (40%PEG4000,50mM CaCl2,10mM Tris−HCl(pH 8.0))を加え、静かに混合した。
【0064】
形質転換は、0.1mlのプロトプラスト溶液を新しい15mlチューブに移し、15μl以下(3〜7μg)のdmtA−ptrA−vbsの直鎖DNAを加え、氷上で30分間放置した後、0.5ml溶液2を加えゆっくりと攪拌し、室温で20分間放置した。5ml溶液1を加えて、混合した後4℃で2500gの速度で5分間遠心を行った。プロトプラストを含んだ沈殿物を0.1mlの溶液1に懸濁し、0.8M NaCl及び0.1μg/l pyrithiamine(PT)を含むCD再生培地に広げ、さらに、その上に、30℃まで冷却したCD軟寒天培地を添加した後、固化させ、28℃で4〜7日培養した。
【0065】
(3)遺伝子領域欠失株の選抜
目的とする欠失株の選抜には(1)選択マーカーを利用した選抜と(2)PCRを利用した遺伝子構造の変化の検出、からなる2段階の方法を採用した。
1)まず、ピリチアミン(PT;pyrithiamine)を含むCD再生培地で生育してきた株はピリチアミンに耐性株であり、つまりピリチアミン耐性遺伝子がゲノムに導入されていると考えられる。
2)しかし、生物に遺伝子を導入した場合、相同組換えと非相同組換えが起こり、生物によっては目的とする相同組換えの確率が極めて低いものがある。カビの場合も低いが、本発明では一箇所ではなく、選択マーカーを挟んで二箇所の配列で相同組換えが起こる必要があるため、その確率はきわめて低くなる。通常はピリチアミン耐性株の中で1〜2%以下の頻度でしか目的とする遺伝子欠失株は得られない。形態変化や生化学的代謝の変化などで指標となる顕著な変化がおこる場合は比較的選抜も容易であるが、このような顕著な変化が起こらない場合は困難である。また、ポジティブ−ネガティブセレクションを利用することも可能であるが、2種以上の選択マーカーが必要である。しかし、ポジティブ−ネガティブセレクションで選抜した場合にもすべてが目的の変異株とはならないため、最終的には遺伝子構造の変化を確認する必要がある。そこで、本発明では、欠失株を選抜する最も単純な方法として、以下のように得られた選択マーカー選抜株について、さらに遺伝子構造の変化をPCRで調べることによって目的とする変異株を選抜した。
【0066】
<PCR分析のための迅速DNA抽出法>
得られたピリチアミン耐性変異株の中で、選択マーカーを挟んで両側の配列で相同組換えが起きた目的とする変異株を選抜するため、少なくとも100個以上のピリチアミン耐性株のそれぞれの集落から、胞子を含んだ少量の菌糸を爪楊枝等で採取し、150μl TE bufferが入った2ml容量のチューブに入れる。さらに150μl TE−飽和フェノールを加え、同チューブにジルコニアビーズ(直径0.5mm,Nikkato)を加えた。各チューブを震とう機(例えば、FastPrep FP100A(Q−BIO 101))にセットして、菌糸を破砕した。その後、得られた破砕液を4℃,15,000g 15分間遠心し、DNAを含む水層(上清)を4倍に稀釈して、稀釈液を種々のプライマーを含んだPCR溶液に加えて反応させた。
【0067】
PCR反応は、通常0.5μlの希釈DNAサンプルを、終量8μlのPCR反応に用いた。8μlのPCR反応液は、0.5μl稀釈DNA抽出液、4μl 2×PCR Master Mix(Promega)、2.5μl Nuclease-free water、0.5μlの2種の各プライマー(12.5pmol/μl)を含む。
【0068】
PCR反応は以下の条件で行い、PCR産物は1%アガロースゲルで電気泳動した。
[PCR産物が2.5kb以下の場合]
1)94℃ 5分
2)94℃ 40秒、56℃ 40秒、72℃ n分(nはターゲットフラグメントのサイズにより決定する)を1サイクルとして、35サイクル
3)72℃ 10分
[PCR産物が2.5kb以上の長さの場合]
1)94℃ 5分
2)94℃ 1分、56℃ 1分、72℃ n分を1サイクルとして、40サイクル
3)72℃ 10分
【0069】
(4)遺伝子領域欠失の確認
PCRの結果を指標に目的とする形質転換体を選抜するが、カビ胞子は多核胞子を含んでいるため、選抜した変異株を安定な形質として維持するためには、菌の純化が必要である。そこで、3)までで選抜した変異株を更に単胞子分離と継代培養を3回繰り返して、変異株を純化した。その後、得られた変異株の菌体から、再度核酸を抽出し、以下の種々のプライマーを用いて、目的とした広範囲遺伝子領域破壊株であることを電気泳動にて確認した。結果を図2に示す。また、各プライマーセットを使用してPCRを行った場合に予想されるPCR産物のサイズを表1に示した。予想されるサイズのPCR産物の生成を電気泳動で確認した結果、SYS−4株染色体のアフラトキシン遺伝子クラスター領域6.6kb領域の欠失が確認できた。例えば、図2の1の実験で、P7とP12のプライマーをもちいてPCRを行った場合、表1のP7/P12から2.14kbのサイズのPCR産物が得られるはずであり、電気泳動の図2によると、1のaでは2.14kbのバンドが出ているが、1のb(SYS−4株)では、予想したとおりバンドが生じないことがわかった。
【0070】
<プライマー>
1.P7(配列番号7:#47:dmtA−F2):GGTCCCTGAGCCAGGGGTATTTGTT
2.P8(配列番号8:#297:vbs−R1):CCGCCTCAATCACGGC
3.P9(配列番号2:#324:dmtA−R):GAGCTTACCACGC CTACC
4.P10(配列番号4:#321:vbs−EcoRI−R3) : CGGAATTCGGCATCGATATCGGCG
5.P11(配列番号6:#322:PTRI−PstI−R2): AAAACTGCAGTGACGATGAGCCGCTCTTGC
6.P12(配列番号5:#311:PTRI−KpnI−F): GGGGTACCGGGCAATTGATTACGGGATCCCA
7.P13(配列番号9:#340:omtA−R1):CCTTCCTCGCCTTTGCG
8.P14(配列番号10:#339:omtA−F1): GGTGAGACGAAGAGCCC
9.P15(配列番号11:#264:ordA−F):ATGATTTATAGCATAATTATTTGTGCG
10.P16(配列番号12:#265:ordA−R):CAAATCATCTGATTTCTGGCC
【0071】
【表1】
【実施例2】
【0072】
[アスペルギルス・パラジチカス染色体のアフラトキシン遺伝子クラスター領域49kb領域の欠失(ピリチアミン耐性選択マーカーptrA遺伝子利用)]
(1)pksA−ptrA−vbs構造を有するpAF−DD2ベクターの作製
アフラトキシン遺伝子クラスターの両末端に近い遺伝子pksAとvbsを選び、これらの領域を利用して49kbの広範囲な遺伝子領域の除去ベクターpAF−DD2を作製した。pAF−DD2ベクターは、pAF−DD1の1.66kb HindIII/PstI dmtA配列を1.5kb HindIIII/PstI pksA 3’領域と入れ換えることにより作出した。HindIII/PstI pksA 3’領域はSYS−4株のゲノムDNAをテンプレートとして、2種のプライマー(配列番号17:pks−F2:#341:GTGGTGCACTGCGTGTC、配列番号18:pks−HindIII−R:#342:CCCCAAGCTTCCATGACCC GGTCGATC)を用いて増幅し、HindIIIとPstIで切断して、ベクターに導入した。得られたベクターの概略図を図3に示す。こうしてできたpAF−DD2をXmaIで切断することによって直鎖にして、最終的に得られたpksA−ptrA−vbs断片(2kb選択マーカーptrAが1.3kb pksA 3’領域と1.6kb vbs断片に挟まれた構造)でアフラトキシン生産菌SYS−4株を実施例1と同様にして形質転換した。
【0073】
欠失変異株の検出は、ピリチアミン耐性株の内、アフラトキシンを産生しなくなった6菌株について、アフラトキシン産生遺伝子が確実に欠失しているか否かをadhAとdmtAの各プライマーの組合せを用いて先ずPCRと電気泳動を実施した。PCRに用いたプライマーは、adhAについては配列番号29、30を、dmtAについては配列番号45、46を使用した。また電気泳動の結果を図4に示す。dmtA遺伝子の欠失が確認された101株と103株のうち103株について、さらに多くの遺伝子について欠失を確認した。結果を図5に示す。使用した菌株SYS−4株では、aflRからver1までの領域が重複し、この短い重複領域では機能しないことが明らかになっているが、PCRを行った場合には該領域がテンプレートとなってPCR産物が生じてしまう。しかしながら、その他の領域ではPCR産物が産生されていないことから、遺伝子クラスターの欠失が確認された。欠失の確認は、表2に示す、前記の各プライマーセットを使用してPCRを行った場合に予想されるPCR産物のサイズと電気泳動の結果を比較して行った。同時にアフラトキシン遺伝子クラスターが欠失した結果としてアフラトキシン生産性が無くなることを、紫外線写真法(図6)、薄層クロマトグラフィー(図7)で確認した。
【0074】
<プライマー>
1.nor1遺伝子領域
配列番号13:#436(nor1−F): CCATA CCGGGATGGACC
配列番号14:#437(nor1−R):GCCCCGATGTAGTCTCC
2.fas2(hexA)遺伝子領域
配列番号15:#351(hexA−F1):CCTCCCTCGCTACCCCA
配列番号16:#352(hexA−R1):CTCCGAGCCTACGGTGC
3.fas1(hexB)遺伝子領域:
配列番号17:#354(hexB−F1):CTGCGGGTGGAGCTGCA
配列番号18:#353(hexB−R1):CAAGCTCCAAGGGCGGC
4.aflR遺伝子領域
配列番号19:#262(aflR−F):ATGGTTGACCATATCTCCCC
配列番号20:#263(aflR−R):CATTCTCGATGCAGGTAATC
5.aflJ遺伝子領域
配列番号21:#438(aflJ−F):GAACCCTGGCGAGAGAC
配列番号22:#439(aflJ−R):CTGAGCGACTCGCATGG
6.adhA遺伝子領域
配列番号23:#175(adhA−F):ATGGAAGTTCTGGAACAACC
配列番号24:#176(adhA−R):TTAGGTTTTAAGGCAATGGCA
7.estA遺伝子領域
配列番号25:#440(estA−F):CCTTTTGCCGGTCCGTG
配列番号26:#441(estA−R):GCCTTAGCTACTCCCCC
8.norA遺伝子領域
配列番号27:#254(norA−F):ATGGTTCTCCCTACTGCTCC
配列番号28:#255(norA−R):TCATTTTGAGGCAGAACCAAAG
9.ver1遺伝子領域
配列番号29:#206(ver1−F):ATGTCGGATAATCACCGTTTAG
配列番号30:#207(ver1−R):TTATCGAAAAGCGCCACCAT
10.verA遺伝子領域
配列番号31:#442(verA−F):GTTTCGACTCCCTCGGC
配列番号32:#443(verA−R):CTCATCGTACGCTGGCG
11.avnA遺伝子領域
配列番号33:#444(avnA−F):CATAGTCCCTGAGGCGG
配列番号34:#445(avnA−R):GGTCCGATGCTGAACGG
12.verB遺伝子領域
配列番号35:#446(verB−F):GGTCCACTGCTATGGCG
配列番号36:#447(verB−R):GCGTAGGCCAGATTGCG
13.avfA遺伝子領域
配列番号37:#448(avfA−F):GGTCACATACGCCCTCC
配列番号38:#449(avfA−R):GAGGACATCAGACACGCC
14.dmtA(omtB)遺伝子領域
配列番号39:#323(dmtA−F):GCTCAGCGACACATCTCC
配列番号2:#324(dmtA−R):GAGCTTACCACGCCTACC
15.omtA遺伝子領域
配列番号10:#339(omtA−F1):GGTGAGACGAAGAGCCC
配列番号9:#340(omtA−R1):CCTTCCTCGCCTTTGCG
16.ordA遺伝子領域
配列番号11:#264(ordA−F):ATGA TTTATAGCATAATTATTTGTGCG
配列番号12:#265(ordA−R):CAAATCATCTGATTTCTGGCC
【0075】
【表2】
【実施例3】
【0076】
[アスペルギルス・パラジチカス染色体のアフラトキシン遺伝子クラスター領域49kb領域の欠失]
(1)A. parasiticus NR−1株のvbs遺伝子破壊株の作製
John E. Linz博士 Michigan State Universityより供与されたA. parasiticus NR−1株のvbs遺伝子に、ptrA遺伝子を挿入することにより遺伝子破壊を行った。
アフラトキシン遺伝子クラスターのvbs領域に導入し、vbs遺伝子破壊株を作製するためpVBS−SD2を構築した。pVBS−SD2ベクターは、1.7kbのvbs遺伝子領域断片を、KpnIサイトを有する2種のプライマー(配列番号3:#274:vbspro−KpnI−F:GGGTACCTGTGTAGAAATGCTGCACAG、配列番号58:#268:vbsin−KpnI−R:GGGGTACCGGCATCGATATCGGCG)とSYS−4株のゲノムDNAを用いてPCRをして増幅し、PCR産物をKpnIで処理した後、ピリチアミン耐性遺伝子ptrAを持つpPTRIベクターのKpnIサイトに導入して構築した。得られたベクターの概略図を図8に示す。こうして構築したpVBS−SD2をBglIIで切断して直鎖にして、シングルクロスでNR−1株を実施例1と同様にして形質転換した。
この結果により得られるvbs遺伝子破壊株では、ptrAを挟んで2つのvbs類似領域が本来のvbs遺伝子よりも短いために、vbsの有する活性を失っている。そのため、vbsにより触媒される反応が正常に行われず、黄色い反応中間体が蓄積する。
その後、得られた変異株の菌体から、再度核酸を抽出し、以下の種々のプライマーを用いて、目的とした広範囲遺伝子領域破壊株であることを電気泳動にて確認した。結果を図9に示す。また、各プライマーセットを使用してPCRを行った場合に予想されるPCR産物のサイズを表3に示した。予想されるサイズのPCR産物の生成を電気泳動で確認した結果、NR−1株染色体のvbs遺伝子領域の破壊が確認できた。
【0077】
<プライマー>
配列番号111:P1 (#194, vbs-dis-F):CTGCCCAAAGGTGCTCTCC
配列番号112:P2 (#287, vbs-3’in-R):GCGACACCGGCGGAAGG
配列番号113:P3 (#273, pPTRI-R1):TTCCCAGTCACGACGTTG
配列番号114:P4 (#272, pPTRI-F1):GTGTGGAATTGTGAGCGG
配列番号3:P5(#274,vbspro-KpnI-F):GGGTACCTGTGTAGAAATGCTGCACAG
配列番号58:P6 (#268, vbsin-KpnI-R):GGGGTACCGGCATCGATATCGGCG
【0078】
【表3】
【0079】
(2)pksA−niaD−vbs構造を有するpAF−DD3ベクターの作製
pAF−DD2ベクターと同様の構造で選択マーカーだけを硝酸還元酵素遺伝子niaDに代えた構造pAF−DD3を作り、本発明が種々の選択マーカーを用いても有効であることを確認した。
niaD選択マーカーを用いた形質転換には、硝酸還元酵素に変異を持ち、硝酸を窒素源として利用できないA. parasiticus NR−1株、及び、前記NR−1株のvbs遺伝子破壊株を宿主として用いた。
プロトプラストの調製にはPDB(ポテトデキストロースブロス)培地を用い、形質転換後、硝酸を唯一の窒素源として加えた再生培地を用いた。
pAF−DD3の構築には、まず、1.7kb vbs領域を2種のプライマー(配列番号40:vbs−BamHI−F:#355:CGCGGATCCTGTGTA GAAATGCTGCACAG、配列番号41:vbs−EcoRI−R4:#356: CGGAATTCGACCCTTACGCTGCTC)と、アフラトキシン生産菌SYS−4株のゲノムDNAを用いてPCRで増幅した。そのPCR産物をBamHIとEcoRI処理して、pSP72ベクター(Promega)の対応する部位に導入した。次に、形成したベクターに4.7kb SphI/XbaI選択マーカーniaDを導入した。選択マーカーniaDはKOD−Plus酵素と2種のプライマー(配列番号42:niaD−AvrII−F(XbaIサイトを内部に含む):#154:ACCCCCTAGGTCTAGAAGAGGCATTGTGTC、配列番号43:niaD−SphI−R:#320:CCCACATGCATGCCCTATTAACGTTACTATTCGTG)と、プラスミドpSL82をテンプレートとしてPCRし増幅した。最後に、2kb XhoI/SphI pksA 5’領域を導入した。このpksA 5’領域は2種のプライマー(配列番号44:pks−SphI−F:#343:CCCACATGCATGCATCCGTCCAGGACAGCC、配列番号45:pks−XhoI−R:#344:CCCCCGCTCGAGACGCCAAGGATGGGGTC)を用い、SYS−4株のゲノムDNAをテンプレートとして使った。得られたベクターの概略図を図10及び11に示す。このようにしてできたpAF−DD3をXmaIで切断し、直鎖のpksA−niaD−vbsコンストラクトを作った。このコンストラクトは1.6kb pksA 5’領域と1.6kb vbs領域に挟まれた4.7kb niaD選択マーカー遺伝子領域を含んでいる。この断片を、ピリチアミン耐性遺伝子を利用してvbs遺伝子が既に破壊されているniaD欠損株A. parasiticus NR−1株(図10)、及びvbsには変異が入っていないniaD欠損株NR−1株(John E. Linz博士 Michigan State Universityより供与された。)(図11)に形質転換した。
【0080】
vbs遺伝子が既に破壊されているniaD欠損株A. parasiticus NR−1株の形質転換体について、omtA、fas1の各遺伝子領域を対象に、実施例2で使用したプライマーを用いて同様に遺伝子欠失の確認を行った(図12)。23、35、76、124の各菌株が遺伝子欠失変異体であることが確認され、これらの菌株について、さらに多くの遺伝子の欠失を確認した(図13)。実施例2と同様に、aflRからver1までの領域が重複し、PCRを行った場合には該領域がテンプレートとなってPCR産物が生じてしまうが、その他の領域ではPCR産物が産生されていないことから、遺伝子クラスターの欠失が確認された。
また、vbsには変異が入っていないniaD欠損株NR−1株の形質転換体についても同様にPCRを行った結果、遺伝子クラスターの欠失が確認された。
【実施例4】
【0081】
[アスペルギルス・パラジチカス染色体のアフラトキシン遺伝子クラスター領域67kb領域の欠失(ピリチアミン耐性選択マーカーptrA遺伝子利用)]
(1)norB−ptrA−hypA の置換コンストラクトを有するpAF−WD4
アフラトキシン遺伝子クラスターの両末端に近い遺伝子norBとhypAを選び、これらの領域を利用して広範囲な遺伝子領域の除去ベクターpAF−DD4を同様な方法を用いて作製し、同様なプライマーを用いて遺伝子クラスターの欠失を確認した。
pAF−WD4ベクターの作製では、XhoI/HindIII 3’−norB領域はSYS−4株のゲノムDNAをテンプレートとして、2種のプライマー(配列番号46:norB−L−XhoI−R:#498: CCCCCGCTCGAGTGGTATTGAAACAGAGCGTG、配列番号47:norB−F1:#525: ATGTCCACCTCAGCTCCC)を用いて増幅し、ptrA遺伝子が導入されたpSP72ベクターに導入した。5’hypA領域は、2種のプライマー(配列番号48:hypA−R−KpnI−F:#496:CGGGGTACCCGTATCTCAGTTATGCAATGTCTC、配列番号49:hypA−R−R:#497:AAGTCCAATGCCGTCAAC)を用いて増幅し、更にベクターに導入した。得られたベクターの概略図を図14に示す。こうして得られたベクターをXcmIで切断し、3’norB−ptrA−5’hypA断片をアフラトキシン生産菌SYS−4株に上述したように形質転換した。PCRに使用したプライマーを以下に示す。
【0082】
<プライマー>
1.norB遺伝子領域
配列番号47:#525(norB−F1):ATGTCCACCTCAGCTCCC
配列番号50:#526(norB−R1):CATGGTTGAGGACGAATCG
2.cypA遺伝子領域
配列番号51:#500(norB−R−KpnI−F):CGGGGTACCTGTGGATTCGTGAGTGTC
配列番号52:#528(cypA−R):AATCCGCCAACCCAGTC
3.aflT遺伝子領域
配列番号53:#610(aflT−F):ATGCTAATCGACGAGGCTG
4.pksA遺伝子領域
配列番号45:#344(pks−XhoI−R):CCCCCGCTCGAGACGCCAAGGATGGGGTC
配列番号54:#360(pks−EcoRI−F):CGGAATTCCTCAGACAAGGCGTCCG
5.nor1遺伝子領域
配列番号13:#436(nor1−F): CCATA CCGGGATGGACC
配列番号14:#437(nor1−R):GCCCCGATGTAGTCTCC
6.fas2遺伝子領域
配列番号15:#351(hexA−F1):CCTCCCTCGCTACCCCA
配列番号16:#352(hexA−R1):CTCCGAGCCTACGGTGC
7.fas1遺伝子領域
配列番号17:#354(hexB−F1):CTGCGGGTGGAGCTGCA
配列番号18:#353(hexB−R1):CAAGCTCCAAGGGCGGC
8.aflR/aflR2遺伝子領域
配列番号19:#262(aflR−F):ATGGTTGACCATATCTCCCC
配列番号20:#263(aflR−R):CATTCTCGATGCAGGTAATC
9.aflJ/aflJ2遺伝子領域
配列番号21:#438(aflJ−F):GAACCCTGGCGAGAGAC
配列番号22:#439(aflJ−R):CTGAGCGACTCGCATGG
10.adhA/adhA2遺伝子領域
配列番号23:#175(adhA−F):ATGGAAGTTCTGGAACAACC
配列番号24:#176(adhA−R):TTAGGTTTTAAGGCAATGGCA
11.estA/estA2遺伝子領域
配列番号25:#440(estA−F):CCTTTTGCCGGTCCGTG
配列番号26:#441(estA−R):GCCTTAGCTACTCCCCC
12.norA/norA2遺伝子領域
配列番号27:#254(norA−F):ATGGTTCTCCCTACTGCTCC
配列番号28:#255(norA−R):TCATTTTGAGGCAGAACCAAAG
13.ver−1/ver−1B遺伝子領域
配列番号29:#206(ver1−F):ATGTCGGATAATCACCGTTTAG
配列番号30:#207(ver1−R):TTATCGAAAAGCGCCACCAT
14.verA遺伝子領域
配列番号31:#442(verA−F):GTTTCGACTCCCTCGGC
配列番号32:#443(verA−R):CTCATCGTACGCTGGCG
15.avnA遺伝子領域
配列番号33:#444(avnA−F):CATAGTCCCTGAGGCGG
配列番号34:#445(avnA−R):GGTCCGATGCTGAACGG
16.verB遺伝子領域
配列番号35:#446(verB−F):GGTCCACTGCTATGGCG
配列番号36:#447(verB−R):GCGTAGGCCAGATTGCG
17.avfA遺伝子領域
配列番号37:#448(avfA−F):GGTCACATACGCCCTCC
配列番号38:#449(avfA−R):GAGGACATCAGACACGCC
18.dmtA/dmtA2遺伝子領域
配列番号55:#153(avfA−R−NotI): AAGGAAAAAAGCGGCCGCTTAGGTCCTTTTAGGTACAGC
配列番号56:#479(avfA−left−HindIII−F):CCCAAGCTTGCCCTAGCTATGGTTGAG
19.vbs遺伝子領域
配列番号57:#267(VBSin−KpnI−F):GGGGTACCGGATGGCCTGGGCAGT
配列番号58:#268(VBSin−KpnI−R):GGGGTACCGGCATCGATATCGGCG
20.cypX遺伝子領域
配列番号59:#434(cypX−F1):CGCAAGATTCCTGGTCCC
配列番号60:#435(cypX−R1):CCAGCTAGGAGCAACGC
21.moxY遺伝子領域
配列番号61:#432(moxY−F1):GAAGACCGCGGAGAATGG
配列番号62:#433(moxY−R1):GGCCCAATGACACTGCC
22.ordB遺伝子領域
配列番号63:#494(hypA−L−SalI−R):AACGCGTCGACGGTTCTGCTTGGCTGGG
配列番号64:#455(moxY−R−R):CGCTGGAGGATGTCTCG
23.hypA遺伝子領域
配列番号51:#500(norB−R−KpnI−F):CGGGGTACCTGTGGATTCGTGAGTGTC
配列番号52:#528(cypA−R):AATCCGCCAACCCAGTC
24.P1/P2遺伝子領域
配列番号65:#527(norB−R2):CAATATTTCATCTGCTGTTTCC
配列番号66:#470(PTRI−F):GCAAGAGCGGCTCATCGTCA
25.P3/P4遺伝子領域
配列番号67:#469(PTRI−R):TGGGATCCCGTAATCAATTGCCC
配列番号68:#530(nadA−R):GACTGATAAGGGAGCCGC
【0083】
遺伝子欠失の確認は、表4に示した前記の各プライマーセットを使用してPCRを行った場合に予想されるPCR産物のサイズと電気泳動の結果を比較して行った。表4に示した各遺伝子を対象にPCRを行った結果、408株が、アスペルギルス・パラジチカス染色体のアフラトキシン遺伝子クラスター領域67kb領域の欠失変異体であることが確認された。この408株は、“Aspergillus parasiticus AF-/SYS-4(norB-hypA)No.408” の表示で、平成18(2006)年7月26日(受領日)付で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305−5466 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に受領されている。受領番号は、FERM AP−20970である。
【0084】
【表4】
【実施例5】
【0085】
[アスペルギルス・パラジチカス染色体のアフラトキシン遺伝子クラスター領域67kb領域の欠失(niaD遺伝子利用)]
上記と同様な手法で3’norB−niaD−5’hypA断片を構築し、niaD欠損株NR−1株に形質転換した。上記と同様にPCRを行った結果、遺伝子クラスターの欠失を確認することができた。
【実施例6】
【0086】
[アフラトキシン生産菌のアフラトキシン遺伝子クラスター欠失株のバイオコントロール剤としての機能の確認]
アフラトキシン生産菌のアフラトキシン遺伝子クラスター欠失株は、アフラトキシン生産菌のバイオコントロール剤として利用できる。実際に、アフラトキシン生産について競合することを、チップ培養法(1mlのピペットマンチップの先端をシールし培養器として用いた。中に0.25 mlのYES(2%酵母エキス、20%蔗糖)液体培地を入れ、種々の割合で胞子を接種した。
平均3550コ(左側)又は35.5コ(右側)のアフラトキシン生産株SYS−4株の胞子と、平均12000コ、1200コ、120コ、12コ、1.2コ及び0コの、実施例2で得られた103番株の胞子を同時にチップ中の0.25ml培地に接種し、28℃ 、4日培養した後、培養液10マイクロリットルをシリカゲル薄層クロマトグラフィープレート(Kieselgel60,no.5721;Merck&Co.,Rahway,N.J.)にスポットし、展開溶液(クロロホルム:酢酸エチル:90%ギ酸(6:3:1vol/vol/vol))を用いて展開した。アフラトキシンは紫外線(365nm)を照射して観察した。結果を図15(A)に示す。
AF103株を接種後、1日たってからSYS−4株の胞子を同様に接種し、それから4日後、培養液を同様に分析した。結果を図15(B)に示す。その結果、AF103株がアフラトキシン生産に関してアフラトキシン生産カビと競合することが確認された。
【実施例7】
【0087】
[麹カビ基準菌株RIB40のアフラトキシン遺伝子クラスター類似領域60kb領域の欠失]
(1)麹カビ(Aspergillus oryzae)の遺伝子についてaflT−ptrA−moxYコンストラクトを有するpAF−DDベクターの作製
1)ベクターの作製と形質転換
pAF−DDベクターは、2kb KpnI/PstI ピリチアミン耐性遺伝子ptrAと1.5kb BglII/KpnI aflTホモログ遺伝子断片、1.6kb HindIII/XhoI moxYホモログ遺伝子断片をpSP72(Promega)に段階的に導入することによって作製した。麹カビのaflTホモログ領域とmoxYホモログ領域はA. oryzaeRIB40株のゲノムDNAをテンプレートとして、以下のように、適当な制限酵素部位を導入したプライマーを用いてPCRを行い増幅した。得られたベクターの概略図を図16に示す。
【0088】
<プライマー>
1.aflT断片のプライマー
配列番号69:oryzaeL−BglII−F:#368:GAAGATCTGGCGTGCTCCTCATCAC
配列番号70:oryzaeL−KpnI−R:#369:GGGGTACCGTC GGGGATCGTTTCGG
2.moxY断片のプライマー
配列番号71:oryzaeR−HindIII−F:#370:CCCCAAGCTTCCTGGGGTCAAGACGTC
配列番号72:oryzaeR−xhoI−R:#371: CCCCCGCTCGAGCTCTACTCCGTCACCGC
3.選択マーカー(ptrA)断片のプライマー
配列番号5:PTRI−KpnI−F:#311:GGGGTACCGGGCAATTGATTACGGGATCCCA)
配列番号6:PTRI−PstI−R2:#322:AAAACTGCAGTGACGATGAGCCGCTCTTGC
【0089】
この場合pPTRI(Takara)をテンプレートとして用いた。その後、pAF−DDをBspHIとXmaIで処理して、1.5kb aflTと1.5kb moxY領域を2kbのptrA領域を挟むように導入し、その後、カセット構造領域を直鎖DNA断片(図17)にして、麹カビRIB40株を形質転換した。
【0090】
2)麹カビにおいて変異体の選抜と特記すべき留意点
ピリチアミン耐性株を選抜した後、多数の株からDNAを抽出し、vbsプライマー(配列番号73:#392(oryzae−vbs−F1): CGCGGTCAGCTGCTTC、配列番号74:#393(oryzae−vbs−R):GACTGTGGCTCTCGACC)を用いてPCRを行い、RIB40野生株のDNAを用いたときと比較してPCR産物のバンドの強度が顕著に減少又は欠失している株は目的の欠失株であることが予想された。しかし、麹カビの胞子は核を複数含む多核胞子が多いため、スクリーニングとしてさらに、プライマーP2(配列番号75:#181(ptrA−F1):CCACTGTGGCCGCTACC) とプライマーP5(配列番号76:#458(oryzaeR−R1):AGTTGGGCATCTCGGGC)を用いてPCRを行った。プライマーP2は選択マーカー遺伝子ptrAの内部配列を有し、プライマーP5はカビの染色体上moxYホモログ領域の外側にあるため、野生株ではこれらのプライマーを用いてもバンドが出ない。それに対して、目的とする欠失株では、3kbのPCR産物が得られるはずであるため、それを指標として欠失株を選抜した。
【0091】
さらに、麹カビの胞子は多核の割合が多いため、単胞子分離によっては形質の純化が容易ではなかった。そこで、麹カビの場合は、継代を繰り返すだけでなく、単胞子分離の際に一つの核だけを有する単核胞子を選抜し、単核胞子の継代を繰り返した。胞子の大きさは含む核の数が多いほど大きいため、他の研究者によって報告されたような以下の方法を用いて小さな単核胞子を選抜した。胞子全体の直径は4〜9μmであり、平均は約7μmであるのに対し、単核胞子は通常4− 7μmの直径を有し、最も多いのが約5μm直径である。そこで、胞子液を5μmサイズの穴を有した限外ろ過膜でろ過して、膜を通過して回収される小さな胞子を選抜した。つまり、PCRによって目的とする変異を有すると予想される形質転換体の集落から胞子を採集し、ろ過後、胞子液を含むろ液をGY寒天培地に広げ、単一胞子由来の集落についてPCRを行って目的とする欠失変異株であることを確認し、さらに同様の純化を繰り返した。この純化を少なくとも3回繰り返して、すべての集落が目的とする変異体を生じることを確認して変異株を確立した。
【0092】
3)PCR分析によるアフラトキシン遺伝子クラスター領域の欠失の確認
得られた変異株のゲノム上アフラトキシン遺伝子クラスター類似領域がすべて欠失していることは、変異株のDNAと野生株RIB40のDNAをそれぞれ調製して、以下の種々のプライマーを用いてPCRにより確認した。その結果得られた欠失変異体#80−4株(FERM AP−20971)について、さらに詳細な遺伝子欠失を確認した。電気泳動の結果を図18に示す。欠失の確認は、表5に示す、前記の各プライマーセットを使用してPCRを行った場合に予想されるPCR産物のサイズと電気泳動の結果を比較して行った。その結果、#80−4株が、アフラトキシン遺伝子クラスター類似領域60kb領域の欠失変異体であることが確認された。この#80−4株は、“Aspergillus oryzae AF-/RIB(aflT-moxY)No.80-4” の表示で、平成18(2006)年7月26日(受領日)付で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305−5466 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に受領されている。受領番号は、FERM AP−20971である。
【0093】
<プライマー>
1.pksA遺伝子
配列番号77:#373(oryzae−pksA−F): GGGGTACCCCGGACCCAGCTATACC
配列番号78:#372(oryzae−pksA−R): GAAGATCTC CAGCATGGCATGCGTC
2.nor1遺伝子
配列番号79:#459(oryzae−nor1−F): GCACGGTCAAGAGAGGC
配列番号80:#460(oryzae−nor1−R): GGATAACGAAGTGCCCCG
3.fas2 遺伝子
配列番号81:#396(oryzae−fas2−F): CGAAGTCATGGGCTCGG
配列番号82:#397(oryzae−fas2−R): GGCGCACTTCAGAGTCG
4.fas1遺伝子
配列番号83:#426(oryzae−fas1−F): CATTCCCTGTCCGCTGG
配列番号84:#427(oryzae−fas1−R): GGAACTACCCGCAGCTC
5.aflR遺伝子
配列番号85:#461(oryzae−aflR−F): CAGGTCGGAACAGGGAC
配列番号86:#462(oryzae−aflR−R): CACCTTCTTGCAGGCGC
6.ver1遺伝子
配列番号87:#463(oryzae−ver1−F): GCATGTCCGACAACCACC
配列番号88:#464(oryzae−ver1−R): CTGCGTCAGATGCCAGG
7.avfA遺伝子
配列番号89:#428(oryzae−avfA−F): CCTTCGGTGTGCGTTCC
配列番号90:#429(oryzae−avfA−R): GCAGTAGGACTCCCCAG
8.omtA遺伝子
配列番号91:#430(oryzae−omtA−F): GCGACTTCCCAGCTCTC
配列番号92:#431(oryzae−omtA−R): CCACTCCTTGGGAGACC
9.ordA遺伝子
配列番号93:#424(oryzae−ordA−F): GGACGACCTTCGCTTCC
配列番号94:#425(oryzae−ordA−R): CCATGGGGTCGTGGTAG
10.vbs遺伝子
配列番号73:#392(oryzae−vbs−F1): CGCGGTCAGCTGCTTC
配列番号74:#393(oryzae−vbs−R): GACTGTGGCTCTCGACC
11.cypX遺伝子
配列番号95:#467(oryzae−cypX−F): CATGACCATGCTCTCCGG
配列番号96:#468(oryzae−cypX−R): GGTATGCACGCCTGACG
配列番号67(P1):#469:ptrA−R: TGGGATCCCGTAATCAATTGCCC.
配列番号66(P3):#470:ptrA−F: GCAAGAGCGGCTCATCGTCA
配列番号97(P4):#465:oryzaeL−F1: GTGACCTGGCGATGGTG
配列番号76(P5):#458:oryzaeR−R1: AGTTGGGCATCTCGGGC
【0094】
【表5】
【実施例8】
【0095】
麹カビ(Aspergillus oryzae)は発酵食品産業上重要な生物である。本発明によってアフラトキシン遺伝子クラスター類似領域を欠失しても産業上重要な酵素活性に影響せず、実用上問題ないことについて検討を行った。
【0096】
[酵素活性に対する影響]
1.材料
3種類の原料を用い、以下のように培養後、それぞれの麹について酵素活性を測定した。
1)α化米の作製
90%精白米(国産米)を十分に吸水させた後、定法に従い水切り・蒸しを行った。蒸気を軽く抜いた後、90℃の通風乾燥機で18時間乾燥し、α化米とした。乾燥途中に数回手入れを行って固まりをほぐし、乾燥終了後には5ミリ程度のアミで固まりを取り除いた。
2)α化麦の作製
約65%精麦の国産大麦を1時間浸せき後、2時間水切りを行った。その後の処理はα化米と同様に実施した。
3)α化米・α化麦麹
滅菌した300ml容三角フラスコ(メリクロン)にα化米・α化麦20gを分注し90℃2時間殺菌した。冷却後、原料1gあたり1×106個の分生子を接種し、殺菌水10mlを添加、よく攪拌した。十分に吸水したのを確認した後、再度攪拌して、培養を開始した。
培養は42時間、恒温機を用いて30℃で行った。培養中18時間目、32時間目に攪拌を行い、水分及び品温の均一化を図った。
4)醤油麹
脱脂大豆に重量に対して130%の水を加え、十分に攪拌した。これを300ml容三角フラスコ(メリクロン)に10g分注し、割砕小麦6gを加え1kg/cm2 20分で蒸煮を行った。冷却後、分生子を原料重量あたり1×106個接種し、恒温恒湿機(タバイエスペック株式会社、PR−4SP)を用いて、製麹を行った。培養条件は、24時間まで28℃、以後25℃で管理し、培養42時間目に出麹とした。途中、24時間目、32時間目に麹を撹拌し、水分及び品温の均一化を図った。
【0097】
2.分析法
(1)粗酵素液の抽出
培養した麹10gに0.5%NaCl水溶液50mlを加え、室温で3時間酵素(時々攪拌)を抽出した。次いで、東洋ろ紙No.5Cにてろ過を行い、得られた上澄液を定法に従い透析して粗酵素液とした。これを適宜希釈して酵素活性を測定した。
(2)酵素活性の測定
1)プロテア−ゼ
国税庁所定分析法注解(第4回改定国税庁所定分析法注解 注解編集委員会編(日本醸造協会,東京),p.223(1993).)に準じて,Hammarsteinのミルクカゼイン(Merck社)2%溶液を基質として,反応温度38℃,反応pH3.0(酸性)、6.0(中性)における活性を測定した。活性の表示は38℃1分間にL−チロシン1μgを生ずる酵素量を1単位とした。
2)酸性カルボキシペプチダーゼ
国税庁所定分析法注解(第4回改定国税庁所定分析法注解 注解編集委員会編(日本醸造協会,東京),p.226(1993).)に準じて、0.5mMCbz−Glu−Tyr溶液を基質として,反応温度30℃,反応pH3.0における活性を測定した。30℃60分間にチロシン1μgを遊離する酵素量を1単位とした。
3)α−アミラ−ゼ
国税庁所定分析法注解に(第4回改定国税庁所定分析法注解 注解編集委員会編(日本醸造協会,東京),p.218(1993).)に準じて,可溶性デンプン1%溶液を基質として反応温度40℃,pH5.0における活性を測定した。活性は40℃30分間に1%可溶性デンプン1mlを分解する酵素量を1単位(Wohlgemuth値)とした。
4)グルコアミラーゼ
国税庁所定分析法注解に(第4回改定国税庁所定分析法注解 注解編集委員会編(日本醸造協会,東京),p.213(1993).)準じて,可溶性デンプン2%溶液を基質として反応温度40℃,pH5.0における活性を測定した。活性は40℃1時間に1mgのグルコースを遊離する酵素量を1単位とした。
5)ホスファタ−ゼ
難波らの方法に(難波康之助・戸塚 昭・伊藤 清:醸協,72,893 (1977).)より準じて,10mM p-Nitrophenyl phosphate disodium溶液を基質として反応温度30℃,反応pH5.0における活性を測定した。活性は30℃1時間に1μMのp-Nitrophenolを遊離する酵素量を1単位とした。
6)ペクチン糖化力
0.5%ペクチン(リンゴ由来、Wako(株)製)溶液を基質として反応温度40℃,反応pH4.0における活性を測定した。活性は40℃で1時間にガラクツロン酸1μgを遊離する酵素量を1単位とした。
7)ペクチン酸糖化力
1%ポリガラクツロン酸(オレンジ由来、Sigma(株)製)溶液を基質として反応温度40℃、反応pH4.0における活性を測定した.活性は40℃で1時間にガラクツロン酸1μgを遊離する酵素量を1単位とした。
8)β−グルコシダーゼ
太田らの方法(太田剛雄・下条寛和・橋本憲治・近藤洋大・佐無田隆・大場敬輝:醸協,86,536 (1991).)に準じて、4mM p-Nitrophenyl -β-D-glucoside溶液を基質として反応温度37℃,反応pH5.0における活性を測定した。活性は37℃、1分間に1μMのp-Nitrophenolを遊離する酵素量を1単位とした。
【0098】
3.結果
上記項目に関する分析項目について、野生型麹カビRIB40株及び実施例7で得られた遺伝子欠損株RIB40(#80−4)を用いて検討した。結果を表6に示す。麹の酵素活性では、遺伝子欠損株において有意な差はみられなかった。
【0099】
【表6】
【0100】
[胞子着生量の検討]
1.種麹作製試験
97%精白米(国産米)を十分に吸水させ、定法に従い水切り・蒸しを行った。冷却後、300ml容三角フラスコ(メリクロン)に20g分注し1kg/cm2 1分殺菌した。
麹菌としては、野生型のRIB40及び前記実施例欠失変異体RIB40(#80−4)を使用した。
麹菌の接種は麹菌を培養した斜面培地から数ミリを切り取り、それをフラスコに入れ、よく攪拌した。
培養は、培養24時間まで恒温恒湿機(タバイエスペック株式会社、PR−4SP)を用いて、温度30℃、RH98%の条件で、以後出麹(培養は7日間)まで30℃の恒温機で行った。培養24時間目に麹を撹拌し、水分及び品温の均一化を図った。
培養終了後、35℃で18時間乾燥した麹(種麹)100gを120メッシュの篩いにかけ、アミを通過した分生子を回収、重量を測定した。分生子数はしょうゆ試験法(しょうゆ試験法 しょうゆ試験法編集委員会編:、(日本醤油研究所、東京)、p.275(1985))に従い、トーマ氏血球計を用いて測定した。
【0101】
2.結果
上記の方法により種麹を作製し、種麹100gあたりの胞子量を測定した値を胞子収量とした。野生型RIB40では8.0g、遺伝子欠損型RIB40(#80−4)では7.2gであった。
【実施例9】
【0102】
[フザリウム属菌の広範囲遺伝子領域の欠失]
フザリウム属の株は、畑等の土壌に多く成育し、特に麦やとうもろこしについてカビ毒を作る。これらが生産するカビ毒は、トリコテセン系カビ毒やゼアラレノンなど多くの種類がある。この中でトリコテセン系カビ毒であるデオキシニバレノールとニバレノール及びゼアラレノンは、日本、カナダ、アメリカ、フランス、イギリスなど多くの国で麦類を汚染していることがわかり、大きな問題となっている。フザリウム属菌のトリコテセン生合成の分子レベルでの概要は既に解明され、フザリウム・グラミネラム(Fusarium graminearum)の全ゲノム配列も公開された。トリコテセンの生産に関与する種々の遺伝子は遺伝子クラスターを形成していることが明らかになっている。フザリウム・グラミネラムの主要な遺伝子クラスター(Tri5クラスター)は、10個のORFを含んでおり、機能が明らかになっている遺伝子もある。そこで、遺伝子クラスター領域の欠失株の作出を本発明の手法を用いて行った。その結果、3種の遺伝子、Tri11, Tri12,Tri13を含んだ約7.5kbの領域を、本発明と同じ方法を用いて欠失するのに以下のように成功した。
【0103】
フザリウム属カビの場合、ハイグロマイシンB耐性遺伝子が選択マーカーとして利用でき、遺伝子欠失のコンストラクトとしてはこの選択マーカーを挟んでTri11より外側の2kbの配列とTri13より外側の約2kbの配列をつなげた構造をダブルジョイントPCR法によって作成し、これによって、フザリウム・グラミネラムを形質転換した。形質転換後、ハイグロマイシンBを含む培地で培養し、ハイグロマイシンB耐性株を選抜後、耐性株のそれぞれについてDNAを抽出した。そして、適当なプライマーの組み合わせを用いて目的の遺伝子領域の欠失を確認し、変異体を選抜した。最終的に得られた変異株については、遺伝子構造の変化を以下のプライマーを用いてPCRを行い、得られたPCR産物を宿主と比較することにより確認した。図19に、フザリウム野性株とトリコテセン遺伝子領域7.5kb領域が欠失したフザリウム変異株の遺伝子構造の概略とプライマーの位置を示す。また、前記の各プライマーセットを使用してPCRを行った場合に予想されるPCR産物のサイズを表7に示す。予想されるサイズのPCR産物の生成を電気泳動で確認した結果、3種の遺伝子、Tri11, Tri12,Tri13を含んだ約7.5kbの領域の欠失が確認できた(図20)。
【0104】
<プライマー:Fragment 3>
配列番号98:#639(Fg3−XhoI−F):CCCTCGAGAGGGATGGTCCACAGC
配列番号99:#665(hph−np−R):TCGCGGTGAGTTCAGGC
配列番号100:#648(Fg3−R):TGGCAAGAACAGTTTGGG
配列番号101:#690(Tri11−F):AACTGTTCTTGCCAGCATC
配列番号102:#691(Tri11−R):TCAACAAGTTTGCAGAGAAC
配列番号103:#692(Tri12−F):TTCCGATTTCTTTTGGGTAC
配列番号104:#693(Tri12−R):TCCAGTTTGAAGAACTGGC
配列番号105:#694(Tri14−F):GCCTAAAGGCAACATCAAC
配列番号106:#695(Tri14−R):CCGTTGTTGAGACGCAAC
配列番号107:#666(hph−down−F):TCGTCCGAGGGCAAAGG
配列番号108:#619(Fg2−seq−r2):AGTATACAGAATCTCAGGC
配列番号109:#668(Tri14−right−F):GTAAGAGCAGCAGGTTCG
配列番号110:#619(Fg2−seq−r2):AGTTATCAGAATCTCAGGC
【0105】
【表7】
【0106】
トリコテセン遺伝子クラスターの場合、クラスター中央の領域にカビの生育に必要な遺伝子が含まれるため、クラスター全体を欠失させた変異株は得られなかった。そこで、生育に関係しない領域について広範囲の遺伝子領域の除去を本発明の手法で行った結果、7.5kbの領域が欠失した変異株が得られた。そして、この欠失株ではトリコテセン系のカビ毒であるデオキシニバレノールの生産性の顕著な減少が観察され、一方、顕著な形態変化は見られなかった。以上の結果から、フザリウム属菌においても本発明の手法が有用であることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明のpAF−DD1の概略を示す図である。
【図2】本発明のアフラトキシン遺伝子クラスター領域6.6kb領域の欠失株であることを確認した電気泳動結果を示す図である。
【図3】本発明のpAF−DD2ベクターの概略を示す図である。
【図4】本発明のアフラトキシン産生遺伝子欠失を確認した電気泳動結果を示す図である。CKはコントロールの宿主菌株である。
【図5】本発明のアフラトキシン産生遺伝子の欠失が確認された菌株について、さらに詳細な遺伝子欠失の確認結果を示す図である。CKはコントロールの宿主菌株である。
【図6】本発明のアフラトキシン生産性が産生されなくなったことを紫外線写真法により確認した結果を示す図である。3つのコロニーのうち上のコロニーは、宿主SYS−4株、下の2つはpks−vbs欠失株である。アフラトキシンを産生する宿主SYS−4株では紫外線吸収がおこるため黒い像が、欠失変異体においてはアフラトキシンが産生されないため白い像が見られる。
【図7】本発明の薄層クロマトグラフィーによるアフラトキシン生産性の比較を行った図である。1はpks−vbs欠失株:培養液を10μlスポット、2はSYS−4宿主株:培養液を5μlスポットしたものである。カビは主に4種のアフラトキシン(上のスポットからB1、B2、G1、G2)を産生する。
【図8】本発明のpVBS−SD2ベクターの概略を示す図である。
【図9】本発明のアフラトキシン遺伝子クラスター領域vbs遺伝子破壊株であることを確認した電気泳動結果を示す図である。
【図10】本発明のpAF−DD3ベクターの概略、及びvbs遺伝子が既に破壊されているniaD欠損株における相同組換えの概略を示す図である。
【図11】本発明のpAF−DD3ベクターの概略、及びvbs遺伝子が破壊されていないniaD欠損株における相同組換えの概略を示す図である。
【図12】本発明のアフラトキシン遺伝子クラスター領域49kb領域の欠失株であることを確認した電気泳動結果を示す図である。
【図13】本発明のアフラトキシン産生遺伝子の欠失が確認されたniaD欠損株について、さらに詳細な遺伝子欠失の確認結果を示す図である。CKはコントロールの宿主菌株である。
【図14】本発明のpAF−WDベクターの概略を示す図である。
【図15】本発明のアフラトキシン産生株の胞子と非産生カビの胞子の割合を変えてアフラトキシンの産生を調べた結果を示す図である。(A)産生カビ、非産生カビの同時接種、(B)非産生カビを接種後1日経過時点で産生カビを接種したものである。
【図16】本発明のpAF−DDベクターの概略を示す図である。
【図17】本発明の、pAF−DDをBspHIとXmaIで処理して、1.5kb aflTと1.5kb moxY領域が2kb ptrA領域を挟んだ直鎖DNA断片の構造を示す図である。
【図18】本発明のアフラトキシン産生遺伝子の欠失が確認された#80−4番菌株について、さらに詳細な遺伝子欠失の確認結果を示す図である。CKはコントロールの宿主菌株である。
【図19】本発明のトリコテセン遺伝子領域7.5kb領域が欠失したフザリウム変異株とフザリウム野性株の遺伝子構造の概略を示す図である。
【図20】本発明のトリコテセン遺伝子領域7.5kb領域の欠失株である事を確認した電気泳動を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、染色体上の広範囲遺伝子領域欠失変異株やその生産方法等に関し、より詳しくは、生物の染色体上数キロベースより長く離れた2箇所の配列、例えば5kb以上、15kb以上、30kb以上、50kb以上、更に100kb以上離れた2箇所の配列を、選択マーカー遺伝子配列単独又は選択マーカーに導入を目的とする配列を繋いだ構造を中央に挟むように繋げたカセットを作り、それを細胞に形質転換し、広範囲の遺伝子領域を欠失する方法及び広範囲の遺伝子領域を他の配列と置換する方法や、これら方法により得られる広範囲遺伝子領域欠失変異株に関し、変異株の選択には、まず選択マーカーの性質を利用して染色体上に遺伝子が導入された生物を選択し、次に各変異株について遺伝子構造の変化を直接調べて、目的の遺伝子領域欠失変異体及び遺伝子領域置換変異体を選抜する方法、また、宿主由来の選択マーカー配列及び遺伝子配列を用いることにより、セルフクローニングによる広範囲遺伝子領域の欠失変異体及び置換変異体の作出に関する。
【背景技術】
【0002】
生物の生命現象すべては、生物が有する遺伝子にその情報が保存され、いろいろな時期に適切に発現することによって生命現象が営まれる。近年種々の生物のゲノム研究によって、生物の染色体上の多くの領域は広範囲に蛋白質をコードせず、生命現象に関与しないと予想される、いわゆるジャンク領域であることが明らかになってきている。また、微生物や植物で見られる二次代謝は生物の生存には直接必要ではなく、二次代謝を阻害しても生物の生存可能であることは良く知られている。二次代謝に関与する遺伝子の多くは染色体上数kbから数10kbに及ぶ大きな遺伝子クラスターを形成している。以上のことから、広範囲に遺伝子領域を除去しても生物の営みには少なくとも大きな影響を与えないような領域が染色体上に多く含まれると予想される。
【0003】
カビが生産する二次代謝物質の中にはアフラトキシン等の毒性物質(カビ毒)があり、これまでに300種以上のカビ毒が報告されている。中でもアフラトキシンは自然界で最強の発ガン性を示すとともに強力な急性毒性を示す。アフラトキシンは主としてアスペルギルス・フラバス(Aspergillus flavus)とアスペルギルス・パラジチカス(A.parasiticus)に属する一部の菌が生産し、アフラトキシン生産菌は主として熱帯・亜熱帯地域の土壌に常在する。しかし、温帯の米国でも干ばつ等の気候変動で大規模なアフラトキシン汚染が起こることがある。我が国の本州以北の土壌ではアフラトキシン生産菌は検出されないが、さらに南の地域、例えば沖縄では汚染の報告がある。我が国は穀物の約60%を輸入に頼っており、また穀物は世界で貿易されるため、輸入穀物のアフラトキシン汚染は厳重に検査されており、そのために使われる費用は莫大なものがある。一方、アフラトキシン生合成には18種以上の酵素が関与しているが、これら酵素をコードする遺伝子を含めてアフラトキシン生合成に関与する25以上の遺伝子群がカビの染色体上約70kbに及ぶ領域に大きな遺伝子クラスターを構成している。
【0004】
ステリグマトシスチンはやはりカビ毒であるが、アフラトキシンの中間体でもあり、アフラトキシンに比べれば弱いが、やはり強力な発ガン性及び毒性を示す。アスペルギルス・ニジュランス(A.nidulans)やアスペルギルス・ベルシカラー(A.versicolor)等を含む20種以上の多くのカビが、最終産物としてステリグマトシスチンを生産する。これらステリグマトシスチン生産カビは日本本州でも常在し、穀物のステリグマトシスチン汚染の可能性は我が国においても重要な問題である。ステリグマトシスチン生合成経路は、アフラトキシン生合成経路中ステリグマトシスチン中間体までの経路と同一である。ステリグマトシスチン生産関連遺伝子は、染色体上約60kbに及ぶ遺伝子クラスターを構成している。
【0005】
これらのカビが有害物質を生産しないようにするには、いろいろな方法がある。例えば、種々の変異処理を行い塩基置換による変異体を得る方法もあるが、常に復帰変異が起こる可能性を念頭に置かなくてはならない。また、生産に関与するいずれかの遺伝子を破壊すれば生産を抑えることができるが、有害な中間体が蓄積する可能性があり、また、一遺伝子破壊ではわずかに活性が残ることが多い。これは、生体内の別の酵素が群特異性によって反応を触媒するためと考えられる。したがって、完全にカビ毒の生産を抑えるには、遺伝子クラスターを丸ごと除去することがもっとも確実な方法である。
【0006】
アフラトキシンやステリグマトシスチンなど多くのカビ毒は熱に安定で、また分解も容易ではない。カビのアフラトキシン生産を効果的に防御できる方法も未だ開発されていない。しかし、近年アメリカでは、耕作土壌や収穫後の穀物にアフラトキシン非生産カビの胞子を散布して、アフラトキシン汚染を減少させる方法が開発されてきている。つまり、アフラトキシン非生産カビの胞子を大量に調製し、微生物農薬として土壌や穀物保管倉庫に過剰に添加し、環境中のアフラトキシン生産菌と感染機会を競合させるもので、有意にアフラトキシン汚染量を減少できることが報告されている。このようなアフラトキシン非生産菌の胞子はバイオコントロール剤として現在、製品として販売されている。しかし、利用されているアフラトキシン非生産カビは研究室や会社で保存されているアスペルギルス・オリゼー(A.oryzae)やアフラトキシン非生産アスペルギルス・フラバスであり、実際に現場でアフラトキシン汚染を引き起こしているカビではない。そのため、気候、土壌、作物種などの環境要因に対するバイオコントロール剤の感受性は汚染現場に常在するカビとは微妙に異なると予想され、実際にバイオコントロール剤の環境への定着性は低い。そのためバイオコントロール剤は毎年、又はより頻繁に現場に散布する必要がある。そのため、安価な作物の栽培にはコストの点から利用が限られている。
【0007】
更に、我が国を含め東アジアでは発酵食品が好まれており、発酵食品生産には麹カビが利用されている。麹カビであるアスペルギルス・オリゼーやアスペルギルス・ソーヤ(A.sojae)は分類学上アフラトキシン生産菌アスペルギルス・フラバスやアスペルギルス・パラジチカスと極めて近縁であり、これらは、いわゆるアフラトキシン関連物質を作らないように”家畜化された” アスペルギルス・フラバスと考えられている。これまでアフラトキシンの生産が検出された麹カビは一例もなく、麹カビの安全性については確認されている。しかし、近年の遺伝子研究技術の発展により、麹カビの半数以上がアフラトキシン遺伝子クラスター類似の広範囲遺伝子領域を有し、それ以外もかなりの領域又は少なくとも複数の類似遺伝子を含むことが明らかになっている。これらの遺伝子領域が存在しても機能していないことは明らかであるが、アフラトキシン関連遺伝子領域の存在は、消費者に対して食品の安全性をアピールする際には問題がある。また、麹の渇変原因遺伝子mel等の存在は、食品に色をつける可能性があり、望ましくないとされる場合がある。以上のように産業上好ましくない性質の遺伝子や有害物質関連遺伝子を除去することができれば、糸状菌の利用の可能性は大きく広がると考えられる。
【0008】
一方、カビや細菌を利用した遺伝子組み換え技術として、従来から生物の染色体と相同な領域を選択マーカー遺伝子の両側に含む遺伝子断片を生物に導入して、2回交差の相同組換えによって数キロbp程度の遺伝子領域の欠失や置換が生じた生物作出する方法は、短い遺伝子領域を改変するための一般的な方法として利用されている。生物に遺伝子導入をした場合、遺伝子断片と染色体上同一の配列を有する部位で組換えが起こる相同組換えと、遺伝子断片とは全く異なる配列に挿入される非相同組換えが起こる。生物一般に起こる現象であるが、特に真核生物では非相同組換えの率が高く、目的とする変異株の選抜を難しくしている。さらに、特定の遺伝子領域を丸ごと欠失したり、他の遺伝子又は遺伝子領域を置換したりするには、2箇所の相同領域で相同組換えが起こることが必要で、目的の変異株が得られる確率は一層低下する。したがって、従来、遺伝子改変して目的とする変異株を得るには、目的とする変異株が特徴的な表現型を示すこと、又は、変異する遺伝子の機能があらかじめ予想できていてその性質に基づいて変異株を選抜できることが、多くの場合で必要であった。加えて、遺伝子機能が不明である場合や顕著な表現系の変化がない場合には、目的の変異株の選抜は困難であり、変異株の獲得は断念される場合が多かった。
【0009】
更に、上述したように、麹カビにおいては一つの胞子が2個以上の核を含む多核胞子の割合が高いため、胞子を培養して集落を作らせても変異を有する一つの核の性質が表現形質の変化として現れにくく、目的の変異株を選抜することは極めて困難である。特に、あらかじめ得られる変異株の形態変化や酵素活性の変化に関する情報が得られない際には、目的とする変異株の選抜は多核胞子中の核の中から目的とする変異株の核だけを分けとるか、多核胞子を培養し、継代するにしたがって分離して得られてくる変異株を選抜する必要がある。しかしながら、このような方法では、種々の形質転換株の中に極めてわずかにしか含まれないので、目的の変異株を選抜することは現実的には不可能である。
【0010】
また、非常に多くの、例えば100個以上の沢山の形質転換体について、遺伝子構造を全て調べるためには、形質転換体それぞれからDNAを抽出する必要がある。大腸菌や酵母では直接菌体をPCR溶液に添加してPCR産物を得るいわゆるコロニーPCRが可能であるが、特に、上記のようなカビや植物など強固な細胞壁を有する生物では、従来核酸の溶出は困難であり通常は乳鉢で液体窒素存在下に細胞を破砕してDNAを抽出するため、一度に沢山の菌体の分析は極めて困難であった。しかし、近年、本発明者らが鋭意研究を行った結果、微量細胞破砕装置を用いて、多数の、そして少量のカビ菌体から短時間のうちに安価にDNAを溶出する方法を確立した(例えば、非特許文献1参照)。
【0011】
これまで染色体上の広範囲遺伝子領域を除去する技術として報告されてきたものは、相同組換えの頻度を高めるために染色体上の二箇所の離れた領域に組換え酵素の基質となる特殊な配列を別々に挿入し、この配列間の組換えを選択的に触媒する酵素遺伝子を細胞内で発現させて、特殊な配列間で特異的に交差を起こし、広範囲遺伝子領域を相同組換えによって欠失させるものである。これらの方法では、特殊な配列と配列に特異的な組換え酵素の利用により得られる組換え体は、ほとんどが目的とする組換え体であり、上記した変異株の選抜の問題を回避することができる。これらの方法としては、λ-red recombination system,Cre/loxPシステム、Flp/FRTシステム、メガヌクレースをもちいた遺伝子置換法等がある。たとえば、Cre−loxP法を用いて広範囲遺伝子領域を除去する方法では、染色体上の離れた二箇所にloxPと呼ばれる特有の配列を組み込み、別に細胞内で組換え酵素Creを発現することでloxPの間の組換えを起こし、最終的に2つのloxPで挟まれていた領域を除去する方法が知られていた。
【0012】
また、有性世代を有さない生物の遺伝子ターゲッティングによる遺伝子破壊あるいは遺伝子置換に必要な相同組換え効率の良い菌株を提供するため、アスペルギルス・ソーヤ及びアスペルギルス・オリゼー等に代表されるトリコモナス科糸状菌に属し有性世代を持たない菌を用いて、Ku遺伝子破壊株及びアンチセンスRNA法等によるKu遺伝子を抑制することによって相同組換え(ターゲッティング)頻度が上昇した変異株、及び、該変異株を使用する遺伝子ターゲッティング法により、遺伝子破壊株、遺伝子欠失株、遺伝子置換株、遺伝子挿入株、又は染色体改変株を作成する方法(例えば、特許文献1参照)や、真核生物細胞等の所望の細胞の相同組換え率を上昇させるために、非相同組換えに必要な因子、例えば、Ku70、Ku80をコードする遺伝子に突然変異を導入し、又は該遺伝子を破壊することにより、機能喪失を引き起こしたとき、細胞に外来性DNAを、電気ショック法等により導入して相同組換えを行わせ、細胞の相同組換え頻度を促進させる方法(例えば、特許文献2参照)が知られているが、これらの方法では、ku破壊株を作る必要があり、さらにku破壊株における非相同組換え活性の変化が他の面でもカビに影響を与える可能性がある。
【0013】
【特許文献1】特開2006−158269号公報
【特許文献2】特開2005−237316号公報
【非特許文献1】Ying Wen, Hidemi Hatabayashi, Hatsue Arai, Hiroko Kitamoto, Kimiko Yabe. Function of the cypXand moxY genes in aflatoxin biosynthesis in Aspergillus parasiticus. Applied and Environmental Micorbiology 71:3192-3198 (2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
染色体レベルの広範囲の遺伝子領域を欠失させる場合、例えば、染色体5キロベース以上、好ましくは15キロベース以上、より好ましくは50kb以上、特に好ましくは100kb以上離れた二箇所の配列を対象としたとき、2重交差が起こる確率は極めて低く、通常1%以下である。そのため染色体レベルの広範囲遺伝子領域の改変には2回交差による相同組換株の作出は利用されてきていなかった。実際、導入遺伝子断片の一方又は両方が、非相同的に染色体に挿入されて生じる変異株の割合は高く、広範囲遺伝子領域を欠失させたり、他の遺伝子領域に置換させたりすることは極めて困難である。また、麹カビのように、1つの胞子が2個以上の核を含む多核胞子の割合が高い生物については、1つの核の変異が表現型の変化として現れないため、目的の変異株を選抜することは極めて困難であった。
【0015】
さらに、あらかじめ得られる変異株の形態変化や酵素活性の変化に関する情報が得られない際には、目的とする変異株の選抜は、多核胞子中の核の中から目的とする変異株の核だけを分けとるか、多核胞子を培養し継代するにしたがって分離して得られてくる変異株を選抜する必要があるが、このような方法で種々の変異株からわずかに含まれる目的の変異株を選抜することは、実際には不可能である。また、目的とする変異株が特徴的な表現型、すなわち、形態や物質の生産性の変化等容易にその変化を検出できる形質を有している場合には、その形質は選抜に役立つが、狭範囲遺伝子領域の改変を行った場合でも、また広範囲遺伝子領域の改変を行った場合でさえも表現型の有意な変化が起こらないこともあるため、変異株の形質変化を予想することは通常困難であり、目的どおりの遺伝子領域改変が起こっているかを確認するためには、遺伝子構造の変化を確認する必要があった。
【0016】
本発明の課題は、アフラトキシン生合成に関与する遺伝子クラスターを構成するカビの染色体上約70kbに及ぶ領域等の、広範囲の遺伝子領域を欠失する方法及び広範囲の遺伝子領域を他の配列と置換する方法や、広範囲の遺伝子領域を欠失した変異株の生産方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らはアフラトキシン生産菌アスペルギルス・パラジチカスのアフラトキシン遺伝子クラスターを除去する方法を確立するため、まずはCre/loxPの系の利用を検討した。Cre/loxPを用いて遺伝子領域の欠失を行うためには、合計3つの選択マーカーが基本的に必要となる。欠失したい領域の二つの端に、loxP配列を、それぞれ方向をそろえて導入する必要がある。そのためには、各loxPに選択マーカーが必要であり、つまり2つ選択マーカーが必要である。さらに、導入したloxP配列間で相同組み換えを起こすために、組み換え酵素Creを細胞内で発現させる必要があり、Creの遺伝子を細胞内に導入するための選択マーカーがもう1つ必要である。
【0018】
アスペルギルス・パラジチカスの場合、使用できる選択マーカーの数が極めて限られており、薬剤選択マーカーとしてはピリチアミン耐性遺伝子(ptrA)しか得られていない。これ以外の硝酸還元酵素をコードする遺伝子(niaD)等を選択マーカーとする場合は、niaD欠失株等の栄養要求性変異株を作る必要があり、栄養要求性変異株の作出も容易ではない上に、2つの栄養要求性変異を導入することで野生株とは離れた株を宿主として利用せざるをえないという問題がある。特に、アスペルギルス・パラジチカスの系に限らずアスペルギルス・フラバスグループでは極めて使える選択マーカーの数が限られているという問題が非常に大きな障害となっており、また、変異株の作製も容易ではないなど問題がある。
【0019】
本発明者らの研究では、2つの栄養要求性が含まれるアスペルギルス・パラジチカス変異株の入手ができないという問題点があった。そこで、本発明者らは、このカビで一般的に使われている栄養要求性マーカーが硝酸還元酵素遺伝子niaDであることから、この遺伝子に関する変異株を入手し、niaDとptrAという二つの選択マーカーを用いて、Cre/loxP系の利用を検討することとなった。
【0020】
まず、niaD選択マーカー、loxP、及び、導入の標的となる遺伝子であるアフラトキシン遺伝子クラスターのvbs遺伝子の配列を含むプラスミドを構築し、vbs遺伝子配列の内部で一箇所切断し、できた線状のプラスミドを宿主に導入して、vbs遺伝子の部分で一回交差してベクターが導入された変異株を選抜した。この場合、vbs遺伝子はアフラトキシンクラスター上の遺伝子で、アフラトキシン生産の途中の酵素をコードしているため、この遺伝子で交差した変異株はアフラトキシン生産性が顕著に減少するとともに、この遺伝子が関与する反応段階の直前の色素性中間体が菌糸中に蓄積する。したがって、マーカー遺伝子の選抜の後、さらに色素の蓄積を指標に目的とする変異株を絞り込んでいくことができた。こうして選抜した変異株について、次に遺伝子構造の変化をPCRで確認することで、vbs領域にloxP配列を含むベクターが導入された変異株を作製するのに成功した。
【0021】
次に2つ目のloxPを導入する必要があったが、使える選択マーカーがptrAしかなかったため、ptrAを含む導入プラスミドにloxP配列とCre酵素遺伝子発現領域との両方を組み込み、これをクラスター中のpksA配列に導入する計画を立てた。ベクター中には、niaD、loxP、標的のpksA配列、Cre酵素の配列、さらにcre遺伝子を発現するためのタカアミラーゼA遺伝子(amyB)プロモーター領域を組み込む必要があった。しかし、このような沢山の遺伝子を組み込んでいって、目的のプラスミドを得ることは、種々の組み込み方法を検討したにもかかわらず大変困難であった。この原因について時間をかけて検討したが、その原因の1つに、プラスミドサイズの問題があるという結論が得られた。つまり、このベクターは沢山の遺伝子領域を含むために大きなものとなる。一方、プラスミドは大腸菌に組み込んで増幅するが、通常研究で一般的に使われる大腸菌を用いた場合、効率よく形質転換されるプラスミドの大きさには限度があり、今回の試みではなかなか目的のサイズのプラスミドが取れなかった。つまり、形質転換できた場合でも、大腸菌を培養している間にプラスミドが分解してきているらしく最終的にプラスミドサイズが小さくなったものが優先的に増幅されることが多かった。そのため、基本ベクターを他のものに変えたり、大きなプラスミドも導入できると報告されている大腸菌の株を用いたりするなど、種々の条件を変更することで、カビの形質転換に使える量の形質転換ベクターを得ることができた。
【0022】
得られたベクターをpksA遺伝子内部で一回切断後、loxP配列が一つ導入されているカビに形質転換し、pksA遺伝子で一回交差してベクターが丸ごと導入された形質転換体の作出を試みた。選抜には、まずピリチアミン耐性選択マーカーで選抜(ピリチアミンを含む培地で生えてくる株)した。pksA遺伝子内部に導入された場合、pksA遺伝子の機能が破壊される。pksA遺伝子はアフラトキシン生合成経路のごく初期に関与しているため、この遺伝子が破壊されるとvbs遺伝子破壊で蓄積していた色素性アフラトキシン中間体の生産もなくなる。したがって、ピリチアミン耐性株の中から、色素の蓄積がなくなった白い菌糸を示す株を選抜した。こうして得られた株について遺伝子構造をPCRで確認することで、2つ目のloxP配列が導入された変異株を選抜した。
【0023】
このようにして得られた株について、cre酵素の発現を試みた。cre遺伝子の上流にタカ‐アミラーゼA遺伝子(amyB)プロモーターをつなげているが、このプロモーターはマルトースやでんぷんを培地に加えることによって誘導される。そこで、培地にこれらの炭素源を加えて変異株を継代し、遺伝子領域の欠失を検討した。しかし、目的とする広範囲領域の破壊株は得られなかった。種々のcre遺伝子の誘導条件を検討し、cre遺伝子の発現誘導はRT−PCRによって確認されたが、それでも目的とする株が得られなかった。cre遺伝子の高発現条件や、酵素活性の至適条件が得られていなかったためと予想されるが、多くの検討と試みにもかかわらず、目的とする広範囲遺伝子領域欠失株は得られず、この方向の研究を断念した。
【0024】
以上のように、cre/loxPの系は基本的に3個の選択マーカーが必要であるため、利用できる選択マーカーの数がそれに満たない場合は、利用が大変困難である。また、広範囲遺伝子領域の破壊では、離れた、少なくとも二箇所の領域に段階的にloxP配列を導入する必要があり、さらに、Cre酵素遺伝子の導入が必要であるため、欠失させるのに必要な構造を構築するのに少なくとも3段階のステップが必要で、おのずと複雑な手法と言える。さらに、Cre酵素遺伝子を導入しても、Cre発現の至適条件を得るのは容易なことではない。本発明者らは約1年半の間、cre/loxP系によるアフラトキシン遺伝子クラスターの欠失を試みたが成功には至らなかった。
【0025】
また、特に麹カビの場合、もともとアフラトキシン及びアフラトキシン中間体の生産がないので、遺伝子を除去しても、アフラトキシン生産性の変化やアフラトキシン中間体の色の変化を指標に目的の変異株を選抜することができず、したがって、選択マーカーで選抜した変異株の中で、極めてわずかしか含まれない目的の変異株を選抜することはほとんど不可能と考えられてきた。本発明者らも含め当業者であれば、このような場合には非相同組み換えに比べて相同組み換えの頻度が顕著に上昇するようなシステムの構築を考え、cre/loxP系やku株の系の開発を検討する。このようにして得られる変異株のたとえば50%が相同組み換えによる目的の変異株であれば、数個程度の変異株について遺伝子構造を調べれば、かならず目的の変異株を見い出すことができ、調べる数が少ないので、遺伝子構造の確認もそれほど大変ではないだろうという発想が、本出願前の本発明者らも含めた当業者の研究開発の方向であった。しかし、上述したように、アスペルギルス・パラジチカスのアフラトキシン遺伝子クラスターを、Cre/loxPの系を利用して除去する試みに成功しなかったことから、研究開発の方向を大きく転換することを余儀なくされた。
【0026】
そこで本発明者らは、上記課題を解決するため、研究方針を変え、1)広範囲遺伝子領域破壊のための遺伝子置換カセットの構築、及び2)目的とする変異株の選抜方法という以下に示す方法について検討を行うこととした。
1)導入遺伝子構造として、染色体上、長さが少なくとも5kb以上、15kb以上、50kb以上、又は100kb以上離れた2つの領域と同一の2つの遺伝子配列を、選択マーカー又は選択マーカーと着目の遺伝子領域の配列を含んでつなげた遺伝子カセットを作製し、プロトプラスト等に形質転換する。2種の選択マーカーを利用できる場合には、ポジティブ−ネガティブセレクションが可能なように、上述のカセットの一方の外側に2つ目の選択マーカーの配列を導入する。
2)導入遺伝子断片の2つの相同遺伝子領域と染色体上の相同領域でそれぞれ相同組換えが起こった変異株を選抜するために、まず選択マーカーの性質を利用して選抜し、その後、変異株の遺伝子構造の変化を直接調べることにより、目的の変異株を選抜する。
【0027】
上記方法は、基本的に、選択マーカーで選抜したできるだけ多くの変異株のすべてについて、遺伝子を調べるという方法で、極めてわずかしか含まれないだろう目的の変異株を労力で選抜するという大変泥臭い方法であるが、麹カビのようにアフラトキシンを生産しないカビでも問題なく利用できる上に、カビの生存に影響しない領域、又は影響しないような培養条件が得られる領域であれば、どのような領域でも、すべて欠失、又は改変できる技術といえる。そして、染色体上、長さが少なくとも5kb以上、15kb以上、50kb以上、又は100kb以上離れた広範囲遺伝子領域を簡便に除去する方法及び同広範囲領域を他の遺伝子領域に交換する方法として、PCRや遺伝子断片の結合により作られ、選択マーカーだけ、又は選択マーカーと着目の遺伝子領域の配列を含んだ内部ヌクレオチド配列に隣接する2つの相同性領域を含む挿入ベクターを、プラスミドに含まれた形又は遺伝子断片として構築し、形質転換を行った後、多くの変異株の中から、離れた2箇所の相同性領域で2回交差が起こった目的とする変異株を選抜してくる方法を見い出し、本発明を完成するに至った。
【0028】
このように本発明では、遺伝子構造の変化を調べることによって目的とする変異株を選抜し、最終的に広範囲の遺伝子領域が目的通りに改変されていることを、種々のプライマーを用いたPCRやサザーン法等で確認する。もちろん変異株の表現形の変化があれば有用な情報となるが、広範囲遺伝子領域の改変を確実にモニターするためには遺伝子構造の変化を直接調べることが有効であり、本発明によって、極めて信頼性の高い変異株選抜法が確立できたといえる。
【0029】
すなわち本発明は、(1)糸状菌の有害物質生産に関与する遺伝子領域又は少なくとも生存に必須でない遺伝子領域を含む広範囲標的遺伝子領域の両外側に位置し、染色体上で5kb以上離れた2つのDNA領域とそれぞれ相同組換えすることができる2つの相同DNA領域間に、選択マーカー遺伝子、又は選択マーカー遺伝子と所定の遺伝子領域を連結した広範囲遺伝子領域欠失用遺伝子カセットを作製し、該広範囲遺伝子領域欠失用遺伝子カセットを前記糸状菌に導入し、2回交差相同組換えが起こった変異株を、まず選択マーカーの性質を利用して一次選抜し、その後、変異株の遺伝子構造の変化を直接調べることにより二次選抜することを特徴とする広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法や、(2)糸状菌の有害物質生産に関与する遺伝子領域又は少なくとも生存に必須でない遺伝子領域が、糸状菌のアフラトキシン生産菌の遺伝子クラスター又は麹カビのアフラトキシン遺伝子クラスター類似領域であることを特徴とする上記(1)記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法に関する。
【0030】
また本発明は、(3)染色体上で5kb以上離れた2つのDNA領域が、染色体上で15kb以上離れた2つのDNA領域であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法や、(4)染色体上で15kb以上離れた2つのDNA領域が、染色体上で50kb以上離れた2つのDNA領域であることを特徴とする上記(3)記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法や、(5)選択マーカー遺伝子が、ピリチアミン耐性遺伝子(ptrA)又は/及び硝酸還元酵素をコードする遺伝子(niaD)であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法や、(6)一次選抜で得られた変異株から単核胞子を調製し、単核胞子由来の遺伝子構造の変化を直接調べることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法や、(7)PCR法又はサザーン法により変異株の遺伝子構造の変化を直接調べることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法や、(8)糸状菌の染色体上で5kb以上の有害物質生産に関与する遺伝子領域又は少なくとも生存に必須でない遺伝子領域を含む広範囲標的遺伝子領域が、選択マーカー遺伝子、又は選択マーカー遺伝子と所定の遺伝子領域で置換されて欠失した広範囲遺伝子領域欠失変異株や、(9)糸状菌の有害物質生産に関与する遺伝子領域又は少なくとも生存に必須でない遺伝子領域が、糸状菌のアフラトキシン生産菌の遺伝子クラスター領域又は麹カビのアフラトキシン遺伝子クラスター類似領域であることを特徴とする上記(8)記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株や、(10)糸状菌の染色体上で15kb以上の広範囲標的遺伝子領域が欠失したことを特徴とする上記(8)又は(9)記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株や、(11)糸状菌の染色体上で50kb以上の広範囲標的遺伝子領域が欠失したことを特徴とする上記(10)記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株や、(12)選択マーカー遺伝子が、ピリチアミン耐性遺伝子(ptrA)又は/及び硝酸還元酵素をコードする遺伝子(niaD)であることを特徴とする上記(8)〜(11)のいずれか記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株に関する。
【0031】
さらに本発明は、(13)アフラトキシン生産菌の遺伝子クラスターの全部又は一部が除去されたアフラトキシン非生産性アスペルギルス・パラジチカスや、(14)アスペルギルス・パラジチカス(FERM AP−20970)や、(15)アフラトキシン遺伝子クラスター類似領域の全部又は一部が除去されたアスペルギルス・オリゼーや、(16)アスペルギルス・オリゼー(FERM AP−20971)や、(17)上記(8)〜(12)のいずれか記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株、上記(13)若しくは(14)記載のアスペルギルス・パラジチカス、又は、上記(15)若しくは(16)記載のアスペルギルス・オリゼーを含むバイオコントロール剤や、(18)糸状菌の有害物質生産に関与する遺伝子領域又は少なくとも生存に必須でない遺伝子領域を含む広範囲標的遺伝子領域の両外側に位置し、染色体上で5kb以上離れた2つのDNA領域とそれぞれ相同組換えすることができる2つの相同DNA領域間に、選択マーカー遺伝子、又は選択マーカー遺伝子と所定の遺伝子領域を連結した広範囲遺伝子領域欠失用遺伝子カセットと、前記広範囲標的遺伝子領域が欠失したことを確認することができるプローブ又は少なくとも1対のプライマーセットとを備えた広範囲遺伝子領域欠失変異株のスクリーニングキットに関する。
【発明の効果】
【0032】
上述の染色体改変技術(cre/loxPシステム、λ−redレコンビネーションシステム、Flp/FRTシステム、メガヌクレースを用いた遺伝子転換)では、特殊な配列をあらかじめ挿入し、その間で相同組換えが起こるように組換え酵素を発現させて、目的とする変異株の出現頻度を上げたり、麹カビの場合には、非相同組換え活性を下げる変異をあらかじめ宿主に導入しておくことで相同組換えの割合を上昇させ、目的とする変異株の選抜が可能になっているものの、以下のような多くの問題点があった。
【0033】
1)これらの方法では、特定の配列を導入して、さらに組換え酵素の遺伝子導入をする必要があるため、複数の選択マーカーが必要であり、それだけの数の選択マーカーが利用できる系である必要がある。選択マーカーによっては宿主にあらかじめ変異を導入することが必要となる。
2)これらの方法では、細胞内で遺伝子組み換えのための特定の酵素遺伝子を発現させる必要があるが、酵素遺伝子の発現のための至適条件を決めることが必要であり、容易ではない。また、これらの方法では特殊な酵素や遺伝子配列が必要なため、2段階以上のステップから構成される複雑な系であり操作が極めて複雑である。
3)以上のような複雑で難しい方法であるため、いずれの方法も時間がかかる。
4)さらに、得られた破壊株の染色体の中に最終的に異種遺伝子が保持されてしまうため、作製された生物は異種間の遺伝子組換え体となる。したがって組み換え体を環境中で使用することは法の規制を受け、実用の面で困難が多い。
5)麹カビで報告されているku70破壊株による破壊法では、遺伝子領域除去のためにku70破壊株の作製があらかじめ必要であり、さらに操作が複雑であり時間がかかる。
【0034】
一方、本発明では、遺伝子コンストラクトの作製も容易であり、1つの選択マーカーがあれば十分であり、1回の形質転換をすれば、目的の欠失株が得られる。したがって、本発明は、cre/loxP系、又はcre/loxP系と同様の原理を持つ遺伝子改変システムとは比較にならないほど、容易で短時間に目的の変異株を得ることができるシステムを提供している。
【0035】
このように本発明によると、従来の方法と異なり、相同組換えが選択的に起こるような特別の配列や酵素の導入や非相同組換え活性の破壊は使用しないため、選択マーカーで選抜後の変異株の中で、目的とする2回交差変異株の割合は極めて少なく、表現型の変化を利用した選抜も期待できない。本発明では、遺伝子マーカーの性質で選抜された変異株それぞれからDNAを調製し、PCRやサザーン分析等を用いて直接遺伝子の構造変化を調べた。すなわち、目的とする変異株が1%の確率で含まれているとすると、少なくとも100個の変異株を、それが200個以上また500個であるとしても目的とする変異株を遺伝子構造の変化を調べることで選抜することになる。したがって、この方法を効率よく行うためには、生物体から簡便に遺伝子を抽出する技術が必要であり、生物体の熱処理等や細胞破砕による核酸抽出によって多数の生物体から簡便に核酸を溶出し、さらにPCRやサザーン法等で分析することで、効率よくスクリーニングを行うことができる。
【0036】
また、麹カビについては多核胞子が多い点に問題があるが、その場合にも、得られた変異株のそれぞれから核酸を調製し、遺伝子構造変化を調べることで選抜できる。例えば、PCRを用いる場合、PCRのプライマー配列として、選択マーカーの内部配列と、染色体上、導入遺伝子の相同配列より外側の配列を選ぶことにより、多核胞子であっても、胞子の中の複数の核のうち一つでも目的とする変異株の核があれば、PCR産物が得られるように、いわゆる変異体の核のポジティブセレクションが可能になるように設計する。そして、カビの胞子サイズは含まれる核の数によって異なるため、ポジティブセレクションで得られた変異株から胞子を調製し、単核胞子しか通せないようなポアサイズの膜をもちいて胞子液をろ過し、得られた胞子を寒天培地に広げ培養することで、一つの核をもつ胞子から得られた集落(菌糸と胞子)から核酸を調製し、PCRやサザーン法で遺伝子構造を調べ、目的の変異体を選抜することができる。
【0037】
このように本発明によると、特殊な遺伝子配列を染色体上へ導入する必要がなく、また組換え酵素の発現や、特殊な宿主も必要としない。操作は単純であり、目的の変異株の検出にも複雑な操作を必要としない。さらに、宿主由来の選択マーカー配列と遺伝子領域を本発明に利用すれば、セルフクローニングが可能であり、得られた生物の実用的利用の可能性が非常に高いといえる。
【0038】
また、本発明を利用して、麹カビからアフラトキシン生産に関連する遺伝子領域を完全に取り除くことができ、汚染現場の菌からアフラトキシン遺伝子クラスターをまるごと除去できれば、定着率の高いバイオコントロール剤の開発が可能となり、安全な食品供給のイメージアップにも貢献することができる。さらに、アフラトキシン遺伝子クラスターに限らず、生物の生育に直接必要としないか、又は有害な領域を新たな遺伝子領域に置換できる手法を得ることは、離れた相同性領域の間に物質生産に関連する酵素遺伝子や制御遺伝子領域を繋げ、生物に新たな物質生産機能を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本発明の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法としては、糸状菌の有害物質生産に関与する遺伝子領域又は少なくとも生存に必須でない遺伝子領域を含む広範囲標的遺伝子領域の両外側に位置し、染色体上で5kb以上離れた2つのDNA領域とそれぞれ相同組換えすることができる2つの相同DNA領域間に、選択マーカー遺伝子、又は選択マーカー遺伝子と所定の遺伝子領域を連結した広範囲遺伝子領域欠失用遺伝子カセットを作製し、該広範囲遺伝子領域欠失用遺伝子カセットを前記糸状菌に導入し、2回交差相同組換えが起こった変異株を、まず選択マーカーの性質を利用して一次選抜し、その後、変異株の遺伝子構造の変化を直接調べることにより二次選抜する方法であれば特に制限されず、上記糸状菌としては、アスペルギルス属菌、フザリウム属菌、ペニシリウム属菌、リゾップス属菌、ムコール属菌、リゾムコール属菌、アブシジア属菌、モナスカス属菌等を挙げることができる。
【0040】
上記糸状菌の有害物質生産に関与する遺伝子領域としては、アスペルギルス属菌が産生するアフラトキシン、オクラトキシン、ステリグマトシスチンや、フザリウム属菌が産生するデオキシニバレノール、ニバレノール、ゼアラレノンや、ペニシリウム属菌が産生するルテオスカイリン、シトリニン等のマイコトキシン生産に関与する遺伝子クラスターを具体的に例示することができる。また、少なくとも生存に必須でない遺伝子としては、アスペルギルス・オリゼー、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・アワモリ、アスペルギルス・カワチ、アスペルギルス・ソーヤ、リゾープス・ジャバニクス、モナスカス・プルプレア等の麹カビのアフラトキシン遺伝子クラスター類似領域、麹の渇変原因遺伝子mel等の好ましくない性質に関与する遺伝子領域を好適に例示することができる。
【0041】
上記染色体上で5kb以上離れた2つのDNA領域としては、好ましくは15kb以上、より好ましくは30kb以上、特に好ましくは50kb以上や100kb以上離れた2つのDNA領域を挙げることができ、より具体的には、染色体上で5kb以上離れた2つのDNA領域としては、アスペルギルス・パラジチカス染色体のアフラトキシン遺伝子クラスターのdmtAとvbsとの2つの遺伝子領域(6.6kb)を挙げることができ、染色体上で30kb以上離れた2つのDNA領域としては、アスペルギルス・パラジチカス染色体のアフラトキシン遺伝子クラスターのpksAとvbsとの2つの遺伝子領域(49kb)を挙げることができ、染色体上で50kb以上離れた2つのDNA領域としては、アスペルギルス・パラジチカス染色体のアフラトキシン遺伝子クラスターのnorBとhypAとの2つの遺伝子領域(67kb)や、アスペルギルス・オリゼー染色体のアフラトキシン遺伝子クラスター類似領域のaflTとmoxYとの2つの遺伝子領域(60kb)を挙げることができる。
【0042】
上記選択マーカー遺伝子としては、アスペルギルス・オリゼーやアスペルギルス・パラジチカスのピリチアミン耐性遺伝子ptrA(Biosci. Biotechnol. Biochem., 64, 1416-1421, (2000);特許第3162042号公報)、硝酸還元酵素をコードする遺伝子niaD(Mol. Gen. Genet., 218, 99-104, (1989))、argB(Enzyme Microbiol. Technol., 6, 386-389, (1984))、pyrG(Biochem. Biophys. Res. Commun., 112, 284-289, (1983))、amdS(Gene, 26, 205-221, (1983))、sC(Gene, 84, 329-334, (1989))を挙げることができるが、実用性の点で、ptrA及びniaDを好適に例示することができる。また、選択マーカー遺伝子として、アスペルギルス・ニガーのハイグロマイシンB耐性遺伝子(Gene.1987;56(1):117-24)、オリゴマイシン耐性遺伝子(Curr.Genet.1988 Jul;14(1):37-42)、アスペルギルス・ニジュランスのオーレオバシジンA耐性遺伝子(特開平9−98784号公報)、アスペルギルス・フラバスのベノミル耐性遺伝子(Appl.Environ Microbiol 1990 Dec;56(12):3686-92)、ペニシリウム・ロックフォルテイー(P.roqueforti)のphelomycin耐性遺伝子(J. Biotccol 1996 0ct.18;51(1):97−105 )、ペニシリウム・アイスランジユーム(P.islandicum)のbenomyl 耐性遺伝子(curr.Genet. 1995 Nov.;28(6)580-4 )等を挙げることができる。
【0043】
上記広範囲遺伝子領域欠失用遺伝子カセットは、染色体上で5kb以上離れた2つのDNA領域とそれぞれ相同組換えすることができる2つの相同DNA領域間に、選択マーカー遺伝子、又は選択マーカー遺伝子と所定の遺伝子領域を、λファージベクターやプラスミドベクターを利用して連結することにより調製することができる。また、ダブルジョイントPCR法(Jae-Hyuk Yu et al. Double-joint PCR: a PCR based molecular tool for gene manipulations in filamentous fungi. Fungal Genetics and Biology 41 (2004) 973-981)等を用いて、各遺伝子領域及びマーカー領域をPCRで増幅後、それぞれを連結して破壊カセットをプラスミドを利用することなく直接構築する。上記選択マーカー遺伝子は、2種以上用いることもでき、この場合、ポジティブ−ネガティブセレクションが可能なように、上記カセットの一方の外側に2つ目の選択マーカーの配列を導入することが好ましい。また、選択マーカー遺伝子と所定の遺伝子領域における所定の遺伝子領域としては、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター等を挙げることができる。
【0044】
広範囲遺伝子領域欠失用遺伝子カセットを糸状菌に導入する方法としては、PEG−カルシウム法、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、アグロバクテリウム法など特に制限されないが、細胞壁溶解酵素処理によってプロトプラストを作製し、ポリエチレングリコールと塩化カルシウム存在下で線状化したカセットDNAを導入する方法を好適に挙げることができる。
【0045】
広範囲遺伝子領域欠失用遺伝子カセットを糸状菌に導入し、2回交差相同組換えが起こった変異株を選抜する方法としては、まず選択マーカーの性質を利用して一次選抜し、その後、変異株の遺伝子構造の変化を直接調べることにより二次選抜する方法を挙げることができる。かかる二次選抜により、目的とする変異株を選抜し、最終的に広範囲の遺伝子領域が確実に目的通りに改変されていることを確認することが重要である。
【0046】
例えば一次選抜において、選択マーカーとしてピリチアミン耐性遺伝子(ptrA)を利用した場合、ピリチアミンを含むCD(Czapex-Dox)再生培地で生育してきた株はピリチアミン耐性株であり、ピリチアミン耐性遺伝子ptrAがゲノムに導入されていると考えられる。また、選択マーカーとして硝酸還元酵素をコードする遺伝子(niaD)を利用した場合、niaD欠失ホモ変異株を宿主として用い、硝酸を唯一の窒素源として加えた再生培地で生育してきた株は、硝酸還元酵素をコードする遺伝子niaDがゲノムに導入されていると考えられる。なお、アフラトキシン遺伝子クラスターを欠失させた場合など、表現形の変化を利用した選抜手法を併用することもできる。
【0047】
本発明の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法においては、通常、2回交差相同組換えが選択的に起こるような特別の配列や酵素の導入、あるいは非相同組換え活性の破壊を行わないため、選択マーカーで選抜後の変異株の中で、目的とする2回交差変異株の割合は極めて少ない。また、表現形の変化を利用した選抜も期待できない場合も十分予想される。そこで、本発明では、遺伝子マーカーの性質で選抜された変異株それぞれからDNAを調製し、PCRやサザーン分析等を用いて直接遺伝子の構造変化を調べる二次選抜を実施する。この場合、目的とする変異株が1%の確率で含まれているとすると、少なくとも100個の変異株の遺伝子を調べて選抜する。それが200個以上また500個であるとしても目的とする変異株を遺伝子構造の変化を調べることで選抜することになる。このため、公知の遺伝子抽出方法を用いることもできるが、生物体から簡便に遺伝子を抽出する技術として本発明者らが開発した「生物体から核酸を溶出する方法」(特開2003−24067号公報)や、細胞破砕による核酸抽出法(非特許文献1参照)を利用して、多数の生物体から簡便にDNAを溶出・調製した後、さらにPCRやサザーン法等で分析することで二次選抜を行うことが好ましい。なお、上記のように、変異株の表現形の変化があれば有用な情報となるが、広範囲遺伝子領域の改変を確実にモニターするためには遺伝子構造の変化を直接調べることが有効であり、本発明によって、極めて信頼性の高い変異株選抜法を確立することができる。
【0048】
また、麹カビの場合は多核胞子が多いという問題があるが、その場合にも、一次選抜で得られた変異株から単核胞子を調製し、単核胞子のそれぞれからDNAを抽出し、単核胞子由来の遺伝子構造の変化を直接調べることで、目的とする変異株の核を含む集落の選抜を行うことが好ましい。例えばPCRを用いる場合には、PCRのプライマー配列として、選択マーカーの内部配列と、染色体上、導入遺伝子の相同配列より外側の配列を選ぶことにより、目的とする変異株の核があれば、PCR産物が得られように計画する。いわゆる変異体の核のポジティブセレクションが可能になるように設計することが好ましい。そして、カビの胞子サイズは含まれる核の数によって異なるため、ポジティブセレクションで得られた変異株から胞子を調製し、単核胞子しか通さない小さなポアサイズの膜で胞子液をろ過し、ろ液中の胞子を寒天培地に広げ培養する。このようにして1つの核をもつ胞子から得られた集落(菌糸と胞子)からDNAを調製し、PCRやサザーン法で遺伝子構造を調べ、目的の変異体を選抜することができる。
【0049】
以上のように、本発明の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法においては、通常、特殊な遺伝子配列の染色体上への導入も必要なく、また組換え酵素の発現も必要としない上に、特殊な宿主も必要とせず、少なくとも1個の選択マーカー遺伝子があればよく、操作は単純であり、目的の変異株の検出にも複雑な操作を必要としない。さらに、宿主由来の選択マーカー配列と遺伝子領域を利用すればセルフクローニングが可能であり、得られた生物の実用的利用の可能性が高い点が、本発明が奏する極めて有利な効果であるといえる。
【0050】
上記本発明の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法によって得られた欠失変異株には、ゲノム中で欠失した領域に選択マーカーが通常導入されている。しかし、得られた欠失変異株から選択マーカーを除去することもできる。例えば、選択マーカーが含まれない欠失カセット(欠失した遺伝子領域の5’及び3’側の外側の2つの領域を連結した構造)を構築し、これによって欠失株を形質転換すれば、5’及び3’側の外側の2つの領域で2回交差して、選択マーカーを含まない欠失株を得ることができる。この際、選択マーカーの性質を失った株(例えばピリチアミン感受性になった株)を選抜し、さらに遺伝子構造の変化(選択マーカー領域を含まなくて、ゲノム中の離れた遺伝子領域が連結した構造を持つこと)をPCRで確認することで、選択マーカー除去株を選抜できる。これによって、異種遺伝子を含まず、目的とする遺伝子領域のみが欠失した変異株を得ることができる。かかる目的とする遺伝子領域のみが欠失した変異株も本発明の生産方法の対象に含まれる。
【0051】
次に、本発明の変異株としては、糸状菌の染色体上で5kb以上の有害物質生産に関与する遺伝子領域又は少なくとも生存に必須でない遺伝子領域を含む広範囲標的遺伝子領域が、選択マーカー遺伝子、又は選択マーカー遺伝子と所定の遺伝子領域で置換されて欠失した広範囲遺伝子領域欠失変異株であれば特に制限されないが、糸状菌の有害物質生産に関与する遺伝子領域又は少なくとも生存に必須でない遺伝子領域が、糸状菌のアフラトキシン生産菌の遺伝子クラスター領域又は麹カビのアフラトキシン遺伝子クラスター類似領域である広範囲遺伝子領域欠失変異株が好ましく、上記5kb以上の広範囲標的遺伝子領域の欠失が、好ましくは15kb以上、より好ましくは30kb以上、特に好ましくは50kb以上や100kb以上の広範囲標的遺伝子領域の欠失である変異株を好適に例示することができる。また、選択マーカー遺伝子としては、上述の選択マーカー遺伝子を用いることができる。本発明の変異株は、前記本発明の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法により得ることができる。
【0052】
本発明はまた、アフラトキシン生産菌の遺伝子クラスターの全部又は一部が除去されたアフラトキシン非生産性アスペルギルス・パラジチカスに関し、かかるアフラトキシン非生産性アスペルギルス・パラジチカスとして、以下の実施例に記載されている変異株、特に、アフラトキシン遺伝子クラスター領域のnorBとhypAとの2つの遺伝子領域間の67kb領域の欠失変異体であるアスペルギルス・パラジチカスFERM AP−20970(Aspergillus parasiticus AF-/SYS-4(norB-hypA)No.408)を具体的に例示することができる。
【0053】
また本発明は、アフラトキシン遺伝子クラスター類似領域の全部又は一部が除去されたアスペルギルス・オリゼーに関し、かかるアスペルギルス・オリゼーの変異株としては、アフラトキシン遺伝子クラスター類似領域のaflTとmoxYとの2つの遺伝子領域間の60kb領域の欠失変異体であるアスペルギルス・オリゼーFERM AP−20971(Aspergillus oryzae AF-/RIB(aflT-moxY)No.80-4)を具体的に例示することができる。
【0054】
上記本発明の広範囲遺伝子領域欠失変異株や、アスペルギルス・パラジチカス(FERM AP−20970)等のアフラトキシン非生産性アスペルギルス・パラジチカスや、アスペルギルス・オリゼー(FERM AP−20971)等のアフラトキシン遺伝子クラスター類似領域の全部又は一部が除去されたアスペルギルス属菌は、アフラトキシン生産カビと競合することから、バイオコントロール剤として有利に用いることができる。
【0055】
本発明の広範囲遺伝子領域欠失変異株のスクリーニングキットとしては、糸状菌の有害物質生産に関与する遺伝子領域又は少なくとも生存に必須でない遺伝子領域を含む広範囲標的遺伝子領域の両外側に位置し、染色体上で5kb以上離れた2つのDNA領域とそれぞれ相同組換えすることができる2つの相同DNA領域間に、選択マーカー遺伝子、又は選択マーカー遺伝子と所定の遺伝子領域を連結した広範囲遺伝子領域欠失用遺伝子カセットと、前記広範囲標的遺伝子領域が欠失したことを確認することができるプローブ又は少なくとも1対のプライマーセットとを備えたものであれば特に制限されず、プライマーセットとしては、以下の実施例に具体的に例示されているプライマーセットを有利に用いることができる。
【0056】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0057】
[アスペルギルス・パラジチカス染色体のアフラトキシン遺伝子クラスター領域6.6kb領域の欠失(ピリチアミン耐性選択マーカーptrA遺伝子利用)]
(1)dmtA−ptrA−vbs コンストラクトを有するpAF−DD1ベクターの作製
アフラトキシン遺伝子クラスターの2つの遺伝子dmtAとvbsを選び、これらの領域を利用して6.6kb遺伝子領域の除去ベクターpAF−DD1を作製した。すなわち、遺伝子破壊用DNA断片の作製には、2kbピリチアミン耐性遺伝子断片、1.66kb dmtA遺伝子断片、1.7kb vbs遺伝子断片をPCRで増幅し、pUC19ベクター(プロメガ)に段階的に導入して作製した。dmtA遺伝子領域はA. parasiticus NRRL2999(SYS−4株)のゲノムをテンプレートとして、以下の2種のプライマーを用いて増幅した。
<プライマー>
配列番号1:dmtA−PstI−F:#323:AAAACTGCAGGCTCAGCGACACATCTCC
配列番号2:dmtA−R:#324:GAGCTTACCACGCCTACC
【0058】
vbs遺伝子領域はSYS−4株のゲノムをテンプレートとして、以下の2種のプライマーを用いて増幅した。
<プライマー>
配列番号3:vbspro−KpnI−F:#274:GGGTACCTGTGTAGAAATGCTGCACAG
配列番号4:vbs−EcoRI−R3:#321:CGGAATTCGGC ATCGATATCGGCG
【0059】
また、選択マーカーであるピリチアミン抵抗性遺伝子ptrAは2種のプライマーを用い、プラスミドpPTRI(Takara)をテンプレートとしてPCR増幅した。PCRは、KOD−Plus酵素 (Toyobo)を用いた。pAF−DD1の概略図を図1に示す。
<プライマー>
配列番号5:PTRI−KpnI−F:#311: GGGGTACCGGGCAATTGATT ACGGGATCCCA
配列番号6:PTRI−PstI−R2:#322: AAAACTGCAGTGACGATGAGCCGCTCTTGC
【0060】
形質転換するために、得られたpAF−DD1をBglIIで切断して、1.4kb dmtA領域と1.5kb vbs領域に2kb ptrAが挟まれた直鎖状DNA断片を作り、アフラトキシン生産株SYS−4株の形質転換に用いた。
【0061】
(2)形質転換
カビの形質転換には、ポリエチレングリコールを用いたプロトプラストの形質転換法を利用した。
宿主としては、アフラトキシン生産SYS−4株を用いた。このカビをPDA(potato Dextrose Agar)培地で培養し、胞子を採集した。
【0062】
ピリチアミン選択マーカーを用いる場合には、SYS−4株又はNR−1株の胞子約108 個を100mlCD(Czapex-Dox)液体培地に接種し、28℃で18〜20時間静置培養を行った。こうして発芽させた後、ガラスビーズ(直径0.6cm)を培養フラスコに加え、30℃,130rpmの震とう培養でさらに24時間培養した。菌糸を採集し、0.8M NaCl水溶液で菌糸を2〜3回洗い、洗った菌糸に10mlの新しく作ったプロトプラスト化溶液(15mg/ml Yatalase(Takara),10mg/ml Cellulase Onozuka R-10 (Yakult Honsha),0.8M NaCl,10mM phosphate buffer(pH6.0),1mM DTT)を加え、30℃で3〜4時間ゆっくりと震とうし、細胞壁を消化してプロトプラストを調製した。得られたプロトプラスト溶液をミラクロス(カルビオケム社)でろ過し、ろ液を更に4℃,2500g、5分間、遠心分離して回収した。
【0063】
プロトプラストを氷冷した溶液1(0.8M NaCl,10mM CaCl2,10mM Tris−HCl(pH 8.0))で洗浄した後、2×108/mlになるように溶液1に懸濁して、その量に対して0.2容量になるように溶液2 (40%PEG4000,50mM CaCl2,10mM Tris−HCl(pH 8.0))を加え、静かに混合した。
【0064】
形質転換は、0.1mlのプロトプラスト溶液を新しい15mlチューブに移し、15μl以下(3〜7μg)のdmtA−ptrA−vbsの直鎖DNAを加え、氷上で30分間放置した後、0.5ml溶液2を加えゆっくりと攪拌し、室温で20分間放置した。5ml溶液1を加えて、混合した後4℃で2500gの速度で5分間遠心を行った。プロトプラストを含んだ沈殿物を0.1mlの溶液1に懸濁し、0.8M NaCl及び0.1μg/l pyrithiamine(PT)を含むCD再生培地に広げ、さらに、その上に、30℃まで冷却したCD軟寒天培地を添加した後、固化させ、28℃で4〜7日培養した。
【0065】
(3)遺伝子領域欠失株の選抜
目的とする欠失株の選抜には(1)選択マーカーを利用した選抜と(2)PCRを利用した遺伝子構造の変化の検出、からなる2段階の方法を採用した。
1)まず、ピリチアミン(PT;pyrithiamine)を含むCD再生培地で生育してきた株はピリチアミンに耐性株であり、つまりピリチアミン耐性遺伝子がゲノムに導入されていると考えられる。
2)しかし、生物に遺伝子を導入した場合、相同組換えと非相同組換えが起こり、生物によっては目的とする相同組換えの確率が極めて低いものがある。カビの場合も低いが、本発明では一箇所ではなく、選択マーカーを挟んで二箇所の配列で相同組換えが起こる必要があるため、その確率はきわめて低くなる。通常はピリチアミン耐性株の中で1〜2%以下の頻度でしか目的とする遺伝子欠失株は得られない。形態変化や生化学的代謝の変化などで指標となる顕著な変化がおこる場合は比較的選抜も容易であるが、このような顕著な変化が起こらない場合は困難である。また、ポジティブ−ネガティブセレクションを利用することも可能であるが、2種以上の選択マーカーが必要である。しかし、ポジティブ−ネガティブセレクションで選抜した場合にもすべてが目的の変異株とはならないため、最終的には遺伝子構造の変化を確認する必要がある。そこで、本発明では、欠失株を選抜する最も単純な方法として、以下のように得られた選択マーカー選抜株について、さらに遺伝子構造の変化をPCRで調べることによって目的とする変異株を選抜した。
【0066】
<PCR分析のための迅速DNA抽出法>
得られたピリチアミン耐性変異株の中で、選択マーカーを挟んで両側の配列で相同組換えが起きた目的とする変異株を選抜するため、少なくとも100個以上のピリチアミン耐性株のそれぞれの集落から、胞子を含んだ少量の菌糸を爪楊枝等で採取し、150μl TE bufferが入った2ml容量のチューブに入れる。さらに150μl TE−飽和フェノールを加え、同チューブにジルコニアビーズ(直径0.5mm,Nikkato)を加えた。各チューブを震とう機(例えば、FastPrep FP100A(Q−BIO 101))にセットして、菌糸を破砕した。その後、得られた破砕液を4℃,15,000g 15分間遠心し、DNAを含む水層(上清)を4倍に稀釈して、稀釈液を種々のプライマーを含んだPCR溶液に加えて反応させた。
【0067】
PCR反応は、通常0.5μlの希釈DNAサンプルを、終量8μlのPCR反応に用いた。8μlのPCR反応液は、0.5μl稀釈DNA抽出液、4μl 2×PCR Master Mix(Promega)、2.5μl Nuclease-free water、0.5μlの2種の各プライマー(12.5pmol/μl)を含む。
【0068】
PCR反応は以下の条件で行い、PCR産物は1%アガロースゲルで電気泳動した。
[PCR産物が2.5kb以下の場合]
1)94℃ 5分
2)94℃ 40秒、56℃ 40秒、72℃ n分(nはターゲットフラグメントのサイズにより決定する)を1サイクルとして、35サイクル
3)72℃ 10分
[PCR産物が2.5kb以上の長さの場合]
1)94℃ 5分
2)94℃ 1分、56℃ 1分、72℃ n分を1サイクルとして、40サイクル
3)72℃ 10分
【0069】
(4)遺伝子領域欠失の確認
PCRの結果を指標に目的とする形質転換体を選抜するが、カビ胞子は多核胞子を含んでいるため、選抜した変異株を安定な形質として維持するためには、菌の純化が必要である。そこで、3)までで選抜した変異株を更に単胞子分離と継代培養を3回繰り返して、変異株を純化した。その後、得られた変異株の菌体から、再度核酸を抽出し、以下の種々のプライマーを用いて、目的とした広範囲遺伝子領域破壊株であることを電気泳動にて確認した。結果を図2に示す。また、各プライマーセットを使用してPCRを行った場合に予想されるPCR産物のサイズを表1に示した。予想されるサイズのPCR産物の生成を電気泳動で確認した結果、SYS−4株染色体のアフラトキシン遺伝子クラスター領域6.6kb領域の欠失が確認できた。例えば、図2の1の実験で、P7とP12のプライマーをもちいてPCRを行った場合、表1のP7/P12から2.14kbのサイズのPCR産物が得られるはずであり、電気泳動の図2によると、1のaでは2.14kbのバンドが出ているが、1のb(SYS−4株)では、予想したとおりバンドが生じないことがわかった。
【0070】
<プライマー>
1.P7(配列番号7:#47:dmtA−F2):GGTCCCTGAGCCAGGGGTATTTGTT
2.P8(配列番号8:#297:vbs−R1):CCGCCTCAATCACGGC
3.P9(配列番号2:#324:dmtA−R):GAGCTTACCACGC CTACC
4.P10(配列番号4:#321:vbs−EcoRI−R3) : CGGAATTCGGCATCGATATCGGCG
5.P11(配列番号6:#322:PTRI−PstI−R2): AAAACTGCAGTGACGATGAGCCGCTCTTGC
6.P12(配列番号5:#311:PTRI−KpnI−F): GGGGTACCGGGCAATTGATTACGGGATCCCA
7.P13(配列番号9:#340:omtA−R1):CCTTCCTCGCCTTTGCG
8.P14(配列番号10:#339:omtA−F1): GGTGAGACGAAGAGCCC
9.P15(配列番号11:#264:ordA−F):ATGATTTATAGCATAATTATTTGTGCG
10.P16(配列番号12:#265:ordA−R):CAAATCATCTGATTTCTGGCC
【0071】
【表1】
【実施例2】
【0072】
[アスペルギルス・パラジチカス染色体のアフラトキシン遺伝子クラスター領域49kb領域の欠失(ピリチアミン耐性選択マーカーptrA遺伝子利用)]
(1)pksA−ptrA−vbs構造を有するpAF−DD2ベクターの作製
アフラトキシン遺伝子クラスターの両末端に近い遺伝子pksAとvbsを選び、これらの領域を利用して49kbの広範囲な遺伝子領域の除去ベクターpAF−DD2を作製した。pAF−DD2ベクターは、pAF−DD1の1.66kb HindIII/PstI dmtA配列を1.5kb HindIIII/PstI pksA 3’領域と入れ換えることにより作出した。HindIII/PstI pksA 3’領域はSYS−4株のゲノムDNAをテンプレートとして、2種のプライマー(配列番号17:pks−F2:#341:GTGGTGCACTGCGTGTC、配列番号18:pks−HindIII−R:#342:CCCCAAGCTTCCATGACCC GGTCGATC)を用いて増幅し、HindIIIとPstIで切断して、ベクターに導入した。得られたベクターの概略図を図3に示す。こうしてできたpAF−DD2をXmaIで切断することによって直鎖にして、最終的に得られたpksA−ptrA−vbs断片(2kb選択マーカーptrAが1.3kb pksA 3’領域と1.6kb vbs断片に挟まれた構造)でアフラトキシン生産菌SYS−4株を実施例1と同様にして形質転換した。
【0073】
欠失変異株の検出は、ピリチアミン耐性株の内、アフラトキシンを産生しなくなった6菌株について、アフラトキシン産生遺伝子が確実に欠失しているか否かをadhAとdmtAの各プライマーの組合せを用いて先ずPCRと電気泳動を実施した。PCRに用いたプライマーは、adhAについては配列番号29、30を、dmtAについては配列番号45、46を使用した。また電気泳動の結果を図4に示す。dmtA遺伝子の欠失が確認された101株と103株のうち103株について、さらに多くの遺伝子について欠失を確認した。結果を図5に示す。使用した菌株SYS−4株では、aflRからver1までの領域が重複し、この短い重複領域では機能しないことが明らかになっているが、PCRを行った場合には該領域がテンプレートとなってPCR産物が生じてしまう。しかしながら、その他の領域ではPCR産物が産生されていないことから、遺伝子クラスターの欠失が確認された。欠失の確認は、表2に示す、前記の各プライマーセットを使用してPCRを行った場合に予想されるPCR産物のサイズと電気泳動の結果を比較して行った。同時にアフラトキシン遺伝子クラスターが欠失した結果としてアフラトキシン生産性が無くなることを、紫外線写真法(図6)、薄層クロマトグラフィー(図7)で確認した。
【0074】
<プライマー>
1.nor1遺伝子領域
配列番号13:#436(nor1−F): CCATA CCGGGATGGACC
配列番号14:#437(nor1−R):GCCCCGATGTAGTCTCC
2.fas2(hexA)遺伝子領域
配列番号15:#351(hexA−F1):CCTCCCTCGCTACCCCA
配列番号16:#352(hexA−R1):CTCCGAGCCTACGGTGC
3.fas1(hexB)遺伝子領域:
配列番号17:#354(hexB−F1):CTGCGGGTGGAGCTGCA
配列番号18:#353(hexB−R1):CAAGCTCCAAGGGCGGC
4.aflR遺伝子領域
配列番号19:#262(aflR−F):ATGGTTGACCATATCTCCCC
配列番号20:#263(aflR−R):CATTCTCGATGCAGGTAATC
5.aflJ遺伝子領域
配列番号21:#438(aflJ−F):GAACCCTGGCGAGAGAC
配列番号22:#439(aflJ−R):CTGAGCGACTCGCATGG
6.adhA遺伝子領域
配列番号23:#175(adhA−F):ATGGAAGTTCTGGAACAACC
配列番号24:#176(adhA−R):TTAGGTTTTAAGGCAATGGCA
7.estA遺伝子領域
配列番号25:#440(estA−F):CCTTTTGCCGGTCCGTG
配列番号26:#441(estA−R):GCCTTAGCTACTCCCCC
8.norA遺伝子領域
配列番号27:#254(norA−F):ATGGTTCTCCCTACTGCTCC
配列番号28:#255(norA−R):TCATTTTGAGGCAGAACCAAAG
9.ver1遺伝子領域
配列番号29:#206(ver1−F):ATGTCGGATAATCACCGTTTAG
配列番号30:#207(ver1−R):TTATCGAAAAGCGCCACCAT
10.verA遺伝子領域
配列番号31:#442(verA−F):GTTTCGACTCCCTCGGC
配列番号32:#443(verA−R):CTCATCGTACGCTGGCG
11.avnA遺伝子領域
配列番号33:#444(avnA−F):CATAGTCCCTGAGGCGG
配列番号34:#445(avnA−R):GGTCCGATGCTGAACGG
12.verB遺伝子領域
配列番号35:#446(verB−F):GGTCCACTGCTATGGCG
配列番号36:#447(verB−R):GCGTAGGCCAGATTGCG
13.avfA遺伝子領域
配列番号37:#448(avfA−F):GGTCACATACGCCCTCC
配列番号38:#449(avfA−R):GAGGACATCAGACACGCC
14.dmtA(omtB)遺伝子領域
配列番号39:#323(dmtA−F):GCTCAGCGACACATCTCC
配列番号2:#324(dmtA−R):GAGCTTACCACGCCTACC
15.omtA遺伝子領域
配列番号10:#339(omtA−F1):GGTGAGACGAAGAGCCC
配列番号9:#340(omtA−R1):CCTTCCTCGCCTTTGCG
16.ordA遺伝子領域
配列番号11:#264(ordA−F):ATGA TTTATAGCATAATTATTTGTGCG
配列番号12:#265(ordA−R):CAAATCATCTGATTTCTGGCC
【0075】
【表2】
【実施例3】
【0076】
[アスペルギルス・パラジチカス染色体のアフラトキシン遺伝子クラスター領域49kb領域の欠失]
(1)A. parasiticus NR−1株のvbs遺伝子破壊株の作製
John E. Linz博士 Michigan State Universityより供与されたA. parasiticus NR−1株のvbs遺伝子に、ptrA遺伝子を挿入することにより遺伝子破壊を行った。
アフラトキシン遺伝子クラスターのvbs領域に導入し、vbs遺伝子破壊株を作製するためpVBS−SD2を構築した。pVBS−SD2ベクターは、1.7kbのvbs遺伝子領域断片を、KpnIサイトを有する2種のプライマー(配列番号3:#274:vbspro−KpnI−F:GGGTACCTGTGTAGAAATGCTGCACAG、配列番号58:#268:vbsin−KpnI−R:GGGGTACCGGCATCGATATCGGCG)とSYS−4株のゲノムDNAを用いてPCRをして増幅し、PCR産物をKpnIで処理した後、ピリチアミン耐性遺伝子ptrAを持つpPTRIベクターのKpnIサイトに導入して構築した。得られたベクターの概略図を図8に示す。こうして構築したpVBS−SD2をBglIIで切断して直鎖にして、シングルクロスでNR−1株を実施例1と同様にして形質転換した。
この結果により得られるvbs遺伝子破壊株では、ptrAを挟んで2つのvbs類似領域が本来のvbs遺伝子よりも短いために、vbsの有する活性を失っている。そのため、vbsにより触媒される反応が正常に行われず、黄色い反応中間体が蓄積する。
その後、得られた変異株の菌体から、再度核酸を抽出し、以下の種々のプライマーを用いて、目的とした広範囲遺伝子領域破壊株であることを電気泳動にて確認した。結果を図9に示す。また、各プライマーセットを使用してPCRを行った場合に予想されるPCR産物のサイズを表3に示した。予想されるサイズのPCR産物の生成を電気泳動で確認した結果、NR−1株染色体のvbs遺伝子領域の破壊が確認できた。
【0077】
<プライマー>
配列番号111:P1 (#194, vbs-dis-F):CTGCCCAAAGGTGCTCTCC
配列番号112:P2 (#287, vbs-3’in-R):GCGACACCGGCGGAAGG
配列番号113:P3 (#273, pPTRI-R1):TTCCCAGTCACGACGTTG
配列番号114:P4 (#272, pPTRI-F1):GTGTGGAATTGTGAGCGG
配列番号3:P5(#274,vbspro-KpnI-F):GGGTACCTGTGTAGAAATGCTGCACAG
配列番号58:P6 (#268, vbsin-KpnI-R):GGGGTACCGGCATCGATATCGGCG
【0078】
【表3】
【0079】
(2)pksA−niaD−vbs構造を有するpAF−DD3ベクターの作製
pAF−DD2ベクターと同様の構造で選択マーカーだけを硝酸還元酵素遺伝子niaDに代えた構造pAF−DD3を作り、本発明が種々の選択マーカーを用いても有効であることを確認した。
niaD選択マーカーを用いた形質転換には、硝酸還元酵素に変異を持ち、硝酸を窒素源として利用できないA. parasiticus NR−1株、及び、前記NR−1株のvbs遺伝子破壊株を宿主として用いた。
プロトプラストの調製にはPDB(ポテトデキストロースブロス)培地を用い、形質転換後、硝酸を唯一の窒素源として加えた再生培地を用いた。
pAF−DD3の構築には、まず、1.7kb vbs領域を2種のプライマー(配列番号40:vbs−BamHI−F:#355:CGCGGATCCTGTGTA GAAATGCTGCACAG、配列番号41:vbs−EcoRI−R4:#356: CGGAATTCGACCCTTACGCTGCTC)と、アフラトキシン生産菌SYS−4株のゲノムDNAを用いてPCRで増幅した。そのPCR産物をBamHIとEcoRI処理して、pSP72ベクター(Promega)の対応する部位に導入した。次に、形成したベクターに4.7kb SphI/XbaI選択マーカーniaDを導入した。選択マーカーniaDはKOD−Plus酵素と2種のプライマー(配列番号42:niaD−AvrII−F(XbaIサイトを内部に含む):#154:ACCCCCTAGGTCTAGAAGAGGCATTGTGTC、配列番号43:niaD−SphI−R:#320:CCCACATGCATGCCCTATTAACGTTACTATTCGTG)と、プラスミドpSL82をテンプレートとしてPCRし増幅した。最後に、2kb XhoI/SphI pksA 5’領域を導入した。このpksA 5’領域は2種のプライマー(配列番号44:pks−SphI−F:#343:CCCACATGCATGCATCCGTCCAGGACAGCC、配列番号45:pks−XhoI−R:#344:CCCCCGCTCGAGACGCCAAGGATGGGGTC)を用い、SYS−4株のゲノムDNAをテンプレートとして使った。得られたベクターの概略図を図10及び11に示す。このようにしてできたpAF−DD3をXmaIで切断し、直鎖のpksA−niaD−vbsコンストラクトを作った。このコンストラクトは1.6kb pksA 5’領域と1.6kb vbs領域に挟まれた4.7kb niaD選択マーカー遺伝子領域を含んでいる。この断片を、ピリチアミン耐性遺伝子を利用してvbs遺伝子が既に破壊されているniaD欠損株A. parasiticus NR−1株(図10)、及びvbsには変異が入っていないniaD欠損株NR−1株(John E. Linz博士 Michigan State Universityより供与された。)(図11)に形質転換した。
【0080】
vbs遺伝子が既に破壊されているniaD欠損株A. parasiticus NR−1株の形質転換体について、omtA、fas1の各遺伝子領域を対象に、実施例2で使用したプライマーを用いて同様に遺伝子欠失の確認を行った(図12)。23、35、76、124の各菌株が遺伝子欠失変異体であることが確認され、これらの菌株について、さらに多くの遺伝子の欠失を確認した(図13)。実施例2と同様に、aflRからver1までの領域が重複し、PCRを行った場合には該領域がテンプレートとなってPCR産物が生じてしまうが、その他の領域ではPCR産物が産生されていないことから、遺伝子クラスターの欠失が確認された。
また、vbsには変異が入っていないniaD欠損株NR−1株の形質転換体についても同様にPCRを行った結果、遺伝子クラスターの欠失が確認された。
【実施例4】
【0081】
[アスペルギルス・パラジチカス染色体のアフラトキシン遺伝子クラスター領域67kb領域の欠失(ピリチアミン耐性選択マーカーptrA遺伝子利用)]
(1)norB−ptrA−hypA の置換コンストラクトを有するpAF−WD4
アフラトキシン遺伝子クラスターの両末端に近い遺伝子norBとhypAを選び、これらの領域を利用して広範囲な遺伝子領域の除去ベクターpAF−DD4を同様な方法を用いて作製し、同様なプライマーを用いて遺伝子クラスターの欠失を確認した。
pAF−WD4ベクターの作製では、XhoI/HindIII 3’−norB領域はSYS−4株のゲノムDNAをテンプレートとして、2種のプライマー(配列番号46:norB−L−XhoI−R:#498: CCCCCGCTCGAGTGGTATTGAAACAGAGCGTG、配列番号47:norB−F1:#525: ATGTCCACCTCAGCTCCC)を用いて増幅し、ptrA遺伝子が導入されたpSP72ベクターに導入した。5’hypA領域は、2種のプライマー(配列番号48:hypA−R−KpnI−F:#496:CGGGGTACCCGTATCTCAGTTATGCAATGTCTC、配列番号49:hypA−R−R:#497:AAGTCCAATGCCGTCAAC)を用いて増幅し、更にベクターに導入した。得られたベクターの概略図を図14に示す。こうして得られたベクターをXcmIで切断し、3’norB−ptrA−5’hypA断片をアフラトキシン生産菌SYS−4株に上述したように形質転換した。PCRに使用したプライマーを以下に示す。
【0082】
<プライマー>
1.norB遺伝子領域
配列番号47:#525(norB−F1):ATGTCCACCTCAGCTCCC
配列番号50:#526(norB−R1):CATGGTTGAGGACGAATCG
2.cypA遺伝子領域
配列番号51:#500(norB−R−KpnI−F):CGGGGTACCTGTGGATTCGTGAGTGTC
配列番号52:#528(cypA−R):AATCCGCCAACCCAGTC
3.aflT遺伝子領域
配列番号53:#610(aflT−F):ATGCTAATCGACGAGGCTG
4.pksA遺伝子領域
配列番号45:#344(pks−XhoI−R):CCCCCGCTCGAGACGCCAAGGATGGGGTC
配列番号54:#360(pks−EcoRI−F):CGGAATTCCTCAGACAAGGCGTCCG
5.nor1遺伝子領域
配列番号13:#436(nor1−F): CCATA CCGGGATGGACC
配列番号14:#437(nor1−R):GCCCCGATGTAGTCTCC
6.fas2遺伝子領域
配列番号15:#351(hexA−F1):CCTCCCTCGCTACCCCA
配列番号16:#352(hexA−R1):CTCCGAGCCTACGGTGC
7.fas1遺伝子領域
配列番号17:#354(hexB−F1):CTGCGGGTGGAGCTGCA
配列番号18:#353(hexB−R1):CAAGCTCCAAGGGCGGC
8.aflR/aflR2遺伝子領域
配列番号19:#262(aflR−F):ATGGTTGACCATATCTCCCC
配列番号20:#263(aflR−R):CATTCTCGATGCAGGTAATC
9.aflJ/aflJ2遺伝子領域
配列番号21:#438(aflJ−F):GAACCCTGGCGAGAGAC
配列番号22:#439(aflJ−R):CTGAGCGACTCGCATGG
10.adhA/adhA2遺伝子領域
配列番号23:#175(adhA−F):ATGGAAGTTCTGGAACAACC
配列番号24:#176(adhA−R):TTAGGTTTTAAGGCAATGGCA
11.estA/estA2遺伝子領域
配列番号25:#440(estA−F):CCTTTTGCCGGTCCGTG
配列番号26:#441(estA−R):GCCTTAGCTACTCCCCC
12.norA/norA2遺伝子領域
配列番号27:#254(norA−F):ATGGTTCTCCCTACTGCTCC
配列番号28:#255(norA−R):TCATTTTGAGGCAGAACCAAAG
13.ver−1/ver−1B遺伝子領域
配列番号29:#206(ver1−F):ATGTCGGATAATCACCGTTTAG
配列番号30:#207(ver1−R):TTATCGAAAAGCGCCACCAT
14.verA遺伝子領域
配列番号31:#442(verA−F):GTTTCGACTCCCTCGGC
配列番号32:#443(verA−R):CTCATCGTACGCTGGCG
15.avnA遺伝子領域
配列番号33:#444(avnA−F):CATAGTCCCTGAGGCGG
配列番号34:#445(avnA−R):GGTCCGATGCTGAACGG
16.verB遺伝子領域
配列番号35:#446(verB−F):GGTCCACTGCTATGGCG
配列番号36:#447(verB−R):GCGTAGGCCAGATTGCG
17.avfA遺伝子領域
配列番号37:#448(avfA−F):GGTCACATACGCCCTCC
配列番号38:#449(avfA−R):GAGGACATCAGACACGCC
18.dmtA/dmtA2遺伝子領域
配列番号55:#153(avfA−R−NotI): AAGGAAAAAAGCGGCCGCTTAGGTCCTTTTAGGTACAGC
配列番号56:#479(avfA−left−HindIII−F):CCCAAGCTTGCCCTAGCTATGGTTGAG
19.vbs遺伝子領域
配列番号57:#267(VBSin−KpnI−F):GGGGTACCGGATGGCCTGGGCAGT
配列番号58:#268(VBSin−KpnI−R):GGGGTACCGGCATCGATATCGGCG
20.cypX遺伝子領域
配列番号59:#434(cypX−F1):CGCAAGATTCCTGGTCCC
配列番号60:#435(cypX−R1):CCAGCTAGGAGCAACGC
21.moxY遺伝子領域
配列番号61:#432(moxY−F1):GAAGACCGCGGAGAATGG
配列番号62:#433(moxY−R1):GGCCCAATGACACTGCC
22.ordB遺伝子領域
配列番号63:#494(hypA−L−SalI−R):AACGCGTCGACGGTTCTGCTTGGCTGGG
配列番号64:#455(moxY−R−R):CGCTGGAGGATGTCTCG
23.hypA遺伝子領域
配列番号51:#500(norB−R−KpnI−F):CGGGGTACCTGTGGATTCGTGAGTGTC
配列番号52:#528(cypA−R):AATCCGCCAACCCAGTC
24.P1/P2遺伝子領域
配列番号65:#527(norB−R2):CAATATTTCATCTGCTGTTTCC
配列番号66:#470(PTRI−F):GCAAGAGCGGCTCATCGTCA
25.P3/P4遺伝子領域
配列番号67:#469(PTRI−R):TGGGATCCCGTAATCAATTGCCC
配列番号68:#530(nadA−R):GACTGATAAGGGAGCCGC
【0083】
遺伝子欠失の確認は、表4に示した前記の各プライマーセットを使用してPCRを行った場合に予想されるPCR産物のサイズと電気泳動の結果を比較して行った。表4に示した各遺伝子を対象にPCRを行った結果、408株が、アスペルギルス・パラジチカス染色体のアフラトキシン遺伝子クラスター領域67kb領域の欠失変異体であることが確認された。この408株は、“Aspergillus parasiticus AF-/SYS-4(norB-hypA)No.408” の表示で、平成18(2006)年7月26日(受領日)付で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305−5466 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に受領されている。受領番号は、FERM AP−20970である。
【0084】
【表4】
【実施例5】
【0085】
[アスペルギルス・パラジチカス染色体のアフラトキシン遺伝子クラスター領域67kb領域の欠失(niaD遺伝子利用)]
上記と同様な手法で3’norB−niaD−5’hypA断片を構築し、niaD欠損株NR−1株に形質転換した。上記と同様にPCRを行った結果、遺伝子クラスターの欠失を確認することができた。
【実施例6】
【0086】
[アフラトキシン生産菌のアフラトキシン遺伝子クラスター欠失株のバイオコントロール剤としての機能の確認]
アフラトキシン生産菌のアフラトキシン遺伝子クラスター欠失株は、アフラトキシン生産菌のバイオコントロール剤として利用できる。実際に、アフラトキシン生産について競合することを、チップ培養法(1mlのピペットマンチップの先端をシールし培養器として用いた。中に0.25 mlのYES(2%酵母エキス、20%蔗糖)液体培地を入れ、種々の割合で胞子を接種した。
平均3550コ(左側)又は35.5コ(右側)のアフラトキシン生産株SYS−4株の胞子と、平均12000コ、1200コ、120コ、12コ、1.2コ及び0コの、実施例2で得られた103番株の胞子を同時にチップ中の0.25ml培地に接種し、28℃ 、4日培養した後、培養液10マイクロリットルをシリカゲル薄層クロマトグラフィープレート(Kieselgel60,no.5721;Merck&Co.,Rahway,N.J.)にスポットし、展開溶液(クロロホルム:酢酸エチル:90%ギ酸(6:3:1vol/vol/vol))を用いて展開した。アフラトキシンは紫外線(365nm)を照射して観察した。結果を図15(A)に示す。
AF103株を接種後、1日たってからSYS−4株の胞子を同様に接種し、それから4日後、培養液を同様に分析した。結果を図15(B)に示す。その結果、AF103株がアフラトキシン生産に関してアフラトキシン生産カビと競合することが確認された。
【実施例7】
【0087】
[麹カビ基準菌株RIB40のアフラトキシン遺伝子クラスター類似領域60kb領域の欠失]
(1)麹カビ(Aspergillus oryzae)の遺伝子についてaflT−ptrA−moxYコンストラクトを有するpAF−DDベクターの作製
1)ベクターの作製と形質転換
pAF−DDベクターは、2kb KpnI/PstI ピリチアミン耐性遺伝子ptrAと1.5kb BglII/KpnI aflTホモログ遺伝子断片、1.6kb HindIII/XhoI moxYホモログ遺伝子断片をpSP72(Promega)に段階的に導入することによって作製した。麹カビのaflTホモログ領域とmoxYホモログ領域はA. oryzaeRIB40株のゲノムDNAをテンプレートとして、以下のように、適当な制限酵素部位を導入したプライマーを用いてPCRを行い増幅した。得られたベクターの概略図を図16に示す。
【0088】
<プライマー>
1.aflT断片のプライマー
配列番号69:oryzaeL−BglII−F:#368:GAAGATCTGGCGTGCTCCTCATCAC
配列番号70:oryzaeL−KpnI−R:#369:GGGGTACCGTC GGGGATCGTTTCGG
2.moxY断片のプライマー
配列番号71:oryzaeR−HindIII−F:#370:CCCCAAGCTTCCTGGGGTCAAGACGTC
配列番号72:oryzaeR−xhoI−R:#371: CCCCCGCTCGAGCTCTACTCCGTCACCGC
3.選択マーカー(ptrA)断片のプライマー
配列番号5:PTRI−KpnI−F:#311:GGGGTACCGGGCAATTGATTACGGGATCCCA)
配列番号6:PTRI−PstI−R2:#322:AAAACTGCAGTGACGATGAGCCGCTCTTGC
【0089】
この場合pPTRI(Takara)をテンプレートとして用いた。その後、pAF−DDをBspHIとXmaIで処理して、1.5kb aflTと1.5kb moxY領域を2kbのptrA領域を挟むように導入し、その後、カセット構造領域を直鎖DNA断片(図17)にして、麹カビRIB40株を形質転換した。
【0090】
2)麹カビにおいて変異体の選抜と特記すべき留意点
ピリチアミン耐性株を選抜した後、多数の株からDNAを抽出し、vbsプライマー(配列番号73:#392(oryzae−vbs−F1): CGCGGTCAGCTGCTTC、配列番号74:#393(oryzae−vbs−R):GACTGTGGCTCTCGACC)を用いてPCRを行い、RIB40野生株のDNAを用いたときと比較してPCR産物のバンドの強度が顕著に減少又は欠失している株は目的の欠失株であることが予想された。しかし、麹カビの胞子は核を複数含む多核胞子が多いため、スクリーニングとしてさらに、プライマーP2(配列番号75:#181(ptrA−F1):CCACTGTGGCCGCTACC) とプライマーP5(配列番号76:#458(oryzaeR−R1):AGTTGGGCATCTCGGGC)を用いてPCRを行った。プライマーP2は選択マーカー遺伝子ptrAの内部配列を有し、プライマーP5はカビの染色体上moxYホモログ領域の外側にあるため、野生株ではこれらのプライマーを用いてもバンドが出ない。それに対して、目的とする欠失株では、3kbのPCR産物が得られるはずであるため、それを指標として欠失株を選抜した。
【0091】
さらに、麹カビの胞子は多核の割合が多いため、単胞子分離によっては形質の純化が容易ではなかった。そこで、麹カビの場合は、継代を繰り返すだけでなく、単胞子分離の際に一つの核だけを有する単核胞子を選抜し、単核胞子の継代を繰り返した。胞子の大きさは含む核の数が多いほど大きいため、他の研究者によって報告されたような以下の方法を用いて小さな単核胞子を選抜した。胞子全体の直径は4〜9μmであり、平均は約7μmであるのに対し、単核胞子は通常4− 7μmの直径を有し、最も多いのが約5μm直径である。そこで、胞子液を5μmサイズの穴を有した限外ろ過膜でろ過して、膜を通過して回収される小さな胞子を選抜した。つまり、PCRによって目的とする変異を有すると予想される形質転換体の集落から胞子を採集し、ろ過後、胞子液を含むろ液をGY寒天培地に広げ、単一胞子由来の集落についてPCRを行って目的とする欠失変異株であることを確認し、さらに同様の純化を繰り返した。この純化を少なくとも3回繰り返して、すべての集落が目的とする変異体を生じることを確認して変異株を確立した。
【0092】
3)PCR分析によるアフラトキシン遺伝子クラスター領域の欠失の確認
得られた変異株のゲノム上アフラトキシン遺伝子クラスター類似領域がすべて欠失していることは、変異株のDNAと野生株RIB40のDNAをそれぞれ調製して、以下の種々のプライマーを用いてPCRにより確認した。その結果得られた欠失変異体#80−4株(FERM AP−20971)について、さらに詳細な遺伝子欠失を確認した。電気泳動の結果を図18に示す。欠失の確認は、表5に示す、前記の各プライマーセットを使用してPCRを行った場合に予想されるPCR産物のサイズと電気泳動の結果を比較して行った。その結果、#80−4株が、アフラトキシン遺伝子クラスター類似領域60kb領域の欠失変異体であることが確認された。この#80−4株は、“Aspergillus oryzae AF-/RIB(aflT-moxY)No.80-4” の表示で、平成18(2006)年7月26日(受領日)付で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305−5466 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に受領されている。受領番号は、FERM AP−20971である。
【0093】
<プライマー>
1.pksA遺伝子
配列番号77:#373(oryzae−pksA−F): GGGGTACCCCGGACCCAGCTATACC
配列番号78:#372(oryzae−pksA−R): GAAGATCTC CAGCATGGCATGCGTC
2.nor1遺伝子
配列番号79:#459(oryzae−nor1−F): GCACGGTCAAGAGAGGC
配列番号80:#460(oryzae−nor1−R): GGATAACGAAGTGCCCCG
3.fas2 遺伝子
配列番号81:#396(oryzae−fas2−F): CGAAGTCATGGGCTCGG
配列番号82:#397(oryzae−fas2−R): GGCGCACTTCAGAGTCG
4.fas1遺伝子
配列番号83:#426(oryzae−fas1−F): CATTCCCTGTCCGCTGG
配列番号84:#427(oryzae−fas1−R): GGAACTACCCGCAGCTC
5.aflR遺伝子
配列番号85:#461(oryzae−aflR−F): CAGGTCGGAACAGGGAC
配列番号86:#462(oryzae−aflR−R): CACCTTCTTGCAGGCGC
6.ver1遺伝子
配列番号87:#463(oryzae−ver1−F): GCATGTCCGACAACCACC
配列番号88:#464(oryzae−ver1−R): CTGCGTCAGATGCCAGG
7.avfA遺伝子
配列番号89:#428(oryzae−avfA−F): CCTTCGGTGTGCGTTCC
配列番号90:#429(oryzae−avfA−R): GCAGTAGGACTCCCCAG
8.omtA遺伝子
配列番号91:#430(oryzae−omtA−F): GCGACTTCCCAGCTCTC
配列番号92:#431(oryzae−omtA−R): CCACTCCTTGGGAGACC
9.ordA遺伝子
配列番号93:#424(oryzae−ordA−F): GGACGACCTTCGCTTCC
配列番号94:#425(oryzae−ordA−R): CCATGGGGTCGTGGTAG
10.vbs遺伝子
配列番号73:#392(oryzae−vbs−F1): CGCGGTCAGCTGCTTC
配列番号74:#393(oryzae−vbs−R): GACTGTGGCTCTCGACC
11.cypX遺伝子
配列番号95:#467(oryzae−cypX−F): CATGACCATGCTCTCCGG
配列番号96:#468(oryzae−cypX−R): GGTATGCACGCCTGACG
配列番号67(P1):#469:ptrA−R: TGGGATCCCGTAATCAATTGCCC.
配列番号66(P3):#470:ptrA−F: GCAAGAGCGGCTCATCGTCA
配列番号97(P4):#465:oryzaeL−F1: GTGACCTGGCGATGGTG
配列番号76(P5):#458:oryzaeR−R1: AGTTGGGCATCTCGGGC
【0094】
【表5】
【実施例8】
【0095】
麹カビ(Aspergillus oryzae)は発酵食品産業上重要な生物である。本発明によってアフラトキシン遺伝子クラスター類似領域を欠失しても産業上重要な酵素活性に影響せず、実用上問題ないことについて検討を行った。
【0096】
[酵素活性に対する影響]
1.材料
3種類の原料を用い、以下のように培養後、それぞれの麹について酵素活性を測定した。
1)α化米の作製
90%精白米(国産米)を十分に吸水させた後、定法に従い水切り・蒸しを行った。蒸気を軽く抜いた後、90℃の通風乾燥機で18時間乾燥し、α化米とした。乾燥途中に数回手入れを行って固まりをほぐし、乾燥終了後には5ミリ程度のアミで固まりを取り除いた。
2)α化麦の作製
約65%精麦の国産大麦を1時間浸せき後、2時間水切りを行った。その後の処理はα化米と同様に実施した。
3)α化米・α化麦麹
滅菌した300ml容三角フラスコ(メリクロン)にα化米・α化麦20gを分注し90℃2時間殺菌した。冷却後、原料1gあたり1×106個の分生子を接種し、殺菌水10mlを添加、よく攪拌した。十分に吸水したのを確認した後、再度攪拌して、培養を開始した。
培養は42時間、恒温機を用いて30℃で行った。培養中18時間目、32時間目に攪拌を行い、水分及び品温の均一化を図った。
4)醤油麹
脱脂大豆に重量に対して130%の水を加え、十分に攪拌した。これを300ml容三角フラスコ(メリクロン)に10g分注し、割砕小麦6gを加え1kg/cm2 20分で蒸煮を行った。冷却後、分生子を原料重量あたり1×106個接種し、恒温恒湿機(タバイエスペック株式会社、PR−4SP)を用いて、製麹を行った。培養条件は、24時間まで28℃、以後25℃で管理し、培養42時間目に出麹とした。途中、24時間目、32時間目に麹を撹拌し、水分及び品温の均一化を図った。
【0097】
2.分析法
(1)粗酵素液の抽出
培養した麹10gに0.5%NaCl水溶液50mlを加え、室温で3時間酵素(時々攪拌)を抽出した。次いで、東洋ろ紙No.5Cにてろ過を行い、得られた上澄液を定法に従い透析して粗酵素液とした。これを適宜希釈して酵素活性を測定した。
(2)酵素活性の測定
1)プロテア−ゼ
国税庁所定分析法注解(第4回改定国税庁所定分析法注解 注解編集委員会編(日本醸造協会,東京),p.223(1993).)に準じて,Hammarsteinのミルクカゼイン(Merck社)2%溶液を基質として,反応温度38℃,反応pH3.0(酸性)、6.0(中性)における活性を測定した。活性の表示は38℃1分間にL−チロシン1μgを生ずる酵素量を1単位とした。
2)酸性カルボキシペプチダーゼ
国税庁所定分析法注解(第4回改定国税庁所定分析法注解 注解編集委員会編(日本醸造協会,東京),p.226(1993).)に準じて、0.5mMCbz−Glu−Tyr溶液を基質として,反応温度30℃,反応pH3.0における活性を測定した。30℃60分間にチロシン1μgを遊離する酵素量を1単位とした。
3)α−アミラ−ゼ
国税庁所定分析法注解に(第4回改定国税庁所定分析法注解 注解編集委員会編(日本醸造協会,東京),p.218(1993).)に準じて,可溶性デンプン1%溶液を基質として反応温度40℃,pH5.0における活性を測定した。活性は40℃30分間に1%可溶性デンプン1mlを分解する酵素量を1単位(Wohlgemuth値)とした。
4)グルコアミラーゼ
国税庁所定分析法注解に(第4回改定国税庁所定分析法注解 注解編集委員会編(日本醸造協会,東京),p.213(1993).)準じて,可溶性デンプン2%溶液を基質として反応温度40℃,pH5.0における活性を測定した。活性は40℃1時間に1mgのグルコースを遊離する酵素量を1単位とした。
5)ホスファタ−ゼ
難波らの方法に(難波康之助・戸塚 昭・伊藤 清:醸協,72,893 (1977).)より準じて,10mM p-Nitrophenyl phosphate disodium溶液を基質として反応温度30℃,反応pH5.0における活性を測定した。活性は30℃1時間に1μMのp-Nitrophenolを遊離する酵素量を1単位とした。
6)ペクチン糖化力
0.5%ペクチン(リンゴ由来、Wako(株)製)溶液を基質として反応温度40℃,反応pH4.0における活性を測定した。活性は40℃で1時間にガラクツロン酸1μgを遊離する酵素量を1単位とした。
7)ペクチン酸糖化力
1%ポリガラクツロン酸(オレンジ由来、Sigma(株)製)溶液を基質として反応温度40℃、反応pH4.0における活性を測定した.活性は40℃で1時間にガラクツロン酸1μgを遊離する酵素量を1単位とした。
8)β−グルコシダーゼ
太田らの方法(太田剛雄・下条寛和・橋本憲治・近藤洋大・佐無田隆・大場敬輝:醸協,86,536 (1991).)に準じて、4mM p-Nitrophenyl -β-D-glucoside溶液を基質として反応温度37℃,反応pH5.0における活性を測定した。活性は37℃、1分間に1μMのp-Nitrophenolを遊離する酵素量を1単位とした。
【0098】
3.結果
上記項目に関する分析項目について、野生型麹カビRIB40株及び実施例7で得られた遺伝子欠損株RIB40(#80−4)を用いて検討した。結果を表6に示す。麹の酵素活性では、遺伝子欠損株において有意な差はみられなかった。
【0099】
【表6】
【0100】
[胞子着生量の検討]
1.種麹作製試験
97%精白米(国産米)を十分に吸水させ、定法に従い水切り・蒸しを行った。冷却後、300ml容三角フラスコ(メリクロン)に20g分注し1kg/cm2 1分殺菌した。
麹菌としては、野生型のRIB40及び前記実施例欠失変異体RIB40(#80−4)を使用した。
麹菌の接種は麹菌を培養した斜面培地から数ミリを切り取り、それをフラスコに入れ、よく攪拌した。
培養は、培養24時間まで恒温恒湿機(タバイエスペック株式会社、PR−4SP)を用いて、温度30℃、RH98%の条件で、以後出麹(培養は7日間)まで30℃の恒温機で行った。培養24時間目に麹を撹拌し、水分及び品温の均一化を図った。
培養終了後、35℃で18時間乾燥した麹(種麹)100gを120メッシュの篩いにかけ、アミを通過した分生子を回収、重量を測定した。分生子数はしょうゆ試験法(しょうゆ試験法 しょうゆ試験法編集委員会編:、(日本醤油研究所、東京)、p.275(1985))に従い、トーマ氏血球計を用いて測定した。
【0101】
2.結果
上記の方法により種麹を作製し、種麹100gあたりの胞子量を測定した値を胞子収量とした。野生型RIB40では8.0g、遺伝子欠損型RIB40(#80−4)では7.2gであった。
【実施例9】
【0102】
[フザリウム属菌の広範囲遺伝子領域の欠失]
フザリウム属の株は、畑等の土壌に多く成育し、特に麦やとうもろこしについてカビ毒を作る。これらが生産するカビ毒は、トリコテセン系カビ毒やゼアラレノンなど多くの種類がある。この中でトリコテセン系カビ毒であるデオキシニバレノールとニバレノール及びゼアラレノンは、日本、カナダ、アメリカ、フランス、イギリスなど多くの国で麦類を汚染していることがわかり、大きな問題となっている。フザリウム属菌のトリコテセン生合成の分子レベルでの概要は既に解明され、フザリウム・グラミネラム(Fusarium graminearum)の全ゲノム配列も公開された。トリコテセンの生産に関与する種々の遺伝子は遺伝子クラスターを形成していることが明らかになっている。フザリウム・グラミネラムの主要な遺伝子クラスター(Tri5クラスター)は、10個のORFを含んでおり、機能が明らかになっている遺伝子もある。そこで、遺伝子クラスター領域の欠失株の作出を本発明の手法を用いて行った。その結果、3種の遺伝子、Tri11, Tri12,Tri13を含んだ約7.5kbの領域を、本発明と同じ方法を用いて欠失するのに以下のように成功した。
【0103】
フザリウム属カビの場合、ハイグロマイシンB耐性遺伝子が選択マーカーとして利用でき、遺伝子欠失のコンストラクトとしてはこの選択マーカーを挟んでTri11より外側の2kbの配列とTri13より外側の約2kbの配列をつなげた構造をダブルジョイントPCR法によって作成し、これによって、フザリウム・グラミネラムを形質転換した。形質転換後、ハイグロマイシンBを含む培地で培養し、ハイグロマイシンB耐性株を選抜後、耐性株のそれぞれについてDNAを抽出した。そして、適当なプライマーの組み合わせを用いて目的の遺伝子領域の欠失を確認し、変異体を選抜した。最終的に得られた変異株については、遺伝子構造の変化を以下のプライマーを用いてPCRを行い、得られたPCR産物を宿主と比較することにより確認した。図19に、フザリウム野性株とトリコテセン遺伝子領域7.5kb領域が欠失したフザリウム変異株の遺伝子構造の概略とプライマーの位置を示す。また、前記の各プライマーセットを使用してPCRを行った場合に予想されるPCR産物のサイズを表7に示す。予想されるサイズのPCR産物の生成を電気泳動で確認した結果、3種の遺伝子、Tri11, Tri12,Tri13を含んだ約7.5kbの領域の欠失が確認できた(図20)。
【0104】
<プライマー:Fragment 3>
配列番号98:#639(Fg3−XhoI−F):CCCTCGAGAGGGATGGTCCACAGC
配列番号99:#665(hph−np−R):TCGCGGTGAGTTCAGGC
配列番号100:#648(Fg3−R):TGGCAAGAACAGTTTGGG
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配列番号102:#691(Tri11−R):TCAACAAGTTTGCAGAGAAC
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配列番号105:#694(Tri14−F):GCCTAAAGGCAACATCAAC
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配列番号110:#619(Fg2−seq−r2):AGTTATCAGAATCTCAGGC
【0105】
【表7】
【0106】
トリコテセン遺伝子クラスターの場合、クラスター中央の領域にカビの生育に必要な遺伝子が含まれるため、クラスター全体を欠失させた変異株は得られなかった。そこで、生育に関係しない領域について広範囲の遺伝子領域の除去を本発明の手法で行った結果、7.5kbの領域が欠失した変異株が得られた。そして、この欠失株ではトリコテセン系のカビ毒であるデオキシニバレノールの生産性の顕著な減少が観察され、一方、顕著な形態変化は見られなかった。以上の結果から、フザリウム属菌においても本発明の手法が有用であることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明のpAF−DD1の概略を示す図である。
【図2】本発明のアフラトキシン遺伝子クラスター領域6.6kb領域の欠失株であることを確認した電気泳動結果を示す図である。
【図3】本発明のpAF−DD2ベクターの概略を示す図である。
【図4】本発明のアフラトキシン産生遺伝子欠失を確認した電気泳動結果を示す図である。CKはコントロールの宿主菌株である。
【図5】本発明のアフラトキシン産生遺伝子の欠失が確認された菌株について、さらに詳細な遺伝子欠失の確認結果を示す図である。CKはコントロールの宿主菌株である。
【図6】本発明のアフラトキシン生産性が産生されなくなったことを紫外線写真法により確認した結果を示す図である。3つのコロニーのうち上のコロニーは、宿主SYS−4株、下の2つはpks−vbs欠失株である。アフラトキシンを産生する宿主SYS−4株では紫外線吸収がおこるため黒い像が、欠失変異体においてはアフラトキシンが産生されないため白い像が見られる。
【図7】本発明の薄層クロマトグラフィーによるアフラトキシン生産性の比較を行った図である。1はpks−vbs欠失株:培養液を10μlスポット、2はSYS−4宿主株:培養液を5μlスポットしたものである。カビは主に4種のアフラトキシン(上のスポットからB1、B2、G1、G2)を産生する。
【図8】本発明のpVBS−SD2ベクターの概略を示す図である。
【図9】本発明のアフラトキシン遺伝子クラスター領域vbs遺伝子破壊株であることを確認した電気泳動結果を示す図である。
【図10】本発明のpAF−DD3ベクターの概略、及びvbs遺伝子が既に破壊されているniaD欠損株における相同組換えの概略を示す図である。
【図11】本発明のpAF−DD3ベクターの概略、及びvbs遺伝子が破壊されていないniaD欠損株における相同組換えの概略を示す図である。
【図12】本発明のアフラトキシン遺伝子クラスター領域49kb領域の欠失株であることを確認した電気泳動結果を示す図である。
【図13】本発明のアフラトキシン産生遺伝子の欠失が確認されたniaD欠損株について、さらに詳細な遺伝子欠失の確認結果を示す図である。CKはコントロールの宿主菌株である。
【図14】本発明のpAF−WDベクターの概略を示す図である。
【図15】本発明のアフラトキシン産生株の胞子と非産生カビの胞子の割合を変えてアフラトキシンの産生を調べた結果を示す図である。(A)産生カビ、非産生カビの同時接種、(B)非産生カビを接種後1日経過時点で産生カビを接種したものである。
【図16】本発明のpAF−DDベクターの概略を示す図である。
【図17】本発明の、pAF−DDをBspHIとXmaIで処理して、1.5kb aflTと1.5kb moxY領域が2kb ptrA領域を挟んだ直鎖DNA断片の構造を示す図である。
【図18】本発明のアフラトキシン産生遺伝子の欠失が確認された#80−4番菌株について、さらに詳細な遺伝子欠失の確認結果を示す図である。CKはコントロールの宿主菌株である。
【図19】本発明のトリコテセン遺伝子領域7.5kb領域が欠失したフザリウム変異株とフザリウム野性株の遺伝子構造の概略を示す図である。
【図20】本発明のトリコテセン遺伝子領域7.5kb領域の欠失株である事を確認した電気泳動を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸状菌の有害物質生産に関与する遺伝子領域又は少なくとも生存に必須でない遺伝子領域を含む広範囲標的遺伝子領域の両外側に位置し、染色体上で5kb以上離れた2つのDNA領域とそれぞれ相同組換えすることができる2つの相同DNA領域間に、選択マーカー遺伝子、又は選択マーカー遺伝子と所定の遺伝子領域を連結した広範囲遺伝子領域欠失用遺伝子カセットを作製し、該広範囲遺伝子領域欠失用遺伝子カセットを前記糸状菌に導入し、2回交差相同組換えが起こった変異株を、まず選択マーカーの性質を利用して一次選抜し、その後、変異株の遺伝子構造の変化を直接調べることにより二次選抜することを特徴とする広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法。
【請求項2】
糸状菌の有害物質生産に関与する遺伝子領域又は少なくとも生存に必須でない遺伝子領域が、糸状菌のアフラトキシン生産菌の遺伝子クラスター又は麹カビのアフラトキシン遺伝子クラスター類似領域であることを特徴とする請求項1記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法。
【請求項3】
染色体上で5kb以上離れた2つのDNA領域が、染色体上で15kb以上離れた2つのDNA領域であることを特徴とする請求項1又は2記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法。
【請求項4】
染色体上で15kb以上離れた2つのDNA領域が、染色体上で50kb以上離れた2つのDNA領域であることを特徴とする請求項3記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法。
【請求項5】
選択マーカー遺伝子が、ピリチアミン耐性遺伝子(ptrA)又は/及び硝酸還元酵素をコードする遺伝子(niaD)であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法。
【請求項6】
一次選抜で得られた変異株から単核胞子を調製し、単核胞子由来の遺伝子構造の変化を直接調べることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法。
【請求項7】
PCR法又はサザーン法により変異株の遺伝子構造の変化を直接調べることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法。
【請求項8】
糸状菌の染色体上で5kb以上の有害物質生産に関与する遺伝子領域又は少なくとも生存に必須でない遺伝子領域を含む広範囲標的遺伝子領域が、選択マーカー遺伝子、又は選択マーカー遺伝子と所定の遺伝子領域で置換されて欠失した広範囲遺伝子領域欠失変異株。
【請求項9】
糸状菌の有害物質生産に関与する遺伝子領域又は少なくとも生存に必須でない遺伝子領域が、糸状菌のアフラトキシン生産菌の遺伝子クラスター領域又は麹カビのアフラトキシン遺伝子クラスター類似領域であることを特徴とする請求項8記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株。
【請求項10】
糸状菌の染色体上で15kb以上の広範囲標的遺伝子領域が欠失したことを特徴とする請求項8又は9記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株。
【請求項11】
糸状菌の染色体上で50kb以上の広範囲標的遺伝子領域が欠失したことを特徴とする請求項10記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株。
【請求項12】
選択マーカー遺伝子が、ピリチアミン耐性遺伝子(ptrA)又は/及び硝酸還元酵素をコードする遺伝子(niaD)であることを特徴とする請求項8〜11のいずれか記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株。
【請求項13】
アフラトキシン生産菌の遺伝子クラスターの全部又は一部が除去されたアフラトキシン非生産性アスペルギルス・パラジチカス。
【請求項14】
アスペルギルス・パラジチカス(FERM AP−20970)。
【請求項15】
アフラトキシン遺伝子クラスター類似領域の全部又は一部が除去されたアスペルギルス・オリゼー。
【請求項16】
アスペルギルス・オリゼー(FERM AP−20971)。
【請求項17】
請求項8〜12のいずれか記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株、請求項13若しくは14記載のアスペルギルス・パラジチカス、又は、請求項15若しくは16記載のアスペルギルス・オリゼーを含むバイオコントロール剤。
【請求項18】
糸状菌の有害物質生産に関与する遺伝子領域又は少なくとも生存に必須でない遺伝子領域を含む広範囲標的遺伝子領域の両外側に位置し、染色体上で5kb以上離れた2つのDNA領域とそれぞれ相同組換えすることができる2つの相同DNA領域間に、選択マーカー遺伝子、又は選択マーカー遺伝子と所定の遺伝子領域を連結した広範囲遺伝子領域欠失用遺伝子カセットと、前記広範囲標的遺伝子領域が欠失したことを確認することができるプローブ又は少なくとも1対のプライマーセットとを備えた広範囲遺伝子領域欠失変異株のスクリーニングキット。
【請求項1】
糸状菌の有害物質生産に関与する遺伝子領域又は少なくとも生存に必須でない遺伝子領域を含む広範囲標的遺伝子領域の両外側に位置し、染色体上で5kb以上離れた2つのDNA領域とそれぞれ相同組換えすることができる2つの相同DNA領域間に、選択マーカー遺伝子、又は選択マーカー遺伝子と所定の遺伝子領域を連結した広範囲遺伝子領域欠失用遺伝子カセットを作製し、該広範囲遺伝子領域欠失用遺伝子カセットを前記糸状菌に導入し、2回交差相同組換えが起こった変異株を、まず選択マーカーの性質を利用して一次選抜し、その後、変異株の遺伝子構造の変化を直接調べることにより二次選抜することを特徴とする広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法。
【請求項2】
糸状菌の有害物質生産に関与する遺伝子領域又は少なくとも生存に必須でない遺伝子領域が、糸状菌のアフラトキシン生産菌の遺伝子クラスター又は麹カビのアフラトキシン遺伝子クラスター類似領域であることを特徴とする請求項1記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法。
【請求項3】
染色体上で5kb以上離れた2つのDNA領域が、染色体上で15kb以上離れた2つのDNA領域であることを特徴とする請求項1又は2記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法。
【請求項4】
染色体上で15kb以上離れた2つのDNA領域が、染色体上で50kb以上離れた2つのDNA領域であることを特徴とする請求項3記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法。
【請求項5】
選択マーカー遺伝子が、ピリチアミン耐性遺伝子(ptrA)又は/及び硝酸還元酵素をコードする遺伝子(niaD)であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法。
【請求項6】
一次選抜で得られた変異株から単核胞子を調製し、単核胞子由来の遺伝子構造の変化を直接調べることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法。
【請求項7】
PCR法又はサザーン法により変異株の遺伝子構造の変化を直接調べることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株の生産方法。
【請求項8】
糸状菌の染色体上で5kb以上の有害物質生産に関与する遺伝子領域又は少なくとも生存に必須でない遺伝子領域を含む広範囲標的遺伝子領域が、選択マーカー遺伝子、又は選択マーカー遺伝子と所定の遺伝子領域で置換されて欠失した広範囲遺伝子領域欠失変異株。
【請求項9】
糸状菌の有害物質生産に関与する遺伝子領域又は少なくとも生存に必須でない遺伝子領域が、糸状菌のアフラトキシン生産菌の遺伝子クラスター領域又は麹カビのアフラトキシン遺伝子クラスター類似領域であることを特徴とする請求項8記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株。
【請求項10】
糸状菌の染色体上で15kb以上の広範囲標的遺伝子領域が欠失したことを特徴とする請求項8又は9記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株。
【請求項11】
糸状菌の染色体上で50kb以上の広範囲標的遺伝子領域が欠失したことを特徴とする請求項10記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株。
【請求項12】
選択マーカー遺伝子が、ピリチアミン耐性遺伝子(ptrA)又は/及び硝酸還元酵素をコードする遺伝子(niaD)であることを特徴とする請求項8〜11のいずれか記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株。
【請求項13】
アフラトキシン生産菌の遺伝子クラスターの全部又は一部が除去されたアフラトキシン非生産性アスペルギルス・パラジチカス。
【請求項14】
アスペルギルス・パラジチカス(FERM AP−20970)。
【請求項15】
アフラトキシン遺伝子クラスター類似領域の全部又は一部が除去されたアスペルギルス・オリゼー。
【請求項16】
アスペルギルス・オリゼー(FERM AP−20971)。
【請求項17】
請求項8〜12のいずれか記載の広範囲遺伝子領域欠失変異株、請求項13若しくは14記載のアスペルギルス・パラジチカス、又は、請求項15若しくは16記載のアスペルギルス・オリゼーを含むバイオコントロール剤。
【請求項18】
糸状菌の有害物質生産に関与する遺伝子領域又は少なくとも生存に必須でない遺伝子領域を含む広範囲標的遺伝子領域の両外側に位置し、染色体上で5kb以上離れた2つのDNA領域とそれぞれ相同組換えすることができる2つの相同DNA領域間に、選択マーカー遺伝子、又は選択マーカー遺伝子と所定の遺伝子領域を連結した広範囲遺伝子領域欠失用遺伝子カセットと、前記広範囲標的遺伝子領域が欠失したことを確認することができるプローブ又は少なくとも1対のプライマーセットとを備えた広範囲遺伝子領域欠失変異株のスクリーニングキット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2008−125493(P2008−125493A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317787(P2006−317787)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】
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