説明

柔軟なポリマー

ハードセグメントとソフトセグメントとを含有する熱可塑性エラストマーであって、ソフトセグメントが二量化脂肪酸の残基および二量化脂肪族アミンの残基を含有する熱可塑性エラストマー。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、再生可能資源から製造することができる、柔軟性が改善されたポリマーに関する。
【0002】
再生可能資源から得られてもよいモノマー残基の、ポリマーにおける使用は、ますます重要になってきている。化石炭素から製造される必要がない再生可能資源から得られるモノマー残基の使用は、ポリマーの製造による温室効果ガスを低減する望ましい方法である。
【0003】
良い例は、ポリマーにおける二量化脂肪酸残基の使用である。二量化脂肪酸残基は、柔軟性をポリマーに与えるために使用される。
【0004】
米国特許出願公開第2006/0235190号明細書から、二量化脂肪酸の残基を含有する、半結晶性の、溶融加工可能な、部分芳香族コポリアミドは公知である。二量化脂肪酸は、脂肪酸を共重合させるために使用することができる2つのカルボン酸基を含有する。二量化脂肪酸を共重合させてポリアミドにするために、脂肪族ジアミン、たとえばヘキサメチレンジアミンが使用される。同じ原理は、二量化脂肪酸の残基を含有する熱可塑性コポリエステルについて知られている。コポリマーは増加した柔軟性を示すが、もっとさらに増加した柔軟性を有するコポリマーが必要とされている。
【0005】
それ故、本発明の目的は、とりわけより低い温度で、柔軟性が高められたこのようなコポリマーを提供することである。
【0006】
意外にも、この目的は、ハードセグメントとソフトセグメントとを含有する熱可塑性エラストマーであって、ソフトセグメントが二量化脂肪酸の残基および二量化脂肪アミンの残基を含有する熱可塑性エラストマーによって達成される。
【0007】
本発明による熱可塑性エラストマーは非常に柔軟である。それ故、この熱可塑性エラストマーは多くの用途に使用される可能性がある。
【0008】
本発明による熱可塑性エラストマーは、その低いガラス転移温度のために、比較的低い温度で既にゴム状挙動を示す。このポリマーの弱化点は比較的高い温度である。さらに、本発明による熱可塑性エラストマーの弾性率は、ガラス転移温度と軟化点との間でどちらかといえば一定の値を有する。これは、本発明による熱可塑性エラストマーを使用することができる大きい温度域をもたらす。
【0009】
さらに、ポリマー中の再生可能資源をベースとする残基の含有率は増加する。
【0010】
二量化脂肪酸は、オリゴマー化反応によって単量体の不飽和脂肪酸から得ることができる。オリゴマー混合物は、二量化脂肪酸の高い含有率を有する混合物を生み出すために、たとえば蒸留によって、さらに処理される。その後の接触水素化によって、二量化脂肪酸中の二重結合は飽和させることができる。用語二量化脂肪酸は、本明細書において使用される場合、飽和および不飽和の、両タイプのこれらの二量化脂肪酸に関する。
【0011】
二量化脂肪酸は、44個までの炭素原子を含有してもよい。好ましくは、二量化脂肪酸は36個の炭素原子を含有する。
【0012】
二量化脂肪酸の構造および特性に関するさらなる詳細は、会社UNICHEMA(Emmerich,Germany)の相当する小冊子「Pripol C36−Dimer acid」にまたは会社COGNIS(Duesseldorf,Germany)の冊子「Empol Dimer and Poly−basic Acids;Technical Bulletin 114C(1997)」に見いだすことができる。
【0013】
二量化脂肪族アミンを得るための好適な方法は、二量化脂肪酸の酸基をアミン基で置き換えることである。この置換は、第1工程において二量化脂肪酸の酸基を、アンモニアとの反応により、アミド基に変換することによって行うことができる。第2工程においてアミド基は、高温、たとえば280〜320℃でニトリル基へ変換される。ニトリル基は、最終工程でニトリル基の水素化によってアミンへ変換することができる。
【0014】
さらなる工程において、予備重合した(pre−polymerized)ソフトセグメントが二量化脂肪酸と二量化脂肪族アミンとの混合物の縮合反応によって好ましくは形成される。このようにして容易に、低いガラス転移温度の、長いソフトセグメントを得ることができる。
【0015】
二量化脂肪酸と二量化脂肪族アミンとの比ならびに脂肪酸および脂肪族アミンの重合度に依存して、予備重合ソフトセグメントの末端基は、酸基またはアミン基であるように合わせられる。反応、最終熱可塑性ポリマーを製造するために使用されるさらなるモノマーおよび/またはプレポリマーに依存して、酸末端基もしくはアミン末端基を有することが望ましい可能性があるか、または最終的に両末端基が存在する可能性がある。良好な結果は、末端基がヒドロキシル基に変換された場合に得られる。これは、このようにして、とりわけ熱可塑性エラストマーがハードポリエステルセグメントを含有する場合に、非常に安定な熱可塑性エラストマーを得ることができるからである。たとえば、アミノアルコールと反応させることによって酸末端基をヒドロキシル末端基へ変性することが可能である。アミン末端基は、環状エステルラクトンまたはヒドロキシル酸と反応させることによって同様に変換されてもよい。
【0016】
予備重合したソフトセグメントは、好ましくは少なくとも600kg/kmol、より好ましくは少なくとも1000kg/kmol、さらにより好ましくは少なくとも2000kg/kmolの数平均分子量(Mn)を有する。Mnは、好ましくは多くとも5000kg/kmol、より好ましくは多くとも2500kg/kmolである。
【0017】
25〜90のショア(Shore)D値を有する、本発明による熱可塑性エラストマーを製造することが可能である。好ましくは、ショアD値は30〜75、さらにより好ましくは40〜60である。望ましいショアD値は、熱可塑性エラストマー中のソフトセグメントの分率を変えることによって得ることができる。この分率を上げるとともにショアD値は低下する。好ましくは、熱可塑性エラストマーは非常にソフトであり、60〜80、好ましくは65〜80のショアAを有する。本発明による熱可塑性エラストマーの例は、ポリエステル、ナイロンおよびポリカーボネートのハードセグメント、二量化脂肪酸の残基および二量化脂肪族アミンの残基を含有するソフトセグメントを有する熱可塑性エラストマーである。
【0018】
好ましくは、本熱可塑性エラストマーは、ポリエステルのハードセグメントと、二量化脂肪酸の残基および二量化脂肪族アミンの残基を含有するソフトセグメントとを含有するポリマーである。
【0019】
このような熱可塑性エラストマーは、好適には、少なくとも1つのアルキレンジオールと少なくとも1つの芳香族ジカルボン酸またはそれのエステルとに由来する繰り返し単位から構築されるハードセグメントを含有する。線状または脂環式アルキレンジオールは、一般に2〜8個のC−原子、好ましくは2〜4個のC−原子を含有する。それらの例としては、エチレングリコール、プロピレンジオールおよびブチレンジオールが挙げられる。好ましくは、プロピレンジオールまたはブチレンジオール、より好ましくは1,4−ブチレンジオールが使用される。好適な芳香族ジカルボン酸の例としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸またはこれらの組み合わせが挙げられる。それらの利点は、生じたポリエステルが、150℃より上の、好ましくは175℃より上、より好ましくは190℃より上の融点で、一般に半結晶性であることである。このハードセグメントは、ポリエステルの融点を一般に低くする、その他のジカルボン酸、たとえばイソフタル酸に由来する少量の単位を任意選択的にさらに含有してもよい。その他のジカルボン酸の量は、とりわけ、コポリエーテルエステルの結晶化挙動が悪影響を受けないことを確実にするために、ジカルボン酸の総量を基準として、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下に制限される。ハードセグメントは、繰り返し単位としてエチレンテレフタレート、プロピレンテレフタレートから、特にブチレンテレフタレートから好ましくは構築される。これらの容易に入手可能な単位の利点としては、良好な加工特性、優れた耐熱性および耐化学薬品性ならびに良好な穿刺抵抗を持った本発明による熱可塑性エラストマーをもたらす、有利な結晶化挙動および高融点が挙げられる。
【0020】
ポリマー中の再生可能物の含有率は、再生可能資源からのジオール、たとえば、再生可能資源から製造される1,3−プロパンジオールおよび1,4−ブタンジオールを使用することによってさらに増やされてもよい。
【0021】
本発明の熱可塑性エラストマーは、公知のエラストマーおよび熱可塑性エラストマーに取って代わってすべての種類のポリマー組成物に配合されてもよい。組成物は、通常の添加剤、たとえば熱安定剤、UV安定剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤および離型剤をさらに含有してもよい。ポリマー組成物は、ナイロンの安定化のための安定剤、たとえばBruggeman添加剤を好適には含有する。
【0022】
本発明はまた、本発明によるポリマーを含有する造形品に関する。
【0023】
本発明によるポリマーの造形品を製造するための好適な加工技術としては、押出、射出成形、圧縮成形、ブロー成形などが挙げられる。
【0024】
本発明は、実施例によってさらに説明されるが、それに制限されることはない。
【0025】
[使用される原材料]
BDO:独国のBASFによって納品された、ブタンジオール
DMT:独国のOxxynovaによって納品された、ジメチルテレフタレート
ベルギー国のSigma−Aldrichによって納品されたMg(OAc)4HO、LiAlH、THF、NaOHおよびアンモニア
Pripol 1009:独国のUniqemaによって納品された、二量化脂肪酸
Irganox 1330:スイス国のCiba Speciality Chemicalsによって納品された、酸化防止剤
Raney Co:Merck、オランダ国によって納品された、ラネーコバルト触媒
【0026】
[二量化脂肪族アミンの製造]
温度計、蒸留セットアップおよび機械撹拌機を備えた1リットルの丸底フラスコに、100gの二量化脂肪酸および500mlのアンモニアを装入した。
【0027】
撹拌下に反応混合物を180℃に加熱し、1時間の間180℃に保ち、次に真空を適用し、混合物を、酸価が1mgKOH/gより下になるまで真空下に保ち、その後二量化脂肪族アミドを得る。
【0028】
次の工程において混合物を真空下に280℃に加熱し、その温度に2時間維持し、その後二量化脂肪族ニトリルを得る。
【0029】
反応混合物をメタノールに溶解させ、Raneyコバルトを含有した水素化容器に装入する。混合物を、1時間の間40気圧を用いて70℃で水素化する。冷却およびメタノールの蒸発後に、90gの二量化脂肪族アミンを得る。
【0030】
あるいは、二量化脂肪族アミドを乾燥THFに溶解させ、還流条件下に2当量のLiAlHを使用して還元する。16時間還流後に、注意深く1N NaOH溶液を加え、混合物を1時間還流し、その後塩を濾過によって除去する。塩をTHFで洗浄し、合わせたTHF層をNaSO上で乾燥させ、溶媒を蒸発させ、その後二量化脂肪族アミンを得る。この手順は、より小規模の実験にとってより好適である。さらなる詳細については、国際公開第2008/053113号パンフレットの実施例が言及される。
【0031】
[予備重合ソフトセグメントの製造:]
[ソフトセグメント1(Mn約2000)]
攪拌機、窒素入口、PT100、キシレンを満たしたDean−Stark受器、加熱マントルおよび温度制御装置を備えた2000mlの3つ口フラスコに、796.8g(1.4モル)のPripol 1009および35gのキシレンを加え、撹拌および窒素充填しながら約130℃に加熱する。432.4g(0.81モル)の二量化脂肪族アミンを加え、生じた混合物を、もはや水が留出しなくなるまで加熱する。Dean−Stark受器を蒸留セットアップで置き換え、混合物を180℃に加熱する。180℃に達したとき、真空を反応器に適用する。反応混合物を、56mgKOH/gより小さい酸価まで180℃に維持する。
【0032】
[ソフトセグメント2(Mn約800)]
攪拌機、窒素入口、PT100、蒸留セットアップ、加熱マントルおよび温度制御装置を備えた1000mlの3つ口フラスコに、431g(0.76モル)のPripol 1009および74g(0.14モル)の二量化脂肪族アミンを加え、混合する。フラスコを、撹拌および窒素充填しながら約180℃に加熱する。180℃に達したとき、真空を反応器に適用する。反応混合物を、酸価56mgKOH/gまで180℃に維持する。
【0033】
[ソフトセグメント3(Mn約2000)]
攪拌機、窒素入口、PT100、蒸留セットアップ、加熱マントルおよび温度制御装置を備えた2000mlの3つ口フラスコに、796.8g(1.4モル)のPripol 1009および432.4g(0.81モル)の二量化脂肪族アミンを加え、撹拌および窒素充填しながら180℃にゆっくり加熱する。180℃に達したとき、真空を反応器に適用する。反応混合物を、酸価56mgKOH/gまで180℃に維持する。
【0034】
[ソフトセグメントA(Mn約2000)]
攪拌機、窒素入口、PT100、キシレンを満たしたDean−Stark受器、加熱マントルおよび温度制御装置を備えた1000mlの3つ口フラスコに、1093g(1.94モル)のPripol 1009および15gのキシレンを加え、撹拌および窒素充填しながら約130℃に加熱する。(約100gの水中の)155.2g(1.34モル)のヘキサメチレンジアミンを加え、生じた混合物を、もはや水が留出しなくなるまで加熱する。Dean−Stark受器を蒸留セットアップで置き換え、混合物を180℃に加熱する。180℃に達したとき、真空を反応器に適用する。反応混合物を酸価56mgKOH/gまで180℃に維持する。
【0035】
[実施例1、熱可塑性エラストマー1の製造]
ポリエステルをベースとするハードセグメントと50重量%のソフトセグメント1とを含有する熱可塑性エラストマーを、反応フラスコへ1,4−BDO(31.65g)、DMT(43.87g)、ソフトセグメント1(50g)、Irganox 1330(0.25g)、TBT(40.0713mg/gBDO)原液(1.034g)、Mg(OAc)4HO(0.026g)を加え、3回脱ガスし(20ミリバール)、引き続き窒素パージして製造する。第1工程で、形成されたメタノールがすべて1気圧で窒素下に約70分で媒体から除去されるまで温度を225℃に保つ。メタノールの最後の痕跡は、圧力を(段階的に)100ミリバールに20分間保つことによって除去する。第2工程で、温度は、重縮合反応の初めおよび終わりに向かって240℃に上げ、最後に反応を高真空下に続行する。第2工程で、重縮合はエステル交換反応によって起こり、過剰のBDOを第2工程中に留出させる。通常反応は、トルクが25rpmに対して65N/cmに達する間に停止することにする。ポリエステル化反応が完了したとき、熱可塑性エラストマー1をそれが暖かいうちに取り出し、それを水中で急冷する。
【0036】
[実施例2、熱可塑性エラストマー2]
50重量%のソフトセグメント2を含有する熱可塑性エラストマー2を実施例1の手順に従って製造する。
【0037】
[実施例3、熱可塑性エラストマー3]
50重量%のソフトセグメント3を含有する熱可塑性エラストマー3を実施例1の手順に従って製造する。
【0038】
[比較実験A、熱可塑性エラストマーA]
50重量%のソフトセグメントAを含有する熱可塑性エラストマーAを実施例1の手順に従って製造する。
【0039】
熱可塑性エラストマー1およびAを、厚さ約3mmの小さい平らなシートへ圧縮成形する。本発明による熱可塑性エラストマー1のシートは、熱可塑性エラストマーAのシートより柔軟である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハードセグメントとソフトセグメントとを含有する熱可塑性エラストマーであって、前記ソフトセグメントが二量化脂肪酸の残基および二量化脂肪族アミンの残基を含有する熱可塑性エラストマー。
【請求項2】
前記二量化脂肪酸残基および前記二量化脂肪族アミン残基が、44個までのC原子を含有することを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー。
【請求項3】
前記ソフトセグメントが、二量化脂肪酸と二量化脂肪族アミンとの混合物の縮合反応によって予備重合されたソフトセグメントとして得られる、請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマー。
【請求項4】
前記ソフトセグメントの数平均分子量が少なくとも600kg/kmolであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項5】
前記ポリマーのショアD硬度が25〜90であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項6】
前記熱可塑性エラストマーがポリエステルのハードセグメントを含有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項7】
前記ハードセグメントの前記ポリエステルがブチレンテレフタレート繰り返し単位から構築されることを特徴とする請求項6に記載の熱可塑性エラストマー。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリマーを含有する造形品。

【公表番号】特表2012−524135(P2012−524135A)
【公表日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−505188(P2012−505188)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【国際出願番号】PCT/EP2010/055155
【国際公開番号】WO2010/122002
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】