核磁気共鳴装置および磁場補正方法
【課題】効率よく磁場の補正ができる核磁気共鳴装置および磁場補正方法を提供する。
【解決手段】核磁気共鳴装置100は、マジックアングル傾いた軸まわりで、試料Sを回転させる核磁気共鳴装置であって、補正磁場を発生させる補正磁場発生部20と、補正磁場発生部20を制御する制御部30と、を含み、演算部34は、補正磁場の1次の磁場成分として、BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、補正磁場の2次の磁場成分として、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、補正磁場の3次の磁場成分として、BZ3、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる。
【解決手段】核磁気共鳴装置100は、マジックアングル傾いた軸まわりで、試料Sを回転させる核磁気共鳴装置であって、補正磁場を発生させる補正磁場発生部20と、補正磁場発生部20を制御する制御部30と、を含み、演算部34は、補正磁場の1次の磁場成分として、BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、補正磁場の2次の磁場成分として、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、補正磁場の3次の磁場成分として、BZ3、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核磁気共鳴装置および磁場補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NMR(Nuclear Magnetic Resonance)の共鳴周波数ωは、静磁場の大きさB0と核スピンの磁気回転比γに比例する。
【0003】
【数1】
【0004】
そのため、NMRスペクトルに現れるピーク位置は、直接静磁場の大きさを反映し、結果的にピーク位置の分布(=線形)は、静磁場の分布を反映する。したがって、高分解能NMRにおいて、静磁場の均一度は、本質的に要求されるものである。静磁場の大きさが場所により分布している場合、望む静磁場強度との違いをδB(r)であらわすと、共鳴周波数の分布は次のように与えられる。
【0005】
【数2】
【0006】
均一な静磁場を実現するために、シムコイルと呼ばれる電磁石に電流を流すことにより補正磁場を発生させて磁場を補正する方法が広く行われている(例えば特許文献1参照)。シムコイルによる磁場の大きさをδBshim(r)とあらわすと結果的に得られる静磁場は次のようになる。
【0007】
【数3】
【0008】
したがって、δB(r)+δBshim(r)=0を満たすような電流をシムコイルに流せば、理想的な均一な磁場が得られる。NMR装置(核磁気共鳴装置)には、一般的に、さまざまな補正磁場を作るために多くのシムコイルが実装されているが、どのシムコイルにどの程度の電流を流すかを決めることが、均一な静磁場を実現するために重要である。
【0009】
一般的なNMR装置のシムコイルは、Z軸を静磁場と平行にし、補正磁場強度が球面調和関数にしたがって変化するものが用いられている。これにより、補正磁場成分の各項を独立して調整することができるため、効率のよいシム調整が実現する。具体的には、axial方向(Z軸方向)に関して、シムコイルにより印加される補正磁場は、下記式(1)で表すことができる。
【0010】
【数4】
【0011】
また、Radial方向(X軸方向、Y軸方向)に関して、シムコイルにより印加される補正磁場は、下記式(2)、下記式(3)で表すことができる。
【0012】
【数5】
【0013】
ここで、Z軸周りに試料を回転させると、Z軸周りの(XY平面内の)磁場の不均一性は平均化され、Z軸周りの不均一性は、スピニングサイドバンドとしてのみ現れる。そのため、スピニングサイドバンドを無視すれば、Z軸方向の項BZ(n)のみで磁場の不均一性を補正できる。試料を回転させない場合は、全ての項BZ(n)、Bm(n)e、Bm(n)Oを調整する必要がある。
【0014】
NMRにおいて、試料を静磁場からマジックアングルθm(magic angle)だけ傾けた軸まわりで回転させて測定を行うマジックアングルスピニング(magic angle spinning;MAS)が広く用いられている。特に、固体NMRにおいて、MAS NMRは、一般的な手法として用いられている。ここで、マジックアングルθmは、下記式で与えられる。
【0015】
【数6】
【0016】
このとき、試料回転軸まわりの磁場の不均一性は、MASにより平均化される。通常MAS NMR法においては、試料回転軸まわりの磁場の不均一性よりも試料回転速度の方が十分大きいので、磁場の不均一性によるスピニングサイドバンドは問題とはならない。したがって、試料回転軸方向の磁場の不均一性を補正すれば、高分解能NMRスペクトルが実現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平8−316031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
ここで、NMR測定の対象となる試料に印加される磁場(静磁場)を、シムコイルを用いて補正する方法について説明する。
【0019】
NMRスペクトルには、さまざまなωunshimmed(r)の位置にピークが現れる。試料内の静磁場が均一であれば、非常に狭い範囲の周波数のみに信号が現れることになり、ピークの強度も最大となる。そこで、NMRスペクトルに現れるピークの強度が最大に、線幅が最小になることを指標として、シムコイルの電流を調整する。直接観測したいNMR信号でシムコイルの電流値を調整することもでき、また別のNMR信号(例えば、溶液NMRでは、溶媒の2H NMR信号)により調整することもできる。多くの試料が短い横磁化緩和時間を示す固体試料の場合には、長い横磁化緩和時間を示す標準試料でシムコイルの電流値を調整し、その後試料を交換してからNMR測定を行うこともできる。
【0020】
しかしながら、上述したNMR信号を直接観察しながらシムコイルの電流を調整する方法では、試料内のさまざまな場所の信号の足し合わせをNMR信号として検出している。すなわち、この方法では、試料内のどこの位置がどれだけ周波数がずれているか(静磁場がずれているか)という情報は取得できない。そのため、どのシムコイルに電流を流せば静磁場の均一度が改善させるか予想ができない。また、この方法で静磁場の均一度を向上させるには、例えば、シムコイルに与える電流をかえながら複数のNMR測定を行い、NMR信号の線幅が細く、信号強度が強くなることを観測することになる。しかしながら、この方法では、複数のNMR測定が必要になるため時間がかかり、かつ操作する人の技術によって結果が異なるという問題がある。また、均一度の評価がNMR信号の線幅と強度だけなので、しばしば局所解に陥ってしまうことがある。
【0021】
また、静磁場の補正方法として、グラジエントシミング(Gradient Shimming)法を用いた方法が知られている。グラジエントシミング法では、勾配磁場パルスとエコー法を組み合わせることにより、試料の位置とその位置での静磁場の大きさ(静磁場マップ)を検出することができる。
【0022】
グラジエントシミング法では、シムコイルによる補正磁場を加えない場合の静磁場マップ、および、各シムコイルに電流を流した場合の各静磁場マップを測定する。前者は、静磁場がどのような分布を持っているかを示し、後者はどのシムコイルにどれだけの電流を流すとどのような磁場分布ができるかを示す。これらの測定により、どのシムコイルにどの程度の電流を流せば磁場分布がキャンセルされるか(均一な磁場が得られるか)を計算できる。
【0023】
ここで、例えば、溶液NMRでは、静磁場方向をZ軸としたとき、細長い試料管の長軸方向がZ軸になるよう配置される。そして、溶液NMRでは、X,Y軸方向の磁場分布を無視するか、Z軸まわりに試料回転を行うことによってX,Y軸方向の磁場分布を平均化させることにより、グラジエントシミング法を用いて、Z軸周りに展開したシム項BZ(n)(上記式(1)参照)のみを調整して静磁場の均一度の向上がはかられる(一軸グラジエントシミング法)。
【0024】
しかしながら、MAS NMRでは、状況が変化する。MASを適用した固体NMRでは、細長い試料管の長軸方向はZ軸ではなく、Z軸から角度θm傾いた軸(Ztilt軸)まわりに試料を回転させる。Ztilt軸まわりの磁場分布は、試料回転により平均化することができる。したがって、Ztilt軸方向の磁場分布を補正すればよい。しかしながらZ軸とZtilt軸とは異なるため、Z軸まわりに展開したシム項では効率のよい磁場補正ができない。例えば、BZ(2)を、いくら変化させてもZtilt軸方向の磁場の大きさは変化しない。したがって、MAS NMR装置では、上述した溶液NMRで用いられている、シム項BZ(n)を変化させる一軸グラジエントシミングは、動作させることができない場合があった。
【0025】
このように、静磁場の方向(Z軸方向)から傾いた軸まわりに試料を回転させてNMR測定を行う場合には、効率よく静磁場の補正ができない場合があった。
【0026】
なお、三次元NMRイメージングを用いることにより、完全な三次元磁場分布マップが得られる。そのため、静磁場の方向(Z軸方向)から傾いた軸まわりに試料を回転させた場合であっても磁場補正が可能である。例えば、MASを適用した固体NMRであっても磁場補正ができる。しかしながら、三次元の磁場分布を得る必要があるので、測定に時間がかかり、また、三次元の勾配磁場パルスシステムが要求されるため装置が複雑化するなどの問題がある。
【0027】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、効率よく磁場の補正ができる核磁気共鳴装置および磁場補正方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0028】
(1)本発明に係る核磁気共鳴装置は、
静磁場に対してマジックアングル傾いた軸まわりで、試料を回転させて、核磁気共鳴信号の検出を行う核磁気共鳴装置であって、
前記静磁場を発生させる静磁場発生部と、
前記静磁場を補正するための補正磁場を発生させる補正磁場発生部と、
前記補正磁場発生部を制御する制御部と、
前記試料から発生する前記核磁気共鳴信号を検出するプローブと、
を含み、
前記制御部は、
前記軸方向の前記静磁場の分布を取得する磁場分布取得部と、
前記軸方向の前記静磁場の分布に基づいて、前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分の第1係数、前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分の第2係数、および前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分の第3係数を決定する演算部と、
前記第1係数、前記第2係数、および前記第3係数に基づいて、前記補正磁場発生部を制御する補正磁場発生部制御部と、
を有し、
前記補正磁場は、下記式(1)、(2)、(3)で表され、
前記演算部は、
前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分として、BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分として、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分として、BZ3、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる。
【0029】
【数7】
【0030】
このような核磁気共鳴装置によれば、静磁場に対してマジックアングル傾いた軸まわりで回転する試料に印加される静磁場を、効率よく補正することができる。
【0031】
(2)本発明に係る核磁気共鳴装置において、
前記磁場分布取得部は、スピンエコー法またはグラジエントエコー法により、前記軸方向の前記静磁場の分布を取得してもよい。
【0032】
このような核磁気共鳴装置によれば、静磁場に対してマジックアングル傾いた軸方向の静磁場の分布を、容易に取得することができる。
【0033】
(3)本発明に係る核磁気共鳴装置において、
前記補正磁場発生部は、
複数のコイルと、
前記複数のコイルの各々に対して、電流を供給する電源部と、
を有し、
前記補正磁場発生部制御部は、前記演算部によって決定された前記第1係数、前記第2係数、および前記第3係数に基づいて、前記複数のコイルの各々に供給する電流量を決定し、
前記電源部は、前記補正磁場発生部によって決定された前記電流量に応じた電流を、前記複数のコイルの各々に供給してもよい。
【0034】
(4)本発明に係る磁場補正方法は、
静磁場に対してマジックアングル傾いた軸まわりで、試料を回転させて、核磁気共鳴信号を検出する核磁気共鳴測定において、補正磁場を発生させることによって、前記軸方向の前記静磁場を補正する磁場補正方法であって、
前記軸方向の前記静磁場の分布を取得する磁場分布取得工程と、
前記磁場分布取得工程で取得された前記軸方向の前記静磁場の分布に基づいて、前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分の第1係数、前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分の第2係数、および前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分の第3係数を決定する演算工程と、
前記第1係数、前記第2係数、および前記第3係数に基づいて、前記補正磁場を制御する補正磁場制御工程と、
を有し、
前記補正磁場は、下記式(1)、(2)、(3)で表され、
前記演算工程において、
前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分として、BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分として、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分として、BZ3、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる。
【0035】
【数7】
【0036】
このような磁場補正方法によれば、静磁場に対してマジックアングル傾いた軸まわりで回転する試料に印加される静磁場を、効率よく補正することができる。
【0037】
(5)本発明に係る磁場補正方法において、
前記磁場分布取得工程では、スピンエコー法またはグラジエントエコー法により、前記軸方向の前記静磁場の分布を取得してもよい。
【0038】
このような磁場補正方法によれば、静磁場に対してマジックアングル傾いた軸方向の静磁場の分布を、容易に取得することができる。
【0039】
(6)本発明に係る核磁気共鳴装置は、
静磁場に対してπ/2傾いた軸まわりで、試料を回転させて、核磁気共鳴信号の検出を行う核磁気共鳴装置であって、
前記静磁場を発生させる静磁場発生部と、
前記静磁場を補正するための補正磁場を発生させる補正磁場発生部と、
前記補正磁場発生部を制御する制御部と、
前記試料から発生する前記核磁気共鳴信号を検出するプローブと、
を含み、
前記制御部は、
前記軸方向の前記静磁場の分布を取得する磁場分布取得部と、
前記軸方向の前記静磁場の分布に基づいて、前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分の第1係数、前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分の第2係数、および前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分の第3係数を決定する演算部と、
前記第1係数、前記第2係数、および前記第3係数に基づいて、前記補正磁場発生部を制御する補正磁場発生部制御部と、
を有し、
前記補正磁場は、下記式(1)、(2)、(3)で表され、
前記演算部は、
前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分として、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分として、BZ(2)、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分として、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる。
【0040】
【数7】
【0041】
このような核磁気共鳴装置によれば、静磁場に対してπ/2傾いた軸まわりで回転する試料に印加される静磁場を、効率よく補正することができる。
【0042】
(7)本発明に係る磁場補正方法は、
静磁場に対してπ/2傾いた軸まわりで、試料を回転させて、核磁気共鳴信号を検出する核磁気共鳴測定において、補正磁場を発生させることによって、前記軸方向の前記静磁場を補正する磁場補正方法であって、
前記軸方向の前記静磁場の分布を取得する磁場分布取得工程と、
前記磁場分布取得工程で取得された前記軸方向の前記静磁場の分布に基づいて、前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分の第1係数、前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分の第2係数、および前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分の第3係数を決定する演算工程と、
前記第1係数、前記第2係数、および前記第3係数に基づいて、前記補正磁場を制御する補正磁場制御工程と、
を有し、
前記補正磁場は、下記式(1)、(2)、(3)で表され、
前記演算工程において、
前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分として、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分として、BZ(2)、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分として、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる。
【0043】
【数7】
【0044】
このような磁場補正方法によれば、静磁場に対してπ/2傾いた軸まわりで回転する試料に印加される静磁場を、効率よく補正することができる。
【0045】
(8)本発明に係る核磁気共鳴装置は、
静磁場に対して第1角度傾いた軸まわりで、試料を回転させて、核磁気共鳴信号の検出を行う核磁気共鳴装置であって、
前記静磁場を発生させる静磁場発生部と、
前記静磁場を補正するための補正磁場を発生させる補正磁場発生部と、
前記補正磁場発生部を制御する制御部と、
前記試料から発生する前記核磁気共鳴信号を検出するプローブと、
を含み、
前記制御部は、
前記軸方向の前記静磁場の分布を取得する磁場分布取得部と、
前記軸方向の前記静磁場の分布に基づいて、前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分の第1係数、前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分の第2係数、および前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分の第3係数を決定する演算部と、
前記第1係数、前記第2係数、および前記第3係数に基づいて、前記補正磁場発生部を制御する補正磁場発生部制御部と、
を有し、
前記第1角度は、5cos2β−3=0(ただしβは前記第1角度である)の関係を満たし、
前記補正磁場は、下記式(1)、(2)、(3)で表され、
前記演算部は、
前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分として、BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分として、BZ(2)、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分として、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる。
【0046】
【数7】
【0047】
このような核磁気共鳴装置によれば、静磁場に対して第1角度傾いた軸まわりで回転する試料に印加される静磁場を、効率よく補正することができる。
【0048】
(9)本発明に係る磁場補正方法は、
静磁場に対して第1角度傾いた軸まわりで、試料を回転させて、核磁気共鳴信号を検出する核磁気共鳴測定において、補正磁場を発生させることによって、前記軸方向の前記静磁場を補正する静磁場補正方法であって、
前記軸方向の前記静磁場の分布を取得する磁場分布取得工程と、
前記磁場分布取得工程で取得された前記軸方向の前記静磁場の分布に基づいて、前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分の第1係数、前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分の第2係数、および前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分の第3係数を決定する演算工程と、
前記第1係数、前記第2係数、および前記第3係数に基づいて、前記補正磁場を制御する補正磁場制御工程と、
を有し、
前記第1角度は、5cos2β−3=0(ただしβは前記第1角度である)の関係を満たし、
前記補正磁場は、下記式(1)、(2)、(3)で表され、
前記演算工程において、
前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分として、BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分として、BZ(2)、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分として、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる。
【0049】
【数7】
【0050】
このような核磁気共鳴装置によれば、静磁場に対して第1角度傾いた軸まわりで回転する試料に印加される静磁場を、効率よく補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本実施形態に係る核磁気共鳴装置を説明するための模式図。
【図2】本実施形態に係る核磁気共鳴装置に装着された試料管を示す模式図。
【図3】本実施形態に係る磁場補正方法の一例を示すフローチャート。
【図4】勾配磁場パルスを説明するための図。
【図5】スピンエコー法を説明するための図。
【図6】グラジエントエコー法を説明するための図。
【図7】補正磁場の各磁場成分の係数を決定する方法について説明するための図。
【図8】BZ(1)(Ztilt)のZtilt軸方向における磁場の分布を測定した結果を示すグラフ。
【図9】BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのそれぞれについて、Ztilt軸方向における磁場の分布を測定した結果を示すグラフ。
【図10】BZ(2)、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、B2(1)Oのそれぞれについて、Ztilt軸方向における磁場の分布を測定した結果を示すグラフ。
【図11】B1(1)O、B2(2)e、BZ(3)のそれぞれについて、Ztilt軸方向における磁場の分布を測定した結果を示すグラフ。
【図12】補正磁場を印加する前のNMRスペクトル。
【図13】補正磁場を印加したときのNMRスペクトル。
【図14】本実施形態おける表記法により表記したシム項と、他の表記法で表記した場合のシム項との対応関係を示した表。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0053】
1. 核磁気共鳴装置の構成
まず、本実施形態に係る核磁気共鳴装置の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る核磁気共鳴装置100を説明するための模式図である。図2は、核磁気共鳴装置100に装着された試料管1を示す模式図である。
【0054】
核磁気共鳴装置100は、図2に示すように、静磁場(Z軸方向)に対してマジックアングルθm傾いたZtilt軸まわりで、試料Sを回転させて、核磁気共鳴信号の検出を行う。核磁気共鳴装置100は、図1に示すように、静磁場発生部10と、補正磁場発生部20と、補正磁場発生部20を制御する制御部30と、プローブ40と、を含む。
【0055】
試料Sは、細長い試料管1に入れられている。試料管1は、図2に示すように、長手方向がZtiltに沿うようにNMR装置100に装着される。ここで、Ztilt軸は、Z軸に対してマジックアングルθm傾いた軸である。すなわち、図2に示すZ軸とZtilt軸とがなす角度β=θmである。核磁気共鳴装置100は、静磁場MF10(Z軸方向)に対してマジックアングルθm傾いたZtilt軸まわりで、試料S(試料管1)を回転させる。すなわち、試料管1(試料S)は、Ztilt軸を回転軸として、Ztilt軸まわりに回転する。ここで、静磁場に対してマジックアングル傾いた軸とは、静磁場に対して厳密にマジックアングル傾いた(β=θm)軸だけではなく、静磁場に対して実質的にマジックアングル傾いた軸を含むことができる。また、静磁場に対して実質的にマジックアングル傾いた軸とは、例えば、静磁場に対してθm−5°≦β≦θm+5°の範囲で傾いた軸である。試料S(試料管1)には、静磁場発生部10によって静磁場MF10が印加され、補正磁場発生部20によって補正磁場が印加される。
【0056】
図示はしないが、試料管1は、例えば、ステータ管に挿入され、ステータ管に設けられたガス供給孔を通じて供給される高圧ガスにより、マジックアングルθmに支持されている。また、試料管1の頂部には、タービン(図示しない)が形成され、ステータ管には、タービンを回転させるようにガス吹き出し口が設けられている。このガス吹き出し口から高圧ガスを供給することにより、試料管1が回転する。
【0057】
静磁場発生部10は、静磁場MF10を発生させる。静磁場発生部10が発生させる静磁場MF10の方向は図2に示すZ軸方向である。静磁場発生部10は、例えば、超電導ソレノイドコイルを有する超電導磁石である。
【0058】
補正磁場発生部20は、静磁場MF10を補正するための補正磁場を発生させる。補正磁場発生部20は、例えば、試料S(試料管1)に印加される磁場が、静磁場MF10のみが印加されている場合と比べて、より均一化されるように、補正磁場を発生させる。補正磁場発生部20は、複数のコイルからなるシムコイルセット22と、当該複数のコイルの各々に対して、電流を供給する電源部24と、を含んで構成されている。
【0059】
シムコイルセット22は、例えば、複数のソレノイドコイルで構成される。電源部24は、補正磁場発生部制御部36によって決定された電流量に応じた電流を、複数のソレノイドコイルの各々に供給する。
【0060】
補正磁場発生部20により印加される補正磁場の強度は、球面調和関数にしたがって変化する。具体的には、Z軸方向(axial方向)に関して、補正磁場発生部20により印加される補正磁場は、下記式(1)で表すことができる。また、Radial方向(X軸方向、Y軸方向)に関して、補正磁場発生部20により印加される補正磁場は、下記式(2)、下記式(3)で表すことができる。
【0061】
【数8】
【0062】
制御部30は、補正磁場発生部20を制御する。制御部30は、磁場分布取得部32と、演算部34と、補正磁場発生部制御部36と、を有する。
【0063】
磁場分布取得部32は、Ztilt軸方向の静磁場MF10の分布を取得する。磁場分布取得部32は、勾配磁場発生部50を制御して、勾配磁場パルスを発生させることができる。磁場分布取得部32は、この勾配磁場パルスを用いて、Ztilt軸方向の静磁場の分布を取得する(グラジエントエコー法)。なお、図示はしないが、磁場分布取得部32は、補正磁場発生部20を制御して、勾配磁場パルスを発生させてもよい。
【0064】
演算部34は、磁場分布取得部32によって取得されたZtilt軸方向の静磁場MF10の分布に基づいて、補正磁場のZtilt軸方向の1次の磁場成分の第1係数、補正磁場のZtilt軸方向の2次の磁場成分の第2係数、および補正磁場のZtilt軸方向の3次の磁場成分の第3係数を決定する。具体的には、演算部34は、例えば、試料Sに印加される磁場が、補正前(静磁場MF10のみが試料Sに印加されている場合)と比べて、補正後(静磁場MF10と補正磁場とが試料Sに印加される場合)が均一となるように、補正磁場の磁場成分の各係数を決定する。
【0065】
ここで、演算部34は、補正磁場のZtilt軸方向の1次の磁場成分として、BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる。また、補正磁場のZtilt軸方向の2次の磁場成分として、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる。また、補正磁場のZtilt軸方向の3次の磁場成分として、BZ3、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる。この理由については、後述する。
【0066】
また、第1係数、第2係数、第3係数は、式(1)では、bz(n)であり、式(2)、式(3)では、bm(n)である。第1係数、第2係数、第3係数は、シムコイルセット22に流れる電流量に対応する。
【0067】
補正磁場発生部制御部36は、第1係数、第2係数、および第3係数に基づいて、補正磁場発生部20を制御する。補正磁場発生部制御部36は、演算部34によって決定された第1係数、第2係数、および第3係数に基づいて、シムコイルセット22を構成する複数のコイルの各々に供給する電流量を決定する。そして、補正磁場発生部制御部36は、電源部24に、当該電流量の情報を出力する。電源部24は、当該電流量の情報に応じた電流を、複数のコイルの各々に供給する。これにより、補正磁場が発生する。
【0068】
プローブ40は、試料Sから発生する核磁気共鳴(NMR)信号を検出する。具体的には、プローブ40は、磁場中の試料S中の観測核に高周波磁場(rfパルス)を照射し、当該観測核から放射されるNMR信号を検出する。分光部42は、プローブ40が検出したNMR信号を受け、NMR信号に基づいて、NMRスペクトルを生成する。
【0069】
2. 磁場補正方法
次に、本実施形態に係る磁場補正方法について説明する。
【0070】
核磁気共鳴装置100では、勾配磁場パルスを用いて、試料管1(試料S)における静磁場MF10の分布(Ztilt軸方向の分布)を取得し、当該分布に応じて補正磁場を設定する。そして、補正磁場を印加することによって静磁場MF10を補正し、試料Sに印加される磁場を均一化させる。
【0071】
図3は、本実施形態に係る磁場補正方法の一例を示すフローチャートである。以下、図1および図2に示す磁気共鳴装置100および図3に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0072】
(1)まず、磁場分布取得部32が、Ztilt軸方向の静磁場MF10の分布を取得する(磁場分布取得工程S10)。
【0073】
具体的には、磁場分布取得部32は、勾配磁場パルスとエコーを組み合わせて、Ztilt軸方向の静磁場MF10の分布(以下「静磁場分布マップ」ともいう)を取得する。本工程は、補正磁場が印加されていない状態、すなわち、静磁場MF10のみが印加されている状態で行われる。
【0074】
以下、磁場分布取得部32における静磁場の分布の取得方法について説明する。
【0075】
図4は、勾配磁場パルスを説明するための図である。
【0076】
勾配磁場パルスは、試料位置ごとに信号を分離して観測するために用いられる。勾配磁場パルスによって、試料位置によって異なる磁場強度が与えられる。勾配磁場パルスは、Z軸方向にリニアに磁場強度が変化するパルスである。勾配磁場パルスは、Z軸上で同じ位置にあれば、X軸方向やY軸方向に進んでも磁場は変化しない。これにより、Z軸の座標に応じてNMR信号を区別することができる。ここで、BZ(1)tilt=BZ(1)cosβであり、勾配磁場パルスは、Ztilt軸に対してもリニアに磁場強度が変化する。すなわち、勾配磁場パルスによって、Ztilt軸の座標に応じてNMR信号を区別することができる。試料管1の位置Ztiltで付与される磁場は、下記式のように表記できる。
【0077】
【数9】
【0078】
Gは、勾配磁場パルスの大きさである。勾配磁場パルスによる共鳴周波数の変化は、下記式のようになる。
【0079】
【数10】
【0080】
この式からわかるように、共鳴周波数ωと位置Ztiltは、図4に示すように、直接関連付けすることができる。
【0081】
次に、勾配磁場パルスとエコーを組み合わせて、静磁場MF10の分布(以下「静磁場分布マップ」ともいう)を取得する方法について説明する。
【0082】
静磁場分布マップは、エコー実験により測定される。エコー実験としては、例えば、スピンエコー(spin echo)法によるものや、グラジエントエコー(gradient echo)法によるものが挙げられる。いずれも、勾配磁場パルスとrfパルスを組み合わせたものである。
【0083】
図5は、スピンエコー法を説明するための図である。図6は、グラジエントエコー法を説明するための図である。
【0084】
スピンエコー法では、図5に示すように、まず、試料Sに90°パルスを印加し、90°パルス印加からτ+τ1時間後に180°パルスを印加する。磁場勾配パルスは、90°パルス印加から、τ時間後に印加する。180°パルス印加後、τ2時間後にNMR信号が検出される。
【0085】
グラジエントエコー法では、図6に示すように、まず、試料Sに90°パルスを印加する。90°パルス印加直後に第1の勾配磁場パルスを印加する。第1の勾配磁場パルス印加後から、τ時間後に、第1の勾配磁場パルスとは磁場勾配を反転させた第2の勾配磁場パルスを印加する。第2の勾配磁場パルスの印加からτ2時間後にNMR信号が検出される。
【0086】
なお、90°パルスおよび180°パルスは、プローブ40によって試料Sに印加され、勾配磁場パルスは、勾配磁場発生部50によって試料Sに印加される。磁場分布取得部32は、プローブ40および勾配磁場発生部50を制御して、これらのパルスを試料Sに印加する。また、NMR信号は、プローブ40によって検出され、分光部42を介して、磁場分布取得部32に入力される。
【0087】
スピンエコー法、およびグラジエントエコー法のいずれの方法でも、τ=τ0とτ=τ0+Tの2つの測定を行う。τ=τ0のときのNMR信号を、I0(ω)とし、τ=τ0+TのときのNMR信号を、IT(ω)とする。IT(ω)をI0(ω)で割ることにより、この2つの測定の位相差を得ることができる。
【0088】
【数11】
【0089】
この位相差は、下記式に示す関係を有する。
【0090】
【数12】
【0091】
ここで、B(r)は、時刻τの間に位置rにある核スピンが感じる磁場である。したがって、B(r)は、下記式を満たす。
【0092】
【数13】
【0093】
上記式(4)に示されるように、位相差から局所的な磁場の情報を得ることができる。このように、勾配磁場パルスによって、共鳴周波数ωは、位置rと直接相関している。すなわち、位置rは、I0(ω)(またはIT(ω))の共鳴周波数の位置から得られ、その場所での時刻τにおける磁場強度B(r)は式(4)から得られる。
【0094】
このようにして、磁場分布取得部32は、補正磁場を加える前のZtilt軸方向の静磁場MF10の分布を取得することができる。
【0095】
また、磁場分布取得部32は、静磁場MF10の場合と同様に、スピンエコー法やグラジエントエコー法を用いて、補正磁場の各磁場成分の各項(BZ(1)、B1(1)e、B1(1)O、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、B2(1)O、BZ3、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、B3(3)O)について、Ztilt軸方向の磁場の分布を取得する。例えば、磁場分布取得部32は、シムコイルセット22を構成するコイルのうち、補正磁場の各磁場成分の各項に対応するコイルのみに電流を流し、スピンエコー法やグラジエントエコー法を用いて、Ztilt軸方向の磁場の分布を取得することにより、各項の磁場の分布を取得する。
【0096】
なお、この補正磁場の各項(BZ(1)、B1(1)e、B1(1)O、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、B2(1)O、BZ3、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、B3(3)O)の磁場の分布は、演算部34が、予め取得していてもよい。
【0097】
(2)次に、演算部34が、磁場分布取得部32が取得したZtilt軸方向の静磁場MF10の分布に基づいて、補正磁場のZtilt軸方向の1次の磁場成分の第1係数、補正磁場のZtilt軸方向の2次の磁場成分の第2係数、および補正磁場のZtilt軸方向の3次の磁場成分の第3係数を決定する(演算工程S12)。
【0098】
ここで、補正磁場発生部20が発生させる補正磁場の磁場成分について説明する。
【0099】
核磁気共鳴装置100は、上述したように、Z軸まわりに展開したシムコイルセット22(式(1)、式(2)、式(3)参照)を備えたMAS NMR装置である。試料管1は、図2に示すように、静磁場からβ傾いた試料回転軸(Ztilt軸)まわりで試料回転させる。
【0100】
ここで、試料回転軸に固定したtilt座標系を定義する。図2に示すZ軸は、静磁場の方向であり、補正磁場の展開軸である。Ztilt軸は、Z軸から角度β傾いた軸であり、試料回転軸に平行である。角度αは、Ztilt軸のXY平面への射影と、X軸とがなす角度である。
【0101】
Ztilt軸まわりの磁場(Ztilt軸と直交する方向)の不均一性は試料回転により平均化される。したがって、tilt座標系においては、試料管1内の磁場の分布はZtilt軸の変数のみであり、BZtiltと表記できる。
【0102】
ここで、勾配磁場パルスも同様に試料回転により平均化される。上述したように、勾配磁場パルスによる共鳴周波数の変化は、下記式のようになる。
【0103】
【数14】
【0104】
ここで、補正磁場の展開軸(Z軸)とZtilt軸とが角度βをなしている。そこで、Z軸方向に展開された補正磁場を、Ztilt軸まわりに展開しなおす。具体的には、下記式(5)に示す。
【0105】
【数15】
【0106】
上記式(5)において、βがマジックアングル(3cos2β−1=0)のときには、下記式のようになる。
【0107】
【数16】
【0108】
補正磁場のZtilt軸方向の1次の磁場成分BZ(1)tiltは、上記式に示すように、3つの項(BZ(1)、B2(1)e、B2(1)O)の線形和で表される。したがって、演算部34は、補正磁場のZtilt軸方向の1次の磁場成分BZ(1)tiltとして、BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いることができる。
【0109】
補正磁場のZtilt軸方向の2次の磁場成分BZ(2)tiltは、式(5)に示すように、5つの項(BZ(2)、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、B2(1)O)の線形和で表される。しかしながら、BZ(2)tiltは、β=θmのとき、上記式に示すように、BZ(2)の係数が0となる。そのため、BZ(2)は、BZ(2)tiltに影響を与えない。すなわち、このBZ(2)の項を用いてもZtilt軸方向の磁場は変化しない。したがって、演算部34は、このBZ(2)の項を用いずに、その他の項B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oを用いる。すなわち、演算部34は、補正磁場のZtilt軸方向の2次の磁場成分BZ(2)tiltとして、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いることができる。
【0110】
補正磁場のZtilt軸方向の3次の磁場成分BZ(3)tiltは、上記式に示すように、7つの項(BZ(3)、B3(3)e、B3(3)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(1)e、B3(1)O)の線形和で表される。したがって、演算部34は、補正磁場のZtilt軸方向の3次の磁場成分BZ(3)tiltとして、BZ3、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いることができる。
【0111】
次に、補正磁場の各磁場成分の係数(第1係数、第2係数、第3係数)の決定方法について説明する。
【0112】
図7は、補正磁場の各磁場成分の係数の決定方法について説明するための図である。図7に示すように、補正磁場を加える前の静磁場Bunshimmedと、補正磁場の1次の磁場成分BZ(1)tiltと、補正磁場の2次の磁場成分BZ(2)tiltと、補正磁場の3次の磁場成分BZ(3)tiltとを足し合わせた結果、試料S(試料管1)に印加される磁場が均一化されるように、各磁場成分の係数(第1係数、第2係数、第3係数)を調整する。すなわち、演算部34は、例えば、静磁場MF10のみが試料Sに印加されている場合と比べて、補正磁場を加えることで、試料Sに印加される磁場がより均一となるように、各磁場成分の係数を決定する。このようにして、第1係数、第2係数、第3係数が決定される。
【0113】
(3)次に、補正磁場発生部制御部36が、第1係数、第2係数、および第3係数に基づいて、補正磁場発生部20を制御して補正磁場を発生させる(補正磁場発生工程S14)。
【0114】
補正磁場発生部制御部36は、各係数に基づいて、シムコイルセット22を構成する各コイルに流す電流量を決定し、コイルごとの電流量情報を出力する。当該電流量情報は、電源部24に入力される。電源部24は、当該電流量情報に応じた電流を、各コイルに流す。これにより、シムコイルセット22は、補正磁場を発生させる。
【0115】
以上の工程により、補正磁場を発生させて静磁場MF10を補正し、試料Sに印加される磁場を均一化することができる。
【0116】
本実施形態によれば、補正磁場のZtilt軸方向の1次の磁場成分として、BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、補正磁場のZtilt軸方向の2次の磁場成分として、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、補正磁場のZtilt軸方向の3次の磁場成分として、BZ3、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる。そして、この各磁場成分の係数(第1係数、第2係数、第3係数)を決定し、この係数に基づいて、補正磁場を制御する。これにより、上述したように、静磁場MF10に対してマジックアングルθm傾いた軸まわりで回転する試料S(試料管1)に印加される静磁場を、効率よく補正することができる。すなわち、少ないシム電流(シムコイルセット22に供給される電流)で、補正磁場を与えることができる。したがって、例えば、静磁場(Z軸方向)に対してマジックアングル傾いたZtilt軸まわりで試料Sを回転させて、核磁気共鳴信号の検出を行う場合でも、試料S(試料管1)に、均一化された磁場を、効率よく印加することができる。
【0117】
例えば、試料回転軸と補正磁場の展開軸が一致している場合、Z軸まわりに展開した補正磁場成分BZ(n)が用いられる。しかしながら、マジックアングルスピニングでNMR測定を行う場合、試料回転軸(Ztilt軸)と、補正磁場の展開軸(Z軸)が異なるため、Z軸まわりに展開した補正磁場成分BZ(n)では、効率よく磁場を補正できない。例えば、BZ(2)は、いくら変化させても、試料回転軸(Ztilt軸)方向の磁場の大きさの変化は小さい(変化はない)。したがって、効率よく試料回転軸(Ztilt軸)方向の磁場を補正できないという問題がある。本実施形態によれば、補正磁場の磁場成分として、上記のものを用いているため、このような問題が生じない。したがって、試料Sに印加される静磁場を、効率よく補正することができる。
【0118】
本実施形態の核磁気共鳴装置100によって、例えば、試料Sに対して、均一な磁場を印加することにより、高分解能NMR測定が可能になる。本実施形態に係る磁場補正方法による磁場補正後に、ピーク位置を測定することにより磁場強度(試料Sに印加される磁場の強度)を測定できる。これをNMR信号のリファレンス信号とすることができる。
【0119】
3. 変形例
次に、本実施形態に係る核磁気共鳴装置の変形例について説明する。なお、上述した核磁気共鳴装置発100の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0120】
(1)まず、第1の変形例について説明する。
【0121】
上述した核磁気共鳴100の例では、図2に示す角度β(Z軸とZtilt軸とがなす角度)が、マジックアングルθmであった。これに対して、角度βは、π/2であってもよい。すなわち、本変形例では、静磁場に対してπ/2傾いた軸まわりで、試料S(試料管1)を回転させて、核磁気共鳴信号を測定する。なお、静磁場に対してπ/2傾いた軸とは、静磁場に対して厳密にπ/2傾いた軸(β=π/2)だけではなく、静磁場に対して実質的にπ/2傾いた軸を含むことができる。また、静磁場に対して実質的にπ/2傾いた軸とは、例えば、(π/2)−5°≦β≦(π/2)+5°の範囲で傾いた軸である。
【0122】
上記式(5)において、β=π/2のとき、補正磁場のZtilt軸方向の1次の磁場成分BZ(1)tiltは、BZ(1)およびBZ(3)の係数が0となる。そのため、BZ(1)は、BZ(1)tiltに影響を与えない。また、BZ(3)は、BZ(3)tiltに影響を与えない。
【0123】
したがって、β=π/2のとき、演算部34は、磁場成分BZ(1)tiltとして、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、2つの線形和を用いることができる。
【0124】
また、上記式(5)において、β=π/2のとき、補正磁場のZtilt軸方向の2次および3次の磁場成分BZ(2)tilt,BZ(3)tiltは、係数が0となる項はない。
【0125】
したがって、β=π/2のとき、演算部34は、補正磁場のZtilt軸方向の2次の磁場成分BZ(2)tiltとして、BZ(2)、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いることができる。
【0126】
また、β=π/2のとき、演算部34は、補正磁場のZtilt軸方向の3次の磁場成分BZ(3)tiltとして、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いることができる。
【0127】
これにより、静磁場に対してπ/2傾いた軸まわりで回転する試料S(試料管1)に印加される静磁場を、核磁気共鳴装置100の例と同様に、効率よく補正することができる。
【0128】
(2)次に、第2の変形例について説明する。
【0129】
上述した核磁気共鳴100の例では、図2に示す角度β(Z軸とZtilt軸とがなす角度)が、マジックアングルθmであった。これに対して、角度βは、5cos2β−3=0を満たしていればよい。すなわち、βは、約39°であってもよい。ここでは、5cos2β−3=0を満たす角度を、第1角度θ1という。本変形例では、静磁場に対して第1角度θ1傾いた軸まわりで、試料S(試料管1)を回転させて、核磁気共鳴信号を測定する。なお、静磁場に対して第1角度θ1傾いた軸とは、静磁場に対して厳密に第1角度θ1傾いた軸(β=θ1)だけではなく、静磁場に対して実質的に第1角度θ1傾いた軸を含むことができる。また、静磁場に対して実質的に第1角度θ1傾いた軸とは、例えば、θ1−5°≦β≦θ1+5°の範囲で傾いた軸である。
【0130】
上記式(5)において、β=θ1のとき、補正磁場のZtilt軸方向の1次および2次の磁場成分BZ(2)tilt,BZ(3)tiltは、係数が0となる項はない。
【0131】
したがって、β=θ1のとき、演算部34は、補正磁場のZtilt軸方向の1次の磁場成分BZ(1)tiltとして、BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いることができる。
【0132】
また、β=θ1のとき、演算部34は、補正磁場のZtilt軸方向の2次の磁場成分BZ(2)tiltとして、BZ(2)、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いることができる。
【0133】
また、上記式(5)において、β=θ1のとき、補正磁場のZtilt軸方向の3次の磁場成分BZ(3)tiltは、BZ(3)の係数が0となる。そのため、BZ(3)は、BZ(3)tiltに影響を与えない。
【0134】
したがって、演算部34は、補正磁場のZtilt軸方向の3次の磁場成分BZ(3)tiltとして、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いることができる。
【0135】
これにより、静磁場に対して第1角度θ1傾いた軸まわりで回転する試料S(試料管1)に印加される静磁場を、核磁気共鳴装置100の例と同様に、効率よく補正することができる。
【0136】
(3)次に、第3の変形例について説明する。
【0137】
複数のNMR信号が存在する場合には、スピンエコー法やグラジエントエコー法による磁場マップの作成ができない。そこで、スピンエコー法およびグラジエントエコー法に用いられる最初の90度パルスによる励起の代わりに、特定のピークのみの選択励起を行うことにより、複数の信号が存在する場合でも磁場マップの作製が可能になる。
【0138】
(4)次に、第4の変形例について説明する。
【0139】
核磁気共鳴装置100の例では、Ztilt軸方向の磁場が均一になるように、補正磁場を印加したが、これに限定されず、Ztilt軸方向の磁場が任意の関数に従うように、補正磁場を印加してもよい。例えば、Ztilt軸方向の磁場がリニアに変化するように、補正磁場を印加してもよい。
【0140】
(5)次に、第5の変形例について説明する。
【0141】
核磁気共鳴装置100の例では、補正磁場のZtilt軸方向の磁場成分として、1次〜3次の項を用いたが、さらに、4次以上の高次の項を加えてもよい。これにより、より精度よく磁場を補正することができる。
【0142】
4. 実施例
次に、上述した核磁気共鳴装置100において、補正磁場を発生させた結果を示す。具体的には、試料回転軸(Ztilt軸)が静磁場からマジックアングルθm傾いた状態で試料回転を行い、1H NMRスペクトルを測定した。試料回転軸は、図2に示すZY平面内にあるものとする。すなわち、図2において、β=θm、α=π/2である。このような条件で、補正磁場発生部20(シムコイルセット22)がつくる磁場マップ(補正磁場の分布)を計測した。
【0143】
まず、シムコイルセット22に電流を流して、BZ(1)を印加した状態でスピンエコー測定を行い、BZ(1)(Ztilt)をプロットした。BZ(1)は、Z軸方向に進むと印加される磁場がリニアに変動する項であるが、tilt座標では、下記式のように表される。
【0144】
【数17】
【0145】
すなわち、Ztilt軸に対してもリニアに印加磁場が変化する。図8は、BZ(1)(Ztilt)の磁場の分布を測定した結果を示すグラフである。図8に示すように、BZ(1)(Ztilt)では、リニアな磁場マップが観測された。
【0146】
次に、補正磁場のZtilt軸方向の1次の磁場成分BZ(1)tiltについて説明する。上記した式(5)より、tilt座標でのZtilt軸方向への1次の磁場成分BZ(1)tiltは、下記式で与えられる。
【0147】
【数18】
【0148】
したがって、上記式から、B1(1)eは、BZ(1)tiltに影響を与えず(有効な磁場を発生しない)、B1(1)Oは、BZ(1)と同様の効果を与えることがわかる。
【0149】
図9は、BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのそれぞれについて、Ztilt軸方向における磁場の分布を測定した結果を示すグラフである。図9に示すように、B1(1)eは、Ztilt軸方向において、他の磁場成分BZ(1),B1(1)Oと比べて、強度の変化が少なくBZ(1)tiltに与える影響が小さい。このことは、上記の計算結果とも一致する。図9に示す結果からは、B1(1)Oが、傾きが最も大きく、最も効率的に補正磁場を与えることがわかる。このように、BZ(1)tiltは、複数の項の線形和で表されるが、各項BZ(1),B1(1)e,B1(1)Oの影響が異なるため、適切な項を選ぶことが効率のよい磁場補正には重要である。β=θm、α=π/2の場合、補正磁場のZtilt軸方向の1次の磁場成分BZ(1)tiltとして、BZ(1)およびB1(1)Oを用いることで、効率のよい磁場補正ができる。
【0150】
次に、補正磁場のZtilt軸方向の2次の磁場成分BZ(2)tiltについて説明する。2次の磁場成分BZ(2)tiltは、1次の磁場成分BZ(1)tiltと同様に、上記した式(5)より下記式で与えられる。
【0151】
【数19】
【0152】
上記式に示すように、BZ(2)tiltは、5つの項(BZ(2)、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、B2(1)O)の線形和で表されるが、このうち、BZ(2)、B2(2)O、B2(1)eの3つの項は、係数が0となり、BZ(2)tiltに影響を与えない(有効な磁場を発生しない)。
【0153】
図10は、BZ(2)、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、B2(1)Oのそれぞれについて、Ztilt軸方向における磁場の分布を測定した結果を示すグラフである。
【0154】
図10に示すように、BZ(2)、B2(2)O、B2(1)eは、Ztilt軸方向において、他の磁場成分B2(2)e、B2(1)Oと比べて、強度の変化が少なくBZ(2)tiltに与える影響が小さい。このことは、上記の計算結果とも一致する。したがって、β=θm、α=π/2の場合、補正磁場のZtilt軸方向の2次の磁場成分BZ(2)tiltとして、B2(2)eおよびB2(1)Oを用いることで、効率のよい磁場補正ができる。
【0155】
次に、補正磁場のZtilt軸方向の3次の磁場成分BZ(3)tiltについて説明する。3次の磁場成分BZ(3)tiltは、上記した式(5)より下記式で与えられる。
【0156】
【数20】
【0157】
BZ(3)tiltは、7つの項(BZ(3)、B3(3)e、B3(3)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(1)e、B3(1)O)の線形和で表されるが、このうち、B3(3)e、B3(2)O、B3(1)eの3つの項は、係数が0となり、BZ(3)tiltに影響を与えない(有効な磁場を発生しない)。したがって、β=θm、α=π/2の場合、補正磁場のZtilt軸方向の3次の磁場成分BZ(3)tiltとして、BZ(3)、B3(3)O、B3(2)e、およびB3(1)Oを用いることで、効率のよい磁場補正ができる。
【0158】
次に、1次の磁場成分として、B1(1)Oを用い、2次の磁場成分として、B2(2)eを用い、3次の磁場成分として、BZ(3)を用いて静磁場を補正した。図11は、B1(1)O、B2(2)e、BZ(3)のそれぞれについて、Ztilt軸方向における磁場の分布を測定した結果を示すグラフである。次に、Bunshimmed(r)の磁場の分布を取得し、これら3つの項の線形和を適切にとることにより、磁場補正を行った。
【0159】
図12は、補正磁場を印加する前のNMRスペクトルであり、図13は、本実施例の方法で、補正磁場を印加したときのNMRスペクトルである。図12および図13に示すように、補正磁場を印加した結果、NMRスペクトルの線形が大幅に改善されていることがわかる。
【0160】
なお、シム項は、さまざまな表記法がなされている。図14は、本実施形態おける表記法により表記したシム項と、他の表記法で表記した場合のシム項との対応関係を示した表である。図14に示すように、本実施形態における表記法により表記したシム項は、他の表記法によっても表記することができる。例えば、図14に示すように、B1(1)eは、BX1と表記することもできる。本実施形態に記載したその他シム項についても、図14に示す表記をすることもできる。
【0161】
また、上述した実施形態および変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、実施形態および変形例を適宜組み合わせることも可能である。
【0162】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0163】
MF10 静磁場、S 試料、1 試料管、10 静磁場発生部、20 補正磁場発生部、22 シムコイルセット、24 電源部、30 制御部、32 磁場分布取得部、34 演算部、36 補正磁場発生部制御部、40 プローブ、42 分光部、50 勾配磁場発生部、100 核磁気共鳴装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、核磁気共鳴装置および磁場補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NMR(Nuclear Magnetic Resonance)の共鳴周波数ωは、静磁場の大きさB0と核スピンの磁気回転比γに比例する。
【0003】
【数1】
【0004】
そのため、NMRスペクトルに現れるピーク位置は、直接静磁場の大きさを反映し、結果的にピーク位置の分布(=線形)は、静磁場の分布を反映する。したがって、高分解能NMRにおいて、静磁場の均一度は、本質的に要求されるものである。静磁場の大きさが場所により分布している場合、望む静磁場強度との違いをδB(r)であらわすと、共鳴周波数の分布は次のように与えられる。
【0005】
【数2】
【0006】
均一な静磁場を実現するために、シムコイルと呼ばれる電磁石に電流を流すことにより補正磁場を発生させて磁場を補正する方法が広く行われている(例えば特許文献1参照)。シムコイルによる磁場の大きさをδBshim(r)とあらわすと結果的に得られる静磁場は次のようになる。
【0007】
【数3】
【0008】
したがって、δB(r)+δBshim(r)=0を満たすような電流をシムコイルに流せば、理想的な均一な磁場が得られる。NMR装置(核磁気共鳴装置)には、一般的に、さまざまな補正磁場を作るために多くのシムコイルが実装されているが、どのシムコイルにどの程度の電流を流すかを決めることが、均一な静磁場を実現するために重要である。
【0009】
一般的なNMR装置のシムコイルは、Z軸を静磁場と平行にし、補正磁場強度が球面調和関数にしたがって変化するものが用いられている。これにより、補正磁場成分の各項を独立して調整することができるため、効率のよいシム調整が実現する。具体的には、axial方向(Z軸方向)に関して、シムコイルにより印加される補正磁場は、下記式(1)で表すことができる。
【0010】
【数4】
【0011】
また、Radial方向(X軸方向、Y軸方向)に関して、シムコイルにより印加される補正磁場は、下記式(2)、下記式(3)で表すことができる。
【0012】
【数5】
【0013】
ここで、Z軸周りに試料を回転させると、Z軸周りの(XY平面内の)磁場の不均一性は平均化され、Z軸周りの不均一性は、スピニングサイドバンドとしてのみ現れる。そのため、スピニングサイドバンドを無視すれば、Z軸方向の項BZ(n)のみで磁場の不均一性を補正できる。試料を回転させない場合は、全ての項BZ(n)、Bm(n)e、Bm(n)Oを調整する必要がある。
【0014】
NMRにおいて、試料を静磁場からマジックアングルθm(magic angle)だけ傾けた軸まわりで回転させて測定を行うマジックアングルスピニング(magic angle spinning;MAS)が広く用いられている。特に、固体NMRにおいて、MAS NMRは、一般的な手法として用いられている。ここで、マジックアングルθmは、下記式で与えられる。
【0015】
【数6】
【0016】
このとき、試料回転軸まわりの磁場の不均一性は、MASにより平均化される。通常MAS NMR法においては、試料回転軸まわりの磁場の不均一性よりも試料回転速度の方が十分大きいので、磁場の不均一性によるスピニングサイドバンドは問題とはならない。したがって、試料回転軸方向の磁場の不均一性を補正すれば、高分解能NMRスペクトルが実現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平8−316031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
ここで、NMR測定の対象となる試料に印加される磁場(静磁場)を、シムコイルを用いて補正する方法について説明する。
【0019】
NMRスペクトルには、さまざまなωunshimmed(r)の位置にピークが現れる。試料内の静磁場が均一であれば、非常に狭い範囲の周波数のみに信号が現れることになり、ピークの強度も最大となる。そこで、NMRスペクトルに現れるピークの強度が最大に、線幅が最小になることを指標として、シムコイルの電流を調整する。直接観測したいNMR信号でシムコイルの電流値を調整することもでき、また別のNMR信号(例えば、溶液NMRでは、溶媒の2H NMR信号)により調整することもできる。多くの試料が短い横磁化緩和時間を示す固体試料の場合には、長い横磁化緩和時間を示す標準試料でシムコイルの電流値を調整し、その後試料を交換してからNMR測定を行うこともできる。
【0020】
しかしながら、上述したNMR信号を直接観察しながらシムコイルの電流を調整する方法では、試料内のさまざまな場所の信号の足し合わせをNMR信号として検出している。すなわち、この方法では、試料内のどこの位置がどれだけ周波数がずれているか(静磁場がずれているか)という情報は取得できない。そのため、どのシムコイルに電流を流せば静磁場の均一度が改善させるか予想ができない。また、この方法で静磁場の均一度を向上させるには、例えば、シムコイルに与える電流をかえながら複数のNMR測定を行い、NMR信号の線幅が細く、信号強度が強くなることを観測することになる。しかしながら、この方法では、複数のNMR測定が必要になるため時間がかかり、かつ操作する人の技術によって結果が異なるという問題がある。また、均一度の評価がNMR信号の線幅と強度だけなので、しばしば局所解に陥ってしまうことがある。
【0021】
また、静磁場の補正方法として、グラジエントシミング(Gradient Shimming)法を用いた方法が知られている。グラジエントシミング法では、勾配磁場パルスとエコー法を組み合わせることにより、試料の位置とその位置での静磁場の大きさ(静磁場マップ)を検出することができる。
【0022】
グラジエントシミング法では、シムコイルによる補正磁場を加えない場合の静磁場マップ、および、各シムコイルに電流を流した場合の各静磁場マップを測定する。前者は、静磁場がどのような分布を持っているかを示し、後者はどのシムコイルにどれだけの電流を流すとどのような磁場分布ができるかを示す。これらの測定により、どのシムコイルにどの程度の電流を流せば磁場分布がキャンセルされるか(均一な磁場が得られるか)を計算できる。
【0023】
ここで、例えば、溶液NMRでは、静磁場方向をZ軸としたとき、細長い試料管の長軸方向がZ軸になるよう配置される。そして、溶液NMRでは、X,Y軸方向の磁場分布を無視するか、Z軸まわりに試料回転を行うことによってX,Y軸方向の磁場分布を平均化させることにより、グラジエントシミング法を用いて、Z軸周りに展開したシム項BZ(n)(上記式(1)参照)のみを調整して静磁場の均一度の向上がはかられる(一軸グラジエントシミング法)。
【0024】
しかしながら、MAS NMRでは、状況が変化する。MASを適用した固体NMRでは、細長い試料管の長軸方向はZ軸ではなく、Z軸から角度θm傾いた軸(Ztilt軸)まわりに試料を回転させる。Ztilt軸まわりの磁場分布は、試料回転により平均化することができる。したがって、Ztilt軸方向の磁場分布を補正すればよい。しかしながらZ軸とZtilt軸とは異なるため、Z軸まわりに展開したシム項では効率のよい磁場補正ができない。例えば、BZ(2)を、いくら変化させてもZtilt軸方向の磁場の大きさは変化しない。したがって、MAS NMR装置では、上述した溶液NMRで用いられている、シム項BZ(n)を変化させる一軸グラジエントシミングは、動作させることができない場合があった。
【0025】
このように、静磁場の方向(Z軸方向)から傾いた軸まわりに試料を回転させてNMR測定を行う場合には、効率よく静磁場の補正ができない場合があった。
【0026】
なお、三次元NMRイメージングを用いることにより、完全な三次元磁場分布マップが得られる。そのため、静磁場の方向(Z軸方向)から傾いた軸まわりに試料を回転させた場合であっても磁場補正が可能である。例えば、MASを適用した固体NMRであっても磁場補正ができる。しかしながら、三次元の磁場分布を得る必要があるので、測定に時間がかかり、また、三次元の勾配磁場パルスシステムが要求されるため装置が複雑化するなどの問題がある。
【0027】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、効率よく磁場の補正ができる核磁気共鳴装置および磁場補正方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0028】
(1)本発明に係る核磁気共鳴装置は、
静磁場に対してマジックアングル傾いた軸まわりで、試料を回転させて、核磁気共鳴信号の検出を行う核磁気共鳴装置であって、
前記静磁場を発生させる静磁場発生部と、
前記静磁場を補正するための補正磁場を発生させる補正磁場発生部と、
前記補正磁場発生部を制御する制御部と、
前記試料から発生する前記核磁気共鳴信号を検出するプローブと、
を含み、
前記制御部は、
前記軸方向の前記静磁場の分布を取得する磁場分布取得部と、
前記軸方向の前記静磁場の分布に基づいて、前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分の第1係数、前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分の第2係数、および前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分の第3係数を決定する演算部と、
前記第1係数、前記第2係数、および前記第3係数に基づいて、前記補正磁場発生部を制御する補正磁場発生部制御部と、
を有し、
前記補正磁場は、下記式(1)、(2)、(3)で表され、
前記演算部は、
前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分として、BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分として、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分として、BZ3、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる。
【0029】
【数7】
【0030】
このような核磁気共鳴装置によれば、静磁場に対してマジックアングル傾いた軸まわりで回転する試料に印加される静磁場を、効率よく補正することができる。
【0031】
(2)本発明に係る核磁気共鳴装置において、
前記磁場分布取得部は、スピンエコー法またはグラジエントエコー法により、前記軸方向の前記静磁場の分布を取得してもよい。
【0032】
このような核磁気共鳴装置によれば、静磁場に対してマジックアングル傾いた軸方向の静磁場の分布を、容易に取得することができる。
【0033】
(3)本発明に係る核磁気共鳴装置において、
前記補正磁場発生部は、
複数のコイルと、
前記複数のコイルの各々に対して、電流を供給する電源部と、
を有し、
前記補正磁場発生部制御部は、前記演算部によって決定された前記第1係数、前記第2係数、および前記第3係数に基づいて、前記複数のコイルの各々に供給する電流量を決定し、
前記電源部は、前記補正磁場発生部によって決定された前記電流量に応じた電流を、前記複数のコイルの各々に供給してもよい。
【0034】
(4)本発明に係る磁場補正方法は、
静磁場に対してマジックアングル傾いた軸まわりで、試料を回転させて、核磁気共鳴信号を検出する核磁気共鳴測定において、補正磁場を発生させることによって、前記軸方向の前記静磁場を補正する磁場補正方法であって、
前記軸方向の前記静磁場の分布を取得する磁場分布取得工程と、
前記磁場分布取得工程で取得された前記軸方向の前記静磁場の分布に基づいて、前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分の第1係数、前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分の第2係数、および前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分の第3係数を決定する演算工程と、
前記第1係数、前記第2係数、および前記第3係数に基づいて、前記補正磁場を制御する補正磁場制御工程と、
を有し、
前記補正磁場は、下記式(1)、(2)、(3)で表され、
前記演算工程において、
前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分として、BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分として、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分として、BZ3、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる。
【0035】
【数7】
【0036】
このような磁場補正方法によれば、静磁場に対してマジックアングル傾いた軸まわりで回転する試料に印加される静磁場を、効率よく補正することができる。
【0037】
(5)本発明に係る磁場補正方法において、
前記磁場分布取得工程では、スピンエコー法またはグラジエントエコー法により、前記軸方向の前記静磁場の分布を取得してもよい。
【0038】
このような磁場補正方法によれば、静磁場に対してマジックアングル傾いた軸方向の静磁場の分布を、容易に取得することができる。
【0039】
(6)本発明に係る核磁気共鳴装置は、
静磁場に対してπ/2傾いた軸まわりで、試料を回転させて、核磁気共鳴信号の検出を行う核磁気共鳴装置であって、
前記静磁場を発生させる静磁場発生部と、
前記静磁場を補正するための補正磁場を発生させる補正磁場発生部と、
前記補正磁場発生部を制御する制御部と、
前記試料から発生する前記核磁気共鳴信号を検出するプローブと、
を含み、
前記制御部は、
前記軸方向の前記静磁場の分布を取得する磁場分布取得部と、
前記軸方向の前記静磁場の分布に基づいて、前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分の第1係数、前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分の第2係数、および前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分の第3係数を決定する演算部と、
前記第1係数、前記第2係数、および前記第3係数に基づいて、前記補正磁場発生部を制御する補正磁場発生部制御部と、
を有し、
前記補正磁場は、下記式(1)、(2)、(3)で表され、
前記演算部は、
前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分として、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分として、BZ(2)、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分として、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる。
【0040】
【数7】
【0041】
このような核磁気共鳴装置によれば、静磁場に対してπ/2傾いた軸まわりで回転する試料に印加される静磁場を、効率よく補正することができる。
【0042】
(7)本発明に係る磁場補正方法は、
静磁場に対してπ/2傾いた軸まわりで、試料を回転させて、核磁気共鳴信号を検出する核磁気共鳴測定において、補正磁場を発生させることによって、前記軸方向の前記静磁場を補正する磁場補正方法であって、
前記軸方向の前記静磁場の分布を取得する磁場分布取得工程と、
前記磁場分布取得工程で取得された前記軸方向の前記静磁場の分布に基づいて、前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分の第1係数、前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分の第2係数、および前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分の第3係数を決定する演算工程と、
前記第1係数、前記第2係数、および前記第3係数に基づいて、前記補正磁場を制御する補正磁場制御工程と、
を有し、
前記補正磁場は、下記式(1)、(2)、(3)で表され、
前記演算工程において、
前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分として、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分として、BZ(2)、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分として、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる。
【0043】
【数7】
【0044】
このような磁場補正方法によれば、静磁場に対してπ/2傾いた軸まわりで回転する試料に印加される静磁場を、効率よく補正することができる。
【0045】
(8)本発明に係る核磁気共鳴装置は、
静磁場に対して第1角度傾いた軸まわりで、試料を回転させて、核磁気共鳴信号の検出を行う核磁気共鳴装置であって、
前記静磁場を発生させる静磁場発生部と、
前記静磁場を補正するための補正磁場を発生させる補正磁場発生部と、
前記補正磁場発生部を制御する制御部と、
前記試料から発生する前記核磁気共鳴信号を検出するプローブと、
を含み、
前記制御部は、
前記軸方向の前記静磁場の分布を取得する磁場分布取得部と、
前記軸方向の前記静磁場の分布に基づいて、前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分の第1係数、前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分の第2係数、および前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分の第3係数を決定する演算部と、
前記第1係数、前記第2係数、および前記第3係数に基づいて、前記補正磁場発生部を制御する補正磁場発生部制御部と、
を有し、
前記第1角度は、5cos2β−3=0(ただしβは前記第1角度である)の関係を満たし、
前記補正磁場は、下記式(1)、(2)、(3)で表され、
前記演算部は、
前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分として、BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分として、BZ(2)、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分として、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる。
【0046】
【数7】
【0047】
このような核磁気共鳴装置によれば、静磁場に対して第1角度傾いた軸まわりで回転する試料に印加される静磁場を、効率よく補正することができる。
【0048】
(9)本発明に係る磁場補正方法は、
静磁場に対して第1角度傾いた軸まわりで、試料を回転させて、核磁気共鳴信号を検出する核磁気共鳴測定において、補正磁場を発生させることによって、前記軸方向の前記静磁場を補正する静磁場補正方法であって、
前記軸方向の前記静磁場の分布を取得する磁場分布取得工程と、
前記磁場分布取得工程で取得された前記軸方向の前記静磁場の分布に基づいて、前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分の第1係数、前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分の第2係数、および前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分の第3係数を決定する演算工程と、
前記第1係数、前記第2係数、および前記第3係数に基づいて、前記補正磁場を制御する補正磁場制御工程と、
を有し、
前記第1角度は、5cos2β−3=0(ただしβは前記第1角度である)の関係を満たし、
前記補正磁場は、下記式(1)、(2)、(3)で表され、
前記演算工程において、
前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分として、BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分として、BZ(2)、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分として、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる。
【0049】
【数7】
【0050】
このような核磁気共鳴装置によれば、静磁場に対して第1角度傾いた軸まわりで回転する試料に印加される静磁場を、効率よく補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本実施形態に係る核磁気共鳴装置を説明するための模式図。
【図2】本実施形態に係る核磁気共鳴装置に装着された試料管を示す模式図。
【図3】本実施形態に係る磁場補正方法の一例を示すフローチャート。
【図4】勾配磁場パルスを説明するための図。
【図5】スピンエコー法を説明するための図。
【図6】グラジエントエコー法を説明するための図。
【図7】補正磁場の各磁場成分の係数を決定する方法について説明するための図。
【図8】BZ(1)(Ztilt)のZtilt軸方向における磁場の分布を測定した結果を示すグラフ。
【図9】BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのそれぞれについて、Ztilt軸方向における磁場の分布を測定した結果を示すグラフ。
【図10】BZ(2)、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、B2(1)Oのそれぞれについて、Ztilt軸方向における磁場の分布を測定した結果を示すグラフ。
【図11】B1(1)O、B2(2)e、BZ(3)のそれぞれについて、Ztilt軸方向における磁場の分布を測定した結果を示すグラフ。
【図12】補正磁場を印加する前のNMRスペクトル。
【図13】補正磁場を印加したときのNMRスペクトル。
【図14】本実施形態おける表記法により表記したシム項と、他の表記法で表記した場合のシム項との対応関係を示した表。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0053】
1. 核磁気共鳴装置の構成
まず、本実施形態に係る核磁気共鳴装置の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る核磁気共鳴装置100を説明するための模式図である。図2は、核磁気共鳴装置100に装着された試料管1を示す模式図である。
【0054】
核磁気共鳴装置100は、図2に示すように、静磁場(Z軸方向)に対してマジックアングルθm傾いたZtilt軸まわりで、試料Sを回転させて、核磁気共鳴信号の検出を行う。核磁気共鳴装置100は、図1に示すように、静磁場発生部10と、補正磁場発生部20と、補正磁場発生部20を制御する制御部30と、プローブ40と、を含む。
【0055】
試料Sは、細長い試料管1に入れられている。試料管1は、図2に示すように、長手方向がZtiltに沿うようにNMR装置100に装着される。ここで、Ztilt軸は、Z軸に対してマジックアングルθm傾いた軸である。すなわち、図2に示すZ軸とZtilt軸とがなす角度β=θmである。核磁気共鳴装置100は、静磁場MF10(Z軸方向)に対してマジックアングルθm傾いたZtilt軸まわりで、試料S(試料管1)を回転させる。すなわち、試料管1(試料S)は、Ztilt軸を回転軸として、Ztilt軸まわりに回転する。ここで、静磁場に対してマジックアングル傾いた軸とは、静磁場に対して厳密にマジックアングル傾いた(β=θm)軸だけではなく、静磁場に対して実質的にマジックアングル傾いた軸を含むことができる。また、静磁場に対して実質的にマジックアングル傾いた軸とは、例えば、静磁場に対してθm−5°≦β≦θm+5°の範囲で傾いた軸である。試料S(試料管1)には、静磁場発生部10によって静磁場MF10が印加され、補正磁場発生部20によって補正磁場が印加される。
【0056】
図示はしないが、試料管1は、例えば、ステータ管に挿入され、ステータ管に設けられたガス供給孔を通じて供給される高圧ガスにより、マジックアングルθmに支持されている。また、試料管1の頂部には、タービン(図示しない)が形成され、ステータ管には、タービンを回転させるようにガス吹き出し口が設けられている。このガス吹き出し口から高圧ガスを供給することにより、試料管1が回転する。
【0057】
静磁場発生部10は、静磁場MF10を発生させる。静磁場発生部10が発生させる静磁場MF10の方向は図2に示すZ軸方向である。静磁場発生部10は、例えば、超電導ソレノイドコイルを有する超電導磁石である。
【0058】
補正磁場発生部20は、静磁場MF10を補正するための補正磁場を発生させる。補正磁場発生部20は、例えば、試料S(試料管1)に印加される磁場が、静磁場MF10のみが印加されている場合と比べて、より均一化されるように、補正磁場を発生させる。補正磁場発生部20は、複数のコイルからなるシムコイルセット22と、当該複数のコイルの各々に対して、電流を供給する電源部24と、を含んで構成されている。
【0059】
シムコイルセット22は、例えば、複数のソレノイドコイルで構成される。電源部24は、補正磁場発生部制御部36によって決定された電流量に応じた電流を、複数のソレノイドコイルの各々に供給する。
【0060】
補正磁場発生部20により印加される補正磁場の強度は、球面調和関数にしたがって変化する。具体的には、Z軸方向(axial方向)に関して、補正磁場発生部20により印加される補正磁場は、下記式(1)で表すことができる。また、Radial方向(X軸方向、Y軸方向)に関して、補正磁場発生部20により印加される補正磁場は、下記式(2)、下記式(3)で表すことができる。
【0061】
【数8】
【0062】
制御部30は、補正磁場発生部20を制御する。制御部30は、磁場分布取得部32と、演算部34と、補正磁場発生部制御部36と、を有する。
【0063】
磁場分布取得部32は、Ztilt軸方向の静磁場MF10の分布を取得する。磁場分布取得部32は、勾配磁場発生部50を制御して、勾配磁場パルスを発生させることができる。磁場分布取得部32は、この勾配磁場パルスを用いて、Ztilt軸方向の静磁場の分布を取得する(グラジエントエコー法)。なお、図示はしないが、磁場分布取得部32は、補正磁場発生部20を制御して、勾配磁場パルスを発生させてもよい。
【0064】
演算部34は、磁場分布取得部32によって取得されたZtilt軸方向の静磁場MF10の分布に基づいて、補正磁場のZtilt軸方向の1次の磁場成分の第1係数、補正磁場のZtilt軸方向の2次の磁場成分の第2係数、および補正磁場のZtilt軸方向の3次の磁場成分の第3係数を決定する。具体的には、演算部34は、例えば、試料Sに印加される磁場が、補正前(静磁場MF10のみが試料Sに印加されている場合)と比べて、補正後(静磁場MF10と補正磁場とが試料Sに印加される場合)が均一となるように、補正磁場の磁場成分の各係数を決定する。
【0065】
ここで、演算部34は、補正磁場のZtilt軸方向の1次の磁場成分として、BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる。また、補正磁場のZtilt軸方向の2次の磁場成分として、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる。また、補正磁場のZtilt軸方向の3次の磁場成分として、BZ3、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる。この理由については、後述する。
【0066】
また、第1係数、第2係数、第3係数は、式(1)では、bz(n)であり、式(2)、式(3)では、bm(n)である。第1係数、第2係数、第3係数は、シムコイルセット22に流れる電流量に対応する。
【0067】
補正磁場発生部制御部36は、第1係数、第2係数、および第3係数に基づいて、補正磁場発生部20を制御する。補正磁場発生部制御部36は、演算部34によって決定された第1係数、第2係数、および第3係数に基づいて、シムコイルセット22を構成する複数のコイルの各々に供給する電流量を決定する。そして、補正磁場発生部制御部36は、電源部24に、当該電流量の情報を出力する。電源部24は、当該電流量の情報に応じた電流を、複数のコイルの各々に供給する。これにより、補正磁場が発生する。
【0068】
プローブ40は、試料Sから発生する核磁気共鳴(NMR)信号を検出する。具体的には、プローブ40は、磁場中の試料S中の観測核に高周波磁場(rfパルス)を照射し、当該観測核から放射されるNMR信号を検出する。分光部42は、プローブ40が検出したNMR信号を受け、NMR信号に基づいて、NMRスペクトルを生成する。
【0069】
2. 磁場補正方法
次に、本実施形態に係る磁場補正方法について説明する。
【0070】
核磁気共鳴装置100では、勾配磁場パルスを用いて、試料管1(試料S)における静磁場MF10の分布(Ztilt軸方向の分布)を取得し、当該分布に応じて補正磁場を設定する。そして、補正磁場を印加することによって静磁場MF10を補正し、試料Sに印加される磁場を均一化させる。
【0071】
図3は、本実施形態に係る磁場補正方法の一例を示すフローチャートである。以下、図1および図2に示す磁気共鳴装置100および図3に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0072】
(1)まず、磁場分布取得部32が、Ztilt軸方向の静磁場MF10の分布を取得する(磁場分布取得工程S10)。
【0073】
具体的には、磁場分布取得部32は、勾配磁場パルスとエコーを組み合わせて、Ztilt軸方向の静磁場MF10の分布(以下「静磁場分布マップ」ともいう)を取得する。本工程は、補正磁場が印加されていない状態、すなわち、静磁場MF10のみが印加されている状態で行われる。
【0074】
以下、磁場分布取得部32における静磁場の分布の取得方法について説明する。
【0075】
図4は、勾配磁場パルスを説明するための図である。
【0076】
勾配磁場パルスは、試料位置ごとに信号を分離して観測するために用いられる。勾配磁場パルスによって、試料位置によって異なる磁場強度が与えられる。勾配磁場パルスは、Z軸方向にリニアに磁場強度が変化するパルスである。勾配磁場パルスは、Z軸上で同じ位置にあれば、X軸方向やY軸方向に進んでも磁場は変化しない。これにより、Z軸の座標に応じてNMR信号を区別することができる。ここで、BZ(1)tilt=BZ(1)cosβであり、勾配磁場パルスは、Ztilt軸に対してもリニアに磁場強度が変化する。すなわち、勾配磁場パルスによって、Ztilt軸の座標に応じてNMR信号を区別することができる。試料管1の位置Ztiltで付与される磁場は、下記式のように表記できる。
【0077】
【数9】
【0078】
Gは、勾配磁場パルスの大きさである。勾配磁場パルスによる共鳴周波数の変化は、下記式のようになる。
【0079】
【数10】
【0080】
この式からわかるように、共鳴周波数ωと位置Ztiltは、図4に示すように、直接関連付けすることができる。
【0081】
次に、勾配磁場パルスとエコーを組み合わせて、静磁場MF10の分布(以下「静磁場分布マップ」ともいう)を取得する方法について説明する。
【0082】
静磁場分布マップは、エコー実験により測定される。エコー実験としては、例えば、スピンエコー(spin echo)法によるものや、グラジエントエコー(gradient echo)法によるものが挙げられる。いずれも、勾配磁場パルスとrfパルスを組み合わせたものである。
【0083】
図5は、スピンエコー法を説明するための図である。図6は、グラジエントエコー法を説明するための図である。
【0084】
スピンエコー法では、図5に示すように、まず、試料Sに90°パルスを印加し、90°パルス印加からτ+τ1時間後に180°パルスを印加する。磁場勾配パルスは、90°パルス印加から、τ時間後に印加する。180°パルス印加後、τ2時間後にNMR信号が検出される。
【0085】
グラジエントエコー法では、図6に示すように、まず、試料Sに90°パルスを印加する。90°パルス印加直後に第1の勾配磁場パルスを印加する。第1の勾配磁場パルス印加後から、τ時間後に、第1の勾配磁場パルスとは磁場勾配を反転させた第2の勾配磁場パルスを印加する。第2の勾配磁場パルスの印加からτ2時間後にNMR信号が検出される。
【0086】
なお、90°パルスおよび180°パルスは、プローブ40によって試料Sに印加され、勾配磁場パルスは、勾配磁場発生部50によって試料Sに印加される。磁場分布取得部32は、プローブ40および勾配磁場発生部50を制御して、これらのパルスを試料Sに印加する。また、NMR信号は、プローブ40によって検出され、分光部42を介して、磁場分布取得部32に入力される。
【0087】
スピンエコー法、およびグラジエントエコー法のいずれの方法でも、τ=τ0とτ=τ0+Tの2つの測定を行う。τ=τ0のときのNMR信号を、I0(ω)とし、τ=τ0+TのときのNMR信号を、IT(ω)とする。IT(ω)をI0(ω)で割ることにより、この2つの測定の位相差を得ることができる。
【0088】
【数11】
【0089】
この位相差は、下記式に示す関係を有する。
【0090】
【数12】
【0091】
ここで、B(r)は、時刻τの間に位置rにある核スピンが感じる磁場である。したがって、B(r)は、下記式を満たす。
【0092】
【数13】
【0093】
上記式(4)に示されるように、位相差から局所的な磁場の情報を得ることができる。このように、勾配磁場パルスによって、共鳴周波数ωは、位置rと直接相関している。すなわち、位置rは、I0(ω)(またはIT(ω))の共鳴周波数の位置から得られ、その場所での時刻τにおける磁場強度B(r)は式(4)から得られる。
【0094】
このようにして、磁場分布取得部32は、補正磁場を加える前のZtilt軸方向の静磁場MF10の分布を取得することができる。
【0095】
また、磁場分布取得部32は、静磁場MF10の場合と同様に、スピンエコー法やグラジエントエコー法を用いて、補正磁場の各磁場成分の各項(BZ(1)、B1(1)e、B1(1)O、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、B2(1)O、BZ3、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、B3(3)O)について、Ztilt軸方向の磁場の分布を取得する。例えば、磁場分布取得部32は、シムコイルセット22を構成するコイルのうち、補正磁場の各磁場成分の各項に対応するコイルのみに電流を流し、スピンエコー法やグラジエントエコー法を用いて、Ztilt軸方向の磁場の分布を取得することにより、各項の磁場の分布を取得する。
【0096】
なお、この補正磁場の各項(BZ(1)、B1(1)e、B1(1)O、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、B2(1)O、BZ3、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、B3(3)O)の磁場の分布は、演算部34が、予め取得していてもよい。
【0097】
(2)次に、演算部34が、磁場分布取得部32が取得したZtilt軸方向の静磁場MF10の分布に基づいて、補正磁場のZtilt軸方向の1次の磁場成分の第1係数、補正磁場のZtilt軸方向の2次の磁場成分の第2係数、および補正磁場のZtilt軸方向の3次の磁場成分の第3係数を決定する(演算工程S12)。
【0098】
ここで、補正磁場発生部20が発生させる補正磁場の磁場成分について説明する。
【0099】
核磁気共鳴装置100は、上述したように、Z軸まわりに展開したシムコイルセット22(式(1)、式(2)、式(3)参照)を備えたMAS NMR装置である。試料管1は、図2に示すように、静磁場からβ傾いた試料回転軸(Ztilt軸)まわりで試料回転させる。
【0100】
ここで、試料回転軸に固定したtilt座標系を定義する。図2に示すZ軸は、静磁場の方向であり、補正磁場の展開軸である。Ztilt軸は、Z軸から角度β傾いた軸であり、試料回転軸に平行である。角度αは、Ztilt軸のXY平面への射影と、X軸とがなす角度である。
【0101】
Ztilt軸まわりの磁場(Ztilt軸と直交する方向)の不均一性は試料回転により平均化される。したがって、tilt座標系においては、試料管1内の磁場の分布はZtilt軸の変数のみであり、BZtiltと表記できる。
【0102】
ここで、勾配磁場パルスも同様に試料回転により平均化される。上述したように、勾配磁場パルスによる共鳴周波数の変化は、下記式のようになる。
【0103】
【数14】
【0104】
ここで、補正磁場の展開軸(Z軸)とZtilt軸とが角度βをなしている。そこで、Z軸方向に展開された補正磁場を、Ztilt軸まわりに展開しなおす。具体的には、下記式(5)に示す。
【0105】
【数15】
【0106】
上記式(5)において、βがマジックアングル(3cos2β−1=0)のときには、下記式のようになる。
【0107】
【数16】
【0108】
補正磁場のZtilt軸方向の1次の磁場成分BZ(1)tiltは、上記式に示すように、3つの項(BZ(1)、B2(1)e、B2(1)O)の線形和で表される。したがって、演算部34は、補正磁場のZtilt軸方向の1次の磁場成分BZ(1)tiltとして、BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いることができる。
【0109】
補正磁場のZtilt軸方向の2次の磁場成分BZ(2)tiltは、式(5)に示すように、5つの項(BZ(2)、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、B2(1)O)の線形和で表される。しかしながら、BZ(2)tiltは、β=θmのとき、上記式に示すように、BZ(2)の係数が0となる。そのため、BZ(2)は、BZ(2)tiltに影響を与えない。すなわち、このBZ(2)の項を用いてもZtilt軸方向の磁場は変化しない。したがって、演算部34は、このBZ(2)の項を用いずに、その他の項B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oを用いる。すなわち、演算部34は、補正磁場のZtilt軸方向の2次の磁場成分BZ(2)tiltとして、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いることができる。
【0110】
補正磁場のZtilt軸方向の3次の磁場成分BZ(3)tiltは、上記式に示すように、7つの項(BZ(3)、B3(3)e、B3(3)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(1)e、B3(1)O)の線形和で表される。したがって、演算部34は、補正磁場のZtilt軸方向の3次の磁場成分BZ(3)tiltとして、BZ3、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いることができる。
【0111】
次に、補正磁場の各磁場成分の係数(第1係数、第2係数、第3係数)の決定方法について説明する。
【0112】
図7は、補正磁場の各磁場成分の係数の決定方法について説明するための図である。図7に示すように、補正磁場を加える前の静磁場Bunshimmedと、補正磁場の1次の磁場成分BZ(1)tiltと、補正磁場の2次の磁場成分BZ(2)tiltと、補正磁場の3次の磁場成分BZ(3)tiltとを足し合わせた結果、試料S(試料管1)に印加される磁場が均一化されるように、各磁場成分の係数(第1係数、第2係数、第3係数)を調整する。すなわち、演算部34は、例えば、静磁場MF10のみが試料Sに印加されている場合と比べて、補正磁場を加えることで、試料Sに印加される磁場がより均一となるように、各磁場成分の係数を決定する。このようにして、第1係数、第2係数、第3係数が決定される。
【0113】
(3)次に、補正磁場発生部制御部36が、第1係数、第2係数、および第3係数に基づいて、補正磁場発生部20を制御して補正磁場を発生させる(補正磁場発生工程S14)。
【0114】
補正磁場発生部制御部36は、各係数に基づいて、シムコイルセット22を構成する各コイルに流す電流量を決定し、コイルごとの電流量情報を出力する。当該電流量情報は、電源部24に入力される。電源部24は、当該電流量情報に応じた電流を、各コイルに流す。これにより、シムコイルセット22は、補正磁場を発生させる。
【0115】
以上の工程により、補正磁場を発生させて静磁場MF10を補正し、試料Sに印加される磁場を均一化することができる。
【0116】
本実施形態によれば、補正磁場のZtilt軸方向の1次の磁場成分として、BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、補正磁場のZtilt軸方向の2次の磁場成分として、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、補正磁場のZtilt軸方向の3次の磁場成分として、BZ3、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる。そして、この各磁場成分の係数(第1係数、第2係数、第3係数)を決定し、この係数に基づいて、補正磁場を制御する。これにより、上述したように、静磁場MF10に対してマジックアングルθm傾いた軸まわりで回転する試料S(試料管1)に印加される静磁場を、効率よく補正することができる。すなわち、少ないシム電流(シムコイルセット22に供給される電流)で、補正磁場を与えることができる。したがって、例えば、静磁場(Z軸方向)に対してマジックアングル傾いたZtilt軸まわりで試料Sを回転させて、核磁気共鳴信号の検出を行う場合でも、試料S(試料管1)に、均一化された磁場を、効率よく印加することができる。
【0117】
例えば、試料回転軸と補正磁場の展開軸が一致している場合、Z軸まわりに展開した補正磁場成分BZ(n)が用いられる。しかしながら、マジックアングルスピニングでNMR測定を行う場合、試料回転軸(Ztilt軸)と、補正磁場の展開軸(Z軸)が異なるため、Z軸まわりに展開した補正磁場成分BZ(n)では、効率よく磁場を補正できない。例えば、BZ(2)は、いくら変化させても、試料回転軸(Ztilt軸)方向の磁場の大きさの変化は小さい(変化はない)。したがって、効率よく試料回転軸(Ztilt軸)方向の磁場を補正できないという問題がある。本実施形態によれば、補正磁場の磁場成分として、上記のものを用いているため、このような問題が生じない。したがって、試料Sに印加される静磁場を、効率よく補正することができる。
【0118】
本実施形態の核磁気共鳴装置100によって、例えば、試料Sに対して、均一な磁場を印加することにより、高分解能NMR測定が可能になる。本実施形態に係る磁場補正方法による磁場補正後に、ピーク位置を測定することにより磁場強度(試料Sに印加される磁場の強度)を測定できる。これをNMR信号のリファレンス信号とすることができる。
【0119】
3. 変形例
次に、本実施形態に係る核磁気共鳴装置の変形例について説明する。なお、上述した核磁気共鳴装置発100の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0120】
(1)まず、第1の変形例について説明する。
【0121】
上述した核磁気共鳴100の例では、図2に示す角度β(Z軸とZtilt軸とがなす角度)が、マジックアングルθmであった。これに対して、角度βは、π/2であってもよい。すなわち、本変形例では、静磁場に対してπ/2傾いた軸まわりで、試料S(試料管1)を回転させて、核磁気共鳴信号を測定する。なお、静磁場に対してπ/2傾いた軸とは、静磁場に対して厳密にπ/2傾いた軸(β=π/2)だけではなく、静磁場に対して実質的にπ/2傾いた軸を含むことができる。また、静磁場に対して実質的にπ/2傾いた軸とは、例えば、(π/2)−5°≦β≦(π/2)+5°の範囲で傾いた軸である。
【0122】
上記式(5)において、β=π/2のとき、補正磁場のZtilt軸方向の1次の磁場成分BZ(1)tiltは、BZ(1)およびBZ(3)の係数が0となる。そのため、BZ(1)は、BZ(1)tiltに影響を与えない。また、BZ(3)は、BZ(3)tiltに影響を与えない。
【0123】
したがって、β=π/2のとき、演算部34は、磁場成分BZ(1)tiltとして、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、2つの線形和を用いることができる。
【0124】
また、上記式(5)において、β=π/2のとき、補正磁場のZtilt軸方向の2次および3次の磁場成分BZ(2)tilt,BZ(3)tiltは、係数が0となる項はない。
【0125】
したがって、β=π/2のとき、演算部34は、補正磁場のZtilt軸方向の2次の磁場成分BZ(2)tiltとして、BZ(2)、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いることができる。
【0126】
また、β=π/2のとき、演算部34は、補正磁場のZtilt軸方向の3次の磁場成分BZ(3)tiltとして、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いることができる。
【0127】
これにより、静磁場に対してπ/2傾いた軸まわりで回転する試料S(試料管1)に印加される静磁場を、核磁気共鳴装置100の例と同様に、効率よく補正することができる。
【0128】
(2)次に、第2の変形例について説明する。
【0129】
上述した核磁気共鳴100の例では、図2に示す角度β(Z軸とZtilt軸とがなす角度)が、マジックアングルθmであった。これに対して、角度βは、5cos2β−3=0を満たしていればよい。すなわち、βは、約39°であってもよい。ここでは、5cos2β−3=0を満たす角度を、第1角度θ1という。本変形例では、静磁場に対して第1角度θ1傾いた軸まわりで、試料S(試料管1)を回転させて、核磁気共鳴信号を測定する。なお、静磁場に対して第1角度θ1傾いた軸とは、静磁場に対して厳密に第1角度θ1傾いた軸(β=θ1)だけではなく、静磁場に対して実質的に第1角度θ1傾いた軸を含むことができる。また、静磁場に対して実質的に第1角度θ1傾いた軸とは、例えば、θ1−5°≦β≦θ1+5°の範囲で傾いた軸である。
【0130】
上記式(5)において、β=θ1のとき、補正磁場のZtilt軸方向の1次および2次の磁場成分BZ(2)tilt,BZ(3)tiltは、係数が0となる項はない。
【0131】
したがって、β=θ1のとき、演算部34は、補正磁場のZtilt軸方向の1次の磁場成分BZ(1)tiltとして、BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いることができる。
【0132】
また、β=θ1のとき、演算部34は、補正磁場のZtilt軸方向の2次の磁場成分BZ(2)tiltとして、BZ(2)、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いることができる。
【0133】
また、上記式(5)において、β=θ1のとき、補正磁場のZtilt軸方向の3次の磁場成分BZ(3)tiltは、BZ(3)の係数が0となる。そのため、BZ(3)は、BZ(3)tiltに影響を与えない。
【0134】
したがって、演算部34は、補正磁場のZtilt軸方向の3次の磁場成分BZ(3)tiltとして、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いることができる。
【0135】
これにより、静磁場に対して第1角度θ1傾いた軸まわりで回転する試料S(試料管1)に印加される静磁場を、核磁気共鳴装置100の例と同様に、効率よく補正することができる。
【0136】
(3)次に、第3の変形例について説明する。
【0137】
複数のNMR信号が存在する場合には、スピンエコー法やグラジエントエコー法による磁場マップの作成ができない。そこで、スピンエコー法およびグラジエントエコー法に用いられる最初の90度パルスによる励起の代わりに、特定のピークのみの選択励起を行うことにより、複数の信号が存在する場合でも磁場マップの作製が可能になる。
【0138】
(4)次に、第4の変形例について説明する。
【0139】
核磁気共鳴装置100の例では、Ztilt軸方向の磁場が均一になるように、補正磁場を印加したが、これに限定されず、Ztilt軸方向の磁場が任意の関数に従うように、補正磁場を印加してもよい。例えば、Ztilt軸方向の磁場がリニアに変化するように、補正磁場を印加してもよい。
【0140】
(5)次に、第5の変形例について説明する。
【0141】
核磁気共鳴装置100の例では、補正磁場のZtilt軸方向の磁場成分として、1次〜3次の項を用いたが、さらに、4次以上の高次の項を加えてもよい。これにより、より精度よく磁場を補正することができる。
【0142】
4. 実施例
次に、上述した核磁気共鳴装置100において、補正磁場を発生させた結果を示す。具体的には、試料回転軸(Ztilt軸)が静磁場からマジックアングルθm傾いた状態で試料回転を行い、1H NMRスペクトルを測定した。試料回転軸は、図2に示すZY平面内にあるものとする。すなわち、図2において、β=θm、α=π/2である。このような条件で、補正磁場発生部20(シムコイルセット22)がつくる磁場マップ(補正磁場の分布)を計測した。
【0143】
まず、シムコイルセット22に電流を流して、BZ(1)を印加した状態でスピンエコー測定を行い、BZ(1)(Ztilt)をプロットした。BZ(1)は、Z軸方向に進むと印加される磁場がリニアに変動する項であるが、tilt座標では、下記式のように表される。
【0144】
【数17】
【0145】
すなわち、Ztilt軸に対してもリニアに印加磁場が変化する。図8は、BZ(1)(Ztilt)の磁場の分布を測定した結果を示すグラフである。図8に示すように、BZ(1)(Ztilt)では、リニアな磁場マップが観測された。
【0146】
次に、補正磁場のZtilt軸方向の1次の磁場成分BZ(1)tiltについて説明する。上記した式(5)より、tilt座標でのZtilt軸方向への1次の磁場成分BZ(1)tiltは、下記式で与えられる。
【0147】
【数18】
【0148】
したがって、上記式から、B1(1)eは、BZ(1)tiltに影響を与えず(有効な磁場を発生しない)、B1(1)Oは、BZ(1)と同様の効果を与えることがわかる。
【0149】
図9は、BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのそれぞれについて、Ztilt軸方向における磁場の分布を測定した結果を示すグラフである。図9に示すように、B1(1)eは、Ztilt軸方向において、他の磁場成分BZ(1),B1(1)Oと比べて、強度の変化が少なくBZ(1)tiltに与える影響が小さい。このことは、上記の計算結果とも一致する。図9に示す結果からは、B1(1)Oが、傾きが最も大きく、最も効率的に補正磁場を与えることがわかる。このように、BZ(1)tiltは、複数の項の線形和で表されるが、各項BZ(1),B1(1)e,B1(1)Oの影響が異なるため、適切な項を選ぶことが効率のよい磁場補正には重要である。β=θm、α=π/2の場合、補正磁場のZtilt軸方向の1次の磁場成分BZ(1)tiltとして、BZ(1)およびB1(1)Oを用いることで、効率のよい磁場補正ができる。
【0150】
次に、補正磁場のZtilt軸方向の2次の磁場成分BZ(2)tiltについて説明する。2次の磁場成分BZ(2)tiltは、1次の磁場成分BZ(1)tiltと同様に、上記した式(5)より下記式で与えられる。
【0151】
【数19】
【0152】
上記式に示すように、BZ(2)tiltは、5つの項(BZ(2)、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、B2(1)O)の線形和で表されるが、このうち、BZ(2)、B2(2)O、B2(1)eの3つの項は、係数が0となり、BZ(2)tiltに影響を与えない(有効な磁場を発生しない)。
【0153】
図10は、BZ(2)、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、B2(1)Oのそれぞれについて、Ztilt軸方向における磁場の分布を測定した結果を示すグラフである。
【0154】
図10に示すように、BZ(2)、B2(2)O、B2(1)eは、Ztilt軸方向において、他の磁場成分B2(2)e、B2(1)Oと比べて、強度の変化が少なくBZ(2)tiltに与える影響が小さい。このことは、上記の計算結果とも一致する。したがって、β=θm、α=π/2の場合、補正磁場のZtilt軸方向の2次の磁場成分BZ(2)tiltとして、B2(2)eおよびB2(1)Oを用いることで、効率のよい磁場補正ができる。
【0155】
次に、補正磁場のZtilt軸方向の3次の磁場成分BZ(3)tiltについて説明する。3次の磁場成分BZ(3)tiltは、上記した式(5)より下記式で与えられる。
【0156】
【数20】
【0157】
BZ(3)tiltは、7つの項(BZ(3)、B3(3)e、B3(3)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(1)e、B3(1)O)の線形和で表されるが、このうち、B3(3)e、B3(2)O、B3(1)eの3つの項は、係数が0となり、BZ(3)tiltに影響を与えない(有効な磁場を発生しない)。したがって、β=θm、α=π/2の場合、補正磁場のZtilt軸方向の3次の磁場成分BZ(3)tiltとして、BZ(3)、B3(3)O、B3(2)e、およびB3(1)Oを用いることで、効率のよい磁場補正ができる。
【0158】
次に、1次の磁場成分として、B1(1)Oを用い、2次の磁場成分として、B2(2)eを用い、3次の磁場成分として、BZ(3)を用いて静磁場を補正した。図11は、B1(1)O、B2(2)e、BZ(3)のそれぞれについて、Ztilt軸方向における磁場の分布を測定した結果を示すグラフである。次に、Bunshimmed(r)の磁場の分布を取得し、これら3つの項の線形和を適切にとることにより、磁場補正を行った。
【0159】
図12は、補正磁場を印加する前のNMRスペクトルであり、図13は、本実施例の方法で、補正磁場を印加したときのNMRスペクトルである。図12および図13に示すように、補正磁場を印加した結果、NMRスペクトルの線形が大幅に改善されていることがわかる。
【0160】
なお、シム項は、さまざまな表記法がなされている。図14は、本実施形態おける表記法により表記したシム項と、他の表記法で表記した場合のシム項との対応関係を示した表である。図14に示すように、本実施形態における表記法により表記したシム項は、他の表記法によっても表記することができる。例えば、図14に示すように、B1(1)eは、BX1と表記することもできる。本実施形態に記載したその他シム項についても、図14に示す表記をすることもできる。
【0161】
また、上述した実施形態および変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、実施形態および変形例を適宜組み合わせることも可能である。
【0162】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0163】
MF10 静磁場、S 試料、1 試料管、10 静磁場発生部、20 補正磁場発生部、22 シムコイルセット、24 電源部、30 制御部、32 磁場分布取得部、34 演算部、36 補正磁場発生部制御部、40 プローブ、42 分光部、50 勾配磁場発生部、100 核磁気共鳴装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場に対してマジックアングル傾いた軸まわりで、試料を回転させて、核磁気共鳴信号の検出を行う核磁気共鳴装置であって、
前記静磁場を発生させる静磁場発生部と、
前記静磁場を補正するための補正磁場を発生させる補正磁場発生部と、
前記補正磁場発生部を制御する制御部と、
前記試料から発生する前記核磁気共鳴信号を検出するプローブと、
を含み、
前記制御部は、
前記軸方向の前記静磁場の分布を取得する磁場分布取得部と、
前記軸方向の前記静磁場の分布に基づいて、前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分の第1係数、前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分の第2係数、および前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分の第3係数を決定する演算部と、
前記第1係数、前記第2係数、および前記第3係数に基づいて、前記補正磁場発生部を制御する補正磁場発生部制御部と、
を有し、
前記補正磁場は、下記式(1)、(2)、(3)で表され、
前記演算部は、
前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分として、BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分として、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分として、BZ3、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる、核磁気共鳴装置。
【数21】
【請求項2】
請求項1において、
前記磁場分布取得部は、スピンエコー法またはグラジエントエコー法により、前記軸方向の前記静磁場の分布を取得する、核磁気共鳴装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記補正磁場発生部は、
複数のコイルと、
前記複数のコイルの各々に対して、電流を供給する電源部と、
を有し、
前記補正磁場発生部制御部は、前記演算部によって決定された前記第1係数、前記第2係数、および前記第3係数に基づいて、前記複数のコイルの各々に供給する電流量を決定し、
前記電源部は、前記補正磁場発生部によって決定された前記電流量に応じた電流を、前記複数のコイルの各々に供給する、核磁気共鳴装置。
【請求項4】
静磁場に対してマジックアングル傾いた軸まわりで、試料を回転させて、核磁気共鳴信号を検出する核磁気共鳴測定において、補正磁場を発生させることによって、前記軸方向の前記静磁場を補正する磁場補正方法であって、
前記軸方向の前記静磁場の分布を取得する磁場分布取得工程と、
前記磁場分布取得工程で取得された前記軸方向の前記静磁場の分布に基づいて、前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分の第1係数、前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分の第2係数、および前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分の第3係数を決定する演算工程と、
前記第1係数、前記第2係数、および前記第3係数に基づいて、前記補正磁場を制御する補正磁場制御工程と、
を有し、
前記補正磁場は、下記式(1)、(2)、(3)で表され、
前記演算工程において、
前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分として、BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分として、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分として、BZ3、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる、磁場補正方法。
【数21】
【請求項5】
請求項4において、
前記磁場分布取得工程では、スピンエコー法またはグラジエントエコー法により、前記軸方向の前記静磁場の分布を取得する、磁場補正方法。
【請求項6】
静磁場に対してπ/2傾いた軸まわりで、試料を回転させて、核磁気共鳴信号の検出を行う核磁気共鳴装置であって、
前記静磁場を発生させる静磁場発生部と、
前記静磁場を補正するための補正磁場を発生させる補正磁場発生部と、
前記補正磁場発生部を制御する制御部と、
前記試料から発生する前記核磁気共鳴信号を検出するプローブと、
を含み、
前記制御部は、
前記軸方向の前記静磁場の分布を取得する磁場分布取得部と、
前記軸方向の前記静磁場の分布に基づいて、前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分の第1係数、前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分の第2係数、および前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分の第3係数を決定する演算部と、
前記第1係数、前記第2係数、および前記第3係数に基づいて、前記補正磁場発生部を制御する補正磁場発生部制御部と、
を有し、
前記補正磁場は、下記式(1)、(2)、(3)で表され、
前記演算部は、
前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分として、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分として、BZ(2)、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分として、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる、核磁気共鳴装置。
【数21】
【請求項7】
静磁場に対してπ/2傾いた軸まわりで、試料を回転させて、核磁気共鳴信号を検出する核磁気共鳴測定において、補正磁場を発生させることによって、前記軸方向の前記静磁場を補正する磁場補正方法であって、
前記軸方向の前記静磁場の分布を取得する磁場分布取得工程と、
前記磁場分布取得工程で取得された前記軸方向の前記静磁場の分布に基づいて、前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分の第1係数、前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分の第2係数、および前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分の第3係数を決定する演算工程と、
前記第1係数、前記第2係数、および前記第3係数に基づいて、前記補正磁場を制御する補正磁場制御工程と、
を有し、
前記補正磁場は、下記式(1)、(2)、(3)で表され、
前記演算工程において、
前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分として、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分として、BZ(2)、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分として、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる、磁場補正方法。
【数21】
【請求項8】
静磁場に対して第1角度傾いた軸まわりで、試料を回転させて、核磁気共鳴信号の検出を行う核磁気共鳴装置であって、
前記静磁場を発生させる静磁場発生部と、
前記静磁場を補正するための補正磁場を発生させる補正磁場発生部と、
前記補正磁場発生部を制御する制御部と、
前記試料から発生する前記核磁気共鳴信号を検出するプローブと、
を含み、
前記制御部は、
前記軸方向の前記静磁場の分布を取得する磁場分布取得部と、
前記軸方向の前記静磁場の分布に基づいて、前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分の第1係数、前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分の第2係数、および前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分の第3係数を決定する演算部と、
前記第1係数、前記第2係数、および前記第3係数に基づいて、前記補正磁場発生部を制御する補正磁場発生部制御部と、
を有し、
前記第1角度は、5cos2β−3=0(ただしβは第1角度である)の関係を満たし、
前記補正磁場は、下記式(1)、(2)、(3)で表され、
前記演算部は、
前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分として、BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分として、BZ(2)、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分として、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる、核磁気共鳴装置。
【数21】
【請求項9】
静磁場に対して第1角度傾いた軸まわりで、試料を回転させて、核磁気共鳴信号を検出する核磁気共鳴測定において、補正磁場を発生させることによって、前記軸方向の前記静磁場を補正する静磁場補正方法であって、
前記軸方向の前記静磁場の分布を取得する磁場分布取得工程と、
前記磁場分布取得工程で取得された前記軸方向の前記静磁場の分布に基づいて、前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分の第1係数、前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分の第2係数、および前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分の第3係数を決定する演算工程と、
前記第1係数、前記第2係数、および前記第3係数に基づいて、前記補正磁場を制御する補正磁場制御工程と、
を有し、
前記第1角度は、5cos2β−3=0(ただしβは第1角度である)の関係を満たし、
前記補正磁場は、下記式(1)、(2)、(3)で表され、
前記演算工程において、
前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分として、BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分として、BZ(2)、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分として、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる、磁場補正方法。
【数21】
【請求項1】
静磁場に対してマジックアングル傾いた軸まわりで、試料を回転させて、核磁気共鳴信号の検出を行う核磁気共鳴装置であって、
前記静磁場を発生させる静磁場発生部と、
前記静磁場を補正するための補正磁場を発生させる補正磁場発生部と、
前記補正磁場発生部を制御する制御部と、
前記試料から発生する前記核磁気共鳴信号を検出するプローブと、
を含み、
前記制御部は、
前記軸方向の前記静磁場の分布を取得する磁場分布取得部と、
前記軸方向の前記静磁場の分布に基づいて、前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分の第1係数、前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分の第2係数、および前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分の第3係数を決定する演算部と、
前記第1係数、前記第2係数、および前記第3係数に基づいて、前記補正磁場発生部を制御する補正磁場発生部制御部と、
を有し、
前記補正磁場は、下記式(1)、(2)、(3)で表され、
前記演算部は、
前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分として、BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分として、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分として、BZ3、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる、核磁気共鳴装置。
【数21】
【請求項2】
請求項1において、
前記磁場分布取得部は、スピンエコー法またはグラジエントエコー法により、前記軸方向の前記静磁場の分布を取得する、核磁気共鳴装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記補正磁場発生部は、
複数のコイルと、
前記複数のコイルの各々に対して、電流を供給する電源部と、
を有し、
前記補正磁場発生部制御部は、前記演算部によって決定された前記第1係数、前記第2係数、および前記第3係数に基づいて、前記複数のコイルの各々に供給する電流量を決定し、
前記電源部は、前記補正磁場発生部によって決定された前記電流量に応じた電流を、前記複数のコイルの各々に供給する、核磁気共鳴装置。
【請求項4】
静磁場に対してマジックアングル傾いた軸まわりで、試料を回転させて、核磁気共鳴信号を検出する核磁気共鳴測定において、補正磁場を発生させることによって、前記軸方向の前記静磁場を補正する磁場補正方法であって、
前記軸方向の前記静磁場の分布を取得する磁場分布取得工程と、
前記磁場分布取得工程で取得された前記軸方向の前記静磁場の分布に基づいて、前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分の第1係数、前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分の第2係数、および前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分の第3係数を決定する演算工程と、
前記第1係数、前記第2係数、および前記第3係数に基づいて、前記補正磁場を制御する補正磁場制御工程と、
を有し、
前記補正磁場は、下記式(1)、(2)、(3)で表され、
前記演算工程において、
前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分として、BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分として、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分として、BZ3、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる、磁場補正方法。
【数21】
【請求項5】
請求項4において、
前記磁場分布取得工程では、スピンエコー法またはグラジエントエコー法により、前記軸方向の前記静磁場の分布を取得する、磁場補正方法。
【請求項6】
静磁場に対してπ/2傾いた軸まわりで、試料を回転させて、核磁気共鳴信号の検出を行う核磁気共鳴装置であって、
前記静磁場を発生させる静磁場発生部と、
前記静磁場を補正するための補正磁場を発生させる補正磁場発生部と、
前記補正磁場発生部を制御する制御部と、
前記試料から発生する前記核磁気共鳴信号を検出するプローブと、
を含み、
前記制御部は、
前記軸方向の前記静磁場の分布を取得する磁場分布取得部と、
前記軸方向の前記静磁場の分布に基づいて、前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分の第1係数、前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分の第2係数、および前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分の第3係数を決定する演算部と、
前記第1係数、前記第2係数、および前記第3係数に基づいて、前記補正磁場発生部を制御する補正磁場発生部制御部と、
を有し、
前記補正磁場は、下記式(1)、(2)、(3)で表され、
前記演算部は、
前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分として、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分として、BZ(2)、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分として、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる、核磁気共鳴装置。
【数21】
【請求項7】
静磁場に対してπ/2傾いた軸まわりで、試料を回転させて、核磁気共鳴信号を検出する核磁気共鳴測定において、補正磁場を発生させることによって、前記軸方向の前記静磁場を補正する磁場補正方法であって、
前記軸方向の前記静磁場の分布を取得する磁場分布取得工程と、
前記磁場分布取得工程で取得された前記軸方向の前記静磁場の分布に基づいて、前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分の第1係数、前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分の第2係数、および前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分の第3係数を決定する演算工程と、
前記第1係数、前記第2係数、および前記第3係数に基づいて、前記補正磁場を制御する補正磁場制御工程と、
を有し、
前記補正磁場は、下記式(1)、(2)、(3)で表され、
前記演算工程において、
前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分として、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分として、BZ(2)、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分として、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる、磁場補正方法。
【数21】
【請求項8】
静磁場に対して第1角度傾いた軸まわりで、試料を回転させて、核磁気共鳴信号の検出を行う核磁気共鳴装置であって、
前記静磁場を発生させる静磁場発生部と、
前記静磁場を補正するための補正磁場を発生させる補正磁場発生部と、
前記補正磁場発生部を制御する制御部と、
前記試料から発生する前記核磁気共鳴信号を検出するプローブと、
を含み、
前記制御部は、
前記軸方向の前記静磁場の分布を取得する磁場分布取得部と、
前記軸方向の前記静磁場の分布に基づいて、前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分の第1係数、前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分の第2係数、および前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分の第3係数を決定する演算部と、
前記第1係数、前記第2係数、および前記第3係数に基づいて、前記補正磁場発生部を制御する補正磁場発生部制御部と、
を有し、
前記第1角度は、5cos2β−3=0(ただしβは第1角度である)の関係を満たし、
前記補正磁場は、下記式(1)、(2)、(3)で表され、
前記演算部は、
前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分として、BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分として、BZ(2)、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分として、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる、核磁気共鳴装置。
【数21】
【請求項9】
静磁場に対して第1角度傾いた軸まわりで、試料を回転させて、核磁気共鳴信号を検出する核磁気共鳴測定において、補正磁場を発生させることによって、前記軸方向の前記静磁場を補正する静磁場補正方法であって、
前記軸方向の前記静磁場の分布を取得する磁場分布取得工程と、
前記磁場分布取得工程で取得された前記軸方向の前記静磁場の分布に基づいて、前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分の第1係数、前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分の第2係数、および前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分の第3係数を決定する演算工程と、
前記第1係数、前記第2係数、および前記第3係数に基づいて、前記補正磁場を制御する補正磁場制御工程と、
を有し、
前記第1角度は、5cos2β−3=0(ただしβは第1角度である)の関係を満たし、
前記補正磁場は、下記式(1)、(2)、(3)で表され、
前記演算工程において、
前記補正磁場の前記軸方向の1次の磁場成分として、BZ(1)、B1(1)e、およびB1(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の2次の磁場成分として、BZ(2)、B2(2)e、B2(2)O、B2(1)e、およびB2(1)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用い、
前記補正磁場の前記軸方向の3次の磁場成分として、B3(1)e、B3(1)O、B3(2)e、B3(2)O、B3(3)e、およびB3(3)Oのうちの少なくとも1つ、または、少なくとも2つの線形和を用いる、磁場補正方法。
【数21】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−29366(P2013−29366A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164481(P2011−164481)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(511132029)株式会社 JEOL RESONANCE (13)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(511132029)株式会社 JEOL RESONANCE (13)
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