説明

核酸の濃縮精製方法および装置

電気泳動を用いた核酸の濃縮精製方法において、核酸(1)を含む試料に陽イオン界面活性剤(4)を加えて、該試料中の夾雑物(2)における荷電量を調節し、該試料を電解中におき、電気泳動することにより、核酸の濃縮精製を行う。夾雑物に対する荷電量調節は、陽イオン界面活性剤の吸着により行うとともに、陽イオン界面活性剤の吸着量を、該試料に添加する非イオン界面活性剤(3)の吸着量により調節する。また、試料を、分離媒体に接触させた後に、泳動方向に対して断面積が小さくなるフィルタにより回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、核酸の分離方法に関する。より詳しくは、電気泳動の手法により、目的とする核酸を取出すための核酸分離方法に関する。
【背景技術】
近年、ヒトゲノムの解読が進み、さまざまな生命現象と遺伝子の関連が解明されてきている。そして、この成果により、医学・医療は病態から病因へ、治療から予防へと視野を広げている。ここにおいて、遺伝子検査技術は重要な基盤となっている。
遺伝子検査は、培養困難な病原微生物の同定検査、抗生物質加療中や感染初期の病原微生物の検出、移行抗体が疑われた際の抗原検出、病原微生物の感染源調査、親子鑑定などの個人識別、さらに白血病・固形腫瘍の遺伝子レベルの病型診断や遺伝病の確定診断など従来の臨床検査では困難であった検査を行うことができる。そして、結果を得るまでの時間が、菌の培養を用いる手法に比べて短く、培養に時間のかかる細菌の検出には威力を発揮する。さらにDNAは保存条件によっては安定しているため、凍結生検材料、骨など過去の検体からも検査を行うことができる。
また、近年増加傾向にある性感染症の検査において、検査機会の拡大を図るべく、遺伝子検査が注目されている。
従来核酸の精製濃縮方法としては、フェノール/クロロホルム/エタノールを用いた精製方法、核酸を吸着するカラム/フィルターを用いた精製方法、磁性シリカビーズを用いた精製方法等が知られている。
さらに、平板状の電気泳動ゲルから核酸を回収する方法として、作成したゲルにおいて核酸を電気泳動し、ゲルにおいて目的とする核酸の位置に回収装置を移動し、更なる電気泳動により目的とする核酸を回収する方法が知られている(例えば、実開平5−88296号公報を参照)。
この他に、平板状の電気泳動ゲルにおいて、核酸を電気泳動して目的とする核酸を分離し、目的とする核酸のバンド近傍に回収チップを挿入して核酸を回収する方法が知られている(例えば、特開平8−327595号公報を参照)。
従来核酸の精製分離方法において、フェノール/クロロホルム/エタノールを用いた精製方法は、劇薬を使用するため、高度の化学設備を必要とするものであり、利用する環境が限定される。そして、操作に手間がかかるとともに、高速遠心が必要となり、自動化が困難である。また、高い精製精度を得ることが困難である。
核酸を吸着するカラム/フィルターを用いた精製方法は、溶液を流しながら行うため、ごみ等の混入量の多いサンプルでは、カラム/フィルターが目詰まりを起こしやすく、精製効率が低くなる可能性がある。そして、遠心もしくは吸引操作を行う必要があるので、自動化が困難である。
さらに、磁性シリカビーズを用いた精製方法は、磁石によるビーズの回収を失敗した場合や、シリカビーズが磁性体より剥落した場合には、サンプルにシリカが混入する可能性ある。そして、高い回収率を得ることが困難である。
平板状の電気泳動ゲルから核酸を回収する従来の技術においては、平板状の電気泳動ゲルを必要とするとともに、この平板状の電気泳動ゲルにおいて一端電気泳動を行い、目的核酸の該当位置のゲルを処理する必要がある。
電気泳動に用いられるゲルは、衝撃に弱く、生成過程により、特性が大きくことなる場合がある。このため、一般に電気泳動を行った後に、紫外線により電気泳動ゲルにおける目的核酸の位置を認識した後に、目的核酸の含有量の多い部分を処理するものである。
遺伝子検査等にこの手法を利用する場合には、一回の検査にかかる時間が長くなる。また、電気泳動に用いるゲルが大きくゲルのムラによる核酸のバンドのにじみにより核酸の回収率が低下する可能性がある。さらに、ゲルが大きい場合には、電気泳動に必要となる電力が大きくなる。
【発明の開示】
上記の課題を解決すべく、様々の試験が行われ、検体中に存在する夾雑物に界面活性剤を吸着させ、核酸と異なる挙動を示させることにより、夾雑物と核酸とを分離させることが見出されたものである。
そして、陽イオン界面界面活性剤と非イオン界面活性剤で核酸以外の夾雑物を帯電させ、電界中におくことで、夾雑物を含む検体より核酸を分離精製し、核酸の濃縮もしくは濃縮しやすい状態とするものである。
図1は界面活性剤存在下における電気泳動による核酸濃縮構成を示す模式図である。検体中には、核酸1とともに夾雑物2が含まれるものである。この検体中に、界面活性剤を混合する。界面活性剤としては非イオン界面活性剤3と陽イオン界面活性剤4とを用いるものである。検体中に混合された界面活性剤は夾雑物2に吸着する。陽イオン界面活性剤4が吸着した夾雑物2は、正電荷に帯電することとなる。そして、界面活性剤の吸着した夾雑物2と、界面活性剤の吸着していない、もしくは吸着量の少ない核酸1とを電気泳動により分離することができるものである。これにより、検体から夾雑物2を容易に取り除くことができ、核酸1を濃縮できるものである。
次に、核酸濃縮の手法について説明する。この核酸濃縮の手法において、電気泳動を2回行うことにより、核酸の濃縮を確実に行うものである。第一に電気泳動においては検体中の余分なイオンを除き、第二の電気泳動においては検体中の核酸の濃縮を行うものである。まず、核酸を含む検体に非イオン界面活性剤として、1%Triton(登録商標)X−100を加えて混合する。非イオン界面活性剤を加えた検体を、96℃で10分間加熱する。そして、検体に陽イオン界面活性剤として、0.2%DCPを100μL加える。なお、検体には、非イオン界面活性剤と陽イオン界面活性剤を同時に加えた後に、加熱処理を行うことも可能である。検体に界面活性剤を加えて前処理を行うため、核酸が大腸菌などの原核細胞内に存在する場合においても、細胞壁が界面活性剤により破壊されることから、大腸菌の培養液などを検体として用いることができ、検体前処理の操作を容易に行うことができるものである。このように検体の前処理を行い、100Vの直流電圧を加え10分間電気泳動を行い、検体中の余分なイオンを除去する。この後に、125〜150Vの直流電圧を加え、120分間電気泳動を行い、正極側において核酸を採取するものである。
検体の電気泳動を行う電気泳動槽の構成について説明する。まず、第一の電気泳動について説明する。図2は第一電気泳動の泳動槽構成を示す図である。電気泳動槽5内にはサンプル槽6、正極側と負極側とを分ける隔壁9が設けられている。サンプル槽6は隔壁9に貫通しており、一端が正極側に、他端が負極側に突出した構成となっている。サンプル槽6の両端は開口しており、両端の開口部はそれぞれゲル8・8により閉じられている。これにより、サンプル槽6内に電位差を発生させて核酸および界面活性剤が吸着した夾雑物の電気泳動を行うものである。検体に非イオン界面活性剤と陽イオン界面活性剤を加え、加熱処理を行った後に、検体をサンプル槽6に注入する。そして、電極間に100Vの電圧を加えて、10分間の電気泳動を行うものである。これにより、検体中に含まれる余分なイオンを除くものである。検体中に含まれる余分なイオンを除いた後に、第二に電気泳動により核酸の濃縮を行うものである。
第二電気泳動について説明する。第二の電気泳動においては、第一の電気泳動で検体を注入したサンプル槽に、核酸の回収槽を接続していたものを電気泳動槽内に配置して電気泳動を行うものである。図3は第二電気泳動の泳動槽構成を示す図である。電気泳動槽5内にはサンプル槽6、回収槽7、正極側と負極側とを分ける隔壁9が設けられている。サンプル槽6は隔壁9に挿入され、負極側に突出した構成となっている。回収槽7は隔壁9に挿入され、正極側に突出した構成となっている。サンプル槽6と回収槽7とは隔壁9配設部において接続されており、ゲル8を介して接続されている。サンプル槽6の両端は開口しており、両端の開口部はそれぞれゲル8・8により閉ざされている。そして、回収槽7の両端は開口しており、負極側はゲル8により閉じられており、正極側は限外ろ過膜11により閉じられている。このように構成された電気泳動槽において、電極間に120Vの電圧を加え、120分間の電気泳動を行うものである。
このように、電気泳動槽において第二の電気泳動を行うことにより、検体中の核酸以外の余分なイオンを除いた検体を電気泳動することができ、回収槽7において核酸を効率的に回収できるものである。また、回収槽7の正極側には限外ろ過膜11を設けており、核酸は回収槽7より排出されることなく、回収槽7内にとどまる。このため、核酸の回収効率を向上することができるものである。なお、検体の状態によっては、第一の電気泳動を行うことなく、第二の電気泳動を行うことも可能である。回収槽7に接続したサンプル槽6に前処理を行った検体を注入して電気泳動することにより、容易に核酸の濃縮を行うことができるものである。検体中に存在する余分なイオンは限外ろ過膜を透過できるので、核酸の回収に影響をあたえない。
すなわち、本発明は、電気泳動を用いた核酸の濃縮精製方法であって、核酸を含む試料中の夾雑物に対して、荷電量の調節を行った後に試料を電界中におき核酸の濃縮精製を行うものである。そして、電気泳動による核酸の濃縮精製方法であって、核酸を含む試料に陽イオン界面活性剤を加えて、試料中夾雑物への荷電量を調節し、該試料を電界中におき、電気泳動することにより、核酸の濃縮精製を行うものである。また、核酸を含む試料中に陽イオン界面活性剤および非イオン界面活性剤を加えて試料中夾雑物への荷電量を調節し、該試料を電界中におき電気泳動することにより、核酸の濃縮精製を行うものである。また、核酸以外への荷電量調節を、陽イオン界面活性剤の吸着により行うとともに、陽イオン界面活性剤の吸着量を非イオン界面活性剤の添加量により調節するものである。
そして、試料に非イオン界面活性剤および陽イオン界面活性剤を添加して該試料を電気泳動して陽極側において核酸の濃縮精製を行う装置を構成するものであり、側面を絶縁体により構成した容器内を、拡散を抑制する導電性の分離体により仕切り、該容器内に試料投入室および核酸回収室を構成して該容器の端部がそれぞれバッファ槽を介して電極に接続している装置を構成するものである。
さらに、上記ほかに、次のような手段を用いることもできる。核酸を含むサンプルを、分子量によって移動度の差を与える物質により構成される分離媒体に接触させ、電圧を印加することにより核酸を他の物質と分離するものである。そして、分離媒体より抜け出た核酸を、フィルターにより回収するものである。このフィルターは、目的核酸より小さい核酸等が素通りする程度のポアサイズを有するものである。
例えば、電気泳動に用いられる分離媒体の一端にバッファで満たされたサンプル供給部を設け、他端に同様にバッファで満たされた採取部を設け、サンプル供給部と採取部とに電圧を印加することにより、サンプルが電気泳動され、分離媒体中を移動する。サンプルに含まれる核酸は分子量により移動速度に差が生じ、分離媒体を抜けて採取部に溶出するまでの時間が、分子量により異なることとなる。このため、目的の核酸が採取部に溶出し終わると共に電気泳動を終了すると、目的の核酸以外の成分を減少できる。また、溶出時間に応じて採取部のバッファを入れ替えることにより目的核酸のみを採取することが出来る。そして、採取部のバッファ量により、目的核酸の濃縮を行うことが出来るものである。
このように、遠心もしくは吸引の必要がなく、容易に自動化を行うことができる。また、大容量のサンプルから一度に核酸を分離することができ、溶出時の目的核酸を含む溶液の容量を小さくすることによって、濃縮を行い、目的の核酸濃度の高いサンプルを得ることが出来る。そして、電気泳動の直後において、精製された核酸を扱いやすい状態で得ることができ、次の工程への接続を円滑に行うことが出来るものである。
さらに、他の手法に比べて、高い回収率および高い精度の目的物を得ることが可能である。そして、使用する試薬および機器において高価なものを必要とせず、ランニングコストおよび操作にかかるコストを低減することができる。すなわち、電気泳動を用いた核酸の濃縮精製方法であって、核酸を含む試料中の夾雑物に対して、電気泳動により該核酸を分子量によって移動度の差を与える物質により構成される分離媒体に接触させた後に、目的核酸より小さい核酸が通り抜け、泳動方向に対して断面積が小さくなるフィルタにより回収する核酸の濃縮精製方法を用いることにより、前記試料中から核酸を分離するので、遠心もしくは吸引操作の必要がなく、簡易な装置により分離および濃縮を行うことが出来る。さらに、簡便な構成により分離を行うので、容易に自動化を行うことができる。また、大容量のサンプルを一度に精製することができ、溶出時の目的核酸を含む溶液の容量を小さくすることによって、濃縮を行い、濃度の高いサンプルを得ることが出来る。分離および濃縮操作にかかるランニングコストおよび操作にかかる時間を低減することができる。さらに、自己に存在しない外来遺伝子を同定する検査を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
図1は界面活性剤存在下における電気泳動による核酸濃縮構成を示す模式図であり、図2は第一電気泳動の泳動槽構成を示す図であり、図3は第二電気泳動の泳動槽構成を示す図である。そして、図4は第一電気泳動槽の構成を示す図であり、図5は第二電気泳動槽の構成を示す図である。図6はサンプリングユニットの構成を示す斜視図であり、図7はサンプリングユニットの平面図であり、図8はサンプリングユニットの側面図であり、図9はサンプリングユニットの側面断面図である。
図10は接続部の斜視図であり、図11は接続部の側面断面図であり、図12はろ過部の側面断面図であり、図13は分離ユニットの組立て構成を示す図であり、図14は回収された液のUVスペクトルである。
そして、図15は核酸濃縮ユニットの構成を示す一部破断面斜視図であり、図16は同じく平面図であり、図17は同じく側面図である。図18は目的核酸の濃縮過程を示す図であり、図19は濃縮ユニットの開封工程を示す斜視図であり、図20は濃縮ユニットの側面断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
次に、本発明の実施例について説明する。まず、電気泳動に用いる電気泳動槽の構成について説明する。図4は第一電気泳動槽の構成を示す図である。電気泳動槽21は隔壁24・25により、負極側槽22と正極側槽23とに分けられている。隔壁24・25は電気泳動槽21の中央部に配設されており、隔壁24・25にサンプルユニット26が装着されている。サンプルユニット26は一端を負極側槽22に、他端を正極側槽23に突出した構成となっている。サンプルユニット26の負極側にはゲルが詰められており、側面にサンプル注入用の注入孔が開けられている。注入孔は電気泳動時には栓により閉じられるものである。そして、負極側槽22に負極が挿入され、正極側槽23に正極が挿入され、電気泳動槽21に電圧がかけられるものである。
次に、電気泳動槽の他の構成例について説明する。図5は第二電気泳動槽の構成を示す図である。第二電気泳動において、電気泳動槽21は隔壁24・25により、負極側槽22と正極側槽23とに分けられている。隔壁24・25は電気泳動槽21の中央部に配設されており、隔壁24・25に分離ユニット32が装着されている。分離ユニット32は一端を負極側槽22に、他端を正極側槽23に突出した構成となっている。そして、負極側槽22に負極が挿入され、正極側槽23に正極が挿入され、電気泳動槽21に電圧がかけられるものである。分離ユニット32は、3つの部材を接続して構成するものであり、サンプリングユニット26、接続部33、ろ過部34とにより構成される。サンプリングユニット26と接続部33との間、および接続部33とろ過部34との間にはOリングが装着され接続を確保するとともに、緩衝液の流出を防止しているものである。なお、サンプリングユニット26の負極側にはゲルが詰められており、接続部33の正極側にもゲルが詰められている。そして、ろ過部34には限界ろ過膜が装着されている。
このような電気泳動槽を用いて、核酸の濃縮を行うものである。まず、第一電気泳動において、溶解したサンプルを注入孔より入れ栓をする。そして、電気泳動槽21にサンプルユニット26を上面が少し液から出るように設置する。この後、100Vの直流電圧をかけ、20分間電気泳動を行うものである。これによりサンプル中の余分なイオンを取り除くものである。なお、緩衝液は1xTAE溶液、40mM Tris、40mM 氷酢酸、1mM EDTAにより調製し、pH8.0とした。
そして、第一電気泳動槽21において余分なイオンを取り除いた後に、サンプルユニット26に接続部33およびろ過部34を接続するものである。各接続個所にはOリングを装着し、液漏れを防ぐものである。接続部33内には、100%エタノールと1xTAEを6:4で混合した液を入れ、サンプリングユニット26内にはTE−1(10mM Tris−HCl、0.1mM EDTA、pH8.0)を入れておくものである。
次に、サンプリングユニット26、接続部33、ろ過部34の構成について説明する。まず、サンプリングユニット26の構成について説明する。図6はサンプリングユニットの構成を示す斜視図であり、図7はサンプリングユニットの平面図であり、図8はサンプリングユニットの側面図であり、図9はサンプリングユニットの側面断面図である。サンプリングユニット26は、容器にゲルを保持させて構成するものであり、ミリポア社製のマイクロコン(登録商標)YM−3マイクロコン 遠心式フィルタユニットを加工して利用するものであり、内部の限界ろ過膜をはずし、内部に直径5mmの孔を開けたものである。なお、同様の効果を得られるものであれば、これに限らず用いることが出来るものである。
サンプリングユニット26は筒体41と台座43とにより構成されている。筒体41は台座43に接続しており、サンプルを注入するための注入孔42が設けられている。台座43は段付き円柱状に構成されており、台座43には上下面に連通する孔44が構成されている。筒体41内にはゲル48が配設されている。ゲル48の厚みは数mm程度であり、筒体41の開口部をふさぐ構成となっている。これにより、注入孔42より供給された検体がゲル48の内側に供給されるものである。
接続部33の構成について説明する。図10は接続部の斜視図であり、図11は接続部の側面断面図である。接続部33もサンプリングユニット26と同様に、ミリポア社製の遠心式フィルタユニットを加工して利用するものであり、内部の限界ろ過膜をはずし、内部に直径5mmの孔を開けたものである。接続部33は筒体41と台座43とにより構成されている。筒体41は台座43に接続している。台座43は段付き円柱状に構成されており、台座43には上下面に連通する孔44が構成されている。筒体41内には、厚み数mm程度ゲル48を配設している。ゲル48は、筒体41内において、台座43の上面に位置しており、サンプリングユニット26との間の液体の流動を防止するものである。
ろ過部34について説明する。図12はろ過部の側面断面図である。ろ過部34もミリポア社製の遠心式フィルタユニットを加工して利用するものである。ろ過部34は筒体41と台座43とにより構成されている。筒体41は台座43に接続しており、筒体41の長さはサンプリングユニット26や接続部33よりも短く構成されており、約5mm短く構成されているものである。台座43は段付き円柱状に構成されており、台座43には上下面に連通する孔44が構成されている。そして、筒体41内において、台座43の上面に限界ろ過膜49が配設されている。これにより核酸の流出を防ぎ、核酸の濃縮を行うことが可能となる。
次に、核酸の濃縮操作例について説明する。検体として、大腸菌培養液を用いて、上記の第一電気泳動および第二電気泳動により核酸の濃縮を行い、回収された核酸濃度を吸光度測定により調べた。検体は、大腸菌(Escherichia coli DH5α)培養液100μLを用いた。検体に、1%Triton(登録商標)X−100溶液100μLを加え、96℃で10分間加熱処理した。この後に0.2%DPCを100μL加え、電気泳動用の試料を調製した。電気泳動用のバッファとしては0.5xTAEを使用した。アガロースの溶解には1xTAEを使用した。なお、1xTAE溶液は、40mM Tris、40mM 氷酢酸、1mM EDTAにより調製し、ペーハーはpH8.0であった。
接続部33を筒体41の開口側を上方にして静置し、筒体41の開口側より、1%アガロースゲル(SeaKem Gold agarose:TaKaRaから購入)をゲルの厚さが数mm程度になるように流し込み、ゲルを固めた。サンプリングユニット26も接続部33と同様に、筒体41の開口側を上方にして静置し、筒体41の開口側より、1%アガロースゲル(SeaKem Goldagarose:TaKaRaから購入)をゲルの厚さが数mm程度になるように流し込んだ。そして、ゲルが固まった後に、サンプリングユニット26をひっくり返し、筒体41の開口側に固まったゲルを流し込んだ。電気泳動槽はHU−6(エアブラウン社製)を用い、電源はMPSU−200(エアブラウン社製)を用いた。
サンプリングユニット26の注入孔42より、調製した電気泳動用試料を入れて栓をした。電気泳動槽をパテにより正極側と負極側とに分離し正極側と負極側に0.5xTAEを入れた。そして、パテにサンプリングユニット26の上面が少しバッファ液から出るように設置した。この後に、直流電圧100Vをかけ、20分間第一の電気泳動を行った。
次に、第一の電気泳動を行った後のサンプリングユニット26に接続部33と、ろ過部34とを接続して、分離ユニットを構成し、第二の電気泳動を行うものである。
第二電気泳動の操作例を説明する。100%エタノールと1xTAEとを6対4で混合した溶液を接続部33内に入れた。TE−1(10mM Tris−HCl、0.1mM EDTA、pH8.0)溶液をサンプリングユニット26内に入れた。
次に、サンプリングユニット26に接続部33と、ろ過部34とを接続して、分離ユニットを組み立てた。図13は分離ユニットの組立て構成を示す図である。分離ユニットは、サンプリングユニット26、接続部33、ろ過部34を同一方向に向けて組み立てるものであり、接続部33とろ過部34との間、および接続部33とろ過部34との間にOリング51をそれぞれ装着して、分離ユニットよりの液漏れを防ぐものである。
電気泳動槽をパテにより正極側と負極側とに分離し正極側と負極側に0.5xTAEを入れた。組み立てた分離ユニットのサンプリングユニット26側端を負極側に、ろ過部34を正極側にしてパテに配置した。この後に、直流電圧200Vをかけ、240分間、第二の電気泳動を行った。
次に、ろ過部34において核酸溶液を回収して、吸光度の測定を行い、UVスペクトルより回収された核酸濃度を算出した。図14は回収された液のUVスペクトルである。算出された核酸濃度は、32.3ng(6.7×106コピー/μL)であった。核酸濃度の算出は、260nmにおける吸光度(A260)に、核酸の性状固有の係数をかけ、さらに、セルの光路長(mm)をかけて、10で割ったものである。
また、回収された核酸の純度を、UVスペクトルより算出した。算出された核酸の純度は、1.91であった。純度の算出は、260nmにおける吸光度(A260)を、280nmにおける吸光度(A280)で割ることにより、行うものである。サンプルが純度100%のDNAの場合、この値は約1.8となる。また、純度100%のRNAの場合には2.0となる。A280の値は、被測定物に混入しているタンパク質やフェノールの量を反映し、吸光度比が1.5を大きく下回るような場合は、タンパク質などの低分子物質の混入が考えられるものである。
本発明の効果としては、電気泳動を用いた核酸の濃縮精製方法であって、核酸を含む試料中の夾雑物に対して、荷電量の調節を行った後に、試料を電界中におき、核酸の濃縮精製を行う方法をとるので、電気泳動における核酸と夾雑物の挙動に相違をあたえ、核酸を効率的に分離できる。夾雑物と核酸との挙動における差異を荷電により調節可能であり、挙動の制御を容易に行える。遠心分離装置などを利用する必要がなく、核酸濃縮を行う機構をコンパクトに構成することができる。
また、電気泳動による核酸の濃縮精製方法であって、核酸を含む試料に陽イオン界面活性剤を加えて、試料中夾雑物への荷電量を調節し、該試料を電界中におき、電気泳動することにより、核酸の濃縮精製を行う方法をとるので、陽イオン界面活性剤を用いるので、操作容易であり、作業の安全を容易に確保できる。そして、夾雑物への吸着量を増大させることにより、電気泳動における核酸と夾雑物との挙動差を大きくすることができ、核酸を効率的に分離できる。さらに、夾雑物が核酸とは反対方向に泳動されるので、夾雑物による精製の阻害を防止でき、核酸の精製を容易に行うことができる。
また、電気泳動による核酸の濃縮精製方法であって、核酸を含む試料中に陽イオン界面活性剤および非イオン界面活性剤を加えて、試料中夾雑物への荷電量を調節し、該試料を電界中におき、電気泳動することにより、核酸の濃縮精製を行うので、陽イオン界面活性剤と非イオン界面活性剤との割合により陽イオン界面活性剤の吸着量を調節可能であり、電気泳動における夾雑物の挙動を容易に調節できるものである。核酸に非イオン界面活性剤を吸着させることにより、核酸への陽イオン界面活性剤の吸着を阻害することも可能である。
また、核酸以外への荷電量調節を、陽イオン界面活性剤の吸着により行うとともに、陽イオン界面活性剤の吸着量を非イオン界面活性剤の添加量により調節するので、容易な操作により、夾雑物への陽イオン界面活性剤と非イオン界面活性剤の吸着割合を操作することができる。さらに、夾雑物帯電量の調節を容易な操作により行うことができる。また、核酸に非イオン界面活性剤を吸着させることにより、核酸への陽イオン界面活性剤の吸着を阻害することも可能である。
また、試料に非イオン界面活性剤および陽イオン界面活性剤を添加し、該試料を電気泳動し、陽極側において核酸の濃縮精製を行う装置を構成するので、簡便な構成により、試料中の核酸を精製することができるとともに、核酸の挙動を制御可能であるため、安全性を維持しながら、濃縮精製装置をコンパクトに構成できる。
また、電気泳動を行う核酸の濃縮精製装置であって、側面を絶縁体により構成した容器内を、拡散を抑制する導電性の分離体により仕切り、該容器内に試料投入室および核酸回収室を構成し、該容器の端部がそれぞれバッファ槽を介して、電極に接続している装置を構成するので、簡便な構成により、濃縮精製装置を構成可能であり、製作にかかるコストを低減するとともに、制御が容易かつ安全性の高い装置を構成することが可能である。
次に、本発明の第2の実施の形態について図を用いて説明する。
図15は核酸濃縮ユニットの構成を示す一部破断面斜視図、図16は同じく平面図、図17は同じく側面図である。図15から17を用いて、核酸濃縮ユニットの構成について説明する。
濃縮ユニット1は、t−DNAの検出装置において、目的核酸を分離、濃縮するものである。濃縮ユニット101は注入室102、分離体により構成される分離室108、採取室103により構成されている。そして、ノズル109により目的核酸を含むサンプルを注入室102に導入し、注入室102と採取室103に電圧を印加することにより、核酸を採取室103へと泳動する。分離室108を抜けた目的核酸は採取室103へと溶出し、採取室103において目的核酸を、ノズル110により採取することができるものである。注入室102に注入されるサンプルとして、血液、尿、喀痰等の生体試料や、飲食料品等を用いることが可能であり、この他にもゲノム、プラスミド等を注入することが可能である。
濃縮ユニット101の各部の構成について、詳しく説明する。注入室102は分離室108の一端に接続しており、採取室103は分離室108の他端に接続している。注入室には電極105が配設されており、採取室103には電極106および107が配設されている。そして、注入室102および採取室103には電気泳動用のバッファが満たされている。採取室103の電極106は、注入室102の電極に対向するように配設されており、採取室103の電極107は採取室103の底に設けられている。採取室103にはフィルター104が配設されており、採取室103を分離室108側と電極106側とに分けている。フィルター104は、目的核酸より小さいものを通過させ、目的核酸以上の大きさのものの通過を阻止するものである。フィルター104には、無数のポアが成形されており、目的核酸と相互作用を起こさず、目的核酸の通過を阻止するポア特性を有するフィルターを用いるものである。
フィルター104は、底面と一側面が開口した四角錐形状に構成されている。フィルター104は開口した底部を分離室108に向け、開口した一側面を上方に向けた構成としている。そして、開口した一側面が水平になるように構成されている。これにより、フィルター104の分離室108側の目的核酸をノズル110により採取することができるものである。また、目的核酸が電気泳動により電極106側に泳動されると、目的核酸がフィルター104の電極106側部分において濃縮される。
次に、濃縮ユニットによる目的核酸の濃縮過程について、図18を用いて説明する。図18は目的核酸の濃縮過程を示す図である。まず、注入室102にサンプルが導入されると、図18(a)に示す状態となる。ここにおいて、説明を容易にするため、サンプルには目的核酸112と目的核酸112より大きい(バルキーもしくは分子量の大きい)核酸111と、目的核酸より小さい核酸112とが含まれるとする。
図18(a)に示す状態において、大きい核酸111、目的核酸112、小さい核酸113は混ざった状態となっている。そして、電極105と電極106とに電圧を印加すると、大きい核酸111、目的核酸112、小さい核酸113が分離室108に導入され、図18(b)に示すごとく、分離室108内において移動速度の差が生じる。図18に示す構成では、分離室108を満たす分離体としてはアガロースゲル等を用いるものであり、小さい核酸113が先行して移動する。
先行した小さい核酸113は、分離室108を抜けて採取室103に到達する。そして、小さい核酸113は、フィルター104を通過して、採取室103の電極106側に移動する。この後に、目的核酸112が分離室108を抜けて、採取室103に到達する。そして、図18(c)に示すごとく、フィルター104により、電極106への移動を阻止される。フィルター104は開口した底部を分離室108に向け、開口した一側面を上方に向けた構成としているので、泳動により、目的核酸112がフィルター104の電極106側部分に濃縮される。
この状態において、電極105・106間の印加を停止し、図18(d)に示すごとく、電極107・106間に電圧を印加する。この結果、目的核酸より小さい夾雑物は電極106にトラップされたままとなる。電極間の電圧印加を止めると核酸はフィルターから遊離する。目的核酸112をフィルターから遊離するとともに、電極106側の小さい夾雑物又は小さい核酸113の拡散も抑制し、精製度の高い状態で目的核酸112を濃縮することができるものである。
そして、分離室108を目的核酸112が通過する時間を算出し、注入室2へのサンプル注入から、電極105・106から電極107・106に電圧を印加するタイミングを設定することにより、自動的に目的核酸112の分離、濃縮を行うことができるものである。
分離室108は、電気泳動に用いられる各種ゲルを用いることが出来るものであり、例えば、アガロース等を用いることが出来る。また、カラム充填剤に用いられる分離媒体を利用することも可能である。例えば、Sephadex(登録商標)(ファルマシア社製)等のゲルろ過用の担体等を利用することも可能である。また、電気泳動用ゲルおよりカラム充填剤を分離部8において、組み合わせて、目的核酸が最も先に流出するように調節することも可能である。
次に、濃縮ユニットの別構成について、図19および図20を用いて説明する。図19は濃縮ユニットの開封工程を示す斜視図、図20は濃縮ユニットの側面断面図である。濃縮ユニットは、検査装置等に挿入され、目的核酸の分離および濃縮を行うものである。
濃縮ユニット116の上面には、フィルム117a・117bが貼着されており、側面には電極105・106が露出している。そして、底面には電極7が露出している。電極105は注入室に、電極106・107は採取室につながっている。濃縮ユニット116のユニットケース118内には、分離体で満たされた分離室108の一端に注入室と他端に採取室が設けられ、注入室と採取室には電気泳動用のバッファが満たされている。そして、採取室はフィルターにより分離されている。
この状態において、濃縮ユニット116は密封されているとともに、外部よりの電圧印加が可能となっている。このため、濃縮ユニットの取り扱いが容易となる。そして、濃縮ユニット116にサンプルを注入し、目的核酸を採取する場合には、図19に示すごとく、注入室および採取室のフィルム117a・117bを破り、サンプルを注入し、目的核酸を採取するものである。上部にフィルム117a・117bを貼着するので、フィルム117を破る際に、分離室108に大きな衝撃を与えることなく、安定した濃縮分離を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
以上のように、本発明にかかる核酸の濃縮精製方法および装置は、操作が簡便であるとともに、装置構成が簡易であるので、自動で核酸の濃縮および検査をおこなう検査装置などの用途にも適用できる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気泳動を用いた核酸の濃縮精製方法であって、核酸を含む試料中の夾雑物に対して、荷電量の調節を行った後に、試料を電界中におき、核酸の濃縮精製を行うことを特徴とする核酸の濃縮精製方法。
【請求項2】
電気泳動による核酸の濃縮精製方法であって、核酸を含む試料に陽イオン界面活性剤を加えて、試料中夾雑物への荷電量を調節し、該試料を電界中におき、電気泳動することにより、核酸の濃縮精製を行うことを特徴とする核酸の濃縮精製方法。
【請求項3】
電気泳動による核酸の濃縮精製方法であって、核酸を含む試料中に陽イオン界面活性剤および非イオン界面活性剤を加えて、試料中夾雑物への荷電量を調節し、該試料を電界中におき、電気泳動することにより、核酸の濃縮精製を行うことを特徴とする核酸の濃縮精製方法。
【請求項4】
核酸以外への荷電量調節を、陽イオン界面活性剤の吸着により行うとともに、陽イオン界面活性剤の吸着量を非イオン界面活性剤の添加量により調節することを特徴とする請求項3に記載の核酸の濃縮精製方法。
【請求項5】
試料に非イオン界面活性剤および陽イオン界面活性剤を添加し、該試料を電気泳動し、陽極側において核酸の濃縮精製を行うことを特徴とする核酸の濃縮精製装置。
【請求項6】
電気泳動を行う核酸の濃縮精製装置であって、側面を絶縁体により構成した容器内を、拡散を抑制する導電性の分離体により仕切り、該容器内に試料投入室および核酸回収室を構成し、該容器の端部がそれぞれバッファ槽を介して、電極に接続していることを特徴とする核酸の濃縮精製装置。
【請求項7】
電気泳動を用いた核酸の濃縮精製方法であって、核酸を含む試料中の夾雑物に対して、電気泳動により該核酸を分子量によって移動度の差を与える物質により構成される分離媒体に接触させた後に、目的核酸より小さい核酸が通り抜け、泳動方向に対して断面積が小さくなるフィルタにより回収することを特徴とする核酸の濃縮精製方法。

【国際公開番号】WO2004/048398
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【発行日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−555057(P2004−555057)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015132
【国際出願日】平成15年11月27日(2003.11.27)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】