説明

核酸を単離するための方法及びキット

本発明は、標的核酸を、前記標的核酸を含む試料から単離するための方法に関し、該方法は、前記標的核酸を含有する試料を結合溶液及び核酸結合マトリクスと混合する工程、前記標的核酸の少なくとも一部を前記核酸結合マトリクスに結合させる工程を含み、その際、非標的核酸の混入を減らすために、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む少なくとも1つの化合物によって前記核酸結合マトリクスは同時に処理され、又はあらかじめ処理されており、或いは前記核酸結合マトリクスは疎水性基で修飾される。さらに、それぞれのキット及び試薬は、本発明の教示により提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
RNA及びDNA双方の核酸を単離し、調製する方法は、技術水準で数年来使用され、ますます重要性を高めている。たとえば、抽出/沈殿、クロマトグラフィ、特に吸着クロマトグラフィ、電気泳動及びアフィニティ分離のような幾つかの精製方法が知られている。
【背景技術】
【0002】
既知の方法は普通、機械的な作用及び/又は化学的な作用及び/又は生物学的な作用によって、たとえば、タンパク分解酵素の存在下で界面活性剤によって材料を処理することによって生体材料を溶解することを含む。溶解の後、核酸を回収するために幾つかの異なった方法も知られている。一部は、有機溶媒による、たとえば、フェノール及び/又はクロロホルムによる抽出を含む。核酸を単離するこれらの標準的な方法は、非常に手間がかかり、時間がかかる。出発材料から核酸を精製するのに必要とされる相対的に数の多い工程は、特に、非標的核酸による混入物のリスクも高める。
【0003】
特に有用なのは、たとえば、シリカマトリクスのような結合マトリクスへの核酸の非配列特異的な吸着に基づく方法である。核酸を単離するための改善された方法には、カオトロピック塩、たとえば、塩化グアニジニウムの使用及び/又はアルコール、たとえば、エタノール若しくはイソプロパノールの使用が含まれる(特許文献1及び特許文献2を参照のこと)。
【0004】
特許文献3は、核酸を単離する方法に関する。核酸を含有する原料をカオトロピックイオンの存在下で溶解し、次いで核酸の単離に一般に使用される、たとえば、珪藻土又は他のシリカ含有鉱物の支持体のような核酸を吸着する材料で処理する。
【0005】
特許文献4は、RNA、DNA及びそのほかの細胞内容物を含有する生体原料から生物学的に活性のあるRNAを単離し、精製する方法を開示している。RNAを含有する原料を、たとえば、微細に分散されたガラスのようなシリカ含有材料から成る粒子と接触させる。それからRNAが材料に吸着する結合緩衝液は、カオトロピック塩を含有する酸性化された溶液を含む。そのような条件下で、RNAはシリカ材料に特異的に結合される。
【0006】
特許文献5は、核酸を結合するシリカに基づく材料又はシリカを被覆した材料から成る多孔性マトリクスの使用も組み入れる単離精製技術を開示している。しかしながら、記載された方法は、カオトロピック塩及びアルコールの非存在下で実施される。
【0007】
その後の分析反応を可能にするために、標的核酸の未加工の調製を普通実施する。これらその後の反応は、単離手順と単離された標的核酸の純度及び整合性との双方に特定の要求を課する。特に、たとえば、PCR(ポリメラーゼ鎖反応)、LCR(リガーゼ鎖反応)、NASBA(核酸配列に基づく増幅)又はSSR(自己配列複製)のような酵素的増幅反応が後に続く場合、間違った結果を回避するために、標的核酸の調製には、たとえば、細胞成分及び特に非標的核酸のような混入物が混ざっていてはならない。
【0008】
ゲノムDNA(gDNA)は、RNAの単離における一般的な混入物である。このため、一部の市販のRNA単離キットは、デオキシリボヌクレアーゼI(DNA分解酵素I)による混入gDNAの選択的な酵素的除去のためのプロトコールを提供している。しかしながら、DNA分解酵素Iによる処理は結果的にRNA収量の低下を生じ、商業的に製造されたDNA分解酵素Iに混入しうるリボヌクレアーゼ(RNA分解酵素)によるRNAの分解を生じる。それに加えて、DNA分解酵素Iの処理によって、直接手に触れる時間が加えられ、工程に求められる時間の長さが伸び、下流の工程を妨害する可能性がある金属イオンの添加が必要とされ、さらに、RNA単離の全体的なコストが高くなる。
【0009】
従って、核酸調製の、特にRNA調製の純度を改善することが試みられたが、その際、ゲノムDNAのような混入物の含量をできるだけ低く保つことが目標とされた。
【0010】
特許文献6は、精製RNAの収量を高めるために、及びゲノムDNAの混入を減らすために、特定の条件下でカオトロピック溶解溶液におけるリチウム塩の使用を開示している。しかしながら、得られた結果は満足の行くものではない。
【0011】
特許文献7は、RNA分画からゲノムDNAを除くために予備ろ過技術の使用を教示している。方法は、カオトロピック塩及びRNA吸着用のシリカマトリクスを用いた既知のRNA技術に基づく。しかしながら、RNAを単離用のシリカマトリクスに吸着させる前に、DNAを除くために溶解物を予備ろ過カラムに適用する。ホモジネートが予備ろ過カラムを通過する間に、ゲノムDNAを始めとする細胞性混入物質は予備ろ過カラム内に残存する一方で、溶出物は部分的に精製されたRNAを含有する。次いで、RNAを吸着し、洗浄するための第2のろ過カラムに溶出物を適用することによってこのRNAをさらに精製する。精製に2つのカラムを必要とし、直接手に触れる時間とコストを増やすので、この方法の欠点は明らかである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5,234,809号
【特許文献2】EP1146049
【特許文献3】EP0389063
【特許文献4】米国特許第5,155,018号
【特許文献5】WO2005/045030号
【特許文献6】EP0818461
【特許文献7】EP1526176
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、試料から標的とする核酸を単離し/精製するための改善された方法を提供することである。各核酸の単離/精製キット及び核酸結合マトリクスを提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の側面によれば、本発明は、標的核酸を、少なくとも前記標的核酸を含む試料から単離する方法であって、前記標的核酸を含有する前記試料を核酸結合マトリクスと接触させ、前記標的核酸の少なくとも一部を前記核酸結合マトリクスに結合させる工程を含み、その際、前記核酸結合マトリクスへの混入物質の結合を減らすために前記核酸結合マトリクスの結合特性を改変するために、前記核酸結合マトリクスが処理される又は処理されている方法を提供することによって本目的を解決する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】四塩化チタンで前処理したカラムで単離した全RNAのプロファイルを示す。
【図2】未処理の対照カラムで単離した全RNAのプロファイルを示す。
【図3】単離されたRNAの純度及び整合性を決定するために、溶出物をホルムアルデヒドゲルに適用した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
第1の実施態様によれば、得られた標的核酸における非標的核酸の混入物を減らすために、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む少なくとも1つの化合物によって、前記核酸結合マトリクスが同時に(標的核酸の接触/結合の間に)処理される、又はあらかじめ処理されている。次いで、既知の手順、たとえば、溶出工程を用いることによって標的核酸は、核酸結合マトリクスから得られる。
【0017】
驚くべきことに、本発明者らは、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む少なくとも1つの化合物による核酸結合マトリクスの処理が、単離された標的核酸プローブに見い出される非標的核酸の混入量を相当に減少させることを見い出した。たとえば、本発明に係る技術を使用した場合、RNA調製物におけるゲノムDNAの混入量は、60倍にまで低下させることができる。
【0018】
第2の実施態様によれば、混入物質の、特にRNA調製物の場合のゲノムDNAの結合を減らすために、前記核酸結合マトリクスは、疎水性基を有する/疎水性基が提供される。驚くべきことに、核酸結合マトリクスの表面に疎水性基を提供することは、金属化合物による処理と同様の有利な効果を有することが見出された。前記疎水性基は核酸結合マトリクスに共有結合してもよいし、非共有結合してもよい。
【0019】
本発明に係る方法は、試料からのRNAの単離/精製に特に好適である。RNAは、いかなる種類及びサイズであってもよい。RNAに比べてゲノムDNAはかなり安定なので除去のためには過酷な方法を必要とするので(たとえば、上記参照)、ゲノムDNAの混入が少ないRNAの単離は特に望ましい。しかしながら、本発明に係る前記結合特性を改変する化合物により核酸結合マトリクスを処理する又は誘導体化することによって(上述の選択肢を参照)、技術水準で既知のRNA単離/精製の標準的なプロトコールを使用した場合、ゲノムDNAの混入量はかなり減少する。得られるRNAの純度に対する顕著な効果によって多数の適用のための上述の追加処理(たとえば、DNA分解酵素処理)が陳腐なものになる。数個のカラム/マトリクスを使用することも必要ではなく、1個のカラム/マトリクス手段を使用すればよい。従って、本発明により教示されるような核酸結合マトリクスの特別の処理は、混入、特に非標的核酸による混入が回避されるので、核酸及び特にRNAの単離及び精製のための標準的な方法をかなり改善する。RNA調製物の場合、一部の実施態様(たとえば、例5を参照のこと)によれば、ゲノムDNAの混入の得られる減少後について、少なくとも2倍、しかし、普通、さらに大きく、たとえば、少なくとも4倍、6倍、10倍、12倍、14倍、20倍、又はさらに大きく、たとえば、30、50、さらに60倍を超える。
【0020】
核酸は好ましくは吸着によって結合するので、イオン交換クロマトグラフィ又は親和性に基づいた精製方法とは異なる。得られる標的核酸調製物での混入物を減らす効果を有する本発明に係る結合特性を改変する化合物は、第1の実施態様によれば、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む。前記化合物は、アルカリ金属物質又はアルカリ土類金属物質、たとえば、リチウム、カリウム及びマグネシウムからは選択されない。従って、前記定義は、たとえば、NaCl、MgCl2及びCaCl2のような化合物を含まない。
【0021】
本発明の結合特性を改変する化合物は、固形物の形態で使用されてもよい。しかしながら、それは、解離した形態又は溶媒和した形態、従って溶液中で、使用されてもよく、存在してもよい。化合物が塩自体ではない場合は、特定の実施態様によって好まれるので、化合物は塩の形態で存在してもよい。核酸結合マトリクスを処理するために使用される化合物は上記で定義されたような金属を含み、元素の形態ではなく、化合物の種類(たとえば、塩又は加水分解可能な化合物)及び含まれる金属に応じて異なった酸化状態で存在することが理解されるべきである。しかしながら、実際の化合物(普通、解離した状態)を得ることについて元素金属から適当な酸化状態の金属を生成するために、適当な還元剤を用いることによって結合特性を改変する化合物をその場で(in situ)作製することも本発明の範囲内にあることが理解されるべきである。
【0022】
主要な13族〜16族の金属は、Al、Ga、In、Sn、Tl、Pb、Bi及びPoである。Sn及びAlは、核酸マトリクスの結合特性を改変するための化合物構成成分として使用されるこの族の非常に好適な金属物質である。しかしながら、Snが最も好まれる。主要な13族〜16族の金属は、Ga、In、Sn、Tl及びPoから成る群から選択されてもよい。
【0023】
古典的な半金属は、たとえば、B、Si、Ge、As、Sb及びTeである。非標的核酸の混入を減らすために核酸マトリクスの結合特性を改変することについて、B及びGeは特に好適な半金属物質である。
【0024】
古典的な遷移金属は、たとえば、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hgである。遷移金属は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、Cd、Ta、W、Os、Pt、Au、Hgから成る群から選択されてもよく、又はTi、V、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Pd、Ag、Cd、Ta、W及びOsから成る群から選択されてもよい。Fe、Zr、Ta及びTiが特に好適な遷移金属物質である。
【0025】
核酸結合マトリクスの結合特性を改変するのに好適な主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む化合物は、好ましくは塩、塩錯体又は加水分解可能な化合物、たとえば、アルコキシド若しくはアミド、アルキレン若しくは水素化物の形態で使用される。本発明に従って使用することができる主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属の好適なアニオンは、たとえば、ハロゲン化物、偽ハロゲン化物、硝酸塩、リン酸塩、及び硫酸塩である。塩化物、臭化物及びヨウ化物のようなハロゲン化物が特に好まれる。さらに、たとえば、酢酸塩、クエン酸塩及び酒石酸塩のような有機酸の共役塩基も好適である。
【0026】
本発明の教示に従って使用されてもよい好適な化合物は、とりわけ(inter alia)、塩化ジルコニウム、四塩化チタン、塩化アルミニウム、塩化スズ、塩化第二鉄、塩化第三鉄、アルミニウムイソプロポキシド、チタンイソプロポキシド、ジルコニウムイソプロポキシド、オルソチタン酸クロロトリイソプロピル、ホウ酸トリイソプロピル、ジルコニウムイソプロポキシドイソプロパノール錯体、酸化塩化ジルコニウム、アルミニウムトリイソプロピレート及び五塩化タンタルである。
【0027】
一般的に及び特に非標的核酸の混入を回避するために核酸結合マトリクスの結合特性を改変するために、本発明の実施態様の1つによれば、核酸結合マトリクスを前記結合特性を改変する化合物に接触させることが必要なだけである。別の実施態様によれば、前記核酸結合マトリクスは、少なくとも部分的に疎水性基で修飾されているので、標的核酸と接触する表面に疎水性基を有する。
【0028】
それぞれ処理された/修飾された核酸結合マトリクスは、そのとき、普通、少なくとも異なった2種の核酸を含む試料から標的核酸を単離する準備が整っており、その際、単離された標的検体中で、標的ではない混入物は減少する。
【0029】
上記で示されたように、標的核酸(特にRNA)に向けた結合特性を改善するために核酸結合マトリクスを処理する好適な方法は幾つかある。
【0030】
実施態様の1つによれば、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む前記化合物を含有する溶液中に核酸結合マトリクスを浸漬することによって前記核酸結合マトリクスを、前記結合特性を改変する化合物に接触させる。そのような溶液中で、化合物は普通、解離した形態で存在する。浸漬及び任意での溶媒の除去及び核酸結合マトリクスの乾燥の後、前記それぞれ処理された核酸結合マトリクスは使用の準備が整っている。前記前処理は、たとえば、より少ない非標的核酸(たとえば、ゲノムDNA)が結合するので、標的核酸(好ましくは、RNA)に向けた核酸結合マトリクスの結合選択性を高める。これは、化合物(または化合物構成成分)とマトリクスの間の化学吸着及び/又は物理吸着の過程によると考えられている。この方法は、改善された特性を有する改変した核酸結合マトリクスを、技術水準で使用される標準的な核酸単離のプロトコール/キットに直接含めることができるという利点を有する。各キットの供給者/製造元又は核酸結合マトリクスの製造元がこの前処理を実施することができる。この手順は、顧客は新しいプロトコールに対応せずに、既知の核酸単離の手順を堅持できるという利点を有する。この方法は、非プロトン性の無水溶媒、たとえば、THF中で使用されてもよい金属ハロゲン化物又は金属アルコキシドのような加水分解可能な金属化合物で核酸結合マトリクスが処理されるべきであるならば、特に好適である。この処理方法に好ましい物質は、ジルコニウム、チタン、タンタル、アルミニウム及びホウ素である。ただし、核酸結合マトリクスの結合特性を改変するために、すでに言及されたような金属塩、たとえば、金属ハロゲン化物、金属硝酸塩、金属リン酸塩及び金属硫酸塩がこの処理方法に好適である。これらの化合物は、プロトン性溶媒又は非プロトン性溶媒における前処理に使用されてもよい。好ましい金属は、アルミニウム、ゲルマニウム及びスズを始めとする非鉄金属(非鉄重金属)である。
【0031】
前記浸漬溶液は、少なくとも0.05%、好ましくは少なくとも0.1%の濃度で好ましくは主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む前記化合物を含む。約0.05〜20%、0.1〜15%又は0.1〜10%の範囲にある濃度で前記化合物を含む浸漬溶液によって良好な結果を得ることができる。さらに高い濃度も当然可能であり、本発明の範囲内に含まれるが、良好な結果を達成するためには必要ではない。
【0032】
さらなる実施態様によれば、気相において核酸結合マトリクスを、本発明の前記結合特性を改変する化合物に接触させ、その際、化合物の蒸気が、マトリクスの結合特性を改変する役目を負う。
【0033】
異なった実施態様によれば、標的核酸の単離プロトコールの間に核酸結合マトリクスに適用される液体溶液に前記結合特性を改変する化合物が添加される:
【0034】
本発明に係る前記結合特性を改変する化合物を含む溶液は、核酸単離を実施する前に前記核酸結合マトリクスを直接前処理するために広く設計されてもよい。従って、単離されるべき標的核酸を含む試料を核酸吸着マトリクスに適用する前に、マトリクスを前処理溶液で前処理し、それによって、標的核酸単離物に非標的核酸混入物があまり存在しないように核酸結合マトリクスの結合特性を改変して、それぞれ改善する。化合物は普通、その解離形態で前記溶液に存在する。そのような前処理溶液は、たとえば、核酸単離キットの構成成分であってもよい。前記前処理溶液は、好ましくは少なくとも0.05%、好ましくは少なくとも0.1%の濃度で前記化合物を含む。たとえば、1%、5%、10%以上のようなさらに高い濃度を使用してもよい。しかしながら、良好な結果は、およそ0.05〜15%、0.1〜10%、0.1〜5%又は0.1〜2.5%又は0.1〜1.5%の濃度を有する溶液で得られうる。プロトン性又は非プロトン性の溶媒を使用してもよい。前記前処理溶液と前記核酸結合マトリクスの完全な接触、及び処理後のその容易な取り出しを円滑にするために、前記マトリクスを遠心してもよいし、又は真空を適用してもよい。
【0035】
或いは、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む前記化合物は、標的核酸を単離するのに普通用いられる溶解緩衝液及び/又は結合緩衝液に添加されてもよい。この方法は再び、核酸の単離に使用される標準的なプロトコールが顧客/ユーザーに好都合なものを変えなくてもよいという利点を有する。実施態様の1つによれば、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む前記化合物は、カオトロピック剤を含む溶解緩衝液及び/又は結合緩衝液に含まれる。カオトロピック剤は一般に核酸の二次構造を緩めるために十分に高い濃度で提供されるカオトロピックイオンを含む。カオトロープは水中で水素結合を崩壊させると考えられている。典型的なカオトロピック剤は、グアニジウム塩、尿素、又はヨウ化物、塩素酸塩、過塩素酸塩又は(イソ)チオシアン酸塩を含む。好ましいカオトロピック剤には、チオシアン酸グアニジニウム及び塩酸グアニジニウムが挙げられる。主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む前記化合物がカオトロピック塩を含む溶液に添加される場合、前記核酸結合マトリクスの結合特性を改変する化合物は、好ましくは、カオトロピック塩自体ではない。前記化合物は好ましくは、少なくとも0.05mMの濃度で溶解緩衝液及び/又は結合緩衝液に存在する。非常に好適な濃度は、およそ1mM〜10mM又は20mMの範囲である。
【0036】
これらの方法(直接前処理溶液、改変された緩衝液)は、有益な結果を達成するのに長い浸漬工程などを必要としないので方法が非常に迅速であるという利点を有する。これらの処理方法は、たとえば、塩化スズ又は塩化第二鉄又は塩化第一鉄のような塩として好ましくは使用されるスズ化合物及び第二鉄又は第一鉄化合物にとって特に好ましい。
【0037】
核酸結合マトリクスを処理するために記載される1より多い方法を使用することも本発明の範囲内である。各処理に1を超える化合物(たとえば、2、3又は4の化合物)を使用することもできる。本発明者らは、併用処理は、上記手順が単離された標的核酸の純度をさらに改善し、混入物、特に標的ではない混入物、たとえばRNA調製物の場合のDNAをさらに減らすので、かなりの相乗効果をもたらすことを見い出した。
【0038】
従って、実施態様の1つによれば、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む少なくとも1つの化合物を含む溶液中で核酸結合マトリクスを浸漬する。次いで任意でマトリクスから溶媒を除き、マトリクスを乾燥させる。次いで、そのような前処理された核酸結合マトリクスを標的核酸の単離に又はキットの構成成分として使用する。混入のリスクをさらに減らすために、方法又は個別のキットは、核酸結合マトリクスの結合特性をさらに改変するために主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む化合物を含む溶液を提供する。前記化合物はたとえば、分離緩衝液に含まれてもよく、又は溶解緩衝液及び/又は結合緩衝液に含まれてもよい。
【0039】
本発明の第2の選択肢によれば、非標的核酸の混入、特にゲノムDNAの混入の量を減らして標的核酸調製物、好ましくはRNA調製物を得るために、核酸結合マトリクスは疎水性基を有する。従って、本発明の根底にある課題を解決するために、この代替実施態様によって上述の金属化合物の選択肢と同じ結果が達成される。
【0040】
核酸結合マトリクスに疎水性基を共有結合で又は非共有結合で結合することができる。共有結合は、たとえば、適当なリンカーを介して生じることができる。
【0041】
前記疎水性基は好ましくは、1〜50の間の、好ましくは1〜40、さらに好ましくは1〜20の間の炭素原子の長さを有する置換又は非置換のアルキル置換基である。前記アルキル置換基は、分枝鎖又は直鎖の構造を有してもよい。前記アルキル置換基は置換基、たとえば、アルコール類、エーテル、エステル、アミド類、アミン類、ニトリル類のようなO、S、N、ハロゲン又はリン基を含むもの、又は類似の官能基を持っていてもよい。
【0042】
実施態様の1つによれば、前記核酸結合マトリクスは、少なくとも1つの疎水性基を有するシラン化合物で誘導体化される。前記シラン化合物は好ましくは反応性シラン化合物であり、官能基を有してもよい。シラン化合物は基本的にアルカン類と同じ官能基を組み入れてもよい。少なくとも1つの疎水性基を有する前記シラン化合物は、アルコキシシラン類及びアミノシラン類、ハロシラン類から成る群から選択することができる。前記シラン化合物は、単官能性、二官能性又は三官能性であってもよい。
【0043】
使用されるシラン化合物の種類によって、疎水性基の結合/疎水性コーティングが異なってもよい。単官能性シラン化合物は、たとえば、核酸結合マトリクスに共有結合する単層の形態で結合されてもよい。二官能性又は三官能性のシラン化合物の場合、三次元の層/コーティングが核酸結合マトリクス上に形成されることが想定される。前記層は、基礎になる核酸結合マトリクスと必ずしも共有結合していなくてもよい。しかしながら、共有結合は前記層/コーティングの範囲内に形成される。前記三次元の層は核酸結合マトリクスを部分的に又は完全に覆ってもよい。核酸結合マトリクスが基本的に前記三次元層で基本的に、完全に覆われる場合、大部分、前記新しい層が単離されるべき核酸分子と接触する。従って、核酸を吸着してもよい前記シラン化合物によってシリカの比率が提供される。
【0044】
実施態様の1つによれば、以下の化合物群から選択される化合物と前記マトリクスを接触させることにより疎水性基によって前記珪素含有核酸結合マトリクスが誘導体化される:
- R123Si−OR4
- R12Si(OR3)−OR4
- R1Si(−OR2)(−OR3)−OR4
式中、R1、R2、R3及び/又はR4は、同一の意味を有するか、又は異なった意味を有し、及び独立して水素、アルキル置換基、アルキレン置換基、又は官能基からなる群から選択され、並びにR1、R2、若しくはR3及び/又はR4の少なくとも1つが置換されてもよい又は非置換であってもよいアルキル置換基である。アルコキシ基(O)のアルキル置換基は1〜20の間、好ましくは1〜9の間の炭素原子の長さを有してもよく、及び直鎖又は分枝鎖の構造を有してもよい。好ましくは、前記アルキル置換基は、1〜5、好ましくは1〜3の炭素原子の短いアルキル置換基である。好ましくは、前記アルコキシ基はメトキシ基又はエトキシ基である。シラン化合物は、幾つかの同一のアルコキシ基、たとえば、R1Si(OR23を有してもよい。
【0045】
アルコキシ基でない/アルコキシ基に存在しないアルキル置換基は好ましくは、アルコキシ基に含まれるアルキル基よりも長い長さを有する。前記アルキル置換基は、1〜40の炭素原子の長さを有してもよい。前記アルキル基は直鎖でも分枝鎖でもよい。好ましくは、それは、1〜25、さらに好ましくは1〜20の炭素原子の長さを有し、官能基を有していない。
【0046】
上述したようなアルキル基のような少なくとも1つの疎水性基を有する反応性ハロシラン類は、官能基としてクロロ基又はブロモ基を含んでもよい。
【0047】
少なくとも1つの疎水性基を持つ好適なアミノシラン類は、上述のようなアルキル基を持っていてもよい。それらは、以下の群の化合物から選択されてもよい。
123Si−N(CH32
12SiMe−(N(CH32
1SiMe2−(N(CH32
式中、R1、R2及びR3は上記で定義されたのと同じ意味を有する。
【0048】
実施態様の1つによれば、プロピルトリエトキシシラン(PTS)、オクタデシルトリメトキシシラン(OTM)、ヘキサデシルトリメトキシシラン(HMS)、オクチルトリメトキシシラン(OTS)、及びテトラデシルトリメトキシシラン及びオクタデシルトリメトキシシランから成る群から選択されるシラン化合物に前記マトリクスを接触させる。
【0049】
技術水準で既知の幾つかの方法を介して、前記疎水性基を珪素含有核酸結合マトリクスに適用することができる。非限定例は、たとえば、適当な化合物(上記を参照)中での浸漬、酸性加水分解、ポリマーコーティングを塗布すること、重合へのプラズマコーティンググラフト又はそのほかの好適な方法である。
【0050】
実施態様の1つによれば、非標的核酸の混入物を減らすために核酸結合マトリクスの結合特性を改変するための前記代替的処理方法は組み合わせで使用されてもよい。実施例から分かるように、相加効果を認めることができる。
【0051】
上記で概説したように、本明細書で記載される方法は、試料からRNAを単離するのに特に好適であり、その際、ゲノムDNAの混入量が低下する。
【0052】
本発明に従って使用することができる核酸結合マトリクスは、各核酸の単離/精製を実施するのに好適であるいかなる種類であってもよい。核酸の結合を高めるために、標的核酸と接触する核酸結合マトリクスの表面が珪素を含むことが好ましい。使用される実施態様に応じて、各珪素含有表面を得るための幾つかの実施態様がある。たとえば、前記核酸結合マトリクスは鉱物又はポリマーを含んでもよい。鉱物マトリクスは好ましくは、多孔性若しくは非多孔性の金属酸化物若しくは混合金属酸化物、特にシリカゲル、シリカ粒子、又は大部分、ガラスからなる物質、たとえば、非修飾のガラス粒子、粉末化ガラス、石英、アルミナ、ゼオライト、チタン及び二酸化ジルコニウムから成る。前記多孔性若しくは非多孔性のマトリクスは、緩い充填物の形態で存在してもよく、又は、たとえば、ガラス、石英若しくはセラミックス製のろ過層の形態、及び/又はシリカゲルが配置される膜の形態、及び/又は官能基有り若しくは無しのラテックス粒子と同様に、石英若しくはグラスウールの鉱物支持体及び織物で出来た粒子若しくは繊維の形態、又はポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、特に、超高分子量ポリエチレン及び超高密度ポリエチレンで出来たフリット材の形態で存在してもよい。一部の実施態様では、マトリクスは、ポリアクリレート、ポリスチレン、ラテックス、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、メタクリレート及び/又はメタクリル酸メチルである、又はこれらを含む。RNAの単離に好適な膜もまた、BTS、PVDF、ナイロン、ニトロセルロース、ポリスルホン、MMM、PVP、及びたとえば、EP1526176号に記載されたようなそれらの複合材から成る群から選択されてもよい。さらなる実施態様によれば、適当なコーティング、たとえば、上述のようなシランコーティングによってシリカの表面が提供される。
【0053】
核酸結合マトリクスの一般的な、だから好適な形態には、ビーズ、磁気粒子、カラム、膜及びフィルターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
マトリクス材には、たとえば、シリカに基づくマトリクスのように鉱物が含まれることが好ましい。従って、実施態様の1つによれば、シリカ含有の核酸結合マトリクスが使用される。シリカはマトリクス担体の一部を構成してもよく、又は表面コーティングに含まれればよい。各マトリクスは、核酸を可逆的に結合することが可能である。前記結合は、析出反応と同様に吸着を介して生じると考えられている。DNAはRNAよりも明らかに良好に各シリカ含有の核酸結合マトリクスに結合する。この理論に束縛されることなく、実際、本発明の教示に従って実施される処理によってマトリクスへのDNAの結合が低下することが前提とされる。析出反応を介して生じることが多いRNAの結合は、基本的に前記処理に影響されない。従って、RNA調製物の場合、RNA調製物において存在するゲノムDNAの混入は少ない。
【0055】
核酸を単離する技術水準では、多孔性シリカ膜が頻繁に使用されるので、好ましい。そのような膜はRNAを単離するのに特に好適である。実施態様の1つによれば、前記多孔性マトリクス材は、単一のカラムフィルターチューブに埋め込まれた膜であるか、又は多穴フィルタープレート、好ましくは96穴フィルタープレート又は384穴フィルタープレートで一体化される。溶解物−又は遠心工程の場合、遠心された溶解物−の上清は、多孔性マトリクス材を介して溶解物を移動することによって、たとえば、遠心によって、又は真空などを適用することによって、ろ過される。通過の間、標的核酸は、前記核酸結合マトリクスに結合する。
【0056】
好ましい実施態様によれば、前記核酸結合マトリクスは磁気特性を有し、従って磁気的に誘引可能である。個別の磁気粒子は、磁石を用いて容易に加工することができるので、一般的に使用されている。磁気特性は、磁性金属酸化物、たとえば、酸化鉄を用いて提供することができる。好ましくは、酸化鉄のような前記磁性物質は、珪酸含有材が磁性コアを覆うコアを形成する。前記コアは、第二鉄の特性、第一鉄の特性又は超常磁性特性を有してもよい。これらの粒子が、上述の主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される物質を含む化合物で処理されるのであれば、各磁性シリカ粒子のRNA単離特性を大きく改善することができる。個別に処理された磁性粒子は好ましくは自動化されたRNA単離プロトコールで使用され、その際、精製されたRNAを得るのに必要な工程数は減ると考えられる。上述のように、所望であれば、実施できるとしても、本発明によって、たとえば、DNA分解酵素による処理のような追加の工程が陳腐化される。
【0057】
実施態様の1つによれば、本発明に係る核酸単離の方法は、以下の基本工程を含む。
【0058】
たとえば、溶解緩衝液、機械的溶解、物理的溶解、又は必要に応じて適当な酵素を用いた生物学的溶解を用いて、標的核酸を含む試料が溶解される。好ましくは、溶解緩衝液の存在下で試料が崩壊させられる。その後、標的核酸が核酸結合マトリクスに結合する際、標的核酸(たとえば、RNA)と好ましくはシリカを基にしたマトリクスの複合体が形成される。たとえば、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される物質を含む化合物により、又は疎水性基により前記核酸結合マトリクスを誘導体化することによる核酸結合マトリクスの特別の処理のために、処理されていない核酸結合マトリクスに比べて、標的核酸(たとえば、RNA)がより高い純度で単離されるということは、得られた標的核酸試料は、非標的核酸(特にゲノムDNA)の混入をさほど含まないことを意味する。たとえ、一般的に望ましくても、本発明の背景では、前記処理によって標的核酸の結合が改善されることは必要とされないことに留意のこと。非標的核酸の混入を減らすことに関する前記記載された有益な結果を得るために、たとえば、非標的核酸(たとえば、ゲノムDNA)のような混入物への核酸結合マトリクスの結合が、未処理のマトリクスに比べて低下していれば、すでに十分であろう。このことは、核酸結合マトリクスによって非標的核酸が結合され、標的核酸と一緒に混入物として溶出されるリスクをすでに低下させている。前記メカニズム−非標的核酸へのマトリクスの親和性を低下させること−は、DNAがRNAよりも特にシリカ系マトリクスに対して高い親和性を有することが多いので(上記参照)、ゲノムDNAの混入を回避するためには特に好適である。
【0059】
使用するならば、溶解緩衝液混合物は普通、得られた標的核酸(たとえば、RNA)と核酸結合マトリクスの複合体から除かれる。その後、複合体を好ましくは洗浄し、標的核酸(RNA)が得られる、たとえば、溶出される。
【0060】
上記で概説したように、本発明は、非標的核酸混入物(特にゲノムDNA)の含量を低下させることによって、得られる標的核酸(特にRNA)の純度を改善することによる標準的な核酸、特にRNAの単離プロトコールの顕著な改善を記載する。このことは、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む化合物により核酸結合マトリクスを処理することによる実施態様の1つに従って達成される。或いは、核酸結合マトリクスを疎水性基で誘導体化する。
【0061】
本明細書で記載される方法は、いかなる種類の標的核酸を選択的に単離するのにも使用することができる。核酸結合マトリクスによってどの標的核酸が結合するかは(たとえば、RNA又はDNA)、それに応じて調整されるべきである選択される結合/緩衝液の条件に普通依存する。従って、単離されるべき核酸は、任意のサイズのDNA、RNA又はその修飾形態であってもよい。核酸がDNAである場合、これは、dsであってもssであってもよい。核酸がRNAである場合、これは、いかなるサイズのいかなるRNAであってもよく、たとえば、全RNA、rRNA、mRNA、たとえば、miRNAやsiRNAのような小型RNAであってもよい。本発明の本質は、核酸結合マトリクスの前記処理/改変にあるので、核酸結合マトリクスの使用を採用している核酸単離の定義されたプロトコールを詳細に引用する必要はない。これらのプロトコールは、数えることができ、技術水準で周知であり、広く使用されているからである。核酸及び特にRNAの単離に関するこれら既知の常法はすべて本発明の背景で使用することができる(たとえば、US2002/0081619、EP1146049、WO03/084976、WO03/091452、米国特許第6,027,945号をさらなる参考文献を引用して参照のこと。すべて参照によって本明細書に組み入れる)。続いて、本発明の背景での使用に好適な常法の一部の一般的な側面を、情報目的で考察する。
【0062】
好ましくは、先ず、標的核酸を含有する試料を溶解する。標的核酸を細胞から抽出する場合、最も簡単な場合、細胞に添加することによってカオトロピック物質及び/又はそのほかの塩を含有する水性溶解系を使用することが好ましい。任意で、溶解工程を機械的作用によって実施してもよい。核酸を含有する原料を溶解するための系は、好ましくは、0.1〜約10Mの濃度でのカオトロピック物質の溶液である。前記カオトロピック物質として、特に塩、たとえば、過塩素酸ナトリウム、塩化グアニジニウム、イソチオシアン酸グアニジニウム/チオシアン酸グアニジニウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム及び/又はそれらの組み合わせを用いてもよい。RNAの単離については、溶解緩衝液及び/又は結合緩衝液として、特に0.5〜8Mのイソチオシアン酸グアニジニウム/チオシアン酸グアニジニウム及び/又は塩化グアニジニウム及び0〜50%のエタノール及び/又はイソプロパノールを含有する水溶液を使用してもよいことが、操作の良好な様式として見い出された。
【0063】
核酸は一般に、たとえば、塩化ナトリウム/エタノール混合物中で鉱物支持体に良好に結合し、イオン強度の低い条件下で又は水とともに溶出することができるので、本発明に係る工程で使用される塩溶液は必ずしもカオトロピック塩(いずれにしろ好ましい成分ではあるが)を含有する必要はないが、特定の実施態様に従って(たとえば、参照によって本明細書に組み入れられるUS2002/0081619に記載された方法を参照のこと)、アルコール基を含有する物質との組み合わせで塩溶液を用いてもよいことが想定される。
【0064】
0.1〜10Mの濃度で塩、たとえば、塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化カリウム、酢酸ナトリウム、塩化マグネシウムを含有する、又は0.1〜10Mの相当する濃度で尿素を含有する、及び/又はそのような物質の組み合わせを含有する水溶液も、核酸を含有する原料を溶解する又は結合する水性系として使用されてもよい。
【0065】
アルコール基を含有する物質は好ましくは、1〜5の炭素原子を含む低級脂肪族アルコールであり、たとえば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール及びペンタノールである。それらは好ましくは、容積当たり1〜90%の濃度で用いられる。
【0066】
任意で、各標的核酸(一本鎖の核酸又は二本鎖の核酸)の溶出に先立って洗浄工程を実施してもよい。
【0067】
好ましくはシリカ系マトリクスのような鉱物支持体であるマトリクスに結合した核酸を洗い流す又は溶出するための溶液として、1〜30%のエタノール及び/又はイソプロパノールと共に0.1〜3Mのイソチオシアン酸グアニジニウム/チオシアン酸グアニジニウム及び/又は塩化グアニジニウムを含有する水溶液を使用してもよい。
【0068】
互いに分離されるべき(DNAからRNAを)前記核酸を含有する試料を普通、少なくとも1つの核酸結合マトリクスと接触させるが、その際、RNAを含有する一本鎖核酸分画が核酸結合マトリクスによって大部分吸着されるが、二本鎖核酸(DNA)は吸着されないように、塩、特にカオトロピック物質、及び好ましい実施態様に従って、アルコール基を含有する物質の適当な水性混合物によって処理条件が調整される。本発明に係る前記結合特性を改変する化合物による追加の特別の処理によって、核酸結合マトリクスの特異性は、核酸結合マトリクスによってDNAがほとんど結合されないように改変され、それによって精製されたRNA試料中のDNAの混入量を相当に減らす。次いで、流出する二本鎖核酸を所望によって自体既知の方法でさらに処理することができる。任意で洗浄工程を実施した後、核酸結合マトリクスに吸着された一本鎖の核酸をイオン強度の低い条件下で、又は水によって溶出する。回収された吸着されない二本鎖核酸は、その後、たとえば、塩、特にカオトロピック物質とアルコール基を含有する物質の適当な水性混合物によって分画を調整することによって、二本鎖の核酸が第2の核酸結合マトリクスに吸着可能になり、任意で洗浄工程を実施した後、イオン強度の低い条件下で、又は水で溶出可能になるような条件によってさらに精製することができる。
【0069】
RNAを単離するためのその他の方法は、たとえば、参照によって本明細書に組み入れられるUS2002/0081619号に詳細に記載されている。US2002/0081619号はまた、すべて本発明の背景で使用することができるので、参照によって本明細書に完全に組み入れられるシリカ支持体材料、シリカ粒子、溶解緩衝液、結合緩衝液及び洗浄緩衝液の好適な例も記載している。同様のものが試料からRNA又はDNAのいずれかを単離する記載された詳細なプロトコールに適用され、それらも参照によって本明細書に組み入れられる。また、WO2005/045030は、好適な溶解緩衝液及び洗浄緩衝液を記載している。その開示も参照によって本明細書に組み入れられる。非標的核酸の混入量を減らすことによってさらに相当に精製単離物をもたらす主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む前記結合特性を改変する化合物により核酸結合マトリクスを処理することによる本発明の教示に従って、これら既知のプロトコールが改善される。
【0070】
本発明に係る工程によって単離される標的核酸を含有する試料/原料には、たとえば、標的核酸を含む溶液、生体材料、たとえば、細胞、細胞培養物、あらゆる種類の組織、あらゆる種類の体液、たとえば、血液、血漿、血清、尿、糞便;微生物、たとえば、細菌、ウイルス、たとえば、サイトメガロウイルス、HIV、B型肝炎、C型肝炎及びデルタ型肝炎のウイルス;植物、植物の一部、胚、胚芽、果実、真菌、又は酵素反応、たとえば、試験管内(in vitro)の転写及び/又はcDNA合成及び/又は逆転写それに続くポリメラーゼ鎖反応(PCR)の後の核酸を含有する混合物が挙げられてもよい。
【0071】
また、本発明で提供されるのは、標的核酸を、前記標的核酸を含む試料から単離するための核酸結合マトリクスの使用であり、その際、実施態様の1つによれば、前記核酸結合マトリクスは、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む少なくとも1つの化合物によって処理されるか、又は処理されている。
【0072】
代わりの実施態様によれば、前記核酸結合マトリクスは少なくとも部分的に疎水性基によって誘導体化される。各核酸マトリクスを得るための好適な例及び誘導体化の方法は、上述されている。
【0073】
上記で詳細に概説されたように、前記化合物による核酸結合マトリクスの処理は、混合物、特に非標的核酸の混入を減らすという利点を有する。この目的で、詳細に上述されたようにマトリクスが処理されるか、又は処理されている。化合物、前処理方法、溶液の濃度、緩衝液、核酸結合マトリクスの性質などに関するさらなる詳細は、上記で詳細に概説された。従って、反復を回避するために上記の開示を参照する。
【0074】
核酸結合マトリクスの調製のための主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される物質を含む少なくとも1つの化合物の使用も本発明の範囲内である。上記で詳細に概説したように、前記処理は、たとえば、RNAのような標的核酸が、たとえば、gDNAの混入をあまり含まないはるかに高い純度で得られるという効果を有する。化合物、前処理方法、溶液の濃度、緩衝液、核酸結合マトリクスの性質などに関するさらなる詳細が上記で詳細に概説されたので、反復を回避するために、上記開示を参照する。
【0075】
主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む化合物に核酸結合マトリクスを接触させることによって得ることができる前記核酸結合マトリクスも本発明の範囲内である。
【0076】
前記核酸結合マトリクスは、たとえば、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む前記化合物を含有する液体溶液中で前記核酸結合マトリクスをインキュベートすることによって得ることができる(上記参照)。
【0077】
異なった実施態様によれば、気相にて前記核酸結合マトリクスを、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む前記化合物と反応させる。
【0078】
さらなる実施態様によれば、前記核酸結合マトリクスの結合特性の前記改変は、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される物質を含む前記化合物を液体溶液に添加し、次いでそれを核酸結合マトリクスに適用することによって達成される。前記溶液は、キットに含まれる前処理緩衝液であってもよいし、又はたとえば、使用された溶解緩衝液及び/又は結合緩衝液であってもよい(上記参照)。
【0079】
これらの方法はすべて、たとえば、非標的核酸(特にRNA調製物の場合のgDNA)などの混入が少ない標的核酸、特にRNAの単離を可能にする改変された結合特性を有する核酸結合マトリクスを提供する。これら核酸結合マトリクスの処理の組み合わせは、相乗効果をもたらすので有利である。化合物、前処理方法、溶液の濃度、緩衝液、核酸結合マトリクスの性質などに関するさらなる詳細は、上記で詳細に概説された。従って、反復を回避するために上記開示を参照する。
【0080】
本明細書で記載される組成物のいずれかがキットに含まれてもよい。本発明では、標的核酸を含有する試料から前記標的核酸を単離するためのキットが提供され、それは、以下を含む。
a)(i)主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む少なくとも1つの化合物によって任意で前処理され、その際、混入物を減らすために前記化合物が、解離された形態若しくは溶媒和の形態若しくは塩の形態で使用される、及び/又は
(ii)疎水性基を有する
核酸結合マトリクス;
b)任意で、混入物を減らすために核酸結合マトリクスの結合特性を改変するための溶液であって、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む少なくとも1つの化合物を含む溶液;
c)非標的核酸の混入を減らすために、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む少なくとも1つの化合物を含有する溶解溶液及び/又は結合溶液;
d)任意で、洗浄溶液;
e)任意で、核酸結合マトリクスから標的核酸を溶出するための溶液。
その際、単離される標的核酸の調製物において混入物(たとえば、ゲノムDNAのような非標的核酸など)を減らすために、前記核酸結合マトリクスの核酸結合特性を特異的に改変するために、選択肢、a)、b)又はc)の少なくとも1つが満たされる。これらの処理の組み合わせが、混入物を減らすことについて相乗効果をもたらすので、たとえば、前記選択肢は、選択肢a(i)及び/又は(ii)とb)、又は選択肢a)とc)、又は選択肢b)とc)のように組み合わせることができる。
【0081】
化合物、前処理方法、溶液の濃度、緩衝液、核酸結合マトリクスの性質などに関するさらなる詳細は、上記で詳細に概説された。従って、反復を回避するために上記開示を参照する。
【0082】
非限定例では、細胞を溶解する、細胞溶解物からRNAを抽出する、及び/又は得られたRNAを分析する及び/又は定量するための試薬がそのようなキットに含まれてもよい。従って、キットは、好適な容器手段の中に本明細書で開示される試薬のいずれかを含む。それは、1以上の緩衝液又は溶液、たとえば、適当な溶解緩衝液、結合緩衝液、添加されたアルコールを有する溶液、溶出溶液、洗浄溶液及び所望のRNAを単離するのに好適なその他の成分も含んでもよい。
【0083】
キットの成分は、水性媒体の形態又は凍結乾燥の形態のいずれかで包装されてもよい。キットの容器手段には一般に、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、ビン、シリンジ又はそのほかの容器手段が含まれ、その中に成分が入れられ、好ましくは、好適には等分されてもよい。キットに1より多くの成分がある場合(それらを一緒に包装してもよい)、キットはまた一般に、追加の成分を別々に入れてもよい第2、第3又はそのほかの追加の容器を含有する。本発明のキットはまた、核酸、特にRNAを含有する手段及びそのほかの試薬の容器を市販のために厳重な管理下で含んでもよい。そのような容器には、その中に所望のバイアルが保持されるプラスチック容器が挙げられる。キットの成分が提供される場合、1及び/又はそれを超える液体溶液において、水溶液、特に無菌水溶液が特に好ましい。
【0084】
しかしながら、キットの成分は乾燥粉末として提供されてもよい。試薬及び/又は成分が乾燥粉末として提供される場合、好適な溶媒の添加によって粉末を再構成することができる。溶媒も別の容器手段で提供されることが想定される。容器手段は一般に上述されたものが挙げられる。キットはまた、無菌の薬学上許容可能な緩衝液及び/又はそのほかの希釈液を含有するための第2の容器手段を含んでもよい。
【0085】
そのようなキットは、核酸、特に繊細なRNAを保護する若しくは保持する、又は分解からそれを保護する成分も含んでもよい。そのような成分は、RNA分解酵素を含まず、RNA分解酵素に対して保護する。そのようなキットは一般に好適な手段にて各個々の試薬又は溶液について別個の容器を含む。
【0086】
キットはまた普通、キットに含まれていないその他の試薬の使用と同様にキット成分を用いるための指示書を含む。指示書は、実施可能である変化を含んでもよい。
【0087】
本発明の方法、化合物及びキットは、研究及び開発の種々の分野で利用されてもよく、診断及び臨床の目的で利用されてもよい。
【実施例】
【0088】
以下の例を挙げて本発明の好ましい実施態様を実証する。後に続く例で開示される技術は、本発明者らによって発見された技術を表し、本発明の実践で上手く機能し、またそれ故、それを実践するための好ましい様式を構成すると考えられるということが当業者によって十分に理解されるべきである。しかしながら、当業者は本開示を踏まえて、本発明の精神と範囲から逸脱することなく、開示され、同様の又は類似した結果をさらに得る具体的な実施態様において多数の変更を実施することができることを十分に理解すべきである。
【0089】
(例1)
市販のRNeasyキットにおいて普通使用される種類のシリカ膜のロールで直径7.5mmを有する単一の膜試料を打ち抜いた。従って、前記シリカ膜は普通、RNAを単離するのに用いる核酸結合マトリクスを構成する。四塩化チタン(5%)のテトラヒドロフラン(THF)(メルク、ダルムシュタット)溶液中で4時間、室温にて、前記膜試料をインキュベートした。膜試料をフィルター上に置き、水で5回洗浄し、その後、乾燥チャンバーで40℃にて20時間乾燥させた。フリント(frit)及びテンションリングを含むRNeasyカラム構造にクワイヤのように手動で、各々処理された/被覆された膜試料を置いた。未処理の膜もフリント及びテンションリングを含むRNeasyカラムに入れ、対照として用いた。
【0090】
RNeasyのプロトコール(ヒルデンのキアゲン)を用いて10mgのラットの腎臓から、これらのカラムを用いて全RNAを単離した。収量の光度定量によって、四塩化チタンで前処理したカラムについて、10mgのラット腎臓当り、およそ14μgの核酸の収量、一方、未処理の対照カラムを用いた場合、10mgのラット腎臓当り、およそ9μgの核酸の収量が示された。抽出された全RNAの質及び純度を分析するために、製造元のプロトコールを用いてアギレント2100バイオアナライザー(ベーブリンゲンのアギレント)にて1μLの溶出物を分析した。四塩化チタンで前処理したカラムで単離した全RNAのプロファイルと未処理の対照カラムでのプロファイルを比較した(図1及び図2)。
【0091】
図1は、四塩化チタンで前処理したカラムの溶出物のプロファイルが、前方の溶媒に起因するピークを除いてたった2つのピークを示し、それが、18Sと28SのrRNAであることを示している。ゲノムDNAは2つのrRNAのピークの間での上昇したプロファイルラインとして検出可能であろう。しかしながら、本発明の方法に従って単離されたプローブのプロファイルラインは、2つのrRNAピークの間をベースラインに戻している。このことは、本発明の方法に従って精製された単離RNAプローブではゲノムDNAは検出できないことを示している。対照的に、未処理の対照カラム(図2)は、18Sと28SのrRNAのピークの間にプロファイルラインの明瞭な上昇を示す。このことは、技術水準で既知のプロトコールに従って単離されたRNAプローブは依然として検出可能な微量のゲノムDNAを含有することを示している。
【0092】
このことは、遷移金属化合物、本例では四塩化チタンを含む液体溶液中での、核酸結合マトリクス、本例では一般的なシリカマトリクスは、標準のプロトコールに比べて、RNAの溶出物にてゲノムDNAの混入を相当に減らす効果を有することを立証している。微量なゲノムDNAが残ったとしても少なくともアギレント2001バイオアナライザーでは検出できない。
【0093】
(例2)
シリカ膜の処理は例1に記載されたように実施した。しかしながら、一方で、四塩化チタン溶液の代わりに塩化ジルコニウム(1%)のTHF溶液を用いた。RNeasyカラムにて本発明の教示に従って前処理した膜を組み立てた後、比較のRNAの単離及び精製を実施した。手動、又は機械的に、のいずれかで組み立てた未処理のカラムを対照として用いた。
【0094】
RNA原料として106個のHeLa細胞を用いた。定評のあるRNeasyプロトコールに従って再び単離を実施した。全核酸収量の光度定量によって、機械的に作製した未処理のRNeasyカラムでは、約275μg、手動で組み立てた未処理の参照カラムでは約240μg、及び塩化ジルコニウムで前処理した核酸結合マトリクスを含むカラムでは、約190μgが示された。
【0095】
単離されたRNAの純度及び整合性を決定するために、4重測定を実施するために、8μLの溶出物をホルムアルデヒドゲル(1%)に適用した(図3)。図3は、3種のカラムすべてにおいて分解されていないRNAが得られたことを明瞭に示す。28SrRNAと同様に18Sも無傷のままなので、分解は検出できなかった。しかしながら、機械的に作製した未処理の参照カラム又は手動で組み立てた未処理の参照カラムにより単離された試料は、rRNAのバンドの上に、微量のゲノムDNAを伴う試料の混入を示すバンドを示した。各バンドは、塩化ジルコニウムによる本発明の教示に従って前処理されたカラムから得られたRNAプローブでは検出できなかった。従って、ゲノムDNAの減少は、未処理の参照マトリクスに比べて、塩化ジルコニウムで前処理された核酸結合マトリクスを用いた場合、より効率的である。手動で作製された未処理のカラムに比べてやや少ない手動で組み立てた前処理されたカラムの核酸の収量は、少なくとも部分的には、溶出物での先に出たゲノムDNAのわずかな量に起因する。さらに、RNAの収率は単離ごとに変わることもある。
【0096】
従って、塩化ジルコニウム(1%)溶液による核酸結合マトリクスの処理もまた、同一のRNA単離プロトコールを用いた場合、ゲノムDNAの混入を相当に減らす効果を有する。
【0097】
(例3)
106個のJurkat細胞(ヒトT細胞白血病に由来する細胞株)から全RNAを単離するために例2で記載された3種のカラムを用いた。再び標準のRNeasyプロトコール(キアゲン、ヒルデン)に従って単離を実施した。全体的な核酸濃度(従って、RNA及びDNA)を決定するために定量RT−PCR(逆転写PCR)に、単離後得られた全核酸の5ngを用いた。さらに、プローブ中のゲノムDNAの濃度を決定できるように定量PCRを実施した。定量PCRの間、逆転写工程(PCRによって増幅されうるcDNAをもたらす)がないので、RNAは増幅されないし、検出されない。Taqmanβ−アクチン対照試薬(アプライドバイオシステム、フォスターシティ)をプライマー及びプローブとして用いた。その後、各反応についてCt値を決定した。Ct値(閾値サイクル)は反応の増幅サイクルを記載するが、蛍光はバックグランドの蛍光(交差点としても知られる)を超えて有意に上昇する。プローブにおけるゲノムDNAの混入の尺度としてCt値を用いてもよい。鋳型としてRNA調製物を用いて定量的PCRを実施する場合、PCRで使用されるDNAポリメラーゼがDNA依存性でありRNAを増幅しないので、ゲノムDNA混入物のみが増幅される。Ct値に達するのに必要とされるサイクルがより多くなれば、RNA調製物に存在するゲノムDNA混入物はより少なくなる。逆に、Ct値に達するのに必要とされるサイクルが少なければ、試料中に存在するゲノムDNA混入物は多くなる。定量的PCRを実施した場合のCt値の測定は、使用したカラム種について以下の結果をもたらした。
【0098】
【表1】

【0099】
Ct値を分析することによってすでに、Ct値に達する前にさらに多くのサイクルを必要とするので、本発明の教示に従って処理されたカラムで精製された試料が少ないゲノムDNA混入物を含有することは容易に明らかになる。
【0100】
プローブのΔ(デルタ)Ct値を決定した場合、ゲノムDNA混入物に関する一層さらに有意な情報が得られてもよい。デルタCt値の決定は、溶出物における全核酸濃度に比べたRNA濃度の標準化である。定量的PCRから得られたCt値としてのこれを、定量的RT−PCR(RNA及びDNAを定量する)から得られたCt値から差し引く。デルタCt値が高ければ高いほど、プローブ中に存在するDNA混入物は少ない。結果は以下のとおりである。
【0101】
【表2】

【0102】
本発明の教示に従って処理されたカラムを用いた場合に得られた相当に高いデルタCt値は、前記プローブが、標準のカラムによって得た試料よりも非常に少ないDNA混入物を含有することを明らかにしている。
【0103】
従って、非常に感度の高い定量的RT−PCR及び定量的PCRの使用は、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む化合物、本例では、塩化物の形態での遷移金属ジルコニウムによって核酸結合マトリクスを処理した場合、ゲノムDNAの効率的な減少を実証する。参照カラムに比べて、4を超えるデルタCt値で改善は達成される。これは、プローブにおいて16倍を超えるゲノムDNA混入物の減少に相当する。従って、塩化ジルコニウムによって核酸結合マトリクスを処理することによって、同一の標準RNA単離プロトコールを適用する場合の16倍を超えて溶出物中でゲノムDNAが減少した。
【0104】
(例4)
今回は、核酸結合マトリクスの結合特性を改変するために、THF中で0.1〜2.5%の範囲で化合物FeCl2、FeCl3及びSnCl2を使用したという差異を伴って、シリカ含有の核酸結合マトリクスの処理を例1に記載されたように実施した。今回は、RNAの生体原料として106個のHeLa細胞を用いたという差異を伴って、RNAの単離手順は、例3に記載されたように実施した。ゲノムDNA混入物の測定には、Taqmanβ−アクチン対照試薬(アプライドバイオシステム、フォスターシティ)を用いて、定量的RT−PCRと同様に定量的PCRを実施した。溶出物からの5ngの全核酸を用いた場合、定量的PCRにて以下のCt値が決定された。
【0105】
【表3】

【0106】
決定されたCt値は、異なった試験化合物溶液による核酸結合マトリクスの処理が、さらに低い化合物濃度を用いた場合、すべての場合でゲノムDNA混入物の相当な減少をもたらしたことを明らかにしている。この結論は、上記で説明されたように、未処理の対照の核酸結合マトリクスに比べて上昇したCt値から引き出すことができ、ゲノムDNAの混入が少ないことを示している。本実験で観察された差異は、5Ct値までであり、約32倍のゲノムDNAの減少に相当する。
【0107】
(例5)
例4に記載された塩化第2スズで処理されたシリカ核酸結合マトリクスを用いてRNeasyプロトコールに従って1mgと5mgのラット腎臓からRNAを単離した。同一の未処理の参照の核酸結合マトリクスを対照として用いた。アプライドバイオシステムズ(フォスターシティ)のラットc−junキットを用いて定量的PCRを実施した。溶出物からの5ngの全核酸を用いて以下のCt値を決定した。
【0108】
【表4】

【0109】
塩化第2スズによる核酸結合マトリクスの処理は、すべての場合で、ゲノムDNA混入物の明瞭な低下をもたらした。この実験では、6Ct値までの差異が認められ、約64倍のゲノムDNAの減少に相当する。
【0110】
(例6)
未処理の機械的に作製されたRNeasyカラムを用いて、1mgのラット腎臓から全RNAを単離した。核酸を含有する溶解物をカラムに適用する前に、0.1%、0.5%又は1%の塩化第2スズのTHF溶液を用いることによって一部のカラムを活性化した。カラムの未処理の核酸結合マトリクスに500μLの各塩化第2スズ溶液を適用した。カラムを10,600xgで1分間遠心し、室温で5分間乾燥させた。その後、標準的なRNeasyプロトコールを実施した。例5に係るプライマー及びプローブを用いて定量的RNA及び定量的RT−PCRを実施し、デルタCt値を決定した。
【0111】
【表5】

【0112】
これらの実験も、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属の群から選択される金属物質を含む化合物、たとえば、塩化第2スズによる核酸結合マトリクスの前処理が、核酸結合マトリクスの好ましい活性化をもたらし、普通のRNA単離プロトコールに従った場合、ゲノムDNAを有する混入物の相当な減少をもたらすことを明らかにしている。得られた結果は、例1のさらに長いシリカマトリクスの前処理方法に匹敵する。このことは、試料から精製標的核酸を単離するために核酸結合マトリクスを迅速に改変するための本発明の好適性を実証している。
【0113】
(例7)
通常の未処理の機械的に作製したRNeasyカラムを用いて5mgのラット腎臓から全RNAを単離した。RNA単離のためにRNeasyプロトコールを使用した。しかしながら、調製物の一部では、RNeasyプロトコールの正規の溶解及び結合緩衝液であるRNeasyキットの緩衝液RLTに0.1mM、1mM、5mM及び10mMの塩化第2スズを加えた。デルタCt値の決定は、例6で示されたように実施した。
【0114】
【表6】

【0115】
例7は、溶解及び/又は結合緩衝液に塩化第2スズのような、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む化合物を添加することも、核酸を含有する原料からRNAを単離する場合、ゲノムDNA混入の相当な低下をもたらすことを明瞭に明らかにしている。結果は再び、例1に記載されたようなより長い前処理に匹敵する。
【0116】
(例8)
塩化第2スズで前処理した核酸結合マトリクスを全RNAの単離に使用した。改変核酸結合マトリクスの製造は例4に記載されたように実施した。塩化第2スズ溶液(1%)で被覆された/前処理されたシリカマトリクスを使用した。相乗効果を分析するために、RNA単離プロトコールを実施する前に前処理されたシリカマトリクスをさらに塩化第2スズ溶液で直接処理した。従って0.1mM、1mM、5mM及び10mMの塩化第2スズをさらに、溶解及び結合緩衝液に加えた。調製物当たり107個のJurkat細胞からRNAを単離した。デルタCt値の決定は、例3に記載されたように実施した。
【0117】
【表7】

【0118】
この実験は、前処理した核酸結合マトリクスと、たとえば、塩化第2スズ溶液のような、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む化合物を含む溶解及び/又は結合緩衝液の併用使用が、異なった種類の核酸を含む複雑な生体原料からRNAを単離する場合、ゲノムDNAの減少の一層さらなる改善をもたらすことを明瞭に明らかにしている。
【0119】
(例9)
シリカ膜の代替として核酸結合マトリクスとして2つの異なった種類の市販の磁性シリカビーズ(MagAttractB及びMagAttractC−キアゲン)を用いた。SnCl2(1%)を含むTHF溶液中で、ビーズを互いに別々に一晩インキュベートした。調製物につき106個のJurkat細胞を溶解し、翌日緩衝液RLT(キアゲン)を用いてホモジネートした。その後、50μLの磁性懸濁液と共にエタノールを溶解した細胞に添加した。結合調製物を室温にて5分間インキュベートした。磁性分離の後、上清を捨て、その後、磁性粒子を緩衝液AW1で1回、緩衝液RPEで2回洗浄した。200μLのRNAを含まない水で溶出を実施した。デルタCt値は、例3に記載されたように決定した。
【0120】
【表8】

【0121】
この実験は、たとえば、磁性ビーズのような球形分子上で使用されてもよい本発明に係る方法の有効性を明瞭に明らかにしている。また、核酸結合マトリクスを処理するための上述のそのほかのプロトコールもこの適用で使用されてもよい。
【0122】
(例10)
技術水準で既知の教示に比べて、本発明の教示によって得られる効果が相当に改善されることを実証するために、参考例を実施した。たとえば、EP0818461は、カオトロピック塩へのリチウム塩の添加がRNA吸着のための核酸結合担体の選択性を改変することを想定し、それによってDNAの混入物を減らすことを開示している。しかしながら、以下に実証されるように、本発明に従って使用される化合物で見られるような改善が得られるように標準の核酸結合マトリクスの結合特性を改変するためには、塩化リチウムのようなアルカリ金属は好適ではない。以下で実証されるように、塩化リチウムは、精製されたRNA試料中のgDNAの混入量を変化させなかった。
【0123】
機械的に作製したRNeasyカラムを用いて試験試料当たり106個のJurkat細胞から標準のRNeasyプロトコールに従って全RNAを抽出した。0.1mM、1mM、5mM、10mM、50mM、100mM、250mM、500mM及び1MのLiClを溶解及び結合緩衝液RLTに加えた。対照には塩化リチウムを加えなかった(0mMのLiCl)。ゲノムDNA混入の定量は、例3に記載されたように実施した。結果は以下のとおりであった。
【0124】
【表9】

【0125】
Ct値から分かるように、塩化リチウムの添加は、単離したRNA調製物におけるゲノムDNAの減少を生じなかった。従って、塩化リチウムの添加は、非標的核酸の混入の程度にいかなる効果も有さなかった。定量的PCRは、調べた塩化リチウム濃度のすべてで、統計的に変化しているにすぎないほぼ同じCt値を生じた。このことは、アルカリ金属、塩化リチウムの添加は、本発明に係る教示によって見られるようなRNA調製物におけるゲノムDNAの減少に対する有益な効果を有さないことを明らかにしている。
【0126】
(例11)
本発明に係る教示に関連する特別な効果を実証するためにさらなる参考例を実施した。
【0127】
例10に記載されたように実験を実施した。しかしながら、参考試料を生成するために、LiClの代わりにMgCl2及びCaCl2を緩衝液RLTに加えた。以下の濃度、0mM、0.1mM、1mM、5mM、10mM、50mM、100mM、250mM、500mM及び1Mを用いた。ゲノムDNAを伴うRNA溶出物の混入物の定量は、例3に記載されたように実施した。
【0128】
【表10】

【0129】
結果は、少量のMgCl2及びCaCl2の結合緩衝液RLTへの添加は、DNA混入物の低下に積極的な効果を有さないことを明らかにしている。これらのアルカリ土類金属は、たとえば、塩化スズ(上記参照)のような本発明の教示に従って使用される化合物と同様には、非標的混入物を減らさない。さらに、結合緩衝液RLTで高い濃度のMgCl2及びCaCl2を使用した場合、ゲノムDNAの混入量が増えているので、混入物に対する負の効果が認められる。ゲノムDNAの混入は、因数8まで高かった(3CT値と同等)。
【0130】
(例12)
核酸結合マトリクスとして3種の異なった市販の磁性シリカビーズ(MagAttractB、MagAttractG及びMagAttractEの溶液−キアゲン)を使用した。保存溶液から磁石を介して前記ビーズを2mL分離した。種々の濃度のSnCl2溶液中で湿った磁性粒子を4時間インキュベートした。0.1%、0.5%、1%及び2%のSnCl2溶液を用いた。前記インキュベートの後、磁石を介してビーズを溶液から分離し、50℃の乾燥機で磁性粒子を乾燥させた。前記粒子を乾燥させた後、それらを水中、又はRNeasy結合緩衝液RLTのいずれかに入れた。
【0131】
未処理の対照粒子と同様に、それぞれ処理されたMagAttractB、MagAttractG及びMagAttractEの粒子を用いて、1x106個のJurkat細胞からRNAを単離した。細胞をRNeasy結合緩衝液RLTに入れ、QIAShredderカラムを介して溶解のために遠心し、1容量の70%エタノールと混合した。各磁性粒子を添加した後、核酸の結合を支えるために粒子/試料溶液を平面振盪器で5分間混合した。粒子を磁気的に分離した後、上清を回収して捨て、磁性粒子を750μLの洗浄緩衝液RW1と混合し、再び5分間振盪した。磁気的分離の後、上清を捨て、500μLの緩衝液RPEで2回粒子を洗浄した。100μLの水で溶出を行い、5分間振盪することを繰り返した。分光光度計で収量を測定し、調べた粒子すべてについて比較した(データは示さず)。得られた溶出物5ngを定量的PCRにて使用した(例3を参照)。結果を以下の表に要約する。
【0132】
【表11】

【0133】
得られた結果から分かるように、調べた前処理した磁性粒子はすべて、それぞれ未処理の対照粒子に対して高いCt値を達成した。従って、本発明の教示に係る金属化合物による粒子の記載された処理は、ゲノムDNAの減少を生じ、従って単離されたRNAの純度の上昇を生じる。既に実施された例によって、5Ct値の差異までを達成することができたが、それは、未処理のMagAttract粒子に比べて32倍のゲノムDNA混入物の減少に等しい。結果はまた、処理/コーティングの濃度がゲノムDNAの減少に影響することも明らかにしている。粒子が水中に含有されるか、又はRLT中に含有されるかはゲノムDNAの減少に影響を有さなかった。
【0134】
(例13)
市販のRNeasyキットにおいて普通使用される種類のシリカ膜のロール(role)にて直径7.5mmを有する単一の膜試料を打ち抜いた。前記シリカ膜は普通、RNAを単離する/精製するのに用いられる核酸結合マトリクスを構成する。
【0135】
少なくとも部分的に膜を疎水性基で誘導体化するために各膜を特に被覆した/処理した。各誘導体化を達成するために、異なった時間、膜をプロピルトリエトキシシラン(PTS)で処理/被覆した。57g(91.2g)の濃アンモニアと10g(16g)の蒸留水を反応バルブに供給し、無水エタノールで500mL(800mL)で満たし、KPG撹拌器でゆっくり撹拌した。その後、打ち抜いた膜を反応溶液に加え、5分後、200μLのPTSを加えた。前記反応溶液中で異なった時間、膜をインキュベートした。その後、VE水で3回、膜を洗浄し、乾燥機で50℃にて4〜8時間乾燥させた。各処理した膜をその後スピンカラムに組立てた。これらのカラムを用いて、RNeasyプロトコール(キアゲン、ヒルデン)を用いて、1x106個のJurkat細胞から全RNAを単離した。対照として、機械的に組み立てたRNeasyカラム、及びさらに手動で組み立てた未処理のRNeasyカラムを用いて同様の調製を実施した。Taqmanβ−アクチン対照試薬(アプライドバイオシステム、フォスターシティ)を用いてDNA混入物を測定するために、精製後得られた5ngの全核酸を定量的PCRで使用した。各調製物を用いることによって、溶出された全体的な核酸分画に混入物としてどれくらいのゲノムDNAが依然として存在するかを決定することが可能である。Ct値が高ければ高いほど、溶出物中の混入物として存在するゲノムDNAは少なくなる。
【0136】
結果は以下のとおりに要約することができる。
【0137】
【表12】

【0138】
結果は、PTSと膜の非常に短いインキュベートでもゲノムDNAの減少に軽い改善をもたらすことを示している。疎水性基を提供する化合物と膜が長く接触すればするほど、得られるCt値は良くなる。結果から分かるように、17時間のインキュベートの後得られたCt値は相当に高い。一定量の核酸を用いたCt値の増加は、各処理されたマトリクスが8倍のゲノムDNAの減少を示すことを示している。
【0139】
(例14)
例13に記載されたのと同様にシリカ膜の処理を実施した。しかしながら、今回は、異なった時間、シリカ膜をオクタデシルトリメトキシシラン(OTM)で被覆した。少なくとも部分的に疎水性基によって誘導体化されたシリカマトリクスを得るために、例13で記載された反応溶液800mLを、シリカマトリクスの5分間のインキュベートに用いた。8、80、又は800μLのOTMを加えた後、シリカ膜をさらに4時間又は24時間(c(OTM):0.024ミリモル/L〜2.4ミリモル/L)インキュベートした。106個のJurkat細胞から再び全RNAを単離した。対照を含む精製、及びゲノムDNAの混入の測定は、例13で記載されたように実施した。しかしながら、追加でさらなる制御を実施した。その点で、溶媒のゲノムDNA減少への影響を排除するために、OTMなしの溶媒溶液でシリカ膜を24時間インキュベートした。
【0140】
結果を以下のように要約することができる。
【0141】
【表13】

【0142】
この実験は、シリカ膜をOTMで処理した場合、インキュベート時間もゲノムDNAの減少の効率性に影響することを明らかにしている。しかしながら、影響はさほど重要ではない。しかしながら、シリカマトリクスを誘導体化するのに使用したOTMの濃度に関して高い影響が認められた。この点で、OTMの使用濃度が高ければ、さらに良好な効率性が認められた。その際、8μL(0.24ミリモル/L)から80μL(2.4ミリモル/L)の上昇は、約4Ct値の大きな差異を生じたが、濃度のさらなる上昇は、1Ct値の上昇を生じたにすぎなかった。しかしながら、800μLのOTMでシリカマトリクスを処理した場合、全核酸の収量はかなり低く、また、80μLのOTMでシリカマトリクスを処理した場合、全収量は、対照に匹敵する範囲内である(データは示さず)。従って、全RNAの効率的な/高い収量を保つことによって、ゲノムDNAの高度に効率的な減少を得るために、インキュベート時間及び濃度を調整することによって最適化されたコーティング/誘導体化を得ることができる。
【0143】
(例15)
例13に記載されたように処理を実施した。しかしながら、今回は、シリカマトリクスをヘキサデシルトリメトキシシラン(HMS)によって異なった濃度を用いて処理した。例14で記載されたように、例13で記載された反応媒体800mL中で8μL、80μL及び800μLのHMSを24時間使用した(c(HMS):0.0256ミリモル/L〜2.56ミリモル/L)。RNeasyプロトコールに従って、この例では106個のJurkat細胞から全RNAを単離した。対照を含む精製は例14で記載されたように実施した。結果は以下のように要約することができる。
【0144】
【表14】

【0145】
この実験は、HMSのような化合物も全RNAに対するゲノムDNAの特別な減少に関してかなりの改善をもたらすことを明らかにしている。6までのCt値の差異が得られ、それは、ゲノムDNAの64倍の相対的な減少に相当する。この例はまた、シリカ膜に疎水性基を提供する化合物の濃度がゲノムDNAの減少の効率性に影響することを明らかにしている。
【0146】
(例16)
例15に記載されたようにシリカ膜の処理を実施した。しかしながら、今回は、シリカマトリクスを化合物オクチルトリメトキシシラン(OTS)によって異なった濃度を用いて処理した。例14で記載されたように、例13で記載された反応媒体800mL中で8μL、80μL及び800μLのOTSを24時間、膜とともに使用した(c(OTS):0.0321ミリモル/L〜3.21ミリモル/L)。例13で記載されたように、106個のJurkat細胞から全RNAを単離し、定量的PCRを用いて、得られた核酸の5ngを定量した。結果は以下のように要約することができる。
【0147】
【表15】

【0148】
先行する例とは対照的に、8μLのOTSによる処理はゲノムDNAの減少に関して考慮すべき効果を生じない。しかしながら、80μL又は800μLのOTSへの濃度の上昇は、前に記載された化合物で得られたのと同様の結果を示した。達成されたCt値は、未処理の対照と比べて4〜5高く、それは、16〜30倍のゲノムDNAの減少に等しい。
【0149】
例13〜16に記載された化合物を用いて、例13に記載されたように、シリカ膜の処理を実施した。今回は、細胞培養物からではなく、実験当たり1mg又は5mgのラット肝臓から全RNAを単離した。単離にはRNeasyプロトコールを用いた。その後、アプライドバイオシステムズ(フォスターシティ)のラットc−junキットを用いて、定量的PCRを実施した。溶出物から得られた全核酸の5ngを用いた場合、以下のCt値が得られた。
【0150】
【表16】

【0151】
提供された例から分かるように、少なくとも部分的に疎水性基で誘導体化されたシリカマトリクスを用いると、たとえば、記載されたシラン化合物は、ゲノムDNAの減少に関して積極的な影響を有する。再び、使用された化合物の濃度と同様にインキュベート時間の影響が、減少の効率性に対して認められうる。
【0152】
(例18)
例14に記載されたように80μLのOTMで処理したシリカ膜を用いて培養細胞から全RNAを単離した。調製は、例13に記載されたように実施した。しかしながら、今回は、SnCl2を異なった濃度で結合緩衝液RLTに加えた。SnCl2を結合緩衝液RLTと組み合わせることによって、疎水性基で誘導体化された核酸結合マトリクスの使用と併せて、相乗効果が認められるかどうか、すなわち、ゲノムDNAの減少が改善されるかどうかを評価した。以下の結果が得られた。
【0153】
【表17】

【0154】
この実験は、双方の処理(OTM及びSnCl2)が、ゲノムDNA混入物のかなりの減少をもたらすことを明らかにしている。しかしながら、相乗効果も認められる。5mMのSnCl2で認められた相乗効果は、ゲノムDNAの2倍の減少を生じる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的核酸、すなわち、RNAを、前記標的核酸を含む試料から単離する方法であって、
(a)前記試料を核酸結合マトリクスに接触させる工程、
(b)前記標的核酸の少なくとも一部を前記核酸結合マトリクスに結合させる工程、
その際、(i)前記核酸結合マトリクスは、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む少なくとも1つの化合物によって同時に処理されるか、又はあらかじめ処理されており、その際、得られる標的核酸の調製物における非標的核酸の混入を減らすために前記化合物は解離した形態又は溶媒和の形態又は塩の形態で使用されてもよく;及び/又は
(ii)得られる標的核酸の調製物における非標的核酸の混入を減らすために、前記核酸結合マトリクスは疎水性基を持っており;
(c)前記核酸結合マトリクスから前記標的核酸を得る工程を含む方法。
【請求項2】
カオトロピック剤を含む結合溶液が使用される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記標的核酸が吸着によって結合される請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記化合物が、Sn、Fe、Zr、Ta、Ti、Al及びGeから成る群から選択される金属物質を含む請求項1〜3の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項5】
主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む前記化合物が、塩の形態、塩錯体の形態又は加水分解可能な化合物の形態で使用される請求項1〜4の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項6】
前記化合物が塩の形態で使用され、その際、ハロゲン化物、偽ハロゲン化物、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩から成る群から選択されるアニオンが使用され、および酢酸塩、クエン酸塩及び酒石酸塩のような有機酸の共役塩基が好適である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記化合物が、塩化ジルコニウム、四塩化チタン、塩化アルミニウム、塩化スズ、塩化第二鉄、塩化第三鉄、アルミニウムイソプロポキシド、チタンイソプロポキシド、ジルコニウムイソプロポキシド、オルソチタン酸クロロトリイソプロピル、ホウ酸トリイソプロピル、ジルコニウムイソプロポキシドイソプロパノール錯体、酸化塩化ジルコニウム、アルミニウムトリイソプロピレート及び五塩化タンタルから成る群から選択される請求項5及び6に記載の方法。
【請求項8】
以下の方法の少なくとも1つに従って、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む前記化合物に前記核酸結合マトリクスを接触させる請求項1〜7の少なくとも1項に記載の方法:
(a)主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む少なくとも1つの化合物を含有する溶液に前記核酸結合マトリクスを浸漬し、および前記浸漬された核酸結合マトリクスを乾燥させること;及び/又は
(b)気相にて、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む少なくとも1つの化合物と前記核酸結合マトリクスを反応させること;及び/又は
(c)少なくとも2つの異なった種類の核酸を含有する試料からの核酸単離を実施する前に、核酸結合マトリクスに適用する液体溶液に、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む少なくとも1つの化合物を添加すること;及び/又は
(d)核酸単離に使用される溶解及び/又は結合緩衝液に主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む少なくとも1つの化合物を添加すること。
【請求項9】
前記核酸結合マトリクスの処理が以下のようにさらに特定される請求項8に記載の方法:
(a)前記浸漬溶液は、少なくとも0.05%、好ましくは少なくとも0.1%の濃度で、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む前記化合物を含み、および、前記物質は好ましくは、ジルコニウム、チタン、タンタル、アルミニウム、ホウ素、ゲルマニウム、鉄及びスズから成る群から選択される、及び/又は
(c)前記前処理溶液は、少なくとも0.05%、好ましくは少なくとも0.1%の濃度で、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む前記化合物を含み、および、前記化合物は好ましくは、スズ化合物又は第二鉄化合物又は第一鉄化合物である、及び/又は
(d)前記溶解及び/又は結合緩衝液は、少なくとも0.05mMの濃度で前記化合物を含み、および前記化合物は好ましくはスズ化合物又は第二鉄化合物又は第一鉄化合物である。
【請求項10】
標的核酸と接触させる核酸結合マトリクスの表面が珪素を含む請求項1〜9の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項11】
前記核酸結合マトリクスがシリカに基づく物質を含み、又はシリカで被覆した物質を含み、または珪素含有化合物の使用によって核酸結合マトリクスに疎水性基が提供される請求項1〜10の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項12】
前記疎水性基が1〜50の炭素原子の間の長さを有する置換又は非置換のアルキル置換基であり、前記アルキル置換基は分枝鎖構造又は直鎖構造を有してもよい請求項1〜11の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項13】
前記核酸結合マトリクスを、少なくとも1つの疎水性基を含むシラン化合物と接触させる請求項1〜12の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項14】
前記珪素含有核酸結合マトリクスには、以下の化合物群から選択される化合物と前記マトリクスを接触させることによって疎水性基が提供される請求項13に記載の方法;
(a)少なくとも1つの疎水性基を含む反応性シラン化合物
(b)少なくとも1つの疎水性基を含む単官能性、二官能性又は三官能性のシラン化合物
(c)少なくとも1つの疎水性基を含むアルコキシシラン化合物、ハロシラン化合物又はアミノシラン化合物
(d) R1R2R3Si-OR4
R1R2Si (OR3) -OR4
R1Si (-OR2)(-OR3)-OR4
又は
R1R2R3Si-N(CH3)2
R1R2Si Me-(N(CH3)2
R1Si Me2-(N(CH3)2
式中、R1、R2、R3及び/又はR4は、同一の意味を有するか、又は異なった意味を有し、ならびに独立して水素、アルキル置換基、アルキレン置換基、又は官能基から成る群から選択され、およびR1、R2、又はR3及び/又はR4の少なくとも1つが置換されてもよい又は非置換であってもよい1〜50の炭素原子の長さを有するアルキル置換基である。
【請求項15】
疎水性基で前記核酸結合マトリクスを改変するのに使用される前記化合物は、プロピルトリエトキシシラン(PTS)、オクタデシルトリメトキシシラン(OTM)、ヘキサデシルトリメトキシシラン(HMS)、オクチルトリメトキシシラン(OTS)、テトラデシルトリメトキシシラン及びオクタデシルトリメトキシシランから成る群から選択される請求項14に記載の方法。
【請求項16】
−前記標的核酸を含む前記試料が溶解され、
−標的核酸と前記核酸結合マトリクスとの複合体が形成され、
−溶解緩衝液が使用されるのであれば、任意で得られた複合体から溶解緩衝液混合物が除かれ
−複合体が任意で洗浄され、
−複合体から標的核酸が得られ、好ましくは溶出される請求項1〜15の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項17】
前記核酸結合マトリクスが磁性であり、および結合した標的核酸を有する前記マトリクスが磁界を利用して液相から単離される請求項1〜16の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項18】
疎水性基を有する核酸結合マトリクスが使用され、請求項1の(c)(i)及びそれに従属している請求項2〜17に記載されているようにさらに処理が実施される、又は処理が実施されている請求項1〜17の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項19】
標的核酸、すなわち、RNAを、前記標的核酸を含む試料から単離するための核酸結合マトリクスの使用であって、少なくとも以下の選択肢の1つによって、得られた標的核酸調製物において非標的核酸の混入を減らすために前記核酸結合マトリクスの結合特性が改変される又は改変されている使用:
(i)主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む少なくとも1つの化合物によって前記核酸結合マトリクスが同時に処理されるか、又はあらかじめ処理されており、その際、前記化合物が、解離した形態又は溶媒和の形態又は塩の形態で使用されてもよい;及び/又は
(ii)前記核酸結合マトリクスは疎水性基を有する。
【請求項20】
前記核酸結合マトリクスが処理される又は処理されている、又は上記請求項1〜18の少なくとも1項で定義されるような特徴を示す請求項19に記載の使用。
【請求項21】
改良された結合特性を有する核酸結合マトリクスの調製及び/又は製造のための、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む化合物の使用。
【請求項22】
前記化合物、前記核酸結合マトリクスが、請求項1〜18の少なくとも1項で定義されるように処理される、又は処理されている請求項21に記載の使用。
【請求項23】
核酸結合マトリクスであって、
(a)以下の方法の少なくとも1つに従って、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む少なくとも1つの化合物と前記核酸結合マトリクスを接触させることによって得ることができ、その際、前記化合物は、解離した形態又は溶媒和の形態又は塩の形態で使用されてもよく:
−主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む少なくとも1つの化合物を含有する溶液に前記核酸結合マトリクスをインキュベートし、および前記核酸結合マトリクスを乾燥させること;及び/又は
−気相にて、主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む少なくとも1つの化合物と前記核酸結合マトリクスを反応させること;及び/又は
−標的核酸単離プロトコールを実施する前に、前記核酸結合マトリクスに適用する液体溶液に主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む少なくとも1つの化合物を添加すること、及び/又は
(b)請求項13〜15の少なくとも1項で定義された化合物と前記核酸結合マトリクスを接触させることによって得ることができる核酸結合マトリクス。
【請求項24】
前記核酸結合マトリクス、前記化合物又は処理条件が請求項1〜18の少なくとも1項で定義されたものである請求項23に記載の核酸結合マトリクス。
【請求項25】
前記核酸結合マトリクスが、スズ化合物及び/又は第二鉄化合物又は第一鉄化合物、好ましくはそれぞれのハロゲン化物、最も好ましくはそれぞれの塩化物で処理される請求項23又は24に記載の核酸結合マトリクス。
【請求項26】
前記核酸結合マトリクスが、磁性金属酸化物を含む請求項23〜25の少なくとも1項に記載の核酸結合マトリクス。
【請求項27】
前記シリカ含有磁性粒子が、塩化ジルコニウム、四塩化チタン、塩化アルミニウム、塩化スズ、塩化第二鉄、塩化第三鉄、アルミニウムイソプロポキシド、チタンイソプロポキシド、ジルコニウムイソプロポキシド、オルソチタン酸クロロトリイソプロピル、ホウ酸トリイソプロピル、ジルコニウムイソプロポキシドイソプロパノール錯体、酸化塩化ジルコニウム、アルミニウムトリイソプロピレート及び五塩化タンタルから成る群から選択される化合物で処理されている請求項26に記載の核酸結合マトリクス。
【請求項28】
標的核酸、すなわち、RNAを、前記標的核酸を含む試料から単離するためのキットであって、
a)(i)主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む少なくとも1つの化合物によって任意で前処理され、その際、混入物を減らすために前記化合物は解離した形態又は溶媒和の形態又は塩の形態で使用されてもよく;及び/又は
(ii)標的核酸と接触するその表面に疎水性基を有する核酸結合マトリクス;
b)任意で、混入物を減らすために核酸結合マトリクスの結合特性を改変するための溶液、ただし、前記溶液は主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む少なくとも1つの化合物を含む;
c)非標的核酸の混入を減らすために主要な13族〜16族の金属、半金属及び遷移金属から成る群から選択される金属物質を含む少なくとも1つの化合物を含有する溶解及び/又は結合溶液;
d)任意で、洗浄溶液;
e)任意で、核酸結合マトリクスから標的核酸を溶出するための溶液;
を含み、少なくとも選択肢a)、b)又はc)の1つが満たされるキット。
【請求項29】
選択肢a)とb)又は選択肢a)とc)又は選択肢b)とc)又は選択肢a)とb)とc)が実現される請求項28に記載のキット。
【請求項30】
前記化合物、前記核酸結合マトリクス及び/又は前記溶液が請求項1〜18の少なくとも1項で特定されたように定義される請求項28又は29に記載のキット。
【請求項31】
標的核酸と接触する核酸結合マトリクスの表面が珪素を含む請求項28〜30の少なくとも1項に記載のキット。
【請求項32】
前記核酸結合マトリクスが磁性粒子を含む請求項28〜31の少なくとも1項に記載のキット。
【請求項33】
前記シリカ含有磁性粒子が、塩化ジルコニウム、四塩化チタン、塩化アルミニウム、塩化スズ、塩化第二鉄、塩化第三鉄、アルミニウムイソプロポキシド、チタンイソプロポキシド、ジルコニウムイソプロポキシド、オルソチタン酸クロロトリイソプロピル、ホウ酸トリイソプロピル、ジルコニウムイソプロポキシドイソプロパノール錯体、酸化塩化ジルコニウム、アルミニウムトリイソプロピレート及び五塩化タンタルから成る群から選択される化合物で処理される又は処理されている請求項32に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−505430(P2010−505430A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531772(P2009−531772)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【国際出願番号】PCT/EP2007/008826
【国際公開番号】WO2008/043551
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(599072611)キアゲン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (83)
【Fターム(参考)】