説明

核酸増幅反応用マイクロチップ及びその製造方法

【課題】簡便な方法で高精度な分析が可能な核酸増幅反応用マイクロチップの提供。
【解決手段】外部から液体が導入される導入口1と、核酸増幅反応の反応場となる複数のウェル41,42,43と、導入口1から導入される液体を各ウェル41,42,43内に供給する流路2,3と、が配設され、各ウェル41,42,43内に、反応に必要な複数の試薬が所定の順序で積層されて固着化された核酸増幅反応用マイクロチップAを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸増幅反応用マイクロチップ及びその製造方法に関する。より詳しくは、核酸増幅反応の反応場となるウェル内に、反応に必要な複数の試薬が所定の順序で積層されて固着化された核酸増幅反応用マイクロチップ等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業における微細加工技術を応用し、シリコンやガラス製の基板上に化学的及び生物学的分析を行うためのウェルや流路を設けたマイクロチップが開発されてきている(例えば、特許文献1参照)。これらのマイクロチップは、例えば、液体クロマトグラフィーの電気化学検出器や医療現場における小型の電気化学センサなどに利用され始めている。
【0003】
このようなマイクロチップを用いた分析システムは、μ−TAS(micro-Total-Analysis System)やラボ・オン・チップ、バイオチップ等と称され、化学的及び生物学的分析の高速化や高効率化、集積化あるいは分析装置の小型化を可能にする技術として注目されている。
【0004】
μ−TASは、少量の試料で分析が可能なことや、マイクロチップのディスポーザブルユーズ(使い捨て)が可能なことから、特に貴重な微量試料や多数の検体を扱う生物学的分析への応用が期待されている。
【0005】
μ−TASの応用例として、マイクロチップに配設された複数の領域内に物質を導入し、該物質あるいはその反応生成物を光学的に検出する光学検出装置がある。このような光学検出装置としては、マイクロチップのウェル内で核酸の増幅反応を進行させ、増幅核酸鎖を光学的に検出あるいは定量する核酸増幅装置(例えば、リアルタイムPCR装置)などがある。
【0006】
従来、マイクロチップ型の核酸増幅装置では、核酸増幅反応に必要な試薬及び鋳型DNA(標的核酸鎖)をあらかじめ全て混合し、この混合液をマイクロチップに配設された複数のウェル内に導入して反応を行なう方法が取られている。そのため、必要な試薬及び標的核酸鎖をあらかじめ全て混合するために手間を要していた。また、ウェル内に混合液が導入されるまでに一定の時間が必要であるため、その間に混合液内で反応が進行してしまうという問題があった。ウェル内への混合液の導入が完了する前に反応が進行してしまうと、反応時間を厳密に制御することができず、増幅核酸鎖の定量精度が低下する要因となる。
【0007】
一般に、PCR法では、反応時間を厳密に制御するため、ホットスタート法と称される方法が採用されている。ホットスタート法は、オリゴヌクレオチドプライマーのミスアニーリングに起因する非特異的増幅反応を回避し、目的の増幅産物を得るための方法である。ホットスタート法は、PCR法の場合、酵素(一般に耐熱菌由来DNAポリメラーゼ)以外の試薬および標的核酸鎖の混合液を、一旦、オリゴヌクレオチドプライマーの変性温度まで加温し、変性温度下で初めて酵素を添加後、通常の温度サイクルを実施することで達成される。
【0008】
本発明に関連して、特許文献2には、流路内に、核酸増幅反応に必要なオリゴヌクレオチドプライマー、基質、酵素及びその他の試薬が固体状態で入れられたマイクロ流体チップが開示されている。このマイクロ流体チップは、反応に必要な残りの試薬を液体状態で流路に送液することで、液体状態の試薬と固体状態の試薬が接触し、固体状態の試薬が溶解することにより反応が開始されるものである。なお、特許文献2は、オリゴヌクレオチドプライマー、基質、酵素及びその他の試薬を、流路内に積層して固着させておくことについての記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−219199号公報
【特許文献2】特開2007−43998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、従来のマイクロチップ型の核酸増幅装置では、試薬類等をあらかじめ混合してウェル内に導入していたため、手間がかかり、また反応時間を厳密に制御できずに分析精度が低下するという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、簡便な方法で高精度な分析が可能な核酸増幅反応用マイクロチップを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題解決のため、本発明は、外部から液体が導入される導入口と、核酸増幅反応の反応場となる複数のウェルと、導入口から導入される液体を各ウェル内に供給する流路と、が配設され、各ウェル内に、反応に必要な複数の試薬が所定の順序で積層されて固着化された核酸増幅反応用マイクロチップを提供する。
この核酸増幅反応用マイクロチップは、オリゴヌクレオチドプライマーの固着層が、酵素の固着層よりも上層に積層されたもの、あるいは逆に、酵素の固着層が、オリゴヌクレオチドプライマーの固着層よりも上層に積層されたものとできる。酵素の固着層とオリゴヌクレオチドプライマーの固着層との間には、反応緩衝液溶質の固着層を積層してもよい。
【0013】
併せて、本発明は、核酸増幅反応の反応場となる複数のウェルが形成された基板層のウェル内に、反応に必要な複数の試薬を所定の順序で積層して固着化する第一の工程を含む核酸増幅反応用マイクロチップの製造方法を提供する。
この核酸増幅反応用マイクロチップの製造方法は、さらに、前記試薬が積層されて固着化された基板層の表面を活性化し、貼り合わせる第二の工程を含み、前記第一の工程において、前記ウェル内に、酵素溶液を滴下して乾燥した後、オリゴヌクレオチドプライマー溶液を滴下して乾燥する手順を含むものとできる。
この核酸増幅反応用マイクロチップの製造方法は、前記第一の工程において、前記ウェル内に、酵素溶液を滴下して乾燥した後、オリゴヌクレオチドプライマー溶液を滴下する前に、反応緩衝液溶質溶液を滴下して乾燥する手順を含むことが好適となる。
また、この核酸増幅反応用マイクロチップの製造方法は、前記第二の工程において、前記基板層の表面を、酸素プラズマ処理又は真空紫外光処理により活性化する手順を含むことができる。
【0014】
本発明において、「核酸増幅反応」には、温度サイクルを実施する従来のPCR(polymerase chain reaction)法や、温度サイクルを伴わない各種等温増幅法が含まれる。等温増幅法としては、例えば、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法やSMAP(SMartAmplification Process)法、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification)法、ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)法(登録商標)、TRC(transcription-reverse transcription concerted)法、SDA(strand displacement amplification)法、TMA(transcription-mediated amplification)法、RCA(rolling circle amplification)法等が挙げられる。この他、「核酸増幅反応」には、核酸の増幅を目的とする変温あるいは等温による核酸増幅反応が広く包含されるものとする。また、これらの核酸増幅反応には、リアルタイムPCR(RT−PCR)法やRT−RAMP法などの増幅核酸鎖の定量を伴う反応も包含される。
【0015】
また、「試薬」には、上記の核酸増幅反応において、増幅核酸鎖を得るために必要な試薬であって、具体的には、標的核酸鎖に相補的な塩基配列とされたオリゴヌクレオチドプライマー、核酸モノマー(dNTP)、酵素、反応緩衝液(バッファー)溶質などが含まれる。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、簡便な方法で高精度な分析が可能な核酸増幅反応用マイクロチップが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る核酸増幅反応用マイクロチップの上面模式図である。
【図2】マイクロチップの断面模式図(図1、P−P断面)である。
【図3】マイクロチップのウェル内に積層された試薬の固着層を説明するための模式図である。
【図4】ウェル内に積層された試薬の固着層の変形例を説明するための模試図である。
【図5】本発明に係る核酸増幅反応用マイクロチップの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図6】ウェル内への試薬の固着層の積層方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。なお、説明は以下の順序により行う。

1.核酸増幅反応用マイクロチップ
2.核酸増幅反応用マイクロチップの製造方法
(2−1)基板層aの成形
(2−2)ウェルへの酵素・プライマーの固着化
(2−3)基板層a,aの表面活性化と貼り合せ

【0019】
1.核酸増幅反応用マイクロチップ
本発明に係る核酸増幅反応用マイクロチップ(以下、単に「マイクロチップ」とも称する)の上面模式図を図1に、断面模式図を図2に示す。図2は、図1中P−P断面に対応する。
【0020】
符号Aで示すマイクロチップには、外部からサンプル溶液が導入される導入口1と、核酸増幅反応の反応場となる複数のウェルと、一端において導入口1に連通する主流路2と、この主流路2から分岐する分岐流路3が配設されている。主流路2の他端は、サンプル溶液を外部に排出する排出口5として構成されており、分岐流路3は、主流路2の導入口1への連通部と排出口5への連通部との間において主流路2から分岐し、各ウェルに接続されている。サンプル液には、核酸増幅反応においてテンプレート(標的核酸鎖)となるDNAやゲノムRNA、mRNAなどが含まれ得る。
【0021】
ここでは、マイクロチップAに縦横3例で合計9つのウェルを均等間隔で配設する場合を例として、これら9つのウェルを3区分し、図1上段の3つのウェルを符号41で、中段の3つのウェルを符号42で、下段の3つのウェルを符号43で示す。導入口1から導入されたサンプル溶液は、主流路2を排出口5に向かって送液され、送液方向上流に配設された分岐流路3及びウェルから順に内部に供給される。なお、マイクロチップAにおいて、排出口5は必須の構成とはならず、マイクロチップAは、導入口1から導入されたサンプル溶液が外部に排出されない構成でもよい。
【0022】
マイクロチップAは、導入口1、主流路2、分岐流路3、ウェル41,42,43及び排出口5を形成した基板層aに基板層aを貼り合わせて構成されている。基板層a,aの材質は、ガラスや各種プラスチック(ポリプロピレン、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリジメチルシロキサン)とすることができる。ウェル41,42,43内で増幅された核酸鎖の検出あるいは定量を光学的に行う場合には、基板層a,aの材質は、光透過性を有し、自家蛍光が少なく、波長分散が小さいために光学誤差の少ない材料を選択することが好ましい。
【0023】
ウェル41,42,43内には、核酸増幅反応に必要な複数の試薬が所定の順序で積層されて固着化されている。図3に、各ウェル内に積層された試薬の固着層の例を示す。図3(A)はウェル41、(B)はウェル42、(C)はウェル43内に積層された試薬の固着層を示している。
【0024】
ウェル内に固着化する試薬は、核酸増幅反応において、増幅核酸鎖を得るために必要な試薬であって、具体的には、標的核酸鎖に相補的な塩基配列とされたオリゴヌクレオチドプライマー、核酸モノマー(dNTP)、酵素、反応緩衝液(バッファー)溶質などとされる。固着化する試薬は、これらのうち1あるいは2以上とできる。
また、これらの試薬を積層する順序は、例えば、「オリゴヌクレオチドプライマー、dNTP、酵素、バッファー溶質」の順や「バッファー溶質、酵素、dNTP、オリゴヌクレオチドプライマー」の順など、任意の順序とできる。
さらに、これらの試薬の一部、例えばプライマーとバッファー溶質や、プライマーとdNTPは混合されて固着化されてもよい。
ウェル内には、増幅核酸鎖を得るために必須ではないが、蛍光試薬(蛍光色素)やリン光試薬(リン光色素)などの増幅核酸鎖の検出及び定量のために必要な試薬を、必要に応じて固着化させておくこともできる。
【0025】
ここでは、ウェル41,42,43内にまず酵素Eの固着層を形成し、その上層にオリゴヌクレオチドプライマー(以下、単に「プライマー」とも称する」)P,P,Pの固着層を積層する場合を図示している。後述するように、酵素固着層とプライマー固着層との間には、反応緩衝液溶質の固着層が積層されていてもよい(詳しくは後述)。
【0026】
プライマーP,P,Pは、同一の塩基配列を有するプライマーであってもよいが、マイクロチップAにおいて複数の標的核酸鎖の増幅を行う場合には、異なる塩基配列を有するプライマーとされる。例えば、マイクロチップAを用いて遺伝子型の判定を行う場合には、各遺伝子型の塩基配列に応じて異なる塩基配列を有するプライマーを、それぞれウェル41,42,43内に固着化させる。また、マイクロチップAを用いて感染病原体の判定を行う場合には、各ウイルスや微生物の遺伝子配列に応じて異なる塩基配列を有するプライマーを、同様に固着化させる。なお、各ウェルに固着される酵素Eは共通とする必要がある。
【0027】
このように、反応に必要な試薬を予めウェル内に固着化しておくことによって、マイクロチップAでは、残りの試薬と標的核酸鎖を含むサンプル溶液を導入口1から各ウェル内に供給するのみで反応を開始させることができる。このため、事前に混合する試薬の数を少なくし、混合する手間を省いて、簡便な分析が可能となる。
また、反応に必要な全ての試薬を予めウェル内に固着化しておけば、標的核酸鎖のみを含むサンプル溶液を供給するだけで反応を開始できるため、一層分析が簡便となる。
【0028】
加えて、マイクロチップAでは、残りの試薬と標的核酸鎖を含むサンプル溶液が各ウェル内に供給され、ウェル内に固着化された試薬が溶解されて初めて反応が開始されるため、反応時間を厳密に制御することができ、高い分析精度が得られる。
【0029】
さらに、プライマーやdNTP、バッファー溶質に比べて温度変化や湿度変化、光等に不安定であり、活性の低下や失活が起こり易い酵素の固着層の上層に、反応系に過剰量加えられ、温度変化等にも比較的安定であるプライマーの固着層を積層することで、プライマー固着層によって酵素固着層を保護できる。このため、マイクロチップAの製造時及び保管時における温度変化等による酵素の活性低下や失活を防止することが可能となる。
【0030】
以上では、マイクロチップに縦横3例で合計9つのウェルを均等間隔で配設する場合を例に説明したが、ウェルの数や配設位置は任意とでき、ウェルの形状も図に示す円柱形状に限定されない。また、導入口1に導入されたサンプル溶液を各ウェル内に供給するための流路の構成も、図に示した主流路2及び分岐流路3の態様に限定されない。さらに、ここでは、導入口1等を基板層aに形成する場合を説明したが、導入口1等は基板層a及び基板層aの両方に一部ずつ形成されていてもよい。マイクロチップを構成する基板層も2以上であってよい。
【0031】
また、以上では、酵素の固着層の上層にプライマーの固着層を積層する場合を例に説明したが、試薬を積層する順序は任意であり、例えば、プライマーの固着層の上層に酵素の固着層を積層してもよい(図4参照)。この場合も、酵素固着層とプライマー固着層との間に、反応緩衝液溶質の固着層が積層されていてもよい(詳しくは後述)。
【0032】
プライマー固着層を上層に積層した場合には、導入口1から各ウェル内に供給されたサンプル溶液がプライマー固着層を溶解した後、酵素が溶解し反応が開始されるまでの間に、先に溶解したプライマーがウェル間で相互拡散(クロスコンタミネーション)するおそれがある。これに対して、酵素固着層を上層に積層した場合には、酵素固着層の溶解後、プライマー固着層が溶け始めるとすぐに反応が開始されるため、プライマーのクロスコンタミネーションを防止できる。
【0033】
2.核酸増幅反応用マイクロチップの製造方法
続いて、図5に示すフローチャートを参照して、本発明に係るマイクロチップの製造方法を説明する。以下、上述のマイクロチップAを例に説明する。
【0034】
(2−1)基板層aの成形
図5中、符号Sは、基板層aの成形工程である。本工程では、基板層aに、導入口1、主流路2、分岐流路3、ウェル41,42,43及び排出口5を成形する。基板層aへの導入口1等の成形は、例えば、ガラス製基板層のウェットエッチングやドライエッチングによって、あるいはプラスチック製基板層のナノインプリントや射出成型、切削加工によって行うことができる。
【0035】
(2−2)ウェルへの酵素・プライマーの固着化
符号Sは、ウェルへの酵素の固着化工程である。また、符号Sは、ウェルへのプライマーの固着化工程である。工程S,Sは、ウェル内に、反応に必要な複数の試薬を所定の順序で積層して固着化する工程(第一の工程)に相応する。
【0036】
ウェル内に固着化する試薬は、核酸増幅反応において、増幅核酸鎖を得るために必要な試薬であって、具体的には、標的核酸鎖に相補的な塩基配列とされたオリゴヌクレオチドプライマー、核酸モノマー(dNTP)、酵素、反応緩衝液(バッファー)溶質などとされる。固着化する試薬は、これらのうち1あるいは2以上とできる。
また、これらの試薬を積層する順序は、例えば、「プライマー、dNTP、酵素、バッファー溶質」の順や「バッファー溶質、酵素、dNTP、プライマー」の順など、任意の順序とできる。
さらに、これらの試薬の一部、例えばプライマーとバッファー溶質や、プライマーとdNTPは混合されて固着化されてもよい。
【0037】
ここでは、ウェル41,42,43内に、工程Sにおいて酵素Eの溶液を滴下して乾燥させ、工程SにおいてそれぞれプライマーP,P,Pの溶液を滴下して乾燥させることにより、酵素の固着層の上層にプライマーの固着層を積層している。プライマーP,P,Pは、同一の塩基配列を有するプライマーであってもよいが、マイクロチップAにおいて複数の標的核酸鎖の増幅を行う場合には、異なる塩基配列を有するプライマーとされる。なお、各ウェルに固着される酵素Eは共通とする必要がある。
【0038】
試薬の固着化は、滴下した溶液を、風乾、真空乾燥あるいは凍結乾燥等によって、好ましくは緩徐に乾燥させることによって行う。酵素については、活性の低下や失活を防止するため、臨界点乾燥を行うことも有効である。
【0039】
このとき、工程Sにおいて固着化した酵素が、工程Sにおいて滴下されるプライマー溶液によって再溶解される可能性がある。再溶解により、酵素とプライマーが混合されると、プライマーダイマーの増幅が生じる場合があるため好ましくない。
酵素とプライマーの混合を防止するため、工程Sでは、マイクロチップを予め低温(−10℃程度)に保持し、滴下したプライマー溶液が凍結され、凍結乾燥されるようにすることが好ましい。
あるいは、マイクロチップを予め低温に保持し、水を滴下して凍結させた後にプライマー溶液を滴下して凍結乾燥を行い、さらに常温乾燥により氷の中間層を蒸発させる方法を用いてもよい。
さらに、より好適には、マイクロチップを予め低温に保持し、バッファー溶質溶液を滴下して凍結乾燥を行い、酵素Eの固着層の上層にバッファー溶質Bの固着層を積層し、その後、プライマー溶液を滴下して風乾、真空乾燥あるいは凍結乾燥を行ってもよい。これにより、各ウェル内には、酵素固着層とプライマー固着層との間に、バッファー溶質固着層が積層された3層構造が形成される(図6参照)。
なお、これらの方法は、プライマー固着層の上層に酵素固着層を積層する場合にも、プライマーの混合を防止するために採用され得る。
【0040】
(2−3)基板層a,a表面の活性化と貼り合せ
符号Sは、基板層a,a表面の活性化工程である。また、符号Sは、基板層a,aの貼り合せ工程である。工程S,Sは、試薬が積層されて固着化された基板層の表面を活性化し、貼り合わせる工程(第二の工程)に相応する。
【0041】
基板層aと基板層aの貼り合わせは、例えば、接着剤や粘着シートを用いた接合や熱融着、陽極接合、超音波接合により行うことができる。
また、基板層の表面を、酸素プラズマ処理又は真空紫外光処理により活性化して貼り合せる方法も採用できる。ポリジメチルシロキサン等のプラスチックとガラスは親和性が高く、表面を活性化処理して接触させると、ダングリングボンドが反応して強固な共有結合であるSi−O−Siシラノール結合を形成し、十分な強度の接合が得られる。酸素プラズマ処理又は真空紫外光処理は、基板層の材料に応じて適宜な条件を設定して行う。
【0042】
このように、ウェルが形成された基板層のウェル内に、酵素とプライマーを別々に固着化して積層させることによって、これらを混合して固着させるのと異なり、溶液の滴下及び乾燥の最中にプライマーダイマーの増幅反応が進行することなく、試薬を固着化できる。
【0043】
さらに、温度変化や湿度変化、光等に不安定であり、活性の低下や失活が起こり易い酵素の固着層の上層に、反応系に過剰量加えられ、温度変化等にも比較的安定であるプライマーの固着層を積層することで、工程Sにおける加熱やプラズマあるいは紫外線の照射などから、酵素固着層を保護できる。すなわち、試薬を固着後の基板層の表面を酸素プラズマ処理又は真空紫外光処理により活性化する際もに、プライマー固着層が下層の酵素を保護するため、プラズマや紫外線の照射などによる酵素の活性低下や失活を防止することが可能となる。
【0044】
以上では、酵素の固着層の上層にプライマーの固着層を積層する場合を例に説明したが、試薬を積層する順序は任意であり、例えば、プライマーの固着層の上層に酵素の固着層を積層してもよい(図4参照)。この場合も、酵素固着層とプライマー固着層との間に、反応緩衝液溶質の固着層を積層することが有効となる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係る核酸増幅反応用マイクロチップによれば、簡便な方法で高精度な分析を行うことができる。そのため、本発明に係る核酸増幅反応用マイクロチップは、遺伝子型判定や感染病原体判定などのためのマイクロチップ型の核酸増幅装置に好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0046】
A 核酸増幅反応用マイクロチップ
E 酵素
,P,P プライマー
1 導入口
2 主流路
3 分岐流路
41,42,43 ウェル
5 排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から液体が導入される導入口と、
核酸増幅反応の反応場となる複数のウェルと、
導入口から導入される液体を各ウェル内に供給する流路と、が配設され、
各ウェル内に、反応に必要な複数の試薬が所定の順序で積層されて固着化された核酸増幅反応用マイクロチップ。
【請求項2】
オリゴヌクレオチドプライマーの固着層が、酵素の固着層よりも上層に積層された請求項1記載の核酸増幅反応用マイクロチップ。
【請求項3】
酵素の固着層が、オリゴヌクレオチドプライマーの固着層よりも上層に積層された請求項1記載の核酸増幅反応用マイクロチップ。
【請求項4】
酵素の固着層とオリゴヌクレオチドプライマーの固着層との間に、反応緩衝液溶質の固着層が積層された請求項2又は3記載の核酸増幅反応用マイクロチップ。
【請求項5】
核酸増幅反応の反応場となる複数のウェルが形成された基板層のウェル内に、反応に必要な複数の試薬を所定の順序で積層して固着化する第一の工程を含む核酸増幅反応用マイクロチップの製造方法。
【請求項6】
さらに、前記試薬が積層されて固着化された基板層の表面を活性化し、貼り合わせる第二の工程を含み、
前記第一の工程において、前記ウェル内に、酵素溶液を滴下して乾燥した後、オリゴヌクレオチドプライマー溶液を滴下して乾燥する手順を含む請求項5記載の核酸増幅反応用マイクロチップの製造方法。
【請求項7】
前記第一の工程において、前記ウェル内に、酵素溶液を滴下して乾燥した後、オリゴヌクレオチドプライマー溶液を滴下する前に、反応緩衝液溶質溶液を滴下して乾燥する手順を含む請求項6記載の核酸増幅反応用マイクロチップの製造方法。
【請求項8】
前記第二の工程において、前記基板層の表面を、酸素プラズマ処理又は真空紫外光処理により活性化する手順を含む請求項7記載の核酸増幅反応用マイクロチップの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−160728(P2011−160728A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27200(P2010−27200)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】