説明

核酸定量法、及び核酸定量装置

【課題】低分子の核酸にも適用可能であって、簡便かつ安全に定量することが可能な核酸の定量法、及び核酸の定量装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る核酸の定量法は、蛍光色素を予め結合させた標識核酸を生物に投与、若しくは細胞の培養液に添加する工程(a)と、生物の体内に分布した、若しくは細胞に取り込まれた標識核酸を、生物由来の核酸、若しくは細胞由来の核酸と同時に抽出して精製する工程(b)と、工程(b)により得た精製物の蛍光強度を測定する工程(c)と、工程(c)の測定値に対し、工程(b)中の標識核酸の損失量を考慮して、標識核酸の定量を行う工程(d)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸の定量法、及び核酸定量装置に関する。より詳しくは、生体内に分布した核酸、若しくは細胞に取り込まれた核酸の定量法、及び核酸定量装置に関する。
【背景技術】
【0002】
低分子二本鎖RNAであるsiRNA(small interfering RNA)は、2006年度のノーベル賞受賞テーマであるsiRNAの機能の解明以降、疾患の原因遺伝子を破壊する新規核酸医薬として大きな期待を集め、世界中で広範に研究開発が進められている。siRNAの新規核酸医薬の実現には、siRNAの生体内、若しくは細胞内における動態を解明する技術が重要となる。
【0003】
実験動物等の生体内に分布したsiRNAの定性的な検出方法として、蛍光顕微鏡を用いる方法が知られている。また、siRNAを細胞内に導入したときの細胞内導入率を求める方法として、蛍光標識したsiRNAをフローサイトメトリーによる解析する方法が知られている(非特許文献1)。さらに、生体内に分布したsiRNAを定量する方法として、アイソトープを用いて放射能強度を測定する方法が提案されている(非特許文献2〜4)。なお、核酸の定量法としては、特許文献1や2などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−196997号公報
【特許文献2】特開2006−201062号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】関根光雄、多比良和誠編者、「RNAi法とアンチセンス法」、初版、株式会社講談社、2005年6月20日、p.104−106
【非特許文献2】Derek W. Bartlett 他5名、PNAS、2007年9月25日、第104巻、第39号、p.15549−15554
【非特許文献3】Merkel OM. 他4名、Bioconjug Chem.、2009年1月、20(1)、p.174−182
【非特許文献4】Liu N 他4名、Nucl Med Biol.、2007年5月、34(4)、p.399−404
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記非特許文献1に記載のフローサイトメトリーによる測定法は、個々の細胞の蛍光強度を測定することが可能である。しかしながら、個々の細胞の蛍光強度からsiRNA量を割り出すことはできなかった。また、フローサイトメトリーによる測定法は、個々の細胞に分散させることができない臓器などにおいて適用することができないという問題点があった。
【0007】
上記非特許文献2〜4に記載のsiRNAの定量方法は、アイソトープ実験設備を備えている施設に限定されるという問題があった。さらに、放射性同位体を用いるため、簡便、かつ安全な方法とは言えなかった。
【0008】
なお、上記においては、siRNAにおける問題点について述べたが、miRNA、プラスミドDNA等をはじめとする核酸全般においても同様の問題が生じ得る。
【0009】
さらに、PCR(Polymerase Chain Reaction)などの核酸増幅法を必須とする上記特許文献1や2の方法を、siRNA、miRNAのような低分子の核酸に適用することは技術上困難であった。
【0010】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、低分子の核酸にも適用可能であって、簡便かつ安全に定量することが可能な核酸の定量法、及び核酸の定量装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る核酸の定量法は、蛍光色素を予め結合させた標識核酸を生物に投与、若しくは細胞の培養液に添加する工程(a)と、前記生物の体内に分布した、若しくは前記細胞に取り込まれた前記標識核酸を、生物由来の核酸、若しくは細胞由来の核酸と同時に抽出して精製する工程(b)と、前記工程(b)により得た精製物の蛍光強度を測定する工程(c)と、前記工程(c)の測定値に対し、前記工程(b)中の前記標識核酸の損失量を考慮して、前記標識核酸の定量を行う工程(d)とを備えるものである。
【0012】
本発明に係る核酸の定量法によれば、蛍光強度を測定することにより定量を行っているので、簡便かつ安全に定量を行うことができる。また、抽出、精製工程によって標識核酸が損失することは必発であるが、この損失量を考慮して補正しているので、定量精度を高めることができる。
【0013】
本発明に係る核酸の定量装置は、蛍光色素を予め結合させた標識核酸を生物に投与して生物の体内に分布した、若しくは細胞の培養液に添加して取り込まれた前記標識核酸を、生物由来の核酸、若しくは細胞由来の核酸と同時に取り出したものを抽出して精製するサンプル調製手段と、前記サンプル調製手段により得た精製物の蛍光強度を測定する測定手段と、前記測定手段により得た測定値に対し、前記サンプル調製手段中の前記標識核酸の損失量を考慮して、前記標識核酸の定量を行う手段とを備えるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低分子の核酸にも適用可能であって、簡便かつ安全に定量することが可能な核酸の定量法、及び核酸の定量装置を提供することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態に係る核酸の定量法のフローチャート図。
【図2】(a)〜(e)実施例に係る製造工程説明図。
【図3】実施例に係る標識核酸の標準曲線をプロットした図。
【図4】実施例に係る各臓器中のsiRNA量をプロットした図。
【図5】実施例に係る各臓器中のsiRNAの重量比をプロットした図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について図1のフローチャート図を用いつつ説明する。
【0017】
<工程(a)> 蛍光色素を予め結合させた標識核酸を生物に投与、若しくは細胞の培養液に添加する。ここで、「核酸」とは、siRNA、miRNA(micro−RNA)等の低分子のRNA、mRNA、tRNA、プラスミドDNA等をはじめとするRNA、DNA全般を云う。また、PNA(Peptide Nucleic acid)など核酸類似体であってもよい。核酸は、天然由来のものであっても、合成されたものであってもよい。本発明の定量法を適用する核酸の分子量は問わないが、本発明は、従来、放射性同位体等を用いずに安全に定量することが難しかった低分子量(例えば、塩基が10以上、100以下程度)の核酸を定量するのに特に有用である。また、前述したとおり、新規核酸医薬として期待されているsiRNAに特に好適に適用できる。
【0018】
蛍光色素は、特定の波長で励起され、蛍光を発光する色素であり、本発明の趣旨を逸脱しないものであれば特に限定されるものではないが、一例として以下のものを挙げることができる。すなわち、シアニン色素(Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5)、Alexa Fluor(登録商標)色素(Alexa Fluor350、Alexa Fluor430、Alexa Fluor488、Alexa Fluor532、Alexa Fluor546、Alexa Fluor555、Alexa Fluor568、Alexa Fluor594、Alexa Fluor633、Alexa Fluor660、Alexa Fluor667、Alexa Fluor680、Alexa Fluor700、Alexa Fluor750)、BODIPYR(登録商標)色素(Biodipy FL、Biodipy 530/550、Biodipy TR、Biodipy TMR)、ローダミン系色素(R6G、ROX、TAMRAなど)、フルオレセイン系色素(フルオレセイン(Fluorescein)、FAM、HEX、TET、JOE)、テキサスレッド(Texas Red)、Yakima yellow、Cascade Blue(登録商標)、Marina Blue、Pacific Blue等を挙げることができる。
【0019】
蛍光標識の核酸への結合部位については、特に限定されず、核酸を標識することのできる結合部位は全て用いることができる。一例として、核酸の3'末端、5'末端を挙げることができる。
【0020】
標識核酸は、生体内、生体外のいずれにおいても使用することができる。生体内で使用する場合の投与経路は、特に限定されない。一例を挙げれば、静脈内、実質臓器内(例えば、脳、目、甲状腺、乳腺、心臓、肺、肝臓、膵臓、腎臓、副腎、卵巣、精巣等)、管腔臓器の管腔内(例えば、食道、胃、十二指腸、空腸、回腸、大腸、胆嚢、尿管、膀胱内等)、脳脊髄腔内、胸腔内、腹腔内、筋肉内、関節内、皮下、皮内等である。
【0021】
核酸を投与する生物種は、動物、植物、カビ、酵母等の微生物等、特に限定されることはないが、動物由来であることが好ましく、例えば、ヒト、サル、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット等の哺乳動物であることがより好ましい。また、核酸を取り込む細胞の種類は、特に限定されないが、一例として、体細胞、生殖細胞、幹細胞又はこれらの培養細胞等を挙げることができる。
【0022】
標識核酸を生物に投与、若しくは細胞の培養液に添加する際には、標識核酸の他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、本発明者らが先に提案した磁性ナノ粒子(特願2007−198104号公報)、リポソーム、脂質ナノ粒子、ポリマー等の核酸運搬用のデリバリーシステムを用いることができる。無論、標識核酸単独で生物に投与、若しくは細胞の培養液に添加してもよい。また、公知の核酸の投与法を制限なく適用することができる。
【0023】
<工程(b)> 生物の体内に分布した、若しくは細胞に取り込まれた標識核酸を、生物由来の核酸、若しくは細胞由来の核酸と同時に抽出する。ここでは、生物に投与、若しくは細胞の培養液に添加した標識核酸と、生物由来の核酸、若しくは細胞由来の核酸とを総称してトータル核酸と称する。核酸のうちのRNAを対象とする場合には、トータルRNAを抽出する。生物の体内に分布したトータル核酸の抽出は、生物の一部、若しくは全部を用いて抽出することが可能である。例えば、肝臓、肺、脾臓等の各種臓器、全血、血清、生体組織等から核酸を抽出することができる。細胞に取り込まれたトータル核酸の抽出には、培養液中の細胞の一部、若しくは全部を用いて抽出することが可能である。
【0024】
核酸を含有する試料からトータル核酸を得る方法としては、公知の方法を制限なく使用することができる。例えば、フェノール・クロロホルム抽出法により、核酸を含有する試料からトータル核酸を得ることができる。この方法は、フェノール・クロロホルムを用いてタンパク質、脂質などの水難溶性の検体成分を変性、溶解または沈殿させる一方、核酸を水相に溶解するという溶解度の違いを利用するものである。その他、チオシアン酸グアニジン等のカオトロピック塩、硫酸アンモニウム等のアンチカオトロピック塩等を用いる方法もある。
【0025】
次いで、抽出物を精製する。核酸を精製する方法であれば、特に限定されないが、一例として、アルコール沈澱、限外濾過、電気泳動、遠心分離、ゲル濾過、イオン交換、選択吸着、アフィニティー結合を利用したクロマトグラフィー、磁性粒子などを組み合わせたアフィニティー結合等を挙げることができる。これらは、単独、若しくは併用することができる。より好ましくは、ゲル濾過と遠心分離を利用したスピンカラムクロマトグラフィーである。
【0026】
カラムクロマトグラフィーにおいては、核酸を固相担体表面に吸着させる工程、並びに、固相担体を洗浄し、核酸を溶離する工程を備える。固相担体の表面は、例えば、合成高分子、無機物質、ガラスよりなる群から選択されるものを好適に適用することができる。より具体的には、シリカ粒子、シリカ粉末、シリカ繊維(グラスファイバー)、シリカメンブレン、シリカクロス、一体型多孔質シリカなどのシリカ担体、セラミック粒子、セラミック粉末、セラミック繊維、セラミックメンブレン、セラミッククロス、一体型多孔質セラミックなどのセラミック担体のいずれか、若しくはこれらを混成したもの、若しくはこれらを混合したもの等を好適に適用することができる。抽出する核酸を効率よく精製できるものであることが好ましく、10〜18塩基以上の全ての長さの核酸を精製可能なものを使用することがより好ましい。例えば、標識核酸がsiRNAであり、トータルRNAを精製する場合には、10〜18塩基以上の全ての長さのRNAを精製可能な固相担体表面を使用することが好ましい。
【0027】
核酸の精製は、抽出試料の全量、若しくはその一部に対して実施する。抽出試料の一部に対して実施した場合には、測定に用いたサンプルの量とその測定値に基づいて、全量を算出すればよい。操作時間の短縮化、操作工程の簡便化を図る観点からは、抽出試料の一部に対して実施することが好ましい。
【0028】
<工程(c)> 工程(b)により得た精製物の蛍光強度を測定する。具体的には、標識核酸の定量は、蛍光色素固有の励起波長光を測定サンプルに照射し、サンプルからの蛍光強度を測定する。測定装置は、微量の発光を検知可能であって、本発明の目的を達成し得るものであれば限定されないが、蛍光測定装置、蛍光プレートリーダー等が好適な例として挙げられる。
【0029】
<工程(d)> 工程(c)の測定値に対し、工程(b)中の標識核酸の損失量を考慮して、標識核酸の定量を行う。損失量の好適な計算方法として、以下の方法を挙げることができる。
【0030】
損失量の第1の導出方法としては、以下の方法を挙げることができる。すなわち、標識核酸の既知量のサンプルを複数用意して希釈系列を作成する。次いで、当該サンプルに対して工程(b)の抽出前に蛍光強度を工程(c)と同様にして測定する。その後、工程(b)の抽出、精製工程を実施した後に工程(c)と同様に蛍光強度を測定する。抽出前、及び精製後の蛍光強度の関係より希釈系列の標準曲線を作成し、当該標準曲線に基づいて工程(b)の損失量を導出する。
【0031】
標識核酸の工程(c)の蛍光強度、及び前述の標準曲線により、工程(b)により損失した量を含めた標識核酸の量を求めることができる。
【0032】
損失量の第2の導出方法としては、抽出工程による損失量を無視して、精製工程による損失量のみを考慮して補正を行う方法を挙げることができる。精製方法によっては、抽出工程による損失量に比して精製工程の損失量が相当大きい場合もあり得る。このような場合に特に有効な方法である。この場合、希釈系列のサンプルを、精製工程前、精製工程後のそれぞれの蛍光強度を測定して標準曲線を作成すればよい。
【0033】
損失量の第3の導出方法としては、上記第1の導出方法に対して、抽出前の蛍光強度の測定を省略して標準曲線を作成する方法を挙げることができる。具体的には、標識核酸の既知量のサンプルを複数用意して希釈系列を作成し、工程(b)の抽出・精製の全工程を実施した後に、工程(c)と同様に蛍光強度を測定する。そして、抽出前に加えた核酸量と、抽出精製後の蛍光強度との関係より、希釈系列の損失量を加味した標準曲線を作成する。当該方法によれば、損失量を加味した標準曲線により、一段階で、工程(b)により損失した量を含めた標識核酸の量を求めることができる。
【0034】
損失量の第4の導出方法としては、以下の方法を挙げることができる。すなわち、標識核酸に対して、結合している蛍光色素のみが異なる対比用標識核酸を用意する。そして、工程(b)の抽出を実施する前のサンプルに、対比用標識核酸を所定量加える。次いで、工程(b)の抽出を実施する前と、精製を実施した後それぞれにおいて、対比用標識核酸の蛍光強度を工程(c)と同様に測定する。その後、工程(b)における対比用標識核酸の損失量を求め、当該損失量から標識核酸の損失量を導出する。
【0035】
対比用標識核酸に結合する蛍光色素は、標識核酸に結合している蛍光色素と蛍光測定により区別し得るものであれば特に限定されないが、互いの発光波長が重ならないものを用いることが好ましい。標識核酸の工程(c)の蛍光強度、及び前述の対比用標識核酸の損失した量より、工程(b)により得た精製物中の標識核酸の量を求めることができる。
【0036】
損失量の第5の導出方法としては、第4の導出方法のように抽出工程前に対比用標識核酸を加えずに、抽出工程後に対比用標識核酸を加え、精製工程前後の損失量を上記第4の導出方法と同様にして求めてもよい。精製方法によっては、抽出工程による損失量に比して精製工程の損失量が相当大きい場合もあり得る。このような場合に特に有効な方法である。この場合、希釈系列のサンプルを、精製工程前、精製工程後のそれぞれの蛍光強度を測定して標準曲線を作成すればよい。なお、損失量の導出方法としては、上記例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の方法を採用することができる。
【0037】
上述した損失量の第1の導出方法〜第5の損失方法等において、サンプルの一部に対して抽出、精製工程を行った場合には、得られた標識核酸の量から生体試料中の標識核酸の含有量を決定する。
【0038】
なお、トータル核酸の濃度を求め、トータル核酸中の標識核酸の比率を求めることもできる。トータル核酸の濃度は、公知の方法により制限なく求めることができる。例えば、サンプル中のトータルRNAの濃度は、分光光度計を用いて260nmの波長における吸光度A(260)を測定し、以下の式(1)より求めることができる。
[トータルRNA濃度(μg/mL)]
=A(260)×40×10/光路長(mm)・・・式(1)
但し、トータルRNAの定量は、公知の方法を制限なく使用することができる。なお、二本鎖DNA濃度を求める場合には、上記式(1)の定数40を50に、一本差DNAの場合には、定数40を33に変更することにより求めることができる。
【0039】
次に、本実施形態に係る核酸の定量装置について説明する。本実施形態に係る核酸の定量装置は、サンプル調整手段と、測定手段と、定量手段とを備える。サンプル調整手段は、蛍光色素を予め結合させた標識核酸を生物に投与して生物の体内に分布した、若しくは細胞の培養液に添加して取り込まれた標識核酸を、生物由来の核酸、若しくは細胞由来の核酸と同時に取り出したものを抽出して精製する手段である。測定手段は、サンプル調製手段により得たサンプルの蛍光強度を測定する手段である。また、定量手段は、測定手段により得た測定値に対し、サンプル調製手段中の標識核酸の損失量を考慮して、標識核酸の定量を行う手段である。
【0040】
サンプル調整手段としては、前述した抽出方法、精製方法を実現する装置を用いることができる。測定手段としては、前述した蛍光測定装置、蛍光プレートリーダー等の微量の発光を検知可能であって、本発明の目的を達成し得る装置を用いることができる。定量手段としては、定量したい全量と測定サンプルの量を入力する手段と、前述の工程(b)中の損失量を計算するための標準曲線を記憶する手段と、当該標準曲線に基づいて、標識核酸の損失量を導出して、前述の測定手段により求めた蛍光強度から測定サンプルの標識核酸量を算出する手段と、得られた標識核酸量から目的物の標識核酸の量を求める手段とを備える。
【0041】
標準曲線に対する情報がない場合には、標準曲線を記憶する手段の前に、既知量の標識核酸の希釈系列を複数作成したものに対し、工程(b)の抽出及び精製を実施する前後それぞれにおいて、若しくは、精製を実施する前後それぞれにおいて、蛍光強度を測定して、精製によるロス分を考慮した標準曲線を作成する手段を有するようにしてもよい。サンプル調整手段、測定手段、定量手段の全てを接続して全工程を自動化した自動分析装置を用いることにより、より容易かつ迅速に、高精度に標識核酸の定量を行うことができる。
【0042】
なお、標識核酸の損失量の導出方法は、例えば、前述の第1の方法〜第5の方法を好適に適用することができる。
【0043】
ところで、核酸の一種であるsiRNAは、通常、19〜23塩基対からなる短い2本鎖RNAで、哺乳動物細胞内において遺伝子配列特異的に遺伝子発現を抑制する機能をもつ。すなわち、siRNAを用いて狙った遺伝子の発現を特異的に制御可能である。しかしながら、siRNAは不安定、かつ高価であるため、目的部位にsiRNAを効率良く送達する技術の開発が望まれていた。
【0044】
siRNAは、低分子量であることに起因して、特許文献1や2の定量方法をそのまま適用することは困難であった。本実施形態によれば、siRNAを生体内に投与した後の、siRNAの生体内分布、若しくは、細胞の培養液に添加した後のsiRNAの細胞への取り込み状態を簡便、かつ精密に定量することができる。また、siRNAの精製工程におけるsiRNAの回収損失は必発であるが、この損失量を考慮することにより、よりsiRNAの定量精度を高めることが可能となった。しかも、非特許文献2〜4のように、アイソトープ等の特殊設備を使用せず、放射性同位体も使用しないので、安全かつ簡便に定量することができる。従って、siRNAの動態の解明に大きく貢献することが期待できる。また、siRNAの新規核酸医薬の実現に向け、患部への送達法の開発等に大きく貢献することが期待できる。無論、siRNAの他、miRNA、プラスミドDNA等をはじめとする各種DNA、RNAにおいて同様の効果を提供することができる。
【0045】
なお、上記実施形態は一例であって、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
[実施例]
【0046】
以下、本発明のより具体的な実施例について、図2の工程説明図を用いつつ詳細に説明する。なお、本発明の範囲は、以下の実施例に限定されないことは言うまでもない。?
【0047】
(実施例1)
<標準曲線の作成実験>
(工程1−1)siRNA(キアゲン社)を投与していないマウスを屠殺後、肝臓を摘出し、その重量を測定した。測定後、トータルRNA抽出用のフェノール及びチオシアン酸グアニジンを含有するQIAzol組織溶解液(キアゲン社製)を、肝臓100mgあたり7mL加えた。そして、その重量を測定後、ホモジナイザーを用いて物理的に破砕して懸濁液を作製した。
【0048】
(工程1−2)Alexa Fluoro(登録商標)488により標識されたsiRNAAll Stars Negative Control(以降、単に「標識siRNA」とも称する)の原液をRNA分解酵素フリーの純水で希釈した。そして、それぞれ1.5mL容のマイクロチューブ1(エッペンドルフ製)内で、0ng(純水のみ)、0.4ng、1.2ng、3.6ng、10.8ng、32.4ng、97.2ng、291.6ng、874.8ngの標識siRNAを含む50μLの希釈系列を作製した。
【0049】
(工程1−3)工程1−2で作製した希釈系列それぞれに対し、工程1−1で作製した懸濁液を0.7mLずつ入れ、攪拌した。その後さらに、クロロホルム0.3mLをマイクロチューブ1に添加することにより調製したサンプル10を激しく攪拌した。その後、5分間室温に放置した(図2(a)参照)。引き続き、冷却遠心機(不図示)にて摂氏4℃・12000Gにて遠心分離を行った。遠心分離後のサンプル10の最上層11にはトータルRNAが、中間層12には変性タンパクが、最下層13にはDNAが含まれていることを確認した(図2(b)参照)。
【0050】
(工程1−4)工程1−3の処理を行ったサンプル10の最上層11を採取し、トータルRNAの吸光度を測定した。そして、得られた吸光度より以下の式(2)を用いて、最上層11のトータルRNA濃度を計算した。具体的には、工程1−3で得たサンプル10の最上層11を静かに数μL取り出し、適度に希釈した(希釈率:1/[a])。その後、分光光度計を用いて260nmの波長における吸光度A(260)を測定した。そして、この値を式(1)に代入することにより、トータルRNA濃度を求めた。
[トータルRNA濃度(μg/mL)]
=A(260)×40×10/光路長(mm)×[a]・・・式(2)
【0051】
(工程1−5)新しい1.5mL容のマイクロチューブ2に、工程1−2で調製した0.4ng、1.2ng、3.6ng、10.8ng、32.4ng、97.2ng、291.6ng、874.8ngの標識siRNAを含む50μLの希釈系列を加えたサンプルを用意した。次いで、工程1−3により得られた最上層11を静かに0.3mL採取して、前述の各マイクロチューブ2内に入れた。その後、さらに各マイクロチューブ2内にエタノール0.45mLを添加することにより各希釈系列の混合液20を得た(図2(c)参照)。
【0052】
(工程1−6)RNeasy Miniスピンカラム(以下、「カラム」とも称する)3(キアゲン社製)を2mL容のマイクロチューブ4にセットした後、カラム3内に混合液20の全容を入れた。次いで、室温・8000Gにて15秒間遠心分離することにより、カラム3にsiRNAを含むトータルRNAを吸着させた。各希釈系列のサンプルに対して同様の操作を行った。
【0053】
(工程1−7)siRNAを含むトータルRNAの吸着したカラム3をマイクロチューブ4から外し、マイクロチューブ4内に排出された廃液とともにマイクロチューブ4を廃棄し、カラム3に新しい2mL容のマイクロチューブ(不図示)をセットした。
【0054】
(工程1−8)カラム3に、チオシアン酸グアニジンを含有するプレ洗浄液RWT緩衝液(キアゲン社製)0.7mLを加え、室温・8000Gにて15秒間遠心分離することにより、カラム3をプレ洗浄した(1回目洗浄)。
【0055】
(工程1−9)工程1−8で洗浄したカラム3をマイクロチューブから外し、マイクロチューブ内に排出された廃液とともに当該マイクロチューブを廃棄し、カラム3に新しい2mL容のマイクロチューブ(不図示)をセットした。
【0056】
(工程1−10)カラム3に、洗浄液RPE緩衝液(キアゲン社製)0.5mLを加え、室温下、8000Gにて2分間遠心分離することにより、カラム3を洗浄した(2回目洗浄)。
【0057】
(工程1−11)工程1−10で洗浄したカラム3をマイクロチューブから外し、マイクロチューブ内に排出された廃液とともに当該マイクロチューブを廃棄し、カラム3に新しい1.5mL容のマイクロチューブ5をセットした。
【0058】
(工程1−12)カラム3に60μLのRNA分解酵素フリーの純水を入れ、室温下、8000Gにて1分間遠心分離することにより、siRNAを含むトータルRNAの吸着したカラム3から、siRNAを含むトータルRNA溶液30をマイクロチューブ5内に溶出させた(図2(e)参照)。
【0059】
(工程1−13)工程1−12で得られた各溶出液50μLを蛍光測定用の96穴黒色プレート(NUNC社製)に入れた。そして、蛍光マイクロプレートリーダー(モデル1420マルチラベルカウンター、パーキンエルマー社製)を用いて、励起波長495nm、蛍光検出波長518nmで蛍光強度を測定し、その値を記録した。
【0060】
(工程1−14)工程1−13で記録したそれぞれの希釈系列の蛍光強度と、それぞれの希釈系列50μLの標識siRNAの含有量、すなわち、400pg、1.2ng、3.6ng、10.8ng、32.4ng、97.2ng、291.6ng、874.8ngとの間の関係式を導くために、グラフ上にプロットすることにより標準曲線を作成した。図3に、得られた標準曲線を示す。横軸は、標識siRNAの初期調製量であり、縦軸は、精製工程後(工程1−12後)の蛍光強度を示す。図3の結果より、標識siRNAの初期含有量が400pg〜1μgのときに、縦軸の蛍光強度との間に、直線性を認めることを確認した。また、RNA抽出・カラム精製前の標識siRNA量と、最終的にカラムから溶出された当該siRNA溶出液の示す蛍光強度との間に、例えば、以下の式(3)の相関関数があるという知見を得た。
[抽出・カラム精製前の標識siRNA量]
=D×([siRNA溶出液の示す蛍光強度]^E)・・・式(3)
なお、D、Eはグラフソフト(Delta Graph ver.5)を用いて算出した。
【0061】
<マウスモデルの各臓器に分布したsiRNAの抽出実験>
(工程a−1)陽性荷電ポリマーPolyMag(OZ Biosciences社, フランス)(8.3μL)と、陰性荷電をもつ蛍光標識核酸であるAlexa Fluoro(登録商標)488によって標識されたsiRNAAll Stars Negative Control(標識siRNA)を室温(20℃)で混合し、5分間放置した。静電結合により得られたPolyMag/標識siRNA複合体の全量を、BALB/cマウスの尾静脈に投与した。
【0062】
(工程b−1)投与無、投与0.5時間、1.5時間、3時間、4.5時間、6時間、9時間、13.5時間、18時間後に、それぞれ動物を屠殺し、各臓器を摘出した。そして、各臓器の重量を測定した(重量A(mg))。その後、トータルRNA抽出用のフェノール及びチオシアン酸グアニジンを含有するQIAzol組織溶解液(キアゲン社製)を臓器25mgあたり0.7mL加えた重量を測定後(重量B(mg))、ホモジナイザーを用いて物理的に破砕して懸濁液を作製した。
【0063】
(工程b−2)1.5mL容のマイクロチューブ内に入れた当該懸濁液0.7mLの重量を測定(重量C(mg))した。次いで、RNA分解酵素フリーの純水を50μL添加し、攪拌した。さらにクロロホルム0.14mLをチューブ内に添加することにより調製したサンプルを激しく攪拌した。その後、5分間室温に放置した。引き続き、冷却遠心機にて摂氏4℃・12000Gにて遠心分離を行った。遠心分離後、静かに最上層を0.3mL採取し、これを新しい1.5mL容のマイクロチューブに入れた。
【0064】
(工程b−3)工程1−4と同様に、分光光度計を用い、260nmの波長における吸光度A(260)を測定することにより、全てのサンプルの最上層のトータルRNA濃度を計算した。
【0065】
(工程b−4)工程b−3で求めたサンプルの最上層のトータルRNA濃度を、工程1−4で求めた陰性コントロールの最上層のトータルRNA濃度と同一にするため、工程b−2で得られた最上層0.3mLに、適量のRNA分解酵素フリーの純水を加え(希釈率:1/[b])、良く攪拌した。
【0066】
(工程b−5)工程b−4で得られたサンプルのうち、0.3mLを新しい1.5mL容のマイクロチューブに入れ、さらに、エタノール0.45mLを添加した。
【0067】
(工程b−6)得られた混合液全容を、2mL容のマイクロチューブにセットしたカラム(RNeasy Miniスピンカラム)内に入れ、室温・8000Gにて15秒間遠心分離することにより、カラムにsiRNAを含むトータルRNAを吸着させた。
【0068】
(工程b−7)siRNAの吸着したカラムをマイクロチューブから外し、マイクロチューブ内に排出された廃液とともに当該マイクロチューブを廃棄し、当該カラムに新しい2mL容のマイクロチューブをセットした。
【0069】
(工程b−8)当該カラムに、プレ洗浄液RWT緩衝液0.7mLを加え、室温・8000Gにて15秒間遠心分離することにより、カラムをプレ洗浄した(1回目洗浄)。
【0070】
(工程b−9)工程b−8で洗浄したカラムをマイクロチューブから外し、マイクロチューブ内に排出された廃液とともに当該マイクロチューブを廃棄し、当該カラムに新しい2mL容のマイクロチューブをセットした。
【0071】
(工程b−10)当該カラムに、洗浄液RPE緩衝液0.5mLを加え、室温・8000Gにて2分間遠心分離することにより、カラムを洗浄した(2回目洗浄)。
【0072】
(工程b−11)工程b−10で洗浄したカラムをマイクロチューブから外し、マイクロチューブ内に排出された廃液とともに当該マイクロチューブを廃棄し、当該カラムに新しい1.5mL容のマイクロチューブをセットした。
【0073】
(工程b−12)当該カラムに60μLのRNA分解酵素フリーの純水を入れ、室温・8000Gにて1分間遠心分離することにより、siRNAを含むトータルRNAの吸着したカラムから、siRNAを含むトータルRNAを溶出した。
【0074】
(工程c−1)工程b−12で得られた各溶出液50μLを96穴黒色プレートに入れ、蛍光マイクロプレートリーダーを用いて、励起波長495nm、蛍光波長518nmで蛍光強度を測定し記録した。
【0075】
<各臓器に分布したsiRNA重量の計算>
(工程d−1)各臓器に集積(分布)した標識siRNA量は、下記の式(4)により算出される。ここで、C(mg)は、工程b−2による破砕及び懸濁処理後の0.7mLのサンプル重量を示す。また、B(mg)は、当該破砕及び懸濁処理前の各臓器重量A(mg)と、各臓器に加えた組織溶解液の重量との和である。本実施例においては、臓器25mgあたりに組織溶解を0.7mL加えているので、以下の式(5)により求めることができる。さらに、1/[b]は、工程b−4の工程でサンプルの希釈率を示す。
[各臓器に集積(分布)した標識siRNA量]
=[抽出・カラム精製前の標識siRNA量]×[B(mg)/C(mg)]×[b]
・・・式(4)
B(mg)=A(mg)+A(mg)/25(mg)×0.7×[組織溶解液の比重]
・・・式(5)
【0076】
<各臓器に分布した単位重量あたりのsiRNA重量比の計算>
工程b−1において、各臓器の重量はA(mg)であったので、各臓器に分布した臓器単位重量(例えば、臓器1mg)あたりのsiRNA重量比は、下記の式(6)により算出される。
[各臓器に分布した臓器単位重量あたりのsiRNA重量比]
=[各臓器に集積(分布)した標識siRNA量]/A(mg)・・・式(6)
【0077】
各溶出液の蛍光強度、及び標準曲線から各溶出液に含まれる蛍光標識siRNAの量を導出した。図4に、各臓器におけるsiRNA量の分布を経時的にプロットした図を示す。より具体的には、PolyMag(8.3μL)/標識siRNA複合体を、静脈内投与後、当該siRNAのマウスの各臓器での集積量(生体内分布)を、図3で示した相関関数より損失量を考慮して求めた結果を示す。図中の(a)は0.5時間、(b)は1.5時間、(c)は3時間、(d)は4.5時間、(e)は6時間、(f)は9時間、(g)は13.5時間、(h)は18時間経過後(siRNA投与後)を示す
【0078】
また、図5に、各臓器におけるsiRNAの重量比の分布を経時的にプロットした図を示す。具体的には、図4で求めた数値を、対応する各臓器の重量で除すことにより計算した。
【0079】
(実施例2)
<標準曲線(内部標準用)の作成実験>
(工程2−1)Alexa Fluoro(登録商標)647によって標識されたsiRNAAll Stars Negative Control(以降、「対比用標識siRNA」とも称する)の原液をRNA分解酵素フリーの純水で希釈した。そして、それぞれ1.5mL容のマイクロチューブ(エッペンドルフ製)内で、10.8ng、32.4ng、97.2ng、291.6ng、874.8ngの対比用標識siRNAを含む50μLの希釈系列を作製した。なお、対比用標識siRNAとは、前述したとおり、標識する蛍光色素の種類のみが標識核酸と異なるものであって、結合されている核酸は同一(遺伝子配列は同一)のものを云う。
【0080】
(工程2−2)工程2−1で得られた各溶出液50μLを蛍光測定用の96穴黒色プレートに入れ、蛍光マイクロプレートリーダーを用いて、励起波長595nm、蛍光波長670nmで蛍光強度を測定し記録した。
【0081】
(工程2−3)工程2−2で記録したそれぞれの希釈系列の蛍光強度と、それぞれの希釈系列50μLの対比用標識siRNAの含有量との間の関係式を導くために、グラフ上にプロットすることにより標準曲線を作成した。そして、当該含有量における直線性を確認した。対比用標識siRNA量と、当該siRNA溶液の示す蛍光強度との間に、例えば、以下の式(7)の相関関数があるという知見を得た。
[対比用標識siRNA量]
=F×([対比用標識siRNA溶液の示す蛍光強度]^G) ・・・式(7)
なお、F、Gは前記のグラフソフトを用いて算出した。
【0082】
<標準曲線(未知のサンプル用)の作成実験>
(工程3−1)Alexa Fluoro(登録商標)488によって標識されたsiRNAAll Stars Negative Control(以降、「標識siRNA」とも称する)の原液をRNA分解酵素フリーの純水で希釈した。そして、それぞれ1.5mL容のマイクロチューブ(エッペンドルフ製)内で、0ng(純水のみ)、10.8ng、32.4ng、97.2ng、291.6ng、874.8ngの標識siRNAを含む50μLの希釈系列を作製した。
【0083】
(工程3−2)工程3−1で得られた各溶出液50μLを蛍光測定用の96穴黒色プレートに入れ、蛍光マイクロプレートリーダーを用いて、励起波長495nm、蛍光波長51
8nmで蛍光強度を測定し記録した。
【0084】
(工程3−3)工程3−2で記録したそれぞれの希釈系列の蛍光強度と、それぞれの希釈系列50μLの標識siRNAの含有量との間の関係式を導くために、グラフ上にプロットすることにより標準曲線を作成した。そして、当該含有量における直線性を確認した。標識siRNA量と、当該siRNA溶液の示す蛍光強度との間に、例えば、以下の式(8)の相関関数があることを確認した。
[標識siRNA量]=H×([標識siRNA溶液の示す蛍光強度]^I)
・・・式(8)
なお、H、Iは前記のグラフソフトを用いて算出した。
【0085】
<マウスモデルの各臓器に分布したsiRNAの抽出実験>
(工程2a−1)陽性荷電ポリマーPolyMag(8.3μL)と、陰性荷電をもつ標識siRNAを室温で混合し、5分間放置した。静電結合により得られたPolyMag/標識siRNA複合体の全量を、BALB/cマウスの尾静脈に投与した。
【0086】
(工程2b−1)投与0.5時間後に、動物を屠殺し、肝臓を摘出した。そして、肝臓の重量を測定した(重量A'(mg))。その後、QIAzol組織溶解液を肝臓25mgあたり0.7mL加えた重量を測定後(重量B'(mg))、ホモジナイザーを用いて物理的に破砕して懸濁液を作製した。
【0087】
(工程2b−2)1.5mL容のマイクロチューブ内に入れた当該懸濁液0.7mLの重量を測定(重量C'(mg))した。次いで、RNA分解酵素フリーの純水で希釈した、既知量として、例えば、291.6ngの対比用標識siRNAを含む50μLの溶液を添加して攪拌した。さらに、クロロホルム0.14mLをチューブ内に添加後、激しく攪拌し、5分間室温に放置した。引き続き、冷却遠心機にて摂氏4℃・12000Gにて遠心分離を行った。遠心分離後、静かに最上層を0.3mL採取し、これを新しい1.5mL容のマイクロチューブに入れた。
【0088】
(工程2b−3)工程2b−2で得られたサンプルのうち、0.3mLを新しい1.5mL容のマイクロチューブに入れ、さらに、エタノール0.45mLを添加した。
【0089】
(工程2b−4)得られた混合液全容を、2mL容のマイクロチューブにセットしたスピンカラム内に入れ、室温・8000Gにて15秒間遠心分離することにより、当該カラムにsiRNAを含むトータルRNAを吸着させた。
【0090】
(工程2b−5)siRNAの吸着した当該カラムをマイクロチューブから外し、マイクロチューブ内に排出された廃液とともに当該マイクロチューブを廃棄し、当該カラムに新しい2mL容のマイクロチューブをセットした。
【0091】
(工程2b−6)当該カラムに、プレ洗浄液RWT緩衝液0.7mLを加え、室温・8000Gにて15秒間遠心分離することにより、カラムをプレ洗浄した(1回目洗浄)。
【0092】
(工程2b−7)工程2b−6で洗浄したカラムをマイクロチューブから外し、マイクロチューブ内に排出された廃液とともに当該マイクロチューブを廃棄し、当該miRNeasyカラムに新しい2mL容のマイクロチューブをセットした。
【0093】
(工程2b−8)当該カラムに、洗浄液RPE緩衝液0.5mLを加え、室温・8000Gにて2分間遠心分離することにより、カラムを洗浄した(2回目洗浄)。
【0094】
(工程2b−9)工程2b−8の工程で洗浄したカラムをマイクロチューブから外し、マイクロチューブ内に排出された廃液とともに当該マイクロチューブを廃棄し、当該カラムに新しい1.5mL容のマイクロチューブをセットした。
【0095】
(工程2b−10)当該カラムに60μLのRNA分解酵素フリーの純水を入れ、室温・8000Gにて1分間遠心分離することにより、siRNAを含むトータルRNAの吸着したカラムから、siRNAを含むトータルRNAを溶出した。
【0096】
(工程2c−1)工程2b−10で得られた各溶出液50μLを96穴黒色プレートに入れ、蛍光マイクロプレートリーダーを用いて、1サンプルに対し、励起波長595nm/蛍光波長670nm及び励起波長495nm/蛍光波長518nmの2種類の蛍光強度を測定し記録した。
【0097】
(工程2d−1)工程2c−1で記録した励起波長595nm/蛍光波長670nmの蛍光強度を工程2−3で求めた式(7)に入れ、カラムから溶出された対比用標識核酸(Alexa Fluoro(登録商標)647によって標識されたsiRNAAll Stars Negative Control)量:D'(ng)を求めた。
【0098】
また、工程3−3で加えた対比用標識核酸量は、例えば291.6ngであったため、サンプル処理前に存在するsiRNA総量は、一連のサンプル処理により一部損失していることが以下の式(9)より求められた。
[最終的なsiRNA回収率:E']=D'(ng)/291.6(ng)・・式(9)
実験では、回収率は23.2%と計算された。
【0099】
<臓器に分布したsiRNA重量の計算>
工程3−3による破砕及び懸濁処理後の0.7mLのサンプル重量はC'(m
g)、工程3−2による各臓器重量と、各臓器に加えた組織溶解液の重量の和はB'
(mg)である。B'(mg)は、臓器25mgあたりに組織溶解液を0.7mL加えているので、上記式(5)と同様にして求めることができる。さらに、工程3−3で算出した式(8)、及び工程2d−1で求めた上記式(9)より、臓器に集積(分布)した標識siRNA量は下記の式(10)により算出される。
[各臓器に集積(分布)した標識siRNA量]
=[抽出・精製前の標識siRNA量]×[B'(mg)/C'(mg)]/E'
・・・式(10)
実験では、当該siRNA量は2183ngと計算された。
【0100】
<臓器に分布した単位重量あたりのsiRNA重量比の計算>
工程3−2において、各臓器の重量はA'(mg)であったので、各臓器に分布した臓器単位重量(例えば、臓器1mg)あたりのsiRNA重量比は、下記の式(11)により算出される。
[各臓器に分布した臓器単位重量あたりのsiRNA重量比]
=[各臓器に集積(分布)した標識siRNA量]/A'(mg)・・・式(11)
実験では、当該siRNA量は1.980×0−6と計算された。
実施例2により求めた式(9)、式(10)、式(11)により得た実験値は、実施例1と概ね近似した数値であることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明によれば、生体内に分布した核酸、若しくは細胞に取り込まれた核酸の簡便な精密定量法を提供することができる。核酸のうち、特に、低分子量である核酸の定量も簡便かつ安全に行うことができるので、新規核酸医薬として期待されているsiRNAにおける最重要課題である患部への運搬法を開発する上で非常に有用な手段となる。そのため、siRNAの各種送達法の開発、及び様々な疾患治療に対応する新規siRNAの開発に利用可能である。
【符号の説明】
【0102】
1、2、4、5 マイクロチューブ
3 カラム
10 サンプル
11 最上層
12 中間層
13 下層
20 サンプル
30 トータルRNA溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光色素を予め結合させた標識核酸を生物に投与、若しくは細胞の培養液に添加する工程(a)と、
前記生物の体内に分布した、若しくは前記細胞に取り込まれた前記標識核酸を、生物由来の核酸、若しくは細胞由来の核酸と同時に抽出して精製する工程(b)と、
前記工程(b)により得た精製物の蛍光強度を測定する工程(c)と、
前記工程(c)の測定値に対し、前記工程(b)中の前記標識核酸の損失量を考慮して、前記標識核酸の定量を行う工程(d)と
を備える核酸の定量法。
【請求項2】
前記核酸は、塩基が10以上、100以下の低分子の核酸であることを特徴とする請求項1に記載の核酸の定量法。
【請求項3】
前記核酸は、siRNA又はmiRNAであることを特徴とする請求項1又は2に記載の核酸の定量法。
【請求項4】
前記損失量は、
前記標識核酸の既知量の希釈系列のサンプルを複数用意し、当該各サンプルに対して前記工程(b)の抽出前、及び精製後それぞれにおいて、前記工程(c)と同様に蛍光強度を測定して前記抽出及び精製によるロス分を考慮した標準曲線を作成し、当該標準曲線に基づいて導出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の核酸の定量法。
【請求項5】
前記損失量は、
前記標識核酸の既知量の希釈系列のサンプルを複数用意し、当該各サンプルに対して前記工程(b)の前記抽出及び精製後において、前記工程(c)と同様に蛍光強度を測定し、前記抽出及び精製によるロス分を考慮した標準曲線を作成し、当該標準曲線に基づいて導出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の核酸の定量法。
【請求項6】
前記損失量は、
前記標識核酸の既知量の希釈系列のサンプルを複数用意し、当該サンプルに対して前記工程(b)の精製を実施する前後それぞれにおいて、前記工程(c)と同様に蛍光強度を測定して前記精製によるロス分を考慮した標準曲線を作成し、当該標準曲線に基づいて導出することを特徴とする1〜3のいずれか1項に記載の核酸の定量法。
【請求項7】
前記損失量は、
前記標識核酸に対して、結合している蛍光色素のみが異なる既知量の対比用標識核酸の希釈系列のサンプルを複数用意し、
前記工程(b)の抽出前に前記サンプルを所定量加え、
前記抽出を実施する前と、前記精製を実施した後それぞれにおいて、前記対比用標識核酸の蛍光強度を前記工程(c)と同様に測定して、当該対比用標識核酸の前記抽出及び精製によるロス量を考慮した標準曲線を作成し、当該標準曲線に基づいて導出することを特徴とする1〜3のいずれか1項に記載の核酸の定量法。
【請求項8】
前記損失量は、
前記標識核酸に対して、結合している蛍光色素のみが異なる既知量の対比用標識核酸の希釈系列のサンプルを複数用意し、
前記工程(b)の精製前に前記サンプルを所定量加え、
前記精製を実施する前後それぞれにおいて、前記対比用標識核酸の蛍光強度を前記工程(c)と同様に測定して、当該対比用標識核酸の前記精製によるロス量を考慮した標準曲線を作成し、当該標準曲線に基づいて導出することを特徴とする1〜3のいずれか1項に記載の核酸の定量法。
【請求項9】
蛍光色素を予め結合させた標識核酸を生物に投与して生物の体内に分布した、若しくは細胞の培養液に添加して取り込まれた前記標識核酸を、生物由来の核酸、若しくは細胞由来の核酸と同時に取り出したものを抽出して精製するサンプル調製手段と、
前記サンプル調製手段により得た精製物の蛍光強度を測定する測定手段と、
前記測定手段により得た測定値に対し、前記サンプル調製手段中の前記標識核酸の損失量を考慮して、前記標識核酸の定量を行う手段と
を備える核酸の定量装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−227003(P2010−227003A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77913(P2009−77913)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(501083643)学校法人慈恵大学 (20)
【Fターム(参考)】