説明

核酸検出

【課題】生物学的または環境サンプル中の核酸の検出のための方法を提供する。
【解決手段】プローブが蛍光標識されていてもよい、プライマーまたはプローブとして使用するための単離DNA配列。目的とする核酸の増幅、cDNAへの変換、その後増幅された核酸がリアル・タイムPCR(RT−PCR)技術によってさらなる増幅のためのテンプレートとして使用される方法。この方法の使用におけるプライマーおよび診断用試験キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、生物学的または環境サンプルから核酸を検出するための方法に関する。本発明は、核酸を検出するための診断用試験キット、ならびに該検出方法で使用するためのプライマーおよびプローブにも関する。
【背景技術】
【0002】
(本発明の背景)
重症急性呼吸器症候群(SARS)は、ヒトの典型的な肺炎の新規に同定された形態である(Drosten et al., "Identification of a novel coronavirus in patients with severe acute respiratory syndrome" The New England Journal of Medicine, (2003) 348:1967-1976, 2003年5月15日発行)。それは、SARSコロナウイルスまたはUrbani株SARS関連コロナウイルスと知られるコロナウイルスの新規株に起因する。そのウイルスは、エアロゾル状態によって効率よく蔓延し、対人接触感染がいわれてきた。疑わしいかまたはその可能性があるSARSの診断は、「重症急性呼吸器症候群(SARS)のサーベイランスについての症例の定義」で特定された次のWHO診断基準によってなされる(World Health Organization,2003年4月30日改定)。しかし、SARSの陽性診断は、新規コロナウイルスに対する抗体の存在の証明、または患者サンプル中のコロナウイルス核酸の存在の証明のいずれかによる病因物質の同定なしには為し得ない。疾患進行により、不可逆的肺損傷を導き、確認されたSARS感染患者の5-10%の死亡率が報告されている。疾患の重症度を制限し、疾患の蔓延を制御するために、出来るだけ早く感染患者を同定することが、迅速な処置を開始するために重要である。
【0003】
ウイルス感染を同定するために最も一般的に使用されている方法は、標準的な血清学的方法による患者の血清サンプル中の抗体の同定であって、この方法は、アガー・ゲル免疫拡散法(AGID)または酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を包含するが、これに限定するものではない。正確で高感度の検出を可能にするに十分な濃度で抗体が産生され得るには、感染後7〜21日かかるため、これらの方法は限定的である。
【0004】
イン・ビトロで感染し得る細胞内でウイルスを培養することは、ウイルスを検出するための十分に確立された方法でもある。しかし、SARSに関連するコロナウイルスは、新規実在物であり、至適成長条件は説明されていない。さらに、アッセイ産物が完全な感染ウイルスであるので、ウイルスの成長に関して、高レベルのバイオセキュリティーが必要とされる。従って、高度な技術スタッフ、装置および施設が要求されるため、通例の診断的使用についてこの技術の適用性が制限される。さらに、ウイルスの成長は、あまりに遅いため、迅速な処置を開始するために十分な時間内に検出することができない。
【0005】
ウイルス遺伝的材料の増幅および検出を基にした分子的方法は、多くの病原性ウイルスについて以前から説明されてきており、SARSコロナウイルスの検出に適用し得る。核酸増幅方法は、一般的に、迅速で特異性が高く、高感度である。
【0006】
様々なタイプの核酸増幅プロセスは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の後のアガロースゲル電気泳動、ネスティッド PCR、リアル・タイムTaqman(登録商標)PCR、分子ビーコンPCR、核酸配列を基にした増幅(NASBA)、等温およびキメラプライマーにより開始される核酸増幅(ICAN)などを含めて、説明されてきた。
【0007】
PCRの後のゲル電気泳動(従来のPCRとして知られている)は、1985年に初めて記載された標準的な技術である。それ以来、その技術は通例的な実験方法となってきた。しかし、それは、比較的遅く、手間のかかる技術である。さらに、最近の開発技術と比較すると、従来のPCRは感受性が低い。
【0008】
ゲル電気泳動に続くネスティッド(Nested)PCRは、従来のPCRの感度を増加させる技術である。ネスティッドPCRは、特定対のDNAオリゴヌクレオチドプライマー(外側のプライマー)を用いる特異的な遺伝子配列の第一の増幅を包含する。この増幅産物は、第二ラウンドの増幅のためのテンプレートとして使用され、そこでは別のプライマー対(内側プライマー)は、第一増幅産物内の領域から選択される。このように、第二の増幅産物は、第一の増幅産物よりも短い。この方法は、それが別の増幅ステップを包含するので、非常に骨のおれる作業である。そのため、この方法は汚染されやすい。
【0009】
NASBAは、Compton J. "Nucleic acid sequence-based amplification" (1991) Nature 350:91-92; Heim AI et al "Highly sensitive detection of gene expression of an intronless gene: amplification of mRNA, but not genomic DNA by nucleic acid sequence based amplification(NASBA)"(1998) Nucleic Acids Research 26(9):2250-2251; および Deiman B et al "Characteristics and applications of nucleic acid sequence based amplification"(2002)Molecular Biotechnology 20:163-179に記載されている。
【0010】
リアル・タイムPCR(全体を通してRT−PCRという)といわれる高度に自動化された方法は、高特異性かつ使用し易い技術であると証明されてきたが、ネスティッドPCRよりも感度が低くなることもあり得る。RT−PCRは、1つの末端では蛍光吸収成分によって標識され、もう一つの末端では蛍光放出成分によって標識された追加のDNAオリゴヌクレオチド分子の使用を包含し、DNAオリゴヌクレオチドプライマー間の標的遺伝子の領域とハイブリダイズする。標識分子は蛍光遺伝子プローブとして知られる。増幅プロセスは継続すると、前進性DNAポリメラーゼ酵素によって蛍光遺伝子プローブの置換および分解により蛍光シグナルが増加する。リアル・タイムPCRは、Desjardin LE et al "Comparison of the ABI 7700 system (TaqMan) and competitive PCR for quantification of IS6110 DNA in sputum during treatment of tuberculosis." (1998) J Clin Microbiol. 36(7):1964-8 および Wang T et al "mRNA quantification by real time TaqMan polymerase chain reaction: validation and comparison with RNase protection" (1999) Anal Biochem. 269(1):198-201に記載されている。
【0011】
Yangらの"Clinical detection of polymerase gene of SARS-associated coronovirus" Academic J First Med (2003) 23(5): 424-427(2003年5月8日発行)は、SARSコロナウイルス特異的プライマーを用いる逆転写酵素PCRの使用に関する。先に開示したDrostenらは、SARSコロナウイルスの検出のためにネスティッドRT−PCRまたはRT−PCRの独立した使用に関する。
【0012】
従来のPCR、ネスティッドPRおよびRT−PCR単独では、広い範囲の患者サンプル中のSARSコロナウイルスを検出するための十分な精度または感度ではないともいえる。PCRによる陰性の結果は、増幅プロトコールで使用されたプライマーおよびプローブの不感受性、SARS−CoV感染の欠如、別の感染性物質により生じた観察される疾患、偽陰性PCR結果、またウイルスまたはその遺伝物質が存在しないか、現在の方法を用いては検出不能レベルであった時点で回収されたその試験標本、などを包含する多くのファクターがウイルス核酸検出に影響するので、必ずしも、患者がSARSに罹っていないということを意味しない。従って、高感度、高特異性およびスピードを合わせもつ増幅技術により、SARSコロナウイルスの核酸の特異的部分を検出することによって、SARS−CoVについてスクリーニングするために十分に感度がある方法を設計し、SARSの診断を改善することが重要である。
【0013】
この発明が、SARSコロナウイルスだけの検出に限定されないで、広く核酸検出について適用し得ることは理解される。すなわち、この発明は、SARSコロナウイルスを包含する病原体およびウイルスの多様なタイプの検出に適用し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
この発明の目的は、感染の初期段階にあるヒトを同定できるような、SARSコロナウイルスを包含する核酸を検出するための高感度な方法を提供することである。
【0015】
また、この発明の目的は、核酸を検出するために、使用し易い診断用キットを設計することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の要約
一般的に、本発明は、様々な生物学的または環境サンプルから、例えばコロナウイルス核酸を抽出および検出するための方法を提供し、その方法は、次のステップ、
(A)SARSコロナウイルスを含有すると疑われるサンプルを回収すること、
(B)回収したサンプルからリボ核酸(RNA)を抽出すること、
(C)RNA/DNA増幅技術を用いて、特異的な標的配列を増幅すること、そして
(D)DNA増幅技術および適当な伝達系、例えば、Taqman(登録商標)プローブまたは分子ビーコンなどを包含する蛍光遺伝子プローブを用いて、標的増幅核酸産物を検出すること、
を含む。
【0017】
さらに、本発明は、標的分子を複製するための核酸複製剤、ここで標的分子はSARSコロナウイルスのRNA配列に相補的な少なくとも一部分を含有する核酸配列である;および複製された標的分子を増幅し、増幅中に複製産物を検出するための核酸複製剤および核酸検出剤、を包含するSARSコロナウイルスを検出するためのキットを提供する。これらの剤は、複製産物を増幅し得るプライマー対および増幅産物に相補的である蛍光遺伝子プローブを包含する。
【0018】
本発明の第一態様に従って、配列番号1〜27のいずれかに記載の単離DNA配列が提供される。
【0019】
第二態様に従って、DNA増幅の際にプライマーまたは蛍光標識プローブとして使用するための配列番号1〜27のいずれかに記載のものを含む単離DNA配列が提供される。プライマーまたはプローブは、配列番号1〜27のいずれかを含み得る。
【0020】
本発明の第三態様に従って、核酸単離に続くDNA増幅によって、その後のリアル・タイム PCRのステップを含む核酸検出方法が提供される。好ましくは、DNA増幅はPCR、NASBAまたは他の適当な核酸増幅技術を含む。
最も好ましくは、該方法は下記ステップ:
i)生物学的または環境サンプルから核酸を抽出すること、
ii)核酸を増幅すること、所望によりPCR、NASBAまたは他の核酸増幅技術を使用すること、そして
iii)リアル・タイムPCRを用いて、ステップ(ii)で産生した核酸を増幅および検出すること、
を含む。
【0021】
より好ましくは、ステップ(ii)は、PCRを用いて核酸を増幅することを含む。ステップ(ii)は、前増幅ステップとしても知られる。この増幅ステップは、DNA増幅およびPCRによる検出を含み得る。あるいは、NASBを用いてもよい。ステップ(ii)の別の適当な核酸増幅技術は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に続くアガロースゲル電気泳動、ネスティドPCR、リアル・タイム Taqman(登録商標)PCR、分子ビーコンPCR、等温でキメラプライマーにより開始される核酸増幅(ICAN)から選択され得る。
【0022】
本発明の方法は、この新規の核酸増幅技術の組合せによって達成される。前増幅ステップに続くリアル・タイムPCRのこの組合せは、核酸を検出するための高感度な方法を有利に提供する。これは、ウイルスまたは他の病原体により感染した初期段階にあるヒトを容易に同定することを可能にする。
【0023】
さらに、本発明の別の態様は、核酸を検出する方法における使用のための配列番号1〜27を含む単離DNA配列に関し、核酸の検出方法における使用のための組成物の製造において、次のステップ:
i)生物学的または環境サンプルから核酸を抽出すること、
ii)核酸を増幅すること、所望により、PCR、NASBAまたはその他の核酸増幅技術を用いること、そして
iii)リアル・タイムPCRを用いて、ステップ(ii)から核酸を増幅および検出すること、
を含む配列番号1〜27を含む単離DNA配列の使用に関する。
【0024】
ステップ(ii)は、前増幅ステップとして知られる。前増幅は、PCRまたはNASBAによって実施され得る。この前増幅ステップのために使用されるプライマーは、どの方法を用いるかによって異なる。
【0025】
検出されるべき核酸は、SARSコロナウイルスRNAまたはcDNAから誘導されるのが好ましい。
【0026】
本発明は、一般的に、生物学的または環境サンプルにおけるSARSコロナウイルスを検出するための診断用試験キットに関し、下記のステップ:
(i)サンプル由来のSARSコロナウイルスRNAを単離するための単離用剤、
(ii)標的分子がSARSコロナウイルスの少なくとも一部分のRNA配列に相補的な核酸配列を包含する、標的分子を複製するための核酸複製剤、および
(iii)標的分子を検出するための核酸検出剤、ここで核酸検出剤が検出分子を包含する、
を含む。
【0027】
本発明のさらに別の態様は、配列番号1〜27と一致する2以上の単離DNA配列を含むSARS診断用試験キットに関する。
【0028】
好ましくは、SARS診断用試験キットは、配列番号1、2、3、4または5、および6、7、8、9または10のいずれか一つに一致する前増幅プライマーを含む。プライマー対のうち1つのプライマーは、配列番号1、2、3、4または5から選択され、もう一つのプライマーは配列番号6、7、8、9または10から選択される。配列番号1〜5は、PCRのフォワードプライマーに対応し、配列番号6〜10は、PCRリバースプライマーと一致する。一方、前増幅プライマーは、配列番号26および27と一致する。配列番号1、2、3、4または5、および6、7、8、9または10は前増幅PCRにおいて使用され得るし、配列番号26および27は、前増幅NASBAにおいて使用され得る。
【0029】
さらに、SARS診断用試験キットは、配列番号11、12、13、14または15、および16、17、18、19または20のいずれか一つと一致するリアル・タイムPCRプライマーも含む。RT−PCRプライマー対の1つのプライマーは、配列番号11、12、13、14または15から選択され、もう一つのプライマーは、配列番号16、17、18、19または20から選択される。さらに、SARS診断用試験キットは、配列番号21、22、23、24または25のいずれか一つと一致するリアル・タイムPCRプローブを包含してもよい。これらのプライマーおよびプローブは、リアル・タイムPCRで使用される。配列番号11〜15は、リアル・タイムPCRフォワードプライマーと一致し、配列番号16〜20は、リアル・タイムPCRリバースプライマーと一致する。配列番号20〜25は、リアル・タイムPCRプローブと一致する。
【0030】
前増幅PCRおよびRT−PCTにおいて使用されたプライマーは、必要であれば、互換的に使用され得る。
【0031】
一方、診断用試験キットは、次のプライマー対;a)配列番号1、2または3、および6、7または8;b)配列番号11、12または13、および16、17または18、および配列番号21、22または23、から選択されるプローブを含む。
【0032】
好ましい実施態様として、診断用試験キットは、下記プライマー対AおよびB;およびCおよびD;およびプローブEを含む:
A)配列番号1、2、3、4または5のいずれかから選択されたプライマー、
B)配列番号6、7、8、9または10のいずれかから選択されたプライマー、
C)配列番号11、12、13、14または15のいずれかから選択されたプライマー、
D)配列番号16、17、18、19または20のいずれかから選択されたプライマー、および
E)配列番号20〜25のいずれかから選択されたプローブ。
この診断用試験キットは、前増幅ステップがPCRを包含する場合に使用され得る。さらに、プライマー対AおよびB;またはCおよびDは、従来のPCRおよび/またはRT−PCRのいずれかを互換的に使用され得る。
【0033】
別の好ましい実施態様として、診断用試験キットは、下記プライマー対A;およびCおよびD;およびプローブEを含む:
A)配列番号26または27から選択されたプライマー、
C)配列番号11、12、13、14または15から選択されたプライマー、
D)配列番号16、17、18、19または20から選択されたプライマー、
E)配列番号20〜25のいずれかから選択されたプローブ。
この診断用試験キットは、前増幅ステップがNASBAを包含する場合に使用され得る。 配列番号26および27は、SARS NASBA T7プライマーおよびSARS NASBA 電気化学発光(ECL)プライマーに各々一致する。
本発明は、図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、この発明の好ましい実施態様のSARSコロナウイルスの検出の全方法に関するフロー・チャートを示す。
【図2】図2は、SARSコロナウイルスの単離方法およびこの発明の好ましい実施態様による相補的なDNA(cDNA)へのその変換を示す。
【図3】図3は、本発明の好ましい実施態様のプローブEによって影響される検出および定量化による、2つのDNA分子、プライマーAおよびBによるSARSコロナウイルスcDNA分子の一部分の増幅、および2つのDNA分子、プライマーCおよびDによるさらなる増幅のためのテンプレートとしての増幅産物の連続使用を示す。
【図4−1】図4は、配列番号1〜27と一致する核酸配列を示す。
【図4−2】図4は、配列番号1〜27と一致する核酸配列を示す。
【図5】図5から8は、増強され、かつ標準的なリアル・タイム増幅の比較を示す。各サンプルについて、△Rn(レポーター染料放出と停止染料放出の定量の比)が、サイクル数に関して表示される。蛍光強度は、インプット標的DNAの量と直接関連する。蛍光の検出レベルに達するようなサイクルが少なければ少ないほど、開始コピー数は多い。図5は、増強されたリアル・タイムPCRを用いて分析された臨床サンプルを示す。SARS−CoV 陽性サンプルは、矢印で示したとおり、SARS−CoV 陰性サンプルとは明らかに異なっている。
【図6】図5から8は、増強され、かつ標準的なリアル・タイム増幅の比較を示す。各サンプルについて、△Rn(レポーター染料放出と停止染料放出の定量の比)が、サイクル数に関して表示される。蛍光強度は、インプット標的DNAの量と直接関連する。蛍光の検出レベルに達するようなサイクルが少なければ少ないほど、開始コピー数は多い。図6は、標準的なリアル・タイムPCRを用いるパネルAに示した同一の臨床サンプルを示す。SARS−CoV、陽性および陰性サンプルは、容易に区別されない。
【図7】図5から8は、増強され、かつ標準的なリアル・タイム増幅の比較を示す。各サンプルについて、△Rn(レポーター染料放出と停止染料放出の定量の比)が、サイクル数に関して表示される。蛍光強度は、インプット標的DNAの量と直接関連する。蛍光の検出レベルに達するようなサイクルが少なければ少ないほど、開始コピー数は多い。図7は、増強されたリアル・タイムPCRを用いるSARS−CoV (2 x 102.5 TCID50/ml [上限トレース]から2 x 10−10.5 TCID50/ml)の連続10倍希釈を示す。低いトレースは、リバース転写陰性コントロールおよびTaqMan(登録商標) 陰性コントロールを示す。
【図8】図5から8は、増強され、かつ標準的なリアル・タイム増幅の比較を示す。各サンプルについて、△Rn(レポーター染料放出と停止染料放出の定量の比)が、サイクル数に関して表示される。蛍光強度は、インプット標的DNAの量と直接関連する。蛍光の検出レベルに達するようなサイクルが少なければ少ないほど、開始コピー数は多い。図8は、標準的なリアル・タイムPCRを用いるSARS−CoV (2 x 102.5 TCID50/ml [上限トレース] から2 x 10−10.5 TCID50/ml)の連続10倍希釈を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(好ましい実施態様の詳細な説明)
急速に、核酸増幅は、患者組織における感染生物体の存在を直接示すことによって多くの疾患の診断を確認するための標準的な臨床検査方法となってきた。該方法は、それらの特異性および感度により、迅速に感染を確認でき、抗ウイルス治療の効果をモニターされるようになったので、SARSの発生中に不可欠なものとなった。SARS−CoVに対する宿主抗体の存在を証明することによるSARS診断アッセイは、ELISAおよび免疫蛍光などを用いて開発されてきた。しかし、そのような試験は、核酸方法の感度を欠くことが多く、抗体が検出レベルに達するまでに7−21日を要するので、新たに感染した患者を検出できない。
【0036】
本発明は、核酸、例えば、生物的および環境サンプル中のSARSコロナウイルスのRNAまたはcDNA、を検出するための高感度な方法を提供する。かかる生物サンプルは、血液、痰、血清、血漿、鼻喉頭上部スワブ、口腔咽頭スワブ、尿、便、その他体液、および環境サンプル、例えば、水、汚水、廃棄物などを包含する。
【0037】
核酸検出のための本発明の方法は、前増幅ステップ後のリアル・タイムPCRを包含する。Lauら " A real-time PCR for SARS-corona virus incorporating target gene pre-amplification " Biochemical and Biophysical Research Communication (2003) 312:1290-1296の内容目録を、出典明示により本明細書の一部とする。PCRおよびリアル・タイムPCR(RT−PCR)は、当業者には既知の技術である。蛍光定量化を用いるリアル・タイム・ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)は、DNAの検出について迅速で高感度かつ高特異的な方法であり、SARSコロナウイルス核酸の検出に適用され得る。この技術単独についての結果は、3時間程度で得ることができる。RT−PCRは、蛍光性の定量を用い得るが、蛍光定量のみに限定しない。RT−PCRは、例えば、好ましくは片方では蛍光吸収成分により標識し、そしてもう片方で蛍光放出成分により標識された別のDNAオリゴヌクレオチド分子(本明細書中に示されるように、プローブとして)の使用を包含する。さらなるDNAオリゴヌクレオチドは、DNAオリゴヌクレオチドプライマー間の目的とする核酸の領域とハイブリダイズする。そのため、シグナル発生物は、適当な検出器で検出でき、定量化できる光子を放出するように刺激され得る蛍光遺伝子分子、分子ビーコンまたは他の分子であり得る。
【0038】
増幅の開始ラウンドの産物が、その後の増幅のためのテンプレートとして使用されるネスティッドPCR方法は、多くの標的遺伝子の検出の適合度および感度を増加させるとよく知られている。かかる前増幅方法は、従来のPCR技術以上にそれらの一般に秀でた感度のために、様々なリアル・タイムPCRの適用には不必要であると考えられている。しかしながら、目的の標的遺伝子が少なく、および/または他の汚染物質がバックグラウンド中に存在する状況では、驚くべき事に、本発明による前増幅が、検出限界を改善するのに有利であることがわかった。
【0039】
本発明の方法、すなわち前増幅後のリアル・タイムPCRは、"増強されたリアル・タイムPCR(Enhanced Real-time PCR)"として本明細書中に示す。前増幅は、PCR、NASBAまたは他の核酸増幅技術によっておこり得る。このERT技術の1つの利点は、驚くべきことに、検出限界は、通常のTaqMan(登録商標)リアル・タイム・PCRの100倍以上であるTCID50(2×10-11.5)までであり、従来のPCRの10倍以上であることが見出された。さらなる利点は、この増強されたリアル・タイムPCR検出についてのターンアラウンド時間が、約5.5時間要することである。全体の検出方法の時間をさらに短縮し、試験の感度を増加させるために、前増幅のためにNASBA技術とリアル・タイムPCRとを組み合わせる方法が使用され得る。前増幅ステップがNASBAを含有する場合に、有利なことには、ターンアラウンド時間が4時間の範囲内であることがわかった。すなわち、この組合せられた前増幅/RT−PCR技術についての検出限界および時間に関する利点は、双方予想外のことであり、また有利なものであった。
【0040】
ERTは、陽性と陰性サンプルとを明確な手法で識別することを可能にし得る。これは、いかなる誤診断または解釈も許容してはならない臨床診断において特に重要である。
【0041】
同一サンプルを標準的なリアル・タイムPCRによって分析する時に、SARS−CoV陽性および陰性増幅曲線が、別のものと近接して重複する傾向がある場合に(図6)、陽性および陰性シグナル間の判別はより不明瞭である。そのため、リアル・タイムPCRの結果を解釈する際に、経験が浅い臨床医は、ERTにより得られた増強された結果を用いて、陽性と陰性シグナルとの違いを容易に区別することが可能である。これは、従来のリアル・タイムPCRを超える本発明の非常に重要な利点である。
【0042】
増強されたリアル・タイムPCRの増強された感度により、単なる臨床診断以上に多くの分野への適用を可能とする。媒介物および汚水がSARS発生と関連すると考えられるなら、核酸検出方法を環境サンプルに適用するにふさわしいことは明らかである。共有面積の表面(エレベーター、待合所など)をSARS−CoV核酸のエビデンスについて試験することは、疾患の伝搬をモニターする機会および洗浄/滅菌方法の効力をモニターする機会を提供する。
【0043】
SARSの徴候および症状は、特に高リスク患者、例えば発熱しない老人では非常に変化し易いので、SARS−CoVの存在を決定するための高感度な方法は、医療環境におけるウイルスの伝搬を制限するのに非常に有用である。早期検出は、地域発生を含めて、より迅速に実行されるべき緊急プランを可能にし、社会的関心そして潜在的な経済効果を制限して、SARS−CoVの国際的蔓延を防止することを可能にする。
この発明の好ましい実施態様は、図を参考にして説明される。表1は、図1〜3に使用される符号の説明を示す。
【0044】
【表1】

【0045】
生物サンプル、例えば鼻咽頭スワブ(anoropharyngeal swab)中のSARSコロナウイルス濃度は、SARSコロナウイルス・ウイルスRNAの存在の検出を生物サンプルに対して直接実施できないような非常に低い濃度かもしれない。検出目的のための十分な量まで、ウイルスRNA分子の数を増加させるために、適当な増幅技術が必要とされる。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、DNA増幅についての特別な用途をもった柔軟な技術であると知られている。RNAのDNAへの変換は、PCRプロセスを、RNAゲノムを有する病原体、例えばSARSコロナウイルスをカバーするよう拡張することを可能にする。次いで、増幅されたDNA分子は、適当な技術のいずれによって検出してもよい
【0046】
SARSコロナウイルスは、リボ核酸の1本鎖の形態(RNA10)でその遺伝物質を含有する。該ウイルスRNAは、その再生に必要な遺伝子を含有し、その主な遺伝子の1つはポリメラーゼとよばれている。この遺伝子は、分子の5’末端から数えて、約2800個のヌクレオチド長である。
【0047】
図1は、検出キットによってSARSコロナウイルスの検出のための全体的な方法を示す。図1に示したように、RNAの1本鎖形態である標的SARSコロナウイルスのウイルス核酸分子は、最初に生物サンプルから抽出される。不都合のない生物サンプル型は、血液、血清/血漿、末梢血液単核細胞/末梢血液リンパ球(PBMC/PBL)、痰、尿、糞便、咽頭スワブ、皮膚創傷スワブ、髄液、頸管塗抹、膿サンプル、食品基盤(food matrices)および脳、脾臓および肝臓を含む身体様々な部分からの組織を包含し得る。列挙されていない他のサンプルを用いてもよい。単離用剤は、この発明の検出キットの核酸抽出方法を達成する。
【0048】
標的SARSコロナウイルス・ウイルスRNA分子(10)が生物サンプルから抽出された後に、サンプル中のRNA分子の量は検出されるべき十分な量では存在しないかもしれない。そのため、SARSコロナウイルス・ウイルスRNA分子の一部が、適当な増幅技術、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)またはNASBAまたはRT−PCRによって、標的核酸分子に複製される。次いで、標的核酸分子は、適当な方法によって検出されうる。RT−PCRに先立って、前増幅ステップを使用することは、驚くべきことに、従来のPCR技術単独によって提供される以上に、より高い検出レベル、改善された感度およびより短い時間を含めて、ある範囲の価値を提供する。
【0049】
次いで単離および増幅方法の詳細を説明する。
核酸単離:
SARSコロナウイルス・ウイルスRNA分子(10)は、適当な単離用剤を生物サンプルに適用することによって生物サンプルから単離され得る。好ましくは、溶菌剤が、単離用剤の前に用いられ得る。溶菌剤、例えば溶菌緩衝液は、タンパク質および脂質を溶解すること、そしてこれらの材料がより簡単にサンプルから除去され得るように生物サンプル中のタンパク質を変性させることに関与する。さらに、溶菌剤は、長期貯蔵目的のために、RNA分子を安定化するために緩衝液として働き得る。図2に示したとおり、RNA分子は、室温で48時間まで、溶菌緩衝液中で安定であり得るし、−70℃で無期限に貯蔵され得る。そのように行う利点は、かかるプロセスを行うのに適当でない試料採取場所で、分析を行う必要がないことである。
【0050】
適当な溶菌緩衝液の例は、5Mのグアニジンチオシアン酸塩およびTris/HClを包含し得る。かかる溶菌緩衝液は、当業者にはよく知られている。タンパク質および脂質の溶解、タンパク質の変性、RNA分子の安定化という目的をなお達成し得る様々な組成物を有する溶菌剤は、この発明の検出キットにおいて利用され得る。
【0051】
溶菌剤を生物サンプルに適用した後の次のステップは、単離用剤の使用によるサンプル由来の核酸分子の単離である。図2は、検出キットにおける全体的な単離方法を説明するものである。溶菌剤を生物サンプルに適用した後、核酸と共に他の望ましくない成分は、溶液形態にある。次いで、この溶液を、核酸に対して高親和性を有する小さなクロマトグラフィーカラム(12)に供する。非核酸成分を、洗浄によりカラムから除去し得る。次いで、核酸を、適当な溶離剤を用いてカラムから特異的に溶出し得る。ここで説明した核酸精製方法は、当業者には既知である。
【0052】
サンプル中に含まれる核酸が単離された後に、必要であれば、その後SARSコロナウイルス・ウイルスRNA分子が、その後、逆転写酵素の使用により相補的DNA(cDNA)(16)コピーへと変換されるように、増幅剤が核酸の混合物(14)に用いられてもよい。この方法は、当業者には既知である。cDNAへの変換は、ある特定の状況にのみ必要とされる。すなわち、RNAまたはcDNAが、前増幅に使用される方法によって、次のステップに対するテンプレートとなり得る。
【0053】
前増幅ステップ:
SARSコロナウイルスゲノムの一部が、いわゆる前増幅ステップにおいて、例えば、PCR技術またはNASBAまたはその他の適当な核酸増幅技術によって検出目的のために複製される。増幅中に、cDNAおよび一本鎖RNAの両方が合成される。
【0054】
NASBA(核酸配列を基にした増幅)は、核酸の増幅のための連続的な、等温の、酵素を基にした方法である。該技術は、逆転写酵素、リボヌクレアーゼ-H、RNAポリメラーゼおよび2つの特異的に設計されたDNAオリゴヌクレオチドプライマーの混合物を用いる。NASBAは、RNAをcDNAに変換する必要がないので、RNAに対して直接機能し得る。配列番号26および27は、NASBA前増幅ステップにおいてプライマーとして使用され得る。
【0055】
一方、従来のPCRまたはその他の核酸増幅技術もまた、この前増幅ステップにおいて使用され得る。配列番号1〜10は、前増幅PCRステップにおいてプライマーとして使用され得る。一方、配列番号11〜20は、この前増幅PCRステップについてはプライマーとして使用され得る。PCRのために、SARS RNAは、まずcDNAに変換され、次いでこれを前増幅PCRのためのテンプレートとして使用する。
【0056】
PCRによる前増幅ステップ:
図3に示したように、増幅プロセスは、95℃に加熱することによって1本鎖形態となっている標的SARSコロナウイルスのウイルスcDNA(16)に対してプライマーA(18)およびB(20)をアニーリングして開始される。該プライマーAおよびBは、それらが標的cDNA分子に結合し得るように設計される。結合の正確な位置は、試験したウイルスの株に依存する。結合部位は、特定の期間の後に変化し得る。プライマーAおよびBの重要な技術的特徴は、それらが各々SARSコロナウイルスのウイルスcDNAの一部に結合し得るままであることである。
【0057】
従って、プライマーAおよびBは、少なくとも一部分のSARSコロナウイルスのウイルスcDNAに対してDNA配列相補性をコードする結合配列を包含する。この発明の目的のために、プライマーAがSARSコロナウイルスのウイルスcDNAに結合するための適当な領域は、SARSコロナウイルスのポリメラーゼ遺伝子ヌクレオチド18319から18338の間の領域であり、それは結合機能について最小数のヌクレオチドを含有することが見出された。これらの試験で使用したタイプの生物体は、SARSコロナウイルスHKU−39849,GenBank Accession number AY278491である。従って、プライマーAの結合配列は、好ましくは、図4で配列番号1に記載されたSARSコロナウイルスのポリメラーゼ遺伝子のヌクレオチド18319から18338の間の領域に相補的であるDNA配列を包含する。配列番号1は、5’−3’方向で形式的に記載されていることに注意すべきである。結果として、ウイルス遺伝子に関して結合の方向は、"バック"から"フロント"である。
【0058】
あるいは、SARSコロナウイルスのポリメラーゼ遺伝子のヌクレオチド18363から18382(配列番号2、図4)、またはヌクレオチド18404から18386(配列番号3、図4)は、プライマーAにおいて結合目的のために使用され得る。あるいは、配列番号4または5が、プライマーAにおいて結合目的のために使用され得る。
【0059】
この発明の目的のために、プライマーBをSARSコロナウイルスのウイルスcDNAに結合するために適当な領域が、結合機能について最小数のヌクレオチドを含有することが見出されたSARSコロナウイルスのポリメラーゼ遺伝子のヌクレオチド18157から18179の間の領域であることが見出された。これらの試験で使用したタイプの生物体は、SARSコロナウイルスHKU−39849,GenBank Accession number AY278491である。従って、プライマーBの結合配列は、好ましくは、図4において配列番号6に記載のSARSコロナウイルスのポリメラーゼ遺伝子のヌクレオチド18157から18179の間の領域に相補的であるDNA配列を包含する。配列番号6が、5’−3’方向で形式的に記載されていることに注意すべきである。
【0060】
あるいは、SARSコロナウイルスのポリメラーゼ遺伝子のヌクレオチド18125から18144(配列番号7、図4)またはヌクレオチド18103から18122(配列番号8、図4)が、プライマーBにおいて結合目的のために使用され得る。あるいは、配列番号9または10は、プライマーBにおいて結合目的のために使用され得る。
【0061】
プライマーAおよびBがSARSコロナウイルスのウイルスcDNAに結合した後に、プライマーAおよびBが、プライマーAおよびBの3’末端で適当なヌクレオチドの存在下で、適当なポリメラーゼ、例えばTaqDNAポリメラーゼの作用を介して伸張される。こうして、一部のSARSコロナウイルス・ウイルスRNAに相補的である下記配列(a)DNA配列を包含する伸張されたプライマーA(22)およびB(24)が、産生される。
【0062】
適当な増幅プログラムの適用によって、SARSコロナウイルスcDNAは、二本鎖DNA産物(26)の過剰量に変換され得る。適当な増幅プログラムは下記である:
【表2】

【0063】
NASBAによる前増幅:
一方、前増幅は、核酸の増幅のために連続した、等温の、酵素を基にした方法であるNASBA(核酸配列を基にした増幅)によって生じさせ得る。該技術は、逆転写酵素、リボヌクレアーゼ-H、RNAポリメラーゼおよび2つの特別に設計されたDNAオリゴヌクレオチドプライマーの混合物を用いる。増幅中、cDNAおよび1本鎖RNAの両方が合成される。そうして、TaqManリアル・タイムPCRは、NASBA産物中のcDNAの存在と共に行われうる。RNAは、NASBAについてのテンプレートとして作用できる、そのため、この状況ではSARS RNAをcDNAに変換する必要はない。
【0064】
NASBAを実行するための適当なプライマーは、SARS NASBAT7プライマーおよびSARS NASBA ECLプライマー各々に対応する配列番号26および27を包含する。これらのNASBAプライマーは、前増幅ステップでPCRプライマー配列番号1〜10の代わりに使用され得る。
【0065】
リアル・タイムPCR:
検出方法の感度を高めるために、前増幅ステップ、すなわちPCR反応またはNASBAの産物は、別の増幅方法、すなわちRT−PCR 方法において使用される。必要なら、プライマー配列番号1〜10を代わりに使用してもよいが、配列番号11〜20は、RT−PCRを実施するためのプライマーとして使用され得る。配列番号21〜25は、RT−PCRにおけるプローブとして使用される。
【0066】
検出目的を達成するために、前増幅ステップ、例えばPCRまたはNASBAの増幅された2本鎖DNA産物(26)は、RT−PCRを利用するさらなる増幅方法、好ましくは、TaqMan(登録商標)定量化リアル・タイムPCRに対するテンプレートとして使用され得る。別の増幅のためのテンプレートとして使用され得る前に、複製されたDNAは、後続の増幅方法の効率を最高にするために、適当な液体で最初に希釈しなければならない。複製したDNA分子のための適当な希釈剤は、ヌクレアーゼ不含水または緩衝液を包含する。RT−PCR方法のための適当な増幅プログラムは下記である:
【表3】

【0067】
増幅の程度は、適当な装置、例えばABI Prism 7700遺伝子検出システム(Applied Biosystems) において、自動的にモニターされ得る。
【0068】
RT−PCRによる増幅には、2つのDNAオリゴヌクレオチドプライマー(プライマーC(28)およびプライマーD(30)および蛍光遺伝子プローブ(E、32)が必要である。
【0069】
この発明の目的のために、プライマーCがSARSコロナウイルスのウイルスcDNA増幅産物に結合するための適切な領域は、結合機能について最小数のヌクレオチドを含有することが見出されたSARSコロナウイルスのポリメラーゼ遺伝子のヌクレオチド18264から18245の間の領域であることがわかった。これらの試験で使用したタイプの生物体は、SARSコロナウイルスHKU−39849,GenBank Accession number AY278491である。従って、プライマーCの結合配列は、好ましくは、図4の配列番号11に記載されたSARSコロナウイルスのポリメラーゼ遺伝子のヌクレオチド18264から18245の間の領域に相補的であるDNA配列を包含する。配列番号11は、5’−3’方向で形式的に記載されていることに注意すべきである。結果として、ウイルス遺伝子に関して結合の方向は、"バック"から"フロント"である。
【0070】
あるいは、SARSコロナウイルスのポリメラーゼ遺伝子のヌクレオチド18295から18314(配列番号12、図4)、またはヌクレオチド18322から18304 (配列番号13、図4)は、プライマーCにおいて結合目的のために使用され得る。あるいは、配列番号14または15が、プライマーCにおいて結合目的のために使用され得る。
【0071】
この発明の目的のために、プライマーDがSARSコロナウイルスのウイルスcDNA増幅産物に結合するための適当な領域は、結合機能のための最小数のヌクレオチドを含有することが見出されたSARSコロナウイルスのポリメラーゼ遺伝子のヌクレオチド18193から18211の間の領域であることがわかった。これらの試験で使用したタイプの生物体は、SARSコロナウイルスHKU−39849,GenBank Accession number AY278491である。従って、プライマーDの結合配列は、図4で配列番号16に記載されたSARSコロナウイルスのポリメラーゼ遺伝子のヌクレオチド18193から18211の間の領域に相補的であるDNA配列を包含するのが好ましい。配列番号16は、5’−3’方向で形式的に記載されていることに注意すべきである。
【0072】
あるいは、SARSコロナウイルスのポリメラーゼ遺伝子のヌクレオチド18219から18336 (配列番号17、図4)、またはヌクレオチド18205から18220 (配列番号18、図4)は、プライマーDにおいて結合目的のために使用され得る。あるいは、配列番号19または20が、プライマーDにおいて結合目的のために使用され得る。
【0073】
この発明の目的のために、プライマーEがSARSコロナウイルスのウイルスcDNA増幅産物に結合するための適当な領域は、結合機能のための最小数のヌクレオチドを含有することが見出されたSARSコロナウイルスのポリメラーゼ遺伝子のヌクレオチド18217から18234の間の領域であることがわかった。これらの試験で使用したタイプの生物体は、SARSコロナウイルスHKU−39849,GenBank Accession number AY278491である。従って、プローブEの結合配列は、図4で配列番号21に記載されたSARSコロナウイルスのポリメラーゼ遺伝子のヌクレオチド18217から18234の間の領域に相補的であるDNA配列を包含するのが好ましい。
【0074】
あるいは、SARSコロナウイルスのポリメラーゼ遺伝子のヌクレオチド18241から18260 (配列番号22、図4)、またはヌクレオチド18228から18246 (配列番号23、図4)は、プローブEにおいて結合目的のために使用される。あるいは、配列番号24または25が、プローブEにおいて結合目的のために使用され得る。
【0075】
プライマーCおよびDが、2本鎖産物(34)を形成するために、適当な酵素、例えばTaqDNAポリメラーゼおよび追加のヌクレオチドの作用を介して、3’末端から伸張される。増幅中に、プローブEは、DNAポリメラーゼ酵素のエキソヌクレアーゼ作用により置換され、減成される。これは、増幅の程度、すなわち増幅産物の濃度に相関し得る蛍光シグナルの増加を生じる。このように、RT−PCR増幅方法の産物は、下記DNA配列を各々含有する大量の標的DNA分子である:
(a)元々のSARSコロナウイルスの一部分に相補的なDNA配列。
【0076】
TaqMan(登録商標)リアル・タイム プローブの配列は、増幅されたDNA産物のどのような領域にも相補的であり、その末端がプライマーCおよびDによって定義され得る。しかし、これは増幅反応の発生を防止するため、該プローブ配列はプライマーCおよびDのものと重複し得ない。
【0077】
増強されたリアル・タイムPCR
前増幅およびリアル・タイムPCR技術を組み合わせたこの技術は、"増強されたリアル・タイムPCR"(ERT)として示される。図3は、PCRおよびRT−PCRの組合せによって、SARSコロナウイルス・ウイルスRNAの増幅のための概略図を示す。
【0078】
この新規アッセイの目立った態様は、RT−PCRの第二回目のラウンドのテンプレートとして、前増幅ステップ、例えば従来のPCRまたはNASBAの開始ラウンドいずれかの増幅産物の使用である。この組合せ技術は、SARS−CoV検出の感度を増加させる。所望により、同一プライマーは、従来のPCRおよびRT−PCR段階による開始前増幅のために使用され得る。この追加の前増幅ステップは、臨床サンプル中のSARS−CoVの検出の感度を改善する。
【0079】
表2は、列挙したプライマー配列が、CUHK AG03 AY 345988 GenBank配列を基にしたSARS配列にどのように対応するかを示す。
【表4】


配列番号4、9、14、19、24は、SARSヌクレオカプシドタンパク質(NP)遺伝子から得られる、配列番号5、10、15、20および25は、SARSポリメラーゼ(Pol)遺伝子から得られる。
【0080】
さらに、本発明は、生物学的または環境サンプル中のSARSコロナウイルスの検出するためのキット製造において、第一および第二の精製かつ単離されたDNA分子の使用に関し、ここで、該SARSコロナウイルスのRNA分子は単離用剤によって生物学的または環境サンプルから単離される;標的分子は、第一および第二の精製かつ単離されたDNA分子を包含する核酸複製剤によって複製され、該標的分子は、SARSコロナウイルスの少なくとも一部分のRNA配列に相補的な核酸配列と検出分子に結合するための核酸配列を包含し、該標的分子は核酸検出剤によって検出され、該核酸検出剤は検出分子を包含する。
【0081】
RNAまたは他の核酸であり得るが、好ましくは、標的分子はcDNA分子である。第一の精製かつ単離されたDNA分子は、第一の精製かつ単離されたDNA分子が酵素およびDNAヌクレオチドの存在下で伸張し、第一の精製かつ単離されたDNA分子がSARSコロナウイルスの少なくとも一部分のcDNA配列と結合する場合にSARSコロナウイルスの少なくとも一部分のRNA配列に対して相補的なDNA配列を包含しているDNA配列を生成するように、SARSコロナウイルスの少なくとも一部分のRNA配列と結合するためのDNA配列を含んでいる。
【0082】
より好ましくは、第一のDNA配列は、配列番号1、2、3、4または5に記載のDNA配列対の一つ、配列番号6、7、8、9または10に記載のDNA配列対のいずれか一つをコードし得る。一方、第一のDNA配列は、配列番号26および27に記載のDNA配列対をコードし得る。
【0083】
さらに、核酸複製剤は、少なくとも一部分のSARSコロナウイルスのRNA配列に相補的なDNA配列を包含するDNAに結合する場合、少なくとも一部分のSARSコロナウイルスのRNA配列をコードするDNA配列を含むDNA配列を生成するために、酵素およびDNAヌクレオチドの存在下で伸張するように、少なくとも一部分のSARSコロナウイルスのRNA配列に相補的なDNA配列を含むDNA分子を包含する第二の精製かつ単離されたDNA分子を包含し得る。より好ましくは、DNA配列は、配列番号11、12、13、14または15に記載のDNA配列対のいずれか一つを、配列番号16、17、18、19または20に記載のDNA配列対のいずれか一つと組み合わせて、コードする。複製されたDNA産物は、さらに増幅する前に希釈され得る。
【0084】
検出分子は、標的分子に結合するための、少なくとも一部分のSARSコロナウイルスのRNA配列をコードするDNA配列;およびシグナル発生物を包含し得る。
【0085】
シグナル発生物は、適当な検出器において検出および定量し得る光子を放出するように刺激し得る次のうちの一つを含みうる:蛍光遺伝子分子、分子ビーコン、その他の分子。好ましくは、検出分子のDNA配列は、配列番号20から25に記載のDNA配列対のいずれか一つをコードする。
【0086】
本発明は、下記の非限定的な実施例で説明される。本発明の範囲を逸脱することなく、様々な変更および修飾が下記実施例および方法に適用され得ることに注目すべきである。
【実施例】
【0087】
実施例
下記実施例で使用した成分および遺伝子プロトコールを、下記に説明する:
サンプル
核酸を単離するために使用したサンプルは、SARS患者から得たもので、中国の北京にある病院から提供された。
ボックスA(核酸単離)
Qiagen RNeasy(登録商標)Mini Kit 核酸単離キット
ボックスB(核酸増幅)
Mastermix (0.5 ml)(Eurogentecから購入)
dUTP (0.2 mM dATP、dCTP、dGTP および 0.4 mM dUTP)を有するdNTPs、HotStart TaqDNAポリメラーゼ、MgCl、ウラシル-N-グリコシラーゼ(UNG)含有物および不動対照(Passive Reference)。
【0088】
SARSプライマー(20μl)
SARSに関連のあるコロナウイルスのポリメラーゼ遺伝子領域に相補的なDNAオリゴヌクレオチド、かつ配列番号1〜20および26および27の包含物。
【0089】
SARSプローブ(10μl)
SARSと関連があるコロナウイルスのポリメラーゼ遺伝子の領域に相補的なDNAオリゴヌクレオチドであって、蛍光放出標識と蛍光消光分子の両方で標識され、配列番号21〜25を包含するものである。
0.2 mMの各SARSプライマー+0.24 mM TaqMan SARSプローブを、ユニバーサル・マスターミックスに添加した。
【0090】
SARS陽性コントロール(10 μl)
SARSに関連するコロナウイルスのポリメラーゼ遺伝子の一部分を含有する、高精製度かつ非感染プラスミド。
【0091】
試薬調整のためのプロトコール
ボックスA(核酸単離)
要求されているように、RNeasy Mini-カラム(サンプルあたり1つ)の十分な数を調製した。RLT緩衝液(サンプルあたり0.4 ml)、RW1 緩衝液 (サンプルあたり0.7 ml)およびRPE緩衝液(サンプルあたり0.5 ml)(全てはRNeasy キットにおいて提供される)を要求されているように調製し、室温にゆっくりと温めた。70%のエタノール(サンプルあたり0.4 ml)およびヌクレアーゼ不含水(サンプルあたり50μ)を、要求されているように、調製し、室温までゆっくりと温めた。
【0092】
ボックスB(核酸増幅)
Mastermix、SARSプライマー、SARSプローブ、精製した核酸テンプレート(サンプル)およびヌクレアーゼ不含水を、要求されているように、調製し、室温までゆっくりと温めた。
【0093】
核酸抽出プロトコール(Qiagen RNeasy(登録商標)Mini Kit)
1.サンプル(0.4 ml)およびRLT緩衝液(0.4 ml)を一緒に混合した。
2.70%エタノール(0.4 ml)をチューブに添加した。
3.溶液混合物(0.6 ml)を、RNeasy カラムに添加した。該チューブをゆっくりと締めて、15秒、約10,000xgで遠心分離した。洗液(flow-through)を、回収チューブ(2 ml)に取った。ステップ3を繰り返した。
4.RW1緩衝液(0.7 ml)をRNeasyカラムに添加した。チューブをゆっくりと締め、15秒間、約10,000xgで遠心分離し、カラムを洗浄した。洗液(flow-through)を廃棄した。
5.RPE緩衝液(0.5 ml)を、RNeasyカラムに添加し、15秒、約10,000xgで遠心分離した。洗液を廃棄した。ステップ5を繰り返した。
6.該カラムを、さらに2分、約10,000xgで遠心分離した。
7.RNeasyカラムを、新規の1.5 ml回収チューブに移した。RNase不含水(50μl)を、シリカゲル膜上に直接ピペットで移し、3分間室温でインキュベートした。
8.RNAを、1分、約10,000xgで遠心分離に供し、溶出した。
9.核酸、RNAを得た。
【0094】
配列決定プロトコール
アンプリコンが、目的の標的配列決定反応と一致することを確認するために増幅反応の産物を配列決定した。配列決定反応は、製品説明書に従って市販購入し得る配列決定キット(Applied Biosystems)を用いて行った。DNA配列を、373A sequencer system (Applied Biosystems)を用いて配列決定反応を解析することによって得た。DNA配列を、the National Center for Bioethechnology Information (NCBI) (http://www.ncbi.nlm.nih.gov)から利用できるBLAST配列比較ツールを用いて分析した。
【0095】
実施例1:
前増幅のためのPCRを用いる増強強化リアル・タイムPCR
PCR前増幅:
全容量(25μl)において、下記成分を混合した:ヌクレアーゼ不含水、0.2mM dNTP、1U Platinum TaqDNAポリメラーゼ(Invitrogen)、5mM MgCl、1xPCR緩衝液、プライマー(10μM)およびcDNAテンプレート(約100ng)。PCR増幅を、下記の温度プロファイルを用いてMasterCycler (Eppendorf)で行った:
【表5】

【0096】
リアル・タイムPCR
PCR前増幅の第一のラウンドの後、一部分の産物を、RT−PCRを利用するさらなる増幅のためのテンプレートとして使用した。
PCR成分を、表3で記載した割合で混合した。
表3
【表6】

【0097】
RT−PCR装置(ABI 7700)を、表4の増幅プロファイルを用いてプログラムした。
【表7】

【0098】
PCR前増幅に続くRT−PCRを用いるSARSコロナウイルス検出の結果を、表5および6に示した。該結果を、Perkin Elmer ABI 310 Genetic Analyzerおよび上記した一般的なプロトコールを用いるDNA配列決定によって確認した。
【0099】
SARS患者から得られた核酸サンプルに対する種々の増幅方法の比較
表5および6に示した結果を、様々な患者サンプルから単離された核酸を増幅することを試みることによって得た。サンプルは、SARS患者から得られ、中国の上海の病院から提供された。各サンプルを、3つの異なる方法によって試験した:
i)アガロースゲル電気泳動を用いる従来のPCR
ii)リアル・タイム TaqMan(登録商標)PCR、および
iii)新規に説明した方法、前増幅ステップを用いる増強されたRT−PCR。
【0100】
従来のPCRを、PCR前増幅と同じプロトコールを用いて実施した。リアル・タイム TaqMan(登録商標)PCRを、ERT方法と同じプロトコールを用いて実施した。
【0101】
【表8】

【0102】
感度試験の結果
コロナウイルスRNAを抽出し、cDNAへ転写した。該cDNAを連続希釈し、表6に記載の3つの方法によって試験した。
【表9】

【0103】
実施例2
前増幅についてPCRを用いる増幅されたリアル・タイムPCR
臨床サンプルを、疑わしいか、もしくは潜在的SARS症例として診断された120人の患者から回収し、実施例1のプロトコールを用いて、従来のPCRの後のアガロースゲル電気泳動、従来のTaqMan(登録商標)リアル・タイムPCRおよび本発明の増強されたTaqMan(登録商標)リアル・タイムPCRアッセイによって分析した。
【0104】
ERTを用いて、SARS−CoVポリメラーゼ遺伝子の約190bp 領域を、従来のPCRによりcDNAから増幅させた。アンプリコンを配列決定し、SARS−CoVの予測領域と一致することを確認した。続いて、このPCR産物を、RT−PCR プライマーを用いる増強されたリアル・タイムPCRプロトコールのためのテンプレートとして使用した。このプロトコールについて、標準的なリアル・タイム 方法による21/120(18.3%)、および様々な従来のPCR方法による10.6%のみの平均と比較して、28/120(23.3%)患者サンプルをSARS−CoV陽性と同定した。適当な陰性、陽性およびPCR阻害コントロールを、増幅方法の各段階で用いた。
【0105】
臨床サンプルについて標準的および増強されたリアル・タイムPCRデータの選択を示した(図5から8)。SARS−CoV陽性およびSARS−CoV陰性サンプルの間の明確な判別は、明らかである(図5、矢印で示した)。陽性および陰性シグナルの間の判別は、同一サンプルを標準的なリアル・タイムPCRによって分析し、そこでSARS−CoV陽性および陰性増幅曲線が、お互いに密接に重なる傾向がある場合には、一層不明瞭である(図7)。ERTによって得られた増強された結果を用いて、陽性および陰性シグナル間を容易に区別するようにリアル・タイムPCRの結果を判断することは、さらに容易である。増強されたリアル・タイムPCR方法は、従来のリアル・タイムPCR方法と比較して、SARS−CoV 陽性サンプルのためのサイクル時間(Ct)値の低下を導く。Ct値35.0は、そうでないものからのSARS−CoV核酸を含有するサンプル間を明白に区別するための適当なカット・オフ値である。
【0106】
分析感度
各増幅方法の検出限界を、香港の患者から得たSARS−CoV(2x102.5 TCID50/ml)の培養サンプルから抽出した全核酸を連続希釈することによって測定した。従来のPCR、標準的なリアル・タイムPCRおよび増強されたリアル・タイムPCR方法の検出限界は、各々2x 10-5.5 TCID50/ml、2x10-10.5 TCID50/ml (図1D)および2x10-12.5TCID50/ml(図1C)に相当する。このように、増強されたリアル・タイムPCR方法は、標準的なリアル・タイムPCRよりも少なくとも10倍以上の高い感度であり、SARS−CoVの分子検出のために現在使用されている従来のいずれのPCR技術よりも10倍以上感度が高い。ウイルス培養によるSARS−CoVの検出は、増強されたリアル・タイムPCRによって検出された3/28(10.7%)の症例のみがウイルス培養によるSARS−CoVに対して陽性であった場合、感度が最も低い方法といえる。
【0107】
増強されたリアル・タイムPCR方法は、いくつかの症例において、その他のいかなるアッセイによっても確認されなかったSARS−CoV 陽性サンプルを検出することが、わかった。このように、診断の精度を改善するどのような新規の検出方法も、臨床医に利用し得る一揃いの診断ツールへの価値ある追加である。従来のPCRおよびリアル・タイムPCR単独では、少数のSARS−CoV陽性の症例を同定しただけであった。結果を、ウイルス培養によって3/28症例で確認した。増強されたリアル・タイムPCR方法の限界は、標準的なリアル・タイムPCRアッセイよりも10倍以上高く、従来のPCR方法よりも10倍以上高い。アッセイの増強された感度が、将来SARS発生中の疾患の蔓延を制御する助けとなり得る。
【0108】
実施例3:前増幅についてNASBAを用いる増強されたリアル・タイムPCR
(i)NASBA反応
【表10】

【0109】
【表11】


反応混合物を、65℃で5分間インキュベートし、次いで41℃で5分間冷却した。次いで、5μlの酵素混合物(1酵素範囲について、全量55μl)を反応混合物に添加した。短時間の混合後、41℃に冷却し、5分インキュベートした。該反応混合物を、短時間回転させ、次いで1.5時間、41℃でインキュベーションに供した。
【0110】
(ii) TaqMan リアル・タイムPCR
NASBA前増幅の第一回目のラウンド後に、次のようにRT−PCRを利用したさらなる増幅のためのNASBA産物をテンプレートとして使用した:
【表12】


【表13】

【0111】
NASBA増強されたリアル・タイムPCRの結果:
コロナウイルスNASBA産物は、表7、8および9に示したとおり、TaqManリアル・タイムPCRによって、上手く増幅され、検出されることがわかった。
【表14】

【0112】
【表15】

【0113】
【表16】

【0114】
NASBA-TaqMan PCRの反応条件は最適化されていることを見出した。NASBA-TaqMan および通常のNASBAの感度は類似しており、おおよそTCID50 2×10-5.5である。表7(NASBA ECL 結果)から、その試験は、TCID 50 x 10−8の低いレベルまで検出され得るし、NASBA Taqman PCR (ERT)と同じレベルであることがわかった。しかしながら、NASBA ECLの読取りは、他の陽性シグナルとは非常に異なる7407である(通常、100万カウント)。そのため、実際の状況では、この結果を、陽性と簡単に判断できない。しかし、NASBAリアル・タイム PCR (ERT)については、Ctは7.16であり、他の陽性シグナルと類似している。従って、我々のNASBAリアル・タイム PCR(ERT)は、従来のNASBA方法よりも有利である。
【0115】
上記実施例に示したように、その検出キットが、種々の試験場所において従来的に使用され得ることが認識され得る。さらに、検出キットは、既存方法よりも使用するのに比較的容易であり、より短時間で検出結果を提供することができ、該検出結果は、所望であれば3時間以内で利用し得る。DNAを基にした検出システムであるので、特異性および感度は増強され、実施例に記載の検出キットがSARSコロナウイルスに特異的である、またウイルスが検出のための標的分子へ複製されるので、サンプル中のSARSコロナウイルスの濃度はもはや重要ではない。
【0116】
この発明の好ましい実施態様が前段に記載されているが、この発明の修飾および別の形式が可能であり、請求項に記載のとおり、かかる修飾および形式が、依然この発明の範囲内であることは当業者には明白に理解されるであろう。さらに、この発明の実施態様は、実施例または図によってのみ、制限的に説明されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1〜27のいずれかを含む、単離DNA配列。
【請求項2】
配列番号1〜27のいずれかからなる、請求項1記載の単離DNA配列。
【請求項3】
DNA増幅において使用するための請求項1または2に記載の単離DNA配列。
【請求項4】
プローブが蛍光標識されていてもよい、プライマーまたはプローブとして使用するための請求項3記載の単離DNA配列。
【請求項5】
核酸単離に続いて核酸増幅、続いてリアル・タイムPCRのステップを含む、核酸検出のための方法。
【請求項6】
核酸増幅が、PCR、NASBAまたはその他の核酸増幅技術を含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
リアル・タイムPCRが蛍光標識プローブを使用する、請求項5または6のいずれかに記載の核酸検出のための方法。
【請求項8】
検出されるべき核酸がDNAまたはcDNAである、請求項5〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
核酸がSARSコロナウイルスcDNAである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
下記ステップ:
i)生物学的または環境サンプルから核酸を抽出すること、
ii)核酸を増幅すること、所望によりPCR、NASBAまたはその他の核酸増幅技術を用いること、そして
iii)リアル・タイムPCRを用いて、ステップ(ii)で産生される核酸を増幅および検出すること、
を含む、請求項5〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
得られた核酸がRNAである場合、ステップ(i)後のさらなるステップがあり、該ステップは逆転写酵素を用いてRNAをcDNAに変換することを含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
プライマーおよび/またはプローブが、ステップ(ii)および(iii)で使用される、請求項5〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
プライマーおよび/またはプローブが、少なくとも一部分のSARSコロナウイルスcDNAに結合する、SARSコロナウイルスcDNAを検出するための、請求項12記載の方法。
【請求項14】
使用されるプライマーおよびプローブが、配列番号1〜27を含む単離DNA配列に一致する、請求項13記載の方法。
【請求項15】
ステップ(iii)で使用されるプライマーがプローブと重複しない、請求項14記載の方法。
【請求項16】
ステップ(ii)で使用されるプライマー対が、配列番号1、2、3、4または5;および6、7、8、9または10のいずれかに一致する、請求項14記載の方法。
【請求項17】
ステップ(ii)で使用されたプライマー対が、配列番号26および27のいずれかと一致する、請求項14記載の方法。
【請求項18】
ステップ(iii)で使用したプライマー対が、配列番号11、12、13、14または15;および16、17、18、19または20のいずれかに一致する、請求項14または15のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
ステップ(iii)で使用されたプローブが、配列番号21、22、23、24または25のいずれかに一致する、請求項16〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
核酸を検出する方法において使用するための請求項1記載の単離DNA配列。
【請求項21】
核酸がSARSコロナウイルスRNAまたはcDNAである、請求項20に記載した使用のための単離DNA配列。
【請求項22】
下記ステップ:
i)生物学的または環境サンプルから核酸を抽出すること、
ii)核酸を増幅すること、所望によりPCR、NASBAまたはその他の核酸増幅技術を用いること、そして
iii)リアル・タイムPCRを用いて、ステップ(ii)から核酸を増幅および検出すること、
を含む、核酸の検出方法において使用するための組成物の製造における、請求項1記載の単離DNA配列の使用。
【請求項23】
核酸がDNAまたはcDNAである、請求項22記載の使用。
【請求項24】
核酸がSARSコロナウイルスcDNAである、請求項23記載の使用。
【請求項25】
ウイルスがSARSコロナウイルスであり、該プライマーが配列番号1〜27からなり、ウイルス感染を検出するための診断用試験キットの製造におけるSARSコロナウイルスに特異的なプライマーの使用。
【請求項26】
配列番号1〜27に一致する2以上の単離DNA配列を含む、SARS診断用試験キット。
【請求項27】
配列番号1、2、3、4または5、および6、7、8、9または10のいずれかに一致しているプライマーを含む、請求項26記載のSARS診断用試験キット。
【請求項28】
配列番号26および27のいずれかに一致するプライマーを含む、請求項26記載のSARS診断用試験キット。
【請求項29】
配列番号11、12、13、14または15、および16、17、18、19または20のいずれかに一致するプライマーを含む、請求項26〜28のいずれかに記載のSARS診断用試験キット。
【請求項30】
配列番号21、22、23、24または25のいずれかに一致するプローブを含む、請求項29記載のSARS診断用試験キット。
【請求項31】
生物学的または環境サンプル中のSARSコロナウイルスを検出するための診断用試験キットであって、
(i)サンプルからSARSコロナウイルスRNAを単離するための単離用剤、
(ii)標的分子を複製するための核酸複製剤であって、標的分子はSARSコロナウイルスの少なくとも一部分のRNA配列に相補的な核酸配列を包含する、そして
(iii)標的分子を検出するための核酸検出剤であって、該核酸検出剤が検出分子を包含する、
を含む、キット。
【請求項32】
標的分子がcDNA分子である、請求項31記載のSARSコロナウイルスを検出するためのキット。
【請求項33】
請求項31または32記載のSARSコロナウイルスを検出するためのキットであって、この中の、
該核酸複製剤は、第一の精製かつ単離されたDNA分子を包含しており、
このDNA分子は、第一の精製かつ単離されたDNA分子が酵素およびDNAヌクレオチドの存在下で伸張し、第一の精製かつ単離されたDNA分子がSARSコロナウイルスの少なくとも一部分のcDNA配列と結合する場合にSARSコロナウイルスの少なくとも一部分のcDNA配列に相補的なDNA配列を包含しているDNA配列を生成するように、SARSコロナウイルスの少なくとも一部分のRNA配列と結合するためのDNA配列を含んでいる、
キット。
【請求項34】
第一のDNA配列が、配列番号6、7、8、9または10、あるいは配列番号26および27に記載のDNA配列のいずれか一つと結合し、配列番号1、2、3、4または5のDNA配列のいずれか一つをコードする、請求項31〜33のいずれかに記載のSARSコロナウイルスを検出するためのキット。
【請求項35】
請求項31〜33のいずれかに記載のSARSコロナウイルスを検出するためのキットであって、この中の、
該核酸複製剤は、第二の精製かつ単離されたDNA分子を包含しており、
このDNA分子は、第二の精製かつ単離されたDNA分子が酵素およびDNA配列の存在下で伸張し、第二の精製かつ単離されたDNA分子が少なくとも一部分のSARSコロナウイルスのcDNA配列と結合する場合に第一回目の増幅中に生成された少なくとも一部分のSARSコロナウイルスのcDNA配列に相補的なDNA配列を包含しているDNA配列を生成するように、第一回目の増幅によって産生されたSARSコロナウイルスの少なくとも一部分のDNA配列に結合するためのDNA配列を含んでいる、
キット。
【請求項36】
第二のDNA配列が、配列番号11、12、13、14または15に記載のDNA配列のいずれか一つを、配列番号16、17、18、19または20に記載のDNA配列のいずれか一つと一緒にコードしている、請求項32または33のいずれかに記載のSARSコロナウイルスを検出するためのキット。
【請求項37】
複製されたDNA産物が、さらなる増幅の前にまず希釈される、請求項31〜36のいずれかに記載のSARSコロナウイルスを検出するためのキット。
【請求項38】
検出分子が、標的分子に結合するためにSARSコロナウイルスのRNA配列に相補的な少なくとも一部分をコードしているDNA配列;およびシグナル生成器を包含する、請求項31〜37のいずれかに記載のSARSコロナウイルスを検出するためのキット。
【請求項39】
第一のDNA分子のDNA配列が第二のDNA分子と重複しない、請求項38記載のキット。
【請求項40】
シグナル発生物が、
適当な検出器において検出され、定量され得る光子を放出するように刺激され得る、蛍光遺伝子分子、分子ビーコンまたはその他の分子、
のいずれか1つを含む、請求項38または39に記載のキット。
【請求項41】
検出分子が、配列番号21〜25のDNA配列のいずれか1つをコードする、請求項38〜40のいずれかに記載のSARSコロナウイルスを検出するためのキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−80884(P2012−80884A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235645(P2011−235645)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【分割の表示】特願2006−504214(P2006−504214)の分割
【原出願日】平成16年4月30日(2004.4.30)
【出願人】(505054988)ハイ・カン・ライフ・コーポレイション・リミテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】HAI KANG LIFE CORPORATION LIMITED
【Fターム(参考)】