説明

核酸配列の電気化学的検出法

本発明は、ルテニウムから誘導された化学式(I)のペンタアミンルテニウム[3−(2−フェナントレン−9−イル−ビニル)ピリジン]錯体として知られる新しい化合物、および、核酸配列間のハイブリダイゼーションの検出、前記配列の定量化、ミスマッチ塩基の存在の検出と核酸配列内のその位置の検出の方法のために前記化合物をハイブリダイゼーションの電気化学的インジケータとして使用することに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的方法によって核酸のハイブリダイゼーション(hybridization)を検出する方法に関する。特に、本発明は、電気化学バイオセンサにおけるハイブリダイゼーションのインジケータとしてルテニウムから誘導された一般式(I)の化合物の使用に基づく、ある特定のDNA配列と前記配列におけるミスマッチの存在とその位置の検出のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
短いDNA配列の解析に基づく分子診断は、病原体によって引き起こされる伝染病の早期検出を行うための鋭敏かつ定量的な方法を提供する(Garg, S. K. et al. Clin. Lab. Anal. 2003, 17(5), 155-163; Vernet, G. Virus Res. 2002, 82(1-2), 65-71)。
【0003】
DNAのハイブリダイゼーションは、特定の遺伝子または核酸のセグメントを分析および検出するための最も一般的な方法である。ハイブリダイゼーションに基づく方法の中には、表面プラズモン共鳴法(Mullet, W. M. et al. Methods 2000, 22, 77-91; Sawata, S. et al. Biosens. Bioelectron. 1999, 14, 397-404; Livache, T. et al. Synth. Met. 2001, 121, 1443-1444; Wood, S. J. Microchem. J. 1993, 47, 330-337)、蛍光色素法(Piunno, P. A. E. et al. Anal. Chim. Acta, 1994, 288, 205-214; Fodor, S. et al. Science, 1991, 251, 767-773)、重量分析法(Okahata, Y. et al. Am. Chem. Soc. 1992, 114, 8299-8300; Minnuni, M. et al. Anal. Chim. Acta, 2003, 481, 55-64)、または放射性アイソトープによる標識化法(Seller, G. H. et al. DNA Probes, 2nd ed. Stockton Press: New York, 1993; pp 149-213)がある。最も使用されている方法は、プローブとして知られる放射能で標識化されたDNA断片またはRNA断片の使用である。実際、この方法は、DNAクローニングやシーケンシングに使用されるPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)として知られる制御されたDNA増幅の基礎である。
【0004】
ハイブリダイゼーションに基づく方法の中では、DNAバイオセンサが、前記の方法と比較して有利である。これらの方法の利点の一つは、このタイプの診断のための簡単なポータブル装置を開発する可能性があることである。さらに、これらのDNAバイオセンサとPCR増幅法とを併用すると、核酸配列の検出に高感度を得ることができる(Meric, B. et al. Talanta 2002, 56(5), 837-846)。表面に固定化された、蛍光で標識化されたオリゴヌクレオチド類を使用すると、特定のDNA配列と遺伝子発現の分析用の高密度DNAアレイの開発が可能になる。しかし、これらの方法では、ターゲットDNAの標識化が必要になる(Berre, V. L. et al. Nucleic Acids Res. 2003, 31, e88; Dolan, P. L. et al. Nucleic Acids Res. 2001, 29, 107)。
【0005】
DNAは電気的に活性の核バンドを有するので、電気化学的検出システムも、この特性を利用し、マーカーを介入させる必要なく、ハイブリダイゼーションされたDNAを直接に検出することによって、開発された(Park, S. et al. Science, 2002, 295, 1503-1506; Drummond, T.G. et al. Nat. Biotech., 2003, 21, 1192-1199) 。DNAは、一般に電極に固定化され、ハイブリダイゼーションの前後に測定された電流の相違が、電極に固定化されたDNAの量に相関される(WO93/20230)。しかし、マーカーを使用しないこの直接検出法は、極めて高感度であるとはいえない。
【0006】
感度向上の目的のため、電気的活性のプローブ分子またはマーカーを使用する相異なるアプローチが開発されている。その結果、プランティら(Palanti et al. Analytical Letters, 29, pp. 2309-31, 1996)は、DNAに関連付けることができ、従って電極に電位を印加して酸化還元で検出できる相異なる電気的活性の化合物について記載している。その結果、遷移金属錯体、抗生物質、アクリジンまたはベンズアミド染料および他のDNAインターカレーション(intercalation)剤が使用された。
【0007】
これらの電気的活性のプローブまたはマーカーは、DNAより優れた酸化還元特性があるので、これらを使用すると、より高いS/N比と、より優れた感度とが得られる。
【0008】
サロフェン(salophen)から誘導された化合物(Revenga Parra, M. et al. “Comprehensive study of the interactions between DNA and new Schiff base ligands containing quinone functional groups” Biosensors and Bioelectronics. Volume: 22; Pages 2675-2681)とオスミウム錯体(Del Pozo, M. V. et al. Anal. Chem. 2005a.77 (8), 2550-2557)も電気化学的インジケータとして使用された。CA02524263では、開回路の二本鎖に組み込まれたルテニウム錯体が、ハイブリダイゼーションのインジケータとして使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO93/20230
【特許文献2】CA02524263
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Garg, S. K. et al. Clin. Lab. Anal. 2003, 17(5), 155-163
【非特許文献2】Vernet, G. Virus Res. 2002, 82(1-2), 65-71
【非特許文献3】Mullet, W. M. et al. Methods 2000, 22, 77-91
【非特許文献4】Sawata, S. et al. Biosens. Bioelectron. 1999, 14, 397-404
【非特許文献5】Livache, T. et al. Synth. Met. 2001, 121, 1443-1444
【非特許文献6】Wood, S. J. Microchem. J. 1993, 47, 330-337
【非特許文献7】Piunno, P. A. E. et al. Anal. Chim. Acta, 1994, 288, 205-214
【非特許文献8】Fodor, S. et al. Science, 1991, 時祭1, 767-773
【非特許文献9】Okahata, Y. et al. Am. Chem. Soc. 1992, 114, 8299-8300
【非特許文献10】Minnuni, M. et al. Anal. Chim. Acta, 2003, 481, 55-64
【非特許文献11】Seller, G. H. et al. DNA Probes, 2nd ed. Stockton Press: New York, 1993; pp 149-213
【非特許文献12】Meric, B. et al. Talanta 2002, 56(5), 837-846
【非特許文献13】Berre, V. L. et al. Nucleic Acids Res. 2003, 31, e88; Dolan, P. L. et al. Nucleic Acids Res. 2001, 29, 107
【非特許文献14】Dolan, P. L. et al. Nucleic Acids Res. 2001, 29, 107
【非特許文献15】Park, S. et al. Science, 2002, 295, 1503-1506
【非特許文献16】Drummond, T.G. et al. Nat. Biotech., 2003, 21, 1192-1199
【非特許文献17】Palanti et al. Analytical Letters, 29, pp. 2309-31, 1996
【非特許文献18】Revenga Parra, M. et al.“Comprehensive study of the interactions between DNA and new Schiff base ligands containing quinone functional groups” Biosensors and Bioelectronics. Volume: 22; Pages 2675-2681
【非特許文献19】Del Pozo, M. V. et al. Anal. Chem. 2005a.77 (8), 2550-2557
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは今や、電気化学的バイオセンサのハイブリダイゼーションインジケータとして、ペンタアミンルテニウム[3−(2−フェナントレン−9−イル−ビニル)ピリジン]錯体(RuLと称される)として知られる新規のルテニウム錯体を、「in situ」で調製して、使用した結果として、核酸配列の電気化学的検出の感度を向上させ得る方法を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
錯体ペンタアミンルテニウム(Ru)と配位子[3−(2−フェナントレン−9−イル−ビニル)ピリジン](L)との間の結合で形成されたRuL錯体は、この目的の使用にはもちろんのこと、物質としても完全に新規のものである。
【0013】
開発された方法で達成される高感度と特異性によって、どんなタイプの標識化も必要とせずに、ある核酸配列のみではなく、前記配列の塩基の単一ミスマッチも、特定の核酸配列の中のその位置も検出および定量可能であり、さらに従来のPCR法よりもはるかに高速でかつ費用対効果に優れた検出システムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】a)(SEQ ID NO.1)で修飾された金電極に蓄積されたRuLの微分パルスボルタモグラム(DPV)であり、ハイブリダイゼーションする前のもの(2)と各々相補的鎖(SEQ ID NO.2)と非相補的鎖(SEQ ID NO.3)でハイブリダイゼーションした後のもの(各々(1)と(3))を示す図である。b)電位スキャン−0.6〜0Vで得られたDPVの増幅を示す図である。
【図2】(SEQ ID NO.1)で修飾された金電極に蓄積されたRuLの微分パルスボルタモグラム(DPV)であり、中間の塩基がミスマッチの配列(SEQ ID NO.4)でハイブリダイゼーションした後のもの(2)と、配列の5’末端近くでミスマッチしている配列(SEQ ID NO.5)でハイブリダイゼーションした後のもの(3)と、配列の3’末端近くでミスマッチしている配列(SEQ ID NO.6)でハイブリダイゼーションした後のもの(4)と、非相補的配列(SEQ ID NO.3)でハイブリダイゼーションした後のもの(1)と、を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ペンタアミンルテニウム[3−(2−フェナントレン−9−イル−ビニル)ピリジン]錯体として知られているルテニウムから誘導された化学式(I)の新しい化合物が、本発明の目的である。
【0016】
ハイブリダイゼーションのインジケータとして化学式(I)の前記錯体の使用に基づくプローブ核酸配列とターゲット核酸配列との間のハイブリダイゼーションの検出方法も、本発明の目的である。
【0017】
最後に、核酸配列の間のハイブリダイゼーションの電気化学的インジケータとしての、ルテニウムから誘導された化学式(I)の化合物の使用も、本発明の目的である。
【0018】
本発明者らは、相当な程度の研究活動の後、ルテニウムから誘導された新しい化合物を得たが、この化合物の構造の特性により、電気化学的バイオセンサにおける核酸配列間のハイブリダイゼーション過程のインジケータとしてその化合物を使用すると、単一塩基のミスマッチおよび配列内のその位置の検出が可能になる。
【0019】
従って、本発明の主な態様は、ルテニウムから誘導された化学式(I)で示される新しい化合物に関する。
【0020】
【化1】


(I)
【0021】
この新しい錯体は、「in situ」で調製された、ペンタアミンルテニウム[3−(2−フェナントレン−9−イル−ビニル)ピリジン]錯体(RuLと称される)として知られるもので、その構造の結果として二重の機能を備える。一方では、配位子3−(2−フェナントレン−9−イル−ビニル)ピリジン(L)の芳香族基の平面的構造によって、同錯体にインターカレーション特性が与えられ、従って、それが二本鎖の核酸に結合するのが可能になる。この性質は、同錯体がDNAに結合する主な形が静電気による結合(インターカレーションで起こるよりはるかに弱い結合)である技術に使用される錯体とは相異なることを示すもので、DNAにより強く結合させ、より優れた結果を収めることを可能にするものである。他方では、金属(Ru)の酸化還元センターは、ハイブリダイゼーション事象を検出するための電気化学的インジケータとして機能する。
【0022】
この新しい化合物から得られる利点に基づいて、核酸配列の間のハイブリダイゼーションの過程の電気化学的検出法が、ハイブリダイゼーションのインジケータとして前記化合物を使用することに基づいて開発されたが、その方法により、ヌクレオチド配列中の単一ミスマッチ塩基とその位置の検出が可能になる。
【0023】
従って、本発明の主な態様の別の一つは、プローブ核酸配列とターゲット核酸配列との間のハイブリダイゼーションの検出方法を想定し、その方法は以下のフェーズから構成される。
a)電極の表面に核酸プローブを固定化する。
b)核酸プローブで修飾された電極を、ターゲット配列を含むと考えられる溶液で培養処理し、ハイブリダイゼーションが起こるようにする。
c)ルテニウムから誘導された化学式(I)の化合物を含有する溶液中に培養後の電極を浸漬する。
d)サイクリック電位スキャンを行い、ハイブリダイゼーションで形成された核酸の二本鎖にルテニウムから誘導された前記化合物を入れ込む(incorporate)。
e)プローブ核酸配列とターゲット核酸配列の間のハイブリダイゼーションを電気化学的に検出する。
【0024】
ハイブリダイゼーションの過程の検出を行うことにより、特定の核酸配列の検出、核酸配列の定量化、核酸配列中のミスマッチの検出、または前記ミスマッチの位置の検出が可能となる。
【0025】
本発明では、「プローブ」は、特定の条件下にターゲット核酸とハイブリッド形成を行うハイブリダイゼーション特性を有する核酸断片として定義される。
【0026】
好ましい実施の形態では、「核酸」は、DNAおよび/またはRNAの断片として定義され、これに基づいて、ハイブリダイゼーションが、DNA−DNA、DNA−RNA、およびRNA−RNAの各配列の間に検出し得る。
【0027】
前記のように、化学式(I)のルテニウム錯体は、配位子(L)の芳香族環に起因して、好ましくは、核酸の二本鎖の積み重ねられた塩基の間にインターカレーションされる。この核酸の二本鎖は、プローブが電極の表面上に固定化され、固定化されたプローブ配列と溶液に存在するターゲット配列の間のハイブリダイゼーションの後に形成されたものである。
【0028】
適切な電位が前記電極に印加されるとき、ルテニウムの酸化還元センターの酸化により、ハイブリダイゼーション事象に直接に関連するファラデー電流が生起する。これにより、特定の核酸配列(ターゲット配列)を検出し得る。
【0029】
さらに、ファラデー電流の強度は、ハイブリダイゼーションの程度に比例して増加するので、これにより、核酸配列の定量化が可能となる。
【0030】
最後に、この方法で得られた感度と特異性により、ハイブリダイゼーションのインジケータとしてRuL化合物を使用した結果として、ある特定の配列の単一塩基のミスマッチ、および配列内の前記ミスマッチの位置の検出が可能となる。
【0031】
好ましい実施の形態では、プローブ配列とターゲット配列双方の核酸は、DNAである。
【0032】
記載の方法に使用される電極は、タイプ(炭素、金など)が相異なるものでもよい。特定の実施の形態では、使用される電極は、金で作製される。
【0033】
ルテニウム錯体(RuL)の二本鎖への入れ込みは、電位スキャンによって行われ、この方法では、開回路で入れ込みを行う方法と比較して高感度が得られる。開回路では、物質の入れ込みの制御は行われないからである。
【0034】
好ましい実施の形態では、サイクリック電位スキャンは、200回、−0.5〜0.1Vで行われる。
【0035】
ハイブリダイゼーションは、微分パルスボルタメトリ(DPV)を使用し、RuL錯体の電気活性度の変化で検出される。これは、約−0.30Vの電位で行われるが、この錯体は、酸化還元電位が低く、他の化合物の酸化では生ずる恐れのある干渉が防止されるので、特に魅力的である。
【0036】
別の一つの好ましい実施の形態では、電気化学的検出は、10MV/秒のスキャン速度、50mVのパルス振幅、および0.2秒のパルス幅で行われる。
【0037】
最後に、本発明の別の一つの主な態様は、核酸配列間のハイブリダイゼーションの電気化学的インジケータとして化学式(I)のRuL化合物を使用することを想定する。
【0038】
特定の実施の形態では、ハイブリダイゼーションのインジケータとしてRuL化合物を使用すると、特定の核酸配列(ターゲット配列)の検出が可能となる。
【0039】
別の一つの特定の実施の形態では、RuL化合物を使用すると、核酸配列の定量化が可能となる。
【0040】
別の一つの特定の実施の形態では、RuL化合物を使用すると、核酸配列中のミスマッチ塩基の検出が可能となる。
【0041】
別の一つの特定の実施の形態では、RuL化合物を使用すると、核酸配列中のミスマッチ塩基の位置の検出が可能となる。
【0042】
好ましい実施の形態では、前記核酸は、DNAである。
【0043】
次の実施例は以下で本発明を示すものであるが、本明細書の各部に記載された場合、本発明の目的の本質的面を制限するものと考えてはならない。
【実施例】
【0044】
<実施例1>
[RuL錯体の合成]
2mM Ru(NH(HO)80μlを、2mM 配位子(L=3−(2−フェナントレン−9−イル−ビニル)ピリジン)80μlと溶液中で直接混合した。配位子(3−(2−フェナントレン−9−イル−ビニル)ピリジン)は、以下の手順で合成した。N,N,N’,N’−テトラメチレンジアミン15mlを予め乾燥した窒素でパージして清浄化し、これに9−ブロモフェナントレン2.6093g、4−ビニルピリジン1.3ml、酢酸パラジウム24.2mg、およびトリフェニルホスフィン0.1118mgを加え、得られた混合物を15分間パージした。引き続き、前もって精製した窒素で還流乾燥を40時間行った。次に、0.1M HCl 250mlを混合物に添加したところ、輝黄色の沈殿物が現れた。沈殿物を濾過し、EtOHとCHClで洗浄した。その後、沈殿物を、HO/0.1M NaOHで中和し、CHClで抽出した。次いで、HClで再沈殿させ、黄色い固形物を、HO/NaOHで再結晶させたところ、基本形の配位子(明るいベージュ色)を得た。なお、Ru(NH(HO)は、C.G. Kehuen と H. Taubeが記載した手順に基づいて合成した (Kuehn, C. C.; Taube, H. Journal of the American Chemical Society, 1976, 98(3), 689-702)。
【0045】
[(バイオ)センサの作製]
(バイオ)センサは、プローブDNA配列を金の電極に室温で1時間直接に吸収させることで固定化することによって調製した。修飾された電極を30分間蒸留水中に浸漬し、未吸収の可能性のあるDNA残留物を除去した。固定化の前に、電極は、以前に記載の手順に基づいて磨き、調質した(Widrig, C. A.; Chung, C.; Porter, M. D. J. Electroanal. Chem. 1991, 310, 335-359)。顕微鏡測定で得られた電極面積は1.7mmであった。
【0046】
[錯体のハイブリダイゼーションとインターカレーション]
DNAプローブで修飾された金電極を、40℃で1時間かけて各々相補的DNA配列、非相補的DNA配列およびミスマッチを有する配列で培養した。これらはすべてハイブリダイゼーション緩衝液(10mM燐酸塩、pH7.0、0.4M NaCl)中で調製した。ハイブリダイゼーションの後、電極を5mM KNO中のRuL20μM溶液に浸し、電位を200回、−0.5〜0.1Vの間でサイクリックに印加した。電極は、使用する前に蒸留水で濯いだ。
【0047】
[電気化学的測定]
自家製の3端末電気化学セルが、飽和NaClの、同じく自家製の補助白金電極とカロメル電極付きで、参照電極として使用された。各電気化学的測定前には、溶液を窒素でパージし、測定全体に通じて、窒素雰囲気を維持した。KNOをサポート電解質として使用した。微分パルスボルタメトリ(DPV)の測定パラメータは以下の通りであった。スキャン速度:10mV/秒、パルス振幅:50mV、パルス幅:0.2秒。
【0048】
[結果:本発明の新規適用]
開発されたシステムは、どのような配列の検出にもプロトタイプとして機能するが、ここではヘリコバクター・ピロリ菌の特定の配列の検出に適用した。このバクテリアのチオール処理した25マー、すなわち塩基対25個を備えた合成配列(SEQ ID NO.1)を、チオール基を介して金電極上に固定化した(固定化密度:9.0pmol/cm)。最初のハイブリダイゼーション分析評価では、相補的配列(SEQ ID NO.2)と非相補的配列(SEQ ID NO.3)をターゲット配列として使用した。プローブ配列(SEQ ID NO.1)の固定化、ハイブリダイゼーション、および電流測定は、前記の手順と条件に基づいて行った。図1は、(SEQ ID NO.1)で修飾された電極に蓄積された20μM RuLの微分パルスボルタモグラム(DPV)であり、ハイブリダイゼーションする前に得られたもの(2)と相補的鎖(SEQ ID NO.2)と非相補的鎖(SEQ ID NO.3)で各々ハイブリダイゼーションした後に得られたもの(各々(1)と(3))を示す図である。
【0049】
観察されたことは、バイオセンサの表面において相補的鎖(SEQ ID NO.2)で(SEQ ID NO.1)をハイブリダイゼーションした後では、ボルタモグラムのピーク電流強度が増大したことであり、これは、二本鎖にインターカレーションされた錯体のルテニウムが酸化されたことによるものである。表面被覆の比に基づいて、ルテニウム錯体の分子5個がDNA塩基対25個毎に含まれていたと評価することが可能であった。しかし、ハイブリダイゼーションを非相補的配列(SEQ ID NO.3)で行ったときは、電流の変化は全く観測されなかった(図1の曲線2と曲線3を比較のこと)。従って、ピーク電流と電位に起こされる変化は、錯体(RuL)が、ヘリコバクター・ピロリ菌DNA断片間のハイブリダイゼーションの過程を、従ってサンプルに存在するある特定の断片を検出するための電気化学的インジケータとして機能することを示す。さらに、−0.260Vの箇所の電流強度は、ハイブリダイゼーションの程度に比例して、すなわち、電極(プローブ)に固定化された配列の量が増加するにつれて増加した。電極間の変位差は、正規化された電流(i−i0/i0)対プローブの量をグラフ表示することによって補正できる。ここで、i0とiは、相補的SEQ ID NO.2のある量をハイブリダイゼーションさせる前とその後の電流を表す。−0.260Vの箇所で測定された正規化電流(i−i0/i0)は、106〜708pmolの範囲で相補的配列SEQ ID NO.2の増加に対して良好なリニアの相関(リニア相関係数r=0.995)を示した。検出の限界は、プローブ配列(SEQ ID NO.1)に対応する信号+標準偏差の3倍として計算されたが、相補的配列(SEQ ID NO.2)92±4pmolであった。また、測定の再現性は94%であった。
【0050】
[ミスマッチ塩基を有する配列の検出]
バイオセンサの選択性の評価は、完全に相補の配列(SEQ ID NO.2)に使用したものと同じハイブリダイゼーション条件下に、図2のスキームに示されるように、相異なる位置、すなわち、中間(SEQ ID NO.4)と末端(SEQ ID NO.5)と(SEQ ID NO.6)に一個のミスマッチ塩基を含む配列を解析することによって行った。塩基がミスマッチした配列でプローブ配列(SEQ ID NO.1)とハイブリダイゼーションした後に得られた歪な二重らせんには、少量のRuLが蓄積しており、その結果、その酸化の後に得られた電流強度は、完全に相補的な配列(SEQ ID NO.2)でハイブリダイゼーションした後に得られた電流密度よりも低かった。図2(曲線2、3、および4)は、電気化学的インジケータとしてRuLを使用し、相異なる位置にミスマッチを有する相異なる配列とハイブリダイゼーションした後にプローブ配列(SEQ ID NO.1)で修飾した金電極で得られた微分パルスボルタモグラム(DPV)を示す。すべての場合において、プローブ配列SEQ ID NO.1が完全に相補的な配列(SEQ ID NO.2)でハイブリッド形成されたときに得られた応答(図1、曲線1)に比較すると、ピーク電流には相当程度の減少が見られた。さらに、ミスマッチが配列の中間にあったときに得られた電流は、ミスマッチが端末にあったときに得られた電流(図2、各々曲線3と4)よりも小さく(図2の曲線2を見よ)、そして完全に非相補の配列で得られた電流よりも(50%)大きかった(図2の曲線1を見よ)。このことにより、ある特定の配列におけるミスマッチの存在とその位置を明確に検出することが可能である。
【0051】
結論として、得られた結果は、電気化学的バイオセンサにおけるハイブリダイゼーションのインジケータとしてルテニウム錯体(RuL)を、DNA配列の検出のために、それの定量化のために、およびミスマッチ塩基とその位置の検出のために使用することに基づいて開発された本システムの正当性を明白に示す。
【図1a)】

【図1b)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテニウムから誘導された化学式(I):


(I)
で示される化合物。
【請求項2】
プローブとターゲットの核酸配列間のハイブリダイゼーションを検出する方法であって、以下のステップ:
a)電極の表面に核酸プローブを固定化するステップと、
b)前記核酸プローブで修飾された電極を、ターゲット配列を含むと考えられる溶液で培養処理し、ハイブリダイゼーションが起こるようにするステップと、
c)ルテニウムから誘導された請求項1に記載の化合物を含有する溶液中にステップb)の培養後の電極を浸漬するステップと、
d)サイクリック電位スキャンを行い、ハイブリダイゼーションで形成された核酸の二本鎖にルテニウムから誘導された前記化合物を入れ込むステップと、
e)プローブとターゲットの核酸配列間のハイブリダイゼーションを電気化学的に検出するステップと、
から構成され、
ハイブリダイゼーションの検出を行うことにより、核酸配列の検出、核酸配列の定量化、核酸配列中のミスマッチ塩基の検出、または前記ミスマッチ塩基の位置の検出が可能となることを特徴とする方法。
【請求項3】
プローブとターゲットの配列の核酸が、DNAであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
使用される電極が、金製であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
サイクリック電位スキャンが、200回、−0.5〜0.1Vで行われることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
電気化学的検出が、微分パルスボルタメトリによって、10mV/秒のスキャン速度、50mVのパルス振幅、および0.2秒のパルス幅で行われることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
核酸配列間のハイブリダイゼーションの電気化学的インジケータとしての請求項1に記載の化合物の使用。
【請求項8】
核酸配列の検出のための請求項7に記載の化合物の使用。
【請求項9】
核酸配列の定量化のための請求項7に記載の化合物の使用。
【請求項10】
核酸配列におけるミスマッチ塩基の検出のための請求項7に記載の化合物の使用。
【請求項11】
核酸配列におけるミスマッチ塩基の位置の検出のための請求項7に記載の化合物の使用。
【請求項12】
核酸がDNAである請求項7〜11のいずれかに記載の化合物の使用。

【図2】
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【公表番号】特表2010−529007(P2010−529007A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509851(P2010−509851)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【国際出願番号】PCT/ES2008/000364
【国際公開番号】WO2008/145785
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(506255603)ウニベルシダッド アウトノマ デ マドリッド (4)
【Fターム(参考)】