説明

桑葉エキス・オシマム含有組成物

本発明は、栄養過多による肥満、糖尿病等の疾患又は病的ではないが、肥満傾向の人や、糖耐性が低下し過血糖状態(前糖尿病状態)が持続し、時間経過とともに病的状態に移行するであろうと予測される者に対して、これらの症状又は疾患の予防、治療又は改善するために、又は体重を減量しようとしているスポーツ選手のような健常人に対して、安全であり、かつ空腹感を感じることなく減量するために有効な桑葉エキスとオシマム(Ocimum)属に属する植物の果実とを含有する組成物及び当該組成物を含有する食品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥満又は糖尿病の予防、治療又は改善に有用な桑葉エキス・オシマム含有組成物に関する。また、本発明は、健常人において所望により体重を減量するときの、減食を補助する食事制限剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、栄養過多による肥満、糖尿病などの疾患が増大している。また、病的ではないが、肥満傾向の人や、糖耐性が低下し過血糖状態(前糖尿病状態)が持続し、時間経過とともに病的状態に移行するであろうと予測される人も多い。このような疾患、症状、又は状態を予防、治療又は改善するための効果的な方法の確立は急務であることはいうまでもない。
【0003】
また、スポーツ選手のような健常人も、必要により体重を減量するときには、食事摂取量を著しく低減するため、常に空腹感にさいなまれ精神的な苦痛を受けている。このとき、食事制限とともに、いわゆるダイエット食品を利用するのが通常である。ところが、現在、市販されているダイエット食品には、主として、グルコマンナンやペクチンのような食物繊維が用いられているが、これらには、食感が悪い、調理が煩雑、長期服用は困難、満腹感が維持されない等の問題のあるものがある。また、空腹時に服用することにより、空腹感を紛らわせるものもあるが、食後から当該食品を摂取するまでは、空腹感を覚えることになる。
【0004】
桑は、古来より、飲水病、中風、不食病、瘡病、脚気の煎じ薬として飲用されてきた。最近の研究では、桑葉から抽出したエキスは、食事で摂取した澱粉等の多糖の分解を抑制することにより、血糖値上昇を抑制することが明らかとされた。また、桑白皮について、血糖値を抑制するための利用も開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
一方、オシマム(Ocimum)属に属する植物の果実は、特に東南アジアにおいて、デザートとして食されてきたが、これらの糖尿病患者の耐糖能改善効果について報告されている(例えば、非特許文献1を参照)。また、当該果実の表面は、多糖類の層で覆われ、これが水分を吸収して膨潤することにより、食事摂取量を制限しながらも満腹感を維持することができることから、肥満の予防・治療を目的とした利用が開示されている(例えば、特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開昭52−82731号公報
【特許文献2】特開平1−317368号公報
【非特許文献1】Journal of the Medical Association of Thailand、1985年8月、第68巻、第8号、p.408−411
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、主として肥満傾向から肥満状態にある者又は前糖尿病状態から糖尿病罹患の状態にある者に対して、これらの症状又は疾患の予防、治療又は改善するために、又は体重を減量しようとしている健常者に対して、安全であり、かつ空腹感を感じることなく減量するために有効な桑葉エキスとオシマム(Ocimum)属に属する植物の果実(以下、オシマム果実という)とを含有する組成物及び当該組成物を含有する食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、血糖値上昇抑制効果のある桑葉エキスと、既に安全で食事制限効果のあることが知られているオシマム果実とを併用摂取することにより、両者の効果がともに増強され、さらに意外なことに、摂取後の血糖値の変動が緩やかで、薬物療法にみられる血糖値の急激な変動による血管ストレスに起因する、心筋梗塞や脳卒中等の、いわゆる心・血管イベントの発症のリスクが小さいことが判明し、本発明を完成した。
【0008】
本発明としては、例えば、下記(1)〜(4)を挙げることができる。
(1)桑葉エキスとオシマム果実とを含有する組成物(以下、本発明組成物という)。
(2)肥満又は糖尿病の予防、治療又は改善するための上記(1)の組成物。
(3)減食を補助するための上記(1)の組成物。
(4)上記(1)の組成物を含有する食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明組成物は、肥満又は糖尿病の予防、治療又は改善に有用である。また、健常者の体重の減量にも有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る桑としては、Morus属に属する植物であれば、特に制限されない。例えば、クワ(Morus alba Linn.)、ノグワ(Morus tiliaefolia Makino)、ハチジョウグワ(Morus kagayamae Koidzumi)、ヤマグワ(Morus bombycis Koidzumi)、クログワ(Morus nigra Linn.)を挙げることができる。
【0011】
本発明に係る桑葉エキスは、例えば、桑葉を適当な大きさに切断し、温度が5〜95℃の範囲内である水で、1〜3回の範囲内で抽出を行い、その後、得られた抽出液をろ過し、常法により濃縮後、噴霧乾燥又は凍結乾燥して得ることができる。抽出の際に加える水の量としては、桑葉の重量に対して、5〜20倍量の範囲内が適当である。抽出時間としては、5分〜24時間の範囲内が適当である。また、桑葉エキスの抽出は、適切なカラムを用いて、連続で行ってもよい。本発明に係る桑葉エキスとして、市販の桑葉エキスを用いることもできる。
【0012】
本発明に係るオシマムとしては、Ocimum属に属する植物であれば、特に制限されない。例えば、ケメボウキ(Ocimum canum Sims)、メボウキ(Ocimum basilicum Linn.)、カミメボウキ(Ocimum sanctum Linn.)、オシマム・ビリデ(Ocimum viride Willd.)、シラゲメボウキ(Ocimum graveolens A.Br.)、オシマム・ミクランツム(Ocimum micranthum Willd.)、オシマム・キリマンジャリクム(Ocimum kilimandscharicum Gurke.)を挙げることができる。
【0013】
本発明に係るオシマム果実は、例えば、オシマム果実を採取後、異物を除去し、30〜200分間の範囲内で乾熱滅菌して用いることができる。かかる乾熱滅菌の温度は、80〜130℃の範囲内が適当である。上記乾熱滅菌を行う変わりに、10kg当り1〜5分間の範囲内の処理速度で、2〜5秒間の範囲内で気流殺菌を行ってもよい。かかる気流殺菌の温度は、120〜130℃の範囲内が適当である。オシマム果実は、必要に応じて、殺菌前又は殺菌後に粉砕してもよい。本発明に係るオシマム果実として、バジルシードあるいはスイートバジルシードとして市販されているものを用いることもできる。
【0014】
本発明組成物は、桑葉エキスとオシマム果実とを常法に従い混合することにより、調製することができる。かかる桑葉エキスとオシマム果実の配合比率は、本発明組成物中に乾燥重量比として、10:1〜1:100(桑葉エキス:オシマム果実)の範囲内が適当であり、5:1〜1:10の範囲内が好ましい。本発明組成物は、必要に応じて、賦形剤、調味料、香料、滑沢剤等を適量配合して、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤等にすることができる。これらは、通常の食品とともに摂取することができる。また、肥満状態に対する半飢餓療法に用いる超抵エネルギー食品と併用して摂取することもできる。
【0015】
本発明組成物は、米、大麦、小麦、大豆等の穀類、澱粉等とともにこれらを原料として、各食品の製造工程で添加することができる。また、既に、完成された食品に添加することもできる。このような食品として、練製品(例えば、畜肉ソーセージ、魚肉ソーセージ、かまぼこ、竹輪)、惣菜(例えば、オムレツ、卵焼、ハンバーグ、コロッケ、ミートボール、酢の物、酢豚、サラダ、餃子、しゅうまい、ロールキャベツ、豆腐、筑前煮、煮豆、ひじき煮、唐揚、天ぷら、フライ、茶碗蒸、胡麻あえ、サラダ、カレー、シチュー、スープ、チャーハン、おにぎり、餅、ふりかけ、味噌汁)、麺類(例えば、うどん、そうめん、そば、スパゲティ、マカロニ、ラーメン)、調理パン(例えば、ハンバーガー、ホットドック、サンドイッチ)、パン(例えば、食パン、フランスパン)、菓子(例えば、ケーキ、クッキー、ウエハース、クレープ、ヨーグルト、プリン、キャンディー、アイスクリーム、キャラメル、チョコレート、ドーナツ、せんべい、ようかん、ういろう、もなか、まんじゅう、大福餅、おはぎ、団子、甘納豆、中華まん)等を挙げることができる。上記以外にマヨネーズ、サラダドレッシング等も挙げることができる。また、必要に応じて、賦形剤、調味料、香料、滑沢剤等を適量添加し、常法に従い打錠することにより、タブレット状食品や医薬品とすることもできる。本発明組成物を食品に用いる場合、桑葉エキス及びオシマム果実の添加量としては、添加剤の有無や食品の種類等により異なるが、食品の重量に対して、桑葉エキス、オシマム果実それぞれ独立して、0.001〜10重量%の範囲内とするのが適当であり、0.1〜5重量%の範囲内とするのが好ましいが、必ずしもこの範囲に限られるものではない。
【0016】
本発明組成物の摂取量は、予防、治療又は改善したい目的や、性別、年齢、体重等によって異なるが、桑葉エキスの摂取量としては、その乾燥重量として、成人1日当り100mg〜10gの範囲内が適当であり、300mg〜5gの範囲内が好ましい。また、オシマム果実の摂取量としては、その乾燥重量として、成人1日当り3g〜50gの範囲内が適当であり、5g〜30gの範囲内が好ましい。これらを食事回数分に分けて食事直前又は食後、あるいは食事と同時に、摂取することができる。
【実施例】
【0017】
以下に、試験例及び実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0018】
試験例 桑葉エキス、オシマム果実の血糖値上昇抑制作用及び満腹感維持作用試験
(1)桑葉エキス、オシマム果実の摂取
健常者14名に対し、下記A〜Dの内容の食事をそれぞれ1回ずつ摂取させ、試験した。
A:コントロール群
試験前夜、午後9時より絶食し、試験当日の午前9時に市販おにぎり2個とインスタント味噌汁(計約400キロカロリー)の食事を15分以内に摂取した。
B:桑葉エキス単独投与群
500mgの桑葉エキス(桑葉エキスパウダー、日本新薬株式会社製。以下同じ。)を水200mlとともに服用後、Aの食事を摂取した。
C:オシマム果実単独投与群
3gのオシマム果実(スイートバジルシード、丸成商事株式会社製。以下同じ。)を水200mlとともに服用後、Aの食事を摂取した。
D:桑葉エキス及びオシマム果実併用投与群
桑葉エキス500mgとオシマム果実3gとを水200mlとともに同時服用後、Aの食事を摂取した。
試験スケジュールは、初回はAに固定し、その後のB、C、Dの試験順はランダムに披験者に割り当てた。また、各試験の間は、1週間ほど間隔をあけ、被検者にはその間は通常の食事を摂取させた。
【0019】
(2)採血及び血糖値測定
食事摂取終了時、食事摂取30分後、食事摂取60分後、食事摂取120分後、食事摂取180分後、食事摂取360分後に2ml採血した。採血2mlに、フッ化ナトリウム2・5ml、ヘパリンナトリウム25単位、EDTA−二ナトリウム7.4mgを加え、遠心分離して、上清の血漿を採り、日立7600−Pモジュ−ルを用いて、ヘキソキナーゼ法により血糖値を測定した。
各投与群における血糖値(被験者14名の平均値)を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
表1に示すように、各投与群において最大血糖値のみられた食事摂取30分後の血糖値を比較すると、桑葉エキス及びオシマム果実併用投与群では、最も血糖値上昇抑制効果がみられた。また、その後の血糖値の変動を比較すると、桑葉エキス及びオシマム果実併用投与群で、最も変動が緩やかであった。
従って、桑葉エキスとオシマム果実を併用することにより、食事摂取後の血糖値の上昇を抑制し、しかも、急激な血糖値の変動を引き起こさないために、血管に対してストレスが生じず、心・血管イベントの発症リスクが小さく、安全に血糖値をコントロールできることが明らかとなった。
【0022】
(3)満腹感維持作用検定
食事摂取前、食事摂取30分後、食事摂取60分後、食事摂取120分後、食事摂取180分後、食事摂取360分後にアンケートによる調査を行った。
食事摂取前の満腹感(空腹時)を評点1、食事摂取30分後の満腹感を評点5として評点1〜5までの5段階の評価を行った。
満腹感維持作用評価結果(被験者14名の平均値)を表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
表2に示すように、桑葉エキス及びオシマム果実併用投与群では、食事摂取360分後において、コントロール群、桑葉エキス単独投与群に比べ、危険率1%で有意に満腹感が維持された。また、従来、満腹感維持作用が知られているオシマム単独投与群よりも満腹感が維持される傾向がみられた。
【0025】
次に、桑葉エキスとオシマム果実とを含有する食品、ないし医薬製剤の調製例を示す。
【0026】
実施例1
桑葉エキスパウダー1部、スイートバジルシード5部、デキストリン20部、乳糖20部、還元麦芽糖水飴10部、香料少々を混合し、常法によりタブレット状食品を得る。
【0027】
実施例2
豚肉
80部、亜硝酸ナトリウム0.02部、アスコルビン酸ナトリウム0.06部、食塩2部、ピロリン酸ナトリウム0.3部、水17部を48時間塩漬した。その後、塩漬肉をカッティングし、更に、桑葉エキスパウダー 1部、スイートバジルシード 5部を練り込み、ケーシングに充填後、加熱調理してソーセージを得る。
【0028】
実施例3
無塩すけとうだら冷凍擂身100部、食塩2.5部、L−グルタミン酸ナトリウム0.8部、馬鈴薯澱粉6部、氷水35部を加えてカッティング後、桑葉エキスパウダー1部、スイートバジルシード5部を練り込み、蒲鉾板上で成型後、蒸し上げて蒲鉾を得る。
【0029】
実施例4
小麦粉
100部、桑葉エキスパウダー1部、スイートバジルシード5部、蔗糖4部、食塩1部、脱脂粉乳2部、イーストフード0.8部、水67部を加えて捏ねて、一次醗酵、フロアタイム、ベンチタイムを経て焙焼してパンを得る。
【0030】
実施例5
上新粉
100部、蔗糖20部、水75部、桑葉エキスパウダー1部、スイートバジルシード5部を加えて混合し、捏ね上げて蒸煮し、成型して団子を得る。
【0031】
実施例6
牛ミンチ肉40部、豚ミンチ肉40部、桑葉エキスパウダー1部、スイートバジルシード5部、玉葱50部、パン粉5部、食塩少々、胡椒少々、ナツメグ少々を混合して捏ね上げ、成型後、焼き上げてハンバーグを得る。
【0032】
実施例7
桑葉エキスパウダー1部、スイートバジルシード5部、乳糖70部、コーンスターチ30部、ステアリン酸マグネシウム2部、タルク2部を混合し、常法により錠剤を得る。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明に係る桑葉エキスとオシマム果実とを含有する組成物は、肥満又は糖尿病の予防、治療又は改善に有用である。また、血管に対してストレスが生じず、心・血管イベントの発症リスクが小さいので、安全に血糖値をコントロールできる。さらに、健常者が食事制限して、体重を減量するときにも有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
桑葉エキスとオシマム(Ocimum)属に属する植物の果実とを含有する組成物。
【請求項2】
桑葉エキスとオシマム(Ocimum)属に属する植物の果実とを含有する食品用組成物。
【請求項3】
桑葉エキスとオシマム(Ocimum)属に属する植物の果実とを含有する医薬組成物。
【請求項4】
肥満又は糖尿病の予防、治療又は改善するための請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
減食を補助するための請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
請求項2に記載の組成物を含有する食品。
【請求項7】
桑葉エキスとオシマム(Ocimum)属に属する植物の果実とを同時に対象者に投与する肥満又は糖尿病の予防方法、治療方法又は改善方法。
【請求項8】
桑葉エキスとオシマム(Ocimum)属に属する植物の果実と同時に対象者に投与する食事制限方法。
【請求項9】
肥満又は糖尿病に対する予防剤、治療剤又は改善剤を製造するための、桑葉エキスとオシマム(Ocimum)属に属する植物の果実の使用。
【請求項10】
減食を補助する食事制限剤を製造するための、桑葉エキスとオシマム(Ocimum)属に属する植物の果実の使用。

【国際公開番号】WO2005/030234
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【発行日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514205(P2005−514205)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013903
【国際出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000004156)日本新薬株式会社 (46)
【出願人】(503351375)
【Fターム(参考)】