説明

桑黄キノコ菌糸体抽出物を有効成分として含む移植片拒絶抑制用組成物

本発明は、桑黄キノコ菌糸体抽出物を有効成分として含む移植片拒絶抑制用組成物ならびに皮膚疾患予防及び治療用組成物に関する。本発明の桑黄キノコ菌糸体抽出物は、移植片に対する抗体の生成を有意に抑制し、体重変化などの副作用を起こさない。天然物由来であるため本組成物は毒性がなく人体に無害なので、臓器移植時の免疫抑制剤として使用することができる。また、ただれからの滲出を抑制するので、アトピー、アレルギー反応、蓐瘡、および天然痘を含む皮膚疾患の予防及び治療にも有用に使用することができる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、桑黄キノコ(Phellinus sp.)菌糸体抽出物を有効成分として含む移植片拒絶抑制用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
移植片の受容者の免疫系によって、移植された臓器または組織が攻撃される場合、移植片拒絶がおこる。効果的な免疫反応の抑制が臓器移植の成否を決定する主要要因として知られている。このような観点から、免疫抑制剤の開発は、臓器および組織の移植と自己免疫疾患の治療において画期的な発展を可能にし、移植された臓器または組織に対する生体内免疫反応の作用機序研究に多くの寄与をしてきた。
【0003】
このように、移植された臓器の拒絶反応を抑制したり減少させたりするための方法として、免疫抑制剤が開発されたが、その例として土壌カビの一種であるトリポクラジウム・インフラタム(Tolypocladium inflatum)から生産されたシクロスポリンA(米国特許第4,117,118号(特許文献1))などを挙げることができる。このような免疫抑制剤の開発は、臨床的に成功的な臓器移植を可能にしたのみならず、自己免疫疾患治療における治療上の利用性も提示した。しかし、従来の免疫抑制剤は、T−細胞にのみ選択的で、特異的に作用しなければならないにもかかわらず、一般的なシグナル伝達系を含む細胞機能にまで広範囲に影響を及ぼすことによって、健康な他の臓器に対する副作用を誘発していた(参照:S.−H.Lee等,Korean J.Immunology,1997年,第19巻,p.375〜389(非特許文献1))。一例として、シクロスポリンAは、慢性的な肝臓疾患と心臓移植後に高血圧症状を誘発するなどの副作用があることが知られている(参照:J.E.F.Reynolds等,Martindale The Extra Pharmacopoeia,Royal Pharmaceutical Society,London,1996年,第31巻,p.557〜562(非特許文献2))。したがって、副作用がない新しい免疫抑制剤を開発するために多くの努力がなされてきて、その結果、最近では、FK−506が免疫抑制剤として発見されて市販されているが、この薬剤の副作用が見いだされている(Clin.Transplantation,1997年,第11巻,p.237〜242(非特許文献3))。
【0004】
桑黄キノコは、担子菌類(Basidiomycetes)ヒダナシタケ目(Aphylloporales)フェリネ科(Phellinaceae)に属する白色腐朽菌で子実体は、木質になっている。桑黄キノコは、桑の木、山桑、楢柏、栗の木、クヌギ、ドロヤナギ、ヤナギなどを含む広葉樹に寄生する非常に稀な多年生キノコである。「桑黄」と言う言葉は、漢方医学古書に種々の名前で記録に残っているが、実際に手に入れることはとても難しく、古くより漢方薬商の間で伝説の薬剤として伝えられている。前記桑黄キノコは、消化器系統の癌である胃癌、食道癌、十二指腸癌、結腸癌、直腸癌および肝癌の切除手術後の化学療法時の免疫機能を良好にし、子宮出血及びこしけ、月経不順、腸出血に対して治療効果があり、五臓及び胃腸機能の活性化及び解毒作用があることが知られている。しかし、前記桑黄キノコが免疫抑制剤として使用されたことは、まだ報告されたことがない。
【0005】
本発明者等は、副作用がない免疫抑制剤を徹底的に研究し、桑黄キノコ菌糸体抽出物が臓器または組織移植時の免疫反応を有意に抑制することを確認して本発明を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,117,118号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S.−H.Lee等,Korean J.Immunology,1997年,第19巻,p.375〜389
【非特許文献2】J.E.F.Reynolds等,Martindale The Extra Pharmacopoeia,Royal Pharmaceutical Society,London,1996年,第31巻,p.557〜562
【非特許文献3】Clin.Transplantation,1997年,第11巻,p.237〜242
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、桑黄キノコ菌糸体抽出物を有効成分として含む、移植片拒絶の予防に有用な免疫抑制用組成物を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、桑黄キノコ菌糸体抽出物を有効成分として含む皮膚疾患予防及び治療用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために本発明は、桑黄キノコ菌糸体抽出物を有効成分として含む免疫抑制用組成物を移植片拒絶の予防のために提供する。
【0011】
また、本発明は、桑黄キノコ菌糸体抽出物を有効成分として含む皮膚疾患予防及び治療用組成物を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明による桑黄キノコ菌糸体抽出物は、移植片に対する抗体の生成を有意に抑制し、体重変化などの副作用を起こさない。また、天然物由来であるので毒性がなく人体に無害なので、臓器移植時の免疫抑制剤として有用に使用することができる。また、本発明による桑黄キノコ菌糸体抽出物は、ただれからの滲出を抑制することから、アトピー、アレルギー反応、蓐瘡、および天然痘を含む皮膚疾患の予防及び治療にも有用に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のフェリナス リンテウス(Phellinus linteus)菌糸体抽出物または生理食塩水投与時の臓器移植後マウスの脾臓細胞に対する抗体の生成量を示すグラフ(△:実験群、■:対照群)。
【図2】本発明のフェリナス リンテウス菌糸体抽出物および生理食塩水投与時のマウスの体重変化を示すグラフ(△:実験群、■:対照群)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の局面によると、移植片拒絶の抑制のために、桑黄キノコ菌糸体抽出物に基づく免疫抑制用組成物を提供する。
【0015】
本発明による桑黄キノコ菌糸体抽出物の免疫抑制効果を確認するために、天然痘モデルマウスに脾臓細胞を移植した後、前記桑黄キノコ菌糸体抽出物を投与した。マウスモデルにおいて、ELISA法によって脾臓細胞に対する抗体の生成量を測定した。その結果、本発明の桑黄キノコ菌糸体抽出物は、抗体の生成を有意に抑制することが分かった(図1参照)。したがって、本発明による桑黄キノコ菌糸体抽出物は、移植片拒絶予防用の免疫抑制剤として使用しうることが分かる。
【0016】
また、桑黄キノコ菌糸体抽出物が生体内で副作用を起こすかどうかを観察した結果、脾臓細胞を移植した以降のマウスの体重変化がほとんどないことが分かった(図2参照)。したがって、本発明による桑黄キノコ菌糸体抽出物は、臓器移植時の体重変化などの副作用を起こさない免疫抑制剤として移植片拒絶の予防のために使用することができる。
【0017】
本発明の別の局面によると、本発明は桑黄キノコ菌糸体抽出物を有効成分として含む皮膚疾患予防及び治療用組成物を提供する。
【0018】
本発明による桑黄キノコ菌糸体抽出物の皮膚疾患治療効果を確認するために、天然痘モデルマウスに投与した結果、天然痘のただれからの滲出が抑制されることが分かった。したがって、本発明による桑黄キノコ菌糸体抽出物は、皮膚疾患、例えばアトピー、アレルギー反応、蓐瘡、天然痘などの治療に使用することができる。
【0019】
本発明による移植片拒絶予防用ならびに皮膚疾患予防用および治療用の前記桑黄キノコ菌糸体抽出物は、韓国特許第197446号、第174433号、および第124853号に開示された方法を用いて製造することができるが、それに限定されない。
【0020】
本発明で有用な桑黄キノコとしては、フェリナス リンテウス(Phellinus linteus)、フェリナス バウミ(Phellinus baumii)、およびフェリナス イグニアリウス(Phellinus igniarius)を含む。
【0021】
医薬品に使用する場合、本組成物は、前記桑黄キノコ菌糸体抽出物と同一または類似の機能を示す有効成分を1種以上さらに含むことができる。
【0022】
本発明の前記桑黄キノコ菌糸体抽出物は、経口または非経口で投与が可能で、一般的な医薬品製剤の形態で提供することができる。
【0023】
すなわち、本発明の桑黄キノコ菌糸体抽出物は、実際臨床投与時に経口及び非経口の剤形で投与することができ、製剤化する場合には、普通使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を使用して調剤される。本発明の抽出物の経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸薬、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、このような固形製剤は、本発明の桑黄キノコ菌糸体抽出物に少なくとも一つの賦形剤、例えば、デキストリン、澱粉、炭酸カルシウム、スクロース、ラクトース、またはゼラチンなどを混ぜて調剤される。また、ステアリン酸マグネシウム、タルクのような潤滑剤なども添加しうる。経口投与のための液状製剤では、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが該当し、よく使用する単純希釈剤の水、リキッドパラフィン以外にさまざまな賦形剤、例えば湿潤剤、甘味料、芳香剤、保存剤などを含むことができる。本発明の抽出物の非経口投与のための製剤では、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐薬が含まれ、非水性溶剤、懸濁溶剤には、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性油、オレイン酸エチルのような注射可能なエステルなどを使用することができる。坐薬の基剤には、ウィテップゾール、マクロゴ−ル、ツイーン61、カカオ脂、ラウリン、グリセロールおよびゼラチンなどを使用することができる。
【0024】
本発明の桑黄キノコ菌糸体抽出物の投与量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率によってその範囲が多様であり、経口投与する場合、桑黄キノコ菌糸体抽出物の550〜2,200mg/日を投与しうる。
【0025】
また、本発明の桑黄キノコ菌糸体抽出物を皮膚疾患治療用に使用する場合、単独でまたは手術、放射線治療、ホルモン治療、化学療法及び/または生物学的反応調節剤を使用する方法等と併用して使用することができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の理解を助けるために以下の実施例を提示する。しかし、下記の実施例は、本発明を説明するために提供するだけのものであって、これによって本発明の内容が限定されるのではない。
【0027】
免疫抑制実験
天然痘モデルマウス(慶応大学医学部微生物学・免疫学教室から得た)を用いて本発明による桑黄キノコ菌糸体抽出物の免疫抑制実験を行なった。
【0028】
天然痘マウス5匹に、脾臓細胞(Dsg3−/−)の移植2日前から、桑黄キノコ菌糸体抽出物粉末(メシマ(登録商標);韓国新薬)を10mg/kg/日の用量で経口投与した。以後、脾臓細胞を移植した後、35日(5週)間桑黄キノコ菌糸体抽出物を10mg/kg/日の用量で経口投与した。一方、対照群には、抽出物の代わりに生理食塩水を投与した。
【0029】
次に移植後7日(1週)、14日(2週)、21日(3週)、28日(4週)及び35日(5週)にそれぞれマウスから採血して、ELISA法によって脾臓細胞に対する抗体の生成量を測定し、毎日、マウスの体重を観察した。
【0030】
前記実験結果を図1及び図2に示した。
【0031】
図1は、実験群及び対照群における脾臓細胞に対する抗体の生成量を時間に対するプロットで示し、図2は実験群及び対照群における体重変化を示す。
【0032】
図1に示したように、本発明による桑黄キノコ菌糸体抽出物をマウス投与時の脾臓細胞に対する抗体生成量はほとんど0に近く示された。このことから本発明による桑黄キノコ菌糸体抽出物は、移植片に対する抗体生成を効果的に抑制することが分かる。
【0033】
図2に示したように、体重変化において生理食塩水を投与した対照群は、移植した直後には少し体重が増加するが、移植後7日経過後から移植片拒絶反応が発生しながら体重が急激に減少することが示されたが、本発明による桑黄キノコ菌糸体抽出物を投与した場合には、マウスの体重変化がほとんどないことが分かる。したがって、本発明による桑黄キノコ菌糸体抽出物を含む組成物は、移植片拒絶を効果的に抑制して体重増加などの副作用がなく、臓器または組織の移植に対し免疫抑制剤として有用に使用することができる。
【0034】
さらに、マウスおいて対照群では、天然痘によるただれが示されたが、本発明による桑黄キノコ菌糸体抽出物を投与した場合には、皮膚疾患が抑制された。したがって、本発明による桑黄キノコ菌糸体抽出物は、アトピー、アレルギー反応、蓐瘡、天然痘などの皮膚疾患の治療に使用することができる。
【0035】
本発明の組成物は下記のように製剤できる。
【0036】
製剤例1 薬学的製剤の製造
1−1.散剤の製造
−桑黄キノコ菌糸体抽出物 1g
−デキストリン 0.1g
前記成分を混合して気密包に充填して散剤を製造した。
【0037】
1−2.錠剤の製造
−桑黄キノコ菌糸体抽出物 500mg
−デキストリン 45mg
−ステアリン酸マグネシウム 5mg
前記成分を混合した後、通常の錠剤の製造方法にしたがって錠剤を製造した。
【0038】
1−3.カプセル剤の製造
−桑黄キノコ菌糸体抽出物 500mg
−デキストリン 50mg
前記成分を混合した後、通常のカプセル剤の製造方法にしたがってゼラチンカプセルに充填してカプセル剤を製造した。
【0039】
1−4.注射液剤の製造
−桑黄キノコ菌糸体抽出物 50mg/ml
−薄い塩酸BP pH3.5になるまで添加
−注射用塩化ナトリウムBP 最大1ml
適当な体積の注射用塩化ナトリウムBP中に桑黄キノコ菌糸体抽出物を溶解させて、生成された溶液のpHを薄い塩酸BPを使用してpH3.5に調節し、注射用塩化ナトリウムBPを使用して体積を調節して充分に混合した。溶液を透明な5mlタイプIアンプル中に充填し、溶解させることで密封し、120℃で15分オートクレーブして注射液剤を製造した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
桑黄キノコ(Phellinus sp.)菌糸体抽出物を有効成分として含む移植片拒絶の抑制のための免疫抑制用組成物。
【請求項2】
前記桑黄キノコが、フェリナス リンテウス(Phellinus linteus)、フェリナス バウミ(Phellinus baumii)またはフェリナス イグニアリウス(Phellinus igniarius)である、請求項1に記載の免疫抑制用組成物。
【請求項3】
経口投与、静脈内投与または腹腔内投与されるのに適した投与形態である、請求項1に記載の免疫抑制用組成物。
【請求項4】
経口投与時の投与量が、一日あたり550〜2,200mgである、請求項3に記載の免疫抑制用組成物。
【請求項5】
前記組成物が、臓器または組織移植後の移植片拒絶を起こす抗体の生成を抑制する、請求項1に記載の免疫抑制用組成物。
【請求項6】
桑黄キノコ菌糸体抽出物を有効成分として含む、皮膚疾患の予防及び治療用組成物。
【請求項7】
前記皮膚疾患が、アトピー、蓐瘡、および/または天然痘である、請求項6に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−506307(P2011−506307A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536828(P2010−536828)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【国際出願番号】PCT/KR2007/006355
【国際公開番号】WO2009/072687
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(505243353)ハンコック ファーム.カンパニー インコーポレーティッド (4)
【Fターム(参考)】