説明

梅の実の除虫方法

【課題】自然落下した梅の実につく虫を効率的に除去する。
【解決手段】収穫した梅の実を水中に浸し、虫が自ら水中に出てくるのを待って梅の実を引き上げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自然落下した梅の実に付く虫を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
梅干しなどに用いる梅の実は、木から落ちる前に手で収穫する場合と、木から自然落下したものを回収する場合とがある。このうち、木から自然落下したものを回収する場合には、落下してから人手で回収するまでの間に、アカマダラケシキスイの幼虫などの、いくつかの虫が付いてしまうことがある。この虫は小さいので肉眼で侵入孔を目視で発見して虫付きの梅の実のみを除外することは困難であり、虫入りの梅の実をそのまま梅干しにしてしまって、品質管理上問題となる場合があった。このため、殺虫剤で除去することが検討されている。
【0003】
また、根本的にアカマダラケシキスイの幼虫が付くことを防ぐために、例えば特許文献1に記載のような網を設けて、落下した梅の実を受け止め、幼虫が多い土に付着することを防ぐことが検討されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−238329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、外部から殺虫剤を添加して駆除しようとしても、梅の実内部に巣くっている虫は殺しても出てこないため、梅干しに虫が混入するのを防ぎきれない場合があった。また、特許文献1に記載の網を用いて土に接触させなかったとしても、幹や網を通じて虫が梅の実に侵入することがあった。
【0006】
そこでこの方法は、自然落下する梅の実に付く虫を、効率的に除去する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、梅の実を水中に浸すことによって、上記の課題を解決したのである。梅の実を水中に浸すと、梅の実の内部にいる虫はやがて呼吸が出来なくなり、自ら梅の実から抜け出してくる。
【0008】
浸漬時間が20分程度では虫は実の中に居残るものがほとんどであるため、確実に効果を及ぼすためには、30分以上水中に浸漬させることが好ましい。ただし、2時間以上浸漬させると梅の実の品質を悪化させることがあるので、最大で90分程度に留めておくのが好ましい。
【0009】
後は水を切り、梅の実を水洗いすれば、まとめて虫を除去することが出来る。こうして除去される虫は、アカマダラケシキスイの幼虫が代表的である。
【0010】
この発明にかかる除虫方法を実施するには、梅の実を収めた有孔コンテナを複数収容可能なフォークリフト用パレットに、下端だけでなく上端にもフォーク差し込み口を設け、パレットをフォークリフトで吊り上げて、このパレットを収容可能な専用樽に水を満たしておき、そこに浸漬させる方法を用いると、収穫した梅の実を収納して運搬する有孔コンテナに入れたまま除虫処理を行うことができ、効率的である。
【0011】
フォークリフトが使えない場合には、水槽と、その水槽に浸漬可能であり梅の実を入れる有孔のコンテナ部と、水槽を載せる枠体とを有し、コンテナ部を回動可能に取り付けて、梅の実を入れたコンテナ部を回動させて水槽から引き揚げて水を切ることが可能な浸漬装置を用いる。
【発明の効果】
【0012】
この発明により、収穫した梅の実から虫を除去することができ、製品として出荷される梅干し等の梅製品に虫が混入することを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明を具体的な実施形態により説明する。まず、この発明にかかる除虫方法を実施する前に、梅の実を収穫する。この発明は、自然落下した梅の実に対して行う。木に付いた状態ではほとんどの虫が付かないため、木から実をもいで収穫する場合は、この発明にかかる除虫方法を実施する必要がない。自然落下した梅は、地面にまで落ちると特に虫が付きやすいため、網を張っておき、落下しても地面に接触しないようにしておくことが好ましい。なお、このようにしても少ないながら虫が付く。収穫した梅の実は、一般的に収穫した梅を運搬するために用いる、プラスチック製で通気孔が空いた、積み上げ可能な有孔コンテナに入れる。ただしこの時点で、目視で変色が確認されたり、大きな虫食いが見つけられたりしたものは除外しておく。
【0014】
この発明にかかる除虫方法の第一の実施形態では、収穫に用いた有孔コンテナに梅の実を入れたまま除虫を行う。この実施形態では、フォークリフトで持ち上げ可能なフォークリフト用のパレットと、このパレットを収容して、パレットに載せたコンテナを浸漬可能である、水を満たした専用樽とからなる梅の実浸漬装置を用いる。
【0015】
まず、有孔コンテナ11を、図1(a)に記載のような、フォークリフト用のパレット12に載せて積み上げる。このフォークリフト用のパレット12は、有孔コンテナ11を載せる底盤13の四方に支柱14を有し、支柱14で支えられた上部には四辺を形成する梁15を有する。またこのパレット12は、一般的なパレットのように、下端にフォークリフト22のフォーク23を入れるフォーク差し込み口16を有するだけでなく、上端の向かい合う梁の間にもフォーク差し込み口17を有する。このうち、普段の運搬時には下端のフォーク差し込み口16を使用する。このパレット12に有孔コンテナ11を積み上げた際の、フォーク23を差し入れる方向から見た図を図1(b)に、それと垂直な方向から見た図を図1(c)に示す。
【0016】
上記の有孔コンテナ11をパレット12の底盤13上に積み重ねた図1(b)及び(c)のような状態でこの発明にかかる除虫方法を実施する。図2に示す、このパレット12が収容可能な大きさの専用樽21に水を入れて用意しておく。それから、上端のフォーク差し込み口17にフォーク23を差し込んで、有孔コンテナ11ごとパレット12を吊り上げ、専用樽21上に移送する。この状態を図3に示す。フォーク23を降ろして、パレット12を有孔コンテナ11内の梅の実ごと専用樽21の水中に浸漬させる。この専用樽21の深さは、パレット12を浸漬させた際に、パレット12内の有孔コンテナ11を全て浸漬させることができ、かつ、上端のフォーク差し込み口17が樽の上端より上に位置するものである。
【0017】
浸漬は30分以上90分以下に亘って行う。アカマダラケシキスイの幼虫であると、22分を経過した頃から徐々に実の中から水中に遊離し始める。30分浸漬させれば、90%以上の虫を除去することができる。ただし、90分を過ぎると梅の実の品質を悪化させることがあるため、浸漬時間は90分以下であることが望ましい。
【0018】
浸漬が終わったら、再びパレット12の上端のフォーク差し込み口17にフォークリフト22のフォーク23を差し込み、収容した有孔コンテナ11内の梅の実ごと、パレット12を引き揚げる。この際、梅の実から出てきた虫の大半は樽内の水中に残り、梅の実の表面に付着し続けるものは僅かとなる。続けて除虫処理を行う場合は、この樽の水を取り替えておくことが望ましい。
【0019】
なお、上記の上端の差し込み口にフォークリフト22のフォーク23を差し込んだまま浸漬を続けてもよい。
【0020】
この第一の実施形態によると、収穫して有孔コンテナ11に収めて運搬してきた梅の実を、有孔コンテナ11に入れたまま、運搬のためのフォークリフト用パレット12に載せて積み上げ、そのまままとめて除虫処理ができるので、作業効率が高い。
【0021】
次に、この発明にかかる除虫方法の第二の実施形態について説明する。この実施形態では、収穫してきた梅の実を、有孔コンテナ11から図4に示すような浸漬装置に移して除虫方法を実施する。この浸漬装置は、水を満たす水槽31と、この水槽31中に浸漬可能であるコンテナ部32と、水槽31を載せる枠体33とからなる。
【0022】
上記のコンテナ部32は、内外に水が流通可能な孔を有しており、中に梅の実を入れて水から引き上げれば水を切ることができる。コンテナ部32の開口部の一方の端部35は、上記水槽31か上記枠体33のいずれかに、上下方向に回動可能であるように回動軸36を設けて取り付けられてある。図4では枠体33に取り付けてある。
【0023】
梅の実を水に漬ける際には、水を適量入れた水槽31内にコンテナ部32を収め、その上から収穫してきた梅の実を投入する。好ましい浸漬時間は上記の第一の実施形態と同様である。浸漬が終わったら、水槽内に漬けていたコンテナ部32を、回動軸36を中心に回動させることで水中から引き上げて水を切り、除虫させた梅の実を得る。このとき、除去した虫は大部分が水槽内に残るので、続けて除虫を行う場合には、一旦水を取り替えることが望ましい。
【0024】
この引き上げを容易に行えるように、上記の枠体には、コンテナ部32を回動させて水槽31中から引き上げることが可能な引き上げ装置が取り付けてある。この引き上げ装置は、水槽31より上方であり、かつ、水槽31の上端よりもコンテナ部32の両端間の長さ分以上に上となる位置で枠体33に設けた滑車41と、この滑車に繋がる巻き上げ機42とからなる。
【0025】
具体的には、枠体33は水槽31を載せる底盤43と、その底盤43上の、水槽31を載せた際の一方の端部側に並んだ二本の支柱44と、それぞれの支柱44を斜め方向から支える二本の斜柱46と、支柱44の間を頂点で渡す上梁45と、それよりも下の箇所で支柱44の間を渡す下梁47とからなる。また、支柱44の下梁47より下で、水槽31の上端部とほぼ同じ高さに、回動軸36を受ける軸受部48を有している。このうち、上梁45の間に滑車41が設けてあり、下梁47の間に巻き上げ機42が取り付けてある。
【0026】
一方で、コンテナ部32の回動自在に取り付けた端部35と反対側である他方の端部38にワイヤー39の一方の端部が取り付けてあり、このワイヤー39は上記の滑車41を介して巻き上げ機によって巻き上げられるようにしてある。この引き上げ装置の動作時の構成を図5に示す。ワイヤー39を巻き上げ機42によって巻き上げることで上記のコンテナ部32の他方の端部が持ち上げられて回動軸36を中心にして回動されて、コンテナ部32を水中から引き上げ、コンテナ部32に収容させた梅の実を水槽外に運び出すことができる。その後、巻き上げ機42を戻すことで、コンテナ部32を再び水槽31に戻すことができる。
【0027】
なお、上記の実施形態のいずれでも、この発明にかかる除虫方法を実施した梅の実は、選荷機によって大きさごとに分類した後、実に対して18〜20質量%程度の塩化ナトリウムに漬ける塩漬けを行い、浸透圧によって実の中の水分を抜く。2〜3週間かけて塩漬けを行った後、水で洗う。実の表面に付着している虫が残存していたとしても、この工程でほぼ完全に除去される。それから三日間天日干しをし、水洗した後、調味液で一週間味付けして梅干しとして出荷する。
【実施例】
【0028】
この発明にかかる除虫方法を実際に行った実施例を挙げて、この発明をより詳細に説明する。
【0029】
(実施例)
自然落下して地面に落ちた梅の実を収穫し、プラスチック製の有孔コンテナに収容した。この梅の実を満たした、外寸521mm×363mm×308mm、内寸486mm×328mm×302mmの有孔コンテナを、図1(a)に記載のパレットの底盤上に、縦2つ横3つ、高さ方向に4つ、合計24個積み上げて図1(b)及び(c)の状態とした。一方で、このパレットを収容可能な専用樽に水を満たしたものを用意した。
【0030】
このパレットの上端の差し込み口にフォークリフトのフォークを差し込み、パレットを有孔コンテナごと吊り上げて、専用樽の上方に移送し、リフトを降ろして、パレット内の有孔コンテナを全て水中に浸漬させる。この状態で、下記のそれぞれの例において、それぞれ指定の時間に亘って浸漬させる。このとき、上端の差し込み口は専用樽の上端より上に位置し、水没しないようになっており、浸漬させている間はフォークリフトのフォークを抜いておき、浸漬終了後に再び差し込み口にフォークを差し込んで、パレットを引き上げる。
【0031】
この浸漬時間を30分間として、一年間で350トンの梅の実を処理した。この梅の実を販売したうち、虫が残存していたという報告は一件のみであった。
【0032】
(参考例)
上記の浸漬を行う前の梅の実を有孔コンテナ一つ分集め、アカマダラケシキスイの幼虫が存在する個数をカウントした。一方で、図2に記載の装置の専用樽に水を満たし、梅の実を有孔コンテナ一つ分投入して、20分間浸漬させた後に引き上げた。この浸漬させた梅の実に含まれる、アカマダラケシキスイの幼虫が残存する個数をカウントしたところ、浸漬を行っていない場合と比べて、幼虫数は40%に減少していた。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(a)第一の実施形態に用いるフォークリフト用パレットと有孔パレットとの概略図、(b)(a)の正面図、(c)(a)の側面図
【図2】上端差し込み口にフォークを差し込み専用樽へ移す際の概念図
【図3】フォークリフトでパレットを上下させる際の概念図
【図4】第二の実施形態に用いる浸漬装置の概略図
【図5】(a)巻き上げ機を巻き上げる前の側面図、(b)巻き上げ機を巻き上げる最中の側面図
【符号の説明】
【0034】
11 有孔コンテナ
12 パレット
13 底盤
14 支柱
15 梁
16 (下端の)フォーク差し込み口
17 (上端の)フォーク差し込み口
21 専用樽
22 フォークリフト
23 フォーク
31 水槽
32 コンテナ部
33 枠体
35 (コンテナ部の開口部の)一方の端部
36 回動軸
38 (コンテナ部の)他方の端部
39 ワイヤー
41 滑車
42 巻き上げ機
43 底盤
44 支柱
45 上梁
46 斜柱
47 下梁
48 軸受部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自然落下した梅の実を水中に浸して、落下後に実内部に侵入した虫を除去する、梅の実の除虫方法。
【請求項2】
梅の実を収めた有孔コンテナを複数収容可能なフォークリフト用のパレットと、前記パレットを収容可能な専用樽とからなり、
前記パレットは上端及び下端の両方にフォーク差し込み口を設けてあり、前記パレットを前記上端のフォーク差し込み口にフォークを挿入してフォークリフトで吊り上げることで、前記有孔コンテナごと水を満たした前記専用樽に浸漬させ、かつ引き上げることが可能である、梅の実浸漬装置。
【請求項3】
水槽と、その水槽中に浸漬可能であり、内外に水が流通可能な孔を有し梅の実を収容可能であるコンテナ部と、前記水槽を載せた枠体とからなり、
前記コンテナ部は、上方開口部の一方の端部で前記枠体又は前記水槽に、上下方向に回動可能に取り付けてあり、
上記コンテナ部を上記水槽中から引き上げ可能な引き上げ装置を有する、梅の実浸漬装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の梅の実浸漬装置を用いて、自然落下した梅の実を上記有孔コンテナ又は上記コンテナ部に収めて水中に浸漬させ、落下後に実内部に侵入した虫を除去する、梅の実の除虫方法。
【請求項5】
水中に浸す時間が30分以上90分以下である、請求項1又は4に記載の梅の実の除虫方法。
【請求項6】
上記虫がアカマダラケシキスイの幼虫である、請求項1、4又は5のいずれか1項に記載の梅の実の除虫方法。
【請求項7】
自然落下した梅の実であって、回収後に請求項1、4、5又は6のいずれか1項に記載の除虫方法により実内部に存在する虫を除去した梅の実。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−60816(P2009−60816A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229954(P2007−229954)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(507298290)株式会社味好屋 (1)
【Fターム(参考)】