説明

梳き鋏用櫛刃の製造方法

【課題】 コスト上昇を招くことなく裁断後の髪が要素間に残るのを確実に防止できる梳き鋏用櫛刃の製造方法を提供する。
【解決手段】 梳き用の櫛刃と直刃とを備えた梳き鋏における櫛刃10の製造方法であって、櫛刃10の要素10A間の谷幅寸法に見合う厚さの砥石を周面に備えた切削具11を用いて櫛刃10における刃の並び方向と直角な方向Fに切り込むことで要素間の谷10Pを形成し、前記谷10Pの形成後、櫛刃10の要素における基部同士での谷の幅W1を、先端同士での谷の幅W2よりも拡張することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梳き鋏用櫛刃の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
髪を梳くために用いられる梳き鋏は、一般に図6に示す構成を備えている。
図6において梳き鋏1は、鋏の一方が所定間隔で谷と称される溝が形成された櫛刃1Aになっており、他方の直刃1Bとは互いの相対位置に設けてある支持孔(図示されず)に挿入された支持ピン2により揺動することで刃面同士を合わせて髪を裁断できる。
【0003】
梳き鋏1における櫛刃1Aは、図7に示すように、ステンレス鋼の板を加工したブランクPに対して回転可能なカッターや砥石3を用いて刃の並び方向(矢印Lで示す方向)と直角な方向に切り込み(矢印Hで示す方向)、この作業を繰り返すことにより、図7(B)に示す櫛刃1Aが製造される。
【0004】
梳き鋏1は、家庭ではなく理美容店などの業務に用いられる特殊な鋏であり、例えば、形状寸法においていうと、図6に示した櫛刃1Aの峰が所定の曲率半径(図6中、符号R1で示す)を持たせて形成されている場合がある。
このため、刃の部分も同じ曲率半径(図6中、符号R1で示す)を持たせていると、櫛の谷底の部分を峰から等しい距離にすることが要求されることから、櫛の丈(谷の深さ)が櫛の刃毎で異なる結果となる。
【0005】
このような要求に対して、櫛刃1Aの製造に用いられるカッターや砥石を各刃の形態に合わせて準備することは製造コストの上昇を招くことから得策ではない。
【0006】
一方、櫛刃1Aは、櫛としての機能も持ち合わせていることから刃の製造時に発生するバリ、特に谷の底部に発生するバリを除去することが髪への損傷防止のうえで極めて重要となる。
従来、上述した製造コストおよびバリ除去加工などの要求に対応するために、ブランクと、回転する一枚のカッターあるいは砥石との相対運動により櫛の要素間を除去し、カッターあるいは砥石の軸線方向に対して直角な方向でブランクを回転させることにより要素間の底部に発生しているバリを除去する方法を本出願人は提案した(例えば、特許文献1)。また、カッターあるいは砥石に対するブランクの対面角度を調整することで櫛刃の要素先端の仕上げ加工ができる方法も本出願により提案されている(例えば、特許文献2)。
カッターや砥石を用いて梳き鋏用櫛刃を製造する仮定で歯間に斜めの溝を形成したり、歯の要素に面取りを施したりする提案もなされている(特許文献3,4)。尤も、これらの加工により、刃先の先端の断面積が小さくなり、いわゆる先端のV溝加工に支障がでる可能性がある。
【特許文献1】特許第281034号
【特許文献2】特許第3390330号
【特許文献3】特開平9−308778号
【特許文献4】特開平10−216373号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、梳き鋏1の構成部品の一つである櫛刃1Aは、上述したように櫛としての機能も持ち合わせている。このため、髪の裁断時および裁断後に櫛刃1Aで髪を梳く際には裁断された髪が櫛刃の要素間に残っていないようにすることが必要となる。これは、髪の詰まりによって髪を引っ張ってしまい、顧客に不快感を与えてしまうなどの不具合を発生させないためである。いずれにしても、切断されなかった髪の滑りが良いことが、極めて重要であるが、砥石等を用いる加工は複雑な加工には不向きであるとされていた。
【0008】
本発明の目的は、コスト上昇を招くことなく裁断後の髪が要素間に残るのを確実に防止できる梳き鋏用櫛刃の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、梳き用の櫛刃と直刃とを備えた梳き鋏における櫛刃の製造方法であって、前記櫛刃の要素間の谷幅寸法に見合う厚さの砥石を周面に備えた切削具を用いて前記櫛刃における刃の並び方向と直角な方向に切り込むことで要素間の谷を形成し、前記谷の形成後、櫛刃の要素における基部同士での谷の幅を先端同士での谷の幅よりも拡張することを特徴としている。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の櫛鋏用櫛刃の製造方法において、前記切削具は、円盤の外周に該円盤よりも厚く前記要素間の寸法に見合う厚さの砥石部を備えた構成であり、前記要素同士の基部間で切り込み方向と直角な方向に移動されることにより谷の幅を拡張させることを特徴としている。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の梳き鋏用櫛刃の製造方法において、前記切削具は、円盤の外周に該円盤よりも厚く前記要素間の寸法に見合う厚さの砥石部を備えた構成であり、前記要素同士の基部間で前記切削具と櫛刃との相対角度を変えて基部に面取りを行うことにより谷の幅を拡張させることを特徴としている。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の梳き鋏用櫛刃の製造方法において、前記面取りは、櫛刃素材であるブランクを前記切削具の切り込み方向に対して直角な面内で回動させることにより行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、櫛刃の要素間に谷を形成した後、櫛刃の要素における基部同士での谷の幅を先端同士のそれよりも拡張することにより裁断された髪が抜け落ちる位置である櫛刃の奥側に裁断した髪の抜け部を設けることができる。これにより、裁断された髪が抜け落ちやすくなり、髪を梳く際に髪が引っ張られるという不快感をなくすことが可能となる。
【0014】
請求項2記載の発明によれば、要素の基部同士における谷の幅を拡張する際には、外周に円盤よりも厚く谷の幅に対応する厚さを持つ切削具を切り込み方向と直角な方向に移動させるだけで済むので、放電加工などと違って、加工面でのバリ取りなどの最終仕上げを要しない分、加工コストの上昇を抑えることができ、安価でしかも精度を高めて髪の抜け部を形成することが可能となる。
【0015】
請求項3記載の発明によれば、要素同士の基部間で、円盤よりも厚く要素間の寸法に見合う厚さの砥石部を備えた切削具と櫛刃との相対角度を変えて基部に面取りを行うことにより谷の幅を拡張させるので、髪が容易に抜け落ちやすくなる髪の抜け部を形成するだけでなく、抜け部の角部に鋭利な部分がなくされることになる。これにより、面取り作業だけで、裁断された髪が抜けやすい箇所を設けることができると共に、髪の抜け部に存在する角部での髪の引っかかりなどを防ぐことが可能となる。
【0016】
請求項4記載の発明によれば、基部の断面4隅を面取りする際に櫛刃の素材であるブランクを切削具の切り込み方向に対して切削具の切り込み方向に対して直角な面内で回動させるだけであるので、放電加工と違って、簡単にしかも短時間で加工を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図示実施例により本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【実施例】
【0018】
図1は、本実施例による製造方法により製造された梳き鋏用櫛刃の要部を示す図であり、同図において、櫛刃10は、素材であるブランクに形成される要素10A間の谷幅において、要素の基部同士での谷幅W1が、先端同士での谷幅W2よりも拡張されて、要素間の谷10Pの奥側(底側)、つまり要素の基部10A1側に広い空間で構成された髪の抜け部10P1として用いられるようになっている。
【0019】
このような形状の谷10Pを形成するための切削具としては、図2に示す構成が用いられる。
図2において、切削具11は、図示しない加工機に装着されて回転可能な円盤11Aと、円盤11Aの外周において要素における先端同士の谷幅W2に対応する厚さを有する砥石11Bとを備えている。
円盤11Aの厚さは、上述した谷幅W2よりも薄くなっており、この幅の差により切削具11が谷幅W2内で谷の深さ方向と直角な方向に移動することができるようになっている。なお、図2(A)においては、円盤11Aに装備されている回転軸が省略されて中心線のみが表示されている。
切削具11は、加工機にセットされたブランクに対して谷の深さ方向に移動して切り込むことができるようになっている。以下、谷の深さ方向を対象とした切削具11の移動方向を切り込み方向と呼称する。
【0020】
本実施例は、図2に示した切削具11を用いて、図3に示す手順により梳き鋏用の櫛刃10が製造される。
図3において、櫛刃の素材となるブランクに対して、櫛刃の要素10Aが並ぶ方向と直角な方向に相当する切り込み方向(図3(B)において矢印Fで示す方向)に切削具11が移動される(図3(B)参照)。
これにより、櫛刃10のブランクには要素間の谷10Pが形成され、この谷10Pの幅は、要素における先端同士での谷幅(W2)に相当している。
【0021】
図3(C)において、谷10Pが形成された後、要素における基部同士の谷底近傍では、谷幅(W2)と切削具11における円盤11Aの厚さとの差を利用して切削具11が切り込み方向と直角な方向(図3(C)において矢印Tで示す方向)に移動され、本実施例では、谷幅中心から両側に均等量を以て往復移動させる(図3(C)において二点鎖線は往復移動方向における一方での切削具11の位置を示している)。これにより、基部同士での谷幅(W1)が先端部での谷幅(W2)から拡張される(図3(C)参照)。なお、切削具11は、切り込み方向で往復移動されることにより、髪の抜け部10P1の切り込み方向での長さを得ることができるようになっている。
【0022】
本実施例によれば、切削具11を谷の深さ方向に相当する切り込み方向への移動および切り込み終了後に切り込み方向と直角な方向に移動するだけの操作により要素の基部同士の谷幅を先端同士のそれと異ならせることができる。
特に、先端から奥まった位置での幅拡張が可能であるので、放電加工と違って成形のための治具や型材などを必要とすることがなく、また加工時間も大幅に短縮することができる。しかも、砥石11Bによる研削処理であるので、放電加工時のようなバリ取りなどの後処理を不要にすることができる。
【0023】
次に、本発明の要部変形例について説明する。
本例では、切削具11を用いて要素同士の基部間で図2に示した櫛刃10と切削具11との相対角度を変えることにより基部に面取りを行うことを特徴としている。
図4は、この場合を説明するための図であり、同図には、図1中、符号(4)で示す方向の矢視断面が示されている。
図4において、要素10Aの基部(便宜上、符号10A1で示す)は、切削具11との相対角度を変えることにより、切削具11の切り込み方向と直角な方向での断面4隅の角部または、これに加えて、基部の谷底上下角部がそれぞれラウンド形状に面取りされる。
図5は、面取り作業を行う場合を示す模式図であり、同図において、前者の面取りを行う場合には、切削具11の切り込み方向(図中、符号Fで示す)に対して直角な面内で櫛刃10を回動(図5中、符号Rで示す状態)させて、その回動軌跡に断面4隅の角部を位置させることにより、切削具11の切り込み方向と直角な方向での断面4隅角部が面取りされる。
後者の面取りに際しては、図5において矢印Vで示すように、切削具11の切り込み方向と平行する面内で櫛刃10を回動させてその回動軌跡に基部10Aの谷底上下角部を位置させることにより谷底上下角部が面取りされる。
なお、谷幅を拡張するだけの目的であれば、前者の面取り、つまり、基部側の断面4隅角部のみを対象とした面取りのみであってもよい。
【0024】
本例においては、櫛刃10における要素同士の基部10A1間で、切り込み方向と直角な方向での断面4隅角部あるいはこれに加えて基部の谷底上下角部がそれぞれ面取りされることにより鋭利な角部がなくされる。特に、切り込み方向と直角な方向での断面4隅角部を面取りした場合には、この作業だけでも基部10A1での谷幅を拡張することができるので製造工数を少なくすることができる。
以上のような方法によれば、髪の抜け部の形成が容易となるばかりでなく、髪の抜け部の周囲に存在する角部が鋭利でなくなるので、髪梳きの際に髪が角部に引っかかって客に不快感を与えるようなことをなくすことができる。しかも、面取りに際しては櫛刃10のブランクを回動させるだけの簡単な作業であるので、放電加工と違って、バリ取りなどの後処理をなくして短時間で仕上げることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明実施例による櫛刃の要素を示す局部的な平面図である。
【図2】本発明実施例による製造方法に用いられる切削具の構成を説明するための図である。
【図3】本発明実施例による製造方法の手順を説明するための図である。
【図4】本発明実施例による製造方法によって得られる要素先端部の状態を示す図である。
【図5】図4に示した要素先端部を得るための製造内容を説明するための図である。
【図6】梳き鋏の外観図である。
【図7】図6に示した梳き鋏における櫛刃の製造内容を説明するための図である。
【符号の説明】
【0026】
10 櫛刃
10A 櫛刃の要素
10A1 要素の基部
10P1 髪の抜け部
11 切削具
11A 円盤
11B 砥石
W1 要素基部側の谷幅
W2 要素先端側の谷幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
梳き用の櫛刃と直刃とを備えた梳き鋏における櫛刃の製造方法であって、
前記櫛刃の要素間の谷幅寸法に見合う厚さの砥石を周面に備えた切削具を用いて前記櫛刃における刃の並び方向と直角な方向に切り込むことで要素間の谷を形成し、
前記谷の形成後、櫛刃の要素における基部同士での谷の幅を先端同士での谷の幅よりも拡張することを特徴とする梳き鋏用櫛刃の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の櫛鋏用櫛刃の製造方法において、
前記切削具は、円盤の外周に該円盤よりも厚く前記要素間の寸法に見合う厚さの砥石部を備えた構成であり、前記要素同士の基部間で切り込み方向と直角な方向に移動されることにより谷の幅を拡張させることを特徴とする梳き鋏用櫛刃の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の梳き鋏用櫛刃の製造方法において、
前記切削具は、円盤の外周に該円盤よりも厚く前記要素間の寸法に見合う厚さの砥石部を備えた構成であり、
前記要素同士の基部間で前記切削具と櫛刃との相対角度を変えて基部に面取りを行うことにより谷の幅を拡張させることを特徴とする梳き鋏用櫛刃の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の梳き鋏用櫛刃の製造方法において、
前記面取りは、櫛刃素材であるブランクを、前記切削具の切り込み方向に対して直角な面内で回動させることにより行うことを特徴とする梳き鋏用櫛刃の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−122541(P2006−122541A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−317514(P2004−317514)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(593207282)
【Fターム(参考)】