説明

椅子

【課題】正しい座り方に導く。
【解決手段】着座者を支持する座部材1と、座部材1を支持する座ベース2と、座ベース2と座部材1の間に設けられ、着座位置が予め設定された位置から偏倚すると偏倚した方向に座部材1を傾動させる傾動手段3と、座ベース2と座部材1の間に設けられ、座部材1を傾動していない姿勢になるように付勢する付勢手段4と、座部材1の傾動に連動して着座者を刺激して又は着座者に与える感触を変化させて座部材1の傾動を感知させる感知手段5を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椅子に関する。さらに詳しくは、本発明は、傾動可能な座を有する椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、座を傾動可能にした椅子がある。この椅子を図29に示す。この椅子は、椅子フレーム101の座フレーム102に固定された支持板103と座部104との間にユニバーサルジョイント107を設け、座部104を傾動可能に支持している。椅子フレーム101はパイプを曲げて形成され、脚105と背もたれ106を一体に形成している。
【0003】
この椅子を使用する場合、正しい位置に座らなければ座部104が傾いてしまうので、座部104の傾きを意識することで座り位置のずれを認識し、正しく座り直すことで正しい位置に座る習慣をつけることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−68223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の椅子では、座部104の傾きに気がつかない場合がある。特に、作業に集中している時や長時間の着座によって椅子に慣れてしまった場合等には、着座者が座部104の傾きに気がつき難い。着座者が座部104の傾きに気がつかなければ自分の座り位置のずれには気がつかず、正しく座る習慣を身に付けることができない。
【0006】
本発明は、着座者が特に座の傾きを意識しなくても座の傾きを感知することが可能な位置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために請求項1記載の椅子は、着座者を支持する座部材と、座部材を支持する座ベースと、座ベースと座部材の間に設けられ、着座位置が予め設定された位置から偏倚すると偏倚した方向に座部材を傾動させる傾動手段と、座ベースと座部材の間に設けられ、座部材を傾動していない姿勢になるように付勢する付勢手段と、座部材の傾動に連動して着座者を刺激して又は着座者に与える感触を変化させて座部材の傾動を感知させる感知手段を備えるものである。
【0008】
したがって、着座者が座部材の正しい位置(予め正しく座る位置として設定されている位置)から偏倚した位置に座った場合、傾動手段が座部材を偏倚方向に傾動させる。この傾動に連動して感知手段が変位又は変形し、着座者の体の一部に刺激を与える(接触する又は押す)又は着座者に与える感触を変化させることで着座者に座部材の傾動を感知させる。また、着座者が立ち上がり、座部材に作用していた荷重が消滅すると、傾動していた座部材は付勢部材によって傾動していない姿勢に戻される。一方、着座者が座部材の正しい位置に座った場合、座部材は傾動しない。したがって、感知手段が作業者に刺激を与える又は着座者に与える感触を変化させることはない。
【0009】
また、請求項2記載の椅子は、感知手段は背もたれの一部を前方に変位させるものである。したがって、座部材の揺動に連動して背もたれの一部が前方に変位し、着座者の背中を刺激する。これにより着座者は座部材の揺動を感知する。
【0010】
また、請求項3記載の椅子は、感知手段は背もたれに設けた膨出部を前方に向けて膨出させるものである。したがって、座部材の揺動に連動して膨出部が前方に向けて膨出し、着座者の背中を刺激する。これにより着座者は座部材の揺動を感知する。
【0011】
また、請求項4記載の椅子は、感知手段は、座部材の傾動が右方向の成分を含む場合には背もたれの右側の側部を前方に変位させ、左方向の成分を含む場合には背もたれの左側の側部を前方に変位させるものである。したがって、椅子の左右方向(幅方向)に関して、座部材の傾動の方向と着座者が感知手段から刺激を受ける位置の方向とを一致させることができる。
【0012】
また、請求項5記載の椅子は、感知手段は、座ベースとの連結点を支点とし、座部材との連結点を力点とし、背もたれとの連結点を作用点とし、力点の下降により作用点を前進させるリンクを有するものである。したがって、座部材が傾動するとリンクが揺動し、背もたれの一部又は前部を変位又は変形させる。
【0013】
また、請求項6記載の椅子は、座ベースと座部材の間に座部材の後方への傾動を防止する傾動防止手段を備えるものである。したがって、座部材が後方に傾動するのを防止することができる。
【0014】
さらに、請求項7記載の椅子は、感知手段は、可撓性の背もたれを撓ませて凭り掛かった場合の撓みやすさを部分的に変化させるものである。したがって、座部材の揺動に連動して背もたれに凭り掛かった場合の感触が変化し、着座者に与える刺激が変化する。これにより着座者は座部材の揺動を感知する。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の椅子によれば、座部材の傾動に連動して感知手段が着座者に刺激を与える又は着座者に与える感触を変化させるので、着座者は特に意識していなくても受動的に着座位置のずれを感知することができる。そのため、正しい座り方をするように着座者を導くことができる。
【0016】
ここで、請求項2記載の椅子のように、感知手段は背もたれの一部を前方に変位させるものにしても良いし、請求項3記載の椅子のように、感知手段は背もたれに設けた膨出部を前方に向けて膨出させるものにしても良い。
【0017】
また、請求項4記載の椅子によれば、椅子の左右方向(幅方向)に関して、座部材の傾動方向と着座者が感知手段から刺激を受ける位置の方向(側)とを一致させることができるので、着座者は特に意識していなくても受動的に着座位置のずれ方向を感知することができる。
【0018】
また、請求項5記載の椅子によれば、リンクの揺動によって感知手段を作動させることができるので、感知手段の作動をより一層確実なものにすることができる。
【0019】
また、請求項6記載の椅子によれば、座部材が後方に傾動するのを防止することができるので、座部材が後方に傾動して着座者を驚かせることが無く、使い勝手をより一層向上させることができる。また、背もたれに凭り掛かる場合に感知手段の作動を防止することができるので、この点からも椅子の使い勝手をより一層向上させることができる。
【0020】
さらに、請求項7記載の椅子のように、感知手段は、可撓性の背もたれを撓ませて凭り掛かった場合の撓みやすさを部分的に変化させるもの
にしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の椅子の第1の実施形態を示し、座部材が傾動していない状態の側面図である。
【図2】図1の椅子の背もたれと座を示す背面図である。
【図3】図1の椅子の座を示す断面図である。
【図4】図1の椅子の平面図である。
【図5】本発明の椅子の第1の実施形態を示し、座部材が左に傾動している状態の側面図である。
【図6】図5の椅子の座を示す断面図である。
【図7】本発明の椅子の第2の実施形態を示し、座部材が傾動していない状態の側面図である。
【図8】図7の椅子の座を示す断面図である。
【図9】図7の椅子の平面図である。
【図10】本発明の椅子の第1の実施形態を示し、座部材が左に傾動している状態の側面図である。
【図11】図10の椅子の座を示す断面図である。
【図12】本発明の椅子の第3の実施形態を示し、座部材が傾動していない状態の側面図である。
【図13】図12の椅子の背もたれと座を示す背面図である。
【図14】図12の椅子の座を示す断面図である。
【図15】図12の椅子の平面図である。
【図16】図12の椅子を示し、座部材が左に傾動している状態の側面図である。
【図17】図12の椅子の背もたれと座を示す背面図である。
【図18】図16の椅子の座を示す断面図である。
【図19】図16の椅子の平面図である。
【図20】本発明の椅子の第4の実施形態を示し、座部材が傾動していない状態の側面図である。
【図21】図20の椅子の背もたれと座を示す背面図である。
【図22】図20の椅子の座を示す断面図である。
【図23】図20の椅子の平面図である。
【図24】図20の椅子を示し、座部材が左に傾動している状態の側面図である。
【図25】図24の椅子の背もたれと座を示す背面図である。
【図26】図24の椅子の座を示す断面図である。
【図27】図24の椅子の平面図である。
【図28】傾動防止手段を省略した椅子の平面図である。
【図29】従来の椅子の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の構成を図面に示す形態に基づいて詳細に説明する。
【0023】
図1〜図6に本発明の椅子の第1の実施形態を示す。椅子は、着座者を支持する座部材1と、座部材1を支持する座ベース2と、座ベース2と座部材1の間に設けられ、着座位置が予め設定された位置から偏倚すると偏倚した方向に座部材1を傾動させる傾動手段3と、座ベース2と座部材1の間に設けられ、座部材1を傾動していない姿勢になるように付勢する付勢手段4と、座部材1の傾動に連動して着座者を刺激して又は着座者に与える感触を変化させてに座部材1の傾動を感知させる感知手段5を備えている。
【0024】
本実施形態では、背もたれ6を可撓性を有する板状の背もたれ6としており、上下方向のほぼ中央に2本の水平なスリット7を設けて撓み易くしている。2本のスリット7の間が上下方向において最も前方に突出している。また、背もたれ6の両側部の上下方向ほぼ中央部分は部分的に切り離されて別部材の揺動プレート8となっている。左右の揺動プレート8は内側の側縁をヒンジ9によって背もたれ本体6aに連結されており、外側の側縁を前方に向けて旋回させるように揺動可能となっている。揺動プレート8は感知手段5の構成部材となっている。背もたれ本体6aの上部は背支桿10に取り付けられた左右一対の支持アーム11によって支持されており、下部はその両側部を第2のリンク12で座ベース2に連結されている。
【0025】
椅子の座は座ベース2と座部材1より構成されている。座ベース2は、脚13に支持される座受け部材14と座受け部材14に支持される背支桿10とによって前後を支持され、座と背の動きを連動させる所謂シンクロロッキング機構を構成している。また、本実施形態の座部材1は、支持板15上にクッション材16を重ねるように取り付けた構成となっている。座部材1は傾動手段3と付勢手段4とによって座ベース2上に傾動可能に支持されている。座ベース2と座部材1との間には傾動手段3及び付勢手段4を配置すると共に座部材1の傾動を可能にする空間17が設けられている。
【0026】
傾動手段3は、座部材1の正しい位置に着座者が座った場合に着座者の重心が作用する位置に設けられている。ここで、正しい位置とは、椅子の設計時に着座者の座るべき位置として設定された位置である。設定された正しい位置に着座者が座った場合にはバランスがとれて座部材1は傾動しないが、正しい位置から外れた位置に着座者が座った場合にはバランスが崩れ、座部材1が傾動する。本実施形態では、座部材1の中央に対応する位置に傾動手段3が設けられている。ただし、座部材1の位置はこれに限るものではなく、着座者が正しい位置に座った場合に座部材1がバランスする位置であれば適宜設定可能である。
【0027】
本実施形態では傾動手段3としてユニバーサルジョイントを使用している。ただし、ユニバーサルジョイントに限るものではなく、例えばピボット軸受け、ボールジョイント等でも良く、あるいはコイルスプリングやゴム製ブロック等の弾性体の変形を利用して傾動可能に支持しても良く、座部材1を傾動可能に支持できるものであれば特に限定されるものではない。本実施形態では、ユニバーサルジョイントの2本の揺動中心軸を前後方向と左右方向に向けて配置している。ただし、この配置に限るものではない。
【0028】
座部材1が傾動可能な最大の角度は、例えば座り心地等を考慮して適宜設定される。例えば、3度である。ただし、この限りではない。
【0029】
なお、傾動手段3がユニバーサルジョイント、ピボット軸受け、ボールジョイント等である場合には、傾動によって座部材1の一側が下がると反対側が上がることになるが、ここでは下がる側の動作に着目して揺動という。例えば、左側への傾動は、座部材1の左側が下がり、右側が上がる動きを意味する。一方、傾動手段3が弾性体の変形を利用するものである場合には、傾動によって一側が下がっても反対側はそれほど大きくは上又は下に動かない。このような場合には、大きく下がる側である一側の動作に着目して揺動という。例えば、左側への傾動は、座部材1の左側が右側に対して大きく下がり、右側が小さく下がる又は上がる動き、即ち左側に沈む動きを意味する。
【0030】
付勢手段4は座部材1を揺動していない姿勢になるように支持している。本実施形態では、座部材1の揺動していない姿勢は水平姿勢であるので、付勢手段4は座部材1が水平になるように付勢している。ただし、必ずしも座部材1を水平になるように支持する必要はなく、例えば若干前傾(前に傾く)又は後傾(後に傾く)するように支持しても良い。即ち、着座者の体重がかかっていない状態で座部材1を傾斜させても良い。
【0031】
本実施形態では付勢手段4としてコイルスプリングを使用している。ただし、コイルスプリングに限るものではなく、その他のスプリングを使用しても良く、着座者が立ち上がって座部材1に作用する着座者の荷重が消滅した場合に座部材1を水平に戻すことができるものであれば特に制限されない。コイルスプリングは例えば4本設けられており、座部材1の四隅に対応して配置されている。ただし、コイルスプリングの数は必ずしも4本に限るものではない。コイルスプリングの座部材1側のスプリングシートは支持板15に、座ベース2側のスプリングシートは座ベース2に設けられた支持アーム2aにそれぞれ取り付けられている。コイルスプリングは上下方向に沿って設けられている。
【0032】
本実施形態では、平面視の形状において、座部材1に比べて座ベース2が小さいので、座ベース2の四隅に支持アーム2aを設け、支持アーム2aと座部材1との間に付勢手段4を設けることで、座の四隅に付勢手段4を配置するようにしている。
【0033】
付勢手段4の付勢力の強さは、例えば椅子が使用されていない状態や使用されていても着座位置が正しく座部材1がバランスしている状態では、若干の外力を受けても座部材1が傾動せず、且つ、着座位置が正しい位置からずれている場合には座部材1の傾動を可能にする強さに設定されている。ただし、必ずしもこのようにする必要はなく、例えば付勢力の強さを弱いものとしてもよく、具体的には外力を受ければ座部材1が傾動する程度の付勢力としてもよい。
【0034】
なお、付勢手段4は座部材1の最大傾動角度を決定するストッパとしても機能する。即ち、座部材1は付勢手段4の変形量が限界に達するまで傾動可能になっている。ただし、必ずしも付勢手段4をストッパとして機能させる必要はなく、付勢手段4とは別にストッパを設けても良い。
【0035】
感知手段5は、椅子の左右にそれぞれ設けられている。感知手段5は、背もたれ6の一部を前方に変位させるものである。本実施形態では、背もたれ6の揺動プレート8を前後方向に揺動可能とすることで、背もたれ6の一部を前方に変位させるようにしている。
【0036】
また、本実施形態の感知手段5は、座ベース2との連結点を支点18とし、座部材1との連結点を力点19とし、背もたれ6との連結点を作用点20とし、力点19の下降により支点18を中心に揺動して作用点20を前進させるリンク21を有している。各点18,19,20は、下側の端から上側の端に向けて力点19、支点18、作用点20の順番に配置されている。本実施形態では、リンク21はほぼL字形状を成し、リンク21の下側の先端に力点19を、力点19の近傍に支点18を、上側の先端に作用点20を設けている。したがって、座部材1の揺動によって力点19が下がると、作用点20が前進し揺動プレート8を前方に揺動させる。即ち、感知手段5は、座部材1の傾動が右方向の成分を含む場合には背もたれ6の右側の側部(右側の揺動プレート8)を前方に変位させ、左方向の成分を含む場合には背もたれ6の左側の側部(左側の揺動プレート8)を前方に変位させる。また、力点19と支点18との間の距離よりも支点18と作用点20との間の距離の方が大きいので、座部材1の傾動距離に比べて揺動プレート8を大きく揺動させることができる。
【0037】
本実施形態では、座部材1の底面に固定された取付具22にリンク21の力点19が揺動自在に連結され、座ベース2に設けられたアーム23の先端にリンク21の支点18が揺動自在に連結され、揺動プレート8の裏面に固定された取付具24にリンク21の作用点20が揺動自在に連結されている。各18,19,20点の揺動の中心軸は椅子の左右方向に沿っている。
【0038】
なお、傾動方向と反対側の座部材1は持ち上がることになり、リンク21は上記とは反対方向に揺動し、揺動プレート8を後方に向けて揺動させることになるが、揺動プレート8の後には通常十分なスペースがあるので、特に問題にはならない。
【0039】
また、座ベース2と座部材1の間には座部材1の後方への傾動を防止する傾動防止手段29が設けられている。傾動防止手段29は、例えば座ベース2と座部材1の間の空間17に設けられた凸部であり、椅子の左右方向の寸法が小さい部材を傾動手段3の後方即ち左右方向の中央に設けている。左右方向の寸法が小さい部材を左右方向の中央に設けることで、座部材1の後方への傾動を防止すると共に、左右方向及び前方向の傾動が可能になる。本実施形態では、板状の傾動防止手段29を前後方向に沿って配置している。ただし、傾動防止手段29はこの構成に限るものではなく、例えば複数の棒状部材を傾動手段3の後に前後方向に沿って並べるようにしても良く、あるいは1本の棒状部材を傾動手段3の後に配置するようにしても良い。本実施形態では、傾動手段3を座部材1に取り付けているが、座ベース2に取り付けても良い。
【0040】
座部材1が後方に傾動しようとすると座部材1が傾動防止手段29に当たるので、座部材1は後方に揺動することができない。これにより、座部材1が後方に傾動して着座者を驚かせることが無く、使い勝手をより一層向上させることができる。
【0041】
また、傾動防止手段29を設けることで、背もたれ6に凭り掛かってリラックスする場合等に座部材1が後方に傾動するのを防止して感知手段5の作動を防止することができる。即ち、背もたれ6を使用する場合に感知手段5が作動しないようにできるので、背もたれ6を使用する椅子については傾動防止手段29を備えておくことが好ましい。
【0042】
次に、感知手段5の作動について説明する。椅子が使用されていない状態では、座部材1はバランスしあるいは付勢手段4によって付勢されて水平になっている(図3)。そのため、左右の感知手段5は作動していない。
【0043】
この状態で椅子が使用されると、即ち使用者が着座すると、座部材1に荷重がかかる。着座者の着座位置が正しく且つ着座者の姿勢も正しい場合には、座部材1はバランスするので傾動しない。したがって、左右の感知手段5は作動しない。
【0044】
一方、着座位置がずれており、又は着座位置が正しくても着座者の姿勢が悪い場合には、座部材1のバランスが崩れ傾動する。ここで、着座位置が左側にずれている場合を例に説明すると(図6)、座部材1が左側に傾動するので左側のリンク21の揺動によって左側の揺動プレート8が前方に変位し、着座者の背中に接触し押す(図4の二点鎖線位置、図5)。即ち、左側の感知手段5が作動して着座者の背中の左側を刺激する。つまり、着座者が背もたれ6に凭り掛かっていた場合には揺動プレート8が着座者の背中を前方に押し、背もたれ6に凭り掛かっていなかった場合には揺動プレート8が着座者の背中に接触して更に前方に押す。これにより、着座者は着座位置が左側にずれていることを受動的に感知することができる。着座位置のずれを感知した着座者は着座位置を正しく修正する。なお、着座者の着座姿勢が悪い場合も同様に感知し、着座者は姿勢を正すことになる。このように本発明の椅子は、正しい座り方をするように着座者を導くことができる。
【0045】
なお、左側への傾動によって座部材1の右側は持ち上がることになり、右側の感知手段5のリンク21は左側の感知手段5のリンク21とは反対方向に揺動する。そのため、右側の揺動プレート8を後方に向けて揺動させることになるが、揺動プレート8の後には通常十分なスペースがあるので、特に問題にはならない。
【0046】
そして、着座者が立ち上がり、座部材1に作用していた荷重が消滅すると、傾動していた座部材1は付勢手段4によって傾動していない姿勢に戻される。これにより、感知手段5の作動が解除され、元の位置に戻る。
【0047】
なお、座部材1の傾動方向が椅子の左右方向の成分だけでなく、前方向の成分をも含む場合であっても、左右方向の成分によって感知手段5が作動する。
【0048】
また、上述の説明では、左側の揺動プレート8を左側のリンク21で揺動させ、右側の揺動プレート8を右側のリンク21で揺動させるようにしていたが、必ずしもこれに限るものではなく、左側の揺動プレート8を右側のリンク21で揺動させ、右側の揺動プレート8を左側のリンク21で揺動させるようにしても良い。
【0049】
次に、本発明の椅子の第2の実施形態について説明する。なお、図1の椅子の部材と同一部材については同一の符号を付してそれらの説明を省略する。本実施形態の椅子は、第1の実施形態の椅子に対して感知手段5が異なっている。
【0050】
図7〜図11に、本実施形態の椅子を示す。本実施形態の感知手段5は、背もたれ6に設けた膨出部25を前方に向けて膨出させている。膨出部25は例えば空気袋であり、背もたれ6前面の側部、具体的には左側の感知手段5の膨出部25は背もたれ6の左側の側部に、右側の感知手段5の膨出部25は背もたれ6の右側の側部にそれぞれ設けられている。また、本実施形態では、膨出部25の設置高さを背もたれ6の上下方向のほぼ中央にしている。ただし、膨出部25の設置高さは必ずしも背もたれ6の上下方向のほぼ中央に限るものではなく、膨出によって着座者に刺激を与えることが可能な高さであれば特に限定されない。
【0051】
膨出部25はチューブ26を介してエアポンプ27に連通されている。エアポンプ27は座ベース2と座部材1との間の空間17に配置され、左側の感知手段5のエアポンプ27は左側の側部に、右側の感知手段5のエアポンプ27は右側の側部にそれぞれ設けられている。本実施形態ではエアポンプ27を座ベース2に固定しているが、座部材1の支持板15に固定しても良い。
【0052】
膨出部25とエアポンプ27とを連通するチューブ26は椅子の使用に邪魔にならない位置、例えば背もたれ6の裏面に配置され、図示しない固定具によって固定されている。
【0053】
次に、感知手段5の作動について説明する。感知手段5が作動していない状態、即ち、エアポンプ27によって膨出部25内に空気が送り込まれていない状態では、膨出部25は萎んで薄く畳まれている(図7,図9実線位置)。
【0054】
この状態から、椅子の使用によって座部材1が例えば左側に傾動すると、左側のエアポンプ27が座部材1と座ベース2とに挟まれて潰れ、チューブ26を介して左側の膨出部25に空気を送り込む(図11)。これにより左側の膨出部25が前方に向けて膨らみ、着座者の背中の左側部を刺激する(図9の二点鎖線位置、図10)。即ち、左側の感知手段5の作動によって着座者は背中の左側に刺激を受け、着座位置が左側にずれていることを受動的に感知することができる。
【0055】
なお、左側への揺動によって座部材1の右側は持ち上がるが、エアポンプ27は座部材1には固定されていないので、座部材1の右側は右側のエアポンプ27から離れて持ち上がることになり、右側の膨出部25が膨らむ事はない。
【0056】
そして、着座者が着座位置を修正すると、座部材1がバランスして水平に戻るので、潰されていた左側のエアポンプ27の形状が元に戻る。このとき、左側のエアポンプ27は左側の膨出部25内の空気を吸い戻すので、膨らんでいた左側の膨出部25は萎んで薄く畳まれる。即ち、左側の感知手段5の作動が解除される。作動解除によって着座者は膨出部25から刺激を受けなくなるので、着座位置が正しいことを感知することができる。着座者の着座姿勢が悪い場合や着座位置が右側にずれている場合も同様に感知し、着座者は着座姿勢や着座位置を正すことになる。このように本実施形態の椅子においても、第1の実施形態の椅子と同様に、正しい座り方をするように着座者を導くことができる。
【0057】
なお、上述の説明では、空気を使用して膨出部25を膨らますようにしていたが、使用する流体は空気に限るものではない。例えば、ジェル、液体等の流体を使用しても良い。
【0058】
また、上述の説明では、膨出部25を背もたれ6に取り付けていたが、膨出部25の取付位置は背もたれ6に限るものではなく、着座者に刺激を与えることができる位置であれば特に制限されない。例えば、座部材1のクッション材16の上面等に膨出部25を設けても良い。
【0059】
また、上述の説明では、左側の膨出部25を左側のエアポンプ27で膨らませ、右側の膨出部25を右側のエアポンプ27で膨らませるようにしていたが、必ずしもこれに限るものではなく、左側の膨出部25を右側のエアポンプ27で膨らませ、右側の膨出部25を左側のエアポンプ27で膨らませるようにしても良い。
【0060】
次に、本発明の椅子の第3の実施形態について説明する。なお、図1の椅子の部材と同一部材については同一の符号を付してそれらの説明を省略する。本実施形態の椅子は、第1の実施形態の椅子に対して、背もたれ6に揺動プレート8が設けられていない点で異なっている。
【0061】
図12〜図19に、本実施形態の椅子を示す。本実施形態の感知手段5は、可撓性の背もたれ6を撓ませて凭り掛かった場合の撓みやすさを部分的に変化させることで、座部材1の傾動に連動して着座者に与える感触を変化させて座部材1の傾動を感知させるものである。本実施形態では背もたれ6に揺動プレート8を設けていないので、感知手段5のリンク21の作用点20を背もたれ6に直接連結し、背もたれ6の一部を感知手段5として利用している。
【0062】
右側の感知手段5のリンク21は背もたれ6の右側部に、左側の感知手段5のリンク21は背もたれ6の左側部にそれぞれ連結されている。本実施形態では、背もたれ6の上下方向のほぼ中央の高さ(図1で揺動プレート8に連結していた高さ)に連結点を設けている。ただし、連結点の高さはこれに限るものではない。また、本実施形態では、背もたれ6の裏面に固定された取付具24にリンク21の作用点20が揺動自在に連結されている。連結の揺動の中心軸は椅子の左右方向に沿っている。
【0063】
座部材1の傾動によってリンク21が揺動し、作用点20が前進して背もたれ6を部分的に押し出して撓ませると、背もたれ6は着座者が凭り掛かった場合に撓みにくくなる。即ち、背もたれ6に凭り掛かった場合の感触が変化するので、着座者は座部材1の傾動を感知することができる。
【0064】
例えば、着座位置が左側にずれている場合、座部材1は左側に傾動するので、左側の感知手段5のリンク21が背もたれ6の左側部を前方に変位させると共に、右側の感知手段5のリンク21が背もたれ6の右側部を後方に変位させる。そのため、背もたれ6は右側に捩れるように撓み、撓んでいない場合とは凭り掛かった場合の撓みやすさが異なり、撓ませるときの感触が異なる。また、背もたれ6自体も変形していることからも、凭り掛かった場合の感触が異なる。したがって、着座者は着座位置が左側にずれていることを受動的に感知することができる。
【0065】
なお、座部材1が右側に傾動した場合には背もたれ6は左側に捩れるように撓むので、即ち捩れる方向が異なるので、着座者は着座位置のずれの方向を感知することができる。
【0066】
このように本実施形態の椅子においても、上述の椅子と同様に、正しい座り方をするように着座者を導くことができる。
【0067】
なお、上述の説明では、背もたれ6の左側部を左側のリンク21で変位させ、背もたれ6の右側部を右側のリンク21で変位させるようにしていたが、必ずしもこれに限るものではなく、背もたれ6の左側部を右側のリンク21で変位させ、背もたれ6の右側部を左側のリンク21で変位させるようにしても良い。
【0068】
次に、本発明の椅子の第4の実施形態について説明する。なお、図3の椅子の部材と同一部材については同一の符号を付してそれらの説明を省略する。本実施形態の椅子は、第3の実施形態の椅子に対して、感知手段5のリンク28が異なっている。
【0069】
図20〜図27に、本実施形態の椅子を示す。本実施形態のリンク28は、第3の実施形態のリンク21に比べて短く、背もたれ6の下部を上下に変位させるようにしている。即ち、座部材1との連結点である力点19の下降によって背もたれ6との連結点である作用点20を上昇させるようにしている。
【0070】
右側の感知手段5のリンク28は背もたれ6の下端右側部に、左側の感知手段5のリンク28は背もたれ6の下端左部にそれぞれ連結されている。本実施形態では、背もたれ6の裏面に固定された取付具24にリンク28の作用点20を揺動自在に連結している。連結の揺動の中心軸は椅子の左右方向に沿っている。
【0071】
なお、本実施形態では、感知手段5のリンク28を背もたれ6の下部に連結させているので、第3の実施形態において必要としていた背もたれ6の下部を座ベース2に連結する第2のリンク12を省略している。
【0072】
座部材1の傾動によってリンク28が揺動し、作用点20が上昇して背もたれ6を部分的に押し上げて撓ませると、背もたれ6は着座者が凭り掛かった場合に撓みにくくなる。即ち、背もたれ6に凭り掛かった場合の感触が変化するので、着座者は座部材1の傾動を感知することができる。
【0073】
例えば、着座位置が左側にずれている場合、座部材1は左側に傾動するので、左側の感知手段5のリンク28が背もたれ6の左側部を上方に変位させて上下方向の中央部(2本のスリット7間の上下方向において最も前方に突出している部分)を前方に突出させると共に、右側の感知手段5のリンク28が背もたれ6の右側部を下方に変位させて上下方向の中央部を後方に引っ込める。そのため、背もたれ6は右側に捩れるように撓み、撓んでいない場合とは凭り掛かった場合の撓みやすさが異なり、撓ませるときの感触が異なる。また、背もたれ6自体も変形していることからも、凭り掛かった場合の感触が異なる。したがって、着座者は着座位置が左側にずれていることを受動的に感知することができる。
【0074】
なお、座部材1が右側に傾動した場合には背もたれ6は左側に捩れるように撓むので、即ち捩れる方向が異なるので、着座者は着座位置のずれの方向を感知することができる。
【0075】
このように本実施形態の椅子においても、上述の椅子と同様に、正しい座り方をするように着座者を導くことができる。
【0076】
なお、上述の説明では、背もたれ6の左側部を左側のリンク28で変位させ、背もたれ6の右側部を右側のリンク28で変位させるようにしていたが、必ずしもこれに限るものではなく、背もたれ6の左側部を右側のリンク28で変位させ、背もたれ6の右側部を左側のリンク28で変位させるようにしても良い。
【0077】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0078】
例えば、上述の説明では、シンクロロッキング機構を有する椅子(ロッキング椅子)を例にしていたが、本発明が適用可能な椅子はロッキング椅子に限るものではない。例えば、背支桿10と座ベース2とを連結せず、背もたれ6の動きを座ベース2に伝えない椅子(所謂固定椅子)でも良い。
【0079】
また、上述の椅子は傾動防止手段29を設けていたが、傾動防止手段29を設けなくても良い。傾動防止手段29を設けていない椅子の例を図28に示す。傾動防止手段29を省略することで、後方向への傾動が可能になり、座部材1を360度どの方向へも傾動させることが可能になる。例えば、背もたれ6をあまり使わずに固定椅子を使用する場合等には、傾動防止手段29を設けずに座部材1を360度どの方向へも傾動可能とし、着座位置の後方向へのずれを着座者に感知させるようにしても良い。なお、座部材1が後方向に傾動した場合には、座部材1の後部全体が下がるので、左右の感知手段5が同時に作動して着座者に後方向への傾動を感知させる。即ち、左右の感知手段5が両方とも作動した場合には、着座者は後方向への傾動を感知することができる。
【0080】
また、上述の説明では、傾動手段3は座部材1を360度どの方向へも傾動可能にしていたが、必ずしも360度どの方向へも傾動可能にする必要はなく、例えば、左右方向(椅子の幅方向)にのみ傾動可能にしても良い。この場合には、着座位置の左方向又は右方向へのずれを着座者に感知させることができる。
【0081】
また、上述の説明では、感知手段5はリンク21,28の揺動や流体の圧力を使用して着座者を刺激して又は着座者に与える感触を変化させるようにしていたが、必ずしもこれらに限るものではなく、例えば電気的な手段によって着座者を刺激して又は着座者に与える感触を変化させるようにしても良い。例えば、座部材1の傾動によりオンされるスイッチと、スイッチ操作によって揺動プレート8、背もたれ6の一部、膨出部25を予め設定された所定時間だけ変位させるモータやポンプ等のアクチュエータを設け、アクチュエータの作動によって着座者を、電気的、振動、温度、風量、その他の手段により刺激して又は着座者に与える感触を変化させるようにしても良い。
【0082】
また、上述の説明では、背もたれ6にスリット7を設けていたが、スリット7を設けなくても背もたれ6を十分に撓ませることができる場合等にはスリット7を設けなくても良い。
【符号の説明】
【0083】
1 座部材
2 座ベース
3 傾動手段
4 付勢手段
5 感知手段
6 背もたれ
25 膨出部
18 支点
19 力点
20 作用点
21、28 リンク
29 傾動防止手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着座者を支持する座部材と、前記座部材を支持する座ベースと、前記座ベースと前記座部材の間に設けられ、着座位置が予め設定された位置から偏倚すると偏倚した方向に前記座部材を傾動させる傾動手段と、前記座ベースと前記座部材の間に設けられ、前記座部材を傾動していない姿勢になるように付勢する付勢手段と、前記座部材の傾動に連動して前記着座者を刺激して又は前記着座者に与える感触を変化させて前記座部材の傾動を感知させる感知手段を備えることを特徴とする椅子。
【請求項2】
前記感知手段は背もたれの一部を前方に変位させるものであることを特徴とする請求項1記載の椅子。
【請求項3】
前記感知手段は背もたれに設けた膨出部を前方に向けて膨出させるものであることを特徴とする請求項1記載の椅子。
【請求項4】
前記感知手段は、前記座部材の傾動が右方向の成分を含む場合には背もたれの右側の側部を前方に変位させ、左方向の成分を含む場合には背もたれの左側の側部を前方に変位させることを特徴とする請求項1記載の椅子。
【請求項5】
前記感知手段は、前記座ベースとの連結点を支点とし、前記座部材との連結点を力点とし、背もたれとの連結点を作用点とし、前記力点の下降により前記作用点を前進させるリンクを有することを特徴とする請求項1記載の椅子。
【請求項6】
前記座ベースと前記座部材の間に前記座部材の後方への傾動を防止する傾動防止手段を備えることを特徴とする請求項1記載の椅子。
【請求項7】
前記感知手段は、可撓性の背もたれを撓ませて凭り掛かった場合の撓みやすさを部分的に変化させるものであることを特徴とする請求項1記載の椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2012−55584(P2012−55584A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203664(P2010−203664)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000108627)タカノ株式会社 (250)
【Fターム(参考)】