説明

植物からアルカロイド類を単離する方法

本発明は、バイオマテリアル、好ましくは植物バイオマテリアルからアルカロイド類を単離するための方法であって、バイオマテリアルをアルカリ性水相の同時存在下で植物油により抽出する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマテリアルから、とくに植物種からアルカロイド類を単離する方法に関する。本発明はさらに、本発明の方法により単離されたアルカロイド類およびこれらのアルカロイド類の医薬の製造のための使用を含む。
【背景技術】
【0002】
アルカロイド類は、天然に存在する、大部分は少なくとも1つの塩基性窒素原子を含有する複素環化合物である。用語「塩基性窒素原子」は、この窒素原子が中性のpH値で塩基性反応を示すことを意味する。名称「アルカロイド」は、単語「アルカリ」由来であり、あらゆる窒素含有塩基を表すために使用された。
【0003】
多くのアルカロイド類は、ヒトを含む哺乳生物において薬理活性を有する。薬理学的に有用なアルカロイド類の例は、ガランタミン、(−)セファロタキシンおよびキニーネである。
【0004】
ガランタミン(CAS番号357−70−0;IUPAC名:(4aS,6R,8aS)−5,6,9,10,11,12−ヘキサヒドロ−3−メトキシ−11−メチル−4aH−[1]ベンゾフロ[3a,3,2−ef]−[2]−ベンザゼピン−6−オール)は、コリンエステラーゼ阻害剤である。したがって、ガランタミンは、中枢神経系におけるアセチルコリンの濃度を増加させることによってコリン作動性機能を増強することができる。ガランタミンはまた、アセチルコリン放出を増加させるためにニコチン様コリン作動性受容体をモジュレートする活性を示す。
【0005】
ガランタミンは、例えば狭隅角緑内障、灰白髄炎、アルツハイマー病などのさまざまな疾患および障害、および神経因性疼痛、アルコール乱用、禁煙などのさまざまな神経系の障害の処置に使用されるか、あるいはそれらの処置に有用であることが提案されている。ガランタミンはまた、有機リン中毒における解毒剤として使用される。
【0006】
ガランタミンは、四環系アルカロイドであり、主にヒガンバナ科の属の植物に存在する。天然源からガランタミンを単離する方法は、例えばDE 195 09 663 A1に記載された。ガランタミンの化学合成もまた、記載されている(Kametani et al., Chem. Soc. C. 6, 1043-1047 (1971); Shimizu et al., Heterocycles 8, 277-282 (1977))。
【0007】
(−)セファロタキシン(CAS番号24316−19−6;IUPAC名:1S,3aR,14b.β)−1,5,6,8,9,14b−ヘキサヒドロ−2−メトキシ−4H−シクロペンタ[a][1,3]ジオキソロ[4,5−h]ピロロ[2,1−b][3]ベンザゼピン−1α−オール)は、Plum YewまたはCowtail Pineとして一般的に知られるイヌガヤ属の針葉樹の低木種の主要アルカロイドである。独特な構造のセファロタキシン自体は、とくに抗腫瘍活性はないが、ハリングトニンとしても知られるその(アルファ)−リンゴ酸エステルは、血管形成およびタンパク質生合成の阻害剤であり、骨髄性白血病の処置に有望な物質である。例えば、以前はCeflatonin(登録商標)として知られたホモハリングトニンの半合成製剤であるオマセテキシンメペスクシナートは現在、慢性骨髄性白血病の処置のための第II/III相臨床試験中である。
【0008】
セファロタキシンのラセミ混合物を合成するいくつかの方法が、1960年以降記載され、1995年に薬学的に関連する(−)立体異性体の最初の合成が報告されたが、セファロタキシンの抽出およびそれの後続する改良が、依然として工業規模で十分な量を得るための最適な方法である。
【0009】
薬学的に活性なアルカロイド類のまた別の例において、Cinchona officinalis、C. succirubra、C. ledgerianaおよびこの属の他の種の樹皮は、依然としてキニーネアルカロイド類の最も有名な源である。キニーネ自体(CAS番号130−95−0;IUPAC名:(R)−(6−メトキシキノリン−4−イル)((2S,4S,8R)−8−ビニルキヌクリジン−2−イル)メタノール)は、抗マラリア剤としてのその重要性をいくらか取戻し、下肢痙攣および他の筋痙縮を処置するための新しい使用が最近発見された。キニジン(CAS番号56−54−2;IUPAC名:(9S)−6’−メトキシシンコナン−9−オール)は、キニーネの立体異性体であり、心拍動の不整脈を処置するために使用されるクラスIの抗不整脈剤である。年間300〜500メートルトンのキニーネアルカロイド類が、5,000〜10,000メートルトンのキナ樹皮から抽出されると予想される。
【0010】
アルカロイド類は、細菌、真菌、植物および動物を含む多種多様の生物によりいわゆる二次代謝物として生成される。アルカロイド類を含有する植物粗抽出物は、人類によって経験的に使用された最初の薬であった。早くから、アルカロイド含有抽出物から薬学的に活性なアルカロイド類を単離するための方法は、薬剤師の関心を引き付けた。コストを下げた特定の薬学的に活性なアルカロイド類の実質的無制限供給を得るために、これらのアルカロイド類の化学合成プロセスが開発された。
【0011】
いくつかの薬学的に活性なアルカロイド類にとって、それらの化学合成は、天然源からのそれらの抽出に完全に取って代わられた。いくつかのアルカロイド類の場合、天然源からのアルカロイドおよびその合成的に生成された類似体は、世界市場において互いに競争する。例えば、ジョンソン・エンド・ジョンソングループ社は、両方アルツハイマー病を処置するための医薬であるReminyl(登録商標)およびRazadyne(登録商標)の製造の需要を満たすために、合成ガランタミンならびに植物から抽出されたガランタミンを使用する。医学的に興味深いアルカロイド類のまた他の場合において、経済的に競争力のある条件で工業規模において用いることができる、それらの化学合成に利用可能なプロセスがない。
【0012】
天然源から、とくに植物種から薬学的に活性なアルカロイド類を単離する抽出プロセスが、前記アルカロイド類を得るための主要プロセスを構成することは明らかである。理想的には、抽出プロセス自体が既に、アルカロイドの許容し得る収率を維持しながら、可能な限り所望のアルカロイドついて選択的であるべきである。しかしながら、アルカロイド類を単離するための抽出プロセスのほとんどが、比較的広範囲の単離するべきアルカロイド類におよび前記アルカロイドが抽出されるさまざまなバイオマテリアルに適応することができる、限られた数の一般的な方法を利用する。
【0013】
これらの一般的な方法は、アルカロイド類が互いに共通して有するが、バイオマテリアル含有アルカロイド類に通常存在する非アルカロイド化合物にはない、生理化学的特性に依存する。アルカロイド類の最も重要な生理化学的特性は、
(i)分子中の1つまたは2つ以上の塩基性窒素原子の存在によりもたらされる溶媒のpH値の変化に伴う化合物の溶解度および分配係数の大幅な変更、および
(ii)分子内に存在する芳香環系およびヘテロ原子により与えられる比較的高い極性
である。
【0014】
既知の一般的なアルカロイド類を抽出するための方法は、特別な植物種の特定のバイオマテリアルから特別なアルカロイド類を得るために、適応および最適化された。天然源からアルカロイド類を単離するための方法のほとんどが、極性有機溶媒によるアルカロイド含有材料の抽出およびそれに続く酸/塩基抽出を用いる。有機極性溶媒の代わりに、超臨界二酸化炭素が利用されてきた。所望のアルカロイドが、グリコシル化されることが知られているか、鹸化を受けるか、または植物二次代謝に典型的である他の種類の化学修飾を有する場合、炭水化物残渣または類似の部分を特異的に標的にするプロセスステップもまた、抽出プロセスに含むことができる。しかしながら、多くの薬学的に活性なアルカロイド類は、化学的に修飾されないので、親和性駆動型のプロセスステップを用いることができない。したがって、化学的に非修飾のアルカロイド類の単離は、極性溶媒による単一抽出および溶解度特性のそれらのpH駆動型の改良に依存しなければならない。
【0015】
例えば、ガランタミンを単離するための方法は、例えばWO 96/29332 A1、WO 2006/064105 A1およびWO 2006/099635 A1に開示された。
【0016】
DE 1 193 061 Aは、ヒガンバナ科の属の仲間からガランタミン臭化水素酸塩(galanthaminium hydrobromide)を単離するための方法であって、空気乾燥し、粉砕した植物材料を、アンモニア水によりアルカリ化し、ジクロロエタンにより抽出する方法を開示する。一次抽出物を、希硫酸により処置し、付随するアルカロイド類を、アンモニア水による沈殿によって溶液から除去する。ガランタミンは、溶液に残留し、さらにジエチルエーテルまたはジクロロメタンにより抽出する。
【0017】
WO 96/29332 A1 は、ガランタミンを単離するための方法であって、空気乾燥し、粉砕したスイセン属の種の球根を、最初の抽出ステップの前に粉末状の炭酸ナトリウムと混合する方法を教示する。そして、アルカリ化されたバイオマテリアルを、ジクロロエタンにより抽出し、一次抽出物をさらに、DE 1 193 061 Aに記載のとおりに処理する。
【0018】
第2の例において、WO 96/29332 A1 は、一次抽出物を得るための、非ハロゲン化有機溶媒として特殊な沸点を有するガソリンによるアルカリ化された植物材料の抽出を開示する。一次抽出物の乾燥した残渣を希硫酸に溶解させ、pHを約4に調節し、および付随する有機非アルカロイド化合物を、ジエチルエーテルによる抽出によって除去する。精製した水溶液をpH9にアルカリ化し、アルカロイド類をジエチルエーテルに抽出する。
【0019】
WO 2006/064105 A1は、少なくとも20%ガランタミンを含有する出発組成物からガランタミンを精製するための置換モードの遠心分配クロマトグラフィーの使用に関する。方法は、少なくとも2種の溶媒および出発組成物の組合せを遠心分離するステップを含む。2種の溶媒は、2つの非混和相、水相および有機相を形成するようなものが選択される。
【0020】
出発組成物は、アルカリ化された植物材料をエチルアセテートにより抽出することによって得られる。一次抽出物を、希硫酸により処置し、付随するアルカロイド類を、アンモニア水による沈殿によって溶液から除去する。ガランタミンは、溶液に残留し、クロロホルムによりさらに抽出する。
【0021】
WO 2006/099635 A1は、ガランタミンの大規模単離のためのプロセスであって、植物材料を、好適な有機または無機酸の水溶液により一次的に抽出するプロセスを開示する。得られる一次抽出物の有機化合物を吸収剤に吸着させ、吸収剤を水で洗浄し、有機化合物を、水と混和する有機溶媒を使用して吸着剤から溶出することにより、アルカロイド類の濃縮物が得られる。
【0022】
バイオマテリアルからアルカロイド類を単離するための、とくに植物バイオマテリアルからガランタミンを単離するための既知のプロセスの主要な欠点は、大規模単離のための頑健性の欠如および拡張性の欠如である。加えて、既知のプロセスは通常、バイオマテリアルの特定の源のためにオーダーメイドされた。一定のバイオマテリアルのための一定のプロセスは、別のバイオマテリアルが使用される場合、十分な収率のアルカロイドの単離ができない。
【0023】
さらに、既知のプロセスのほとんどにおける塩素化炭化水素の使用は、それらの毒性および環境有害性から、ガランタミンの大規模単離のためのこれらのプロセスの妨げである。塩素化炭化水素の代わりのガソリンの使用は、非効率であり、この溶媒が大量に必要である。さらに、一次抽出物を乾くまで乾燥させ、残渣を別の溶媒に溶解させるプロセスは、スケールアップが難しい。
【0024】
これらの理由により、特別な構成のアルカロイド類および原料のために改良および最適化することができ、工業バッチサイズまでスケールアップすることができる、天然源から、とくに植物からアルカロイド類を単離するための一般的なプロセスが必要とされる。
【0025】
驚くべきことに、非揮発性であり、化学的に非修飾の植物油が、アルカリ化された植物材料の初期抽出において溶媒として使用された場合、アルカロイド類を、バイオマテリアルから効率的に単離することができることが見出された。
【発明の概要】
【0026】
本発明の抽出プロセスは、バイオマテリアルをアルカリ性水相の同時存在下で植物油または植物油の混合物と接触させるステップを含み、バイオマテリアルから油相へのアルカロイド類の移動を達成する。
【0027】
バイオマテリアルは、本発明の抽出プロセスを限定するものではないが、バイオマテリアルは、抽出されるべきアルカロイドを含有する。植物からのバイオマテリアルの場合、植物バイオマテリアルは、本発明の抽出プロセスを限定するものではない。植物のすべての部位および組織を、本発明の抽出プロセスにおいて用いることができる。
【0028】
本発明の抽出プロセスの好ましい態様において、植物の地下部または地上部から選択され得る植物の特定の部位または組織が使用される。植物の地下部および組織の例は、根、根茎、塊茎および球根である。植物の地上部または組織の例は、茎、樹皮、葉、芽、花、果実、種子および虫こぶである。既述の植物の部位または組織のいずれかに存在する液体または半液体の内容物を用いることもまた、可能である。これらの液体または半液体の内容物は、樹液、搾り汁および滲出液を含む。
【0029】
本発明の抽出プロセスの態様において、バイオマテリアルは、乾燥させたバイオマテリアルである。植物バイオマテリアルの場合、用いられる植物、植物の部位または植物の組織は、抽出プロセスにおけるそれらの使用の前に乾燥される。好ましくは、植物材料は、空気乾燥または凍結乾燥により乾燥される。植物材料の空気乾燥は、真空下でまたは周囲の大気圧で、そして周囲温度または高温で行われる。
【0030】
しかしながら、本発明の抽出プロセスを行うために乾燥させたバイオマテリアルを用いる必要はない。したがって、本発明の抽出プロセスの好ましい態様において、植物の新鮮な組織または新鮮な部位が、それらのアルカロイド類を抽出するために使用される。
【0031】
バイオマテリアル、とくに植物バイオマテリアルを抽出前に粉砕する、すなわちバイオマテリアルをすりつぶす、切断する、割る、粗雑にする、粉にする、挽く、微粉化するまたは他の好適な手段により粉砕するのが好ましい。
【0032】
本発明の抽出プロセスにおいて、植物油が、バイオマテリアルの初期抽出のための溶媒として用いられる。
【0033】
本発明に関し、用語「植物油」は、室温(およそ23℃)で液体であり、トリグリセロール、遊離脂肪酸、モノグリセロールおよびジグリセロールで構成される植物からのあらゆる材料のことである。
【0034】
本発明の抽出プロセスにおいて好適な溶媒であるために、植物油は、いかなる化学修飾も必要としない。したがって、ストレートな植物油が、本発明の抽出プロセスにおいて好ましい植物油である。
【0035】
バイオマテリアルからのアルカロイド類の抽出において溶媒として使用されるのに好適な植物油の例は、菜種油、ひまわり油、亜麻仁油、グレープシード油、ピーナッツ油、ヒマシ油、パンプキンシード油、大豆油、ベニバナ油、綿実油、ココナツ油、コーン油、ヒマシ油、ヤシ油、麻実油、糠油、キリ油、ホホバ油およびオリーブ油である。
【0036】
一般的に、あらゆる植物油を、その起源および等級に関係なく使用してもよい。工業等級の植物油を用いてもよいが、食品等級、獣医学等級または化粧品等級の植物油が好ましい。植物材料からのアルカロイド類の抽出のための最も好ましい植物油は、食用植物油である。
【0037】
本発明のプロセスの好ましい態様において、少なくとも0.1重量単位、好ましくは少なくとも0.2重量単位、より好ましくは少なくとも0.5重量単位および最も好ましくは少なくとも0.8重量単位の植物油が、各重量単位の抽出されるバイオマテリアルに添加される。好ましくは、2.0重量単位まで、好ましくは3.0重量単位まで、より好ましくは5.0重量単位までおよび最も好ましくは10.0重量単位までの植物油が、各重量単位の抽出されるバイオマテリアルに添加される。
【0038】
本発明の抽出プロセスにおいて、植物油を使用したバイオマテリアルの抽出は、アルカリ性水相の同時存在下で行われる。アルカリ性水相は、水酸化アンモニウム(NHOH)としても知られるアンモニアの水溶液であり得る。別の態様において、アルカリ性水相は、アルカリ金属炭酸塩の水溶液、好ましくは炭酸ナトリウム(NaCO)または炭酸カリウム(KCO)の水溶液である。別の態様において、アルカリ性水相は、アルカリ金属炭酸水素塩の水溶液、好ましくは炭酸水素ナトリウム(NaHCO)または炭酸水素カリウム(KHCO)の水溶液である。また別の態様において、アルカリ性水相は、アルカリ金属水酸化物の水溶液、好ましくは水酸化ナトリウム(NaOH)または水酸化カリウム(KOH)の水溶液である。
【0039】
本発明の一態様において、アルカリ性水相の同時存在下での植物油によるバイオマテリアルからのアルカロイドまたはアルカロイド類の混合物の抽出は、周囲温度にて行われる。周囲温度は、室温、すなわち15℃および35℃の間の範囲である抽出容器の周囲の空気の温度を意味する。
【0040】
抽出を周囲温度で行う場合、バイオマテリアルを、15および30時間の間の期間植物油と接触させるのが好ましい。
【0041】
別の態様において、アルカリ性水相の同時存在下での植物油によるバイオマテリアルからのアルカロイドまたはアルカロイド類の混合物の抽出は、高温で、すなわち周囲温度より上の温度で行われる。好ましい態様において、高温は、45℃〜50℃の範囲である。
【0042】
抽出を高温で行う場合、バイオマテリアルを、10および60分の間の期間植物油と接触させるのが好ましい。
【0043】
バイオマテリアルをアルカリ性水相の同時存在下で植物油と接触させることにより得られる一次抽出物は、上の油相および下の水相に分離する乳濁液である。アルカロイドを含有する上の油相は、例えば硫酸などの希釈酸の添加により酸化される。好ましくは、酸化された水相のpH値は、約pH2である。酸化の際、アルカロイド類は、油相から酸性水相に移動する。
【0044】
酸性水相は、回収され、好ましくはアンモニア水によりアルカリ化される。アルカリ化された水相の好ましいpH値は、約pH11である。そして、水相は、水相と混和しない有機溶媒により抽出される。有機相は、回収され、乾燥され、そして有機溶媒は、蒸発され、アルカロイド(単数または複数)を含有する乾燥残渣が得られる。
【0045】
本発明の抽出プロセスは、頑健であり、バイオマスからのアルカロイド類の大規模単離のためにスケールアップすることができ、有機溶媒の量、とくに塩素化炭化水素の量を、既知の抽出方法と比較して有意に低減させる。
【0046】
本発明の抽出プロセスは、さまざまなアルカロイド類、とくに複素環アルカロイド類を単離するために適応させることができるが、ただし複素環アルカロイドは、配糖体またはサポニンとして存在しない。
【0047】
したがって、本発明は、バイオマテリアルから、好ましくは植物材料から、本発明の方法により単離されたアルカロイド類へと広がる。
【0048】
本発明はさらに、医薬の製造のための本発明の方法により単離されたアルカロイド類の使用へと広がる。例えば、本発明の方法により単離されるガランタミンは、狭隅角緑内障、灰白髄炎、アルツハイマー病、および神経因性疼痛、アルコール乱用、禁煙などのさまざまな神経系の障害を処置するための、または有機リン中毒を防止するための医薬の製造に使用することができる。本発明の方法により単離される(−)セファロタキシンは、慢性骨髄性白血病を処置するための医薬の製造に使用することができる。本発明の方法により単離されるキニーネアルカロイド類は、下肢痙攣、他の筋痙縮、マラリアまたは心拍動の不整脈を処置するための医薬の製造に使用することができる。
【0049】
本発明を、そのある特定の態様を参照に以下に記載する。当業者であれば、例は、一例にすぎず、発明を記載された特定の態様のいずれにも解釈しない。当業者であれば、本発明の真価および範囲から逸脱することなく手順およびプロトコルのさまざまな適用、変更および改良、置換、削除、または追加を行ってもよいことを理解するであろう。
【0050】
例1−周囲温度でのガランタミンの抽出
6リットルの容器において、炭酸ナトリウム溶液を、0.3kgの粒状NaCOを、1リットルの水に完全に溶解することにより調製した。
【0051】
2キログラム半の汚れを落とした新鮮なスイセン属の栽培品種Carltonの球根を切り刻み、炭酸ナトリウム溶液に2.2kgの食用菜種油(スーパーストアからの2,240mlの「Bonita」菜種油)と共に添加した。得られる混合物を3分間攪拌し、時折攪拌しながら周囲温度(約23℃)で23時間放置した。
【0052】
茶色がかった塊が得られ、それをHydrapress社製バルーンフルーツプレス(balloon fruit press)に移動し、それに続く押出により、およそ3kgの乳濁液が得られ、それを急速デカントすることにより、重さ2,165gの上の油相および重さ810gの下のこげ茶色の水相へと分離した。
【0053】
油相を300mlの3.3%HSO(pH2)と2度混合した。油相(1,881g)をさらなる抽出において使用する溶媒として保持する一方、2つの回収した酸性水相(重さ570g)を組み合わせた。
【0054】
組み合わせた酸性水相を、200mlのシクロヘキサンおよび45mlのNHOH(25%)からなる混合物によりpH11で1度抽出した。得られる乳濁液を、2mlのメタノールを2回添加することにより破壊した。有機相を回収し、MgSOで乾燥させ、溶媒を真空下で蒸発させた。収率が0.441gの49%の純度の粗ガランタミンが得られた。
抽出したガランタミンの純度をHPLCにより決定し、ガランタミンの同一性を質量分析により確認した。
【0055】
例2−穏やかな加熱を用いたガランタミンの急速抽出
1キログラムの乾燥させて挽いた(<5mm)スイセン属の栽培品種Carltonからの球根を、6リットル容器内の1リットルの10%アンモニア水に添加した。攪拌しながら、1.4kgの菜種油を添加し、攪拌を、混合物が均質な外観を有するまで継続した。混合物を水浴内で40〜45℃まで加熱し、温度を25分の期間にわたり維持した。その後、混合物をバルーンプレスに移動し、乳濁液を押し出した。
【0056】
自発的相分離の後、1.2リットルの油相を回収し、最初に400mlの3.3%HSOにより、そして200mlの3.3%HSOにより抽出した。酸性水相を組み合わせ、各回200mlのシクロヘキサンおよび90mlの25%アンモニア水の混合物を使用してpH11で2度抽出した。有機相を回収し、MgSOで乾燥させ、溶媒を真空下で蒸発させ、0.473gのガランタミンが得られた。
抽出したガランタミンの純度をHPLCにより決定し、ガランタミンの同一性を質量分析により確認した。
【0057】
例3−セファロタキシンの抽出
36グラムのNaCOを、100ml抽出装置内の84mlの水に溶解した。40グラムの微細にすりつぶした新鮮なCephalotaxus harringtonia変種Fastigiata(ドイツ、56154 BoppardのArnold garden servicesから入手)の葉および120グラムの菜種油を炭酸ナトリウム溶液に添加し、そして完全に混合した。混合物を周囲温度(およそ23℃)で21時間そのまま放置し、時折攪拌した。
【0058】
固体成分をろ過により除去し、廃棄した。油相をろ過した乳濁液から分離し、100mlの3%HSOによりpH2で抽出した。水相をその分離後回収し、87mlの30%含水NaCOおよびCHClの1:1.33(v/v)混合物によりpH11で抽出した。有機相を分離し、MgSOで乾燥させ、溶媒を蒸発させ、0.020gの粗セファロタキシンが26%の純度で得られた。
抽出したセファロタキシンの純度をHPLCにより決定し、セファロタキシンの同一性を質量分析により確認した。
【0059】
例4−樹皮からのキニーネアルカロイド類の抽出
57グラムのNaCOを、500ml抽出装置内の192mlの水に溶解した。100gの挽いた(<0.5mm)キナ樹皮および150gの菜種油を添加した。混合物を完全に混合し、周囲温度(およそ25℃)で19時間そのまま放置した。混合物を時折攪拌した。
【0060】
混合物中の固体化合物をろ過により除去し、廃棄した。油相をろ過した乳濁液から分離し、300mlのpH2である3%HSOにより抽出した。水相をその分離後回収し、50mlのシクロヘキサンで洗浄した。そして、水相を125mlの25%含水NHOHおよびシクロヘキサンの1:4(v/v)混合物によりpH11で抽出した。得られる乳濁液を、5mlメタノールを添加することにより破壊した。有機相を分離させ、MgSOで乾燥させ、溶媒を蒸発させ、0.145gのキナアルカロイド類の混合物が得られた。キナアルカロイド類のこの混合物のキニーネの含有量は、47%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマテリアルからアルカロイド類を抽出する方法であって、
− バイオマテリアルを粉砕する
− バイオマテリアルをアルカリ性水相の同時存在下で植物油と接触させる
ステップを含む、前記方法。
【請求項2】
植物油が、菜種油、ひまわり油、亜麻仁油、グレープシード油、ピーナッツ油、ヒマシ油、パンプキンシード油、大豆油、ベニバナ油、綿実油、ココナツ油、コーン油、ヒマシ油、ヤシ油、麻実油、糠油、キリ油、ホホバ油およびオリーブ油からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
植物油が、植物種子油および/または食用であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも0.1重量単位、好ましくは少なくとも0.2重量単位、より好ましくは少なくとも0.5重量単位および最も好ましくは少なくとも0.8重量単位の植物油を、各重量単位の抽出されるバイオマテリアルに添加することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
2.0重量単位まで、好ましくは3.0重量単位まで、より好ましくは5.0重量単位までおよび最も好ましくは10.0重量単位までの植物油を、各重量単位の抽出されるバイオマテリアルに添加することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
アルカリ性水相が、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ金属水酸化物または水酸化アンモニウムの水溶液であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
アルカリ性水相が、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムの水溶液からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
バイオマテリアルを、15℃および35℃の間の周囲温度で植物油と接触させることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
バイオマテリアルを、15および30時間の間の期間植物油と接触させることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
バイオマテリアルを、45℃および50℃の間の温度で植物油と接触させることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
バイオマテリアルを、10から60分の間の期間植物油と接触させることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
バイオマテリアルが、植物バイオマテリアルであることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法によりバイオマテリアルから抽出されたアルカロイド。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法によりバイオマテリアルから抽出されたアルカロイドの、医薬の製造のための使用。

【公表番号】特表2013−503912(P2013−503912A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528258(P2012−528258)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【国際出願番号】PCT/EP2010/005433
【国際公開番号】WO2011/026637
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(512058386)
【Fターム(参考)】