説明

植物の乾燥耐性に関する新規DNAマーカー

植物の乾燥耐性に関する新規DNAマーカーは、プライマーAP OHO2を用いて生成した増幅断片1400bpを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の乾燥耐性に関する新規DNAマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
植物では、DNAマーカーは、通常、ホモ接合体のマッピング集団を用いて開発される。これは、生殖期の周期が長い場合は実用的でない。植物の形質関連DNAマーカーの開発は、ホモ接合体の育種集団(真の(real)同質遺伝子系統−RIL/準(near)同質遺伝子系統−NIL)において、形質関連の生理的パラメータを中心に行われてきた。これは時間のかかるプロセスであり、RIL及びNILの開発には多くの年月を必要とする。さらに、表現型パラメータのいずれか一つと相関があると、量的形質と直接相関し得るDNAマーカーは生成されないことが多い。
【0003】
これまでに知られている乾燥耐性マーカーの多くは、この形質と関連のある、1つ又は別の生理的パラメータと相関関係を示す。焦点となる種々の表現型は通常、生態系に特異であるため、実験植物における生殖細胞質の迅速且つ正確な評価/スクリーニングには有用でないと考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、植物の乾燥耐性に関する新規DNAマーカーを確立することである。
【0005】
本発明のさらなる目的は、生態系特異の栽培用植物を実験室で正確に選択するためのDNAマーカーを提案することである。
【0006】
また、本発明のさらなる目的は、乾燥耐性用に品種改良により改良された品種を開発するためのDNAマーカーを提案することである。
【0007】
本発明の別の目的は、植物における乾燥耐性形質を迅速に診断するためのDNAマーカーを提案することである。
【0008】
本発明のさらに別の目的は、改良品種の開発の際に植物の形質転換遺伝子の同定に有用なDNAマーカーを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明により、1400bpの増幅断片を含む、植物の乾燥耐性に関する新規DNAマーカーが提供される。
【0010】
本発明によれば、冷凍若葉からゲノムDNAを抽出すること、こうして得られたDNAを検量(calibration)ステップにかけること、検量したDNAを分析ステップにかけることを含む、乾燥耐性用DNAマーカーの開発方法が提供される。分析したDNA断片をクローニングし、そのDNA断片をシークエンスしてDNAマーカーを得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
このDNAマーカーを確立するために行われるプロセスは、形質特異的な、正確で迅速に評価された生化学的マーカーとの相関により開発される点で新規である。この新規で、自明ではない、独創的なプロセスを使用することにより、乾燥耐性用DNAマーカーは確立された。
【0012】
ゲノムDNA抽出
DNA単離には冷凍若葉200mgを用いた。CTAB(臭化セチルトリメチルアンモニウム)法をDNA抽出に使用し、平均20μgのDNAを得た。アガロースゲル電気泳動後、基準となる規定のDNA量を用いて、エチジウムブロマイド蛍光法に基づきDNAを検量した。
【0013】
RAPD試験
ランダム増幅多型DNA(RAPD)分析では、各クローンの若葉のDNAを、dNTP25μm、プライマー40ng、及びTaq DNAポリメラーゼ0.3μlを含有する、総量25ulのPCR反応混合物の鋳型に用いた。この反応は、アニーリング温度36℃で45サイクル行われた。OPAB06、OPAB18、OPAH18、OPAH02、OPAB17、OPAC19、OPAH12、OPAL04、OPAA02、OPAG13及びOPAL08といった11種類のランダムデカマー(decamer,十量体)プライマーを用いて得られたPCR産物を、1.2%アガロースゲル上で単離し、エチジウムブロマイド存在下でUV光を照射して可視化した。各クローン増殖の中でランダムに選択した植物のRAPD分析により、各クローンプロット内の植物の遺伝的均一性を確認した(データ未掲載)。本試験で使用するため、得られた、(乾燥耐性/感受性に基づき)簡単に列挙したクローンの比較分析を行った。本試験で使用するため、(乾燥耐性/感受性に基づき)簡単に列挙した10種類のクローンの比較分析を行った。葉を、各クローンプロット内のランダムに選択した植物から採取しつつ、このRAPD試験を繰り返した(各セット10クローン)。RAPDパターンの代表的なゲル画像を図1aに示す。図1bは、4種類のクローン(これも図1aに示されている)のゲノムにおける、同じプライマーによるRAPDパターンを表している。これは、野外での乾燥耐性を示すものである(図1bは、RAPDバンドのスコアリングには用いなかった)。
【0014】
RAPD試験に用いたプライマー、10クローンすべてで観察されたRAPDバンドの総数、現れた単型/多型バンドの総数、及び得られた多型バンドの割合は表1に示されている。
【0015】
ストレス関連アイソザイム活性
切断した(水ストレスを受けた)若い茶葉を抽出緩衝液で抽出し、その抽出物を非変性ゲルに流した。適正な反応混合物にゲルを浸してゲル内でイソ酵素反応を起すことにより、酵素活性を試験した後、適正な染色液にゲルを浸して酵素活性を止めた。
【0016】
SOD及びAPX活性
分離した葉は、SOD(EC 1.15.1.1)についてはリン酸カリウム50mM(pH7.8)緩衝液で、APX(EC 1.11.1.11)についてはリン酸ナトリウム100mM(pH7.8)緩衝液でホモジナイズした。電気泳動により分離した後、次に適正な染色液にゲルを浸した後、抽出物中の酵素活性を、非変性活性ゲル(ポリアクリルアミド12%)で可視化した。
【0017】
電気泳動により分離したSODアイソザイムは、N,N,N,N−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)とリボフラビンとの反応で発生したOにより、ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)を還元することで可視化した。アイソザイムを表すバンドは、アイソザイム活性により除去されたO欠乏のため無色のままとなり、残りのゲルは、還元NBTのため青に染まった。ネガティブ染色されたアイソザイム活性バンドの濃度測定(densitometric)スキャン(632.8nm)を、図2aに示す。
【0018】
APX活性ゲル染色は、リボフラビンの代わりにH及びアスコルビン酸を用いてOを発生させているものの、同様に行った。アイソザイムバンドのネガティブ染色は、ゲル撮影装置(Image Master VDS、ファルマシア バイオテック)で記録した。ネガティブ染色されたアイソザイム活性バンドは、632.8nmでスキャンした。濃度測定スキャンの代表図を、図2bに示す。
【0019】
乾燥耐性特異的DNAマーカーを開発するための、回帰分析によるアイソザイム活性とDNAフィンガープリントとの相関試験
回帰分析は、アイソザイム試験(SOD及びAPXの)及びRAPDバンドのデータを用いて行った。RAPDマーカーと、SOD活性及びAPX活性との関連は、重回帰分析により調べた。酵素活性、すなわち、適切なスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)及びAPXのアイソザイムの活性(ピーク面積)を従属変数とし、さまざまなRAPDバンド(バンド有を1、バンド無を0と採点)を独立変数として扱った。回帰分析は以下のモデルに基づき行った。
Y=a+bi+b+・・・・・b+・・・・・b+d
【0020】
Yは酵素的形質、mはRAPDマーカー、bは偏回帰係数、dは、回帰後に残るその間の受入れ剰余(accession residual)である。RAPDバンドと、銅亜鉛スーパーオキシドジスムターゼ(Cu−Zn SOD)及びアスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APX)(バンドII)活性との関連性の程度を表2に示す。
【0021】
このマーカーの配列は、特許取得のため提出中である。このマーカーは、品種改良/植物形質転換の試みにより改良品種を開発するため、生態系特異の栽培(b)に向けた適切な遺伝子型(a)の選択に活用することができるであろう。
【実施例】
【0022】
乾燥に耐性/感受性がある(野外実施(field performance)に基づく)ことが報告されている、本試験用に選択された茶のクローンは、以下の通りである。
・本試験で正確なDNAマーカーの確立(野外試験のデータと相関したRAPD及びアイソザイム試験による)に用いたダージリン茶のクローンは、以下を使用した。RR17/144、T246、CPI、TV26、TV25、B777、AV2、K1/1、B688、T78(いずれもダージリン茶のクローン)。
・確立されたDNAマーカーが、他の茶のクローン、すなわちアッサム茶のクローンの乾燥耐性と関連することの有効性評価(野外試験と相関したRAPD試験による)に用いた茶のクローンは、以下を使用した。TV1、TV2、TV14、TV17、TV20、TV30(いずれもアッサム茶のクローン)。
【0023】
上記に挙げた各クローンの植物の葉は、ダージリンをGing Tea Estate、アッサムをTea Research Association(TRA)より採集した。酵素試験では、(ダージリンのクローンより)切断したばかりの葉を24時間以内に抽出に使用した。
【0024】
茶樹(tea plants)は多年生であり、生殖周期が長い。したがって、均一の素材(すなわち、新鮮な茶葉)を迅速に入手するには、栄養繁殖された茶のクローンが茶産業用の茶樹集団となる。そのような集団では、雑種世代による連鎖研究は多大な時間を必要とする。こうした状況下では、DNAフィンガープリントパターンと、限られた遺伝子プールに属する植物の所望の表現型形質に関する正確な生化学的パラメータとの間の回帰分析で裏づけられた関連研究によるDNAマーカーの開発が、1つの有用な代替法となろう。
【0025】
細胞保護酵素、具体的にはCu−Zn細胞質スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)及びアスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APX)は、植物の乾燥耐性と相関していることが報告されている。本試験では、RAPDパターン及び乾燥特異的アイソザイム活性に関する回帰分析を用いて、茶樹の乾燥耐性関連DNAマーカーの確立を試みた。
【0026】
図1a及び図1bは、このDNAマーカーの確立に用いた茶のクローンにおけるRAPDパターンを示している。データ再現性は、3回の反復実験で同一のフィンガープリントパターンを観察して確認された。RAPD試験における再現性を示す同様のアプローチが、以前に報告されている。10種類のクローンに関するRAPD試験で11種類のプライマーを使用したところ、180のPCRバンドが明らかになり、このうち131バンド(すなわち、増幅断片計180個の69.87%)は多型であった(表1)。これは、RAPD法が茶樹の生殖細胞質におけるかなりのレベルの多型を明らかにできることを示している。
【0027】
限られた遺伝子プールに属する植物のフィンガープリントパターンから生成した多型マーカーは、特異形質に関する独自の特徴を表すことを念頭におき、RAPD(ゲノム)分析と乾燥特異的アイソザイム活性との相関試験により、乾燥耐性関連分子(DNA)マーカーの開発を試みた。このため、容易にスコア付け可能なRAPD(優性)マーカーと、植物の乾燥耐性に関する生化学的パラメータ(すなわち、SOD及びAPX活性)との間の試験が行われた。
【0028】
ストレス関連の細胞保護酵素の活性は、詳細に検討が行われてきた。細胞質のCu−Zn SOD及びAPXは、植物の乾燥耐性に関連していることが知られている。研究対象のクローンにおける乾燥耐性の評価に基づいたアイソザイムマーカーは、SOD及びAPXアイソザイム活性を評価することで作成される。SOD活性ゲルの濃度測定スキャン(図2a)は、4つの主なピークを示している。約29kDのピーク(バンドIV)は、Cu−Zn SODを表している。このピークは、T246、TV25、B777、K1/1、B688、T78のピークIV下の面積(ピーク面積70mm未満)に比べて、クローンRR17/144、CP1、TV26、及びAV2の高い活性(ピーク面積100mm超)を示していることがわかった。これは、クローンRR17/144、CP1、TV26、及びAV2が、乾燥耐性形質を保有していることを示唆する。
【0029】
高い乾燥耐性を有するタバコの品種は、非常に高いアスコルビン酸ペルオキシダーゼ活性を示す。NBT染色した2つのアイソザイムバンド(これらの1つがすなわちAPXII)により明らかになった、非変性のポリアクリルアミドゲル電気泳動試験による、乾燥ストレスを受けた(茶)葉のAPX活性を示した図(2b)の私のデータは、分子量約29kDのモノマー及び約40Kd(APXバンド1)のもう1つのモノマーであることがわかった。活性ゲルの濃度測定スキャン(図2b)では、2バンドは、約40kD(APXバンドI)及び約29kD(APXバンドII)の2つのピークで表されている。約29kD(APXII)のアイソザイムのピークは、特に、クローンRR17/144、CP1、TV26、AV2での高い活性(ピーク面積90mm超)を示した。T246、TV25、B777、K1/1、B688、T78は、低い活性(ピーク面積50mm未満)を示した。高いAPXII活性(図2b)を示したクローンが、高いCu−Zn SOD活性(図2a)も示したことは注目されてよい。これらのクローンは、野外実施データでも乾燥耐性を示している。
【0030】
RAPDバンドと対象となる形質との関連性の研究が報告されている。形質関連DNAマーカーの確立で正確さを期すため、重回帰分析では極めて多様なイネのアクセッションのRAPD分析を用いて、DNAマーカーと量的形質との関連が判断されている。本試験では、(表2)に表された回帰分析は、従属変数である特異的なアイソザイム活性のピーク面積と、独立変数であるRAPDバンド(図1a)のスコアとの関連を判定するために行われた。段階的回帰分析は、OPAH02プライマーにより得られたRAPDバンド(1400bp)が、Cu/Zn SOD活性(b=0.970)及びAPXII活性(b=0.968)に関する極めて有意な回帰係数を有することを示した。フィッシャーの直接確率検定(F検定)により、Cu/Zn SOD及びAPXIIと、1400bpのRAPDバンドとの関連は、99.9%の信頼度で有意となることがわかった。乾燥耐性特異的アイソザイムの高い活性を示すクローンと関連するため、このDNAバンド(マーカー)は、茶樹の乾燥耐性用の生殖細胞質スクリーニングに使用することができる。1400bpのこのバンドは、図1a及び1bで矢印を付けている。
【0031】
1400bpのこのバンドは、現在さらに特徴が明らかになっている。
【0032】
このDNA断片は、いくつかのアッサム茶のクローンを含む、ランダムに選択された他の茶樹において、その有効性がさらに調べられている。
【0033】
これまでに示されたRAPDパターンの有効性試験では、同じプライマー、すなわちAPOH02が、いくつかのアッサム茶樹においても1400bpのDNA断片を増幅したことが明らかになっている(図3a及び3bの矢印)。
【0034】
表1:11種類のランダムプライマー配列と、そのスコア付けされた増幅バンド及び多型バンドの数
【表1】

【0035】
表2:Cu−Zn SOD、APXIIと、1400bpのRAPDバンドとの関連
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】プライマーOPAH02を用いた、ダージリン茶樹生殖細胞質のRAPDパターン(1.5%アガロースゲル上);DNA断片を矢印で示した。M=100bp分子量マーカー。
【図2】ダージリン茶樹(クローン)における(a)SOD及び(b)APXのアイソザイム活性を示す、NBT染色された、1.2%非変性ポリアクリルアミドゲルの濃度測定スキャン。
【図3】プライマーOPAH02を用いた、アッサム茶樹生殖細胞質のRAPDパターン(1.5%アガロースゲル上);DNA断片を矢印で示した。M=100bp分子量マーカー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プライマーAP OHO2を用いて生成した増幅断片1400bpを含む、植物の乾燥耐性に関する新規DNAマーカー。
【請求項2】
前記増幅断片が、クローンRR17/144、CP1、TV26及びAV2に存在する、請求項1に記載のDNAマーカー。
【請求項3】
以下に挙げる配列を有する、請求項1に記載のDNAマーカー。
茶の配列
【化1】

【請求項4】
冷凍若葉からゲノムDNAを抽出すること、
こうして得られたDNAを検量ステップにかけること、
検量されたDNAを分析ステップにかけること、
マーカーバンドのDNA配列を得るために、乾燥に特異的(回帰分析により同定、請求項6参照)なDNA断片をクローニングすること、
を含む、乾燥耐性に関するDNAマーカーの開発方法。
【請求項5】
マーカーを同定する前記ステップが、OPAB06、OPAB18、OPAH18、OPAH02、OPAB17、OPAC19、OPAH12、OPAL04、OPAA02、OPAG13及びOPAL08などのプライマーの使用を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
分析ステップが、乾燥ストレスを受けた切断葉におけるスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)及びアスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APX)の乾燥特異的アイソザイム活性と相関する(RAPD試験)を用いる回帰分析アプローチにより行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記分析ステップが、独立変数であるRAPDバンド(アスグノタイプ(Asgnotypes)より得た)と、独立変数である植物の乾燥耐性に関する生化学的パラメータとの関連性の試験に基づく、請求項4に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−535310(P2007−535310A)
【公表日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−500354(P2007−500354)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【国際出願番号】PCT/IN2005/000067
【国際公開番号】WO2005/083117
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(506290109)ボース インスティチュート (1)
【出願人】(505220114)デパートメント オブ バイオテクノロジー (6)
【Fターム(参考)】