説明

植物の栽培、養生、貯蔵、順化等の方法と装置

【課題】収納した植物を上下に移動させ、植物を庫内の適応する最適の環境位置に配置することにより、植物の品質にバラツキのない栽培、養生、貯蔵、順化等が行える方法を提供する。
【解決手段】上下に走行可能となる一対のチエン7を対向状に配置し、この両チエン7間に植物を載置するための棚板10を水平に吊り下げ、チエン7を回動させることにより棚板10の位置を上下に可変とした装置2を、上下に環境の差異がある庫内1に収納し、棚板10に載置した植物Aを上下に移動させることによりこの植物Aを庫内1の適応する環境位置に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、上下に温湿度環境の差異がある庫内に収納した植物を、庫内の適応する環境位置に配置することで、品質にバラツキのない植物の栽培、養生、貯蔵、順化等を行うことができる方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、植物の栽培、植物の環境順化、植物及び農産物の貯蔵、接ぎ木後の養生などを目的として用いられている庫内装置では、環境の変化に伴い温湿度の干渉により不安定を招くと同時に、庫内環境において、上部と下部で対流による環境の差異、即ち、装置の上部は高温で低湿となり、下部は低温で高湿となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のような従来の庫内装置では、庫内に収納した植物が固定的な高さ配置となるため、植物を庫内の適応する環境位置に配置することが困難となり、植物の栽培、養生、貯蔵、順化等において、植物の品質にバラツキが生じるという問題がある。
【0004】
また、このような問題を是正するためには、攪拌扇や気流制御などの特別な装置が必要となる。
【0005】
そこで、この発明の課題は、庫内における静止状態の空気は、暖かく乾いたものが軽く上昇し、冷たく湿ったものが下降する点に着目し、この上下の温湿度環境の異差を利用し、収納した植物を上下に移動させることにより、植物を庫内の適応する最適の環境位置に配置することにより、植物の品質にバラツキのない栽培、養生、貯蔵、順化等が行え、しかも、省スペース化や省エネ化を実現できる方法と装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のような課題を解決するため、方法の発明は、上下に環境の差異がある庫内に収納した植物を上下に移動可能に収納し、植物を上下に移動させることによりこの植物を庫内の適応する環境位置に配置する構成を採用したものである。
【0007】
また、装置の発明は、上下に走行可能となる一対のエンドレス走行体を対向状に配置し、この両エンドレス走行体間に植物を載置するための棚板を水平に吊り下げ、エンドレス走行体を回動させることにより棚板の位置を上下に可変とした構成を採用したものである。
【0008】
ここで、装置は、ベース部材の両側に上下に長い支柱を所定の間隔で対向立設し、両支柱の対向面で下部と上端部の位置にスプロケットを回転可能に軸止し、上下に位置するスプロケット間にエンドレス走行体となるチエンを巻回し、下部スプロケットと連動したハンドルの回転操作でチエンを上下に回動させることができるようになっている。
【0009】
上記棚板は、対向するチエン間に収まる幅を有し、両側に設けた側壁の上端を対応するチエンに枢止することにより、両側のチエン間に吊り下げ状に取付けられ、チエンの回動により水平姿勢のままで上昇又は下降する循環移動が可能になる。
【0010】
栽培、養生、貯蔵、順化等を行わんとする植物は、庫内に設置した装置の上記棚板上に載置し、チエンを回動させて植物の上下配置位置を選ぶことにより、植物を庫内の適応する最適の環境位置に配置するものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明によると、上下に環境の差異がある庫内に収納した植物を上下に移動可能に収納し、植物を上下に移動させることによりこの植物を庫内の適応する環境位置に配置するようにしたので、庫内の上下の温湿度環境の異差を利用し、収納した植物を上下に移動させることで、植物を庫内の適応する最適の環境位置に配置することができ、植物の品質にバラツキのない栽培、養生、貯蔵、順化等が行える。
【0012】
また、上下に走行可能となる両エンドレス走行体間に植物を載置するための棚板を水平に吊り下げ、エンドレス走行体を回動させることにより棚板の位置を上下に可変としたので、棚板に載置した植物を上下に移動させることで、植物を庫内の適応する最適の環境位置に配置することができ、両エンドレス走行体間と棚板の組合わせであるので全体が小型にまとまり、植物の品質にバラツキのない栽培、養生、貯蔵、順化等が省スペースで行えると共に、従来の攪拌扇や気流制御などが不要となり、コスト削減と省エネ化を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0014】
図示のように、植物の栽培、養生、貯蔵、順化等を行う庫内1に、植物を上下に移動させるための装置2が設置されている。
【0015】
この装置2は、ベース部材3の両側に、上下に長く長さの張設が可能な支柱4を所定の間隔で対向立設し、両支柱4の対向面で下部と上端部の位置にスプロケット5と6を回転可能に軸止し、上下に位置するスプロケット5と6間にエンドレス走行体となるチエン7やベルトを巻回し、一方支柱4の外面に取付けられ、下部スプロケット6の軸6aと歯車機構8を介して連動したハンドル9の回転操作でチエン7を上下に回動させることができるようになっている。
【0016】
上記した対向するチエン7間に、植物Aを載置する複数の棚板10が、チエン7の走行方向に一定の間隔で吊り下げ状に取付けられている。
【0017】
この棚板10は、対向するチエン7間に収まる幅を有し、両側に設けた側壁11の上端を対応するチエン7に軸12で枢止することにより、両側のチエン7間に吊り下げ状に取付けられ、チエン7の回動により水平姿勢のままで上昇又は下降する循環移動が可能になる。
【0018】
次に、上記装置2を用いた植物の栽培、養生、貯蔵、順化等を行う方法を説明する。
【0019】
図4は、装置2を設置した庫内1の環境の模式図を示し、庫内環境は上下方向で温湿度環境が一定の勾配で徐々に変化する状態を示している。
【0020】
この庫内1において、棚板10の上に載置した植物Aを上下方向に移動させることにより、その移動位置により環境を変化させることができ、植物Aを庫内1の適応する最適の環境位置に配置することで、植物Aの品質にバラツキのない栽培、養生、貯蔵、順化等が行える。
【0021】
また、必ずしも必須ではないが、空調機13や加湿器14を用い、庫内1の上部を加温、除湿したり、下部を冷却、加湿したりすることができ、温湿度環境の勾配や温湿度域を調整することができる。
【0022】
具体的な利用の一例として、ここでは、果菜類の接ぎ木後の活着、順化について説明する。
【0023】
接ぎ木直後の苗は、穂木と台木を癒合させる活着と、通常の栽培環境に耐えうる順化を促進させるための養生装置が必要である。
【0024】
活着は細胞増殖と組織分化の整理を伴い、順化は道管形成に伴う蒸散能で決まる。活着の両面から考慮しても、接ぎ木後苗に、初期は蒸散抑制、後期は蒸散促進の蒸散制御を施す必要があり、これを漸次慣らしていくことが重要である。
【0025】
ここで、庫内1に装置2を設置した図4の模式図の活着、順化装置の上部は、光源15を設置することで高温、低湿、強光となり、下部は空調機13と加湿器14を設置することで、低温、高湿、弱光となる。
【0026】
この活着、順化装置の棚板に載置した接ぎ木苗を下から上に移動させ、活着、順化を行うと、接ぎ木後の苗に対する蒸散制御に見合った環境を提供することができる。
【0027】
なお、装置2の棚板10の上下動は、手動によって行う例を示したが、サーボモータを用いてチエン7を回動させ、予め設定したサイクルで棚板を自動的に上下動させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の装置を示す斜視図
【図2】この発明の装置を示す縦断正面図
【図3】この発明の装置を示す縦断側面図
【図4】この発明の装置を示す模式図
【符号の説明】
【0029】
1 庫内
2 装置
3 ベース部材
4 支柱
5 スプロケット
6 スプロケット
7 チエン
8 歯車機構
9 ハンドル
10 棚板
11 側壁
12 軸
13 空調機
14 加湿器
15 光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に環境の差異がある庫内に収納した植物を上下に移動可能に収納し、植物を上下に移動させることによりこの植物を庫内の適応する環境位置に配置する植物の栽培、養生、貯蔵、順化等の方法。
【請求項2】
上下に走行可能となる一対のエンドレス走行体を対向状に配置し、この両エンドレス走行体間に植物を載置するための棚板を水平に吊り下げ、エンドレス走行体を回動させることにより棚板の位置を上下に可変とした植物の栽培、養生、貯蔵、順化等の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−61623(P2008−61623A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245423(P2006−245423)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(592202170)農事組合法人三国バイオ農場 (10)
【Fターム(参考)】