説明

植物の養液栽培に用いる軽石培地の製造方法、前記方法から得られた軽石培地を用いた、植物の養液栽培装置、並びに、植物の養液栽培方法

【課題】メタン発酵後に廃棄物として得られるメタン消化液を肥料成分として直接添加して、固形培地耕での養液栽培を行うことを可能とする。
【解決手段】メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性が付与された軽石培地3に、アンモニア態窒素濃度が20〜500ppmになるように希釈したメタン発酵後に得られるメタン消化液を含む養液を、供給することにより、メタン消化液を肥料成分として直接添加して前記軽石培地にて養液栽培を行うこと、を特徴とする、植物の養液栽培方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性が付与された、植物の養液栽培に用いる軽石培地の製造方法に関する。
さらに、本発明は、前記方法から得られた軽石培地を用いた、メタン消化液を肥料成分として直接添加して固形培地耕での養液栽培を行うことを可能とする、植物の養液栽培装置、並びに、植物の養液栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の代替エネルギーとして廃棄物系の有機物を利用する技術の観点や、バイオマス利用の観点から、家畜糞尿を‘メタン発酵’させる処理方法が注目されている。
しかし、メタン発酵後には、投入原料(糞尿)とほぼ同量の「メタン消化液」が廃棄物として残り、そのほとんどが下水処理されている状態にある。現在、その処理方法の課題が、メタン発酵施設の普及を妨げる要因の一つとなっている。
【0003】
メタン消化液には、肥料成分が多く含まれるため、農作物を始めとする植物栽培への肥料成分としての利用の有効性が考えられている。
しかし、メタン消化液には、植物が好適に肥料成分として利用可能な‘硝酸態窒素’が含まれておらず、窒素の過半以上が‘アンモニア態窒素’として含有されている。
そのため、アンモニア態窒素は、ある特定の濃度範囲で施肥した場合には、即効性の肥料としてはある程度の効果が期待できるが、過剰に添加した場合には、アンモニア障害により植物の成長阻害を引き起こす危険性がある。
【0004】
液体肥料を用いて栽培環境を人工的に管理し、効率良く計画的に農作物の栽培等を行う方法として、「養液栽培」の技術が挙げられる。
養液栽培は、土壌を用いずに肥料成分を含む養液中で、植物を栽培する技術であり、水耕、固形培地耕、噴霧耕などが知られているが、特に、‘固形培地耕’は、トマト、コマツナなどの野菜、果実、花木等の栽培に好適に用いられている技術であり、近年、幅広く応用されている栽培方法である。また、養液栽培には、大量の肥料成分を含む‘養液’が必要となる。
そこで、養液栽培に用いる養液として、化学肥料の代わりに、メタン消化液を肥料成分として施肥することによって、トマトを固形培地耕で養液栽培することが試みられた。しかし、メタン消化液を養液として直接添加(施肥)した場合、アンモニア障害と考えられる成長阻害が起こり、栽培できなかった例が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
このように、従来では、メタン発酵後に得られる廃棄物であるメタン消化液を、液体肥料として直接添加(施肥)して養液栽培を行った場合には、植物の成長阻害を引き起こす環境になりやすく、養液栽培への応用は不適と考えられていた。
【0006】
【非特許文献1】「養液土耕と液肥・培地管理」博友社、p.119-155(2005年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の課題を解決し、メタン発酵後に廃棄物として得られるメタン消化液を肥料成分として直接添加して、固形培地耕での養液栽培を行うことを可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、排水口を備えた容器に軽石を充填し、;これにメタン発酵後に得られるメタン消化液を徐添加して静置した後に水を添加して前記容器の排水口から流出させることで前記軽石を洗浄する処理を、当該流出液に硝酸態窒素が生成され始めるまで繰り返して行うことにより、;前記軽石にメタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性を付与させることができること、を見出した。
また、本発明者は、軽石に化学肥料を添加して植物を栽培することにより、前記軽石にメタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性を付与させることができること、を見出した。
【0009】
そして、本発明者は、前記メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性を付与させた軽石を固形培地として用いることによって、メタン消化液を肥料成分として直接添加して、固形培地耕での養液栽培を行うこと、が可能となることを見出した。
本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至った。
【0010】
即ち、請求項1に係る発明は、排水口を備えた容器に軽石を充填し、;これにメタン発酵後に得られるメタン消化液を徐添加して静置した後に水を添加して前記容器の排水口から流出させることで前記軽石を洗浄する処理を、当該流出液に硝酸態窒素が生成され始めるまで繰り返して行うことにより、;前記軽石にメタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性を付与させることを特徴とする、植物の養液栽培に用いる軽石培地の製造方法に関するものである。
また、請求項2に係る発明は、前記メタン消化液が、家畜排泄物、食品加工残渣、廃食用油、生ごみ、下水汚泥、し尿、浄化槽汚泥よりなる群から選ばれた1種以上を、メタン発酵した後に得られるものである、請求項1に記載の軽石培地の製造方法に関するものである。
また、請求項3に係る発明は、前記メタン消化液が、0〜40℃でのメタン発酵後に得られたものである、請求項1又は2のいずれかに記載の軽石培地の製造方法に関するものである。
また、請求項4に係る発明は、前記メタン消化液の添加量が、前記軽石1Lに対して乾燥重量で0.01〜0.50gである、請求項1〜3のいずれかに記載の軽石培地の製造方法に関するものである。
また、請求項5に係る発明は、軽石に化学肥料を添加して植物を養液栽培することにより、前記軽石にメタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性を付与させることを特徴とする、植物の養液栽培に用いる軽石培地の製造方法に関するものである。
また、請求項6に係る発明は、請求項5において、前記植物が野菜であり、前記栽培終了後が可食部の収穫後である、軽石培地の製造方法に関するものである。
また、請求項7に係る発明は、前記軽石が、多孔性表面を有する粗粒子である、請求項1〜6のいずれかに記載の軽石培地の製造方法に関するものである。
また、請求項8に係る発明は、請求項1〜7のいずれかに記載の方法により得られた前記軽石培地が、1.0×10MPN/g以上の硝化菌を定着させたものである、植物の養液栽培に用いる軽石培地の製造方法に関するものである。
また、請求項9に係る発明は、請求項1〜8のいずれかに記載の方法により得られた軽石培地、が充填された栽培ベッドと、植物栽培用の養液を点滴潅水にて前記軽石培地に供給する設備と、からなり、;アンモニア態窒素濃度が20〜500ppmになるように希釈したメタン発酵後に得られるメタン消化液を含む養液を前記養液として用いて、点滴潅水にて前記軽石培地に供給することにより、;メタン消化液を肥料成分として直接添加して前記軽石培地にて養液栽培を行うことを可能とする、植物の養液栽培装置に関するものである。
また、請求項10に係る発明は、前記植物栽培用の養液を点滴潅水にて前記軽石培地に供給する設備が、点滴チューブおよび/または点滴ドリッパー、を具備するものである、請求項9に記載の植物の養液栽培装置に関するものである。
また、請求項11に係る発明は、請求項1〜8のいずれかに記載の方法により得られた軽石培地に、アンモニア態窒素濃度が20〜500ppmになるように希釈したメタン発酵後に得られるメタン消化液を含む養液を、供給することにより、;メタン消化液を肥料成分として直接添加して前記軽石培地にて養液栽培を行うこと、を特徴とする、植物の養液栽培方法に関するものである。
また、請求項12に係る発明は、請求項9又は10のいずれかに記載の前記養液栽培装置を用いて、アンモニア態窒素濃度が20〜500ppmになるように希釈したメタン発酵後に得られるメタン消化液を含む養液を直接添加して養液栽培を行う、植物の養液栽培方法に関するものである。
また、請求項13に係る発明は、請求項11又は12のいずれかに記載の養液栽培方法において、前記植物が、葉を収穫対象とする葉菜類の野菜または果実を収穫対象とする果菜類の野菜である、植物の養液栽培方法に関するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性が付与された、植物の養液栽培に用いる軽石培地、を提供することを可能とする。即ち、本発明は、メタン消化液の窒素態の過半を占めるアンモニア態窒素を、植物が吸収しやすい硝酸態窒素に硝化することができる活性が付与された、植物の養液栽培に用いる軽石培地、を提供することを可能とする。
それにより、本発明は、メタン発酵後に廃棄物として得られるメタン消化液を肥料成分として直接添加して、固形培地耕での養液栽培を行うことを可能とする。
【0012】
なお、本発明の間接的な効果として、メタン消化液を有効利用することが可能となり、‘メタン発酵施設の増加’に繋がることが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性が付与された、植物の養液栽培に用いる軽石培地の製造方法に関する。
また、本発明は、前記方法から得られた軽石培地を用いた、メタン消化液を肥料成分として直接添加して固形培地耕での養液栽培を行うことを可能とする、植物の養液栽培装置、並びに、植物の養液栽培方法に関する。
【0014】
本発明における、植物の養液栽培装置、並びに、植物の養液栽培方法は、‘メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性が付与された’軽石培地、を用いるものである。
本発明において、‘メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性が付与された’軽石培地とは、実際にメタン消化液を添加した際に、添加したメタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝酸態窒素に硝化する活性、を有するものを指すものであるが、好ましくは、軽石培地の湿重1gあたりに、1.0×10MPN以上、好ましくは、1.7×10MPN以上、の密度の硝化菌を定着させた軽石を指す。
なお、菌密度を表すMPN(Most Probable Number)は、希釈頻度法により算出することができる。例えば、硝化菌の場合、サンプルを数段階(最低でも3段階)の希釈を行い、それら各希釈段階の希釈液を、アンモニア無機塩液体培地の入った多数の試験管(もしくはマルチウェルプレート)に添加して十分な期間培養し、硝酸イオンが生成したものがそれぞれの希釈段階でいくつあるのか、その結果を統計処理することにより、算出することができる。
【0015】
本発明において、‘メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性が付与された軽石培地’の製造は、以下の2種類の方法によって行うことができる。
i)まず、第1の方法としては、排水口を備えた容器に軽石を充填し、;これにメタン発酵後に得られるメタン消化液を徐添加して静置した後に水を添加して前記容器の排水口から流出させることで前記軽石を洗浄する処理を、当該流出液に硝酸態窒素が生成され始めるまで繰り返して行う;ことによって、前記軽石培地を製造することができるものである。
ii)また、第2の方法としては、軽石に化学肥料を添加して植物を養液栽培し、養液栽培終了後に当該軽石を回収する;ことによって、前記軽石培地を製造することができるものである。
【0016】
本発明において、‘メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性が付与された軽石培地’を製造する「第1の方法」(メタン消化液を徐添加する方法)の最初の工程は、まず、軽石を容器に充填する工程(充填工程)である。
【0017】
本発明においては、固形培地の素材として軽石を用いる。
「軽石」は、火山性の天然素材であり、粒子自体が‘多孔性表面’を有するものであり、同時に‘積層した際の粒子間の空隙が大きい’という性質を有する。そのため、軽石は、程よい保水性および通気性を有し、さらに体積に対しての表面積が大きい素材である。これらのことより、軽石は、「硝化菌の定着に極めて適した」と認められる素材である。また、積層した際の軽石の粒子間の空隙の環境が、好気条件が保たれるため、硝化反応が進行しやすいような状態を保つことができる。
また、軽石は、上記‘積層した際の粒子間の空隙が大きい’という性質から、水はけが良く、気相を十分に確保できるという機能をも具備し、植物を栽培した際に根での呼吸が活発に行われ、根の病害が発生しにくくなる、という利点を有する。また、Ca、Mg等のイオン交換カチオンを含み、根の周囲の根圏微生物群の生育環境、を好適に維持する機能も有すると考えられる(例えば、特許第3763469号参照)。
さらには、軽石は、我が国では(火山が多いため)‘安価で安定的に入手が可能’な素材であり、生産性の点で経済的な利点がある。さらにまた、樹脂などと違い、熱に強いので加熱殺菌が容易であり、水で洗えば容易に過剰な栄養塩などを除去できるという利点をも有する。
【0018】
本工程に用いる軽石は、上記性質を具備するものであれば、如何なるものでも用いることができる。特には、程よい保水性および通気性を有し、さらに体積に対しての表面積が大きい粒子径のものを用いることが好ましく、具体的には、平均粒子径1〜10mmの範囲のものがより好適である。
なお、本発明に用いる軽石は、採取したもの直接用いることもできるが、上記適度な大きさの粒子径に砕いて用いることが望ましい。水での洗浄や滅菌後のものを用いてもよく、特に、硝化菌が付着しているものを用いる必要はない。なお、未使用で殺菌済みの軽石培地には、有機物や微生物は存在しない。
【0019】
本工程において、前記軽石を充填する容器としては、排水口を備えた容器であり、水を添加した後、水を効率よく流出できる構造のものであればよい。具体的には、下部が開口したもの、全体が網目状の容器などを用いることができ、特には、カラム状に下部が開口したものを用いることが好適である。
なお、排水口を備えない容器を用いることも可能であるが、その場合、当該容器を傾けるなどの操作を行って、水を流出させる操作(デカンテーション)を行う必要があるため、操作性の点で効率が劣り好適ではない。
【0020】
当該容器への前記軽石の充填は、水を添加して流出させた後に、毛細管現象で全体が湛水状態になってしまわないよう、軽石の粗粒子間の空隙(気相)が確保されるようにする。
なお、具体的な実施形態として、上記を踏まえて当該容器への前記軽石を充填する場合、100mL〜1,000Lの前記軽石を充填することができる。また、充填高としては、5〜100cmの層になるように前記軽石を充填することができる。
なお、以下、積層した軽石の粗粒子間の全体の環境を、単に「軽石中」と表現することがある。
【0021】
上記の充填工程にて、前記軽石を前記容器に充填した後、メタン消化液を徐添加する工程(硝化菌定着工程)を行う。
本工程は、「メタン発酵後に得られるメタン消化液を徐添加して静置した後に水を添加して前記容器の排水口から流出させることで前記軽石を洗浄する処理」を、当該流出液に硝酸態窒素が生成され始めるまで「繰り返して」行うことにより、行うものである。
【0022】
ここで、「硝化菌」とは、硝化反応を行う微生物群のことである。硝化菌としては、アンモニア酸化菌(もしくは亜硝酸生成菌)のNitrosomonas属、Nitorosococcus属、Nitrosospira属(Nitrosolobus属、Nitrosovibrio属を含む)亜硝酸酸化菌(もしくは硝酸生成菌)のNitrobacter属、Nitrospira属;などを挙げることができる。
また、「硝化反応」とは、アンモニア態窒素から硝酸態窒素に酸化する一連の反応が行われるものである。詳しくは、アンモニアが亜硝酸イオンに酸化され、次に硝酸イオンに酸化される反応を経て、硝酸態窒素が生成される反応を指すものである。
なお、本発明において、‘硝酸態窒素’とは、硝酸イオンや硝酸塩を指すものであるが、具体的には、‘硝酸イオン’を想定したものである。
【0023】
また、本発明における「メタン消化液」とは、有機物をメタン発酵させた後に得られる廃棄物を指すものである。メタン消化液は、植物が好適に肥料成分として利用可能な‘硝酸態窒素’が含まれておらず、窒素の過半以上が‘アンモニア態窒素’を含む。
【0024】
本工程で添加するメタン消化液としては、0〜40℃、好ましくは15〜37℃の(所謂)‘中温’でメタン発酵を行った後に得られるメタン消化液を用いることができる。この温度範囲でメタン発酵を行った後のメタン消化液は‘硝化菌’を含むものであり、本工程では、当該硝化菌が、軽石培地に定着させることができる。
なお、40℃以上の‘高温’でメタン発酵を行ったものは、硝化菌が死滅、もしくは、激減しているため、本工程で硝化菌定着を目的として添加するには好ましくないものである。
【0025】
本工程で添加するメタン消化液としては、家畜排泄物、食品加工残渣、廃食用油、生ごみ、下水汚泥、し尿、浄化槽汚泥などを原料として、メタン発酵した後に得られるものを用いることができる。特には、家畜排泄物(特には、豚糞尿、牛糞尿)由来のものを用いることが、原料の大量確保が容易な点で好ましい。
【0026】
本工程における前記メタン消化液を添加する方法は、前記軽石に‘少しずつ’添加(徐添加)することを要する。
これは、メタン消化液を一度に大量に添加した場合に、メタン消化液に含まれる有機物に曝露されて、硝化菌の活性が弱まることを防ぐために必要な操作である。
具体的な当該メタン消化液の添加量としては、前記軽石1Lに対して、1日に、0.01〜0.50g(乾燥重量換算)、好ましくは、0.05〜0.25g(乾燥重量換算)を添加することができる。
当該メタン消化液は、液体の状態であっても乾燥粉末化させた状態であっても添加することができるが、均一添加の観点から液体の状態で添加することが望ましい。
なお、具体的には、当該メタン消化液を液体の状態で添加する場合、0.2〜10g(液体重量(乾燥重量換算では0.05〜0.25g))を添加することができる。
また、当該メタン消化液の添加量が、上記所定量よりも多い場合、前記軽石の担持量を超えることがあり好ましくない。また、当該メタン消化液の添加量が、上記所定量よりも少ない場合、軽石培地の容積あたりのアンモニア濃度が低くなり、硝化菌の活性を挙げるのに不十分になるため好ましくない。
【0027】
次いで、当該メタン消化液の添加後、硝化菌を定着させるために「静置」する。
静置する温度は、硝化菌の生育に適した温度である10〜42℃、好ましくは15〜37℃である。なお、温度が10℃よりも低い場合、硝化菌の増殖が遅延し定着に時間を要するため好ましくない。また、温度が42℃よりも高い場合、硝化菌の一部が死滅することがあり、好ましくない。
また、本工程における1回あたりの「静置」する時間は、一晩(約8〜24時間)以上であればよい。一晩よりも短い場合、硝化菌の順応が十分ではなく好ましくない。
【0028】
次に、上記のように静置した後、水を添加して前記容器の排水口から流出させることで、前記軽石を「洗浄」する。
静置後の洗浄において用いる水としては、純水(蒸留水、イオン交換水、逆浸透膜水など)、井戸水、河川水、湖水、水道水、海水などを用いることができる。なお、高濃度の硝酸態窒素を含む水は望ましくない。
当該洗浄に用いる水の添加量としては、前記固形担体1Lあたり100〜3000mlであることが望ましい。
当該洗浄を行うことで、前記軽石中に生成された硝酸態窒素を除去し、前記軽石中に含まれる硝酸態窒素濃度を低下させることができるため、硝化反応の化学平衡が硝酸態窒素の生成される方向に傾き、硝化菌の活動を活性化することができる。
【0029】
前記軽石に、‘メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性が付与された’かどうかの判定は、当該洗浄の際の流出液の硝酸態窒素の濃度を測定することで行うことができる。
即ち、当該流出液中の硝酸態窒素の濃度を測定し、‘当該流出液に硝酸態窒素が生成され始めた’と認められた場合、前記軽石に‘メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性が付与された’と判定することができる。
具体的には、当該流出液に、30mgNO/L以上、好ましくは300mgNO/L以上、の硝酸イオンの生成が認められた場合に、前記軽石に所定の密度以上の硝酸菌が定着し、‘メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性が付与された’と判定することができる。
【0030】
また、前記軽石に、‘メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性が付与された’かどうかの判定は、好ましくは、当該軽石に定着した硝化菌の密度を測定することによって、行うことができる。
具体的には、軽石の湿重1gあたりに、1.0×10MPN以上、好ましくは、1.7×10MPN以上、の密度の硝化菌が定着したかどうかで判定することができる。
【0031】
なお、当該洗浄後に、前記軽石に‘メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性が付与された’と認められない場合、「メタン発酵後に得られるメタン消化液を徐添加して静置した後に水を添加して前記容器の排水口から流出させることで前記軽石を洗浄する処理」を、上記基準を満たすまで繰り返して行うことを要する。
また、当該硝化菌定着工程を完了するのに、約8日以上、好ましくは約14日以上を要するものである。
【0032】
このように、本発明における「第1の方法」(メタン消化液を徐添加する方法)によって得られる前記軽石は、前記所定の密度以上の硝化菌を定着させたものであり、‘メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性が付与された’ものである。
そのため、メタン消化液を添加した場合、メタン消化液中のアンモニア態窒素を、速やかに硝酸態窒素に酸化することが可能となる。
【0033】
また、本発明における‘メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性が付与された軽石培地’を製造する方法としては、「第2の方法」(化学肥料で養液栽培する方法)によっても行うことができる。
【0034】
「第2の方法」は、具体的には、軽石に化学肥料を添加して植物を養液栽培することにより、前記軽石にメタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性を付与させる方法である。
本方法における植物の栽培は、‘軽石’を固形培地として用い、‘化学肥料’を肥料成分として用いて栽培する以外は、通常の植物の養液栽培方法に従って行うことができる。
【0035】
本方法において用いる軽石は、前記第1の方法で用いたものと同様のものを用いることができる。
本方法に用いる軽石は、化学肥料を含む養液を供給した際に、軽石の粗粒子間の空隙(気相)が確保されて、硝化菌の生育に適した好気的な環境が維持できるよう排水口を備えた容器に充填することが望ましい。
なお、具体的な実施形態として、前記軽石を充填(積層)する場合、100mL〜1,000L、積層高としては、5〜100cmの層になるように前記軽石を、栽培装置、栽培ポッド、容器などに充填(積層)する。
【0036】
本方法における化学肥料の添加は、養液栽培の養液として添加するため、水溶液の形で添加する。
本方法で添加する化学肥料としては、養液栽培用に市販された無機肥料成分のみからなるものであれば、如何なるものでも用いることができる。
【0037】
本方法における養液の添加方法としては、軽石培地の粗粒子間の空隙(気相)が確保されて、硝化菌の生育に適した好気的な環境が維持されるように行うことが望ましい。
例えば、前記排水口から養液が排出されるような環境下において、定期的に養液を添加することで、行うことができる。また、養液は、点滴潅水により一定流量速度で供給してもよい。
【0038】
本方法で養液栽培する植物としては、養液栽培が可能な種類であれば如何なるものを栽培してもよいが、養液栽培で生育が良好なもの、養液栽培時に病気に罹りにくいもの、栽培が早く終了するものなどであるものが好ましい。
例えば、葉を収穫対象とする葉菜類の野菜(具体的には、チンゲンサイ、ニラ、サラダナ、コマツナ、ホウレンソウ)、果実を収穫対象とする果菜類の野菜(具体的にはトマト、ナス、キュウリ)などを栽培することが好ましい。
なお、特に好ましくは、チンゲンサイ、ニラ、サラダナ、トマト、を栽培することが望ましい。
【0039】
本方法において、植物を栽培する方法としては、上記のように‘軽石’を固形培地として用い、‘化学肥料’を肥料成分として用いて栽培する以外は、通常の各植物の種類に応じた養液栽培方法に従って行えばよく、固形培地として用いた軽石にて植物を生育させることで、当該軽石に、硝化菌を定着させることができる。
なお、好ましくは、当該軽石中が、硝化菌の生育に適した好気的な環境が維持されるように栽培を行うことが望ましい。
また、本方法において、植物を良好に生育させることは、当該固形培地として用いた軽石中において、植物病原性の微生物の増殖を抑えることができる意味でも好ましい。
【0040】
当該固形培地として用いた軽石に、‘メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性が付与された’かどうかの判定は、当該軽石に定着した硝化菌の密度を測定することによって、行うことができる。
具体的には、軽石の湿重1gあたりに、1.0×10MPN以上、好ましくは、1.7×10MPN以上、の密度の硝化菌が定着したかどうかで判定することができる。
また、本方法において、養液栽培を行う期間としては、栽培する植物の種類によって異なるが、少なくとも14日以上、好ましくは20日以上要するものである。
なお、栽培する植物が野菜である場合、可食部を収穫できるようになるまでの日数の栽培を行うことで、上記所定の密度以上の硝化菌が定着したと判定することができる。
【0041】
上記養液栽培の期間の終了後、‘メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性が付与された’と判定された軽石は、栽培した植物体を分離して回収して用いてもよいし、回収せずにそのまま養液栽培に用いてもよい。
なお、回収後は、水をよく切り、通気性のよい状態で保管することが望ましい。
【0042】
このように、本発明における「第2の方法」(化学肥料で養液栽培する方法)によって得られる前記軽石は、前記所定の密度以上の硝化菌を定着させたものであり、‘メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性が付与された’ものである。
そのため、メタン消化液を添加した場合、メタン消化液中のアンモニア態窒素を、速やかに硝酸態窒素に酸化することが可能となる。
【0043】
以上の上記方法(「第1の方法」もしくは「第2の方法」)により得られた軽石は、固形培地として用いることによって、「メタン消化液を肥料成分として直接添加して固形培地耕での養液栽培を行う」ことを可能とするものである。
具体的には、上記方法で得られた‘メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性が付与された’軽石培地に、メタン発酵後に得られるメタン消化液を含む養液を、供給することにより、‘メタン消化液を肥料成分として直接添加して固形培地耕での養液栽培を行うこと’が可能となる。
【0044】
本発明の‘メタン消化液を肥料成分として直接添加して固形培地耕での養液栽培を行う方法’(以下、‘本発明の養液栽培方法’という場合がある。)では、固形培地として、上記方法で得られた‘メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性が付与された’軽石を、固形培地(「軽石培地」)として用いる。
本発明の養液栽培方法に用いる軽石培地は、養液を供給した際に、全体が湛水状態になってしまわないよう、排水口を備えた容器に充填することが望ましく、軽石の粗粒子間の空隙(気相)が確保され、硝化菌の生育に適した好気的な環境が維持できるようにすることが望ましい。
なお、具体的な実施形態として、前記軽石培地を充填(積層)する場合、100mL〜1,000L、積層高としては、5〜100cmの層になるように前記軽石培地を充填(積層)する。
【0045】
本発明の養液栽培方法(メタン消化液のよる養液栽培方法)において供給する‘養液としては、具体的には、アンモニア態窒素濃度が20〜500ppm、好ましくは100〜400ppmになるように希釈したメタン消化液を含むものである。
なお、希釈は、水で行うことができるが、窒素分以外無機肥料成分である、リン、カリウム、微量元素、を含むよう添加し希釈したものであってもよい。
【0046】
本発明の養液栽培方法において養液に含まれる‘メタン消化液’としては、有機物をメタン発酵させた後に得られる廃棄物であれば、如何なるものでも用いる。
なお、本方法におけるメタン消化液とは、‘前記軽石培地を製造する第1の方法’で添加するメタン消化液とは異なり、‘中温発酵後’と‘高温発酵後’の両方のメタン消化液を用いることができる。本養液栽培方法では、メタン消化液を肥料成分として供給するのであって、硝化菌の微生物源として添加するわけではなく、メタン消化液に含まれる硝化菌の状態は問題にならないためである。
【0047】
本発明の養液栽培方法で添加するメタン消化液としては、家畜排泄物、食品加工残渣、廃食用油、生ごみ、下水汚泥、し尿、浄化槽汚泥などを原料として、メタン発酵した後に得られるものを用いることができる。特には、家畜排泄物(特には、豚糞尿、牛糞尿)由来のものを用いることが、原料の大量確保が容易な点で好ましい。
【0048】
本発明の養液栽培方法において養液を供給する方法は、養液を供給した際に、軽石培地の粗粒子間の空隙(気相)が確保され、硝化菌の生育に適した好気的な環境が維持できるような方法、で行うことが望ましい。
例えば、前記排水口から養液が排出されるような環境下において、定期的に養液を添加することで、行うことができるが、好ましくは、養液を、‘点滴潅水’により一定の含水率で維持することが望ましい。
なお、具体的には、当該養液の供給を、点滴潅水にて行う場合、pF値1〜3、好ましくは、pF値2で維持して行うことができる。なお、流量は、必要に応じて調節することが望ましく、自動的に流量を調節するシステムを用いて調節こともできる。
【0049】
本発明の養液栽培方法で栽培することができる植物としては、固形培地耕での養液栽培が可能な種類であれば如何なるものを栽培できるが、例えば、葉を収穫対象とする葉菜類の野菜(具体的には、チンゲンサイ、ニラ、サラダナ、コマツナ、ホウレンソウ)、果実を収穫対象とする果菜類の野菜(具体的にはトマト、ナス、キュウリ)、などを、栽培することができる。
なお、特に好ましくは、チンゲンサイ、ニラ、サラダナ、トマト、ホウレンソウを栽培することができる。
【0050】
本方法において、植物を栽培する方法としては、上記のように‘メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性が付与された軽石培地’を固形培地として用い、‘メタン消化液’を肥料成分として用いて栽培する以外は、通常の各植物の種類に応じた養液栽培方法に従って行うことができる。
なお、本発明の養液栽培方法において、当該軽石培地中を、硝化菌の生育に適した好気的な環境が維持されるようにすると、養液中(メタン消化液中)のアンモニア態窒素を、速やかに硝酸態窒素に硝化することができ、より望ましい。
【0051】
本発明の養液栽培方法は、例えば、図1で示される植物の養液栽培装置を用いて実施することができる。以下、図面を参照して説明する。なお、図1は、本発明の植物の養液栽培装置の一態様を示す概略図である。
【0052】
本発明の養液栽培方法が実施可能となる、植物の養液栽培装置1は、主に、栽培ベッド2(例えば、図1では、左側が葉菜用栽培ベッドを示しており、右側が果菜用栽培ベッドを示している。)と、軽石培地3、養液タンク4と、水中ポンプ5と、送液管6と、コントロールボックス7と、水分センサー9と、点滴チューブ11と、からなる。
【0053】
栽培ベッド2は、前記軽石培地3(固形培地)を充填し、植物を栽培する栽培床となるものである。栽培ベッド2は、その大きさに応じて、‘養液栽培が可能な植物’に適した栽培ベッドとして用いることができる。例えば120cm×43cm×11cmの栽培用ベッドは、特に葉菜類の野菜の栽培に適した栽培ベッドとして用いることができる。
栽培ベッド2の下面近傍、すなわち栽培ベッド2の下面からやや上側の位置には、排水設備があり、前記軽石培地の好気的環境が維持されるよう、供給された養液が排水される機能を有するものである。なお、当該排水設備から下面までの位置には、少量の養液が溜まり、充填された前記軽石培地3の下の方が養液に浸されている状態になる。
なお、軽石培地3は、上記方法により得られた‘メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性が付与された軽石培地’である。
【0054】
養液タンク4は、前記メタン消化液を含有する養液が充填されたタンクである。養液タンク4内の養液は、養液タンク4内に設置された水中ポンプ5の揚力により、送液管6を介して、栽培ベッド2に供給される。
なお、送液管6は、設置した栽培ベッドの数に応じて分枝させ、各栽培ベッド(例えば、図1では、葉菜用栽培ベッド2aと果菜用栽培ベッド2b)に、養液を供給することができる。
また、送液管6は、各栽培ベッドにおいて必要に応じた数を分枝させて、点滴チューブ11と接続されており、栽培ベッド2の上を等間隔で網羅するように点滴チューブ11を設置することで、栽培ベッド2の全面に養液を供給することができる。
なお、点滴チューブ11に換えて点滴ドリッパーを用いる場合には、ポリエチレンパイプなどにドリッパーを埋め込み、栽培ベッド2の上を等間隔で網羅するように設置することで、‘点滴潅水’を行うことが可能となる。
【0055】
なお、本装置は、上記のように、点滴チューブあるいは点滴ドリッパーのいずれを用いても、本装置にて点滴潅水を行うことは可能である。また、分枝させた一部に点滴チューブを用いると同時に、残りの分枝させた箇所に点滴ドリッパーを埋め込んだパイプを用いることにより、両者を同時に用いることも可能である。
【0056】
軽石培地3の水分含量の過不足は、水分センサー9によって検出され、その信号が、配線10を介して、コントロールボックス7に伝達される。
コントロールボックス7は、水中ポンプ5と、栽培ベッド2と、の間を接続する、送液管6に接続されており、栽培ベッド2に供給する養液の流量を調節することで、点滴潅水の流量を調節することができる。
【0057】
以上の本発明の養液栽培装置を用いることにより、メタン発酵後に得られるメタン消化液を含む前記養液を肥料成分として直接添加して、固形培地耕での養液栽培を行うことが可能となる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。
【0059】
実施例1
軽石500mlを底面に穴(排水口)の開いた容器(500ml容のプラスチック容器)に充填し、これに豚糞尿由来の中温発酵メタン消化液(豚糞尿を中温メタン発酵した後に得られた消化液)2.5gを軽石に添加し、室温(約25℃)で一晩静置した。翌日、水500mlを添加して前記底面の穴から流出させることで、上記軽石を洗浄し、前記底面の穴から流出した流出液の硝酸イオン濃度を測定した。
その後、前記中温発酵メタン消化液2.5g(乾燥重量0.06g)を添加し、室温(約25℃)で一晩静置した後、翌日、水500mlで洗浄する処理を、図2に記載の日数が経過するまで繰り返した。なお、洗浄の際には、洗浄後の流出液を回収し、硝酸イオン濃度を測定した。結果を図2に示す。
【0060】
その結果、図2に示すように、前記メタン消化液の添加から8日後の流出液から硝酸イオン濃度が上昇し始め(生成され始め)、14日後には300mg/L以上の硝酸イオンを生成するに至った。
この結果から、前記中温発酵メタン消化液を軽石に添加し、翌日水で洗浄する操作を繰り返すことで、軽石に対して、‘メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性’を付与することができることが示された。
【0061】
実施例2
実施例1で得られた‘メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性’が付与された軽石、を固形培地として用い、固形培地耕によるコマツナの養液栽培を行った。
固形培地耕による養液栽培は、図1に示す養液栽培装置を用いて行った。
まず、図1における‘葉菜用栽培ベッド’(120cm×43cm×11cm)に、実施例1で得られた‘メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性が付与された軽石’を固形培地として充填し、養液を点滴チューブにより、水分センサー(Delta-T社製)で軽石内の水分含有率をモニターしながら、軽石培地の水分含有率がpF値2を維持するように点滴潅水することで、前記軽石培地に供給した。
養液としては、豚糞由来のメタン消化液(豚糞を中温メタン発酵した後に得られた消化液)を、アンモニア態窒素濃度が260mgNH−N/L(260ppm)になるように水で希釈し、不足する成分については、リンの濃度が120ppm、カリウムの濃度が405ppmになるように試薬により調整し、微量要素としては大塚ハウス5号L(大塚化学製:組成%(N 1.5%, K2O 6.5%, MnO 0.20%, B2O3 0.40%, Fe 0.70%, Cu, 0.01%, Zn 0.02%, Mo 0.01%))を1Lにつき0.1mL添加したもの、を調製して用いた。
次いで、コマツナ種子を前記栽培ベッドの全面に播種し、水分センサーで不足する水分を補いながら栽培を行った。栽培は、2007年10月28日から12月21日まで、ガラス温室内で行った。この栽培区を‘メタン消化液区’(本発明区)とした。
また、対照実験として、化学肥料である大塚液肥(大塚ハウスA処方: N 260mg/L, P2O5 120mg/L, K2O 405mg/L, MgO 60mg/L, MnO 1.5mg/L, B2O3 1.5mg/L, CaO 230mg/L, Fe 2.7mg/L)を、窒素濃度が260mgN/Lになるように水で希釈した養液を与えて栽培を行ったものを、‘化学肥料区’(対照区)とした。
栽培終了時における生育状態を図3に示す。また、栽培終了後に各区画の全株を収穫し、コマツナ植物体の地上部の生重量および乾燥重量を測定した。生重の結果を図4(a)に、乾重の結果を図4(b)に示す。
【0062】
その結果、図3に示すように、メタン消化液を肥料成分として軽石培地に直接施肥する、固形培地耕での養液栽培を行った場合(メタン消化液区)においても、化学肥料区と同様の生育が認められた。また、図4に示すように、コマツナの生重、乾重ともに、メタン消化液区でも化学肥料区と同等の収量が得られた。
この結果から、‘メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性’を付与した軽石培地を用いることによって、メタン消化液を肥料成分として直接添加する固形培地耕での養液栽培が可能であることが示された。
【0063】
比較例1
メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性を付与していない‘未使用’の軽石を固形培地として用いた場合、メタン消化液を肥料成分として直接添加する固形培地耕での養液栽培を行うことで、植物の生育にどのような影響がでるのかを調べた。
9cmのビニールポット4つに、各120gの未使用軽石を充填し、pH矯正のため炭酸カルシウム粉末を1.8g添加し、‘メタン消化液’あるいは‘化学肥料’を、固形培地として用いた軽石中の水分含有率がpF値2となるように加えた。なお、水分含有率の測定は、水分センサー(Delta-T社製)を用いて行った。
そして、1日間催芽したサラダナ種子(品種‘レッドファイヤー’)を1ポットあたり6粒播種し、‘メタン消化液’あるいは‘化学肥料’を、当該軽石中の水分含有率がpF値2になるように随時(毎日)ポットの上から施肥した。その後の水分含有率の維持は、あらかじめpF値が2のときのポットの重量を測定しておき、その重量を維持するよう潅水することで行った。
ここで、メタン消化液としては、牛糞尿由来のもの(ADS)(牛糞尿を中温メタン発酵した後に得られた消化液)を、アンモニア態窒素濃度が100mgNH−N/L(100ppm),150mgNH−N/L(150ppm),260mgNH−N/L(260ppm)になるように水で希釈して調製した。そして、これらのメタン消化液を施肥したものを、それぞれ‘ADS100区’、‘ADS150区’、‘ADS260区’とした。
また、化学肥料としては、大塚液肥(養分濃度(mg/L):硝酸態窒素233,アンモニア態窒素23,リン酸120、カリウム405)を、窒素濃度が256mgN/Lになるように水で希釈して調製した。そして、この化学肥料を施肥したものを‘化学肥料区’とした。
その後、約1ヶ月間(2006年6月18日〜7月19日)、東京農工大学小金井キャンパス豊田研究室の温室内で栽培することにより、生育状態を観察した。結果を図5に示す。
【0064】
その結果、メタン消化液を施肥した全ての栽培区において、化学肥料区に比べて生育が阻害されることが示された。特に、メタン消化液の濃度が高い栽培区のものほど、強い生育阻害の状態を示すことが明らかになった。
これは、本比較例で用いた‘メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性’を付与していない固形培地として用いた軽石では、メタン消化液に含まれるアンモニアが軽石中で硝化されることがないため、アンモニア過剰障害による生育阻害を引き起こされたものと推測される。
【0065】
実施例3
‘未使用’軽石を固形培地として用いて化学肥料により野菜(トマト、ニラ、サラダナ)を養液栽培することにより、当該軽石に‘メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性’を有すると認められる密度以上の硝化菌が定着するかどうか、検討を行った。
まず、‘未使用’の軽石を栽培用ポッドに充填し、トマト、ニラ、サラダナの種子を播種し、実施例2に記載の化学肥料である大塚液肥(大塚ハウスA処方)を、窒素濃度が260mgN/Lになるように水で希釈したものを、軽石培地中の水分含有率がpF値2を維持するように随時施肥して、栽培を行った。なお、水分含有率の測定は、水分センサー(Delta-T社製)を用いて行った。
トマトおよびニラの栽培は、東京農工大府中キャンパス内の温室および小金井キャンパス内の温室で行った。トマトの栽培は、2006年4月26日から8月30日まで、また、2006年9月7日から2007年3月13日まで、ニラの栽培は、2007年5月27日から7月31日まで行った。
また、サラダナの栽培は、培地の平均温度21.4℃に維持して、人工気象器内で1ヶ月栽培した。
栽培終了後、硫酸アンモニウムを基質とする標準法により、各野菜栽培後の軽石に定着した硝化菌の密度を測定した。
菌密度は、MPN(Most Probable Number、希釈頻度法)法により測定し、軽石培地の湿重1gあたりに定着した硝化菌の菌密度で表した。
具体的には、サンプルを10倍ずつ希釈し、それら各希釈段階の希釈液を、アンモニア無機塩液体培地の入った試験管(5本ずつに)に添加し、菌の増殖したものがそれぞれの希釈段階でいくつあるのか、その結果を統計処理することにより、サンプルの菌密度を推定した。結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
その結果、栽培終了後の軽石の湿重1gに対して、トマトを栽培したものでは1.7×10MPN、ニラでは1.7×10MPN、サラダナでは5.4×10MPN、の硝化菌が検出された。
この結果から、軽石を固形培地として用いて化学肥料による野菜の養液栽培を行うことにより、栽培後の軽石に、‘メタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性’を有すると認められる密度の硝化菌が定着することが確認された。
【0068】
実施例4
実施例3で得られた、‘化学肥料による野菜の養液栽培を行った’後の軽石を用いて、メタン消化液を肥料成分として直接添加する固形培地耕での養液栽培が可能かどうか、検討を行った。
固形培地耕による養液栽培は、図1に示す養液栽培装置を用いて行った。
まず、図1における‘葉菜用栽培ベッド’(120cm×43cm×11cm)に、実施例3で得られた‘化学肥料による野菜の養液栽培を行った後の軽石培地’を固形培地として充填し、養液を点滴チューブにより、水分センサー(Delta-T社製)で軽石内の水分含有率をモニターしながら、軽石培地の水分含有率がpF値2を維持するように点滴潅水することで、前記軽石培地に供給した。
養液としては、豚糞由来のメタン消化液(豚糞を中温メタン発酵した後に得られた消化液)を、アンモニア態窒素濃度が180mgNH−N/L(180ppm)になるように水で希釈し、不足する成分については、大塚ハウスA処方における窒素分に対する組成比と同等になるよう、リン、カリウムを試薬により調整し、微量要素としては大塚5号L(大塚化学製)を1Lにつき0.1mL添加したもの、を調製して用いた。
次いで、ホウレンソウ種子を前記栽培ベッドの全面に播種し、水分センサーで不足する水分を補いながら栽培を行った。栽培は、2007年9月15日から11月20日まで、東京農工大学小金井キャンパス豊田研究室で行った。この栽培区を‘メタン消化液区’(本発明区)とした。(なお、10月22日以降は、前記養液に含まれるメタン消化液の濃度を、アンモニア態窒素濃度で260mgNH−N/L(260ppm)になるように調整したものを、‘メタン消化液区’の養液として用いた。)
また、対照実験として、実施例1に記載の化学肥料である大塚液肥(大塚ハウスA処方)を窒素濃度が130mgN/Lになるように水で希釈した養液を与えて栽培を行ったものを、‘化学肥料区’(対照区)とした。(なお、10月22日以降は、前記養液に含まれる大塚液肥の濃度を、窒素濃度で260mgN/Lになるように調整したものを、‘化学肥料区’の養液として用いた。)
栽培終了時における生育状態を図6に示す。また、栽培終了後に各区画の全株を収穫し、ホウレンソウ植物体全体の地上部の生重量および乾燥重量を測定した。生重の結果を図7(a)に、乾重の結果を図7(b)に示す。
【0069】
その結果、図6に示すように、メタン消化液を肥料成分として軽石培地に直接施肥する、固形培地耕での養液栽培を行った場合(メタン消化液区)においても、化学肥料区と同様の生育が認められた。また、図7に示すように、ホウレンソウの生重、乾重ともに、メタン消化液区でも化学肥料区と同等の収量が得られた。
この結果から、‘化学肥料による野菜の養液栽培を行った後の軽石培地’を用いることによって、メタン消化液を肥料成分として直接添加する固形培地耕での養液栽培が可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、本発明は、固形培地耕によるメタン消化液有を用いた養液栽培を可能とし、農業や園芸分野への応用が期待できる。
また本発明は、産業利用が難しかったメタン消化液の活用法を提示することで、メタン発酵の産業育成を助ける、副次的ながら大きな効果をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明における植物の養液栽培装置の一態様を示す概略図である。
【図2】実施例1における硝酸イオン濃度の測定結果を示すグラフである。
【図3】実施例2におけるコマツナの生育状態を示す写真像図である。
【図4】実施例2における重量の測定結果を示すグラフである。
【図5】比較例1におけるコマツナの生育状態を示す写真像図である。
【図6】実施例4におけるホウレンソウの生育状態を示す写真像図である。
【図7】実施例4における重量の測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0072】
1:植物の養液栽培装置
2:栽培ベッド
3:軽石培地
4:養液タンク
5:水中ポンプ
6:送液管
7:コントロールボックス
8:圧力計
9:水分センサー
10:配線
11:点滴チューブ
12:植物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水口を備えた容器に軽石を充填し、;これにメタン発酵後に得られるメタン消化液を徐添加して静置した後に水を添加して前記容器の排水口から流出させることで前記軽石を洗浄する処理を、当該流出液に硝酸態窒素が生成され始めるまで繰り返して行うことにより、;前記軽石にメタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性を付与させることを特徴とする、植物の養液栽培に用いる軽石培地の製造方法。
【請求項2】
前記メタン消化液が、家畜排泄物、食品加工残渣、廃食用油、生ごみ、下水汚泥、し尿、浄化槽汚泥よりなる群から選ばれた1種以上を、メタン発酵した後に得られるものである、請求項1に記載の軽石培地の製造方法。
【請求項3】
前記メタン消化液が、0〜40℃でのメタン発酵後に得られたものである、請求項1又は2のいずれかに記載の軽石培地の製造方法。
【請求項4】
前記メタン消化液の添加量が、前記軽石1Lに対して乾燥重量で0.01〜0.50gである、請求項1〜3のいずれかに記載の軽石培地の製造方法。
【請求項5】
軽石に化学肥料を添加して植物を養液栽培することにより、前記軽石にメタン消化液に含まれるアンモニア態窒素を硝化する活性を付与させることを特徴とする、植物の養液栽培に用いる軽石培地の製造方法。
【請求項6】
請求項5において、前記植物が野菜であり、前記栽培終了後が可食部の収穫後である、軽石培地の製造方法。
【請求項7】
前記軽石が、多孔性表面を有する粗粒子である、請求項1〜6のいずれかに記載の軽石培地の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の方法により得られた前記軽石培地が、1.0×10MPN/g以上の硝化菌を定着させたものである、植物の養液栽培に用いる軽石培地の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の方法により得られた軽石培地、が充填された栽培ベッドと、植物栽培用の養液を点滴潅水にて前記軽石培地に供給する設備と、からなり、;アンモニア態窒素濃度が20〜500ppmになるように希釈したメタン発酵後に得られるメタン消化液を含む養液を前記養液として用いて、点滴潅水にて前記軽石培地に供給することにより、;メタン消化液を肥料成分として直接添加して前記軽石培地にて養液栽培を行うことを可能とする、植物の養液栽培装置。
【請求項10】
前記植物栽培用の養液を点滴潅水にて前記軽石培地に供給する設備が、点滴チューブおよび/または点滴ドリッパー、を具備するものである、請求項9に記載の植物の養液栽培装置。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれかに記載の方法により得られた軽石培地に、アンモニア態窒素濃度が20〜500ppmになるように希釈したメタン発酵後に得られるメタン消化液を含む養液を、供給することにより、;メタン消化液を肥料成分として直接添加して前記軽石培地にて養液栽培を行うこと、を特徴とする、植物の養液栽培方法。
【請求項12】
請求項9又は10のいずれかに記載の前記養液栽培装置を用いて、アンモニア態窒素濃度が20〜500ppmになるように希釈したメタン発酵後に得られるメタン消化液を含む養液を直接添加して養液栽培を行う、植物の養液栽培方法。
【請求項13】
請求項11又は12のいずれかに記載の養液栽培方法において、前記植物が、葉を収穫対象とする葉菜類の野菜または果実を収穫対象とする果菜類の野菜である、植物の養液栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−88360(P2010−88360A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262399(P2008−262399)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、農林水産省、先端技術を活用した農林水産研究高度化事業委託事業(継続課題)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】