植物体の糖化効率の改善方法、植物、バイオマスエタノールの製造方法、及び、植物体の易糖化性の評価方法
【課題】植物体の糖化効率を改善する方法、当該方法に用いられる植物、当該植物を用いてバイオマスエタノールを製造する方法、及び、植物体の易糖化性を評価する方法の提供。
【解決手段】少なくとも1種のリグニン生合成関連遺伝子に機能欠損変異を有しており、かつ当該植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量])が、前記機能欠損変異を有していない植物体よりも高い植物体に対して糖化処理を行うことを特徴とする、植物体の糖化効率の改善方法、並びに、植物体を構成する少なくとも1以上の細胞のゲノムにおいて、CAD遺伝子が、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステインが他のアミノ酸に置換されている変異型であることを特徴とする植物。
【解決手段】少なくとも1種のリグニン生合成関連遺伝子に機能欠損変異を有しており、かつ当該植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量])が、前記機能欠損変異を有していない植物体よりも高い植物体に対して糖化処理を行うことを特徴とする、植物体の糖化効率の改善方法、並びに、植物体を構成する少なくとも1以上の細胞のゲノムにおいて、CAD遺伝子が、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステインが他のアミノ酸に置換されている変異型であることを特徴とする植物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物体の糖化効率を改善する方法、バイオマスエタノールの原料として好適な植物、バイオマスエタノールの製造方法、及び、植物体の易糖化性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
茎及び葉の中肋が褐色であるbrown midrib(bmないしはbmr、以降、bmrと記載)変異体は、トウモロコシで古くから知られており、現在までに、トウジンビエ、ソルガム、スーダングラス等の同じくC4型光合成を行うイネ科草本植物でも見つかっている。bmr表現型は、リグニン生合成に関わるシンナミルアルコールデヒドロゲナーゼ(CAD)やカフェイン酸3−O−メチルトランスフェラーゼ(COMT)の発現や活性の低下が関わっていることが分かっている。多くのbmr系統において、野生型よりも、リグニン含有量が低減している(例えば、非特許文献1参照。)。また、リグニン含有量の低減は、収穫量の減少、茎強度の低減等、植物体に様々な影響を与えることが知られている(例えば、非特許文献2参照。)。
【0003】
CADは、Zn2+依存性 medium chain dehydrogenase/reductase(MDR)スーパーファミリーに属する酵素であり、補酵素NADPHと共に、シンナミルアルデヒドからシンナミルアルコールを合成する反応を触媒する酵素である。シンナミルアルコール類は、リグニンの前駆体となる。CADは2量体であり、サブユニット当たり2つのZn2+イオンを持つ。2つのZn2+イオンのうち、1つは触媒亜鉛(catalytic zinc)であり、もう1つは構造亜鉛(structural zinc)である(例えば、非特許文献3及び4参照。)。CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基は高度に保存されているが、その機能的役割は未だ明らかにされていない。
【0004】
bmr系統は、その遺伝的背景により、リグニン含有量や収量、背丈等の形質が異なる。例えば、飼料用ソルガムには複数のbmr系統があるが、多くのbmr系統において、野生型よりも、乾物収量は低下し、NDF(中性デタージェント繊維)の消化率が向上しているものの、ADL(酸性デタージェント不溶リグニン)の含有量は、bmr6系統(cad2変異)では野生型と変わらないが、bmr12系統(comt変異)では野生型よりも低減している(例えば、非特許文献5及び6参照。)。
【0005】
ソルガムのbmr6系統は、SbCAD2に変異を有する変異体であり、bmr2系統及びbmr12系統と同様に、野生型と比べて植物体中のクラソンリグニン含有量が低下しており、糖化効率が高くなっている。bmr6系統には、SbCAD2中の変異が異なる複数のアリルが報告されている(例えば、非特許文献7参照。)。具体的には、bmr6−ref変異体では、2800番目の塩基シトシンがチミンに置換されることにより終止コドンが形成されている。このため、bmr6−ref変異体中のSbCAD2は、131番目のアミノ酸までしか合成されておらず、nucleotide binding site、ファクター結合サイト、及び基質結合サイトの大半を欠く変異型である。また、bmr6−3変異体では、3875番目の塩基グアニンがアデニンに置換されている。当該変異により、コファクター結合サイトに存在し、MDRタンパク質に高度に保存されているグリシンリッチモチーフG(X)GGV(L)Gを形成する191番目のグリシン(G)がセリン(S)に置換されている。さらに、bmr6−27変異体では、4288番目の塩基の後ろにグアニンが挿入されることにより、フレームシフトが起こっている。この結果、bmr6−27変異体中のSbCAD2は、C末端側31アミノ酸領域が野生型SbCAD2とは全く異なり、かつ終止コドンの形成により野生型より4アミノ酸残基短く、活性サイトの外側にある2次構造が壊れている変異型である。また、リグニンモノマーの組成比を調べたところ、bmr6−ref変異体では、野生型のソルガムよりもG−リグニン含有量に対するS−リグニン含有量の割合が非常に小さくなっており、SbCAD2の変異により、植物体中のリグニンモノマーの組成比が影響を受けていることが確認された(非特許文献8参照。)。
【0006】
また、bmr系統における糖化効率の向上は、必ずしもリグニン含有量の低下によるとは限らないことを示唆するデータも報告されている。例えば、非特許文献9によれば、ソルガムのbmr6系統のうち、bmr6−ref変異体やbmr6−3変異体は、野生型と比べてクラソンリグニン含有量が低減し、かつリグニンモノマーの前駆体であるコニフェルアルデヒドの含有量が増大している点は共通しているものの、bmr6−ref変異体は糖化効率において、野生型から有意な変化は観察されなかったのに対して、クラソンリグニン含有量の低下と前駆体蓄積の度合いがbmr6−ref変異体よりも小さかったbmr6−3変異体では、糖化効率が有意に改善されていた。
【0007】
一方で、ソルガムにおいて、野生型、bmr6系統、bmr12系統、及びcad2変異とcomt変異の両者を有する2重変異体を、それぞれバイオマス資源として用いた場合のエタノール変換効率は、bmr6系統やbmr12系統よりも、2重変異体のほうが、よりエタノール変換効率が高く、かつクラソンリグニン含有量とエタノール変換効率との間に強い負の相関があることが報告されている(例えば、非特許文献10参照。)。当該報告によれば、リグノセルロースの酵素糖化には、クラソンリグニン含有量が大きく作用するとされている。
【0008】
その他、ソルガム以外の植物においても、CAD機能欠損変異系統についての解析が行われている。例えば、シロイヌナズナのCADには、2種類のパラログ(AtCAD4、AtCAD5)があるが、そのいずれにも、T−DNAが挿入されることによってmRNAが正常に合成されなくなった変異体が報告されている(例えば、非特許文献11参照。)。 また、トウモロコシbm1変異体では、遺伝解析の結果、bmr表現型は、染色体上ZmCAD2の存在する領域と強く連鎖しており、CAD酵素活性も野生型と比較して低下していることが明らかにされたが、変異体のZmCAD2遺伝子そのものに変異は発見されていない(例えば、非特許文献12参照。)。
【0009】
また、長らく、イネにはbmrに相当する変異体は存在しないと考えられていたが(例えば、非特許文献13参照。)、近年、イネのgh2(gold hull and internode 2)変異表現型の原因が、bmr表現型の原因となるCAD遺伝子の相同遺伝子(OsCAD2)にあることが報告された(非特許文献14参照。)。ただし、イネのgh2系統では、トウモロコシやソルガム等の他の植物のbmr系統とは異なり、葉の中肋に褐色の着色はないと報告されており、この葉の中肋への着色は、イネ等のC3型光合成を行うイネ科草本には見られない変異表現型であるとされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Sattler SE, et al. Plant Science (2010) 178(3): p229-238
【非特許文献2】Pedersen J, et al. Crop Science (2005) 45(3): p812-819
【非特許文献3】Bomati E, et al. The Plant Cell (2005) 17(5): p1598-1611
【非特許文献4】Youn B, et al. Organic and Biomolecular Chemistry (2006) 4(9): p1687-1697
【非特許文献5】Oliver A, et al. Crop Science (2005) 45(6): p2234-2239
【非特許文献6】Oliver A, et al. Crop Science (2005) 45(6): p2240-2245
【非特許文献7】Saballos A, et al. Genetics (2009) 181(2): p783-795
【非特許文献8】Sattler S, et al. Plant Physiology (2009) 150(2): p584-595
【非特許文献9】Saballos A, et al. BioEnergy Research (2008) 1(3): p193-204
【非特許文献10】Dien B, et al. BioEnergy Research (2009) 2(3): p153-164
【非特許文献11】Sibout R, et al. Plant physiology (2003) 132(2): p848-860
【非特許文献12】Halpin C, et al. The Plant Journal (1998) 14(5): p545-553
【非特許文献13】Barriиre Y, et al. Comptes Rendus Biologies (2004) 327(9-10): p847-860
【非特許文献14】Zhang K, et al. Plant physiology (2006) 140(3): p972-983
【非特許文献15】NREL(NATIONAL RENEWABLE ENERGY LABOLATORY), “Determination of Structural Carbohydrates and Lignin in Biomass (Laboratory Analytical Procedure (LAP)”, 2008, NREL/TP-510-42618.
【非特許文献16】Lin SY, et al. (ed), “Method in lignin chemistry”, 1994, Springer-Verlag (ユニ出版).
【非特許文献17】山本隆一、他2名共編、「イネ育種マニュアル」、(1996)養賢堂、p180-184.
【非特許文献18】Terada R., et al. Plant Physiol (2007) 144: p846-856.
【非特許文献19】Kashiwagi, T. , et al. Plant physiology (2004) 134(2): p676-683.
【非特許文献20】Sunohara, H,.et al., Breeding Science (2006) 56(3): p261-268.
【非特許文献21】Ookawa, T.et al., Nature Communications (2010) 1(8): p132-143.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
飼料用やバイオマス資源として用いられる場合には、植物体中のリグニン含有量が低いほど、リグニンに半ば覆われているセルロースにセルロース分解酵素がアクセスしやすくなり、セルロース分解(糖化)効率が向上すると考えられている。
しかしながら、非特許文献2等に記載されているように、植物体中のリグニン含有量を低下させた場合には、収量が低減してしまい、また、植物体の剛性(耐倒伏性)が低下する場合もある。
また、糖化効率の高い植物体が飼料用やバイオマス資源としてより好ましいことは明らかであるものの、植物体を構成するリグノセルロースの組成や性状と糖化効率との関係性が明確ではない現状、どの植物体や部位が糖化効率に優れているのかについては、実際に糖化処理を行うことによってしか判定することができず、さらに様々な前処理法や糖化酵素が存在することを考慮すると、評価が困難であるという問題もある。
【0012】
本発明は、植物体の糖化効率を改善する方法、当該方法に用いられる植物、当該植物を用いてバイオマスエタノールを製造する方法、及び、植物体の易糖化性を評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量])が、当該植物体の糖化効率に高い相関を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は、
(1) 少なくとも1種のリグニン生合成関連遺伝子に機能欠損変異を有しており、かつ当該植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量])が、前記機能欠損変異を有していない植物体よりも高い植物体に対して糖化処理を行うことを特徴とする、植物体の糖化効率の改善方法、
(2) 前記リグニン生合成関連遺伝子が、CAD(シンナミルアルコールデヒドロゲナーゼ)遺伝子であることを特徴とする前記(1)に記載の植物体の糖化効率の改善方法、
(3) 前記リグニン生合成関連遺伝子が、CAD遺伝子であり、
前記機能欠損変異が、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちの少なくとも1のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換された変異であることを特徴とする前記(1)に記載の植物体の糖化効率の改善方法、
(4) 前記リグニン生合成関連遺伝子が、CAD遺伝子であり、
前記機能欠損変異が、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換された変異であることを特徴とする前記(1)に記載の植物体の糖化効率の改善方法、
(5) 前記植物体がC3型光合成を行う植物であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の植物体の糖化効率の改善方法、
(6) 前記植物体において、葉の中肋部の一部又は全部が、赤褐色に着色されていることを特徴とする前記(5)に記載の植物体の糖化効率の改善方法、
(7) 前記植物体がイネであることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の植物体の糖化効率の改善方法、
(8) 植物体を構成する少なくとも1以上の細胞のゲノムにおいて、CAD遺伝子が、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちの少なくとも1のシステイン残基が他のアミノ酸に置換されている変異を有することを特徴とする植物、
(9) CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基が他のアミノ酸に置換されている変異を有することを特徴とする請求項前記(8)に記載の植物、
(10) C3型光合成を行う植物であることを特徴とする前記(8)又は(9)に記載の植物、
(11) イネであることを特徴とする前記(8)又は(9)に記載の植物、
(12) バイオマス資源として、少なくとも1種のリグニン生合成関連遺伝子に機能欠損変異を有しており、かつ当該植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量])が、前記機能欠損変異を有していない植物体よりも高い植物体を用いることを特徴とする、バイオマスエタノールの製造方法、
(13) 前記植物体が、前記(8)〜(11)に記載の植物であることを特徴とする請求項12に記載のバイオマスエタノールの製造方法、
(14) 下記(a)〜(d)のいずれかに記載の塩基配列を有するポリヌクレオチド。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列。
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、106番目のフェニルアラニンが、システイン以外の他のアミノ酸に置換されているアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列。
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、106番目のフェニルアラニン以外のアミノ酸のうちの1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、かつ植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量])を高める機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列。
(d)前記(a)〜(c)のいずれかの塩基配列と80%以上の相同性を有し、かつ、植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量])を高める機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列、
(15) 植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量])を指標とすることを特徴とする、植物体の易糖化性の評価方法、
を、提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の植物体の糖化効率の改善方法においては、特定のリグニン組成を有する植物体を糖化処理の原料として用いることにより、糖化効率を改善することができる。
また、本発明の植物は、野生型の植物よりも糖化効率に優れている。このため、当該植物を原料として用いる本発明のバイオマスエタノールの製造方法は、野生型の植物を原料として用いる場合よりも、より高効率かつ低コストでバイオマスエタノールを製造し得る。
さらに、本発明の植物体の易糖化性の評価方法を用いることにより、糖化処理を行う前に予め、原料の候補植物体が、糖化効率が高く、飼料用植物やバイオマス資源として好適な植物体であるか否かを評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】野生型イネ(左)とgh2−2変異体(右)の穂(図1A)、籾(図1B)、葉(図1C)、及び節間(図1D)の写真図である。
【図2】実施例1において、野生型イネとgh2−2変異体の各器官の乾燥重量を測定した結果を示した図である。
【図3】実施例1において、野生型イネとgh2−2変異体の各器官の乾燥重量当たりの総リグニン含有量を測定した結果を示した図である。
【図4】実施例1において、野生型イネとgh2−2変異体の各器官の乾燥重量当たりのセルロース含有量を測定した結果を示した図である。
【図5】実施例1において、野生型イネとgh2−2変異体の各器官の乾燥重量当たりのキシラン含有量を測定した結果を示した図である。
【図6】実施例1において、野生型イネとgh2−2変異体の各器官の乾燥重量当たりの灰分含有量を測定した結果を示した図である。
【図7】実施例1において、野生型イネとgh2−2変異体の稲藁全体における糖化効率とセルロース分解酵素反応の反応時間との関係を示した図である。
【図8】実施例1において、反応開始から48時間経過後の野生型イネとgh2−2変異体の各器官の糖化効率を算出した結果を示した図である。
【図9】実施例1において、反応開始から48時間経過後の野生型イネとgh2−2変異体の各器官の乾燥重量当たりのグルコース産生効率を算出した結果を示した図である。
【図10】実施例1において、野生型イネとgh2−2変異体の各器官における酸可溶性リグニン含有量と糖化効率との関係を示した図である。
【図11】実施例1において、各成分の含有量と糖化率との相関関係を、共分散構造分析を利用してパス解析した結果を示した図である。
【図12】実施例1において、野生型イネとgh2−2変異体の各器官におけるASL/KL比とセルロース含有量を独立変数とし、糖化効率を従属変数とした重回帰分析の結果を示した図である。縦軸は糖化効率の実測値であり、横軸は重回帰分析の結果得られた回帰式(下記式(2))から算出された糖化効率の予測値である。
【図13】実施例1において、野生型イネとgh2−2変異体の押し倒し抵抗値(N/分げつ)の測定結果を示した図である。
【図14】実施例1において、野生型イネとgh2−2変異体の節間の断面係数(mm3)の測定結果を示した図である。
【図15】実施例1において、野生型イネとgh2−2変異体の節間の曲げ応力(g/mm2)の測定結果を示した図である。
【図16】実施例1において、野生型イネとgh2−2変異体の挫折時モーメント(kg・cm)の算出結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明及び本願明細書において、植物体の糖化効率とは、当該植物体中のセルロースがグルコースに変換される効率を意味する。また、植物体の易糖化性を評価するとは、当該植物体の糖化効率の高低を評価することを意味する。
【0018】
<植物体の易糖化性の評価方法>
本発明の植物体の易糖化性の評価方法は、植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量]、以下、「ASL/KL比」)を指標とすることを特徴とする。後記実施例1に示すように、植物体の糖化効率は、植物体中の総リグニン含有量やクラソンリグニン含有量とは統計学上有意に高い相関性がないが、ASL/KL比とは高い相関を有する。このため、植物体中のASL/KL比を指標とすることにより、当該植物体を糖化処理した場合の糖化効率を評価することができる。なお、植物体の糖化効率がASL/KL比に高い相関を有することは、本発明者らにより初めて見いだされた知見である。
【0019】
具体的には、ASL/KL比が低い植物体よりも、ASL/KL比が高い植物体のほうが、糖化効率が高いと評価することができる。例えば、評価対象の植物が複数ある場合、各植物のASL/KL比を測定し、互いに比較することにより、実際に糖化処理を行う前に、いずれの植物がより糖化効率が高いかを評価することができる。
【0020】
飼料作物の場合、糖化効率が高いほど、消化効率がよいことが期待できる。同様に、エタノール等の化合物を合成するための糖類等の原料の供給源として用いられるバイオマス資源としては、糖化処理によってより多くの糖類を効率よく得られる植物体のほうが、少量の糖類しか得られない植物体よりも好ましい。よって、本発明の植物体の易糖化性の評価方法は、候補の植物体が飼料作物やバイオマス資源として好適かどうかを評価したり、複数種類の候補植物の中から、飼料作物やバイオマス資源としてより好適な植物を選抜する場合に好適に用いることができる。
【0021】
評価対象となる植物体は、植物個体全体であってもよいが、器官ごとに評価することもできる。例えば、同一種類の植物体由来の茎と葉とを比較し、どちらの器官が、糖化効率が高くバイオマス資源として好適か、を評価することもできる。
【0022】
評価対象となる植物体の種類は、クラソンリグニンと酸可溶性リグニンを含む植物体であれば特に限定されるものではなく、単子葉植物であってもよく、双子葉植物であってもよい。また、C3型光合成を行う植物(C3植物)であってもよく、C4型光合成を行う植物(C4植物)であってもよい。
【0023】
植物体中のASL/KL比は、植物体中の酸可溶性リグニン含有量とクラソンリグニン含有量の測定結果から算出することができる。植物体中の酸可溶性リグニン含有量とクラソンリグニン含有量は常法により測定することができる(例えば、非特許文献15、16参照。)。より具体的には、例えば、以下の手法により測定することができる。まず、細断又は粉砕した植物体又はその器官を試料とし、当該試料中のデンプンを可溶化した後に濾過処理を行うことによって、当該試料からデンプンを除去する。洗浄、乾燥した濾過残渣を、硫酸溶液等の鉱酸水溶液に混和させた後、加水分解反応を行う。次いで、加水分解反応後の試料に対して、濾過処理等を行い、単糖や酸可溶性リグニン等の可溶性成分を含む液体成分(濾液)と、クラソンリグニンや灰分といった不溶性成分を含む固体成分(濾過残渣)に分離する。洗浄、乾燥させた濾過残渣を、600℃程度の高温で焼成させた後の残渣分が灰分である。よって、焼成前の濾過残渣量から灰分の含有量を差し引くことにより、当該濾過残渣に含まれていたクラソンリグニン含有量を求めることができる。一方で、濾液中の酸可溶性リグニン含有量は、当該濾液の205nmの吸光度から、Beer則にて下記式(1)から算出される。
酸可溶性リグニン含有量(g・L−1)=吸光度/[光路(cm)×吸光計数(L・g−1・cm−1)] ・・・(1)
【0024】
<植物体の糖化効率の改善方法>
酸可溶性リグニンは、酸溶媒をはじめとする多くの溶媒に対して不溶性であるクラソンリグニンよりも、酸処理等の前処理によって分解されやすい。このため、リグノセルロース中に占める酸可溶性リグニンの含有量が多いほど、すなわち、ASL/KL比が高いほど、前処理後の植物体にセルロース分解酵素がアクセスしやすくなり、セルロース分解(糖化)効率が向上する。したがって、植物体中のASL/KL比を高めることにより、当該植物体の糖化効率を向上させることができる。
【0025】
すなわち、本発明の植物体の糖化効率の改善方法は、糖化処理がなされる植物体が、少なくとも1種のリグニン生合成関連遺伝子に機能欠損変異を有しており、かつ当該植物体中のASL/KL比が、前記機能欠損変異を有していない植物体よりも高いことを特徴とする。なお、「前記機能欠損変異を有していない植物体」は、当該機能欠損変異の有無以外は遺伝的背景が実質的に同一である植物体を意味する。具体的には、例えば、前記機能欠損変異が導入される前の植物体が挙げられる。
【0026】
本発明及び本願明細書において、リグニン生合成関連遺伝子とは、当該遺伝子がコードするタンパク質が、リグニン生合成代謝経路に関連する遺伝子を意味する。リグニン生合成関連遺伝子としては、具体的には、リグニンモノマー生合成に関わるCAD遺伝子、COMT遺伝子、4−ヒドロキシシンナモイル−CoAリガーゼ(4CL)遺伝子、フェルラ酸5ヒドロキシラーゼ(F5H)遺伝子、リグニンモノマーの重合に関わるペルオキシダーゼ(PO)やラッカーゼ(LAC)をコードする遺伝子等が挙げられる。本発明において糖化処理がなされる植物体としては、1種類のリグニン生合成関連遺伝子にのみ機能欠損変異を有していてもよく、2種類以上のリグニン生合成関連遺伝子に機能欠損変異を有していてもよい。なお、リグニン生合成関連遺伝子が酵素をコードする遺伝子である場合には、機能欠損変異とは、当該酵素活性が欠失若しくは低下する遺伝子変異を意味する。
【0027】
本発明の植物体の糖化効率の改善方法においては、少なくともCAD遺伝子に機能欠損変異を有する植物体に対して糖化処理がなされることが好ましい。植物体中において、CAD(EC1.1.1.195)の酵素活性が低下することにより、ASL/KL比をより効果的に高めることができる。CAD遺伝子が有する機能欠損変異としては、当該変異が導入されたCAD遺伝子がコードする変異型CADの酵素活性が、当該変異が導入されていないCAD遺伝子がコードするCADよりも低下するものであれば特に限定されるものではなく、ミスセンス変異であってもよく、ナンセンス変異であってもよく、フレームシフト変異であってもよい。
【0028】
本発明の植物体の糖化効率の改善方法においては、CAD遺伝子が有する機能欠損変異は、ミスセンス変異であることが好ましく、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちの少なくとも1のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換された変異(以下、「システイン変異」ということがある。)であることがより好ましく、前記構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換された変異であることがさらに好ましく、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基がフェニルアラニン残基に置換された変異であることが特に好ましい。なお、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換された変異は、本発明者らにより初めて見出された変異である。
【0029】
糖化効率が改善される植物体の種類は、クラソンリグニンと酸可溶性リグニンを含む植物体であれば特に限定されるものではなく、単子葉植物であってもよく、双子葉植物であってもよい。また、C3型光合成を行う植物であってもよく、C4型光合成を行う植物であってもよい。本発明の植物体の糖化効率の改善方法においては、糖化効率が改善される植物体がC3型光合成を行う植物であることが好ましく、C3型光合成を行う単子葉植物であることがより好ましく、イネであることが特に好ましい。
【0030】
後記実施例1に示すように、システイン変異を有するイネは、葉の中肋部の一部又は全部が赤褐色に着色されている。したがって、本発明の植物体の糖化効率の改善方法においては、葉の中肋部の一部又は全部が赤褐色に着色されているC3型光合成を行う植物に対して糖化処理を行うことが好ましく、葉の中肋部の一部又は全部が赤褐色に着色されているイネに対して糖化処理を行うことがより好ましい。なお、イネ等のC3型光合成を行う植物において、葉の中肋部の一部又は全部が赤褐色に着色されている形質を有するリグニン生合成欠損変異体は、今まで知られていない。
【0031】
植物体の糖化処理の方法は、植物体中のセルロースを分解し得る方法であれば、特に限定されるものではなく、トウモロコシ等の植物体中のセルロースを分解する際に通常用いられている手法の中から適宜選択して用いることができる。例えば、植物体を硫酸溶液等の酸性溶液に浸漬させた状態で加熱する酸糖化法であってもよく、セルロース分解酵素を用いた酵素糖化法であってもよい。酸糖化法では過分解による単糖収率の低下やフルフラールなど過分解生成物によるエタノール発酵阻害が起きるため、酵素糖化法がより好ましい。糖化処理における反応溶液の温度やpH、反応時間等の反応条件は、酸糖化法の場合には用いる酸の種類や酸性溶液の濃度、植物体と酸性溶液の混合比等を考慮して、また酵素糖化法の場合には、用いるセルロース分解酵素の特性等を考慮して、適宜調整することができる。なお、糖化処理に供される植物体は、予め、細断又は粉砕してあることが好ましい。
【0032】
酵素糖化法を用いる場合には、糖化処理の前に、予め植物体を酸性溶液(例えば、pH4〜6の溶液)中に浸漬させておくことが好ましい。酸性溶液に浸漬させることにより、植物体中の酸可溶性リグニンが溶出するため、植物体中のセルロースにセルロース分解酵素がアタックしやすくなる結果、糖化効率をより改善することができる。予め酸性溶液に浸漬させた植物体は、適当なバッファーにより洗浄してpHを調整した後に、セルロース分解酵素を添加して酵素反応を行うことができる。酸性条件下で酵素活性を有するセルロース分解酵素を用いて酸性溶液中で植物体の糖化処理を行う場合には、糖化処理前の酸性溶液への浸漬処理を省略することもできる。
【0033】
<バイオマスエタノールの製造方法>
本発明のバイオマスエタノールの製造方法は、バイオマス資源として、少なくとも1種のリグニン生合成関連遺伝子に機能欠損変異を有しており、かつ当該植物体中のASL/KL比が、前記機能欠損変異を有していない植物体よりも高い植物体を用いることを特徴とする。リグニン生合成関連遺伝子に機能欠損変異を導入された結果、ASL/KL比が高められた植物体は、糖化効率が良好であるため、バイオマスエタノールを製造するためのバイオマス資源として好適である。
【0034】
少なくとも1種のリグニン生合成関連遺伝子に機能欠損変異を導入することにより、植物体中のASL/KL比が、前記機能欠損変異を有していない植物体よりも高められた植物体としては、前記植物体の糖化効率の改善方法において挙げられた植物体を用いることができる。本発明のバイオマスエタノールの製造方法においては、バイオマス資源として、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちの少なくとも1のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換された変異(システイン変異)を有する植物体を用いることが好ましく、システイン変異を有するC3型光合成を行う植物であることがより好ましく、システイン変異を有するイネであることがさらに好ましい。バイオマス資源として用いられる植物体が備えるシステイン変異としては、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換された変異であることが好ましく、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基がフェニルアラニン残基に置換された変異であることがより好ましい。
【0035】
バイオマス資源として用いる植物体に対して糖化処理を行った後、得られた糖化液中の糖類からエタノールを合成することにより、バイオエタノールを製造することができる。糖化処理は、前記植物体の糖化効率の改善方法において挙げられた方法により行うことができる。また、エタノール合成反応は、特に限定されるものではなく、酵母によるアルコール発酵法等のバイオエタノールを製造する際に通常用いられている手法の中から適宜選択して用いることができる。
【0036】
<植物体中のASL/KL比が高められた植物>
本発明の植物は、植物体を構成する少なくとも1以上の細胞のゲノムにおいて、CAD遺伝子が、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちの少なくとも1のシステイン残基が他のアミノ酸に置換されている変異(システイン変異)を有することを特徴とする。本発明の植物が備えるシステイン変異としては、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換された変異であることが好ましく、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基がフェニルアラニン残基に置換された変異であることがより好ましい。
【0037】
システイン変異を有する植物の種類は、CAD遺伝子を有する植物であれば特に限定されるものではなく、単子葉植物であってもよく、双子葉植物であってもよい。また、C3型光合成を行う植物であってもよく、C4型光合成を行う植物であってもよい。
【0038】
CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基は、さまざまな植物種で高度に保存されている。例えば、イネのCAD2(OsCAD2)、シロイヌナズナのCAD5(AtCAD5)、アスペンのCAD(PotCAD)、テーダマツのCAD(PtCAD)、トウモロコシのCAD(ZmCAD2)、ソルガムのBmr6(SbCAD2)、イワヒバのCAD(SmCAD)、タバコのCAD(NtCAD19)、サトウキビのCAD(SoCAD)ではN末から100、103、106、及び114番目のシステイン残基であり、シロイヌナズナのCAD4(AtCAD4)ではN末から101、104、107、及び115番目のシステイン残基であり、ソルガムのCAD4(SbCAD4)ではN末から98、101、104、及び112番目のシステイン残基である。さらには、CAD以外の他のアルコールデヒドロゲナーゼにおいても高度に保存されており、これらのシステインの置換は酵素機能の変化を引き起こす可能性が高いことが示唆される。本発明の植物としては、例えば、これらのシステイン残基の少なくとも1つが他のアミノ酸残基に置換された変異を有する植物を挙げることができる。
【0039】
本発明の植物としては、前記変異を有するC3型光合成を行う植物であることが好ましく、前記変異を有するC3型光合成を行う単子葉植物であることがより好ましく、システイン変異を有するイネであることが特に好ましい。中でも、OsCAD2中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちの少なくとも1のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換された変異を有するイネであることが好ましく、OsCAD2中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のN末端側から3番目のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換された変異を有するイネであることが好ましい。具体的には、後記実施例1に記載のOsCAD2中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基(N末端側から106番目のアミノ酸残基)がフェニルアラニン残基に置換された変異を有するイネ(gh2−2変異体)が挙げられる。
【0040】
本発明の植物としては、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基は、フェニルアラニン残基以外のアミノ酸残基に置換されていてもよい。例えばイネでは、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、106番目のフェニルアラニンが、システイン以外の他のアミノ酸に置換されているアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子を有する植物も、本発明の植物である。
【0041】
なお、本発明の植物としては、CAD遺伝子は、システイン変異による植物体中のASL/KL比が高められるという効果を損なわない限りにおいて、システイン変異以外の変異を有していてもよい。
【0042】
システイン変異を有する植物は、植物において、ゲノム中の特定の領域に点突然変異を起こして変異体を作製する際に用いられる当該技術分野において公知の手法により、作製することができる。具体的には、ガンマ線による種子照射、化学変異剤ethyl methane sulfonate若しくはアジ化ナトリウムによる種子処理、又は、MNU(N-methyl-N-nitrosourea)による受精卵処理などが挙げられる(例えば、非特許文献17参照。)。
【0043】
システイン変異を有する植物を作製する際には、例えば、下記のような塩基配列を有するポリヌクレオチドを組み込んだベクターを用いることができる。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列。
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、106番目のフェニルアラニンが、システイン以外の他のアミノ酸に置換されているアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列。
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、106番目のフェニルアラニン以外のアミノ酸のうちの1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、かつ植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量])を高める機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列。
(d)前記(a)〜(c)のいずれかの塩基配列と80%以上(好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上)の相同性を有し、かつ、植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量])を高める機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列。
【0044】
例えば、前記(a)の塩基配列を有するポリヌクレオチドを相同組換えによる遺伝子ターゲティング(例えば、非特許論文18参照。)を用いてイネゲノム中のOsCAD2遺伝子と組み換えることにより、OsCAD2中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基(N末端側から106番目のアミノ酸残基)がフェニルアラニン残基に置換された変異を有するイネを、同じく前記(b)の塩基配列を有するポリヌクレオチドで組み換えることによって、OsCAD2中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基がフェニルアラニン残基以外のその他のアミノ酸残基に置換された変異を有するイネを、それぞれ作製することができる。同様に、前記(c)や(d)の塩基配列を有するポリヌクレオチドで置換することによって、例えば、OsCAD2中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基(N末端側から106番目のアミノ酸残基)がフェニルアラニン残基に置換されており、さらにその他の変異を有するイネを作製することができる。
【実施例】
【0045】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
<CAD遺伝子にシステイン変異を有するイネの作製>
変異選抜・固定を進めてきたMNU処理によるイネ突然変異系統群より、稈、籾に赤褐色の呈色を示すgh2(gold hull and internode2)様の表現型に加えて、上位葉の中肋に赤褐色の呈色を示す変異系統を選抜した。この選抜された変異体のリグニン生合成関連遺伝子の塩基配列を調べたところ、OsCAD2遺伝子に変異を有していることがわかった。当該OsCAD2遺伝子がコードするタンパク質OsCAD2のアミノ酸配列を配列番号1に示す。当該変異体は、配列番号1の106番目のシステイン残基をコードする塩基配列TGCの2番目の塩基がグアニンからチミンに置換されており、当該変異により、OsCAD2の106番目のシステイン残基がフェニルアラニン残基に置換されていた。さらにこの変異体に野生型OsCAD2を組み込んだ形質転換体では、変異表現型が回復したことから、当該変異体はOsCAD2機能欠損変異体(gh2)の新規アリルであることが確認できた。以下、選抜された変異体を、gh2−2変異体とする。
【0047】
<イネの栽培及び収量>
野生型のイネとgh2−2変異体とを、水田にて慣行栽培し、植物体(イネ)の地上部を出穂後50日目に収穫した。図1に、野生型イネ(左)とgh2−2変異体(右)の穂(図1A)、籾(図1B)、葉(図1C)、及び節間(図1D)の写真を示す。gh2−2変異体の穂、籾、及び節間は、野生型イネよりも褐色が濃く、また、葉では中肋が赤褐色に着色されていた。
収穫された植物体を屋内にて1週間程度自然乾燥した後、脱穀した。その後、藁と籾殻をドライオーブンで、50℃で2週間乾燥させた。なお、脱穀後の植物体の一部は、器官別分析に供する試料を作製するために、葉身、葉鞘、稈、穂(籾は含まない)、及び籾殻にそれぞれ分けて回収した後、ドライオーブンで、50℃で2週間乾燥させた。乾燥後の藁等は、それぞれ、ハサミで1cm程度に刻んだ後、カッターミル(製品名:MKCM−5、3mmスクリーン装備、増幸産業社製)を用いて粉砕した。
【0048】
得られた粉砕試料の乾燥重量を測定した結果を図2に示す。図1中、「WT」は野生型イネの結果であり、「gh」はgh2−2変異体の結果である。また、「WS」は藁全体の結果を、「LB」は葉身の結果を、「LS」は葉鞘の結果を、「C」は稈の結果を、「P」は穂の結果を、「H」は籾殻の結果を、それぞれ示す。さらに、「*」は、野生型イネとgh2−2変異体との差が5%水準で、「**」は1%水準で、「***」は0.1%水準で、統計的に有意であったことを、「NS」は両者に有意差がなかったことを、それぞれ示す。この結果、稲藁全体において、野生型イネとgh2−2変異体の収量は有意差がなく、CAD遺伝子にシステイン変異を導入することによっては、稲藁全体として有意な変化は見られないことがわかった。
【0049】
<測定試料の作製>
得られた粉砕試料中のデンプンを、Total Starch Kit(製品名:K−TSTA、メガザイム社製)を用いた標準的な総デンプン分析法(AOAC法996.11、AACC法76.13)に従って、可溶化した後に濾過することによって除去した。濾過残渣を滅菌水で洗浄した後、40℃で乾燥したものを、以降の細胞壁成分分析及び酵素糖化試験の試料としてそれぞれ用いた。
【0050】
<細胞壁成分分析>
試料中のセルロース、キシラン(ヘミルセルロース)、クラソンリグニン、酸可溶性リグニン、灰分を、非特許文献15,16に記載の方法に準じて定量した。なお、各成分の定量値は、最終的に試料乾物量当たりの重量%として算出した。また、総リグニン含有量は、クラソンリグニン含有量と酸可溶性リグニン含有量の和として算出した。
【0051】
まず、試料300mgに72%硫酸3mLを加えて混和した後、30℃で60分間温浴させた。さらに水84mLを加えて混和した後、オートクレーブ(121℃、60分間)にかけることによって、酸加水分解反応により、試料中のセルロース、キシラン等の多糖類を単糖にまで分解した。反応後の試料は、室温近くまで冷却させた後、氷中に静置した。その後、吸引濾過を行うことにより、酸加水分解反応後の試料を濾液と濾過残渣とに分離した。
【0052】
得られた濾過残渣から、クラソンリグニン及び灰分を定量した。具体的には、当該濾過残渣を滅菌水で洗浄した後、るつぼに回収し、105℃で一昼夜乾燥させた後に重量を測定した(重量A)。その後、さらに600℃で4時間焼成させた後、再び重量を測定した(重量B)。焼成後の残渣が灰分(重量B)であり、焼成されたものがクラソンリグニン(重量Aから重量Bを差し引いた重量)である。
【0053】
得られた濾液の205nmにおける吸光度を分光光度計で測定した。得られた吸光度から、濾液中の酸可溶性リグニン含有量を、Beer則にて前記式(1)から求めた。なお、吸光計数は110L・g−1・cm−1を使用した。
【0054】
得られた濾液から、セルロース及びキシランを定量した。具体的には、当該濾液に炭酸カルシウムを加えてpH5.0〜6.0に調整した後、上澄みを0.2μmフィルターに通したものを、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用試料とした。調製したHPLC試料をHPLCに注入し、下記の条件でHPLCを行い、グルロース及びキシロースを分離して検出した。検出されたグルロース及びキシロースは、標品を用いた検量線法により定量した。グルロースの定量値に0.9を乗じた値をセルロースの定量値とし、キシロースの定量値に0.88を乗じた値をキシランの定量値とした。
【0055】
HPLC条件;
カラム:Aminex HPX−87P(300mm×Φ7.8mm、Bio−Rad社製)、
カラムオーブン温度:85℃、
移動相:水、
流量:0.6mL/min、
検出器:RI(示差屈折)検出器、
検出器内部温度:40℃、
オートサンプラ温度:4℃、
サンプリング量:50μL、
【0056】
測定結果を図3〜6に示す。図3は総リグニン含有量の結果を、図4はセルロース含有量の結果を、図5はキシラン含有量の結果を、図6は灰分含有量の結果を、それぞれ示す。図3〜6中、「WT」、「gh」、「WS」、「LB」、「LS」、「C」、「P」、「H」、「*」、「**」、「***」、及び「NS」の意味は、図2と同じである。図2に示すように、葉鞘では有意差がなかったものの、gh2−2変異体の総リグニン含有量は野生型イネよりも、葉身では約10%、稈では約20%、穂や籾殻では約14%減少しており、藁全体でも約14%減少していた。一方で、リグニンの他の主要成分であるセルロースやキシラン、灰分の含有量は、野生型イネとgh2−2変異体では、藁全体でみると有意差がなかった
【0057】
<酵素糖化試験>
粉砕試料からデンプンを除去して得られた試料25mgに、反応液(1.9%アクレモニウムセルラーゼ(明治製菓社製)、50%酢酸バッファー(pH4.8)、0.02%アジ化ナトリウム)1mLを添加し、50℃、180rpmで振とうさせた状態で酵素反応を行った。反応液中のグルコース含有量を測定するために、藁全体サンプルについては、反応開始後0、2、6、24、30、及び48時間後に、反応液の一部を分取した。その他のサンプルについては、反応開始から48時間経過後の反応液を用いた。いずれのサンプルにおいても、分取した反応液は、容器ごと沸騰水に5分間湯浴させることにより酵素反応を停止させた後、測定した。
測定用に分取された反応液中のグルコースを、グルコースCIIテストワコー(和光純薬社製)を用いて定量した。得られた定量値を、HPLCによる定量の結果から算出された試料25mg中に含まれるグルコース含有量で除したものを、糖化効率とした。
【0058】
図7は、野生型イネとgh2−2変異体の稲藁全体における糖化効率とセルロース分解酵素反応の反応時間との関係を示した図であり、図8は反応終了後の野生型イネとgh2−2変異体の各器官の糖化効率を算出した結果を示した図であり、図9は同じく反応終了後の野生型イネとgh2−2変異体の各器官の乾燥重量当たりのグルコース産生効率(乾物糖化率)を算出した結果を示した図である。この結果、稲藁全体では、セルロース分解酵素反応の早い段階から反応終了時の48時間経過後まで一貫して、gh2−2変異体のほうが野生型イネよりも糖化効率が高く、糖化されやすいことがわかった。より詳細には、gh2−2変異体の糖化効率は野生型イネの約1.22倍であり、乾物糖化率は野生型イネの約1.23倍であった。また、器官ごとに若干の多少はあるものの、いずれの器官においても、gh2−2変異体は野生型イネよりも糖化効率が有意に高いことがわかった。
【0059】
<糖化効率と各成分の含有量との間の相関係数の算出>
糖化効率と各成分の含有量との間の相関係数を算出したところ、表1に示すように、糖化効率は、セルロースやキシラン、灰分の含有量とはほとんど相関がなかった。また、総リグニン含有量との相関係数は、−0.57とやや高めであったものの、有意ではなく、クラソンリグニン含有量との相関係数は−0.69であり、有意であったがそれほど高い相関は観察されなかった。これに対して、全体の3%程度しか含まれていない酸可溶性リグニン含有量と糖化効率の相関係数は0.87と非常に高いことがわかった。これらの結果から、糖化効率は、植物体中の総リグニン含有量よりも、リグニンの質(組成)が大きく影響することが強く示唆された。
【0060】
【表1】
【0061】
そこで、酸可溶性リグニン含有量と糖化効率との関係をより詳細に検討した。図10は、野生型イネとgh2−2変異体の各器官における酸可溶性リグニン含有量と糖化効率との関係をプロットした図である。この結果、籾殻(H)や葉鞘(LS)、葉身(LB)では、酸可溶性リグニン含有量が高いgh2−2変異体のほうが、野生型イネよりも糖化効率が改善されていた。しかしながら、藁全体(WS)や稈(C)、穂(P)では、酸可溶性リグニン含有量に明らかな差はないにもかかわらず、高いgh2−2変異体は野生型イネよりも糖化効率が顕著に改善されていた。これらの結果から、酸可溶性リグニン含有量のみからでは、gh2−2変異体において野生型イネよりも糖化効率が改善されたことの説明ができず、酸可溶性リグニン含有量と糖化効率との高い相関は、直接的な因果関係を反映していない可能性が示唆された。
【0062】
<パス解析による糖化効率と各成分の含有量の解析>
各成分の含有量と糖化効率との相関関係をより詳細に調べるため、各種成分の含有率が糖化効率に及ぼす影響力の推定を試みた。解析は、糖化効率に対して、クラソンリグニン含有量や酸可溶性リグニン含有量が直接作用しているのか、又は両者の比という植物体中のリグニン組成の質的ファクターを介して間接的に作用しているのかを明らかにするために、説明変数から従属変数への直接効果ばかりではなく、別の説明変数を介した間接効果を求めることができるパス解析により行った。本実施例においては、パス解析を、構造方程式モデリング(Structural Equation Modeling:SEM)を用いて実施し、各変数のそれぞれの影響の大きさを定量的に明らかにした。なお、SEMは、共分散構造分析とも呼ばれている。
【0063】
まず、酸可溶性リグニン含有量とクラソンリグニン含有量が糖化効率に対して直接的な作用と両者の比(ASL/KL比)を介した間接的な作用の両方を有することを前提として、各成分の含有量と糖化率との因果関係のモデル(パス図)を作成した。このモデルは、各細胞壁成分含有量により糖化効率の変動の93%が説明可能という極めて高い説明率を示したものの、作用の大きさを示すパス係数の推定値のばらつきが大きいなどの不安定さが見られ、さらにはモデル全体が実データの構造に適合しているかどうかの検定において棄却(モデルが実データ構造と統計的に有意に異なることが示された)された。
【0064】
そこで、各成分含有量間の関係性を見直した上、先のモデルにおいて酸可溶性リグニンから糖化効率への直接的な作用の大きさがほぼ0(標準化パス係数=0.03)であったことから、酸可溶性リグニンが糖化効率に直接的な作用を有しないことを前提としてモデルを組み直したところ、パス係数の推定精度、モデルの実データへの適合度とも大幅に改善され、良好な結果が得られた。作成されたパス図を図11に示す。解析の結果、糖化効率へ有意な直接作用を有するのは、ASL/KL比(標準化パス係数=0.84)とセルロース含有量(標準化パス係数=−0.57)であり、クラソンリグニン含有量や酸可溶性リグニンの含有量は、キシラン含有量や灰分含有量と同様に糖化効率に対して有意な直接作用をもたらさないことが示された。中でも、ASL/KL比の糖化効率への直接効果が大きいことが明らかとなった。以上の結果から、糖化効率は、植物体中の総リグニン含有量よりも、ASL/KL比が大きく影響すること、したがって、植物体中の総リグニン含有量を低減させずとも、ASL/KL比を増大させることにより、総リグニン含有量の減少により引き起こされるデメリットを抑えつつ、リグノセルロースの易糖化性を変化させることが可能であることが示された。
【0065】
測定データに基づき、野生型イネとgh2−2変異体の各器官におけるASL/KL比とセルロース含有量を独立変数とし、糖化効率を従属変数とした重回帰分析の結果、決定係数(R2)が0.93と非常に高かった(図12)。これより、バイオマスサンプル中のASL/KL比とセルロース含有量を測定することで、セルロースの糖化効率を予測し得ること、すなわち、バイオマスサンプル中のASL/KL比とセルロース含有量を指標として易糖化性を評価し得ることが明らかである。なお、本実施例と同じ条件で糖化処理を行った場合には、糖化効率の予測値は、下記の式(2)により算出することができると考えられる。酵素糖化反応に用いるセルロース量を一定とすることにより、ASL/KL比のみから糖化効率の予測値を算出し得る。
糖化効率(予測値[%])= 227.9×[ASL/KL比]−2.4×[セルロース含有量(%)]+87.0 ・・・(2)
【0066】
<耐倒伏性試験>
野生型のイネとgh2−2変異体の耐倒伏性を比較するために、押し倒し抵抗値と挫折時モーメントを測定した。押し倒し抵抗値の測定は、出穂から30日目の植物体(イネ)に対して、挫折時モーメントは出穂から40日目の植物体(イネ)に対して、それぞれ実施した。
押し倒し抵抗値は、植物体を45°押し倒すために要する力(N)である。測定は、Kashiwagi と Ishimaruの方法(非特許文献19)に準じ、押し倒し抵抗測定器(大起理化工業社製)を用いて行った。具体的には、植物体の背丈が地面から40cmとなるように切りそろえた後、地面から20cmの位置に植物体に対して垂直に力をかけて、当該植物体が45°に傾けるために要する力を押し倒し抵抗値とした。押し倒し抵抗値は、測定した植物体の分げつ数で除して株の太さによる影響を除いた。また、各植物体の第1〜第5節間の挫折時モーメント(kg・cm)をデジタルフォースゲージを組み込んだ装置を用いて測定(非特許文献20)し、同時に測定した節間の外径及び内径を用いて、断面係数(mm3)と曲げ応力(g/mm2)をOokawaらの方法(非特許文献21)にしたがって算出した。
【0067】
図13に押し倒し抵抗値(N/分げつ)の測定結果を、図14に節間の断面係数(mm3)の測定結果を、図15に節間の曲げ応力(g/mm2)の測定結果を、図16に挫折時モーメント(kg・cm)の算出結果を、それぞれ示す。この結果、押し倒し抵抗値と挫折時モーメントは、いずれもgh2−2変異体と野生型イネとの間に統計的に有意な差がなく、植物体の強度に有意な変化がみられないことがわかった。gh2−2変異体は、野生型イネよりも曲げ応力が小さく、断面係数が大きい傾向が示唆されたものの、gh2−2変異体と野生型イネとの間に統計学的有意差が認められたのは、曲げ応力は第3節間についてのみであり、断面係数では第2節間及び第3節間についてのみであった。これらの結果から、植物体中の総リグニン含有量を低減させた場合には、植物体の強度が低下するおそれがあるが、植物体中のASL/KL比を高めることにより、当該植物体の糖化効率を高められる可能性が示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の植物体の糖化効率の改善方法は、植物の品種改良やバイオマスエタノールの製造の分野において利用が可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物体の糖化効率を改善する方法、バイオマスエタノールの原料として好適な植物、バイオマスエタノールの製造方法、及び、植物体の易糖化性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
茎及び葉の中肋が褐色であるbrown midrib(bmないしはbmr、以降、bmrと記載)変異体は、トウモロコシで古くから知られており、現在までに、トウジンビエ、ソルガム、スーダングラス等の同じくC4型光合成を行うイネ科草本植物でも見つかっている。bmr表現型は、リグニン生合成に関わるシンナミルアルコールデヒドロゲナーゼ(CAD)やカフェイン酸3−O−メチルトランスフェラーゼ(COMT)の発現や活性の低下が関わっていることが分かっている。多くのbmr系統において、野生型よりも、リグニン含有量が低減している(例えば、非特許文献1参照。)。また、リグニン含有量の低減は、収穫量の減少、茎強度の低減等、植物体に様々な影響を与えることが知られている(例えば、非特許文献2参照。)。
【0003】
CADは、Zn2+依存性 medium chain dehydrogenase/reductase(MDR)スーパーファミリーに属する酵素であり、補酵素NADPHと共に、シンナミルアルデヒドからシンナミルアルコールを合成する反応を触媒する酵素である。シンナミルアルコール類は、リグニンの前駆体となる。CADは2量体であり、サブユニット当たり2つのZn2+イオンを持つ。2つのZn2+イオンのうち、1つは触媒亜鉛(catalytic zinc)であり、もう1つは構造亜鉛(structural zinc)である(例えば、非特許文献3及び4参照。)。CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基は高度に保存されているが、その機能的役割は未だ明らかにされていない。
【0004】
bmr系統は、その遺伝的背景により、リグニン含有量や収量、背丈等の形質が異なる。例えば、飼料用ソルガムには複数のbmr系統があるが、多くのbmr系統において、野生型よりも、乾物収量は低下し、NDF(中性デタージェント繊維)の消化率が向上しているものの、ADL(酸性デタージェント不溶リグニン)の含有量は、bmr6系統(cad2変異)では野生型と変わらないが、bmr12系統(comt変異)では野生型よりも低減している(例えば、非特許文献5及び6参照。)。
【0005】
ソルガムのbmr6系統は、SbCAD2に変異を有する変異体であり、bmr2系統及びbmr12系統と同様に、野生型と比べて植物体中のクラソンリグニン含有量が低下しており、糖化効率が高くなっている。bmr6系統には、SbCAD2中の変異が異なる複数のアリルが報告されている(例えば、非特許文献7参照。)。具体的には、bmr6−ref変異体では、2800番目の塩基シトシンがチミンに置換されることにより終止コドンが形成されている。このため、bmr6−ref変異体中のSbCAD2は、131番目のアミノ酸までしか合成されておらず、nucleotide binding site、ファクター結合サイト、及び基質結合サイトの大半を欠く変異型である。また、bmr6−3変異体では、3875番目の塩基グアニンがアデニンに置換されている。当該変異により、コファクター結合サイトに存在し、MDRタンパク質に高度に保存されているグリシンリッチモチーフG(X)GGV(L)Gを形成する191番目のグリシン(G)がセリン(S)に置換されている。さらに、bmr6−27変異体では、4288番目の塩基の後ろにグアニンが挿入されることにより、フレームシフトが起こっている。この結果、bmr6−27変異体中のSbCAD2は、C末端側31アミノ酸領域が野生型SbCAD2とは全く異なり、かつ終止コドンの形成により野生型より4アミノ酸残基短く、活性サイトの外側にある2次構造が壊れている変異型である。また、リグニンモノマーの組成比を調べたところ、bmr6−ref変異体では、野生型のソルガムよりもG−リグニン含有量に対するS−リグニン含有量の割合が非常に小さくなっており、SbCAD2の変異により、植物体中のリグニンモノマーの組成比が影響を受けていることが確認された(非特許文献8参照。)。
【0006】
また、bmr系統における糖化効率の向上は、必ずしもリグニン含有量の低下によるとは限らないことを示唆するデータも報告されている。例えば、非特許文献9によれば、ソルガムのbmr6系統のうち、bmr6−ref変異体やbmr6−3変異体は、野生型と比べてクラソンリグニン含有量が低減し、かつリグニンモノマーの前駆体であるコニフェルアルデヒドの含有量が増大している点は共通しているものの、bmr6−ref変異体は糖化効率において、野生型から有意な変化は観察されなかったのに対して、クラソンリグニン含有量の低下と前駆体蓄積の度合いがbmr6−ref変異体よりも小さかったbmr6−3変異体では、糖化効率が有意に改善されていた。
【0007】
一方で、ソルガムにおいて、野生型、bmr6系統、bmr12系統、及びcad2変異とcomt変異の両者を有する2重変異体を、それぞれバイオマス資源として用いた場合のエタノール変換効率は、bmr6系統やbmr12系統よりも、2重変異体のほうが、よりエタノール変換効率が高く、かつクラソンリグニン含有量とエタノール変換効率との間に強い負の相関があることが報告されている(例えば、非特許文献10参照。)。当該報告によれば、リグノセルロースの酵素糖化には、クラソンリグニン含有量が大きく作用するとされている。
【0008】
その他、ソルガム以外の植物においても、CAD機能欠損変異系統についての解析が行われている。例えば、シロイヌナズナのCADには、2種類のパラログ(AtCAD4、AtCAD5)があるが、そのいずれにも、T−DNAが挿入されることによってmRNAが正常に合成されなくなった変異体が報告されている(例えば、非特許文献11参照。)。 また、トウモロコシbm1変異体では、遺伝解析の結果、bmr表現型は、染色体上ZmCAD2の存在する領域と強く連鎖しており、CAD酵素活性も野生型と比較して低下していることが明らかにされたが、変異体のZmCAD2遺伝子そのものに変異は発見されていない(例えば、非特許文献12参照。)。
【0009】
また、長らく、イネにはbmrに相当する変異体は存在しないと考えられていたが(例えば、非特許文献13参照。)、近年、イネのgh2(gold hull and internode 2)変異表現型の原因が、bmr表現型の原因となるCAD遺伝子の相同遺伝子(OsCAD2)にあることが報告された(非特許文献14参照。)。ただし、イネのgh2系統では、トウモロコシやソルガム等の他の植物のbmr系統とは異なり、葉の中肋に褐色の着色はないと報告されており、この葉の中肋への着色は、イネ等のC3型光合成を行うイネ科草本には見られない変異表現型であるとされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Sattler SE, et al. Plant Science (2010) 178(3): p229-238
【非特許文献2】Pedersen J, et al. Crop Science (2005) 45(3): p812-819
【非特許文献3】Bomati E, et al. The Plant Cell (2005) 17(5): p1598-1611
【非特許文献4】Youn B, et al. Organic and Biomolecular Chemistry (2006) 4(9): p1687-1697
【非特許文献5】Oliver A, et al. Crop Science (2005) 45(6): p2234-2239
【非特許文献6】Oliver A, et al. Crop Science (2005) 45(6): p2240-2245
【非特許文献7】Saballos A, et al. Genetics (2009) 181(2): p783-795
【非特許文献8】Sattler S, et al. Plant Physiology (2009) 150(2): p584-595
【非特許文献9】Saballos A, et al. BioEnergy Research (2008) 1(3): p193-204
【非特許文献10】Dien B, et al. BioEnergy Research (2009) 2(3): p153-164
【非特許文献11】Sibout R, et al. Plant physiology (2003) 132(2): p848-860
【非特許文献12】Halpin C, et al. The Plant Journal (1998) 14(5): p545-553
【非特許文献13】Barriиre Y, et al. Comptes Rendus Biologies (2004) 327(9-10): p847-860
【非特許文献14】Zhang K, et al. Plant physiology (2006) 140(3): p972-983
【非特許文献15】NREL(NATIONAL RENEWABLE ENERGY LABOLATORY), “Determination of Structural Carbohydrates and Lignin in Biomass (Laboratory Analytical Procedure (LAP)”, 2008, NREL/TP-510-42618.
【非特許文献16】Lin SY, et al. (ed), “Method in lignin chemistry”, 1994, Springer-Verlag (ユニ出版).
【非特許文献17】山本隆一、他2名共編、「イネ育種マニュアル」、(1996)養賢堂、p180-184.
【非特許文献18】Terada R., et al. Plant Physiol (2007) 144: p846-856.
【非特許文献19】Kashiwagi, T. , et al. Plant physiology (2004) 134(2): p676-683.
【非特許文献20】Sunohara, H,.et al., Breeding Science (2006) 56(3): p261-268.
【非特許文献21】Ookawa, T.et al., Nature Communications (2010) 1(8): p132-143.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
飼料用やバイオマス資源として用いられる場合には、植物体中のリグニン含有量が低いほど、リグニンに半ば覆われているセルロースにセルロース分解酵素がアクセスしやすくなり、セルロース分解(糖化)効率が向上すると考えられている。
しかしながら、非特許文献2等に記載されているように、植物体中のリグニン含有量を低下させた場合には、収量が低減してしまい、また、植物体の剛性(耐倒伏性)が低下する場合もある。
また、糖化効率の高い植物体が飼料用やバイオマス資源としてより好ましいことは明らかであるものの、植物体を構成するリグノセルロースの組成や性状と糖化効率との関係性が明確ではない現状、どの植物体や部位が糖化効率に優れているのかについては、実際に糖化処理を行うことによってしか判定することができず、さらに様々な前処理法や糖化酵素が存在することを考慮すると、評価が困難であるという問題もある。
【0012】
本発明は、植物体の糖化効率を改善する方法、当該方法に用いられる植物、当該植物を用いてバイオマスエタノールを製造する方法、及び、植物体の易糖化性を評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量])が、当該植物体の糖化効率に高い相関を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は、
(1) 少なくとも1種のリグニン生合成関連遺伝子に機能欠損変異を有しており、かつ当該植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量])が、前記機能欠損変異を有していない植物体よりも高い植物体に対して糖化処理を行うことを特徴とする、植物体の糖化効率の改善方法、
(2) 前記リグニン生合成関連遺伝子が、CAD(シンナミルアルコールデヒドロゲナーゼ)遺伝子であることを特徴とする前記(1)に記載の植物体の糖化効率の改善方法、
(3) 前記リグニン生合成関連遺伝子が、CAD遺伝子であり、
前記機能欠損変異が、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちの少なくとも1のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換された変異であることを特徴とする前記(1)に記載の植物体の糖化効率の改善方法、
(4) 前記リグニン生合成関連遺伝子が、CAD遺伝子であり、
前記機能欠損変異が、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換された変異であることを特徴とする前記(1)に記載の植物体の糖化効率の改善方法、
(5) 前記植物体がC3型光合成を行う植物であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の植物体の糖化効率の改善方法、
(6) 前記植物体において、葉の中肋部の一部又は全部が、赤褐色に着色されていることを特徴とする前記(5)に記載の植物体の糖化効率の改善方法、
(7) 前記植物体がイネであることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の植物体の糖化効率の改善方法、
(8) 植物体を構成する少なくとも1以上の細胞のゲノムにおいて、CAD遺伝子が、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちの少なくとも1のシステイン残基が他のアミノ酸に置換されている変異を有することを特徴とする植物、
(9) CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基が他のアミノ酸に置換されている変異を有することを特徴とする請求項前記(8)に記載の植物、
(10) C3型光合成を行う植物であることを特徴とする前記(8)又は(9)に記載の植物、
(11) イネであることを特徴とする前記(8)又は(9)に記載の植物、
(12) バイオマス資源として、少なくとも1種のリグニン生合成関連遺伝子に機能欠損変異を有しており、かつ当該植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量])が、前記機能欠損変異を有していない植物体よりも高い植物体を用いることを特徴とする、バイオマスエタノールの製造方法、
(13) 前記植物体が、前記(8)〜(11)に記載の植物であることを特徴とする請求項12に記載のバイオマスエタノールの製造方法、
(14) 下記(a)〜(d)のいずれかに記載の塩基配列を有するポリヌクレオチド。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列。
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、106番目のフェニルアラニンが、システイン以外の他のアミノ酸に置換されているアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列。
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、106番目のフェニルアラニン以外のアミノ酸のうちの1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、かつ植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量])を高める機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列。
(d)前記(a)〜(c)のいずれかの塩基配列と80%以上の相同性を有し、かつ、植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量])を高める機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列、
(15) 植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量])を指標とすることを特徴とする、植物体の易糖化性の評価方法、
を、提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の植物体の糖化効率の改善方法においては、特定のリグニン組成を有する植物体を糖化処理の原料として用いることにより、糖化効率を改善することができる。
また、本発明の植物は、野生型の植物よりも糖化効率に優れている。このため、当該植物を原料として用いる本発明のバイオマスエタノールの製造方法は、野生型の植物を原料として用いる場合よりも、より高効率かつ低コストでバイオマスエタノールを製造し得る。
さらに、本発明の植物体の易糖化性の評価方法を用いることにより、糖化処理を行う前に予め、原料の候補植物体が、糖化効率が高く、飼料用植物やバイオマス資源として好適な植物体であるか否かを評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】野生型イネ(左)とgh2−2変異体(右)の穂(図1A)、籾(図1B)、葉(図1C)、及び節間(図1D)の写真図である。
【図2】実施例1において、野生型イネとgh2−2変異体の各器官の乾燥重量を測定した結果を示した図である。
【図3】実施例1において、野生型イネとgh2−2変異体の各器官の乾燥重量当たりの総リグニン含有量を測定した結果を示した図である。
【図4】実施例1において、野生型イネとgh2−2変異体の各器官の乾燥重量当たりのセルロース含有量を測定した結果を示した図である。
【図5】実施例1において、野生型イネとgh2−2変異体の各器官の乾燥重量当たりのキシラン含有量を測定した結果を示した図である。
【図6】実施例1において、野生型イネとgh2−2変異体の各器官の乾燥重量当たりの灰分含有量を測定した結果を示した図である。
【図7】実施例1において、野生型イネとgh2−2変異体の稲藁全体における糖化効率とセルロース分解酵素反応の反応時間との関係を示した図である。
【図8】実施例1において、反応開始から48時間経過後の野生型イネとgh2−2変異体の各器官の糖化効率を算出した結果を示した図である。
【図9】実施例1において、反応開始から48時間経過後の野生型イネとgh2−2変異体の各器官の乾燥重量当たりのグルコース産生効率を算出した結果を示した図である。
【図10】実施例1において、野生型イネとgh2−2変異体の各器官における酸可溶性リグニン含有量と糖化効率との関係を示した図である。
【図11】実施例1において、各成分の含有量と糖化率との相関関係を、共分散構造分析を利用してパス解析した結果を示した図である。
【図12】実施例1において、野生型イネとgh2−2変異体の各器官におけるASL/KL比とセルロース含有量を独立変数とし、糖化効率を従属変数とした重回帰分析の結果を示した図である。縦軸は糖化効率の実測値であり、横軸は重回帰分析の結果得られた回帰式(下記式(2))から算出された糖化効率の予測値である。
【図13】実施例1において、野生型イネとgh2−2変異体の押し倒し抵抗値(N/分げつ)の測定結果を示した図である。
【図14】実施例1において、野生型イネとgh2−2変異体の節間の断面係数(mm3)の測定結果を示した図である。
【図15】実施例1において、野生型イネとgh2−2変異体の節間の曲げ応力(g/mm2)の測定結果を示した図である。
【図16】実施例1において、野生型イネとgh2−2変異体の挫折時モーメント(kg・cm)の算出結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明及び本願明細書において、植物体の糖化効率とは、当該植物体中のセルロースがグルコースに変換される効率を意味する。また、植物体の易糖化性を評価するとは、当該植物体の糖化効率の高低を評価することを意味する。
【0018】
<植物体の易糖化性の評価方法>
本発明の植物体の易糖化性の評価方法は、植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量]、以下、「ASL/KL比」)を指標とすることを特徴とする。後記実施例1に示すように、植物体の糖化効率は、植物体中の総リグニン含有量やクラソンリグニン含有量とは統計学上有意に高い相関性がないが、ASL/KL比とは高い相関を有する。このため、植物体中のASL/KL比を指標とすることにより、当該植物体を糖化処理した場合の糖化効率を評価することができる。なお、植物体の糖化効率がASL/KL比に高い相関を有することは、本発明者らにより初めて見いだされた知見である。
【0019】
具体的には、ASL/KL比が低い植物体よりも、ASL/KL比が高い植物体のほうが、糖化効率が高いと評価することができる。例えば、評価対象の植物が複数ある場合、各植物のASL/KL比を測定し、互いに比較することにより、実際に糖化処理を行う前に、いずれの植物がより糖化効率が高いかを評価することができる。
【0020】
飼料作物の場合、糖化効率が高いほど、消化効率がよいことが期待できる。同様に、エタノール等の化合物を合成するための糖類等の原料の供給源として用いられるバイオマス資源としては、糖化処理によってより多くの糖類を効率よく得られる植物体のほうが、少量の糖類しか得られない植物体よりも好ましい。よって、本発明の植物体の易糖化性の評価方法は、候補の植物体が飼料作物やバイオマス資源として好適かどうかを評価したり、複数種類の候補植物の中から、飼料作物やバイオマス資源としてより好適な植物を選抜する場合に好適に用いることができる。
【0021】
評価対象となる植物体は、植物個体全体であってもよいが、器官ごとに評価することもできる。例えば、同一種類の植物体由来の茎と葉とを比較し、どちらの器官が、糖化効率が高くバイオマス資源として好適か、を評価することもできる。
【0022】
評価対象となる植物体の種類は、クラソンリグニンと酸可溶性リグニンを含む植物体であれば特に限定されるものではなく、単子葉植物であってもよく、双子葉植物であってもよい。また、C3型光合成を行う植物(C3植物)であってもよく、C4型光合成を行う植物(C4植物)であってもよい。
【0023】
植物体中のASL/KL比は、植物体中の酸可溶性リグニン含有量とクラソンリグニン含有量の測定結果から算出することができる。植物体中の酸可溶性リグニン含有量とクラソンリグニン含有量は常法により測定することができる(例えば、非特許文献15、16参照。)。より具体的には、例えば、以下の手法により測定することができる。まず、細断又は粉砕した植物体又はその器官を試料とし、当該試料中のデンプンを可溶化した後に濾過処理を行うことによって、当該試料からデンプンを除去する。洗浄、乾燥した濾過残渣を、硫酸溶液等の鉱酸水溶液に混和させた後、加水分解反応を行う。次いで、加水分解反応後の試料に対して、濾過処理等を行い、単糖や酸可溶性リグニン等の可溶性成分を含む液体成分(濾液)と、クラソンリグニンや灰分といった不溶性成分を含む固体成分(濾過残渣)に分離する。洗浄、乾燥させた濾過残渣を、600℃程度の高温で焼成させた後の残渣分が灰分である。よって、焼成前の濾過残渣量から灰分の含有量を差し引くことにより、当該濾過残渣に含まれていたクラソンリグニン含有量を求めることができる。一方で、濾液中の酸可溶性リグニン含有量は、当該濾液の205nmの吸光度から、Beer則にて下記式(1)から算出される。
酸可溶性リグニン含有量(g・L−1)=吸光度/[光路(cm)×吸光計数(L・g−1・cm−1)] ・・・(1)
【0024】
<植物体の糖化効率の改善方法>
酸可溶性リグニンは、酸溶媒をはじめとする多くの溶媒に対して不溶性であるクラソンリグニンよりも、酸処理等の前処理によって分解されやすい。このため、リグノセルロース中に占める酸可溶性リグニンの含有量が多いほど、すなわち、ASL/KL比が高いほど、前処理後の植物体にセルロース分解酵素がアクセスしやすくなり、セルロース分解(糖化)効率が向上する。したがって、植物体中のASL/KL比を高めることにより、当該植物体の糖化効率を向上させることができる。
【0025】
すなわち、本発明の植物体の糖化効率の改善方法は、糖化処理がなされる植物体が、少なくとも1種のリグニン生合成関連遺伝子に機能欠損変異を有しており、かつ当該植物体中のASL/KL比が、前記機能欠損変異を有していない植物体よりも高いことを特徴とする。なお、「前記機能欠損変異を有していない植物体」は、当該機能欠損変異の有無以外は遺伝的背景が実質的に同一である植物体を意味する。具体的には、例えば、前記機能欠損変異が導入される前の植物体が挙げられる。
【0026】
本発明及び本願明細書において、リグニン生合成関連遺伝子とは、当該遺伝子がコードするタンパク質が、リグニン生合成代謝経路に関連する遺伝子を意味する。リグニン生合成関連遺伝子としては、具体的には、リグニンモノマー生合成に関わるCAD遺伝子、COMT遺伝子、4−ヒドロキシシンナモイル−CoAリガーゼ(4CL)遺伝子、フェルラ酸5ヒドロキシラーゼ(F5H)遺伝子、リグニンモノマーの重合に関わるペルオキシダーゼ(PO)やラッカーゼ(LAC)をコードする遺伝子等が挙げられる。本発明において糖化処理がなされる植物体としては、1種類のリグニン生合成関連遺伝子にのみ機能欠損変異を有していてもよく、2種類以上のリグニン生合成関連遺伝子に機能欠損変異を有していてもよい。なお、リグニン生合成関連遺伝子が酵素をコードする遺伝子である場合には、機能欠損変異とは、当該酵素活性が欠失若しくは低下する遺伝子変異を意味する。
【0027】
本発明の植物体の糖化効率の改善方法においては、少なくともCAD遺伝子に機能欠損変異を有する植物体に対して糖化処理がなされることが好ましい。植物体中において、CAD(EC1.1.1.195)の酵素活性が低下することにより、ASL/KL比をより効果的に高めることができる。CAD遺伝子が有する機能欠損変異としては、当該変異が導入されたCAD遺伝子がコードする変異型CADの酵素活性が、当該変異が導入されていないCAD遺伝子がコードするCADよりも低下するものであれば特に限定されるものではなく、ミスセンス変異であってもよく、ナンセンス変異であってもよく、フレームシフト変異であってもよい。
【0028】
本発明の植物体の糖化効率の改善方法においては、CAD遺伝子が有する機能欠損変異は、ミスセンス変異であることが好ましく、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちの少なくとも1のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換された変異(以下、「システイン変異」ということがある。)であることがより好ましく、前記構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換された変異であることがさらに好ましく、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基がフェニルアラニン残基に置換された変異であることが特に好ましい。なお、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換された変異は、本発明者らにより初めて見出された変異である。
【0029】
糖化効率が改善される植物体の種類は、クラソンリグニンと酸可溶性リグニンを含む植物体であれば特に限定されるものではなく、単子葉植物であってもよく、双子葉植物であってもよい。また、C3型光合成を行う植物であってもよく、C4型光合成を行う植物であってもよい。本発明の植物体の糖化効率の改善方法においては、糖化効率が改善される植物体がC3型光合成を行う植物であることが好ましく、C3型光合成を行う単子葉植物であることがより好ましく、イネであることが特に好ましい。
【0030】
後記実施例1に示すように、システイン変異を有するイネは、葉の中肋部の一部又は全部が赤褐色に着色されている。したがって、本発明の植物体の糖化効率の改善方法においては、葉の中肋部の一部又は全部が赤褐色に着色されているC3型光合成を行う植物に対して糖化処理を行うことが好ましく、葉の中肋部の一部又は全部が赤褐色に着色されているイネに対して糖化処理を行うことがより好ましい。なお、イネ等のC3型光合成を行う植物において、葉の中肋部の一部又は全部が赤褐色に着色されている形質を有するリグニン生合成欠損変異体は、今まで知られていない。
【0031】
植物体の糖化処理の方法は、植物体中のセルロースを分解し得る方法であれば、特に限定されるものではなく、トウモロコシ等の植物体中のセルロースを分解する際に通常用いられている手法の中から適宜選択して用いることができる。例えば、植物体を硫酸溶液等の酸性溶液に浸漬させた状態で加熱する酸糖化法であってもよく、セルロース分解酵素を用いた酵素糖化法であってもよい。酸糖化法では過分解による単糖収率の低下やフルフラールなど過分解生成物によるエタノール発酵阻害が起きるため、酵素糖化法がより好ましい。糖化処理における反応溶液の温度やpH、反応時間等の反応条件は、酸糖化法の場合には用いる酸の種類や酸性溶液の濃度、植物体と酸性溶液の混合比等を考慮して、また酵素糖化法の場合には、用いるセルロース分解酵素の特性等を考慮して、適宜調整することができる。なお、糖化処理に供される植物体は、予め、細断又は粉砕してあることが好ましい。
【0032】
酵素糖化法を用いる場合には、糖化処理の前に、予め植物体を酸性溶液(例えば、pH4〜6の溶液)中に浸漬させておくことが好ましい。酸性溶液に浸漬させることにより、植物体中の酸可溶性リグニンが溶出するため、植物体中のセルロースにセルロース分解酵素がアタックしやすくなる結果、糖化効率をより改善することができる。予め酸性溶液に浸漬させた植物体は、適当なバッファーにより洗浄してpHを調整した後に、セルロース分解酵素を添加して酵素反応を行うことができる。酸性条件下で酵素活性を有するセルロース分解酵素を用いて酸性溶液中で植物体の糖化処理を行う場合には、糖化処理前の酸性溶液への浸漬処理を省略することもできる。
【0033】
<バイオマスエタノールの製造方法>
本発明のバイオマスエタノールの製造方法は、バイオマス資源として、少なくとも1種のリグニン生合成関連遺伝子に機能欠損変異を有しており、かつ当該植物体中のASL/KL比が、前記機能欠損変異を有していない植物体よりも高い植物体を用いることを特徴とする。リグニン生合成関連遺伝子に機能欠損変異を導入された結果、ASL/KL比が高められた植物体は、糖化効率が良好であるため、バイオマスエタノールを製造するためのバイオマス資源として好適である。
【0034】
少なくとも1種のリグニン生合成関連遺伝子に機能欠損変異を導入することにより、植物体中のASL/KL比が、前記機能欠損変異を有していない植物体よりも高められた植物体としては、前記植物体の糖化効率の改善方法において挙げられた植物体を用いることができる。本発明のバイオマスエタノールの製造方法においては、バイオマス資源として、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちの少なくとも1のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換された変異(システイン変異)を有する植物体を用いることが好ましく、システイン変異を有するC3型光合成を行う植物であることがより好ましく、システイン変異を有するイネであることがさらに好ましい。バイオマス資源として用いられる植物体が備えるシステイン変異としては、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換された変異であることが好ましく、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基がフェニルアラニン残基に置換された変異であることがより好ましい。
【0035】
バイオマス資源として用いる植物体に対して糖化処理を行った後、得られた糖化液中の糖類からエタノールを合成することにより、バイオエタノールを製造することができる。糖化処理は、前記植物体の糖化効率の改善方法において挙げられた方法により行うことができる。また、エタノール合成反応は、特に限定されるものではなく、酵母によるアルコール発酵法等のバイオエタノールを製造する際に通常用いられている手法の中から適宜選択して用いることができる。
【0036】
<植物体中のASL/KL比が高められた植物>
本発明の植物は、植物体を構成する少なくとも1以上の細胞のゲノムにおいて、CAD遺伝子が、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちの少なくとも1のシステイン残基が他のアミノ酸に置換されている変異(システイン変異)を有することを特徴とする。本発明の植物が備えるシステイン変異としては、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換された変異であることが好ましく、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基がフェニルアラニン残基に置換された変異であることがより好ましい。
【0037】
システイン変異を有する植物の種類は、CAD遺伝子を有する植物であれば特に限定されるものではなく、単子葉植物であってもよく、双子葉植物であってもよい。また、C3型光合成を行う植物であってもよく、C4型光合成を行う植物であってもよい。
【0038】
CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基は、さまざまな植物種で高度に保存されている。例えば、イネのCAD2(OsCAD2)、シロイヌナズナのCAD5(AtCAD5)、アスペンのCAD(PotCAD)、テーダマツのCAD(PtCAD)、トウモロコシのCAD(ZmCAD2)、ソルガムのBmr6(SbCAD2)、イワヒバのCAD(SmCAD)、タバコのCAD(NtCAD19)、サトウキビのCAD(SoCAD)ではN末から100、103、106、及び114番目のシステイン残基であり、シロイヌナズナのCAD4(AtCAD4)ではN末から101、104、107、及び115番目のシステイン残基であり、ソルガムのCAD4(SbCAD4)ではN末から98、101、104、及び112番目のシステイン残基である。さらには、CAD以外の他のアルコールデヒドロゲナーゼにおいても高度に保存されており、これらのシステインの置換は酵素機能の変化を引き起こす可能性が高いことが示唆される。本発明の植物としては、例えば、これらのシステイン残基の少なくとも1つが他のアミノ酸残基に置換された変異を有する植物を挙げることができる。
【0039】
本発明の植物としては、前記変異を有するC3型光合成を行う植物であることが好ましく、前記変異を有するC3型光合成を行う単子葉植物であることがより好ましく、システイン変異を有するイネであることが特に好ましい。中でも、OsCAD2中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちの少なくとも1のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換された変異を有するイネであることが好ましく、OsCAD2中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のN末端側から3番目のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換された変異を有するイネであることが好ましい。具体的には、後記実施例1に記載のOsCAD2中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基(N末端側から106番目のアミノ酸残基)がフェニルアラニン残基に置換された変異を有するイネ(gh2−2変異体)が挙げられる。
【0040】
本発明の植物としては、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基は、フェニルアラニン残基以外のアミノ酸残基に置換されていてもよい。例えばイネでは、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、106番目のフェニルアラニンが、システイン以外の他のアミノ酸に置換されているアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子を有する植物も、本発明の植物である。
【0041】
なお、本発明の植物としては、CAD遺伝子は、システイン変異による植物体中のASL/KL比が高められるという効果を損なわない限りにおいて、システイン変異以外の変異を有していてもよい。
【0042】
システイン変異を有する植物は、植物において、ゲノム中の特定の領域に点突然変異を起こして変異体を作製する際に用いられる当該技術分野において公知の手法により、作製することができる。具体的には、ガンマ線による種子照射、化学変異剤ethyl methane sulfonate若しくはアジ化ナトリウムによる種子処理、又は、MNU(N-methyl-N-nitrosourea)による受精卵処理などが挙げられる(例えば、非特許文献17参照。)。
【0043】
システイン変異を有する植物を作製する際には、例えば、下記のような塩基配列を有するポリヌクレオチドを組み込んだベクターを用いることができる。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列。
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、106番目のフェニルアラニンが、システイン以外の他のアミノ酸に置換されているアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列。
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、106番目のフェニルアラニン以外のアミノ酸のうちの1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、かつ植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量])を高める機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列。
(d)前記(a)〜(c)のいずれかの塩基配列と80%以上(好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上)の相同性を有し、かつ、植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量])を高める機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列。
【0044】
例えば、前記(a)の塩基配列を有するポリヌクレオチドを相同組換えによる遺伝子ターゲティング(例えば、非特許論文18参照。)を用いてイネゲノム中のOsCAD2遺伝子と組み換えることにより、OsCAD2中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基(N末端側から106番目のアミノ酸残基)がフェニルアラニン残基に置換された変異を有するイネを、同じく前記(b)の塩基配列を有するポリヌクレオチドで組み換えることによって、OsCAD2中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基がフェニルアラニン残基以外のその他のアミノ酸残基に置換された変異を有するイネを、それぞれ作製することができる。同様に、前記(c)や(d)の塩基配列を有するポリヌクレオチドで置換することによって、例えば、OsCAD2中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基(N末端側から106番目のアミノ酸残基)がフェニルアラニン残基に置換されており、さらにその他の変異を有するイネを作製することができる。
【実施例】
【0045】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
<CAD遺伝子にシステイン変異を有するイネの作製>
変異選抜・固定を進めてきたMNU処理によるイネ突然変異系統群より、稈、籾に赤褐色の呈色を示すgh2(gold hull and internode2)様の表現型に加えて、上位葉の中肋に赤褐色の呈色を示す変異系統を選抜した。この選抜された変異体のリグニン生合成関連遺伝子の塩基配列を調べたところ、OsCAD2遺伝子に変異を有していることがわかった。当該OsCAD2遺伝子がコードするタンパク質OsCAD2のアミノ酸配列を配列番号1に示す。当該変異体は、配列番号1の106番目のシステイン残基をコードする塩基配列TGCの2番目の塩基がグアニンからチミンに置換されており、当該変異により、OsCAD2の106番目のシステイン残基がフェニルアラニン残基に置換されていた。さらにこの変異体に野生型OsCAD2を組み込んだ形質転換体では、変異表現型が回復したことから、当該変異体はOsCAD2機能欠損変異体(gh2)の新規アリルであることが確認できた。以下、選抜された変異体を、gh2−2変異体とする。
【0047】
<イネの栽培及び収量>
野生型のイネとgh2−2変異体とを、水田にて慣行栽培し、植物体(イネ)の地上部を出穂後50日目に収穫した。図1に、野生型イネ(左)とgh2−2変異体(右)の穂(図1A)、籾(図1B)、葉(図1C)、及び節間(図1D)の写真を示す。gh2−2変異体の穂、籾、及び節間は、野生型イネよりも褐色が濃く、また、葉では中肋が赤褐色に着色されていた。
収穫された植物体を屋内にて1週間程度自然乾燥した後、脱穀した。その後、藁と籾殻をドライオーブンで、50℃で2週間乾燥させた。なお、脱穀後の植物体の一部は、器官別分析に供する試料を作製するために、葉身、葉鞘、稈、穂(籾は含まない)、及び籾殻にそれぞれ分けて回収した後、ドライオーブンで、50℃で2週間乾燥させた。乾燥後の藁等は、それぞれ、ハサミで1cm程度に刻んだ後、カッターミル(製品名:MKCM−5、3mmスクリーン装備、増幸産業社製)を用いて粉砕した。
【0048】
得られた粉砕試料の乾燥重量を測定した結果を図2に示す。図1中、「WT」は野生型イネの結果であり、「gh」はgh2−2変異体の結果である。また、「WS」は藁全体の結果を、「LB」は葉身の結果を、「LS」は葉鞘の結果を、「C」は稈の結果を、「P」は穂の結果を、「H」は籾殻の結果を、それぞれ示す。さらに、「*」は、野生型イネとgh2−2変異体との差が5%水準で、「**」は1%水準で、「***」は0.1%水準で、統計的に有意であったことを、「NS」は両者に有意差がなかったことを、それぞれ示す。この結果、稲藁全体において、野生型イネとgh2−2変異体の収量は有意差がなく、CAD遺伝子にシステイン変異を導入することによっては、稲藁全体として有意な変化は見られないことがわかった。
【0049】
<測定試料の作製>
得られた粉砕試料中のデンプンを、Total Starch Kit(製品名:K−TSTA、メガザイム社製)を用いた標準的な総デンプン分析法(AOAC法996.11、AACC法76.13)に従って、可溶化した後に濾過することによって除去した。濾過残渣を滅菌水で洗浄した後、40℃で乾燥したものを、以降の細胞壁成分分析及び酵素糖化試験の試料としてそれぞれ用いた。
【0050】
<細胞壁成分分析>
試料中のセルロース、キシラン(ヘミルセルロース)、クラソンリグニン、酸可溶性リグニン、灰分を、非特許文献15,16に記載の方法に準じて定量した。なお、各成分の定量値は、最終的に試料乾物量当たりの重量%として算出した。また、総リグニン含有量は、クラソンリグニン含有量と酸可溶性リグニン含有量の和として算出した。
【0051】
まず、試料300mgに72%硫酸3mLを加えて混和した後、30℃で60分間温浴させた。さらに水84mLを加えて混和した後、オートクレーブ(121℃、60分間)にかけることによって、酸加水分解反応により、試料中のセルロース、キシラン等の多糖類を単糖にまで分解した。反応後の試料は、室温近くまで冷却させた後、氷中に静置した。その後、吸引濾過を行うことにより、酸加水分解反応後の試料を濾液と濾過残渣とに分離した。
【0052】
得られた濾過残渣から、クラソンリグニン及び灰分を定量した。具体的には、当該濾過残渣を滅菌水で洗浄した後、るつぼに回収し、105℃で一昼夜乾燥させた後に重量を測定した(重量A)。その後、さらに600℃で4時間焼成させた後、再び重量を測定した(重量B)。焼成後の残渣が灰分(重量B)であり、焼成されたものがクラソンリグニン(重量Aから重量Bを差し引いた重量)である。
【0053】
得られた濾液の205nmにおける吸光度を分光光度計で測定した。得られた吸光度から、濾液中の酸可溶性リグニン含有量を、Beer則にて前記式(1)から求めた。なお、吸光計数は110L・g−1・cm−1を使用した。
【0054】
得られた濾液から、セルロース及びキシランを定量した。具体的には、当該濾液に炭酸カルシウムを加えてpH5.0〜6.0に調整した後、上澄みを0.2μmフィルターに通したものを、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用試料とした。調製したHPLC試料をHPLCに注入し、下記の条件でHPLCを行い、グルロース及びキシロースを分離して検出した。検出されたグルロース及びキシロースは、標品を用いた検量線法により定量した。グルロースの定量値に0.9を乗じた値をセルロースの定量値とし、キシロースの定量値に0.88を乗じた値をキシランの定量値とした。
【0055】
HPLC条件;
カラム:Aminex HPX−87P(300mm×Φ7.8mm、Bio−Rad社製)、
カラムオーブン温度:85℃、
移動相:水、
流量:0.6mL/min、
検出器:RI(示差屈折)検出器、
検出器内部温度:40℃、
オートサンプラ温度:4℃、
サンプリング量:50μL、
【0056】
測定結果を図3〜6に示す。図3は総リグニン含有量の結果を、図4はセルロース含有量の結果を、図5はキシラン含有量の結果を、図6は灰分含有量の結果を、それぞれ示す。図3〜6中、「WT」、「gh」、「WS」、「LB」、「LS」、「C」、「P」、「H」、「*」、「**」、「***」、及び「NS」の意味は、図2と同じである。図2に示すように、葉鞘では有意差がなかったものの、gh2−2変異体の総リグニン含有量は野生型イネよりも、葉身では約10%、稈では約20%、穂や籾殻では約14%減少しており、藁全体でも約14%減少していた。一方で、リグニンの他の主要成分であるセルロースやキシラン、灰分の含有量は、野生型イネとgh2−2変異体では、藁全体でみると有意差がなかった
【0057】
<酵素糖化試験>
粉砕試料からデンプンを除去して得られた試料25mgに、反応液(1.9%アクレモニウムセルラーゼ(明治製菓社製)、50%酢酸バッファー(pH4.8)、0.02%アジ化ナトリウム)1mLを添加し、50℃、180rpmで振とうさせた状態で酵素反応を行った。反応液中のグルコース含有量を測定するために、藁全体サンプルについては、反応開始後0、2、6、24、30、及び48時間後に、反応液の一部を分取した。その他のサンプルについては、反応開始から48時間経過後の反応液を用いた。いずれのサンプルにおいても、分取した反応液は、容器ごと沸騰水に5分間湯浴させることにより酵素反応を停止させた後、測定した。
測定用に分取された反応液中のグルコースを、グルコースCIIテストワコー(和光純薬社製)を用いて定量した。得られた定量値を、HPLCによる定量の結果から算出された試料25mg中に含まれるグルコース含有量で除したものを、糖化効率とした。
【0058】
図7は、野生型イネとgh2−2変異体の稲藁全体における糖化効率とセルロース分解酵素反応の反応時間との関係を示した図であり、図8は反応終了後の野生型イネとgh2−2変異体の各器官の糖化効率を算出した結果を示した図であり、図9は同じく反応終了後の野生型イネとgh2−2変異体の各器官の乾燥重量当たりのグルコース産生効率(乾物糖化率)を算出した結果を示した図である。この結果、稲藁全体では、セルロース分解酵素反応の早い段階から反応終了時の48時間経過後まで一貫して、gh2−2変異体のほうが野生型イネよりも糖化効率が高く、糖化されやすいことがわかった。より詳細には、gh2−2変異体の糖化効率は野生型イネの約1.22倍であり、乾物糖化率は野生型イネの約1.23倍であった。また、器官ごとに若干の多少はあるものの、いずれの器官においても、gh2−2変異体は野生型イネよりも糖化効率が有意に高いことがわかった。
【0059】
<糖化効率と各成分の含有量との間の相関係数の算出>
糖化効率と各成分の含有量との間の相関係数を算出したところ、表1に示すように、糖化効率は、セルロースやキシラン、灰分の含有量とはほとんど相関がなかった。また、総リグニン含有量との相関係数は、−0.57とやや高めであったものの、有意ではなく、クラソンリグニン含有量との相関係数は−0.69であり、有意であったがそれほど高い相関は観察されなかった。これに対して、全体の3%程度しか含まれていない酸可溶性リグニン含有量と糖化効率の相関係数は0.87と非常に高いことがわかった。これらの結果から、糖化効率は、植物体中の総リグニン含有量よりも、リグニンの質(組成)が大きく影響することが強く示唆された。
【0060】
【表1】
【0061】
そこで、酸可溶性リグニン含有量と糖化効率との関係をより詳細に検討した。図10は、野生型イネとgh2−2変異体の各器官における酸可溶性リグニン含有量と糖化効率との関係をプロットした図である。この結果、籾殻(H)や葉鞘(LS)、葉身(LB)では、酸可溶性リグニン含有量が高いgh2−2変異体のほうが、野生型イネよりも糖化効率が改善されていた。しかしながら、藁全体(WS)や稈(C)、穂(P)では、酸可溶性リグニン含有量に明らかな差はないにもかかわらず、高いgh2−2変異体は野生型イネよりも糖化効率が顕著に改善されていた。これらの結果から、酸可溶性リグニン含有量のみからでは、gh2−2変異体において野生型イネよりも糖化効率が改善されたことの説明ができず、酸可溶性リグニン含有量と糖化効率との高い相関は、直接的な因果関係を反映していない可能性が示唆された。
【0062】
<パス解析による糖化効率と各成分の含有量の解析>
各成分の含有量と糖化効率との相関関係をより詳細に調べるため、各種成分の含有率が糖化効率に及ぼす影響力の推定を試みた。解析は、糖化効率に対して、クラソンリグニン含有量や酸可溶性リグニン含有量が直接作用しているのか、又は両者の比という植物体中のリグニン組成の質的ファクターを介して間接的に作用しているのかを明らかにするために、説明変数から従属変数への直接効果ばかりではなく、別の説明変数を介した間接効果を求めることができるパス解析により行った。本実施例においては、パス解析を、構造方程式モデリング(Structural Equation Modeling:SEM)を用いて実施し、各変数のそれぞれの影響の大きさを定量的に明らかにした。なお、SEMは、共分散構造分析とも呼ばれている。
【0063】
まず、酸可溶性リグニン含有量とクラソンリグニン含有量が糖化効率に対して直接的な作用と両者の比(ASL/KL比)を介した間接的な作用の両方を有することを前提として、各成分の含有量と糖化率との因果関係のモデル(パス図)を作成した。このモデルは、各細胞壁成分含有量により糖化効率の変動の93%が説明可能という極めて高い説明率を示したものの、作用の大きさを示すパス係数の推定値のばらつきが大きいなどの不安定さが見られ、さらにはモデル全体が実データの構造に適合しているかどうかの検定において棄却(モデルが実データ構造と統計的に有意に異なることが示された)された。
【0064】
そこで、各成分含有量間の関係性を見直した上、先のモデルにおいて酸可溶性リグニンから糖化効率への直接的な作用の大きさがほぼ0(標準化パス係数=0.03)であったことから、酸可溶性リグニンが糖化効率に直接的な作用を有しないことを前提としてモデルを組み直したところ、パス係数の推定精度、モデルの実データへの適合度とも大幅に改善され、良好な結果が得られた。作成されたパス図を図11に示す。解析の結果、糖化効率へ有意な直接作用を有するのは、ASL/KL比(標準化パス係数=0.84)とセルロース含有量(標準化パス係数=−0.57)であり、クラソンリグニン含有量や酸可溶性リグニンの含有量は、キシラン含有量や灰分含有量と同様に糖化効率に対して有意な直接作用をもたらさないことが示された。中でも、ASL/KL比の糖化効率への直接効果が大きいことが明らかとなった。以上の結果から、糖化効率は、植物体中の総リグニン含有量よりも、ASL/KL比が大きく影響すること、したがって、植物体中の総リグニン含有量を低減させずとも、ASL/KL比を増大させることにより、総リグニン含有量の減少により引き起こされるデメリットを抑えつつ、リグノセルロースの易糖化性を変化させることが可能であることが示された。
【0065】
測定データに基づき、野生型イネとgh2−2変異体の各器官におけるASL/KL比とセルロース含有量を独立変数とし、糖化効率を従属変数とした重回帰分析の結果、決定係数(R2)が0.93と非常に高かった(図12)。これより、バイオマスサンプル中のASL/KL比とセルロース含有量を測定することで、セルロースの糖化効率を予測し得ること、すなわち、バイオマスサンプル中のASL/KL比とセルロース含有量を指標として易糖化性を評価し得ることが明らかである。なお、本実施例と同じ条件で糖化処理を行った場合には、糖化効率の予測値は、下記の式(2)により算出することができると考えられる。酵素糖化反応に用いるセルロース量を一定とすることにより、ASL/KL比のみから糖化効率の予測値を算出し得る。
糖化効率(予測値[%])= 227.9×[ASL/KL比]−2.4×[セルロース含有量(%)]+87.0 ・・・(2)
【0066】
<耐倒伏性試験>
野生型のイネとgh2−2変異体の耐倒伏性を比較するために、押し倒し抵抗値と挫折時モーメントを測定した。押し倒し抵抗値の測定は、出穂から30日目の植物体(イネ)に対して、挫折時モーメントは出穂から40日目の植物体(イネ)に対して、それぞれ実施した。
押し倒し抵抗値は、植物体を45°押し倒すために要する力(N)である。測定は、Kashiwagi と Ishimaruの方法(非特許文献19)に準じ、押し倒し抵抗測定器(大起理化工業社製)を用いて行った。具体的には、植物体の背丈が地面から40cmとなるように切りそろえた後、地面から20cmの位置に植物体に対して垂直に力をかけて、当該植物体が45°に傾けるために要する力を押し倒し抵抗値とした。押し倒し抵抗値は、測定した植物体の分げつ数で除して株の太さによる影響を除いた。また、各植物体の第1〜第5節間の挫折時モーメント(kg・cm)をデジタルフォースゲージを組み込んだ装置を用いて測定(非特許文献20)し、同時に測定した節間の外径及び内径を用いて、断面係数(mm3)と曲げ応力(g/mm2)をOokawaらの方法(非特許文献21)にしたがって算出した。
【0067】
図13に押し倒し抵抗値(N/分げつ)の測定結果を、図14に節間の断面係数(mm3)の測定結果を、図15に節間の曲げ応力(g/mm2)の測定結果を、図16に挫折時モーメント(kg・cm)の算出結果を、それぞれ示す。この結果、押し倒し抵抗値と挫折時モーメントは、いずれもgh2−2変異体と野生型イネとの間に統計的に有意な差がなく、植物体の強度に有意な変化がみられないことがわかった。gh2−2変異体は、野生型イネよりも曲げ応力が小さく、断面係数が大きい傾向が示唆されたものの、gh2−2変異体と野生型イネとの間に統計学的有意差が認められたのは、曲げ応力は第3節間についてのみであり、断面係数では第2節間及び第3節間についてのみであった。これらの結果から、植物体中の総リグニン含有量を低減させた場合には、植物体の強度が低下するおそれがあるが、植物体中のASL/KL比を高めることにより、当該植物体の糖化効率を高められる可能性が示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の植物体の糖化効率の改善方法は、植物の品種改良やバイオマスエタノールの製造の分野において利用が可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のリグニン生合成関連遺伝子に機能欠損変異を有しており、かつ当該植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量])が、前記機能欠損変異を有していない植物体よりも高い植物体に対して糖化処理を行うことを特徴とする、植物体の糖化効率の改善方法。
【請求項2】
前記リグニン生合成関連遺伝子が、CAD(シンナミルアルコールデヒドロゲナーゼ)遺伝子であることを特徴とする請求項1に記載の植物体の糖化効率の改善方法。
【請求項3】
前記リグニン生合成関連遺伝子が、CAD遺伝子であり、
前記機能欠損変異が、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちの少なくとも1のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換された変異であることを特徴とする請求項1に記載の植物体の糖化効率の改善方法。
【請求項4】
前記リグニン生合成関連遺伝子が、CAD遺伝子であり、
前記機能欠損変異が、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換された変異であることを特徴とする請求項1に記載の植物体の糖化効率の改善方法。
【請求項5】
前記植物体がC3型光合成を行う植物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の植物体の糖化効率の改善方法。
【請求項6】
前記植物体において、葉の中肋部の一部又は全部が、赤褐色に着色されていることを特徴とする請求項5に記載の植物体の糖化効率の改善方法。
【請求項7】
前記植物体がイネであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の植物体の糖化効率の改善方法。
【請求項8】
植物体を構成する少なくとも1以上の細胞のゲノムにおいて、CAD遺伝子が、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちの少なくとも1のシステイン残基が他のアミノ酸に置換されている変異を有することを特徴とする植物。
【請求項9】
CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基が他のアミノ酸に置換されている変異を有することを特徴とする請求項8に記載の植物。
【請求項10】
C3型光合成を行う植物であることを特徴とする請求項8又は9に記載の植物。
【請求項11】
イネであることを特徴とする請求項8又は9に記載の植物。
【請求項12】
バイオマス資源として、少なくとも1種のリグニン生合成関連遺伝子に機能欠損変異を有しており、かつ当該植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量])が、前記機能欠損変異を有していない植物体よりも高い植物体を用いることを特徴とする、バイオマスエタノールの製造方法。
【請求項13】
前記植物体が、請求項8〜11に記載の植物であることを特徴とする請求項12に記載のバイオマスエタノールの製造方法。
【請求項14】
下記(a)〜(d)のいずれかに記載の塩基配列を有するポリヌクレオチド。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列。
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、106番目のフェニルアラニンが、システイン以外の他のアミノ酸に置換されているアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列。
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、106番目のフェニルアラニン以外のアミノ酸のうちの1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、かつ植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量])を高める機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列。
(d)前記(a)〜(c)のいずれかの塩基配列と80%以上の相同性を有し、かつ、植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量])を高める機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列。
【請求項15】
植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量])を指標とすることを特徴とする、植物体の易糖化性の評価方法。
【請求項1】
少なくとも1種のリグニン生合成関連遺伝子に機能欠損変異を有しており、かつ当該植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量])が、前記機能欠損変異を有していない植物体よりも高い植物体に対して糖化処理を行うことを特徴とする、植物体の糖化効率の改善方法。
【請求項2】
前記リグニン生合成関連遺伝子が、CAD(シンナミルアルコールデヒドロゲナーゼ)遺伝子であることを特徴とする請求項1に記載の植物体の糖化効率の改善方法。
【請求項3】
前記リグニン生合成関連遺伝子が、CAD遺伝子であり、
前記機能欠損変異が、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちの少なくとも1のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換された変異であることを特徴とする請求項1に記載の植物体の糖化効率の改善方法。
【請求項4】
前記リグニン生合成関連遺伝子が、CAD遺伝子であり、
前記機能欠損変異が、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換された変異であることを特徴とする請求項1に記載の植物体の糖化効率の改善方法。
【請求項5】
前記植物体がC3型光合成を行う植物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の植物体の糖化効率の改善方法。
【請求項6】
前記植物体において、葉の中肋部の一部又は全部が、赤褐色に着色されていることを特徴とする請求項5に記載の植物体の糖化効率の改善方法。
【請求項7】
前記植物体がイネであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の植物体の糖化効率の改善方法。
【請求項8】
植物体を構成する少なくとも1以上の細胞のゲノムにおいて、CAD遺伝子が、CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちの少なくとも1のシステイン残基が他のアミノ酸に置換されている変異を有することを特徴とする植物。
【請求項9】
CAD中の構造亜鉛に配位する4つのシステイン残基のうちのN末端側から3番目のシステイン残基が他のアミノ酸に置換されている変異を有することを特徴とする請求項8に記載の植物。
【請求項10】
C3型光合成を行う植物であることを特徴とする請求項8又は9に記載の植物。
【請求項11】
イネであることを特徴とする請求項8又は9に記載の植物。
【請求項12】
バイオマス資源として、少なくとも1種のリグニン生合成関連遺伝子に機能欠損変異を有しており、かつ当該植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量])が、前記機能欠損変異を有していない植物体よりも高い植物体を用いることを特徴とする、バイオマスエタノールの製造方法。
【請求項13】
前記植物体が、請求項8〜11に記載の植物であることを特徴とする請求項12に記載のバイオマスエタノールの製造方法。
【請求項14】
下記(a)〜(d)のいずれかに記載の塩基配列を有するポリヌクレオチド。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列。
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、106番目のフェニルアラニンが、システイン以外の他のアミノ酸に置換されているアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列。
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、106番目のフェニルアラニン以外のアミノ酸のうちの1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、かつ植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量])を高める機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列。
(d)前記(a)〜(c)のいずれかの塩基配列と80%以上の相同性を有し、かつ、植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量])を高める機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列。
【請求項15】
植物体中のクラソンリグニン含有量に対する酸可溶性リグニン含有量の比([酸可溶性リグニン含有量]/[クラソンリグニン含有量])を指標とすることを特徴とする、植物体の易糖化性の評価方法。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図1】
【公開番号】特開2012−191914(P2012−191914A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60087(P2011−60087)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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