説明

植物性素材の単細胞化装置および単細胞化植物の製造方法

【課題】高品質の単細胞化植物を効率良く製造できる装置およびその製造方法を提供する。
【解決手段】この装置は、被処理物である植物性素材を酵素処理により単細胞化する酵素処理ユニットを備える。酵素処理ユニットは、外管と、外管内に配置され、植物性素材と酵素を含む液状混合物が供給される内管と、外管と内管の間の隙間に加熱媒体を導入して内管内を酵素処理に適した温度に保持する酵素処理温度調整部と、内管内においてその軸回りに回転可能に保持される攪拌部材と、内管の一端から他端に向う方向への液状混合物の流量を調整する流量調整部を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素処理により野菜や果実のような植物性素材を単細胞化するための装置、および単細胞化植物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、野菜や果実のような植物性素材を単細胞化して得られる液状物や粉末は、食品や化粧品等の種々の分野において利用されている。例えば、本発明者は、硬い表皮を有する大豆をまるごと単細胞化して大豆特有の臭いがほとんどしない液状加工大豆および粉状加工大豆の開発に成功し、大豆で栄養強化した種々の加工食品という新たな可能性を食品分野にもたらした(例えば、特許文献1)。また、ニンジン、アロエ、フリージア、イリスの根のような植物を単細胞化して得られる単細胞化植物の使用により、保湿効果に優れる皮膚外用材が開発されている(例えば、特許文献2)。さらに、ニンジンやカボチャ等の野菜や、ウメやリンゴなどの果実を単細胞化して得られる液状化物を配合してなる植物成分含有食品も提案されている(例えば、特許文献3)。
【特許文献1】特許公報第3256534号
【特許文献2】特許公報第3142245号
【特許文献3】特許公報第3136295号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記した単細胞化植物の製造においては、野菜や果実の細胞同士を接着している物質を優先的に分解するための酵素処理が行われるが、品質管理の容易性と酵素処理の均一性の観点から、一般にバッチ式の製造装置が採用されている。しかしながら、工業的スケールで単細胞化植物を製造する場合には、大型の処理タンク毎に多量の被処理物を酵素処理に適した温度に保持しなければならず、酵素処理を完了するのに要する時間が長くなる。また、酵素処理後に酵素失活や殺菌の目的で加熱された被処理物を室温程度まで冷却するために要する時間も、処理タンクの容積が増加することで長くなる。一方、中型の処理タンクの数を増やすことで大量生産が可能になるが、製造設備が配置される敷地面積の増大は避けられず、結果的に単細胞化植物の製造コストの上昇を招く。
【0004】
さらに、バッチ式に酵素処理を行う場合、処理量が多くなると、酵素処理の進行にばらつきを生じ、結果的に単細胞化が不均一になる可能性が高くなる。このような単細胞化されずに残留した細胞集団や単細胞された植物細胞の凝集体は、単細胞化植物を飲料等に使用した場合にザラザラした舌ざわりや喉越しの悪さを招いたり、単細胞化植物を化粧品に使用した場合には使用感の劣化を招いたりする恐れがある。
【0005】
このように、雑菌の発生/繁殖を防止しながら、工業的スケールで効率よく単細胞化植物を製造できる装置の開発が待たれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、雑菌の発生を抑制して安定した品質の単細胞化植物を高い製造効率で製造することのできる植物性素材の単細胞化装置を提供することにある。
【0007】
すなわち、本発明の単細胞化装置は、植物性素材を酵素処理により単細胞化する酵素処理部を備えた単細胞化装置であって、酵素処理部は、第1外管と、第1外管内にその軸方向に沿って配置され、植物性素材と酵素を含む液状混合物が供給される第1内管と、第1外管と第1内管の間の隙間に加熱媒体を導入して第1内管内を酵素処理温度に保持する処理温度調整手段と、第1内管内においてその軸回りに回転可能に保持される攪拌部材と、第1内管の一端から他端に向う方向への液状混合物の流量を調整する流量調整手段とを含むことを特徴とする。
【0008】
植物性素材の単細胞化処理をより効率よく完了するため、上記した単細胞化装置は、酵素処理部に連結され、液状混合物中の酵素を失活させる酵素失活部をさらに含み、酵素失活部は、第2外管と、第2外管内にその軸方向に沿って配置され、酵素処理が施された液状混合物が供給される第2内管と、第2外管と第2内管の間の隙間に加熱媒体を導入して第2内管内の温度を酵素処理温度よりも高い酵素失活温度に保持する失活温度調整手段とを含むことが好ましい。
【0009】
さらに、酵素処理後の冷却に要する時間によって製造効率が低下するのを防ぐため、上記した単細胞化装置は、酵素失活部に連結され、酵素失活温度に加熱された液状混合物を冷却する冷却部をさらに含み、冷却部は、第3外管と、第3外管内にその軸方向に沿って配置される第3内管と、第3外管と第3内管の間の隙間に冷却媒体を導入して第3内管に供給された液状混合物を冷却する冷却媒体供給手段とを含むことが好ましい。
【0010】
上記した酵素処理部、酵素失活部および冷却部は、液状混合物が外気に曝されないように(気密に)連結されてなることが特に好ましい。バッチ式の製造装置とは異なり、被処理物を外気にさらすことなく、酵素処理―酵素失活―冷却過程を連続的に行えるので、雑菌の発生を抑制しながら、短時間で高品質な単細胞化植物を得ることができる。また、酵素処理温度への速やかな加熱と、失活処理温度に加熱された被処理物の速やかな冷却を行う観点から、酵素処理部の第1内管の内径は、冷却部の第3内管の内径よりも小さく設計することが好ましい。
【0011】
酵素失活部における液状混合物の流量を、酵素処理部とは個別に設定する必要がある場合は、酵素処理部と酵素失活部との間に中継用タンクを設け、酵素失活部は、第2内管の一端から他端に向う方向への液状混合物の流量を調整する流量調整手段をさらに含むことが好ましい。同様に、冷却部における液状混合物の流量を、酵素失活部とは個別に設定する必要がある場合は、酵素失活部と冷却部との間に中継用タンクを設け、冷却部は、第3内管の一端から他端に向う方向への液状混合物の流量を調整する流量調整手段をさらに含むことが好ましい。これらの場合は、被処理物の種類に応じて、より最適な条件設定を行えるので、さらなる製造効率の向上を達成できる。
【0012】
また、上記した単細胞化装置は、単細胞化された植物細胞の凝集体の大きさを均質化する均質化手段をさらに含むことが好ましい。この場合は、単細胞化植物を飲料等に使用した場合におけるザラザラした舌ざわりや喉越しの悪さ、あるいは単細胞化植物を化粧品に使用した場合における使用感の劣化を防止するのに特に効果的である。
【0013】
また、上記した単細胞化装置は、単細胞化された植物細胞を含有するスラリーを乾燥粉末化する粉体化手段をさらに含むことが好ましい。粉体化することで、重量を軽減できるとともに、単細胞化植物の品質保持期間を延長できる。
【0014】
本発明のさらなる目的は、上記と同じ観点から、植物性素材の単細胞化植物の製造方法を提供することにある。
【0015】
すなわち、この製造方法は、植物性素材の単細胞化装置を使用して実施され、単細胞化装置は植物性素材を酵素処理して単細胞化する酵素処理部を備える。酵素処理部は、第1外管と、第1外管内にその軸方向に沿って配置され、植物性素材と酵素を含む液状混合物が供給される第1内管と、第1外管と第1内管の間の隙間に加熱媒体を導入して第1内管内を酵素処理温度に保持する処理温度調整手段と、第1内管内においてその軸回りに回転可能に保持される攪拌部材と、第1内管内における液状混合物の流量を調整する流量調整手段とを含む。しかるに、酵素処理は、液状混合物を第1内管の一端から他端に向けて移動させながら、40〜60℃の温度範囲で実施されることを特徴とする。
【0016】
植物性素材の単細胞化処理をより効率よく完了するため、上記した製造方法に使用される単細胞化装置は、酵素処理部に連結され、液状混合物に酵素失活処理を施す酵素失活部をさらに含み、酵素失活部は、第2外管と、第2外管内にその軸方向に沿って配置され、酵素処理が施された液状混合物が供給される第2内管と、第2外管と第2内管の間の隙間に加熱媒体を導入して第2内管内の温度を酵素処理温度よりも高い酵素失活温度に保持する失活温度調整手段とを含み、酵素失活処理は、液状混合物を第2内管の一端から他端に向けて移動させながら、90〜150℃の温度範囲で実施されることが好ましい。
【0017】
さらに、酵素処理後の冷却に要する時間によって製造効率が低下するのを防ぐため、上記した製造方法に使用される単細胞化装置は、酵素失活部に連結され、酵素失活温度に加熱された液状混合物に冷却処理を施す冷却部をさらに含み、冷却部は、第3外管と、第3外管内にその軸方向に沿って配置される第3内管と、第3外管と第3内管の間の隙間に冷却媒体を導入して第3内管に供給された液状混合物を冷却する冷却媒体供給手段とを含み、冷却処理は、液状混合物を第3内管の一端から他端に向けて移動させながら実施されることが好ましい。冷却温度としては、例えば、50℃以下、好ましくは40℃以下に冷却することが好ましい。
【0018】
本発明の製造方法において単細胞化される植物性素材の種類は限定されないが、例えば、人参、ピーマン、セロリ、カボチャ、タマネギ、ほうれん草、ニンニク、ヨモギ、ワカメ、朝鮮人参、モロヘイヤ、トマト、ゴーヤ、ブロッコリー、オクラ、ジャガイモ、大豆、リンゴ、オレンジ、イチゴ、ブドウ、レモン、キウイ、桃、グァバ、プルーン、アボガド、メロン、梅、バナナ、ケール、パパイアから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0019】
また、本発明の製造方法において使用される酵素は、植物性素材が果実類である場合、ペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、α−アミラーゼ、インベルターゼおよびグルコースソメラーゼから選択される少なくとも1種を使用することが好ましく、植物性素材が野菜類である場合は、ペクチナーゼ、セルラーゼ、プロテアーゼ、キシラナーゼ、ヘミセルラーゼ、フィターゼおよびガラクトシダーゼから選択される少なくとも1種を使用することが好ましい。尚、酵素は、処理される植物性素材の種類に応じて適宜決定されればよい。
【0020】
本発明のさらに別の目的は、上記した単細胞化植物の製造方法により得られる単細胞化植物を提供することにある。
【0021】
本発明のさらなる特徴およびそれによってもたらされる効果は、添付図面を参照しながら、以下の好ましい実施形態に基づいてさらに明確になるだろう。
【発明の効果】
【0022】
本発明の単細胞化装置および単細胞化植物の製造方法によれば、安定した品質の単細胞化植物を効率よく製造することができる。また、製造過程で生じた排水等を再利用して廃棄物をほとんど出さない、いわゆるゼロエミッションプロセスにより植物性素材である野菜や果実をまるごと単細胞化することができる。このように、環境保全の観点からも時代のニーズに適した製造技術であると言える。さらに、均質化処理を併用する場合は、単細胞化された植物細胞の凝集体の大きさを均質化でき、舌触りやのど越しの良い単細胞化植物含有飲料の製造に特に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明にかかる植物性素材の単細胞化装置および単細胞化植物の製造方法を好ましい実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0024】
本発明における被処理物としての植物性素材とは、野菜、果実、海藻等の植物由来の素材を意味し、特に限定されないが、例えば、人参、ピーマン、セロリ、カボチャ、タマネギ、ほうれん草、ニンニク、ヨモギ、ワカメ、朝鮮人参、モロヘイヤ、トマト、ゴーヤ、ブロッコリー、オクラ、ジャガイモ、大豆、リンゴ、オレンジ、イチゴ、ブドウ、レモン、キウイ、桃、グァバ、プルーン、アボガド、メロン、青梅、バナナ、青汁の原料であるケール、パパイア、スターフルーツ等の熱帯果物を挙げることができる。
【0025】
本発明の好ましい実施形態にかかる単細胞化装置は、図1に示すように、植物性素材自体に含まれる酵素を失活させるための熱処理等を行う前処理ユニット1と、植物性素材に酵素処理を施して単細胞化する酵素処理ユニット2と、酵素処理ユニットで使用した酵素を加熱により失活させる酵素失活ユニット3と、酵素失活ユニットで加熱された単細胞化植物を冷却する冷却ユニット4と、単細胞化された植物細胞の凝集体の大きさを均質化する均質化ユニット5と、均質化ユニットから提供される単細胞化植物含有スラリーを乾燥粉末化する乾燥ユニット6とで構成される。ここに、酵素処理ユニット2、酵素失活ユニット3および冷却ユニット4は、被処理物が外気に曝されないように気密に連結され、単細胞化、酵素失活、冷却を連続的に行えるようにしてある。これにより、単細胞化植物の製造における重要な工程を被処理物の酸化等の汚染を防止しながら連続的に行うことができ、結果的に製造効率の大幅な向上を図れる。
【0026】
尚、前処理ユニット1を酵素処理ユニット2と気密に連結したり、均質化ユニット5を冷却ユニット4と気密に連結したりすることも好ましい。また、被処理物の種類に応じて、前処理ユニット1を省略してもよい。均質化ユニット5は、得られた単細胞化植物を飲料や化粧品材料に使用する場合に特に有効であるが、単細胞化植物を他の食材と混合して使用する場合は均質化工程を省略して製造コストの低減を図ることが好ましい。さらに、液状単細胞化植物を最終製品とする場合は、乾燥ユニット6を省略することができる。以下、単細胞化装置の各構成について詳述する。
(1)前処理ユニット
酵素処理前に必要に応じて行われる前処理は、植物性素材が比較的硬い表皮で覆われていたり、全体的に硬い組織で形成されていたりする場合に有用である。すなわち、植物性素材の表皮細胞同士を結合させている細胞間物質を軟化させて、後の酵素処理を進行させやすくなる。また、植物性素材自体に含まれる酵素を失活させる目的もある。具体的には、前処理として、60〜150℃、より好ましくは100〜120℃で熱処理を行うことが好ましい。熱処理時間は、熱処理温度に応じて適宜設定されるが、例えば、5分〜1時間、より好ましくは10〜30分程度である。前処理を行うための装置に特に限定はないが、製造効率を向上する観点から、圧力釜等を使用して短時間で熱処理を完了することが好ましい。特に、熱処理として蒸煮処理を行うことが好ましい。ここに、蒸煮とは、植物性素材を高温で比較的短時間蒸し、または煮ることを言う。蒸煮条件としては、例えば、圧力鍋等を用いて、100〜150℃(好ましくは120℃)で、2〜20分(好ましくは5〜10分間)の処理条件を例示できる。
【0027】
尚、前処理には、後述の酵素処理効果を高める目的以外に、浸漬処理、植物性素材を所定の大きさに裁断する加工処理、殺菌処理、洗浄処理等の酵素処理前に行うことが好ましいとされる一連の処理も含まれる。ここに、浸漬処理とは、実質的に植物性素材の組織を変質させることなく、水に一定時間浸しておく処理のことを言う。浸漬処理は植物性素材が野菜類である場合に有効である。例えば、野菜類の体積に対して2〜8倍量の30〜60℃の水または温水に30分〜18時間(好ましくは12〜15時間)浸漬処理することが好ましい。
(2)酵素処理ユニット
本発明の酵素処理ユニット2は、図1および図2に示すように、外管10と、外管内に配置され、被処理物と酵素を含む液状混合物が供給される内管12と、外管と内管の間の隙間14に加熱媒体を導入して内管内を酵素処理温度に保持する処理温度調整部20と、内管の軸回りに回転可能に内管内に保持される攪拌部材70と、第1内管における液状混合物の流量を調整する流量調整部22とで構成される。
【0028】
外管10及び内管12は、被処理物の加熱を迅速に行えるように熱伝導率の高い材料で形成されることが好ましい。また、被処理物には酸性度の高い植物性素材も含まれるので、耐食性に優れる材料を使用することが好ましい。このような材料としては、例えば、銅、銅合金、ステンレス鋼などを例示できる。また、内管12の内径は、単細胞化植物の生産量に基づいて適宜決定される。内管12の一端部付近には、酵素と植物性素材の液状混合物が供給される供給口が設けられるが、必要に応じて、植物性素材の供給口とは個別に酵素供給口を設けてもよい。また、酵素処理は、内管12内において液状混合物を移動させながら行われるので、内管12の全長は酵素処理が内管内を移動する間に完了するように決定される。例えば、図3に示すように、一定距離進むごとにUターンするような単位経路を2次元もしくは3次元的に張り巡らして内管12および外管10を形成すれば、単細胞化装置の設置面積を少なくしながらも、内管12内における液状混合物の十分な移動距離を確保することができる。
【0029】
内管12内に回転可能に保持される攪拌部材70は、内管12内の温度分布を均一化するだけでなく、植物性素材からの植物単細胞の離脱を促進し、酵素を植物性素材の深部に効率よく浸透させる。攪拌部材70は、処理される植物性素材に応じて種々の形状を採用することができるが、例えば、図4(a)に示すようなスパイラル状(螺旋状)の攪拌翼71を円柱状シャフトの外表面に設けた攪拌部材70の使用が有効である。また、攪拌効果のさらなる向上を図るため、図4(b)や図4(c)に示すように、スパイラル状の攪拌翼71と複数の棒状突起72や円錐状突起73を円柱状シャフトの外表面に設けた攪拌部材70の使用も好ましい。さらに、図4(d)に示すように、突出量の異なる2種類のスパイラル状の攪拌翼(71、74)を円柱状シャフトの外表面に形成した攪拌部材70の使用や、図4(e)に示すように、円柱状シャフトの外表面上に所定のピッチで複数の半円形状の突出片75を交差するように設けた攪拌部材70の使用も好ましい。さらに、細長板をその長手軸回りにねじることで形成される螺旋状の攪拌翼76を有する攪拌部材70の使用も好ましい。これらの攪拌部材70は、後述する実施例において使用されている。
【0030】
攪拌部材70は、液状混合物の内管12内の移動によって受動的に回転するものであってもよいし、外部に駆動部24を設け、攪拌部材70を積極的に回転駆動させてもよい。図1においては、酵素処理ユニット2にのみ駆動部24を設け、酵素失活ユニット3および冷却ユニット4においては、内管内に攪拌部材70を回転可能に保持しているだけである。この場合、攪拌部材70は、内管12内を移動する液状混合物が攪拌部材に接触することで回転力が得られるような形状に形成される。尚、攪拌部材70を回転させる場合は、野菜類や果実類の細胞を破壊しないように比較的ゆっくりした速度(例えば、20〜60回転/分程度)を採用することが好ましい。
【0031】
流量調整部22は、内管12内に液状混合物の所定の流動状態を提供する。すなわち、流量調整部22としては、前処理ユニット1で前処理された植物性素材と酵素を含む液状混合物を所定の流量で内管12の一端部に注入する構成や、内管12の他端部に設けたポンプ等の吸引装置により所定量の液状混合物を内管内に吸引する構成を採用することができる。また、液状混合物の流量調節は、バルブの開口量を変化させたり、吸引装置や加圧注入装置の動作を制御したりすることによって行える。また、上記したように、駆動部24により攪拌部材70を強制的に回転させる場合は、攪拌部材70の回転速度を変化させて内管内における液状混合物の流量を制御してもよい。尚、内管12内における液状混合物の流量は、植物性素材の種類、液状混合物の粘性、植物性素材の大きさおよび量に基づいて適宜決定される。
【0032】
外管10と内管12の間の隙間14には、処理温度調整部20により加熱媒体として温水が循環供給され、内管12内を酵素処理温度に保持できるようになっている。また、上記した攪拌部材70により内管12内に供給された液状混合物を攪拌する(植物細胞をほぐす)ことで、内管12内の液状混合物はより効率よく酵素処理温度に到達させることができる。
【0033】
上記した酵素処理ユニット2で実施される酵素処理は、40〜60℃の酵素処理温度に保持された内管12内において、被処理物を内管の一端から他端に向けて所定流量で移動させながら実施される。酵素処理では、果実類や野菜類を酵素と反応させ、その表皮や細胞同士を結合させている細胞間物質を分解することにより、原料植物性素材を機械的に粉砕することなく、個々の細胞を健全な状態のままで分離し、単細胞化する。被処理物として、野菜類に酵素処理を行う場合は、例えば、ペクチナーゼ、プロテアーゼ、キシラナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、フィターゼおよびガラクトシダーゼからなる群より選ばれる少なくとも1種の酵素を使用することが好ましく、果実類に酵素処理を行う場合は、例えば、ペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、α−アミラーゼ、インベルターゼ、グルコースソイメラーゼからなる群より選ばれる少なくとも1種の酵素を使用することが好ましい。
【0034】
ペクチナーゼは、例えば、野菜類の細胞同士を結合するペクチン質であるプロトペクチンに対して効果的に作用し、細胞壁を破壊することなく細胞同士を効果的に分離する。本発明の酵素処理に好適なペクチナーゼとしては、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属の微生物により産生されるものを使用することが好ましい。セルラーゼおよびヘミセルラーゼは、酵素処理時間をより一層短縮し、処理中に雑菌が発生・増殖する可能性を低減し、コストダウン・生産性向上を図るのに効果的である。特に、ヘミセルラーゼは、細胞分散性の改善、細胞の形態保持等の効果が得られる点で好ましい。本発明の酵素処理に好適なセルラーゼおよびヘミセルラーゼとしては、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属やトリコデルマ(Trichoderma)属の微生物により産生されるものの使用が好ましい。なかでも、トリコデルマ属の微生物により産生されるものは、酵素処理を中性域で行うことができるため、pH調整剤等を使用する必要が無く、味および品質ともに良好な加工野菜類を安定して得ることができるという長所がある。フィターゼおよびガラクトシダーゼは、野菜類食物繊維の遊離、細胞分散性の改善、細胞の形態保持等の効果がある。本発明の酵素処理に好適なフィターゼおよびガラクトシダーゼとしては、アスペルギルス属の微生物により産生されるものが好ましい。キシラーゼを使用する場合は、トリコデルマ属より産生されるものの使用が好ましい。
【0035】
酵素処理は、植物性素材に水と酵素を加えた液状混合物の状態で通常行われるが、果汁等の水分含有量の多い果実類に酵素処理を行う場合は水を添加せずに行える場合がある。酵素処理における酵素の添加量は、原料である植物性素材に対して、0.005〜1.0重量%とすることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.2重量%である。尚、2種以上の酵素を用いる場合は、それらの合計添加量が上記範囲を満たすようにする。上記酵素添加量が少なすぎる場合は、野菜類を十分均質に細胞化することができず、また酵素処理に長時間を要する恐れがあり、逆に多すぎる場合は、添加量に見合う処理効果が得られず、製造コストの上昇を招く恐れがある。尚、酵素添加前に被処理物である植物性素材を上記酵素処理温度にしておくことが処理効率向上の観点から好ましい。
【0036】
酵素処理をバッチ式に行う場合、タンク容積によっては酵素処理時間として数時間を要するが、本発明の酵素処理ユニット2を使用すれば、攪拌部材70による攪拌効果に加え、被処理物と酵素を含む液状混合物を流動させながら酵素処理を行うことで、酵素処理効率を大幅に向上することができ、バッチ式の場合に数時間かかる処理量を数十分程度で完了することができる。
(3)酵素失活ユニット
次に、酵素処理により単細胞化された植物性素材を含む液状混合物は、酵素失活ユニット3に送られる。酵素失活ユニット3では、酵素作用を失活させるための熱処理が行われ、酵素処理ユニット2と同様に、外管と、外管内に配置される内管と、外管と内管の間の隙間に加熱媒体を導入して内管内を酵素失活温度に保持する失活温度調整部30とで主として構成される。
【0037】
酵素失活処理は、液状混合物を約90〜150℃に加熱して行われる。従って、酵素失活ユニット3では、液状混合物を酵素処理温度から酵素失活温度まで昇温するとともに、酵素失活温度に達した液状混合物を一定時間(例えば、3分程度)保持する必要がある。保持時間は、一般に失活温度が高いほど短くなる。また、酵素処理の場合のように、内管内に攪拌部材を設けなくてもよいが、熱伝達を改善して酵素失活処理に要する時間をさらに短縮することが必要な場合は、図1に示すように、酵素処理ユニットで使用したのと同様の攪拌部材70を酵素失活ユニットの内管内に回転可能に配置してもよい。外管と内管の間の隙間に導入される加熱媒体としては、加圧蒸気を使用することが好ましい。
【0038】
また、酵素処理ユニットと酵素失活ユニットとの間に必要に応じて熟成部を設けても良い。熟成部は、酵素をより一層緻密かつ均一に作用させるために熟成を行うためのものである。例えば、50℃で15〜60分間静置することで熟成させる。熟成時に攪拌を行う場合は、20〜30回転/分程度の攪拌速度で約15分間程度行えばよく、熟成に要する時間を短縮できる。
(4)冷却ユニット
次に、酵素失活ユニット3で加熱された液状混合物は冷却ユニット4に送られ、50℃以下、好ましくは40℃以下に急速に冷却される。冷却ユニット4は、酵素処理ユニット2や酵素失活ユニット3と同様に、外管と、外管内に配置される内管と、外管と内管の間の隙間に冷却媒体を導入することで内管内の単細胞化植物を冷却する冷却媒体供給部40とで主として構成される。放熱効果を高めて冷却時間を短縮する観点から、図1に示すように、内管内に攪拌部材を設けることが好ましい。尚、攪拌部材としては、酵素処理ユニットで使用した攪拌部材70と同じものを使用でき、必要に応じて、酵素処理ユニット2や酵素失活ユニット3で使用したのと異なるタイプのものを使用してもよい。また、冷却ユニット4の内管の内径は、酵素処理ユニット2の内管の内径よりも大きいことが好ましい。従来は酵素失活温度に加熱された単細胞化植物を室温付近に冷却するのに非常に長時間を要していたが、本発明の冷却ユニット4によれば、酵素失活ユニット3から供給されてくる酵素処理済みの液状混合物を攪拌しながら連続的に冷却することで冷却時間の大幅な短縮を達成できる。
(5)均質化ユニット
本実施形態においては、冷却ユニット4で室温程度に冷却された液状混合物は、後処理としての均質化ユニット5に送られ、ここで単細胞化された植物細胞の凝集体の大きさを均質化する均質化処理が実施される。本明細書において、「均質化」とは、植物性素材の単細胞化された細胞が凝集した細胞集団の粒径を均一にすることを意味する。酵素処理後の単細胞化植物は、個々の単細胞に分解されたもの以外に、一旦単細胞にまで分解された細胞が再び凝集して任意の大きさの細胞集団を形成したものや、完全に単細胞化されずに弱く結合しあった複数の細胞でなる塊等が存在する。従って、このままでは、種々の大きさの細胞凝集体が存在し、粒径のばらつきが大きいため、単細胞化植物を飲料等に添加する場合は、舌触りや喉越し感の低下を招く恐れがある。そこで、このような粒径のばらつきが大きい不均質な細胞凝集体に対し、均質化処理を施すことで、細胞そのものを破壊することなく、その健全な状態を保ったままで細胞凝集体の粒径を均一化して前記した問題点の解消を図ることができる。この場合、均質化された単細胞化植物においては、その細胞凝集体を構成する単細胞の数は20個以下であることが好ましく、より好ましくは3個以下である。また、細胞集団を構成する個々の細胞においては、部分的に細胞壁の破損が生じていたとしても、野菜類のビタミン、ミネラル、繊維類が健全な状態に保たれていれば許容範囲内とみなせる。
【0039】
均質化ユニット5としては、例えば、ホモゲナイザー、マスコロイダー、コミトロール、コロイドミルおよびマイクロ粉砕機などを用いることができ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、ホモゲナイザーを用いる場合は、プランジャーポンプとバルブとの組み合わせにより、液状の加工果実類内にせん断、衝突およびキャビテーション等の複合作用を瞬間的に発生させて均質な乳化状態を作り、浮遊や沈殿を防いで短時間で均質化効果を得ることができる。
【0040】
均質化処理の条件は、所望の粒径に均一化された細胞凝集体が得られるように使用する機器に応じて適宜設定されればよく、特に限定されないが、例えば、均質化処理時の圧力条件を低圧とすることが好ましい。ここに、「低圧」とは、具体的には、50Pa以下であることが好ましく、より好ましくは20Pa以下、さらに好ましくは5Pa以下である。このように、均質化処理を低圧下で行うようにすると、細胞同士を分離しやすくなり、ひいては均質機による粒径調整(粒度調整)をより一層容易にすることができる。均質化処理は植物性素材が果実の場合に特に有効で、均質化処理を行う場合は、酵素処理前の蒸煮等の前処理を省略できるという長所もある。
(6)乾燥ユニット
本実施形態の単細胞化装置によれば、均質化ユニット5で処理された液状混合物を液状単細胞化植物(スラリー状あるいはピューレ状)として提供できるが、最終製品として単細胞化植物の粉末が必要とされる場合は、液状混合物が乾燥ユニット6で粉末化される。乾燥ユニット6としては、例えば、気流乾燥、スプレードライヤーあるいは凍結乾燥等を採用することが好ましく、十分に且つ均質な粉状のものが得られる点で、スプレードライヤーの使用が特に好ましい。気流乾燥とは、乾燥製品が粉粒体となる材料で、湿潤時に糊泥状あるいは粉粒状のものを急速に流れる熱気流中に分散させ、熱気流と並流に送りながら迅速に乾燥することを意味し、例えば、フラッシュドライヤーとして知られる装置を用いて行うことができる。尚、乾燥ユニット6の代わりに、冷却ユニット4もしくは均質化ユニット5から提供される未乾燥の液状単細胞化植物を保存等のために冷凍する工程や、レトルト殺菌(例えば120℃で20分)するためのユニットを設けても良い。
【0041】
上記した単細胞化装置においては、被処理物を含有する液状混合物を酵素処理ユニット2に注入した後、そのままの流量で酵素失活ユニット3および冷却ユニット4を移動させてもよいが、この場合は、酵素失活ユニット3や冷却ユニット4の内管の全長を所望の効果を達成できるように設計する必要がある。一方、被処理物の種類や処理条件に応じて、酵素失活ユニット3や冷却ユニット4における液状混合物の流量を酵素処理ユニット2における液状混合物の流量とは異なる流量としたい場合は、酵素失活ユニット3および/もしくは冷却ユニット4に酵素処理ユニット2とは個別に流量調整手段を設けるとともに、酵素処理ユニット2と酵素失活ユニット3の間、もしくは酵素失活ユニット3と冷却ユニット4との間に中継用タンクを設けることが好ましい。例えば、酵素失活ユニット3内における液状混合物の流量を、酵素処理ユニット2内における液状混合物の流量より大きくする場合は、図3に示すように、酵素処理ユニット2から供給される液状混合物を中継用タンク7に一旦貯めた後、酵素失活ユニット3の流量調整手段により所定の流量に調節して酵素失活ユニット3の内管を通過させることが好ましい。この時、中継用タンク7に液状化合物の一定量が貯まるまでの待ち時間の間に加熱手段(図示せず)により液状化合物を予熱しておけば、酵素失活ユニット3で液状混合物をより迅速に酵素失活温度に到達させることができる。一般に、酵素処理において要する時間は酵素失活処理に比べて長いので、このように、中継用タンク7を設け、酵素処理ユニット2、酵素失活ユニット3および冷却ユニット4のそれぞれにおいて個別に流量を調整できるようにすることで、種々の被処理物に最適な処理条件の設定自由度を高めることができる。
【0042】
次に、上記した本発明の単細胞化装置を使用して得られる単細胞化植物の特徴について説明する。近年、野菜類や果実類に多く含まれるビタミン、ミネラル及び食物繊維等が健康に重要な成分として注目されているが、これらの植物性素材を丸ごと単細胞化して得られる単細胞化植物は、液状か粉状かを問わず、非常に機能性・応用性に優れたものである。液状(スラリー状、ピューレ状)の単細胞化植物の場合は、20℃での粘度が5ポイズ以上であることが好ましく、より好ましくは8ポイズ以上、さらに好ましくは20ポイズ以上、特に好ましくは20〜80ポイズ、最も好ましくは40〜50ポイズである(また、50℃での粘度は、3ポイズ以上であることが好ましく、より好ましくは5ポイズ以上、さらに好ましくは10ポイズ以上、特に好ましくは10〜50ポイズ、最も好ましくは15〜25ポイズである)。上記粘度範囲が満たされる場合は、なめらかな舌触りや喉越しを有する加工果実類等を得ることができる。ここに、粘度は、TV-20形粘度計((株)トキメック製、測定レンジ:H、容器:300mLビーカー、ローター:No.7、スピード:100rpm)により測定した値である。
【0043】
また、本発明の単細胞化植物においては、その1cm3中に含まれる細胞数が1万個以上であることが好ましく、より好ましくは10万個以上、さらに好ましくは50万個以上である。
【0044】
本発明の単細胞化植物の更なる特徴として、臭気の低減効果を挙げることができる。例えば、果実類や野菜類には人参、ピーマン、ニンニク、ゴーヤ等の強い臭いを発するものがある。本発明の単細胞化植物は、粉砕等で細胞が破砕された加工野菜類に比べ、上記臭気の発生が極めて低いレベルに抑えられ、これまでその臭いの強さのために摂取できなかった人にも食べやすいもしくは飲みやすい食品素材として提供することができる。
【0045】
さらに、本発明の単細胞化植物は、糖尿病患者にとって適した食材であることも解ってきた。例えば、機械的に破砕した大豆を摂取する場合は、大豆細胞壁が壊れているため内部の栄養分が速やかに消化され、血糖値の急上昇を招きやすい。これに対して、単細胞化大豆の場合は、各細胞内部に栄養分が保持された状態で摂取されるので消化が徐々に進み、結果的に血糖値の上昇を緩やかにすることができるのである。
【0046】
また、本発明の単細胞化植物は、他の食品素材と混合して使用することで、従来の加工食品の味や食感を低下させることなく、栄養価を高めることができるという効果もある。本発明の単細胞化植物を含有する食品に制限はないが、例えば、小麦粉利用食品、加工肉食品、大豆食品や大豆タンパク含有食品等が挙げられる。小麦粉利用食品としては、例えば、食パン、ロールパン、ハンバーガーバンズおよびイングリッシュマフィン等のパン類や、シリアル、クラッカー、ビスケット、ホットケーキ、カステラおよびスポンジ等の菓子類や、うどん、そば、中華そば、素麺、各種パスタ(スパゲッティ、マカロニ、ペンネ、フィットチーネ等)およびビーフン等の麺類や、その他、ピザ生地、ナンなどが挙げられる。加工肉食品としては、例えば、ハンバーグ、ミートボール、ハムおよびウインナー等が挙げられる。大豆食品や大豆タンパク含有食品としては、例えば、豆腐、豆乳および豆乳ヨーグルト等が挙げられる。
【0047】
その他、例えば、こんにゃくゼリー等のダイエット食品、クリーム、味噌、動物性チーズ、植物性チーズ、マヨネーズ、ドレッシング、健康食品、タブレット、錠剤、餡、プリン、ゼリー、ジャム、カレー、アイスクリーム、シャーベットおよびジェラート等の食品に単細胞化植物を添加することも好ましい。消費者は、栄養価の高い野菜類の成分を、野菜類独特の匂いを気にすることなく、且つ異なる味覚や食感を楽しみながら摂取することができる。また、このような天然素材で栄養強化された食品は、ベビーフードや介護食としての利用も期待される。
【0048】
本発明の単細胞化植物は、保湿材、給水材、あるいは弾力性付与材としても使用できる。これらは、いわゆる改質材料として使用され、他の素材や材料中に含有させることで、それぞれ目的とする物性の付与・向上を達成することができる。尚、単細胞化植物の形態は、各種用途に応じてスラリー状であっても粉状であってもよい。また、本発明の保湿材、給水材、弾力性付与材においては、単細胞化植物の添加効果が著しく損なわれない範囲において、他の成分を含んでいてよい。保湿材としては、例えば、パン等の素材・材料に用いられる。これにより、ソフトでジューシーなパンになるという効果が得られる。また、給水材としては、例えば、小麦粉等の素材・材料に用いられる。一例として、麺類に用いた場合は、互いに付着し合うことが少なくなるという効果が得られる。弾力性付与材としては、例えば、パンやハンバーグ等の素材・材料に用いられる。これにより、食感が良くなるといった効果が得られる。さらに、本発明の単細胞化植物を臭い低減材として使用する場合は、例えば、チーズや納豆等の素材・材料に配合することでその臭い低減効果を得ることができる。
【0049】
また、本発明の単細胞化植物を含有する飲料に制限はないが、例えば、野菜ジュース、果物ジュース、お茶、清涼飲料、スープ等が挙げられる。野菜ジュースとしては、例えば、トマトジュース、ほうれん草ジュース、モロヘイヤジュース、人参ジュースおよび各種野菜のミックスジュース等が挙げられる。果物ジュースとしては、例えば、オレンジジュース、レモンジュース、りんごジュースおよび各種果物のミックスジュース等が挙げられる。清涼飲料としては、例えば、スポーツドリンクや無果汁ドリンク等が挙げられ、スープとしては、例えば、各種ポタージュスープ、コンソメスープ、中華風スープ、根菜の冷製スープ、とんこつスープ、鶏がらスープおよび味噌汁等が挙げられる。その他、ミネラルウォーター等の水、コーヒー、乳飲料、豆乳、滋養強壮ドリンク等に単細胞化植物を添加することも好ましい。消費者は、このような栄養価の高い飲料を朝食やおやつとして手軽に摂取することができる。
【0050】
例えば、従来の野菜ジュースや果実ジュースと比較した場合、本発明の単細胞化植物含有する飲料は以下の長所を有する。従来の野菜ジュースは、野菜の絞り粕を1/5に濃縮したものを仕入れ、工場で水を加えたものを100%ジュースとしたものが多く、絞った野菜の粕の中に食物繊維や栄養価の高い微量成分が多く含まれている。近年の野菜ジュース需要からみると多くの野菜汁の絞り粕量も相当量に達し、野菜加工工場では、加工後に出る粕の廃棄処理に莫大な費用がかかっている。果実に関しても、海外産の濃縮果汁が数多く輸入されているが、全体の約50%にも達する相当量の栄養成分が廃棄される粕に含まれている。例えば、市販されているリンゴ濃縮還元ジュース、ストレートリンゴ果汁、本発明の製造方法で製造された単細胞化リンゴの分析結果を比較すると、リンゴのもつ栄養成分であるペクチン(可溶性、不溶性)については、単細胞化リンゴにおいて既存のジュースや果汁の10〜20倍、食物繊維については15倍である。このように、野菜や果実の従来の加工技術においては、粕の廃棄に莫大な費用がかかるにもかかわらず、その栄養価の高い部位が失われているのが現状である。これに対して、本発明の単細胞化装置を使用すれば、植物性素材をまるごと単細胞化植物に効率よく変換することができるので、廃棄に関する問題を解消できるとともに、栄養価の高い部位についても廃棄することなく有効に活用することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。尚、これらの実施例は本発明の一例を示すものであって限定を意図するものではない。
(実施例1)
図1に示す単細胞化装置を使用して、ニンジンを単細胞化処理した場合について説明する。本実施例では、酵素処理ユニット2の攪拌部材として、図4(a)のものを使用し、この攪拌部材70を内管12内において強制的に回転(40回転/分)させた。また、酵素失活ユニット3には攪拌部材を設けていないが、冷却ユニット4には図4(e)のものを回転可能に設けるとともに、冷却ユニット3の内管(φ65mm)として、酵素処理ユニット2の内管(φ50mm)よりも内径の大きいものを使用した。
【0052】
被処理物には、水洗後に5ミリ程度にカットした人参200kgを使用した。これに水50kgと酵素を添加して液状混合物とした。酵素処理に使用した酵素は、ヘミセルラーゼ(シグマ社製)、フィターゼ(シグマ社製)およびガラクトシダーゼ(シグマ社製)であり、酵素の合計添加量は、原料ニンジンに対して0.1wt%である。また、酵素処理温度は50℃であり、処理時間は約15分である。酵素失活温度は、130℃であり、処理時間は約1〜2分である。次いで、冷却ユニット4で40℃まで冷却後、ホモゲナイザーを用いて均質化した(処理圧力:50Pa)。これにより、スラリー状の液状単細胞化ニンジンを得た。得られた液状単細胞化ニンジンの半分量をスプレードライヤーで乾燥粉末化して、粉状単細胞化人参を得た。
【0053】
得られた単細胞化ニンジンの顕微鏡写真を図5に示す。得られた液状単細胞化ニンジンについて、1cm3中に含まれる細胞数を血球計測板によって測定した結果、85万個であった。また、液状単細胞化ニンジンの粘度を、粘度計((株)トキメック製、製品名:TV-20形、測定レンジ:H、容器:300mLビーカー、ローター:No.7、スピード:100rpm)を用いて測定した結果、20℃での粘度は43.8ポイズ、50℃での粘度は20ポイズであった。また、粉状単細胞化ニンジンについて、その5wt%懸濁液を調製し、1cm3中に含まれる細胞数を血球計測板によって測定した結果、55万個であった。
【0054】
本実施例で得られた粉状単細胞化ニンジンを使用して食パンを作製した。まず、表1に示す配合割合となるように秤量した各原材料を、攪拌装置を搭載した容器(関東ミキサー社製、製品名:CS-30)に仕込み、捏上温度29℃でミキシングして、パン生地を得た。
【0055】
【表1】

【0056】
得られたパン生地を70分間発酵させた後、生地を6つに分割した。ベンチタイムを15分とし、パンケースへの型詰めをした(3分)後、38℃、相対湿度80%のホイロ内で40分間保持した。次いで、オーブン((株)ベーカーズプロダクション製、15kW)内で、下火は210℃、上火は始めの15分が160℃でその後30分が210℃となるようにして、パン生地を焼成し、単細胞化ニンジン含有食パンを得た。一方、上記した食パンの作製において、単細胞化ニンジンを使用しない点と、イーストの配合量を3.5wt%にし(発酵速度を単細胞化ニンジン含有食パンの場合と合わせるため)、水の配合量を66wt%にし、捏上温度を28℃にし、発酵時間を80分にした点以外は同様にして比較用食パンを得た。このようにして得られた食パンについて以下の評価を実施した。
(1)保水性の評価
本実施例では、単細胞化ニンジン含有食パンの作製時に、比較用食パンの作製時よりも水を多く使用しているが、この水分増加率を差し引いても、単細胞化ニンジン含有食パンでは比較用食パンに比べ、小麦粉に対する水分の割合が6wt%高かった。これは、使用した単細胞化ニンジン内に蓄えられた細胞内水分(いわゆるセルウォーター)に起因するものと考えられる。この結果から、実施例1で得られた単細胞化ニンジンは、保水材として優れた効果を発揮することがわかった。
(2)弾力性の評価
食パンの中央付近の軟らかい部分を、厚み約13mmにスライスしてサンプルとした。このサンプルを50%の厚さまで加圧するために要する荷重の値をもって、当該食パンの弾力性(やわらかさ)を評価した(破断強度試験)。荷重の値が小さい方が、弾力性に優れていると言える。単細胞化ニンジン含有食パンおよび比較用食パンについて、上記条件による破断強度試験を行い、弾力性(やわらかさ)を比較した。その結果、単細胞化ニンジン含有食パンの荷重値が412kgfであったのに対し、比較用食パンの荷重値は438kgfであり、単細胞化ニンジン含有食パンの方が弾力性に優れていることが確認された。
【0057】
また、単細胞化ニンジン含有食パンと比較用食パンのやわらかさを、被験者10人による試食により試験した。その結果、10人中9人が、単細胞化ニンジン含有食パンの方がふんわりとした食感の良いものであると判定し、単細胞化ニンジン含有食パンが弾力性に優れていることが官能評価(パネルテスト)によっても実証された。
(3)外観および臭気の評価
単細胞化ニンジン含有食パンと比較用食パンにおける、外観、人参特有の臭気について、被験者10人による試見・試食(試嗅)により試験した。外観に関しては、単細胞化ニンジン含有食パンがβ―カロチンを含有しているため、比較用食パンに比べてわずかに黄色を帯びていたが、その他の表面性状、全体の形状等おいてはほとんど差がなかった。また、臭気に関しては、被験者10人中9人が、「単細胞化ニンジン含有食パンおよび比較用食パンは、いずれにおいても人参臭はほとんど感じない」と判定し、単細胞化ニンジン含有食パンが、通常の食パンとその香りにおいて実質的に同等であることが官能評価(パネルテスト)によって実証された。
(実施例2)
本実施例では、図1に示す単細胞化装置を使用して、リンゴを単細胞化処理した場合について説明する。本実施例では、酵素処理ユニット2の攪拌部材70として、図4(c)のものを使用し、この攪拌部材を内管内において強制的に回転(40回転/分)させた。また、酵素失活ユニット3および冷却ユニット4に図4(f)のものを回転可能に配置した。酵素処理ユニット2、酵素失活ユニット3および冷却ユニット4の内管は、φ50mm一定である。
【0058】
被処理物には、水洗後に荒砕きしたリンゴ100kgを使用した。これに水100kgと酵素を添加して液状混合物とした。酵素処理に使用した酵素は、ヘミセルラーゼ(シグマ社製)、セルラーゼ(シグマ社製)およびαアミラーゼ(シグマ社製)であり、酵素の合計添加量は、原料リンゴに対して0.2wt%である。また、酵素処理温度は50℃であり、処理時間は約7〜8分である。酵素失活温度は、95℃であり、処理時間は約1〜2分である。次いで、冷却ユニットで40℃まで冷却後、ホモゲナイザーを用いて均質化した(処理圧力:50Pa)。これにより、スラリー状の液状単細胞化リンゴを得た。得られた液状単細胞化リンゴの半分量をスプレードライヤーで乾燥粉末化して、粉状単細胞化リンゴを得た。
【0059】
得られた単細胞化リンゴの顕微鏡写真を図6に示す。実施例1と同様にして、得られた液状単細胞化リンゴについて、1cm3中に含まれる細胞数を血球計測板により測定した結果、80万個であった。また、粉状単細胞化リンゴについて、その5wt%懸濁液を調製し、1cm3中に含まれる細胞数を血球計測板により測定した結果、48万個であった。
【0060】
本実施例で得られた液状単細胞化リンゴと従来の濃縮還元リンゴジュースの分析値を比べると、食物繊維が1.6g/100gと0.1g/100g未満、ペクチンは0.4g/100gと0.02g/100gと大きな差がみられた。
【0061】
本実施例で得られた液状単細胞化リンゴを使用してポタージュスープを作製した。使用した材料とその配合量を表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
薄切り玉ねぎをバターでよく炒めた後、ジャガイモを加え、バターを吸い込んでふちが透き通るまで炒めた。次に、ブイヨン、水を加え、沸騰するまで強火で煮た後、弱火で20分間さらに煮た。あら熱を取り、ミキサーにかけ、これに液状単細胞化リンゴ、生クリーム、牛乳、食塩、胡椒を加え、味を調えた。このようにして、ポタージュスープを得た。得られたポタージュスープは、リンゴの栄養素を豊富に含み、なめらかで舌触りの良いものであった。
(実施例3)
本実施例では、図1に示す単細胞化装置を使用して、タマネギを単細胞化処理した場合について説明する。本実施例では、酵素処理ユニット2の攪拌部材70として、図4(b)のものを使用し、この攪拌部材を内管12内において強制的に回転(40回転/分)させた。また、酵素失活ユニット3および冷却ユニット4に図4(e)のものを回転可能に配置した。酵素処理ユニット2、酵素失活ユニット3および冷却ユニット4の内管は、φ50mm一定である。
【0064】
被処理物には、薄皮を除去して水洗したタマネギ200kgを使用した。これに水100kgと酵素を添加して液状混合物とした。酵素処理に使用した酵素は、ヘミセルラーゼ(シグマ社製)およびペクチナーゼ(シグマ社製)であり、酵素の合計添加量は、原料タマネギに対して0.2wt%である。また、酵素処理温度は50℃であり、処理時間は約10分である。酵素失活温度は、130℃であり、処理時間は約1〜2分である。次いで、冷却ユニット4で35℃まで冷却後、ホモゲナイザーを用いて均質化した(処理圧力:30Pa)。これにより、スラリー状の液状単細胞化タマネギを得た。得られた液状単細胞化タマネギの半分量をスプレードライヤーで乾燥粉末化して、粉状単細胞化タマネギを得た。得られた単細胞化タマネギの顕微鏡写真を図7に示す。
【0065】
本実施例で得られた粉状単細胞化タマネギを使用してマヨネーズを作製した。使用した材料とその配合量を表3に示す。
【0066】
【表3】

【0067】
まず、乾いたボウルに、卵黄、粉からしを入れ、ミキサーでよく泡立てる。卵黄に角が立ってきたら、酢を全量入れる。次いで、サラダ油を半量そっと注ぐ。粉状単細胞化タマネギ、レモン汁、食塩、胡椒、砂糖を全量入れ、残りのサラダ油を注ぐ。さらに、沸騰したブイヨンを加える。なお、マヨネーズの固さは酢またはレモン汁の量で調整する。このようにして単細胞化タマネギ含有マヨネーズを得た。このマヨネーズは、玉ねぎの栄養素を豊富に含み、調理時および試食時のいずれにおいても、玉ねぎ臭がほとんど感じられないものであった。
(実施例4)
本実施例では、図1に示す単細胞化装置を使用して、ゴーヤを単細胞化処理した場合について説明する。本実施例では、酵素処理ユニット2の攪拌部材70として、図4(d)のものを使用し、この攪拌部材を内管内において強制的に回転(60回転/分)させた。また、酵素失活ユニット3および冷却ユニット4の攪拌部材として、図4(e)のものを回転可能にそれぞれの内管に配置した。酵素処理ユニット2、酵素失活ユニット3および冷却ユニット4の内管は、φ50mm一定である。
【0068】
被処理物には、水洗後に5mm程度に細断したゴーヤ200kgを使用した。これに水100kgと酵素を添加して液状混合物とした。酵素処理に使用した酵素は、セルラーゼ(シグマ社製)およびペクチナーゼ(シグマ社製)であり、酵素の合計添加量は、原料ゴーヤに対して0.2wt%である。また、酵素処理温度は60℃であり、酵素処理時間は約15分間である。酵素失活温度は130℃であり、処理時間は約3分である。次いで、冷却ユニット4で35℃まで冷却後、ホモゲナイザーを用いて均質化した(処理圧力:10Pa)。これにより、スラリー状の液状単細胞化ゴーヤを得た。得られた液状単細胞化ゴーヤの半分量をスプレードライヤーで乾燥粉末化して、粉状単細胞化ゴーヤを得た。
【0069】
本実施例で得られた粉状単細胞化ゴーヤを使用してドレッシングを作製した。使用した原料とその配合量を表4に示す。
【0070】
【表4】

【0071】
予め、玉ねぎ100g、にんにく1カケ、人参150g、セロリ50g、塩・胡椒・砂糖を各少々フードプロセッサーに入れてペースト状にしておいた。次いで、粉状単細胞化ゴーヤを含む残りの材料を混ぜ合わせてドレッシングを得た。一方、粉状単細胞化ゴーヤを添加しないことを除いて同様の方法により比較用ドレッシングを作製した。単細胞化ゴーヤ含有ドレッシングは、調理時および試食時のいずれにおいても、ゴーヤ臭がほとんど感じられず、比較用ドレッシングとほとんど同じであった。このように、ゴーヤのにがみをほとんど感じさせることなく、ゴーヤで栄養強化されたドレッシングを得ることができた。
(実施例5)
本実施例では、図1に示す単細胞化装置を使用して、ニンニクを単細胞化処理した場合について説明する。本実施例では、酵素処理ユニット2の攪拌部材70として、図4(c)のものを使用し、この攪拌部材を内管12内において強制的に回転(40回転/分)させた。また、酵素失活ユニット3および冷却ユニット4に図4(e)のものを回転可能に配置した。酵素処理ユニット2、酵素失活ユニット3および冷却ユニット4の内管は、φ50mm一定である。
【0072】
被処理物には、水洗後に2mm程度に細断したニンニク50kgを使用した。これに水50kgと酵素を添加して液状混合物とした。酵素処理に使用した酵素は、セルラーゼ(シグマ社製)、フィターゼ(シグマ社製)およびガラクトシダーゼ(シグマ社製)であり、酵素の合計添加量は、原料ニンニクに対して0.2wt%である。また、酵素処理温度は55℃であり、酵素処理時間は7〜8分である。酵素失活温度は、130℃であり、処理時間は約2分である。次いで、冷却ユニットで40℃まで冷却後、ホモゲナイザーを用いて均質化した(処理圧力:50Pa)。これにより、スラリー状の液状単細胞化ニンニクを得た。得られた液状単細胞化ニンニクの半分量をスプレードライヤーで乾燥粉末化して、粉状単細胞化ニンニクを得た。得られた単細胞化ニンニクの顕微鏡写真を図8に示す。
【0073】
本実施例で得られた粉状単細胞化ニンニクを使用して錠剤を調製した。すなわち、表5に示す配合量割合となるように原材料を秤量した後、均一になるまで十分に混合し、当該混合物を加圧成型して単細胞化ニンニク含有錠剤を得た。
【0074】
【表5】

【0075】
得られた錠剤は、ニンニクの栄養素を豊富に含むにもかかわらず、ニンニク臭がほとんど感じられないものであり、サプリメントとしての普及が期待される。
【0076】
また、本実施例で得られた粉状単細胞化ニンニクを使用してプロセスチーズを作製した。表6に示す配合割合となるように原材料を秤量した後、均一となるように混合し、当該混合物を85℃に昇温して乳化し、単細胞化ニンニク含有プロセスチーズを得た。一方、単細胞化ニンニクを使用しない点と、水の配合割合を12.0wt%にした以外は上記と同様にして比較用プロセスチーズを作製した。
【0077】
【表6】

【0078】
単細胞化ニンニク含有プロセスチーズと比較用プロセスチーズについて、食感や臭いについて、被験者10人による官能評価(パネルテスト)を行った。その結果、10人中8人が単細胞化ニンニク含有プロセスチーズの方が弾力性のある食感であると判定し、また、10人中9人が単細胞化ニンニク含有プロセスチーズの方がチーズ特有の強い発酵臭が少なく食べやすいと判定した。この結果から、本実施例で得られた単細胞化ニンニクは、チーズの弾力性を向上させる効果とともに、臭いを低減させる効果も得られることがわかった。
(実施例6)
本実施例では、図1に示す単細胞化装置を使用して、キンカンを単細胞化処理した場合について説明する。本実施例では、酵素処理ユニット2の攪拌部材70として、図4(f)のものを使用し、この攪拌部材を内管12内において強制的に回転(30回転/分)させる構成を採用した。また、酵素失活ユニット3および冷却ユニット4に図4(e)のものを回転可能に配置した。酵素処理ユニット2、酵素失活ユニット3および冷却ユニット4の内管は、φ50mm一定である。また、本実施例においては、均質化処理は実施しなかった。
【0079】
被処理物には、水洗後のキンカン100kgを使用した。キンカンの種を除去した後、水20kgと酵素を原料キンカンに添加して液状混合物とした。酵素処理に使用した酵素は、ヘミセルラーゼ(シグマ社製)、ペクチナーゼ(シグマ社製)であり、酵素の合計添加量は、原料キンカンに対して0.2wt%である。また、酵素処理温度は53℃であり、酵素処理時間は5〜6分である。酵素失活温度は、100℃であり、処理時間は2〜3分である。次いで、冷却ユニット4で38℃まで冷却後、ホモゲナイザーを用いて均質化した(処理圧力:30Pa)。これにより、スラリー状の液状単細胞化キンカンを得た。得られた液状単細胞化キンカンの半分量をスプレードライヤーで乾燥粉末化して、粉状単細胞化キンカンを得た。
【0080】
本実施例で得られた粉状単細胞化キンカンを使用してハンバーグを作製した。原料及びその配合割合を表7に示す。
【0081】
【表7】

【0082】
まず、牛ひき肉に、玉ねぎ、生パン粉、卵、牛乳、粉状加工キンカンを入れ、さらに塩、バターを加え、手でよく混合する。混合後のものを所定の形状に整えて、油を敷いたフライパン上に置き、弱火で3〜4分間焼き、その後裏返して蓋をし、さらに弱火で15分間焼くことにより単細胞化キンカン含有ハンバーグを得た。一方、単細胞化キンカンを添加せず、牛乳の配合量を1/2にしたこと以外は上記と同様にして比較用ハンバーグを得た。単細胞化キンカン含有ハンバーグは、比較用ハンバーグに比べてドリップが少なく、フルーティーでまろやかな味を有していた。
(実施例7)
本実施例では、図1に示す単細胞化装置を使用して、青梅を単細胞化処理した場合について説明する。本実施例では、酵素処理ユニット2の攪拌部材70として、図4(c)のものを使用し、この攪拌部材を内管12内において強制的に回転(60回転/分)させた。また、酵素失活ユニット3および冷却ユニット4に図4(e)および図4(f)のものをそれぞれ回転可能に配置した。酵素処理ユニット2、酵素失活ユニット3および冷却ユニット4の内管は、φ50mm一定である。
【0083】
被処理物には、水洗した原料青梅100kgをタンクに入れ、水20kgを加えて80℃で10分間攪拌し、種を除去した後、冷水30kgおよび酵素を添加して液状混合物とした。酵素処理に使用した酵素は、ヘミセルラーゼ(シグマ社製)、ペクチナーゼ(シグマ社製)であり、酵素の合計添加量は、乾燥青梅に対して0.1wt%である。また、酵素処理温度は60℃であり、酵素処理時間は約10分間である。酵素失活温度は、100℃であり、処理時間は約5分である。次いで、冷却ユニットで35℃まで冷却後、ホモゲナイザーを用いて均質化した(処理圧力:50Pa)。これにより、スラリー状の液状単細胞化青梅を得た。得られた単細胞化青梅の顕微鏡写真を図9に示す。青梅が均質に単細胞化されている様子を確認できる。
【0084】
本実施例で得られた液状単細胞化青梅を使用してゼリーを作製した。原料及びその配合割合を表8に示す。
【0085】
【表8】

【0086】
まず、水と粉末寒天を鍋に入れて沸騰させ、弱火で2〜3分煮た後、液状単細胞化青梅と蜂蜜を添加し、容器に入れて冷蔵庫で冷やすことで単細胞化青梅含有ゼリーを得た。得られたゼリーはさわやかな風味を有し、青梅本来の成分を余すことなく含有したこれまでにない青梅ゼリーであった。梅は多くのクエン酸を含み、日本の伝統的な食品として親しまれているが、食品への応用例としては梅干や梅酒がほとんどである。例えば、梅干は、青梅に塩を混ぜて重しを載せて放置し、生成された梅酢を除去した後、2〜3日天日干したものであるが、塩分が多く含まれているため、近年では健康への影響が指摘されている。一方、除去された梅酢には多くのクエン酸が含まれているものの、その有効利用は確立していないのが現状である。本発明の単細胞化青梅は、このような青梅の食品応用性を広げるものであり、青梅本来が有する栄養分を無駄なく使用することを可能にした画期的なものである。その他の好ましい応用例としては、水と単細胞化青梅と蜂蜜を所定の割合で混合して得られる減塩梅ドリンクや、梅ドレッシング、梅ジャム等がある。
【0087】
尚、上記実施例においては、単一の単細胞化植物を使用した種々の調理例について説明したが、複数の単細胞化植物を併用することももちろん可能である。例えば、単細胞化大豆と単細胞化ニンジン、単細胞化大豆と単細胞化リンゴを混合して、大豆で栄養強化したニンジンジュースやリンゴジュースを得ることができる。また、上記実施例からわかるように、本発明の単細胞化装置によれば、バッチ式の製造装置に比べて製造時間を大幅に短縮できることから、それだけ製造工程中に雑菌が発生/繁殖し難くなり、結果的に品質保持期間の延長効果が得られることも予備実験によって確認されている。
【0088】
このように、高品質の単細胞化植物を効率良く大量生産できる本発明の単細胞化処理技術は、大豆をはじめとする種々の植物性素材の利用可能性を広げるものとして期待される。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の好ましい実施形態にかかる単細胞化装置の概略ブロック図である。
【図2】同装置の酵素処理ユニットの概略断面図である。
【図3】酵素処理ユニットと酵素失活ユニットの間に配置される中継タンクを示す図である。
【図4】(a)〜(f)は、同装置に使用される攪拌部材の好ましい実施形態を示す図である。
【図5】実施例1で得られた単細胞化ニンジンの光学顕微鏡写真である。
【図6】実施例2で得られた単細胞化リンゴの光学顕微鏡写真である。
【図7】実施例3で得られた単細胞化タマネギの光学顕微鏡写真である。
【図8】実施例5で得られた単細胞化ニンニクの光学顕微鏡写真である。
【図9】実施例7で得られた単細胞化青梅の光学顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0090】
1 前処理ユニット
2 酵素処理ユニット
3 酵素失活ユニット
4 冷却ユニット
5 均質化ユニット
6 乾燥ユニット
7 中継タンク
10 外管
12 内管
14 外管と内管の隙間
70 攪拌部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性素材を酵素処理により単細胞化する酵素処理部を備えた単細胞化装置であって、前記酵素処理部は、第1外管と、第1外管内にその軸方向に沿って配置され、植物性素材と酵素を含む液状混合物が供給される第1内管と、第1外管と第1内管の間の隙間に加熱媒体を導入して第1内管内を酵素処理温度に保持する処理温度調整手段と、第1内管内においてその軸回りに回転可能に保持される攪拌部材と、第1内管の一端から他端に向う方向への前記液状混合物の流量を調整する流量調整手段とを含むことを特徴とする植物性素材の単細胞化装置。
【請求項2】
上記酵素処理部に連結され、上記液状混合物中の酵素を失活させる酵素失活部をさらに含み、前記酵素失活部は、第2外管と、第2外管内にその軸方向に沿って配置され、上記酵素処理が施された液状混合物が供給される第2内管と、第2外管と第2内管の間の隙間に加熱媒体を導入して第2内管内の温度を上記酵素処理温度よりも高い酵素失活温度に保持する失活温度調整手段とを含むことを特徴とする請求項1に記載の単細胞化装置。
【請求項3】
上記酵素失活部に連結され、上記酵素失活温度に加熱された液状混合物を冷却する冷却部をさらに含み、前記冷却部は、第3外管と、第3外管内にその軸方向に沿って配置される第3内管と、第3外管と第3内管の間の隙間に冷却媒体を導入して第3内管に供給された液状混合物を冷却する冷却媒体供給手段とを含むことを特徴とする請求項2に記載の単細胞化装置。
【請求項4】
上記酵素処理部、酵素失活部および冷却部は、上記液状混合物が外気に曝されないように連結されてなることを特徴とする請求項3に記載の単細胞化装置。
【請求項5】
上記攪拌部材は、第1内管の軸方向に沿ってスパイラル状に形成される攪拌翼を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の単細胞化装置。
【請求項6】
上記攪拌部材を回転させるための駆動部を含み、上記流量調整手段は駆動部を制御することで前記液状混合物の流量を調整することを特徴とする請求項1もしくは5に記載の単細胞化装置。
【請求項7】
上記酵素処理部の第1内管の内径は、上記冷却部の第3内管の内径よりも小さいことを特徴とする請求項3もしくは4に記載の単細胞化装置。
【請求項8】
上記酵素処理部と酵素失活部との間には中継用タンクが設けられ、酵素失活部は、第2内管の一端から他端に向う方向への上記液状混合物の流量を調整する流量調整手段を含むことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の単細胞化装置。
【請求項9】
上記酵素失活部と冷却部との間には中継用タンクが設けられ、冷却部は、第3内管の一端から他端に向う方向への上記液状混合物の流量を調整する流量調整手段を含むことを特徴とする請求項3もしくは4に記載の単細胞化装置。
【請求項10】
単細胞化された植物細胞の凝集体の大きさを均質化する均質化手段をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の植物性素材の単細胞化装置。
【請求項11】
単細胞化された植物細胞を含有するスラリーを乾燥粉末化する粉体化手段をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の単細胞化装置。
【請求項12】
植物性素材の単細胞化装置を使用して実施される単細胞化植物の製造方法であって、前記単細胞化装置は植物性素材を酵素処理して単細胞化する酵素処理部を備え、前記酵素処理部は、第1外管と、第1外管内にその軸方向に沿って配置され、植物性素材と酵素を含む液状混合物が供給される第1内管と、第1外管と第1内管の間の隙間に加熱媒体を導入して第1内管内を酵素処理温度に保持する処理温度調整手段と、第1内管内においてその軸回りに回転可能に保持される攪拌部材と、第1内管内における前記液状混合物の流量を調整する流量調整手段とを含み、前記酵素処理は液状混合物を第1内管の一端から他端に向けて移動させながら、40〜60℃の温度範囲で実施されることを特徴とする単細胞化植物の製造方法。
【請求項13】
上記単細胞化装置は、酵素処理部に連結され、上記液状混合物に酵素失活処理を施す酵素失活部をさらに含み、前記酵素失活部は、第2外管と、第2外管内にその軸方向に沿って配置され、上記酵素処理が施された液状混合物が供給される第2内管と、第2外管と第2内管の間の隙間に加熱媒体を導入して第2内管内の温度を上記酵素処理温度よりも高い酵素失活温度に保持する失活温度調整手段とを含み、前記酵素失活処理は、液状混合物を第2内管の一端から他端に向けて移動させながら、90〜150℃の温度範囲で実施されることを特徴とする請求項12に記載の単細胞化植物の製造方法。
【請求項14】
上記単細胞化装置は、上記酵素失活部に連結され、上記酵素失活温度に加熱された液状混合物に冷却処理を施す冷却部をさらに含み、前記冷却部は、第3外管と、第3外管内にその軸方向に沿って配置される第3内管と、第3外管と第3内管の間の隙間に冷却媒体を導入して第3内管に供給された液状混合物を冷却する冷却媒体供給手段とを含み、前記冷却処理は、液状混合物を第3内管の一端から他端に向けて移動させながら実施されることを特徴とする請求項13に記載の単細胞化植物の製造方法。
【請求項15】
単細胞化された植物細胞の凝集体の大きさを均質化する工程をさらに含むことを特徴とする請求項12乃至14のいずれか1項に記載の単細胞化植物の製造方法。
【請求項16】
単細胞化された植物細胞を含有するスラリーを乾燥粉末化する工程をさらに含むことを特徴とする請求項12乃至15のいずれか1項に記載の単細胞化植物の製造方法。
【請求項17】
前記植物性素材は、人参、ピーマン、セロリ、カボチャ、タマネギ、ほうれん草、ニンニク、ヨモギ、ワカメ、朝鮮人参、モロヘイヤ、トマト、ゴーヤ、ブロッコリー、オクラ、ジャガイモ、大豆、リンゴ、オレンジ、キンカン、イチゴ、ブドウ、レモン、キウイ、桃、グァバ、プルーン、アボガド、メロン、梅、バナナ、ケール、パパイアから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項12乃至16のいずれか1項に記載の単細胞化植物の製造方法。
【請求項18】
上記植物性素材は果実類であり、前記酵素処理は、ペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、α−アミラーゼ、インベルターゼおよびグルコースソメラーゼから選択される少なくとも1種を酵素として使用して実施されることを特徴とする請求項12乃至16のいずれか1項に記載の単細胞化植物の製造方法。
【請求項19】
上記植物性素材は野菜類であり、前記酵素処理は、ペクチナーゼ、セルラーゼ、プロテアーゼ、キシラナーゼ、ヘミセルラーゼ、フィターゼおよびガラクトシダーゼから選択される少なくとも1種を酵素として使用して実施されることを特徴とする請求項12乃至16のいずれか1項に記載の単細胞化植物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−17705(P2008−17705A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−189546(P2006−189546)
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【特許番号】特許第3986541号(P3986541)
【特許公報発行日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(506236439)
【出願人】(506236440)
【Fターム(参考)】