説明

植物栽培システム

【課題】炭酸ガスハイドレートの分解によって得られる水を活用する。
【解決手段】植物栽培システム10は、炭酸ガスハイドレートが貯蔵されたハイドレートタンク11と、ハイドレートタンク11より供給される炭酸ガスハイドレートを分解して炭酸ガスと水を生成するハイドレート分解装置12と、植物が栽培される空間である植物栽培室13とを備えている。炭酸ガスハイドレートは、ハイドレートタンク11からハイドレート分解装置12に適宜供給され、ハイドレート分解装置12内で炭酸ガスと水に分解される。ハイドレート分解装置12で生成された炭酸ガスと水は共に植物栽培室13に供給され、植物の光合成促進のため、或いは植物栽培室13内の温度管理のために利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物栽培システムに関し、特に炭酸ガスによる生育促進を行う植物栽培システムに関するするものである。
【背景技術】
【0002】
近年、季節を問わず新鮮な野菜や果物を生産するため、室内環境が高度に制御されたビニルハウスが広く利用されている。また最近では、都心の空きビルを利用して野菜を工業的に生産する野菜工場なども試みられている。このようなビニルハウスや野菜工場では、植物の光合成を促進するため、炭酸ガス発生装置などを使用し、高濃度の炭酸ガスを供給することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−258390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来は炭酸ガス発生装置にLPガスを使用し、LPガス自体を燃焼させて炭酸ガスを発生させ、この炭酸ガスをビニルハウス内に供給するものであり、LPガスの取扱いに危険がつきまとうという問題がある。
【0004】
したがって、本発明の目的は、植物の光合成促進に用いる炭酸ガスを安全に供給することが可能な植物栽培システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の上記目的は、炭酸ガスハイドレートが貯蔵されたハイドレートタンクと、前記ハイドレートタンクより供給される前記炭酸ガスハイドレートを分解して炭酸ガスと水を生成するハイドレート分解装置と、植物が栽培される植物栽培空間と、前記ハイドレート分解装置により生成される前記炭酸ガスを前記植物栽培空間に供給する炭酸ガス供給装置と、前記ハイドレート分解装置により生成される前記水を前記植物に供給する散水装置とを備えることを特徴とする植物栽培システムによって達成される。ここで「炭酸ガスハイドレート」は、二酸化炭素の分子(ゲスト)が水分子のクラスタ中に取り込まれた包接水和物であり、マイナス20℃の大気圧環境下で約170倍のガスを包蔵することができる。
【0006】
本発明の植物栽培システムは、前記ハイドレート分解装置により生成された前記水を蓄える貯水槽をさらに備え、前記貯水槽に蓄えられた水が前記散水装置に送られることが好ましい。これによれば、水に含まれる多量の炭酸ガスを取り除くことができる。
【0007】
本発明の植物栽培システムはまた、前記植物栽培空間の床下又は周囲に設けられた冷却配管をさらに備え、前記ハイドレート分解装置により生成された前記水が前記冷却配管に送られることが好ましく、前記冷却配管を通過した水が前記散水装置に送られることがさらに好ましい。これによれば、植物栽培室内の温度を制御することができる。
【0008】
本発明の植物栽培システムはまた、前記ハイドレート分解装置により生成された前記水を細霧散布する細霧散布装置をさらに備えることが好ましい。これによれば、植物栽培室内の温度を制御することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、炭酸ガスの原料として炭酸ガスハイドレートを用いるので、LPガスに比べて安全性が高く、その取り扱いが容易である。また、炭酸ガスハイドレートから副次的に得られる水は、植物の育成用として、或いは室内の温度管理に用いることができるので、炭酸ガスハイドレートより得られる水の有効活用を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0011】
図1は、本発明の好ましい実施形態に係る植物栽培システムの構成を概略的に示すブロック図である。
【0012】
図1に示すように、この植物栽培システム10は、炭酸ガスハイドレートが貯蔵されたハイドレートタンク11と、ハイドレートタンク11より供給される炭酸ガスハイドレートを分解して炭酸ガスと水を生成するハイドレート分解装置12と、ビニルハウスや野菜工場など、植物が栽培される空間である植物栽培室13とを備えている。炭酸ガスハイドレートは、ハイドレートタンク11からハイドレート分解装置12に適宜供給され、ハイドレート分解装置12内で炭酸ガスと水に分解される。ここで、ハイドレート分解装置12内は分解した炭酸ガスにより高圧状態となるため、水には多量の炭酸ガスが溶存している。ハイドレート分解装置12で生成された炭酸ガスと水は共に植物栽培室13に供給され、植物の光合成促進のため、或いは植物栽培室13内の温度管理のために利用される。
【0013】
図2は、植物栽培システム10の構成を具体的に示す模式図である。
【0014】
図2に示すように、ハイドレートタンク11より供給される炭酸ガスハイドレートは、ハイドレート分解装置12によって炭酸ガスと水とに分解される。炭酸ガスは、配管21を通ってノズル(炭酸ガス供給装置)22から植物栽培室13内に噴射される。一方、ハイドレート由来の水は0〜5℃と非常に低温な冷水であり、しかも比較的多くの二酸化炭素が溶存しているため、貯水槽23へ一旦貯められる。そして、水温がある程度上昇し、二酸化炭素が大気中へ拡散した後、貯水槽23からポンプ24で汲み出され、配管25を通ってノズル(散水装置)26から植物14へ散布される。
【0015】
ここで、貯水槽23内の水のpHをpHセンサ27により測定し、pHが一定値以上である場合にのみ、植物14へ水を供給可能とすることが好ましい。また、貯水槽23は開放系であることが好ましい。また、ハイドレート由来の水を比較的低温のまま供給する場合には、低温での育成に強いネギ類、ツケナ類、ホウレンソウ類が適している。具体的には、ネギ、ラッキョウ、ハクサイ、ツケナ、カラシナ、キャベツ、ブロッコリー、ホウレンソウなどが挙げられる。
【0016】
本実施形態によれば、炭酸ガスハイドレートの分解により生成された炭酸ガス及び水を植物の光合成促進に利用するので、LPガスのような取り扱いの危険性がなく、安全なシステムを提供することができる。
【0017】
図3は、本発明の第2の実施形態に係る植物栽培システム20の詳細な構成を示す模式図である。
【0018】
図3に示すように、ハイドレート由来の炭酸ガスは、配管21を通ってノズル22から植物栽培室13内に噴射される。一方、ハイドレート由来の水は植物栽培室13の床下又は周囲に設けられた冷却配管31を流れ、植物栽培室13内の温度調整に用いられる。ハイドレート由来の水は0〜5℃と非常に低温であるため、植物栽培室13内の上がりすぎた温度を低下させるのに効果的である。また、この水には比較的多くの二酸化炭素が溶存しているが、二酸化炭素は冷却配管31内を通している間に気中へ拡散する。その後、水はポンプ24で送り出され、配管33を通ってノズル26から植物14へ散布される。
【0019】
本実施形態によれば、炭酸ガスハイドレートの分解により生成された水を植物栽培室13内の温度管理にも利用するので、第1の実施形態と同様の作用効果に加えて、炭酸ガスハイドレート由来の水のさらなる有効活用を図ることができる。
【0020】
図4は、本発明の第3の実施形態に係る植物栽培システム30の詳細な構成を示す模式図である。
【0021】
図4に示すように、ハイドレート由来の炭酸ガスは、配管21を通ってノズル22から植物栽培室13内に噴射される。一方、ハイドレート由来の水は、配管41を通って細霧ノズル(細霧散布装置)42から細霧散布され、植物栽培室13内の温度調整に用いられる。ここで、ハイドレート由来の水は0〜5℃と非常に低温であるため、植物栽培室13内の上がりすぎた温度を低下させるのに効果的である。ただし、この水には比較的多くの二酸化炭素が溶存しているため、細霧が植物に直接かからないように(例えば細霧が植物に直接かからないような位置から)散布することが好ましい。霧が気化することにより植物栽培室13内は冷却され、また霧に含まれる二酸化炭素は植物14の光合成促進に用いられる。
【0022】
本実施形態によれば、炭酸ガスハイドレートの分解により生成された水を植物栽培室13内の温度管理に利用するので、第1の実施形態と同様の作用効果に加えて、炭酸ガスハイドレート由来の水のさらなる有効活用を図ることができる。
【0023】
本発明は、以上の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を加えることが可能であり、これらも本発明の範囲に包含されるものであることは言うまでもない。
【0024】
例えば、上記実施形態においては、植物14の上方に設けられたノズル26から水を散布する場合について説明したが、植物が水耕栽培により栽培されている場合は、この水を培養液調整用の水として培養液タンクに供給した後、得られた培養液を植物14に供給してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明の好ましい実施形態に係る植物栽培システム10の構成を概略的に示すブロック図である。
【図2】図2は、植物栽培システム10の詳細な構成を示す模式図である。
【図3】図3は、本発明の第2の実施形態に係る植物栽培システム20の詳細な構成を示す模式図である。
【図4】図4は、本発明の第3の実施形態に係る植物栽培システム30の詳細な構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0026】
10 植物栽培システム
11 ハイドレートタンク
12 ハイドレート分解装置
13 植物栽培室
14 植物
20 植物栽培システム
21 配管
22 ノズル
23 貯水槽
24 ポンプ
25 配管
26 ノズル
27 センサ
30 植物栽培システム
31 冷却配管
33 配管
41 配管
42 細霧ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸ガスハイドレートが貯蔵されたハイドレートタンクと、
前記ハイドレートタンクより供給される前記炭酸ガスハイドレートを分解して炭酸ガスと水を生成するハイドレート分解装置と、
植物が栽培される植物栽培空間と、
前記ハイドレート分解装置により生成される前記炭酸ガスを前記植物栽培空間に供給する炭酸ガス供給装置と、
前記ハイドレート分解装置により生成される前記水を前記植物に供給する散水装置とを備えることを特徴とする植物栽培システム。
【請求項2】
前記ハイドレート分解装置により生成された前記水を蓄える貯水槽をさらに備え、前記貯水槽に蓄えられた水が前記散水装置に送られることを特徴とする請求項1に記載の植物栽培システム。
【請求項3】
前記植物栽培空間の床下又は周囲に設けられた冷却配管をさらに備え、
前記ハイドレート分解装置により生成された前記水が前記冷却配管に送られることを特徴とする請求項1又は2に記載の植物栽培システム。
【請求項4】
前記冷却配管を通過した水が前記散水装置に送られることを特徴とする請求項3に記載の植物栽培システム。
【請求項5】
前記ハイドレート分解装置により生成された前記水を細霧散布する細霧散布装置をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の植物栽培システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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